説明

個人認証媒体

【課題】被転写体が有する固有の表面凹凸の影響を受けることなく、中間転写媒体に記録された個別情報の輝度低下を抑えることができる個人認証媒体を提供する。
【解決手段】微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子を記録した中間転写媒体10に、画像情報に基づく感熱転写記録媒体への選択的加熱により感熱転写記録画像を書き込み、この感熱転写記録画像を被転写媒体70に転写して画像形成物を得る個人認証媒体82において、被転写体70の中間転写媒体10と接触する表面の画像形成物が転写される領域に、被転写体固有の凹凸部71の表面粗さより小さい表面粗さの平坦部72を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人認証媒体に関し、例えば個人認証に利用可能な画像表示技術を用いてなる個人認証媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート及びID(identification)カードなどの個人認証媒体の多くは、目視による個人認証を可能とするために、顔画像を使用している。
例えば、パスポートでは、従来、顔画像を焼き付けた印画紙を冊子体に貼り付けていた。しかしながら、そのようなパスポートには、写真印画の貼り替えによる改竄のおそれがある。
【0003】
このような理由で、近年では、顔画像の情報をデジタル化し、これを冊子体上に再現する傾向にある。この画像再現方法としては、例えば、転写リボンを用いた感熱転写記録法が検討されている。
感熱転写記録法により個人認証媒体を作成する手段としては、画像および文字などの情報を中間転写媒体に形成・担持し、さらに基材からなる情報記録被転写体に転写形成するものがある。
【0004】
前記個人認証媒体の作成に用いられる熱転写可能な中間転写媒体は、支持体上に、転写層として支持体側から剥離層、中間層、接着層などを順次設けたものであり、転写層側が情報記録被転写体の基材に重ねられて加圧され、支持体側または基材側のいずれかから加熱することによって、基材に転写される媒体である。
【0005】
剥離層とは、支持体と転写層との界面がそれぞれの材料同士の相性によって、転写の際に転写層が巧く剥離しない場合、これらの良好な剥離を実現させるために設ける層である。
また、中間層は接着層と剥離層との間に存在する層で必要に応じて適宜設計してよい。例えば、両者の間の接着力を向上させる層とか、偽造防止対策や装飾性を高めるための層でとして、例えば、回折構造を持ったOVD(Optically Variable Device)形成層が挙げられる。
【0006】
接着層は、加熱加圧によって基材との接着を行う層であり、熱移行性材料で画像・文字などの情報を形成する受像層を兼ねた受像層兼接着層とすることができる。
受像層および受像層兼接着層とは、感熱転写プリンタやインクジェットプリンタ等によって、印刷の版無しで画像情報(文字、記号、等も含む)を記録できる受像適性を備えた層であり、中間転写媒体の転写前に染料または顔料による印刷画像を設けることが可能となる。
【0007】
受像層兼接着層への情報の形成方法としては、中間転写媒体をドラムとサーマルヘッドとでその主要部が構成される転写装置へ搬送し、色材が熱移行性材料である転写リボンの色材層を中間転写媒体の受像層兼接着層に当接させると共に、転写リボン側から前記サーマルヘッドを圧接し、かつ、画像データに基づき前記サーマルヘッドの発熱素子群を適宜発熱させて、画像データに基づく画像パターンを前記受像層兼接着層に形成・印刷する。
【0008】
また、ここで転写リボンに、微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子を形成し、前記微細な凹凸面に沿って透過性薄膜層を設け、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子を形成した層よりその屈折率が大きい材料の透過性薄膜層とした熱移行性材料の転写リボンを用いることで、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子による個別情報の画像パターンを記録することが可能である。
【0009】
