説明

修飾ヌクレオチド及びこれを用いたリアルタイムポリメラーゼ反応

【課題】修飾ヌクレオチド及びこれを用いたリアルタイムポリメラーゼ反応に関する。
【解決手段】蛍光物質が連結されたヌクレオチド、これを含むリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物、分析キット、及び分析方法に関するものである。ポリメラーゼ反応基質のうちの一つであるヌクレオチドを化学的に修飾して、基質の役割以外に蛍光信号の発生の役割も付与することによって、プローブを製作する必要がないので経済的であり、PCR、RCA、及び等温重合反応など多様なリアルタイムポリメラーゼ反応に容易に適用されることができ、分析性能も従来の方法に比べて非常に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は修飾ヌクレオチド及びこれを用いたリアルタイムポリメラーゼ反応に関し、具体的には、本発明は、蛍光物質が連結されたヌクレオチド、これを含むリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物、分析キット、及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAポリメラーゼ反応の定量分析は、特定遺伝子の発現程度の測定、試料内の特定遺伝子の定量、またはDNA−抗体結合体を用いて行うイムノPCR(immuno−PCR)などの、多様な技術に必須の過程である。
【0003】
このような定量分析のためには、DNAそのものは信号を放出する部位を含んでいないため、反応の進行程度を信号化して検出することができる方法が必要である。
【0004】
伝統的には、ゲル−電気泳動の後、DNA塩基の間に挿入可能な染料で着色する方法が幅広く利用されていたが、前記方法は過度に煩わしく、自動化も不可能であり、また、DNA検出の動的領域が非常に狭いという短所がある。さらに、前記ゲルを用いた方法は、終点検出(end−point detection)による反応産物のDNAを定量することであるため、反応進行の過程でポリメラーゼ反応によって作られるDNAの量をリアルタイムで定量するのは不可能である。
【0005】
このような短所を克服し、リアルタイムポリメラーゼ反応分析を可能にするために、現在、二種類の蛍光信号プローブ分子が使用されている。
【0006】
そのうちの一つはDNA結合蛍光染料(例えば、SYBR Green I)を使用する方法であって、前記染料は本来蛍光を放出することはないが、DNAと結合すると蛍光を放出する性質を有しており、反応の進行によって生成されるDNA二重鎖の量に比例して、染料がDNAと結合するようになる。これによってDNA二重鎖の量に比例して蛍光強度信号を収得することができる。
【0007】
また、他の方法は、5’及び3’の両末端に、各々蛍光物質(fluorophore)及び蛍光消光物質(quencher)を標識したオリゴヌクレオチドを用いる方法である。前記オリゴヌクレオチドの塩基配列は、重合して生成されるDNAの塩基配列の一部分と相補的である。ポリメラーゼ反応溶液に前記オリゴヌクレオチドを含ませて反応させると、ポリメラーゼが前記相補的な部分に結合するようになり、オリゴヌクレオチドが構造的に変形するか(例えば、ハイブリダイゼーションプローブ)、またはポリメラーゼのヌクレアーゼ活性によって破壊されることにより(例えば、TaqMan probeなどの加水分解プローブ)、蛍光強度が増加する。したがって、生成されたDNAの量に比例して蛍光強度が増加するようになり、この信号を利用すれば、リアルタイムでポリメラーゼ反応を定量的に分析することができる。
【0008】
しかし、前記二種類の方法は、多くの短所があることが指摘されている。
【0009】
まず、DNA結合蛍光染料を用いた方法は、蛍光染料そのものがしばしばポリメラーゼ反応の効率に影響を与える恐れがあり、また蛍光染料は単鎖DNAよりも二重鎖DNAにより大きな結合力を有するため、RCA(rolling circle amplification)のような、単鎖DNAがポリメラーゼ反応の産物である場合には、分析に利用できないという短所がある(Gusev、Y et al.American Journal of Pathology、159、63−69、2001)。また、前記DNA結合蛍光染料を用いてリアルタイムPCR分析を行う場合、プライマー二量体(primer dimer)のように、ポリメラーゼ反応と関係なく生成された二重鎖にも非特異的に結合して蛍光信号を放出することができるため、偽陽性信号(false−positive signal)が発生するという問題もある(Ponche、F et al.BMC Biotechnology、3、18、2003)。
【0010】
また、オリゴヌクレオチドを用いる方法は、プローブの製造費用が相対的に高く、また所望の検出信号を得るためには、注意深く塩基配列を選択してプローブを製作しなければならないという問題がある。特に、温度変化を与えない等温反応(isothermal reaction)条件によって、DNA二重鎖が生成されるポリメラーゼ反応においては、生成された二重鎖の熱的安定性により、オリゴヌクレオチドプローブ分子が結合し難くなり、または結合するとしても非常に長い時間が必要であるため、分析が不可能である。このような短所は、該プローブは反応そのものには必要ないが、信号検出のためにさらに製作されて使用されることが原因であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の化学式(1)で示される蛍光物質が連結されたヌクレオチドを提供する。
