説明

偏光子およびその製造方法

【課題】偏光分離特性が向上した分離効率の高い偏光子、および量産化が容易で安価な偏光子が得られる光学薄膜を用いた偏光子の製造方法を提供する。
【解決手段】偏光子1は、断面形状が直角三角形の二つのガラス材11,12の互いの斜辺同士で貼り合わされた矩形柱13が、光入射面1aに沿って複数並列配置され、ガラス材11,12の斜辺界面に入射光を二種類の直線偏光光に分離する偏光分離膜14と、並列配置された矩形柱13の直角界面に偏光分離膜14において分離されて入射する直線偏光光を吸収する吸収膜15とを備え、偏光子1の光入射面1aに入射した光(s偏光光+p偏光光)から、一種類のp偏光光のみを光射出面1bから射出する。吸収膜15は、少なくともSi、TiOx、Nb25のうちのいずれかの誘電体膜より成る吸収層と反射防止層とを含み構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学薄膜を用いた偏光子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光子は自然光(無偏光)や円偏光などのランダム光から直線偏光を得るための偏光光学素子であり、吸収型偏光子、反射型偏光子、薄膜型偏光子、複屈折型偏光子など、様々な構成の偏光子が実用化されている。これら偏光子は、高解像度スペクトルカメラや蛍光顕微鏡などに用いられる分光フィルタ(液晶フィルタ)、光の偏光情報を得るための各種計測機器および液晶プロジェクタを構成する偏光変換素子などに広く使用されている。
例えば、1枚または複数枚の液晶セルを1対の偏光子で挟んだ液晶パネルを用いた分光装置が提案されている(特許文献1参照)。また、複数の透明基板の間に入射光に対して所定の屈折率を有する光学的に透明な高屈折率層と低屈折率層とから成る基本構造膜の所定繰り返し構造を有する偏光分離膜を配置して成る偏光ビームスプリッタおよびこの偏光ビームスプリッタを備えて自然光を特定の偏光状態に揃える偏光子が提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−31007号公報
【特許文献2】特開2003−172824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした特許文献1および特許文献2などに示される偏光子には、一方の偏光方向の偏光光を吸収することにより偏光方向を決定する吸収型偏光子、あるいは誘電体薄膜の反射率の入射角度依存性による薄膜型偏光子が用いられている。これらの偏光子は、大きい面積のものを得ることは可能であるが、偏光子に入射する入射光の散乱や反射などの迷光による変換効率(透過率または反射率)の損失を招き易い課題を有している。また、量産化が容易で安価な偏光子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
本適用例に係る偏光子は、入射光を直線偏光光に作り出す偏光子であって、断面形状が直角三角形の二つの透光性基材が互いの斜辺同士で貼り合わされた矩形柱が、前記入射光の入射面に沿って複数並列配置され、前記透光性基材の前記斜辺の界面に前記入射光を、第1の直線偏光光と第2の直線偏光光とに分離する偏光分離膜と、前記並列配置された前記矩形柱の界面に前記偏光分離膜において分離されて入射する前記第1の直線偏光光を吸収する吸収膜と、前記第2の直線偏光光を射出する光射出面と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
これによれば、偏光子が、断面形状が直角三角形の二つの透光性基材が互いの斜辺同士で貼り合わされた矩形柱が、入射光の入射面に沿って複数並列配置され、透光性基材の斜辺界面に入射光を二種類の第1の直線偏光光と第2の直線偏光光とに分離する偏光分離膜と、並列配置された矩形柱の直角界面に偏光分離膜で分離されて入射する第1の直線偏光光を吸収する吸収膜とを備えることにより、吸収膜において、偏光分離膜で分離されて入射する直線偏光光とともに、入射方向(入射角度)が異なって偏光子に入射する入射光の散乱や反射などによる迷光を吸収し、偏光子から一種類の第2の直線偏光光を射出することができる。すなわち、偏光分離特性が向上した分離効率の高い偏光子が得られる。
【0008】
[適用例2]
上記適用例に係る偏光子において、前記吸収膜は誘電体多層膜より成り、少なくともSi、TiOx、Nb25の内のいずれかの誘電体膜より成る吸収層を含むのが好ましい。
これによれば、矩形柱の界面に形成された吸収膜が誘電体多層膜より成り、少なくともSi、TiOx、Nb25のうちのいずれかの誘電体膜より成る吸収層を含むことにより、偏光分離膜で分離されて入射する直線偏光光とともに、入射角度が異なって偏光子に入射する入射光の散乱や反射などによる迷光を吸収することができる。
【0009】
[適用例3]
本適用例に係る偏光子は、前記吸収膜は、前記吸収層と反射防止層とを含み構成されているのが好ましい。
これによれば、矩形柱の界面に形成された吸収膜が吸収層と反射防止層とを含み構成されていることにより、透過率および反射率ともに略0(ゼロ)に近い値の優れた光吸収性能を備えた吸収膜が得られる。したがって、偏光分離膜で分離されて入射する直線偏光光とともに、入射角度が異なって偏光子に入射する入射光の散乱や反射などによる迷光を吸収することができる。
【0010】
[適用例4]
