説明

修飾したヒト胸腺ストローマ細胞リンホポエチン

【課題】修飾したフューリン抵抗性ヒトTSLPポリペプチド、および修飾したヒトTSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有し、該配列の127−131の位置にあるフューリン開裂部位RRKRKを不活性化するように修飾され、かつ少なくとも1つのTSLP活性を有するポリペプチド、及び前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。前記ポリヌクレオチドを含む医薬組成物、B細胞およびT細胞活性化薬、並びに、患者に有効量の前記タンパク質を投与することを含む疾患の治療法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引照
本出願は、米国仮特許出願番号60/307,345(2001年7月23日出願)の優先権を主張し、その開示内容全体をよりどころとし、参考として援用する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は一般に、組換えタンパク質の発現に関する。より詳細には本発明は、哺乳動物細胞培養における分解に対して抵抗性である、修飾した組換えヒト胸腺ストローマ細胞リンホポエチン(thymic stromal lymphopoietin,TSLP)ポリペプチド、修飾TSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、ならびにTSLPの製造方法および使用に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の記載
胸腺ストローマ細胞リンホポエチン(TSLP)は、B細胞およびT細胞の発達と成熟の両方に不可欠な成長因子である。特にネズミTSLPはBリンパ球形成を支持し、B細胞増殖に必要である。ネズミTSLPは、T細胞受容体−ガンマ(TCRγ)遺伝子座の再配列の制御にも重要であり、胸腺細胞および成熟T細胞に対して実質的な刺激作用をもつ。たとえばFriend et al.,1994,Exp.Hematol.,22:321−328;Ray et al.,1996,Eur.J.Immunol.,26:10−16;Candeias et al.,1997,Immunology Letters,57:9−14参照。
【0004】
TSLPは、IL−7に類似するサイトカイン活性をもつ。たとえば、TSLPはB細胞増殖応答の刺激においてIL−7の代替となりうる(Friend et al.,前掲)。TSLPとIL−7は異なるメカニズムでそれらのリンパ球形成作用を仲介すると思われる。たとえばIL−7は、JAK1およびJAK3を含めたジャヌス(Janus)ファミリーのチロシンキナーゼを活性化し、STAT5(signal transducer and activator of transcription 5)タンパク質の活性を調節する。TSLPはSTAT5の活性を調節するが、ジャヌスファミリーのチロシンキナーゼメンバーのいずれも活性化しない(Levin et al.,1999,J.Immunol.,162:677−683)。TSLPおよびIL−7はターゲット細胞に対する類似の作用を仲介するが、それらは異なるシグナリング経路をもち、それらの生物学的応答は若干相異するとも思われる。
【0005】
免疫系の調節において、特にBおよびT細胞の増殖、発達および成熟の刺激においてTSLPが活性をもつことが知られていることから、この分子は魅力的な療法ツールとなっている。大量の活性ポリペプチドを産生する能力は、商業的なヒトTSLP製造に必須である。哺乳動物細胞発現系における組換えポリペプチドの産生は、商業的なヒト療法用途に最も一般的に用いられる。
【0006】
組換えhuTSLPポリペプチドは、WO 00/29581に記載されるように、哺乳動物細胞系を含めた多数の異なる発現系で発現されている。しかし、有用な量の活性huTSLPタンパク質を哺乳動物細胞において産生させるのは困難であった。特に、哺乳動物においてhuTSLPを発現させると分解生成物が得られることがしばしばある。代替ポリヌクレオチド分子、および有用な量の活性huTSLPポリペプチドの製造を達成する方法が求められている。
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
ヒトTSLPのアミノ酸配列はフューリン開裂部位を含むユニークアミノ酸配列を含有することが見いだされた。本発明に従ってフューリン開裂部位を不活性化するようにポリペプチドを修飾すると、修飾されたプロテアーゼ抵抗性huTSLPポリペプチドが得られる。これらは、哺乳動物細胞系での発現に際し、非修飾TSLPポリペプチドと比較して安定である。
【0008】
本発明の修飾したプロテアーゼ抵抗性ヒトTSLPポリペプチドには、後記の表1に示すように、SEQ ID NO:4のほぼアミノ酸残基127−131に位置するフューリン開裂部位RRKRKを変化させて不活性化するアミノ酸配列修飾を1以上もつものが含まれる。適切な修飾には、アミノ酸の置換、欠失、付加、またはこれらの組合わせであって、アミノ酸配列RRKRKを変化させてフューリン開裂部位パターンRXXRを撹乱するもの、特にパターンRX(R/K)Rを撹乱するものが含まれる。アミノ酸配列がこれらの修飾huTSLPポリペプチドに実質的に類似するポリペプチドおよびそのフラグメントであって、天然TSLPの望ましい活性を保持しかつプロテアーゼ抵抗性であるものも含まれる。1態様においては、huTSLPポリペプチドのアミノ酸配列から配列RKRKまたはRKRKVを欠失させた。
【0009】
本発明は、前記の修飾したプロテアーゼ抵抗性huTSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子をも提供する。本発明のポリヌクレオチド分子には、SEQ ID NO:4のアミノ酸残基127−131に位置するフューリン開裂部位RRKRK[SEQ ID NO:6]をコードするコドンを撹乱その他の形で不活性化する、読み枠内の核酸配列修飾をもつものが含まれる。この開裂部位の適切な修飾には、読み枠内の核酸置換、欠失、付加、またはこれらの組合わせであって、RRKRKをコードする核酸配列を変化させて、コードされるフューリン開裂部位パターンRXXR、特にRX(R/K)Rを撹乱するものが含まれる。態様には、たとえばRRKRKをコードするヌクレオチド配列AGG AGA AAA AGG AAA[SEQ ID NO:5]を欠失した、またはアミノ酸配列RKRKV[SEQ ID NO:8]をコードするヌクレオチド配列AGA AAA AGG AAA GTC[SEQ ID NO:7]を欠失した、欠失変異体が含まれる。修飾TSLPポリペプチドおよびそのフラグメントであって天然TSLPの目的活性を保持しかつプロテアーゼ抵抗性であるものをコードするポリヌクレオチド分子に実質的に類似する配列をもつポリヌクレオチド分子も含まれる。
【0010】
本発明は、可溶形および融合タンパク質を含めた、さらなる型の修飾huTSLPポリペプチドをも提供する。たとえば本発明の融合タンパク質には、ポリペプチドの精製、オリゴマー化、安定性、分泌または同定を容易にするなどの目的機能を与える異種(heterologous)タンパク質またはペプチドに融合した、修飾huTSLPポリペプチドが含まれる。本発明の融合タンパク質は、たとえば、異種タンパク質をコードするポリヌクレオチド分子と読み枠が一致した状態でプロテアーゼ抵抗性修飾huTSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子を含有する発現構築体から調製できる。
【0011】
本発明は、修飾したプロテアーゼ抵抗性huTSLPポリヌクレオチド分子を含有するベクター、プラスミド、発現系、宿主細胞などをも提供する。本発明の修飾huTSLPポリペプチドを調製するための遺伝子工学的方法には、無細胞系、細胞性宿主、組織および動物モデルにおける既知方法でのポリヌクレオチド分子の発現が含まれる。
【0012】
本発明にはさらに、実質的に精製された本発明の修飾huTSLPポリペプチドおよび許容できるキャリヤーを含有する組成物が含まれる。好ましいものは、細胞、組織または患者に投与するのに適した、たとえば免疫不全障害、ウイルス感染症および細菌感染症の療法処置においてB細胞およびT細胞の活性を誘発するのに有用な、医薬組成物である。
【0013】
これらおよび他の多様な本発明の特色および利点は、以下の詳細な説明を読み、特許請求の範囲を見ることによって明らかになるであろう。
配列の簡単な説明
SEQ ID NO:1は、ネズミTSLPをコードするポリヌクレオチド配列(GenBank AF232937)である。
【0014】
SEQ ID NO:2は、SEQ ID NO:1によりコードされるネズミTSLPのアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:3は、ヒトTSLPをコードするポリヌクレオチド配列(GenBank AY037115)である。
【0015】
SEQ ID NO:4は、SEQ ID NO:3によりコードされるヒトTSLPのアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:5は、フューリン開裂部位RRKRKをコードするポリヌクレオチド配列AGG AGA AAA AGG AAAである。
【0016】
SEQ ID NO:6は、SEQ ID NO:5によりコードされるアミノ酸配列RRKRKである。
SEQ ID NO:7は、ヒトTSLPには存在するがネズミTSLPには存在しないアミノ酸配列RKRKVをコードする、ポリヌクレオチド配列AGA AAA AGG AAA GTCである。
【0017】
SEQ ID NO:8は、SEQ ID NO:7によりコードされるアミノ酸配列RKRKVである。
SEQ ID NO:9は、フューリン開裂部位RRKRKをコードする配列AGG AGA AAA AGG AAAに対して読み枠内の1以上の修飾をもち、その結果フューリン開裂部位が不活性化された修飾ヒトTSLPをコードする、ポリヌクレオチド配列である。
【0018】
SEQ ID NO:10は、SEQ ID NO:9によりコードされる修飾TSLPのアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:11は、アミノ酸RKRKをコードするコドンAGA AAA AGG AAAが欠失した、修飾TSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列である。
【0019】
SEQ ID NO:12は、SEQ ID NO:11によりコードされる修飾TSLPポリペプチドのアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:13は、アミノ酸RRKRKをコードするコドンAGG AGA AAA AGG AAAが欠失した、修飾TSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列である。
【0020】
SEQ ID NO:14は、SEQ ID NO:13によりコードされる修飾TSLPポリペプチドのアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:15は、アミノ酸RKRKVをコードするコドンAGA AAA AGG AAA GTCが欠失した、修飾TSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列である。
【0021】
SEQ ID NO:16は、SEQ ID NO:15によりコードされる修飾TSLPポリペプチドのアミノ酸配列である。
SEQ ID NO:17は、修飾ヒトTSLPポリペプチドである。
【0022】
SEQ ID NO:18は、修飾ヒトTSLPポリペプチドである。
SEQ ID NO:19は、PCRフォアワードプライマーである。
