説明

信号検出装置、及び信号検出方法

【課題】トラック間干渉の応答が時変の場合でも正しく各トラックの信号検出できるようにすること。
【解決手段】トラック幅よりも幅広を持つヘッドで複数のトラックから読み出された複数の再生信号からTDPRフィルタを用いて各トラックに記録された記録信号を検出する信号検出装置が提供される。当該信号検出装置は、再生信号のプリアンブル及びポストアンブルを用いてTDPRフィルタのタップ係数を生成するタップ係数生成部と、そのタップ係数をトレリス線図の各状態に設定し、2次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出すると共に、各生き残りパスに対応するレプリカ信号とTDPRフィルタからの出力信号との誤差を算出する生き残りパス検出部と、生き残りパス検出部により検出された生き残りパスに対応する誤差に基づいて上記のタップ係数を更新するタップ係数更新部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号検出装置、及び信号検出方法に関する。特に、本発明は、瓦記録により各トラックに書き込まれた信号を、隣接する複数のトラックから同時に読み出された信号に基づいて検出するマルチトラック信号検出方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録ディスクの記録密度を向上させるための研究が盛んに進められている。磁気記録ディスクの記録密度を向上させる方法としては、例えば、各トラックのトラック幅を狭めて1ディスク当たりのトラック数を増加させる方法がある。しかし、トラック幅を狭めた場合、各トラックの情報を精度良く読み出せるようにするためには読み出しヘッドの大きさも小さくする必要がある。可能であれば、読み出しヘッドの幅をトラック幅と同程度にすることが好ましい。しかしながら、読み出しヘッドの小型化は既に限界に達していると言われている。そのため、トラック幅よりも広い幅を持つ読み出しヘッドを用いて精度良く各トラックの信号を読み出す技術に注目が集まっている。
【0003】
読み出しヘッドの幅がトラック幅よりも広いと、あるトラックを読み出しヘッドが走査した際に、隣接トラックの信号が同時に読み出されてしまうことになる。隣接トラックから同時に読み出される信号は、本来読み出したいトラックの信号に対する干渉となる。そのため、この干渉を抑制し、各トラックの信号を分離する技術(以下、マルチトラック信号検出方式)が求められる。マルチトラック信号検出方式に関しては、例えば、下記の非特許文献1に記載がある。同文献の方式は、TDPRフィルタ、1次元max−log−MAP検出器、誤り訂正復号器、ビット誤り検出器、ソフト干渉レプリカ生成器、マルチトラックソフト干渉キャンセラを用いてトラック間干渉を抑圧するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Fujii and N.Shinohara,“Multi−track iterative ITI canceller for shingled write recording”,電子情報通信学会,磁気記録・情報ストレージ研究会,信学技報,MR2010−44,pp.15−22,2010年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
同文献に記載のマルチトラック信号検出方式は、各トラックに対する信号の書き込み時にトラック間でビット同期が確立されていることを前提としている。この前提の下では、トラック間で書き込み周波数の同期が確立されている。つまり、トラック間干渉の応答も時不変となる。このことから、予め求めておいた各種フィルタのタップ係数を用いて信号検出を行っても、精度良く各トラックの信号を検出することができる。しかしながら、トラック間でビット同期が確立されていない場合、同文献に記載のマルチトラック信号検出方式を適用すると、正しく各トラックの信号検出を行うことができない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、トラック間干渉の応答が時変の場合でも正しく各トラックの信号検出を行うことが可能な、新規かつ改良された信号検出装置、及び信号検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、トラック幅よりも大きな幅を持つヘッドを用いて複数のトラックから読み出された複数の再生信号から、2次元パーシャルレスポンスフィルタを用いて各トラックに記録された記録信号を検出する信号検出装置が提供される。当該信号検出装置は、前記再生信号のプリアンブル及びポストアンブルを用いて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を生成するタップ係数生成部と、前記タップ係数生成部により生成されたタップ係数をトレリス線図の各状態に設定し、2次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出すると共に、各生き残りパスに対応するレプリカ信号と前記2次元パーシャルレスポンスフィルタからの出力信号との誤差を算出する生き残りパス検出部と、前記生き残りパス検出部により検出された生き残りパスに対応する前記誤差に基づいて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を更新するタップ係数更新部と、を備える。
【0008】
トラック間で同期した書き込みを行った場合にはトラック間干渉が時不変となるため2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を更新する必要はない。しかし、トラック間で非同期の書き込みを行うとトラック間干渉が時変となるため、複数のトラック信号に対して最適化を行う2次元パーシャルレスポンスフィルタではトラック間干渉の変動に対して適応的にタップ係数を最適化ことが求められる。上記の構成によると、2次元max−log−MAP検出により選択された生き残りパスに応じてタップ係数が更新されるため、トラック間干渉のチャネル応答と符号間干渉のチャネル応答とに応じた好適なタップ係数を設定することが可能になる。その結果、トラック間干渉が時変の場合であっても、各トラックの信号を正しく検出することが可能になる。
【0009】
また、上記の信号検出装置は、前記2次元max−log−MAP検出の実行時に算出される各ビットの対数尤度比を用いて前記記録信号の誤り訂正を実行する誤り訂正部と、前記プリアンブル及びポストアンブルを用いて、符号間干渉を表す第1のチャネル応答ベクトルとトラック間干渉を表す第2のチャネル応答ベクトルとを推定するチャネル推定部と、前記第1及び第2のチャネル応答ベクトルを用いて、前記再生信号に含まれる干渉成分を示す干渉レプリカを生成する干渉レプリカ生成部と、前記再生信号から前記干渉レプリカを減算して干渉成分をキャンセルする干渉キャンセラと、をさらに備えていてもよい。この場合、前記チャネル推定部は、前記生き残りパスに応じて前記第1及び第2のチャネル応答ベクトルを更新する。かかる構成により、トラック間干渉が時変となる場合に必要な干渉チャネル応答の適応的な推定が可能になる。
【0010】
また、前記生き残りパス検出部は、前記レプリカ信号と前記2次元パーシャルレスポンスフィルタからの出力信号との誤差の2乗値を前記各状態の生き残りパスに応じた移動平均により推定するように構成されていてもよい。かかる構成により、トラック間干渉が時変となる場合に必要な2次元パーシャルレスポンスフィルタ出力の雑音分散値の適応的な推定が可能になる。
【0011】
また、少なくとも1つのトラックに対応する記録信号が正しく復号された場合に、前記生き残りパス検出部は、記録信号が正しく復号されたトラック以外のトラックに対応する残りの再生信号の遅延ビットに前記トレリス線図の全状態を割り当て、1次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出するように構成されていてもよい。かかる構成により、チャネル推定に用いる書き込み信号レプリカの候補数が増加し、チャネル推定精度を向上させることが可能になる。
