説明

個体識別装置、個体識別対象物、個体識別方法、及びプログラム

【課題】 微細物質を対象物にランダムに付与し、個体識別に利用する個体識別システムにおいて、より高精度に対象物の検証を行うことが可能でセキュリティを高めることができる個体識別装置等を提供する。
【解決手段】 偏光特性を有する微細物質20を対象物2の基材上にランダムに付与する。個体識別装置4は、対象物2を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像から微細物質20の配置パターンと偏光角に基づく特徴量データを認証用データとしてデータベース5に登録する。認証処理では、対象物2を上記所定の偏光角と同じ偏光角で撮影した偏光撮影画像から、登録時と同様の計算処理により微細物質20の配置パターン及び偏光角に基づく特徴量データを算出し、データベース5に登録されている認証用データと照合し、認証の可否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に付与される微細物質の配置パターンに基づいて個体識別を行う個体識別装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IDカード等の対象物について個体識別による認証を行うための技術として、人工物メトリクス技術が提案されている。人工物メトリクス技術とは、対象物(人工物)に分離不可能にランダムに付与されるような固有の物理的特徴を計測し、これに基づくデータを事前に計測された真のデータと比較照合することにより、対象物の検証を行うものである。すなわち、人間の指紋に相当するような固有の物理的特徴を人工物から読取り検証に利用する。
【0003】
対象物固有の物理的特徴としては、大別して光学特性、磁気特性、電気特性、振動特性等がある。光学特性を有するものの具体例としては、基材にランダム分散した粒状物やファイバ等の光反射、光透過パターンなどが挙げられる。
これらの対象物に固有の特徴は、スキャナやカメラ等の撮像装置によって画像データとして読み取られ、読み取ったデータから適切な画像処理等を施すことによって算出される。そして、算出された特徴量データと、同様の手順で読取り、算出され、予め登録された特徴量データである認証用データとを照合することで認証を行うのが一般的である。
【0004】
このような人工物メトリクスの例としては、特許文献1のように、透明プラスチック基材の片面のラベルに、真偽判別要素であるホログラムとタガント(追跡用添加物)としての微小細粒を存在させ、偽造防止を図るものや、特許文献2のように、透明プラスチック基材の片側のラベルの粘着剤層に光学的に検知可能な物質を混入して、偽造防止を図るものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−261967号公報
【特許文献2】特開2008−281912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、人工物メトリクス技術を用いたとしても、複製や偽造の可能性を完全には否定できない。現在、個体識別のシステムとしては、より高精度で、セキュリティを更に高めることができるような検証手法が望まれている。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、微細物質(タガント)を対象物にランダムに付与し、個体識別に利用する個体識別システムにおいて、より高精度に対象物の検証を行うことが可能でセキュリティを高めることができる個体識別装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するため第1の発明は、偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得する撮影画像取得部と、前記偏光撮影画像に基づいて、前記対象物の前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データを算出する特徴量データ算出部と、前記特徴量データを、前記対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合することにより、前記対象物の認証の可否を判定する対象物識別部と、を具備することを特徴とする個体識別装置である。
【0009】
第1の発明によれば、偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像から、予め対象物固有の特徴量データを算出し、認証用データとしてデータベース等に登録しておく。
対象物の認証時には、対象物を偏光撮像装置にて上記と同じ偏光角で撮影した偏光撮影画像から特徴量データを登録時と同様の計算処理にて算出し、特徴量データと認証用データとを照合し、認証の可否を判定する。
【0010】
微細物質は対象物にランダムに散布するなどして付与されるため、個体によって微細物質の配置パターンが異なる。これに加え、個々の微細物質は、それぞれ対象物に配置されたときの偏光角も個体によってランダムに異なるため、配置パターンと偏光角に基づく、対象物固有の特徴量データを定めることができる。
これにより、配置パターンのみ用いる場合に比べ個体識別性を向上することができ、認証精度を向上できる。また、微細物質の配置が解析されたとしても個々の微細物質の偏光角まで複製することは困難であり、対象物の偽造も困難となる。さらに、1種類の微細物質であっても基材に散布等して付与するのみで何種類もの角度で配置されるため、対象物の製造も容易である。また、少量の微細物質を対象物に付与する場合であっても、配置パターンと偏光角とを組み合わせて認証に利用するため、十分な認証精度を確保することができる。
