説明

偏光板、及びその製造方法

【課題】 本発明は、染色、及び一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面にトリアセチルセルロース溶液を塗布、乾燥させることにより、効率的に前記フィルムの表面にトリアセチルセルロース層を効率的かつ安定的に設けることのできる偏光板の製造方法、及びその製造方法によって得られる偏光板に関する。
【解決手段】両側の表面がヨウ素、又は二色性染料によって染色され、かつ一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面にトリアセチルセルロース層が設けられた偏光板の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面に、トリアセチルセルロース溶液を塗布し、乾燥させることにより、トリアセチルセルロース層を形成すること等を特徴とする偏光板の製造方法、及びそれによって得られる偏光板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色、及び一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面にトリアセチルセルロース溶液を塗布、乾燥させることにより、効率的に前記フィルムの表面にトリアセチルセルロース層を効率的かつ安定的に設けることできる偏光板の製造方法、及びその製造方法によって得られる偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素、又は二色性染料で表面が染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「PVA系フィルム」と記す。)は偏光素子として広く用いられている。しかしながら、ヨウ素が塗布されたPVA系フィルムを偏光素子として用いた場合、偏光性は良好である一方、水分に対する耐性や熱に対する耐性が不十分である。かかる理由から比較的湿度の高い条件、又は温度が高い条件下で使用した場合に偏光素子が劣化し、十分な性能が得られないという問題があった。
【0003】
また、PVA系フィルムの表面に二色性染料を塗布された偏光素子も汎用されている。しかしながら、二色性染料が塗布されたPVA系フィルムを偏光素子として用いた場合、当該二色性染料がPVA系フィルムに十分に吸着されることを目的としてカチオン基がPVA系フィルムに導入されたり、或いは、エチレンとポリビニルアルコールの共重合体を偏光素子の基材として用いる等がなされているが、そのいずれもが水分に対する耐性が劣る等の問題を有していた。
【0004】
そこで、水分や熱から偏光素子を保護することを目的として、一般にはトリアセチルセルロースのフィルムが当該偏光素子の表面に設けられる。当該トリアセチルセルロースは透明度に優れ、偏光素子の性能への影響も少なく、熱に対する耐性、及び水に対する耐性に優れていることから、広く偏光素子の保護膜として使用されている(例えば、特許文献1、及び2参照)。
【0005】
ヨウ素等で染色されたPVA系フィルム偏光素子の表面にトリアセチルセルロースのフィルムを設ける際、接着剤による貼着等のウエットラミネーション、又は加熱することによる溶融貼着等のドライラミネーション等の方法が採られてきた。
【0006】
【特許文献1】特開2006−137909号公報
【特許文献2】特開2006−178176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のトリアセチルセルロースフィルムをPVA系フィルム等の偏光素子に設ける方法では、種々の不都合が生じていた。即ち、従来の方法では別途トリアセチルセルロースフィルムを製作しておく必要があり、精密な厚み調整や塵等が付着しないような環境下での製作が必要となる。ところが、一度製作したトリアセチルセルロースフィルムを再度繰り出す場合に当該フィルムの不均一な張力がかかったり、或いは静電気が生じたりすることがある。その結果、トリアセチルセルロースフィルムの厚みが張力によって不均一になったり、当該フィルム自体に歪みが生じたり、また、静電気による塵等の付着が起こり、生産効率を低下させる一要因となる。
【0008】
また、トリアセチルセルロースフィルムをポリビニルアルコール溶液を乾燥・固化させた接着層を介して貼着するウエットラミネーションの方法では、接着剤を偏光素子の性能を損なうことがないように均一に塗布するために、高度な技術を要し、使用可能な接着剤の種類もかなり限定されたものとなっていた。
【0009】
さらに、トリアセチルセルロースフィルムとPVA系フィルムとの貼着後、接着剤が乾燥するまでに時間を要する、又は当該トリアセチルセルロースフィルムの貼着作業が終了後の接着剤の塗布装置の洗浄等作業面での負担が大きく、生産効率も好ましくなかった。
【0010】
また、接着剤の塗布、及び乾燥させるための設備が必要であり、当該設備のメンテナンスも加え、経済的側面からも問題があった。
【0011】
