説明

個別包装された寿司種

【課題】本発明は、物理的強度の低い寿司種を使用してにぎり寿司を製造する際に、その作業性を向上させ、製造作業時間を短縮し、製造時の損失率を低下させ、さらには、高い衛生状態を確保しつつ、にぎり寿司を製造できるようにする、個別包装された寿司種を提供することを目的とする。
【解決手段】高分子シートによって個別包装されている寿司種であって、前記高分子シートの大きさが、前記寿司種の長軸において1.2〜2.5倍、また、前記寿司種の短軸において2.2〜3.5倍の大きさとなっており、前記高分子シートによって、前記寿司種の長軸方向を軸として当該寿司種を巻くようにして包まれていることを特徴とする、個別包装された寿司種。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的強度の低い寿司種を使用してにぎり寿司を製造する際に、にぎり寿司を簡便、効率的かつ衛生的に製造できるようにする、個別包装された寿司種に関するものである。
【背景技術】
【0002】
にぎり寿司を製造する際に、寿司種そのものの性質や、製造しようとするにぎり寿司の使用用途によっては、物理的強度が低い寿司種を使用しなくてはならない場合がある。
例えば、摂食・嚥下障害者用の食品においては、歯茎でつぶせる程度、舌でつぶせる程度、さらには、噛まなくて良い程度の物理的強度が要求される。そのため、摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司を製造する場合、寿司種、シャリ玉ともに低い物理的強度が要求される。従って、例えば、生のマグロを、摂食・嚥下障害者用の寿司種として使用する場合、油脂を加えて十分に刻み、ネギトロのような状態にしたものが一般的に使用されている。
【0003】
また、老人介護施設の中には、極薄切りにした魚の切り身とシャリ玉との間に、油脂を加えて刻んだ同種の魚の身を挟むことによって、通常のにぎり寿司と見た目が変わらない、摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司を提供している施設もある。そして、このようなにぎり寿司は、摂食・嚥下障害者や高齢者に非常に好評なものとなっている(非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、以上のような、物理的強度が低い寿司種を使用した摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司は、摂食・嚥下障害者には好評であるが、その製造については、以下のような問題があった。
【0005】
まず、第一に、極薄切りの魚の切り身は、物理的強度が低く、破損しやすいため、薄切りした切片(以下、本明細書では「薄片」ともいう。)が製品等として容器に入れられている場合、これを、容器から取り出すことが容易ではなく、また、刻んだ魚も、このような容器に付着したり、盛りつけ時にこぼれ落ちてしまう可能性があることから、製造時の作業性が非常に悪く、その際の損失率が非常に大きいという問題があった。
【0006】
そして、第二に、前述のように、極薄切りにした魚の切り身に、油脂を加えて刻んだ同種の魚の身を重ねたような寿司種の加工には、多くの工程と時間を要するため、提供時において、魚の鮮度が低下し変色が始まってしまい、見た目が著しく損なわわれしまうという問題もあった。
【0007】
また、第三に、老人介護施設の調理場等では、食品加工工場のような高水準の衛生状態を確保することは難しく、このような調理場等において生の魚を刻んだりして加工する作業は、細菌類の混入など衛生上のリスクが常に存在してしまうという問題もあった。
【0008】
以上のようなことから、加工済みであって、簡便に使用可能で、一定期間冷凍で保存することができ、市場での流通が可能であって、摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司として好適な寿司種の提供が、現在、老人介護施設は当然のこと、医療施設や在宅介護をしている家庭からも切望されている。
【0009】
なお、従来から、真空パックされた冷凍寿司種は広く販売されている。例えば、特許文献1には、解凍の容易な冷凍寿司種パックに関する技術が開示されている。しかしながら、この特許文献1に開示された技術は、寿司種が重ならないように真空パックされ冷凍さているのみであり、この技術を、前述のような物理的強度が低い寿司種に適用した場合、魚の薄片を真空パックされた容器から取り出すことは容易ではなく、刻んだ魚も容器に付着したり、盛りつけ時にこぼれ落ちてしまう可能性は依然として存在し、作業性や損失率の改善に寄与するものとはなっていない。