さらに、OVD形成層は、装飾性と偽造防止を目的としており、例えば微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子が形成されたOVD形成層と、前記微細な凹凸面に沿って設けられOVD形成層とその屈折率が異なる材料からなる透過性薄膜層で構成されている。このように、前記中間層としてレリーフ型ホログラムを利用した中間転写媒体は、エンボス複製法により、安価に大量に製造することができ、デッドコピーが難しいため多用されている。
【0010】
基材への転写方法の一例をあげると、中間転写媒体の接着層または受像層兼接着層を被転写媒体に当接させ、かつ、中間転写媒体の支持体側から熱ロール、熱板等の加熱媒体を圧接し、転写温度に加熱して被転写媒体である基材に接着層を圧着させると共に、中間転写媒体から支持体を剥離させる。これにより、個人認証媒体を得ることができる。また基材の材質によっては基材上に易接着層を形成することにより転写が容易になる。
【0011】
ところで、個人認証媒体とくにパスポートに用いられる基材としては、紙基材が多く用いられ、さらに表面の凹凸が大きい基材が用いられることが多い。これは、表面の凹凸が大きいため、入手が容易な印刷機では直接印字することが難しく、一般的に入手が困難である紙を使用することで、偽変造を防止する効果があるためである。
【0012】
しかし、これらの基材の凹凸部分では、中間転写媒体に記録された画像パターンは凹凸に沿って転写されるため、転写後の表面粗さは基材の表面粗さに左右されることになる。ここで、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子により記録した個別情報の画像パターンは、これらの表面凹凸の影響を受けて、再生する回折光の輝度を低下させてしまう。
さらに、基材の表面の凹凸部分で熱圧のかかり方が異なるため、中間転写媒体の密着強度に差が生じ、負荷をかけた場合に部分的な損傷を生じる可能性があった。特に、この問題は基材が紙の場合に顕著であり、紙の種類によっては繊維の空隙が大きいため、空隙部分で中間転写体と基材が密着せず、部分的に破壊が生じる可能性があった。
【0013】
これを防止するためには基材表面に密着性向上のための易接着層を設けることが有効である。特許文献1に示す画像形成装置は、中間転写媒体の画像パターンを被転写体に転写する際に、中間転写媒体に易接着層の熱転写を行うことができる装置である。この装置によれば凹凸の大きな紙の表面への密着については改善することができる。
【0014】
しかし、基材の表面の凹凸については解消されたわけではないため、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子により記録した個別情報の画像パターンを転写した場合には、基材の表面の凹凸の影響により、再生する回折光の輝度低下は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3632516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、その目的は、被転写体が有する固有の表面凹凸の影響を受けることなく、中間転写媒体にレリーフ型ホログラムもしくは回折格子により記録した個別情報の輝度低下を抑えることができる個人認証媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、請求項1の発明は、転写用の受像層を有するとともに微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子が個人認証画像として形成された中間転写媒体に、着色層を有する感熱転写記録媒体の前記着色層と前記受像層とを重ね合わせた状態で画像情報に基づく前記感熱転写記録媒体への選択的加熱により感熱転写記録画像を書き込み、前記感熱転写記録画像が書き込まれた前記中間転写媒体を被転写体に加圧接触させて加熱することにより前記感熱転写記録画像を前記被転写媒体に転写して得られた前記被転写媒体に画像形成物が形成された個人認証媒体であって、前記受像層が圧接される前記被転写体の表面は該被転写体固有の表面粗さの凹凸部を有し、前記被転写体の表面の前記画像形成物が転写される領域に前記凹凸部の表面粗さより小さい表面粗さの平坦部が形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1に記載の個人認証媒体において、前記平坦部の領域に地紋が形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項3発明は、請求項2記載の個人認証媒体において、前記地紋の表面は、前記平坦部の表面粗さと異なる表面粗さを有することを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明は、請求項3記載の個人認証媒体において、前記地紋の表面粗さは前記凹凸面の表面粗さと同じであることを特徴とする。
