説明

偏光板およびこれを用いた表示装置

【課題】偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる偏光板において、偏光子の色の劣化に起因する偏光板の色ムラや、表示装置を構成した際の表示装置の表示ムラの発生を抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる偏光板において、光硬化性接着剤およびセルロースアシレートフィルムにそれぞれエポキシ化合物を含ませ、さらにセルロースアシレートフィルムにポリエステル系可塑剤を含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、有機ELディスプレイ等の表示装置に用いられる偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型軽量ノートパソコンの開発の進行に伴い、液晶表示装置等の表示装置に用いられる偏光板の保護フィルムに対しても、ますます薄膜化、高性能化の要求が強くなりつつある。
【0003】
液晶表示装置等に使用される偏光板は、通常、偏光子の両面に高分子フィルムからなる保護フィルムが貼り合わされてなる構成を有している。偏光子の構成材料としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、エチレンビニルアルコール系フィルム、セルロース系フィルム、ポリカーボネート系フィルムなどがあるが、加工性等の観点から、ヨウ素染色したポリビニルアルコール系フィルムを延伸したものや、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸した後にヨウ素染色したものが一般に用いられている。一方、保護フィルムとしては、光学的異方性が小さく、透明性に優れ、さらに偏光子との接着性に優れることから、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム等のセルロースアシレートフィルムが広く使用されている。
【0004】
保護フィルムとしてのセルロースアシレートフィルムを偏光子と貼合する手法としては、通常、セルロースアシレートフィルムの貼合面をケン化処理した後、水のりを用いて偏光子と貼り合わせるという手法が用いられている。
【0005】
一方、このようなケン化処理が不要な貼合の手法として、光硬化性接着剤を用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この技術では、光硬化性接着剤を介して偏光子とセルロースアシレートフィルムとを積層したのちに紫外光などの光を照射することで、貼合を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−257199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上述した特許文献1等に開示されている光硬化性接着剤を用いた貼合により偏光板を作製すると、得られた偏光板の性能が低下してしまう場合があることが判明した。具体的には、このようにして作製した偏光板を高温高湿条件に晒すと、偏光子の色が劣化して偏光板に色ムラが発生することが判明した。また、かような偏光板を用いて表示装置を構成した場合にも、表示装置の表示ムラが引き起こされてしまうことも判明した。
【0008】
そこで本発明は、偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる偏光板において、偏光子の色の劣化に起因する偏光板の色ムラや、表示装置を構成した際の表示装置の表示ムラの発生を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意研究を重ねた。その結果、偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる偏光板において、光硬化性接着剤およびセルロースアシレートフィルムにそれぞれエポキシ化合物を含ませ、さらにセルロースアシレートフィルムにポリエステル系可塑剤を含ませることにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0011】
(1)偏光子と、
前記偏光子の少なくとも一方の表面に貼合された、セルロースアシレートフィルムと、
を含む偏光板であって、
前記偏光子と前記セルロースアシレートフィルムとの貼合が、第1の多価エポキシ化合物を含有する光硬化性接着剤を介したものであり、
前記セルロースアシレートフィルムが第2の多価エポキシ化合物およびポリエステル系可塑剤を含む、偏光板;
(2)前記ポリエステル系可塑剤が、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジカルボン酸残基を含む、上記(1)に記載の偏光板;
(3)前記ポリエステル系可塑剤が、下記一般式(a):
【0012】
【化1】

【0013】
式中、Bはモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、nは0以上の整数を表し、B−G−Bの構成も含む、
で表される、上記(1)または(2)に記載の偏光板;
(4)前記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量が350〜2000である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の偏光板;
(5)前記第1の多価エポキシ化合物および前記第2の多価エポキシ化合物が、それぞれ下記一般式(A)〜(O):
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
からなる群から選択される1種または2種以上を含む、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の偏光板;
(6)前記セルロースアシレートフィルムの前記偏光子とは反対側の表面に、クリヤハードコート加工層、低反射加工層、防眩性加工層および反射防止加工層からなる群から選択される1種または2種以上の層が配置されてなる、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の偏光板;
(7)前記セルロースアシレートフィルムの厚さが15〜65μmである、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の偏光板;
(8)前記セルロースアシレートフィルムが光カチオン重合開始剤をさらに含む、上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の偏光板;
(9)前記セルロースアシレートフィルムが、コア層と前記コア層の両表面に位置するスキン層とからなる3層構造を有し、前記スキン層の少なくとも一方が前記第2の多価エポキシ化合物を含む、上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の偏光板;
(10)上記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の偏光板を含む、表示装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる偏光板においても、偏光子の色の劣化に起因する偏光板の色ムラや、表示装置を構成した際の表示装置の表示ムラの発生が抑制されうる。この理由は必ずしも明らかではないが、セルロースアシレートフィルムに含まれるエポキシ化合物およびポリエステル系可塑剤が何らかの形で相互作用することで、セルロースアシレートフィルムの偏光子との貼合面にこれらの化合物がより均一に分布できるようになったことによるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】共流延法によってセルロースアシレートフィルムを製造する際に、共流延ギーサを用い、流延用支持体の上にスキン層用ドープとコア層用ドープを3層同時に押出して流延する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0020】
