説明

個人線量計

【課題】測定した線量値の信頼性を簡単に確保できる個人線量計を提供する。
【解決手段】個人線量計100は、放射線センサ20からの出力信号を線量算出部60で演算処理し、その処理結果となる線量値を表示部30で表示する。また個人線量計100は、放射線センサ20の位置変動を検知する位置検知部50と、位置検知部50からの検知信号に基づき、放射線センサ20の位置変動が第1設定値以上に達したら第1警告信号を送出する判定部62と、1警告信号を受けて警告を出力する表示部30や音報知部32と、を備えている。放射線センサ20が第1設定値として定められた移動量以上に動いた時点で、表示部30や音報知部32から警告を出して測定者に注意を促し、測定の精度を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人被ばく線量の測定を可能にする個人線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の個人線量計は、放射線の入射を放射線センサなどの放射線計測部で検出して電気信号に変換し、その電気信号を演算制御部により演算処理することで、被ばく線量値をリアルタイムに表示する構成となっている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
ところで放射線センサからの電気信号は、とりわけ低い線量値を測定する場合に、その値が安定しない。そのため通常は、放射線計測部からの電気信号を受けて、一定時間ごとに演算処理した値をそのまま線量値として表示させるのではなく、数十秒から数分にわたる積算時間の移動平均値を線量値として表示させるように、演算処理部を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−187682号公報
【特許文献2】特開2007−101467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の市販されている個人線量計では、同一地点での移動平均の積算完了を明確に表示するものはなく、使用者が時計や表示の更新回数を数えながら、計器本体を動かさないように注意して、線量値の測定を行っているのが現状である。
【0006】
つまり、演算処理部が積算時間の移動平均値を算出する間に、計器本体の場所を移動すると、同一場所での積算した線量値とはならず、測定値(線量値)の正確さが担保できなかった。また、計器本体をどの程度動かしたら、測定値に影響を与えるのかも分からなかった。
【0007】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、測定した線量値の信頼性を簡単に確保できる個人線量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明では、上記目的を達成するために、放射線計測部からの出力信号を線量算出部で演算処理し、その処理結果となる線量値を第1出力部に出力させる個人線量計において、前記放射線計測部の位置変動を検知する位置検知部と、前記位置検知部からの検知信号に基づき、前記放射線計測部の位置変動が第1設定値以上に達したら第1警告信号を送出する判定部と、前記第1警告信号を受けて警告を出力する第2出力部と、を備えている。
【0009】
請求項2の発明では、前記判定部はさらに、前記放射線計測部の位置変動が第2設定値以上に達したら第2警告信号を送出する構成とし、前記線量算出部は、前記放射線計測部からの前記出力信号に基づいて、一定時間毎に算出した放射線数の移動平均、若しくは一定放射線数毎に算出した時間の移動平均から、前記線量値を算出して前記第1出力部に出力し、前記第2警告信号を受けて、前記移動平均による線量値の算出をリスタートする構成としている。
【0010】
請求項3の発明では、前記判定部はさらに、前記放射線計測部の位置変動が前記第1設定値または第2設定値未満の状態で継続している時の経過時間を、時間通知信号として送出する構成としている。
【0011】
請求項4の発明では、前記判定部はさらに、操作部からの操作入力により、前記移動平均による線量値の算出をリスタート可能にするモードと、前記移動平均による線量値の算出をリスタート不可能にするモードの何れかを選択できる構成を有している。
【0012】
請求項5の発明では、前記線量値を算出する毎に、その線量値を当該線量値の算出時刻と関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、前記線量算出部は、前記記憶部に記憶する前記線量値を時系列に並べて表示させる第1表示制御信号を、前記第1出力部に送出する構成としている。
