説明

個体検出器

【課題】検出領域の環境変化に起因した対象物の検出の信頼度の低下を回避でき、検出領域の環境変化に応じて閾値を手動で設定し直す手間がかからない個体検出器を提供する。
【解決手段】個体検出器1は、距離画像センサ2から得られる距離画像P1と背景距離画像P2との差分である差分距離画像P3を生成し、差分距離画像P3において距離値の絶対値が閾値th1,th2以上になる領域を対象物として検出する対象検出手段3と、対象検出手段3で用いられる閾値th1,th2を設定する閾値設定手段5とを備える。閾値設定手段5は、距離画像センサ2からそれぞれ異なるタイミングで距離画像P1を複数取得し当該複数の距離画像P1のうち背景物の同一画素について距離値のばらつきの程度を示す標準偏差を指標値として算出する算出部51と、閾値th1,th2を指標値に所定のマージンを加えた値に自動で設定する設定部52とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出領域を撮像することにより検出領域に存在する物体までの距離値を画素値とした距離画像を生成し、当該距離画像を用いて検出領域内の対象物を検出する個体検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の個体検出器1としては、たとえば図8に示すように、検出領域A1の上方に設置され検出領域A1を撮像することにより距離画像P1(図9参照)を生成する距離画像センサ2と、距離画像センサ2で生成された距離画像P1を用いて検出領域A1内の対象物(たとえば人体H1,H2)を検出する対象検出手段3とを備えたものが提供されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
距離画像センサ2の一例としては、たとえば検出領域A1に光を照射してから反射光を受光するまでの時間に基づいて検出領域A1の各場所までの距離をそれぞれ求めることで、距離値を画素値とした距離画像P1を生成するものがある。距離画像センサ2は、検出領域A1の背後の背景物(図8の例では床F1、ドア8等)に対して定位置に位置固定される。
【0004】
対象検出手段3は、たとえば図9に示すように、距離画像センサ2から背景物までの距離値を画素値とする距離画像を背景距離画像P2として予め保持しており、距離画像センサ2から得られる距離画像P1と背景距離画像P2との差分である差分距離画像P3を生成し、差分距離画像P3において距離値の絶対値がある閾値th1以上となる領域を抽出して前景距離画像P4を生成し、前景距離画像P4として抽出された領域を対象物として検出する。背景距離画像P2は、たとえば検出領域A1に対象物が存在しない状態で距離画像センサ2から取得した複数の距離画像P1について、画素ごとに距離値を平均化することにより生成される。
【0005】
上述の個体検出器1の動作について、本発明の実施形態1を示す図2を参照して説明する。
【0006】
対象検出手段3は、距離画像センサ2から取得した距離画像P1を背景距離画像P2から減算する(つまり画素ごとに距離値の減算を行う)ことで差分距離画像P3を生成する。そのため、図2(a)のように検出領域A1の床F1上に人体H1,H2のみが存在する場合、理想的には、差分距離画像P3は人体H1に対応する領域に人体H1の床F1からの高さ(身長)を距離値として有し、人体H2に対応する領域に人体H2の床F1からの高さ(身長)を距離値として有することになる。そして、対象検出手段3は、差分距離画像P3の各画素ごとに距離値を上記閾値th1と比較し、距離値が閾値th1以上となる領域を図2(b)に示すように前景距離画像P4として抽出する。言い換えれば、差分距離画像P3のうち距離値が閾値th1を下回る領域は背景物(ここでは床F1)とみなされ、図2(a)に示すように床F1から閾値th1以上の高さに存在する対象物(ここでは人体H1,H2)が前景距離画像P4として抽出される。この前景距離画像P4から、検出領域A1に存在する対象物が検出される。
【0007】