【0010】
また、すでに、にぎり寿司の形態となったものも冷凍され市場に流通しており、この流通形態に関する技術も開示されている(特許文献2、特許文献3)。これらの技術では、流水もしくは高周波解凍することによって、にぎり寿司が得られるものであるが、摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司のシャリ玉の中には、煮沸処理することにより、その物理特性が得られるものがあるため、摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司として、寿司種に生の材料を使用したものの場合、高周波処理で解凍する方法を取ると、寿司種が熱によって損傷を受けてしまうことから、にぎり寿司の形態で流通させることは不可能である。そのため、摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司として、マグロなど生の魚を寿司種として使用する場合、シャリ玉と寿司種を分離した状態で冷凍し流通させる必要があり、調理段階で物理的強度の低い寿司種をシャリ玉に載せる作業が不可避のものとなってしまっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】登録実用新案第3100097号公報
【特許文献2】特開2004−136975号公報
【特許文献3】特開2008−079502号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】東京海上日動サミュエル株式会社、介護付高齢者住宅ヒルデモアHyldemoerのパンフレット、p.8−11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、物理的強度の低い寿司種を使用してにぎり寿司を製造する際に、その作業性を向上させ、製造作業時間を短縮し、製造時の損失率を低下させ、さらには、高い衛生状態を確保しつつ、にぎり寿司を製造できるようにする、個別包装された寿司種を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本願の発明者は、付着性が低い高分子シート(高分子を素材とするシート)によって、寿司種を、包むように、又は、挟むようにして個別に包装し、この個別包装された寿司種を、トレイに配列した後、真空パックしてから冷凍することによって、物理的強度の低い寿司種を使用したにぎり寿司であって、通常のものとほぼ同じ外観を有するにぎり寿司を、非常に効率よく、また、簡便かつ衛生的に提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の課題を解決する手段は以下の通りとなる。
【0015】
すなわち、本発明に係る個別包装された寿司種は、高分子シートによって個別包装されている寿司種であって、前記高分子シートの大きさが、前記寿司種の長軸において1.2〜2.5倍、また、前記寿司種の短軸において2.2〜3.5倍の大きさとなっており、前記高分子シートによって、前記寿司種の長軸方向を軸として当該寿司種を巻くようにして包まれていることを特徴としている。
また、この場合において、本発明に係る個別包装された寿司種は、当該寿司種が、測定法Aによる硬さにおいて、1000〜500000N/mとなっていることを特徴としている。
さらに、本発明に係る個別包装された寿司種は、前記高分子シートが、測定法Bにより得られる付着率において、3%以下となっていることを特徴としており、また、前記高分子シートが、二軸延伸ポリプロピレンからなるものであることも特徴としている。
加えて、本発明に係る冷凍寿司種、及び、すし食品は、以上のような個別包装された寿司種を使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、物理的強度の低い寿司種を使用してにぎり寿司を製造する際に、その作業性を向上させ、製造作業時間を短縮し、製造時の損失率を低下させ、さらには、高い衛生状態を確保しつつ、にぎり寿司を製造可能とする、個別包装された寿司種を提供することができる。
【0017】
また、本発明を実施することにより、物理強度の低い寿司種を市場に流通させることが可能となり、特に老人介護施設や家庭等において、手間と時間を要し、製造時の損失も大きな摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司の製造を、簡便に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。
