説明

信頼度評価装置、信頼度評価プログラムおよび信頼度評価方法

【課題】ニューラルネットワーク部41のモデル化に用いたデータの範囲外のデータが入力された場合でも、ニューラルネットワーク部41の出力因子に基づく推定値、例えば油入変圧器の余寿命推定値の精度の信頼度を直ちに算出できる信頼度評価装置10等を提供する。
【解決手段】絶縁油の分析結果に加えて、運転履歴、保守履歴、設計諸元を用いるニューラルネットワーク部41を利用して平均重合度を推定する際、統計量算出部25はローディング行列Pと学習情報DB30に記録された測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列tを求め、求められたスコア行列t等からHotellingのT統計量を算出し、上記測定値からQ統計量を求める。推定信頼度算出部26はHotellingのT統計量及びQ統計量だけを用いた所定の関数により、推定値算出部24により算出された油入変圧器の余寿命の信頼度を評価する推定信頼度ERを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を評価する信頼度評価装置に関し、特に油入電気機器に対する推定された余寿命の信頼度を評価する信頼度評価装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューラルネットワークには種々のタイプが存在し、例えば、階層型ニューラルネットワークは入力層、中間層および出力層を有している。入力層ではp次元入力ベクトル(入力因子)x=(x,・・・,x)が、ニューラルネットワーク内の結合荷重とニューラルネットワークを構成するノード内のシグモイド関数とによって変換され、出力層でr次元出力ベクトル(出力因子)y=(y,・・・,y)が得られる(非特許文献1参照)。例えば教師あり学習の場合、ニューラルネットワークのノードは正解となる信号の入力によって結合強度が変化することにより学習を行ない、最適化されていく。ニューラルネットワークは統計処理等の多次元量のデータを有し且つ線形分離不可能な問題に対して適用されることが多い。
【0003】
ニューラルネットワークは入出力因子間の非線形な関係を精度良くモデル化することができるが、その反面、モデル化を行うために用いたデータの範囲外のデータについては、ニューラルネットワークの出力因子に基づく推定値の精度が悪くなるという問題がある。これを一般に外挿問題という。従って、ニューラルネットワークによるモデルを用いて予測を行うときには、外挿であるか否かを判断して、できるだけ外挿でない条件で用いる等の注意が必要となる。この外挿であるか否かを判断する方法として、一般的に、上記推定値を求める場合に用いる入力因子それぞれの値がモデル構築に用いたデータの値の範囲内に含まれているか否かを、因子それぞれにチェックする上下限チェックが用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した上下限チェックでは、因子それぞれでは上下限の中に入っていても、因子同士の組合せとしてみた場合にはデータの範囲外になっているということがあり、このような場合には、上記推定値の精度が悪化してしまうという問題があった。例えば、2つの因子Aおよび因子Bがあるとした場合に、モデル化に用いたデータの範囲として両因子の組合せのデータが、(因子A、因子B)=(0、0)、(1、1)、(10、1)、(1、10)の4通りのデータであったとする。この場合、因子A、因子Bともに上下限範囲は、0〜10である。従って、上述した従来の上下限チェックでは、因子Aと因子Bとが0〜10の範囲に含まれていれば、正常と判断されることになる。この結果、例えば(因子A、因子B)=(10、10)というデータも正常と判断されてしまうことになる。しかし、モデル化に用いたデータの範囲には(因子A、因子B)=(10、10)という組合せはないため、ニューラルネットワークの出力因子に基づく推定値の精度は全く保障できなくなるという問題があった。2因子程度であれば人間によりその場で判断することができるが、因子の数が増加するほど人間によるその場での判断は不可能となる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、ニューラルネットワークのモデル化に用いたデータの範囲外のデータが入力された場合であっても、ニューラルネットワークの出力因子に基づく推定値の精度の信頼度を直ちに算出することができる信頼度評価装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の信頼度評価装置は、ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を評価する信頼度評価装置であって、前記ニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって該所定の対象から測定された所定の測定値と該ニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報記録部と、
前記ニューラルネットワークに診断させる診断情報であって前記所定の対象から測定された所定の測定値を記録した診断情報記録部と、前記学習情報記録部に記録された所定の測定値と所定の出力因子とを入力して、前記ニューラルネットワークに学習させる学習手段と、前記学習情報記録部に記録された所定の測定値に基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求めるローディング行列算出手段と、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値を前記学習手段により学習させたニューラルネットワークへ入力して、診断結果としての所定の出力因子を出力させる診断手段と、前記診断手段により出力された所定の出力因子に基づき、所定の推定値を算出する推定値算出手段と、前記ローディング行列算出手段により算出されたローディング行列と前記学習情報記録部に記録された所定の測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列を求め該スコア行列からHotellingのT統計量を算出し、該所定の測定値から二乗予測誤差であるQ統計量を求める統計量算出手段と、前記統計量算出手段により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、前記推定値算出手段により算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度を算出する推定信頼度算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
ここで、この発明の信頼度評価装置において、前記所定の対象は油入電気機器であって前記所定の推定値は油入電気機器の余寿命であり、前記所定の測定値は油入電気機器の絶縁油中に含まれる劣化指標と、油入電気機器の運転状態と、油入電気機器の設計諸元とを含み、前記所定の出力因子は油入電気機器の絶縁紙の平均重合度とすることができる。
