説明

個別粒子を生成する方法及び機器

【課題】個別粒子を生成し、その個別粒子を後続の分析(例えば質量分析)または操作のために標的位置に送達する方法及び機器を提供すること。
【解決手段】個別粒子を生成する粒子生成器は、前記個別粒子として検体及び溶媒を含む個別液滴を生成する液滴生成器である。浮揚装置は、前記個別粒子を電気力学的に浮揚させる。液滴の脱溶媒が生じ、液滴のクーロン分裂が起こって、より小さい液滴になる。電極アセンブリは、後続の分析または操作のために、前記浮揚装置から離間した標的位置に向けて、前記浮揚装置から前記個別粒子を送達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、2000年10月23日出願の米国仮出願第60/242058号の特典を主張する。
(技術分野)
本発明は、個別粒子(a discrete particle)たとえば質量分析分野で利用する個別粒子の生成に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
質量分析法は、個別分子の質量を測定する技術であり、貴重な化学的情報を提供する。質量分析装置は、電磁場を使用して真空中で荷電粒子(イオン)に力を働かせることによって動作する。混合物を質量分析装置で分析するためには、それを帯電(イオン化)して、そのイオンを気相状態で質量分析装置の真空部に導入しなければならない。タンパク質、ペプチドならびにDNA鎖及びRNA鎖などの生物由来の大型分子をイオン化するのは難しいことが過去に実証されている。というのは、これらの分子は、事実上蒸気圧がゼロであり、不安定であるからである。しばらくの間、質量分析法を大きく推進してきたのは、こうした大型生体分子用のイオン化源の開発であった。
【0003】
ゲノム・マッピングの出現により、現在、多くの研究は、細胞が個々にそして組織または大型の生物の構成要素としてどのように機能するか理解することに集中している。こうした情報が、ある種の病気を制御、撲滅し、損傷を受けた人体部分を修復するために役立つことが期待されている。細胞内で発現したタンパク質の特徴づけと測定が細胞機能の理解を向上させると考えられている。ただし、タンパク質測定における挑戦課題はその感度である。というのは、どの細胞内にも、約100,000のまったく異なるタンパク質があると推定されるからである。どの細胞内にも、タンパク質が1個か2個しかないこともあるし、数百あるいはそれ以上存在することもある。現在、タンパク質の発現レベルを研究する唯一の方法は、細胞の集団、一般には百万個以上の細胞を分離し、その細胞の集団から分離したタンパク質に対して分析を行うことである。しかし、こうした状況においてさえ、一般に、低レベルで発現したタンパク質は、その数が検出レベル未満であるため同定されない。
【0004】
エレクトロスプレー・イオン化法(ESI)及びマトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)の2つの技術が大型の生体分子をイオン化するために開発された。
ESIは脱溶媒(desolvation)の方法であり、低い直流電位に維持される対向電極から離れたところにある金属製のキャピラリ・ニードルに高い直流電位がかけられる。その電界により、(溶液中の検体を含む)液体がキャピラリから出て、何百万という帯電した液滴からなる微細なスプレーに分散する。このエアロゾル中の液滴は、電界と同じ極性の実効電荷をもつ。液滴から溶媒が蒸発するにつれ、液滴のサイズが減少し、液滴表面上の電荷密度が増加する。最終的に、クーロン斥力が液滴の表面張力に打ち勝ったとき、「クーロン爆発」が起こる。その結果、液滴の爆発が起こり、帯電量が少なくより小さい一連の液滴が形成される。個々に帯電した検体イオンが形成されるまで、縮小し爆発するこの工程が繰り返される。乾燥ガス流を、このスプレー・イオン流に向流して導入することによって、溶媒蒸発速度を増加させることが可能である。この乾燥ガスとして窒素がよく使用される。
【0005】
液滴から溶媒が蒸発すると、クーロン分裂と溶媒蒸発を繰り返す工程により、最終的に、液滴中の検体分子(たとえば生体分子)上に実効電荷が被着する。たとえば、複数の陽子が付加したこの生体分子は、大気圧で液滴から脱離する。これらのイオンのうちのわずかな部分がオリフィスを通過して、質量分析装置の真空部に至り、分析にかけられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ESI法の欠点は、サンプル材料のうちわずかな量(0.01%またはそれ以下)しか利用されないことである。キャピラリから出た材料の大部分が行きつく先は、対向電極またはサンプリング・オリフィスがあるプレート上である。この理由は、液体溶液を液滴に分散させる電界が有害な空間電荷効果を引き起こす原因にもなるからである。空間電荷効果が生じるのは、各液滴と、エアロゾル噴霧中に得られるイオンがすべて、同じ極性の実効電荷をもつためであり、これらの液滴/イオンは、静電反発力のために互いに反発し合うことになる。これにより、キャピラリの先端部を出る液滴のスプレーがキャピラリの先端部を頂点とする円錐形に広がる。したがって、全体的なサンプル利用効率は、従来型ESI法では低くなる。というのは、大気圧下の液滴/イオンを収束させて、サンプリング・オリフィスを通すのは極めて難しいからである。生体分子に関してしばしばそうであるが、少量の検体しか分析に利用できない場合、ESIの有効性が制限される。
【0007】
MALDIは、通常は液体のサンプルを、平らなプレート上またはプレート内に形成した凹部ウエル内に被着(deposit)させるものである。1つまたは複数の混合物からなるマトリックスも使用する。このマトリックスは、固体または液体である。サンプル材料をマトリックスの上下いずれかに層として被着させてもよく、マトリックスと均質に混合してもよい。一般に、マトリックス分子は、出発溶液内に、検体分子の約1000倍の濃度で存在する。被着後、このプレートをパルス・レーザビームに曝露する。マトリックスはレーザからエネルギーを吸収し、それによる急激な振動励起及び色素の脱離が生じる。マトリックス分子は蒸散し、脱離した検体分子を、陽子またはアルカリ金属イオンで陽イオン化することが可能である。イオン化した検体分子を、「TOF」(飛行時間)型分析器を使用して分析してもよい。このような場合、この技術全体を、しばしば「MALDI−TOF−MS」(マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析法)と称する。
【0008】
MALDIでは、小さいサンプル・スポットが比較的高い感度をもたらす。MALDIの現在の基本的な限界は1平方ミクロン当たり5分子であり、わずか直径1〜5ミクロンのサンプル・スポットを作り出す方法を提供することによりMALDIの検出限界をより低くすることが、ケラー、ビー オー(Keller,B.O.)とリ、エル(Li,L.)のJ.Am.Soc.Mass Spectrum.2001年、第12巻、1055〜1063ページで提案されている。より小さい液滴を形成するためにより小さいサイズのキャピラリを使用して、これを実施してもよい。しかし、指摘されているように、ピコリットルの体積を取り扱うことは、比較的内径が小さいキャピラリでは問題になる。というのは、表面積対体積比が大きいほど表面張力が大きくなるからである。
【0009】
したがって、個別粒子からイオン源を生成する、質量分析に適した方法及び機器の必要がある。生体分子などの検体をMALDI質量分析用のプレート上に被着させる改善された技術の必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
本発明の一態様によれば、後続の分析または操作のための個別粒子を生成する機器が開示される。この機器は、個別粒子を生成する粒子生成器、実効電荷を個別粒子上に誘導する誘導電極、及び実効電荷の誘導後に個別粒子を電気力学的に浮揚させる浮揚装置からなる。
【0011】
一実施形態では、この浮揚装置は、1対の独立した浮揚電極からなる電気力学的平衡部である。この浮揚電極は、互いに平行な平面内にある1対の第1リング電極を含み得る。この第1リング電極両端間で電圧差を維持することが好ましい。たとえば、第1リング電極両端間の電圧は約20Vとしてもよい。電気力学的平衡部は、可変周波数で動作可能とすることができる。対流電流を最小限に抑えるために、この浮揚装置をほぼチャンバ内に収納してもよい。
【0012】
この機器は、浮揚装置から離間した標的位置に、浮揚装置から個別粒子を送達する電極アセンブリも含み得る。この離れた標的位置は、たとえば、大気圧ガス・サンプリング質量分析装置の真空チャンバと連通するオリフィスである。あるいは、粒子を被着させる基板、たとえばマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析に適したプレートである。
【0013】
電極アセンブリは、浮揚装置の一部を形成することも可能であり、機器の別の構成要素を構成することも可能である。本発明の一態様では、電極アセンブリは、大気圧で動作可能であり、粒子生成器と浮揚装置の間に配置された第1プレート電極、及び浮揚装置とオリフィスの間に配置された第2プレート電極からなる。
【0014】
第1プレート電極及び第2プレート電極の各々は個別粒子がそこを通過することが可能に形成された開口を有する。
本発明の別の態様では、浮揚装置をオリフィスの近傍に配置し、浮揚装置は電極アセンブリを含む。
本発明の別の態様では、電極アセンブリは、浮揚装置とオリフィスの間に配設した4重極の電極アセンブリを含むことが可能である。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、電極アセンブリは、浮揚装置とオリフィスの間の互いに平行な面内に配設された、互いに分離された複数の第2リング電極からなる積層体を含むことが可能である。第2リング電極は、浮揚装置からオリフィスに向かう方向に径を徐々に小さくすることが可能である。たとえば、それぞれ互いに約3mm離間して配置した4つの独立した第2リング電極を設けることが可能である。
【0016】
当業者には理解されるように、離れた標的位置が質量分析装置の真空チャンバと連通するオリフィス以外のもの、たとえば、MALDIプレートまたは個別粒子の被着に適した他のなんらかの基板である場合にも、本明細書で説明する様々な電極アセンブリを使用することが可能である。
【0017】
誘導電極を粒子生成器の近傍に配置し、粒子生成器で粒子が生成される際に実効電荷が粒子内に誘導されることが好ましい。本発明の一実施形態では、粒子生成器を、検体及び溶媒を含む個別粒子を生成する液滴生成器とする。液滴生成器は、個別液滴がその中を通って供給される中空で平らな先端を有するノズルを備えることができる。液滴が少なくとも部分的に脱溶媒するのに十分な期間、浮揚装置内で液滴を浮揚させ、それによって質量分析用のイオン源をもたらす。
【0018】
上述したように、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析に適したプレート上に個別粒子を被着させることが可能である。このプレートは、粒子を受け取る材料、たとえばプレート上に塗布したマトリックスからなることが好ましい。粒子生成器で生成した粒子は、被着工程中にこのプレート上に被着させるマトリックス材料を含むことも可能である。本発明の一実施形態では、このプレートは、少なくとも1つの凹部ウエルからなる。各ウエルにテスト・サンプル、たとえばプレート上に被着させた1つ(または複数)の個別粒子に潜在的に反応する生物学的または化学的材料をあらかじめ装入することが可能である。