【図2】図2は着色部4を設けた個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。
【図3】図3は折り返し部5を設けた個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。
【図4】図4は個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。
【図5】図5は着色部4を設けた個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。
【図6】図6は折り返し部5を設けた個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。
【図7】図7は図1の個別包装された寿司種を使用して冷凍寿司種を製造する際の個別包装された寿司種の配置方法を示した説明図である。(実施例3)
【図8】図8は重ねて配列することができる個別包装された寿司種の実施方法を示した説明図である。(実施例4)
【図9】図9は重ねて配列することができる個別包装された寿司種を使用して冷凍寿司種を製造する際の個別包装された寿司種の配置方法を示した説明図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る個別包装された寿司種を実施するための形態や実施例について説明する。ただし、当然ながら、本発明の技術的思想は、以下の実施形態や実施例に限定されるものではない。
【0020】
なお、本発明において、寿司種の「長軸」及び「短軸」とは、寿司種の平面形状が長方形、又は、これに類似する形状である場合には、それぞれ、その「長辺」及び「短辺」を意味し、それら以外の形状の場合は、最も長い部分を「長軸」とし、長軸に直行し、かつ、最も長い軸を「短軸」とするものとする。
【0021】
まず、第一の実施形態として、図1に示した個別包装された寿司種について説明する。図示されているように、この個別包装された寿司種は、三つ折りにした高分子シート1によって、魚肉の薄片2と魚肉のミンチ3とからなる寿司種7を包んだものである。
【0022】
ここで、高分子シート1には、寿司種7の長軸において1.2〜2.5倍、また、その短軸において2.2〜3.5倍の大きさをしたシートを使用し、この高分子シート1によって、寿司種7の長軸方向を軸として寿司種7を巻くようにして包むようにする。なお、寿司種7を包んだ後、高分子シート1を、熱溶着や、粘着テープ等によって固定するようなことはしない。これは、高分子シート1を、このようにして固定してしまうと、にぎり寿司を製造する際に、高分子シート1を寿司種7から剥離することが困難となり、作業効率の低下、破損率の上昇の原因となってしまうからである。
【0023】
そして、このようにして得られる個別包装された寿司種を使用すれば、寿司種7に直接触れること無く、また、寿司種7を破損させることも無く、にぎり寿司を製造することが可能となるので、製造時における作業性が向上すると同時に、寿司種の破損率が低下し、また、衛生面においても優れた効果を発揮することができる。
【0024】
なお、以上の場合において、高分子シート1は、図1に示されているように、その四隅が切り取られているものを使用することが好ましい。これは、高分子シート1をこのような構成とすることによって、高分子シート1の端において指が引っ掛かり易くなるため、寿司種7からの高分子シート1の剥離を、より容易に行うことができ、にぎり寿司の製造時における作業性が著しく向上するようになるからである。
【0025】
また、以上の実施形態において、図2に示したように、着色部4として、高分子シート1の外周部の一部であって、包装した際に寿司種7の長軸と略平行に位置することになる部分に、包装しようとする寿司種7と異なる色を付した部分を設けることも好ましい。これは、着色部4を設けることによって、寿司種7から高分子シート1を剥離する際に、指を掛けて剥離しはじめる位置が確認し易くなるため、にぎり寿司の製造時における作業性が著しく向上するようになるからである。
【0026】
さらに、以上の実施形態において、図3に示したように、折り返し部5として、高分子シート1の外周部の一部であって、包装した際に寿司種7の長軸と略平行に位置することになる部分において、僅かに折り返すように構成した部分を設けることも好ましい。これは、折り返し部5を設けることによって、高分子シート1の端において指が引っ掛かり易くなるため、寿司種7からの高分子シート1の剥離を、より容易に行うことができ、にぎり寿司の製造時における作業性が著しく向上するようになるからである。