【0008】
ここで、この発明の信頼度評価装置において、前記油入電気機器は油入変圧器であり、前記劣化指標はフルフラール量とCO+COとを含み、前記運転状態は絶縁油の交換履歴を含み、前記設計諸元は絶縁紙の量と絶縁油の量とを含むことができる。
【0009】
この発明の信頼度評価プログラムは、ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を評価する信頼度評価装置が実行する信頼度評価プログラムであって、該ニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって該所定の対象から測定された所定の測定値と該ニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報記録部と、該ニューラルネットワークに診断させる診断情報であって該所定の対象から測定された所定の測定値を記録した診断情報記録部とを用い、該信頼度評価装置のコンピュータを、前記学習情報記録部に記録された所定の測定値と所定の出力因子とを入力して、前記ニューラルネットワークに学習させる学習手段、前記学習情報記録部に記録された所定の測定値に基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求めるローディング行列算出手段、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値を前記学習手段により学習させたニューラルネットワークへ入力して、診断結果としての所定の出力因子を出力させる診断手段、前記診断手段により出力された所定の出力因子に基づき、所定の推定値を算出する推定値算出手段、前記ローディング行列算出手段により算出されたローディング行列と前記学習情報記録部に記録された所定の測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列を求め該スコア行列からHotellingのT統計量を算出し、該所定の測定値から二乗予測誤差であるQ統計量を求める統計量算出手段、前記統計量算出手段により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、前記推定値算出手段により算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度を算出する推定信頼度算出手段として機能させるための信頼度評価プログラムである。
【0010】
ここで、この発明の信頼度評価プログラムにおいて、前記所定の対象は油入電気機器であって前記所定の推定値は油入電気機器の余寿命であり、前記所定の測定値は油入電気機器の絶縁油中に含まれる劣化指標と、油入電気機器の運転状態と、油入電気機器の設計諸元とを含み、前記所定の出力因子は油入電気機器の絶縁紙の平均重合度とすることができる。
【0011】
この発明の信頼度評価方法は、ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を信頼度評価装置に評価させる信頼度評価方法であって、該ニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって該所定の対象から測定された所定の測定値と該ニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報記録部と、該ニューラルネットワークに診断させる診断情報であって該所定の対象から測定された所定の測定値を記録した診断情報記録部とを用い、該信頼度評価装置のコンピュータが、前記学習情報記録部に記録された所定の測定値と所定の出力因子とを入力して、前記ニューラルネットワークに学習させる学習ステップと、前記学習情報記録部に記録された所定の測定値に基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求めるローディング行列算出ステップと、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値を前記学習ステップで学習させたニューラルネットワークへ入力して、診断結果としての所定の出力因子を出力させる診断ステップと、前記診断ステップで出力された所定の出力因子に基づき、所定の推定値を算出する推定値算出ステップと、前記ローディング行列算出ステップで算出されたローディング行列と前記学習情報記録部に記録された所定の測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列を求め該スコア行列からHotellingのT統計量を算出し、該所定の測定値から二乗予測誤差であるQ統計量を求める統計量算出ステップと、前記統計量算出ステップで求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、前記推定値算出ステップで算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度を算出する推定信頼度算出ステップとを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、この発明の信頼度評価方法において、前記所定の対象は油入電気機器であって前記所定の推定値は油入電気機器の余寿命であり、前記所定の測定値は油入電気機器の絶縁油中に含まれる劣化指標と、油入電気機器の運転状態と、油入電気機器の設計諸元とを含み、前記所定の出力因子は油入電気機器の絶縁紙の平均重合度とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の信頼度評価装置等によれば、絶縁油の分析結果に加えて、運転履歴、保守履歴、設計諸元を用いるニューラルネットワークを利用することにより精度良く平均重合度を推定する際、統計量算出部が、モデル作成に用いたデータの振幅(平均値からの変動)と比較してどれだけ外れているかを表す指標であるHotellingのT統計量と、モデル作成に用いたデータの変数間の相関に対して余寿命推定対象の油入変圧器のデータがこの相関からどれだけ外れているかを表す指標であるQ統計量とを算出する。推定信頼度算出部は、統計量算出部により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、推定値算出部により算出された油入変圧器の余寿命の信頼度を評価する推定信頼度を算出する。所定の関数はモデル作成に用いたデータからの乖離度合いを表すHotellingのT統計量とQ統計量とを用いて与えられる。油入変圧器の余寿命推定は多数の因子を用いて余寿命推定が行われるため、油入変圧器の余寿命推定結果に対する信頼度をHotellingのT統計量およびQ統計量の2つ統計的データだけを用いた推定信頼度により容易に判断を行うことができる。
【0014】