【0019】
本出願人の機器は、MALDIプレートなどの基板を支持する並進ステージを含んでもよい。この並進ステージは、浮揚装置に対して相対的に、制御可能に移動可能である。
本発明の別の実施形態では、本出願人の機器は、個別粒子を生成する粒子生成器及びその個別粒子を浮揚させる浮揚装置を備えることが可能で、この機器によって、個別粒子が浮揚装置から離間した標的位置に送達される。電極アセンブリを使用して、浮揚装置から、上述した遠隔標的位置に粒子を送達することが可能である。別の実施形態では、調節可能な焦点を有するレーザを使用することも可能である。この実施形態では、レーザによって、浮揚装置から標的位置に粒子を送達する。
【0020】
本発明の別の実施形態では、イオン源を質量分析装置の真空チャンバに送達する機器が開示される。この機器は、溶媒を含む単一の孤立した液滴を生成する液滴生成器と、実効電荷を液滴上に加える誘導電極と、液滴が脱溶媒し不安定になるのに十分な期間、液滴を浮揚させ、それによって液滴のクーロン分裂によりイオンを放出させる浮揚装置と、真空チャンバに連通するオリフィスと、浮揚装置からオリフィスにイオンを送達する電極アセンブリとを含む。
【0021】
本出願人の発明は、真空チャンバ、真空チャンバを通るイオンの通過を検出する検出器、個別粒子を生成する粒子生成器、粒子をイオン化する誘導電極、イオン化の後で電気力学的に個別粒子を浮揚させる浮揚装置、真空チャンバと連通するオリフィス、及びイオン化した粒子を浮揚装置からオリフィスに送達する手段を備える質量分析装置も含む。
【0022】
後続の分析または操作のための個別粒子を生成する方法も開示する。この方法は、(a)個別粒子を生成する工程と、(b)実効電荷を個別粒子上に誘導する工程と、(c)実効電荷の誘導後、電気力学的に個別粒子を浮揚させる工程とを含む。一実施形態では、工程(c)を大気圧で実施する。この方法は、浮揚装置から離間した標的位置に、浮揚装置から個別粒子を送達する工程も含む。たとえば、個別粒子を、大気圧ガス・サンプリング質量分析装置またはMALDIプレートなどの離れた基板に送達することが可能である。マトリックスなどの粒子を受け取る材料をそのプレートに塗布してもよい。粒子自体がマトリックス材料を含んでもよい。この方法は、たとえば粒子の被着セッション中に、浮揚装置に対して相対的に基板を移動する工程も含む。
【0023】
上述したように、検体及び溶媒を含む個別液滴を個別粒子とすることが可能である。この場合、本出願人の方法は、個別液滴が少なくとも部分的に脱溶媒するのに十分な期間、電気力学的に液滴を浮揚させる工程を含む。
粒子が生成される際に実効電荷を誘導することが好ましい。その粒子を、電気力学的平衡部両端間に定電圧差を印加することによって浮揚させることが可能である。1変形形態では、個別粒子が浮揚している間にガスを当てて、溶媒の蒸発速度を制御することが可能である。
【0024】
後続の分析のために粒子を副粒子群に分離する方法も開示する。この方法は、(a)副粒子群を含む個別粒子を生成する工程と、(b)粒子上に実効電荷を誘導する工程と、(c)粒子を電気力学的に浮揚させる工程と、(d)粒子から副粒子群を分離する工程と、(e)後続の分析のために副粒子群を順次標的位置に送達する工程とを含む。
【0025】
別の実施形態では、本出願人の方法は、(a)個別粒子を生成する工程と、(b)個別粒子を浮揚させる工程と、(c)個別粒子を標的位置に送達する工程とを含む。この方法では、個別粒子をレーザビーム中で捕捉し、レーザの焦点を調節することによって、工程(c)を実施してもよい。上述したように、個別粒子を、電気力学的に浮揚させてもよい。
(a)個別粒子を生成する工程と、(b)個別粒子をイオン化する工程と、(c)イオン化した個別粒子を電気力学的に浮揚させる工程と、(d)イオン化した個別粒子を大気圧ガス・サンプリング質量分析装置の真空チャンバに送達する工程と、(e)真空チャンバ中のイオン化した個別粒子の通過を検出する工程とを含む質量分析法も開示する。
【0026】
本発明の別の態様には、(a)複数の個別粒子を生成する工程と、(b)複数の個別粒子を浮揚させる工程と、(c)複数の個別粒子が浮揚している間に、複数の個別粒子を操作して、互いに反応させる工程とを含む、ある反応を実施する方法がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明をより完全に理解するために、下記の記載全体に特定の詳細を示す。しかし、本発明は特定の詳細以外に実施してもよい。他の例では、本発明が不必要に不明瞭になるのを避けるために周知の要素を示さず、あるいは詳細に説明していない。したがって、明細書及び図面は、限定的なものではなく、例示的なものとみなすべきである。
【0028】
図1は従来技術によるESI構成を示す概略図である。このESI構成10では、直流電圧を印加した金属キャピラリ12を、より低い直流電位に保持した対向電極14から離して配置する。プレート16を対向電極14の後ろに配置する。プレート16はイオン化した検体分子が通過可能に形成されたオリフィス18を有する。サンプリング・オリフィス18の右側には、第1及び第2の差圧真空段がある。プレート16とスキマー19の間の領域を、第1の圧力に保持し、スキマー19の右側にある主真空チャンバ内の圧力は、より低い圧力に保持する。イオン化した分子は、質量対電荷比分析器20中を通過し、検出器22によって検出される。このESI構成10では、キャピラリ12から出る液体は分散し、液滴26からなる微細なスプレー24になる。クーロン分裂及び溶媒蒸発の循環工程により、最終的に、液滴中の検体分子上に実効電荷が蓄積することになる。遺憾ながら、このESI構成10では、このサンプルの大部分が無駄になる。というのは、すべて同じ極性の実効電荷をもつ液滴26同士が反発し合い、その結果、対向電極14中の開口28及び真空部に至るオリフィス18よりも何倍も大きい面積に広がるスプレー24になるからである。したがって、従来型ESI構成10では、全体的なサンプル利用効率は低い。
【0029】
ESIの場合のように、空間電荷効果に影響されやすい液滴を毎秒何百万個も生成する代わりに、本発明は個別粒子の生成に基づいている。本明細書では、「粒子」という言葉は、固体要素、液滴、単一分子または(1つまたは複数の細胞を含む)クラスター分子を含む。したがって、粒子は、1つまたは複数の副粒子を含んでもよい。説明の都合上、本明細書で論じる「粒子」を、検体(たとえば生体分子)及び溶媒を含む孤立した単一の液滴とする。粒子が生成される際に、実効電荷をこの粒子上に帯電させる。本明細書では、「イオン」という用語は、実効電荷をもつ粒子を意味する。
【0030】
個別粒子は、浮揚装置に送達される。個別粒子の送達は、たとえば、個別粒子の生成に使用する粒子生成器によって行われる。たとえば、粒子生成器が液滴生成器の場合、液滴生成器内で(適当な背圧を伴って)圧電性結晶に電気パルスを加えることにより、浮揚装置に移動するのに十分な速度をもつ孤立した液滴が放出される。あるいは、粒子を浮揚装置に送達する他の適当な手段、たとえばガス流を使用することも可能である。
【0031】
個別粒子は浮揚装置によって電気力学的に浮揚される。本明細書では、「浮揚した」という用語は、粒子が浮かぶことを意味する。粒子が浮揚する期間は、個々の状況に応じて変えることが可能である。次いで、粒子は、離れた標的位置に浮揚装置から送達される。本明細書では、標的位置が浮揚装置の中心またはゼロ位置から空間的に、分離量は小さくてもよいがいくらか分離しているという意味で、標的位置は浮揚装置から「離れて」いる。本発明の一態様では、標的位置は、大気圧ガス(及びイオン)サンプリング質量分析装置の真空部に至る(すなわち連通する)オリフィスである。本発明の別の態様では、標的位置は、プレート上に粒子を被着した後でMALDI質量分析にかけられるプレートである。個別粒子は、電極アセンブリによって標的位置に送達することが可能である。個別粒子が液滴の場合、クーロン分裂により液滴(「親」液滴と称する)から失われた実効電荷は、より小さい液滴(「子」液滴と称する)を操作することによって質量分析装置のオリフィスに送達される。浮揚装置内で、同時に1つまたは複数の粒子を浮揚させることも可能である。
【0032】
図2は、本発明の機器29の概略図である。機器29は粒子生成器32及び浮揚装置30を備える。粒子生成器30は個別粒子を生成する任意の手段、たとえばエアロゾル生成器または液滴生成器とすることが可能である。浮揚装置30は、個別粒子を浮揚させる任意の手段とすることが可能である。本明細書では、例として、浮揚装置30が2つのリング電極48、50からなる電気力学的平衡部(balance)を備えている場合について説明する。本発明の範囲内に含まれる電気力学的平衡部などの多くの構成が存在することが当業者には理解されよう。たとえば、リング電極48、50を、本発明から逸脱せずに、(たとえばリング状及び非リング状という)異なる幾何形状の構成としてもよい。
【0033】
動作中、(図示しない)個別粒子は、粒子生成器32によって生成され、浮揚装置30に送達され、次いで、リング電極48、50の間の浮揚装置30によって浮揚される。液滴生成器32と浮揚装置30の間に、誘導電極52が配置される。電位を誘導電極に印加して、粒子生成器32によって生成された個別粒子上に所望の極性の実効電荷を誘導する。たとえば、プラスの直流電位を誘導電極52に印加して、粒子生成器32によって生成された個別粒子上にマイナスの実効電荷を誘導する。逆に、個別粒子上にプラスの実効電荷を誘導しようとする場合、マイナスの直流電位を誘導電極に印加してもよい。
【0034】
図2に、オリフィス33、真空チャンバ37内のマス・フィルタ35、及び検出器39を有する大気圧ガス(及びイオン)サンプリング質量分析装置31を示す。電気力学的平衡部30内で粒子を浮揚させた後、粒子をオリフィス33に送達して、質量分析装置31により分析にかける。以下にさらに説明するように、本発明の別の態様では、個別粒子を、電気力学的平衡部30から送達し、MALDI質量分析にかけられるプレート上に被着させることも可能である。
【0035】
図3乃至6及び10は、粒子生成器32が液滴生成器であり、浮揚装置30がリング電極48、50からなる電気力学的平衡部である、本発明のさらなる例示的な機器68、76、78、81、88の概略図面である。
【0036】
機器68、76、78、81、88はそれぞれ、浮揚装置30及び液滴生成器32を備える。液滴生成器32は溶液中に検体を含む液体サンプルに動作可能に連結される。図3乃至6及び10に示すように、下部32bのところで、チューブ36により液滴生成器32をシリンジ34に連結することが可能である。液体サンプルの送達を、他の周知の方法のいずれか1つ、たとえば、クロマトグラフィー・カラムやガラスあるいはシリコン・チップ上に微細加工したカラムなどの分離方法で行うことも可能であることを理解されたい。
【0037】
図3乃至6に示す実施形態では、液滴生成器32の上部32aにノズル38が取り付けられている。ノズル38は、安定な液滴の生成を維持する助けとなる。ノズル38を図17に詳細に示す。ノズル38は、開口42を囲む平らな先端部40を有する。開口42は、浮揚装置30及び真空チャンバ46に至るオリフィス44の中心に対して垂直方向に同軸である。