ところで、距離画像センサ2で求まる距離値は、たとえば環境光等の外光成分の影響により誤差を生じることがある。ここにおいて、背景物の距離値に誤差が生じても、当該背景物の差分距離画像P3の距離値が閾値th1以上となることで当該背景物が対象物と誤認されることがないように、上記閾値th1は距離値の誤差を考慮して設定される。すなわち、背景物(ここでは床F1)の同一画素についての距離値の誤差が正規分布に従ってばらつくものとみなすと、この誤差分布のばらつきの程度を表す標準偏差σ1を考慮してたとえば図2(a)に示すようにσ1よりも所定のマージンMだけ大きい値(σ1+M)の閾値th1が設定される。これにより、差分距離画像P3のうち距離値が閾値th1を下回る領域を背景物とみなせる信頼度は一定に保たれる。この閾値th1は、個体検出器1を設置する際、個体検出器1に外部機器(たとえばパーソナルコンピュータ)を接続し、距離画像センサ2で生成される複数の距離画像P1の距離データ(距離値およびその誤差)を外部機器でモニタリングしながら、手動で最適値に設定される。
【特許文献1】特開2006−64695号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、背景物の距離値の誤差の発生確率は検出領域A1の環境変化に起因して変動することがある。たとえば、距離画像センサ2が背景物の距離値を測定する際に受光する光には信号成分(距離画像センサ2から出力され背景物で反射された光)と雑音成分(環境光等の外光成分)とが含まれているので、背景物である床F1の張替えなどにより床F1の光の反射率が低下すると、距離画像センサ2で受光される光に占める信号成分の割合が低下して背景物の距離値のSN比が低下し、背景物の距離値の誤差の発生確率が高くなる。誤差の発生確率が高くなると、実際に距離画像センサ2で測定される床F1の距離値に関してもばらつきの程度が大きくなる。このように背景物の距離値のばらつきの程度が変動して大きくなる場合、図10(a)のように変動後における誤差分布の標準偏差σ2が変動前における誤差分布の標準偏差σ1より大きくなるので、閾値th1が変動前の標準偏差σ1を考慮して設定された値のままであれば、差分距離画像P3のうち距離値が閾値th1を下回る領域を背景物とみなせる信頼度が低下する。したがって、背景物の差分距離画像P3の距離値が閾値th1以上となり図10(b)に示すように前景距離画像P4で背景物と対象物とを区別できなくなる不具合が発生しやすくなり、対象物の検出の信頼度が低くなる。
【0009】
また、検出領域A1の環境変化に応じて閾値th1を手動で設定し直すようにすれば、対象物の検出の信頼度の低下を回避できるものの、閾値th1を設定し直す手間がかかるという問題がある。特に、個体検出器1の一部が天井に埋め込まれている場合には、個体検出器1に外部機器を接続して閾値th1を設定し直すという作業は非常に面倒である。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであって、検出領域の環境変化に起因した対象物の検出の信頼度の低下を回避でき、且つ、検出領域の環境変化に応じて閾値を手動で設定し直す手間がかからない個体検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明では、検出領域の背後の背景物に対して位置固定され検出領域を撮像することにより検出領域に存在する物体までの距離値を画素値とした距離画像を生成する距離画像センサと、距離画像センサから背景物までの距離値を画素値とする距離画像を背景距離画像として、距離画像センサから得られる距離画像と背景距離画像との差分である差分距離画像を生成し、差分距離画像において距離値の絶対値が所定の閾値以上になる領域を対象物として検出する対象検出手段と、対象検出手段で用いられる前記閾値を設定する閾値設定手段とを備え、閾値設定手段は、距離画像センサからそれぞれ異なる時刻に複数の距離画像を取得し当該複数の距離画像のうち前記背景物の同一画素について距離値のばらつきの程度を示す指標値を算出する算出部と、算出部で算出された前記指標値に基づいて統計的に前記閾値を自動で設定する設定部とを有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、閾値設定手段が、距離画像センサからそれぞれ異なる時刻に複数の距離画像を取得し当該複数の距離画像のうち前記対象物を除く同一画素について距離値のばらつきの程度を示す指標値を算出する算出部と、算出部で算出された前記指標値に基づいて統計的に前記閾値を自動で設定する設定部とを有するので、検出領域の環境変化に起因して背景物の距離値のばらつきの程度が変動することがあっても、差分距離画像のうち距離値の絶対値が閾値を下回る領域を背景物とみなせる信頼度を一定に保つことができる。