説明

個別治療処置の方法

【解決手段】 病変組織への、2若しくはそれ以上の化学(治療)薬品のデリバリーの同時的な決定方法を開示する。この手段は、個人ベースでの最適な化学薬品および用量の選択に用いる患者特異的レポートを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
病変組織および病原体への、2若しくはそれ以上の化学(治療)薬品のデリバリーの同時的な決定の方法を開示する。この手段は、個人ベースでの最適な化学薬品および用量の選択に用いる患者特異的レポートを作成する。
【背景技術】
【0002】
化学療法は、癌治療において臨床医が用いることができる強力な手法である。薬剤、組合せ、用量、および計画の選択は、しばしばグループ統計データに基づく。化学療法剤の用量は困難になる可能性がある。例えば、用量が低すぎれば腫瘍に対する治療は無効となり、一方で過度の用量では、患者にとって毒性(副作用)が許容し得ないものとなる。このことにより、用量を補正し、毒性を示さぬよう調節する指針を与える詳細な投与計画を、多くの治療準備において作成することとなった。免疫療法では、悪性疾患の治療よりも原則として少ない用量の薬剤を用いる。多くの場合、体容積を数学的に概算するための、患者の体表面積、および体重および身長の要素からなる値に、用量を適合させる。従って、患者の個別の腫瘍因子の解析に基づいた薬剤の選択が望ましい。これにより、毒性の増加なしに薬効を高める結果となるであろう。
【0003】
化学療法の用量が通常は体表面積に基づくにもかかわらず、この方式の利用を支持するデータは少ない(Cancer:Principles and Practice of Oncology,6th edition.335〜344,2001)。この方式の主要な不利点は、体表面積が肝臓機能と十分に相関しないことである。相当数の細胞分裂阻害型の癌化学療法剤が肝臓によって代謝されるため、このことは問題となる。加えて、現在の投与戦略では、濃度曲線下面積(area under the curve:AUC)および薬物クリアランスにおいて、患者間で数倍の変化をもたらす結果となる(J.Clin.Oncol.14:2590〜2611,1996)。これらの欠点により、個別の腫瘍特性に基づいた、より予測精度の高い方式が、薬剤および用量の選択にとって必要である。
【0004】
乳癌の治療は、多くの治療が計画通りに行かないことから、患者および臨床医にとってリスクの高いものである。このことは、選択した薬剤に対して腫瘍が非反応性となる結果であることが多い。治療開始に先んじて反応性を一貫的に予測する方法が現在はないため、試行錯誤の方式が用いられている。乳癌の化学療法剤の選択は現在、腫瘍組織学、臨床病期、受容体および抗原の状態といった、幾つかの一般的なパラメータに基づいている。それら判断材料によって、有益ではない毒性薬物を一部の患者が受けることになる。さらに、有益な個別的投与計画を特定するまでに費やされる時間は、有効な治療をさらに遅らせる。多くの腫瘍は、早期に発見して患者に適切な治療計画を施せば、効果的に治療可能である。従って、個別患者における特定の化学治療化合物に対する腫瘍反応の判断材料に関するより良い情報が必要である。
乳癌の化学療法投薬計画の有効性は、患者ごとに大きく異なる。その結果、かなりの割合の患者が有益でない毒性薬物を投与され、一部の患者は最も有益な投薬計画を受けるのが遅れる。乳癌患者の最適な臨床管理の決定において、化学療法化合物への早期反応の正確な判断材料が重要なことが示されるであろう。
【0005】
上述の問題点を解決すべく試された幾つかのアイデアがある。1つは、Silverman et al.,Mol.Imaging Biol.8(1)36〜42,2006に記述されており、3’−[F−18]フルオロ−3’−デオキシチミジンと陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)を用いて、治療法への乳癌の反応性予測を試みている。特に、化学療法の最初の治療単位後2週間目に捕捉したフッ素化デオキシチミジン・マーカーを用いたPETスキャンは、乳癌を患った女性の化学療法投薬計画の長期的有効性の判断において「有用」であった、と著者は結論づけている。この「有用性」は、治療法の選択または患者に適した用量に対する直接的な解答とはとても言えない。むしろ、それは単に腫瘍の縮小を測定するための有効性測定方法に過ぎない。
Delgrorio et al.では、動物および細胞株に治療量の単一化合物を投与して、14C総量の測定を利用したAMSを用いている。そこでは、HPLCによる代謝産物の定量化は試みられていない。
【0006】
米国特許第4,037,100号明細書には、負電荷粒子の検出に利用可能な機器が記述されており、それら元素組成のデータが提供されている。前記機器は、質量および元素分析に利用可能な加速器質量分析器(accelerator mass spectrometer:AMS)を含む。加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)は、典型的には10と2×10年との間の半減期を有する、長寿命であるが希少な宇宙線生成同位体の鋭敏な計数方法として開発された。
この範囲の半減期を有する同位体は、標準的な崩壊測定技術で検出するには長寿命に過ぎ、生物圏または岩石圏中に感知可能な濃度で存在するための地質学的な時間的尺度には単寿命に過ぎる。AMSによる宇宙線生成同位体(10Be,14C,26Al,41Ca,36Cl,および129Iなど)の分析は、考古学、海洋学、および地球科学においては基本的な方法となっているが、しかし生物学的または臨床的性質の問題に対して広く適用されてはいない。
【0007】
White and Brown(Trends Pharmacol.Sci.25:442〜447,2004)は、薬理学および毒物学でのAMSの利用例を提供する概説である。スウェーデンにおいて児童に14C−尿素を投与し、呼気または尿中の14Cを加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)によって測定することで、ヘリコバクター・ピロリの検出に用いた。マウスでは肝臓および骨髄で14C−ベンゼンの産生がAMSによって追跡された。さらに、同様なマイクロドージング試験によって、DNAに作用する薬剤の非存在が決定された。引用されている1つの研究では、調理した肉から形成される発癌性物質、MeIQxが、ヒト結腸癌患者の正常および腫瘍組織へ到達可能であることが示された(Mauthe et al.,Int.J.Cancer80:539〜545,1999)。同様のDNA損傷は、ヒトの腫瘍および正常組織に見られる。子宮摘出を行おうとしている女性へ、高濃度の14C−タモキシフェンを投与し、子宮でのDNA損傷を(AMSによって)検出した。その研究では、一部のDNA損傷がAMSによって確認されたものの、新生組織形成を引き起こすのに十分な程度ではなかったと結論づけられた。他の同位体(特にカルシウムおよびアルミニウム)がAMSによってヒトで追跡された。しかし、AMSのそういった利用にもかかわらず、腫瘍または正常細胞への2若しくはそれ以上の薬剤の差異に基づく効果への言及は開示されていない。
【0008】
Brown et al.(Mass Spectromety Rev.25:127〜145,2006)では、14C−発癌性物質を投与した被験者での、タンパク質およびDNAの変化を検出するために、AMSに注目している。さらに、H,10Be,26Al,36Cl,41Ca,および129I同位体が、AMSによる生物学的研究に用いられている。
【0009】
Wu et al.(Int.J.Gynecol.Cancer 12:409〜423,2002)は、2次元ゲル、プロテインチップ、および他の方法を用いた癌研究におけるプロテオミクスに関する概説論文である。生物学的サンプル由来の有機小分子の解明および測定のために質量分析法(しかしAMSではない)が用いられている。解析に供する特定の細胞を顕微鏡下で分離するために、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(laser capture micro−dissection:LCM)と呼ばれる技術が推奨されている。LCMはまた、周辺組織からの細胞の獲得および除去のために、質量分析法とともに用いられている。
【0010】
Lee and Macgregor,Modern Drug Discovery(July):45〜49,2004では、薬剤の摂取、吸収、代謝、排泄、および他の機構の変化による、癌細胞における薬剤耐性に注目している。DNAマイクロアレイのデータは、化学療法の反応のバイオマーカー検出に用いることができる。例えば、化学療法後に再発した卵巣癌患者の70%では、CA125マーカーが上昇する。
【0011】
患者の癌細胞の薬剤耐性および感受性のインビトロ試験は、Rational Therapeutics社,Oncotech社,およびGenzyme社といった数々の営利団体によって行われている。これら試験の価値は立証されておらず、多くの保険会社は腫瘍細胞のインビトロ試験を保証していない。例えば、Oncotech社は、原発癌細胞をソフトアガー中で薬剤へ5日間曝露するEDRアッセイによって、患者の化学療法への薬剤耐性を予測可能であると主張している(Oncotech社ウェブサイトによると、「無効な薬剤を99%以上の精度で特定できる」)。しかし、Oncotech社は少なくとも2グラムの生存した癌組織を必要とし、サンプル採取の3週間以内には化学療法または放射線療法を受けてはいけない。同様に、Genzyme社は化学療法に対する腫瘍の耐性を99%の精度で予測すると主張している。それら企業のいずれも、薬剤の有効性予測の精度について、特に、同時に2若しくはそれ以上の薬剤を組み合わせて投与した場合については主張していない。
【0012】
最後に、Sharma et al.(Cancer Cell International 5:26〜45,2005)では、ラット乳癌におけるタキソテール治療反応を測定するのに、ナトリウムMRIイメージングを用いたことを示している。良性および悪性の乳癌で細胞内のナトリウムの上昇が発見された。抗癌剤は細胞内のナトリウムを上昇させた。しかし、そうした薬剤が引き起こすアポトーシスはナトリウム分布の撹乱につながる。従って、タキソテール化学療法への腫瘍の反応評価に、インビボの薬剤観察方法としてナトリウムMRIを使用することができると著者は結論づけている。しかし著者は、インビボ組織での前記方法は「腫瘍特性の予測精度に疑義が生じる」と、さらに述べている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
病変組織への細胞ベースでの、2若しくはそれ以上の薬剤のデリバリー量の同時的な決定方法を開示する。この方法は、作用部位へデリバリーする個人ベースでの最適な薬剤および用量の選択に用いる患者特異的レポートを作成する。特に、
(a)期待される治療量の少なくとも半分以下の用量で、2若しくはそれ以上の異なる薬剤を有する試験混合物を被験者に投与する工程と、
(b)試験のために、関連する病変組織の生検サンプルを採取する工程と、
(c)前記投与したそれぞれの薬剤およびそれらの代謝産物に対する生検サンプルを解析する工程と
を含む、個別治療決定のための方法を開示する。
【0014】
好ましくは、前記試験混合物の用量はトレーサー量であり、ここでトレーサー量は治療量の10%以下である。好ましくは、前記解析する工程は、加速器質量分析(accelerator mass spectrometry:AMS)装置を用いて実施される。好ましくは、試験混合物の組織分布を許すために、前記試験混合物を投与する工程から約10分〜約2時間後までの間、休止する工程をさらに有する。好ましくは、前記生検サンプルは、摘出した腫瘍組織、血液、血液画分、単離した病原体感染組織、およびそれらの組合せからなる群から選択される組織片である。好ましくは、前記方法は、前記サンプルを構成細胞型に分離することによって前記生検サンプルを分画する工程をさらに有する。最も好ましくは、前記生検サンプルが血液である場合、前記血液サンプルは赤血球および白血球の各タイプへと分画する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、癌の個別治療の作業の流れを記述したフロー図である。
【図2】図2は、高速液体クロマトグラフィーによる、シクロフォスファミドおよびパクリタキセルの分離を示したものである。
【図3】図3は、3人の患者A,B,およびCへ試験混合物を投与後の乳癌生検中のシクロフォスファミドおよびパクリタキセルの量の計量を示した、個別治療アプローチのモデルを表している。
【図4】図4は、高速液体クロマトグラフィーを用いて1分間隔での個別の画分を作成した後、3人の患者A,B,およびCへ試験混合物を投与後の乳癌生検中のシクロフォスファミドおよびパクリタキセルの分布データを生成するために加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)を用いて、それぞれの画分中の放射性標識を定量化した図である。
【図5】図5は、マウスへの経口および静脈内投与の5分後の組織中へのCVT337分布量を示したものである。各治療群からそれぞれ3(3)匹のマウスのサンプルを集めて、加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)によってトータルの14C活性を測定した。
【図6】図6は、マウスへの静脈内投与後24時間に渡る組織中のCVT337量を示したものである。各治療群からそれぞれ3(3)匹のマウスのサンプルを集めて、加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)によってトータルの14C活性を測定した。
【図7】図7は、ヒト健常被験者中の、最初の8日間(上図)および200日間(下図)の赤血球細胞14C−葉酸濃度を示したものである。14C−葉酸の出現までの3日間の遅れは、成熟までの間の骨髄中での細胞への14C−葉酸取り込みに必要な時間を示している。エラーバーは、AMSによる14Cの3回の測定の±1標準偏差を示したものである。
【図8】図8は、ヒト健常被験者への14C−葉酸経口投与の1時間後に採取した血漿サンプルのHPLC−AMSクロマトグラムを示したものである。吸収は292nm(実線)で測定し、14C濃度はAMSによって測定してモダン(点線)として表示した。2〜4分の大きなピークは酸化に対する保護のためにサンプルへ添加したアスコルビン酸によるものである。回収のチェックおよび、葉酸(folic acid:FA)および5−メチルテトラヒドロ葉酸(5−methyltetrahydrofolate:5MTFA)の保持時間を明らかにするために、抽出前に血漿へFAおよび5MTFAの参照標準を血漿へ添加した。
【図9】図9は、トレーサーの摂取および損失を示した単純なモデルである。
【図10】図10は、ヒト中の葉酸分布の多区画モデルを示している。この図は、葉酸代謝に関わる主要なプールを描いたものである。全てのプールで測定したトレーサー量は実線で示した。点線で示した組織プールは、14C−葉酸濃度を測定していない唯一のプールである。区画モデリングは、差分による組織プールへのトレーサー分布の決定を許すものである。
【図11】図11は、ヒト・ボランティア中の葉酸動態の区画モデルを示している。区画には1〜11の番号を付け、移動係数はk(受容側、供与側)として示した。
【図12】図12は、異なる抽出溶媒を用いた組織ホモジネートからの、注入した5FUおよびPACの回収を示している。この実験は、本願明細書の実施例3に記述した。
【図13】図13は、マウス組織ホモジネート抽出物中の5FUおよびPACの分離を示したクロマトグラムである。5FUおよびPACのUVトレース中のピークは、投与濃度ではUVシグナルを発生しない放射線標識5FUおよびPACの保持時間を明らかにするために、分離前に実験サンプルへ注入した非標識参照標準を表している。1分ごとの画分を採取し、5FUおよびPACに相当する画分を14C計量のためにAMSでさらに解析した。
【図14】図14は、5FU、PAC、または5FUおよびPAC両方の混合物を投与して2時間後のマウスの、血漿、HT−29ヒト結腸癌細胞株の腫瘍異種移植片、および正常肺組織中の放射標識の総シグナルを示したものである。
【図15】図15は、マウスへ5FU、PAC、または両方を混合物として静脈内投与した2時間後の、腫瘍、正常肺組織および血漿中の5FUおよびPACの量を示したものである。
【図16】図16は、5FUまたはPACのいずれかによる処理後の腫瘍および肺組織抽出物中の、5FUおよびPACのクロマトグラフィー分離および計量を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本願明細書では、以下に定義する用語を使用する。
【0017】
被験者(Test Subject)は、患者、研究ボランティア、または動物モデルである。
【0018】
試験混合物(Test Cocktail)は、被験者へ投与する、2若しくはそれ以上の化学薬品である。化学薬品は混合して、経口、静脈内、または他の投与経路によって同時に投与することができる。あるいは、それぞれの化学薬品は、異なる投与経路によって投与する。
【0019】
トレーサー量(Tracer Dose)は、化学物質への曝露のリスクを減少するために、極少量にて被験者へ投与する、治療量以下の量である。
【0020】
標的組織(Target Tissue)は、それらに対する薬剤の吸収を試験するところの器官、組織、または細胞集団である。
【0021】
分布時間(Distribution Time)は、試験混合物の投与と標的組織の採取との間の時間である。
【0022】
検出システム(Detection System)は、標的組織中の各トレーサー量のレベルを評価するための分析方法および機器である。
【0023】
試験レポート(Test Report)は、試験手段の結果概要である。
【0024】
方法の比較
本発明の開示は、期待される治療量の少なくとも半分以下の用量の、2若しくはそれ以上の異なる薬剤を含む試験混合物を提供する。この低容量を「トレーサー量」と呼ぶ。さらに、放射能の量は約100nCi以上とすることはない。本発明の開示は、AMS、質量分析法(mass spectroscopy:MS)、および分離のためにMS検査と併用する液体クロマトグラフィー(liquid chromatography:LC)を含む、幾つかの異なる検出技術もまた利用する。
【0025】
以下の表は、本発明の開示との比較として先行技術をリストしたものである。
【0026】
【表1−1】

