説明

信号送信装置、カメラ、コネクタ装置及び車載通信システム

【課題】電源線に通信信号を重畳する場合に、電源線からの放射ノイズを減らす。
【解決手段】例えばカメラ31から映像をPLCで送信するような場合に、電源線35に通信信号を重畳するとともに、その通信信号を反転した信号をグランド線37に重畳し、電源線35とグランド線37のそれぞれに重畳された信号同士が互いに反転した波形で並走させる。電源線35とグランド線37とで相互の電圧変動を打ち消すようにでき、電線束からの放射ノイズを低減できる。したがって、ラジオ音声への雑音混入やテレビ画像の乱れを防止でき、さらに電装品等の機器の誤動作を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源線を通じて通信信号を送信する信号送信装置、カメラ、コネクタ装置及びそれに関連する車載通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、近年の電子通信技術の発展に伴い、多くの電装品の間で通信が行われつつある。特に、自動車の顧客ニーズの多様化・高付加価値化が進むにつれ、電装品の搭載数は増加の一途を辿っており、自動車内のワイヤーハーネスの本数は益々増加する傾向にある。
【0003】
ところで、自動車においては、ワイヤーハーネスを配策するための空間が限られており、また自動車の軽量化の要請もあって、ワイヤーハーネスの本数はできるだけ少ない方が好ましい。このような事情により、ワイヤーハーネスの本数を減らす方法のひとつとして、電源線への通信信号の重畳(Power Line Communication:PLC)が実施されることがある。このPLCでは、シリアル信号を変調して電源線に重畳する技術であり、その変調方式として、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)、FSK(Frequency Shift keying)及びPSK(Phase Shift keying)が知られている。
【0004】
ASKは、図5の如く、入力されるディジタル信号1に応じて変調波3をオン/オフするもので、例えば、ディジタル信号1の論理値が「1」のときに正弦波状の変調波3がオンし、ディジタル信号1の論理値が「0」のときに変調波3がオフする。
【0005】
FSKは、図6の如く、入力されるディジタル信号5に応じて変調波7の周波数を変化させるもので、例えば、ディジタル信号5の論理値が「1」のときに変調波7が高周波となり、ディジタル信号5の論理値が「0」のときに変調波7が低周波となる。
【0006】
PSKは、図7の如く、入力されるディジタル信号9に応じて変調波11の位相を変化させるもので、ディジタル信号9の論理値が「1」のときには、変調波11が第1の位相で現れ、ディジタル信号9の論理値が「0」のときには、変調波11の位相が、第1の位相より所定角度(例えば180度)だけずれた第2の位相となる。
【0007】
そして、PLCにおいては、上記したいずれかの変調方式の変調波3,7,11を電源線の電源電圧に重畳することで、電装品に電源を供給すると同時に、同じ電源線を通じて通信信号を送信する。
【0008】
図8は、車載通信システムの一例として、自動車に取り付けられたカメラ13で撮像した周辺の映像をPLCで受信装置15に送信するための概略構成を示すブロック図であり、符号17は電源線、符号19はグランド(GND)線をそれぞれ示す。
【0009】
図8の如く、カメラ13で撮像された映像は、そのカメラ13の内部でディジタル信号に変換された後、上記いずれかの変調方式により変調される。ここで変調された変調波は、重畳回路21により電源線17に重畳される。
【0010】
受信装置15側では、電源線17に重畳された変調波を信号分離回路23で分離し、これを受信装置15内で復調して映像信号として受信する。
【0011】
このように、電源線17を通じて映像信号を送受信することで、カメラ13と受信装置15との間に専用の信号線を配策する必要が無くなり、電線の本数を削減することが可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
自動車において、電源線17は一般にシールドされていないため、上述のように電源線17の電源電圧に通信信号となる変調波3,7,11を重畳すると、電源線17の電圧変動から放射ノイズが発生する。
【0013】
かかる放射ノイズが電源線17から放射されると、ラジオ音声への雑音混入やテレビ画像の乱れが生じ、場合によっては電装品等の機器の誤動作が発生する恐れがある。
【0014】