本適用例に係る偏光子の製造方法は、透光性基板の一方の表面上に、入射光を二種類の直線偏光光に分離する偏光分離膜を形成する偏光分離膜形成工程と、複数の前記透光性基板の前記偏光分離膜が形成された面を一方方向に揃えて板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせたガラスブロックを形成するガラスブロック形成工程と、前記ガラスブロックを、該ガラスブロックの表面と略45°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線に沿って切断して、複数の素子ユニットを形成するガラスブロック切断工程と、複数の前記素子ユニットの一方の表面上に、二種類の前記直線偏光光の一方を吸収する吸収膜を形成する吸収膜形成工程と、複数の前記素子ユニットの前記吸収膜が形成された面を一方方向に揃えて、前記素子ユニットに形成された前記偏光分離膜が略一直線上となるように位置決めして板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせた素子ブロックを形成する素子ブロック形成工程と、前記素子ブロックを、該素子ブロックの表面と略90°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線に沿って切断する素子ブロック切断工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この製造方法によれば、透光性基板の一方の表面上に入射光を二種類の直線偏光光に分離する偏光分離膜を形成する偏光分離膜形成工程と、複数の透光性基板の偏光分離膜が形成された面を一方方向に揃えて板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせるガラスブロック形成工程と、ガラスブロックの表面と略45°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線に沿って切断して複数の素子ユニットを形成するガラスブロック切断工程と、複数の素子ユニットの一方の表面上に、二種類の直線偏光光の一方を吸収する吸収膜を形成する吸収膜形成工程と、素子ユニットに形成された偏光分離膜が略一直線上となるように位置決めして板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせる素子ブロック形成工程と、素子ブロックの表面と略90°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線に沿って切断する素子ブロック切断工程と、を備えることによって、断面形状が直角三角形の二つの透光性基材の斜辺同士で貼り合わされた矩形柱の斜辺界面に偏光分離膜と、並列配置された矩形柱の直角界面に偏光分離膜において分離されて入射する直線偏光光を吸収する吸収膜が形成された偏光子を、一度に多数を得ることができる。すなわち、量産化が容易で、しかも安価な偏光子を得ることができる。
【0012】
また、透光性基板の板厚、透光性基板の平面サイズおよび使用枚数を適宜選択することで、所望の平面サイズ又は/及び厚さの偏光子を容易に得ることができる。したがって、大きな平面サイズの偏光子、あるいは厚さの薄い偏光子が容易に得られ、広い面積を有する測定物の偏光情報を測定する分光器や、各種光学機器における薄型光学フィルタとして広く適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(a)は本実施形態に係る偏光子の構成を模式的に示す正面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A断面における偏光子を模式的に示す断面図である。なお、これらの図面は、説明の便宜のために各構成要素の寸法や比率を実際のものとは異ならせてある。
【0014】
図1(a)および図1(b)において、偏光子1は、断面形状が直角三角形を成して正面図(図1(a))中に示すy方向に延伸する透光性基材としてのガラス材11と、同様に断面形状がガラス材11と同一の直角三角形を成してy方向に延伸する透光性基材としてのガラス材12とが、互いの斜辺で貼り合わされた多数の矩形柱13が、光入射面1aおよび光射出面1bに沿って並列配置され、正面視、矩形形状を成している。
【0015】
ガラス材11とガラス材12とが貼り合わされた直角三角形の斜辺(斜辺界面)には、偏光分離膜14が形成されている。また、ガラス材11とガラス材12とが貼り合わされた矩形柱13がx方向に順次貼り合わされた界面(直角界面)には、吸収膜15が形成されている。なお、光入射面1aと光射出面1bとの間隔、すなわち偏光子1の光入射面1a方向における厚さ寸法は、用いる機器などに対応して任意に設定することができるが、薄型を求める場合には1mm〜5mm程度が好ましい。
【0016】
ガラス材11とガラス材12とが貼り合わされた斜辺界面が光入射面1aおよび光射出面1bと成す角度は、略45°である。したがって、ガラス材11およびガラス材12の断面形状は、それぞれ直角二等辺三角形を成している。すなわち、斜辺界面に偏光分離膜14が形成された矩形柱13は、それぞれ断面形状が略正方形を成した偏光ビームスプリッタとしての機能を有する。
【0017】
偏光分離膜14を介して互いに隣り合うガラス材11とガラス材12、および光入射面1aおよび光射出面1bに沿う方向に吸収膜15を介して隣り合う矩形柱13同士は、それぞれ接着剤(図示せず)により貼着されて(貼り合わされて)いる。接着剤としては、例えば、接着加工が容易で比較的高温度に耐えうる一液性エポキシまたは一液性アクリル系の紫外線硬化型接着剤を用いることができる。接着剤(接着層)の厚さは、例えば10μm程度である。
なお、これらの貼り合わせには、接着剤に代えて粘着剤を用いたり、シランカップリング剤を塗布する又は/及び活性エネルギー線を照射する直接接合法を用いることができる。
【0018】
ガラス材11およびガラス材12の材質は、透光性を有する基材(透光性基材)であれば限定されない。したがって、白板ガラス、各種光学ガラス、ホウケイ酸ガラスおよび青板ガラスなどを用いることができる。本実施形態におけるガラス材11およびガラス材12は、例えば白板ガラスよりなる。
【0019】
偏光分離膜14は、誘電体多層膜で形成される。誘電体多層膜は、例えば、SiO2(二酸化ケイ素)、MgF2(フッ化マグネシウム)、ランタンアルミネートなどより成る低・中屈折率層と、TiO2(二酸化チタン)、Ta25(酸化タンタル)などより成る高屈折率層とが、所定の順序および光学膜厚で形成された多層膜が挙げられる。偏光分離膜14は、入射する光線束(s偏光光+p偏光光)を、s偏光の部分光線束(s偏光光)とp偏光の部分光線束(p偏光光)とに分離して、s偏光光を反射し、p偏光光を透過する機能(偏光分離機能)を有する。
【0020】
