説明

偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルム及び偏光フィルム

【課題】 偏光性能に優れ、色相に優れ、2枚の偏光フィルムを直交させてクロスニコル状態にした際に青色光の漏れが少ない偏光フィルム及びその製造に有効な偏光フィルム用原反フィルムの提供。
【解決手段】 重合度2000以上、ケン化度99モル%以上のPVA系重合体にカルボキシル基含有重合体を1〜30質量部の割合で含有するPVA系重合体組成物から形成した偏光フィルム用PVA系重合体フィルム、及び該PVA系重合体フィルムから作製した偏光フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルム、その製造方法および該ポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いて作製した偏光フィルムに関する。より詳細には、本発明は、偏光性能に優れ、色相が改善されていて2枚の偏光フィルムを直交させてクロスニコル状態にしたときに青色光の光漏れが少ない偏光フィルムを作製することのできる偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルム、その製造方法および該ポリビニルアルコール系重合体から作製した偏光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、開発初期の頃の電卓および腕時計などの小型機器から、近年では、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器などの広い範囲で用いられるようになっており、液晶テレビなどでは大画面化が進んでいる。用途の拡大に伴って、液晶表示装置では表示品質の高級化、色再現性の向上などがますます求められるようになっている。光の透過および遮蔽機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶などと共に液晶表示装置の重要な構成部材であり、偏光板に対しても、上記課題を達成するために、大画面化、高偏光度、高透過度といった光学特性に加えて、色相の改善が強く求められている。
【0003】
従来汎用されている偏光板は、一般に、ポリビニルアルコール系重合体フィルムに一軸延伸、ヨウ素や二色性染料による染色処理、ホウ素化合物による固定処理などを施すことによって作製された偏光フィルムの片面または両面に三酢酸セルロースフィルムや酢酸・酪酸セルロースフィルムなどの保護膜を貼り合わせた構成を有している。
【0004】
偏光フィルムの色相は、染色の方法を工夫することによりある程度調整することができる。例えば、二色性染料を用いる場合は、様々な色の吸収波長を有する染料が使用可能であることから、2種類以上の二色性染料、通常は3種類から4種類程度の二色性染料を組み合わせて染色することで偏光フィルムの色相をニュートラルグレーの状態に調整でき(例えば、特許文献1〜2参照)、それによって特定波長の光が漏れるという現象を防ぐことができる。しかしながら、二色性染料を用いて染色した偏光フィルムは、二色性比が小さいため、コントラストが低く、光の透過率および偏光度が十分でなく、通常の液晶ディスプレイには用いられていない。
【0005】
一方、ヨウ素で染色した偏光フィルムは、二色性染料で染色した偏光フィルムに比べて、光の透過率および偏光度が大きくて二色性比が高く、高コントラストを示すことから、液晶表示装置用の偏光板の作製に当たっては、一般にヨウ素で染色した偏光フィルムが用いられている。しかしながら、ヨウ素で染色した偏光フィルムでは、偏光フィルム中のヨウ素は一般的にI3-およびI5-の2種類のイオン形態で存在し、二色性染料におけるような3種類以上の混合形態にすることができないため、二色性染料で染色した偏光フィルムに比べて、特定波長の光漏れの現象が生じ易く、特に青色光の光漏れの現象が起こり易く、それに伴って偏光フィルムの色相を完全なニュートラルグレーの状態にすることが難しい。
【0006】
ヨウ素で染色した偏光フィルムにおける色相の改善については、いくつかの手法が提案されている。例えば、慣用的にヨウ化カリウムを添加する手法が用いられているが、その色相改善効果は十分ではない。
【0007】
また、偏光フィルムの耐久性を向上する目的で、ポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いてヨウ素で染色された偏光フィルムを製造するに当たって、ヨウ素による染色処理および/またはそれ以降の処理を行う際に、処理用の水溶液中に、ポリアクリル酸およびその誘導体から選ばれる水溶性アクリル系重合体を溶解させておくことで偏光フィルムに水溶性アクリル系重合体を導入することが提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、本発明者らがこの方法を追試したところ、水溶性アクリル系重合体を偏光フィルム内部に均一に含浸させることは困難であり、それに伴ってヨウ素で染色する際に染色斑を生じやすいものであった。また、この方法で得られる偏光フィルムは、色相改善の効果がみられなかった。この方法において、ポリビニルアルコール系重合体フィルムに水溶性アクリル系重合体を十分に含浸させるために、水溶性アクリル系重合体を含有する水溶液中にフィルムを長時間浸漬した場合には、フィルムが過度に膨潤して染色の制御が難しくなり、それに加えてフィルム自体の力学物性が低下し、偏光フィルムを製造する際の工程通過性が悪化するなどの問題があることが判明した。
【0008】