【0013】
請求項6の発明では、前記線量算出部は、前記記憶部に記憶する全ての前記線量値の積算量と、直近に算出した前記線量値の所定期間における積算量とを表示させる第2表示制御信号を、前記第1出力部に送出する構成としている。
【0014】
請求項7の発明は、前記位置検知部が、加速度センサ,ジャイロセンサまたは磁気センサにより構成される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明では、位置検知部から得た位置変動情報を基に、個人線量計の放射線計測部が第1設定値として定められた移動量以上に動いた時点で、第2出力部から表示や音などの警告を出して測定者に注意を促し、測定の精度を維持する。こうした注意喚起を測定者に対して常に行なうことで、測定した線量値の信頼性を簡単に確保することが可能になる。
【0016】
請求項2の発明では、放射線計測部の位置変動量が第2設定値以上に達した時点で、移動平均による線量値の算出をリスタートするので、放射線計測部の大幅な位置変動に起因した大きな誤差を含む移動平均の線量値が、第1出力部から出力され続けるのを防止して、測定の精度をより高めることが可能になる。
【0017】
請求項3の発明では、放射線計測部の位置変動量が第1設定値または第2設定値未満で継続している時の経過時間を知らせる時間通知信号が、判定部から送出される。これを受けて、第1出力部に出力される線量値が、放射線計測部の位置変動のない安定した状態、或いは放射線計測部が大きく位置変動していない状態で、どの程度継続しているのかを、表示や音などで測定者に明確に知らせることができ、測定者によるさらに正確な線量値の測定が可能になる。
【0018】
請求項4の発明では、測定者が操作部を操作して、線量算出部をリスタート可能にするモードを選択した場合にのみ、放射線計測部の位置変動量が第2設定値以上に達した時点で、移動平均による線量値の算出をリスタートすることが可能になり、必要に応じて移動平均の線量値を再測定することができる。
【0019】
請求項5の発明では、過去の線量値の変化を時系列で表示できるので、どの時点で周囲環境が変化したのかを測定者が的確に把握することができる。
【0020】
請求項6の発明では、これまでに受けた放射線の線量値を把握できると共に、現在の場所で所定期間留まっていた場合に、どの程度の線量値を受けるのかを予測することができ、個人線量計としての使い勝手を向上させることが可能になる。
【0021】
請求項7の発明では、加速度センサや、ジャイロセンサや、磁気センサは、安価に入手可能であり、これらのセンサに所望の電源電圧を加えるだけで、放射線計測部の位置変動に関する情報を検知信号に変換し出力することができる。そのため、この検知信号を判定部に取り込み適宜変換利用することで、第2出力部による警告出力の確度を簡単に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における個人線量計の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】同上、表示部の平面図である。
【図3】同上、線量算出部による線量値の算出手順を説明する図である。
【図4】同上、判定部による処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明における個人線量計の好適な一実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本実施形態の概要をあらわすブロック構成図である。同図において、ここで提案する個人線量計100は、制御部として設けられたCPU(中央演算処理装置)10の入力ポートに、放射線センサ20と、加速度センサ22と、ジャイロセンサ24と、磁気センサ26と、操作部としてのボタン(スイッチ)28とを備え、CPU10の出力ポートに、LEDやLCDなどの表示部30と、ブザーやスピーカなどの音(音声)報知部32とを、例えば箱状の計器本体40内に備えて構成される。
【0025】
放射線センサ20は、例えばGM(ガイガー=ミュラー)計数管のような個人線量計100の放射線計測部として設けられており、放射線の入射を検出して得られるパルス電気信号を必要に応じて波形整形などして、CPU10に送出するものである。
【0026】
加速度センサ22,ジャイロセンサ24および磁気センサ26は、低線量を測定する場合に値が安定しない放射線センサ20の位置変動を検知する位置検知部50として何れも設けられており、ここでは正確な位置変動を検知するために、3つのセンサ22,24,26を設けているが、少なくとも1つ以上のセンサ22,24,26が装備されていればよい。