【0011】
また、前記対象物識別部は、前記対象物を複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像を比較し、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、前記対象物の認証を否とするようにしてもよい。
【0012】
これにより、両偏光撮影画像が一致する場合には、微細要素は偏光特性を持たず、対象物が偽造されたものであることにより簡易に認証を否とすることができ、セキュリティが向上するとともに、認証処理の高速化にもつながる。
【0013】
第2の発明は、個体識別装置による認証の対象となる個体識別対象物であって、偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与され、前記個体識別装置により、所定の偏光角で前記個体識別対象物を撮影した偏光撮影画像に基づいて、前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データが算出され、前記特徴量データが、前記個体識別対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合されることにより、認証の可否を判定されることを特徴とする個体識別対象物である。
第2の発明は、第1の発明の個体識別装置による個体識別の対象物である。
また、第2の発明の個体識別対象物は、前記個体識別装置により、複数の異なる偏光角で前記個体識別対象物を撮影した偏光撮影画像が比較され、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、認証を否とされることが望ましい。
【0014】
第3の発明は、個体識別装置が、偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得する撮影画像取得ステップと、前記偏光撮影画像に基づいて、前記対象物の前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データを算出する特徴量データ算出ステップと、前記特徴量データを、前記対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合することにより、前記対象物の認証の可否を判定する対象物識別ステップと、を実行することを特徴とする個体識別方法である。
第3の発明は、第1の発明の個体識別装置による個体識別方法である。
また、前記対象物識別ステップでは、前記対象物を複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像を比較し、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、前記対象物の認証を否とすることが望ましい。
【0015】
第4の発明は、個体識別装置を、偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得する撮影画像取得部と、前記偏光撮影画像に基づいて、前記対象物の前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データを算出する特徴量データ算出部と、前記特徴量データを、前記対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合することにより、前記対象物の認証の可否を判定する対象物識別部と、して機能させるためのプログラムである。
第4の発明は、第1の発明の個体識別装置におけるプログラムである。
また、前記対象物識別部が、前記対象物を複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像を比較し、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、前記対象物の認証を否とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、微細物質を対象物にランダムに付与し、個体識別に利用する個体識別システムにおいて、より高精度に対象物の検証を行うことが可能でセキュリティを高めることができる個体識別装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】個体識別システム1の全体構成図
【図2】対象物2に付与される微細物質20の偏光角と、偏光撮像装置3の偏光角について説明する図
【図3】個体識別装置4のハードウエア構成を示すブロック図
【図4】個体識別装置4の機能構成を示すブロック図
【図5】登録処理の流れを説明するフローチャート
【図6】個体識別処理の流れを説明するフローチャート
【図7】データベース5に登録される認証用データの一例を示す図
【図8】偏光撮像装置3の構成の一例を示す図
【図9】異なる偏光角で撮影された偏光撮影画像7A、7Bの例
【図10】個体識別処理の流れを説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る個体識別装置等を含む個体識別システム1の構成を説明する。
図1に示すように、個体識別システム1は、個体識別要素としての微細物質(タガント)20が基材上にランダムに付与された対象物2と、対象物2を所定の偏光角で撮影する偏光撮像装置3と、個体識別装置4と、対象物2についての認証用データを記憶するデータベース5とを備える。