【0021】
請求項5の発明は、請求項1記載の個人認証媒体において、前記平坦部は、エンボス処理またはカレンダー処理により形成されることを特徴とする。
【0022】
請求項6の発明は、請求項2乃至4に何れか1項記載の個人認証媒体において、前記地紋の形成にエンボス用金属板またはカレンダー処理用金属シリンダーが用いられ、エンボス用金属板またはカレンダー処理用金属シリンダーはそれぞれの表面に設けられた地紋形成用の凸部または凹部を有することを特徴とする。
【0023】
請求項7の発明は、請求項1乃至6に何れか1項記載の個人認証媒体において、前記中間転写媒体に前記微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子の凹凸面に沿って透過性薄膜層が設けられ、前記透過性薄膜層の屈折率が前記レリーフ型ホログラムもしくは回折格子を形成した層の屈折率と異なることを特徴とする。
【0024】
請求項8の発明は、請求項1乃至7に何れか1項記載の個人認証媒体において、前記被転写体の表面に、粒子の外殻が熱可塑性の材料で構成される熱発泡性の粒子を含む易接着層が設けられていることを特徴とする。
【0025】
請求項9の発明は、請求項1項記載の個人認証媒体において、前記平坦部の表面のJIS B 0601-2001に基づく中心線表面粗さRaが0.2μm以上乃至2.0μm以下であることを特徴とする。
【0026】
請求項10の発明は、請求項1項記載の個人認証媒体において、前記平坦部の表面のJIS B 0601-2001に基づく中心線表面粗さRaと前記凹凸部表面の中心線表面粗さRaとの差が0.5μm以上乃至80μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の個人認証媒体によれば、被転写体の中間転写媒体と接触する側の画像形成物が転写される領域に、被転写体固有の凹凸部の表面粗さより小さい表面粗さの平坦部を形成する構成にしたので、個人認証画像は被転写体固有の凹凸部の影響を受けることがなくなる。これにより個人認証画像の輝度低下を抑えることができ、目視による個人認証の際に明るい画像で個人認証を行うことができる。しかも、個人認証画像部分のみの輝度を向上することができ、その他の部分では、被転写体固有の表面凹凸が維持されることで、質感による真偽判定を行うことが可能となる。
【0028】
また、本発明によれば、被転写体の平坦部領域に地紋を設ける構成にしたので、個人認証画像を表示している領域を認識し易くすることができ、しかも、平坦部領域が地紋を有することで、偽造防止効果が期待できる。
【0029】
また、本発明によれば、地紋の表面粗さを平坦部の表面粗さと異ならしめることにより、個人認証画像の背景を変えることができ、より一層の偽造防止効果を得られる。
【0030】
また、本発明によれば、被転写体の平坦部は、エンボス処理またはカレンダー処理により平坦化することで、短時間で確実に所望の領域の表面粗さを被転写体固有の凹凸部の表面粗さより小さくすることが可能となる。
【0031】
また、本発明によれば、地紋形成用の凸部または凹部を有するエンボス用金属板またはカレンダー処理用金属シリンダーを用いて地紋を形成するようにしたので、個人認証画像の背景に地紋柄を容易に得ることができる。
【0032】
また、本発明によれば、中間転写媒体に、微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子の凹凸面に沿って透過性薄膜層を設ける構成にしたので、透過性薄膜層の屈折率がレリーフ型ホログラムもしくは回折格子を形成した層の屈折率と異なることにより、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子の輝度をさらに向上することができる。
【0033】
また、本発明によれば、被転写体の表面に、粒子の外殻が熱可塑性の材料で構成されている熱発泡性の粒子を含む易接着層を設けることにより、被転写体の表面凹凸が大きい場合もしくは、深い場合でも、発泡性の粒子が加熱、加圧により発泡することで、確実に凹凸を平坦化することが可能となる。