【0027】
以下の手段では、腫瘍または正常組織中の各薬剤のデリバリーを定量化するために、試験混合物中で混合して、被験者へ投与する2つの薬剤のトレーサー量を用いる。高度に鋭敏な解析方法および機器と組み合わせた低侵襲的処置は、個別治療のための最適な薬剤および最適な用量の選択の個別的情報を提供する。特に、この実施例では乳癌の個別治療手段を提供する。シクロフォスファミドおよびパクリタキセルの2つの、悪性乳癌組織へのデリバリーを評価した。シクロフォスファミドはアルキル化剤として知られる類の薬剤である。それは体内癌細胞の成長を遅延または停止させる。治療期間は、身体の薬剤への反応性および腫瘍のタイプに依存する。パクリタキセルは、乳癌、卵巣癌、および肺癌を含む様々な悪性腫瘍の治療に化学療法薬として広く用いられている。
【0028】
この手段は被験者が針生検を予定している場合に実施するものである。針生検は、良性および悪性の状態の病理学的決定のための組織サンプルの採取において、日常的に実施されている。針生検を行った被験者の約80%は良性の状態であると判定される。
【0029】
この手段は高レベルでの安全性が確立されており、後に良性の状態と分かる80%の被験者については特に安全である。治療量においては、化学療法剤は全ての被験者に対して毒性を示す可能性がある。全ての被験者に対するこのリスクを最小化するために、原則的にシクロフォスファミドおよびパクリタキセルのトレーサー量から成る試験混合物を製剤化した。この実施例では、試験混合物中の各薬剤は、対応する治療量の1000倍以上少ない量である。
【0030】
針生検でのシクロフォスファミドおよびパクリタキセルのトレーサー量検出は、高度に鋭敏な分析方法および機器が必要である。加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)は、放射線炭素同位体(14C)などのトレーサーで標識した化合物のトレーサー量検出の極めて鋭敏な方法である。AMSの極めて高い鋭敏性のおかげで、シクロフォスファミドおよびパクリタキセルの標識には、極少量の14C同位体トレーサーを用いた。その結果、被験者の試験混合物に対する放射線のリスクは、自然状態での1年間の累積的期間で既に存在する放射線のリスクと同等なものとなる。さらに、試験混合物および標的組織内の14C同位体トレーサーが極少量であることで、この手段を標準的な処方薬の、環境的な、医療的な、および研究室での実施に適合させるための特別な取り扱い方法が不要となる。従って、AMSはこの実施例において理想的な検出システムである。
【0031】
以下の表は、上述のプロトコル設計を要約したものである。
【0032】
【表1−2】

【0033】
シクロフォスファミド
シクロフォスファミドはアルキル化剤として知られる類の薬剤であり、それは体内癌細胞の成長を遅延または停止させる。治療期間は、身体の薬剤への反応性および腫瘍のタイプに依存する。薬剤は錠剤として経口で摂取、または静脈内への注射によって投与可能である。機能するためには、シクロフォスファミドはまず、肝臓によって2つの化学物質、アクロレインおよびホスホルアミドに変換される。アクロレインおよびホスホルアミドは活性化合物であり、それらは癌性細胞中のデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)の作用を妨げることで癌細胞の成長を遅らせる。従って、それは細胞毒性薬として言及される。残念ながら、正常細胞もまた影響されるため、重大な副作用をもたらす。シクロフォスファミドは、免疫系もまた抑制するため、免疫抑制薬としてもまた言及される。
【0034】
成人および児童への通常の初回量は40〜50mg/kgであり、複数回に分けて3〜5日間にかけて静脈内投与する。通常の経口投与量は1日当たり1〜5mg/kgである。続く維持量は、治療に対する腫瘍の反応および副作用に基づいて調節する。60kgの被験者に対する静脈内投与の調製は、40mg/kg×60kg=2,400mgのシクロフォスファミドを含む。
【0035】
シクロフォスファミドは主に肝臓中で、ミクロソーム混合機能酸化酵素系によって活性アルキル化代謝産物へと生体内変換される。それら代謝産物は影響を受け易い急速に増殖している悪性腫瘍細胞に干渉する。シクロフォスファミドは経口投与後に75%以上の生物学的利用能で良好に吸収される。変換されなかった薬剤は3〜12時間の排出半減期を有する。主に代謝産物の形で排出されるが、しかし用量の5%〜25%は未変換薬物として尿中へ排泄される。幾つかの細胞毒性および非細胞毒性の代謝産物が尿中および血漿中で同定されている。代謝産物の血漿中濃度は静脈内投与の2〜3時間後で最高値に達する。未変換薬物の血漿タンパク質結合は少ないが、しかし一部の代謝産物は60%以上まで結合する。シクロフォスファミドの治療または毒性効果のいずれかに、代謝産物のいずれかの1つが関与することは示されていない。腎不全患者ではシクロフォスファミドの代謝産物量の上昇が見られるにもかかわらず、そのような患者での臨床的毒性の上昇は示されていない。
【0036】
シクロフォスファミドのトレーサー量計算
化学式 C15Cl
分子量 261.085g/mol
【化1】