また、偏光フィルム以外の用途では、重合度の低いポリビニルアルコールとポリアクリル酸からなる冷水可溶性の包装用のポリビニルアルコールフィルム(特許文献4参照)、ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との混合物から形成したフィルムを好適には160〜230℃の高温で熱処理したガスバリヤー性の包装用フィルム(特許文献5参照)が提案されている。しかし、特許文献4記載の冷水可溶性のポリビニルアルコールフィルムは、偏光フィルムを製造する際の水溶液中での一軸延伸、ヨウ素染色などの処理工程中にフィルムが水溶液中に溶解してしまうため、偏光フィルムの製造には使用できない。また、特許文献5に記載のフィルムは、ガスバリヤー性を向上させるために高温で熱処理を行うことが必要であり、そのために、水膨潤性、染色性に大きく劣っており、やはり偏光フィルムの製造に用いることはできない。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−123405号公報
【特許文献2】特開昭62−156602号公報
【特許文献3】特開2004−294808号公報
【特許文献4】特願昭61−204254号公報
【特許文献5】特開平6−220221号公報
【非特許文献1】「Journal of Applied Polymer Science」 1994年、第51巻、p.613−618
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、光の透過率および偏光度が高くて偏光性能に優れ、色相に優れていて2枚の偏光フィルムを直交させてクロスニコル状態にしたときに青色光の光漏れが少ない、高性能の偏光フィルム用の原反フィルムおよびその製造方法並びに当該原反フイルムから作製した偏光フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、2000以上の高い重合度と99モル%以上の高いケン化度を有するポリビニルアルコール系重合体を用い、該ポリビニルアルコール系重合体にカルボキシル基含有重合体を特定の量で含有させたポリビニルアルコール系重合体組成物からフィルムを製造し、そのフィルムを用いて従来法と同様の処理操作を行って偏光フィルムを作製すると、高い光透過率および偏光度を有していて二色性比が高く偏光性能に優れ、しかも色相に優れていて2枚の偏光フィルムを直交させてクロスニコル状態にしたときに青色光の漏れの少ない高性能の偏光フィルムが得られることを見出して本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 重合度2000以上およびケン化度99モル%以上のポリビニルアルコール系重合体と、カルボキシル基が中和されていてもよいカルボキシル基含有重合体を含有し、カルボキシル基含有重合体の含有量がポリビニルアルコール系重合体100質量部に対して1〜30質量部であるポリビニルアルコール系重合体組成物から形成されていることを特徴とする偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムである。
そして、本発明は、
(2) カルボキシル基含有重合体が、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸の中和物の少なくとも一方である前記(1)の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムである。
【0013】
さらに、本発明は、
(3) 重合度2000以上およびケン化度90モル%以上のポリビニルアルコール系重合体を溶解し且つカルボキシル基が中和されていてもよいカルボキシル基含有重合体を均一に混合した原液を用いて製膜することを特徴とする前記(1)の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法である。
【0014】
そして、本発明は、
(4) 前記(1)または(2)の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いて作製した偏光フィルムである。
さらに、本発明は、
(5) 前記(1)または(2)の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムに、一軸延伸、ヨウ素による染色およびホウ素化合物による処理を施して作製した前記(4)の偏光フィルムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムを使用して偏光フィルムを作製することにより、高い光透過率および偏光度を有していて二色性比が高く偏光性能に優れ、しかも色相に優れていて2枚の偏光フィルムを直交させてクロスニコル状態にしたときに青色光の漏れが少ない、本発明の高性能偏光フィルムを円滑に得ることができる。
本発明の製造方法により、上記した優れた特性を兼ね備える偏光フィルムを作製することのできる偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムを円滑に得ることができる。
本発明の偏光フィルムは、上記した優れた特性を活かして、電卓、腕時計、ノートパソコン、液晶モニター、液晶カラープロジェクター、液晶テレビ、車載用ナビゲーションシステム、携帯電話、屋内外で用いられる計測機器などの液晶表示装置の構成部品である偏光板の作製に有効に用いることができ、特に高コントラスト、高い色再現性が求められる液晶モニターや液晶テレビ用の偏光板として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムを構成するポリビニルアルコール系重合体について説明する(以下、ポリビニルアルコールを「PVA」ということがある。)