【0027】
これらのセンサ22,24,26は、以前は非常に高価であったが、今般の半導体技術やMEMS(微小電気機械システム)技術の発達により、安価に入手が可能である。殆どのセンサセンサ22,24,26では、計器本体40内の電源回路(図示せず)から適切な動作電圧を印加するだけで、放射線センサ20の位置変動情報を電圧に変換した検知信号として出力できる。この検知信号をCPU10に取り込み、適宜変換利用することで、後述する表示部30による線量値の表示確度を向上させることができる。なお、位置情報取得のためにGPS(全地球測位システム)などを位置検知部50として利用することも考えられるが、位置分解能が低く、また上空が開けていない場所や建物内では測位不能となるので、本発明の問題解決用途には不向きである。
【0028】
また本実施形態では、放射線センサ20が計器本体40に組み込まれている関係で、位置検知部50も計器本体40に装着され、その計器本体40の位置変動を検知する構成となっているが、放射線センサ20が計器本体40と別体で例えばケーブルなどにより接続される場合、位置検知部50も計器本体40にではなく、放射線センサ20に装着するのが好ましい。
【0029】
ボタン28は、一乃至複数の操作可能なスイッチで構成される。例えば、電源スイッチとしての第1スイッチをオン操作すると、図示しないバッテリからの動作電圧を各部に供給して、後述する線量算出部60の動作が開始し、第2スイッチを押動操作すると、表示部30の表示形態などを切替える指示信号が送出され、第3スイッチを押動操作する毎に、線量算出部60をリスタート可能にするモードと、線量算出部60をリスタートさせないモードを切替えるための切替信号が送出されるようになっている。但し、これらの第1〜第3スイッチの構成はあくまでも一例で、どのような形態にするのかは制限しない。
【0030】
CPU10は、その機能的な構成として、線量算出部60と判定部62を備えている。線量算出部60は、放射線センサ20からの出力信号を取り込んで演算処理し、その処理結果となる線量値を表示部30に表示させるもので、CPU10の中で、特に線量値の算出処理に関わる演算制御部に相当する。より具体的には、線量算出部60は、放射線センサ20からの出力信号に基づいて、この出力信号に含まれる一定時間tに渡るパルスの総数を、測定値となる放射線数として一定時間t毎に測定し、所定数Nの測定回数における各測定値の単純移動平均から、一定時間tと所定数Nとを積算した所定時間t×Nの経過後に、最終的な線量値を算出して表示部20に出力させる機能を有する。
【0031】
また別な例として、線量算出部60は、放射線センサ20からの出力信号に基づいて、当該出力信号に含まれるパルスが一定の数sに達するまでの時間Tを、測定値として繰り返し測定し、所定数Nの測定回数における各測定値の単純移動平均から、最終的な線量値を算出して表示部20に出力させる機能を持たせてもよい。この場合の数sは限定されず、例えばs=1ならば、次のパルスが出現するまでの期間が、測定すべき前記時間Tとなる。
【0032】
判定部62は、位置検知部50からの検知信号をリアルタイムに取り込んで、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値以上に達したら、表示部30や音報知部32から警告を出させるような第1警告信号を、これらの表示部30や音報知部32に送出し、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値と同じ値か、あるいはそれよりも大きな値の第2設定値以上に達したら、線量算出部60に測定をリスタートさせるような別な第2警告信号を、当該線量算出部60に送出する機能の他に、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値または第2設定値未満の状態で継続している時の経過時間を、表示部30や音報知部32に時間通知信号として送出する機能を有するもので、CPU10の中で、特に放射線センサ20の位置変動の度合いを判定する判断処理部に相当する。
【0033】
その他にCPU10は、放射線センサ20からの出力信号に基づいて、線量算出部60が一定時間毎に算出した測定値を、一定数まで格納する読み出しおよび書き込みが可能な第1記憶部64と、線量算出部60が線量値を算出する毎に、その線量値を当該線量値の算出した時刻と関連付けて記憶する第2記憶部66と、を備えている。
【0034】