本発明の一形態は、偏光子と、前記偏光子の少なくとも一方の表面に貼合された、セルロースアシレートフィルムとを含む偏光板に関する。そして、本形態に係る偏光板の第1の特徴は、偏光子とセルロースアシレートフィルムとの貼合が、多価エポキシ化合物を含有する光硬化性接着剤を介したものであるという点にある(本明細書中、光硬化性接着剤に含まれる多価エポキシ化合物を「第1のエポキシ化合物」とも称する)。また、本形態に係る偏光板の第2の特徴は、セルロースアシレートフィルムが多価エポキシ化合物およびポリエステル系可塑剤を含むという点にある(本明細書中、セルロースアシレートフィルムに含まれる多価エポキシ化合物を「第2のエポキシ化合物」とも称する)。
【0021】
≪偏光板≫
以下、本形態に係る偏光板について、より詳細に説明する。
【0022】
[偏光子]
本形態に係る偏光板は、まず主たる構成要素として、偏光子を備える。偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子である。現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムであり、これにはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmが好ましく、特に10〜20μmであることが好ましい。
【0023】
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。なかでも熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。また、フィルムのTD方向に5cm離れた二点間の熱水切断温度の差が1℃以下であることが、色斑を低減させるうえでさらに好ましく、さらにフィルムのTD方向に1cm離れた二点間の熱水切断温度の差が0.5℃以下であることが、色斑を低減させるうえでさらに好ましい。
【0024】
このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能および耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
【0025】
[光硬化性接着剤]
本形態に係る偏光板の第1の特徴は、偏光子とセルロースアシレートフィルム(詳細は後述する)との貼合が、多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)を含有する光硬化性接着剤を介したものであるという点にある。以下、偏光子とセルロースアシレートフィルムとの貼合に用いられる光硬化性接着剤の構成について、説明する。
【0026】
本形態に係る偏光板に用いられる光硬化性接着剤は、多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)を必須に含有するものである。また、通常は光カチオン重合開始剤も含有する。
【0027】
(第1の多価エポキシ化合物)
まず、「多価エポキシ化合物」とは、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物をいう。この定義を満たす限り、いかなる化合物も本形態において用いられうる。多価エポキシ化合物には、分子内に少なくとも2個のエポキシ基および芳香環を有する芳香族多価エポキシ化合物、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個が脂環式環に結合している脂環式多価エポキシ化合物、分子内に芳香環を有さず、エポキシ基とそれが結合する2個の炭素原子を含む環(通常はオキシラン環)の一方の炭素原子が別の脂肪族炭素原子に結合している脂肪族多価エポキシ化合物などがある。かような多価エポキシ化合物としては、例えば、下記一般式(A)〜(D)のいずれかで表されるものが挙げられる。
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、アルキル基またはハロゲン原子を表し、L、およびLは、それぞれ独立して2価の脂肪族の有機基を表し、Mは酸素原子または窒素原子を表し、Aはm価の連結基を表し、a、bおよびcは、それぞれ独立して0〜4の整数を表し、xおよびyは、それぞれ独立して0〜20の実数を表し、lは1または2を表し、mは2〜4の整数を表す。)
一般式(A)、(B)、(D)において、L、Lとしては例えば、
【0030】
【化5】

【0031】
などが挙げられ、一般式(C)においてAとしては、
【0032】
【化6】

【0033】
などが挙げられる。
【0034】
、R、Rのアルキル基としては、炭素数1〜3が好ましく、ハロゲン原子としてはBr、Cl、Fなどが挙げられる。
【0035】
以下、一般式(A)、(B)、(C)または(D)で表される多価エポキシ化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
化合物(IV−1)において、nは、0〜20の整数である。
【0041】
なお、構造式中にある変数xおよびyは実数であり、各々0〜20の範囲であれば何でもよい。x、yが必ずしも整数とならないのは、数種類の整数値を有するエポキシ化合物がある比率で混合された状態であり、その平均値を示しているからである。これらの多価エポキシ化合物は単独で用いても、2種類以上組み合わせてもよい。
【0042】
また、多価エポキシ化合物の他の例として、例えば、下記一般式(E)〜(O)のいずれかで表されるものが挙げられる。
【0043】
【化11】

【0044】
(式中、R〜R25は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、R〜R25がアルキル基の場合、脂環式環に結合する位置は1位〜6位の任意の数である。炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖でもよく、分岐を有していてもよく、脂環式環を有していてもよい。Yは、酸素原子または炭素原子数1〜20のアルカンジイル基を表し、Y〜Yは、それぞれ独立して、直鎖でもよく、分岐を有していてもよく、脂環式環を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルカンジイル基を表し、n、p、qおよびrは、それぞれ独立して、0〜20の実数を表す。)
これらのうち、一般式(F)で示される脂環式ジエポキシ化合物が、入手が容易なので好ましい。一般式(F)の脂環式ジエポキシ化合物は、3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)と、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)とのエステル化物である。その具体例として、次のような化合物が挙げられる。
【0045】
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシ
レート〔一般式(F)において、R=R=H、n=0である化合物〕、
3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチル
シクロヘキサンカルボキシレート〔一般式(F)において、R=6−メチル、R=6−メチル、n=0である化合物〕など。
【0046】
(光カチオン重合開始剤)
上述した多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)や、必要に応じて添加されるオキセタン化合物(詳細は後述する)は、カチオン重合により硬化するものである。したがって、本形態に係る光硬化性接着剤には、通常、光カチオン重合開始剤が配合される。この光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射によって、カチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始する。
【0047】
かような光カチオン重合開始剤を配合することにより、常温での硬化が可能となり、偏光子の耐熱性や膨張または収縮による歪を考慮する必要が減少し、セルロースアシレートフィルムを良好に接着することができる。また、光カチオン重合開始剤は活性エネルギー線の照射で触媒的に作用するため、エポキシ化合物や後述するオキセタン化合物等に混合しても、保存安定性や作業性に優れる。活性エネルギー線の照射によりカチオン種やルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩、鉄−アレン錯体等を挙げることができる。
