説明

偏光レンズとその製造方法

【課題】製造工程における加熱処理によって面変形、及び偏光膜の変質が殆どない偏光レンズと、その製造方法を提供すること。
【解決手段】偏光膜を含み、プラスチックレンズ用モノマーを母剤とする樹脂組成物を注型重合硬化して形成される偏光レンズであって、前記樹脂組成物の重合硬化したレンズ部分が、以下の条件を満足することを特徴とする偏光レンズ。 0.9 ≦ Tg/Tgs 但し、Tg:前記偏光レンズのガラス転移温度、Tgs:前記樹脂組成物を重合硬化させたときの飽和ガラス転移温度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ用モノマーの注型重合法によって形成される偏光レンズとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に偏光レンズは自然光が反射されたときに生じる偏光を遮断することによって、防眩作用もしくは減光作用を果たすものである。近年、偏光レンズのこのような作用を利用して、特に屋外における反射偏光防止、例えばスキー場における反射偏光防止、マリンスポーツ時における水面からの反射偏光防止、あるいは自動車運転時に受ける対向車又は路面からの反射偏光防止、などに使用されている。また、このような分野のほかに減光作用を目的とするサングラス、ファッショングラス等を含む多方面で使用されている。
【0003】
これらの偏光レンズは、2枚のレンズの間に偏光膜を挟みこんで接着させて形成すること(例えば、特許文献1参照)、あるいはレンズ母型の中に偏光膜を配置した後、プラスチックレンズ用モノマーを注入して重合硬化(注型重合法)により形成することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−249227号公報
【特許文献2】特開平5−181015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている接着方式では、強い力が加わると偏光膜とレンズの間に剥離が起き易く、また剥離した場所に水分が入る等により偏光膜の色落ち又は偏光能力の低下が起きるという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2に開示されている注型重合法による偏光レンズでは偏光膜又は予め偏光膜に塗布した接着剤とプラスチックレンズ用モノマーが重合硬化時に強固な化学結合を形成するため、接着方式の偏光レンズような剥離問題は起き難い。しかしながら、注型重合法による偏光レンズでは、偏光膜の耐熱性が低いため、重合硬化時の温度を偏光膜を含まない通常のレンズと同じような高い重合温度にすることが出来ず、結果として重合硬化した偏光レンズのガラス転移温度が低くなるため、製造工程(例えば、プライマーコート又はハードコート等)における加熱乾燥時の熱でレンズ中心部が変形したり、偏光膜が変質したりすると言う問題がある。さらに近年ハードコート処理温度は、従来に比べて高い乾燥温度条件又は長い加熱乾燥時間が用いられるため偏光レンズ中心部がより変形したり、変質したりし易くなると言う問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて行われたものであり、製造工程における加熱処理によって面変形、及び偏光膜の変質が殆どない偏光レンズと、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、偏光膜を含み、プラスチックレンズ用モノマーを母剤とする樹脂組成物を注型重合硬化して形成される偏光レンズであって、前記樹脂組成物の重合硬化したレンズ部分が、以下の条件を満足することを特徴とする偏光レンズ。
【0008】
0.9 ≦ Tg/Tgs
但し、Tgは前記偏光レンズのガラス転移温度(単位:℃)、Tgsは前記樹脂組成物を重合硬化させたときの飽和ガラス転移温度(単位:℃)である。
【0009】
また、本発明は、前記偏光レンズからなることを特徴とする眼鏡用レンズを提供する。
【0010】
また、本発明は、偏光膜を含み、プラスチックレンズ用モノマーを母剤とする樹脂組成物を注型重合硬化して形成される偏光レンズの製造方法において、前記偏光レンズを製造する際の加熱温度をT(単位:℃)、加熱時間をH(単位:時間)とするとき、以下の条件(2)から(4)を満足することを特徴とする製造方法を提供する。
(2) Tm−α×H ≦ T ≦ Tmax−α×H
(3) 40 ≦ T ≦ Tmax
(4) 0.25 ≦ H
但し、Tmax:前記偏光膜の公称耐熱温度(単位:℃)、Tm及びαは前記偏光膜によって決まる定数である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造工程における加熱処理によって面変形、及び偏光膜の変質が殆どない偏光レンズと、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に関し説明する。