【化1】

【0013】
また、本発明は、前記ヌクレオチドを含むリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記リアルタイムポリメラーゼ反応用組成物を含む、リアルタイムポリメラーゼ反応用分析キットを提供する。
【0015】
また、本発明は、(a)前記リアルタイムポリメラーゼ反応用組成物及び検出対象の核酸の部位を増幅させるプライマーを準備する段階と、(b)試料から核酸を抽出し、これを鋳型にして前記(a)段階で準備されたリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物及びプライマーを用いてリアルタイムポリメラーゼ反応を行う段階と、及び(c)前記(b)段階における蛍光信号を測定し、検出対象の核酸の量を定量分析する段階とを含む、リアルタイムポリメラーゼ反応分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ポリメラーゼ反応基質のうちの一つであるヌクレオチドを化学的に修飾して、基質の役割以外に蛍光信号の発生の役割も付与することにより、プローブを製作する必要がないので、経済的であり、かつPCR、RCA、及び等温重合反応などの、多様なリアルタイムポリメラーゼ反応に容易に適用されることができ、分析性能も従来の方法に比べて非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドを用いてリアルタイムポリメラーゼ反応を行う場合の蛍光信号の発生原理を示した概略図である。
【図2】本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドを合成する方法を示した反応式である。
【図3】本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドを基質としてポリメラーゼ反応を誘導できるポリメラーゼを検索した、PAGE(polyacrylamide gel electrophoresis)の結果を示したものである。
【図4】本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドとTherminator γ DNAポリメラーゼを用いた、リアルタイムPCRの定量分析の結果を示したグラフである(標準試料のDNA濃度を10nM乃至10fMに、10倍数に設定した)。
【図5】天然型ヌクレオチドとTaq DNAポリメラーゼを用いた、リアルタイムPCRの定量分析の結果を示したグラフである。
【図6】本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドとphi29 DNAポリメラーゼを用いたリアルタイムRCAの分析の結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0019】
本発明において蛍光物質が連結されたヌクレオチドは、ヌクレオチドのγリン酸基にリンカーを介して蛍光物質が結合された構造であって、ヌクレオチドそのものに、蛍光消光物質として作用するプリン系の塩基と蛍光物質とを含んでいる。
【0020】
本発明において、蛍光物質が連結されたヌクレオチドは、下記の化学式(1)で示されることを特徴とする。
【化2】

【0021】
前記化学式(1)で、Rはアデニンまたはグアニンであり、前記Rは−(CHOCH−CHNH−、−NHCH−(CHOCH−CHNH−、−(CH−NH−、または−NH−(CH−NH−であり、ここで、mは1乃至20の整数であり、nは2乃至60の整数であり、前記Rは蛍光物質であり、前記YはOまたはSである。
【0022】
本発明において、蛍光物質が連結されたヌクレオチドは、前記のようにプリン系の塩基を有するdATP(deoxyadenosine triphosphate)またはdGTP(deoxyguanosine triphosphate)のγリン酸基にリンカー(R)を連結し、これに蛍光物質(R)が結合した構造である。前記リンカー(R)は、−(CHOCH−CHNH−、−NHCH−(CHOCH−CHNH−、−(CH−NH−、または−NH−(CH−NH−であり、ここで、前記mが20を超えるか、または前記nが60を超える場合、ヌクレオチド内に蛍光消光物質として作用するプリン系の塩基部位と蛍光物質との間の距離があまりに遠くなりすぎて、蛍光消光が効果的に起こらない恐れがあり、また、前記mが1未満であるか、または前記nが2未満である場合には、ポリメラーゼの基質として利用できないこともあるため、前記mは1乃至20の整数であり、前記nは2乃至60の整数であるのが好ましい。より好ましくは、前記mは2乃至10の整数であり、前記nは2乃至20の整数である。最も好ましくは、前記nは2乃至5の整数である。
【0023】