【0012】
また、上記の信号検出装置は、前記プリアンブルを用いて符号間干渉のチャネル応答からトラック間干渉のチャネル応答への第1の位相ずれを推定し、前記ポストアンブルを用いて符号間干渉のチャネル応答からトラック間干渉のチャネル応答への第2の位相ずれを推定する位相ずれ推定部と、前記第1の位相ずれと前記第2の位相ずれとの間の位相ずれから、トラック間における書き込みクロック周波数の差を推定する周波数差推定部と、前記クロック周波数の際に基づいて少なくとも前記タップ係数の更新に用いる時定数を設定する時定数設定部と、をさらに備えていてもよい。トラック間干渉が時変となる場合には書き込みクロック周波数のドリフトが存在するが、かかる構成により、当該ドリフトに応じて時定数のパラメータを適合的に設定することが可能になる。また、予め想定しうる範囲内のクロック周波数差に対して最適化された時定数を信号検出に利用できるようになるため、信号検出精度の向上が期待できる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、トラック幅よりも大きな幅を持つヘッドを用いて複数のトラックから読み出された複数の再生信号から、2次元パーシャルレスポンスフィルタを用いて各トラックに記録された記録信号を検出する信号検出方法が提供される。当該信号検出方法は、前記再生信号のプリアンブル及びポストアンブルを用いて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を生成するタップ係数生成工程と、前記タップ係数生成工程で生成されたタップ係数をトレリス線図の各状態に設定し、2次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出すると共に、各生き残りパスに対応するレプリカ信号と前記2次元パーシャルレスポンスフィルタからの出力信号との誤差を算出する生き残りパス検出工程と、前記生き残りパス検出工程で検出された生き残りパスに対応する前記誤差に基づいて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を更新するタップ係数更新工程と、を含む。
【0014】
トラック間で同期した書き込みを行った場合にはトラック間干渉が時不変となるため2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を更新する必要はない。しかし、トラック間で非同期の書き込みを行うとトラック間干渉が時変となるため、複数のトラック信号に対して最適化を行う2次元パーシャルレスポンスフィルタではトラック間干渉の変動に対して適応的にタップ係数を最適化ことが求められる。上記の構成によると、2次元max−log−MAP検出により選択された生き残りパスに応じてタップ係数が更新されるため、トラック間干渉のチャネル応答と符号間干渉のチャネル応答とに応じた好適なタップ係数を設定することが可能になる。その結果、トラック間干渉が時変の場合であっても、各トラックの信号を正しく検出することが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、トラック間干渉の応答が時変の場合でも正しく各トラックの信号検出を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】信号処理装置の構成を示した説明図である。
【図2】記録信号生成部の構成を示した機能ブロック図である。
【図3】記録信号生成部の構成を示した機能ブロック図である。
【図4】再生信号処理部の構成を示した機能ブロック図である。
【図5】マルチトラック信号検出部の構成を示した機能ブロック図である。
【図6】トラック間非同期書き込みにより媒体に情報が書き込まれた状態について説明するための説明図である。
【図7】トラック間非同期書き込みにより媒体に情報が書き込まれた状態のトラックから情報を読み出す動作について説明するための説明図である。
【図8】時変トラック間干渉(遅れ)について説明するための説明図である。
【図9】時変トラック間干渉(進み)について説明するための説明図である。
【図10】情報のフォーマットについて説明するための説明図である。
【図11】マルチトラック信号検出部の構成を示した機能ブロック図である。
【図12】マルチトラック信号検出部で用いる時定数を設定する手段の構成を示した機能ブロック図である。
【図13】TDPRフィルタの構成を示した説明図である。
【図14】2トラック信号の1遅延ビットを状態として持つトレリス図上の生き残りパスを示した説明図である。
【図15】2組のTDPRフィルタに対する等価モデルを示した説明図である。
【図16】2組のTDPRフィルタに対する等価モデルにおけるトレリス図である。
【図17】1組のTDPRフィルタに対する等価モデルを示した説明図である。
【図18】1組のTDPRフィルタに対する等価モデルにおけるトレリス図である。
【図19】BER特性を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。例えば、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成を、必要に応じてバッファ22A、及びバッファ22Bのように区別する。但し、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。例えば、バッファ22A、及びバッファ22Bを特に区別する必要が無い場合には、単にバッファ22と称する。
【0019】
<1.信号処理装置の基本構成>
まず、図1を参照し、信号再生装置及び信号記録装置としての機能を有する信号処理装置1の基本構成を説明する。図1は、信号処理装置1の構成を示した説明図である。図1に示したように、信号処理装置1は、記録媒体4と、スピンドルモータ6と、ヘッド8と、記録信号生成部10と、再生信号処理部20と、を備える。
【0020】
記録媒体4は、スピンドルモータ6に装着されており、スピンドルモータ6によって回転駆動される。この記録媒体4は、図1に示したように、複数トラックが形成された磁気ディスクであってもよい。なお、図1においては記録媒体4として1枚の磁気ディスクのみを示しているが、信号処理装置1は複数枚の磁気ディスクを有してもよい。
【0021】
ヘッド8は、記録信号生成部10から供給される記録信号を記録媒体4に記録する記録ヘッド、及び記録媒体4から再生信号を読み出す再生ヘッドとして機能する。また、ヘッド8は、後述するように、記録媒体4のトラック幅よりも大きいので、複数のトラックにまたがった状態で記録媒体4を走査する。
【0022】
記録信号生成部10は、記録媒体4に記録するための記録信号を生成する。また、再生信号処理部20は、記録媒体4からヘッド8により読み出された再生信号を処理する。このような記録信号生成部10の詳細な構成については図2を参照して説明し、再生信号処理部20の詳細な構成については図4及び図5を参照して説明する。
【0023】
なお、上述した信号処理装置1は、例えばPC(Personal Computer)、家庭用映像処理装置(DVDレコーダ、ビデオデッキなど)、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、携帯用音楽再生装置、携帯用映像処理装置、PDA(Personal Digital Assistants)、家庭用ゲーム機器、携帯用ゲーム機器、家電機器などに設けられてもよい。
【0024】
<2.記録信号生成部10の構成>
図2は、記録信号生成部10の構成を示した機能ブロック図である。図2に示したように、記録信号生成部10は、CRC符号器12と、LDPC符号器14と、インターリーバ16と、記録信号変換器18と、を備える。上記のCRCは、Cyclic Redundancy Checkの略である。また、上記のLDPCは、Low Density Parity Checkの略である。
【0025】
