説明

偏光フィルム

【課題】安価で、薄膜で、熱劣化耐性に優れ、かつ高い偏光度を有する偏光フィルムを提供する。
【解決手段】繰返し単位として下記一般式(1)で表される構造を少なくとも有する油溶性熱可塑性樹脂と二色性色素とからフィルムを形成し、形成したフィルムを延伸処理することを特徴とする偏光フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な偏光フィルムに関する。更に詳しくは、本発明は、特定の油溶性熱可塑性樹脂を用いた安価で薄膜で熱劣化耐性に優れ、かつ高い偏光度を有する偏光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶ディスプレイの構成要素として偏光板が使用されている。図1は、液晶ディスプレイ用の偏光板の具体的構成を示す模式図である。この偏光板は、偏光フィルム1と、その両面に積層形成された保護フィルム2A、2Bとを備え、一方の保護フィルム2Aの表面には、接着剤層3を介して、位相差フィルム4が設けられている。
【0003】
偏光板を構成する偏光フィルム1は、例えば、水溶性の二色性色素で染色した高分子フィルムを延伸処理することによって形成される。偏光フィルム1を構成する高分子フィルムとしては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム等が使用されている。
【0004】
偏光板を構成する保護フィルム2A、2Bは、偏光フィルム1を保護することにより、その耐久性および機械的強度を担保するものであり、保護フィルム2A、2Bとしては、通常、トリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルムが使用されている。接着剤層3を介して設けられた位相差フィルム4は、通常、ポリカーボネート(PC)からなるフィルムを延伸処理することにより形成される。
【0005】
しかしながら、PVA系フィルムは充分な耐久性(耐湿性および耐熱性)を有していないため、PVA系の偏光フィルムを備えた偏光板は、高温高湿環境下に曝されることによって、その偏光性能が急激に低下することがある。また、PVA系の偏光フィルムは、吸水に伴って変形(寸法変化)し、液晶セル内の液晶を圧迫して表示特性などに悪影響を与えることもある。
【0006】
PVA系の偏光フィルムの欠点である耐久性が改良された偏光フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂に染料を含有させた偏光フィルムが知られている。しかしながら、この偏光フィルムは充分な偏光特性を有していない。また、PET系樹脂は高い屈折率を有するため、光反射率が高く、結果として光透過率が低下してしまう。
【0007】
また、熱安定および耐光性の改良された二色性偏光子として、特許文献1には、二色性色素のリオトロピック液晶相から流動配向により形成された偏光素子が開示されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この偏光素子は偏光性能の点で現在のヨウ素−PVA系の偏光子に比べて低く、十分満足いくものではない。
【0008】
さらにまた、熱可塑性ノルボルネン系樹脂に二色性色素を溶融製膜および溶液製膜した偏光フィルムが開示されており(特許文献2および3参照。)、高い耐久性を有するが、偏光特性の点では十分ではなかった。また、これらの偏光フィルムは、位相差フィルム、反射防止フィルム等との機能性フィルムとの貼合適正に劣っているという問題点があった。
【0009】
一方、熱可塑性樹脂および二色性染料を含む樹脂組成物を溶融押出し、一軸延伸した投写スクリーン用偏光フィルムが開示されている(特許文献4参照。)。しかしながら本特許に開示された樹脂を用いた場合の偏光度は、現在のヨウ素−PVA系の偏光子に比べて低く、そのため、使用分野も投写スクリーン用偏光フィルムに限られていた。
【特許文献1】特表平8−511109号公報
【特許文献2】特開2001−356213号公報
【特許文献3】特開2004−333849号公報
【特許文献4】特開平6−148427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。本発明の目的は、安価で、薄膜で、熱劣化耐性に優れ、かつ高い偏光度を有する偏光フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0012】
1.繰返し単位として下記一般式(1)で表される構造を少なくとも有する油溶性熱可塑性樹脂と二色性色素とからフィルムを形成し、形成したフィルムを延伸処理することを特徴とする偏光フィルム。
【0013】
【化1】

【0014】
[式中、Zは、炭素原子、酸素原子とともに6員の複素環を形成する非金属原子群を表し、R1,R2,R3,R4は各々水素原子または置換基を表し、Xはメチレン基または酸素原子を表す。]
2.前記一般式(1)で表される構造が、下記一般式(2)で表される構造であることを特徴とする前記1に記載の偏光フィルム。
【0015】
【化2】

