説明

信号処理装置及びプログラム、並びに、通信システム

【課題】 通信セッションに係る処理仕様が異なる通信装置間での通信セッション変更処理を実現する。
【解決手段】 本発明は、複数の通信装置と、通信装置間を流れるパケットを処理する信号処理装置とを備える通信システムに関する。そして、信号処理装置は、送信側通信装置からパケットを受信する手段と、受信パケットを、そのまま又はパケット加工手段により加工して、その宛先の受信側通信装置へ送信する手段とを備え、パケット加工手段は、第1の送信側通信装置と受信側通信装置との間を接続する通信セッションが確立されている状態から、通信セッションが、第2の送信側通信装置と上記受信側通信装置との間の接続に遷移した場合に、受信側通信装置へ送信されるパケットの内容に係る連続性を保持するように、第2の送信側通信装置から受信した受信パケットを加工することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号処理装置及びプログラム、並びに、通信システムに関し、例えば、IP電話通信システムに適用し得る。
【背景技術】
【0002】
一般に、IP電話通信システムにおいて、通話転送やガイダンス接続等のサービスを提供するためには、例えば、SIP(Session Initiation Protocol;非特許文献1参照)等のIP電話端末が搭載する制御信号を用いて、RTP/RTCP(Real−time Transport Protocol/RTP Control Protocol;非特許文献3等参照)等のユーザ信号のセッション変更を行うことで実現される。
【0003】
図6は、従来技術のIP電話通信システムを用いて、ユーザ信号のセッション変更の動作を実現する構成の例である。
【0004】
IP電話通信システム601は、IP電話端末602−1〜602−3にIP電話サービスを提供するシステムである。IP電話端末602−1〜601−3は、IP電話サービスを提供するためのユーザインタフェースとなる端末である。
【0005】
IP電話交換サーバ603は、IP電話端末との間で制御信号を交換し、接続を制御するための制御装置であり、IP電話端末間の接続や、異なるIP電話端末への転送等のサービスを提供する。
【0006】
図7は、図6に示すIP電話通信システム601における、ユーザ信号のセッション変更(通話転送)の動作の例について示した説明図である。
【0007】
図6、図7において、制御信号は、それぞれ、IP電話交換サーバ603とそれぞれのIP電話端末の間で交換される制御用の信号であり、信号形式としてSIP(RFC3261)等の標準化された形式が採用される。制御信号604−1は、IP電話交換サーバ603とIP電話端末602−1の間を流れる制御信号であり、制御信号604−2は、IP電話交換サーバ603とIP電話端末602−2の間を流れる制御信号である。また、図6においては、図示を省略しているが、IP電話交換サーバ603とIP電話端末602−3との間でも制御信号のやりとりが行われるものとする。
【0008】
図6、図7において、ユーザ信号は、IP電話端末間で交換される信号(例えば、音声、映像信号等)であり、信号形式としてRTP(RFC3550)等の標準化された形式が採用される。ユーザ信号605−1は、IP電話端末602−1とIP電話端末602−2間で交換される信号である。ユーザ信号605−2は、IP電話端末602−1とIP電話端末602−3間で交換される信号である。ユーザ信号605−3は、IP電話端末602−2とIP電話端末602−3間で交換される信号である。
【0009】
次に、IP電話端末602−1とIP電話端末602−2が通話中の状態から、IP電話端末602−1からIP電話端末602−3へ通話転送する例を説明する。
【0010】
最初の状態は、IP電話端末602−1とIP電話端末602−2が通話中であるものとする。この状態では、ユーザ信号605−1が接続され、ユーザ信号605−2およびユーザ信号605−3は接続されていない状態である。
【0011】
次に、IP電話端末602−1からIP電話端末602−3に発信し、通話中とすることで、ユーザ信号605−2が接続され、ユーザ信号605−1は保留状態(接続は維持)となる。
【0012】
最後に、IP電話端末602−1が通話切断することで、ユーザ信号605−1およびユーザ信号605−2は切断され、ユーザ信号605−3が接続されて通話中となり、通話転送が完了する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】IETF RFC3261
【非特許文献2】IETF RFC4566
【非特許文献3】IETF RFC3550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、図6、7に示すような従来のIP電話通信システムを構成するIP電話端末では、ユーザ信号に対する、制御信号の処理や複数のユーザ信号を接続する等の、セッション変更機能を持たない端末(非対応端末)と、セッション変更機能を持つ端末(対応端末)間において、通話転送やガイダンス接続等のサービスを提供することができなかった。