【0013】
本発明の実施の形態にかかる偏光レンズは、プラスチックレンズ用モノマー樹脂組成物を注型重合硬化して形成される。詳細には、偏光膜を支持する構造を有する円筒状のガスケット中に薄い偏光膜(厚さ0.1mm前後)を配置し、ガスケットの上下にレンズ用ガラス母型をそれぞれセットしたレンズ母型に、熱硬化性のプラスチックレンズ用モノマー(単量体)に触媒等を混合した樹脂組成物を注入し、所定の重合温度と所定の重合時間で樹脂組成物を重合硬化することで偏光レンズを形成する。
【0014】
なお、ガスケットには、偏光膜を支持可能な構造を有するポリオレフィン系ガスケットを使用することが重合硬化時の耐熱性及び偏光膜配置精度の点から好ましい。また、注入するプラスチックレンズ用モノマーとしては、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等のアリル系樹脂、メタアクリレート樹脂等のアクリレート系樹脂、ポリチオウレタン樹脂等のポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂の単独又は混合物が使用される。また、偏光膜には、種々のものを用いることができ、例えば、ヨウ素−ポリビニールアルコール偏光フィルム、二色性染料−ポリビニールアルコール偏光フィルム等が使用される。
【0015】
なお、プラスチックレンズ用モノマーには、偏光レンズにした場合の特性バランスが良好なアリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂を用いることが望ましい。さらに、プラスチックレンズ用モノマーとして、耐衝撃性、耐光性、研磨加工性、光学特性がいずれも良好なポリチオウレタン樹脂を使用することが望ましい。
【0016】
また、偏光膜は、耐熱性の観点から二色性染料−ポリビニールアルコール偏光フィルムを用いることが望ましい。また、用いられる偏光膜の偏光度には特に限定はなく、目的とする使用環境に応じて偏光度の高低を選択することも可能である。本実施の形態では、偏光度が95%〜5%の範囲、好ましくは90%〜10%の範囲の偏光膜を用いることが望ましい。さらに、偏光膜の厚さは、完成後の偏光レンズの厚さ、レンズ部材との接着性、及び後述する表面変形の観点から0.1mm以下、好ましくは0.8mm以下のものを使用することが望ましい。また、偏光膜は前もって目的とする眼鏡レンズの度数(ジオプター)に応じた曲面に加工しておいても良いし、ガスケットにセットする際に目的の曲面を形成するようにしても良い。ガスケットへのセットのし易さ等の点から予め所定の曲面に加工しておくことが望ましい。
【0017】
重合硬化後の偏光レンズは、レンズ母型から外されたのち常温まで冷やされ、余分な部分が研磨されてほぼレンズの形状に加工される。加工後、汚れを落とすための洗浄工程(例えば、超音波洗浄)を経て、表面や内部の歪などを取り除くために所定の温度で一定時間加熱するアニール(焼きなまし)処理が行われる。その後、ハードコート工程、反射防止膜コート工程を経て商品としての偏光レンズが完成する。なお、上述の加工以降の工程は公知の処理が行われるので詳細な説明を省略する。このようにして、本実施の形態に係る偏光レンズが形成される。
【0018】
本願発明者らは、偏光膜の耐熱性を考慮しながら偏光レンズの重合硬化条件及び得られた偏光レンズの重合度(後述する)とレンズ中心部の変形度合いの関係を鋭意検討した結果、レンズ母型中に偏光膜を配置した後にプラスチックレンズ用モノマー樹脂組成物を注入して重合硬化した偏光レンズにおいて、重合硬化したレンズ部分が条件式(1)を満足する場合に、レンズ中心部の変形度合いが著しく改善出来ることを見出した。
(1) 0.9 ≦ Tg/Tgs
但し、Tgは偏光レンズのガラス転移温度(単位:℃)、Tgsはプラスチックレンズ用モノマー樹脂組成物の重合硬化物の飽和ガラス転移温度(単位:℃)である。本願明細書中では、この(Tg/Tgs)×100(単位:%)を重合度と定義する。
【0019】
なお、飽和ガラス転移温度Tgsは、モノマーメーカーの推奨する重合温度で、黄変等の色調変化が生じない時間内において徐々に重合時間を延長して行き、ガラス転移温度がほぼ一定(飽和状態)になった時のガラス転移温度である。
【0020】
条件式(1)の下限値を超えると、製造工程内の加熱処理、例えば、重合硬化工程、ハードコート工程、あるいは反射防止膜コート工程などを経たあとでレンズ中心部が変形してしまうので好ましくない。
【0021】
この重合度は、偏光レンズと同じ条件で作製したサンプルによりガラス転移温度(Tg)をVICAT法により測定する。なお、ガラス転移温度の測定方法としてはDSC法、DMA法、TMA法等が挙げられるが実際のプラスチックレンズ研磨加工性及びコート後の耐熱性を議論する上でこれらの特性と相関が出易いTMA法又はVICAT法を用いることが望ましい。さらに、TMA法測定結果とVICAT法測定結果を比べると前述の特性と相関がより出易いのはVICAT法であることから、VICAT法を用いることがより好ましい。