吸収膜15は、例えば、Ta25、SiO2、Al23(酸化アルミニウム)、ランタンチタネートなどの誘電体膜より成る反射防止層と、Si(シリコン)、TiOx、Nb25(五酸化ニオブ)などの誘電体膜よりなる吸収層とが、所定の順序および光学膜厚で組み合わされた誘電体多層膜で構成される。吸収膜15は、所定の波長領域において透過率および反射率の値が略0(ゼロ)の不透明膜であり、偏光分離膜14において反射されて入射するs偏光光を主体とする偏光光を吸収する光吸収機能を有する。
【0021】
なお、TiOxは、通常のTiO2結晶内のTiが八面体六配位であるのに対して四面体配位で構成され、Ti量によって吸収ベクトルを変位することができる物質である。また、Ta25は、成膜条件(光学膜厚)の違いにより吸収層にも透明な誘電体層にもなることができる物質である。
偏光分離膜14および吸収膜15は、各誘電体材料を真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法などを用いて成膜し、形成される。
【0022】
こうした偏光分離膜14および吸収膜15の具体的な膜構成を説明する。
なお、膜構成は、可視光波長領域(420nm〜680nm程度)に対して好適な偏光分離膜14および吸収膜15の場合の一例を示す。
【0023】
「表1」は可視光波長領域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の膜構成を示し、「表2」は可視光波長領域の光吸収機能を有する吸収膜の膜構成を示す。なお、偏光分離膜の膜構成は、設計波長760nm、入射角度45°における設計値であり、吸収膜の膜構成は、設計波長865nm、入射角度0°における設計値である。
【0024】
また、それぞれの表には、各多層膜を構成する層No.に対する膜材料、光学膜厚(nd)、物理膜厚(d(nm))を示す。層No.は、成膜されるガラス材11またはガラス材12の表面側から順に1層、2層、3層…と表す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

偏光分離膜14は、「表1」に示すように、SiO2を1層目として、2層目〜36層目の間をLaAlO3(ランタンアルミネート)とMgF2(フッ化マグネシウム)とがこの順序に交互に成膜されて、最上層をSiO2とする37層の誘電体多層膜で構成される。
一方、吸収膜15は、「表2」に示すように、Ta25(酸化タンタル)を1層目として、2層目にSiO2、以後3層目〜8層目にTa25とSiO2が交互に成膜され、9層目にTiOx、そして最上層の10層目にSiO2よりなる10層の誘電体多層膜で構成される。この誘電体多層膜中の9層目のTiOx層において光吸収が行われる。
【0027】
このように構成された偏光分離膜14の偏光分離特性および吸収膜15の光吸収特性を図2、図3に示す。
図2は、「表1」に示す(可視光波長領域の偏光分離機能を有する)偏光分離膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフであり、図3は、「表1」に示す(可視光波長領域の光吸収機能を有する)吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフである。
【0028】
グラフの横軸は、波長領域400nm〜750nmの範囲における入射光の波長(nm)を示し、縦軸にp偏光光の透過率(T(%))またはs偏光光の反射率(R(%))を示す。なお、各図に示す線図a〜線図dは、計算により求めた波長領域400nm〜750nmにおける1nm毎のプロット点を結んだ線図である。
【0029】
図2において、線図aで示す偏光分離膜14の可視光波長領域(420nm〜680nm程度)におけるp偏光光の透過率は、平均値が99.68%、最小値であっても98.76%であり、優れた透過性能を備えている。一方、線図bで示すs偏光光の反射率は、平均値が99.44%、最小値であっても98.95%であり、優れた反射性能を備えている。
【0030】
一方、図3において、線図cで示す吸収膜15の可視光波長領域(420nm〜680nm程度)における透過率の平均値は0.16%、線図dで示す反射率の平均値は0.54%であり、透過率および反射率ともに略0(ゼロ)に近い値を示し、優れた光吸収性能を備えている。
【0031】
次に、このように構成された偏光子1に入射する入射光の動作について説明する。
【0032】
図1(b)において、システム光軸ALに沿って偏光子1の光入射面1aに入射した光線束(s偏光光+p偏光光)は、ガラス材11とガラス材12との斜辺界面に形成された偏光分離膜14に、略45°の入射角で入射して、第1の直線偏光光としてのs偏光光と、第2の直線偏光光としてのp偏光光との2つの部分光線束に分離される。そして、偏光分離膜14において分離されたp偏光光は偏光分離膜14を透過して光射出面1b側に向かう。一方、偏光分離膜14において分離されたs偏光光は、偏光分離膜14で反射されて直角界面に形成された吸収膜15に向かい、吸収膜15に対して略0°の入射角で入射して、吸収膜15に吸収される。すなわち、偏光子1の光入射面1aに入射した光(s偏光光+p偏光光)は、一種類のp偏光光(直線偏光光)のみが、光射出面1bからシステム光軸ALに略平行方向に射出される。
【0033】
なお、吸収膜15では、偏光分離膜14において透過されずに反射された一部のp偏光光や、光入射面1aより入射してガラス材11とガラス材12内に散乱した迷光なども吸収される。さらに、吸収膜15において吸収されずに吸収膜15を透過した些細な量の一部の偏光光の内のs偏光光は、隣り合うガラス材11とガラス材12との斜辺界面に形成された偏光分離膜14に入射した後に、偏光分離膜14において反射されて光入射面1a側に向かい、光入射面1aから射出される。
【0034】
一方、p偏光光は、隣り合うガラス材11とガラス材12との斜辺界面に形成された偏光分離膜14に入射した後に、偏光分離膜14を透過して、隣り合う直角界面に形成された吸収膜15に向かい、その吸収膜15に吸収される。したがって、偏光分離特性が向上し、変換効率の高い偏光子1が得られる。
【0035】
次に、このように構成された偏光子1の製造方法について説明する。
図4および図5は、本実施形態に係る偏光子を製造する主要な工程を示す工程断面図である。なお、これらの図面は、説明の便宜のために各構成要素の寸法や比率を実際のものとは異ならせてある。