【0015】
そのため、通信セッションに係る処理仕様が異なる通信装置間での通信セッション変更処理を実現することができる信号処理装置及びプログラム、並びに、通信システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の本発明の信号処理装置は、(1)送信側通信装置からパケットを受信するパケット受信手段と、(2)上記パケット受信手段が受信した受信パケットを、そのまま、又は、パケット加工手段により加工して、その宛先の受信側通信装置へ送信するパケット処理手段とを備え、(3)上記パケット加工手段は、第1の送信側通信装置と受信側通信装置との間を接続する通信セッションが確立されている状態から、上記セッションが、第2の送信側通信装置と上記受信側通信装置との間の接続に遷移した場合に、上記受信側通信装置へ送信されるパケットの内容に係る連続性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信した受信パケットを加工することを特徴とする。
【0017】
第2の本発明の信号処理プログラムは、信号処理装置に搭載されたコンピュータを、(1)送信側通信装置からパケットを受信するパケット受信手段と、(2)上記パケット受信手段が受信した受信パケットを、そのまま、又は、パケット加工手段により加工して、その宛先の受信側通信装置へ送信するパケット処理手段として機能させ、(3)上記パケット加工手段は、第1の送信側通信装置と受信側通信装置との間を接続する通信セッションが確立されている状態から、上記セッションが、第2の送信側通信装置と上記受信側通信装置との間の接続に遷移した場合に、上記受信側通信装置へ送信されるパケットの内容に係る連続性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信した受信パケットを加工することを特徴とする。
【0018】
第3の本発明は、複数の通信装置と、上記通信装置間を流れるパケットを処理する信号処理装置とを備える通信システムにおいて、上記信号処理装置として第1の本発明の信号処理装置を適用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、通信セッションに係る処理仕様が異なる通信装置間での通信セッション変更処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態に係る通信システムの全体構成について示したブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る通信システムの動作について示したシーケンス図である。
【図3】第1の実施形態に係る通信システムにおいて流れるパケットの内容例について示した説明図である。
【図4】第1の実施形態に係る信号処理装置の動作について示したフローチャートである。
【図5】第2の実施形態に係る通信システムの全体構成について示したブロック図である。
【図6】従来のIP電話通信システムの構成例について示したブロック図である。
【図7】従来のIP電話通信システムの動作の例について示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による信号処理装置及びプログラム、並びに、通信システムの第1の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0022】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、この実施形態の通信システム10の全体構成を示すブロック図である。
【0023】
図1では、通信システム10には、信号処理装置20、IP電話交換サーバ30、及び3台のIP電話端末41、42、43が配置されている。なお、通信システム10において、配置されるIP電話端末の数や種類は限定されないものである。
【0024】
IP電話交換サーバ30は、IP電話端末41〜43に対する呼制御を行う機能を担っている。
【0025】
通信システム10において、IP電話交換サーバ30は、SIPを用いてIP電話端末間の通信を呼制御するものとするが、用いられるプロトコルはこれに限定されないものである。また、IP電話端末間のメディトラヒック(音声や映像等、その内容は限定されないものである)は、RTP及びRTCPを用いて行われるものとして説明するが、用いられるプロトコルはこれに限定されないものである。
【0026】
信号処理装置20は、IP電話端末41〜43から送信されるユーザ信号を終端し、当該ユーザ信号の宛先のIP電話端末への送信に適した内容に変換する処理を行って、宛先のIP電話端末へ向けて変換したユーザ信号を送信する。
【0027】