【0022】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、眼鏡用レンズとして使用する際に、有害な紫外線をカットするために紫外線吸収剤を予めプラスチックレンズ用モノマー中に溶解又は分散させておくことが望ましい。
【0023】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、人間が眩しいと感じる可視光波長を選択的にカットする希土類防眩成分(例えば、Nd化合物等)をプラスチックレンズ用モノマー中に予め溶解又は分散させておくことが望ましい。
【0024】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、屈折率1.60以上のプラスチックレンズは、硫黄原子含有率が高くなるため黄味が強くなり、初期色調不良又は光照射によるさらなる黄変又は赤変が問題になる。この黄変及び赤変問題の解決策として染料及び/又は顔料をプラスチックレンズ用モノマー中に予め溶解又は分散させておくことが望ましい。
【0025】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、眼鏡用レンズとして用いる場合に、ファッション性付与のためにレンズを染色して着色させることが望ましい。なお、この際無色透明のポリマー膜に2色性染料を染み込ませるという染色方法に比べ昇華染色方法で染色することが好ましい。
【0026】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、日差しが強い場合とそうでない場合で、減光能力を自動的に調節するフォトクロミック性コーティング層を偏光レンズの片面又は両面に少なくとも一層設けることが望ましい。
【0027】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、フォトクロミック性能と防眩性能の少なくとも一方を付与する方法として、予めフォトクロミック化合物と希土類防眩成分の少なくとも一方を分散させたプラスチックレンズ用モノマーを出来るだけ薄く、かつ偏光レンズの片面又は両面の曲率に一致した曲率で成形し(例えば、フィルターのように)、偏光レンズと貼り合せることが望ましい。
【0028】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、眼鏡用レンズとして用いる際に、耐衝撃性を向上するためのプライマー層、耐擦傷性を向上するためのハードコート層、透過率を向上させるための反射防止層を単独又は併用することが望ましい。
【0029】
また、本実施の形態に係る偏光レンズでは、反射防止層を構成する多層無機酸化物層の各層厚みを制御することにより、反射する可視光波長を選択して所望の反射色が得られるミラーコートを設けることが望ましい。
【0030】
次に、本実施の形態に係る偏光レンズの製造方法に関して製造ステップに従って説明する。
【0031】
(ステップ1)
ポリオレフィン系の樹脂からなり、偏光膜を支持する構造を有する円筒状のガスケット中に眼鏡レンズの度数(ジオプタ−)に対応した曲面に形成された耐熱性の高い薄い偏光膜をセットし、このガスケットの上下にレンズ用ガラス母型をセットし固定してレンズ用ガラス母型とする。なお、上型、及び下型のそれぞれ対向する面は眼鏡レンズの度数に対応した曲面に形成されている。また、偏光膜は、例えば、ヨウ素−ポリビニールアルコール偏光フィルム、二色性染料−ポリビニールアルコール偏光フィルム等が用いられる。
【0032】
(ステップ2)
プラスチックレンズ用モノマー(単量体)に触媒、紫外線吸収剤、希土類防眩成分等を必要に応じて混合した樹脂組成物をガスケットに設けられた注入口から注入し注入口を塞ぐ。なお、プラスチックレンズ用モノマーとしては、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等のアリル系樹脂、メタアクリレート樹脂等のアクリレート系樹脂、ポリチオウレタン樹脂等のポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、エピスルフィド系樹脂の単独又は混合物が選択して用いられる。
【0033】
(ステップ3)
上記のプラスチックレンズ用モノマー樹脂組成物に対応した、所定の重合温度と所定の重合時間でプラスチックレンズ用モノマー樹脂組成物を重合硬化する。重合硬化における重合温度T(単位:℃)と重合時間H(単位:時間)は、以下の条件式(2)から(4)を満足することが望ましい。
(2) Tm−α×H ≦ T ≦ Tmax−α×H