【0048】
芳香族ジアゾニウム塩としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0049】
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレート等。
【0050】
芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0051】
ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート等。
【0052】
芳香族スルホニウム塩としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0053】
トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、
トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニル〔4−(フェニルチオ)フェニル〕スルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ジフェニル〔4−(フェニルチオ)フェニル〕スルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
4,4’−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、
4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、
4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、
7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン ヘキサフルオロアンチモネート、
7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
4−フェニルカルボニル−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロホスフェート、
4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロアンチモネート、
4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等。
【0054】
鉄−アレン錯体としては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0055】
キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロアンチモネート、
クメン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、
キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)−トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイド等。
【0056】
これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのなかでも特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0057】
光カチオン重合開始剤は、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、それぞれ商品名で、“カヤラッドPCI−220”、“カヤラッドPCI−620”(以上、日本化薬(株)製)、“UVI−6992”(ダウ・ケミカル社製)、“アデカオプトマーSP−150”、“アデカオプトマーSP−170”(以上、(株)ADEKA製)、“CI−5102”、“CIT−1370”、“CIT−1682”、“CIP−1866S”、“CIP−2048S”、“CIP−2064S”(以上、日本曹達(株)製)、“DPI−101”、“DPI−102”、“DPI−103”、“DPI−105”、“MPI−103”、“MPI−105”、“BBI−101”、“BBI−102”、“BBI−103”、“BBI−105”、“TPS−101”、“TPS−102”、“TPS−103”、“TPS−105”、“MDS−103”、“MDS−105”、“DTS−102”、“DTS−103”(以上、みどり化学(株)製)、“PI−2074”(ローディア社製)、“イルガキュア250”、“イルガキュアPAG103”、イルガキュアPAG108”、イルガキュアPAG121”、イルガキュアPAG203”(以上、チバ社製)、“CPI−100P”、“CPI−101A”、“CPI−200K”、“CPI−210S”(以上、サンアプロ(株)製)等を挙げられ、特に、ジフェニル〔4−(フェニルチオ)フェニル〕スルホニウムをカチオン成分として含む、ダウ・ケミカル社製の“UVI−6992”、サンアプロ(株)製の“CPI−100P”、“CPI−101A”、“CPI−200K”、“CPI−210S”が好ましい。
【0058】
光カチオン重合開始剤の配合割合は、光硬化性接着剤全体を基準として、0.5〜20重量%の範囲とすることが好ましい。その割合が0.5重量%以上であれば、接着剤の硬化が十分に達成され、機械強度や接着強度が確保される。一方でその割合が20重量%以下であれば、硬化物中のイオン性物質の増加に伴う硬化物の吸湿性の上昇やそれによる耐久性能の低下が抑制される。
【0059】
(オキセタン化合物)
本形態に係る光硬化性接着剤は、分子内に少なくとも1個のオキセタニル基を有する化合物(オキセタン化合物)を含有することが好ましい。オキセタン化合物の具体的な形態について特に制限はなく、種々の化合物を用いることができる。オキセタン化合物としては、分子内に1個のオキセタニル基を有する化合物(単官能オキセタン)、および分子内に2個以上のオキセタニル基を有する化合物(多官能オキセタン)が好ましい例として挙げられる。
【0060】
単官能オキセタンとしては、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタンなどのアルコキシアルキル基含有単官能オキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタンのような芳香族基含有単官能オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのような水酸基含有単官能オキセタン等が好ましい例として挙げられる。
【0061】
多官能オキセタンとしては、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0062】
3−エチル−3−〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕オキセタン、
1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ベンゼン、
1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン、
1,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン、
1,2−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン、
4,4’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル、
2,2’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル、
3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ビフェニル、
2,7−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ナフタレン、
ビス〔4−{(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ}フェニル〕メタン、
ビス〔2−{(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ}フェニル〕メタン、