【0034】
また、本発明によれば、平坦部の表面粗さRaを0.2μm以上乃至2.0μm以下とすることで、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子が、被転写体上の凹凸の影響による輝度低下を防ぐことが可能となる。
【0035】
また、本発明によれば、平坦部の表面粗さRaと凹凸部表面粗さRaとの差が0.5μm以上乃至80μmとすることで、平坦化処理の有る無しの各領域において異なる見え方となるため、個人認証画像の背景を形成する地紋柄の視認性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明にかかる個人認証媒体の一例である中間転写媒体を概略的に示す断面図。
【図2】図1の中間転写媒体に画像を印字した一例を概略的に示す断面図。
【図3】感熱転写記録媒体の画像の転写方法の一例を概略的に示す断面図。
【図4】個人認証媒体の回折格子が支持体上に形成された感熱転写記録媒体の画像の転写方法の一例を概略的に示す断面図。
【図5】個人認証媒体の被転写体の一例を概略的に示す断面図。
【図6】図5に示す被転写体に図2に示す中間転写媒体を転写した状態を概略的に示す断面図。
【図7】本発明にかかる個人認証媒体の被転写体に平坦化処理を施した一例を概略的に示す断面図。
【図8】図7に示す被転写体に図2に示す中間転写媒体を転写した状態を概略的に示す断面図。
【図9】本発明にかかる個人認証媒体の個人認証画像を概略的に示す平面図。
【図10】本発明にかかる個人認証媒体の地紋柄を転写した被転写体を概略的に示す平面図。
【図11】本発明にかかる地紋柄を被転写体に転写する方法の一例を示す概略図。
【図12】本発明にかかる個人認証媒体の地紋柄を転写した個人認証画像を概略的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明にかかる個人認証媒体の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0038】
(実施の形態1)
本実施の形態において、個人認証媒体を構成する中間転写媒体10は、図1に示すように、支持体11に剥離層12、OVD形成層13、反射層14及び受像層兼接着層15を図示の順に積層配置してなるものである。
【0039】
支持体11は、例えば樹脂フィルム又はシートである。支持体11は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料からなる。支持体11の剥離層12を支持している主面11aには、例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を含んだ離型層が設けられていてもよい。
剥離層12は支持体11上に形成されている。剥離層12はOVD形成層13の支持体11からの剥離を安定化する役割を果たす。剥離層12は光透過性を有しており、典型的には透明である。剥離層12は、例えば熱可塑性樹脂からなる。
【0040】
OVD形成層13は剥離層12上に形成されている。OVD形成層13は回折構造として、ホログラム及び回折格子の少なくとも一方を含んでいる。ここでは、OVD形成層13は、表面に回折構造としてレリーフ構造が設けられた透明層である。透明層の材料としては、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂などの樹脂を使用することができる。なお、OVD形成層13は、体積ホログラムであってもよい。
【0041】
反射層14はOVD形成層13上に形成されている。反射層14は省略することができるが、反射層14を設けると、回折構造が表示する画像の視認性が向上する。
反射層14としては、例えば、透明反射層又は不透明な金属反射層を使用することができる。反射層14は、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法によって形成することができる。
【0042】
透明反射層としては、例えば、OVD形成層13とは屈折率が異なる透明材料からなる層を使用することができる。透明材料からなる透明反射層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。後者の場合、透明反射層は、繰り返し反射干渉を生じるように設計されていてもよい。この透明材料としては、例えば、硫化亜鉛及び二酸化チタンなどの透明誘電体を使用することができる。