したがって、背景物の差分距離画像の距離値の絶対値が閾値以上となり背景物と対象物とを区別できなくなる不具合の発生を回避でき、検出領域の環境変化に起因した対象物の検出の信頼度の低下を回避することができる。また、閾値は閾値設定手段により自動で設定されるので、検出領域の環境変化に応じて閾値を手動で設定し直す手間がかからないという利点もある。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記対象物が人体であって、前記検出領域における人体の存否を検出する人体検知センサが設けられ、前記算出部が、検出領域に人体が存在しないときに前記距離画像センサから前記距離画像を取得し、前記指標値を算出することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、算出部で算出される指標値は検出領域に人体が存在しないときに距離画像センサから取得された距離画像により算出されるので、検出領域における人体の存否の影響を受けて指標値が必要以上に大きくなることを確実に回避できる。したがって、設定部において必要以上に大きな閾値が設定されることを回避でき、結果的に対象物の検出感度の向上を図ることができる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記算出部が、前記距離画像の各画素ごとに前記指標値を算出し、前記設定部が、距離画像の各画素ごとに前記閾値を設定することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、距離画像の各画素ごとに閾値が設定されるので、距離値のばらつきの程度が検出領域内において各画素ごとに異なっている場合に、各画素ごとに最適な閾値を設定することができ、対象物の検出感度の向上を図ることができる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記算出部が、それぞれ隣接した複数の画素からなる複数の小領域に前記距離画像を区分し、各小領域ごとに同一画素について前記指標値を算出し、前記設定部が、距離画像の各小領域ごとに前記閾値を設定することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、距離画像の各小領域ごとに閾値が設定されるので、距離値のばらつきの程度が検出領域内において各小領域ごとに異なっている場合に、各小領域ごとに最適な閾値を設定することができ、対象物の検出感度の向上を図ることができる。また、距離画像の各画素ごとに閾値を設定する場合に比べて、閾値設定手段で処理されるデータ量を減らすことができ、処理速度を向上させることができるという利点もある。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、閾値設定手段が、距離値のばらつきの程度を示す指標値を算出する算出部と、算出部で算出された指標値に基づいて統計的に閾値を自動で設定する設定部とを有するので、検出領域の環境変化に起因して背景物の距離値のばらつきの程度が変動することがあっても、背景物の差分距離画像の距離値の絶対値が閾値以上となり背景物と対象物とを区別できなくなる不具合の発生を回避でき、検出領域の環境変化に起因した対象物の検出の信頼度の低下を回避できる。また、閾値は閾値設定手段により自動で設定されるので、検出領域の環境変化に応じて閾値を手動で設定し直す手間がかからないという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下の各実施形態では、図8に示すように電気錠7付のドア8および解錠のための認証装置9を備えた部屋の入室管理システムにおいて、認証装置9での認証によって正当と認められた人体H1が入室する際、同時に他の人体H2が侵入する所謂共入りを検出する共入り検出装置10に、本発明の個体検出器1を用いる例を示す。この例では、人体H1の入室時に、制御装置11からの信号を受けて個体検出器1が検出領域(ドア8付近の空間)A1の人体H1,H2を検出し、複数の人体H1,H2が検出されると共入り検出手段12において共入りと判断し警報手段13に発報させる。ただし、本発明の個体検出器1の用途は、共入り検出装置10に限定されるものではない。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態の個体検出器1は、図1に示すように検出領域A1(図2参照)を撮像することにより検出領域A1に存在する物体までの距離値を画素値とした距離画像P1を生成する距離画像センサ2と、距離画像センサ2で生成された距離画像P1を用いて検出領域A1内の対象物を検出する対象検出手段3とを備える。ここで距離画像センサ2は天井(図示せず)に取り付けられており、図2に示すように検出領域A1の背後の背景物としての床F1に対して定位置に位置固定されることで、床F1までの実距離が不変となっている。検出領域A1は距離画像センサ2と床F1との間において距離画像センサ2を頂点とした角錐状に形成される。