【0038】
浮揚装置30は液滴生成器32の上方に配置される。図示した本発明の実施形態では、浮揚装置30は、垂直方向に離間して配置された2つの平行なリング電極48、50からなる電気力学的平衡部である。リング電極48、50は、銅線から形成することが可能である。リング電極48、50を図8にも示す。
【0039】
液滴生成器32と電気力学的平衡部30の間に誘導電極52が配置される。電位を誘導電極52に印加することによって、液滴が電気力学的平衡部30に送達される前に、実効電荷が液滴生成器32から生成された各液滴上に誘導される。この電位の極性は、液滴生成器32で生成された液滴上に誘導しようとする実効電荷により決まる。
【0040】
大気圧ガス(及びイオン)サンプリング質量分析装置65の下方に機器68、76、78、81が示される。図3乃至6では、質量分析装置65は、真空チャンバ46、液滴生成器52と整列させたオリフィス57を有するスキマー58、及びスキマー58を真空チャンバ46から電気的に分離するデルリン製のスペーサ62を備える。真空チャンバ46は、CEMイオン電流を(図示しない)適切な計数ユニットに送るチャネル電子増倍器64を収納する。真空チャンバ46は差動排気することが可能である。
【0041】
図3乃至6の機器68、76、78、81は、1つ(または複数)の液滴の浮揚を妨げる対流電流を最小限に抑えるために、電気力学的平衡部30を収納するプレキシガラス・チャンバ66を備える。上部プレート67中のオリフィス44は、質量分析装置65の真空チャンバ46に通じている。
【0042】
図3乃至6に示す機器68、76、78、81は、(a)電気力学的平衡部30及び液滴生成器32の構造、及び(b)液滴生成器32のノズル38と電気力学的平衡部30の間の分離という点で同じである。機器68、76、78、81の構造上の違いは、子液滴及びイオンを操作し、電気力学的平衡部30から質量分析装置65の真空チャンバ46に至るオリフィス44に向かって方向づけるための様々な電極アセンブリの構成に関係する。
【0043】
図3を参照すると、機器68は、子液滴と、そのような液滴から脱離したイオンとをサンプリング・オリフィス44に向かって案内する2つの電極アセンブリを備える。この2つの電極アセンブリは、下部電極及び上部電極を備える。下部電極は、液滴生成器32の上、電気力学的平衡部30の下に配置された下部プレート電極70を備え、上部電極は、電気力学的平衡部30の上に配置された上部プレート電極72を備える。上部プレート電極72は、ESI構成10で使用するような従来型の対向電極とすることが可能である。下部プレート電極70は、その中に開口74を画定して、液滴生成器32から生成された液滴が電気力学的平衡部30に送達されるようにする。上部プレート電極72は、その中に開口73を画定して、液滴がそこを通って電気力学的平衡部30からオリフィス44に送達されるようにする。
【0044】
図4を参照すると、機器76内にある電極は、リング電極48、50だけである。すなわち、図3の機器68と比べて、下部プレート電極70及び上部プレート電極72が省略されている。その代わりに、機器76内においてサンプリング・オリフィス44の近傍に配置された浮揚リング電極48、50が電極アセンブリとしても機能する。
【0045】
図5を参照すると、機器78は、浮揚リング電極48、50の上に配置された4つの案内リング電極80、82、84、86を含む。上側の案内電極ほど、すぐ下の案内電極よりも直径が小さい。すなわち、電極80の直径>電極82の直径>電極84の直径>電極86の直径となる。案内電極80、82、84、86の間の間隔は、案内電極80と82の間隔が、たとえば電極84と86の間隔と同じになるように定めることが可能である。案内リング電極80、82、84、86を図9にも示す。図5の機器78の実施形態に示す4つの代わりに、(設計制約条件内で)任意の数の案内電極を使用し得ることが理解されよう。
【0046】
図6を参照すると、機器81は、機器78内で案内リング電極80、82、84、86の積層体が配置されている場所に4つの円柱電極83からなる4重極が配置されている点を除き、機器78(図5)と同様である。図7は、機器81の4重極電極配置を示す断面図である。
動作中、(図示しない)液滴が液滴生成器32で生成され、1度に1つずつ電界の助けなしで電気力学的平衡部30の中心(すなわち、サンプリング・オリフィス44と垂直方向に同軸であり、リング48、50の中央の点)に上昇するのに十分な初期速度で液滴生成器32から上方に放出される。液滴が生成されるとき、誘導電極52の開口53を通過することによって、液滴上に実効電荷が誘導される。
【0047】
後で説明するように、子液滴及び粒子を、直流電圧を印加して操作し電気力学的平衡部30から案内するが、浮揚リング電極48、50に直流電位を印加して重力を相殺することなしに、浮揚リング電極48、50の間で荷電液滴を浮揚させることが可能である。一実施形態では、位相差が0°で1300Vの(60Hz)交流電位をリング電極48、50に印加することによって、浮揚リング電極48、50の間で荷電液滴を浮揚させることが可能である。電気力学的平衡部30を可変周波数の電気力学的平衡部とし得ることも企図されている。様々な波形(たとえば、交流、直流、または交流及び直流)を電気力学的平衡部30に印加して、粒子を浮揚させることも可能である。
【0048】
浮揚装置30内(すなわち、浮揚リング電極48、50の間)で浮揚された液滴は、溶媒の蒸発により、クーロン限界まで縮小することになる。クーロン限界で、液滴は、フラグメント化するかまたは「爆発」し、イオン及び子液滴を放出する。
【0049】
このイオン及び子液滴を、サンプリング・オリフィス44(及び真空チャンバ46)に案内し、質量分析にかけることが可能である。これは、たとえば、図3乃至6にそれぞれ示す機器68、76、78、81の電極アセンブリを使用して実施することが可能である。従来技術であるESIと比較すると、この手法により、空間電荷反発力がかなり減少し、電気力学的平衡部30内部の親液滴中の実効電荷を質量分析装置65に伝達する効率をより高めることが可能である。これまでには、単一の液滴から放出された電流を集めて、質量分析装置で調べる試みはなかった。本発明では、質量分析装置で、実効電荷をもつ単一の親液滴から発する電流のより多くのわずかな部分を回収することが可能である。これにより、質量分析装置の高い化学的特異性とあいまって、極めて高い感度(すなわち、低い濃度検出限界)を可能とするイオン源を作り出すことが可能になる。
【0050】
上述したように、図3乃至6の機器68、76、78用の上記電極アセンブリにより、電気力学的平衡部30からオリフィス44に向かい真空チャンバ46内に至る子液滴及びイオンの送達を制御してもよい。
図3の機器68を参照すると、子液滴及びそれから脱離したイオンの垂直位置を、たとえば、下部プレート電極70と上部プレート電極72の両端間の直流電位を変えることによって操作することが可能である。液滴及びイオンは上方に向けられ、上部プレート電極72中の開口73を通ってオリフィス44に至る。
【0051】
図4の機器76を参照すると、2つの浮揚リング電極48、50の両端間に印加した定電圧差により、子液滴及びイオンは電気力学的平衡部30から上方に向けられる。この機器の一実施形態では、リング電極48、50の両端間の直流定電圧を、(Vr,top−Vr,bottom)=−20Vと規定する。ただし、Vr,topは上部リング電極48に印加する直流電圧、Vr,bottomは下部リング電極50の直流電圧であり、Vr,topは30〜280Vの間で変化させた。
【0052】
図5の機器78を参照すると、子液滴及びイオンの操作は、電気力学的平衡部30の上に配置された案内リング電極80、82、84、86によって行われる。上部リング電極48に印加したのと同じ直流及び交流電位を、案内リング電極80、82、84、86に印加可能であることがわかっている。液滴及びイオンは、案内リング電極80、82、84、86によって上方に向けられ、オリフィス44に至る。
【0053】
図6の機器81を参照すると、子液滴及びイオンの操作は、電気力学的平衡部30の上に配置され、垂直配向された円筒電極83からなる4重極電極アセンブリによって行われる。図6には、2つの円筒電極83しか示していないが、図7の断面図には4つのすべての円筒電極83が示される。液滴及びイオンは電気力学的平衡部から上方の4つの電極83の間に向けられる。
【0054】
本発明の別の態様では、上述したように液滴及び粒子を放出し直接質量分析にかけるのではなくて、それらを電気力学的平衡部30から放出し、プレート上に被着させて、MALDIで質量分析を行うことが可能である。マトリックスをあらかじめ塗布したMALDIプレート上に検体を含む液滴を被着させることも可能であり、あるいは、マトリックスを出発溶液に加えて、生成された各液滴が検体及びマトリックス分子を含むようにすることも可能である。後者の場合、MALDIプレートには、あらかじめマトリックスを塗布しない。
【0055】
MALDIプレート90上に液滴を被着させるための機器88を図10に示す。機器88は、図5の機器76と同様に、液滴生成器32、チューブ36、シリンジ34、誘導電極52、2つの浮揚リング電極48、50からなる電気力学的平衡部30、及びプレキシガラス・チャンバ66がすべて存在するという点で、構造上図4の機器76と同様である。しかし、機器88は、浮揚リング電極48、50の上の電気力学的平衡部30から放出された液滴を被着させる場所に、MALDIプレート90を有する。観察のために、レーザ92を配置し、電気力学的平衡部30内で前方散乱により液滴を照明する。レーザ92は、たとえば、4mWの緑色HeNeレーザを含むことが可能である。
【0056】
機器88の動作は、液滴生成器32が液滴を生成し、誘導電極52が液滴上に実効電荷を帯電させ、浮揚装置30(すなわち、浮揚リング電極48、50の間)内で液滴を浮揚させてクーロン分裂をもたらすという点で、上述したものと同様である。リング電極48、50から液滴を放出するために、誘導電極52の電位を維持し、増加する電位をMALDIプレート90に印加することが可能である。液滴は、その実効電荷のために、MALDIプレート90に向かってますます引きつけられ、最終的に、その上に被着する。マトリックス100をMALDIプレート90にあらかじめ塗布することも可能だし、あるいは液滴が生成される出発溶液がマトリックス100を含むことも可能である。後者の場合、MALDIプレート90には、あらかじめマトリックスを塗布しない。
【0057】
次いで、液滴を被着させたプレート90を質量分析装置に挿入して、従来通りMALDIを使用して分析する。MALDI質量分析用のプレート90上にサンプルを被着させるのが、被着液滴/粒子中のサンプル混合物があらかじめ濃縮され、したがって、より小さいサンプル・スポット・サイズにすることが可能な点で有利である。こうすると、状況によっては、プレート上に(被着後、表面上のサンプル・スポット材料を少なくするために従来使用されてきた)微細加工した表面ウエルを作り出す必要がない。さらに、MALDIプレートの直流電位を適切に増加させて、被着粒子の所望のアレイを、被着プレート上に形成することも可能である。これらのファクタは、より感度の高いMALDI質量分析法をもたらすのに寄与する。