表示部30は、線量算出部60からの表示制御信号を受けて、線量算出部60で演算処理された最終的な線量値を表示出力する第1出力部に相当する。また、ここでの表示部30は、線量値の測定途中に誤差を生じるような放射線センサ20の位置変動が位置検知部50で検知されると、判定部62からの第1警告信号を受けて、文字により測定者に注意を促す警告を表示出力する第2出力部としての機能と、判定部62からの時間通知信号を受けて、放射線センサ20の位置変動が無い状態での経過時間情報を表示出力する第3出力部としての機能も備えている。
【0035】
図2は、表示部30の平面図を示したもので、同図において、表示部30は、CPU10に内蔵するタイマ手段(図示せず)が掲示する現在時刻を表示する時刻表示部70と、音報知部32から警告を出力するか否かを表示する音設定表示部72と、バッテリの残量を表示する残量表示部74と、線量値を数字で表示する線量数値表示部76と、第2記憶部66に記憶された過去の線量値を時系列にグラフ表示する線量値時系列表示部78と、第2記憶部66に記憶された過去の線量値を積算してグラフ表示する累計積算量表示部80と、線量算出部60で算出した直近の線量値から、所定期間(例えば一年間)にどの程度の積算量になるのかをグラフ表示する所定期間積算量表示部82と、前記経過時間の長さを例えばバーで表示する経過時間表示部84と、により構成される。そして、特に図2(A)では、線量数値表示部76に現在の線量値として、線量算出部50が直近に算出した線量値が表示されており、図2(B)では、線量数値表示部76に過去の線量値として、線量算出部50が例えば現在から5分前に算出した線量値が表示されている。この線量数値表示部76の表示切替えは、ボタン28から線量算出部50に送出される指示信号により行われるようになっている。
【0036】
次に、上記構成について、その作用を説明する。先ず、線量算出部60による線量値の測定手順から説明すると、図3の(1)において、電源スイッチをオンにし、バッテリからの動作電圧を受けて線量算出部60が起動したとき、或いは、予めボタン28により線量算出部60をリスタート可能にするモードを選択した状態で、判定部62から第2警告信号を受けたときに、第1記憶部64に記憶されている全ての測定値を一旦クリアして、線量値の算出測定を開始(スタート)または再開(リスタート)する。
【0037】
線量算出部60がスタートまたはリスタートすると、図3の(2)〜(7)に示すように、当該線量算出部60は、放射線センサ20からの出力信号に含まれるパルス数を一定時間tに渡ってカウントし、そのカウントした数を、一定時間t毎に測定値として第1記憶部64に格納する。第1記憶部64は、所定数N(例えばN=6個)の測定値を格納する記憶領域を有しており、線量算出部60で一定時間t毎に算出される各々の測定値1〜測定値6が、第1記憶部64の空いている記憶領域に、所定数Nに達するまで順に格納されてゆく。
【0038】
具体的には線量算出部60は、当該線量算出部60がスタートまたはリスタートしてからt秒後に測定値1を算出して、その測定値1から表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから2×t秒後に測定値2を算出して、測定値1と測定値2の(相加)平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから3×t秒後に測定値3を算出して、測定値1,測定値2および測定値3の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから4×t秒後に測定値4を算出して、測定値1,測定値2,測定値3および測定値4の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから5×t秒後に測定値5を算出して、測定値1,測定値2,測定値3,測定値4および測定値5の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから6×t秒後に測定値6を算出して、測定値1,測定値2,測定値3,測定値4,測定値5および測定値6の平均値から、表示部30に線量値を表示させる。したがって表示部30は、線量算出部60による線量測定が開始した後、N×t秒を経過しなければ、必要な所定数Nの測定値に基づく安定した移動平均の線量値を表示することができない。
【0039】
以後、図3の(8)〜(13)に示すように、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてからN×t秒を経過すると、線量算出部60は、引き続き放射線センサ20からの出力信号に応じた放射線量の測定値を、一定時間t毎に算出し、その測定値を時間的に最も古い測定値と置き換えて第1記憶部64に格納する。それと共に線量算出部60は、第1記憶部64に記憶される所定数Nの測定値を読み出して、これらの測定値の平均を算出し、その平均値を最終的な線量値として表示部30に表示させる。