【0036】
先ず、図4(a)に示す工程では、同一の矩形状の外形形状で同一の所定厚さの白板ガラスより成る複数の透光性基板としてのガラス板111を準備して、それぞれのガラス板111の2つの表面のうちの一方の表面上に、偏光分離膜14を形成する(偏光分離膜形成工程)。なお、本実施形態におけるガラス板111の所定厚さは、例えば3mm程度である。
【0037】
偏光分離膜14は、上記「表1」に示したSiO2を1層目として、2層目にランタンアルミネート、以後3層目〜36層目に、MgF2とランタンアルミネートとが交互に成膜されて、最上層をSiO2とする37層の誘電体多層膜が形成される。偏光分離膜14は、各誘電体材料を真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法などを用いて成膜される。
【0038】
このガラス板111は、後に断面形状が直角三角形を成した柱状のガラス材11およびガラス材12(矩形柱13)を形成する。
なお、図4(a)および図5を含む以後の図面において、ガラス板111は、実際の枚数とは異なる省略した枚数で示す。
【0039】
そして、図4(b)に示す工程では、偏光分離膜形成工程において偏光分離膜14が形成された複数のガラス板111を、それぞれのガラス板111の偏光分離膜14が形成された面を一方方向に揃えて板厚方向に順次重ね合わせて、それぞれの界面に紫外線硬化型接着剤(図示せず)を塗布してガラス板111同士を互いに貼り合わせる(ガラスブロック形成工程)。
界面に塗布された紫外線硬化型接着剤は、ケミカルランプや高圧水銀灯などの光(紫外線)を照射することによって硬化される。これにより複数のガラス板111同士が板厚方向に重ね合わされて、重なり合う界面に偏光分離膜14が配置されたガラスブロック112が形成される。
【0040】
そして、図4(c)に示す工程では、ガラスブロック形成工程において形成されたガラスブロック112を、互いに略平行な複数の切断線CL1(図中、一点鎖線で示す)に沿って切断する(ガラスブロック切断工程)。
切断線CL1が、ガラス板111の表面と成す角度αは、略45°であり、切断線CL1同士のガラス板111の表面における間隔は、後に光入射面1aを構成するガラス板111の断面形状における直角三角形の辺の長さである。
切断線CL1に沿って切断されたガラスブロック112からは、図中にドットで示す領域形状の素子ユニット113が複数切り出される。
【0041】
そして、工程として図示しないが、ガラスブロック切断工程において切り出された素子ユニット113の2つの表面のうちの一方の表面上に、吸収膜15を形成する(吸収膜形成工程)。素子ユニット113の表面に形成される吸収膜15は、上記「表2」に示したTa25を1層目として、2層目にSiO2、3層目にTa25、4層目にSiO2、5層目にTa25、6層目にSiO2、7層目にTa25、8層目にSiO2、9層目にTiOx、最上層の10層目にSiO2よりなる、10層の誘電体多層膜SiO2が形成される。吸収膜15は、各誘電体材料を真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法などを用いて成膜される。
そして、図5(a)に示す工程では、一方の表面上に吸収膜15が形成された複数の素子ユニット113を準備する(素子ユニット準備工程)。
【0042】
そして、図5(b)に示す工程では、素子ユニット準備工程において準備された複数の素子ユニット113を、それぞれの素子ユニット113の吸収膜15が形成された面を一方方向に揃えて板厚方向に順次重ね合わせて、それぞれの界面に紫外線硬化型接着剤(図示せず)を塗布して素子ユニット113同士を互いに貼り合わせる(素子ブロック形成工程)。
素子ユニット113同士の貼り合わせの際には、それぞれの素子ユニット113に形成された複数の偏光分離膜14が略一直線上となるように位置決めして重ね合わされる。
【0043】
界面に塗布された紫外線硬化型接着剤は、ケミカルランプや高圧水銀灯などの光(紫外線)を照射することによって硬化される。これにより複数の素子ユニット113同士が板厚方向に重ね合わされて、重なり合う界面に吸収膜15が配置された素子ブロック114が形成される。
【0044】
そして、図5(c)に示す工程では、素子ブロック形成工程において形成された素子ブロック114を、互いに略平行な複数の切断線CL2(図中、一点鎖線で示す)に沿って切断する(素子ブロック切断工程)。
素子ブロック114を切断する切断線CL2は、素子ブロック114を形成する最上段に位置する素子ユニット113に形成された偏光分離膜14の表面位置毎に、素子ブロック114の表面と成す角度βが略90°に切断される。切断線CL2に沿って切断された素子ブロック114からは、図中にドットで示す領域形状の偏光子1が複数切り出されて、偏光子1が完成する。切断線CL2に沿って切断されて切り出された偏光子1の切断面方向における厚さは、3mm程度である。
【0045】
完成した偏光子1は、互いに断面形状が直角三角形を成したガラス材11とガラス材12とが貼り合わされた斜辺界面に偏光分離膜14と、ガラス材11とガラス材12とが貼り合わされた矩形柱13が順次貼り合わされた直角界面に吸収膜15とを備え、光入射面1aに入射する光線束(s偏光光+p偏光光)の内のp偏光光(直線偏光光)のみを、光射出面1bからシステム光軸ALに略平行方向に射出する機能を有する(図1参照)。
【0046】
なお、偏光子1の製造方法は主要な工程のみ説明したが、ガラスブロック切断工程および素子ブロック切断工程の後には、各ブロックが切断されて形成された素子ユニット113および偏光子1のそれぞれの切断面を、片面ポリッシュ装置または両面ポリッシュ装置を用いて研磨することで、切断面の平坦度および面精度を整えるのが好ましい。
【0047】
また、完成した偏光子1には、少なくとも一方の面または双方の面に、反射防止(AR)層を設けてもよい。偏光子1は、構成要素が全て無機物で構成されて耐光性、耐熱性に優れることから、AR膜の形成の際に高温に加熱処理することが可能となり、例えば、二酸化珪素、酸化チタンなどの物質を蒸着またはスパッタリング処理した広帯域AR膜を形成することができる。
【0048】