以上より、ニューラルネットワークのモデル化に用いたデータの範囲外のデータが入力された場合であっても、ニューラルネットワークの出力因子に基づく推定値、即ち油入変圧器の余寿命推定値の精度の信頼度を直ちに算出することができるという効果がある。さらに、推定信頼度算出部が推定信頼度を算出することにより、ニューラルネットワークの外挿問題を事前に判定することができる。このため、余寿命の推定結果の信頼性を高めることが可能となり、推定結果に対して安心感をユーザに与えることができる。加えて、上述したモデルの精度を高めていくために、学習に際してどのようなデータが必要かを提示することもできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】セルロースの化学構造式を示す図である。
【図2】日本電機工業会規格JEM1463−1993が定めている1000kVAを超える油入変圧器および油入リアクトルのコイル絶縁紙平均重合度の評価基準を示す図である。
【図3】フルフラール量と平均重合度との関係を示す(出典:電気共同研究 第54巻 第5号(その1))図である。
【図4】本発明の実施例1における信頼度評価装置10を示す図である。
【図5】ニューラルネットワーク部41の学習に用いた入力1および2の各データを示す図である。
【図6】ニューラルネットワーク部41による診断に用いた点AおよびBの各データを示す図である。
【図7】ニューラルネットワーク部41の学習結果と診断結果とを示す図である。
【図8】本発明の実施例1におけるコンピュータ11が実行する信頼度評価プログラムおよび信頼度評価方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】本発明のコンピュータ・プログラムを実行するコンピュータ11の内部回路50を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、各実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1では、本発明の信頼度評価装置等を油入電気機器の余寿命の推定値に対する評価へ適用した例について説明する。以下では、まず油入電気機器の劣化について概要を説明し、次に、本発明の信頼度評価装置等を適用する課題について具体的に示し、その後、本発明の信頼度評価装置等の適用例について具体的に説明する。
【0018】
一般に、油入電気機器に使われている材料としては、以下のようなものがある。
1)銅、アルミニウム等の導電材料
2)絶縁油、絶縁紙、プレスボード等の絶縁材料
3)珪素鋼帯の鉄心材料
4)鉄、ステンレス鋼等の構造材料
これらの材料の中で、油入電気機器、例えば油入変圧器内で経年劣化が認められるのは、絶縁油や絶縁紙等の絶縁材料である。
【0019】
絶縁油については、油劣化防止装置(開放型、空気密封型、窒素密封型等がある。)の働きもあり、劣化は非常に緩慢であり、重要な特性である絶縁破壊電圧の低下度は小さい。一方、絶縁紙については、経年劣化による絶縁破壊電圧の低下度は小さいが、機械的強度の低下度は大きい。即ち、経年劣化により紙がぼろぼろになる。絶縁紙の機械的強度の低下(劣化)が進行すると、突入電流や外部短絡時に発生する電磁力による機械的ストレスによって絶縁紙に亀裂や損壊が発生し、絶縁破壊する危険性が増大する。従って、油入電気機器の寿命は絶縁紙の機械的強度、特に、巻線導体絶縁紙の劣化度合いの影響を強く受ける。つまり、油入電気機器の余寿命とは、巻線導体絶縁紙の絶縁破壊、即ち、絶縁紙の劣化(重合度の低下)状態によって決定付けられると考えてよい。
【0020】
(1)絶縁紙の重合度
絶縁紙は、多数のセルロース分子が重合してできた重合体である。図1は、セルロースの化学構造式を示す。図1に示されるセルロースを構成する基本分子の数を重合度という。新品のクラフト紙の場合の重合度は、約1000である。この重合度は、絶縁紙が酸化劣化するとセルロース分子の鎖が切断されることにより、セルロース分子の低分子量化、即ち平均重合度の低下が起きる。例えば、30年間使用した変圧器では、平均重合度が初期値の約40〜60%(重合度400〜600)に減少すると言われている。
【0021】
(2)油入変圧器の寿命
図2は、日本電機工業会規格JEM1463−1993が定めている1000kVAを超える油入変圧器および油入リアクトルのコイル絶縁紙平均重合度の評価基準を示す。図2に示されるように、重合度450は変圧器が絶縁紙の劣化によって、その信頼度が低下し、更新が必要であると判断される寿命レベルであり、重合度250は絶縁紙そのものの機械的強度が消失しており、絶縁紙としての形状を保持できない危険レベルである。一般的には、この日本電機工業会規格JEM1463−1993に従い、重合度450となると思われる時点を油入変圧器の寿命と定義されている。
【0022】
(3)現状の油入変圧器劣化診断方法
変圧器の寿命診断では、コイル絶縁紙の劣化度を推定することが必要となる。しかし、稼動中の変圧器のコイル絶縁紙引張り強さや平均重合度は、コイル絶縁紙を簡単に採取することができないため、測定が困難である。そこで、変圧器内部の採取可能な絶縁物(プレスボード、リード絶縁紙)の平均重合度や、絶縁紙の分解過程における生成物である芳香族アルデヒドの一種であるフルフラール(furfural)やCO+CO量を測定し、これらの結果を用いた劣化診断が行われている(例えば電気学会技術報告 第922号「経年変圧器の信頼性維持技術の現状と動向」、電気共同研究第54巻第5号(その1)を参照)。以下、代表的な油入変圧器劣化診断方法について説明する。
【0023】
1)重合度法
運転停止中の点検時等に、変圧器内部から絶縁に影響が無い部分のプレスボードやリード絶縁紙を採取して、絶縁紙の劣化度を診断する方法を「重合度法」という。重合度法は、採取した絶縁紙の重合度から巻線コイルの最も温度が高い箇所(ホットスポット部分)のコイル絶縁紙の劣化度を推定し、寿命を予測する方法である。
【0024】
2)CO+CO法
絶縁紙は劣化によって、水やCO、CO等の種々の有機成分を生成する。劣化指標として有効な成分には、平均重合度とも相関性があるCO+CO、フルフラール等がある。CO+CO法では、油中ガス分析を行い、絶縁紙の最終的な劣化生成物であるCO+CO量から平均重合度を推定し劣化診断を行う。
【0025】
3)フルフラール法
セルロースの分解過程でアルデヒド成分のフルフラールが生成される。絶縁油の脱気処理を行ってもフルフラールの85%が絶縁油中に残り、気体中に拡散しない。絶縁紙への吸着率は温度に依存せず、約85%と一定であるため、CO+CO法と比較して精度の高い診断が可能であると言われている。図3は、フルフラール量と平均重合度との関係を示す(出典:電気共同研究 第54巻 第5号(その1))。図3で、横軸は平均重合度残率(%)、縦軸はフルフラール量(mg/g)であり、黒丸印が実器の値を示し、斜線部分が実験値を示す。フルフラール法では、測定したフルフラール量から図3に示した関係に従って平均重合度残率を求める。しかし、図3に示されるように、測定したフルフラール量に対して平均重合度残率にかなり幅(約20%)があるため、劣化度合いの診断結果も大きな幅を持つこととなり、高精度での寿命推定は非常に困難である。