本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドは、それ自体に蛍光消光物質として作用するプリン系の塩基と蛍光物質とを含んでいることが特徴である。具体的には、DNAポリメラーゼによって本発明のヌクレオチドが基質として使用される時、副産物として蛍光が標識されたピロリン酸塩が生成されながら、反応前に実質的に消滅していた蛍光強度が復元されて増加する(図1参照)。
【0024】
したがって、従来のリアルタイムポリメラーゼ分析方法において、反応に関与する基質(dNTPs)以外に、さらに蛍光信号の発生のためのプローブが必須であるのに対して、本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドを用いる場合、反応に関与する基質以外の追加的なプローブは必要ないので、反応そのものを行うことによって蛍光信号の発生が可能になる。
【0025】
本発明における蛍光物質は、プリン塩基によって蛍光強度が実質的に消滅される物質であれば特に限定されないが、好ましくはフルオレセイン(fluorescein)、ボディピー−FL(Bodipy−FL)、ボディピー−R6G(Bodipy−R6G)、パシフィックブルー(Pacific Blue)、マリーナブルー(Marina Blue)、クマリン(coumarin)、テトラメチルローダミン(tetramethylrhodamine)、Cy5、Cy3、及びテキサスレッド(Texas Red)からなる群より選択されるものが使用され、最も好ましくは、プリン塩基によって蛍光強度が最も大きく実質的に消滅されるボディピー−FL(Bodipy−FL)が使用される。
【0026】
本発明の蛍光物質が連結されたヌクレオチドは、(1)dATPまたはdGTPと、2乃至60個の炭素原子、または炭素原子と酸素原子との合計が2乃至60である鎖のアミン類、好ましくはエチレンジアミン(ethylenediamine)とを反応させて、dATPまたはdGTPのγリン酸基にアミン基を形成する段階と、(2)γリン酸基に、アミン基が形成されたdATPまたはdGTPと、サクシニミジルエステル(succinimidyl ester)基とが連結された蛍光体と反応させる段階とによって製造することができる(図2参照)。
【0027】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、前記本発明のヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【0028】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、リアルタイムポリメラーゼ反応に使用される基質(dNTPs)を含む反応溶液であることができ、本発明では、前記基質として従来のdATPまたはdGTPの代わりに、本発明のヌクレオチドを含むことを特徴とする。
【0029】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は特に限定されないが、好ましくは、dCTP(deoxycytidine triphosphate)及びdTTP(deoxythymidine triphosphate)をさらに含むことができる。
【0030】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、前記蛍光物質が連結されたヌクレオチドが基質として用いられるポリメラーゼをさらに含むことができ、特に限定されないが、好ましくは、Taq DNAポリメラーゼ、Therminator γ DNAポリメラーゼ、及びphi29 DNAポリメラーゼからなる群より選択されるポリメラーゼをさらに含むことができる。
【0031】
前記TaqDNAポリメラーゼは特に限定されないが、好ましくは、NCBI受入番号がAAA27507であるポリメラーゼであることができ、前記Therminator γ DNAポリメラーゼは特に限定されないが、好ましくは、New England Biolabs社(カタログ番号:M0334L、またはM0334S)より販売されるものであることができ、前記phi29 DNAポリメラーゼは特に限定されないが、好ましくは、NCBI受入番号がYP_002004529であるポリメラーゼであることができる。
【0032】
また、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、当業者に広く知られたポリメラーゼ反応に必要な緩衝溶液と塩をさらに含むことができる。前記緩衝溶液と塩は、DNAポリメラーゼ反応に通常使用されるものであれば、特に制限されない。
【0033】
また、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、検出対象の核酸を鋳型として用い、かつ検出対象の核酸の特定部位を増幅させるプライマーをデザインしてポリメラーゼ反応を行うことによって、検出対象の核酸の定量分析に有用に用いることができる。
【0034】
前記検出対象の核酸は、当業者が検出しようとする核酸配列を意味し、前記核酸はDNAまたはRNAを含む。前記検出しようとする核酸配列が特定されれば、当業者はこれを特異的に増幅させるプライマーを容易にデザインすることができる。