さらに、加熱することによる溶融貼着等のドライラミネーションではラミネート温度の変化が僅かであっても工程において、付与される張力により厚みが一定に保たれないことがあることから、PVA系フィルム、トリアセチルセルロースフィルムのラミネート時の温度管理が煩雑であり、さらなる完全が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明は上記の問題点を解決するものであり、請求項1に記載の発明は、両側の表面がヨウ素、又は二色性染料によって染色され、かつ一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面にトリアセチルセルロース層が設けられた偏光板の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面に、トリアセチルセルロース溶液を塗布し、乾燥させることにより、トリアセチルセルロース層を形成することを特徴とする偏光板の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の特徴に加え、前記トリアセチルセルロース溶液の溶媒が、メチレンクロライド、及びメタノールからなり、前記メチレンクロライドが80〜100重量%、メタノールが0〜20重量%であること特徴とする偏光板の製造方法を提供するものである。
【0014】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1、又は2に記載の製造方法によって得られる偏光板を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明製造方法によれば、染色、及び延伸したPVA系フィルムである偏光素子の表面にトリアセチルセルロース層を設ける手段として、トリアセチルセルロースフィルムを使用しないことから、当該フィルムから生じる静電気に起因する塵等の付着やフィルム繰り出し時に加わる張力に起因する厚みのバラツキ、及び歪みが発生することはない。
【0016】
また、本発明製造方法によれば、トリアセチルセルロース溶液をPVA系フィルムの表面に塗布、乾燥させることにより、保護層を設けているため、従来の製造方法と比較して、非常に容易かつ迅速にトリアセチルセルロース層を形成することができ、生産効率の向上に寄与することができる。
【0017】
さらに、本発明製造方法によれば、簡易な設備で実施可能であり、従来の接着剤によりフィルムを貼着するウエットラミネーションに使用する設備と比較して、安価かつメンテナンスも容易である。
【0018】
また、本発明製造方法によれば、従来の加熱することによる溶融貼着等のドライラミネーションによる方法と比較して温度管理が容易であり、形成されるトリアセチルセルロース層に工程上、張力が殆どかからないため、厚みが安定し、歪み等も生じないことから物性面においても安定した保護層を形成することができる。
【0019】
さらに、本発明偏光板は、保護層であるトリアセチルセルロース層の厚みが安定しており、工程上歪み等が生じにくいことから機能性面においても物性面においても従来の偏光板と比較して優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明製造方法に適用されるPVA系フィルムの素材には、ポリビ
ニルアルコール、又は本発明の効果を損なわない範囲でその誘導体が用いられる。ポリビニルアルコールの誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等の他、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、及びそのアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものがあげられる。
【0021】
また、前記ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、1000〜10000、好ましくは1500〜10000である。また、鹸化度は80〜100モル%のものを用いることが好ましい。
【0022】
前記PVA系フィルム中には可塑剤等の添加剤を含有させてもよい。前記可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等があげられ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を例示することができる。可塑剤の使用量は、特に制限されないがPVA系フィルム中、20重量%以下とするのが好ましい。
【0023】
また、通常、PVA系フィルムは、未延伸の状態で厚さ30〜150μm程度のものが用いられる。
【0024】
PVA系フィルムは、ヨウ素、又は二色性染料で染色処理される。当該染色処理において、ヨウ素によって染色される場合にはヨウ素水溶液、ヨウ化カリウム等のヨウ素イオンを含有する水溶液が用いられる。
【0025】
前記ヨウ素水溶液は0.01〜0.5重量%のヨウ素濃度を有するものを用いることができ、0.2〜0.4重量%のヨウ素濃度を有するものを用いることが好ましい。
【0026】
また、ヨウ化カリウム等のヨウ化物の水溶液を用いる場合には、0.02〜10重量%のヨウ化物濃度を有するものが好ましく、0.2〜10重量%のヨウ化物濃度を有するものがさらに好ましい。
【0027】
前記PVA系フィルムへの染色処理としては、前記ヨウ素水溶液、又はヨウ素イオンを含有する水溶液(以下、「ヨウ素等水溶液」と記す。)に均一に塗布するという観点から、PVA系フィルムをヨウ素等水溶液に浸漬することにより染色処理することが好ましい。また、PVA系フィルムのヨウ素等水溶液に浸漬する時間は、10秒〜300秒で行うことが好ましい。PVA系フィルムの前記ヨウ素等水溶液の浸漬処理後は、送風等による乾燥処理が行われ、前記PVA系フィルムの表面にヨウ素が固定されることとなる。
【0028】