【0040】
具体的には線量算出部60は、当該線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから7×t秒後に測定値7を算出して、測定値2,測定値3,測定値4,測定値5,測定値6および測定値7の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから8×t秒後に測定値8を算出して、測定値3,測定値4,測定値5,測定値6,測定値7および測定値8の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから9×t秒後に測定値9を算出して、測定値4,測定値5,測定値6,測定値7,測定値8および測定値9の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから10×t秒後に測定値10を算出して、測定値5,測定値6,測定値7,測定値8,測定値9および測定値10の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから11×t秒後に測定値11を算出して、測定値6,測定値7,測定値8,測定値9,測定値10および測定値11の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、線量算出部60がスタートまたはリスタートしてから12×t秒後に測定値12を算出して、測定値7,測定値8,測定値9,測定値10,測定値11および測定値12の平均値から、表示部30に線量値を表示させ、以後、同様の手順が繰り返される。したがって表示部30は、線量算出部60による線量測定が開始した後、N×t秒を経過すると、必要な所定数Nの測定値に基づく安定した移動平均の線量値を、t秒毎に更新しながら表示することが可能になる。
【0041】
次に、放射線センサ20の位置変動に関連する各部の動作を、図4のフローチャートに基づいて説明する。前述したように、電源スイッチのオン操作により、線量算出部60が起動すると、図4のステップS1に示す移動平均による線量値の測定を開始する。この測定手順の詳細は、図3で説明した通りである。
【0042】
続くステップS2に移行すると、判定部32は、放射線センサ20の位置変動量と、予め定められた第1設定値との比較を行なう。ここで、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値未満である場合は、上記ステップS3の手順を実行した後に、ステップS5の手順に移行する。このステップS3において、判定部32は放射線センサ20が位置変動していない状態がどの程度継続しているのかを、表示部30の経過時間表示部84に表示させるための時間通知信号を、当該表示部30に送出する。これを受けて表示部30の経過時間表示部84は、線量数値表示部76に表示される線量値が、放射線センサ20の位置変動のない安定した状態で、どの程度継続しているのかを、個人線量計100を利用する測定者に明確に知らせることができる。また、経過時間表示部84のバー表示数は、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値未満の状態を維持し続ける限り次第に増加して、線量数値表示部76が移動平均の線量値を表示し始める所定時間t×Nに達すると、全てのバーが表示したままの状態となる。
【0043】
これに対して、放射線センサ20による測定途中に、誤差を生ずるような移動量があり、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値以上に達した場合には、次のステップS4の手順で、判定部32は測定者に注意を促すための第1警告信号を、第2出力部である表示部30や音報知部32に送出する。具体的には本実施形態では、判定部32から表示部30に対して、経過時間表示部84のバー表示を無くすための第1警告信号が送出される。これを受けて表示部30や音報知部32は、表示部30に表示される移動平均の線量値に誤差が含まれている旨の指示を、文字や音(音声)で通知する。このように、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値以上に達した時点で、表示部30や音報知部32から表示や音などの警告を出して測定者に注意を促すことで、放射線センサ20に対する必要以上の動きを自制して、測定の精度を維持することが可能になる。したがって、ここでの第1設定値は、放射線センサ20の測定精度に誤差を生じ得るような値に設定するのが好ましい。