さらに、上記偏光子1の製造方法は、素子ブロック114が複数の切断線CL2に沿って切断することにより、図1に示す偏光子1が完成する場合で説明したが、準備するガラス板111の平面サイズや枚数は、所望とする偏光子のサイズに対応して適宜設定することができる。したがって、この場合には、素子ブロック114を複数の切断線CL2に沿って切断した後に、所定サイズや所定の外形形状に、切断および切断面の研磨などを行うのが好ましい。
【0049】
さらにまた、偏光子1は、次のように構成することもできる。
図5(b)に示す素子ブロック形成工程において、紫外線硬化型接着剤に代えて粘着剤などを用いて、素子ユニット113同士を仮接着した素子ブロック114を形成する。そして、その素子ブロック114を図5(c)に示す素子ブロック切断工程において互いに略平行な複数の切断線CL2に沿って切断した後に、切断された偏光子1から仮接着した粘着剤層を剥がして、斜辺界面に偏光分離膜14を有し、直角界面の一方の面に吸収膜15が形成された複数の矩形柱13に分離する。そして、所定個数の矩形柱13を、形成された吸収膜15方向を揃えて並列配置した後、外周部をホルダなどで一体に固定して所望平面サイズの偏光子1が完成する。この構成によれば、サイズの異なるホルダに所定数の矩形柱13を並列配置することで、平面サイズの異なる偏光子1を容易に得ることができる。
【0050】
このように構成および製造された偏光子1は、偏光子1の配置方向を替えることによって、入射する非偏光光に対してp波またはs波の偏光光を射出する機能を得ることができる。
図14(a)は完成した偏光子の正面、上面および側面を一括して示す模式図であり、図14(b)は同図(a)に示す偏光子の正面図に対して90°の角度回転した状態の正面、上面および側面を一括して示す模式図である。
【0051】
上記において説明したように、図14(a)において、偏光子1を柱状の各ガラス材11,12が延伸する方向をy軸方向に配置して用いることによって、システム光軸に略平行に光入射面1aに入射する非偏光光を、電界が光入射面1aに対して水平方向のp波(TM波)の偏光光を射出することができる。
【0052】
一方、その偏光子1を90°の角度、右回転して、図14(b)に示すように、偏光子1を構成する柱状の各ガラス材11,12が延伸する方向をx軸方向に配置して用いることによって、システム光軸に略平行に光入射面1aに入射する非偏光光を、電界が光入射面1aに対して垂直方向のs波(TE波)の偏光光を射出することができる。
なお、偏光子1の回転方向は、右回転または左回転のどちらであってもよい。
【0053】
以上に説明した偏光子1は、入射する光(s偏光光+p偏光光)から一種類のp偏光光またはs偏光光の内のどちらか一種類の直線偏光光を射出する光学素子として、透過型プロジェクタ、反射型プロジェクタなどの照明光学系に好ましく用いることができる。こうしたプロジェクタにおいては、特に、波長が短くパワーの強い青色光の射出側用の偏光子として用いることにより、耐光性をより向上することができる。
【0054】
また、偏光子1は、断面形状が直角二等辺三角形のガラス材11およびガラス材12が互いの斜辺で貼り合わされた複数の矩形柱13が、光入射面1aに沿って並列配置されて製造されるので、大きいサイズ(広い面積)で、しかも薄型の偏光子1を容易に得ることが可能である。これにより、広い面積を有する測定物の偏光情報を測定する分光器や、各種光学機器における光学フィルタなどとして好適に用いることができる。
【0055】
以上のように、本実施形態の偏光子1は、断面形状が直角三角形の二つのガラス材11,12が互いの斜辺同士で貼り合わされた矩形柱13が、光入射面1aに沿って複数並列配置され、ガラス材11,12の斜辺界面に入射光を二種類の直線偏光光に分離する偏光分離膜14と、並列配置された矩形柱13の直角界面に偏光分離膜14において分離されて入射する直線偏光光を吸収する吸収膜15とを備えることにより、吸収膜15において偏光分離膜14で分離されて入射する直線偏光光とともに、入射方向(入射角度)が異なって偏光子1に入射する入射光の散乱や反射などによる迷光を吸収し、偏光子1から一種類の直線偏光光(p偏光光)を射出することができる。すなわち、入射する自然光(無偏光)や円偏光などのランダム光の可視光波長領域にわたり偏光分離特性の向上した分離効率の高い偏光子1が得られる。
【0056】
また、吸収膜15が、少なくともSi、TiOx、Nb25のうちのいずれかの誘電体膜より成る吸収層を含む誘電体多層膜より成ることにより、偏光分離膜14で分離されて入射するs偏光光とともに、入射角度が異なって偏光子1に入射する入射光の散乱や反射などによる迷光を吸収することができる。また、吸収膜15が吸収層と反射防止層とを含み構成されていることにより、透過率および反射率ともに略0(ゼロ)に近い値の優れた光吸収性能を備えた吸収膜15が得られる。
【0057】
また、偏光子1の製造方法が、ガラス板111の一方の表面上に偏光分離膜14を形成する偏光分離膜形成工程と、複数のガラス板111の偏光分離膜14が形成された面を一方方向に揃えて板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせるガラスブロック形成工程と、ガラスブロック112の表面と略45°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線CL1に沿って切断して複数の素子ユニット113を形成するガラスブロック切断工程と、複数の素子ユニット113の一方の表面上に吸収膜15を形成する吸収膜形成工程と、素子ユニット113に形成された偏光分離膜14が略一直線上となるように位置決めして板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせる素子ブロック形成工程と、素子ブロック114の表面と略90°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線CL2に沿って切断する素子ブロック切断工程と、を備えることによって、断面形状が直角三角形の二つのガラス材11,12の斜辺同士で貼り合わされた矩形柱13の斜辺界面に偏光分離膜14と、並列配置された矩形柱13の直角界面に吸収膜15が形成された偏光子1を、一度に多数得ることができる。すなわち、量産化が容易で、しかも安価な偏光子1を得ることができる。さらに、偏光子1の製造方法は、ガラス材11,12の板厚、ガラス材11,12の平面サイズおよび使用枚数を適宜選択することで、所望の平面サイズ又は/及び厚さの偏光子1を容易に得ることができる。したがって、大きな平面サイズの偏光子1、あるいは厚さの薄い偏光子1が容易に得られ、広い面積を有する測定物の偏光情報を測定する分光器や、各種光学機器における薄型光学フィルタとして広く適用することができる。