信号処理装置20は、例えば、複数のネットワークの境界上に配置される装置として適用するようにしても良い。具体的には、IP電話端末ごとに異なるネットワークに属し、ネットワークごとに異なる通信仕様である場合には、IP電話端末間の通信仕様の差異を吸収する装置として、信号処理装置20を適用することが挙げられる。
【0028】
信号処理装置20は、例えば、ハードウェア的な通信手段の他は、通信処理やデータ処理等を実行するためのCPU、ROM、RAM等を有する情報処理装置を搭載しており、その情報処理装置が実行するプログラム(実施形態の信号処理プログラムを含む)をインストールして構築するようにしてもよい。
【0029】
また、信号処理装置20は、IP電話交換サーバ30とIP電話端末41〜43との間を流れる呼制御信号を中継し、中継した呼制御信号の内容を分析し、その分析結果に応じたユーザ信号の処理を行っている。信号処理装置20の詳細については、後述する動作説明において詳述する。
【0030】
また、図1においては、IP電話端末41、42は、セッション変更機能に対応したセッション変更対応端末とし、IP電話端末43は、セッション変更機能に対応しないセッション変更非対応端末であるものとする。
【0031】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第1の実施形態の通信システム10の動作を説明する。
【0032】
図2は、図1に示す通信システム10における各装置間のデータの流れについて示したシーケンス図である。なお、図2のシーケンス図では、信号処理装置20のユーザ信号の動作を説明するものであり、制御信号は簡略化して図示している。
【0033】
最初の状態は、IP電話端末41とIP電話端末42が通話中の状態であるものとする(S401)。この状態では、信号処理装置20は、IP電話端末41とのユーザ信号と、IP電話端末42とのユーザ信号を終端し、IP電話端末41から受信したユーザ信号をIP電話端末42へ、IP電話端末42から受信したユーザ信号をIP電話端末41へ、それぞれ送信する。
【0034】
次に、IP電話端末41とIP電話端末43とが、IP電話交換サーバ30から送出された呼制御信号に基づいて接続されたものとする。これにより、IP電話端末42は保留中となり、IP電話端末41とIP電話端末43は通話中となったものとする(S402)。この状態では、信号処理装置20は、IP電話端末42から受信したユーザ信号を破棄し、IP電話端末42へ保留中を示すユーザ信号を送信する。また、信号処理装置20は、IP電話端末41から受信したユーザ信号をIP電話端末43へ、IP電話端末43から受信したユーザ信号をIP電話端末41へ、それぞれ送信する(S403)。
【0035】
次に、IP電話端末41とIP電話端末43の通話が、制御信号により切断されたものとする(S404)。これにより、IP電話端末42とIP電話端末43が通話中となる。
【0036】
そして、信号処理装置20は、IP電話端末42から受信したユーザ信号をIP電話端末43へ、IP電話端末43から受信したユーザ信号をIP電話端末41へ、それぞれ送信する(S405)。
【0037】
以上のように、信号処理装置20により、IP電話端末42に対して制御信号を全く送信せずに、最初に接続したユーザ信号を維持して通話転送を実現する。
【0038】
次に、上述の図2に示すようなセッション変更非対応端末のユーザ信号を維持するための動作を、ユーザ信号にRTPを適用したケースで説明する。
【0039】
ユーザ信号を維持するためには、セッション変更非対応端末が通話を開始してから、セッション変更非対応端末へ送信するRTPパケットのRTPヘッダにある、RTPシーケンス番号(SEQ)の連続性、およびタイムスタンプ(TIME)の連続性、および同期ソース識別子(SSRC)の同一性を維持する必要がある。
【0040】
図3は、セッション変更非対応端末のユーザ信号を維持するための動作例について示した説明図である。
【0041】
図3では、IP電話端末41から信号処理装置20に与えられるユーザ信号を受信ユーザ信号SR1、IP電話端末42から信号処理装置20に与えられるユーザ信号を受信ユーザ信号SR2として図示している。また、図3では、信号処理装置20からIP電話端末43に与えるユーザ信号を、送信ユーザ信号SS3として図示している。
【0042】
また、図3において、受信ユーザ信号SR1には、RTPパケットP11〜P13(P11〜P13の順番で発生したものとする)が含まれており、受信ユーザ信号SR2には、RTPパケットP21、P22(P11〜P13が発生した後に、P21、P22の順番で発生したものとする)が含まれている。また、図3において、送信ユーザ信号SS3には、RTPパケットP31〜P35が含まれている。RTPパケットP31〜P35は、それぞれ、RTPパケットP11〜P13、P21、P22を変換した後のパケットであるものとする。また、図3において、それぞれのRTPパケットに関する表示は、本来のRTPパケットの内容を簡略化して記載したものであり、「SEQ」がRTPシーケンス番号の値を、「TIME」がタイムスタンプの値を、「SSRC」が同期ソース識別子の値を表している。
