説明

偏光子保護用光学フィルムおよび偏光板の製造方法

【課題】高い透明性を有し、偏光子に対して優れた接着性を有する偏光子保護用光学フィルムの製造方法及び偏光板の製造方法を提供する。
【解決手段】メタロセン触媒で重合されたポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出す工程と、ダイから押し出されたポリプロピレン樹脂を、タッチロールと表面が鏡面処理された冷却ロールとで挟んでフィルム状に形成する工程と、フィルム状に形成されたポリプロピレン樹脂のタッチロールと接触した側の面に親水性樹脂層12を設ける工程と、を備えることを特徴とする偏光子保護用光学フィルム13。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子保護用光学フィルムおよび偏光板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光子保護用光学フィルムとしてトリアセチルセルロースフィルムに代わる材料が望まれている。偏光子保護用光学フィルムには高い透明性と共に、位相差がないことが必要とされている。
ポリプロピレンフィルムは透明性の高いフィルムであるが、従来のポリプロピレンフィルムは位相差が大きく偏光子保護用光学フィルムとしては使用できなかった。
【0003】
近年、ポリプロピレンフィルムを偏光子保護用光学フィルムとして利用とする試みとして、メタロセン触媒を使用して重合したポリプロピレン樹脂で、位相差の小さい光学用フィルムが製造されることが特許文献1に記載されている。
また、熱可塑性樹脂シートを製造する製造装置は特許文献2に記載されている。
【0004】
フィルムの透明性はフィルムの材質自体の透明性と共に、フィルムの表面が平滑であることが必要で、フィルム表面の形状が透明性に大きな影響を与える。一度の押出成型だけでは両面が平滑なフィルムを製造することは難しく、表面を鏡面加工したロールに再度通すことにより、フィルムの両面の平面性を上げて透明性を確保することができる。
【0005】
フィルムの平面性を上げるためにロールを2回通すことは、手間であると同時に加熱プレスすることによりフィルムが延伸して、フィルムの位相差が増加することが避けられなかった。
【0006】
また、偏光子に保護用光学フィルムを貼り付けるには通常水系の接着剤を使用するため、この用途に使うためにはポリプロピレンフィルムを水系の接着剤で貼れるようにしなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008‐146023号公報
【特許文献2】特開2011‐37010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い透明性を有し、偏光子に対して優れた接着性を有する保護用光学フィルムと該フィルムを使用する偏光板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する第1の発明は、メタロセン触媒で重合されたポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出す工程と、ダイから押し出されたポリプロピレン樹脂を、タッチロールと表面が鏡面処理された冷却ロールとで挟んでフィルム状に形成する工程と、フィルム状に形成されたポリプロピレン樹脂のタッチロールと接触した側の面に親水性樹脂層を設ける工程と、を備えることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムの製造方法である。
【0010】
第2の発明は、偏光子を準備する工程と、第1の発明に記載の偏光子保護用光学フィルムの製造方法によって偏光子保護用光学フィルムを製造する工程と、該偏光子保護用光学フィルムの親水性樹脂層が設けられた側の面に偏光子を貼り合わせる工程と、を備えることを特徴とする偏光子板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高い透明性を有し偏光子に対して優れた接着性を有する、偏光子保護用光学フィルムを得ることができる。また該フィルムを使用する偏光板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造工程の一部となる、フィルムの押出成形工程の模式図である。
【図2】本発明の偏光子保護用光学フィルムを使用した偏光板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図に従って本発明の製造方法を説明する。溶融した樹脂を押出し機を用いて、図1のダイ1から溶融したポリプロピレン樹脂をフィルム状に押し出して、冷却ロール2とタッチロール3の間に流し込み、両ロールを互いに逆回転させながら両ロール間のギャップに溶融状態のポリプロピレンフィルムを挟みこみ、圧力をかけてフィルム状に形成する。
【0014】