経路 1回の静脈内投与
被験者 60kg個体
用量 0.04mg/kg
トレーサー量 0.04mg/kg×60kg=2.4mg
14C同位体 50nCi
比活性度
モル当量:(2.4mg/kg シクロフォスファミド)×(1nmol/261.085mg)
=0.009192mmol=9.192μmol
14C同位体トレーサー:50nCi
50nCi/9.192μmol
5.43nCi/μmol
購入先:シクロフォスファミド、(American Rdiolabeled Chemicals,ミズーリ州St.Louis)10μCi M.W.261.085 比活性 50〜100mCi/mmolを0.1mCi/mlへ希釈。
【0037】
パクリタキセル
パクリタキセルは、乳癌、卵巣癌、および肺癌を含む様々な悪性腫瘍の治療に化学療法薬として広く用いられている。パクリタキセルは、天然に存在する脂溶性薬物であり、元はタイヘイヨウイチイの木であるTaxus brevifoliaから抽出された。この薬剤は微小管の機能を妨げ、平滑筋中で分裂初期および分裂後のG1停止を引き起こし、それによりアポトーシスまたは細胞死を起こさずにそれら細胞の増殖を阻害する。
【0038】
節陽性乳癌の補助療法として推奨されるパクリタキセルの投薬計画は、175mg/mの用量で3週間ごとに3時間以上、4治療単位である。60kgの被験者の静脈内投与の調製は、175mg/m×1.67m=292.25mg パクリタキセルである。
【0039】
パクリタキセルは注入前に希釈する必要がある。パクリタキセル投与の際、0.3〜1.2mg/mLの濃度まで希釈することを推奨する。室温(約25℃)および室内照明下で27時間まで、溶液は物理的および化学的に安定である。
【0040】
パクリタキセルのトレーサー量計算
本プロトコルのトレーサー量は、60kg、5フィート6インチの被験者への静脈内投与を意図している。投薬量のためにモステラーの公式を用いて計算した体表面積は1.67mである。
【0041】
化学式 C4751NO14
分子量 853.906g/mol
【化2】

経路 1回の静脈内投与
被験者 60kg個体、1.67m
用量 0.175mg/m
トレーサー量 0.175mg/m×1.67m=0.292mg
14C同位体 50nCi
比活性度
モル当量:(0.292mg パクリタキセル)×(1mmol/853.906mg)
=0.000342mmol=0.342μmol
14C同位体トレーサー:50nCi
50nCi/0.342μmol
146.1nCi/μmol
購入先:タキソール(パクリタキセル)、[2−benzoyl ring−14C(U)](American Radiolabeled Chemicals,ミズーリ州St.Louis)10μCi M.W.853.9 比活性 50〜100mCi/mmolを0.1mCi/mlへ希釈。
【0042】
この実施例の標的組織は、悪性腫瘍の予備的診断中に採取した乳房組織とした。マンモグラムでの異常の発見後に乳房生検が推奨されると、被験者は、針生検として知られる最小限度に低侵襲的な代替手術を施される。生検は数分間しか要せず、縫合は不要である。
【0043】
乳房生検は乳房組織サンプルを採取するために行う。前記組織を次に、悪性腫瘍の有無を決定するために病理学者が顕微鏡下で検査する。現在、乳房生検には幾つかの方法が存在する。患者にとって最も適切な生検方法は、サイズ、位置、外観、および乳房異常の特性を含む、様々な要因に依存する。それら方法は、病理学者によるさらなる組織学的分析およびトレーサー量の定量化のために十分な量の標的組織を提供する。
【0044】
このプロトコルでは、標的組織を得るためにコア針生検を実施した。コア針生検は、中空の「コア(core)」針を用いた、乳房組織の少量サンプル採取による経皮的処置である。十分な組織サンプルを得るためには3〜6回の針挿入が必要である。典型的には、各挿入によって、長さ約0.75インチ(約2.0センチメーター)、および直径0.0625インチ(約0.16センチメーター)のサンプルを採取する。それぞれの針挿入で採取するサンプルの体積は約0.04cm、質量約40mgである。これは、40mgの標的組織を用いた5回以上の独立した解析的測定のための材料を提供する。1回の挿入で採取したサンプルは液体窒素中で瞬間冷凍して、さらなる解析までの間、冷凍保存する。採取したサンプルの残りは病理検査室へ輸送して、胸のしこりが癌性(悪性)または非癌性(良性)かを決定する。
【0045】
【数1】

【0046】
それぞれのトレーサー量、および標的組織中の活性代謝産物の検出手段は2工程の方法である:(1)トレーサー量および代謝産物を、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)によって個々の画分へ分離する、(2)それぞれの画分中の14C同位体トレーサーの量を、加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)によって決定する。加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)は、極めて高い感度が必要とされる場合の最適の基盤である。この実施例では、AMSは標的組織中の放射線炭素標識したトレーサー量の量を、アトモル(10-18M)の感度で定量化する。AMSは被験者中の極めて低い放射線(<100ナノキュリー)を用いて化合物の非常に低い用量を追跡する。適切なサンプル調製の後には、吸収、代謝、分布、結合、および排出を全て定量化可能である。
【0047】
(1)HPLCによる分画
ヒト血漿中のパクリタキセルの主要な代謝産物は、6−アルファ−ヒドロキシパクリタキセル;3’−p−ヒドロキシパクリタキセル;6−アルファ,3’−p−ジヒドロキシパクリタキセル;7−エピパクリタキセルである。ヒト血漿中のシクロフォスファミドの主要な代謝産物は、4−ヒドロキシフォスファミド(4−hydroxyphosphamide:OH−CP)、およびカルボキシエチルフォスファミド(carboxyethlphosphamide:CEPM)である。ヒト尿中には一部の異なる代謝産物が見られる:シクロフォスファミド;N−デクロロフォスファミド(N−dechlorophosphamide:DCL−CP);4−ケトシクロフォスファミド(4−keto cyclophosphamide:4KetoCP)、およびカルボキシシクロフォスファミド(carboxy cyclophosphamide:CarcoxyCP)である。
【0048】
カスタマイズしたプロトコルによって、パクリタキセルおよびシクロフォスファミドの母体および/または代謝産物の分離が可能となる。パクリタキセルおよびシクロフォスファミドの母体化合物の分離については、以下の実施例を参照されたい(J.Pharm.Biomed.Anal.1;39(1〜2):170〜6,2005)。
【0049】
手段
a)標的組織を冷凍庫から取り出して、氷上で解凍する。秤量して20〜30mg程度の部分を取り分けて、湿重量を記録する。20重量/体積%(w/v)のホモジネートを、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin:BSA、40g/L)水溶液中で調製する。
【0050】
b)ホモジネート(0.1mL)を酢酸エチル(1mL)で抽出する。
【0051】
c)アセトニトリル−脱イオン水から成る勾配プロトコル(J.Pharm.Biomed.Anal.Sep 1;39(1〜2):170〜6,2005)を用いて画分を分離するために、4.6mm×250mmオクタデシルシリコン(octadecyl silicone:ODS)カラムおよび高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)を利用する。
【0052】
d)それぞれの画分を収集して、AMSによってさらに解析する。
【0053】
(2)加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)による検出
加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)は、非常に少量のサンプル中の放射性炭素(14C)の極めて低量の検出に必須な感度の高い機器である。20μlのヒト血漿または5mgの組織中の14Cの天然含有量は、約105×10−18(アトモル)14Cであり、1時間当たりの14C崩壊数1回以下に相当する。この14Cの天然量は他の機器では検出不能であるが、しかしAMS機器によってならば1分間以下で1%以上の精度で容易に定量化できる。AMSは、非常に優れた感度および精度で、さらに低量の14Cを定量化可能である。20μlのヒト血漿または5mgの組織中でのAMSの14Cに対する定量限界(limit of quantification:LOQ)は<200ゼプトモル(10−21mol)である(BioTechniques 38:S25〜S29)。
【0054】
AMSは、負荷電原子および微小な分子イオンの低エネルギー(数十keV)を1AMUの分解能で(例えば質量14)質量分析する、タンデム同位体比質量分析(tandem isotope ratio mass spectrometry)の一種である。それらイオンは、非常に高い陽電位(0.5〜10メガボルト)に保たれた気体または固体薄片の衝突セルに引き寄せられる。薄片または気体を通過することで、2若しくはそれ以上の電子が、原子または分子イオンから跳ね飛ばされて、それらを正に帯電させる。それら正荷電イオンは次に、陽電位から2番目の質量分析器へ向かって加速され、そこで十分な荷電状態(7MV解離の場合では4)が選択される。衝突セル中での4若しくはそれ以上の電子損失(3荷電状態への)は全ての分子を破壊し、比較的高エネルギー(20〜100MeV)の核イオンのみが残されて、それらと検出器との相互作用の幾つかの特性によって個々および一意的に同定される。AMSの本質的な「秘訣(trick)」は、分子同重体を除去する分子解離、および核同重体を識別するイオン同定である。それら2つのAMSの本質的特性を超えてさらに、各要素に特有の特別な秘訣を開発した。この場合、窒素は負イオンを生成しないことから、イオン源中の14Nを14Cから分離する。
【0055】
AMSの感度および特異性は、被験者の標的組織に対する14C標識化学薬品のトレーサー量の薬物動態学的および分布研究を可能にする。周知の、および測定可能な投与前レベル以上の、あらゆる過剰な14C同位体は、トレーサー量およびその代謝産物に帰することと成る。AMSの感度は、化学的用量の曝露を治療量の100〜1000×以下に、そして14C同位体トレーサーの曝露を100ナノキュリー(nCi)以下の量まで、劇的に減少させる。
【0056】
手段:
a)それぞれのHPLC画分の量を個々の石英管へ設置した。効率的な黒鉛化のために、貯蔵してあるトリブチリンから炭素担体(1mg)を添加した。石英管を遠心分離機中へ設置して、真空下でそれら内容物を乾燥させた。炭素担体によって導入されるシグナルを較正するためには、標準的な計算法を用いる。全てのサンプルは個別にCOへと焼却して、前記COは鉄などの適切な触媒上で黒鉛へと還元する(Anal.Chem.75,2192〜2196,2003)。
【0057】
b)黒鉛に対してAMS測定を実施する(Davis,Nucl.Instrum.Methods B40/41.705〜708,1989;and Proctor,Nucl.Instrum.Methods B40/41.727〜730,1989)。
【0058】
c)コントロール − 被験者が自然レベル以上の14C同位体トレーサー量を有していないことを確認するために、試験混合物の投与前に血漿サンプルを採取する。1950炭素中の14Cの1.508倍の活性を有するANUスクロースを分析標準として用いる。
【0059】
試験報告
AMS機器による解析結果を分析して、標的組織中で検出された量に従って、試験混合物中のそれぞれの化学薬品のデリバリーを順位付けする報告を作成した。試験報告は幾つかの異なる形式で表示する。
【0060】
14Cトレーサー同位体の計算
AMSはHPLC画分中の14C/12C比の直接的な測定を提供する。この14C/12C比は、モダン比(Fraction Modern:FM)として知られる。FM値は、それぞれのHPLC画分中の14C同位体トレーサー量の計算に用いる。前記プロトコル中のトレーサー量の計量のために、一連の計算法を以下に示す。
【0061】
【数2】