或いは、透明反射層として、厚さが20nm未満の金属層を使用してもよい。金属層の材料としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銀、金及び銅などの単体金属又はそれらの合金を使用することができる。
【0043】
また、上記不透明な金属反射層としては、より厚いこと以外は透明反射層について上述したのと同様の金属層を使用することができる。
受像層兼接着層15は、反射層14上に形成されている。受像層兼接着層15は、例えば熱可塑性樹脂からなる。
【0044】
図1に示すように、支持体11に剥離層12、OVD形成層13、反射層14、受像層兼接着層15を図示の順に積層配置してなる中間転写媒体10の受像層兼接着層15の反射層14に接する面と反対側の面には、図2に示すように、感熱転写記録画像20と個人認証画像21が設けられている。
【0045】
感熱転写記録媒体の画像の転写方法について説明する。
感熱転写記録媒体30は、図3に示すように、支持体31に剥離層32、色材層(色材となる顔料もしくは染料の少なくとも一つを用いた着色層)33、接着層34を図示の順に積層配置することで構成される。ここで、色材層33、接着層34は熱移行性材料である。
【0046】
次に、図1に示した中間転写媒体10をドラム(図示せず)とサーマルヘッド35とでその主要部が構成される転写装置へ搬送し、感熱転写記録媒体30の接着層34を中間転写媒体10の受像層兼接着層15に当接させる。これと同時に、感熱転写記録媒体30の支持体31側からサーマルヘッド35を圧接し、かつ、画像データに基づきサーマルヘッド35の発熱素子群を適宜発熱させて、画像データに基づく画像パターンを受像層兼接着層15に形成する。
【0047】
次いで、サーマルヘッド35の発熱により、感熱転写記録媒体30の剥離層32、色材層33、接着層34が剥離層32と支持体31の界面で剥離され、受像層兼接着層15に転写される。このように転写した画像が図2に示した感熱転写記録画像20となる。
ここで、個人認証媒体がパスポートの場合には、感熱転写記録画像20としては、顔写真のカラー画像や氏名、国籍、有効期限などのテキストデータなどを含み、通常の色材で表現される画像である。
【0048】
個人認証媒体の回折格子が支持体上に形成された感熱転写記録媒体の画像の転写方法について説明する。
感熱転写記録媒体40は、図4に示すように、支持体41に剥離層42、OVD形成層43、反射層44、接着層45を図示の順に積層配置することで構成される。ここで、OVD形成層43、反射層44、接着層45は熱移行性材料である。
【0049】
次に、図1に示した中間転写媒体10をドラム(図示せず)とサーマルヘッド35とでその主要部が構成される転写装置へ搬送し、感熱転写記録媒体40の接着層45を中間転写媒体10の受像層兼接着層15に当接させる。これと同時に、感熱転写記録媒体30の支持体31側からサーマルヘッド35を圧接し、かつ、画像データに基づきサーマルヘッド35の発熱素子群を適宜発熱させて、画像データに基づく画像パターンを受像層兼接着層15に形成する。
【0050】
次いで、サーマルヘッド35の発熱により、感熱転写記録媒体40の剥離層42、OVD形成層43、反射層44、接着層45が剥離層42と支持体41の界面で剥離し、受像層兼接着層15に転写される。このように転写した画像が図2に示した個人認証画像21となる。
ここで、個人認証媒体がパスポートの場合には、個人認証画像21としては、顔写真の画像や立体画像、本人のサインの画像などを含み、特に個人を認証する際に用いられる画像である。
【0051】
個人認証媒体を構成する被転写体50の表面は、図5に示すように、被転写体固有の凹凸51を有している。この凹凸51を有する被転写体50の表面粗さは、JIS B 0601-2001に基づく、中心線表面粗さRaの測定を行ったところ、2.34μmであった。
一般的にパスポートの冊子には、通常の紙と比較すると表面粗さの大きい紙が用いられることが多く、表面凹凸の大きい紙基材とすることで、目視で紙の目を確認することができ、見た目の印象として真偽判定を行うことができる。また、手の指先で触れた質感によっても真偽の判断をしやすくする効果がある。
【0052】
図5に示す被転写体50に図2に示す中間転写媒体10の感熱転写記録画像20と個人認証画像21を転写する場合について図6を参照して説明する。