(3) 40 ≦ T ≦ Tmax
(4) 0.25 ≦ H
但し、Tmax:前記偏光膜の公称耐熱温度(単位:℃)、Tm及びαは前記偏光膜によって決まる定数である。
【0034】
条件式(2)は、重合条件に関する規定である。条件式(2)の下限値を超えると重合度が90%未満となりレンズ面変形が生じるので好ましくない。条件式(2)の上限値を超えると、偏光膜が変質して色調変化や偏光能力の劣化が生じるので好ましくない。
【0035】
条件式(3)及び(4)は条件式(2)の成立する範囲を規定する条件式である。
【0036】
定数Tmは、図2の直線Aの重合温度(T)軸の切片として求められ、定数αは、図2に示す測定結果の直線A及び直線Bの勾配として求められるものである。例えば、後述の実施例において用いる偏光膜の公称耐熱温度Tmaxは140℃であり、このときの定数TmはTm≒80℃であり、定数αは、α≒0.714である。なお、定数Tmは、ほぼTm=Tmax−60に等しく、定数αは、ほぼα=(Tmax−40)/Tmaxに等しい値が得られるので、偏光膜の公称耐熱温度Tmaxを知ることによって、良好な偏光レンズが得られる重合温度Tと重合時間Hとの関係を条件式(2)に基づき定めることが可能となる。また、本発明の効果を確実にするためには、条件式(2)の定数TmをTm≒90℃(Tm=Tmax−50)にすることが好ましい。
【0037】
なお、条件式(2)から(4)は、重合条件のみならず、偏光レンズを製造する工程中の加熱処理条件において満たすことが望ましい。
【0038】
本実施の形態に係る偏光レンズのように重合度((Tg/Tgs)×100)が90%以上を有し、かつ偏光膜の公称耐熱温度未満で重合硬化させる方法としては、偏光膜の公称耐熱温度未満の温度で長時間保持する方法が挙げられ、具体的には公称耐熱温度より5〜15℃低い重合温度で10〜30時間保持することが挙げられる。
【0039】
(ステップ4)
ガラス母型から離型した偏光レンズを常温までゆっくり冷却した後、余分な部分を削りほぼレンズ形状に加工する。加工後、汚れを除去するために超音波洗浄する。
【0040】
(ステップ5)
重合硬化した偏光レンズは重合直後に微小なレンズ面の歪み或いはレンズ内部の歪みが発生しているためジオプターがばらつく等の問題が有る。このような微小なレンズ面の歪み或いはレンズ内部の歪みを解消するためその基材のガラス転移温度付近又は以上の温度で0.25〜3時間加熱処理(アニール処理)をする。なお、偏光レンズでは偏光膜の変質等を避けるため用いた公称耐熱温度よりも5℃以上低い温度でアニール処理を行うことが好ましい。
【0041】
(ステップ6)
偏光レンズ面に傷などがつき難くするために、ハードコート処理を行う。ハードコート処理は、公知の処理と同様にプライマーコート後ディッピングでハードコート樹脂を表面に塗布し、加熱硬化することで偏光レンズの表面にハードコート膜を形成する。このときの加熱温度も偏光膜の変質等を避けるために、偏光膜の公称耐熱温度より低い温度で行うことが好ましい。
【0042】
(ステップ7)
偏光レンズに反射防止膜コートを行う。反射防止膜コートは、公知の技術である真空蒸着装置などにより偏光レンズを加熱しながら無機酸化膜を多層蒸着することで形成する。このときの加熱温度も偏光膜の変質を避けるために、偏光膜の公称耐熱温度以下の温度で加熱することが好ましい。
【0043】
以上の工程を経て偏光レンズが形成される。なお、上述の各工程において、レンズ面の変形、偏光膜の変質等を防止するために、加熱処理温度及び加熱処理時間は条件式(2)及び条件式(3)を満すことが望ましい。
【0044】
「実施例」
以下、本発明の実施の形態に係る偏光レンズの実施例に関し説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。また、各実施例における偏光レンズの評価は以下の方法で実施した。
【0045】
「評価項目と評価方法」
(1)ガラス転移温度(Tg)の測定方法:
評価サンプルとして、70mmφ、5mm厚の平板を偏光レンズの作製と同じ重合温度及び重合時間で重合硬化し、この平板から15mm角にサンプルを切り出し、VICAT測定装置にて1℃/分の昇温速度で昇温し、針侵入量0.4mmの時の温度をガラス転移温度とした。
【0046】
(2)飽和ガラス転移温度(Tgs)の決定方法:
各プラスチックレンズ用モノマーにおいてモノマーメーカーの推奨する重合温度で、黄変等の色調変化が生じない重合時間内において徐々に重合時間を延長して行き、ガラス転移温度(Tg)がほぼ一定(飽和状態)になった時のガラス転移温度を飽和ガラス転移温度(Tgs)とした。
【0047】
(3)面変形評価方法:
各種コート処理を施した偏光レンズの凸面を上側にして約2m上の室内蛍光灯を反射させ、レンズ中心部分における蛍光灯の歪み度合いを目視で確認して歪み度合いが許容範囲内であるものを良(図1中白抜き丸印(○))、許容範囲外のものを不良(図1中×印)とした。