【0062】
【数3】

【0063】
【数4】

【0064】
【数5】

【0065】
【数6】

【0066】
【数7】

【0067】
【数8】

【0068】
上述の計算はHPLCによって収集した全ての画分に適用する。それぞれの画分中に存在する代謝産物量の計算には、母体分子の比活性度を用いる。簡単のために、母体分子の比活性度を表すために用いる「当量(equivalent)」という用語を、代謝産物量の計算に用いる。
【0069】
【数9】

【0070】
化学療法剤の薬物動態学的および代謝における個体間の大きなばらつきが存在する。パクリタキセルの固定用量投与後に、各個体がパクリタキセルの異なる血漿中濃度を示す可能性がある。固定用量投与後の、パクリタキセルの濃度−時間曲線下面積(area under the concentration−time curve:AUC)における4〜5倍の差異が報告されている(J.Clin.Oncol.15:317〜29,1997)。標的組織による指針に基づく個人ベースでの化学療法剤の選択および用量の最適化は、所望の治療成果の達成を支援することが可能である。
【0071】
記述した方法は、薬用化合物デリバリーの個別的な決定を可能にする。例えば、2つの化学療法化合物、シクロフォスファミドおよびパクリタキセルについての、標的組織に対するデータを提示した。試験混合物中で同時投与したシクロフォスファミドおよびパクリタキセルのトレーサー量の定量的分布は、それら通常毒性の薬剤投与の乳癌へのデリバリーの予測に役立たせることが可能である。個体間の大きな多様性のため、そうした予測は実行が困難である。しかし、分布の測定は、それぞれの化学療法剤の有効性予測の正確性を向上させる。
【0072】
典型的には多剤療法を施される、および/または薬剤毒性または肝転移による肝臓疾患を患う可能性がある癌患者にとって、薬剤代謝の修正は特に重要である。それら状況下では、幾つかの代謝酵素が上方または下方制御される可能性がある。さらに、例えば、遺伝的要因、病状、年齢、食習慣、および生理学的状態を含む幾つかの要因が、薬物代謝の結果に影響する可能性がある。
【実施例1】
【0073】
この実施例は、マウスの複数組織への14C−CPT377分布の、加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)による定量化を説明するものである。II型糖尿病および糖尿病の合併症の診断は、この10年間で世界的な大流行と言うべき比率にまで増大している。現在、末梢組織のインスリン耐性、高血糖症、膵臓B細胞機能障害など顕著な特徴を伴うII型糖尿病を、1億5千万人以上が患っていると推定されている。幾つかの治療法が市場に提供されているものの、多くは重大な副作用を有する、またはそれらの治療を受けた患者に対して無効になってしまう。さらには、疾患の進行につれて、追加的な治療的介入および追加的なインスリン治療が必要となる。それらについては、この消耗性疾患の発生、進行、および合併症を軽減すべく、新規な作用機構を有する薬剤の開発へ向けて多大な努力が続けられている。
【0074】
そうしたアプローチの1つは、インスリンシグナル経路を標的とした、より具体的にはプロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)を介した、有効なインスリン増感剤の獲得である。PTP1Bは偏在的に存在する、受容体ではない酵素(non−receptor enzyme)であり、インスリンおよびレプチンのシグナル伝達をインビボで負に制御するものである。PTP1Bノックアウト(PTP1B−/−)マウスは健康であり、インスリン感受性の増加、耐糖能の改善、および高脂肪食を給餌した場合の体重増加への耐性を示す。さらに、PTP1Bの組織特異的な減衰の研究から、特定のインスリン感受性組織でのこの酵素の役割が示唆された。従って、このよく研究された標的の、可逆的、競合的な阻害剤となる低分子は、II型糖尿病治療に好ましい治療の便益を提供するであろう。
【0075】
PTP1Bを特異的に阻害するよう設計した化学系統中の、初期段階での非常に有望なリード化合物が、糖尿病および肥満のモデルマウス(C57B1/6J ob/ob)において有効であることが見いだされた。この化合物(CPT377)による1日1回で3〜5日間の経口治療後に、毎日の血糖値の減少、および標準的な耐糖能試験での良好な効果が見られた。古典的な薬物動態学的解析によると、経口での分子の生物学的利用能は低く(<6%)、血中半減期は1.5時間と判明した。末梢組織中でのPTP1Bの役割の報告に基づいて、この化合物の良好な効果が、前記化合物の特異的組織中での滞留時間によるものであるかを調べるために、AMS試験を設計した。この情報は、組織曝露と効果との間の有り得べき相関性の確立の助けとなるであろう。
【0076】
実験は、軽微に標識した14C−CPT377(低分子)の経口および静脈内製剤の試験文献に従って設定した。比活性度は0.12mCi/mmol、貯蔵条件は2〜8℃、それぞれ約20gの38匹の雄マウスCD−1株(albino Swiss equivalent, Charles River Laboratories,カリフォルニア州Hollister)での経口用量は20mg/kg、および静脈内用量は4mg/kgとした。動物は、室温および相対湿度50±20%で個別に飼育し、1時間当たり少なくとも10回の換気量の部屋で、研究室齧歯類用飼料および水を随意に提供した。光周期は1日ごとで;12時間の光、12時間の暗闇、および動物は4日間の間で最初に順応させておいた。
【0077】
心穿刺によって約1mLの全血を採取した。血漿および赤血球は、採取時に約2800RPMで4℃にて15分間の遠心分離によって分離した。血漿を除去して、Fisherのブランドのglass threaded vialsで貯蔵した。
【0078】
様々な器官のサンプルを外科的切除によって取得し、湿重量を記録した。20重量/体積%(w/v)のホモジネートを、20mMのリン酸二カリウム(KHPO)、pH7.4中で調製した。
【0079】
各サンプル(75〜100μL)中の総炭素濃度は個別のCostech tin capsules(カリフォルニア州Ventura)中で液体窒素上でのサンプル凍結により測定し、その後オーバーナイトで凍結乾燥した。それぞれのカプセルは次に、2番目のtin capsule中に設置し、ボールへ入れてCarlo−Erba carbon analyzer(Pella,Am.Lab.22:116〜25,1990)を用いて総炭素濃度を解析した。計算は、小数点第4位まで測定したサンプル重量に基づいて行った。
【0080】
【表2】

【0081】
約20μLの組織ホモジネートを個々の石英管中へ設置して黒鉛化した(Anal.Chem.75:2192〜2196,2003)。この方法では、全てのサンプルをCOへと焼却して、鉄などの適切な触媒上でCOを黒鉛へと還元した。
【0082】
【数10】

【0083】
AMS測定は以前に記述された(Davis,Nucl.Instrum.Methods.B40/41.705〜708,1989 and;Proctor,Nucl.Instrum.Methods.B40/41.727〜730,1989)に従って実施した。動物が自然レベル以上の14C濃度を有していないことを確認するために、投与前の血漿および尿を1匹のマウスから採取した。14Cコントロール測定に用いるために、追加的な6サンプルが入手可能である。1950炭素の1.508倍の14C活性を有するANUスクロースを分析標準として用いた。
【0084】
薬剤投与した時間をTとして言及する。それに続く全ての時点を、1分単位で、「投与後〜分(minutes since dose)」として言及する。14C計算は「モダン(moderns)」であり、小数点第4位までで3%の精度とした。モダンは、14C/12C比の測定量として考えることが可能である。14C濃度は、様々なタイプのサンプル中の総炭素(12C)の参照値を用いて、モダン値から計算した。一旦、14C濃度を決定した後は、投与用量の比活性度を用いて14C投与濃度を計算した。
【0085】
【数11】