【0043】
図3に示すように、信号処理装置20により、RTPシーケンス番号およびタイムスタンプは、受信ユーザ信号SR1から受信ユーザ信号SR2へ変更されても、送信ユーザ信号SS3において連続性が維持される。また、SSRCは、受信ユーザ信号SR1から受信ユーザ信号SR2へ変更されても、送信ユーザ信号SS3において最初に受信した受信ユーザ信号SR1の値が維持される。なお、信号処理装置20において、受信ユーザ信号が、今まで受信したRTPパケットと異なる同期ソース識別子を受信した際に、変更されたと判断するようにしても良い。
【0044】
次に、信号処理装置20において、RTPシーケンス番号の連続性を維持する動作について説明する。
【0045】
まず、RTPシーケンス番号の連続性を維持する動作の説明に用いる変数の内容について説明する。
【0046】
受信基準シーケンス番号(Rseq)は、受信ユーザ信号毎に最初に受信したRTPパケットのシーケンス番号である。
【0047】
シーケンス番号(SEQ)は、受信ユーザ信号として受信したRTPパケットのシーケンス番号である。
【0048】
信号処理装置20では、受信ユーザ信号としてRTPパケットを受信した時、以下の(1)式で送信ユーザ信号として送信するRTPパケットのシーケンス番号(Nseq)が求められる。
【0049】
Nseq=SEQ−Rseq+Sseq …(1)
送信基準シーケンス番号(Sseq)は、最初の受信ユーザ信号から始めて受信したRTPパケットのシーケンス番号を初期値とし、受信ユーザ信号が変更された時に、Nseqの値へ1を加えた値に変更する。
【0050】
受信ユーザ信号としてRTPパケットを受信した時、上記Nseqを計算し、RTPパケットのシーケンス番号を変更し、送信ユーザ信号として送信する。
【0051】
なお、SEQがRseqより小さい場合は、受信ユーザ信号が変更される前のRTPパケットに対して付与したシーケンス番号と重複する可能性があるため、受信したRTPパケットを送信ユーザ信号として送信せずに破棄する。
【0052】
以上の動作により、信号処理装置20では、受信ユーザ信号が変更、すなわち、セッションが変更されても、送信ユーザ信号のRTPシーケンス番号の連続性を維持できる。また、受信ユーザ信号のRTPシーケンス番号が重複した場合(RTPパケットの重複受信)や、順序が入れ替わり到着した場合も、そのまま維持して送信することができるため、ユーザ信号終端処理による端末への影響をなくすことができる。
【0053】
次に、信号処理装置20において、RTPタイムスタンプの連続性を維持する動作を説明する。
【0054】
RTPタイムスタンプは、RTPが搬送するコーデックおよびサンプリング周波数等のパラメータにより、RTPパケット間の増分値が異なるため、信号処理装置20では、受信ユーザ信号から増分値を求める。また、信号処理装置20では、受信ユーザ信号が変更された時のパケットロスも考慮し、RTPタイムスタンプの連続性が維持される。
【0055】
まず、以下のRTPタイムスタンプの連続性を維持する動作の説明に用いる変数の内容について説明する。
【0056】
受信基準タイムスタンプ値(RBt)は、受信ユーザ信号毎に最初に受信したRTPパケットのタイムスタンプである。
【0057】
送信基準タイムスタンプ値(SBt)は、最初の受信ユーザ信号から始めて受信したRTPパケットのタイムスタンプを初期値とし、受信ユーザ信号が変更された時に、値を更新する。
【0058】
送信最大タイムスタンプ値(SMt)は、送信ユーザ信号として送信したRTPパケットに付与したタイムスタンプの最大値である。
【0059】
受信最終タイムスタンプ値(RLt)は、受信ユーザ信号から最後に受信したRTPパケットのタイムスタンプである。
【0060】
受信最終時刻(RLc)は、受信ユーザ信号から最後にRTPパケットを受信した時刻である。
【0061】
タイムスタンプ(Pt)は、受信ユーザ信号として受信したRTPパケットのタイムスタンプである。
【0062】
受信時刻(Pc)は、受信ユーザ信号として受信したRTPパケットの受信時刻である。
【0063】
受信タイムスタンプ増分値(Dt)は、受信中の受信ユーザ信号のタイムスタンプ増分値である。
【0064】
受信パケット間隔(Dc)は、受信中の受信ユーザ信号のパケット到着間隔(ms)である。
【0065】
図4は、信号処理装置20において、RTPタイムスタンプの連続性を維持する動作のフローチャートである。
【0066】
このフローチャート及び上述の変数を用いて、信号処理装置20におけるRTPタイムスタンプの連続性を維持する動作を説明する。
【0067】
まず、信号処理装置20において、受信ユーザ信号としてRTPパケットを受信したものとする(S601)。
【0068】