CRC符号器12は、供給される記録情報データに対し、CRC符号などの誤り検出符号を付加する。LDPC符号器14は、低いSN比でも所定のエラー率を確保するための誤り訂正符号化部である。インターリーバ16は、LDPC符号器14による処理後のデータをトラックごとに異なるパターンでインターリーブする。記録信号変換部18は、インターリーバ16によるインターリーブ後のデータを磁気の極性信号に変換して記録信号を生成する。そして、記録信号変換部18により生成された記録信号は、ヘッド8により記録媒体4に記録される。
【0026】
<3.ヘッド8の走査制御>
続いて、ヘッド8の走査制御について説明する。上述したように、ヘッド8は、記録媒体4のトラック幅よりも大きい。そのため、ヘッド8は、複数トラックにまたがった状態で記録媒体4を複数回にわたって走査する。但し、信号処理装置1は、この複数回にわたる走査に際し、再生信号の検出対象でないトラックにはヘッド8がはみ出さないようにヘッド8の位置を制御する。以下、図3を参照して、より具体的に説明する。但し、図3の例は、信号の書き込み時にトラック間でビット同期が確立されている場合である。なお、信号の書き込み時にトラック間でビット同期が確立されていない場合であっても、ヘッド8の動作は実質的に同じである。
【0027】
図3は、ヘッド8が記録媒体4を走査する様子を示した説明図である。より詳細には、図3は、2つのトラック(トラック#1及びトラック#2)からの再生信号を検出対象とする場合の走査例を示している。この場合、信号処理装置1は、まずトラック#1及びトラック#2にまたがる位置P1でヘッド8が記録媒体4を走査するように制御し、記録媒体4の一回転後、位置P1よりもトラック#2側である位置P2でヘッド8が記録媒体4を走査するように制御する。
【0028】
ここで、信号処理装置1は、再生信号の検出対象であるトラック#1及びトラック#2以外のトラック、すなわち、図3におけるトラック#1の下側のトラック及びトラック#2の上側のトラックにはヘッド8がはみ出さないようにヘッド8の位置を制御する。かかる構成によれば、検出対象以外のトラックからヘッド8が干渉信号を読み出してしまう場合を抑制できるので、後述の再生信号処理部20による信号検出精度の向上を図ることが可能である。
【0029】
なお、本明細書においては2つのトラックの再生信号を同時に検出対象とする例に重きをおいて説明するが、本実施形態はかかる例に限定されない。例えば、3つ以上のトラックの再生信号を同時に検出対象とすることも可能である。例えば、3つのトラック#1〜トラック#3からの再生信号を検出対象とする場合、信号処理装置1は、ヘッド8を記録媒体の一回転ごとに移動させる。但し、信号処理装置1は、再生信号の検出対象であるトラック#1〜#3以外のトラック(例えば、トラック#1の下側のトラック及びトラック#3の上側のトラック)にはヘッド8がはみ出さないようにヘッド8の位置を制御する。かかる構成により、検出対象のトラックが2つである場合と同様に、後述の再生信号処理部20による信号検出精度の向上を図ることが可能である。
【0030】
<4.再生信号処理部20の構成>
続いて、図4及び図5を参照し、再生信号処理部20の構成を詳細に説明する。図4は、再生信号処理部20の構成を示した機能ブロック図である。図4に示したように、再生信号処理部20は、バッファ22A及び22Bと、マルチトラック信号検出部30と、を備える。
【0031】
バッファ22Aは、ヘッド8により位置P1において記録媒体4から読み出された信号を保持する。同様に、バッファ22Bは、ヘッド8により位置P2において記録媒体4から読み出された信号を保持する。そして、バッファ22A及びバッファ22Bは、保持したデータを同時にマルチトラック信号検出部30に出力する。かかる構成により、位置P1及び位置P2からの同時読み出しが疑似的に実現される。
【0032】
ここで、位置P1においてヘッド8はトラック#1及びトラック#2にまたがった状態で走査を行うので、位置P1においてヘッド8により記録媒体4から読み出される信号は、トラック#1の再生信号及びトラック#2の再生信号が重畳されたマルチトラック再生信号(重畳再生信号と同意。以下、マルチトラック再生信号#1と称する。)である。同様に、位置P2においてもヘッド8はトラック#1及びトラック#2にまたがった状態で走査を行うので、位置P2においてヘッド8により記録媒体4から読み出される信号も、トラック#1の再生信号及びトラック#2の再生信号が重畳されたマルチトラック再生信号(以下、マルチトラック再生信号#2)である。但し、マルチトラック再生信号#1とマルチトラック再生信号#2とでは、位置P1と位置P2の相違に基づき、トラック#1の再生信号とトラック#2の再生信号の重畳比率が異なる。
【0033】
マルチトラック信号検出部30は、バッファ22A及びバッファ22Bから入力されるマルチトラック再生信号から、繰り返し信号検出処理に基づいてトラック#1の再生信号及びトラック#2の再生信号を高い精度で検出する。以下、このようなマルチトラック信号検出部30の構成について図5を参照して説明する。
【0034】
図5は、マルチトラック信号検出部30の構成を示した機能ブロック図である。図5に示したように、マルチトラック信号検出部30は、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32A及び32Bと、Max−log−MAP検出器34A及び34Bと、デインターリーバ36A及び36Bと、LDPC復号器38A及び38Bと、硬判定部40A及び40Bと、CRC復号器42A及び42Bと、切替部44と、インターリーバ46A及び46Bと、インターリーバ48A及び48Bと、(ISI&ITI)ソフトレプリカ生成器50A及び50Bと、干渉キャンセラ52A、52B、54A及び54Bと、を備える。
【0035】
2次元パーシャルレスポンスフィルタ32は、マルチトラック再生信号を一括して処理して、マルチトラック再生信号から各トラックの再生信号を抽出するための処理を行う。具体的には、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32は、トラック間干渉のあるマルチトラック再生信号からトラックmの再生信号をターゲット応答に等化する事前に取得されたトラック間干渉抑圧用タップ係数に基づき、マルチトラック再生信号からトラック間干渉が抑制されたトラックmの再生信号を抽出する。例えば、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aがトラック間干渉の抑制されたトラック#1の再生信号を抽出し、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Bがトラック間干渉の抑制されたトラック#2の再生信号を抽出する。
【0036】
Max−log−MAP検出器34、デインターリーバ36、及びLDPC復号器38は、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32により抽出された再生信号をビット列に復号するビット復号部として機能する。
【0037】
例えば、Max−log−MAP検出器34Aは、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32により抽出されたトラック#1の再生信号、及びインターリーバ46Aによるインターリーブ後の信号を用い、これらターゲット応答に則して遅延重畳された信号からMax−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。そして、デインターリーバ36Aは、Max−log−MAP検出器34Aにより得られた尤度にデインターリーブを施す。さらに、LDPC復号器38Aは、誤り訂正符号を用いてトラック#1のビット列の復号を行う。
【0038】
同様に、Max−log−MAP検出器34Bは、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32により抽出されたトラック#2の再生信号、及びインターリーバ46Bによるインターリーブ後の信号を用い、これらターゲット応答に則して遅延重畳された信号からMax−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。そして、デインターリーバ36Bは、Max−log−MAP検出器34Bにより得られた尤度にデインターリーブを施す。さらに、LDPC復号器38Bは、誤り訂正符号を用いてトラック#1のビット列の復号を行う。