本発明の偏光フィルム用PVA系重合体フィルム(以下、偏光フィルム用PVA系重合体フィルムを単に「PVA系重合体フィルム」ということがある)の製造に用いられるPVA系重合体は、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステルの1種または2種を用いて重合を行って得られるポリビニルエステル系重合体をケン化して得られるPVA系重合体が製造の容易性、入手容易性、コストなどの点から好ましく用いられる。
【0017】
本発明のPVA系重合体フィルムに用い得るPVA系重合体の典型としては、ビニルエステルの単独重合体のケン化物(PVA単独重合体)を挙げることが出来る。しかしながら本発明にPVA系重合体フィルムに用いるPVA系重合体は、ビニルエステルの単独重合体のケン化物に限定されず、本発明の効果を損なわない場合には、PVA系重合体として変性PVA系重合体、ビニルエステルと少量の他の共重合性単量体の共重合体のケン化物、PVA系重合体の水酸基の一部を架橋したポリビニルアセタール系重合体などを用いることもできる。
そのうち、変性PVA系重合体の例としては、不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα−オレフィンなどを5モル%未満の割合でグラフト共重合した変性ポリビニルエステルをケン化することにより製造される変性PVA系ポリマーや、未変性または変性PVA系重合体を挙げることができる。
【0018】
また、ビニルエステルと少量の他の共重合成単量体の共重合体のケン化物の製造に用い得る他の共重合性単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、その他の炭素数2~30のα−オレフィン類;(メタ)アクリル酸およびその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体などの(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。PVA系重合体は、前記した他の重合性単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有していることができる。
【0019】
PVA系重合体が、ビニルエステルと他の共重合性単量体の共重合体のケン化物である場合は、他の共重合性単量体に由来する構造単位の割合は、PVA系重合体を構成する全構造単位に基づいて15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
特に、他の共重合性単量体が、(メタ)アクリル酸、スルホン酸などのような、PVA系重合体の水溶解性を促進する単量体である場合は、PVA系重合体フィルムから偏光フィルムを作製する際の水溶液中での処理時にフィルムが溶解したり溶断するのを防止するために、PVA系重合割合を5モル%以下、特に3モル%以下にするのがよい。
【0020】
PVA系重合体が、その水酸基の一部が架橋されたポリビニルアセタール系重合体である場合の例としては、ホルマリン、ブチルアルデヒド、ベンツアルデヒドなどのアルデヒド類で水酸基の一部を架橋したポリビニルアセタール系重合体を挙げることができる。
【0021】
本発明のPVA系重合体フィルムに用いるPVA系重合体の重合度は、偏光フィルムの偏光性能と耐久性の点から、2000以上であることが必要である。PVA系重合体フィルムに用いるPVA系重合体の重合度が2000未満であると、PVA系重合体フィルムから得られる偏光フィルムの偏光性能および耐久性が良好にならず、本発明の目的を達成することが困難になる。PVA系重合体の重合度が高いほど、得られる偏光フィルムの偏光性能および耐久性が一層良好になるが、PVA系重合体の重合度が高すぎると、PVA系重合体の製造コストの上昇、製膜時の工程通過性の不良などを生じ易くなるので、PVA系重合体の重合度は2000〜10000であることが好ましく、2000〜8000であることがより好ましく、2200から5000であることが更に好ましい。
なお、本明細書でいうPVA系重合体の重合度は、JIS K 6726に準じて測定した重合度を意味する。
【0022】
さらに、本発明のPVA系重合体フィルムに用いるPVA系重合体のケン化度は、PVA系重合体フィルムから得られる偏光フィルムの偏光性能、色相およびそれらの耐久性を良好なものとするために、99.0モル%以上であることが必要であり、得られる偏光フィルムの偏光性能と耐久性の点から99.9モル%以上が好ましく、99.95モル%以上であることがより好ましい。PVA系重合体のケン化度が99.0モル未満であると、偏光性能および耐久性に優れる偏光フィルムが得られなくなり、また偏光フィルムにおける色相の改善効果も小さいものとなる。
なお、本明細書におけるPVA系重合体のケン化度とは、重合体を構成する構造単位のうちで、ケン化によってビニルアルコール単位に変換され得る単位(典型的にはビニルエステル単位)の全モル数に対して実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合(モル%)をいう。ケン化度はJIS K 6726に記載されている方法に準じて測定することができる。
【0023】
本発明の偏光フィルム用のPVA系重合体フィルムは、上記のPVA系重合体と共にカルボキシル基含有重合体を含有するPVA系重合体組成物から形成されていることが重要である。
カルボキシル基含有重合体としては、本発明の効果を損なわない限りは、カルボキシル基を含有する重合体のいずれも使用でき、具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グリオキシル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサハイドロフタル酸の1種または2種以上を重合して得られるカルボキシル基含有重合体を挙げることができる。本発明では、カルボキシル基含有体として1種類のカルボキシル基含有重合体のみを使用してもよいし又は2種類以上のカルボキシル基含有重合体を併用してもよい。