受信したRTPパケットが、最初の受信ユーザ信号から始めて受信したRTPパケットの場合、変数を初期化する。初期化は、RBt=Pt、RLt=Pt、RLc=Pcとすることにより行われる(S602)。
【0069】
次に、受信したRTPパケットの内容に応じて、受信ユーザ信号の変更の有無が確認され(S603)、変更なしの場合後述するステップS606から動作し、変更ありの場合は後述するステップS604から動作する。
【0070】
ステップS603における、受信ユーザ信号の変更の有無の確認は、例えば、受信したRTPパケットが、今まで受信したRTPパケットと異なる同期ソース識別子を持つ場合は受信ユーザ信号が変更、同一の場合は変更されていないと判断する。
【0071】
また、ステップS603における、受信ユーザ信号の変更の有無、すなわち、セッション切替わりのタイミングの確認は、IP電話交換サーバ30とIP電話端末の間を流れるSIPによる呼制御信号の内容を分析して行うようにしても良い。
【0072】
そして、上述のステップS603において、受信ユーザ信号の変更があったと判定した場合には、受信基準タイムスタンプ値(SBt)の更新が、以下の(2)式の計算を用いて行われる(S604)。
【0073】
SBt=SMt+Dt×(Pc−RLc)÷Dc …(2)
次に、受信ユーザ信号変更に伴い、変数が初期化される(S605)。ステップS605における初期化は、SMt=SBt、RBt=Pt、RLt=Pt、RLc=Pc、Dt=0、Dc=0とすることにより行われる。
【0074】
次に、タイムスタンプ増分(Dt)とパケット化間隔(Dc)が更新される(S606)。ステップS606の更新は以下の(3)式が成り立つ時は、以下の(4)式とすることにより行われ、以下の(5)式が成り立つときは、以下の(6)式とすることにより行われる。
【0075】
(Pt−RLt)>Dt …(3)
Dt=Pt−RLt …(4)
(Pc−RLc)>Dc …(5)
Dc=Pc−RLc …(6)
次に、受信最終値が更新される(S607)。ステップS607の更新はRLt=Pt、RLc=Pcを適用することにより行われる。
【0076】
次に、RTPパケットのタイムスタンプが更新される(S608)。ステップS608の更新は、以下の(7)式を適用することにより行われる。
【0077】
Pt=SBt+(Pt−RBt) …(7)
次に、タイムスタンプを更新したRTPパケットが、送信ユーザ信号として送信される(S609)。
【0078】
以上の動作により、受信ユーザ信号が変更されても、送信ユーザ信号のRTPタイムスタンプの連続性を維持できる。
【0079】
次に、信号処理装置20における、RTP同期ソース識別子の同一性を維持する動作を説明する。
【0080】
RTP同期ソース識別子の同一性を維持する動作では、変数として開始同期ソース識別子(Sssrc)が用いられる。
【0081】
開始同期ソース識別子(Sssrc)は、最初の受信ユーザ信号から始めて受信したRTPパケットの同期ソース識別子とする。受信ユーザ信号としてRTPパケットを受信した時、RTPパケットの同期ソース識別子をSsrcへ変更し、送信ユーザ信号として送信する。
【0082】
上述のように、信号処理装置20の処理により、受信ユーザ信号が変更されても、送信ユーザ信号のRTP同期ソース識別子の同一性を維持できる。
【0083】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0084】
信号処理装置20により、セッション変更機能を持つIP電話端末と持たないIP電話端末という通信セッションに係る仕様が異なる通信装置間での、通話転送サービスやガイダンス接続等の通話中の通信セッション変更を実現することができる。
【0085】
(B)第2の実施形態
以下、本発明による信号処理装置及びプログラム、並びに、通信システムの第2の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0086】
(B−1)第2の実施形態の構成
図5は、この実施形態の通信システム10Aの全体構成を示すブロック図である。
【0087】
図5では、通信システム10Aには、信号処理装置20A、IP電話交換サーバ30、及び3台のIP電話端末41、42、43が配置されている。IP電話交換サーバ30及びIP電話端末41、42、43については、第1の実施形態と同様のものであるので詳しい説明を省略する。
【0088】
第2の実施形態の信号処理装置20Aは、第1の実施形態の信号処理装置20を冗長構成の装置として構築したものであり、処理ユニット21−1と処理ユニット21−2を有している。処理ユニット21−1、21−2は、それぞれ、第1の実施形態における信号処理装置20と同様の処理を行うことが可能な装置であり、図5においては、処理ユニット21−1が運用系、処理ユニット21−2が待機系の装置として構築され、いわゆるアクティブ・スタンバイの構成となっている。
【0089】