【0026】
上述した従来の油入変圧器劣化診断方法の問題点を纏めると、以下のようになる。1)重合度法は、油入電気機器の劣化度合いを表す絶縁紙の平均重合度を直接採取して測定する方法である。しかし、機器の運転中には実施できず、運転を停止して行わなければならないという問題があった。2)CO+CO法、3)フルフラール法では、推定した重合度の値に大きな幅があり、精度の良い劣化診断は困難である。例えば、図3に示したフルフラール法では、測定した油入機器のフルフラール量に対する平均重合度残率で約20%の幅がある。これは油入電気機器の運転状態や設計諸元等の違いによって、平均重合度残率の値も影響を受けるためであると考えられる。以上のように、従来の油入変圧器劣化診断方法は、基本的には絶縁紙の劣化を表す単一の指標を用いて劣化診断を行うものであり、運転状態や設計諸元などを総合的に判断する手法ではないという問題があった。
【0027】
4)ニューラルネットワーク法(特開2006−308515参照)
上述した問題を解決するための発明が特開2006−308515に示されている。特開2006−308515に示される発明では、絶縁油中のフルフラール量、二酸化炭素および一酸化炭素の量、水分量、酸素量、水素量の各測定値、油入電気機器の運転履歴、保守履歴、および油入電気機器の設計諸元の全てまたは一部の組み合わせを入力因子群とし、絶縁紙の平均重合度を出力因子として、平均重合度推定モデルの同定または学習を行うことにより、異なる平均重合度推定モデルを複数構築している。診断対象である油入電気機器の上記入力因子群を上記平均重合度推定モデルに入力して、得られた複数の平均重合度推定値を加工し、絶縁紙の最終的な平均重合度を推定している。特開2006−308515に示される発明によれば、従来、単独に用いられていたフルフラール量や二酸化炭素および一酸化炭素の量だけでなく、その他の測定値、機器の運転履歴、保守履歴、設計諸元等の絶縁紙の劣化に関連がある要因を総合的に考慮することができるというものであり、実際にフィールドにおいて油入電気器の余寿命診断に活用されている。特開2006−308515に示される発明では、上記平均重合度推定モデルとしてニューラルネットワークを用いているが、上述したニューラルネットワークにおける外挿問題は解決されずに残されていた。本願発明の実施例1における信頼度評価装置等を適用する課題は、ニューラルネットワークを用いて油入電気機器の余寿命を推定する際における外挿問題を解決することである。以下では、本発明の実施例1における信頼度評価装置等の適用例について具体的に説明する。
【0028】
図4は、本発明の実施例1における信頼度評価装置10を示す。信頼度評価装置10はニューラルネットワークを用いて求められた、油入電気機器(所定の対象)の余寿命の推定値(所定の推定値)の信頼度を評価する装置である。以下では油入電気機器として油入変圧器を例にとり説明するが、油入電気機器は油入変圧器に限定されるものではない。図4において、符号11は本発明の信頼度評価プログラムが実装されたコンピュータ、12は後述する種々の出力値を適宜表示する、コンピュータ11のディスプレイ等の表示部、20は信頼度評価装置10の機能を示す機能ブロック、30はニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって油入変圧器(不図示)から測定された所定の測定値とニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報データベース(DB)(学習情報記録部)、31はニューラルネットワークに診断させる診断情報であって油入変圧器から測定された所定の測定値を記録した診断情報DB(診断情報記録部)、40はニューラルネットワーク部41を記録した記録装置である。学習情報DB30、診断情報DB31、記録装置40はコンピュータ11に接続されており、機能ブロック20に示される各機能はコンピュータ11が実行する信頼度評価プログラムとして記録装置40等に記録されている。以上の全体により、信頼度評価装置10が構成されている。
【0029】
(1)過去の実測データ入力
油入変圧器の絶縁紙の平均重合度推定用ニューラルネットワーク部41を構築するために、ニューラルネットワーク部41に対する学習情報として、過去に実測した油入変圧器の実測データ(入力因子。所定の測定値)を入力する。データ収集の項目は、絶縁油を分析して得られる各種劣化指標(例えば、フルフラール量、CO+CO量、水分量、酸素量、水素量等が好適である。)と、当該油入変圧器の運転状態(例えば、平均負荷率、絶縁油の交換履歴、絶縁油の脱気処理履歴等が好適である。)と、油入変圧器の設計諸元(例えば、絶縁油劣化防止方式、冷却方式、絶縁紙の量、絶縁油の量等が好適である。)と、上記実測データに対してニューラルネットワーク部41に学習させる答となる絶縁紙の平均重合度(ニューラルネットワーク部41の出力。所定の出力因子)である。
【0030】
(2)平均重合度推定モデルの構築
図4に示される学習部(学習手段)21は、学習情報DB30に記録された上記実測データと絶縁紙の平均重合度とを入力して、ニューラルネットワーク部41に学習させる。即ち、上述した(1)に示されるような入力された実測データを用いて平均重合度推定モデルを構築する。平均重合度推定モデルとしては、上述したようにニューラルネットワークを用いる。ニューラルネットワークとしては、背景技術で説明した階層型ニューラルネットワークが好適であるが、これに限定されるものではなく、例えば非特許文献1に示される種々のニューラルネットワークを用いればよい。ニューラルネットワーク部41はハードディスク等の記録装置40に記録されており、学習した結合荷重等のパラメータが記録されている。学習中および後述する診断中にはRAM53(後述)にロードされて用いられる。以下では特に明記しない限り、ニューラルネットワーク部41はRAM53にロードされている状態とする。
【0031】
(3)データ範囲モデル構築
図4に示されるローディング行列算出部(ローディング行列算出手段)22は、学習情報DB30に記録された上記実測データに基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求める。即ち、上述した(1)で入力された実測データに対し、多変量解析の一手法である主成分分析を用いて少数の統計的データに集約するモデル(ローディングベクトルで構成される係数行列P)を算出する。主成分分析は多数の変数から、変数間の相関を自動的に集約するものである。主成分分析およびローディング行列Pについては、非特許文献2〜4を参照されたい。以下、非特許文献2〜4を適宜参照して説明する。
【0032】
K個の変数{x,・・・,x}の一次結合yが式1で与えられる場合、
【0033】
【数1】