SEQ ID NO:20は、PCRフォアワードプライマーである。
【0023】
SEQ ID NO:21は、PCRリバースプライマーである。
SEQ ID NO:22は、PCRリバースプライマーである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
定義
本明細書中で頻繁に使用する特定の用語の理解を容易にするために以下の定義を示す。これらは本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0025】
”アミノ酸”は、20種類の標準的α−アミノ酸のいずれか、ならびに天然および合成誘導体のいずれかを表わす。アミノ酸またはアミノ酸配列に対する修飾は自然のプロセス、たとえば翻訳後プロセシングに際して起きる可能性があり、あるいは既知の化学的修飾を含むことができる。修飾には下記のものが含まれるが、これらに限定されない:リン酸化、ユビキチン化、アセチル化、アミド化、グリコシル化、フラビンの共有結合、ADP−リボシル化、架橋、ヨウ素化、メチル化など。
【0026】
本明細書中で用いる用語”抗体”は、下記を含めた無傷の(intact)抗体を表わす:ポリクローナル抗体(たとえばAntibodies:A Laboratory Manual,Harlow and Lane(編),Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988)参照)、およびモノクローナル抗体(たとえばUSP RE32,011、4,902,614、4,543,439および4,411,993、ならびにMonoclonal Antibodies:A New Dimension in Biological Analysis,Plenum Press,Kennet,McKearn and Bechtol(編)(1980)参照)。用語”抗体”は、組換えDNA法、または無傷抗体の酵素的もしくは化学的開裂により生成する抗体フラグメント、たとえばF(ab)、F(ab’)、F(ab’)、Fv、Fc、および一本鎖抗体をも表わす。用語”抗体”は、2つの異なる重/軽鎖対および2つの異なる結合部位をもつ人工的ハイブリッド抗体である二特異性または二機能性抗体をも表わす。二特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの結合を含めた多様な方法で調製できる(Songsivilai et al.,1990,Clin.Exp.Immunol.,79:315−321;Kostelny et al.,1992,J.Immunol.,148:1547−1553参照)。本明細書中で用いる用語”抗体”は、キメラ抗体、すなわちヒト抗体免疫グロブリン定常ドメインが1以上の非ヒト抗体免疫グロブリン可変ドメインに結合した抗体、またはそのフラグメントをも表わす(たとえばUSP5,595,898およびUSP5,693,493参照)。抗体は下記のものをも表わす:”ヒト化抗体”(たとえばUSP4,816,567およびWO94/10332参照)、ミニボディー(WO94/09817)、およびヒト抗体を産生しうるトランスジェニック動物であって、ある割合のヒト抗体産生遺伝子を含むが内因性抗体を産生しないトランスジェニック動物が産生する抗体(たとえばMendez et al.,1997,Nature Genetics,15:146−156;およびUSP6,300,129参照)。用語”抗体”には、多量体形抗体、すなわちタンパク質の高次複合体、たとえばヘテロ二量体抗体も含まれる。”抗体”には下記のものも含まれる:抗イディオタイプ抗体、たとえば腫瘍抗原gp72をターゲティングする抗体に対する抗イディオタイプ抗体;ガングリオシドGD3に対する抗体;またはガングリオシドGD2に対する抗体。
【0027】
”Fc”または”Fcポリペプチド”は、抗体のFcドメインを含有するポリペプチドを表わす。”Fcドメイン”は、細胞上にある抗体受容体への結合に関与する抗体部分を表わす。Fcドメインは、下記のうちの1つ、2つ、またはすべてを含有することができる:定常H1ドメイン(C1)、定常H2ドメイン(C2)、定常H3ドメイン(C3)、およびヒンジ部。たとえばヒトIgG1のFcドメインは、C2ドメイン、C3ドメインおよびヒンジ部を含有するが、C1ドメインを含有しない。二量体化を促進するヒンジ部を含有するトランケート形のそのようなポリペプチドも含まれる。たとえばC.A.Hasemann and J.Donald Capra,免疫グロビン:構造と機能,William E.Paul編,Fundamental Immunology,第2版,209,210−218(1989)参照。
【0028】
”アンチセンス”は、ターゲット”センス”ポリヌクレオチド配列に相補的なポリヌクレオチド配列を表わす。
”細胞ターゲティング部分”は、天然に生じたまたは遺伝子工学的に作製したポリペプチド上のいずれかのシグナルであって、ポリペプチドを細胞、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは自然材料へターゲティングするために用いられるものを表わす。
【0029】
”相補的”または”相補性”は、あるポリヌクレオチド分子中のポリヌクレオチドが第2ポリヌクレオチド分子中の他のポリヌクレオチドと塩基対を形成する能力を表わす。たとえば配列A−G−Tは配列T−C−Aに対して相補的である。相補性は、一部のポリヌクレオチドのみが塩基対合に従って整合する部分的なものであってもよく、あるいは全部のポリヌクレオチドが塩基対合に従って整合する完全なものであってもよい。
【0030】
本明細書中で用いる用語”誘導体”は、少なくとも1つの化学的付加部分または少なくとも1つの付加ポリペプチド、たとえばグリコシル基、脂質、リン酸、アセチル基、またはC−末端もしくはN−末端融合タンパク質などに結合して共有結合体または凝集結合体を形成した、修飾された抵抗性TSLPポリペプチドを表わす。
【0031】
”発現”は、宿主細胞内で起きる転写および翻訳を表わす。宿主細胞におけるDNA分子発現レベルは、細胞内に存在する対応するmRNAの量、または宿主細胞が産生する、DNA分子によりコードされるタンパク質の量に基づいて測定できる(Sambrook et al.1989,,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,18.1−18.88)。
【0032】
本明細書中で用いる用語”フューリン開裂部位”は、フューリンが認識して開裂するアミノ酸配列を表わす。たとえばヒトTSLPにおいて、フューリン開裂部位は配列RRKRK内に同定されている。一般にフューリンに対する最小開裂部位はRXXR、より好ましくはRX(R/K)Rである(Nakayama 1997,Biochem J 327:625−35)。用語”フューリン”は、多様なタンパク質のプロセシングに関与するカルシウム依存性セリンプロテアーゼを表わす。フューリンは、種々のプロタンパク質、たとえば成長因子前駆体を開裂して生物活性タンパク質にすることが知られている。フューリンmRNAは検査されたすべての組織および細胞系に検出されており、これは、その活性が遍在性であってタンパク質のいずれか特定のターゲット基に限定されるわけではないことを示唆する。フューリンが開裂するプレタンパク質の例には、種々の成長因子、成長因子受容体、血液の凝固および相補カスケードに関与する血漿タンパク質、マトリックスメタロプロテイナーゼ、ウイルスエンベロープ糖タンパク質、および細菌内毒素が含まれる。
【0033】
本明細書中で用いる用語”修飾TSLPポリペプチド”または”修飾huTSLPポリペプチド”は、”フューリン抵抗性TSLP”または”プロテアーゼ抵抗性TSLP”と互換性をもって用いられ、フューリン開裂部位RXXRを不活性化するように修飾され、なおかつTSLP活性(たとえばB細胞もしくはT細胞の増殖もしくは発達の刺激、またはTSLP受容体への結合)を維持する、いずれかのhuTSLPポリペプチドを表わす;たとえばWO 00/29581または後記実施例に記載。用語”修飾TSLPポリペプチド”には、変異体、およびフラグメント、たとえば細胞外ドメイン、および誘導体、たとえば融合タンパク質も含まれる。
【0034】
”融合タンパク質”は、異種ポリペプチドを組換えDNA法により結合させたタンパク質を表わす。融合異種ポリペプチドは、特定の機能、たとえば細胞における融合タンパク質の位置を決定し、融合タンパク質の安定性を高め、融合タンパク質の精製を容易にし、またはそのタンパク質を目的とする抗原もしくは細胞へターゲティングするなどの機能を備えることができる。そのような融合タンパク質の例には、免疫グロブリン分子の一部(たとえばFcフラグメント)に融合したポリペプチド、ヒスチジンタグ、成長因子などに融合したポリペプチドが含まれる;WO 00/29581に記載。
【0035】
”遺伝子工学的に処理(genetically engineered)”は、当該タンパク質を発現する真核宿主細胞を処理するために用いられるいずれかの組換え法を表わす。宿主細胞を遺伝子工学的に作製するための方法およびベクターは周知である;たとえばCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.編(Wiley & Sons,ニューヨーク,1988,および年4回の改訂版)に種々の技術が示されている。遺伝子工学的方法には下記のものが含まれるが、これらに限定されない:発現ベクター、ターゲティングした相同組換え、ならびに遺伝子活性化(たとえばUSP5,272,071参照,Chappel)および工学的に作製した転写因子によるトランス活性化(たとえばSegal et al.,1999,Proc Natl Acad Sci USA 96(6):2758−63参照)。
【0036】
”相同性”は、ポリヌクレオチド間の相補度を表わす。ポリヌクレオチド分子間の相補度は、ポリヌクレオチド分子間のハイブリダイゼーションの効率および強度に重要な影響を及ぼす。
【0037】
”宿主細胞(単数又は複数)”は、ex vivo培養において樹立した細胞を表わす。本明細書に定義するフューリン抵抗性TSLPを発現しうることが、本明細書中で述べる宿主細胞の特徴である。本発明の各態様に有用な適切な宿主細胞の例には哺乳動物細胞系が含まれるが、これらに限定されない。そのような細胞系の具体例には下記のものが含まれる:ヒト胚性腎細胞(293細胞)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Puck et al.,1958,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60,1275−1281)、ヒト子宮頚癌細胞(HELA)(ATCC CCL 2)、ヒト肝細胞(Hep G2)(ATCC HB8065)、ヒト乳癌細胞(MCF−7)(ATCC HTB22)、ヒト大腸癌細胞(DLD−1)(ATCC CCL 221)、ダウディ(Daudi)細胞(ATCC CRL−213)、COS細胞およびCV−1細胞。
【0038】
”ハイブリダイゼーション”は、アニーリング期間中における相補的ポリヌクレオチドの対合を表わす。2つのポリヌクレオチド分子間のハイブリダイゼーションの強度は、2分子間の相同性、関与する条件のストリンジェンシー、形成されるハイブリッドの融点、およびポリヌクレオチド内のG:C比により影響される。
【0039】
”不活性化された”は、活性が非機能性にされたことを表わす。たとえばポリペプチド中のフューリン開裂部位は、アミノ酸配列を修飾することにより不活性化できる。野生型ポリペプチドと比較して、フューリン存在下での修飾ポリペプチドの開裂が低下し、好ましくは排除される。開裂の低下または排除は、たとえば野生型の開裂生成物と比較した開裂生成物の変化により証明される。
【0040】
”単離された”は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが普通は付随する少なくとも1種類の混入物質(ポリヌクレオチドまたはポリペプチド)から分離されたことを表わす。たとえば単離されたポリヌクレオチドは、自然界でみられるものと異なる概念または形態である。