【0086】
化合物(静脈内投与)は25分以内に血漿中から速やかに除去され、投与から3時間以内に95%以上が除去される。経口投与では、約1.5〜2時間でCmaxに達する。経口と静脈内との間でのCmaxにおける濃度は約100倍の差異があった。静脈内または経口投与では、脳内分布は極少量または全くなかった。静脈内投与での心臓組織中では、投与後25分で濃度の急速な低下が見られ、約6時間目には基準値付近へ戻った。経口投与では、濃度の非常に急速な低下が見られ、25分以内に基準値まで戻った。静脈内と経口経路との間での最高濃度の差異は、心臓ではそれほど顕著ではなかった。肝臓/腎臓/睾丸/骨(静脈内投与)では、5分間で最高値、25分以内に化合物濃度の急速な低下、および投与後6時間で基準値への回復が観察された。経口投与では、濃度の急速な低下、および6時間以内での基準値付近への回復が見られた。
【0087】
静脈内投与での筋肉中では、5分間で最高値、そして他組織より遅い速度での投与濃度の低下が観察された。投与後6時間で基準値へ戻った。経口投与では多くの他組織より遅い速度での濃度低下が見られた。投与後6時間で基準値へ戻った。静脈内と経口経路投与との間での差異は少し又は無かったことに留意されたい。
【0088】
脂肪組織での静脈内投与では、5分間で最高値、25分以内で化合物濃度の急速な低下、および投与後6時間での基準値への回復が観察された。同様に、経口投与では濃度の急速な低下、および6時間以内での基準値付近への回復が観察された。
【0089】
CPT377化合物は、有効性が見込まれる、よく研究された一連のPTP1B阻害剤のうちの初期リード化合物である。糖尿病および肥満のモデルであるob/obマウス中での経口有効性は理にかなったものと見られる。CPT377を用いた古典的なラットの薬物動態学的研究結果は、前記化合物が最適よりは低い薬物動態学的プロファイルおよび低い生物学的利用能(<6%)を有していることが判明した。377の有効性と生物学的利用能との間の食い違いをさらに理解するため、および前記化合物が効果を提供するために十分なだけのインスリン感受性組織中の滞留時間を有しているかどうかを決定するために、低レベル化合物の分布プロファイルを解析する超高感度の方法が必要であった。CPT377は費用および時間を大幅に節約して研究室内で容易に14C標識でき、経口強制飼養または静脈内でマウスへ投与し、そして24時間に渡る様々な時点でサンプル採取を行った。AMS試験による組織分布プロファイルおよび生物学的利用能の決定は、有効性の便益を受け、急速な排出を避け、そして興味のある特異的な標的組織へ焦点を絞るための、代替的な化学的修飾に集中するために必要な情報を提供した。
【0090】
本実験は、小動物における薬物動態および分布を定量化するための、超高感度な検出基盤としてのAMSの有用性を示した。AMS解析方法は、特異的化学構造のためのクロマトグラフィーまたは質量分析の最適化を含む、追加的方法の開発を必要としない。このことは、解析リソースまたは方法が容易に入手できない場合、または初期の前臨床的特性解析が一連の類似化合物中の最も適切な候補物質選択の助けとなるであろう場合の、薬剤開発の初期段階において、AMSをよりさらに適切なものとする。このように、AMSを基盤としたプロトコルは、最小限の生物学的解析の負担および非常に優れた感度によって、開発初期の新薬の薬物動力学的およびADME特性の評価を許すものである。
【実施例2】
【0091】
この実施例は、赤血球中の14C−葉酸分布の定量化、より具体的には、ヒト被験者中での、1回の経口投与後の赤血球中の14C−葉酸の定量化および区画モデリングを示すものである。
【0092】
近年の質量分析および安定な同位体標識化合物の入手可能性の進歩によって、栄養物の動的追跡は、ヒト中での栄養物代謝の理解のための強力な道具となった。そういった研究で作成されるデータの質は、サンプル調製および解析に起因する制限に大きく影響される。加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)は、ヒトサンプル中の14C−標識のアトモル濃度での測定による、トレーサー動態研究への代替的アプローチを提供する。
【0093】
葉酸は、多くの疾患の病因において重要な役割を果たす。この関連性は、発生中の異なる段階に生じる複数器官の病理学を含む(Wadsworth,Canadian Journal Of Public Health−Revue Canadienne De Sante Publique 88:304〜304,1997)。このことは、それら病理学の多くの基礎をなす機構の同定を目指す研究者が直面する挑戦を増加させる。多くの生物学的過程は、葉酸の恒常性および代謝の協調に関連する。葉酸の均衡は、食事摂取などの環境要因にもまた、大きく影響される。遺伝子レベルで決定される生物学的制御(遺伝子型)と環境要因との間の相互作用が、生物の観察される状態(表現型)を生み出す。動態モデリングは、生物代謝の表現型の同定を可能にする。そして、観察される表現型に寄与する、遺伝的および/または環境的要因の決定が可能となる。このことは、葉酸関連疾患の病因同定および合理的治療法の開発を助ける。ヒトの生理学的状態下での葉酸動態をモデル化する、信頼性の高い方法は開発されていない。この実験では初めて、加速器質量分析器の極めて高い感度によってヒト男性健常者の葉酸動態のモデル化を可能とした。この機器は、科学者にとって生物医学的研究の道具として、および臨床医にとって診断の道具として有用となるであろう。
【0094】
加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)は今まで、環境、地質学的、および考古学的研究に用いられてきたにもかかわらず、生物医学的科学に適用されたのはごく最近のことである。動物およびヒトにおける毒物学的研究が、高分子と毒物との間の相互作用に新規な洞察をもたらした(Creek,Cancinogenesis 18:2421〜2427,1997;Kautiainen,Chemico−Biological Interactions 106:109〜121,1997;Turteltaub,Mutation Research−Fundamental and Molecular Mechanisms Of Mutagenesis 376:243〜252,1997;White,Chemico−Biological Interactions 106,149〜160,1997)。最近の研究では、40nCiの14C−トリオレイン摂取後、人が排出した呼気中の14COのフェムトモルでの定量化を公開した(Stenstrom,Appl.Radial.Isot.Apr.;47(4):417〜22,1996)。我々は、この実験に必要とされるサンプリング密度および定量的精度によって試みられた生物医学的AMS研究に気づいていない。それら実験プロトコルは、ヒト中の葉酸動態の現状の理解に基づいたものであった。データの数学的モデリングの助けとすべく、投与レベルおよびサンプリング計画などの重要なパラメータを計画した。
【0095】
この実験に用いた材料は、L−グルタミン酸[14C(U)](250mCi/mmol)(Moravek Biochemicals)、葉酸、5−メチルテトラヒドロ葉酸、フォリン酸標準品(Sigma)、アセトニトリルおよび水(OPTIMA grade from Fisher)を含む。プテロイル−[14C(U)]−グルタミン酸(葉酸)は、Planteの方法(Plante,Methods in Enzymology 66,533〜5,1980)に幾分の修正(Clifford,Adv.Exp.Med.Biol.445:239〜51,1998)を加えたものに従って合成した。濃度は、逆相HPLCによる分離後に、UV−VISスペクトロメトリーで測定した。放射能はシンチレーション計数で測定し、比活性度は1.24mCi/mmolで計算した。非標識のグルタミン酸による希釈のため、最終産物の比活性度は、14C−グルタミン酸の比活性度より低いものとなった。
【0096】
体重85kgの健康で実験に関して十分に説明を受けたボランティア男性が軽い朝食後、35μgの14C−葉酸(80nmol、比活性度1.24mCi/mmol)を含む50mLの水を飲むことで、14C−葉酸を投与した。容器に残留した薬剤は、約100mLの水ですすいで摂取した。全ての手段は、Institutional Review Boards at the University of California,Davis and Lawrence Livemore National Laboratoryによって承認された。AMS測定に必要な少量のサンプルのために、実験の最初の24時間に頻繁な採血を行った。葉酸吸収および分布の変動の大きい初期段階は、投与後10分間隔で〜8mLの採血によって決定した。サンプリング頻度は、1時間後には20分間隔、3時間後には30分間隔へ減少させた。最初の24時間に全部で24サンプルを採取した。続く200日間は週1回から月1回の間隔で〜24mLの採血を継続した。
【0097】
赤血球の分離は、経口投与前および投与後に、最初の週はカテーテルを通して、それ以降はベヌパンクチャー(venupuncture)による全血採取で行った。採血後1時間以内に3,500RPMで5分間の遠心分離により、全血から赤血球を分離した。血漿を除去し、軟膜(buffy−coat)を廃棄して、ほぼ当量の等張緩衝液(150mM塩化ナトリウム、10mMリン酸カリウム、pH7.2、0.05mM EDTA、2%アスコルビン酸塩)で4回、赤血球を洗浄した。AMSによる葉酸および炭素の測定のために、血漿および赤血球は−20℃で保存した。
【0098】
各サンプル(75〜100μL)中の総炭素濃度は個別のCostech tin capsules(カリフォルニア州Ventura)中で液体窒素上でのサンプル凍結により測定し、その後オーバーナイトで凍結乾燥した。それぞれのカプセルは次に、2番目のtin capsule中に設置し、ボールへ入れてCarlo−Erba carbon analyzer(Pella,1990)を用いて総炭素濃度を解析した。計算は、小数点第4位まで測定したサンプル重量に基づいて行った。
【0099】
被験者が定常状態にあるという証拠は、血中の炭素濃度、および尿および排泄物中の炭素損失によって提供された。各サンプルの炭素濃度の測定は、解析前の単純化したピペッティングおよびサンプルのパッケージングについて修正したプロトコルを用いて行った。以下の表3に示した結果は、200日間の実験期間中を通して炭素の恒常性が保たれていた証拠を提供する。
【0100】
【表3】