【0039】
CRC復号器42は、LDPC復号器38により復号されたビット列に対する硬判定部40による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。
【0040】
切替部44は、CRC復号器42によりビット誤りの残存が検出された場合に、LDPC復号器38と、インターリーバ46及びインターリーバ48を接続する。この接続により、LDPC復号器38による復号結果がインターリーバ46及びインターリーバ48に供給されるようになる。一方、CRC復号器42によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は再生記録データとして上位レイヤへと出力される。
【0041】
インターリーバ48は、各トラックの復号結果に対してインターリーブを行う。つまり、インターリーバ48は、復号で得られた各ビットの尤度に記録時と同様のインターリーブを施す。具体的には、インターリーバ48Aはトラック#1の復号結果をインターリーブし、インターリーバ48Bはトラック#2の復号結果をインターリーブする。
【0042】
ソフトレプリカ生成器50は、インターリーブしたビット尤度を双曲線正接関数を用いてソフトレプリカに変換し、ソフトレプリカに基づいてトラック間干渉ソフトレプリカ及び符号間干渉ソフトレプリカを生成する。例えば、ソフトレプリカ生成器50Aは、トラック#1に関するソフトレプリカに、事前に推定された符号間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#1の符号間干渉ソフトレプリカを生成し、事前に推定されたトラック間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#1に対するトラック#2からのトラック間干渉ソフトレプリカを生成する。
【0043】
同様に、ソフトレプリカ生成器50Bは、トラック#2に関するソフトレプリカに、事前に推定された符号間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#2の符号間干渉ソフトレプリカを生成し、事前に推定されたトラック間干渉タップ係数ベクトルを乗算してトラック#2に対するトラック#1からのトラック間干渉ソフトレプリカを生成する。
【0044】
干渉キャンセラ(減算部)52及び54は、ソフトレプリカ生成器50により生成された干渉ソフトレプリカをマルチトラック再生信号から減算する。例えば、トラック#1の信号検出に際しては、干渉キャンセラ52Aがマルチトラック再生信号#1からトラック#1に対するトラック間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセル(減算)し、干渉キャンセラ54Aがマルチトラック再生信号#2からトラック#2の符号間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセルする。
【0045】
これにより、いずれのマルチトラック再生信号にもトラック#1の信号が残るので、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aは、干渉キャンセラ52A及び54Aによるソフトキャンセル後のマルチトラック再生信号を等化する。
【0046】
ここで、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Aは、繰り返し信号に対する等化処理を行う場合には、繰り返し一回目と異なるトラック間干渉除去後タップ係数を用いる。このトラック間干渉除去後タップ係数は、マルチトラック再生信号からトラックm以外のトラック信号を除去したマルチトラック信号からトラックmの再生信号をターゲット応答へ等化するものであり、事前のトレーニングにより取得可能である。
【0047】
同様に、トラック#2の信号検出に際しては、干渉キャンセラ54Bがマルチトラック再生信号#2からトラック#2に対するトラック間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセルし、干渉キャンセラ52Bがマルチトラック再生信号#1からトラック#1の符号間干渉ソフトレプリカをソフトキャンセルする。
【0048】
これにより、いずれのマルチトラック再生信号にもトラック#2の信号が残るので、2次元パーシャルレスポンスフィルタ32Bは、干渉キャンセラ52B及び54Bによるソフトキャンセル後のマルチトラック再生信号を、上記のトラック間干渉除去後タップ係数を用いて等化することができる。
【0049】
マルチトラック信号検出部30は、上記の干渉ソフトレプリカを用いた干渉キャンセルの繰り返し処理を、Max−log−MAP検出器34、デインターリーバ36、及びLDPC復号器38によるビット列の復号処理と共に、CRC復号器42によりビット誤りが検出されなくなるまで繰り返す。
【0050】
繰り返しの初期段階であっても、例えばトラック#1の信号検出に際してはトラック#1に対するトラック間干渉およびトラック#2の符号間干渉を大幅に抑制することができるので、信号品質が向上する。この効果により信号検出精度が改善されるとビット尤度が大きくなり、ソフトレプリカがハードレプリカに漸近する。その結果、次の繰り返し処理では、トラック#1に対するトラック間干渉およびトラック#2の符号間干渉をさらに改善される。同時に、隣接トラックへ漏れた有用な信号成分を信号検出に活用できるという効も奏する。
【0051】
<5.トラック間干渉の時変について>
各トラックに対する信号の書き込み時にトラック間でビット同期が確立されている場合、図5に示したマルチトラック信号検出部30を用いることで、正しく各トラックの信号を検出することができる。しかしながら、図6に示すように、トラック間でビット同期が確立されていない場合(以下、トラック間非同期書き込み)、図5に示したマルチトラック信号検出部30では正しく各トラックの信号検出を行うことができない。ここで、トラック間干渉の時変に起因して生じる問題について説明する。
【0052】
図6に示すように、トラック間非同期書き込みによって書き込まれた媒体上のトラックには、書き込みクロック周波数の差によりトラック間においてビット位相差が生じる。また、図7に示すように、トラック間でビット位相差が生じた媒体上をヘッド8により走査した際、そのビット位相差はヘッド8の走査時間に応じて徐々に変化する。つまり、このトラックを幅広のヘッド8で走査した場合、ライトフレームを基準とするトラック間干渉は時変トラック間干渉となる。
【0053】
図7に示すトラック#1及び#2を走査した場合、トラック#2からトラック#1へのトラック間干渉は、図8(インパルス応答の時間変化)に示すように徐々に遅れていくことになる。一方、トラック#1からトラック#2へのトラック間干渉は、図9(インパルス応答の時間変化)に示すように徐々に進んでいくことになる。複数の隣接するトラックから再生したマルチトラック信号を一括して処理するマルチトラック信号検出部30にとっては時変のトラック間干渉となる。そのため、時不変のチャネル応答を想定したマルチトラック信号検出部30では各トラックの信号を正しく検出できない。
【0054】
<6.実施形態>
そこで、本件発明者は、図11に示したマルチトラック信号検出部100の構成を考案した。以下、本発明の一実施形態に係るマルチトラック信号検出部100の構成について説明する。なお、本実施形態においては、図10に示すようなデータフォーマットを有する記録データが用いられる。図10に示すように、記録データは、プリアンブル、ユーザデータ、CRC符号のパリティビット、LDPC符号のパリティビット、ポストアンブルを含む。また、記録信号の生成は、図2に示した記録信号生成部10により行われる。
【0055】
[マルチトラック信号検出部100の構成]