【0022】
本実施形態では、距離画像センサ2として、たとえば赤外線を検出領域A1に照射する光源(図示せず)と、2次元配列された複数の感光部(図示せず)を具備し光学系(図示せず)を通して検出領域A1からの赤外線反射光を各感光部で受光する光検出素子(図示せず)とを有し、赤外線が照射されてから受光されるまでの時間(以下、往復時間という)に基づいて、検出領域A1に存在する物体までの距離値を画素ごとに求めるものを採用する。ただし、往復時間は非常に短いので、検出領域A1に照射する光の強度が一定周期で周期的に変化するように変調した強度変調光を用い、光源から出力される光と光検出素子で受光される光との間の位相差Φより往復時間を求めるようにする。
【0023】
ここにおいて、図3(a)に示すように所定の変調周波数(たとえば20MHz)の正弦波で光源から出力させる光強度(投光強度)を変調したとき、投光強度と光検出素子で受光される光強度(受光強度)との間の位相差Φは、複数のタイミングで求めた光検出素子での受光光量を用いて算出することができる。たとえば、光源からの強度変調光の位相の0〜90度、90〜180度、180〜270度、270〜360度の各区間での受光光量をそれぞれq0,q1,q2,q3(図3(b)に斜線部で示す領域の面積に相当する)とし、受光光量q0,q1,q2,q3を求める間に位相差Φが変化せず(つまり、物体までの距離が変化せず)且つ物体の反射率にも変化がないものとすれば、位相差Φ〔rad〕は、Φ=tan−1{(q2−q0)/(q1−q3)}で表すことができる。
【0024】
このように求まる位相差Φ〔rad〕と強度変調光の変調周波数f〔Hz〕とを用いれば、往復時間Δt〔s〕は、Δt=Φ×(1/2πf)〔s〕と表すことができる。そして、この往復時間Δt〔s〕と光速c〔m/s〕とを用いることにより、距離画像センサ2から物体までの距離値はΔt×c/2〔m〕で表される。
【0025】
対象検出手段3は、図1に示すように、検出処理部31と識別処理部32とを有しており、このうち検出処理部31において、距離画像センサ2から得られる距離画像P1と予め保持している背景距離画像(距離画像センサ2から背景物までの距離値を画素値とする距離画像)P2との差分である差分距離画像P3を生成し、差分距離画像P3において距離値の絶対値がある閾値以上となる領域を抽出して前景距離画像P4を生成し、前景距離画像P4として抽出された領域を対象物として検出する。背景距離画像P2は、たとえば検出領域A1に対象物が存在せず背景物のみが存在する状態で距離画像センサ2から取得した複数の距離画像P1について、画素ごとに距離値を平均化することにより生成される。検出処理部31の後段の識別処理部32は、共入りを識別するために、検出処理部31で生成された前景距離画像P4から検出領域A1内の人数を計数する。
【0026】
上述した構成の個体検出器1において検出領域A1の対象物を検出する動作については、背景技術の欄で図2を参照して説明した動作と同様であるから説明を省略する。
【0027】
ところで、距離画像センサ2から物体までの距離が不変であっても、実際にそれぞれ異なるタイミングで距離画像P1を複数生成すると、通常、これら複数の距離画像P1間で同一画素について距離値のばらつきを生じる。したがって、背景物の距離値にばらつきが生じても、当該背景物の差分距離画像P3の距離値が閾値th1以上となり当該背景物が対象物と誤認されることを防止するためには、背景物の距離値のばらつきの程度を考慮して上記閾値th1を設定する必要がある。ただし、背景物の距離値のばらつきの程度は検出領域A1の環境変化に起因して変動することがあり、たとえば背景物である床F1の張替えなどにより床F1の反射率(ここでは赤外線に対する反射率)が低下すると、距離画像P1における背景物の距離値のSN比が低下して背景物の距離値のばらつきが大きくなることがある。本実施形態の場合、距離画像センサ2で距離値を求める際に用いる受光光量q0,q1,q2,q3には光源から出力された光と別に環境光の受光量も含まれているから、背景物の反射率が低下して受光光量q0,q1,q2,q3のSN比が低下すれば、背景物の距離値に関して誤差の発生確率が高くなり、背景物の距離値のばらつきの程度が大きくなる。