【0041】
本明細書中で用いる用語”huTSLPポリペプチド”は、SEQ ID NO:4に示したアミノ酸配列をもつヒトTSLPポリペプチド、またはそのポリペプチドの変異体もしくはフラグメントであってSEQ ID NO:4のTSLPがもつ少なくとも1つの活性を保持するものを表わす。変異体は、変化していないタンパク質のアミノ酸配列と実質的に類似するアミノ酸配列をもつポリペプチド、またはそのフラグメントである。本発明の目的について”実質的に類似する”は、変化していないタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約80%同一、好ましくは少なくとも約90%同一、より好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約98%同一、最も好ましくは少なくとも約99%同一であり、かつ変化していないポリペプチドの活性を保持することである。生物学的活性に影響を及ぼさないと思われる保存的置換であるアミノ酸置換は、本発明の目的について同一とみなされ、下記のものがこれに含まれる:AlaがSer、ValがIle、AspがGlu、ThrがSer、AlaがGly、AlaがThr、SerがAsn、AlaがVal、SerがGly、TyrがPhe、AlaがPro、LysがArg、AspがAsn、LeuがIle、LeuがVal、AlaがGlu、AspがGlyを置換、およびその逆(たとえばNeurath et al.,The Proteins,Academic Press,ニューヨーク(1979)参照)。
【0042】
同一性%は、視覚検査と数学的計算により、または当業者が用いる種々のコンピュータープログラムによる2配列の比較により決定できる。たとえば、2配列の同一性%は、Smith and Waterman,Adv.Math.2:482−489(1981)のアルゴリズムに基づくGAPコンピュータープログラム(ウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)から入手できる;ウィスコンシン州マディソン、ユニバーシティー・リサーチ・パーク)を用いて決定できる。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには下記のものが含まれる:(1)スコアリングマトリックスblosum62(Henikoff and Henikoff Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:10915(1992)に記載);ギャップ加重12;(3)ギャップ長さ加重4;および(4)末端ギャップにはペナルティなし。配列比較技術分野の当業者が用いる他のプログラムも使用できる。
【0043】
”ポリヌクレオチド”は、ヌクレオチド配列を表わす。ヌクレオチドは、ポリリボヌクレオチドもしくはポリデオキシリボヌクレオチド配列、または両者の混合物である。本発明の概念におけるポリヌクレオチドの例には、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖RNA、ならびに一本鎖および二本鎖DNAおよびRNA両方の混合物を含むハイブリッド分子が含まれる。さらに、本発明のポリヌクレオチドは1以上の修飾ヌクレオチドを含有することができる。
【0044】
本明細書中で用いる用語”タンパク質”と”ポリペプチド”は互換性をもって用いられ、ペプチド結合により結合した少なくとも10個のアミノ酸の鎖であると考えられる。混入タンパク質からのタンパク質の精製は、任意数の既知方法により達成でき、これには硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィーが含まれる。種々のタンパク質精製法がCurrent Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.編(Wiley & Sons,ニューヨーク,1988,および年4回の改訂版)に示されている。
【0045】
”STAT5”は、1種類以上のJAKキナーゼにより活性化され、核へ転位し、特異的DNA部位への結合により転写調節に関与することが知られている、STAT(signal transducer and activator of transcription)ファミリーの転写因子のメンバーを表わす。STAT5活性の測定する技術には、DNA結合アッセイ、STAT5依存性レポーターアッセイ、STAT5の32P−標識などが含まれる;Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.編(Wiley & Sons,ニューヨーク,1988,および年4回の改訂版)に説明。
【0046】
”胸腺ストローマ細胞リンホポエチン”(TSLP)は、血液リンパ球の発達プロセスを刺激する成長因子を表わす;たとえばWO 00/29581、およびSims et al.,2000,J.Exp.Med.192:671−680に記載。
【0047】
”ベクター”、”染色体外ベクター”、または”発現ベクター”は、通常は二本鎖の第1ポリヌクレオチド分子であって、これに第2ポリヌクレオチド分子、たとえばフューリン抵抗性ヒトTSLPをコードするポリヌクレオチドなど異種ポリヌクレオチドを挿入できる分子を表わす。異種ポリヌクレオチドは、自然界で宿主細胞中にあるものまたは無いものであってもよく、自然界で宿主ゲノム中に存在する核酸配列の1以上の追加コピーであってもよい。ベクターは外来ポリヌクレオチドを適切な宿主細胞内へ輸送する。ベクターは、宿主細胞に進入すると宿主細胞の染色体に組み込まれる。ベクターは、組み込まれたポリヌクレオチドを含有する細胞を選択するために必要な要素、およびトランスフェクションされたポリヌクレオチドからのmRNAの転写を促進するための要素をも含むことができる。本発明の範囲におけるベクターの例にはプラスミド、バクテリオファージ、コスミド、レトロウイルス、および人工染色体が含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
別途記載しない限り、用いた技術は幾つか周知の参考文献、たとえば下記に見ることができる:Molecular Cloning,A Laboratory Manual(Sambrook et al.(1989),Molecular Cloning,A Laboratory Manual);Gene Expression Technology(Methods in Enzymology,Vol.185,D.Goeddel編,1991,Academic Press,カリフォルニア州サンディエゴ);”タンパク質精製の指針”Methods in Enzymology(M.P.Deutscher,3d(1990)Academic Press);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(Innis et al.(1990)Academic Press,カリフォルニア州サンディエゴ);Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,第2版(R.I.Freshney(1987)Liss,Inc.,ニューヨーク州ニューヨーク);およびGene Transfer and Expression Protocols,pp.109−128,E.J.Murray編,The Humana Press Inc.,ニュージャージー州クリフトン)。
【0049】
TSLPポリペプチド
胸腺ストローマ細胞リンホポエチン(TSLP)は、サイトカインファミリーのリンパ球形成信号伝達因子のメンバーであって、B細胞およびT細胞の発達と成熟の両方に不可欠な成長因子である。TSLPはB細胞リンパ球形成をB220/IgM未熟B細胞段階にまで推進し、この因子に依存性の細胞系NAG8/7の増殖を誘発する。TSLPはT細胞受容体ガンマ(TCRγ)遺伝子座の再配列の制御に関与し、胸腺細胞および成熟T細胞に対して実質的な刺激作用をもつ。
【0050】
B細胞およびT細胞に対するTSLPの生物学的活性は、サイトカインIL−7の活性と一部オーバーラップする。たとえばTSLPとIL−7は両方とも、胸腺細胞および成熟T細胞を共刺激し、NAG8/7細胞系を維持し、胎児肝細胞においてB細胞リンパ球形成を支持する。これらのオーバーラップする機能は、TSLPおよびIL−7の受容体複合体がIL−7Rアルファ鎖を共通に利用することにより生じると思われる(Park et al.,2000,J.Experimental Medicine,192(5):659−669;Levin et al.,1999,J.Immunol.,162(2):677−83;Isaksen et al.,1999,J.Immunol.,163(11):591−7)。IL−7受容体を遮断すると、IL−7およびTSLP両方の活性が遮断されると思われる。
【0051】
IL−7はIL−15と共に、免疫細胞であるB細胞およびT細胞の発達と機能に重要である。IL−7は、CD4およびCD8 T細胞の発達、ならびにナイーブおよび記憶CD4 T細胞の増殖と生存を補助する。IL−15はナチュラルキラー(NK)細胞の発達に重要であり、記憶CD8細胞の発達に関与するが、記憶CD4細胞の発達には関与しない。
【0052】
IL−15ノックアウトマウスモデルおよびIL−7受容体アルファ鎖に対して形成された抗体を用いて、ナイーブCD8 T細胞(OTI TgT細胞およびポリクローナル抗体CD44 loを含む)の増殖にはIL−15ではなくIL−7が必要であると判定された。短期HDP(Homeostasis driven proliferation)による記憶CD8 T細胞(OTIまたはポリクローナルCD44 hi)の増殖は、IL−15ノックアウトマウスにおいて、および抗IL−7受容体モノクローナル抗体による野生型マウスの処理により、遅延する。IL−15の不存在およびIL−7受容体機能の阻害により、記憶T細胞増殖はほぼ完全に阻害される。CD8記憶T細胞の恒常的な基礎増殖は、IL−15ノックアウトマウスにおいて遮断される。抗IL−7受容体モノクローナル抗体による処理は、野生型マウスにおける増殖を遅延させた。IL−15の不存在下およびIL−7受容体機能の阻害下では、T細胞の生存が影響を受ける。これらの結果は、IL−7およびIL−15がCD8記憶T細胞の増殖と生存に必須であることを示す。TSLPとIL−7はT細胞に対しIL−7受容体を介して共通のオーバーラップした機能活性をもつので、TSLPもCD8記憶T細胞の増殖と生存を促進する機能をもつと推定される。記憶T細胞データは、TSLPが長期免疫獲得に有用であり、したがってワクチンアジュバントとして使用できることを示す。
【0053】
より具体的には、TSLPは方向づけられた(committed)B220 B細胞前駆体の増殖および分化をインビトロで支持する(Ray,et al.,1996,J.Immunol.,26:10−16)。IL−7またはTSLPの存在下でインキュベートした細胞は、プロB細胞段階のB細胞分化に特徴的な細胞表面マーカーを発現する。TSLPは、インビトロ培養の最初の4〜6日間は、IL−7の代わりに、方向づけられていないバイオポテンシャル前駆体からB細胞前駆体への進行を支持することができる。TSLPは、CBA/Nマウス由来のB細胞前駆体が示す持続増殖応答の支持においても、IL−7の代替となりうる。TSLPは、胎児肝または骨髄由来のB220プレB細胞の拡張も、インビトロで数日間支持する。TSLPは、骨髄から単離したプレB細胞の増殖および分化も、ストローマ細胞系S17の存在下で、マイトジェン応答性になる段階まで促進する。
【0054】