図11に示すように、マルチトラック信号検出部100は、チャネル推定部101と、TDPRフィルタタップ係数生成器102と、TDPRフィルタ出力雑音分散初期推定部103と、TDPRフィルタ出力雑音分散更新部104と、タップ係数制御器105と、チャネルトラッキング部106と、マルチトラックソフト干渉キャンセラ107と、TDPRフィルタ108(2次元パーシャルレスポンスフィルタ)と、を有する。
【0056】
さらに、マルチトラック信号検出部100は、1次元/2次元max−log−MAP検出器110と、デインターリーバ111と、LDPC復号器112と、硬判定部113と、CRC復号器114と、切替部115と、書き込み信号ソフトレプリカ変換器116と、インターリーバ117、118と、を有する。
【0057】
チャネル推定部101は、再生信号に含まれるプリアンブル及びポストアンブルを用いてチャネル行列を推定する。TDPRフィルタタップ係数生成器102は、TDPRフィルタ108で用いるタップ係数を生成する。TDPRフィルタ出力雑音分散初期推定部103は、1次元/2次元max−log−MAP検出器110で用いるTDPRフィルタ出力雑音分散値の初期値を推定する。TDPRフィルタ出力雑音分散更新部104は、1次元/2次元max−log−MAP検出器110により出力される生き残りパス(後述)及び生き残りパスに対応する誤差に基づいて、次の時刻におけるmax−log−MAP検出に用いるTDPRフィルタ出力雑音分散値を算出する。
【0058】
タップ係数制御器105は、TDPRフィルタタップ係数生成器102により生成されたタップ係数をTDPRフィルタ108に設定する。チャネルトラッキング部106は、トレリス状態毎にマルチトラックソフト干渉キャンセラ107で用いるITI(トラック間干渉)及びISI(符号間干渉)のチャネル応答を推定する。マルチトラックソフト干渉キャンセラ107は、CRC復号器114でビット誤りの残存が検出された場合に、チャネル状態毎に推定されたチャネル応答を用いてソフト干渉キャンセルを行い、残留信号ベクトル(後述)を生成する。TDPRフィルタ108は、マルチトラック再生信号を一括して処理して、マルチトラック再生信号から各トラックの再生信号を抽出する。
【0059】
1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、図13に示した構成のTDPRフィルタ108により隣接する2つのトラック再生信号を等化して得られたTDPRフィルタ出力信号を用いてトレリス遷移のブランチメトリックを求め、このブランチメトリックからパスメトリックを計算してトレリス状態毎の生き残りパスを選択する。なお、CRC復号器114により1つのトラックの再生データに誤りがないと判定された場合、次の繰り返し処理において、1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、図15又は図17に示した構成のTDPRフィルタ108により出力されたTDPRフィルタ出力信号に対して1次元max−log−MAP検出を行う。
【0060】
デインターリーバ111は、1次元/2次元max−log−MAP検出器110により求められた生き残りパスのパスメトリックにデインターリーブを施す。LDPC復号器112は、誤り訂正符号を用いて各トラックのビット列を復号する。CRC復号器114は、硬判定部113による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。
【0061】
切替部115は、CRC復号器114によりビット誤りの残存が検出された場合に、LDPC復号器112と、インターリーバ117及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器116とを接続する。この接続により、LDPC復号器112による復号結果がインターリーバ117及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器116に供給されるようになる。一方、CRC復号器114によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は、再生データとして上位レイヤへと出力される。
【0062】
書き込み信号ソフトレプリカ変換器116は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ107によるソフト干渉キャンセルに用いる書き込み信号のソフトレプリカ信号を生成する。インターリーバ118は、書き込み信号ソフトレプリカ変換器116により生成されたソフトレプリカ信号にインターリーブを施してマルチトラックソフト干渉キャンセラ107に供給する。
【0063】
以上、マルチトラック信号検出部100の構成について説明した。次に、マルチトラック信号検出部100で用いる時定数を設定する時定数設定手段の構成について説明する。
【0064】
[時定数設定手段の構成]
マルチトラック信号検出部100には、時定数設定手段からマルチトラック信号検出用の時定数が入力される。この時定数設定手段は、図12に示すような構成を有する。図12に示すように、この時定数設定手段は、チャネル推定器131、133と、シフト量推定器132、134と、周波数差推定器135と、絶対値算出部136と、平均値算出部137と、時定数テーブル138とにより構成される。
【0065】
チャネル推定器131は、再生信号のプリアンブルを用いてITIチャネル応答ベクトルを推定する。シフト量推定器132は、チャネル推定器131により推定されたITIチャネル応答ベクトルのISIチャネル応答ベクトルに対するシフト量を推定する。同様に、チャネル推定器133は、再生信号のポストアンブルを用いてITIチャネル応答ベクトルを推定する。シフト量推定器134は、チャネル推定器133により推定されたITIチャネル応答ベクトルのISIチャネル応答ベクトルに対するシフト量を推定する。
【0066】
周波数差推定器135は、シフト量推定器132、134で推定されたシフト量の差分からクロック周波数の差を推定する。絶対値算出部136は、周波数差推定器135により推定されたシフト量の差分の絶対値を算出する。平均値算出部137は、絶対値算出部136によりトラック毎に算出されたシフト量の差分絶対値を平均する。平均値算出部137により算出された平均値は、時定数テーブル138に格納される。この時定数テーブル138から最適な時定数が選択され、マルチトラック信号検出部100に入力される。
【0067】
以上、時定数設定手段の構成について説明した。
【0068】
[マルチトラック信号検出部の動作]
次に、マルチトラック信号検出部100の動作について説明する。
【0069】
(モデル)
2つの隣接トラックから読み出した再生信号ベクトルy(k)=[y(k),y(k)]は、下記の式(1)によりモデル化される。但し、H(k)はチャネル推定部101により推定されるチャネル行列である。また、s(k)は、書き込み信号ベクトルである。そして、ζ(k)は自身のトラックからの媒体雑音、n(k)は白色ガウス雑音である。また、書き込み信号ベクトルs(k)は、s(k)=[s(k),s(k)]である。さらに、s(k)は、s(k)=[s(k+L),…,s(k−L)]である。但し、2L+1はチャネル応答長である。
【0070】
下記の式(1)に示した再生信号ベクトルのモデルに含まれるチャネル行列H(k)は、下記の式(2)により表現される。但し、チャネル行列H(k)の要素ベクトルhm,m’(k)は、m=m’の場合にISIのチャネル応答を表すベクトル(以下、ISIベクトル)であり、m≠m’の場合にITIのチャネル応答を表すベクトル(以下、ITIベクトル)である。
【0071】
上記の要素ベクトルhm,m’(k)の要素は、下記の式(3)で与えられる。但し、m=m’の場合にはam,m’=1、m≠m’の場合にはam,m’=α(オフトラック率)である。また、h(t)はチャネル応答である。さらに、チャネルインデックスlはl=0,…,±Lである。そして、時変パラメータθ(k)はトラック間の初期ビット位相差と書き込みクロックの周波数誤差により決まる。
【0072】
【数1】