【0024】
カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基は中和されていなくてもよいし、或いは一部または全部が中和されていてもよく、カルボキシル基が中和されていないカルボキシル基含有重合体と中和されているカルボキシル基含有重合体を併用してもよい。
カルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基が中和されている場合は、カルボキシル基はナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどの金属の塩の形態になっていることが好ましい。
【0025】
カルボキシル基含有重合体としてカルボキシル基の一部または全部が中和されているものを用いる場合は、PVA系重合体と共にカルボキシル基の一部または全部が中和されているカルボキシル基含有重合体を用いてPVA系重合体フィルムを製造してもよいし、またはPVA系重合体と共にカルボキシル基が未中和のカルボキシル基含有重合体を用いてPVA系重合体フィルムを製造した後にPVA系重合体フィルムを硝酸カルシウムや酢酸カルシウムなどの中和用の金属化合物を含有する水浴中で膨潤させてフィルムに含まれるカルボキシル基含有重合体のカルボキシル基を中和してもよい。その際に、水浴中に含有させる金属化合物の量を調整することにより、カルボキシル基の中和度を制御することができる。
【0026】
カルボキシル基含有重合体の分子量は特に制限されないが、一般的には、重量平均分子量が500〜100000、更には1000〜50000、特に3000〜25000の範囲のカルボキシル基含有重合体を用いることが、得られる偏光フィルムの色相の向上効果が大きくなる点から好ましい。
【0027】
本発明のPVA系重合体フィルムは、PVA系重合体100質量部に対してカルボキシル基含有重合体を1〜30質量部の割合で含有するPVA系重合体組成物から形成されていることが必要である。PVA系重合体100質量部に対してカルボキシル基含有重合体の割合が1質量部未満であると、PVA系重合体フィルムから得られる偏光フィルムの色相が改善されず、クロスニコル状態での青色光の漏れが大きくなる。一方PVA系重合体100質量部に対してカルボキシル基含有重合体の割合が30質量部を超えると、PVA系重合体フィルム自体の結晶性の低下、PVA系重合体フィルムの水溶解性の増加により、偏光フィルムの製造が困難になったり、また偏光フィルムが製造できる場合であっても偏光フィルム製造時の工程通過性の悪化、得られる偏光フィルムの偏光性能の低下を生ずる。本発明のPVA系重合体フィルムは、偏光フィルムを作製する際の工程性の向上、偏光性能および色相の一層の向上などの点から、PVA系重合体100質量部に対してカルボキシル基含有重合体を1〜20質量部、特に3〜10質量部の割合で含有するPVA系重合体組成物から形成されていることが好ましい。
【0028】
本発明のPVA系重合体フィルムを用いて作製した偏光フィルムが、偏光性能に優れるだけでなく、色相に優れるものとなる理由は定かではないが、以下のように推定される。
すなわち、ヨウ素で染色した偏光フィルムの色相は、一般に偏光フィルム中にポリヨウ素として存在するI3-イオンの吸光度とI5-イオンの吸光度との吸光度比(I3-/I5-)に依存するとされている。偏光フィルム中に存在するI3-イオンは青色波長域の光を主に吸収し、I5-イオンは赤色波長域の光を主に吸収する。従来のPVA系偏光フィルムは、赤色波長域の光の吸収(すなわちI5-イオンの吸光度)が大きく、その一方で青色波長域の光の吸収(すなわちI3-イオンの吸光度)が小さい。2枚の偏光フィルムを直交させたクロスニコル状態では、可視光の全波長領域の光が遮蔽される(光漏れが生じない)ことが理想であるが、実際は青色光の漏れを生じ、遮光が不十分になる。前記したポリヨウ素イオン種は、それらを包接している重合体のマトリックス構造に影響されることが知られており、例えばPVA系重合体の場合には、PVA系重合体が有する水酸基によって形成される水素結合が重要な役割をすることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。かかる点から、従来のPVA系偏光フィルムでは、赤色波長域の光を主に吸収するI5-イオンの働きが強くなり易く、それによって青色波長域の光の吸収が弱くなり、色相の低下を招いているものと考えられる。
【0029】
本発明者らは、前記した水素結合に着目し、ポリヨウ素イオン種を包接するPVA系重合体の構造を制御することを試み、種々の検討の結果、遂に本発明を完成させたものである。つまり、PVA系重合体とカルボキシル基含有重合体を含む組成物から形成されたPVA系重合体フィルムでは、PVA系重合体の水酸基とカルボキシル基含有重合体のカルボキシル基との間で水素結合の組換えが起こり、偏光フィルムにしたときにポリヨウ素を包接する重合体構造を大きく変化させることができる。染色斑を引き起こす局所的な構造斑をなくすためにも、PVA系重合体フィルム全体に亘って水素結合の組替えが起こっていることが必要であり、これを達成するには、偏光フィルム用のPVA系重合体フィルムでは、PVA系重合体とカルボキシル基含有重合体がフィルム中で均一に混合されていなければならない。本発明のPVA系重合体フィルムでは、フィルム内でPVA系重合体中の水酸基とカルボキシル基含有重合体中のカルボキシル基との間の水素結合の組み換えが生じると共に、PVA系重合体とカルボキシル基含有重合体がフィルム内で均一に混合していることにより、染色斑が生じなくなり、しかも色相が良好になって、2枚の偏光フィルムを直交させたクロスニコル状態では青色光の漏れを生じないようになったものと推定される。