【0035】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応は、核酸(DNAまたはRNA)の特定部位を選択的に複製しかつ増幅させて検出しようとする核酸が存在するか否かを確認することができ、さらに、リアルタイムで核酸を定量検出することができる反応である。前記リアルタイムポリメラーゼ反応は特に限定されないが、好ましくは、リアルタイムPCR(polymerase chain reaction)、等温重合(isothermal polymerization)、及びリアルタイムRCA(rolling circle amplification)からなる群より選択されるものであることができる。
【0036】
具体的には、前記リアルタイムPCRは、既知の濃度の検出対象の核酸及びこれを特異的に増幅させるプライマーを用いて、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物で増幅し、前記濃度変化による蛍光強度を測定して、一定の蛍光強度(threshold)に到達するPCR反応回数(Ct値)を分析する段階と、前記濃度とCt値とを対応させて標準曲線を作成する段階と、未知検出試料から核酸を抽出した後、PCR増幅してCt値を収得し、これに前記標準曲線を対応させて、未知検出試料に含まれている検出対象の核酸を定量分析する段階とを含む方法である。
【0037】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、従来のDNA結合蛍光染料を用いた場合の問題点を解決したものであって、具体的には、従来のDNA結合蛍光染料(SYBR green I)を使用してPCR分析する場合、主に単鎖DNAより二重鎖DNAに大きな結合力を有するために、RCAのように単鎖DNAがポリメラーゼ反応の産物である場合には分析に利用することができないが、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物はRCAにも適用できるという効果がある。
【0038】
また、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物は、従来のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物に必須であったプローブが必要でないので、従来の検出信号を得るために、特定の塩基配列を選択してプローブを製作することに所要される費用及び時間を節減することができる。
【0039】
一方、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用分析キットは、前記リアルタイムポリメラーゼ反応用組成物を含むことを特徴とする。
【0040】
本発明の分析キットは、前記リアルタイムポリメラーゼ反応用組成物を含むこと以外に、当技術分野で既知のキットに含まれている構成成分をさらに含むことができる。例えば、ビーズ及び基板などの基材などを含むことができる。
【0041】
本発明の分析キットは、リアルタイムPCR、等温重合、及びリアルタイムRCAからなる群より選択されるリアルタイムポリメラーゼ反応分析に適用され、さらに、検出対象がRNAである場合は、リアルタイムRT(reverse transcription)−PCRに適用されることができる。
【0042】
本発明の分析キットを介した蛍光信号は、当技術分野で既知の蛍光信号測定装置を用いて測定することができる。
【0043】
一方、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応分析方法は、(a)本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物及び検出対象の核酸の部位を増幅させるプライマーを準備する段階と、(b)試料から核酸を抽出し、これを鋳型にして前記(a)段階で準備されたリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物及びプライマーを用いてリアルタイムポリメラーゼ反応を行う段階と、及び(c)前記(b)段階における蛍光信号を測定し、検出対象の核酸の量を定量分析する段階とを含むことを特徴とする。
【0044】
本発明におけるリアルタイムポリメラーゼ反応分析方法は、核酸(DNAまたはRNA)の特定部位を選択的に複製しかつ増幅させて検出しようとする核酸が存在するか否かを確認することができ、さらに、リアルタイムで核酸を定量検出する分析方法である。好ましくは、リアルタイムポリメラーゼ反応の結果で発生する蛍光強度を測定することによって核酸が存在するか否かを確認することができ、さらに、リアルタイムで核酸を定量検出する分析方法である。
【0045】
以下で、各段階について具体的に説明する。
【0046】
前記(a)段階において、プライマーは検出対象の核酸の特定部位を増幅させるものであって、これは検出対象の核酸を特異的に検出できる部位が特定されれば、当業者は既知の方法によって容易に製造することができる。
【0047】