【0101】
AMS測定は前述(Davis,Nucl.Instrum.Methods B40/41.705〜708,1989;and Proctor,Nucl.Instrum.Methods B40/41.727〜730,1989)に従って実施した。簡略には、セシウム化した冷却黒鉛サンプル表面への約5keV Csイオンの衝突によってCイオンビームを生成する。Csビームによるサンプルのスパッタリングで生成したCビームは加速し、集中させて、質量14,および13amuビームへと質量分析した。
【0102】
それらビームは次に、質量分析器を通過するに従ってそれらのエネルギーを順次変化させることで段階的に高エネルギーへと加速して、1.5SDH−1 Pelletron acceleratorへ送達するための正確な軌跡に乗るようにする。エネルギー変換シーケンサーは毎秒約10回調節して、質量13ビームの10中約1パート、および質量14ビームの99.9%が加速器へ受け渡され、平均的に加速された状態に、ビーム負荷電流を非常に低く、および高エネルギーイオンもまた非常に低くすることでX線が直接的または間接的に生成されるように保つ。負イオンビームは、比較的高いアルゴンガス気圧の領域、ストリッパーカナル、へ到達するときに、エネルギー約500keVであり、1.5SDH−1 Pelletronの末端の高電圧に位置する。高速に移動する負イオンは電子を失い、ストリッパーカナルの通過時には大部分がCイオンとなる。AMS処理においてこれもまた重要なことに、CHおよびCHなどの負分子イオンは、アルゴンガスによってC+nおよびHイオンへと崩壊する。このことで、システム中で後に14イオンを計数する際に、分子イオンによって引き起こされるであろう干渉を排除する。
【0103】
正に1価で帯電したイオンは高圧端末からグラウンドへと加速されることで、追加的な0.5MeVを獲得し、トータルで約1MeVのエネルギーとなる。前記イオンは磁力で偏向されて、分析磁石によって90°に集中されることで、1314から分離されて、ファラデー箱で測定される。14イオン、および端末での分子崩壊に由来する少量の12および13イオンは、加速チューブ内のまさに正しい場所で荷電状態を変換されることで、90°磁石の周辺を送達されるために14イオンより十分に大きなそれらのエネルギーによって次に、90°球型静電分析器(electrostatic spherical analyzer:ESA)への通過を許可されて、そこでより速度の速い12および14イオンが偏向されて、14イオンビームの軌跡から離れる。ESAは、最終的なフォーカシングもまた提供し、14イオンは、それらを計数する固体検出器へと送達される。既知および未知のサンプルをスパッタリングして13Cの電流および14C数の記録によって、サンプル中に存在する14C量が高精度で決定される。
【0104】
14C−葉酸の用量は1.24mCi/mmolの比活性度を有していた。正確に441.4μLの合成調剤を、222,000DPM(5.028DPM/μL)の活性を有する用量に用いた。これは、100nCiの活性および80.6nmolの葉酸に相当する。この量(35.6μg)は葉酸に対する現行のRDAの1/6におおよそ相当する。
【0105】
投与量は〜150mLの水と混合して午前7:12に摂取した。最初の血液サンプルは10分後に採取し、それに続くサンプルは(投与量の摂取後)何日目として表記し、投与後の分単位で記録した。投与量の摂取前の24時間の尿サンプルを採取し、初日は摂取後6時間ごとに、そしてそれ以降は24時間ごとに採取した。全ての値は各採取の終点で表記した。投与前の糞便サンプルは投与量の摂取24時間前に採取した。各採取の時間を記録し、そのサンプルの値はその時点のものとして表記した。
【0106】
各サンプルのモダン値は加速器質量分析器によって3回測定して、その平均値を用いて14C−葉酸濃度を計算した。各サンプル中の14C−葉酸濃度の計算のために、モダン値、各サンプルの炭素濃度、および投与量の比活性度を用いた。葉酸分子の出所が決定されていないため、分子量の相違による異なる葉酸分子間の不明瞭性を排除するために、この値はモル量として表記した。同様の方法は、尿および排泄物中の14C−葉酸濃度の表記にも用いた。それらサンプルは、葉酸の異化生成物を含むが、しかし異化生成物1モルは正確に14C−葉酸1モルに由来したものであるため、濃度は14C−葉酸のモル数として表記した。14C−葉酸濃度を計算する方程式を以下に示す。
【0107】
【数12】

【0108】
赤血球14C−葉酸濃度はAMSで測定し、データはfmol14C−葉酸/グラム・ヘモグロビンとして表記した。この方法は、ヘモグロビン濃度に対して葉酸値を標準化することで、緩衝液中での洗浄後の細胞希釈の差異を排除する。最初の8日間および実験全体の期間に関するデータは、図7のうちそれぞれ上段および下段に示した。最初の24時間に採取したサンプルは、バックグラウンドより少し高い量の14Cを有していた。しかし、投与後36時間には、これがバックグラウンドまで戻り、3日目までは低いままの状態を保った。4日目以降に採取したサンプルは赤血球14C−葉酸濃度の急速な上昇を示し、19日目には最高値である1650fmol14C−葉酸/グラム・ヘモグロビンに達した。
【0109】
被験者のヘモグロビン濃度および血液総量の参照値を用いると、血液循環中のヘモグロビン総量は6.6g(13.3gヘモグロビン/dL、5L血液)と概算された。19日目の赤血球中の14C−葉酸総量は約10.9pmol14C−葉酸、またはボーラス投与の約0.014%であった。この値は、2.18fmol14C−葉酸/mL血液に相当し、AMSの検出限界を十分に上回る。
【0110】
図7は、投与後の最初の8日間(上)および200日間(下)の赤血球14C−葉酸濃度を示している。14C−葉酸の出現までの3日間の遅れは、成熟までの間の骨髄中での細胞への14C−葉酸の取り込みに必要な時間を表している。エラーバーは、AMSによる3回の14C測定の±1標準偏差を表している。
【0111】
葉酸は、C18固相抽出カートリッジおよび葉酸結合タンパク質−アフィニティークロマトグラフィーによって、血漿から抽出した。抽出した葉酸分子は逆相HPLCにおける292nmでの検出によって分離した。内在性の葉酸濃度は検出限界以下であるため、100μLの血漿からの葉酸は検出可能なシグナルを生成しなかった。HPLC条件下での回収のチェックおよび葉酸の保持を明らかにするために、抽出前に内部標準として葉酸標準品を血漿へ添加した。血漿中の葉酸は5−メチルテトラヒドロ葉酸(5−methltetrahydorfolate:5MTFA)の形であり、投与するのは葉酸(folic acid:FA)の形であるため、FAおよび5MTFAの標準品を添加した。葉酸標準品、抽出緩衝液、およびHPLC溶媒はAMSによって検査し、14Cのコンタミネーションが無いことを確認した。画分は毎分ごとに収集し、AMS測定前に凍結乾燥して炭素担体を添加した。
【0112】
図8は、14C−葉酸摂取の1時間後に採取した血漿サンプルのHPLC−AMSクロマトグラムを示している。吸収は292nm(実線)で測定し、14C濃度はAMSで測定してモダン(点線)として表した。初期の大きなピークは、酸化に対して保護するためにサンプルへ添加したアスコルビン酸によるものである。回収のチェックおよび葉酸の保持時間を明らかにするために、抽出前に葉酸(folic acid:FA)および5−メチルテトラヒドロ葉酸(5−methltetrahydorfolate:5MTFA)の標準品を血漿へ添加した。
【0113】
区画モデルは、身体を個々のプールへ分割することで身体区画間の移動率(transfer rates)を決定する。それらプールは、生物学的相関として実際の器官を正しく表現していたり、していなかったりする。前記モデルは図9に描写した単純な概略図に基づいて設計した。最も単純なモデルは、トレーサーのインプットおよび全ての排泄のアウトプットを伴う単純な身体プールから成る。投与したトレーサー量を知ることが肝心なことである。しかし、トレーサーの生物学的利用能は、実際に身体プールへ取り込まれたトレーサー量の定量化を複雑にする。図9は、トレーサーの摂取および損失を描写した単純なモデルを示している。
【0114】
この問題は伝統的に、2番目のトレーサーを静脈内投与して、生物学的利用能を決定し、適切な調整をすることで解決されてきた。この研究では、トレーサーの生物学的利用能を直接的に測定したため、そうした調整は必要なかった。トレーサーが一旦吸収されると、それは様々な組織へ分布して、最終的には身体から尿および排泄物中に排出された。もし、トレーサーが肺を通して失われた場合には、呼気もまた収集して排出経路として含めるべきである。皮膚もまた、一部の化合物に対しては排出経路となる可能性がある。この研究では、尿および排泄物を、身体からの主要な葉酸排出経路として考えた(Krumdieck,American Journal of Clinical Nutrition31:88〜93,1978)。
【0115】