【0044】
ステップS5に移行すると、判定部32は、放射線センサ20の位置変動量と、予め定められた第2設定値との比較を行なう。ここで、放射線センサ20に大幅な動きがあり、放射線センサ20の位置変動量が第2設定値以上に達した場合には、次のステップS6の手順で、判定部32は移動平均による線量値の算出をリスタートさせるための第2警告信号を、線量算出部60に送出する。これを受けて線量算出部60は、第1記憶部64に記憶されている全ての測定値を一旦クリアして、線量値の算出測定を再開(リスタート)し、その後は前述したステップS1における線量値の算出測定を実行する。このように、放射線センサ20の位置変動量が第2設定値以上に達した時点で、移動平均による線量値の算出を一旦クリアしてから再開するので、放射線センサ20の大幅な位置変動に起因した大きな誤差を含む移動平均の線量値が、所定時間t×Nを経過するまで表示部30に表示され続けるのを防止して、測定の精度をより高めることが可能になる。
【0045】
一方、放射線センサ20の位置変動量が第2設定値未満である場合は、上記ステップS6の手順を行なわずに、ステップS1の手順に戻る。また変形例として、放射線センサ20の位置変動量が第2設定値未満である場合に、前記ステップS3の手順を行なってから、ステップS1の手順に戻すように動作させてもよい。このようにすれば、放射線センサ20が大きく位置変動しない状態で、どの程度継続しているのかを、個人線量計100を利用する測定者に明確に知らせることができる。
【0046】
なお、上述した一連の手順で、ステップS6の手順は、測定者が予めボタン28を操作して、線量算出部60をリスタート可能にするモードを選択した場合にのみ行なわれる。この場合、測定者が予めボタン28を操作して、線量算出部60をリスタートさせないモードを選択していれば、ステップS6の手順は行われず、必要に応じて移動平均の線量値を再測定できるようになっている。
【0047】
また、線量算出部60はステップS1にてt秒毎に線量値を算出しているが、ステップS2〜ステップS6における判定部32の判定および処理手順は、CPU10の処理能力に依存して、それよりも短い時間周期で行なってもよい。
【0048】
図2(A)に示す表示部30において、線量算出部60は、一定時間tまたは一定のパルス数sに達する毎に、放射線センサ20からの出力信号に基づいて算出した線量値を線量数値表示部76に表示させるための表示制御信号を表示部30に送出する。これにより線量数値表示部76では、線量算出部60が直近に算出した線量値を表示することができる。この線量値は、線量算出部60がリスタートされない限り、所定数Nの測定が経過した時点で移動平均の値として表示される。図2(B)に示す表示部30では、線量数値表示部76に過去の線量値が表示されているが、この線量値は第2記憶部66から線量算出部60が読み出したものである。
【0049】
また線量算出部60は、ボタン28からの操作信号を受けて、第2記憶部66に記憶される過去の複数の線量値を読み出し、それらの線量値を線量値時系列表示部78で時系列に並べて表示させる表示制御信号を表示部30に送出する。これにより線量値時系列表示部78では、横軸を時間とし、縦軸を線量値として、現在を起点として過去の一定期間における線量値を並べて表示することができる。なお、線量値時系列表示部78に表示される横軸(時間)は、ボタン28からの操作信号により適宜スクロールさせることができる。図2では、前記一定期間として、過去10分間の線量値が表示されているが、この一定期間についてもボタン28からの操作信号により、適宜変更することができる(例えば、1年,1か月,1日,1時間など)。
【0050】
その他に線量算出部60は、第2記憶部66に記憶される過去の全ての線量値を読み出し、それらの線量値の累計を累計積算量表示部80で表示させると共に、線量算出部60で算出した直近の線量値から、一定期間(例えば一年間)にどの程度の積算量になるのかを所定期間積算量表示部82で表示させる表示制御信号を表示部30に送出する。これにより累計積算量表示部80では、これまでに受けた放射線の線量値を的確に把握できる。また、所定期間積算量表示部82では、現在の場所で所定期間留まっていた場合に、どの程度の線量値を受けるのかを予測することができる。図2では、前記所定期間を1年として、線量算出部60が直近の線量値から予測値を算出しているが、それ以外の所定期間であっても構わない。
【0051】