【0030】
本発明のPVA系重合体フィルムを形成しているPVA系重合体の組成物は、上記したPVA系重合体およびカルボキシル基含有重合体と共に可塑剤を含有していることが望ましく、可塑剤を含有していることにより、PVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造する際の延伸性の向上などを図ることができる。可塑剤としては、多価アルコールが好ましく用いられ、具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有することができる。そのうちでも、PVA系重合体フィルムの延伸性がより良好になる点からグリセリンがより好ましく用いられる。
【0031】
可塑剤の添加量は、PVA系重合体100質量部に対して、3〜20質量部、更には5〜15質量部、特に7〜12質量部が好ましい。可塑剤の添加量が少ないとPVA系重合体フィルムの延伸性が不良になり、偏光フィルムを円滑に製造できにくくなり、一方可塑剤の添加量が多すぎるとPVA系重合体フィルムの表面に可塑剤がブリードアウトしてPVA系重合体フィルムの取り扱い性が低下する。
【0032】
また、本発明のPVA系重合体フィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤などを含有していてもよい。
【0033】
本発明のPVA系重合体フィルムの厚さは特に制限されないが、一般的には20〜120μm、更には30〜100μm、特に40〜80μm程度であることが好ましい。PVA系重合体フィルムが薄すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸処理時に、延伸切れが発生しやすくなり、偏光性能に優れる偏光フィルムが得られにくくなる。また、PVA系重合体フィルムが厚すぎると、偏光フィルムを製造するための一軸延伸処理時に延伸斑が発生しやすくなる。
【0034】
本発明のPVA系重合体フィルムの幅は特に制限されず、PVA系重合体フィルムから製造される偏光フィルムの用途などに応じて決めることができる。近年、液晶テレビやモニターの大画面化が進行しており、かかる点からPVA系重合体フィルムの幅を2m以上にしておくと、これらの用途に好適である。一方PVA系重合体フィルムの幅が大きすぎると、実用化されている装置で偏光板を製造する場合に一軸延伸自体を均一に行うことが困難になり易いので、PVA系重合体フィルムの幅は6m以下であることが好ましい。
【0035】
本発明のPVA系重合体フィルムの製法は特に限定されず、PVA系重合体フィルムを構成するPVA系重合体組成物中でPVA系重合体とカルボキシル基含有重合体が均一に混合されており、可塑剤や他の添加剤を含有する場合はそれらの成分も均一に混合されていて、しかも厚さおよび幅が均一で、偏光フィルムの製造に好適に用い得るPVA系重合体フィルムを製造できる方法であればいずれの方法で製造してもよい。
【0036】
そのうちでも、重合度2000以上およびケン化度99モル%以上のPVA系重合体を溶媒に溶解し、カルボキシル基含有重合体を均一に混合または溶解し、好ましくは可塑剤を添加し、更に必要に応じて他の成分を添加して原液を調製し、その原液を用いて製膜してPVA系重合体フィルムを製造する方法が好ましく採用される。
【0037】
製膜に用いる原液の調製方法は特に限定されず、例えばPVA系重合体を溶解した溶液と、カルボキシル基含有重合体を溶解した溶液をそれぞれ個別に調製し、両方の溶液を適当な割合で混合する方法、原液用の溶媒中にPVA系重合体とカルボキシル基含有重合体を一括して仕込んで溶解させる方法、原液用の溶媒中にPVA系重合体およびカルボキシル基含有重合体のいずれか一方を溶解させた後に残りの重合体を溶解させる方法などのいずれの方法で調製してもよい。
【0038】
原液の調製使用される溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、水、ジメチルスルホキシド、水とジメチルスルホキシドの混合溶媒、水とグリセリンの混合溶媒が環境に与える負荷や回収性の点から好適に使用される。
【0039】
PVA系重合体およびカルボキシル基含有重合体を含有する原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される溶媒などの揮発性成分の含有割合)は、PVA系重合体およびカルボキシル基含有重合体の分子量(重合度)、両重合体の配合割合、製膜方法、製膜条件などによって異なり得るが、一般には、50〜95質量%、更には55〜90質量%、特に60〜85質量%であることが好ましい。原液の揮発分率が低すぎると、製膜原液の粘度が高くなり過ぎて、原液調製時の濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点のないPVA系重合体フィルムの製造が困難となる傾向がある。一方、原液の揮発分率が高すぎると、製膜原液の粘度が低くなり過ぎて、目的とする厚みや厚み精度を有するPVA系重合体フィルムの製造が困難になる傾向がある。
【0040】
また、PVA系重合体フィルムを製造するための原液中に界面活性剤を添加しておくことが好ましく、界面活性剤の添加により、製膜性が向上してフィルムの厚さ斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用する金属ロールやベルトからのフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤の種類は特に限定されないが、金属ロールやベルトなどからの剥離性の観点からアニオン性またはノニオン性の界面活性剤が好ましく、特にノニオン性界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