【0034】
の分散がx(k=1,...,K)の一次式の持つ分散の中で最大であるとき、yを第1主成分と呼ぶ。ここで、ωK1(k=1,...,K)は結合係数と呼ばれる。最大の分散の求め方に関しては非特許文献2〜4を参照されたい。今、K個の変数(上述した入力因子および出力因子の数)についてM個の油入変圧器に対するサンプルがある場合、測定値{xmk}(m=1,...,M;k=1,...,K)からなるデータ行列を式2で示されるXとする。結合係数ωK1(k=1,...,K)は式3で示す。
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
即ち、データ行列Xは上述した入力因子および出力因子を1組としてMサンプル分のデータとしている。ここで、式4で示されるm番目のサンプルX
【0038】
【数4】

【0039】
に対応する式5で示される第1主成分yの値tm1
【0040】
【数5】

【0041】
を第1主成分得点と呼ぶ。M個のサンプルに対応する第1主成分得点を式6で示されるようにtとおくと、式7のようになる。
【0042】
【数6】

【0043】
【数7】

【0044】
第2主成分以下も同様に求められる。ここで、第R主成分まで考慮し、主成分得点からなるスコア行列(score matrix)tを式8で示されるように、
【0045】
【数8】

【0046】
とし、結合係数からなるローディング行列(loading matrix)Pを式9で示されるように、
【0047】
【数9】

【0048】
とすると、式10のようになる。
【0049】
【数10】

【0050】
説明の便宜上、式10まで述べたが、式10は後半で用いる。ローディング行列算出部22は式9で示されるローディング行列Pを算出する。
【0051】
(4)診断対象のデータ入力および平均重合度推定
図4に示される診断部(診断手段)23は、診断情報DB31に記録された実測データを学習部21により学習させたニューラルネットワーク部41へ入力して、診断結果として油入変圧器の絶縁紙の平均重合度を出力させる。診断部23は診断対象の油入変圧器について、該当する入力因子を学習済みのニューラルネットワーク部41に入力する。具体的には、絶縁油を分析して得られる各種劣化指標(例えば、フルフラール量、CO+CO量、水分量、酸素量、水素量等が好適である。)と、当該油入変圧器の運転状態(例えば、平均負荷率、絶縁油の交換履歴、絶縁油の脱気処理履歴等が好適である。)と、油入変圧器の設計諸元(例えば、絶縁油劣化防止方式、冷却方式、絶縁紙の量、絶縁油の量等が好適である。)等の、上述した(2)平均重合度推定モデルの構築で用いた入力因子について、ニューラルネットワーク部41にデータを入力する。その後、診断部23は上記入力した実測データに対応する平均重合度をニューラルネットワーク部41を用いて算出し、出力する。
【0052】
(5)余寿命推定
図4に示される推定値算出部(推定値算出手段)24は、診断部23により出力された平均重合度に基づき、油入変圧器の余寿命を算出する。余寿命の算出は、図2に示した平均重合度の寿命レベルと定義されている平均重合度450になる時点を寿命時点と考え、現時点から寿命時点までの年数を余寿命とする。具体的には、広く用いられている以下の式11で示される方法を採用した(「工場電気設備の診断・更新技術」、電気学会技術報告、第831号(2001)、第33頁を参照)。
【0053】
【数11】

【0054】
ここで、nは運転年数(年)、DPは運転年数n年後の平均重合度、DPは初期の重合度、rは定数(寿命低下率)である。まず、式11に各々以下の値を代入して寿命低下率rを求める。運転年数n年後の平均重合度DPには上述した(4)で求めた平均重合度(推定値)を、初期の平均重合度DPには1000を、運転年数nには変圧器の導入から現時点までの運転年数を、各々代入して寿命低下率rを求める。次に、運転年数n年後の平均重合度DPに図2に示される寿命レベルを表す450を、初期の平均重合度DPに上述した(4)で求めた平均重合度(推定値)を、寿命低下率rに上述のように算出したrを各々代入し、寿命となる運転年数nを求める。
【0055】
(7)推定結果信頼度の計算
上述した(3)で構築したデータ範囲モデルを用いて、推定結果の信頼度を計算する。データ範囲モデルを用いて、上述した(4)で入力した入力データ(式2で示されるデータ行列X)を式10に示されるように少数の統計的データ(スコアベクトル)に集約する。さらにこれからHotellingのT統計量およびQ統計量の2つの指標に集約する。
【0056】
図4に示される統計量算出部(統計量算出手段)25は、ローディング行列算出部22により算出されたローディング行列Pと学習情報DB30に記録された測定値とに基づき、式10に示されるように主成分得点からなるスコア行列tを求める。次に、スコア行列tから、第1主成分から第R主成分までの主成分得点の標準偏差σを求める。さらに、以下の式12よりローディング行列Pと診断情報DB31に記録された推定対象となる測定値X(1行×K列)とから、推定対象の第1主成分から第R主成分までの主成分得点t’(1行×R列)を求める。求められた標準偏差σと推定対象の主成分得点t’とから式13で示されるHotellingのT統計量を算出する。
【0057】
【数12】

【0058】
【数13】

【0059】
続いて、統計量算出部25は上記測定値から二乗予測誤差であるQ統計量を求める。式14にQ統計量を示す。
【0060】
【数14】

【数15】

【0061】
ここで、式14の第1項のxは診断情報DB31に記録された診断対象となる測定値であり、第2項のx^(ここでは表記の都合上、記号「^」は式15のようにxの上部ではなく、隣に表記している。以下、文中では同様に表記する。)はローディング行列Pと推定対象となる測定値とから求められる推定値である。なお、k=1からk=Kまでの各推定値x^からなる行列はX^と表記し、式15によって求めることができる。式13で示されるHotellingのT統計量は、モデル作成に用いたデータの振幅(平均値からの変動)と比較してどれだけ外れているかを表す指標である。式14で示されるQ統計量は、モデル作成に用いたデータの変数間の相関に対して余寿命推定対象の油入変圧器のデータがこの相関からどれだけ外れているかを表す指標である。油入変圧器の余寿命推定は多数の因子を用いて余寿命推定が行われるため、油入変圧器の余寿命推定結果をHotellingのT統計量およびQ統計量の2つ統計的データだけを用いて容易に判断を行うことができる。
【0062】
図4に示される推定信頼度算出部(推定信頼度算出手段)26は、統計量算出部25により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、推定値算出部24により算出された油入変圧器の余寿命の信頼度を評価する推定信頼度ERを算出する。所定の関数はモデル作成に用いたデータからの乖離度合いを表すHotellingのT統計量とQ統計量とを用いて、式16のように与えられる。
【0063】
【数16】

【0064】
f(Q、T)としては例えば以下の式17〜20に示されるような種々の計算式が考えられる。式17〜20ではHotellingのT統計量とQ統計量とが大きいほど、推定信頼度ERは大きくなる。この場合、推定信頼度ERが小さいほど推定結果の信頼性は高くなると考えられる。これとは逆に、HotellingのT統計量とQ統計量とが小さいほど、推定信頼度ERが大きくなる式を用いてもよい。この場合、推定信頼度ERが大きいほど推定結果の信頼性は高くなると考えられる。
【0065】
【数17】