以上のように、本実施形態の個人線量計100は、放射線計測部としての放射線センサ20からの出力信号を線量算出部60で演算処理し、その処理結果となる線量値を第1出力部である表示部30に表示出力させるものにおいて、放射線センサ20の位置変動を検知する位置検知部50と、位置検知部50からの検知信号に基づき、放射線センサ20の位置変動が第1設定値以上に達したら第1警告信号を送出する判定部62と、判定部62からの第1警告信号を受けて警告を出力する第2出力部としての表示部30や音報知部32と、を備えている。
【0052】
この場合、位置検知部50から得た位置変動情報を基に、個人線量計100の放射線センサ20が第1設定値として定められた移動量以上に動いた時点で、第2出力部である表示部30や音報知部32から表示や音などの警告を出して測定者に注意を促し、測定の精度を維持する。こうした注意喚起を測定者に対して常に行なうことで、個人線量計100で測定した線量値の信頼性を簡単に確保することが可能になる。
【0053】
また、本実施形態の判定部32はさらに、放射線センサ20の位置変動が第2設定値以上に達したら、線量算出部60に第2警告信号を送出する構成とし、線量算出部60は、放射線センサ20からの前記出力信号に基づいて、一定時間t毎に算出した所定数の測定値の移動平均、若しくは一定の放射線数毎に算出した所定数の時間Tの値の移動平均から、最終的な線量値を算出して第1出力部である表示部30に出力すると共に、第2警告信号を受けた場合には、その移動平均による線量値の算出をリスタートするように構成している。
【0054】
このようにすると、放射線センサ20の位置変動量が第2設定値以上に達した時点で、移動平均による線量値の算出をリスタートするので、放射線センサ20の大幅な位置変動に起因した大きな誤差を含む移動平均の線量値が、表示部30から出力され続けるのを防止して、測定の精度をより高めることが可能になる。
【0055】
また、本実施形態の判定部32はさらに、放射線センサ20の位置変動が第1設定値または第2設定値未満の状態で継続している時の経過時間を、時間通知信号として送出する構成としている。
【0056】
このようにすると、放射線センサ20の位置変動量が第1設定値または第2設定値未満の状態で継続している時の経過時間を知らせる時間通知信号が、判定部30から送出される。これを受けて、表示部30に出力される移動平均の線量値が、放射線センサ20の位置変動のない安定した状態、或いは放射線センサ20が大きく位置変動していない状態で、どの程度継続しているのかを、表示や音などで測定者に明確に知らせることができ、測定者によるさらに正確な線量値の測定が可能になる。
【0057】
さらに、本実施形態における判定部32は、操作部であるボタン28からの操作入力により、移動平均による線量値の算出をリスタート可能にするモードと、リスタート不可能にするモードの何れかを選択できる構成となっている。
【0058】
このようにすると、測定者が予めボタン28を操作して、線量算出部60をリスタート可能にするモードを選択した場合にのみ、放射線センサ20の位置変動量が第2設定値以上に達した時点で、移動平均による線量値の算出をリスタートすることが可能になり、必要に応じて移動平均の線量値を再測定することができる。
【0059】
また、本実施形態の線量算出部60は、線量値を算出する毎に、その線量値を当該線量値の算出時刻と関連付けて時々刻々と順に記憶する記憶部としての第2記憶部66をさらに備え、
前記線量算出部60は、第2前憶部66に記憶する線量値を一定期間にわたり時系列に並べて表示させる第1表示制御信号を、表示部30に送出する構成を有している。
【0060】
このようにすると、表示部30の線量値時系列表示部78を利用して、過去の線量値の変化を時系列で表示できるので、どの時点で周囲環境が変化したのかを測定者が的確に把握することができる。
【0061】
また、本実施形態の線量算出部60は、前記第2記憶部66に記憶する全ての線量値の積算量と、直近に算出した線量値の所定期間における積算量とを並べて表示させる第2表示制御信号を、表示部30に送出する構成を有している。
【0062】
このようにすると、表示部30の累計積算量表示部80を利用して、これまでに受けた放射線の線量値を把握できると共に、表示部30の所定期間積算量表示部82を利用して、現在の場所で所定期間留まっていた場合に、どの程度の線量値を受けるのかを予測することができ、個人線量計100としての使い勝手を向上させることが可能になる。
【0063】