冷却ロールは金属でできておりその表面は鏡面に加工されている。溶融したポリプロピレン樹脂はタッチロールにより冷却ロールに押しつけられるため、冷却されて剥がされたポリプロピレンフィルム樹脂基材フィルム11の表面は冷却ロールの鏡面が転写されている。
【0015】
タッチロールに接して形成された側のポリプロピレンフィルム面には、同様にタッチロールの表面形状が転写されている。そのためポリプロピレンの片面は鏡面で反対面はタッチロールの表面形状となる。
【0016】
タッチロールも鏡面加工された金属が使用できれば、両面が鏡面のフィルムが一度で製造できるのだが、金属のロールと金属のロールを狭いギャップで回転させると、ロールが接触したときにロールだけではなく装置自体も破損するおそれがあるため、タッチロールには表面にゴム材料が巻かれたロールが使用される。
【0017】
溶融した樹脂がロールに貼りつくのを防止するため、タッチロールのゴムにはシリコーンゴムが通常使われる。離型性を上げるためシリコーンオイルなどの離型剤が使用されることもある。シリコーンゴム等も研磨仕上げされており充分平滑性もあるが、金属の鏡面仕上げまではいかず、タッチロール面の表面形状が転写されたポリプロピレンフィルムの表面は凹凸があり光を拡散するためヘイズ値が増加し透明性が低下する。
【0018】
ヘイズ値とは曇りの度合いを表わす値で、数値が小さいほど透明性が高いことを示す。
ヘイズ(%)=Td/Tt×100(Td:拡散透過率 Tt:全光線透過率)で算出される。
【0019】
フィルムのヘイズ値はフィルム表面の平面性以外にも、フィルム内部での光の拡散性の程度によって決まる。フィルム内部での光の拡散性の程度は、フィルム樹脂自体の結晶構造やアモルファス構造によって決定される。
【0020】
フィルム内部での光の拡散性すなわちヘイズを内部ヘイズと呼ぶことにする。フィルム表面形状に起因する拡散性を外部ヘイズと呼ぶことにする。フィルムのヘイズ値は外部ヘイズ値と内部ヘイズ値を加えたものとなる。
内部ヘイズを測定する方法は、フィルムの両面にオイル等を塗ってフィルム表面の凹凸を見かけ上なくした上でヘイズ値を測定すればよい。
【0021】
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合されたポリプロピレンと比べて、一般に分子量と結晶性が均一で、低分子量・低結晶性成分が少ないという特長を有する。そのため、メタロセン触媒で重合したポリプロピレンから形成した光学フィルムは、チーグラー・ナッタ触媒で重合したポリプロピレンから形成した光学フィルムよりも、透明性が高いものができる。
【0022】
ポリプロピレンフィルムの内部ヘイズは樹脂自体の透明性に関係し、ポリプロピレン樹脂の種類によって決まる。本発明に使用するメタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂は、溶融して押出成形することにより内部ヘイズ値が1.0%以下のフィルムを得ることができる。
【0023】
また、メタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂は、押し出し成形した後、延伸しないように巻き取ることにより、位相差の小さいフィルムを得ることができる。
この時フィルムの厚さは10μm〜200μmで製造される。偏光子保護用光学フィルムとしては、30μm〜150μmの厚さが好ましい。
【0024】
親水性樹脂をポリプロピレンフィルムのタッチロールが接触した面に塗布することにより、タッチロール表面の凹凸が転写されたポリプロピレンフィルムの表面を覆い、平滑性をもたらすことでポリプロピレンフィルムの外部ヘイズ値を下げることができる。
【0025】
同時に、ポリプロピレンフィルム表面に設けられた親水性樹脂層は、親水性の偏光子に接着剤で貼ることが可能となる。以上が本発明の実施態様1である。
【0026】
本発明の実施態様2は、実施態様1で製造されたポリプロピレンフィルムの親水性樹脂層に偏光子を貼り付けることである。使用する接着剤や親水性樹脂については下記に記載する。
【0027】
本発明に使用する製造部品と材料について解説する。
<冷却ロール>
冷却ロールに使用される金属ロールの材料としては、一般に用いられているものであれば特に限定されず、炭素鋼、ステンレス、チタンあるいは電鋳法で製造されたニッケルなどが挙げられる。また、金属ロールの表面は、更に上記の金属表面の硬度をあげたり、上記の金属表面と樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキ、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなど、あるいはセラミック溶射等の表面処理が施されていてもよい。
【0028】