血液は扱いが容易な身体内プールである。全血サンプルを頻繁に採取して、血漿および赤血球細胞へ分離すれば、それぞれが個別のプールに相当することになる。赤血球細胞は容易にサンプル採取可能な組織プールに相当する。ヒト中の葉酸分布に対するモデルの主要な構成要素は図10に示した。この概略図は葉酸代謝に関連する主要なプールを描写している。実線で示した全てのプール中のトレーサー量を測定した。点線で示した組織プールは、14C−葉酸濃度を測定しなかった唯一のプールである。区画モデリングでは、単純な差分によって、このプールへのトレーサー分布の決定が可能である。測定した区画は実線で示し、扱いが不可能な組織区画は点線で示した。
【0116】
一旦、モデルの主要な構成要素を決定して、生物学的に関連する構成要素を追加した。それら構成要素は、ヒトおよび動物中の葉酸代謝に関する現在の知見に基づいたものである。例えば、胃中の14C−葉酸は血漿へ入る前に腸の細胞を通過する必要がある。腸プールはこの過程を説明するために追加した。骨髄中で成熟する赤血球細胞は、血液循環中へ放出される前に葉酸を取り込む事が知られていた(Bills,Blood79:2273〜80,1992)。実験的に観察された必然的な遅延(Strumia,Medical Times96:1113〜24,1968)を提供するために、遅延要素(delay element)と共に骨髄を表す区画も追加した。赤血球細胞の葉酸動態は血液循環中での細胞寿命に支配されているため、この生物学的過程を提供するために遅延要素を追加した。消化管を物質が通過する24時間の経過時間もまた、モデルのこの箇所へ遅延要素を取り入れることを必然的なものとした。
【0117】
区画モデリングでは、区画間のトレーサーの流量に関する特定の仮定をした。最初、モデルは、flux(2,1)=k(2,1)q1として数学的に表される1次的過程によって全ての流量が規定され、ここで1は供給側プール、2は受容側プール、k(2,1)はプール間の移動係数、およびq1はトレーサー濃度であると仮定した。従って、流量はプール1の濃度変化に従って変化する。多くの場合、1次的過程が流量を規定するという仮定は妥当なものであるが、しかし、方程式はシステムの必要性に応じて変化する可能性がある。
【0118】
モデリングにおいて行ったもう1つの仮定は、トレーサーは研究対象の内在的化合物と同様に振る舞うというものである。同位体で標識した葉酸は、内在的ソースとトレーサーとの区別を可能とする。吸収、タンパク質結合、および酵素による代謝物への変換といった生物学的過程は、同位体標識によって影響されないという仮定も行った。この研究では、葉酸の14C−標識は、同位体としての効果が最小限または無いものと保証する。栄養物動態の以前のモデルでは、標識および非標識の栄養物の比率を、トレーサーの比活性度を導き出すために用いた。この値を次に、様々な区画間の栄養物動態をモデル化するために用いた。なぜなら比活性度はその区画でのトレーサー濃度の測定値であるからである。本研究では、14C−葉酸動態が葉酸動態を代表しているとの仮定に基づいて、区画モデルを作成するために14C−葉酸濃度のみを用いた。
【0119】
モデリングは身体区画をプールとして処理するため、血漿および赤血球細胞中の濃度データは、血液循環中の血漿容量およびヘモグロビン総グラム数の参照値を用いて、各プール中の14C−葉酸総量へと変換した。それら量は、尿および排泄物中へ排出された14C−葉酸の累積と同様に、モデル中のそれらに対応するプールと関連づけた。フェムトモル14C−葉酸の全ての値は、AMS測定の不確実性を表す0.025の画分標準偏差に割り当てた。
【0120】
各サンプルの採取時間は、ボーラス投与による摂取後の時間に変換した。胃区画はゼロ時間の時点で8.0×10fmol14C−葉酸のボーラス投与を受ける。結腸区画は、9.39×10fmol14C−葉酸に相当する、ボーラス投与によって吸収されなかった実験的測定分を受け取った。結腸から排泄物への移動は24時間の遅延要素を含んだ。骨髄から赤血球細胞への移動は100時間の遅延要素を含んだ一方で、分解による遅延は1時間であった。速いおよび遅い代謝回転プールから成る葉酸組織分布を表すために区画を追加した。速い代謝回転組織は、20時間の遅延要素を含んだ。モデルは、SAAMIIソフトウェアパッケージ(SAAM Institute,University of Washington)を用いて作成した。
【0121】
図11に示したモデルは、前に示した基本モデルの拡張である。ゼロ時間の時点で80nmolの全ての14C−葉酸ボーラス投与が胃区画へ入る。このうちの正確に9.39nmolの14C−葉酸は結腸区画へと失われ、ボーラス投与のうち吸収されなかった部分を表すことが、実験的に決定された。ボーラス投与の残りは、腸区画へと入る。このプールは、血漿へ受け渡す前に、吸収した葉酸を還元およびメチル化する腸細胞を表す(Whitehead,British Journal of Haematology 13:679〜86,1972)。
【0122】
血漿区画は、排出のために尿および結腸へ、貯蔵のために組織へと葉酸を分配する。速い代謝回転組織プールおよび遅い代謝回転プールの2区画が組織貯蔵を表す。赤血球細胞プールは骨髄区画を通してトレーサーを受け取り、この骨髄区画は血液循環中への放出前の成熟中の白血球への葉酸取り込みを表すために追加された(Bills,Blood 79:2273〜80,1992)。
【0123】
最初の係数は、最良の推定に基づいて各パラメータへ割り当てた。微分方程式は、ソフトウェアパッケージ中のアルゴリズムを用いて同時的に解決した。データが入手可能な4区画での予想値と実験値との間の誤差の2乗の合計を最小化するように、アルゴリズムは各反復ごとにそれら係数を調節した。移動係数は最終的に、実験的に決定した値を満足に予測するよう導出された。
【0124】
区画モデル中での流動を1次的過程によって決定するという初期の仮定は、赤血球細胞および尿プールへのトレーサー移動には適用できなかった。簡単には、14C−葉酸は赤血球細胞プールへ個々の脈拍ごとに取り込まれると仮定した。この仮定は、血漿から骨髄への移動係数、k(9,3)を24時間後にゼロにすることでモデルに取り入れた。このことで、最初の24時間で14C−葉酸は骨髄へ1次的過程で入るようになる。その期間中の移動係数0.030hr−1は、実験的に決定された14C−葉酸の赤血球細胞プールの流入を反映した、骨髄プールへの14C−葉酸摂取を許した。この規定を除外した場合には、赤血球細胞14C−葉酸データのモデルでの予測は不可能であった。
【0125】
赤血球細胞プールの流出は、血液循環中でのそれら細胞の寿命に支配されているため、区画モデリングにおいて、赤血球細胞プールは特別なケースを示した。葉酸が一旦このプールへ入ると、血液循環中から細胞そのものが除去されるまでの間は、ポリグルタメート化によって除去は不可能となる(Rothenberg,Blood 43:437〜43,1974;Ward,J.Nutr.120:476〜84,1990;Brown,Present knowledge in nutrition,6th edition,1990)。このことは、赤血球細胞プール中に14C−葉酸が約100日間存在することが、それら細胞の既知の寿命と非常に良く適合することから明らかであった。この過程は、赤血球細胞プールからの流出の移動係数を調節することで、モデルへ取り入れた。この移動係数は、4×10−5hr−1から、2300時間では0.00072hr−1へと変化した。
【0126】
古くなった赤血球細胞は、細胞を飲み込んで分解のために脾臓および肝臓へ戻す、マクロファージを介した過程によって、血液循環中から除去される(Rosse,Journal of Clinical Investigation 45:749〜57,1966)。分解プール、q10、がこの過程を表す。それら細胞中の14C−葉酸は再利用が可能であるにもかかわらず、赤血球細胞プール中の14C−葉酸総量はボーラス投与の内たった0.014%を表すのみであることから、行き止まりである分解プールへのそれらの除去はモデルに影響を及ぼさない。
【0127】
14C−葉酸の尿へのアウトプットは1次的過程に支配されなかった。実験的データは、42日間の期間において尿へのトレーサーの一定したアウトプットを示した。血漿14C−葉酸は最初の24時間は非常に動的であることから、尿プールへの流出は血漿濃度に依存しないのであろう。代謝産物または異化生成物としての14C−葉酸のアウトプットは、腎糸球体による選択的過程によって決定された。それらは、濃縮した14C−葉酸の勾配に逆らった動的輸送機構を含む(Das,Br.J.Haematol.19:203〜21,1970;Henderson,J.Membr.Biol.101:247〜58,1988;and Pristoupilova,Folia Haematol.Int.Mag.Klin.Morphol.Blutforsch 113:759〜65,1986)。従って、血漿から尿への14C−葉酸輸送を記述する1次的流出方程式を用いることは妥当ではない。その代わりに、尿中への14C−葉酸の累積的排出を記述する線形回帰モデルを、尿プールへの14C−葉酸流入の数学的モデル化に用いた。
【0128】
表4に示す移動係数は、様々なプール中の14C−葉酸量を首尾良く予測したものから導いたものである。
【0129】
図11は、ヒト・ボランティア中の葉酸動態の区画モデルを示している。区画は1〜11まで番号を付けてあり、移動係数はk(受容側、供給側)として示した。
【0130】
【表4】

