説明

偏光レンズの製造方法及び該偏光レンズを用いたサングラス

【目的】 レンズに多ハロゲン偏光フィルムを付設する方式で製造される安価な偏光レンズでありながら、偏光度を90%以上に且つ可視光線の透過率を40%以上に向上させて、偏光レンズの性能向上を図る。
【構成】 二枚のレンズ1a,1bの間に熱硬化性接着剤2を介して多ハロゲン偏光フィルム3を挟持状態で固定し、その後、この貼合わせ体の全体を90°C乃至120°Cの温度で熱処理し、偏光度が90%以上で可視光線の透過率が40%以上の偏光レンズを得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、フィッシング用(釣り用)のサングラスに用いて好適である偏光レンズの製造方法及び該偏光レンズを用いたサングラスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、フィッシングに用いられている濃色のサングラスにおける偏光レンズは、一般に、多ハロゲン偏光フィルム(PVA一軸延伸配向フィルムにヨウ素化合物を配列してなる)を二枚のレンズの間に挟持して接着固定することによって、或いはモールド成形によって偏光フィルムを一枚のレンズに埋設して構成されており、通常、可視光線透過率が20%台(特殊な偏光レンズでも35%が限界であった)で偏光度90%以上のものであった。
【0003】ところで、偏光レンズ使用のサングラスとしての機能を充分に発揮させるには、その偏光度が高いことが優先されるものであり、一般に偏光度は90%以上が必要とされている。こうした充分な偏光度を得ようとする結果、その可視光線透過率が少々低くなっても止むを得ないものであったが、前記した可視光線透過率が20%台のサングラスでは、太陽光線が弱い日の出、日没時、曇天時には充分に明るい視界を確保できないという大きな欠点があったのである。
【0004】このようなことから、偏光度が90%以上ありながら、より高い可視光線透過率、出来ることならば40%以上の可視光線透過率の偏光レンズが得られることが望ましいのである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、こうした従来のサングラスに用いる偏光レンズについて、市販の多ハロゲン偏光フィルム(PVA一軸延伸配向フィルムにヨウ素化合物を配列してなる)の偏光の理論構造について再検討を行ったところ、PVAの延伸により方向付けされ整列された分子と、ヨウ素化合物との結合によって偏光がもたらされることを理解した。そして、かかる多ハロゲン偏光フィルムに関しては、延伸により方向付けされ整列された分子と、ヨウ素化合物との結合を簡単に増減させえないことが分かった。
【0006】そこで本発明者は、更に検討を加えた結果、多ハロゲン偏光フィルムが、2色性物質にヨウ素化合物を用いており、このヨウ素化合物が、高熱に弱い物質であるという点に着眼した。この性質を利用し、レンズに埋設された多ハロゲン偏光フィルムのヨウ素化合物を、適切な温度で、適切な時間加熱することによって熱分解させれば、当然ながら偏光度が低下すると推定されるが、さらに、理論的には可視光線透過率を高めることができるのではないかと考えた。この考え方は、一旦、プラスチックの分子とヨウ素化合物とを適性に結合させた後で、そのヨウ素化合物を分解させるというものであるから、偏光レンズの製造面からすれば逆の考え方である。
【0007】ところで、従来の偏光レンズには大別して二種類のものがある。一つは、二枚のレンズに熱硬化性接着剤を介して多ハロゲン偏光フィルムを挟持状態に固定して製造した偏光レンズであり、もう一つは、プラスチックのモールド成形によって多ハロゲン偏光フィルムを埋設して製造した偏光レンズである。前者は、単なる接着方式であるので、その多ハロゲン偏光フィルムはせいぜい60°C乃至70°Cの比較的低い温度に加熱されるに過ぎず、従って、ヨウ素化合物の熱分解が進行しないものと認められる。一方後者は、樹脂モノマーを重合するので熱影響を受けるが、通常、その重合温度は80°C程度の比較的低い温度であるので、この場合も、結果としてヨウ素化合物の熱分解が進行しないものと認められる。