図2に示した中間転写媒体10の受像層兼接着層15に、感熱転写記録画像20と個人認証画像21を転写した側の面を被転写体50の凹凸51を有する面に密着させ、加熱加圧した後、剥離層12から支持体11を剥離した状態を示している。ここで、図6における中間転写媒体10は、図2に示したものと上下が反転した状態で示されている。
図2に示した受像層兼接着層15に転写した感熱転写記録画像20と個人認証画像21は被転写体50の凹凸51に沿って変形される。その結果、感熱転写記録画像60と個人認証画像61は図6に示したような断面形状となる。
【0053】
ここで、色材層により構成された感熱転写記録画像60は、被転写体50の凹凸51の影響を受けても、観察画像については若干のコントラストの低下がある程度で、観察画像の明るさの低下はほとんど起こらない。
【0054】
これに対して、微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子が感熱転写記録媒体から転写されることで形成された個人認証画像61は、被転写体50の凹凸51の影響を受けて、そのレリーフ型ホログラムもしくは回折格子からの回折光が凹凸によって拡がり、再生光の輝度が低下してしまう。
ここで、被転写体50の凹凸51がさらに大きい場合には、OVD形成層13、反射層14にも影響を及ぼすことになり、OVD形成層13からの再生画像にも輝度の低下が起きてしまう。
【0055】
図7は、個人認証媒体の被転写体70に平坦化処理を施した場合の一例を示すものである。この図7に示す被転写体70は、被転写体固有の凹凸面に部分的に平坦化処理を施すことにより、被転写体70の固有の凹凸部71のほかに平坦部72が設けられている。
被転写体70の部分的な平坦化処理は、被転写体70が有する固有の凹凸面に対して、エンボス処理またはカレンダー処理により平坦化処理を行う領域を選択的に加熱、加圧することで行われる。エンボス処理の場合は平面の金属板を加熱し、この加熱金属板を平坦化する部分に押し当てて加圧することで凹凸部71を平坦にする。これにより、平坦部72が形成される。
【0056】
カレンダー処理の場合は金属のシリンダーを加熱し、平坦化する部分に押し当て、加圧しながら、平坦化する領域の範囲を移動して平坦化を行う。この実施例では、エンボス処理により平坦化を行った。この場合、平面部が30mm×40mmの大きさの金属板を圧力が500kg、温度が150℃、加圧時間が7秒間の条件下で処理を行った。
その結果、被転写体70の凹凸部71の表面粗さは、JIS B 0601-2001に基づく、中心線表面粗さRaが2.34μmであり、平坦部72での中心線表面粗さRaは1.48μmであった。
なお、平坦部72の表面粗さRaは1.48μmに限定されるものではなく、平坦部72の表面粗さRaが0.2μm以上乃至2.0μm以下の範囲に設定されていれば、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子が、被転写体上の凹凸の影響による輝度低下を防ぐことが可能となる。
【0057】
図7に示す被転写体70に図2に示す中間転写媒体10の感熱転写記録画像20と個人認証画像21を転写する場合について図8を参照して説明する。
図2に示した中間転写媒体10の受像層兼接着層15に、感熱転写記録画像20と個人認証画像21を転写した側の面を被転写体70の凹凸部71および平坦部72がある側の面に密着させ、加熱加圧した後、剥離層12から支持体11を剥離する。
この場合、図2に示した受像層兼接着層15の感熱転写記録画像20を転写した部分には被転写体70の凹凸部71を対向配置して転写を行い、個人認証画像21を転写した部分には被転写体70の平坦部72を対向配置して転写を行う。
【0058】
転写後に、図2に示した受像層兼接着層15に転写した感熱転写記録画像20は、被転写体70の凹凸部71の凹凸形状に沿って変形され、図8に示した感熱転写記録画像80のような断面形状となる。しかし、個人認証画像21は被転写体70の平坦部72に転写されるため、図8に示すように変形されることなく、個人認証画像81として転写される。
【0059】
このため、個人認証画像81は被転写体70が有する固有の凹凸部の影響を受けることがない。その結果、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子からの回折光は理想的な再生光として輝度の低下は起こらない。また、平坦化されていない領域では、被転写体本来の表面凹凸が維持されることで、見た目が異なり、質感による真偽判定を行うことが可能となる。