【0020】
対象物2の基材上には、製造段階において、偏光特性(直線偏光性)を有する微細物質20がランダムに散布等されて付与される。偏光特性を有する微細物質20としては、例えば、偏光板をフレーク状に砕いたものなどを用いることができる。
微細物質20は、様々な角度で基材上に配置される。微細物質20は対象物2の全体に付与されてもよいし、一部に付与されていてもよい。
【0021】
偏光撮像装置3は、カメラ、スキャナ等の光学的撮像装置に、偏光板31が取り付けられたものであり、偏光板31の持つ偏光角で対象物2の表面を撮影可能となっている。偏光撮像装置3は、撮影した画像データを個体識別装置4に出力する。
図1の偏光撮像装置3は、カメラのレンズ前面に1枚の偏光板31が取り付けられた偏光撮像装置3の外観を示している。
【0022】
図2を参照して、微細物質20の偏光角と偏光撮像装置3の偏光角の組み合わせによる濃度値の変化を説明する。なお、図2では、微細物質20を示す点が黒であれば高濃度(低輝度)、白であれば低濃度(高輝度)を表すものとしている。
【0023】
図2(A)に示すように、対象物2では、偏光特性を有する微細物質がランダムな角度で付与されることで、各微細物質20A、20B、20C、・・・がランダムな偏光角を有する。そのため、偏光撮像装置3の偏光板31の偏光角との組み合わせによって、偏光撮像装置3に入射する光量が変化し、撮影画像の各微細物質20A、20B、20Cの濃度値は変化する。
例えば、図2(B)の微細物質20Aのように、微細物質20の偏光角と偏光板31の偏光角とが90度ずれる場合は、濃度値は大きくなる。また、微細物質20Cのように、微細物質20の偏光角と偏光板31との偏光角が一致する場合、濃度値は小さくなる。微細物質20Bの例のように、微細物質20の偏光角と偏光板31との偏光角とが一致しない場合は、偏光角の組み合わせに応じた濃度値を示すこととなる。
従って、偏光撮像装置3の偏光板31の偏光角を所定の角度に定めるとともに、個体識別装置4の記憶部42に微細物質の濃度値と偏光角の関係を記憶しておくことで、撮影画像の濃度値から微細物質20A、20B、20Cの偏光角を求めることができる。
【0024】
次に、図3を参照して個体識別装置4の構成について説明する。図3は、個体識別装置4のハードウエア構成を示すブロック図である。
【0025】
図3に示すように、個体識別装置4は、制御部41、記憶部42、入力部43、表示部44、メディア入出力部45、通信I/F部46、周辺機器I/F部47等がバス49を介して接続されて構成されたコンピュータ等により実現できる。
【0026】
制御部41は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Accsess Memory)等により構成される。
CPUは、記憶部42、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス49を介して接続された各部を駆動制御する。ROMは、ブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持する。RAMは、ロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部41が後述する各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。また、制御部41は、記憶部42等に記憶されている処理プログラムに従って、図5に示す登録処理や図6に示す個体識別処理を実行する。各処理の詳細については後述する。
【0027】
記憶部42は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部41が実行するプログラムや、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティング・システム)等が格納されている。これらのプログラムコードは、制御部41により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて実行される。
【0028】
入力部43は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、タブレット等のポインティング・デバイス、テンキー等の入力装置であり、入力されたデータを制御部41へ出力する。
表示部44は、例えば液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路(ビデオアダプタ等)で構成され、制御部41の制御により入力された表示情報をディスプレイ装置上に表示させる。
【0029】
メディア入出力部45は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、PDドライブ、CDドライブ、DVDドライブ、MOドライブ等のメディア入出力装置であり、データの入出力を行う。
通信I/F46は、通信制御装置、通信ポート等を有し、ネットワークを介して所定の外部装置との通信を媒介する通信インタフェースであり、通信制御を行う。例えば、データベース5や偏光撮像装置3との通信を媒介する。
【0030】
周辺機器I/F(インタフェース)47は、個体識別装置4に周辺機器を接続させるためのポートであり、個体識別装置4は周辺機器I/F47を介して周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F47は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