【0058】
なお、以上の本実施形態において、以下の変形例として挙げられているような形態であっても、本実施形態と同様な効果を得ることが可能である。
【0059】
(変形例1)
上記実施形態において、偏光子1に形成された偏光分離膜14および吸収膜15が、可視光波長領域の偏光分離機能および光吸収機能を有する場合で説明したが、可視光波長領域に代えて青色光波長域、緑色光波長域または赤色光波長域に略対応した膜構成とすることができる。こうした各色光波長域に対応した偏光分離膜14および吸収膜15を備えた偏光子1は、例えば、透過型プロジェクタなどにおいて、各色光間のクロストークを防止したり、コントラストを高めるなどを目的に、各色光用LCDの光射出側に配置して用いることができる。
【0060】
「表3」は青色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の膜構成を示し、「表4」は青色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の膜構成を示す。なお、偏光分離膜14の膜構成は、設計波長485nm、入射角度45°における設計値であり、吸収膜15の膜構成は、設計波長485nm、入射角度0°における設計値である。
【0061】
また、それぞれの表には、各多層膜を構成する層No.に対する膜材料、光学膜厚(nd)、物理膜厚(d(nm))を示す。層No.は、成膜されるガラス材11またはガラス材12の表面側から順に1層、2層、3層…と表す。これについては、以後に示す「表5」〜「表10」についても同様である。
【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

偏光分離膜14は、「表3」に示すように、Ta25(酸化タンタル)を1層目として、Ta25とSiO2とが交互に成膜されて、最上層をSiO2とする24層の誘電体多層膜で構成される。
一方、吸収膜15は、「表4」に示すように、Ta25(酸化タンタル)を1層目として、2層目にSiO2、3層目にTa25、4層目にSiO2、5層目にTiOx、そして最上層の6層目にSiO2よりなる、6層の誘電体多層膜で構成される。この誘電体多層膜中の5層目のTiOx層において光吸収が行われる。
【0064】
このように構成された偏光分離膜14の偏光分離特性および吸収膜15の光吸収特性を図6、図7に示す。
図6は、「表3」に示す青色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜14の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフであり、図7は、「表4」に示す青色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜15の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフである。
【0065】
グラフの横軸は、波長領域400nm〜500nmの範囲における入射光の波長(nm)を示し、縦軸にp偏光光の透過率(T(%))またはs偏光光の反射率(R(%))を示す。なお、各図に示す線図e〜線図hは、計算により求めた波長領域400nm〜500nmにおける1nm毎のプロット点を結んだ線図である。
【0066】
図6において、線図eで示す偏光分離膜14におけるp偏光光の透過率、および線図fで示すs偏光光の反射率は、青色光波長域の429nm〜466nmにおいて、いずれも99%以上の値を示し、青色光波長域における優れた透過性能および反射性能を備えている。
一方、図7において、線図gで示す吸収膜15の透過率および線図hで示す反射率は、偏光分離膜14に対応した青色光波長域の429nm〜466nmにおいて、共に0.5%以下の値を示し、青色光波長域における優れた光吸収性能を備えている。
【0067】
「表5」は緑色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の膜構成を示し、「表6」は緑色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の膜構成を示す。なお、偏光分離膜14の膜構成は、設計波長550nm、入射角度45°における設計値であり、吸収膜15の膜構成は、設計波長555nm、入射角度0°における設計値である。
【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

偏光分離膜14は、「表5」に示すように、TiO2を1層目として、TiO2とSiO2とが交互に成膜されて、最上層をSiO2とする24層の誘電体多層膜で構成される。
一方、吸収膜15は、「表6」に示すように、Ta25(酸化タンタル)を1層目として、2層目にSiO2、3層目にTa25、4層目にSiO2、5層目にTiOx、そして最上層の6層目にSiO2よりなる、6層の誘電体多層膜で構成される。この誘電体多層膜中の5層目のTiOx層において光吸収が行われる。
【0070】
このように構成された偏光分離膜14の偏光分離特性および吸収膜15の光吸収特性を図8、図9に示す。
図8は、「表5」に示す緑色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜14の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフであり、図9は、「表6」に示す緑色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜15の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフである。