【0060】
また、被転写体70の表面に粒子の外殻が熱可塑性の材料で構成されている熱発泡性の粒子を含む易接着層を設けることで、平坦化の際の加熱加圧により易接着層の材料と熱発泡性の粒子の外殻が軟化すると共に粒子がその内部のガス圧により膨張し、易接着層が流動して基材表面の空隙を埋めつつ、被転写体と平坦化の金属面との隙間を無くすることができる。
これにより、被転写体の凹凸が大きく平坦化ができないような空隙の多い紙基材であっても、発泡性の粒子が加熱、加圧により発泡することで、確実に凹凸部分を平坦化することが可能となる。
【0061】
図9は、被転写体90の表面に、中間転写媒体から個人認証画像91を転写した状態を示している。
この図9において、平坦化処理を行った平坦化領域93は、個人認証画像91を転写した画像転写領域92より広い範囲としている。このため、平坦化処理を行っていない非平坦化領域94と平坦化領域93の境界部分では、その表面粗さに差があるために見え方が大きく異なり、平坦化領域93が個人認証画像91の額縁のような効果を現す。これにより、個人認証を行う際に個人認証画像の確認がしやすくなる。
【0062】
また、図9に示す例では、平坦化領域93は長方形をしているが、この領域を特殊な形状としてもよい。たとえば、円形や楕円形、また、さらに周囲に細かい装飾模様を設けてもよい。このようにすることにより平坦化の工程が複雑になるため、容易に偽造することができなくなる。
【0063】
図10は、被転写体100の表面に平坦化領域101を設け、さらに平坦化領域101の領域の内側に特定の形状である平坦化処理を行わない領域を設けている。ここでは星型の形状をした地紋柄102が形成されている。
【0064】
図11は、図10に示したように被転写体100に平坦化処理を行うためのカレンダー装置の概念図である。
この図11において、平坦化ロール110と加圧ロール111により挟まれている被転写体100を、加熱加圧しながら移動することで、平坦化領域101を成形する。
ここで、平坦化ロール110の表面には、星型の形状に、ロール表面より1段掘り下げるように彫刻された複数の地紋型112が形成されている。このロールを用いることで、被転写体100の平坦化領域101に、星型の形状をした地紋柄102を転写することができる。この星型地紋柄102の内側は平坦化処理されていない。すなわち、地紋柄102の内側部分は被転写体100が有する固有の凹凸表面と同じ凹凸面を呈している。
【0065】
平坦化ロール110の表面に地紋型112を設ける方法としては、切削、エッチング、レーザー加工などの方法を用いることができる。また、平面の金属板を用いてエンボスを行う方法でも、同様に平坦化を行うことができる。この場合でも平面の金属板に同様の方法で地紋型を設けることができる。
【0066】
図10で示した被転写体100の表面に、中間転写媒体から個人認証画像120を転写する場合について図12を参照して説明する。
この図12において、平坦化領域101の内側に個人認証画像120が転写されている。地紋柄102の内側部分は平坦化されていないため、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子が転写された地紋柄102の部分では、再生画像の輝度が落ち、地紋柄を識別することができる。また、レリーフ型ホログラムもしくは回折格子が転写されていない地紋柄102では表面粗さが周囲と異なるために、地紋柄を識別することができる。
なお、被転写体の平坦部内に形成される地紋は、図10に示すような星型の地紋に限らず、個人認証画像の背景を形成できるものであれば、どのような形状のものであってもよい。
【0067】
ここで、被転写体の平坦化処理を行った領域の被転写体表面の、JIS B 0601-2001に基づく中心線表面粗さRaと、平坦化処理を行わない領域の基板表面の中心線表面粗さRaの差を、0.5μm以上乃至80μm以下とすることで、平坦化処理の有る無しの各領域において異なる見え方となるため、個人認証画像の背景に特定の形状による地紋柄の視認性を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、パスポートや査証などの冊子等の画像形成体付き物品上に個人特定の要である顔画像や指紋を印刷・印字・描画する画像形成体および画像形成体つき物品に係わるものである。特に正当な所有者の顔や指紋の画像といった画像情報などの個人認証情報を、回折格子を設けたセルを複数配置して構成し、その上下層に彩紋や万線模様を施した有色層を設けることにより、偽造や改竄を困難にし、さらに個人識別を行う審査官に対してより不正行為があるもの判別を容易にし、より精度良く認証することができる。