【0048】
(4)偏光膜色調変化評価方法:
各種コート処理を施した偏光レンズのCIE色度座標グラフを眼鏡レンズ分光透過率計で測定した結果と、用いた偏光膜を同じ方法で測定した結果を比較して許容範囲内の色度座標グラフ変化であれば良(図1中白抜き丸印(○))、許容範囲外のものを不良(図1中×印)とした。
【0049】
(5)偏光能力評価方法:
パソコン等で用いられる液晶モニターを凹面側から目視した状態で減光率が最大になるまでレンズを徐々に回転させ、減光率が最大になった時に偏光性能のむらを目視で確認した。この時、偏光性能のむらが許容範囲であるものは良(図1中白抜き印(○))、許容範囲外のものを不良(図1中×印)とした。
【0050】
以下、各実施例および各比較例に付いて偏光レンズの製造条件と評価結果を説明する。
【0051】
「第1実施例」
減光率約85%、色調がグレーの市販の偏光フィルムをレンズ用に湾曲させ、偏光膜保持構造を有する注入口付きガスケットにセットし、次いでガスケットを−10.00の度数(ジオプタ−)になるように設計された上下2枚のレンズ用ガラス母型で挟み、ガラス母型がはずれないように金属製の挟みこみバネで固定した。
【0052】
次に、市販のアリル系樹脂である屈折率1.50、アッベ数58のプラスチックレンズ用ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂組成物をよく攪拌、真空脱泡した後、前述のガスケットの注入口から泡が入らないように注入し、以下の重合温度T及び重合時間Hで重合硬化した。
(実施例1a):重合温度T=80℃、重合時間H=8時間、
(実施例1b):重合温度T=70℃、重合時間H=20時間、
(実施例1c):重合温度T=50℃、重合時間H=48時間。
【0053】
重合終了後、ガスケット及び母型を取り外して120℃で3時間アニール処理を行った。その後、整形、洗浄、プライマーコート、ハードコート、反射防止膜コート(多層無機酸化物層)の順で処理し、偏光レンズを完成させた後に前述の評価項目(3)から(5)について、それぞれ評価を行った。その結果を図1にそれぞれ示す。
【0054】
同時に偏光膜が入っていない70mmφ、5mm厚の平板を上記同条件で作製し、ガラス転移温度(Tg)測定用試験片を作製して評価項目(1)のVICAT測定を行った。また、同じ樹脂組成物における評価項目(2)の飽和ガラス転移温度(Tgs)のVICAT測定した。ガラス転移温度(Tg)、飽和ガラス転移温度(Tgs)、及び重合度((Tg/Tgs)×100)(単位:%)を図1にそれぞれ示し、総合評価結果を図1および図2中に白抜き丸(○)で示す。
【0055】
図1の実施例1の欄に示すように、第1実施例に係る偏光レンズは、いずれも重合度が90%以上で、面変形評価結果、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られ偏光レンズとして優れた特性を有していることが判る。
【0056】
「第2実施例」
減光率約85%、色調がグレーの市販の偏光フィルムをレンズ用に湾曲させ、偏光膜保持構造を有する注入口付きガスケットにセットし、次いでガスケットを−10.00の度数(ジオプター)になるように設計された2枚のレンズ用ガラス母型で挟み、ガラス母型がはずれないように金属製の挟みこみバネで固定した。
【0057】
次に、市販のアクリレート系樹脂である屈折率1.56、アッベ数40のアクリレート樹脂組成物をよく攪拌、真空脱泡した後、前述のガスケットの注入口から泡が入らないように注入し、重合温度T=120℃、重合時間H=3時間の条件で重合硬化した。重合終了後、ガスケット及び母型を取り外して120℃で3時間アニール処理を行った。
【0058】
その後、整形、洗浄、プライマーコート、ハードコート、反射防止膜コート(多層無機酸化物層)の順で処理し、偏光レンズを完成させた後に前述の評価項目(3)から(5)について、それぞれ評価を行った。その結果を図1に示す。
【0059】
同時に偏光膜が入っていない70mmφ、5mm厚の平板を上記同条件で作製し、ガラス転移温度(Tg)測定用試験片を作製して評価項目(1)のVICAT測定を行った。また、同じ樹脂組成物における評価項目(2)の飽和ガラス転移温度(Tgs)のVICAT測定した。ガラス転移温度(Tg)、飽和ガラス転移温度(Tgs)、及び重合度((Tg/Tgs)×100)(単位:%)を図1にそれぞれ示し、総合評価結果を図1および図2中に白抜き丸(○)で示す。
【0060】
図1の実施例2の欄に示すように、第2実施例に係る偏光レンズは、重合度90%で、面変形評価結果、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られ偏光レンズとして優れた特性を有していることが判る。
【0061】