【0016】
[式中、R3,R4は、各々水素原子または置換基を表す]
3.前記一般式(1)で表される構造が、下記一般式(3)で表される構造であることを特徴とする前記1に記載の偏光フィルム。
【0017】
【化3】

【0018】
[式中、R5,R6,R7は、各々アルキル基、アリール基、アシル基またはアシルオキシ基を表す。]
4.フィルムを形成する際に0.05MPa〜10MPaのせん断力をかけて形成することを特徴とする前記1〜3の何れか1項に記載の偏光フィルム。
【0019】
5.二色性色素が、酢酸エチルに対する25℃での溶解度が1質量%以上の油溶性であることを特徴とする前記1〜4の何れか1項に記載の偏光フィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明の偏光フィルムは、優れた偏光性能を有するとともに、耐湿性、耐熱性および光学特性などに優れている。本発明の偏光板は、従来公知の偏光板よりも、耐湿性、耐熱性および光学特性などに優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
〈油溶性熱可塑性樹脂〉
本発明の偏光フィルムを構成する油溶性熱可塑性樹脂は、繰返し単位として前記一般式(1)で表される構造を少なくとも有する油溶性熱可塑性樹脂である。
【0023】
一般式(1)において、Zは、炭素原子、酸素原子とともに6員の複素環を形成する非金属原子群を表し、例えば、ピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環などを挙げることができる。
【0024】
これらの6員の複素環は置換基を有していてもよく、これらの置換基としては特に制限はないが、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロ環基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基等の有機基が好ましい。これらの有機基はさらに置換基を有してもよい。これらの置換基の内、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基、アルコキシ基が特に好ましい。
【0025】
一般式(1)において、R1,R2,R3,R4は各々水素原子または置換基を表し、置換基としては特に制限はないが、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロ環基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基等の有機基が好ましい。これらの有機基はさらに置換基を有してもよい。これらの置換基の内、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基、アルコキシ基が特に好ましい。
【0026】
一般式(1)において、Xは酸素原子またはメチレン基を表す。
【0027】
本発明の繰返し単位として一般式(1)で表される構造を少なくとも有する油溶性熱可塑性樹脂は、有機溶媒に対する溶解性を有する樹脂であり、好ましくは酢酸エチルに対する25℃での溶解度が1質量%以上、特に好ましくは3質量%以上の樹脂である。
【0028】
本発明の偏光フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は120℃以上であることが好ましく、更に好ましくは140℃以上とされる。また、当該熱可塑性樹脂の飽和吸水率は1質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.8質量%以下とされる。ガラス転移温度(Tg)が120℃以上で、飽和吸水率が1質量%以下である熱可塑性樹脂を本発明の偏光フィルムの樹脂成分として使用することにより、当該偏光フィルムから構成される液晶ディスプレイを過酷な環境下で長時間使用しても、光学的特性の低下を防止することができる。上記一般式(1)で表わされる構造を有する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)および飽和吸水率は、Z,R1,R2,R3,R4,X等の種類を選択することにより制御することができる。
【0029】
本発明に使用される油溶性熱可塑性樹脂は、好ましくは、繰返し単位として前記一般式(2)もしくは(3)で表される構造を少なくとも有する油溶性熱可塑性樹脂である。
【0030】
一般式(2)において、R3,R4の表す置換基としては、特に制限はないが、アルキル基、アリール基、複素環基が好ましい。
【0031】
上記油溶性熱可塑性は、繰返し単位として一般式(2)で表される構造を少なくとも有するものであるが、一般式(2)以外の繰返し単位を有するものでもよい。この一般式(2)以外の繰返し単位としては特に限定されず、例えば、下記一般式(4)で示される繰返し単位などが例示される。
【0032】
【化4】

【0033】
[式中、R8は、水素原子または置換基を表す。]
8の表す置換基としては、酸素原子に置換可能な基であれば特に制限はないが、アルキル基、アリール基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基などをその例として挙げられる。R8は好ましくは水素原子またはアシル基である。
【0034】
一般式(3)において、R5,R6,R7は、各々水素原子、アルキル基、アリール基、またはアセチル基を表し、好ましくは、水素原子またはアセチル基を表す。
【0035】
本発明の偏光フィルムを構成する油溶性熱可塑性樹脂の重量平均分子量としては、十分な強度を得るために、通常5,000〜1,000,000とされ、好ましくは8,000〜200,000とされる。
【0036】
以下、本発明の熱可塑性樹脂の具体例を示す。
【0037】
但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化5】