…(1)

…(2)


…(3)

【0073】
(パスメトリックの計算)
隣接する2つのトラックから読み出された再生信号は、まず、図13に示した構成のTDPRフィルタ108により等化される。TDPRフィルタ108のタップデータベクトルr(k)は、r(k)=[y(k+N),…,y(k),…,y(k−N),y(k+N),…,y(k),…y(k−N)]と表現される。ここで、1トラック当たりのタップ長は2N+1となる。また、TDPRフィルタ108の全タップ長はM(2N+1)となる。但し、Mは、マルチトラック数(この例では2)を表す。
【0074】
いま、時刻k−1から時刻kにおける状態数Nのトレリス状態の遷移を(S’,S)とする。また、再生信号のプリアンブルとポストアンブルとを用いてTDPRフィルタタップ係数生成器102により生成されたTDPRフィルタタップ係数のうち、ITI抑制用のTDPRフィルタタップ係数のベクトルをwm,S(k−1)と表す。TDPRフィルタ108は、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,S(k−1)と、タップデータベクトルr(k)とを用いて、トレリス状態毎に下記の式(4)に示す出力信号zm,S’(k)を生成する。
【0075】
【数2】

…(4)

【0076】
但し、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,S’(k−1)の添え字mは、トラックmに対応することを表す。つまり、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,S(k−1)は、トラックmの信号を抽出するためのタップ係数の組を表す。また、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,S’(k−1)の添え字S’は、トレリス状態S’に対応することを表す。つまり、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,S’(k−1)は、トレリス状態S’におけるタップ係数の組を表す。従って、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,Sは、M個用意される。
【0077】
TDPRフィルタ108の出力信号zm,S’(k)は、1次元/2次元max−log−MAP検出器110に入力される。1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、入力されたTDPRフィルタ108の出力信号zm,S’(k)と、トレリス遷移ブランチに対応するレプリカ信号候補z’m,S’,S(k)との誤差の2乗和を算出し(ブランチメトリック合成を行い)、トレリス遷移のブランチメトリックΓS’,S(k)を算出する。ブランチメトリックΓS’,S(k)は、下記の式(5)により算出される。
【0078】
【数3】

…(5)

【0079】
但し、σm、S’(k−1)は、TDPRフィルタ出力雑音分散初期推定部103により推定されたTDPRフィルタ出力雑音分散値、又はTDPRフィルタ出力雑音分散更新部104により更新されたTDPRフィルタ出力雑音分散値である。1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、ブランチメトリックΓS’,S(k)と、時刻k−1における状態メトリックからトレリス遷移に応じたパスメトリックを算出し、トレリス状態毎の生き残りパスを求める。この生き残りパスの情報及び各生き残りパスの誤差は、チャネルトラッキング部106、タップ係数制御器105、TDPRフィルタ出力雑音分散更新部104に入力される。そして、TDPRフィルタタップ係数は、生き残りパスに応じ、それぞれの誤差に基づいて更新される。
【0080】
なお、TDPRフィルタタップ係数の更新は、例えば、RLS(逐次最小二乗)アルゴリズムなどの適応アルゴリズムを用いて実現することができる。例えば、RLSアルゴリズムで設定される忘却係数を用いて時変ITIへの追従性を調節することができる。さらに、同様の処理をポストアンブルから後ろ向きにも実行する。このようにして1次元/2次元max−log−MAP検出器110により算出されたパスメトリックは、デインターリーバ111に入力され、デインターリーバ111の後段における処理が実行される。
【0081】
(繰り返し処理による干渉キャンセル)
CRC復号器114による誤り検出によりビット誤りが残留していると判定された場合、繰り返し処理による干渉キャンセルが実行される。LDPC復号器112により復号されたビット列に基づいて書き込み信号ソフトレプリカ変換器116により生成された書き込み信号のソフトレプリカ信号をs’(k)=[s’(k+L),…,s’(k+L)]とする。但し、2L+1はチャネル推定タップ長である。また、マルチトラックソフト干渉キャンセラ107で用いるITI及びISIのチャネル応答は、チャネルトラッキング部106により推定される。
【0082】
時刻k−1でトレリス状態S’において推定されているチャネル行列の部分行列H’m,S’(k−1)を下記の式(6)で表現すると、マルチトラックソフト干渉キャンセラ107による干渉キャンセルは、下記の式(7)により表現される。ここで、m”は、mが1のときに2、mが2のときに1となる値である。マルチトラックソフト干渉キャンセラ107は、下記の式(7)で表現される干渉キャンセルを時点k−Nから時点k+Nまで実行し、マルチトラック残留信号ベクトルr”m,S’(k)を生成する。このマルチトラック残留信号ベクトルr”m,S’(k)は、TDPRフィルタ108に入力される。
【0083】
【数4】