【0028】
そこで、本実施形態の個体検出器1は、上述した距離画像センサ2、対象検出手段3に加え、図1に示すように対象検出手段3で用いられる閾値th1,th2を設定する閾値設定手段5を備えている。この閾値設定手段5は、背景物の距離値のばらつきの程度を示す指標値を算出する算出部51と、算出部51で算出された指標値に基づいて統計的に前記閾値th1,th2を自動で設定する設定部52とを有している。
【0029】
算出部51は、距離画像センサ2からそれぞれ異なるタイミングで距離画像P1を多数取得し当該多数の距離画像P1のうち背景物の同一画素について指標値を算出する。ここでは、距離画像P1のうちのある特定の一画素を参照画素とし、多数の距離画像P1から抽出される参照画素の距離値を蓄積し、蓄積された距離値から指標値を算出している。なお、算出部51での指標値の算出には背景物の参照画素の距離値のみが用いられるように、距離値が所定値以上となる参照画素のみについて距離値を蓄積するようにしている。つまり、たとえば検出領域A1の参照画素に対応する位置に人体が存在するときには、参照画素の距離値が所定値以下となり、この参照画素の距離値は算出部51に蓄積されることなく破棄される。本実施形態では、背景物の同一画素の距離値についての誤差が正規分布に従って分布するものと仮定し、算出部51はこの正規分布のばらつきの程度を表す標準偏差を蓄積された多数の距離値から算出して指標値として用いるようにしてある。標準偏差は周知のように分散の平方根であって正規分布の平均値(中央値)からのばらつきの程度を示すものである。
【0030】
上述した算出部51による指標値の算出は一定周期で自動的に行われる。一例として、算出部51が指標値を算出するための多数の距離画像を距離画像センサ2から取得するのに数秒程度の取得時間を要するので、算出部51はこの取得時間が経過する度に指標値を算出するように設計される。ただし、算出部51が指標値を算出する周期は取得時間に限るものではなく、たとえば数時間に1度の周期で指標値を算出するようにすれば消費電力を低く抑えることができる。
【0031】
設定部52は、算出部51にて指標値が算出される度に、当該指標値に基づいて統計的に閾値th1,th2を自動で設定する。ここでは、検出領域A1の環境変化に起因して背景物の距離値のばらつきの程度が変動することがあっても、差分距離画像P3のうち距離値の絶対値が閾値th1,th2を下回る領域を背景物とみなせる信頼度を一定に保つことができるように、指標値に基づいて閾値th1,th2を設定している。具体的には、指標値に所定のマージンを加算することによって、指標値よりも前記マージン分だけ大きい値に閾値th1,th2を設定している。なお、ここではマージンは予め設定された一定の値としているが、指標値の関数をマージンとしてもよい。
【0032】
以下に、閾値設定手段5の動作について図2、図4および図5を参照して説明する。以下の説明では、距離画像センサ2から背景物(床F1,F2)までの実際の距離がxであって、個体検出器1が使用されている期間中に床F1が床F2に張替えられて背景物の反射率(赤外線に対する反射率)が低下する例を示す。なお、図5は横軸を距離値、縦軸を頻度として、背景物の参照画素の距離値を複数回測定したときの誤差の分布を表している。
【0033】
床F1の張替え前において、算出部51に蓄積される参照画素の距離値は、図5に実線で示すように誤差が標準偏差σ1の正規分布に従って分布しているものとする。この場合、算出部51は指標値として標準偏差σ1を算出し、設定部52は閾値th1を指標値σ1に所定のマージンMを加算した値(σ1+M)に設定する。そのため、差分距離画像P3のうち距離値が閾値th1(=σ1+M)を下回る領域は背景物とみなされ、図2(a)に示すように床F1から閾値th1以上の高さに存在する対象物(ここでは人体H1,H2)が前景距離画像P4として抽出される。したがって、距離画像センサ2で得られる背景物の距離値に標準偏差がσ1となるばらつきが生じても、背景物の差分距離画像P3は距離値が概ね閾値を下回って背景物とみなされることになり、背景物の差分距離画像P3の距離値が閾値th1以上となり背景物と対象物とを区別できなくなる不具合の発生を回避できる。