【0039】
【表1】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
尚、一般式(6)中の置換度は、セルロース系樹脂の構成単位であるβ−グルコースの3つの水酸基が置換されてる割合を示し、3つ全部が完全に置換された場合に3、3つの水酸基の内の半分が置換された場合に1.5となる。
【0043】
〈二色性色素〉
本発明の偏光フィルムは、上記の油溶性熱可塑性樹脂(基材)中に、二色性色素から選ばれた少なくとも1種が含有されて構成されている。
【0044】
熱可塑性樹脂中に含有される二色性色素としては、分子構造上二色性を有する直接染料、分散染料および酸性染料などから選択することができ、これらのなかで、偏光フィルムの基材樹脂の軟化点において、分解などの変質を起こさない二色性色素を好ましく使用することができる。具体的には、黄色系、橙色系、青色系、紫色系、赤色系などの染料が使用できる。代表的な二色性色素としては、例えば、C.I.Direct系のブラック17,19および154、ブラウン44,106,195,210および223、レッド2,23,28,31,37,39,81,240,242および247、ブルー1,15,22,78,90,98,151,168,202,236,249および270、バイオレット9,12,51および98、グリーン1および85、イエロー8,12,44,86および87、オレンジ26,39,106および107のような直接染料;C.I.Disperse系のブルー214、レッド60、イエロー56などの分散染料を挙げることができる。
【0045】
偏光フィルムでは、通常、ニュートラルグレイ色が使用される。可視光領域である400〜700nmに一定の吸収を有する偏光フィルムを得るためには、二色性色素を2種以上併用する。さらに、本発明では、1種または2種以上の二色性色素と、ヨウ素とを併用して色相を調整してもよい。
【0046】
上記の二色性色素として好適な化合物としても特に限定されるものでないが、アゾ系、キノフタロン系、アントラキノン系およびペリレン系から選ばれた化合物を挙げることができ、このような化合物からなる色素を使用することにより、本発明の効果を有効に得ることができる。
【0047】
これらの二色性色素の内、熱可塑性樹脂との相互作用の観点において、分散染料、油溶性染料が好ましく用いることができる。油溶性染料とは、有機溶媒に対する溶解性を有する染料であり、特に好ましくは酢酸エチルに対する25℃での溶解度が1質量%以上の油溶性染料である。
【0048】
以下、本発明の二色性色素の具体例を示す。
【0049】
【化8】