【0027】
次に、第二の実施形態として、図4に示した個別包装された寿司種について説明する。図示されているように、この個別包装された寿司種は、魚肉の薄片2と魚肉のミンチ3とからなる寿司種7が、二つ折りにした高分子シート1によって挟まれるようにして包まれたものであって、さらに、高分子シート1の各端辺のうち、寿司種7の長軸と略平行に位置する端辺1e,1eが、それぞれ、ずれて重ね合わさっていることを特徴としている。
【0028】
なお、この場合においても、第一の実施形態と同様、高分子シート1は、寿司種7の長軸の1.2〜2.5倍、短軸の2.2〜3.5倍の大きさをしたシートを使用している。また、本実施形態においても、寿司種7を包んだ後、高分子シート1を、熱溶着や、粘着テープ等によって固定するようなことはしない。これは、高分子シート1を、このようにして固定してしまうと、にぎり寿司を製造する際に、高分子シート1を寿司種7から剥離することが困難となり、作業効率の低下、破損率の上昇の原因となってしまうからである。
【0029】
そして、このようにして得られる個別包装された寿司種を使用すれば、寿司種に直接触れること無く、また、寿司種を破損させることも無く、にぎり寿司を製造することが可能となる。そのため、にぎり寿司の製造時における作業性が向上すると同時に、寿司種の破損率が低下し、また、衛生面においても優れた効果を発揮することができる。
【0030】
なお、以上の第二の実施形態においても、図5に示したように、着色部4として、高分子シート1の外周部の一部であって、包装した際に寿司種7の長軸と略平行に位置することになる部分に、包装しようとする寿司種7と異なる色を付した部分を設けたり、図6に示したように、折り返し部5として、高分子シート1の四隅の一つについて、僅かに折り返すように構成した部分を設けたりすることが好ましい。そして、この場合の効果は、前述した図2及び図3について説明した内容と同様である。
【0031】
本発明の実施に際し、寿司種7の厚さは、5mm以下とすることが好ましい。これは、厚さを5mm以下とすることにより、にぎり寿司の製造前の解凍時において、流水解凍であれば2〜3分と短時間で行えるため、にぎり寿司の提供直前に解凍することが可能となり、時間経過に伴う魚の変色を抑止することができ、その結果、見た目が良好な状態で、にぎり寿司を提供することが可能となるからである。一方、寿司種7の厚さが5mmを超えると、凍結・解凍を短時間で行うことができず、特に解凍については、流水下において5分以内に完了することが難しくなってしまうため、作業時間が長くなったり、寿司種7が劣化してしまうことがあるからである。
【0032】
なお、本発明の実施に際し、極薄切りにした魚の切り身に油脂を加えて刻んだ同種の魚の身を重ねたような摂食・嚥下障害者用の寿司種として、マグロ、サケ、ブリ、タイ、ヒラメ、ホタテ、アジ、イワシ等を使用することができる。さらに、物理的強度が低い通常の寿司種として、煮穴子の他、ネギトロ、ウニ等を使用することができる。また、これら以外にも、ほとんどすべての一般的な寿司種について、これをミキサーで粉砕後、増粘多糖類などを添加することによって、本発明に係る個別包装された寿司種として使用することができる。
【0033】
以上に説明したように、本発明に係る個別包装された寿司種は、個別包装されているので、寿司種を重ね合わせてから真空パック等をして冷凍しても、寿司種同士が付着することが無い。そのため、にぎり寿司の製造時において、作業性が低下することが無く、解凍後においてもにぎり寿司の寿司種として好適に使用することができる。従って、本発明によれば、寿司種を重ね合わせてから真空パック等することを前提とする商品を開発することも可能となる。すなわち、魚肉薄片とネギトロとを重ねたような寿司種の場合、魚肉薄片の中央部にネギトロを配置することによって、寿司種の周辺部は魚肉薄片のみとなり、その厚さは1mm程度となる。従って、魚肉薄片部分同士を重ねて配列することが可能となることで、包装スペースの節約となり、容器トレイにより多くの寿司種を配置した製品を製造することが可能となる。
【0034】
本発明に係る個別包装された寿司種を、トレイに配列して真空パック用の袋に入れ、真空シール機(例えば、AUTO VACUUM PACKER V−222,東静電気株式会社製)を用い減圧下でシールし真空パックした後、冷凍機で冷凍することによって、冷凍寿司種を製造することができる。そして、にぎり寿司の製造時には、この冷凍寿司種を流水解凍し、別途用意したシャリ玉に載せることによって、通常のにぎり寿司とほぼ同じ外観を有し、物理的強度の低い寿司種を用いたにぎり寿司を、非常に効率良く、簡便かつ衛生的に製造することができる。