…(6)


…(7)

【0084】
TDPRフィルタ108は、下記の式(8)のように、マルチトラックソフト干渉キャンセラ107により生成されたマルチトラック残留信号ベクトルr”m,S’(k)を等化する。TDPRフィルタ108の出力信号は、1次元/2次元max−log−MAP検出器110に入力される。1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、TDPRフィルタ108の出力信号を用いて、下記の式(9)に示すように、ブランチメトリック合成によりブランチメトリックΓS’,S(k)を算出する。なお、下記の式(9)の右辺第2項は、前回の繰り返し処理により得られた各ビットに対する尤度である。
【0085】
【数5】

…(8)


…(9)

【0086】
また、1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、2次元max−log−MAP検出においてパスメトリックの計算及び生き残りパスの選択を行う。このとき、1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、各トレリス状態Sにおける生き残りパスに対応する誤差信号em,S(k)を生成する。このようにして1次元/2次元max−log−MAP検出器110により選択された生き残りパス及び誤差は、チャネルトラッキング部106、タップ係数制御器105、TDPRフィルタ出力雑音分散更新部104に入力される。
【0087】
チャネルトラッキング部106は、トレリス状態毎のマルチトラックビット系列から成る生き残りパス系列を用いてITI及びISIのチャネル推定(以下、マルチトラックチャネル推定)を行う。また、タップ係数制御器105は、RLSアルゴリズムなどを用いてタップ係数の制御を行う。なお、マルチトラックチャネル推定の更新には、LMS(最小平均二乗)アルゴリズムを用いることができ、このアルゴリズムで設定されるステップサイズを用いてITIへの追従性を調節することができる。また、ポストアンブルを用いて同様の処理を後ろ向きにも実行する。
【0088】
また、トレリス状態毎に選択された生き残りパスに応じて、TDPRフィルタ108の出力信号と、生き残りパスに対応する誤差信号とから、TDPRフィルタ出力雑音分散更新部104は、TDPRフィルタ出力雑音分散値の移動平均を計算する。このようにしてTDPRフィルタ出力雑音分散更新部104により計算された移動平均の値は、次の時刻での1次元/2次元max−log−MAP検出器110によるmax−log−MAP検出に利用される。
【0089】
(パラメータ更新の具体例)
ここで、図14を参照しながら、TDPRフィルタタップ係数の更新、ITI及びISIチャネル応答の更新、及びTDPRフィルタ出力雑音分散値の更新について説明する。
【0090】
図14は、2つのトラックから読み出された再生信号の1遅延ビット(b1,k−1,b2,k−1)を状態として持つトレリス線図を示す。実線は、時刻kにおける各トレリス状態の生き残りパスを示している。生き残りパスの信号ベクトルをs’(k)=[s’(k),s’(k)]とする。また、s’(k)=[s’(k),…,s’(k−2L)]とする。各トレリス状態におけるパラメータとして、TDPRフィルタタップ係数ベクトル、ITIチャネル応答ベクトル、ISIチャネル応答ベクトル、及びTDPRフィルタ出力雑音分散値が保持される。
【0091】
生き残りパスに従い、これらのパラメータを更新する。図14の例では、時刻kにおける状態0は時刻k−1における状態1のパラメータから更新される。同様に、時刻kにおける状態1は時刻k−1における状態3のパラメータから、時刻kにおける状態2は時刻k−1における状態1のパラメータから、時刻kにおける状態3は時刻k−1における状態1のパラメータから更新される。状態Sにおける生き残りパスの状態をS’(S)とし、ISIベクトルとITIベクトルとを一括したベクトルをh’m,S(k)=[h’m,1,S(k),h’m,2,S(k)]とすると、再生信号とそのレプリカとの誤差em,S(k)は、下記の式(10)により表現される。
【0092】
また、ベクトルh’m,S(k)は、下記の式(11)に基づいて更新される。さらに、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwm,S(k)は、下記の式(12)に基づき、RLSアルゴリズムにより決まるゲインベクトルkm,S(k)を用いて更新される。また、TDPRフィルタ出力雑音分散値σm,S(k)は、下記の式(13)に基づいて更新される。但し、Nは移動平均長である。
【0093】
【数6】

…(10)


…(11)


…(12)


…(13)