TSLPは、インビトロでB細胞前駆体の拡張および分化を促進し、インビトロでB220前駆体および方向づけられていないバイオポテンシャル前駆体からのB細胞の発達の支持においてIL−7の代替となりうる。B系列およびT系列の細胞増殖を刺激する技術は周知であり(Ray et al.,1996,前掲;Namikawa et al.,1996,Blood,87:1881−1890)、臍帯血および骨髄などの供給源に由来する造血細胞を拡張する技術も周知である(W.Piacibello,et al.,1997,Blood,89(8):2644−2653)。TSLPは、単独で、または他のサイトカイン、たとえばIL−7と組み合わせて、臍帯血または骨髄の移植のために多能性幹細胞の再生および拡張を制御し、増幅するのに使用できる。
【0055】
組換えIL−7は、オートロガス骨髄移植後の患者の免疫系を再構成するために用いられている(Abdul−Hai et al.,1996,Experimental Hematology,24:1416−1422)。IL−7はプレB細胞および未熟胸腺細胞の増殖および分化を誘発する。TSLPは、プレB細胞に対して類似の増殖作用を誘発する。したがって、TSLPは、単独で、または他のサイトカインもしくは成長因子、たとえばIL−7と組み合わせて、造血細胞の増殖および分化を刺激するのに使用できる。
【0056】
TSLPは、両イソ形STAT5(STAT5aおよびSTAT5b)のチロシンリン酸化を誘発し、その結果STAT5−DNA複合体が形成され、STAT5のフィードバックモジュレーターであるSTAT5応答遺伝子CISが転写される(Levin et al.,前掲;Isaksen et al.,前掲)。STAT5は、STAT5欠損マウスにおいて広く研究されている。一方または両方の形のSTAT5が、免疫系の調節、造血、性的二形性成長、乳腺の発達、毛髪の成長、脂肪組織の沈着、および妊娠において役割をもつ(Davey,et al.,1999,Am.J.Hum.Genet.65:959−965)。単離したばかりのリンパ性白血病細胞の多くの例がSTAT5の構成性活性化を呈することが示された(Nosaka,et al.,1999,The EMBO Journal,18(17):4754−4765)。
【0057】
STAT5により調節される活性の一例として、乳腺の正常な成長および分化にSTAT5aおよびSTAT5bが必要である(Richer et al.,1998,J.Biol.Chem.273(47):31317−31326)。STAT5a欠損マウスは乳腺小葉の増殖成長がなく、雌は授乳できない。STAT5b欠損雌マウスは、乳腺の発達に欠陥がある。
【0058】
TSLPは、B細胞およびT細胞の発達において中心的な作用因子であると思われる。TSLPタンパク質は、B細胞および/またはT細胞の増殖および成熟を刺激することを目標とした療法および処置、たとえばエイズなどの免疫障害の処置に有用である。たとえば抗TSLP抗体により、またはTSLP受容体と不活性TSLPフラグメントもしくはTSLPの阻害性類似体との結合によりTSLPの発現を阻害すると、B細胞およびT細胞の発達および増殖を阻害することができ、たとえば自己免疫疾患の処置または移植臓器の拒絶予防の療法に有用である。
【0059】
ヒトTSLPポリペプチドはWO 00/29581に記載されている。全長ヒトTSLPの好ましい1態様のアミノ酸配列をSEQ ID NO:4に示す。コンピューター分析により、成熟ポリペプチド配列はSEQ ID NO:4のアミノ酸29−159に対応すると推定され、一方シグナルペプチドはSEQ ID NO:4のアミノ酸1−28またはアミノ酸1から34までもしくは116までに対応すると考えられる。huTSLPポリペプチドは、膜結合形または可溶性分泌形ポリペプチドであってよい。1態様において、可溶性ポリペプチドは細胞外ドメインの全部または一部を含むことができるが、ポリペプチドを細胞膜に保持させる膜貫通領域を欠失する。ヒトTSLPポリペプチドには、SEQ ID NO:4がコードするポリペプチドの変異体であって、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列に対して少なくとも約80%の同一性をもち、かつ少なくとも1つのTSLP機能を保持するもの、およびTSLP機能を保持するそのフラグメントが含まれる。
【0060】
プロテアーゼ抵抗性
ネズミTSLPをコードする核酸配列(GenBank寄託番号AF232937)およびヒトTSLPをコードする核酸配列(GenBank寄託番号AY037115)は、PCT出願WO 00/29581に開示されている。後記実施例に詳述するように、ヒトTSLP cDNAを哺乳動物において発現させると、分解生成物が得られることがしばしばある。
【0061】
ヒトTSLPと異なり、ネズミTSLPは哺乳動物において発現させても分解しなかった。ヒトTSLPとネズミTSLPの核酸配列およびアミノ酸配列を比較すると、有意の相異がみられた。特に、ヒト核酸配列はネズミタンパク質に存在しないユニークアミノ酸領域127−RRKRV−132をコードする。詳細な分析により、このユニークアミノ酸領域は推定フューリン開裂部位127−RRKRK−131を含むことが示唆された。
【0062】
後記実施例に詳述するように、哺乳動物細胞培養において過剰発現させ、単離したヒトTSLPタンパク質は、たとえば電気泳動により分析すると、ゲル上の多数のバンドとして示されるように多数のポリペプチドを含有する。このタンパク質混合物中の顕著なバンドは、約6kDの分子量をもつ。この6kDフラグメントのアミノ酸配列はTSLPのC末端に対応し、開裂点がフューリン開裂部位RRKRKにあることを示唆した。このデータは、哺乳動物細胞において発現したヒトTSLPの分解がフューリン開裂部位における開裂の結果であることの直接的な証拠となる。
【0063】
フューリン開裂部位は、huTSLPのアミノ酸配列において活性に必要であると考えられる4ヘリックス束の第4ヘリックス開始の約8残基前に位置する。huTSLPがこのフューリン開裂部位においてトランケートすると、3ヘリックス束サイトカインが生成し、マウスTSLPとhuTSLPに共通の保存システイン残基のうち最後のもの(分子内ジスルフィド結合形成に関与すると考えられる)も除去される。したがって、フューリン開裂部位におけるhuTSLPの開裂により、生物学的活性に必要な分子部分が除去されると考えられる。
【0064】
本発明においては、huTSLPのフューリン開裂部位を同定し、huTSLPのフューリン開裂を阻止するように修飾した。本発明によれば、フューリン開裂部位RRKRKをコードするコドンのうち1以上を、たとえば部位特異的変異誘発により変化させて、フューリンによる開裂部位認識を阻止する。好ましくは、開裂部位を撹乱するように1以上のコドンを変化させる。最小フューリン認識部位はRXXRであるので、huTSLPのRXXRパターンを撹乱するいかなる修飾も本発明の範囲に含まれる。
【0065】
修飾ヒトTSLPポリペプチド
本発明の修飾ヒトTSLPポリペプチドには、SEQ ID NO:4に示したヒトTSLPアミノ酸配列を修飾してフューリン開裂部位RRKRK[SEQ ID NO:6]を不活性化したポリペプチド、およびSEQ ID NO:4のアミノ酸配列またはそのフラグメントに実質的に類似するアミノ酸配列をもち、フューリン開裂に対して抵抗性であり、かつヒトTSLPの機能活性を保持する変異体が含まれる。
【0066】
本発明の目的について、用語”実質的に類似する”は、変化していないタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約80%同一、好ましくは少なくとも約90%同一、より好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約98%同一、最も好ましくは少なくとも約99%同一であり、かつ変化していないポリペプチドの活性のうち少なくとも1つを少なくともある程度保持することを表わす。生物学的活性に影響を及ぼさないと思われる保存的置換であるアミノ酸置換は、本発明の目的について同一とみなされ、下記のものがこれに含まれる:AlaがSer、ValがIle、AspがGlu、ThrがSer、AlaがGly、AlaがThr、SerがAsn、AlaがVal、SerがGly、TyrがPhe、AlaがPro、LysがArg、AspがAsn、LeuがIle、LeuがVal、AlaがGlu、AspがGlyを置換、およびその逆(たとえばNeurath et al.,The Proteins,Academic Press,ニューヨーク(1979)参照)。表現型においてサイレントなアミノ酸交換に関する情報はさらに、Bowie et al.,1999,Science,247:1306−1310中にみられる。
【0067】
フューリン開裂部位を不活性化するのに適した修飾には、アミノ酸の置換、欠失、付加、またはこれらの組合わせであって、アミノ酸配列RRKRKを変化させてフューリン開裂部位パターンRXXRを撹乱するもの、特にパターンRX(R/K)Rを撹乱するものが含まれる(これらにおいてRはアルギニンを表わし、Kはリシンを表わし、Xは任意のアミノ酸を表わす)。1態様において、本発明の修飾TSLPポリペプチド配列ではRKRKまたはRKRKVを欠失させた。
【0068】
好ましくは、フューリンが認識しうる二塩基性アミノ酸であるアルギニンまたはリシンが除去されるように、フューリン開裂部位内の少なくとも2個のアミノ酸を変化させる。たとえば、この修飾により1個以上の二塩基性アミノ酸を1個以上の中性アミノ酸で置換することができる。二塩基性アミノ酸を欠失させてもよく、あるいはSEQ ID NO:4の127−131アミノ酸領域内に挿入を行って開裂部位を撹乱することもできる。
【0069】
1態様において、本発明の修飾TSLPポリペプチドには、SEQ ID NO:4のアミノ酸残基127−RRKRK−131のうち1個以上、好ましくは2個以上を欠失させて、RXXRフューリン開裂パターンを撹乱したものが含まれる。たとえば、1個のアルギニン(R)を欠失させると、撹乱配列RKRKまたはRRKKが得られる;2個のアルギニンを欠失させると、撹乱配列KRKまたはRKKが得られる;3個のアルギニンを欠失させると、撹乱配列KKが得られる。修飾TSLPポリペプチドには、4個または5個すべての塩基性アミノ酸の欠失、たとえばSEQ ID NO:4のアミノ酸位置128−RKRK−131または128−RKRKV−132におけるRKRK、RRKRまたはRRKRKの欠失も含まれる。
【0070】
別態様において、本発明の修飾ヒトTSLPポリペプチドには、ヒトTSLPアミノ酸配列におけるアミノ酸置換であって、アミノ酸残基127−RRKRK−131のうち1個以上、好ましくは2個以上を異なるアミノ酸残基で置換して、RXXRパターンを撹乱したものが含まれる。好ましくは、1個以上のアルギニンおよび/またはリシンを非塩基性アミノ酸、より好ましくは中性アミノ酸で置換する。たとえば、1個のアルギニン(R)を置換すると、撹乱配列RXKRKまたはRRKXKが得られる;2個のアルギニンを置換すると、撹乱配列XXKRKまたはXRKXKが得られる;3個のアルギニンを置換すると、撹乱配列XXKXKが得られる。5個すべての塩基性アミノ酸を置換して配列XXXXXにしたものが好ましい。ここでXは非塩基性アミノ酸、好ましくは中性アミノ酸である。
【0071】
本発明の修飾ヒトTSLPポリペプチドには、huTSLPアミノ酸配列への付加も含まれる。この場合、1個以上のアミノ酸残基をフューリン開裂配列127−RRKRK−131に挿入して、RXXRパターンを撹乱する。たとえば2個以上のアミノ酸を挿入できる:たとえば配列127−RRZKRK−131(ZはRまたはKではなく、nは1ではない);1個以上、好ましくは2個以上のアミノ酸をアルギニン間に挿入できる:すなわち配列127−RZRKRK−131(ZはRまたはKではなく、nは2ではない)など。好ましくは、nは3、4または5であり、Zは中性アミノ酸である。
【0072】
修飾ヒトTSLPポリペプチドの例
【0073】
【表1】

【0074】