【符号の説明】
【0069】
10……中間転写媒体、11,31,41……支持体、12,32,42……剥離層、13,43……OVD形成層、14,44……反射層、15……受像層兼接着層、20,60,80……感熱転写記録画像、21,61,81,91,120……個人認証画像、30,40……感熱転写記録媒体、33……色材層、34,45……接着層、35……サーマルヘッド、50,70……被転写体、51……表面凹凸、62,82,90,100……個人認証媒体、71……凹凸部、72……平坦部、92……画像転写領域、93,101……平坦化領域、94……非平坦化領域、102……地紋柄、110……平坦化ロール、111……加圧ロール、112……地紋型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用の受像層を有するとともに微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子が個人認証画像として形成された中間転写媒体に、着色層を有する感熱転写記録媒体の前記着色層と前記受像層とを重ね合わせた状態で画像情報に基づく前記感熱転写記録媒体への選択的加熱により感熱転写記録画像を書き込み、前記感熱転写記録画像が書き込まれた前記中間転写媒体を被転写体に加圧接触させて加熱することにより前記感熱転写記録画像を前記被転写媒体に転写して得られた前記被転写媒体に画像形成物が形成された個人認証媒体であって、
前記受像層が圧接される前記被転写体の表面は該被転写体固有の表面粗さの凹凸部を有し、前記被転写体の表面の前記画像形成物が転写される領域に前記凹凸部の表面粗さより小さい表面粗さの平坦部が形成されている、
ことを特徴とする個人認証媒体。
【請求項2】
前記平坦部の領域に地紋が形成されていることを特徴とする請求項1記載の個人認証媒体。
【請求項3】
前記地紋の表面は、前記平坦部の表面粗さと異なる表面粗さを有することを特徴とする請求項2記載の個人認証媒体。
【請求項4】
前記地紋の表面粗さは前記凹凸部の表面粗さと同じであることを特徴とする請求項3記載の個人認証媒体。
【請求項5】
前記平坦部は、エンボス処理またはカレンダー処理により形成されることを特徴とする請求項1記載の個人認証媒体。
【請求項6】
前記地紋の形成にエンボス用金属板またはカレンダー処理用金属シリンダーが用いられ、エンボス用金属板またはカレンダー処理用金属シリンダーはそれぞれの表面に設けられた地紋形成用の凸部または凹部を有することを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項記載の個人認証媒体。
【請求項7】
前記中間転写媒体に前記微細な凹凸パターンで構成されるレリーフ型ホログラムもしくは回折格子の凹凸面に沿って透過性薄膜層が設けられ、前記透過性薄膜層の屈折率が前記レリーフ型ホログラムもしくは回折格子を形成した層の屈折率と異なることを特徴とする請求項1乃至6に何れか1項記載の個人認証媒体。
【請求項8】
前記被転写体の表面に、粒子の外殻が熱可塑性の材料で構成される熱発泡性の粒子を含む易接着層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至7に何れか1項記載の個人認証媒体。
【請求項9】
前記平坦部の表面のJIS B 0601-2001に基づく中心線表面粗さRaが
0.2μm以上乃至2.0μm以下であることを特徴とする請求項1項記載の個人認証媒体。
【請求項10】
前記平坦部の表面のJIS B 0601-2001に基づく中心線表面粗さRaと前記凹凸部表面の中心線表面粗さRaとの差が0.5μm以上乃至80μm以下であることを特徴とする請求項1項記載の個人認証媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−66544(P2012−66544A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215250(P2010−215250)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】