冷却ロールの表面は鏡面仕上げされている。冷却ロールの鏡面仕上げされた表面の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.2以上1.6以下であることが好ましい(単位μm)。Raが0.2以下であると、フィルムとロールとが密着し過ぎて不具合が起きやすいからである。また、Raが0.2以下のロールは、加工が難しく一般に高価であるのでコスト面からも好ましくない。一方で、Raが1.6以上であると、フィルムの透明性が低下するからである。
【0029】
<タッチロール>
タッチロールは金属ロールの表面に弾性体を貼り付けたものが使用され、例えばシリコーン樹脂・ゴムやフッ素樹脂・ゴムなどが好適であり、複数の樹脂材料を混合又は積層して使用してもよい。さらに離型性を上げるためにシリコーンオイル等を表面に塗布してもよい。
【0030】
<接着剤>
トリアセチルセルロースフィルムと延伸されたポリビニルアルコールの偏光子の接着には、ポリビニルアルコール系接着剤が使用される。具体的にはアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤の水溶液が使用される。本発明のポリプロピレンフィルムと偏光子の接着にもポリビニルアルコール系接着剤を利用することができる。
【0031】
(アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂)
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコールとジケテンの反応で得られる。例えばポリビニルアルコールを酢酸溶媒中に分散させてジケテンを添加する方法、ポリビニルアルコールをジメチルホルムアミドまたはジオキサンに溶解し、ジケテンを添加する方法などがある。
【0032】
使用するポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるポリビニルアルコール及びその誘導体が使用できる。あるいは酢酸ビニルと共重合性を有する単量体との共重合体をケン化したものが使用できる。さらには前記ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、ポリビニルアルコール共重合体を、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化などをした変性ポリビニルアルコールが使用できる。
【0033】
上記の方法でアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を製造してもよいが、市販されているアセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を利用するのが簡便である。例えば、日本合成化学工業株式会社製の反応型ポリビニルアルコール、商品名:ゴーセファイマーZ‐300がある。
【0034】
もちろん、本発明の偏光子保護用光学フィルムの接着剤がポリビニルアルコール系接着剤に限定されることなく、イソシアネート系接着剤やエポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤など、通常極性基を持つ材料表面の接着に使用できる接着剤も使用することができる。
【0035】
(架橋剤)
アセトアセチル基は反応性が高く、種々の官能基と反応するためいろいろな架橋剤が使用できる。例えばアミン化合物、アルデヒド化合物、メチロール化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、多価金属塩などが用いられる。
【0036】
架橋剤としては例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレン基とアミノ基を2個有するアルキレンジアミン類;トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらのケトオキシムブロック物又はフェノールブロック物等のイソシアネート類;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジ又はトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等のエポキシ類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド等のモノアルデヒド類;グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒド等のジアルデヒド類;アルキル化メチロール尿素、アルキル化メチロールメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとの縮合物等のアミノ−ホルムアルデヒド樹脂;ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル等の二価金属、又は三価金属の塩及びその酸化物が挙げられる。
【0037】
<親水性樹脂>