【0058】
本発明の一実施形態では、たとえば粒子被着セッション中に、浮揚装置30に対して相対的に移動可能な(図示しない)可動並進ステージ上にプレート90を支持することが可能である。この並進ステージは、所定の経路を移動してプレート90上に被着させる粒子の所望のパターンが得られるようにプログラムすることが可能である。当業者には理解されるように、粒子の被着、並進ステージの移動、及び分析のためのMALDIプレートの質量分析装置への送達を自動化して、改善された分析結果をもたらすことが可能である。たとえば、コンピュータ・コントローラ及びロボットを利用して、操作者の介入の必要を低減させることが可能である。
さらに、以下の例により本発明をより詳しく示すが、本発明はこれら特定の例に限定されないことを理解されたい。
【0059】
実施例1
本発明のいくつかの実施形態の機器の電流利用率をテストし、従来技術であるESI構成から得られたものと比較した。テストした機器は、図3乃至5に示す機器68、76、78の実施形態とほぼ同様で、下記のパラメータを用いた。参照しやすくするために、テストした機器を、場合に応じて、テスト機器68、76、または78と称することにする。比較のために、以下のパラメータを有するESI構成についてもテストした。
【0060】
ACSグレードの塩化ナトリウム及びテトラブチルアンモニウム塩化物と、脱イオン化蒸留水とを使用して、10mMの原液を調製した。次いで、この2つの原液を、ESI機器またはテスト機器68、76、78で使用する前に、ACSグレードのメタノールを使用して5μMに希釈した。
【0061】
このESI機器は3kVのバイアスをかけたステンレス鋼製のキャピラリ(内径0.1mm×外径0.2mm)からなる。サンプル溶液を、シリンジ・ポンプ(コール−パーマー製、モデル74900)により毎分5μLの速度で、このキャピラリ内にポンプ輸送した。窒素のカーテン・ガスを毎分1Lの流量で、サンプリング・オリフィスと(300Vに保持した)対向電極の間の領域に送達した。ESキャピラリを、真空チャンバのイオン軸から2〜3mm離して配置し、キャピラリ先端部と対向電極との分離を10mmとした。
【0062】
テスト機器68、76、78には、液滴生成器(米国ニューヨーク州ブルックリン所在のユニ−フォトン・システムズ社から入手、モデル201)を使用し、1Hzで液滴を生成するように設定した。この液滴生成器を長さ8cm×直径1cmのステンレス鋼製チューブ内に収納した。標準の配管金具で両端を終端した別のステンレス鋼製チューブを、このハウジング中に通した。圧電性結晶でハウ
ジング内の内部チューブを取り囲んだ。
【0063】
実験室の火炎を使用して、被覆していない石英ガラスの短片(内径35μm×外径150μm)をホウケイ酸ガラス・チューブ(内径1.6mm×外径3.2mm)内に封入することによって、液滴生成器用の(図17のノズル38と同様の)ノズルを構築した。この新たに形成した火炎研磨先端部を丸め、高速ドリルを使用し光学ラッピング・ペーパー上で平坦に研磨して、ノズルを形成した。
【0064】
このノズルとは反対側の液滴生成器ハウジングの端部を、短いチューブでシリンジに連結した。圧電性結晶に高電圧パルスを印加して、液滴生成器アセンブリ内部のステンレス鋼製サンプル・チューブの径を収縮させた。シリンジ・ポンプからの適切な背圧により、液滴をノズルから押し出し、電気力学的平衡部30に送達した。
【0065】
誘導電極を直流−125Vに設定して使用することにより、液滴が形成される際に各液滴上に電荷を与える誘導電極が、液滴にプラスの実効電荷を与えた。誘導電極は、液滴生成器のノズルの近傍に配置した。
液滴生成器のノズルを、電気力学的平衡部の下部リングの20mm下のところに、電気力学的平衡部及び真空チャンバに至るオリフィスの中心に対して同軸になるように配置した。電気力学的平衡部を、4.6mmの分離間隔で平行に整列させた1.7mm径の銅線製の(半径6.5mmの)2つの浮揚リング電極から構築した。位相差が0°で1300Vop'に増幅した60Hzのライン信号を両方の浮揚リング電極に印加することによって、電気力学的平衡部の中心部に荷電粒子を蓄えた。浮揚リング電極に直流電圧を印加せずに、液滴を浮揚させることも可能である。印加直流電圧は、単に子液滴を操作するためだけに用いた。
【0066】
液滴生成器のノズルから放出された液滴は、測定により毎秒約0.8mの初期速度であり、電界の助けなしで、電気力学的平衡部の中心までの距離(約22mm)を上昇することが可能であった。プレキシガラス・チャンバを使用して、それがないと主液滴の浮揚を妨げる対流電流を最小限に抑えた。
【0067】
上部浮揚リング電極にかける直流電圧の大きさを30〜280Vの間で変化させ、下部浮揚リング電極に印加する直流電圧は、(Vr,top−Vr,bottom=)−20Vで固定オフセットした上部電極の直流電圧を追従させた。上部リング電極の直流電位の大きさは、子液滴が浮揚装置からサンプリング・オリフィスに向かった後に、クーロン分裂によって放出された子液滴の速度に影響を及ぼした。2つの浮揚リング電極間の一定の直流電圧差(Vr,top−Vr,bottom)である−2
0Vは、分裂中の親液滴からすべての子液滴を上方にのみ放出させるのに十分な大きさであった。最初のクーロン分裂イベント開始から、主液滴自体の残留物が電気力学的平衡部から上方に放出されるまで、100ミリ秒未満の間、短期間途切れながらも、液滴が子液滴を放出することが観察された。子液滴からのレーザ光の散乱により、この挙動を肉眼で観察することが可能であった。2つの浮揚リング電極間に印加した直流オフセット電位は、電気力学的平衡部内で蒸発中の主液滴の垂直位置に顕著な影響を及ぼさなかった。対照的に、最初のクーロン分裂イベント開始後の(100ミリ秒未満の)期間中、おそらくは放出された子液滴からの静電反発のため、主液滴が垂直方向に1mm未満の振幅で振動していたことがわかった。
【0068】
図3乃至5に示すように、真空チャンバをテスト機器68、76、78ならびにテストしたESI構成に取り付けた。2段階の差動排気を用いた。厚さ50μmのステンレス鋼製の箔を100μm径のオリフィス(カナダ国ケベック州セントローレント所在のハーバード・アパレイタス(Harvard Apparatus)社製)とともに使用して、大気圧でガスをサンプリングし、第1段の減圧(1トール:133.32Pa)に導いた。この箔には直流70Vのバイアスをかけた。差動排気チャンバを、5.5L/sロータリー・ポンプ(カナダ国オンタリオ州ミシソーガ所在のレイボールド(Leybold)社製、モデルD16A)で排気した。スキマーのオリフィスは直径0.50mmであり、オリフィスとスキマー先端部の分離距離は3.2mmであった。スキマーには5Vのバイアスをかけた。デルリン製スペーサにより、接地した真空チャンバからスキマーを電気的に分離した。50L/sターボ分子ポンプ(レイボールド社製、モデルTMP050)を使用して、CEM(チャネル電子増倍器)(米国マサチューセッツ州パルマー所在のディテクト社製、モデル310G)を収納するチャンバを排気した。CEMに対するバイアス電位は−2400Vであった。CEMイオン電流をフォトン・カウンティング・ユニット(浜松社製、モデル3866)中に通し、得られたTTL信号をカウントした。スキマー先端部とCEMの分離距離は82mmであり、この領域では電極ガイドは使用しなかった。
【0069】
テスト機器68では、電気力学的平衡部の上下にそれぞれプレート電極を1つ備える2枚プレートの電極アセンブリを使用して、子液滴を案内した。下部プレートは5mm径の開口を有し、それによって、液滴生成器のノズルから放出された液滴がその開口を通り、直接上方の電気力学的平衡部内に至った。図3に、下部プレート電極70を備える機器68を示すが、この下部プレート電極70を取り除いた形でもテストを行った。窒素ガス流を、サンプリング・オリフィス・プレートと対向電極の間の領域に、毎分0〜0.5Lの範囲で供給した。
【0070】
テスト機器76では、大気圧下にある電極は、電気力学的平衡部30の2つの浮揚リング電極だけであった。上部及び下部浮揚リング間の直流電圧差を−20Vに維持し、上部浮揚リング電極に印加した直流電位を150〜280Vで変化させた。
【0071】
テスト機器78では、電気力学的平衡部の上に配置された一連の4つの案内リング電極を使用して子液滴を案内した。上にある案内電極ほど、すぐ下の案内電極よりも直径が小さい。0.8mm径の銅線の短い素線からリングを作ることによって、案内リング電極を製作した。これらの案内リング電極を、分離間隙をそれぞれ同じ3mmとして、電気力学的平衡部の浮揚リング電極の上に配置した。上部浮揚リング電極に印加したのと同じ直流及び交流の電極バイアスを各案内リング電極にも印加した。電気力学的平衡部の上部及び下部浮揚リング電極にはそれぞれ280V及び300Vの直流バイアスをかけた。
【0072】
テスト機器68(下部プレート電極70を備える場合と備えない場合)、76及び78では、液滴生成器で生成された液滴が、電気力学的平衡部の中心まで(約22mmを)約75ミリ秒で飛行し、次いで、その液滴を脱溶媒する間そこで浮揚させた。液滴は、その形成後550±75ミリ秒で脱溶媒して、最初のクーロン限界に達した。液滴は、100ミリ秒未満の間不連続的に分裂し、その後、元の液滴の残留物自体が、電気力学的平衡部から放出された。これらの観測は、電気力学的平衡部内部で、半導体レーザで液滴を照明することによりレンズを使わずに目視し、液滴の生成から最初のクーロン分裂イベント開始までの時間をストップウォッチにより手作業で測定することによって行った。こうした測定の103回の平均値は、550ミリ秒であった。
【0073】
テストしたESI構成の真空チャンバ内のCEMからのプラスのイオン電流は、毎秒3×103カウント以下であった。どちらのテスト溶液でも同じイオン・カウント率が得られたため、イオン電流は、溶液中の陽イオンの性質には無関係であった。別の実験では、固体対向電極プレートに到達する電流を測定すると、どちらのサンプル溶液についても500nAとなった。これは、電流利用効率が1×10-9以下であることに相当する。
【0074】
ESI構成10の場合と同様に、実効電荷をもつ単一の液滴から測定したイオン電流は、どちらのテスト溶液でも同じイオン・カウント率が得られたので、溶液中の陽イオンの性質には無関係であった。
【0075】
(図3の)テスト機器68の下部プレート電極70を定位置におき、あるいは取り除くと、1液滴当たりの平均イオン・カウントはそれぞれ、0.3〜1.8カウントの範囲の値をとった。したがって、(下部プレート電極70を備える場合または備えない場合の)テスト機器68では、10秒間の積分当たり約1×10-7のイオン利用効率が得られ、ESI構成で測定された値の1×10-9以下に対して、イオン利用において2桁向上した値が得られた。
【0076】
テスト機器76では、浮揚リング電極48を、(浮揚リング電極間の分離は一定にしたままで)サンプリング・オリフィスから2mm離して配置した。テスト機器76では、浮揚リング電極に印加した直流電圧バイアスの大きさに応じて、1液滴当たり2.5〜5カウントの範囲の値をとる改善されたイオン電流が得られた。カウント数の増加の理由として、浮揚リング電極に印加したより大きな直流バイアス電位によって、子液滴及びイオンがサンプリング・オリフィスに向かってより高速で流れてゆき、それによって、子液滴及びイオンの軸外拡散の度合いが低減したのではないかと推測される。