【0071】
グラフの横軸は、波長領域450nm〜600nmの範囲における入射光の波長(nm)を示し、縦軸にp偏光光の透過率(T(%))またはs偏光光の反射率(R(%))を示す。なお、各図に示す線図i〜線図lは、計算により求めた波長領域450nm〜600nmにおける1nm毎のプロット点を結んだ線図である。
【0072】
図8において、線図iで示す偏光分離膜14におけるp偏光光の透過率、および線図jで示すs偏光光の反射率は、緑色光波長域の526nm〜560nmにおいて、いずれも99%以上の値を示し、緑色光波長域における優れた透過性能および反射性能を備えている。
一方、図9において、線図kで示す吸収膜15の透過率および線図lで示す反射率は、偏光分離膜14に対応した緑色光波長域の526nm〜560nmにおいて、共に0.2%以下の値を示し、緑色光波長域における優れた光吸収性能を備えている。
【0073】
「表7」は赤色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の膜構成を示し、「表8」は赤色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の膜構成を示す。なお、偏光分離膜14の膜構成は、設計波長670nm、入射角度45°における設計値であり、吸収膜15の膜構成は、設計波長670nm、入射角度0°における設計値である。
【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

偏光分離膜14は、「表7」に示すように、TiO2を1層目として、TiO2とSiO2とが交互に成膜されて、最上層をSiO2とする24層の誘電体多層膜で構成される。
一方、吸収膜15は、「表8」に示すように、Ta25(酸化タンタル)を1層目として、2層目にSiO2、3層目にTa25、4層目にSiO2、5層目にTiOx、そして最上層の6層目にSiO2よりなる、6層の誘電体多層膜で構成される。この誘電体多層膜中の5層目のTiOx層において光吸収が行われる。
【0076】
このように構成された偏光分離膜14の偏光分離特性および吸収膜15の光吸収特性を図10、図11に示す。
図10は、「表7」に示す赤色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜14の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフであり、図11は、「表8」に示す赤色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜15の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフである。
【0077】
グラフの横軸は、波長領域550nm〜750nmの範囲における入射光の波長(nm)を示し、縦軸にp偏光光の透過率(T(%))またはs偏光光の反射率(R(%))を示す。なお、各図に示す線図m〜線図qは、計算により求めた波長領域550nm〜750nmにおける1nm毎のプロット点を結んだ線図である。
【0078】
図10において、線図mで示す偏光分離膜14におけるp偏光光の透過率、および線図nで示すs偏光光の反射率は、赤色光波長域の610nm〜673nmにおいて、いずれも99%以上の値を示し、赤色光波長域における優れた透過性能および反射性能を備えている。
一方、図11において、線図pで示す吸収膜15の透過率および線図qで示す反射率は、偏光分離膜14に対応した赤色光波長域の610nm〜673nmにおいて、共に0.4%以下の値を示し、赤色光波長域における優れた光吸収性能を備えている。
【0079】
(変形例2)
上記実施形態および変形例1において、偏光子1に形成された吸収膜15が、いずれもTa25、SiO2、TiOxの物質よりなる、6層の誘電体多層膜で構成された場合で説明したが、その他にSi(シリコン)、Al23(酸化アルミニウム)、Nb25(五酸化ニオブ)、LaTiO3(ランタンチタネート)などの物質を用いて構成することができる。
【0080】
吸収膜15の他の膜構成例を、前記「変形例1」中に示した青色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜を例に説明する。
「表9」は、青色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の別の膜構成を示し、「表10」は、青色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の、さらに別の膜構成を示す。なお、吸収膜15の膜構成は、設計波長485nm、入射角度0°における設計値である。
【0081】
【表9】

【0082】
【表10】

「表9」に示す吸収膜15は、LaTiO3(ランタンチタネート)を1層目として、2層目以降Al23、SiO2、LaTiO3、SiO2、LaTiO3、7層目にSi、そして最上層の8層目にSiO2よりなる、8層の誘電体多層膜で構成される。この誘電体多層膜中の7層目のSi層において光吸収が行われる。
「表10」に示す吸収膜15は、Nb25(五酸化ニオブ)を1層目として、2層目にSiO2、3層目にNb25、4層目にSiO2、5層目にTiOx、そして最上層の6層目にSiO2よりなる、6層の誘電体多層膜で構成される。この誘電体多層膜中の5層目のTiOx層において光吸収が行われる。
【0083】
このように構成された吸収膜15の光吸収特性を図12、図13に示す。
図12は、「表9」に示す青色光波長域の光吸収機能を有する別の吸収膜15の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフであり、図13は、「表10」に示す青色光波長域の光吸収機能を有する、さらに別の吸収膜15の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフである。
【0084】