【0035】
なお、本発明において、個別包装される寿司種は、その物理的強度が低く、その硬さが、後述する「測定法A」で測定したときに、1000〜500000N/mのものを使用することが好適である。
【0036】
これは、1000N/m未満の寿司種は、もはや自力で形状を維持することが困難であることが多いため、寿司種として使用することは困難だからである。また、500000N/mを超えるものは、常法により、普通のにぎり寿司を製造できるため、本発明を実施する効果が薄いからである。
【0037】
上記の範囲の硬さのものであれば、寿司種の形状に制限なく本発明で採用する包装材が使用でき、特に厚さ1mm以下に極薄切りにした魚の切り身に、油脂を加えて刻んだ同種の魚の身を重ねたような摂食・嚥下障害者用の寿司種として、本発明に好適に使用することができる。また、煮穴子のような通常の寿司種を使用することも可能である。さらに、本発明で採用する高分子シートは付着性が低いことが特徴であるため、ネギトロのように付着、分離が容易な寿司種も本発明に好適に使用することができる。
【0038】
そして、本発明における「測定法A」とは、硬さを測定する方法であって、次の通りとなっている。すなわち、クリープメーター(株式会社山電製、RE2−3305S)を用い、測定試料を1.5cmの高さに層状に積み上げ、円柱型プランジャー(直径:3mm、高さ22mm)、圧縮率67%、圧縮速度10mm/sで5回測定し、その平均値を硬さとする方法である。この際、2層以上から構成される寿司種本体を測定する際は、重ねる向きを一定にして層状に積み上げるようにする。
【0039】
なお、この測定法Aでは、径の小さいプランジャーを用いることで試料の大きさの違いによる影響を無視できる程度に小さく(5%以下)できるため、同じ成分構成の寿司種本体に関しては、同じ値を採用することとした。
【0040】
本発明で採用する高分子シートは、食品用として使用可能なものであって、高分子を素材とするシートであれば特に制限はないが、寿司種本体およびシート自体に過度に結着することがなく、寿司種を包むことができる程度の柔軟性を有することが好ましい。
また、本発明において採用可能な高分子シートは、寿司種の性質に依存するため、特に、後述する「測定法B」による測定結果が、測定対象となった寿司種全数の75%以上において付着率が3%以下となっていることが好ましい。付着率が3%を超えるものである場合、寿司種が破損したり、損失したりする割合が大きくなり、本発明の効果を好適に得ることができないからである。なお、このような素材としては、例えば、0.01mmから0.1mm程度の厚さをした、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが挙げられる。
【0041】
本発明における「測定法B」とは、前述した実施形態に係る個別包装された寿司種の製造方法を実施し、その後、寿司種を包装している高分子シートを剥離してから、この高分子シートに付着した寿司種の重量を測定し、測定対象となった寿司種全数における付着率を測定するものである。
【0042】
すなわち、図1に示したように、使用しようとする寿司種7を、高分子シート1によって包んだ後、これを、真空パック、冷凍、解凍してから、高分子シート1から寿司種7の剥離をおこない、高分子シート1への寿司種の付着量を測定するものである。なお、この場合において、寿司種7は、長軸が46〜95mm、短軸が39〜62mmのものであって、1種類につき4個以上であり、高分子シート1は、114mm×136mmの長方形フィルムであって、その四隅それぞれから、図示されているように、直角を囲む等しい辺が22mmの直角二等辺三角形を切り落とした形状のものとなっている。
【0043】
高分子シート1からの寿司種の剥離は、室温下で次のように行う。まず、解凍した真空パックを開封し、個別包装された寿司種を取り出して、これを、高分子シート1の部分を指でつまむようにして、作業台の上に置く。作業台の上に置く際は、図1の下面図の状態が作業者の正面を向くように、高分子シート1の剥離を開始する外周部の一部を、上側であって、かつ左側となるように置く。
そして、まず、一番上の高分子シート1を左から右に剥離し、次に、その下の高分子シート1を右から左に剥離する。その後、露出した寿司種7の上に、別途用意したシャリ玉(図示せず)を置いたのち、高分子シート1とシャリ玉を手で持ちながら天地を反転させ、上から、高分子シート1、寿司種7、シャリ玉の順になるように作業台に置く。
その後、高分子シート1を、左下から右上の方向にめくり上げるように寿司種7から剥離してから、この高分子シート1の重量を測定し、付着率を求める。