【0008】本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み、レンズに多ハロゲン偏光フィルムを付設する方式で製造される安価な偏光レンズでありながら、偏光度を90%以上に且つ可視光線の透過率を40%以上に向上させて、偏光レンズの性能向上を図ることを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上述した着眼点(即ち、従来の理論に逆行する考え方に基づく、多ハロゲン偏光フィルムの加熱処理)を基に更に研究を重ね、試験を繰り返した結果、レンズに埋設された多ハロゲン偏光フイルムのヨウ素化合物を比較的容易に分解して、偏光レンズとして要求される90%以上の偏光度を確保しながら可視光線の透過率を40%以上に向上させることのできる、独特の温度域を見出したのである。
【0010】即ち本発明に係る偏光レンズの製造方法の一は、二枚のレンズの間に、接着剤を介して多ハロゲン偏光フィルムを挟持状態で固定し、その後、この貼合わせ体の全体を90°C乃至120°Cの温度で熱処理し、偏光度が90%以上で可視光線の透過率が40%以上の偏光レンズを得ることを特徴とするものである。
【0011】又本発明に係るもう一つの偏光レンズの製造方法は、ガスケットの両側部にモールドを嵌め且つ両モールド間に多ハロゲン偏光フィルムを配置して後、両モールド間に樹脂モノマーを充填しこれを重合硬化させるモールド成形によって、該多ハロゲン偏光フィルムを一枚のレンズに埋設し、その後、このレンズを90°C乃至120°Cの温度で熱処理し、偏光度が90%以上で可視光線の透過率が40%以上の偏光レンズを得ることを特徴とするものである。
【0012】本発明に係るサングラスの一は、上記製造方法によって得られた偏光レンズをフレームに付設したことを特徴とするものである。又本発明に係るサングラスの他の態様は、かかる偏光レンズ相互をブリッジ部材で連結すると共に、該偏光レンズの外側部位にテンプルを連結したことを特徴とするものである。
【0013】本発明においてレンズとは、上述の二枚のレンズを接着する方式のものにおいてはガラス製、プラスチック製を問わない。又、前記接着方式やモールド方式において、レンズに矯正度が入っているかどうかを問うものではない。
【0014】
【実施例】以下、本発明に係る偏光レンズの製造方法と、該方法により製造された偏光レンズを用いたサングラスの好適実施例について、図面に基づいて説明する。
第1実施例図1は、偏光レンズ1の中央縦断面図であり、前側レンズ1aと後側レンズ1bの間に、熱硬化性接着剤2を介して多ハロゲン偏光フィルム3を挟持状態で固定している。
【0015】これら前側レンズ1aと後側レンズ1bは、本実施例においてはプラスチック製のものを用いている。又、多ハロゲン偏光フィルム3は、通常、偏光膜、これを保護する保護皮膜或いは保護樹脂層、ベースシートから構成されているが、それ自体公知のものを用いるため、ここでは詳細な説明を省く。
【0016】この偏光レンズは、例えば次の方法によって製造される。
■ 先ず、前側レンズ1aと後側レンズ1bの二枚のレンズに熱硬化性接着剤2を塗布し、■ 次に、ハロゲン偏光フィルム3を両レンズ1a,1b間に挟持して固定し、■ その後に、該得られた偏光レンズを120°Cで3時間加熱処理する。この加熱処理は、例えば熱風乾燥炉を用いた。熱硬化性接着剤を用いているので、120°Cに加熱しても接着が損なわれることがない。その結果、偏光度が92.4%で可視光線の透過率が45.2%の偏光レンズを得た。
【0017】第2実施例図2は、公知のプラスチックのモールド成形によって製造した偏光レンズ1の中央縦断面図であり、一枚のレンズ4に多ハロゲン偏光フィルム2が埋設されている。
【0018】この偏光レンズは、例えば次の方法によって製造される。
■ 先ず図3に示すように、ガスケット5の両側部にモールド6,7を嵌め且つ両モールド間9に多ハロゲン偏光フィルム3を配置して後、両モールド間9に樹脂モノマー10を充填しこれを重合硬化させ、脱型することによって図2に示す偏光レンズ1を得る。
■ その後、該得られた偏光レンズを90°Cで60時間加熱処理する。この加熱処理は、前記と同様に熱風乾燥炉を用いた。その結果、偏光度が93.3%で可視光線の透過率が40.2%の偏光レンズを得た。
【0019】ここで、上記偏光レンズの熱処理温度を順次変化させて実験を行った結果を、従来の偏光レンズと比較して表1に示す。
【0020】
【表1】