前記(b)段階において、試料は、好ましくは人間を含む動物の体液、血清、血漿または血液であり、前記試料から核酸を抽出することは当業者に既知の方法を用いて行うことができ、好ましくは、Qiagne社のQIAamp DNA Blood Mini Kitを用いて、取扱説明書に従って抽出することができる。
【0048】
前記(b)段階において、前記プライマーと本発明の反応用組成物を用いて試料から抽出された核酸を、鋳型にしてリアルタイムポリメラーゼ反応を行う場合、特に限定されないが、好ましくは、本発明の蛍光物質が挿入されたヌクレオチドを基質として使用可能であるポリメラーゼを用いるのが好ましく、これについては前述した通りである。
【0049】
前記(c)段階において、蛍光信号は当業界に公知された蛍光信号測定装置を用いて測定することができ、前記測定結果を通じて、検出対象の試料より核酸の量を定量分析することができる。
【0050】
前記定量分析のためには、既知の濃度の検出対象の核酸及びこれを特異的に増幅させるプライマーを用いて、本発明のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物で増幅して前記濃度変化による蛍光強度を測定し、一定の蛍光強度(threshold)に到達するPCR反応回数(Ct値)を分析し、前記濃度とCt値を対応させて作成した標準曲線を通して定量分析を行うことができ、これについては当業者であれば容易に行うことができる。
【0051】
前記分析方法は特に限定されないが、好ましくはリアルタイムPCR、等温重合、及びリアルタイムRCAからなる群より選択される反応分析を適用することができ、さらに、検出対象がRNAである場合は、リアルタイムRT−PCRを適用することができる。
【0052】
本発明の分析方法は、従来のSYBR green Iを用いたリアルタイムポリメラーゼ反応に比べて各分析性能の指標となる比較項目(効率性、敏感度)で改善された結果を示すので、より効果的かつ容易にリアルタイムポリメラーゼ反応を分析することができる(表2参照)。
【0053】
また、本発明の分析方法は、従来の方法におけるプローブによって惹起し得る、誤った信号の発生は根本的に起こり得ないため、費用的側面からも非常に有利である。特に、下記表1に記載した通り、従来の方法では分析することができないポリメラーゼ反応を、本発明の方法を用いれば簡単に分析可能であるので、より多様に適用することができる。
【0054】
【表1】

【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。但し、下記の実施例は本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されない。
【0056】
<実施例1>NH−dGTPの合成
100mMのMES緩衝溶液(Sigma−Aldrich)500μlに、100mM濃度のdGTP50μlとEDC(N−Ethyl−N'−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride、Sigma−Aldrich)30mgを加えた。室温で5分間攪拌した後、この混合反応溶液に10mgのエチレンジアミン・HCl(Sigma−Aldrich)を加え、4℃で16時間攪拌した。逆相HPLCを用いて、精製されたNH−dGTPを収得した。
【0057】
具体的には、前記逆相HPLCを行うために、Aバッファーとして水に希釈された20mMのTEAB(tetraethylammonium bicarbonate)を、Bバッファーとして90%アセトニトリル(acetonitrile)溶液に20mMのTEABを使用し、10分間Bバッファーを0%、及び10乃至40分間Bバッファーを0から100%に設定して、HPLCを行った。
【0058】
<実施例2>γF−dGTPの合成
前記<実施例1>で精製されたNH−dGTPをPBS(phosphate buffered saline)50μlに5.4mMになるように溶解させ、これにDMSO(dimethylsulfoxide)に溶解したボディピー−FLサクシニミジルエステル(10mM、400μl)を加えた後、常温で3時間攪拌した。前記<実施例1>に記載された逆相HPLCを用いて、精製されたγF−dGTPを収得した。
【0059】
<実施例3>γF−dGTPを基質として使用可能なDNAポリメラーゼの検索
DNAポリメラーゼ検索は、プライマー(primer)伸長反応を通して行われた。
【0060】
具体的には、前記プライマー伸長反応は、配列番号1の塩基配列に記載された蛍光が標識されたプライマー(5’−fluorescein−CTGACTGCATCTAGACGTGACTGA、1μM、Intergrated DNA Technologies)、配列番号2の塩基配列に記載された鋳型鎖(5’−AGATGCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCACGTCT、1μM、Intergrated DNA Technologies)、dATP(25μM、Promega)、dCTP(25μM、Promega)、dTTP(25μM、Promega)、γF−dGTP(25μM)、ポリメラーゼ反応緩衝溶液(New England Biolabs)、及び4ユニットのDNAポリメラーゼ(Taq、Vent(exo−)、DeepVent(exo−)、Bst、またはTherminatorγ)(全てNew England Biolabsより購入)を含む20μlの反応混合溶液を製造して行った。