また、前記PVA系フィルムを二色性染料によって染色処理を行う場合には、ダイレクトブラック 17、19、154、ダイレクトブラウン 44、106、195、210、223、ダイレクトレッド 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247、ダイレクトブルー 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270、ダイレクトバイオレット 9、12、51、98、ダイレクトグリーン 1、85、ダイレクトイエロー8、12、44、86、87、ダイレクトオレンジ 26、39、106、107等の二色性染料を一種、又は二種以上の混合物を水溶液にしたもの(以下、「二色性染料水溶液」と記す。)を使用することができる。
【0029】
また、前記PVA系フィルムへの染色処理としては、上記ヨウ素等水溶液によって染色処理する場合と同様、前記二色性染料水溶液を均一に塗布するという観点から、PVA系フィルムを二色性染料水溶液に浸漬することにより染色処理することが好ましい。PVA系フィルムの二色性染料水溶液に浸漬する時間は、10秒〜300秒で行うことが好ましい。上記ヨウ素等水溶液の場合と同様、PVA系フィルムの前記二色性染料水溶液の浸漬処理後は、送風等による乾燥処理が行われ、前記PVA系フィルムの表面に二色性染料が固定されることとなる。
【0030】
本発明製造方法においては、PVA系フィルムは偏光性能を確保する観点から、一軸方向に延伸処理することにより、前記PVA系フィルム構成する分子を配向させることが必要となる。当該延伸処理におけるPVA系フィルムの延伸倍率は、十分な偏光性能の付与という観点から、少なくとも4倍以上、好ましくは5倍〜8倍の範囲である。また、前記延伸処理は、上記ヨウ素等水溶液、又は二色性染料水溶液による染色処理の前の工程で行われてもよいし、後の工程で行われてもよい。
【0031】
本発明製造方法は前記両側の表面がヨウ素、又は二色性染料によって染色され、かつ一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面にトリアセチルセルロース溶液を塗布し、乾燥させることにより、トリアセチルセルロース層を形成する。
【0032】
本発明製造方法においては、適用されるトリアセチルセルロース溶液は、トリアセチルセルロースを有機溶媒に溶解したものが用いられる。当該有機溶媒には種々溶媒を用いることができるが、塗布性、乾燥の迅速性等の観点から、メチレンクロライドを用いることが好ましい。また、トリアセチルセルロース溶液の溶媒として、メチレンクロライドを単独で使用することもできるが、メチレンクロライド、及びメタノールの混合溶液を用いることが好ましい。メチレンクロライド、及びメタノールの混合溶液を溶媒として用いる場合、当該溶媒中のメチレンクロライド、及びメタノールの含有量はメチレンクロライドが80重量%以上、100重量%未満、であり、かつメタノールが0重量%を超え、20重量%であることが好ましい。
【0033】
本発明製造方法では、両側の表面にヨウ素、又は二色性染料によって染色され、かつ一軸延伸されたPVA系フィルムの両側の表面にコート装置によってトリアセチルセルロース溶液を塗布する。前記コート装置として、ナイフコーター、グラビアダイレクトコーター、グラビアリバースコーター、リバースロールコーター、グラビアダイレクトロールコーター、グラビアリバースロールコーター、ロールコーター等が挙げられる。
【0034】
前記PVA系フィルムの表面にトリアセチルセルロース溶液がコート装置によって塗布された後、乾燥させることによりトリアセチルセルロース層が形成される。PVA系フィルムの表面に塗布されたトリアセチルセルロース溶液を乾燥させる手段としては、温風乾燥、真空乾燥等の公知の手段を採用することができる。また、トリアセチルセルロース溶液の塗布厚は乾燥後のトリアセチルセルロース層の厚みが3〜100μmとなるように調整することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明製造方法は容易かつ効率的に偏光板を製作することができるため、偏光板の低コスト化、及び品質の安定化に寄与することができ、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側の表面がヨウ素、又は二色性染料によって染色され、かつ一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面にトリアセチルセルロース層が設けられた偏光板の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの両側の表面に、トリアセチルセルロース溶液を塗布し、乾燥させることにより、トリアセチルセルロース層を形成することを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記トリアセチルセルロース溶液の溶媒が、メチレンクロライド、及びメタノールからなり、前記メチレンクロライドが80〜100重量%、メタノールが0〜20重量%であること特徴とする請求項1に記載の偏光板の製造方法。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載の製造方法によって得られる偏光板。


【公開番号】特開2008−242309(P2008−242309A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85867(P2007−85867)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】