図5では、信号処理装置20Aにおいて、待機系の処理ユニットは、処理ユニット21−2だけとなっているが複数の待機系の処理ユニットを備えるようにしてもよい。
【0090】
運用系の処理ユニット21−1から、待機系の処理ユニット21−2へ切替わる条件(契機)や、切替方式について、具体的な内容は限定されないものであるが、例えば、図示しない監視処理部(または、外部の監視装置)により運用系の処理ユニット21−1の動作を監視し、障害を検知した場合に処理ユニット21−2へ切替を行ったりするようにしてもよい。なお、運用系の処理ユニット21−1から、待機系の処理ユニット21−2へ切替える処理については、既存のサーバ装置等の切替処理手段を適用するようにしても良い。
【0091】
また、IP電話端末41〜43間を流れるパケットに係る連続性を保持するために、処理ユニット21−1から処理ユニット21−2へ、通信セッションに係る情報の転送が行われている。そして、処理ユニット21−2では、待機系から運用系に切替わった場合には、処理ユニット21−1から与えられた情報を利用して、IP電話端末41〜43間を流れるパケットに係る連続性を保持する。
【0092】
なお、処理ユニット21−1から処理ユニット21−2へ送信される情報の詳細については、後述する動作説明において詳述する。
【0093】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有する第2の実施形態の通信システム10Aの動作を説明する。
【0094】
第1の実施例で説明した、ユーザ信号の終端動作を、冗長構成で動作させる場合の追加動作を説明する。その他の動作は、第1の実施形態と同様である。
【0095】
まず、通信システム10Aの通常処理時の動作について説明する。
【0096】
運用系は、第1の実施形態で説明した動作と同様の動作を行うが、運用系で維持する以下のRTPシーケンス番号、RTPタイムスタンプ、及び、RTP同期ソース識別子に係る変数を同期データとして定期的に待機系へ転送し、待機系において保持する。
【0097】
RTPシーケンス番号:送信基準シーケンス番号(Sseq)
RTPタイムスタンプ:送信最大タイムスタンプ値(SMt)、受信最終時刻(RLc)、受信タイムスタンプ増分値(Dt)、受信パケット間隔(Dc)
RTP同期ソース識別子:開始同期ソース識別子(Sssrc)
待機系は、運用系から受信した同期データから、待機系の同様の変数を更新する。
【0098】
次に、処理ユニット21−1から処理ユニット21−2への系切替えの動作を説明する。
【0099】
運用系は、待機系から同期データを受信した時、待機系へ動作を切り替えるようにしても良いし、運用系において障害等が発生した場合には、特に待機系への切替を行わず動作を停止するようにしても良い。
【0100】
待機系は、図示しない監視処理部(または、外部の監視装置)からの運用系への切替えの制御信号およびユーザ信号を受信した時、運用系へ動作を切り替える。そして、待機系は、切り替え時は、次のようにして動作を開始する。
【0101】
RTPシーケンス番号の連続性を維持する動作は、保持しているSseqを用いて開始する。
【0102】
RTPタイムスタンプの連続性を維持する動作は、保持しているSMt、RLc、Dt、Dcを用いて、上述の図4のRTPタイムスタンプの連続性を維持する動作のS604から開始する。
【0103】
RTP同期ソース識別子の同一性を維持する動作は、保持しているSssrcを用いて開始する。
【0104】
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0105】
IP電話信号処理装置20Aでは、信号処理装置20Aにおいて処理ユニットを冗長構成としたので、第1の実施形態よりも高い信頼性のシステムを構築することができる。
【0106】
(C)他の実施形態
本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0107】
(C−1)上記の各実施形態において、信号処理装置の処理対象となる装置は、IP電話端末であるものとして説明したが、これに限定されず、IP−PBX等の配下に端末を収容する他の通信装置としても良い。
【0108】
(C−2)上記の実施形態においては、信号処理装置では、RTPパケット等を処理するものとして説明したが、RTCPパケットにも同様に適用しても良い。
【0109】
(C−3)上記の実施形態においては、信号処理装置では、RTPパケット等を処理するものとして説明したが、適用されるプロトコルはこれに限定されず、他のリアルタイム通信に係るパケットを適用するようにしても良い。その場合でも、上述の信号処理装置20の動作説明において用いた各変数を、当該プロトコルにおいて相当する変数に置き換えることにより、上記の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0110】