X()は、フューリン開裂部位の活性を撹乱するアミノ酸置換、欠失、挿入、またはこれらの組合わせを表わすことができる。1態様例、たとえばSEQ ID NO:10に示した例では、Xで表わしたすべてのアミノ酸が修飾されて、RまたはL以外の任意のアミノ酸、好ましくは中性アミノ酸になっている。他の態様においては、1個以上、好ましくは2個以上のXがアミノ酸欠失であり、最も好ましくは2個以上のアルギニン(R)残基が欠失し、最も好ましくは各Xが欠失アミノ酸を表わす。他の態様においては、1個以上、好ましくは2個以上のXがKまたはRではないアミノ酸置換であり、好ましくは中性アミノ酸である。この態様においてXXXXXは、たとえばXRXRX、XRXRK、RXRXXまたはRXRXKであってよい。
【0075】
SEQ ID NO:18に示すように、Z(**)はRまたはKではない任意のアミノ酸であってよく、好ましくは中性アミノ酸である。前記のように、nはRXXRパターンを撹乱する任意の数値であってよく、たとえばnは1以上、好ましくは3、4または5である。フューラン開裂部位パターンRXXR、特にRXR/KRを不活性化するための方法の他の例は自明であり、本発明に含まれる。
【0076】
前記に示した修飾huTSLPポリペプチドの例には、SEQ ID NO:10、12、14、16、17または18に示すアミノ酸配列をもつポリペプチド、および実質的にこれらの配列に類似するアミノ酸配列をもつポリペプチド、すなわちこれらのアミノ酸配列に対して少なくとも約80%の同一性をもち、フューリン開裂に対する抵抗性を保持し、かつ少なくとも1つのTSLP活性をもつものが含まれる。ヒトTSLPポリペプチド活性は、たとえばヒトTSLPポリペプチドの変異体、誘導体またはフラグメントを後記実施例3に記載するBAF/HRTバイオアッセイすることにより、またはFriend et al.(前掲)の記載に従ったNAG8/7細胞増殖アッセイにより、またはLevin et al.(前掲)の記載に従ってSTAT5活性化アッセイすることにより、容易に測定できる。
【0077】
修飾huTSLPポリペプチドは、膜結合形または可溶性分泌形ポリペプチドであってもよい。1態様において、可溶性の修飾ポリペプチドは細胞外ドメインの全部または一部を含むことができるが、ポリペプチドを細胞膜に保持させる膜貫通領域を欠失する。ヒトTSLPポリペプチドには、SEQ ID NO:4がコードするポリペプチドの変異体であって、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列に対して少なくとも約80%の同一性をもち、かつ少なくとも1つのTSLP機能を保持するもの、およびTSLP機能を保持するそのフラグメント、たとえば可溶性ドメインが含まれる。
【0078】
本発明の修飾ポリペプチドの有用な誘導体には、たとえば少なくとも1つの化学的付加部分または少なくとも1つの付加異種ポリペプチド、たとえばグリコシル基、脂質、リン酸、アセチル基、またはC−末端もしくはN−末端融合タンパク質などに結合して共有結合体または凝集結合体を形成した、修飾ヒトTSLPポリペプチドが含まれる。好ましい異種ポリペプチドには、修飾ヒトTSLPの精製、安定性、細胞もしくは組織のターゲティング、または分泌を容易にするものが含まれる。
【0079】
ヒトTSLPポリペプチドのアミノ酸配列の修飾は、多数の既知技術のいずれかにより達成できる。たとえば、オリゴヌクレオチド特異的変異誘発などの既知方法により、特定の位置に変異を導入できる(Walder et al.,1986,Gene,42:133;Bauer et al.,1985,Gene,37:73;Craik,1985,BioTechniques,12−19;Smith et al.,1981,Genetic Engineering:Princioles and Methods,Plenum Press;ならびにUSP4,518,584およびUSP4,737,462)。
【0080】
本発明の修飾ヒトTSLPポリペプチドは、好ましくは単離した形で、好ましくは実質的に精製した形で提供される。下記を含めた既知の方法で、組換え細胞培養物からポリペプチドを回収および精製することができる:硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー。好ましい態様においては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を精製に用いる。
【0081】
修飾ヒトTSLPを、そのポリペプチドの精製を容易にするために用いる異種領域に融合させることができる。入手可能な多数のペプチド(ペプチドタグ)により、融合タンパク質を結合パートナーに選択的に結合させることができる。限定ではないが、ペプチドタグの例には6−His、チオレドキシン、ヘマグルチニン、GST、およびOmpAシグナル配列タグが含まれる。ペプチドを認識してそれに結合する結合パートナーはいかなる分子または化合物であってもよく、異種ペプチドを結合して融合タンパク質の精製を可能にする金属イオン(たとえば金属アフィニティーカラム)、抗体、抗体フラグメント、およびいずれかのタンパク質またはペプチドがこれに含まれる。
【0082】
修飾したフューリン開裂部位を含むフラグメント(フューリン開裂部位を欠失したフラグメントも含まれる)を用いて、修飾huTSLPポリペプチドに特異的な抗体を生成することができる。これらのフラグメントは、アミノ酸5〜20個、好ましくはアミノ酸5〜10個の短いものである。既知の選択方法を用いて、特異的エピトープを選択し、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の生成に使用できる。そのような抗体は、プロテアーゼ抵抗性huTSLP活性のアッセイ、プロテアーゼ抵抗性huTSLPの発現の特異的同定、および細胞培養物からの修飾huTSLPの精製に有用である。
【0083】
修飾TSLPポリヌクレオチド配列
本発明は、本発明の修飾huTSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む単離核酸分子をも提供する。本発明のポリヌクレオチドには、SEQ ID NO:4のほぼアミノ酸残基127−131に位置するフューリン開裂部位RRKRK[SEQ ID NO:6]をコードするコドン、たとえばポリヌクレオチド配列AGG AGA AAA AGG AAA[SEQ ID NO:5]を撹乱その他の形で不活性化する、読み枠内のヌクレオチド配列修飾をもつものが含まれる。適切な修飾には、読み枠内の核酸置換、欠失、付加、またはこれらの組合わせであって、RRKRKをコードする配列を変化させて、コードされるフューリン開裂部位パターンRXXR、特にRX(R/K)Rを撹乱するものが含まれる。たとえば1態様においては、アミノ酸配列RKRKV[SEQ ID NO:8]をコードする配列AGA AAA AGG AAA GTC[SEQ ID NO:7]が欠失している。
【0084】
修飾ヒトTSLPポリヌクレオチドの例
【0085】
【表2】

【0086】
x()は、フューリン開裂部位の活性を撹乱する、読み枠内のヌクレオチド置換、欠失、挿入、またはこれらの組合わせを表わすことができる。
SEQ ID NO:9に示した1態様例では、各xxxがRまたはL以外の任意のアミノ酸、好ましくは中性アミノ酸をコードする。他の態様においては、1以上、好ましくは2以上のコドンxxxが欠失し、最も好ましくはアルギニン(R)残基をコードする2以上のコドンが欠失し、最も好ましくは各xxxが欠失コドンを表わす。他の態様においては、1個以上、好ましくは2個以上のxが、KまたはRをコードするコドンを形成しない、好ましくは中性アミノ酸をコードするヌクレオチド置換である。他の態様においては、1以上のコドンが挿入されて、前記フューリン開裂部位のアミノ酸配列を撹乱する;たとえばRRKZRK。コドンを修飾してフューリン開裂部位パターンRXXR、特にRXR/KRを不活性化するための他の方法の例は自明であり、本発明に含まれる。
【0087】
したがって、本発明の修飾huTSLPポリヌクレオチドには、付加、欠失または置換が開裂部位を不活性化し、かつTSLP活性を保持したフューリン抵抗性huTSLPポリペプチド分子をコードする限り、SEQ ID NO:3に対する、読み枠内の欠失、置換、または付加をもつポリヌクレオチドが含まれる。さらに、本発明のポリヌクレオチドには、実質的にこの修飾SEQ ID NO:3と類似する配列をもつポリヌクレオチドまたはSEQ ID NO:3のフラグメントであって、少なくとも1つのTSLP活性とフューリン抵抗性の両方を保持した修飾TSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。本明細書中で用いるように、核酸分子は、そのポリヌクレオチド配列が他の核酸分子の配列と少なくとも約80%同一、好ましくは少なくとも約90%同一、より好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約98%同一、最も好ましくは少なくとも約99%同一であり、かつTSLP活性とフューリン抵抗性の両方を保持した本発明の修飾TSLPポリペプチドをコードする場合、この他の(第2の)核酸分子と”実質的に類似する”。ポリヌクレオチド配列の同一性は、既知方法により、たとえばGreg Schulerが作製したMACAWなどのソフチウェアプログラムにおいて2配列をアラインすることにより決定される。同一性%はさらに、視覚検査と数学的計算により、またはDevereux et al.,1984,Nucl.Acids Res.12:387が記載したGAPコンピュータープログラム、バージョン6(ウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)から入手できる)を用いて配列情報を比較することにより決定できる。
【0088】
本発明の修飾huTSLPポリヌクレオチドは、cDNA、化学合成DNA、PCR増幅DNA、RNA、またはその組合わせであってよい。遺伝子コードの縮重のため、2つのDNA配列が異なるにもかかわらず同一アミノ酸配列をコードする可能性がある。したがって本発明は、修飾huTSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列をもつ核酸分子を提供する。本発明の核酸分子は、フューリン開裂部位RRKRKを不活性化するように修飾したSEQ ID NO:4に実質的に類似するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列をもつ。本明細書中で用いる”実質的に類似する”とは、修飾SEQ ID NO:4に対して少なくとも約80%の同一性をもつポリペプチドであって、フューリン開裂に対する抵抗性とTSLP活性の両方を保持したポリペプチドを表わす。
【0089】
本発明には、SEQ ID NO:9、11、13または15をもつポリヌクレオチド、およびこれらのポリヌクレオチド配列に実質的に類似するポリヌクレオチドも含まれる。本発明はさらに、SEQ ID NO:10、12、14、16、17または18のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびこれらのポリペプチドに実質的に類似するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0090】
本発明ポリヌクレオチドの有用なフラグメントには、プローブおよびプライマーが含まれる。これらは、たとえばPCR法において修飾huTSLPポリヌクレオチドをインビトロで増幅してその存在を検出するために、ならびにサザンおよびノーザンブロット法においてプロテアーゼ抵抗性huTSLPを分析するために使用できる。本発明のプロテアーゼ抵抗性huTSLPポリヌクレオチド分子を一過性または安定に過剰発現する細胞も、このようなプローブを用いて同定できる。そのようなプライマーおよびプローブを調製および使用する方法は既知である。
【0091】