そこで、本発明の課題は、電源線に通信信号を重畳する場合に、この電源線からの放射ノイズを低減し得る信号送信装置、カメラ、コネクタ装置及びそれに関連する車載通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、電源線を通じて通信信号を送信する信号送信装置であって、前記通信信号を前記電源線に重畳する第1の重畳回路と、前記通信信号を反転する反転回路と、前記電源線に並設されるグランド線に前記反転回路で反転された信号を重畳する第2の重畳回路とを備えるものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、自動車に搭載されて周辺を撮像するカメラであって、請求項1に記載の信号送信装置が内蔵されたものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記通信信号を出力する電装ユニットと前記電源線及びグランド線とを接続するコネクタ装置であって、請求項1に記載の信号送信装置が内蔵されたものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、複数の車載電装ユニットが、互いに並設される電源線及びグランド線に接続され、前記電源線を通じて通信信号を送受信する車載通信システムであって、前記通信信号を前記電源線に重畳する第1の重畳回路と、前記通信信号を反転する反転回路と、前記反転回路で反転された信号を前記グランド線に重畳する第2の重畳回路とを備えるものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1及び請求項4に記載の発明では、例えば請求項2のように、カメラで撮像した自動車周辺の映像を通信する際に、電源線からの放射ノイズが外部に影響を与えるような場合に、電源線に重畳された信号とグランド線に重畳された信号とが互いに反転した波形で並走するので、電源線とグランド線とで相互の電圧変動を打ち消すようにでき、電線束からの放射ノイズを低減することができる。したがって、ラジオ音声への雑音混入やテレビ画像の乱れを防止でき、さらに電装品等の機器の誤動作を防止できる。
【0020】
請求項3に記載の発明の車載通信システムでは、コネクタ装置内に信号送信装置を内蔵することによって、電装ユニットとして既存のものをそのまま用いても、電線束からの放射ノイズを容易に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<構成>
図1は本発明の一の実施形態に係る車載通信システムの概略を示すブロック図である。この車載通信システムは、図1の如く、第1の車載電装ユニット31と第2の車載電装ユニット33との間に、電源線35及びグランド(GND)線37とが束ねられた電線束39が配策されており、この電源線35に通信信号を重畳するPLCにおいて、その通信信号を位相反転した信号をグランド線37に重畳することで、互いに逆位相となる信号を並走させ、電源線35及びグランド線37の相互の電圧変動を打ち消すような変化をさせて、この電線束39からの放射ノイズを低減するものである。
【0022】
ここで、図1は、車載通信システムとして映像伝送システムが適用された例を示しており、第1の車載電装ユニット31として、自動車に取り付けられて周辺の映像を撮像するカメラを適用し、第2の車載電装ユニット33として、カメラ31からの映像信号の画像処理等を行う受信装置を適用している。
【0023】
カメラ31と受信装置33とを接続する電線束39としては、電源線35内に重畳される信号とグランド線37内に重畳される信号とを並走させるものであればどのようなものであってもよく、例えばツイストペアケーブル等が適用される。
【0024】
カメラ31は、自動車のフロントグリル、フロントバンパーのコーナー部、ドアミラーの下端部、またはライセンスガーニッシュ等に設置されて、自動車の走行安全確認のためにその周辺を撮像するものである。
【0025】
カメラ31内には、図示しないCCD等の撮像素子の他、撮像された映像信号を、ASK、FSKまたはPSKのいずれかの変調方式で変調する信号処理回路41が内蔵されている。尚、信号処理回路41は、NTSC方式のアナログ信号をそのまま変調してもよいし、あるいはそのアナログ信号をディジタル信号に変換してから変調するようにしてもよい。
【0026】
また、このカメラ31は、電線束39の電源線35に接続されて電源供給を受けるとともに、グランド線37に接続されて内部の電気回路の接地電位を規定するようになっている。
【0027】
そして、このカメラ31には、信号処理回路41で変調された変調波を電源線35に重畳する第1の重畳回路43と、信号処理回路41で変調された変調波を反転する反転回路45と、この反転回路45で反転された変調波(以下「反転波」と称す)をグランド線37に重畳する第2の重畳回路47とが設けられる。