【0061】
より具体的には、前記製造された反応混合溶液を94℃で20秒、46℃で40秒、及び60℃で90秒間加熱するサイクルを、5回繰り返すことによって行われた。
【0062】
対照群実験のために、前記と同一な実験条件下でγF−dGTPの代わりに天然型dGTPを使用して、TaqDNAポリメラーゼ反応を行った。
【0063】
また、等温性ポリメラーゼのKlenow Fragment(exo−)(New England Biolabsより購入)を用いた伸長反応を行う際には、反応温度37℃で7.5分間加熱した。
【0064】
各ポリメラーゼ反応後、反応混合溶液は20%の変性PAGE(denaturing polyacrylamide gel electrophoresis)を用いて展開し(Vertical Gel Electrophoresis Unit、Sigma−Aldrich)、その結果得られたDNA蛍光バンドのイメージを、蛍光スキャナー(Typhoon9400、GE healthcare)を使用して撮像して、これを図3に示した。
【0065】
図3から分かるように、TaqDNAポリメラーゼと、Therminator γ DNAポリメラーゼが、修飾されたヌクレオチドであるγF−dGTPを基質として使用してDNAの鋳型鎖を伸長し、完全に伸長された重合産物を製造することができる。
【0066】
<実施例4>γF−dGTPを用いたリアルタイムPCR分析
配列番号3の塩基配列で示される正方向プライマー(5'−CCACTCCTCCACCTTTGAC、100nM)、配列番号4の塩基配列で示される逆方向プライマー(5’−ACCCTGTTGCTGTAGCCA、100nM)、配列番号5の塩基配列で示される鋳型鎖(5’−CCACTCCTCCACCTTTGCCGCTGGGGCTGGCATTGCCCTCAACGACCACTTTGTCAAGCTCATTTCCTGGTATGCCAACGAATTTGGCTACAGCAACAGGGT、10nM乃至10fM)、dATP(25μM、Promega)、dCTP(25μM、Promega)、dTTP(25μM、Promega)、γF−dGTP(25μM)、ポリメラーゼ反応緩衝溶液(New England Biolabs)、及びTherminator γ DNAポリメラーゼ(2units)を含む20μlの反応混合溶液を、リアルタイムPCR反応分析に使用した。
【0067】
前記PCRは、94℃で10秒、54℃で15秒、及び72℃で10秒のサイクルを、40サイクル行った。蛍光強度量はStepOne real−timePCRsystem(ABI)機器を使用して、各サイクルの進行後にリアルタイムで測定し、その結果を図4に示した(蛍光フィルター:ex/em=490/520nm)(図4)。
【0068】
図4に示したように、鋳型鎖を10nM乃至10fMに10倍ずつ希釈した反応溶液から全部で7つの増幅曲線を収得し、同図に示された特定数値を閾値(threshold)に設定し、これと増幅曲線とが交差する点をCt(threshold cycle)値として算定して、Ct値と初期鋳型鎖含有量との関数関係を示した。
【0069】
<比較例1>SYBR green Iを用いたリアルタイムPCR(real−timePCR)の分析
前記<実施例4>で使用されたプライマーと鋳型鎖を同一な量で含みながら、dATP(25μM、Promega)、dCTP(25μM、Promega)、dTTP(25μM、Promega)、dGTP(25μM、Promega)、ポリメラーゼ反応緩衝溶液(New England Biolabs)、SYBR green I(1/20,000希釈、Invitrogen)、そしてTaqDNAポリメラーゼ(2units)を含む20μlの反応混合溶液を使用して、リアルタイムPCR反応分析を実施した。前記<実施例4>と同一のPCR条件及び機器を使用して、同一方法で分析を行い、その結果を図5に示した。
【0070】
図5に示した通り、従来に知られたリアルタイムPCRを行った結果と、前記<実施例4>でγF−dGTPを使用してリアルタイムPCRを行った結果とは非常に類似していることが分かり、これによって、γF−dGTPを使用してリアルタイムPCR分析が可能であることが分かる。
【0071】
前記<実施例4>と<比較例1>の結果を下記表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
各数値に対する具体的な内容は、http://www3.appliedbiosystems.com/cms/groups/mcb_marketing/documents/generaldocuments/cms_053906.pdfを参照すればよい。
【0074】
前記表2で分かるように、本発明は、従来のSYBR green Iを用いたリアルタイムポリメラーゼ反応に比べて、各分析性能の指標となる比較項目(効率性、感度)において改善された結果を示した。
【0075】
<実施例5>γF−dGTPを用いたリアルタイムRCAの分析