バス49は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0031】
図1のデータベース5や偏光撮像装置3は、個体識別装置4と通信I/F部46等を介して接続される。なお、後述する認証用データの登録時には、偏光撮像装置3によって撮影した偏光撮影画像データを記録メディアに記録し、メディア入出力部45を介して個体識別装置4に入力するようにしてもよい。
【0032】
次に、図4を用いて、個体識別装置4の機能構成について説明する。
図4に示すように、個体識別装置4は、撮影画像取得部51、特徴量データ算出部53、対象物識別部55等を有する。
【0033】
撮影画像取得部51は、個体識別装置4の制御部41が、対象物2を偏光撮像装置3にて所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得するものである。
特徴量データ算出部53は、個体識別装置4の制御部41が、偏光撮影画像に基づいて、認証しようとする対象物2の微細物質20の配置パターンおよび偏光角に基づく固有の特徴量データを算出するものである。
対象物識別部55は、個体識別装置4の制御部41が、上記算出した特徴量データを、対象物2につき予め上記所定の偏光角と同じ偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき認証時と同様の計算処理にて算出されデータベース5に登録した認証用データと照合することにより、対象物2の個体識別を行い認証の可否を判定するものである。
【0034】
次に、個体識別システム1における処理の流れを説明する。
まず、図5を参照して、認証用データの登録処理について説明する。
微細物質20が付与された対象物2が偏光撮像装置3にセットされると、偏光撮像装置3により、所定の偏光角で対象物2の微細物質20の配置パターンを示す画像が撮影される(ステップS101)。偏光撮像装置3により撮影された偏光撮影画像は、個体識別装置4に入力される。
【0035】
個体識別装置4の制御部41は、偏光撮影画像を取得すると(ステップS102)、取得した偏光撮影画像から、微細物質20を抽出し、その配置パターン(座標データ)と微細物質20の偏光角(濃度値)に基づく、対象物2に固有の特徴量データを認証用データとして算出する(ステップS103)。
【0036】
個体識別装置4の制御部41は、算出した認証用データを対象物2のIDと対応付けてデータベース5に登録する(ステップS104)。個体識別装置4は、ステップS101〜ステップS104の登録処理を個々の対象物2について繰り返し行う。
【0037】
次に、図6を参照して、認証処理について説明する。
認証処理のステップS201〜ステップS203は登録処理のステップS101〜ステップS103と同様である。即ち、対象物2の認証が必要な箇所で偏光撮像装置3を設置し、認証時、この偏光撮像装置3に対象物2がセットされると、個体識別装置4の制御部41は、偏光撮像装置3により前記所定の偏光角と同じ偏光角で対象物2の微細物質20の配置パターンを示す画像を撮影する(ステップS201)。偏光撮像装置3は撮影した画像を個体識別装置4に出力する。
【0038】
個体識別装置4の制御部41は、偏光撮像装置3から偏光撮影画像を取得すると(ステップS202)、上記の登録時と同様の計算処理により、取得した画像から微細物質20の配置パターンと偏光角に基づく特徴量データを算出する(ステップS203)。
【0039】
次に、個体識別装置4の制御部41は、データベース5を検索し、上記算出した特徴量データと、認証用データを照合する。(ステップS204)。
照合の結果、一致する認証用データがある場合(ステップS205;あり)、その対象物2が上記認証用データに対応するIDのものであることにより、認証OK(認証が「可」)と判定し、一致する認証用データがない場合、(ステップS205;偽)、認証NG(認証が「否」)と判定する。
【0040】
上記の認証可否を示す情報は、認証の目的に応じて必要な機器に出力することができる。また、認証OKの場合には、一致する認証用データに対応するIDを、管理情報として適宜必要な機器に出力することもできる。
【0041】
上記のS103、S203で特徴量データを算出する際は、前述したように、各微細物質20の配置パターンおよび偏光角(濃度値)に基づく値を算出する。
【0042】
微細物質20の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データは種々考えられるが、単純な例としては、偏光撮影画像から所定の濃度値の範囲の微細物質20を抽出し、その配置パターンに基づき特徴量データを算出する。これにより、所定の範囲の偏光角の微細物質20が抽出されその配置パターンに基づき特徴量データが算出されるため、配置パターンと偏光角に基づく特徴量データが算出されることになる。
【0043】
図7はその例であり、認証用データとして対象物のIDと対応付けてデータベース5に登録される特徴量データを示す。例えば、ID「1」の対象物2からは、(40,50)、(20,85)、・・・のように、所定の範囲の偏光角の微細物質20の座標が抽出され、認証用データとして登録される。同様に、ID「2」の対象物2からは、座標(80,20)、(90,20)、・・・が抽出され、認証用データとして登録される。
【0044】
上記は微細物質20の配置パターンとして座標そのものを用いた簡単な例であるが、実際には、認証用データ(特徴量データ)としては、対象物2の撮影時のずれ(位置ずれ、回転ずれ、拡大・縮小ずれ)等にロバストな、微細物質20の配置パターン等に基づく既知のアフィン不変量等の値を用いることが望ましい。