親水性樹脂は、本発明のポリプロピレンフィルムの表面に塗布して、偏光子との接着性を向上させるとともに、ポリプロピレンフィルム表面の凹凸を覆って平滑にするために使用する。
【0038】
本発明に使用する親水性樹脂は、偏光子と接着するポリビニルアルコール系樹脂接着剤との化学的親和性を有する樹脂である限りは、特に限定されるものではなく、アセトアセチル基と反応する官能基をもつ親水性樹脂や、硬化した接着剤と親和性を持つ官能基を持つアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの親水性樹脂が好ましく挙げられる。これらの親水性樹脂は、単独であるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、これらの親水性樹脂の重量平均分子量は、通常100〜100,000程度であり、好ましくは200〜40,000である。
【0039】
アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの親水性樹脂あるいはさらにそれらの樹脂を変性した樹脂は、合成してもよいが、市販されている各種性能の樹脂を選択して使用することができる。
【0040】
さらに、親水性樹脂にシランカップリング剤で処理することにより接着性を強化することができる。例えば、イソシアネート基含有アルコキシシラン類、アミノ基含有アルコキシシラン類、メルカプト基含有アルコキシシラン類、カルボキシ含有アルコキシシラン類、エポキシ基含有アルコキシシラン類、ビニル型不飽和基含有アルコキシシラン類、ハロゲン基含有アルコキシシラン類およびイソシアヌレート基含有アルコキシシラン類などから選択して使用することができる。
【0041】
<ポリプロピレン樹脂>
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体、あるいはプロピレンとα−オレフィンとの共重合体のいずれでもよく、光学特性の観点から、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましい。
α−オレフィンとしては、エチレン、炭素数4〜18の1−オレフィンが好ましく用いられ、具体的にはエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などが好ましく挙げられる。
【0042】
共重合体中のプロピレン単位の割合は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、好ましくは80モル%以上100モル%未満であり、共重合させるモノマーは0モル%以上〜20モル%以下である。共重合させるモノマーとして、前記のα−オレフィンは1種類に限られず、2種類以上を用いることができ、共重合体をターポリマーのような多元系共重合体とすることもできる。なお、共重合体中における各モノマーの構成単位の含量は、赤外線(IR)吸収スペクトルの測定により求めることができる。
【0043】
(メタロセン触媒)
メタロセン触媒としては、公知のものを適宜用いることができる。一般的には、Zr、Ti、Hfなどの4〜6族遷移金属化合物、特に4族遷移金属化合物と、シクロペンタジエニル基あるいはシクロペンタジエニル誘導体の基を有する有機遷移金属化合物を使用することができる。
【0044】
シクロペンタジエニル誘導体の基としては、ペンタメチルシクロペンタジエニルなどのアルキル置換体基、あるいは2以上の置換基が結合して飽和もしくは不飽和の環状置換基を構成した基を使用することができ、代表的にはインデニル基、フルオレニル基、アズレニル基、あるいはこれらの部分水素添加物を挙げることができる。また、複数のシクロペンタジエニル基がアルキレン基、シリレン基、ゲルミレン基などで結合されたものも好適に挙げることができる。
【0045】
(助触媒)
ポリプロピレンの製造において、メタロセン触媒とともに、助触媒を使用することができる。助触媒としては、アルミニウムオキシ化合物、メタロセン化合物と反応してメタロセン化合物成分をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物もしくはルイス酸、固体酸、あるいは、層状ケイ酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を用いることができる。また、必要に応じてこれらの化合物と共に有機アルミニウム化合物を添加することができる。
【0046】
(添加成分)
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂基材フィルム11は、上記したポリプロピレン及びその他の添加成分を含むポリプロピレン樹脂混合物からなるものである。ポリプロピレン樹脂混合物中のポリプロピレンの含有量は、80重量%以上であることが好ましく、85重量%以上がより好ましい。
ポリプロピレン樹脂混合物に含まれる添加成分としては、紫外線吸収剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、艶消し剤、抗菌剤、防かび剤などが好ましく挙げられる。