製膜用の原液中に界面活性剤を添加する場合は、その添加量はPVA系重合体100質量部に対して0.01〜0.5質量部、更には0.02〜0.03質量部、特に0.05〜0.1質量部が好ましい。界面活性剤の添加量が0.01質量部よりも少ないと、界面活性剤を添加したことによる製膜性のおよび剥離性の向上効果が現れにくくなり、一方0.5質量部を超えると、界面活性剤がPVA系重合体フィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0042】
上記した原液を用いてPVA系重合体フィルムを製膜する際の製膜方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、上記した原液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(PVA系重合体を含む前記原液を一旦冷却ゲル化した後に溶媒を抽出除去してPVA系重合体フィルムを得る方法)、これらの組み合わせによる方法などを採用することができる。これらのなかでも流延製膜法が、膜の厚さおよび幅が均一で、物性の良好なPVA系重合体フィルムが得られることから好ましく採用される。PVA系重合体フィルムは必要に応じて乾燥や熱処理を行う。
【0043】
製膜にあたっては、T型スリットダイや、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用いたり、キャスト製膜などによって、製膜用の原液を最上流側に位置する回転する加熱した第1ロールの周面上に均一に吐出し(流延し)、この第1の加熱ロール上に吐出(流延)された膜の一方の面から揮発分を蒸発させて乾燥させ、続いて吐出(流延)された膜の他方の面を回転する第2の加熱ロール(乾燥ロール)の周面上を通過させて乾燥し、その下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱ロールの周面上で更に乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させて乾燥した後、巻き取り装置に巻き取る方法が工業的には好ましく採用される。ロール乾燥と熱風乾燥は適宜組み合わせて実施することも可能である。
PVA系重合体フィルムを適切な状態に調整するためには、熱処理装置や調湿装置、さらにはそれぞれのロール駆動用のモータや変速機などの速度調整機構が付設されることが望ましい。
原液の吐出から乾燥したPVA系重合体フィルムの製造に至るまでの乾燥処理は、一般に、乾燥温度は50〜150℃、特に60℃〜140℃の温度で行うことが、偏光フィルムを製造する際の延伸性、染色性に優れ、しかも得られる偏光フィルムの偏光性能が良好になる点から好ましい。
【0044】
本発明のPVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造する際の偏光フィルムの製造方法は特に限定されず、PVA系重合体フィルムを原反フィルムとして用いて偏光フィルムを製造する際に従来から採用されているいずれの方法を採用してもよい。
本発明のPVA系重合体フィルムから偏光フィルムを製造するには、例えば、PVA系重合体フィルムの水分調整、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理、さらに必要に応じて熱処理を行えばよく、染色、一軸延伸、固定処理の操作の順序は特に制限されない。また一軸延伸を二段以上の多段で行ってもよい。
【0045】
染色は、ヨウ素を用いて行うのがよく、染色の時期としては、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれの段階であってもよい。通常、染色は、PVA系重合体フィルムをヨウ素―ヨウ化カリウムを含有する溶液(特に水溶液)中に浸漬させることにより行うことが一般的であり、本発明においてもヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液を用いる染色方法が好適に採用される。染色用水溶液におけるヨウ素の濃度を0.01〜0.5質量%、ヨウ化カリウムの濃度を0.01から10質量%にすることが好ましい。また、染色浴の温度は20〜50℃、特に25〜40℃とすることが好ましい。
場合によっては、染色浴を用いずに、ヨウ素、ヨウ化カリウムをPVA系重合体フィルムを製造するための原液中に混ぜて製膜してもよく、その際の処理条件や処理方法は特に制限されない。また、ホウ酸、硼砂などのホウ素化合物を架橋剤として添加して製膜を行っても良い。
【0046】
一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行っても良い。湿式延伸法による場合は、染料を含有する水溶液中での一軸延伸、染料とホウ酸を含有する水溶液によりなる温水中での一軸延伸、染色後の固定処理浴中での一軸延伸、前記の工程に跨った多段延伸、吸水後のPVA系重合体フィルムを用いての空気中での一軸延伸などにより行うことができる。
延伸温度は、特に限定されないが、PVA系重合体フィルムを温水中で湿式延伸する場合は30〜90℃が好ましく、乾熱延伸する場合は50〜180℃が好ましい。
また、一軸延伸の延伸倍率(多段で一軸延伸する場合には合計の延伸倍率)は、得られる偏光フィルムの偏光性能の点から4倍以上、特に5倍以上であることが好ましい。延伸倍率の上限は特に制限されないが、均一延伸の観点から8倍以下であることが好ましい。
【0047】