他の有用なフラグメントには、ターゲットである修飾huTSLP mRNA(センス鎖を使用)またはDNA(アンチセンス鎖を使用)配列に結合しうる一本鎖核酸配列を含むアンチセンスまたはセンスオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0092】
ベクターおよび宿主細胞
本発明は、前記ポリヌクレオチドを含有するベクター、およびそのようなベクターで形質転換した宿主細胞を提供する。本発明のポリヌクレオチド分子はいずれもベクターに含有させることができる。ベクターは一般に、選択マーカーおよび宿主における増殖のための複製起点を含む。ベクターはさらに、修飾huTSLPポリヌクレオチド分子に機能可能な状態で結合した適切な転写または翻訳調節配列、たとえば哺乳動物、微生物、ウイルスまたは昆虫の遺伝子に由来するものを含む。そのような調節配列の例には、転写プロモーター、オペレーターまたはエンハンサー、mRNAリボソーム結合部位、ならびに転写および翻訳を制御する適切な配列が含まれる。調節配列がターゲットタンパク質をコードするDNAに対して機能的関係にある場合、それらのヌクレオチド配列は機能可能な状態で結合している。よって、プロモーターヌクレオチド配列が修飾TSLP配列の転写を指令するならば、そのプロモーターヌクレオチド配列は修飾huTSLP DNA配列に機能可能な状態で結合している。
【0093】
本発明のプロテアーゼ抵抗性huTSLPポリヌクレオチド分子のクローニングに適したベクターの選択は、ベクターにより形質転換する宿主細胞、および適用可能な場合にはターゲットポリペプチドを発現させる宿主細胞に依存するであろう。適切な宿主細胞には、原核細胞、酵母および高等動物細胞が含まれ、これらのそれぞれについて後記に述べる。哺乳動物細胞において修飾huTSLPポリペプチドを発現させるのが好ましいことを留意されたい。
【0094】
宿主細胞において発現させる修飾huTSLPポリペプチドは、TSLPポリペプチドおよび少なくとも1つの異種ポリペプチドを含む融合タンパク質であってもよい。前記のように、たとえば修飾huTSLPポリペプチドの分泌、安定性、精製および/またはターゲティングを容易にするために、異種ポリペプチドをTSLPに融合させることができる。本発明により提供される融合タンパク質の例には、修飾TSLPポリペプチドと、たとえばFcポリペプチドとの融合体、およびTSLPポリペプチドのオリゴマー化を促進するロイシンジッパードメインとの融合体が含まれる;WO 00/29581に記載。
【0095】
他の態様においては、適切なシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに取り込ませることができる。シグナルペプチド(分泌リーダー)をコードする核酸配列を、読み枠が一致した状態で修飾huTSLP配列に融合させることができ、これにより修飾huTSLPはシグナルペプチドを含む融合タンパク質として翻訳される。目的とする宿主細胞において機能するシグナルペプチドは、そのポリペプチドの細胞外分泌を促進する。好ましくは、修飾huTSLPポリペプチドが細胞から分泌されると、シグナル配列はそのポリペプチドから開裂する。限定ではないが、本発明を実施する際に使用できるシグナル配列の例には、酵母I−因子およびSf9昆虫細胞中のミツバチメラチン(melatin)リーダーが含まれる。
【0096】
本発明のターゲットポリペプチドを発現させるのに適した宿主細胞には、原核細胞、酵母および高等真核細胞が含まれ;哺乳動物細胞が最も好ましい。これらのポリペプチドの発現に使用できる適切な原核細胞宿主には、エシェリキア属(Escherichia)、バシラス属(Bacillus)およびサルモネラ属(Salmonella)の細菌、ならびにシュードモナス属(Pseudomonas)、ストレプトミセス属(Streptomyces)およびスタフィロコッカス属(Staphylococcus)のメンバーが含まれる。原核細胞、たとえば大腸菌(E.coli)における発現について、修飾huTSLPポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子は、好ましくは組換えポリペプチドの発現を容易にするためのN末端メチオニン残基を含む。このN末端Metは所望により発現ポリペプチドから開裂してもよい。
【0097】
原核宿主細胞において発現させるために用いる発現ベクターは、一般に1以上の表現型選択マーカー遺伝子を含む。そのような遺伝子は一般に、たとえば抗生物質耐性を付与するタンパク質または栄養要求性を与えるタンパク質をコードする。多様なそのようなベクターを業者から容易に入手できる。一例には、pSPORTベクター、pGEMベクター(Promega)、pPROEXベクター(LTI、メリーランド州ベテスダ)、Bluescriptベクター(Stratagene)およびpQEベクター(Quiagen)が含まれる。
【0098】
修飾huTSLPは、サッカロミセス属(Saccharomyces)、ピチア属(Pichia)およびクルベロミセス属(Kluveromyces)を含めた属の酵母宿主細胞において発現させることもできる。好ましい酵母宿主はサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)およびピチア・パストリス(P.pastoris)である。酵母ベクターは、2T酵母プラスミド由来の複製起点配列、自律複製配列(ARS)、プロモーター領域、ポリアデニル化のための配列、転写終止のための配列、および選択マーカー遺伝子を含むことがしばしばある。酵母と大腸菌の両方において複製可能なベクター(シャトルベクターという)も使用できる。シャトルベクターは、酵母ベクターの前記特色のほか、大腸菌における複製および選択のための配列をも含む。酵母宿主において発現したターゲットポリペプチドの直接分泌は、修飾huTSLPをコードするヌクレオチド配列の5’末端に、酵母I−因子リーダー配列をコードするヌクレオチド配列を組み込むことにより達成できる。
【0099】
昆虫宿主細胞系も修飾huTSLPポリペプチドの発現に使用できる。本発明のターゲットポリペプチドは、好ましくはバキュロウイルス発現系を用いて発現させる;Luckow and Summers,1988,Bio/Technology,6:47の概説に記載。
【0100】
好ましい態様においては、本発明の修飾huTSLPポリペプチドを哺乳動物宿主細胞において発現させる。限定ではないが、適切な哺乳動物細胞系の例には、下記のものが含まれる:COS−7サル腎細胞系(Gluzman et al.,1981,Cell,23:175)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Puck et al.,1958,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60,1275−1281);CV−1細胞(ATCC CRL−10478);293細胞、COS細胞およびヒト子宮頚癌細胞(HELA)(ATCC CCL 2)。
【0101】
本発明のターゲットポリペプチドを発現させるのに適した発現ベクターの選択は、使用する個々の宿主細胞に依存するであろう。適切な発現ベクターの例には、pDC 409(McMahan et al.,1991,EMBO J.10:2821)、pDC 317(Source)、pcDNA3.1/Hygro(Invitrogen)、pSVL(Pharmacia Biotech)、およびWO 01/27299に記載のベクターが含まれる。
【0102】
哺乳動物宿主細胞に用いる発現ベクターは、ウイルスゲノム由来の転写および翻訳制御配列を含むことができる。慣用されるプロモーター配列およびエンハンサー配列であって修飾ヒトTSLPを発現させるために使用できるものには、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス2、ポリオーマウイルスおよびシミアンウイルス40(SV40)に由来するものが含まれるが、これらに限定されない。哺乳動物発現ベクターの構築方法は、たとえばOkayama and Berg,1983,Mol.Cell Biol.3:280;Cosman et al.,1986,Mol.Immunol.23:935;Cosman et al.,1984,Nature,312:768;EP−A−0367566;およびWO 91/18982に示されている。
【0103】
特定のベクターへの挿入を容易にするため(たとえば制限部位の修飾による)、特定の発現系または宿主における使用を容易にするため(たとえば好ましい宿主コドンを使用)など、プロテアーゼ抵抗性huTSLPポリヌクレオチド分子の修飾は既知であり、本発明に使用できると考えられる。修飾ヒトTSLPポリペプチドを産生するための遺伝子工学的方法には、既知方法による無細胞発現系、細胞性宿主、組織、および動物モデルにおけるポリヌクレオチド分子の発現が含まれる。
【0104】
組成物
本発明は、実質的に精製された本発明の修飾huTSLPポリペプチドおよびキャリヤーを含有する組成物を提供する。本発明は、医薬用途に適した、たとえば医薬的に許容できるキャリヤーを含有する組成物を、療法用として提供する。本発明の医薬組成物は、たとえばB細胞およびT細胞の活性を誘発するために;たとえば免疫抑制患者(たとえばエイズ)において免疫細胞の増殖および発達を刺激する療法処置のために、細胞、組織または患者に投与される。修飾huTSLPポリペプチドを含有する医薬組成物は、ワクチンアジュバントとしても有用であり、たとえば長期免疫の獲得のために有用である。
【0105】
本発明は、BおよびT細胞活性の分析;STAT5活性の分析;ならびに自然免疫系応答に関与するシグナル分子の阻害/刺激作用の分析に有用な試薬、組成物および方法をも提供する。
【0106】
抗体
本発明のポリペプチドの全部または一部を用いて、修飾huTSLPポリペプチドの発現を検出するアッセイに有用な、また過剰発現させた修飾ヒトTSLPの精製に用いるための、抗体を生成することができる。修飾TSLPポリペプチドに対する抗体は、ある系のTSLP活性に対するアンタゴニストとして使用できる。ペプチドエピトープの選択および抗体産生のための方法は既知である。たとえば下記を参照:Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow and Land(編),1988,Cold Spring Harbor Laboratory Press,ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー;Monoclonal Antibodies,Hybridomas:A New Dimension in Biological Analyses,Kennet et al.(編),1980,Plenum Press,ニューヨーク。
【0107】
本発明の修飾TSLPポリペプチドの全部または一部は、抗体産生のほか、たとえばTSLP受容体を発現する細胞および組織への結合をターゲティングするためのターゲティング部分として使用できる。
【0108】
アッセイ法
ヒトTSLP活性は、B細胞およびT細胞の増殖および発達に対するhuTSLP作用に関するアッセイ法を含めた多数のアッセイ法を用いて同定および測定できる。そのようなアッセイ法のひとつを実施例3に記載する。本明細書の実施例3に記載するように、増殖のために活性TSLPを必要とし、ヒトTSLP受容体を発現するBAF細胞(BAF/HTR)を用いて、TSLP活性を測定できる。huTSLP活性を測定するための他のアッセイ法には、たとえばWO 00/29581に記載されるように、TSLPによるヒト骨髄からのT細胞増殖の誘発を測定するアッセイ法が含まれる。他のTSLP活性は、参考文献Levin et al.,1999,J.Immunol.,162:677−683および本明細書の実施例4に記載されるように、STAT5を活性化する能力である。
【0109】