【0050】
【化9】

【0051】
〈その他の添加剤〉
本発明の偏光フィルムを構成する熱可塑性樹脂には、公知の可塑剤、例えば、フタル酸エステル系可塑剤(ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等)、リン酸エステル系可塑剤(トリクレジルフォスフェート等)、グリセリンエステル系可塑剤(グリセリントリベンゾエート等)などを添加することによって、可塑化温度を低下させることができる。
【0052】
これらの可塑剤の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、通常1〜30質量部、好ましくは5〜20質量部である。可塑剤の使用量が過小である場合には、可塑化温度が高く、加工性が不十分であり、過大である場合には、フィルム表面からブリードしたり、透明性が低下するなどの問題点が生じ好ましくない。
【0053】
本発明の偏光フィルムを構成する熱可塑性樹脂には、公知の酸化防止剤、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2′−ジオキシ−3,3′−ジ−t−ブチル−5,5′−ジメチルフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−ジオキシ−3,3′−ジ−t−ブチル−5,5′−ジエチルフェニルメタン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]、2,4,8,10−テトラオキスピロ[5,5]ウンデカン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト;紫外線吸収剤、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、6−ベンゾトリアゾイル−2、4−tert−アミルフェノールなどを添加することによって安定化することができる。また、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。
【0054】
これらの酸化防止剤の添加量は、熱可塑性セルロース系樹脂100質量部に対して、通常0.1〜3質量部、好ましくは0.2〜2質量部である。酸化防止剤の使用量が過少である場合には、耐久性の改良効果が不十分であり、過大である場合にはフィルム表面からブリードしたり、透明性が低下するなどの問題点が生じ好ましくない。
【0055】
二色性色素の使用量は、基材樹脂に対する色素の着色能力および目的とする偏光フィルムの厚さを考慮して決定される。例えば、厚さ30〜200μmの偏光フィルムを得る場合には、基材樹脂に対する染料の割合は0.01〜10質量%であることが好ましい。また、必要に応じて、染色助剤を使用してもい。
【0056】
上記二色性色素は、液晶化合物と併用して用いても良く、使用する液晶としては例えば、4−シアノ−4′−n−ペンチルビフェニル、4−シアノ−4′−n−プロポキシビフェニル、4−シアノ−4′−n−ペントキシビフェニル、4−シアノ−4′−n−オクトキシビフェニル、4−シアノ−4′−n−ペンチルターフェニルなどのシアノ−ビフェニル系液晶混合物(例えば、メルク社商品記号E−8)、あるいはトランス−4−n−プロピル−(4−シアノフェニル)−シクロヘキサン、トランス−4−n−ペンチル−(4−シアノフェニル)−シクロヘキサン、トランス−4−n−ヘプチル−(4−シアノフェニル)−シクロヘキサン、トランス−4−n−ペンチル−(4′−シアノビフェニル)−シクロヘキサンなどのシクロヘキサン系液晶混合物(例えば、メルク社商品記号ZLI−1132、ZLI−1840)などをあげることができる。
【0057】
液晶としては、上記の例に限定されるものでなく、その他のビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、シッフベース系液晶、エステル系液晶、ピリミジン系液晶、テトラジン系液晶、その他の液晶が単体または混合物として使用できる。
【0058】
〈偏光フィルムの製造方法〉
本発明の偏光フィルムを製造する方法としては、油溶性熱可塑性樹脂と二色性色素とを有機溶媒に溶解もしくは熱溶融し、基材上へキャストしてフィルムを形成し、フィルムを基材から剥離した後、形成したフィルムを延伸処理することによって製造される。
【0059】
もしくは、油溶性熱可塑性樹脂と二色性色素とを有機溶媒に溶解もしくは熱溶融し、ベース上に塗布して、形成したフィルムを延伸処理することによって製造される。
【0060】
使用する有機溶媒としては、例えばメチレンクロライド、クロロホルム等のハロゲン含有溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等のセロソルブ系溶媒;ジアセトンアルコール、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、シクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノン、1,2−ジメチルシクロヘキサン等のケトン系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;1−ペンタノール、1−ブタノール等のアルコール系溶媒を挙げることができ、単独または2種以上を混合して用いられる。
【0061】
熱可塑性樹脂を溶媒に溶解または分散させる際には、該樹脂の濃度を、通常は10〜50質量%、好ましくは15〜40質量%にする。樹脂濃度をあまり低くすると、フィルムの厚みを確保することが困難になり、また、溶媒蒸発にともなう発泡等によりフィルムの表面平滑性が得にくくなる等の問題が生じることがある。一方、樹脂濃度が高すぎると、溶液粘度が高くなるため色素が均一に分散しにくくなったり、得られる光学用フィルムの厚みと表面が均一になりにくくなる。
【0062】
熱可塑性樹脂と二色性色素を熱溶融する場合は、併用する可塑剤、酸化防止剤とともに混合し、120〜350℃に加熱することによって、好ましくは180〜270℃に加熱することによって、溶融させるができる。
【0063】
次いで、この溶液もしくは溶融物を、コーター、ダイス等により、あるいはスプレー、ハケ、ロールスピンコート、ディッピング等の手段を用いて基材もしくはベース上にキャストもしくは塗布して、フィルムを形成する。
【0064】
コーターでフィルムを形成する場合には、例えばバーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ワイヤバー、ロールコーター、リップコーター、Tダイ、バー付きTダイ等が用いられる。