【0047】
本発明のメタロセン触媒で重合したポリプロピレン樹脂に親水性樹脂を塗布するには、親水性樹脂に対する密着性を向上させる必要がある。ポリプロピレン樹脂を押出成形するときのマスターバッチに親水基を持つ樹脂をブレンドしておくと、親水性樹脂との密着性は良好になる。
【0048】
あるいは、形成後のフィルムにコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理などを施すことにより、親水性樹脂に対する密着性を向上させることができる。さらに、前記シランカップリング剤で処理することにより、親水性樹脂に対する密着性を格段に向上することができる。
【0049】
位相差の小さいフィルムを得るためには、ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと称することがある。)が、15g/10min〜40g/10minの範囲にある樹脂を用いることにより、未延伸で押し出し成形したフィルムは透明性に優れ、且つ位相差も小さく偏光子の保護フィルムとして使用することができる。さらにメルトフローレートが22g/10min〜33g/10minの範囲のプロピレン樹脂がより好ましい。
【0050】
ここで、MFRはJIS K7210に準拠して測定される値であり、その測定条件は、230℃、荷重21.18Nである。ポリプロピレン樹脂のMFRが上記範囲内にあれば、未延伸フィルムの成膜時にひずみの発生を抑えることができ、所望の設計通りの位相差フィルムを得ることができるので好ましい。また、光学フィルムとして十分な強度が得られ、後加工を容易に行うことができる。さらに、製造ロット内でのMFRの安定が容易となるので安定成形ができ、MFR調整剤などの添加剤の添加量をおさえることができるので、物性に悪影響を与えることがない。なお、ポリプロピレンのMFRの調整は、例えば有機過酸化物などの、一般的なMFR調整剤などによって行うことができる。
【実施例】
【0051】
≪測定方法≫
(位相差)
フィルムの位相差は王子計測機器(株)製の位相差測定装置「KOBRA‐WR」を用いて測定した。波長589nmで面内位相差Reを測定した。
【0052】
(表面粗さ)
フィルムの表面粗さの測定はオリンパス社製レーザー顕微鏡ОLS4000を用いて、JIS B0601‐2001に準拠して測定した。
冷却ロールの表面粗さは、比較用表面粗さ標準片(JIS B0659−1)を用いて確認した。
(濡れ張力試験)
濡れ張力試験用標準液をフィルム表面に塗布して測定した。
【0053】
≪ポリプロピレン樹脂基材フィルムの作成≫
(ポリプロピレン樹脂基材フィルムA)
メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製,ウィンテック(登録商標),融点142℃,曲げ弾性率900MPa,以下「mPP−A」と表記する。)100重量部に、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤(BASF製)を1.0重量部配合し、加熱溶融させた。
【0054】
冷却ロールとして表面粗さ1.2μmの鏡面処理が施された金属ロールを使用し、加工温度210℃、冷却ロール温度50℃の条件で、フィルム厚み100μmでダイで単層押し出し成形することにより、ポリプロピレン樹脂基材フィルムAを得た(面内位相差Re:5nm)。
【0055】
次いで、該ポリプロピレン樹脂基材フィルムAの表面を、高電圧印加コロナ放電処理装置を用いて高電圧印加コロナ放電処理を施し、濡れ指数を50mN/mとした。なお、成形加工後の延伸処理は行わなかった。
【0056】
≪親水性樹脂層の作成≫
(アクリル樹脂の親水性樹脂組成物の作成)
下記組成物を混合することにより、アクリル樹脂の親水性樹脂組成物C(水系乳化物)を得た。
2−ヒドロキシエチルアクリレートとメチルアクリレート共重合体 :30重量部
「2−ヒドロキシエチルアクリレート:70重量%、
メチルアクリレート:30重量%」
ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート:2.5重量部 ウレタンアクリレート系オリゴマー :3重量部
「荒川化学株式会社製,ビームセット(登録商標)500」
シリコーン系界面活性剤 :3重量部
水 :50重量部
【0057】
(ウレタン樹脂の親水性樹脂組成物の作成)
下記組成物を混合し、約70℃の反応器内で所定時間反応させることによって、ウレタン樹脂の親水性樹脂組成物D(水系乳化物)を得た。

ポリエステル系水性ウレタン「ハイドランHW−333(商品名)」 :25重量部
(DIC株式会社製固形分、40重量%)
PVA(10%水溶液) :25重量部
メタクリル酸ヒドロキシエチルオリゴマー :5重量部
水 :45重量部

【0058】
下記組成物を混合してポリビニルアルコール系接着剤Eを得た。