【0034】
一方、床F1から床F2への張替え後において、算出部51に蓄積される参照画素の距離値は、図5に破線で示すように誤差が標準偏差σ2の正規分布に従って分布しているものとする。ここで、背景物(床F2)の反射率が低下したことに起因して背景物の距離値のばらつきが大きくなるので、σ1とσ2とはσ1<σ2の関係にある。算出部51は指標値として標準偏差σ2を算出し、設定部52は閾値th2を指標値σ2に所定のマージンMを加算した値(σ2+M)に設定する。そのため、差分距離画像P3のうち距離値が閾値th2(=σ2+M)を下回る領域は背景物とみなされ、図4(a)に示すように床F2から閾値th2以上の高さに存在する対象物(ここでは人体H1,H2)が前景距離画像P4として抽出される。したがって、距離画像センサ2で得られる背景物の距離値に標準偏差がσ2となるばらつきが生じても、背景物の差分距離画像P3は距離値が概ね閾値を下回って背景物とみなされることになり、背景物の差分距離画像P3の距離値の絶対値が閾値以上となり背景物と対象物とを区別できなくなる不具合の発生を回避できる。
【0035】
上述したように、閾値設定手段5は、距離画像センサ2からそれぞれ異なるタイミングで複数の距離画像P1を取得し当該複数の距離画像P1のうち背景物の同一画素について距離値のばらつきの程度を示す指標値を算出する算出部51と、算出部51で算出された指標値に基づいて統計的に前記閾値th1,th2を自動で設定する設定部52とを有するので、検出領域A1の環境変化に起因して背景物の距離値のばらつきの程度が変動することがあっても、差分距離画像P3のうち距離値の絶対値が閾値th1,th2を下回る領域を背景物とみなせる信頼度を一定に保つことができる。したがって、背景物の差分距離画像P3の距離値の絶対値が閾値th1,th2以上となり背景物と対象物とを区別できなくなる不具合の発生を回避でき、検出領域A1の環境変化に起因した対象物の検出の信頼度の低下を回避することができる。また、閾値th1,th2は閾値設定手段5により自動で設定されるので、検出領域A1の環境変化に応じて閾値th1,th2を手動で設定し直す手間がかからないという利点もある。
【0036】
なお、本実施形態では閾値設定手段5が2種類の閾値th1,th2を設定する例を示したが、閾値設定手段5で設定可能な閾値は2種類の閾値th1,th2に限られるものではなく、背景物の距離値のばらつきの程度に応じて任意の閾値が設定される。また、距離画像センサ2として赤外線の往復時間に基づいて物体までの距離値を求める構成を例示したが、この構成に限るものではなく、たとえば三角測量法の原理によって物体までの距離値を求める構成を採用してもよい。
【0037】
(実施形態2)
本実施形態の個体検出器1は、図6に示すように検出領域A1の人体の存否を検出する人体検知センサ6を備え、算出部51が検出領域A1に人体が存在しないときに距離画像センサ2から距離画像P1を取得して指標値を算出するように構成されている点が実施形態1の個体検出器1と相違する。
【0038】
人体検知センサ6は人体から放射される赤外線を検出することで人の動きを検知する所謂熱線センサである。距離画像センサ2と閾値設定手段5との間には、人体検知センサ6の出力に応じてオンオフするスイッチ要素SWが介在されている。スイッチ要素SWは、人体検知センサ6により検出領域A1に人体が存在しないと判断されている期間にオンし、人体検知センサ6により検出領域A1に人体が存在すると判断されている期間にオフする。
【0039】
本実施形態の構成によれば、算出部51で算出される指標値は常に、検出領域A1に人体が存在しない状態で距離画像センサ2から取得された距離画像P1により算出されることになるので、検出領域A1における人体の存否の影響を受けて指標値が必要以上に大きくなることを確実に回避することができる。つまり、実施形態1で例示したように背景物の距離値の誤差が標準偏差σ2の正規分布に従って分布している場合、算出部51が指標値を算出するために距離画像センサ2から取得する複数の距離画像P1に、検出領域A1に人体が存在する状態で取得された距離画像P1が含まれていると、参照画素の一部に人体の距離値が含まれることによって算出される指標値がσ2に比べて大きくなる可能性があるが、本実施形態では検出領域A1に人体が存在しない状態で取得された距離画像P1により指標値を算出するので指標値がσ2より必要以上に大きくなることはない。したがって、設定部52において必要以上に大きな閾値th2が設定されることを回避でき、結果的に対象物の検出感度の向上を図ることができる。