【0065】
フィルムを形成する際には、0.05MPa〜10MPaのせん断力をかけてフィルムを形成するのが、好ましい。0.05MPa以下のせん断力では、二色性色素を十分に配向させることができず、優れた偏光特性を有する偏光フィルムを得ることが困難となる。一方、10MPa以上のせん断力では、フィルムのむらが生じやすく、結果としてフィルム生産性が極端に悪化してしまい好ましくない。0.10MPa〜5MPaのせん断力をかけてフィルムを形成するのがより好ましい。
【0066】
キャストする基材としては、例えば金属ドラム;スチールベルト;ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリテトラフルオロエチレン製ベルト等が用いられる。
【0067】
また、塗布するベースとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセチルプロピオネート(CAP)等のセルロースフィルム、ノルボルネン系樹脂等が用いられる。これらの内、セルロースアセチルプロピオネート樹脂、ノルボルネン系樹脂等の光学的に均一でレターデーションの小さい透明高分子フィルムが好ましい。
【0068】
基材へキャストしてフィルムを形成した場合には、得られたフィルムを乾燥して溶媒を除去した後、基材からフィルムを剥離する。
【0069】
その後、フィルムを延伸処理して、偏光フィルムを形成する。この延伸処理は、公知の一軸延伸法、すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、縦一軸延伸法で行うことができる。また、分子の配向に影響のない範囲で延伸した後に、分子を配向させるべく一軸方向に延伸してもよい。
【0070】
一軸延伸処理における延伸倍率としては、2〜9倍であることが好ましく、さらに好ましくは3〜7倍である。延伸倍率が2倍未満である場合には、二色性色素を十分に配向させることができず、優れた偏光特性を有する偏光フィルムを得ることが困難となる。一方、本発明の樹脂からなるフィルムを9倍を超える倍率で延伸することはきわめて困難であり、実用的ではない。なお、延伸処理後、当該処理温度よりも高温条件で延伸フィルムを熱処理することが好ましい。
【0071】
こうして得られた偏光フィルム(延伸フィルム)の厚さは、通常10〜200μmであり、好ましくは20〜100μmである。
【0072】
本発明の方法により得られた偏光フィルムは、下記のいずれかの構成:
(1)この偏光フィルムの単層構成(基材へキャストした場合)
(2)この偏光フィルムの2層構成(ベースへ塗布した場合)
(3)この偏光フィルムと、保護フィルムとの積層構成
(4)この偏光フィルムと、保護フィルムと、位相差フィルムとの積層構成とすることにより、偏光板として使用される。
【0073】
本発明の偏光フィルムは、耐久性、特に耐湿性に優れていることにより、上記(1)、(2)に示したように、保護フィルムを貼り合わせることなく、単独で偏光板を構成することができる。上記(3)の層構成を有する本発明の偏光板は、本発明の偏光フィルムの両面もしくは片側に、保護フィルムが貼り合わされてなり、上記(4)の層構成を有する本発明の偏光板は、前記保護フィルムの一方の表面に、接着剤層を介して位相差フィルムが設けられてなるものである。
【0074】
〈保護フィルム〉
本発明の偏光板(例えば、上記(3)の層構成を有する偏光板)を構成する保護フィルムは、光学的に均一でレターデーションの小さい透明高分子フィルムから構成される。保護フィルムを構成する高分子材料としては、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)などのセルロース系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレートなどのアクリル樹脂系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリエーテルスルホン系フィルム、ポリスルホン系フィルム、ポリイミド系フィルム、熱可塑性ノルボルネン系樹脂フィルムを用いることができる。偏光フィルムと保護フィルム、位相差フィルムを貼合するには粘着剤や接着剤を使用する事が出来る。これらの粘着剤、接着剤としては、透明性に優れたものが好ましく、具体例としては天然ゴム、合成ゴム、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、ポリビニルエーテル、アクリル系、変成ポリオレフィン系、およびこれらにイソシアナートなどの硬化剤を添加した硬化型粘着剤、ポリウレタン系樹脂溶液とポリイソシアナート系樹脂溶液を混合するドライラミネート用接着剤、合成ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられる。
【0075】
また、更に偏光板の片面または両面に各種機能層を設けることも可能であり、機能層としては、たとえば感圧接着剤層、アンチグレア層、ハードコート層、アンチリフレクション層、ハーフリフレクション層、反射層、蓄光層、拡散層、エレクトロルミネッセンス層などが挙げられ、更に各種2層以上の組み合わせをすることも可能で、たとえばアンチグレア層とアンチリフレクション層、蓄光層と反射層、蓄光層と光拡散層などの組み合わせが挙げられる。ただしこれらに限定されることはない。
【0076】
本発明の偏光板の有する耐湿性、耐熱性および光学特性を更に向上させることができるとともに、本発明の偏光フィルムに対する接着性に優れているという観点から、少なくとも一方の保護フィルムが熱可塑性セルロース系樹脂(偏光フィルムの基材樹脂と同種の樹脂)からなることが好ましく、両方の保護フィルムが熱可塑性セルロース系樹脂からなることが特に好ましい。
【0077】
本発明の偏光板を構成する保護フィルムは、上記の高分子材料を使用する溶液流延法(キャスティング法)または溶融成形法により好適に製造することができる。保護フィルムの厚さとしては、通常20〜250μmとされ、好ましくは50〜190μmとされる。
【0078】
本発明の偏光板を構成する保護フィルムは、特開平8−43812号公報に記載されているように、位相差フィルムの機能を有するものであってもよい。
【0079】
〈位相差フィルム〉
本発明の偏光板(例えば、上記(4)の層構成を有する偏光板)に設けられる位相差フィルムは、延伸処理により得られる複屈折が光学的に均一なものとなる高分子フィルムから構成される。位相差フィルムを構成する高分子材料としては、ポリカーボネート(PC)、ビニロン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレンナイロン、酢酸ブチルセルロール、セロハン、熱可塑性セルロース系樹脂を挙げることができる。これらのうち、本発明の偏光板の有する耐湿性、耐熱性および光学特性を更に向上させることができるという観点から、熱可塑性セルロース系樹脂(偏光フィルムの基材樹脂と同種の樹脂)が好ましい。