【0045】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、偏光特性を有する微細物質20が基材上にランダムに付与された対象物2を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像から、予め対象物固有の特徴量データを算出し、認証用データとしてデータベース5に登録しておく。
対象物2の認証時には、対象物2を偏光撮像装置3にて上記と同じ偏光角で撮影した偏光撮影画像から特徴量データを登録時と同様の計算処理にて算出し、特徴量データと認証用データとを照合し、認証の可否を判定する。
【0046】
微細物質20は対象物2にランダムに散布するなどして付与されるため、個体によって微細物質20の配置パターンが異なる。これに加え、個々の微細物質20は、それぞれ対象物2に配置されたときの偏光角も個体によってランダムに異なるため、配置パターンと偏光角に基づく、対象物固有の特徴量データを定めることができる。
これにより、配置パターンのみ用いる場合に比べ個体識別性を向上することができ、認証精度を向上できる。また、微細物質20の配置が解析されたとしても個々の微細物質20の偏光角まで複製することは困難であり、対象物2の偽造も困難となる。さらに、1種類の微細物質であっても基材に散布等して付与するのみで何種類もの角度で配置されるため、対象物2の製造も容易である。また、少量の微細物質を対象物2に付与する場合であっても、配置パターンと偏光角とを組み合わせて認証に利用するため、十分な認証精度を確保することができる。
【0047】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態として、対象物2の認証の別の例について説明する。第2の実施形態は、認証時、対象物2の微細物質20が偏光特性を持たない場合に、これが偽造されたものであるとし、認証を不可とする例である。
【0048】
本実施形態では、図8に示すように、偏光撮像装置3の内部に異なる偏光角の複数の偏光板31A、31Bを取り付け、複数の偏光撮影画像を撮影する。その他の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0049】
図8の偏光撮像装置3は、レンズ32、ミラー33A、ハーフミラー33B、偏光板31A、31B、撮像素子35A、35Bを有する。
偏光撮像装置3では、対象物2からの入射光がレンズ32を経てハーフミラー33Bに入射する。ハーフミラー33Bの透過光は偏光板31Bに入射し、所定の偏光角の光が透過して、その後段に配置された撮像素子35Bに入射する。一方、ハーフミラー33Bの反射光はミラー33Aへ入射し、ミラー33Aに反射されて偏光板31Aに入射する。偏光板31Aの偏光角は偏光板31Bの偏光角とは異なる角度である。偏光板31Aを透過した光は、撮像素子35Aに入射する。撮像素子33A、33Bは、入射した光量を濃度値のデータに変換し、それぞれ偏光撮影画像7A、7Bとして出力する。
【0050】
図9は、図8に示す偏光撮像装置3によって撮影された偏光撮影画像7A、7Bを模式的に示す例である。偏光撮影画像7Aは偏光板31Aを透過した光による画像、偏光撮影画像7Bは偏光板31Bを透過した光による画像である。偏光撮影画像7A、7Bでは、透過する偏光板31A、31Bの偏光角が異なるため、微細物質20が偏光特性を有する場合には、同じ対象物2であっても、両画像で微細物質20の濃度値が異なる。本実施形態では、両画像を比較して、対象物2の微細物質20が偏光特性を有するか否かにより認証可否の簡易判定に用いる。
【0051】
図10は、第2の実施形態における個体識別処理の流れを示す図である。ステップS301、302は、偏光撮像装置3にて複数の偏光角で撮影を行う以外は図6のステップS201、202と同様である。即ち、偏光撮像装置3に対象物2をセットすると、個体識別装置4の制御部41は、偏光撮像装置3により、上記したように複数の偏光角で対象物2を撮影する。ステップS302で、個体識別装置4の制御部41は、複数の偏光角で対象物2を撮影した撮影画像を取得する。
【0052】
そして個体識別装置4の制御部41は、ステップS303において両画像を比較し、一致するかを判定する。判定時には、例えば両画像の所定の範囲を比較する。
【0053】
対象物2の偏光撮影画像が一致する場合(ステップS303;一致)、微細物質20が偏光特性を持たず、対象物2は偽造されたものであることになるので、認証NGとする。対象物2の偏光撮影画像が一致しない場合(ステップS303;一致しない)、以降のステップS304〜S306による対象物2の認証処理に移る。ステップS304〜S306の処理は、図6のステップS203〜S205の処理と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
このように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、対象物2を複数の偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合には、対象物2が偽造されたものであることにより簡易に認証NGとすることができ、セキュリティが向上するとともに認証処理の高速化にもつながる。