各グラフの横軸は、波長領域400nm〜500nmの範囲における入射光の波長(nm)を示し、縦軸にp偏光光の透過率(T(%))またはs偏光光の反射率(R(%))を示す。なお、各図に示す線図r〜線図uは、計算により求めた波長領域400nm〜500nmにおける1nm毎のプロット点を結んだ線図である。
【0085】
図12において、線図rで示す吸収膜15の透過率、線図sで示す吸収膜15の反射率は、偏光分離膜14に対応した青色光波長域の429nm〜466nmにおいて、0.9%以下の値を示す。また、図13において、線図tで示す透過率、線図uで示す反射率は、0.4%以下の値を示し、共に青色光波長域における優れた光吸収性能を備えている。
なお、以上の変形例2において、吸収膜15の吸収層がTiOxおよびSiより成る場合を例示したが、Nb25(五酸化ニオブ)やTa25(酸化タンタル)を吸収層とした誘電体多層膜で吸収膜15を構成することもできる。但し、Ta25を用いる場合には、光吸収性能が低いために、膜厚の厚い誘電体膜を形成する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】(a)は本実施形態に係る偏光子の構成を模式的に示す正面図であり、(b)は(a)のA−A断面における偏光子を模式的に示す断面図。
【図2】可視光波長領域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図3】可視光波長領域の光吸収機能を有する吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図4】本実施形態に係る偏光子を製造する主要な工程を示す工程断面図。
【図5】本実施形態に係る偏光子を製造する主要な工程を示す工程断面図。
【図6】青色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図7】青色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図8】緑色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図9】緑色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図10】赤色光波長域の偏光分離機能を有する偏光分離膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図11】赤色光波長域の光吸収機能を有する吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図12】青色光波長域の光吸収機能を有する別の吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図13】青色光波長域の光吸収機能を有する、さらに別の吸収膜の透過率および反射率の波長分散特性を示すグラフ。
【図14】(a)は完成した偏光子の正面、上面および側面を一括して示す模式図であり、(b)は(a)に示す偏光子の正面図に対して90°の角度回転した状態の正面、上面および側面を一括して示す模式図。
【符号の説明】
【0087】
1…偏光子、1a…光入射面、1b…光射出面、11,12…透光性基材としてのガラス材、13…矩形柱、14…偏光分離膜、15…吸収膜、111…透光性基板としてのガラス板、112…ガラスブロック、113…素子ユニット、114…素子ブロック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を直線偏光光に作り出す偏光子であって、
断面形状が直角三角形の二つの透光性基材が互いの斜辺同士で貼り合わされた矩形柱が、前記入射光の入射面に沿って複数並列配置され、
前記透光性基材の前記斜辺の界面に前記入射光を、第1の直線偏光光と第2の直線偏光光とに分離する偏光分離膜と、
前記並列配置された前記矩形柱の界面に前記偏光分離膜において分離されて入射する前記第1の直線偏光光を吸収する吸収膜と、前記第2の直線偏光光を射出する光射出面と、
を備えたことを特徴とする偏光子。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光子であって、
前記吸収膜は誘電体多層膜より成り、少なくともSi、TiOx、Nb25の内のいずれかの誘電体膜より成る吸収層を含むことを特徴とする偏光子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の偏光子であって、
前記吸収膜は、前記吸収層と反射防止層とを含み構成されていることを特徴とする偏光子。
【請求項4】
透光性基板の一方の表面上に、入射光を二種類の直線偏光光に分離する偏光分離膜を形成する偏光分離膜形成工程と、
複数の前記透光性基板の前記偏光分離膜が形成された面を一方方向に揃えて板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせたガラスブロックを形成するガラスブロック形成工程と、
前記ガラスブロックを、該ガラスブロックの表面と略45°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線に沿って切断して、複数の素子ユニットを形成するガラスブロック切断工程と、
複数の前記素子ユニットの一方の表面上に、二種類の前記直線偏光光の一方を吸収する吸収膜を形成する吸収膜形成工程と、
複数の前記素子ユニットの前記吸収膜が形成された面を一方方向に揃えて、前記素子ユニットに形成された前記偏光分離膜が略一直線上となるように位置決めして板厚方向に順次重ね合わせて貼り合わせた素子ブロックを形成する素子ブロック形成工程と、
前記素子ブロックを、該素子ブロックの表面と略90°の角度を成す互いに略平行な複数の切断線に沿って切断する素子ブロック切断工程と、
を備えたことを特徴とする偏光子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−104023(P2009−104023A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277254(P2007−277254)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】