【0066】
図5〜図7は、本発明の実施例1における信頼度評価装置10を用いて実験した結果を示す。説明の便宜上、入力した測定値は2つ(入力1および2)とした。図5はニューラルネットワーク部41の学習に用いた入力1および2の各データを示す。図6はニューラルネットワーク部41による診断に用いた点AおよびB(後述)の各データを示す。図7はニューラルネットワーク部41の学習結果と診断結果とを示す。図7で、横軸は入力1、縦軸は入力2、菱形印はニューラルネットワーク部41の学習データ、三角印は点A(未学習の予測に用いるデータであって、学習データの範囲内のデータ)、丸印は点B(未学習の予測に用いるデータであって、学習データの範囲外のデータ)である。図7に示される学習の結果では、Q統計量の最大値は0.634556となり、HotellingのT統計量の最大値は4.625113となった。学習データの範囲内のデータである点Aについては、図6および図7に示されるように、Q統計量は0.0187となり、HotellingのT統計量は0.6984となった。一方、学習データの範囲外のデータである点Bについては、図6および図7に示されるように、Q統計量は2.165となり、HotellingのT統計量は2.5955となった。推定信頼度ERとしてはHotellingのT統計量とQ統計量とが小さいほど、推定信頼度ERが大きくなる式を用いた。この場合、推定信頼度ERが小さいほど推定結果の信頼性は高くなると考えられる。予測結果である点Aに対する推定信頼度ERは予測結果である点Bに対する推定信頼度より小さいため、予測結果である点Aに対する信頼性は高く、一方予測結果である点Bに対する信頼性は低い。このように、油入変圧器の余寿命推定結果に対する信頼度をHotellingのT統計量およびQ統計量の2つの統計的データだけを用いた推定信頼度ERにより容易に判断を行うことができる。言い換えれば、上述したモデルの精度を高めていくために、点Bのようなデータが学習に際して必要であることを提示することもできる。
【0067】
図8は、本発明の実施例1におけるコンピュータ11が実行する信頼度評価プログラムおよび信頼度評価方法の処理の流れをフローチャートで示す。図8に示されるように、学習情報DB30に記録された測定値と出力因子とを入力して、ニューラルネットワーク部41に学習させる(学習ステップ。ステップS10)。学習情報DB30に記録された測定値に基づき、主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列Pを求める(ローディング行列算出ステップ。ステップS12)。診断情報DB31に記録された測定値を学習ステップ(ステップS10)で学習させたニューラルネットワーク部41へ入力して、診断結果としての出力因子を出力させる(診断ステップ。ステップS14)。診断ステップ(ステップS14)で出力された出力因子に基づき、油入変圧器の余寿命の推定値を算出する(推定値算出ステップ。ステップS16)。ローディング行列算出ステップ(ステップS12)で算出されたローディング行列Pと学習情報DB30に記録された測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列tを求め、ローディング行列Pと診断情報DB31に記録された推定対象の測定値Xとから、推定対象の第1主成分から第R主成分までの主成分得点t’を求め、このスコア行列tと主成分得点t’とからHotellingのT統計量を算出し、診断情報DB31に記録された推定対象の測定値Xと予測モデル内部において変換された推定値X^とから二乗予測誤差であるQ統計量を求める(統計量算出ステップ。ステップS18)。統計量算出ステップ(ステップS18)で求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、推定値算出ステップ(ステップS16)で算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度ERを算出する(推定信頼度算出ステップ。ステップS20)。
【0068】
以上のように、本発明の実施例1によれば、絶縁油の分析結果に加えて、運転履歴、保守履歴、設計諸元を用いるニューラルネットワーク部41を利用することにより精度良く平均重合度を推定する際、統計量算出部25は、ローディング行列算出部22により算出されたローディング行列Pと学習情報DB30に記録された測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列tを求める。次に、スコア行列tから、第1主成分から第R主成分までの主成分得点の標準偏差σを求める。さらに、式12よりローディング行列Pと推定対象となる測定値Xとから、推定対象の第1主成分から第R主成分までの主成分得点t’を求める。求められた標準偏差σと推定対象の主成分得点t’とから式13で示されるHotellingのT統計量を算出する。HotellingのT統計量は、モデル作成に用いたデータの振幅(平均値からの変動)と比較してどれだけ外れているかを表す指標である。続いて、統計量算出部25は診断情報DB31に記録された推定対象の測定値Xと予測モデル内部において変換された推定値X^とから二乗予測誤差であるQ統計量(式14)を求める。Q統計量は、モデル作成に用いたデータの変数間の相関に対して余寿命推定対象の油入変圧器のデータがこの相関からどれだけ外れているかを表す指標である。推定信頼度算出部26は、統計量算出部25により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、推定値算出部24により算出された油入変圧器の余寿命の信頼度を評価する推定信頼度ERを算出する。所定の関数はモデル作成に用いたデータからの乖離度合いを表すHotellingのT統計量とQ統計量とを用いて、式16のように与えられる。油入変圧器の余寿命推定は多数の因子を用いて余寿命推定が行われるため、油入変圧器の余寿命推定結果に対する信頼度をHotellingのT統計量およびQ統計量の2つ統計的データだけを用いた推定信頼度ERにより容易に判断を行うことができる。以上より、ニューラルネットワーク部41のモデル化に用いたデータの範囲外のデータ(例えば図7に示される点B)が入力された場合であっても、ニューラルネットワーク部41の出力因子に基づく推定値、即ち油入変圧器の余寿命推定値の精度の信頼度を直ちに算出することができる。
【0069】
本発明の実施例1における信頼度評価装置10は、絶縁油の分析結果に加えて、運転履歴、保守履歴、設計諸元を用いるニューラルネットワーク部41を利用することにより精度良く平均重合度を推定する際、推定信頼度算出部26が推定信頼度ERを算出することにより、ニューラルネットワークの外挿問題を事前に判定することができる。このため、余寿命の推定結果の信頼性を高めることが可能となり、推定結果に対して安心感をユーザに与えることができる。加えて、上述したモデルの精度を高めていくために、学習に際してどのようなデータが必要かを提示することもできる。
【実施例2】
【0070】
上述した実施例1では、本発明の信頼度評価装置10等を油入変圧器の余寿命の推定結果における信頼度の評価に対して適用した。別の適用対象として、例えば以下の対象が考えられる。
(1)複数箇所の雨量データを用いて下流の流量を予測する流量予測装置における、予測された流量の信頼度の評価