「第3実施例」
減光率約85%、色調がグレーの市販の偏光フィルムをレンズ用に湾曲させ、偏光膜保持構造を有する注入口付きガスケットにセットし、次いでガスケットを−10.00の度数(ジオプタ−)になるように設計された2枚のレンズ用ガラス母型で挟み、ガラス母型がはずれないように金属製の挟みこみバネで固定した。
【0062】
次に、市販のポリウレタン系樹脂である屈折率1.60、アッベ数42のポリチオウレタン樹脂組成物をよく攪拌、真空脱泡した後、前述のガスケットの注入口から泡が入らないように注入し、以下の重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(実施例3a):重合温度T=120℃、重合時間H=5時間、
(実施例3b):重合温度T=120℃、重合時間H=24時間、
(実施例3c):重合温度T=100℃、重合時間H=48時間。
【0063】
重合終了後、ガスケット及び母型を取り外して120℃で3時間アニール処理を行った。その後、整形、洗浄、プライマーコート、ハードコート、反射防止膜コート(多層無機酸化物層)の順で処理し、偏光レンズを完成させた後に前述の評価項目(3)から(5)について、それぞれ評価を行った。その結果を図1にそれぞれ示す。
【0064】
同時に偏光膜が入っていない70mmφ、5mm厚の平板を上記同条件で作製し、ガラス転移温度(Tg)測定用試験片を作製して評価項目(1)のVICAT測定を行った。また、同じ樹脂組成物における評価項目(2)の飽和ガラス転移温度(Tgs)のVICAT測定した。ガラス転移温度(Tg)、飽和ガラス転移温度(Tgs)、及び重合度((Tg/Tgs)×100)(単位:%)を図1にそれぞれ示し、総合評価結果を図1および図2中に白抜き丸(○)で示す。
【0065】
図1の実施例3aから3cの欄に示すように、第3実施例に係る偏光レンズは、いずれも重合度が90%以上で、面変形評価結果、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られ偏光レンズとして優れた特性を有していることが判る。
【0066】
「第4実施例」
減光率約85%、色調がグレーの市販の偏光フィルムをレンズ用に湾曲させ、偏光膜保持構造を有する注入口付きガスケットにセットし、次いでガスケットを−10.00の度数(ジオプタ−)になるように設計された2枚のレンズ用ガラス母型で挟み、ガラス母型がはずれないように金属製の挟みこみバネで固定した。
【0067】
次に、市販のエピスルフィド系樹脂である屈折率1.74、アッベ数33のエピスルフィド樹脂組成物をよく攪拌、真空脱泡した後、前述のガスケットの注入口から泡が入らないように注入し、以下の重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(実施例4a):重合温度T=100℃、重合時間H=5時間、
(実施例4b):重合温度T=130℃、重合時間H=1時間。
【0068】
重合終了後、ガスケット及び母型を取り外して120℃で3時間アニール処理を行った。その後、整形、洗浄、プライマーコート、ハードコート、反射防止膜コート(多層無機酸化物層)の順で処理し、偏光レンズを完成させた後に前述の評価項目(3)から(5)について、それぞれ評価を行った。その結果を図1にそれぞれ示す。
【0069】
同時に偏光膜が入っていない70mmφ、5mm厚の平板を上記同条件で作製し、ガラス転移温度(Tg)測定用試験片を作製して評価項目(1)のVICAT測定を行った。また、同じ樹脂組成物における評価項目(2)の飽和ガラス転移温度(Tgs)のVICAT測定した。ガラス転移温度(Tg)、飽和ガラス転移温度(Tgs)、及び重合度((Tg/Tgs)×100)(単位:%)を図1にそれぞれ示し、総合評価結果を図1および図2中に白抜き丸(○)で示す。
【0070】
図1の実施例4の欄に示すように、第4実施例に係る偏光レンズは、いずれも重合度が90%以上で、面変形評価結果、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られ偏光レンズとして優れた特性を有していることが判る。
【0071】
「比較例1aから1d」
比較例1aから1dは、重合温度T及び重合時間H以外は第1実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0072】
図1の比較例1aから1dの欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例1a):重合温度T=75℃、重合時間H=2.5時間、
(比較例1b):重合温度T=70℃、重合時間H=10時間、
(比較例1c):重合温度T=60℃、重合時間H=24時間、
(比較例1d):重合温度T=50℃、重合時間H=35時間。
【0073】