【0094】
(1つのトラックに誤りがない場合の繰り返し処理)
また、1つのトラックの再生データについてCRC復号器114によりビット誤りがないと判定された場合、次以降の繰り返し処理において、1次元/2次元max−log−MAP検出器110は、1次元max−log−MAP検出を用いる。つまり、1つのトラックの再生データにビット誤りがない場合、1つのトラック信号の遅延ビットのみから構成されるトレリス遷移を用いて信号検出が実行される。この場合、TDPRフィルタ108の出力は図15に示す等化モデルで表現される。なお、ここでは説明を簡単にするため、雑音成分を省略する。
【0095】
TDPRフィルタ108により、各トラックの再生信号は、希望応答(1+D)で抽出される。これらの抽出された信号から信号検出を行う場合、チャネル推定の機能を強化するために、タップ係数が0の遅延タップを1つ付け足したモデルを用いることもできる。この場合、図15に示した等化モデルに対するトレリス線図は、図16に示した16個のトレリス状態により構成されるものとなる。各TDPRフィルタ出力と、トレリス線図の各ブランチに与えられるTDPRフィルタ出力レプリカとの差分の二乗値をブランチメトリック合成することによりブランチメトリックが計算される。また、2次元max−log−MAP検出によりパスメトリックが計算される。
【0096】
このとき、ISI及びITIのタップ数がそれぞれ2以上のチャネル推定を行うには、各トレリス状態における生き残りパスを用いる必要がある。そのため、チャネル推定精度が十分でない場合が生じる。しかし、一方のトラックが正しく復号されると、その後の繰り返し処理において、その信号をトレリスに割り当てる必要がなくなる。そのため、同じ16状態のトレリスを用いる場合には、図17に示すような等価的にタップ係数が0の遅延タップを3つ付け足したモデルを用いることができる。このモデルに対応するトレリス線図は図18のようになる。図18に示したトレリス線図では、各状態に4ビットが保持されているため、チャネル推定精度が向上する。
【0097】
[効果]
図19に、再生ヘッドの隣接トラックへのオフトラック率が50%であり、トラック間書き込みクロック周波数差が0.02%である場合のBER特性の比較結果を示す。時変ITIへの追従機能がない場合(w/o channel tracking & tap−weight control)にはBERが大幅に劣化する。一方、本実施形態の技術を適用した場合(w/ channel tracking & tap−weight control)、時変ITIへ追従すると共に、繰り返し回数の増加に伴ってBER特性が改善される。また、繰り返し回数が増加するにつれ、トラック間干渉が無く、かつ、書き込みクロック周波数差も無い場合(α=0、Δf=0%、λ=0.999、μ=0.001)のBERに近いBER特性が得られる。このように、本実施形態の技術は、磁気記録信号再生の信頼性向上に寄与する。
【0098】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0099】
1 信号処理装置
4 記録媒体
6 スピンドルモータ
8 ヘッド
10 記録信号生成部
20 再生信号処理部
22 バッファ
30 マルチトラック信号検出部
32 2次元パーシャルレスポンスフィルタ
34 Max−log−MAP検出器
36 デインターリーバ
38 LDPC復号器
40 硬判定部
42 CRC復号器
44 切替部
46、48 インターリーバ
50 ソフトレプリカ生成器
52、54 干渉キャンセラ
100 マルチトラック信号検出部
101 チャネル推定部
102 TDPRフィルタタップ係数生成器
103 TDPRフィルタ出力雑音分散初期推定部
104 TDPRフィルタ出力雑音分散更新部
105 タップ係数制御器
106 チャネルトラッキング部
107 マルチトラックソフト干渉キャンセラ
108 TDPRフィルタ
110 1次元/2次元max−log−MAP検出器
111 デインターリーバ
112 LDPC復号器
113 硬判定部
114 CRC復号器
115 切替部
116 書き込み信号ソフトレプリカ変換器
117、118 インターリーバ
131、133 チャネル推定器
132、134 シフト量推定器
135 周波数差推定器
136 絶対値算出部
137 平均値算出部
138 時定数テーブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラック幅よりも大きな幅を持つヘッドを用いて複数のトラックから読み出された複数の再生信号から、2次元パーシャルレスポンスフィルタを用いて各トラックに記録された記録信号を検出する信号検出装置であって、
前記再生信号のプリアンブル及びポストアンブルを用いて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を生成するタップ係数生成部と、
前記タップ係数生成部により生成されたタップ係数をトレリス線図の各状態に設定し、2次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出すると共に、各生き残りパスに対応するレプリカ信号と前記2次元パーシャルレスポンスフィルタからの出力信号との誤差を算出する生き残りパス検出部と、
前記生き残りパス検出部により検出された生き残りパスに対応する前記誤差に基づいて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を更新するタップ係数更新部と、
を備える
ことを特徴とする、信号検出装置。
【請求項2】
前記2次元max−log−MAP検出の実行時に算出される各ビットの対数尤度比を用いて前記記録信号の誤り訂正を実行する誤り訂正部と、
前記プリアンブル及びポストアンブルを用いて、符号間干渉を表す第1のチャネル応答ベクトルとトラック間干渉を表す第2のチャネル応答ベクトルとを推定するチャネル推定部と、
前記第1及び第2のチャネル応答ベクトルを用いて、前記再生信号に含まれる干渉成分を示す干渉レプリカを生成する干渉レプリカ生成部と、
前記再生信号から前記干渉レプリカを減算して干渉成分をキャンセルする干渉キャンセラと、
をさらに備え、
前記チャネル推定部は、前記生き残りパスに応じて前記第1及び第2のチャネル応答ベクトルを更新する
ことを特徴とする、請求項1に記載の信号検出装置。
【請求項3】
前記生き残りパス検出部は、前記レプリカ信号と前記2次元パーシャルレスポンスフィルタからの出力信号との誤差の2乗値を前記各状態の生き残りパスに応じた移動平均により推定する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の信号検出装置。
【請求項4】
少なくとも1つのトラックに対応する記録信号が正しく復号された場合に、前記生き残りパス検出部は、記録信号が正しく復号されたトラック以外のトラックに対応する残りの再生信号の遅延ビットに前記トレリス線図の全状態を割り当て、1次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号検出装置。
【請求項5】
前記プリアンブルを用いて符号間干渉のチャネル応答からトラック間干渉のチャネル応答への第1の位相ずれを推定し、前記ポストアンブルを用いて符号間干渉のチャネル応答からトラック間干渉のチャネル応答への第2の位相ずれを推定する位相ずれ推定部と、
前記第1の位相ずれと前記第2の位相ずれとの間の位相ずれから、トラック間における書き込みクロック周波数の差を推定する周波数差推定部と、
前記クロック周波数の際に基づいて少なくとも前記タップ係数の更新に用いる時定数を設定する時定数設定部と、
をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号検出装置。
【請求項6】
トラック幅よりも大きな幅を持つヘッドを用いて複数のトラックから読み出された複数の再生信号から、2次元パーシャルレスポンスフィルタを用いて各トラックに記録された記録信号を検出する信号検出方法であって、
前記再生信号のプリアンブル及びポストアンブルを用いて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を生成するタップ係数生成工程と、
前記タップ係数生成工程で生成されたタップ係数をトレリス線図の各状態に設定し、2次元max−log−MAP検出により各状態の生き残りパスを検出すると共に、各生き残りパスに対応するレプリカ信号と前記2次元パーシャルレスポンスフィルタからの出力信号との誤差を算出する生き残りパス検出工程と、
前記生き残りパス検出工程で検出された生き残りパスに対応する前記誤差に基づいて前記2次元パーシャルレスポンスフィルタのタップ係数を更新するタップ係数更新工程と、
を含む
ことを特徴とする、信号検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−174310(P2012−174310A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36149(P2011−36149)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】