(2)下水ポンプ場または終末処理場のポンプ施設へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置、における予測された流入量の信頼度の評価
(3)空調負荷実績データ、気象データ、カレンダデータおよび空調機器稼働スケジュールデータを入力因子とする予測モデルを用いて空調負荷の予測を行う空調負荷予測方法、における予測された空調負荷の信頼度の評価
(4)エネルギー需要の予測を行うためのエネルギー需要予測方法、における予測されたエネルギー需要の信頼度の評価
(5)対象プラントの電力負荷、熱負荷、空気負荷等の各種負荷を予測するプラント負荷の予測方法、における予測された各種負荷の信頼度の評価
(6)自流式ダムの水力発電量予測方法、における予測された水力発電量の信頼度の評価
(7)電力需要量を予測する電力需要量予測方法、における予測された電力需要量の信頼度の評価
その他、本発明の信頼度評価装置10等は種々の予測値に対する信頼度の評価に対して適用することができる。
【実施例3】
【0071】
図9は、上述した各実施例を実現するための本発明のコンピュータ・プログラム(信頼度評価プログラム)を実行するコンピュータ11の内部回路50を示すブロック図である。図9に示されるように、CPU51、ROM52、RAM53、画像制御部56、コントローラ57、入力制御部59および入出力I/F(インタフェース)部61はバス62に接続されている。図9において、上述の本発明のコンピュータ・プログラムは、ROM52、HD等の記録装置58a、またはDVD若しくはCD−ROM58n等の記録媒体(脱着可能な記録媒体を含む)に記録されている。記録装置58aには上述した学習情報DB30、診断情報DB31、ニューラルネットワーク部41等が記録されている。本発明のコンピュータ・プログラムは、ROM52からバス62を介し、あるいは記録装置58aまたはDVD若しくはCD−ROM58n等の記録媒体からコントローラ57を経由してバス62を介しRAM53へロードされる。入力制御部59は、マウス、テンキー等の入力操作部60と接続され入力制御等を行う。画像メモリであるVRAM55はコンピュータ11の表示部12の少なくとも一画面分のデータ容量に相当する容量を有しており、画像制御部56はVRAM55のデータを画像データへ変換して表示部12へ送出する機能を有している。入出力I/F部61は入出力インタフェース機能を有している。
【0072】
上述のようにCPU51が本発明のコンピュータ・プログラムを実行することにより、本発明の目的を達成することができる。当該コンピュータ・プログラムは上述のようにDVDまたはCD−ROM58n等の記録媒体の形態でコンピュータCPU51に供給することができ、当該コンピュータ・プログラムを記録したDVDまたはCD−ROM58n等の記録媒体も同様に本発明を構成することになる。当該コンピュータ・プログラムを記録した記録媒体としては上述された記録媒体の他に、例えばメモリ・カード、メモリ・スティック、光ディスク、FD等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の活用例として、油入変圧器の余寿命の推定結果における信頼度の評価に対して適用することができる。その他、(1)複数箇所の雨量データを用いて下流の流量を予測する流量予測装置における、予測された流量の信頼度の評価、(2)下水ポンプ場または終末処理場のポンプ施設へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置、における予測された流入量の信頼度の評価、(3)空調負荷実績データ、気象データ、カレンダデータおよび空調機器稼働スケジュールデータを入力因子とする予測モデルを用いて空調負荷の予測を行う空調負荷予測方法、における予測された空調負荷の信頼度の評価、(4)エネルギー需要の予測を行うためのエネルギー需要予測方法、における予測されたエネルギー需要の信頼度の評価、(5)対象プラントの電力負荷、熱負荷、空気負荷等の各種負荷を予測するプラント負荷の予測方法、における予測された各種負荷の信頼度の評価、(6)自流式ダムの水力発電量予測方法、における予測された水力発電量の信頼度の評価、(7)電力需要量を予測する電力需要量予測方法、における予測された電力需要量の信頼度の評価等の種々の予測値に対する信頼度の評価に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 信頼度評価装置、 11 コンピュータ、 12 表示部、 20 機能ブロック、 21 学習部、 22 ローディング行列算出部、 23 診断部、 24 推定値算出部、 25 統計量算出部、 26 推定信頼度算出部、 30 学習情報DB、 31 診断情報DB、 40 記録装置、 41 ニューラルネットワーク部、
50 内部ブロック、 51 CPU、 52 ROM、 53 RAM、 54 表示部、 55 VRAM、 56 画像制御部、 57 コントローラ、 58a 記録装置、 58n 記録媒体、 59 入力制御部、 60 入力操作部、 61 入出力I/F部、 62 バス。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0075】
【非特許文献1】「ニューラルネットワーク計算知能、渡辺 桂吾著、森北出版株式会社発行、2006年9月5日。
【非特許文献2】「独立成分分析 信号解析の新しい世界」、Aapo Hyvarinen,Juha Karhunnenn, Erkki Oja著、根本 幾、川勝真喜訳、東京電機大学出版局発行、2005年2月10日。
【非特許文献3】「化学者のための多変量解析−ケモメトリックス入門−」、尾崎幸洋、宇田明史、赤井俊雄著、株式会社講談社サイエンティフィック発行、2007年7月10日。
【非特許文献4】“主成分分析”、[online]、加納 学、京都大学大学院工学研究科化学工学専攻プロセスシステム工学研究室[平成22年2月15日検索]、インターネット、<URL: http://www.pse.cheme.kyoto-u.ac.jp/~kano/document/text-PCA.pdf>。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を評価する信頼度評価装置であって、
前記ニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって該所定の対象から測定された所定の測定値と該ニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報記録部と、
前記ニューラルネットワークに診断させる診断情報であって前記所定の対象から測定された所定の測定値を記録した診断情報記録部と、
前記学習情報記録部に記録された所定の測定値と所定の出力因子とを入力して、前記ニューラルネットワークに学習させる学習手段と、
前記学習情報記録部に記録された所定の測定値に基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求めるローディング行列算出手段と、
前記診断情報記録部に記録された所定の測定値を前記学習手段により学習させたニューラルネットワークへ入力して、診断結果としての所定の出力因子を出力させる診断手段と、
前記診断手段により出力された所定の出力因子に基づき、所定の推定値を算出する推定値算出手段と、