【0040】
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
【0041】
(実施形態3)
本実施形態の個体検出器1は、閾値設定手段5が検出領域A1の全域に対して唯一の閾値を設定するのではなく、検出領域A1を複数の区画に分割して各区画ごとにそれぞれ個別に閾値を設定する点が実施形態1の個体検出器と相違する。具体的には、算出部51が距離画像P1の各画素ごとに指標値を算出し、設定部52が距離画像P1の各画素ごとに閾値を設定するようにしてある。この場合、図7(b)に示すように検出領域A1は距離画像P1の1画素に相当する各区画a1ごとに閾値が設定されることになる。
【0042】
すなわち、本実施形態の構成によれば、たとえば図7(a)、(b)に示すように検出領域A1の右半分と左半分とで背景物である床F10,F20の反射率が異なる場合、反射率が低い方(つまり距離値のばらつきの程度が大きい方)の床F10上の検出領域A1に関しては、指標値として距離値のばらつきの標準偏差σ10が算出され、閾値th10が指標値σ10に所定のマージンMを加算した値(σ10+M)に設定され、反射率が高い方(つまり距離値のばらつきの程度が小さい方)の床F20上の検出領域A1に関しては、指標値として距離値のばらつきの標準偏差σ20(ただしσ20<σ10)が算出され、閾値th20が指標値σ20に所定のマージンMを加算した値(σ20+M)に設定される(つまりth10>th20)。したがって、図7(a)、(b)のように反射率が低い方の床F10上に閾値th10以上の身長の人体H1が存在し、反射率が高い方の床F2上に閾値th10未満の身長の人体H2が存在するときでも、人体H2の身長が閾値th20以上であれば人体H1と人体H2とのそれぞれについて差分距離画像P3の距離値が閾値th10,th20以上となり対象物として検出可能となる。
【0043】
これに対して、検出領域A1の全域に対して唯一の閾値th10を設定する構成では、検出領域A1の右半分と左半分とで背景物である床F10,F20の反射率が異なる場合、距離画像のうち反射率が低い方(つまり距離値のばらつきの程度が大きい方)の床F10の参照画素を用いて指標値(σ10)が算出されることで、図5(c)のように閾値th10が検出領域A1の全域において指標値σ10に所定のマージンMを加算した値(σ10+M)に設定される。したがって、反射率が低い方の床F10上に閾値th10以上の身長の人体H1が存在し、反射率が高い方の床F20上に閾値th10未満の身長の人体H2が存在するときに、人体H1は検出できるものの人体H2については差分距離画像P3の距離値が閾値th10未満となり背景物と誤認されてしまう。
【0044】
上述したように、本実施形態の構成では、距離画像P1の各画素ごとに閾値を設定することにより、背景物の距離値のばらつきの程度が検出領域A1内において各区画a1ごとに異なっている場合に、各区画a1ごとに最適な閾値を設定することができ、対象物の検出感度の向上を図ることができるという利点がある。
【0045】
また、上記実施形態の他の例として、算出部51が、それぞれ隣接した複数の画素からなる複数の小領域に距離画像P1を区分し、各小領域ごとに参照画素となる同一画素について指標値を算出し、設定部52が距離画像P1の各小領域ごとに閾値を設定するようにしてもよい。この構成では、検出領域A1は距離画像P1において隣接した複数画素からなる小領域に相当する各区画a1ごとに閾値が設定されることになるので、実施形態3の例と同様に、背景物の距離値のばらつきの程度が検出領域A1内において各区画a1ごとに異なっている場合に、各区画a1ごとに最適な閾値を設定することができ、対象物の検出感度の向上を図ることができるという利点がある。しかも、距離画像P1の各画素ごとに閾値を設定する場合に比べて、閾値設定手段5で処理されるデータ量を減らすことができ、処理速度を向上させることができるという利点もある。なお、小領域は、距離画像P1において対象物が占める画素数よりも少ない画素数に設定することが望ましい。
【0046】