配列番号6の塩基配列で示されるプライマー(5’−CTGCTGCATCTAGACGTGACTGA、100nM)、配列番号7の塩基配列で示される鋳型鎖(5’−GATGCAGTCAGTCGTCATCGAGTCGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCAGTCACGTCT、100nM)、dATP(25μM、Promega)、dCTP(25μM、Promega)、dTTP(25μM、Promega)、γF−dGTP(25μM)、BSA(100μg/mL)、Phi29 DNAポリメラーゼ反応緩衝溶液(New England Biolabs)、及びPhi29 DNAポリメラーゼ(6units)が含まれている20μlの反応混合溶液を製造し、これをリアルタイムRCA反応分析に使用した。前記反応は30℃で20分間行っており、毎20秒ごとに反応溶液の蛍光強度を、前記<実施例4>で用いた機器を用いて測定し、その結果を図6に示した。
【0076】
図6に示したように、本発明の修飾されたヌクレオチドを用いてリアルタイムRCAを行っても、蛍光強度が増加することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で示される蛍光物質が連結されたヌクレオチドであって、
【化1】

前記Rはアデニンまたはグアニンであり、
前記Rは、−(CHOCH−CHNH−、−NHCH−(CHOCH−CHNH−、−(CH−NH−、または−NH−(CH−NH−であり、ここで、mは1乃至20の整数であり、nは2乃至60の整数であり、
前記Rは蛍光物質であり、
前記YはOまたはSである、ヌクレオチド。
【請求項2】
前記蛍光物質は、フルオレセイン、ボディピー−FL(Bodipy−FL)、ボディピー−R6G(Bodipy−R6G)、パシフィックブルー(Pacific Blue)、マリーナブルー(Marina Blue)、クマリン(coumarin)、テトラメチルローダミン(tetramethylrhodamine)、Cy5、Cy3、及びテキサスレッド(Texas Red)からなる群より選択される、請求項1に記載のヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1または2のヌクレオチドを含む、リアルタイムポリメラーゼ反応用組成物。
【請求項4】
前記組成物はdCTP及びdTTPをさらに含む、請求項3に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物。
【請求項5】
前記組成物はポリメラーゼをさらに含む、請求項3または4に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物。
【請求項6】
前記ポリメラーゼは、TaqDNAポリメラーゼ、Therminator γ DNAポリメラーゼ、及びphi29DNAポリメラーゼからなる群より選択される、請求項5に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物。
【請求項7】
前記リアルタイムポリメラーゼ反応は、リアルタイムPCR、等温重合、及びリアルタイムRCAからなる群より選択される、請求項3〜6のいずれか一項に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか一項に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物を含む、リアルタイムポリメラーゼ反応用分析キット。
【請求項9】
(a)請求項3〜7のいずれか一項に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物及び検出対象の核酸の部位を増幅させるプライマーを準備する段階と、
(b)試料から核酸を抽出し、これを鋳型にして前記(a)段階で準備されたリアルタイムポリメラーゼ反応用組成物及びプライマーを用いてリアルタイムポリメラーゼ反応を行う段階と、
(c)前記(b)段階における蛍光信号を測定して検出対象の核酸の量を定量分析する段階
とを含む、リアルタイムポリメラーゼ反応分析方法。
【請求項10】
前記リアルタイムポリメラーゼ反応は、リアルタイムPCR、等温重合、及びリアルタイムRCAからなる群より選択される、請求項9に記載のリアルタイムポリメラーゼ反応分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40000(P2012−40000A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91737(P2011−91737)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(591074116)韓国科学技術研究院 (17)
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF SCIENCE AND TECNOLOGY
【住所又は居所原語表記】39−1 Hawolgok−dong,Seongbuk−gu,Seoul 136−791KOREA
【Fターム(参考)】