【0021】なお、偏光度は次式で求める。ここにH1は直交透過率(偏光軸を平行に組み合わせた場合の透過率)、又H2は交差透過率(偏光軸を直交に組み合わせた場合の透過率)である。
【数1】


【0022】この実験結果によると、熱処理温度が高くなるほど透過率が増すのに対し偏光度が低下する減少がみられるが、これは、多ハロゲン偏光フィルムのヨウ素化合物が高温で分解して減少するためであると推測される。
【0023】次に、上記偏光レンズの熱処理温度と処理時間を順次変化させて実験を行った結果を表2に示す。
【0024】
【表2】


【0025】この実験結果から、比較的低い処理温度(90°C)でも、処理時間を長くすれば、透過率を増大させながら偏光度を90%以上に維持させ得ることがわかる。このことは、多ハロゲン偏光フィルムのヨウ素化合物が、比較的低い処理温度(90°C)であっても時間をかければ分解が進行しるものであることを示している。
【0026】図3は、本発明に係るフィッシング用サングラス11を示すものであり、上述の方法によって製造された偏光レンズ1をフレーム12に付設して構成されている。又本発明に係るサングラスは、偏光レンズ相互をブリッジ部材で連結すると共に、該偏光レンズの外側部位にテンプルを連結して構成してもよい。このフィッシング用サングラスを着用した場合には、弱光(日の出、日没時)時に充分な明るさを確保できながら、水面の乱反射をカットでき、浮子の動きを見逃すことなく的確に捉えることが可能となる。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、レンズに埋設された多ハロゲン偏光フィルムを所定の温度域(90〜120°C)で加熱処理するだけで、偏光度が90%以上で可視光線の透過率が40%以上の極めて優れた偏光レンズを安価に提供できる利点がある。
【0028】こうした高性能の偏光レンズを、特にフィッシング用のサングラスに応用することで、弱光時に充分な明るさを確保できながら、水面の乱反射をカットできる結果、例えば、日の出、日没時、曇天時の釣り時に、浮子の動きを見逃すことがなく、快適な釣りを楽しむことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】二枚のレンズを貼合わせた偏光レンズを示す中央縦断面図である。
【図2】モールド成形された偏光レンズを示す中央縦断面図である。
【図3】モールド成形された偏光レンズの製造工程を説明する断面図である。
【図4】本発明の偏光レンズを適用したフィッシング用サングラスを示す斜視図である。
【符号の説明】
1 偏光レンズ
1a 前側レンズ
1b 後側レンズ
2 接着剤
3 多ハロゲン偏光フィルム
11 フィッシング用サングラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】 二枚のレンズの間に、熱硬化性接着剤を介して多ハロゲン偏光フィルムを挟持状態で固定し、その後、この貼合わせ体の全体を90°C乃至120°Cの温度で熱処理し、偏光度が90%以上で可視光線の透過率が40%以上の偏光レンズを得ることを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【請求項2】 ガスケットの両側部にモールドを嵌め且つ両モールド間に多ハロゲン偏光フィルムを配置して後、両モールド間に樹脂モノマーを充填しこれを重合硬化させるモールド成形によって、該多ハロゲン偏光フィルムを一枚のレンズに埋設し、その後、このレンズを90°C乃至120°Cの温度で熱処理し、偏光度が90%以上で可視光線の透過率が40%以上の偏光レンズを得ることを特徴とする偏光レンズの製造方法。
【請求項3】 請求項1又は2記載の製造方法によって得られた偏光レンズをフレームに具えたことを特徴とするサングラス。
【請求項4】 請求項1又は2記載の製造方法によって得られた偏光レンズ相互をブリッジ部材で連結すると共に、該偏光レンズの外側部位にテンプルを連結したことを特徴とするサングラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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