【0077】
孤立した液滴から測定した最大イオン電流をテスト機器78で記録した。上部案内リング電極86はサンプリング・オリフィスから2mm離れたところに位置し、下部案内リング電極80は上部浮揚リング電極48の3mm上のところにあった。テスト機器78で、1液滴当たり約40というイオン・カウント率が測定され、このデータ・セットにより示されるイオン利用効率は、約4×10-6となり、テストしたESI構成に対して著しく向上した。
【0078】
図11はテスト機器68(下部プレート電極70を備える場合と備えない場合)、76及び78の、10秒にわたる積分のイオン・カウントをプロットしたグラフである。図11中の印はそれぞれ、以下の機器から得られた結果を表す。
【0079】
(a)白抜きの菱形−上部(対向電極)及び下部プレート電極にそれぞれ直流30V及び500Vのバイアスをかけ、上部及び下部電気力学的平衡部電極リングにそれぞれ直流50V及び70Vをかけたテスト機器68の場合。
(b)黒塗りの菱形−上部(対向電極)及び下部プレート電極にそれぞれ直流150V及び500Vのバイアスをかけ、上部及び下部電気力学的平衡部電極リングにそれぞれ直流180V及び200Vをかけたテスト機器68の場合。
【0080】
(c)黒塗りの三角形−下部プレート電極70を取り除き、上部(対向電極)電極に直流150Vのバイアスをかけ、上部及び下部電気力学的平衡部電極リングにそれぞれ直流180V及び200Vをかけたテスト機器68の場合。
(d)白抜きの正方形−電気力学的平衡部リングにそれぞれ直流180V及び200Vをかけたテスト機器76の場合。
【0081】
(e)黒塗りの正方形−電気力学的平衡部リングにそれぞれ直流280V及び300Vをかけたテスト機器76の場合。
(f)黒塗りの丸−電気力学的平衡部リングにそれぞれ直流280V及び300Vをかけ、円形電極群に直流280Vのバイアスをかけたテスト機器78の場合。
【0082】
実施例2〜6
実施例2乃至6は、サンプルをMALDIプレート90上に被着させ、後続の質量分析にかけるための液滴生成器32及び浮揚装置30の使用に関するものである。
【0083】
下記を各実施例2乃至6に適用した。
(a)図10の機器88とほぼ同じ機器を使用して、液滴を生成し、その上に実効電荷を誘導し、電気力学的平衡部内でその液滴を浮揚させ、MALDIプレート上にその液滴を被着させた。1つの例では、マトリックスをあらかじめ塗布したMALDIプレート上に液滴を被着させ、別の例では、マトリックスを直接出発溶液に加え、プレートにはあらかじめマトリックスを塗布しなかった。
(b)液滴の被着後、MALDIプレートを電気力学的平衡部チャンバから取り外し、パースペクティブ・バイオシステムズ社製のボイジャー−ディーイー(Voyager-DE)MALDI−TOF−MSを使用して分析した。
【0084】
(c)使用した検体はケノデオキシコール酸ジアセトメチルエステル及びロイシンエンケファリンであり、マトリックスはHCCA(α−シアノ−4−ヒドロ
キシ桂皮酸)であった。塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、メタノール及びグリセロールも出発溶液に加えた。
(d)MALDIプレートにあらかじめマトリックスを塗布する場合には、以下のように行った。0.090Mのα−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸のメタノール/アセトン(60:40、v/v)溶液を調製した。マイクロピペットを使用して、この溶液10mlを、サンプル・ウエルのないステンレス鋼製のMALDIプレート上に供給した。この濡れた表面を実験室の空気に十分にさらして、MALDIプレート面上で(約3.1cm2の)マトリックスの被覆を形成した。
【0085】
(e)オン・デマンド液滴生成器(米国ニューヨーク州ブルックリン所在のユニ−フォトン・システムズ社製、モデル201)に、実施例1で述べたように構築した40mm径のノズルを取り付けた。ノズル先端部の5mm上に配置した誘導電極にプラスの直流電位をかけて、マイナスの実効電荷を各液滴上に与えた。液滴生成器及びMALDIプレートをそれぞれ、電気力学的平衡部の下と上に配置した。このアセンブリを、プレキシガラス・チャンバ(12インチ×8インチ×10インチ(30cm×20cm×25cm)内部に収納して、電気力学的平衡部からの液滴の対流損失を最小限に抑えた。
【0086】
(f)(0.9mm径の)銅線を2cm径のリングの形にし、分離距離を6mmとして平行に取り付け、浮揚装置を構築した。この浮揚装置の浮揚リング電極両端間には、直接直流電位を印加しなかった。浮揚装置内で液滴の垂直位置を、誘導電極及びMALDIプレートに印加した直流電位によって操作した。リング電極に印加した(60Hzの)交流電位の大きさは、(同位相で)1,000〜2,700V0-pの範囲の値であった。浮揚装置内の液滴を、4mWの緑色HeNeレーザにより前方散乱によって照明した。
【0087】
実施例2
図12A、12B及び12Cは、電気力学的平衡部30内での荷電液滴の浮揚と、電気力学的平衡部30内からの単一の液滴の放出を順に示した写真(倍率5×)である。これらの写真は、単一の顕微鏡対物レンズを通して焦点を合わせたデジタル・カメラで撮影した。浮揚液滴の動きは、電気力学的平衡部のリング電極に印加した交流波形と同じ周波数の60Hzであった。液滴の軌跡の振動周波数は、カメラのシャッタ・スピードよりも速く、したがって、電気力学的平衡部内で浮揚させた液滴は、図12A〜12Cで線として現れた。
【0088】
図12Aから12Cの順に、誘導電極に印加した直流電位(+125V)及び交流捕捉電位(1150V0-p)を一定に保持したながら、MALDIプレートに印加した直流電位を+150V〜+300Vに増加させた。図12Aは、MALDIプレートに+150Vの直流電位を印加した場合、図12Bは、MALDIプレートに+225Vの直流電位を印加した場合、図12Cは、MALDIプレートに+300Vの直流電位を印加した場合を表す。マイナスに帯電した液滴は、MALDIプレートに向かってますます引きつけられた。このことは、電気力学的平衡部30の中点の下(図12A)から、電気力学的平衡部の中点の上のますます高い位置(図12B及び12C)に、液滴の浮揚の中心位置が移動したことよって証明される。電気力学的平衡部30の浮揚リング電極48、50は、図12A〜12Cで見ることが可能である。
【0089】
図12Bに、r=0でのz軸に平行な軌跡をとる単一の液滴94を示す。この液滴94は、すべての浮揚液滴のうち一番大きな最大垂直変位を得ている。さらに、MALDIプレート90にかける直流電位を増加させると、この液滴94は、電気力学的平衡部30の上部浮揚リング電極48よりかなり上の最大垂直位置に達した(図12C)。最大の移動振幅をもつこの液滴94は、電気力学的平衡部30内の液滴のうちで質量対電荷比が最大であった。(液滴の生成中、液滴生成器32のパラメータは変えなかったが、生成された各液滴の初期サイズ及び実効電荷には若干のばらつきがあり、その結果、電気力学的平衡部30内に蓄えられた、得られた液滴の質量対電荷比がある範囲に収まった。)さらに、MALDIプレートに印加する直流電位を増加させると、r=0でのz軸に沿いに変位するこの液滴94は、電気力学的平衡部30の捕捉場から抜け出し、MALDIプレート90上に衝突した。この液滴94の被着により、電気力学的平衡部30内で液滴94により他の液滴上に誘導された空間電荷が取り除かれ、それによって、電気力学的平衡部30内で質量対電荷比が2番目に大きい液滴96の位置が緩和し、次いで、電気力学的平衡部30内の中心位置を占めることが可能となった。次いで、MALDIプレート90に印加する直流電位をさらに増加し、電気力学的平衡部30から各液滴を1度に1個ずつ取り除き、r=0でのz軸に沿いに被着させることが可能であった。
【0090】
実施例3
図13A及び13Bに、MALDIプレート90上に粒子を被着させるための異なる手法の結果を示す。図13A及び13Bの写真は、顕微鏡を通してデジタル・カメラの焦点を合わせて撮影した。図13Aの倍率は20×であり、図13Bの倍率は25×である。図13A及び13Bに見られる数字「45」は、製造者がMALDIプレートにエッチングしたものである。
【0091】
図13Aは、マトリックス100内であらかじめ塗布したMALDIプレート90に、電気力学的平衡部30から放出された7個の液滴102(丸印で示す)を同時に(あるいはほぼ同時に)被着させた後のプレートの写真である。粒子の同時放出は、単一の大きな電位パルスの印加によって生じたものである。図13Aの場合、MALDIプレート90に印加した単一のパルスは+850Vであった。これにより、電気力学的平衡部30からの液滴102の移動がほぼ瞬間的に生じた。その際、直流電位パルスの印加の瞬間に、各液滴102上の空間電荷の結果として、浮揚液滴の相対位置がMALDIプレート90上に「プリント」された。たとえば、7個の液滴102が被着された結果、同時に、約1.8×10-2cm2の面積全体に、液滴が100mmを超える最小分離間隔で詰め込まれた。
【0092】
対照的に、実施例2で述べた方法に従って、r=0でのz軸に沿い、電気力学的平衡部30から1度に1個の液滴を取り除いた結果を図13Bに示す。この例では、MALDIプレート90にかける直流電位を比較的高い電位へとゆっくりと増加させ、電気力学的平衡部30から20個の液滴をMALDIプレート上の3.1×10-4cm2未満のサイズのスポット104(丸印で示す)上に被着させることが可能であった。
【0093】
図13Bのデータは、電気力学的平衡部内で浮揚させた複数の液滴の、固有空間電荷により誘導された軌跡が、単一スポット上への液滴の順次被着と干渉しなかったことを示す。したがって、本発明の被着技術により、高感度MALDIの利用に必要とされる小さいサンプル・スポット・サイズが得られる。MALDIプレート上の所定の小さい場所の上に精確にサンプルを被着し得ると有利である。というのは、レーザでサンプル・スポットが見つからないという心配なしに、より信頼性が高く効率的なMALDI質量分析を行うことが可能だからである。
【0094】
図13Cは、一連の液滴120を電気力学的平衡部30からマトリックス100をあらかじめ塗布したMALDIプレート90上に被着させて水平線を形成した様子を示す拡大写真である。この写真は、本発明の方法を使用して、たとえば、被着粒子の所望のアレイを調製することが可能であることを示している。このような場合、このサンプル調製方法を、分離技術と結びつけることが可能である。図13Cでは、数字「5」は、製造時にMALDIプレートにエッチングされたものである。
【0095】
基板上の粒子アレイ、たとえば図13Cに示すMALDIプレート90上の水平線アレイは、たとえば、並進ステージ(図示せず)上にMALDIプレート90を取り付けることによって得ることが可能である。浮揚粒子(あるいは、本発明を分離技術の目的で利用する場合には副粒子群)が放出される合間に、並進ステージを電気力学的平衡部30に対して相対的に移動させ、浮揚粒子をMALDIプレート90上にアレイの形で被着させることが可能である。
【0096】
実施例4