これらのアッセイ法を用いて、種々の修飾TSLPポリペプチドならびにその変異体および誘導体についてTSLP活性を相対的に測定および定量できる。さらに、これらのアッセイ法を用いて、TSLP活性を修飾する作用またはTSLP活性を排除する作用をもつ薬剤を同定できる。たとえば被験薬剤の存在下で修飾huTSLPにより活性化される試験活性が被験薬剤の不存在下での活性と比較して低い場合、その被験薬剤は修飾huTSLPの活性を低下させたことを示す。被験薬剤の存在下でプロテアーゼ抵抗性huTSLPにより活性化された試験活性が被験薬剤の不存在下での活性より高い場合、その被験薬剤はプロテアーゼ抵抗性huTSLPの活性を高めたことを示す。修飾huTSLPの刺激薬および阻害薬は、huTSLP仲介による活性の増強、阻害または修飾に使用でき、したがって療法用として使用できる。たとえば修飾huTSLPの阻害薬は、たとえば自己免疫疾患または臓器移植を受ける患者において、B細胞およびT細胞の活性を低下させるのに有用である。
【0110】
療法用途
本発明の修飾huTSLPポリペプチドは、前記刊行物に述べられたhuTSLPポリペプチドの療法使用について既知のものと同じ方法で療法に使用できる。ヒトTSLPはB細胞およびT細胞の活性を刺激するのに有用である。たとえば、huTSLP、好ましくはマイクロモル量の可溶性修飾huTSLPは、B細胞およびT細胞の分化、増殖および活性化を誘発する。そのような投与は、細菌およびウイルス感染症の処置ならびに腫瘍細胞および自己免疫不全の処置において療法上有用である。
【0111】
さらに、本発明のポリペプチドを単独でまたはIL−7と組み合わせて用いて、オートロガス骨髄移植後の患者の免疫系を再構成できる(たとえばAbdul−Hai et al.,1996,Experimental Hematology,24:1416−1422参照)。TSLPはSTAT5に作用することが知られているので、患者に対するSTAT5作用の改変を目標とした療法にも使用できる(Richer et al.,1998,J.Biol.Chem.273(47):31317−31326;Davey,et al.,1999,Am.J.Hum.Genet.65:959−965;Nosaka,et al.,1999,EMBO J,18(17):4754−4765参照)。
【0112】
本発明の修飾ヒトTSLPポリヌクレオチドおよびポリペプチド(修飾huTSLPを発現するベクターを含む)は、選択した投与経路に適合する多様な形態の医薬組成物として配合して、宿主、好ましくは哺乳動物宿主(ヒト患者を含む)に投与することができる。本発明化合物は好ましくは医薬的に許容できるキャリヤーと組み合わせて投与され、ターゲティング抗体および/またはサイトカインを含めた特異的送達物質と組み合わせ、または結合させることができる。
【0113】
修飾ヒトTSLPは、既知の手法で、たとえば経口、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内注射または注入法を含む)、吸入、噴霧、局所、粘膜からの吸収、または直腸投与により、医薬的に許容できる一般的な無毒性キャリヤー、アジュバントまたはビヒクルを含有する投与単位配合物として投与できる。本発明の医薬組成物は、経口投与に適した懸濁液剤もしくは錠剤、鼻腔スプレー剤、クリーム剤、無菌注射用製剤、たとえば無菌注射用水性もしくは油脂性懸濁液剤、または坐剤の形であってもよい。
【0114】
懸濁液剤として経口投与するためには、医薬製剤技術分野で周知の技術に従って組成物を調製することができる。本発明組成物は、バルクを与えるための微結晶セルロース、沈殿防止剤(suspending agent)としてのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、増粘剤としてのメチルセルロース、および甘味剤または着香剤を含有することができる。即時放出錠としての組成物は、微結晶セルロース、デンプン、ステアリン酸マグネシウムおよび乳糖、または当技術分野で既知である他の賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤および滑沢剤を含有することができる。
【0115】
吸入またはエアゾル剤による投与のためには、医薬製剤技術分野で周知の技術に従って組成物を調製することができる。本発明組成物は、当技術分野で既知であるベンジルアルコールその他の適切な保存剤、生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、フルオロカーボンその他の可溶化剤または分散剤を用いて、塩類溶液中の液剤として調製できる。
【0116】
注射用液剤または懸濁液剤として投与するためには、当技術分野で周知の技術に従って、適切な分散剤または湿潤剤、および沈殿防止剤、たとえば無菌の油(合成モノ−またはジグリセリドを含む)および脂肪酸(オレイン酸を含む)を用いて、組成物を調製できる。
【0117】
坐剤として直腸投与するためには、適切な非刺激性賦形剤、たとえばカカオ脂、合成グリセリドエステルまたはポリエチレングリコールと混合することにより組成物を調製できる。これらの賦形剤は周囲温度では固体であるが、直腸腔内では液化または溶解して薬物を放出する。
【0118】
好ましい投与経路には、経口、非経口、および静脈内、筋肉内または皮下経路が含まれる。より好ましくは、本発明組成物を非経口的に、すなわち静脈内もしくは腹腔内に、注入または注射により投与する。本発明の1態様においては、本発明化合物を腫瘍内注射により腫瘍に直接投与するか、あるいは静脈内注射により全身送達することができる。
【0119】
本発明化合物の液剤または懸濁液剤は、水、等張生理食塩水(PBS)中に、所望により無毒性界面活性剤と混合して調製できる。分散液剤は、グリセロール、液体ポリエチレン、グリコール、DNA、植物油、トリアセチン、およびその混合物中に調製することもできる。通常の保存および使用条件下で微生物の増殖を防止するために、これらの組成物は保存剤を含有することができる。
【0120】
注射または注入に適した剤形には、無菌水性液剤もしくは分散液剤、または有効成分を含む無菌散剤であって注射または注入用の無菌水性液剤もしくは分散液剤を即時調製するために調製されたものが含まれる。すべての場合、最終剤形は無菌の流体であり、かつ調製および保存の条件下で安定でなければならない。液状のキャリヤーまたはビヒクルは溶剤または液状分散媒質であってもよく、たとえば水、エタノール、ポリオール、たとえばグリセロール、プロピレングリコールまたは液体ポリエチレングリコールなど、植物油、無毒性グリセリルエステル、およびその適切な混合物が含まれる。たとえばリポソームの形成により、分散液剤の場合は必要な粒度の維持により、または無毒性界面活性剤の使用により、適切な流動性を維持できる。微生物作用の防止は、種々の抗菌薬および抗真菌薬、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどにより達成できる。多くの場合、等張剤、たとえば糖類、緩衝剤または塩化ナトリウムを含有することが望ましいであろう。注射用組成物の持続吸収は、組成物に吸収遅延剤、たとえばモノステアリン酸アルミニウムヒドロゲルおよびゼラチンを含有させることにより得ることができる。
【0121】
無菌注射用液剤は、必要量の本発明化合物を前記に述べた他の種々の成分と共に適切な溶剤に装入し、次いで必要に応じてフィルター除菌することにより調製される。無菌注射用液剤を調製するための無菌散剤の場合、好ましい調製方法は、予め無菌濾過した溶液中に存在する有効成分および目的とする追加成分の真空乾燥法および凍結乾燥法により粉末を得る方法である。
【0122】
本発明を全般的に記載したが、本発明は以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるであろう。実施例は説明のために示したものであり、限定のためのものではない。
【実施例】
【0123】
実施例
実施例1:フューリン開裂部位の識別および修飾
ネズミTSLPをコードする核酸配列(GenBank寄託番号AF232937)[SEQ ID NO:3]およびヒトTSLPをコードする核酸配列[SEQ ID NO:5]は、PCT出願WO 00/29581に開示されている。しかし、哺乳動物細胞はしばしば分解生成物を生じるので、有用な量のヒトTSLP cDNAを哺乳動物細胞において産生させるのが妨げられる。
【0124】
ヒト組換えTSLPを哺乳動物細胞において発現させると、予想より実質的に少ない量の全長組換えタンパク質が得られた。発現タンパク質の一部は開裂フラグメント状であり、6kDの主分解生成物を含んでいた。ヒトTSLPと異なり、ネズミTSLPは哺乳動物細胞において発現させても分解しなかった。そこで、ヒトとネズミのTSLPの核酸配列およびアミノ酸配列を比較した。表1に示すように、ヒトTSLPアミノ酸配列とネズミTSLPアミノ酸配列の比較により、ヒトTSLPのみにみられる、残基128に始まる一連の残基が明らかになった(128−RKRKV−132)。さらに調べると、これらの残基は推定フューリン開裂部位(127−RRKRK−131)を表わすと判定された。重要な点は、この推定フューリン開裂部位の位置がヒトTSLPの約6kDのC末端フラグメントの放出と相関することであった。
【0125】
huTSLPアミノ酸配列は、シグナルペプチドとして機能するN末端疎水性領域を含み、4ヘリックス束サイトカイン構造を形成する一連の4ヘリックスがこれに続く。推定フューリン開裂部位はこの4ヘリックス束の第4ヘリックス開始点の約8アミノ酸前に位置する。このタンパク質をこの開裂部位でトランケーションすると、不活性化したヒトTSLPタンパク質が得られる。
【0126】
【表3】

【0127】
TSLPタンパク質を哺乳動物細胞培養において発現させて単離し、たとえば電気泳動により分析すると、ゲル上の多数のバンドが示すように、多数のポリペプチドが得られる。タンパク質混合物中の最も顕著なバンドは約6kDの分子量をもつ。6kDフラグメントのアミノ酸配列はTSLPのC末端に対応し、これは開裂点がフューリン開裂部位RRKRKにあることを示唆する。このデータは、哺乳動物細胞において発現したヒトTSLPの分解がフューリン開裂部位における開裂により生じたことの直接的証拠となる。
【0128】
実施例2:ヒトTSLPのフューリン部位の変異誘発
部位特異的変異誘発を利用して、313−ヒト−TSLP His−FLAG(#14095)(1mg/ml)を鋳型として用いたヒトTSLPポリ−His FLAG転写体から、フューリン開裂部位を不活性化した。一連のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、推定フューリン開裂部位を含むhuTSLPセグメント:RKRKV[SEQ ID NO:8]をコードするヌクレオチド配列:AGA AAA AGG AAA GTC[SEQ ID NO:7]を欠失させた。さらに、Sal−1制限部位を5’末端に、Not−1部位を3’末端に形成するプライマーの組合わせを設計した。これらのプライマーは下記のものであった:
【0129】
【表4】

【0130】
ヒトTSLPのポリヌクレオチド配列を下記に示す:
【0131】
【表5】

【0132】
プライマー1および3を第1PCR反応に用いて、409塩基のPCR生成物を形成した。プライマー1はSal−1制限部位を含み、一方、プライマー3は15塩基のフューリン開裂配列を欠失している。プライマー2および4を第2PCR反応に用いて、162塩基の第2PCR生成物を形成した。プライマー4はNOT−1制限部位を含み、一方プライマー2は15塩基のフューリン開裂部位を欠失している。
【0133】
PCR反応物は下記のものを含有していた:10TlのAmplitaq 10×緩衝液;1TlのAmplitaq;2TlのdNTP(各10pM);40pMの各プライマー;1Tlの鋳型;最終体積100Tlとなる量の水。PCRはPerkin Elmer−Gene Amp PCRシステム2400装置を用いて下記の条件で実施された:94℃,2:00分を1サイクル;94℃,0:30分,50℃,0:15分,および72℃,1:00分を30サイクル;そして72℃,2:00分を1サイクル。
【0134】