比較例1aから1dに係る偏光レンズは、いずれも重合度が90%未満であり、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果はいずれも良好な結果が得られているが、面変形評価結果が不良となっていることが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0074】
「比較例2」
比較例2は、重合温度T及び重合時間H以外は第2実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0075】
図1の比較例2の欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例2):重合温度T=60℃、重合時間H=24時間、
比較例2に係る偏光レンズは、重合度が77%と90%未満であり、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られているが、面変形評価結果が不良となっていることが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0076】
「比較例3」
比較例3は、最高重合温度T及び重合時間H以外は第3実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0077】
図1の比較例3の欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例3):重合温度T=70℃、重合時間H=10時間、
比較例3に係る偏光レンズは、重合度が77%と90%未満であり、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られているが、面変形評価結果が不良となっていることが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0078】
「比較例4」
比較例4は、重合温度T及び重合時間H以外は第1実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0079】
図1の比較例4の欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例4):重合温度T=50℃、重合時間H=35時間、
比較例4に係る偏光レンズは、重合度が84%と90%未満であり、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られているが、面変形評価結果が不良となっていることが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0080】
「比較例5a、5b」
比較例5a,5bは、重合温度T及び重合時間H以外は第3実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0081】
図1の比較例5a、5bの欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例5a):重合温度T=140℃、重合時間H=5時間、
(比較例5b):重合温度T=130℃、重合時間H=24時間、
比較例5a、5bに係る偏光レンズは、重合度は90%以上であり面変形評価結果は良好であるが、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られていないことが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0082】
「比較例6a、6b」
比較例6a,6bは、重合温度T及び重合時間H以外は第2実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0083】
図1の比較例6a、6bの欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例6a):重合温度T=130℃、重合時間H=24時間、
(比較例6b):重合温度T=110℃、重合時間H=48時間、
比較例6a、6bに係る偏光レンズは、重合度は90%以上であり面変形評価結果は良好であるが、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られていないことが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0084】
「比較例7a、7b」
比較例7a,7bは、重合温度T及び重合時間H以外は第4実施例と同条件で形成した偏光レンズであり、重合温度T及び重合時間H以外の説明は省略する。
【0085】
図1の比較例7a、7bの欄に示す重合温度及び重合時間で重合硬化した。
(比較例7a):重合温度T=120℃、重合時間H=35時間、