図14に、マトリックス100をあらかじめ塗布したMALDIプレート90上に単一の液滴を被着させた単一のレーザ・スポットから集めた6つの連続したマス・スペクトル(A〜Fと標示)を示す。液滴は、1.0×10-3Mのエステルを含む出発溶液すなわち、約48mmの初期半径を有する液滴内の460fmolから生成した。出発溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、2×10-3Mであった。調製後ただちに出発溶液を使用し、その中には検出可能な加水分解生成物は存在しなかった。
【0097】
液滴は、電気力学的平衡部内で9時間50分間浮揚させた。信号強度比に基づいて、被着液滴の組成は、約300fmolのエステル及び約160fmolのその加水分解生成物[ROH+Na+]であり、そのどちらもナトリウム付加物としてスペクトル中に検出された。
【0098】
図14のスペクトルA〜Fは、液滴の被着位置における連続した(一定に設定した)レーザ照射の平均スペクトルであり、それらを以下に示す。
【0099】
スペクトル レーザ照射回数の平均スペクトル
A 1〜256
B 257〜512
C 513〜768
D 789〜1024
E 1025〜1280
F 1281〜1536
【0100】
各液滴の分析は、窒素レーザ・スポットを心合わせし、それを液滴の被着部位の上に単一位置に固定して保持することによって行った。マス・スペクトルは、25マイクロ秒の遅延取得時間で集めたものである。
【0101】
スペクトルAでは、エステルのナトリウム付加物に対する信号対ノイズ比(S/N)及び信号対バックグラウンド比(S/B)はそれぞれ、100及び70であった。それに対比して、スペクトルFでは、これらの値はそれぞれ、590及び640に改善した。エステルのナトリウム付加物のピークを、スペクトルF中に[CH3COOR+Na+]として示す。レーザ・ショット番号3580〜3836(データは示さず)の平均したスペクトル中で、S/N及びS/Bがそれぞれ1,800及び2,700にさらに増加した。
【0102】
図14のスペクトルA〜Fは、本発明の被着方法が、マトリックス・クラスタ・イオンを抑制し、分析のための「形がよりきれいな」スペクトルを与えるのに役立つことを示す。
【0103】
マトリックスに起因する2種類のバックグラウンド・イオンが、図15のスペクトル中に存在する。1つのクラス(「タイプI」)は、完全な状態の分子と、1つ(または複数)の陽イオンとともにクラスタ化したマトリックスのフラグメントとの組合せからなるものであった。第2のクラス(「タイプII」)は、1つ(または複数)の陽イオンの周りにクラスタ化した完全な状態のマトリックス分子(ただし、マトリックス分子の番号n=1,2,3,...)からなるものであった。
【0104】
図14のスペクトルAは、最初の256回のレーザ・ショットからのものであり、被着液滴のサイズがレーザ・スポット・サイズよりも小さかったため、タイプI及びタイプIIの一部に属する多くのバックグラウンド・イオンが、強い相対信号強度のところに存在している。ピーク106は、タイプIのバックグラウンド・イオンを表す。
【0105】
スペクトルAと比べて、スペクトルBは、タイプIのバックグラウンド・イオンの量の減少と、タイプIIのバックグラウンド・イオンの量の増加とを示す。これは、レーザ・スポット内で液滴を取り囲む遊離したマトリックスの(切除による)除去により生じたものである。ピーク108は、タイプIIのバックグラウンド・イオンを表す。
【0106】
1280回のレーザ・ショット(すなわち、図14のスペクトルE)の後、ナトリウムで陽イオン化したエステル及びその加水分解生成物は高い信号強度を保ったままで、タイプI及びタイプIIのバックグラウンド・イオンの信号強度が激減した。スペクトルFでは、バックグラウンド・マトリックス・イオンの信号強度はほぼなくなり、高い信号強度のところに検体イオンのピークのみを伴う非常にきれいなスペクトルが残った。
【0107】
液滴中にグリセロールが存在すると、レーザ・ショット数の増加によるS/N及びS/Bの増加の助けとなる。1つにはグリセロールの液滴中でマトリックス溶液が生じたことが理由で、マトリックス・イオンの生成が最終的に抑圧された。これにより、液滴の最上層上でマトリックス分子間の分離が増加し、したがって、結晶マトリックス表面とは異なり、液体マトリックスからイオンが生成されることになる。これにより、マトリックス・クラスタ・イオンの生成の傾向が減少する。グリセロールの存在の別の利点は、各レーザ照射の後に、検体が表面まで拡散することが可能になり、後続のレーザ照射のたびに、より均質な材料の層が形成されることである。
【0108】
実施例5
図15に、あらかじめ塗布されたMALDIプレート90上に、互いに重ねて被着させた8個の液滴に向けてレーザを1024回照射した後のMALDIプレート90の写真を示す。この写真は、顕微鏡を通してデジタル・カメラの焦点を合わせて得られた。主要な写真である110は20×に拡大してあり、図の右側の挿入写真112は125×に拡大してある。この場合も、写真110に見えている数字「65」は、製造者がMALDIプレート90にエッチングした数字である。
【0109】
図15に、レーザを当てた小さな暗い領域114を示す。周囲のより明るい区域は、マトリックス100の残りの薄い被覆である。図15の右側の挿入写真112に、より拡大したレーザ・スポット114を示す。被着液滴の残留物が、暗い領域114内に配置された単一の液滴116を形成したように見える。レーザ・スポット・サイズは、暗い領域114によって規定される。というのは、それが、マトリックス100が切除された後に残された清浄なステンレス鋼製のMALDIプレート90だからである。マトリックス100上に被着させたグリセロールの液滴は、その周りの遊離したマトリックス100が除去される間、グリセロールの液滴の下にあるマトリックスの切除を妨げていた。図14の液滴116の下に残ったマトリックス100の存在は、MALDIプレート上にあらかじめ塗布したマトリックスの基礎層なしでは、液滴から完全な状態のイオンを生成できないことによって確認された。
【0110】
分析の前、被着液滴は、グリセロールと出発溶液中にあった不揮発性の溶質からなるものであった。大気圧かつ室温で、グリセロールの液滴は何時間も存在していたが、質量分析装置の真空チャンバ内に入れた後、そのグリセロールは比較的短時間で排気された。真空チャンバ内にプレートを挿入した後すぐにレーザを照射したので、プレート上に残っていたグリセロールは、レーザ照射の合間に液滴内で溶質を流動化する助けとなり、各レーザ・ショット間で信号の再現性を向上させた。あるいは、グリセロールが排気された後まで、レーザ照射を遅らせることも可能である。このような場合、出発溶液中に存在した不揮発性の溶質の薄い濃縮された層が残る。
【0111】
図15に示す液滴の「島」116に1024回を超えるレーザ・ショットを当てることにより、質量対電荷比が低い領域でマトリックス・クラスタのピークを著しく欠くマス・スペクトル(図示せず)が得られることがわかった。
【0112】
実施例6
2組のサンプルを調製して、MALDIプレート90上に被着させた。最初の
例では、あらかじめマトリックス100を塗布したMALDIプレート90上にサンプルを被着させ、第2の例では、直接出発溶液にマトリックスを加え、プレート90にはあらかじめマトリックス100を塗布しなかった。
【0113】
最初の例では、92:8体積%のメタノール:グリセロール中、2×10-4Mのエステル、2×10-6Mのロイシンエンケファリン、及び2×10-5Mの塩化ナトリウムからなる出発溶液を作成した。エステルは、被着液滴にレーザが確実に向けられるように、MALDI−TOF−MSの間、内部チェックとして働いた。6個の液滴を互いに重ねて被着させて、あらかじめ乾燥させた結晶マトリックス層上に単一の液滴を形成した。各液滴は、約93fmolのエステル及び約0.930fmolのロイシンエンケファリンを含んでいた。図16Aに、これら6個の液滴から集めたマス・スペクトルを示す。エステル及びロイシンエンケファリンはともに、ナトリウム・イオンで陽イオン化され、それらのS/Nはそれぞれ、230及び83であった。108と標示したピークは、バックグラウンド・マトリックス・クラスタ・イオンからのものである。
【0114】
第2の例では、それぞれ約5fmolのエステルを含む6個の液滴を、9.0×10-5Mのマトリックスと、97:3体積%のメタノール:グリセロールとを含む出発溶液から形成した。これらの液滴を、新たに清浄にしたステンレス鋼製のMALDIプレート90上に、互いに重ねて被着させる前に、数分間浮揚させた。図16Bは、これらの6個の被着液滴で形成された残留物から集めたMALDI−TOF−MSスペクトルである。タイプI及びタイプIIのマトリックス・イオンは、最初の256回のレーザ・ショットから得たスペクトル中では観察されなかった。450m/zより下のところにある大きい信号強度は、感度を向上させるために低いマス・ゲートを使用した結果である。液滴をプレート90上に被着させる前に、MALDIプレート90をアセトンで洗浄したため、アセトン・クラスタ・イオンが生じた。図16Cは、マス・ゲートがない場合の図16Bの完全なマス・スペクトルである。図16Cには、単一の完全な状態のマトリックス分子(タイプII、ただしn=1)の小さい強度が示されているが、タイプIまたはn>1のときのタイプIIのバックグラウンド・マトリックス・イオンは示されていない。図16C中最も強度が大きい信号は、アセトンのナトリウム付加物によるものである。この場合も、そのピークは、プレートをアセトンで洗浄したために生じたものである。単に、脱イオン化水で洗浄し空気乾燥することによって、このピークならびに[CH3COOR+Na++CH3COCH3]のピークを容易に除去することが可能である。
【0115】
各液滴の分析は、窒素レーザ・スポットを心合わせし、それを液滴の被着部位の上に単一位置に固定して保持することによって行った。マス・スペクトルは、25マイクロ秒の遅延取得時間で集めたものである。
【0116】
図16A〜16Cのスペクトルは、2つ以上のマトリックス分子をもつバックグラウンド・マトリックス・クラスタ・イオンの形成が、主に結晶化したマトリックス分子の領域から生じることを示唆する。このようなイオンの信号強度は、グリセロール及びマトリックスを出発溶液に加えることによって激減し、そのため、被着液滴中では、マトリックスの結晶化の可能性は少なかった。このことは、MALDI−TOF−MSによる小さい分子の検出に有利である。というのは、そうでない場合にはスペクトルのバックグラウンドを占めるマトリックス・クラスタ・イオンの多くが除去されるか、化学的干渉が引き起こされるからである。
【0117】
上述した被着方法は、MALDIの再現性を大きく向上させる。というのは、固体結晶マトリックス層に比べてマトリックス溶液は、経時的により再現性のよい信号をもたらすことが、リング、エス(Ring,S)とルディック、ワイ(Rudich,Y)のRapid Commun.Mass Spectrum.2000年,第14巻,515〜519ページに示されているからである。
【0118】