【0080】
位相差フィルムを製造する方法としては、溶液流延法および溶融成形法により作製した上記の高分子材料からなるフィルムを、延伸処理または表面プレス処理する方法を挙げることができる。「溶液流延法」の具体的方法としては、特開平5−148413号公報に記載の方法を挙げることができる。また、「溶融成形法」の具体的方法としては、特開平4−59218号公報に記載の押出成形法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などを挙げることができる。位相差フィルムを製造するための「延伸処理」としては、公知の一軸延伸法、すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、周遠の異なるロールを利用する縦一軸延伸法などを用いることができる。また、分子の配向に影響のない範囲で延伸した後、分子を配向させるべく一軸方向に延伸する二軸延伸であってもよい。
【0081】
本発明の偏光板は、公知の液晶基板、透明電極層、液晶配向層、ガスバリアなどを積層し、液晶ディスプレイとして用いられる。本発明の偏光板を用いた液晶ディスプレイは携帯電話、ディジタル情報端末、ポケットベル(登録商標)、ナビゲーションなどの車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイなどに用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」および「%」は、特に断りのない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
【0083】
実施例1
<調製例1>
(a)400〜500nmに主な吸収波長帯を有するオレンジ系の二色性色素:(1)と、(b)470〜600nmに主な吸収波長帯を有するレッド系の二色性色素:(4)と、(c)520〜650nmに主な吸収波長帯を有するブルー系の二色性色素:(7)と、(d)600〜700nmに主な吸収波長帯を有するグリーン系の二色性色素:(9)とを、a:b:c:d(質量比)が5:27:40:25となる割合で色素を混成した。
【0084】
表2に示す樹脂100質量部をメチレンクロライド300質量部に溶解してドープ溶液を調製し、このドープ溶液へ上記の混成色素0.005質量部を添加し、混合して均一な溶液を調製した。
【0085】
この溶液を、キャストフィルム製造装置で表2に示すせん断力をかけて製膜し、二色性色素を含有する樹脂フィルム(フィルムの平均厚み:200μm)を得た。
【0086】
得られたフィルムをテンター延伸機に装着し、160℃の雰囲気下で縦一軸方向へ5倍延伸することにより偏光フィルム(1)を得た。
【0087】
<調製例2〜14>
偏光フィルム(1)と同様に、表2に示す二色性色素、樹脂、せん断力にて偏向フィルム(2)〜(14)を作製した。
【0088】
<保護フィルム調製例(TACからなる保護フィルム)>
厚さ80μmのTACフィルム「コニタック」(コニカミノルタオプト(株)製)を用意した。以下、このTACフィルムを「保護フィルム(i)」という。
【0089】
<比較調製例>
ヨウ素5.0g、ヨウ化カリウム250g、ホウ酸10g、水1000gからなる水溶液(40℃)中に、厚さ50μmのPVAフィルムを浸漬しながら約5分間で4倍に一軸延伸し、得られた延伸フィルムの緊張を保持しながら当該延伸フィルムの表面をアルコールで洗浄し、次いで、乾燥することにより、延伸フィルム(比較用の偏光フィルム)を得た。以下、この延伸フィルムを「比較偏光フィルム(1)」という。
【0090】
<実施例1〜14>
調製例1〜14で得られた偏光フィルムを、そのまま偏光板(本発明の偏光板)とした。
【0091】
<実施例15〜28>
下記表3に示す組合せに従って、調製例1〜14で得られた偏光フィルム(1)〜(14)の各々の両面に、保護フィルム調製例で用意した保護フィルム(i)を貼り合わせることにより、本発明の偏光板を製造した。
【0092】
<比較例1>
下記表3に示す組合せに従って、比較調製例1で得られた比較偏光フィルム(1)の両面に、保護フィルム調製例で用意した保護フィルム(i)を貼り合わせることにより、比較用の偏光板を製造した。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
<評価>
このようにして得られた偏光フィルムについて、可視域(400〜900nm)の光線透過率および偏光度を測定することにより、光学特性(透明性)および偏光性能を評価した。また、温度80℃、相対湿度90%の高温高湿度環境下に偏光フィルムを100時間放置した後、偏光度を再度測定することにより耐久性(耐湿性・耐熱性)を評価した。また、偏光フィルムの平面性を評価した。
【0096】
結果を表4に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
表4から、本発明の樹脂を用いた偏光フィルムは、優れた偏光特性と優れた熱劣化耐性を有していることが判る。特に一般式(2)または(3)で表される樹脂を用いた場合に、優れていることが判る。また、高いせん断力でフィルムを形成した場合に優れた偏光特性を有するが、10MPa以上のせん断力でフィルムを形成すると、偏光フィルムの平面性が劣化し始めていることが判る。
【0099】
実施例2
<調製例21>
表5に示す熱可塑性樹脂100部、可塑剤としてグリセリントリベンゾエート10部、酸化防止剤として、Irganox−1010(Ciba製)3部と表5に示す二色性色素3部を200℃に窒素気流下で溶融混練し、表5に示すせん断力をかけて、実施例1で示した保護フィルム(i)に押出塗布して200μmの樹脂フィルムを得た。このフィルムを、テンター延伸機に装着し、160℃の雰囲気下で縦一軸方向に5倍延伸し、延伸フィルム(本発明の偏光フィルム)を得た。以下、この延伸フィルムを「偏光フィルム(21)」という。
【0100】
<調製例22〜30(偏光フィルムの製造)>
熱可塑性樹脂および二色性色素を表5に示す樹脂および色素に代えた以外は調製例21と同様にして偏光フィルム(22)〜(30)を作製した。
【0101】
<実施例31〜40>
調製例21〜30で得られた偏光フィルムを、そのまま偏光板(本発明の偏光板)とした。
【0102】
【表5】