前記ローディング行列算出手段により算出されたローディング行列と前記学習情報記録部に記録された所定の測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列を求め、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値と前記ローディング行列と前記スコア行列とからHotellingのT統計量を算出し、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値と前記ローディング行列とから二乗予測誤差であるQ統計量を求める統計量算出手段と、
前記統計量算出手段により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、前記推定値算出手段により算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度を算出する推定信頼度算出手段とを備えたことを特徴とする信頼度評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の信頼度評価装置において、
前記所定の対象は油入電気機器であって前記所定の推定値は油入電気機器の余寿命であり、
前記所定の測定値は油入電気機器の絶縁油中に含まれる劣化指標と、油入電気機器の運転状態と、油入電気機器の設計諸元とを含み、
前記所定の出力因子は油入電気機器の絶縁紙の平均重合度であることを特徴とする信頼度評価装置。
【請求項3】
請求項2記載の信頼度評価装置において、前記油入電気機器は油入変圧器であり、前記劣化指標はフルフラール量とCO+COとを含み、前記運転状態は絶縁油の交換履歴を含み、前記設計諸元は絶縁紙の量と絶縁油の量とを含むことを特徴とする信頼度評価装置。
【請求項4】
ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を評価する信頼度評価装置が実行する信頼度評価プログラムであって、該ニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって該所定の対象から測定された所定の測定値と該ニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報記録部と、該ニューラルネットワークに診断させる診断情報であって該所定の対象から測定された所定の測定値を記録した診断情報記録部とを用い、該信頼度評価装置のコンピュータを、
前記学習情報記録部に記録された所定の測定値と所定の出力因子とを入力して、前記ニューラルネットワークに学習させる学習手段、
前記学習情報記録部に記録された所定の測定値に基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求めるローディング行列算出手段、
前記診断情報記録部に記録された所定の測定値を前記学習手段により学習させたニューラルネットワークへ入力して、診断結果としての所定の出力因子を出力させる診断手段、
前記診断手段により出力された所定の出力因子に基づき、所定の推定値を算出する推定値算出手段、
前記ローディング行列算出手段により算出されたローディング行列と前記学習情報記録部に記録された所定の測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列を求め、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値と前記ローディング行列と前記スコア行列とからHotellingのT統計量を算出し、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値と前記ローディング行列とから二乗予測誤差であるQ統計量を求める統計量算出手段、
前記統計量算出手段により求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、前記推定値算出手段により算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度を算出する推定信頼度算出手段として機能させるための信頼度評価プログラム。
【請求項5】
請求項4記載の信頼度評価プログラムにおいて、
前記所定の対象は油入電気機器であって前記所定の推定値は油入電気機器の余寿命であり、
前記所定の測定値は油入電気機器の絶縁油中に含まれる劣化指標と、油入電気機器の運転状態と、油入電気機器の設計諸元とを含み、
前記所定の出力因子は油入電気機器の絶縁紙の平均重合度であることを特徴とする信頼度評価プログラム。
【請求項6】
ニューラルネットワークを用いて求められた、所定の対象に対する所定の推定値の信頼度を信頼度評価装置に評価させる信頼度評価方法であって、該ニューラルネットワークの学習に用いる入力因子であって該所定の対象から測定された所定の測定値と該ニューラルネットワークの学習に用いる所定の出力因子とを記録した学習情報記録部と、該ニューラルネットワークに診断させる診断情報であって該所定の対象から測定された所定の測定値を記録した診断情報記録部とを用い、該信頼度評価装置のコンピュータが、
前記学習情報記録部に記録された所定の測定値と所定の出力因子とを入力して、前記ニューラルネットワークに学習させる学習ステップと、
前記学習情報記録部に記録された所定の測定値に基づき主成分分析を用いて主成分の結合係数からなるローディング行列を求めるローディング行列算出ステップと、
前記診断情報記録部に記録された所定の測定値を前記学習ステップで学習させたニューラルネットワークへ入力して、診断結果としての所定の出力因子を出力させる診断ステップと、
前記診断ステップで出力された所定の出力因子に基づき、所定の推定値を算出する推定値算出ステップと、
前記ローディング行列算出ステップで算出されたローディング行列と前記学習情報記録部に記録された所定の測定値とに基づき主成分得点からなるスコア行列を求め、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値と前記ローディング行列と前記スコア行列とからHotellingのT統計量を算出し、前記診断情報記録部に記録された所定の測定値と前記ローディング行列とから二乗予測誤差であるQ統計量を求める統計量算出ステップと、
前記統計量算出ステップで求められたHotellingのT統計量とQ統計量とに基づく所定の関数により、前記推定値算出ステップで算出された所定の推定値の信頼度を評価する推定信頼度を算出する推定信頼度算出ステップとを備えたことを特徴とする信頼度評価方法。
【請求項7】
請求項6記載の信頼度評価方法において、
前記所定の対象は油入電気機器であって前記所定の推定値は油入電気機器の余寿命であり、
前記所定の測定値は油入電気機器の絶縁油中に含まれる劣化指標と、油入電気機器の運転状態と、油入電気機器の設計諸元とを含み、
前記所定の出力因子は油入電気機器の絶縁紙の平均重合度であることを特徴とする信頼度評価方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−185880(P2011−185880A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53801(P2010−53801)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】