反応型ポリビニルアルコール :10重量部
「日本合成化学工業株式会社製、ゴーセファイマー(登録商標)Z‐300」
ヘキサメチレンジアミン :2重量部
水 :190重量部
【0059】
≪PVA偏光子フィルムの作製≫
膜厚200μmのPVAフィルムを、ヨウ素0.15g及びヨウ化カリウム10gを含む水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム12g及びホウ酸7.5gを含む68℃の水溶液に浸漬した。これを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)して、膜厚40μmのフィルムを得た。このフィルムを、これを水洗、乾燥し、PVA偏光子フィルムを得た。
【0060】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂基材フィルムAにウレタン樹脂の親水性樹脂組成物Dを塗工し(塗工厚さ:0.2μm)、140℃で乾燥させて、偏光子保護用光学フィルムを得た。ヘイズ値の測定結果を表1に示す。
【0061】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂基材フィルムAにアクリル樹脂の親水性樹脂組成物Cを塗工し(塗工厚さ:0.2μm)、140℃で乾燥させて、偏光子保護用光学フィルムを得た。ヘイズ値の測定結果を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
実施例1において、基材フィルムに対してコロナ表面処理及び親水性樹脂の表面塗工を実施せずに、偏光子保護用光学フィルムを得た。ヘイズ値の測定結果を表1に示す。
【0063】
(比較例2)
≪ポリプロピレン樹脂基材フィルムの作成2≫
(ポリプロピレン樹脂基材フィルムB)
ホモポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製,ノバテック(登録商標),融点160℃,曲げ弾性率1,700MPa,以下「PP−B」と表記する。)100質量部を用いて、実施例1と同様にして、基材フィルムBを得た。
基材フィルムBに対し、実施例1と同様にウレタン樹脂の親水性樹脂組成物を塗工し、偏光子保護用光学フィルムを得た。ヘイズ値の測定結果を表1に示す。
【0064】
表1:フィルムのヘイズ値
【表1】

【0065】
(実施例3)
実施例1で得られた偏光子保護用フィルムを、A4サイズ(295mm×210mm)に裁断し、同じサイズに裁断した上記PVA偏光子フィルムと該偏光子保護用フィルムとを接着剤Eを塗布して貼着した。
さらに、このPVA偏光子フィルムに、TACフィルム(製品名:富士フイルム フジタック)を、本発明の偏光子保護用光学フィルムの接着面と反対の面に接着剤Eを用いて貼着して、偏光板として良好な性能を持つサンプルを得た。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の偏光子保護用光学フィルムは、親水性のトリアセチルセルロースフィルムにない耐水性を持ち、耐水性が要求される偏向子の用途で使用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1.ダイ
2.冷却ロール
3.タッチロール
11.ポリプロピレン樹脂基材フィルム
12.親水性樹脂層
13.偏光子保護用光学フィルム
14.偏光子
15.トリアセチルセルロースフィルム
16.偏光板
20.接着剤層
21.鏡面
22.非鏡面(タッチロール表面形状の転写面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン触媒で重合されたポリプロピレン樹脂を溶融して、該溶融状態のポリプロピレン樹脂をダイから押し出す工程と、
ダイから押し出されたポリプロピレン樹脂を、タッチロールと表面が鏡面処理された冷却ロールとで挟んでフィルム状に形成する工程と、
フィルム状に形成されたポリプロピレン樹脂のタッチロールと接触した側の面に親水性樹脂層を設ける工程と、
を備えることを特徴とする偏光子保護用光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
偏光子を準備する工程と、
請求項1に記載の偏光子保護光学フィルムの製造方法によって偏光子保護用光学フィルムを製造する工程と、
該偏光子保護用光学フィルムの親水性樹脂層が設けられた側の面に偏光子を貼り合わせる工程と、
を備えることを特徴とする偏光子板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−105134(P2013−105134A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250522(P2011−250522)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】