【0103】
【表6】

【0104】
<評価>
得られた偏光板を実施例1と同様に光学特性(透明性)および偏光性能を評価した。また、温度80℃、相対湿度90%の高温高湿度環境下に偏光フィルムを100時間放置した後、偏光度を再度測定することにより耐久性(耐湿性・耐熱性)を評価した。また、偏光フィルムの平面性を評価した。
【0105】
結果を表7に示す。
【0106】
【表7】

【0107】
表7から、本発明の樹脂を用いた偏光フィルムは、優れた偏光特性と優れた熱劣化耐性を有していることが判る。また、高いせん断力でフィルムを形成した場合に優れた偏光特性を有するが、10MPa以上のせん断力でフィルムを形成すると、偏光フィルムの平面性が劣化し始めていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】液晶ディスプレイ用の偏光板の具体的構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0109】
1 偏光フィルム
2A,2B 保護フィルム
3 接着剤層
4 位相差フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰返し単位として下記一般式(1)で表される構造を少なくとも有する油溶性熱可塑性樹脂と二色性色素とからフィルムを形成し、形成したフィルムを延伸処理することを特徴とする偏光フィルム。
【化1】

[式中、Zは、炭素原子、酸素原子とともに6員の複素環を形成する非金属原子群を表し、R1,R2,R3,R4は各々水素原子または置換基を表し、Xはメチレン基または酸素原子を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造が、下記一般式(2)で表される構造であることを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルム。
【化2】

[式中、R3,R4は、各々水素原子または置換基を表す]
【請求項3】
前記一般式(1)で表される構造が、下記一般式(3)で表される構造であることを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルム。
【化3】

[式中、R5,R6,R7は、各々アルキル基、アリール基、アシル基またはアシルオキシ基を表す。]
【請求項4】
フィルムを形成する際に0.05MPa〜10MPaのせん断力をかけて形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の偏光フィルム。
【請求項5】
二色性色素が、酢酸エチルに対する25℃での溶解度が1質量%以上の油溶性であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の偏光フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−316617(P2007−316617A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110334(P2007−110334)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】