(比較例7b):重合温度T=110℃、重合時間H=484時間、
比較例7a、7bに係る偏光レンズは、重合度は90%以上であり面変形評価結果は良好であるが、偏光膜色調変化、及び偏光能力評価結果のいずれも良好な結果が得られていないことが判り、総合評価結果を図1および図2中に黒丸(●)で示す。
【0086】
以上、各実施例と各比較例とをまとめた図1の結果より、重合度が90%未満では面変形結果が不良となることが判る。これは、図2中において、直線Aの下側領域では重合度が90%未満となり面変形が生じることがわかる。また、図1の各比較例から図2中の直線Bの上側領域では、重合度は90%以上を確保することができるが、偏光膜が変質して、偏光膜の色調変化が発生すると供に偏光能力が劣化することがわかる。従って、図2において、直線Aと直線Bの間領域の温度と時間を用いることで優れた偏光レンズを得ることが可能になる。なお、図2における望ましい領域の温度と時間の条件は、重合条件以外の製造工程における加熱温度、加熱時間も満すことで優れた偏光レンズを形成することができる。
【0087】
以上詳説したように、本発明によれば、偏光膜を含んだプラスチックレンズ用モノマー樹脂組成物の注型重合法によって形成される偏光レンズにおいて、面変形、偏光膜の色調変化、及び偏光能力の劣化の少ない偏光レンズを形成することができると供に、この偏光レンズの製造方法を提供することができる。
【0088】
なお、上述の実施の形態は例に過ぎず、上述の構成や形状に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜修正、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】偏光レンズの作製条件と評価結果の一覧表
【図2】重合温度(T)―重合時間(H)との関係図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光膜を含み、プラスチックレンズ用モノマーを母剤とする樹脂組成物を注型重合硬化して形成される偏光レンズであって、
前記樹脂組成物の重合硬化したレンズ部分が、以下の条件を満足することを特徴とする偏光レンズ。
0.9 ≦ Tg/Tgs
但し、
Tg:前記偏光レンズのガラス転移温度(単位:℃)、
Tgs:前記樹脂組成物を重合硬化させたときの飽和ガラス転移温度(単位:℃)
【請求項2】
前記樹脂組成物に紫外線吸収剤を溶解又は分散させたことを特徴とする請求項1に記載の偏光レンズ。
【請求項3】
前記樹脂組成物に希土類防眩成分を溶解又は分散させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偏光レンズ。
【請求項4】
フォトクロミック性能を有する部材が、前記偏光レンズの片面又は両面に少なくとも一層コーティングされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の偏光レンズ。
【請求項5】
フォトクロミック化合物と希土類防眩成分の少なくとも一方を分散させたフィルター部材が、前記偏光レンズの片面又は両面に貼り合わされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の偏光レンズ。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、ポリチオウレタン樹脂モノマーを母剤とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の偏光レンズ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の偏光レンズからなることを特徴とする眼鏡用レンズ。
【請求項8】
偏光膜を含み、プラスチックレンズ用モノマーを母剤とする樹脂組成物を注型重合硬化して形成される偏光レンズの製造方法であって、
前記偏光レンズを製造する際の加熱温度をT(単位:℃)、加熱時間をH(単位:時間)とするとき、以下の条件を満足することを特徴とする製造方法。
Tm−α×H ≦ T ≦ Tmax−α×H
40 ≦ T ≦ Tmax
0.25 ≦ H
但し、Tmax:前記偏光膜の公称耐熱温度(単位:℃)、Tm及びαは前記偏光膜によって決まる定数である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−52210(P2007−52210A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236824(P2005−236824)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(300035870)株式会社ニコン・エシロール (51)
【出願人】(394019543)株式会社ホプニック研究所 (5)
【Fターム(参考)】