PCR生成物を1%低融点アガロースゲル上で精製した。適宜なサイズのバンドをゲルから切り取り、High Pure PCR生成物精製キット(Boehringer Mannheimから入手)によりDNAを精製した。ゲル精製した409および162塩基の生成物をプライマー1および4と混和して、558塩基対のPCR生成物を形成した。これは、フューリン開裂部位をコードする15塩基対領域を欠失した全長ヒトTSLPポリ−His−FLAG配列を含んでいた。
【0135】
反応溶液は下記のものを含有していた:10TlのAmplitaq 10×緩衝液;1TlのAmplitaq;2Tl(各10pM)のdNTP;15.4Tl(40pM)のプライマー1;16Tl(40pM)のプライマー4;1Tl(41ng)のPCR生成物A;2Tl(119ng)のPCR生成物B;および最終体積100Tlとなる量の水。前記のように、PCR反応/条件はPerkin Elmer−Gene Amp PCRシステム2400装置を用いて実施された。反応終了後、558塩基対の生成物を1%低融点アガロースゲル上で分離および精製した。
【0136】
精製した修飾ヒトTSLP配列を、ベクターキットと共に供給される試薬を用いてベクターpGEM−T(Promega)中へライゲートした:1Tl pGEM−Tベクター;5Tl 2×ライゲーション緩衝液;1Tlリガーゼ;および1Tl 558塩基対の修飾ヒトTSLP(12ng)。反応溶液を室温に1時間放置した。ライゲーション混合物(2Tl)を40TlのDH10I−エレクトロコンピテント大腸菌と混和し、この細菌中へエレクトロポレーションした。次いで、エレクトロポレーションした細菌を0.9mkのSOC溶液に移し、37℃で1時間振とうした。
【0137】
体積0.1Tlのこの溶液をアンピシリン耐性プレート上に広げ、37℃で一夜インキュベートした。コロニーを採取して、アンピシリン含有LBブロス4mL中へ接種した。振とうプラットフォーム上37℃で一夜インキュベートした後、プラスミドDNAを精製し、NOT−1/Sal−1で消化して、挿入配列のサイズが適正であることを確認した。558塩基対の挿入配列を含むpGEM−Tベクターを配列決定して、この分子操作により目的変異が得られたことを確認した。
【0138】
pGEM−TベクターをNOT−1およびSal−1で消化して、558塩基対の挿入配列を発現ベクターpDC 409およびpDC 317中へサブクローニングした。消化およびライゲーション反応は当技術分野で周知のように実施された。次いで発現ベクターを用いて一過性トランスフェクションしたCV−1細胞(ATCC CRL−10478)を作製し、あるいは安定発現するCHO細胞を作製した。比較のため、無傷のフューリン開裂部位をもつヒトTSLPをコードする対照発現ベクターを用いて一過性および安定トランスフェクションした細胞を作製したことを留意されたい。
【0139】
huTSLPおよび修飾huTSLPタンパク質を、それぞれCV−1細胞においてHIS、Flag融合タンパク質として発現させた。発現タンパク質をIMAC(immobilized metal affinity chromatography、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー、製造業者(Quiagen)の指示を採用)により精製した。発現タンパク質を還元および非還元条件下のSDS−PAGEにより分析して、修飾huTSLPが生成したことを証明した。
【0140】
フューリン開裂部位を除去した構築された修飾ヒトTSLP配列を、全長ヒトTSLPタンパク質として哺乳動物培養(CV−1細胞)において発現させた。非修飾ヒトTSLPと比較すると、フューリン部位欠失TSLPの発現に際しては分解生成物がほとんどまたは全く生成しなかった。これは、フューリン部位が実際に組換えヒトTSLPのフラグメント化に関与していたことを証明する。
【0141】
実施例3:活性な修飾ヒトTSLP
実施例2の記載に従って調製した修飾huTSLPの活性を、BAF/HRT細胞バイオアッセイにより証明した。BAF/HTRバイオアッセイには、ヒトTSLP受容体でトランスフェクションしたネズミプロBリンパ球系を使用する(Steven F.Ziegler,Virginia Mason Research Center,ワイオミング州シアトルから入手した細胞系)。このTSLP DNA配列はGenBankに寄託され(寄託番号AF201963)、Pandey et al.,2000,Nat Immun 1(1),59−64に記載されている。BAF/HTR細胞は増殖をhuTSLPに依存し、被験試料に添加した活性huTSLPに応答して増殖する。
【0142】
試料および標準品の力価測定を96ウェルマイクロタイター方式で実施した。ベースライン量のBAF/HRT細胞を各ウェルに添加した。修飾huTSLPの試料および標準品をウェルに添加した。インキュベーション期間後、Alamar Blue色素I(Biosource International,カタログ#DAL1100,10uL/ウェル)の添加により細胞増殖を測定した。代謝活性BAF/HRT細胞はAlamar Blueを取り込んで還元し、これにより色素の蛍光特性を変化させる。修飾したプロテアーゼ抵抗性huTSLPによりこのアッセイにおいて得られた蛍光単位の数値は、標準の非修飾huTSLPのものと類似し、修飾huTSLPが非修飾huTSLPと同等に活性であることを示した。
【0143】
実施例4:修飾huTSLPによるSTAT5の活性化
本発明の修飾huTSLPがSTAT5を活性化する能力を、Levin et al.,1999(前掲)に記載の方法に従って分析する。要約すると、NAG8/7細胞を4〜5時間サイトカイン枯渇させ、次いで10個/mlを100ng/mlの修飾ヒトTSLPで刺激する。非修飾huTSLPを対照として用いる。インキュベーション後、細胞を収穫、洗浄および溶解した。刺激した細胞溶解物をイムノブロットアッセイにより分析し、対照と比較して修飾huTSLP活性を証明する。
【0144】
本発明を具体例について本明細書に記載した。これらの例を本発明の範囲内で多様に変更および改変できる。多数の他の変更が当業者に自明であり、これらも本明細書に開示しかつ特許請求の範囲に定める本発明の精神に含まれる。
【0145】
本明細書に引用したすべての刊行物を参考として援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:4に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、SEQ ID NO:4の127−131の位置にあるフューリン開裂部位RRKRKを不活性化するように修飾され、かつ少なくとも1つのTSLP活性を有するポリペプチド、をコードするポリヌクレオチドを含む単離核酸分子。
【請求項2】
SEQ ID NO:10、12、14、16、17または18に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、かつ不活性化フューリン開裂部位および少なくとも1つのTSLP活性を有するポリペプチドを、ポリヌクレオチドがコードする、請求項1に記載の単離核酸分子。
【請求項3】
ポリヌクレオチドがSEQ ID NO:3またはその相補体に対して少なくとも80%の配列同一性を有し、該ポリヌクレオチドが不活性化フューリン開裂部位および少なくとも1つのTSLP活性を有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載の単離核酸分子。
【請求項4】
さらに、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を、請求項1に記載のポリヌクレオチドと読み枠が一致した状態で含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
異種タンパク質が細胞ターゲティング部分またはペプチドタグである、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
細胞ターゲティング部分が、細胞表面抗原を結合する抗体または細胞表面受容体に結合するリガンドである、請求項5に記載の核酸分子。
【請求項7】
異種タンパク質がFcポリペプチドである、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項8】
機能可能な状態で転写または翻訳調節配列に結合した、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項9】
転写または翻訳調節配列が転写プロモーターまたはエンハンサーを含む、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項10】
SEQ ID NO:4に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、SEQ ID NO:4の127−131の位置にあるフューリン開裂部位RRKRKを不活性化するように修飾され、かつ少なくとも1つのTSLP活性を有する、修飾したヒト胸腺ストローマ細胞リンホポエチン(TSLP)ポリペプチドを含むタンパク質。
【請求項11】
ポリペプチドがSEQ ID NO:10、12、14、16、17および18に対して少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有し、ポリペプチドが不活性化フューリン開裂部位および少なくとも1つのTSLP活性を有する、請求項14に記載のタンパク質。
【請求項12】
ポリペプチドが異種タンパク質に融合している、請求項10に記載のタンパク質。
【請求項13】
異種タンパク質がペプチドタグまたは細胞ターゲティング部分である、請求項12に記載のタンパク質。
【請求項14】
異種タンパク質がFcポリペプチドである、請求項12に記載のタンパク質。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の核酸分子を発現するように遺伝子工学的に処理された宿主細胞。
【請求項17】
請求項10に記載のポリペプチドおよび医薬的に許容できるキャリヤーを含む組成物。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の核酸分子を発現するように遺伝子工学的に処理された宿主細胞をインキュベートし、そして、少なくとも1つの機能性ヒトTSLP活性を有するフューリン抵抗性ポリペプチドを産生させる方法。
【請求項19】
患者においてリンパ球増殖、リンパ球形成を刺激する療法であって、患者に有効量の請求項10に記載のタンパク質または請求項12に記載のタンパク質を投与することを含む方法。
【請求項20】
STAT5のリン酸化を誘発する方法であって、STAT5を含有する試料を請求項10に記載のタンパク質または請求項12に記載のタンパク質と接触させることを含む方法。
【請求項21】
請求項10に記載のタンパク質およびキャリヤーを含むワクチンアジュバント。
【請求項22】
リンパ球増殖を刺激するための、リンパ球形成を促進するための、あるいはSTAT5のリン酸化を誘発するための医薬の製造における、請求項1に記載の核酸分子または請求項10に記載のタンパク質の使用。
【請求項23】
請求項10に記載のタンパク質に対する抗体。

【公開番号】特開2010−279365(P2010−279365A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153133(P2010−153133)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【分割の表示】特願2003−535704(P2003−535704)の分割
【原出願日】平成14年7月23日(2002.7.23)
【出願人】(591123609)イミュネックス・コーポレーション (24)
【氏名又は名称原語表記】IMMUNEX CORPORATION
【Fターム(参考)】