【実施例3】
【0131】
この実施例は、癌治療に用いられる薬剤であるフルオロウラシル(fluorouracil:5FU)を示す。これは、代謝拮抗物質と呼ばれる薬剤のファミリーに属する。これは、ピリミジンの類似体である。約40年に渡って癌に対して用いられてきた5FUはいくつもの方法で働くが、しかし主に、チミン合成の主要な因子である酵素の働きを阻害するチミジル酸合成酵素阻害剤として働く。5FUの幾つかの主要な利用法は、結腸直腸癌および膵臓癌の治療であり、それは何十年もの間、化学療法の確立した形式として用いられてきた。ピリミジン類似体であることから、5FUは細胞内で異なる細胞毒性代謝産物へと変換され、次にDNAおよびRNAへ取り込まれ、最終的には細胞のDNA合成能を阻害することによって細胞周期の休止およびアポトーシスを誘導する。カペシタビンは、組織中で5FUへ変換されるプロドラッグである。それは経口投与が可能である。
【0132】
パクリタキセル(Paclitaxel:PAC)は癌化学療法に用いる細胞分裂抑制剤である。PACは現在、肺、卵巣、乳癌、頭頸部癌、および進行型のカポジ肉腫の患者の治療に用いられている。PACは、細胞分裂中に正常な微小管形成を阻害し、細胞骨格を柔軟に用いる細胞能力を破壊することで働く。具体的には、PACはチューブリンのベータ・サブユニットに結合する。正常細胞もまた悪影響を受けるが、しかし癌細胞のほうが正常細胞より速く分裂するため、それらのほうがPAC治療に対してより感受性が高い。
【0133】
ヒト固形腫瘍細胞株での幾つかのインビトロ試験では、PACおよび5FUのポジティブでスケジュール依存的な相互作用が示された(Kano et al.,Br.J.Cancer 1996,74:704〜710;Smorenburg et al.,Eur.J.Cancer 2001,37:2310〜2323;Johnson et al.,Anticancer Research 2002,22:3197〜3204)。PACに続いて代謝拮抗物質で腫瘍細胞を曝露した場合のみに、相乗的効果が得られた。逆に、2つの薬剤による同時曝露、または5FUによる前治療では、PACのみの場合と比較して全体の細胞殺傷が減少した。
【0134】
PACの大きな分子量およびかさばる化学構造は腹膜クリアランスを遅らせ、腹膜腔内での曝露を増加させるため、胃癌の治療にも利用可能である。さらに、PACは5FUとは異なる機構を通じて細胞毒性効果を発揮するため、5FUとの交差耐性を示さない。腫瘍細胞株中では、特に順次的な曝露の場合に、PACおよび5FUの組合せの追加的な細胞毒性が示されている。
【0135】
固形腫瘍の治療には、最近、単独または組合せで、多くの新薬が導入されている。PACは胃癌治療、特に進行型および難治性の腹膜播種の患者に有望な、新しく開発された抗癌剤の1つである。多数の臨床試験がPAC単独での有効性を試したものの、奏功率は約25%で、それら多くの報告では延命効果は示されなかった。従って、幾つかのグループが、PACと他の化学療法剤との幾つかの新たな併用レジメンを試す臨床試験を開始した。Cascinu et al.は、既存の投薬計画(5FU、ロイコボリン、シスプラチン、エピドキソルビシン)では難治性の進行性胃癌の患者への、毎週の5FUに3週間ごとのPACを加えたフェーズ1試験を報告した。Bokemeyer et al.は、毎週の5FU/ロイコボリンに3週間ごとのPACを加えたフェーズ2試験を実施し、進行性胃癌に対する32%の奏功率を示した。以前の研究が提供した前途有望な証拠にもかかわらず、毎週のPAC投与と他の化学療法剤との組合せを研究する、より多くのフェーズ1試験の必要性が残されている。
【0136】
薬理学的データは、60と90mg/m2との間の毎週のPAC投与は、1時間以上にわたる投与後、少なくとも24時間、PACの血漿中レベルを0.01mmol/l以上に保ち、90mg/m2のAUCは、105mg/m2の3時間以上にわたる投与で見られるものと同等であることを示した。0.01mmol/l程度での、低濃度のPACによる長期の曝露は、幾つかの異なる細胞株でアポトーシスを誘導することが示されている。結果は、血液学的および肝臓の毒性からさらなる用量の上昇は限定されるが、一定用量で5日間の5FU注入と共に、PAC用量を90mg/m2/週まで安全に上昇可能であることを示した。全体的には、この投薬計画は8週間までは十分に許容され、中程度の毒性効果を伴う。この投薬計画でのPACと5FUとの組合せのMTDは各4週間のうち3週間に対して1週間当たり90mg/m2であるものの、将来的なフェイズ2試験に推奨される用量は1段階低いものである。
【0137】
6〜7週齢の雌無胸腺ヌードマウスをTaconic Laboratories(ニュージャージー州Germantown)から入手した。マウスはマイクロアイソレーターハウジングで飼育し、餌および水は随意に提供し、実験開始前に4日間隔離した。この実験では、HT−29ヒト結腸癌細胞株を使用した(American Type Culture Collection)。それぞれ10%ウシ胎仔血清を添加したDMEMおよびマッコイ5A培地で、HT−29細胞を培養した。全ての細胞は、摂氏37度で、95%空気/5%COおよび湿度100%で培養した。細胞には3日ごとに栄養を与え、1週間ごとに継代した。細胞が80%コンフルエントに達したら、それらを0.25%トリプシン/EDTA溶液を用いて採取した。採取した細胞はリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline:PBS)で1度洗浄し、1×10細胞/100μlの密度でPBS中に再懸濁した。それぞれのマウスの右側に、100μlの細胞懸濁液を皮下注射した。
【0138】
動物に癌細胞を移植した後、それらを癌細胞の増殖に関して毎日観察した。腫瘍が約100mmに達したならば、マウスを均等に3グループへ分割して、14C−PAC、14C−5−フルオロウラシル、または両方を静脈内投与した。50%クレモフォール(登録商標)EL、50%無水エタノール溶液へPACを溶解し、5%D−グルコースで希釈して静脈内投与用に調製した。フルオロウラシルは水へ溶解し、5%D−グルコースで希釈して静脈内投与用に調製した。単一の薬剤を与える動物へは5nCiの放射線標識を投与し、混合物グループには総量で10nCiを与えた。単一薬剤グループでは20マイクロリットル中、混合物グループでは40マイクロリットル中で、投与用量は5mg/kg体重までとした。
【0139】
投与後0.5、2、または4時間後にマウスをサクリファイスし、血漿および臓器サンプルを速やかに採取して、分析研究室へ移送するまで凍結貯蔵した。組織を個々のディスポーザブルホモジナイザー(disposable tissue grinders)(Fisher)へ設置し、水を添加して(2:1v/w)、均一なスラリーを形成するまで2分間ホモジナイズした。メタノールをホモジネートへ添加(3:1メタノール/ホモジネート、v/v)して、30秒間攪拌した。次にチューブを2,000gで10分間遠心分離し、上清をさらなる分析のために除去した。ペレットは抽出されなかった放射線標識シグナルのさらなる分析のために保持しておいた。
【0140】
真空遠心分離機を用いて約2時間かけて組織抽出物(300μL)を乾燥させ、移動相A(25mMリン酸アンモニウム、pH6.08)中に再懸濁した。UVトレースでのPACおよび5FUの保持時間を明らかにするために、PACおよび5FUの非標識の参照標準をこの溶液へ注入した。混合物をLunaフェニルヘキシルC18カラム(Phenomenex)へ注入する場合、粒子サイズ5μm、4.60mm×250mm、50〜100μLの間とした。クロマトグラフィーシステムは、自動サンプラー、UV検出器、および画分収集器が備わったShimadzu Prominence HPLCから成るものとした。勾配システムは、移動相A(25mMリン酸アンモニウム、pH6.08)および移動相B(100%アセトニトリル)から成るものを用いた。ユニットのプログラムは、0〜3分間は0%移動相Bを移動させ、19分目までに90%移動相Bまで引き上げ、フローレート1.0mL/分でクロマトグラムが終了するまで90%移動相Bで保った。クロマトグラム中を通して、個々の画分は1分間間隔で収集した。画分中の放射性標識の定量化には加速器質量分析器(accelerator mass spectrometry:AMS)を用いた。
【0141】
図12は、異なる抽出溶媒を用いて組織ホモジネートからの、注入した5FUおよびPACの回収を示している。フリーの5FU(取り込まれていないもの)およびPACの完全な回収は、100%メタノールを用いて、溶媒体積3に対して組織ホモジネート体積1の比率で得られた。図13は、マウス組織ホモジネート抽出物中の5FUおよびPACの分離のクロマトグラムを示している。5FUおよびPACのピークは、分離前に実験サンプルへ注入した非標識の参照標準を表しており、投与濃度ではUVシグナルを発生しない標識5FUおよびPACの保持時間を明らかにするためのものである。5FUおよびPACの周辺の1分間分の画分を採取して、放射性標識の定量化のためにAMSでさらに分析した。5FUの周辺のピークはマウスの内在性化合物を表しており、それらは放射性標識されていないため、これ以降のAMSによる5FUのAMS定量化には干渉しない。
【0142】
図14は、5FU、PAC、または5FUおよびPAC両方の混合物を投与後2時間のマウスの、血漿、ヒトHT−29結腸癌細胞株の腫瘍異種移植片、および正常肺組織中の放射線標識の総シグナルを示している。5FUを与えたマウスの血漿総シグナル(DPM/mL血漿)は、PACを与えたグループのものと同程度である。このことは期待通りであり、なぜならば各グループは5nCiの投与を受けており、血漿中半減期はPACが0.34時間、5FUでは0.25〜0.30時間であることが立証されているからである。5FUおよびPACを混合物(トータルで10nCi)中で同時に投与した場合、血漿中の総シグナルはほぼ20倍にまで増加しており、このことは2つの薬剤間の相乗的効果を強く示唆するものである。他の研究者もまた、特定の細胞株でのこの相加的作用を確認しており(Kano,British Journal of Cancer74(5):704〜10,1996)、臨床試験での組合せによる治療法を採用していることから、PACの改良された薬理学的プロフィールを示している(Kondo,Japanese Journal of Clinical Oncology,35(6)332〜337,2005)。この実施例でのマウスの腫瘍および正常肺組織(総DPM/mL抽出物)もまた、この相加的作用を示している。この場合、5FUおよびPACを混合物として投与した場合には総シグナルの約10倍の増加が見られた。特に、メタノール抽出手段はPACおよび取り込まれていないフリーの5FUプールを回収するよう設計してある。RNAおよびDNAに取り込まれた5FUはペレット中で回収され、別に測定した。これらの図の結果は、矛盾無く、5FUの低いシグナルを示しており、RNAおよびDNA画分への5FUのほぼ完全な取り込みを表している。
【0143】
各サンプル型中のシグナル源をさらに調べるために、5FUをPACから分離するのに高速液体クロマトグラフィーを利用して、加速器質量分析器による定量化を続いて行った。図15は、5FU、PAC、または両方を混合物としてマウスへ静脈内投与した2時間後の、腫瘍、正常肺組織、および血漿中の5FUおよびPACの量を示している。再度、取り込まれていないフリーの5FUプールのクロマトグラフィーデータ取得には、組織ホモジネートのメタノール抽出を用いた。定量限界は点線で示しており、これは処理中に各サンプルへ添加した担体炭素のバックグラウンドシグナルに基づいて計算したものである。PAC処理グループは、腫瘍、肺、および血漿中にPACに相当するシグナルを示しているが、しかし5FUに相当するものはない。5FU処理グループは、血漿中に5FUに相当するが、しかしPACには相当しないシグナルを示している。組織ホモジネートのメタノール抽出物中にはフリーの5FUは検出されず、このことは、フリーの5FUのRNAおよびDNAへのほぼ完全な取り込みを表しており、それらはメタノール抽出物の遠心分離後のペレット中で回収された。ペレット画分中の放射線標識の総量定量化によって、5FU処理した動物中の腫瘍および肺組織中からそれぞれ約1.103DPMおよび0.914DPMのシグナルが得られた。これは、PAC処理した動物からメタノール抽出した画分中の腫瘍および肺組織の、それぞれ0.468DPMおよび0.927DPMに対照するものである。さらに、5FUがフリーの状態でのみ存在することが期待される血漿中では、5FUまたは混合物を投与したマウスのメタノール抽出物中で、5FUが明瞭に検出された。組織ホモジネートの、溶媒をベースとした上清およびペレットへの分画は、組織中への5FU分布の追跡を許すのみならず、DNAおよびRNAに取り込まれたプールからのフリーの5FUプールの区別能力もまた提供した。
【0144】
図16は、5FUまたはPACいずれかによる処理後の腫瘍および肺組織抽出物中の5FUおよびPACのクロマトグラフィー分離および定量化を示している。5FUを1.0DPM以下だけ注入した後、ここでも再度、前述のように組織抽出物へクロマトグラフィーを実施した。図はPACに対して標準化しており、5FUの注入後に期待される5FUシグナルの増加を示しており、この実施例において強力なクロマトグラフィー方法を開発したことを強調している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別治療を決定する方法であって、
(a)期待される治療量の少なくとも半分以下の用量で、2若しくはそれ以上の異なる薬剤を有する試験混合物を被験者に投与する工程と、
(b)試験のために、関連する病変組織の生検サンプルを採取する工程と、
(c)前記投与したそれぞれの薬剤およびそれらの代謝産物に対する生検サンプルを解析する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1記載の個別治療を決定する方法において、前記試験混合物の用量はトレーサー量であり、トレーサー量は治療量の10%以下である。
【請求項3】
請求項1記載の個別治療を決定する方法において、前記解析する工程は、加速器質量分析(accelerator mass spectrometry:AMS)装置を用いて実施されるものである。
【請求項4】
請求項1記載の個別治療を決定する方法において、この方法は、さらに、
前記試験混合物の組織分布を許すために、前記試験混合物を投与する工程から約10分〜約2時間後までの間、休止する工程を有するものである。
【請求項5】
請求項1記載の個別治療を決定する方法において、前記生検サンプルは、摘出した腫瘍組織、血液、血液画分、単離した病原体感染組織、およびそれらの組合せからなる群から選択される組織片である。
【請求項6】
請求項5記載の個別治療を決定する方法において、前記生検サンプルが血液である場合、前記血液サンプルは赤血球および白血球の各タイプに分画されるものである。
【請求項7】
請求項1記載の個別治療を決定する方法において、前記方法は、さらに、
前記サンプルを構成細胞型に分類することによって前記生検サンプルを分画する工程を有するものである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−510495(P2010−510495A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537402(P2009−537402)
【出願日】平成19年11月17日(2007.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2007/085033
【国際公開番号】WO2008/064138
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(509139025)
【Fターム(参考)】