この例のマトリックスを含む液滴の場合、形成されたグリセロール/HCCAマトリックス溶液は、それから脱離すべきはるかに均一なマトリックスを提供する。たとえば、S/Nが10未満に減少する前に、図16Bの6個の液滴の残留物に1087回のレーザ・ショットを照射した。6個の液滴の集合体中の少量の材料から多数のマス・スキャンが集まったのは、微小スポット内に存在する流体マトリックスの結果であった。本発明に従って調製した液体微小スポットを分析することによって、MALDI用の感応性が高く安定なイオン源が実現される。さらに、本発明の方法により、より低い絶対検出限界と向上した定量性が得られる。
【0119】
さらに、MALDI質量分析において、電気力学的平衡部を使用しサンプルを被着すると、ピコリットルの体積のキャピラリ中でサンプルを扱うことによって生じる表面張力の問題に対する解決策が得られる。この解決策は、キャピラリの表面張力の制限を受けない「壁なし」のサンプルの調製手順を提供する。
【0120】
当業者には明白なように、上記の開示に照らして、本発明の範囲から逸脱せずに、その実施に際して多くの変更及び改変が可能である。
たとえば、電気力学的平衡部30内における粒子の浮揚は、本発明の実施例のテスト機器68、76、78、88中では大気圧で実施された。しかし、本発明は、大気圧以外の圧力(たとえば、低圧または高圧)でも利用し得ることが理解されよう。
【0121】
同様に、本明細書では、機器68、76、78、81を、それが垂直に向けられ、質量分析装置65の下に配置されたものとして示した。垂直に向けるのは本発明には必ずしも必要でなく、いかなる向き(たとえば水平など)でも利用し得ることが当業者には理解されよう。
【0122】
同様に、図3乃至7に具体的に示した以外の電極アセンブリを使用して、子液滴/イオンを標的位置に送達することも本発明の範囲に含まれる。たとえば、図6及び7に示す4重極構成の電極83の代わりに、8つの電極からなる8重極構成を使用することも可能ある。
【0123】
同様に、非電気力学的浮揚手段を使用して1つ(または複数)の粒子を浮揚させることも本発明の発明性のある範囲内である。例として、生成された粒子に流れを向けるようにレーザを配置し、それによって中性粒子の両端に双極子を誘導することが可能である。レーザで誘導された双極子は、レーザの流れの中で粒子を捕捉し、それによって、その粒子を浮揚させ、レーザの流れの中で捕捉された粒子が標的位置(たとえば、質量分析装置のオリフィス、MALDIプレートなど)に送達されるまで、徐々にレーザの流れの焦点位置を調節することによって、最終的にその粒子は標的位置に送達される。誘導電極は含まれず、すなわち、本発明のこの実施形態で生成された粒子は、その上に誘導された実効電荷を持たないことになる。
【0124】
本明細書で開示した本発明を、他の任意の定量的な化学的分析技術、たとえば蛍光分光法またはラマン分光法用に容易に改変可能なことが当業者には理解されよう。
【0125】
本発明は、比較的大きい粒子からそれを構成する副粒子群を分離するのに利用することができる。その理由は、浮揚装置30内で、ある期間粒子を浮揚させることにより、その粒子が平衡状態に到達し得るからである。この平衡状態では、構成副粒子群が様々な層(たとえば、水の表面層、吸着された生体分子の層、及び固体または液体のコアを含む)の中に入って落ち着くことが可能で、次いで、順次浮揚粒子から分離して、他の構成副粒子群とは独立して分析にかけることが可能である。本発明のこのような実施形態では、浮揚粒子にパルス・レーザビームを当てて、これらの層を分離させることが可能である。あるいは、これらの層を、(上述したように)個別粒子上に実効電荷を誘導した後にクーロン分裂によって分離することも可能であり、また脱離によって分離することも可能である。本明細書で説明したように、それら様々な層及びコアを、MALDIプレート上に順次被着させ、次いで、MALDI質量分析にかけることが可能である。
【0126】
有利には、浮揚液滴にガス流を当てて、液滴中の溶媒の蒸発速度を制御する(すなわち、速めあるいは遅らせる)ことが可能である。たとえば、前述したように、液滴の構成副粒子群を分離する前に、長期間かけて液滴を平衡状態にもっていこうとするとき、液滴の蒸発を長引かせると有利である。
【0127】
本発明の別の可能な用途は、「壁なし」化学反応槽としての利用である。このような応用例では、前述したように、反応物(たとえば、液滴または粒子)を生成し、電気力学的平衡部内で浮揚させることが可能である。ただし、質量分析にかけるために放出する代わりに、次いで、浮揚液滴/粒子を電気力学的平衡部内で(電極の電位を変えることによって)空間的に操作して、合体させることが可能である。この技術の利点は、(従来型反応槽内で同じ反応を行うことに比べて)表面積対体積比が大きくなることである。本発明をこのように適合させると、医用診断目的など多くの応用が生じる。この戦略の変形形態は、浮揚させた細胞または細胞の小集団にマトリックスを被覆することであろう。細胞表面に被覆するこの方法は、細胞表面上に存在する分子の検出を可能にする。細胞を浮揚させると、その細胞を様々なストレス、たとえば、気相化学試薬、2個の液滴の合体物、溶液相の試薬の導入にかけることが可能となる。後者の用途は、消化酵素を細胞表面にもってゆき、細胞から突き出ている膜タンパク質からペプチドのフラグメントを生成するのに使用することが可能である。
【0128】
さらに、この手法を使用して、MALDIプレート上に被着させる前に、液滴にマトリックスを加えることが可能である。このような応用例では、検体を含む液滴とマトリックスを含む液滴を、ともに液滴生成器32で独立に生成させ、MALDIプレート上に被着させる前に浮揚させながら、空間的に操作し、浮揚装置30内で単一の液滴に合体させることが可能である。
【0129】
さらに、粒子をMALDIプレート90上に被着させた後に、その粒子にマトリックスを付着させることが可能である。このような応用例では、前述したように、その粒子をMALDIプレート上に被着させる。次いで、マトリックスを含む別の粒子を、液滴生成器32(または別の粒子生成器)で独立に生成し、前述したように浮揚させる。次いで、マトリックスを含むこの浮揚粒子を、(検体を含む)被着粒子上に被着させ、それによってMALDIプレート上の最初の液滴に被覆する。
【0130】
本発明は、被着粒子を、基板に塗布されたテスト材料にあてるのに利用することが可能である。たとえば、生物学的、化学的または物理学的な由来をもつ材料をプレートに塗布し、次いで、粒子をそのテスト材料に送達して、その反応の分析を続けて行うことが可能である。本発明の装置及び方法を用いてこの粒子をウエル内に被着させる前に、このテスト材料をウエルに塗布することによって、MALDIプレートの凹部ウエル内でこのような反応を起こすことが可能である。本発明のこの応用例は、薬物の有効性試験その他の同様な目的に利用するのに有利である可能性がある。
【0131】
さらに、本発明は、形成時に直径が約100〜1000nmの子液滴を重合させるのに利用することが可能である。注意深くすれば、表面が重合して液滴の内容物を封じ込める前に、これらの子液滴をより小さい直径に脱溶媒させることが可能である。この手順は、中空にも中実にも設計可能な丸いナノメートル・サイズの材料を調製するのに使用することが可能である。
【0132】
同一機器内で複数の液滴生成器を使用することも、本発明の範囲内である。このような構成は、電気力学的平衡部30内にある間に、「壁なし」化学反応用に2個の反応物粒子を生成しようとする場合、あるいは、上述したように、マトリックス液滴を、検体を含む液滴と合体させようとする場合に利用することが可能である。同様に、横並びに構成された複数の電気力学的平衡部30を使用し、複数の平衡部を液滴生成器32に対して整列させた位置に順次移動可能にすることも可能である。
したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定義される本質にしたがって解釈すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】従来技術のエレクトロスプレー・イオン化の構成を示す概略図。
【図2】本発明の機器の例を示す概略図。
【図3】図2の機器の代替実施形態を示す概略図。
【図4】図2の機器の別の代替実施形態を示す概略図。
【図5】図2の機器の別の代替実施形態を示す概略図。
【図6】図2の機器の別の代替実施形態を示す概略図。
【図7】図6の線7−7に沿った断面図。
【図8】図2乃至6に示す機器の浮揚装置を示す図。
【図9】図5の機器の浮揚リング電極及びその上に配置された案内リング電極を示す図。
【図10】浮揚装置の上に配置されたMALDIプレートを伴う本発明の機器の例を示す斜視図。
【図11】実施例1でテストした機器の10秒にわたる積分のイオン・カウントをプロットしたグラフ。
【図12】A、B、Cは、浮揚装置内での荷電液滴の浮揚と、浮揚装置からの単一の液滴の放出を順に示す拡大写真。
【図13A】マトリックス内であらかじめ塗布されたMALDIプレートに、浮揚装置から放出された7個の液滴を同時に(あるいはほぼ同時に)被着させた後のMALDIプレートの拡大写真。
【図13B】マトリックス内であらかじめ塗布されたMALDIプレートに、浮揚装置から順次放出された20個の液滴を被着させた後のMALDIプレートの拡大写真。
【図13C】MALDIプレート上に線形アレイの形で被着させた液滴の写真。
【図14】MALDIプレート上に被着させた単一の液滴に当てた単一のレーザ・スポットから集めた6本の連続したマス・スペクトル(A〜Fと標示)を示す図。
【図15】MALDIプレート上に互いに重ねて被着させた8個の液滴に向けてレーザを1024回照射した後のMALDIプレートの拡大写真。
【図16A】実施例6のパラメータにしたがって、あらかじめマトリックスを塗布したMALDIプレート上に被着させた6個の液滴のマス・スペクトルを示す図。
【図16B】実施例6のパラメータにしたがって、新しいMALDIプレート上に被着させた、マトリックスを含む6個の液滴のマス・スペクトルを示す図。
【図16C】マス・ゲートがない場合の図16Bの完全なマス・スペクトルを示す図。
【図17】図3乃至6の機器の液滴生成器のノズルの断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別粒子を生成し、その個別粒子を後続の分析または操作のために標的位置に送達する機器であって、
(a)個別粒子を生成する粒子生成器であって、前記個別粒子として検体及び溶媒を含む個別液滴を生成する液滴生成器である前記粒子生成器と、
(b)前記個別粒子を電気力学的に浮揚させる浮揚装置と、
(c)後続の分析または操作のために、前記浮揚装置から離間した標的位置に向けて、前記浮揚装置から前記個別粒子を送達する電極アセンブリとを備える前記機器。
【請求項2】
前記標的位置は前記粒子が被着するのに好適な材料からなる基板である請求項1に記載の機器。
【請求項3】
前記機器は大気圧ガス・サンプリング質量分析装置を備え、前記標的位置が前記質量分析装置の真空チャンバと連通するオリフィスである請求項1に記載の機器。
【請求項4】
前記機器は基板を備え、前記標的位置が前記基板である請求項1に記載の機器。
【請求項5】
前記基板が、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析に適したプレートである請求項4に記載の機器。
【請求項6】
前記プレートが前記粒子を受け取る材料を備える請求項5に記載の機器。
【請求項7】
前記材料がマトリックスである請求項6に記載の機器。
【請求項8】
前記粒子がマトリックスを備える請求項5に記載の機器。