ところで、上述した各実施形態では、背景物の距離値のばらつきの程度が変動する原因となる検出領域A1の環境変化として、床F1の張替えなどにより床F1の反射率の変化を例示したが、この例に限るものではなく、たとえば検出領域A1に入射する環境光の強度変化などの環境変化に起因して背景物の距離値のばらつきの程度が変動することもあるので、本発明の個体検出器1を用いればこれらの様々な環境変化に応じて最適な閾値を設定することができる。
【0047】
また、上記各実施形態で閾値設定手段5が標準偏差を指標値として閾値を設定する例を示したが、この例に限らず、たとえば標準偏差の定数倍を指標値として閾値を設定するようにしたり、分散を指標値として閾値を設定するようにしたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態1の構成を示すブロック図である。
【図2】同上の動作例を示し、(a)は概略側面図、(b)は前景距離画像の概略図である。
【図3】同上の距離画像センサの動作説明図である。
【図4】同上の動作例を示し、(a)は概略側面図、(b)は前景距離画像の概略図である。
【図5】同上の背景物の距離値のばらつきを示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態2の構成を示すブロック図である。
【図7】(a)は本発明の実施形態3の動作を示す概略側面図、(b)は(a)の概略上面図、(c)は比較例の動作を示す概略側面図である。
【図8】従来例を示す概略構成図である。
【図9】同上の構成を示す要部のブロック図である。
【図10】同上の動作例を示し、(a)は概略側面図、(b)は前景距離画像の概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1 個体検出器
2 距離画像センサ
3 対象検出手段
5 閾値設定手段
6 人体検知センサ
51 算出部
52 設定部
A1 検出領域
F1,F2,F10,F20 床(背景物)
H1,H2 人体(対象物)
P1 距離画像
P2 背景距離画像
P3 差分距離画像
th1,th2,th10,th20 閾値
σ1,σ2,σ10,σ20 指標値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出領域の背後の背景物に対して位置固定され検出領域を撮像することにより検出領域に存在する物体までの距離値を画素値とした距離画像を生成する距離画像センサと、距離画像センサから背景物までの距離値を画素値とする距離画像を背景距離画像として、距離画像センサから得られる距離画像と背景距離画像との差分である差分距離画像を生成し、差分距離画像において距離値の絶対値が所定の閾値以上になる領域を対象物として検出する対象検出手段と、対象検出手段で用いられる前記閾値を設定する閾値設定手段とを備え、閾値設定手段は、距離画像センサからそれぞれ異なる時刻に複数の距離画像を取得し当該複数の距離画像のうち前記背景物の同一画素について距離値のばらつきの程度を示す指標値を算出する算出部と、算出部で算出された前記指標値に基づいて統計的に前記閾値を自動で設定する設定部とを有することを特徴とする個体検出器。
【請求項2】
前記対象物は人体であって、前記検出領域における人体の存否を検出する人体検知センサが設けられ、前記算出部は、検出領域に人体が存在しないときに前記距離画像センサから前記距離画像を取得し、前記指標値を算出することを特徴とする請求項1記載の個体検出器。
【請求項3】
前記算出部は、前記距離画像の各画素ごとに前記指標値を算出し、前記設定部は、距離画像の各画素ごとに前記閾値を設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の個体検出器。
【請求項4】
前記算出部は、それぞれ隣接した複数の画素からなる複数の小領域に前記距離画像を区分し、各小領域ごとに同一画素について前記指標値を算出し、前記設定部は、距離画像の各小領域ごとに前記閾値を設定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の個体検出器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−268023(P2008−268023A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112110(P2007−112110)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】