【0028】
各重畳回路43,47は、例えば図2の如く、出力側がプルダウン抵抗50に接続されたトランジスタ51と、このトランジスタ51のベース(ゲート)入力側に設けられた入力コンデンサ53と、トランジスタ51のプルダウン出力側に設けられた出力コンデンサ55とを備え、入力コンデンサ53を通じて与えられた入力信号を、電圧Vcの信号レベルに変換して、出力コンデンサ55を介して電源線35またはグランド線37に重畳するようになっている。尚、図2に示した回路は一例に過ぎず、入力信号を電源線35またはグランド線37に重畳するものであればどのような構成を採用しても差し支えない。
【0029】
反転回路45は、例えば、P−K(プレート・カソード)分割型位相反転回路、自己平衡型位相反転回路、マラード型位相反転回路、差動型位相反転回路またはクロスシャント型位相反転回路等の既知の位相反転回路が採用される。
【0030】
受信装置33は、電線束39(即ち、電源線35及びグランド線37)に流れる通信信号を分離する信号分離回路61に接続されて、この信号分離回路61を通じてカメラ31からの通信信号を受信するもので、通信信号を復調するための復調回路62が内蔵されている。
【0031】
信号分離回路61は、例えば図3の如く、電源線35とグランド線37との電位差が入力信号として入力されるとともに、その入力信号のうち対象となる周波数以外の信号を減衰させるLC同調回路等のバイパスフィルタ63と、入力インピーダンスの高いFET増幅器等が適用された第1の増幅器65と、ダイオード等が利用されて増幅された信号を検波する検波器67と、検波した信号を増幅して波形の整形を行う第2の増幅器69とを備えた既存のものが使用される。
【0032】
尚、上記の各回路43,45,47,61は、電線束39を通じて通信信号を送信する信号送信装置として機能する。
【0033】
<動作>
上記構成の車載通信システム(映像伝送システム)の動作を説明する。まず、図1の如く、カメラ31で撮像された映像は、内部の信号処理回路41でASK、FSKまたはPSKのいずれかの変調方式で変調される。
【0034】
ここで変調された信号(変調波)は、第1の重畳回路43により電源線35に重畳されるとともに、反転回路45で反転されて、第2の重畳回路47によってグランド線37に重畳される。
【0035】
ここで、図4は、変調方式としてASKを適用した場合の各信号波形を示す図であり、符号71はディジタル方式の映像信号、符号73は映像信号がASKにより変調された変調波、符号75は変調波73が反転回路45で反転された反転波、符号77は電源線35とグランド線37との電位差、符号79は受信装置33の復調回路62で復調された後の映像信号をそれぞれ示している。
【0036】
図4の通り、第1の重畳回路43により電源線35に重畳される変調波73としては、映像信号71の論理値が「1」のときにオンになって正弦波が現れる一方、映像信号71の論理値が「0」のときにオフとなって直流の電源電圧Vcとなる。
【0037】
これに対して、第2の重畳回路47によってグランド線37に重畳される反転波75は、電源線35に重畳される変調波73に対してオンオフのタイミングは同一であるものの、変調波73に比べて反転して現れる。
【0038】
信号分離回路61は、電源線35とグランド線37との電位差77を入力信号として受信し、対象となる周波数を抽出して二段増幅及び検波を行って通信信号を分離し、受信装置33の復調回路62で復調して映像信号79を得る。
【0039】
この場合、電源線35とグランド線37とが電線束39として束ねられていることから、電源線35に流れる変調波73とグランド線37に流れる反転波75とは、同じタイミングで且つ互いに反転した波形で並走する。即ち、電源線35とグランド線37とで相互の電圧変動を打ち消すようにでき、電線束39からの放射ノイズを低減することができる。したがって、例えばこの実施形態のように、カメラ31で撮像した自動車周辺の映像を通信するにあたって、電源線からの放射ノイズが外部に影響を与えるような場合に、ラジオ音声への雑音混入やテレビ画像の乱れを防止でき、さらに電装品等の機器の誤動作を防止できる。
【0040】
尚、図4では、ASKを例に挙げて図示しているが、FSKやPSKといった他の変調方式のPLCにおいても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0041】