また本実施形態では、位置検知部50が、加速度センサ22,ジャイロセンサ24または磁気センサ26の何れかにより構成される。加速度センサ22,ジャイロセンサ24,磁気センサ26は、安価に入手可能であり、これらのセンサ22,24,26に所望の電源電圧を加えるだけで、放射線センサ20の位置変動に関する情報を検知信号に変換し出力することができる。そのため、この検知信号をCPU10の判定部32に取り込み適宜変換利用することで、表示部30や音報知部32による警告出力の確度を簡単に向上させることができる。
【0064】
なお本発明は、本実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、第1出力部や第2出力部は、同一の構成であっても、別な構成であっても構わない。また、第1設定値及び第2設定値についても、それぞれ別な値または同一の値の何れであっても構わない。各設定値を同一の値にすれば、判定部32としての判定条件を共通化して、処理手順を最も簡素化できる。
【0065】
さらに、上記実施形態中の一定時間t,所定数Nおよび数sは特に限定されず、放射線センサ20の特性などを考慮して適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0066】
20 放射線センサ(放射線計測部)
22 加速度センサ(位置検知部)
24 ジャイロセンサ(位置検知部)
26 磁気センサ(位置検知部)
28 ボタン(操作部)
30 表示部(第1出力部,第2出力部)
32 音報知部(第2出力部)
50 位置検知部
60 線量算出部
62 判定部
66 第2記憶部(記憶部)
100 個人線量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線計測部からの出力信号を線量算出部で演算処理し、その処理結果となる線量値を第1出力部に出力させる個人線量計において、
前記放射線計測部の位置変動を検知する位置検知部と、
前記位置検知部からの検知信号に基づき、前記放射線計測部の位置変動が第1設定値以上に達したら第1警告信号を送出する判定部と、
前記第1警告信号を受けて警告を出力する第2出力部と、を備えたことを特徴とする個人線量計。
【請求項2】
前記判定部はさらに、前記放射線計測部の位置変動が第2設定値以上に達したら第2警告信号を送出する構成とし、
前記線量算出部は、前記放射線計測部からの前記出力信号に基づいて、一定時間毎に算出した放射線数の移動平均、若しくは一定放射線数毎に算出した時間の移動平均から、前記線量値を算出して前記第1出力部に出力し、前記第2警告信号を受けて、前記移動平均による線量値の算出をリスタートする構成としたことを特徴とする請求項1記載の個人線量計。
【請求項3】
前記判定部はさらに、前記放射線計測部の位置変動が前記第1設定値または第2設定値未満の状態で継続している時の経過時間を、時間通知信号として送出する構成としたことを特徴とする請求項2記載の個人線量計。
【請求項4】
前記判定部はさらに、操作部からの操作入力により、前記移動平均による線量値の算出をリスタート可能にするモードと、前記移動平均による線量値の算出をリスタート不可能にするモードの何れかを選択できる構成を有することを特徴とする請求項2記載の個人線量計。
【請求項5】
前記線量値を算出する毎に、その線量値を当該線量値の算出時刻と関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、
前記線量算出部は、前記記憶部に記憶する前記線量値を時系列に並べて表示させる第1表示制御信号を、前記第1出力部に送出する構成としたこと特徴とする請求項1記載の個人線量計。
【請求項6】
前記線量算出部は、前記記憶部に記憶する全ての前記線量値の積算量と、直近に算出した前記線量値の所定期間における積算量とを表示させる第2表示制御信号を、前記第1出力部に送出する構成としたこと特徴とする請求項5記載の個人線量計。
【請求項7】
前記位置検知部が、加速度センサ,ジャイロセンサまたは磁気センサにより構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の個人線量計。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−113777(P2013−113777A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262066(P2011−262066)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【特許番号】特許第4965733号(P4965733)
【特許公報発行日】平成24年7月4日(2012.7.4)
【出願人】(391009800)株式会社テクノリンク (11)
【Fターム(参考)】