偏光フィルムの製造に当たっては、PVA系重合体フィルムへの染料の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが多く、本発明でも偏光フィルムの製造に当たって固定処理を行うことが好ましい。固定処理に使用する処理浴としては、通常、ホウ酸、硼砂などのホウ素化合物の1種または2種以上を添加した水溶液を使用する。また、必要に応じて固定処理用の処理浴中にヨウ素化合物や金属化合物を添加してもよい。固定処理用の処理浴におけるホウ素化合物の濃度は、一般に2〜15質量%、特に3〜10質量%程度であることが好ましい。固定処理を行う際の処理浴の温度は15〜60℃、特に25から40℃であることが好ましい。
【0048】
上記した一軸延伸、染色処理、固定処理などを施し、その後得られた偏光フィルムを乾燥する。得られた偏光フィルムの乾燥処理は、30〜150℃、特に50〜100℃で行うことが好ましい。
【0049】
本発明のPVA系重合体フィルムを用いて得られる本発明の偏光フィルムは、下記の実施例に記載する方法で求めたb値が一般に4.0〜5.6の範囲にあり、色相に優れていて、従来のPVA系偏光フィルムのクロスニコル状態での青色波長域の光漏れが少ない。
【0050】
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で且つ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、なかでもPVA系接着剤が好適である。
【0051】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤をコートした後、ガラス基板に貼り合わせて液晶表示装置の部品として使用される。同時に位相差フィルムや視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどと貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0052】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお以下の例において、偏光度および色相は下記の方法により評価した。
【0053】
(1) 偏光フィルムの偏光度:
(i)透過率
以下の実施例または比較例で得られた偏光フィルムの幅方向の中央部から、偏光フィルムの配向方向に平行に4cm×4cmの正方形のサンプルを2枚採取し、それぞれについて日立製作所製の分光光度計U−4100(積分球付属)を用いて、JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2度視野の可視光領域の視感度補正を行い、1枚の偏光フィルムサンプルについて、延伸軸方向に対して45度傾けた場合の光の透過率と−45度傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値(Y1)を求めた。
もう一枚の偏光フィルムサンプルについても、前記と同様にして45度傾けた場合の光の透過率と−45度傾けた場合の光の透過率を測定して、それらの平均値(Y2)を求めた。
前記で求めたY1とY2を平均して偏光フィルムの透過率(Y)(%)とした。
【0054】
(ii)偏光度:
上記(i)で採取した2枚の偏光フィルムを、その配向方向が平行になるように重ねた場合の光の透過率(Y‖)、および配向方向が直交するように重ねた場合の光の透過率(Y⊥)を、上記透過率の測定方法と同様の方法にて測定し、下記の式から偏光度を求めた。
偏光度(V/%)={(Y‖―Y⊥)/(Y‖+Y⊥)}1/2×100
【0055】
(2)偏光フィルムの色相:
偏光フィルムの青色光の漏れの有無を評価するために、ハンターLab表色系により、b値を算出して評価した。上記(1)の(i)で採取した2枚の偏光フィルムサンプルをその延伸軸方向が平行になるように重ねた場合のb値(b‖)、および延伸軸方向が直交するように重ねた場合のb値(b⊥)を、上記透過率の測定方法と同様の方法にて測定し、下記の式からb値を求めた。

b値 = b‖−b⊥
【0056】
《実施例1》
(1) 平均重合度2400、ケン化度99.9モル%以上のPVA系重合体100質量部と、重量平均分子量5000のポリアクリル酸(和光純薬工業(株)社製)10質量部と可塑剤としてグリセリン12質量部のPVA系水溶液を60℃の金属ロール上で乾燥して厚みが75μmのPVA系フィルムを得た。さらに得られたフィルムを枠に固定し、120℃で3分間熱処理をした。
(2) 上記(1)で得られたPVA系重合体フィルムを30℃の純水に30秒間浸漬した後、ヨウ素を0.04質量%、ヨウ化カリウムを4質量%およびホウ酸を4質量%の割合で含有する水溶液(染色浴)(温度30℃)に1分間浸漬してヨウ素を吸着させた。次いで、ホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4質量%、50℃)中で6倍に一軸延伸した後、さらにヨウ化カリウムを4質量%およびホウ酸を4質量%の割合で含有する水溶液(35℃)に4分間浸漬した。その後、50℃で4分間乾燥して偏光フィルムを得た。
これにより得られた偏光フィルムについて、偏光度および色相を上記した方法で評価した。その結果を表1に示す。
(3) 下記の表1にみるように、この実施例1で得られた偏光フィルムの透過度は44.0%、偏光度は99.71%、b値は4.7であり、染色斑などの外観不良もなく、色相の点では従来のPVA系フィルムからなるPVA系偏光フィルムに比べて大きく向上していた。
【0057】
《実施例2》
(1) PVA系重合体としてPVAの代わりに、平均重合度2400、ケン化度99.3モル%およびエチレン変性量(共重合割合)2.5モル%のエチレン変性PVA系重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルム用PVA系重合体フィルムを作製した。