【0044】
なお、ここでの付着率は、(シートに付着した寿司種の重量)÷(個別包装する前の寿司種の重量)で求める。そして、この付着率3%以下のものが、測定対象となった寿司種全数の75%以上となっている寿司種と高分子シートとの組み合わせを本発明で採用することが好ましい。なお、3%の付着率とは、例えば、厚さ1mmの魚肉薄片の場合では、薄片の一部が破損し、破損した切片がシートに付着した時の量であり、ネギトロなどのペースト状のものであれば、剥離したシートに付着した寿司種の一部が明らかに確認できる量である。
【実施例1】
【0045】
(寿司種の個別包装−1)
図1に示したような、個別包装された寿司種を製造した。図示されているように、この個別包装された寿司種は、三つ折りにした高分子シート1によって、厚さ1mmのマグロの薄片2と厚さ3mmマグロのミンチ3とからなる厚さ4mmの寿司種7を包んだものである。
【0046】
なお、この場合において、マグロの薄片2は、平面寸法が40mm×55mm、重さが3g、マグロのミンチ3は、平面寸法が40mm×50mm、重さが5g、寿司種7は、平面寸法が40mm×55mm、測定法Aによる硬さが1.0×10^5N/mであった。また、高分子シート1は、厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、114mm×136mmの長方形フィルムの四隅それぞれから、図示されているように、直角を囲む等しい辺が22mmの直角二等辺三角形を切り落とした形状であった。
【実施例2】
【0047】
(寿司種の個別包装−2)
図4に示したような、個別包装された寿司種を製造した。図示されているように、この個別包装された寿司種は、厚さ1mmのマグロの薄片2の片面と、厚さ3mmマグロのミンチ3とからなる厚さ4mmの寿司種7が、二つ折りにした高分子シート1によって挟まれるようにして包まれたものであって、高分子シート1の各端辺のうち、寿司種7の長軸と略平行に位置する端辺1e,1eが、それぞれ、ずれて重ね合わさっていることを特徴としている。
【0048】
なお、この場合において、マグロの薄片2は、平面寸法が40mm×55mm、重さが3g、マグロのミンチ3は、平面寸法が40mm×50mm、重さが5g、寿司種7は、平面寸法が40mm×55mm、測定法Aによる硬さが1.0×10^5N/mであった。また、高分子シート1は、平面寸法が114mm×136mm、厚さ20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムであった。
【実施例3】
【0049】
(冷凍寿司種の製造−1)
実施例1で製造した個別包装された寿司種を使用し、図7に示したような、真空パック済みの冷凍寿司種を製造した。図7において、6は、発泡スチロール製のトレイ(200mm×250mm×20mm)を示しており、本実施例における真空パック及び冷凍は、図示されているように、包装された寿司種を、トレイ6に5×2列に配置してから、トレイ6を、真空パック用の共押多層チューブフィルム(トリプルナイロンフィルム)製の袋(230mm×330mm,図示せず)に入れ、真空シール機(AUTO VACUUM PACKER V−222,東静電気株式会社製)を用い減圧下でシールし、その後、真空パック用の袋を−18℃に冷却することによって行った。
【実施例4】
【0050】
(冷凍寿司種の製造−2)
さらに、図8に示したような個別包装された寿司種を使用し、図9に示したような、5×3列に配置した真空パック済みの冷凍寿司種も製造した。なお、本実施例において、マグロの薄片2は、平面寸法が40mm×50mm、厚さが1mm、重さが3g、マグロのミンチ3は、平面寸法が35mm×45mm、厚さが3mm、重さが4g、寿司種7は、平面寸法が40mm×50mm、測定法Aによる硬さが1.0×10^5N/mであった。また、これら以外の詳細については、実施例1及び実施例3と同様であった。
【実施例5】
【0051】
(にぎり寿司の製造)
実施例3で製造した真空パック済みの冷凍寿司種を、袋に入れたまま15℃の水道水が入った容器に浸し、冷凍寿司種を解凍した。解凍後、袋を開封し、個別包装された寿司種を取り出して、高分子シートを剥離しながら用意したシャリ玉に載せ、にぎり寿司を得た。
表1に、その際の破損率、1個あたりの盛り付け所要時間を示した。なお、この場合において、破損率とは、にぎり寿司の製造時において、寿司種が千切れる、分離する、シートに付着するなどの寿司種が破損した割合を示している。また、盛り付け所要時間とは、トレイより個別包装された寿司種を取り出してからシャリ玉に載せるまでに要した時間を示している。