ここで、上記実施形態では、第1の重畳回路43、反転回路45及び第2の重畳回路47を、第1の車載電装ユニット31のみに設け、また信号分離回路61を第2の車載電装ユニット33にのみ設けた例について説明したが、互いに送受信する車載電装ユニット31,33同士の間では、送信機能と受信機能の両方がそれぞれ必要になることから、実際には、第1の重畳回路43、反転回路45及び第2の重畳回路47と信号分離回路61の全てを各車載電装ユニット31,33に設けることが望ましい。
【0042】
尚、上記実施形態では、第1の車載電装ユニット31としてカメラを、第2の車載電装ユニット33として受信装置を例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、自動車におけるあらゆる通信に適用可能なものである。
【0043】
また、第1の重畳回路43、反転回路45、第2の重畳回路47及び信号分離回路61を、第1の車載電装ユニット31や第2の車載電装ユニット33と別体の部品として設けた例について説明したが、これらの回路43,45,47,61を、第1の車載電装ユニット31や第2の車載電装ユニット33の内部に設置してもよい。
【0044】
あるいは、これらの回路43,45,47,61を、各車載電装ユニット31,33と電線束39とをそれぞれ接続するコネクタ装置の内部に設置してもよい。この場合は、コネクタ装置内にこれらの回路43,45,47,61(信号送信装置)を内蔵することによって、電装ユニットとして既存のものをそのまま用いても、電線束からの放射ノイズを容易に低減することができる利点がある。
【0045】
さらにまた、上記実施形態では、変調回路41及び復調回路62が各車載電装ユニット31,33に内蔵された例について説明したが、変調回路41及び復調回路62が各車載電装ユニット31,33とは別の部品として構成されてもよい。
【0046】
あるいは、変調回路41及び復調回路62が、各車載電装ユニット31,33と電線束39をそれぞれ接続するための各コネクタ装置に内蔵されても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一の実施形態に係る車載通信システムの概略を示すブロック図である。
【図2】本発明の一の実施形態に係る車載通信システムの重畳回路を示す回路図である。
【図3】本発明の一の実施形態に係る車載通信システムの信号分離回路を示すブロック図である。
【図4】本発明の一の実施形態に係る車載通信システムの変調方式としてASKを適用した場合の各信号波形を示す波形図である。
【図5】ASKの波形の一例を示す図である。
【図6】FSKの波形の一例を示す図である。
【図7】PSKの波形の一例を示す図である。
【図8】従来の車載通信システムを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0048】
31 カメラ(第1の車載電装ユニット)
33 受信装置(第2の車載電装ユニット)
35 電源線
37 グランド線
39 電線束
41 信号処理回路
41 変調回路
43 第1の重畳回路
45 反転回路
47 第2の重畳回路
61 信号分離回路
62 復調回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源線を通じて通信信号を送信する信号送信装置であって、
前記通信信号を前記電源線に重畳する第1の重畳回路と、
前記通信信号を反転する反転回路と、
前記電源線に並設されるグランド線に前記反転回路で反転された信号を重畳する第2の重畳回路と
を備える信号送信装置。
【請求項2】
自動車に搭載されて周辺を撮像するカメラであって、
請求項1に記載の信号送信装置が内蔵されたことを特徴とするカメラ。
【請求項3】
前記通信信号を出力する電装ユニットと前記電源線及びグランド線とを接続するコネクタ装置であって、
請求項1に記載の信号送信装置が内蔵されたことを特徴とするコネクタ装置。
【請求項4】
複数の車載電装ユニットが、互いに並設される電源線及びグランド線に接続され、前記電源線を通じて通信信号を送受信する車載通信システムであって、
前記通信信号を前記電源線に重畳する第1の重畳回路と、
前記通信信号を反転する反転回路と、
前記反転回路で反転された信号を前記グランド線に重畳する第2の重畳回路と
を備える車載通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−67421(P2006−67421A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249805(P2004−249805)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】