(2) 上記(1)で得られたPVA系重合体フィルムを用いて、実施例1の(1)と同様にして偏光フィルムを得た。これにより得られた偏光フィルムについて、偏光度とb値を上記した方法で評価した。その結果を表1に示す。
(3) 下記の表1にみるように、この実施例1で得られた偏光フィルムは透過度44.0%、偏光度は99.76%、b値は5.6であり、色相の点で従来のPVA系偏光フィルムに比べて大きく向上していた。
【0058】
《比較例1》
(1) 原液の調製時にポリアクリル酸を用いなかった以外は、実施例1の(1)と同様にして偏光フィルム用PVA系重合体フィルムを製造し、それを用いて実施例1の(2)と同様にして偏光フィルムを作製した。
(2) 上記(1)で得られた偏光フィルムについて、偏光度および色相を上記した方法で評価した。その結果を下記の表2に示す。
(3) 下記の表2にみるように、この比較例1で得られた偏光フィルムの透過度は44.0%、偏光度は99.75%、b値は6.0であり、実施例1、2に比べて色相の点で劣っていた。
【0059】
《比較例2》
(1) PVA系重合体100質量部に対して、重量平均分子量5000のポリアクリル酸を40質量部の割合で配合した以外は、実施例1の(1)と同様にして偏光フィルム用PVA系重合体フィルムを製造した。
(2) 上記(1)で得られたPVA系重合体フィルムを用いて実施例1の(2)と同様にして偏光フィルムを製造しようとしたところ、偏光フィルムを製造する際の水溶液中での膨潤過程でPVA系重合体の一部が溶解してしまい、偏光フィルムを作製することができなかった。
【0060】
《比較例3》
(1) 平均重合度500およびケン化度99.0モル%のPVA系重合体を用いたこと以外は、実施例の(1)と同様にして偏光フィルム用PVA系重合体フィルムを製造した。
(2) 上記(1)で得られたPVA系重合体フィルムを用いて実施例1の(2)と同様にして偏光フィルムを製造しようとしたところ、偏光フィルムを製造する際の水溶液中での膨潤過程でPVA系重合体の一部が溶解してしまい、偏光フィルムを作製することができなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
上記の表1および2の結果からみるように、実施例1および2では、重合度2000以上およびケン化度99モル%以上のPVA系重合体とカルボキシル基含有重合体を含有するPVA系重合体組成物から製造したPVA系重合体フィルムを用いて偏光フィルムを作製したことにより、得られた偏光フィルムは、青色光の漏れを表すb値が低く、色相が大きく改善されている。
【0064】
これに対して、カルボキシル基含有重合体を含有せずにPVA系重合体のみを用いて作製したPVA系重合体フィルムから作製した比較例1の偏光フィルムは、b値が高く、実施例1、2の偏光フィルムに比べて色相の点で劣っている。
【0065】
また、カルボキシル基含有重合体をPVA系重合体100質量部に対して30質量部を超えて含有するPVA系重合体組成物よりなるPVA系重合体フィルムを用いた比較例2の変更フィルム、 重合度が2000未満(重合度500)のPVA系重合体とカルボキシル基含有重合体よりなるPVA系重合体組成物から製造した比較例4のフィルムは、偏光フィルムの作製時にフィルムが水溶液中で溶解してしまい、偏光フィルムを作製することができない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、従来技術では達成することができなかった、色相に優れていて、2枚の偏光フィルムを直交させたクロスニコル状態での青色光の光漏れが少ない偏光フィルム、および該偏光フィルムを作製するためのPVA系重合体フィルム(原反フィルム)を提供することができる。
本発明の偏光フィルム用PVA系重合体フィルムを用いて作製した偏光フィルムは、特に高コントラストおよび高い色再現性が要求される液晶表示装置や液晶テレビの部品用の部材である偏光板の作製に有効に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度2000以上およびケン化度99モル%以上のポリビニルアルコール系重合体と、カルボキシル基が中和されていてもよいカルボキシル基含有重合体を含有し、カルボキシル基含有重合体の含有量がポリビニルアルコール系重合体100質量部に対して1〜30質量部であるポリビニルアルコール系重合体組成物から形成されていることを特徴とする、偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項2】
カルボキシル基含有重合体が、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸の中和物の少なくとも一方である請求項1に記載の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルム。
【請求項3】
重合度2000以上およびケン化度99モル%以上のポリビニルアルコール系重合体を溶解し且つカルボキシル基が中和されていてもよいカルボキシル基含有重合体を均一に混合した原液を用いて製膜することを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムを用いて作製した偏光フィルム。
【請求項5】
請求項1または2の偏光フィルム用ポリビニルアルコール系重合体フィルムに、一軸延伸、ヨウ素による染色およびホウ素化合物による処理を施して作製した請求項4に記載の偏光フィルム。

【公開番号】特開2007−199248(P2007−199248A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16176(P2006−16176)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】