【表1】

【比較例1】
【0052】
なお、表1において、「比較例1」とは、個別包装されていない寿司種を使用する以外は、実施例3と同じ方法によって、真空パック済みの冷凍寿司種を製造してから、実施例5と同じ方法によって、にぎり寿司を得た場合のものである。
【0053】
表1に示されているように、比較例1のにぎり寿司は、破損率が80%であった。この際、破損したものは、すべてトレイから取り出すときに発生し、いずれもマグロ薄片部分が破断したものであった。一方、実施例3のにぎり寿司は、破損率が比較例1の1/8に低下し、また、一貫あたりの盛り付け所要時間も23%程度短縮され、本発明の効果を示している。
【測定例1】
【0054】
(付着率の測定)
実施例5で製造したにぎり寿司の付着率を、測定法Bによって測定した。表4〜6は、その測定結果を示したものである。また、表2は、本測定例における高分子シートの情報を、表3は本測定例における寿司種の情報を、それぞれ示している。なお、本測定例において、測定に使用された個別包装された寿司種は、図1で示したような、寿司種7が三つ折りにした高分子シート1によって包まれたものであった。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
高分子シートのうち、二軸延伸ポリプロピレンシート(シート1)は、どの寿司種に対しても付着率が低く、本発明を実施するにあたり、広く使用できることを示している。一方、それ以外の高分子シートは、寿司種との相性もあり、これらのシートの使用は限定的なものとなると認められる。
【0061】
また、ねぎとろ(加油)(寿司種3)は、油脂が加えられているため、魚肉自体の付着は少ないと考えられる。また、ポリ塩化ビニリデン(シート3)については、にぎり寿司を製造する際の作業において、シートの硬さが足りず、寿司種を十分に支持することができないため、魚肉薄片がシートに残ってしまい、この組み合わせを本発明に採用することは困難であることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明を実施することにより、物理強度の低い寿司種を市場に流通させることが可能となり、特に老人介護施設や家庭等において、手間と時間を要し、製造時の損失も大きな摂食・嚥下障害者用のにぎり寿司の製造を、簡便に実施することが可能となる。
【符号の説明】
【0063】
1 :高分子シート、
1e:高分子シートの端辺、
2 :魚肉の薄片(マグロの薄片)、
3 :魚肉のミンチ(マグロのミンチ)、
4 :着色部、
5 :折り返し部、
6 :トレイ、
7 :寿司種、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子シートによって個別包装されている寿司種であって、前記高分子シートの大きさが、前記寿司種の長軸において1.2〜2.5倍、また、前記寿司種の短軸において2.2〜3.5倍の大きさとなっており、前記高分子シートによって、前記寿司種の長軸方向を軸として当該寿司種を巻くようにして包まれていることを特徴とする、個別包装された寿司種。
【請求項2】
前記寿司種が、測定法Aによる硬さにおいて、1000〜500000N/mとなっていることを特徴とする、請求項1に記載の個別包装された寿司種。
【請求項3】
前記高分子シートが、測定法Bにより得られる付着率において、3%以下となっていることを特徴とする、請求項1または2に記載の個別包装された寿司種。
【請求項4】
前記高分子シートが、二軸延伸ポリプロピレンからなるものであることを特徴とする、である請求項1〜3のいずれかに記載の個別包装された寿司種。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の個別包装された寿司種を用いて製造した冷凍寿司種。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の個別包装された寿司種を用いるすし食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−4698(P2011−4698A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153528(P2009−153528)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000223090)三菱商事フードテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】