【0055】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、図1では、個体識別装置4において認証用データの登録と認証処理を実現しているが、これに限らず、認証用データ登録用のコンピュータと、認証処理を行うコンピュータとを別のものとして構成してもよい。認証時には、認証処理を行うコンピュータが、認証用データを登録したコンピュータに算出した特徴量データを送信するなどして認証問い合わせを行うことになる。また、認証用データが登録されるデータベース5は、インターネット等のネットワークを介して接続された外部サーバ等に存在してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・・・・・・・・・・個体識別システム
2・・・・・・・・・・・・対象物
20・・・・・・・・・・・微細物質
3・・・・・・・・・・・・偏光撮像装置
31(31A,31B)・・偏光板
4・・・・・・・・・・・・個体識別装置
5・・・・・・・・・・・・データベース
7A,7B・・・・・・・・偏光撮影画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得する撮影画像取得部と、
前記偏光撮影画像に基づいて、前記対象物の前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データを算出する特徴量データ算出部と、
前記特徴量データを、前記対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合することにより、前記対象物の認証の可否を判定する対象物識別部と、
を具備することを特徴とする個体識別装置。
【請求項2】
前記対象物識別部は、前記対象物を複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像を比較し、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、前記対象物の認証を否とすることを特徴とする請求項1に記載の個体識別装置。
【請求項3】
個体識別装置による認証の対象となる個体識別対象物であって、
偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与され、
前記個体識別装置により、所定の偏光角で前記個体識別対象物を撮影した偏光撮影画像に基づいて、前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データが算出され、前記特徴量データが、前記個体識別対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合されることにより、認証の可否を判定されることを特徴とする個体識別対象物。
【請求項4】
前記個体識別装置により、複数の異なる偏光角で前記個体識別対象物を撮影した偏光撮影画像が比較され、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、認証を否とされることを特徴とする請求項3に記載の個体識別対象物。
【請求項5】
個体識別装置が、
偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得する撮影画像取得ステップと、
前記偏光撮影画像に基づいて、前記対象物の前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データを算出する特徴量データ算出ステップと、
前記特徴量データを、前記対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合することにより、前記対象物の認証の可否を判定する対象物識別ステップと、
を実行することを特徴とする個体識別方法。
【請求項6】
前記対象物識別ステップでは、
前記対象物を複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像を比較し、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、前記対象物の認証を否とすることを特徴とする請求項5に記載の個体識別方法。
【請求項7】
個体識別装置を、
偏光特性を有する微細物質が基材上にランダムに付与された対象物を所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像を取得する撮影画像取得部と、
前記偏光撮影画像に基づいて、前記対象物の前記微細物質の配置パターンおよび偏光角に基づく特徴量データを算出する特徴量データ算出部と、
前記特徴量データを、前記対象物につき予め前記所定の偏光角で撮影した偏光撮影画像に基づき算出された前記特徴量データである認証用データと照合することにより、前記対象物の認証の可否を判定する対象物識別部と、
して機能させるためのプログラム。
【請求項8】
前記対象物識別部は、前記対象物を複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像を比較し、複数の異なる偏光角で撮影した偏光撮影画像が一致する場合、前記対象物の認証を否とすることを特徴とする請求項7に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−30889(P2013−30889A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164218(P2011−164218)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】