10…通信システム、20…信号処理装置、30…IP電話交換サーバ、41〜43…IP電話端末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側通信装置からパケットを受信するパケット受信手段と、
上記パケット受信手段が受信した受信パケットを、そのまま、又は、パケット加工手段により加工して、その宛先の受信側通信装置へ送信するパケット処理手段とを備え、
上記パケット加工手段は、第1の送信側通信装置と受信側通信装置との間を接続する通信セッションが確立されている状態から、上記セッションが、第2の送信側通信装置と上記受信側通信装置との間の接続に遷移した場合に、上記受信側通信装置へ送信されるパケットの内容に係る連続性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信した受信パケットを加工する
ことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
上記パケット加工手段は、少なくとも、上記受信側通信装置へ送信するパケットに含まれるシーケンス番号の連続性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信したパケットを加工することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
上記パケット加工手段は、少なくとも、上記受信側通信装置へ送信するパケットに含まれるタイムスタンプの連続性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信したパケットを加工することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
上記パケット加工手段は、少なくとも、上記受信側通信装置へ送信するパケットに含まれる通信セッションに係る識別子の同一性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信したパケットを加工することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
上記受信側通信装置は、第1の通信装置と接続する通信セッションを確立中に、その通信セッションを、第2の通信装置との接続に切り替えるセッション切替手段に対応していないセッション切替非対応通信装置であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
上記パケット受信手段、上記パケット処理手段、及び上記パケット加工手段を備える処理ユニットを複数備え、
通常時は第1の処理ユニットを運用系として動作させ、上記第1の処理ユニットの障害を検知すると、上記第1の処理ユニットから、待機系の第2の処理ユニットに切り替えて動作させる切替手段と、
通常時に、上記第1の処理ユニットにおいて処理中の通信セッションに係る通信セッション情報を、上記第2の処理ユニットが保持する通信セッション情報保持手段とをさらに備え、
上記第2の処理ユニットは、上記第1の処理ユニットから切り替えられて運用系として動作した場合に、上記通信セッション情報を用いて、上記第1の処理ユニットが処理していた通信セッションに係るパケットを継続して処理する
ことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
信号処理装置に搭載されたコンピュータを、
送信側通信装置からパケットを受信するパケット受信手段と、
上記パケット受信手段が受信した受信パケットを、そのまま、又は、パケット加工手段により加工して、その宛先の受信側通信装置へ送信するパケット処理手段として機能させ、
上記パケット加工手段は、第1の送信側通信装置と受信側通信装置との間を接続する通信セッションが確立されている状態から、上記セッションが、第2の送信側通信装置と上記受信側通信装置との間の接続に遷移した場合に、上記受信側通信装置へ送信されるパケットの内容に係る連続性を保持するように、上記第2の送信側通信装置から受信した受信パケットを加工する
ことを特徴とする信号処理プログラム。
【請求項8】
複数の通信装置と、上記通信装置間を流れるパケットを処理する信号処理装置とを備える通信システムにおいて、上記信号処理装置として請求項1〜5のいずれかに記載の信号処理装置を適用したことを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−77690(P2011−77690A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225144(P2009−225144)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(308033722)株式会社OKIネットワークス (165)
【出願人】(591051645)株式会社OKIソフトウェア (173)
【Fターム(参考)】