【請求項9】
前記プレートが少なくとも1つの凹部ウエルを備える請求項5に記載の機器。
【請求項10】
前記浮揚装置と前記電極アセンブリは一体化されている請求項1に記載の機器。
【請求項11】
前記浮揚装置が電気力学的平衡部である請求項10に記載の機器。
【請求項12】
前記電気力学的平衡部が1対の独立した浮揚電極である請求項11に記載の機器。
【請求項13】
前記1対の浮揚電極がそれぞれ平行な面内にある1対の第1リング電極である請求項12に記載の機器。
【請求項14】
前記1対の第1リング電極間において、前記個別粒子を浮揚させるための電界を生成する電圧差が維持されている請求項13に記載の機器。
【請求項15】
前記粒子生成器の近傍に配置され、生成された前記個別粒子に実効電荷を誘導する誘導電極を更に備える請求項1に記載の機器。
【請求項16】
前記機器は前記浮揚装置をほぼ収納するチャンバを備える請求項1に記載の機器。
【請求項17】
前記電極アセンブリが前記粒子生成器と前記浮揚装置の間に配置された第1プレート電極と、前記浮揚装置と前記オリフィスの間に配置された第2プレート電極とを備える請求項3に記載の機器。
【請求項18】
前記第1プレート電極及び前記第2プレート電極の各々は、前記個別粒子がその中を通過可能に形成された開口を有する請求項17に記載の機器。
【請求項19】
前記電極アセンブリが大気圧で動作可能である請求項3に記載の機器。
【請求項20】
前記浮揚装置前記浮揚装置と前記電極アセンブリは一体化されている請求項3に記載の機器。
【請求項21】
前記浮揚装置は前記オリフィスの近傍に配置されている請求項20に記載の機器。
【請求項22】
前記電極アセンブリは、前記浮揚装置と前記オリフィスの間において互いに平行な面内に配設された、互いに独立した複数の第2リング電極を備える請求項3に記載の機器。
【請求項23】
前記浮揚装置から前記オリフィスに向かう方向に、前記第2リング電極の直径が徐々に小さくなっている請求項22に記載の機器。
【請求項24】
互いに約3mm離間して配置された4つの独立した第2リング電極を備える請求項23に記載の機器。
【請求項25】
前記第1リング電極両端間の前記電圧差が約20Vである請求項14に記載の機器。
【請求項26】
前記電極アセンブリが前記浮揚装置と前記オリフィスの間の4重極電極アセンブリを備える請求項3に記載の機器。
【請求項27】
前記電気力平衡部が可変周波数で動作可能である請求項11に記載の機器。
【請求項28】
前記電極アセンブリが前記粒子生成器と前記浮揚装置の間に配置された第1プレート電極と、前記浮揚装置と前記基板の間に配置された第2プレート電極とを備える請求項4に記載の機器。
【請求項29】
前記第1プレート電極及び前記第2プレート電極の各々は前記個別粒子がその中を通過可能に形成された開口を有する請求項28に記載の機器。
【請求項30】
前記浮揚装置と前記電極アセンブリは一体化されている請求項4に記載の機器。
【請求項31】
前記浮揚装置は前記基板の近傍に配置されている請求項30に記載の機器。
【請求項32】
前記電極アセンブリは前記浮揚装置と前記基板の間において互いに平行な面内に配設された、互いに独立した複数の第2リング電極からなる積層体を備える請求項4に記載の機器。
【請求項33】
前記浮揚装置から前記基板に向かう方向に、前記第2リング電極の直径は徐々に小さくなっている請求項21に記載の機器。
【請求項34】
互いに約3mm離間して配置された4つの独立した第2リング電極を備える請求項33に記載の機器。
【請求項35】
前記電極アセンブリが前記浮揚装置と前記基板の間の4重極電極アセンブリを備える請求項4に記載の機器。
【請求項36】
生成された前記個別粒子に実効電荷を誘導する誘導電極を更に備え、前記誘導電極はその中を前記個別粒子が通過する開口を有する請求項1に記載の機器。
【請求項37】
前記機器は並進ステージを備え、前記基板は前記浮揚装置に対して制御可能に移動可能である前記並進ステージ上に配置されている請求項4に記載の機器。
【請求項38】
前記液滴生成器は前記個別液滴を供給する中空で平らな先端を有するノズルを備える請求項1に記載の機器。
【請求項39】
個別粒子を生成し、その個別粒子を後続の分析または操作のために標的位置に送達する方法であって、
(a)検体及び溶媒を含む個別液滴である個別粒子を生成する工程と、
(b)生成された前記個別粒子上に実効電荷を誘導する工程と、
(c)前記実効電荷の誘導された前記個別粒子を、浮揚装置を用いて電気力学的に浮揚させる工程と
(d)後続の分析または操作のために、前記浮揚装置から離間した標的位置に向けて、前記浮揚装置から前記個別粒子を送達する工程とを備え、前記浮揚装置から前記標的位置に前記個別粒子を送達するために電極アセンブリが使用される前記方法。
【請求項40】
前記個別粒子を大気圧ガス・サンプリング質量分析装置に送達する工程を備え、前記標的位置は前記大気圧ガス・サンプリング質量分析装置と連通したオリフィスである請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記個別粒子を基板に送達する工程を備え、前記標的位置が当該基板である請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記基板がプレートであり、前記プレートをマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析にかける工程を備える請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記粒子を受け取るための材料を前記プレートに塗布する工程を備える請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記材料がマトリックスである請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記粒子がマトリックスを備える請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記液滴が少なくとも部分的に脱溶媒するのに十分な期間にわたって前記液滴が電気力学的に浮揚される請求項39に記載の方法。
【請求項47】
前記浮揚装置に対して前記基板を移動する工程を備える請求項41に記載の方法。
【請求項48】
工程(c)は大気圧で行われる請求項39に記載の方法。
【請求項49】
前記浮揚装置は第1及び第2リング電極を有する電気力学的平衡部を備え、前記個別粒子を浮揚させるための電界を生成する電圧差を前記第1及び第2リング電極間に維持する請求項39に記載の方法。
【請求項50】
前記実効電荷は前記粒子の生成時に誘導される請求項39に記載の方法。
【請求項51】
前記個別粒子を浮揚させて前記溶媒の蒸発速度を制御する間、前記個別粒子をガスに当てる工程を備える請求項46に記載の方法。
【請求項52】
前記脱溶媒が前記液滴のクーロン分裂を引き起こし、前記液滴を複数の子液滴にする請求項46に記載の方法。
【請求項53】
その子液滴中の検体が帯電してイオン源の生成に寄与するように、子液滴が脱溶媒するのに十分な期間にわたって前記各子液滴は浮揚される請求項52に記載の方法。
【請求項54】
後続の分析または操作のために前記子液滴を前記浮揚装置から前記標的位置へ送達する工程を備える請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記イオンを質量分析にかける工程を備える請求項53に記載の方法。
【請求項56】
工程(c)の後に前記イオンをプレート上に被着させ、前記イオンを質量分析がマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析を含む請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記イオンを被着させる前に前記プレートにマトリックスが塗布される請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記イオンを有する前記プレートにマトリックスが塗布される請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記イオンは順次前記プレート上に被着される請求項56に記載の方法。
【請求項60】
前記基板上に前記粒子のアレーを被着するように前記浮揚装置に対して前記基板を移動させつつ、請求項41に規定される工程を繰り返す工程を備える請求項47に記載の方法。
【請求項61】
前記個別液滴が前記検体及び前記溶媒を含む単一の個別液滴であり、前記個別液滴が脱溶媒するのに十分な期間にわたって前記個別液滴は浮揚され、前記検体が帯電して、前記大気圧ガス・サンプリング質量分析装置内で質量分析するために前記電極アセンブリによって前記オリフィスに送達される間に前記個別液滴のクーロン爆発によってイオンが放出される請求項3に記載の機器。
【請求項62】
前記脱溶媒は前記個別液滴の複数の子液滴へのクーロン爆発を引き起こし、前記子液滴中の検体が帯電して前記イオンの前記オリフィスへの送達に寄与するように各子液滴は当該子液滴が脱溶媒するのに十分な時間にわたって浮揚される請求項61に記載の機器。
【請求項63】
前記標的位置は前記個別粒子と接触したときに前記個別粒子と反応する可能性のある材料を備えた基板である請求項1に記載の機器。
【請求項64】
前記材料は前記個別粒子が前記基板と接触したときに前記個別粒子と反応する可能性のある材料である請求項43に記載の方法。
【請求項65】
生成された前記個別粒子に実効電荷を誘導する誘導電極を更に備え、前記粒子生成器、前記浮揚装置、及び前記標的位置は同軸に配列されており、前記個別粒子は、前記誘導電極を通過することによって帯電され、前記浮揚装置は、前記粒子生成器から放出された方向への前記個別粒子の移動を一旦停止させて、前記個別粒子を前記粒子生成器と前記標的位置との間の位置において浮揚状態で待機させるものであり、前記電極アセンブリは、浮揚状態で制御された期間待機した前記個別粒子を前記標的位置に送達するように制御されることを特徴とする請求項1に記載の機器。
【請求項66】
前記電極アセンブリは、前記浮揚装置によって浮揚状態に保持された前記個別粒子を選択的に前記標的位置に送達することを特徴とする請求項1に記載の機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17】
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【図9】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−266007(P2007−266007A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175834(P2007−175834)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【分割の表示】特願2002−538445(P2002−538445)の分割
【原出願日】平成13年10月23日(2001.10.23)
【出願人】(500065646)サイモン フレーザー ユニバーシティー (4)
【氏名又は名称原語表記】Simon Fraser University
【Fターム(参考)】