2,2−ビス〔4−{(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ}フェニル〕プロパン、
ノボラック型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂の3−クロロメチル−3−エチルオキセタンによるエーテル化変性物、
3(4),8(9)−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、
2,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ノルボルナン、
1,1,1−トリス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕プロパン、
1−ブトキシ−2,2−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ブタン、
1,2−ビス〔{2−(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ}エチルチオ〕エタン、
ビス〔{4−(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルチオ}フェニル〕スルフィド、
1,6−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕−2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロヘキサン、
3−〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕プロピルトリエトキシシランの加水分解縮合物、
テトラキス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メチル〕シリケートの縮合物等。
【0063】
上述したオキセタン化合物は、塗工性や偏光板とするときのセルロースアシレートフィルムへの密着性の観点から、分子量500以下の室温で液状のものが好ましい。さらには、偏光板が耐久性に優れたものとなる点で、単官能オキセタンであれば分子内に芳香環を有するもの、または多官能オキセタンが、一層好ましい。このような特に好ましいオキセタン化合物の例として、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3−エチル−3−〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕オキセタン、および1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ベンゼン等が挙げられる。
【0064】
上述したオキセタン化合物も、1種類を単独で用いることができるほか、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0065】
多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)とオキセタン化合物との使用割合は、質量比で90/10〜10/90(エポキシ/オキセタン)程度であればよい。この割合で使用することで、光硬化性接着剤における重要な特性の一つである短時間で硬化させる効果が充分に発揮されうる。両者の好適な質量割合は、硬化前には低粘度で塗工性に優れ、硬化後に充分な密着性と可撓性を発現できることから、70/30〜20/80(エポキシ/オキセタン)程度であり、さらに好適な質量割合は、60/40〜25/75(エポキシ/オキセタン)程度である。
【0066】
(不飽和化合物)
本形態に係る光硬化性接着剤は、分子内に少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する化合物(不飽和化合物)を含有することができる。かような不飽和化合物の典型的な例として、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物((メタ)アクリル系化合物)が挙げられる。
【0067】
(メタ)アクリル系化合物としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリルアルデヒド等が挙げられる。
【0068】
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート類(単官能(メタ)アクリレート)としては、特に限定されないが、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0069】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、およびステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、および4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメチロールモノ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートなどの脂環式単官能(メタ)アクリレート類;
ベンジル(メタ)アクリレート、p−クミルフェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、o−フェニルフェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、フェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートおよびノニルフェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートなどの芳香環を有する単官能(メタ)アクリレート類(ここで、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等が挙げられる);
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、および2−エチルヘキシルアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;
エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、およびヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートなどの二価アルコールのモノ(メタ)アクリレート類;
ジエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレート類;
グリシジル(メタ)アクリレート;
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;
カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどのテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート類;
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート;
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等。
【0070】
また、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート類としては、特に限定されないが、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0071】
トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ノルボルナンジメチロールジ(メタ)アクリレート、および水素添加ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレートなどの脂環式環を有するジ(メタ)アクリレート類;
ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、およびビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレートを含むビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、並びにビスフェノールAジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレートなどの芳香環を有するジ(メタ)アクリレート類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、およびヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類;
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類;
グリセリンのジまたはトリ(メタ)アクリレート、およびジグリセリンのジまたはトリ(メタ)アクリレートなどのグリセリン類のジまたはトリ(メタ)アクリレート類;
グリセリン類のアルキレンオキサイド付加物のジまたはトリ(メタ)アクリレート類;
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、およびビスフェノールFアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレートなどのビスフェノールアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート類;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのポリオールポリ(メタ)アクリレート類;
これらポリオールのアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート類;
イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のジまたはトリ(メタ)アクリレート類;
1,3,5−トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジン等。
【0072】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(3−N,N−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0073】
また、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートおよびエポキシ(メタ)アクリレートなどのオリゴマーも、(メタ)アクリル系化合物として使用できる。
【0074】
さらに、(メタ)アクリロイル基とともにそれ以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物も、(メタ)アクリル系化合物として使用でき、その具体例として、アリル(メタ)アクリレート、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0075】
不飽和化合物としては、特に限定されず、以上の(メタ)アクリル系化合物以外にも、N−ビニル−2−ピロリドン、アジピン酸ジビニル、およびセバシン酸ジビニルなどのビニル化合物;トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミン、テトラアリルピロメリテート、N,N,N′,N′−テトラアリル−1,4−ジアミノブタン、テトラアリルアンモニウム塩、およびアリルアミンなどのアリル化合物;マレイン酸およびイタコン酸などの不飽和カルボン酸等も使用することもできる。
【0076】
これらの不飽和化合物のなかでも、(メタ)アクリル系化合物が好ましい。さらには、それを含む接着剤を介して偏光子とセルロースアシレートフィルムとを接着して偏光板としたときに、耐熱性等の耐久性を高める観点から、分子内に少なくとも1個の脂環式骨格または芳香環骨格を有する(メタ)アクリル系化合物がより好ましい。かかる分子内に少なくとも1個の脂環式骨格または芳香環骨格を有する(メタ)アクリル系化合物の具体例としては、前記した脂環式単官能(メタ)アクリレート類、芳香族環を有する単官能(メタ)アクリレート類、脂環式環を有するジ(メタ)アクリレート類および芳香族環を有するジ(メタ)アクリレート類が好ましく挙げられる。これらの中でもとりわけ、トリシクロデカン骨格を有するジ(メタ)アクリレートが好ましく、このような特に好ましい(メタ)アクリル系化合物の具体例としては、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0077】
不飽和化合物は、硬化速度や、偏光子とセルロースアシレートフィルムとの密着性、接着層の弾性率、接着物の耐久性等を調節するために、使用することができる。不飽和化合物は、1種類を単独で、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0078】
不飽和化合物を配合する場合、その配合割合は、光硬化性接着剤の総量を基準として35質量%以下とするのが好ましい。これにより、偏光子とセルロースアシレートフィルムとの密着性が優れたものとなる。さらに、不飽和化合物の配合割合は、30質量%以下とするのがより好ましく、さらには5〜25質量%程度、とりわけ10〜20質量%程度とするのが一層好ましい。
【0079】
(光ラジカル重合開始剤)
光硬化性接着剤が不飽和化合物を含む場合は、そのラジカル重合性を促進し、硬化速度を十分なものとするために、光硬化性接着剤に光ラジカル重合開始剤を配合することが好ましい。
【0080】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、次のような化合物を挙げることができる。
【0081】
4’−フェノキシ−2,2−ジクロロアセトフェノン、4’−tert−ブチル−2,2−ジクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル フェニル ケトン、α,α−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、および2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オンなどのアセトフェノン系光重合開始剤;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインエーテル系光重合開始剤;
ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、および2,4,6−トリメチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系光重合開始剤;
2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、および1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなどのチオキサントン系光重合開始剤;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、およびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤;
1,2−オクタンジオン,1−〔4−(フェニルチオフェニル)〕−,2−(O−ベンゾイルオキシム)などのオキシム・エステル系光重合開始剤;
カンファーキノン等。
【0082】
光ラジカル重合開始剤は、1種類を単独で、または2種類以上を所望の性能に応じて配合し、用いることができる。光ラジカル重合開始剤を配合する場合、その配合割合は、光硬化性接着剤の総量を基準として、10質量%以下が好ましく、0.1〜3質量%程度がより好ましい。光ラジカル重合開始剤の量が多くなりすぎると、十分な強度が得られないことがあり、またその量が不足すると、接着剤が十分に硬化しないことがある。
【0083】
(他の成分)
さらに、本形態に係る光硬化性接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した各種の成分とは異なる他の成分を、任意に配合することができる。このような他の成分に属する一つのタイプとして、エポキシ化合物やオキセタン化合物以外のカチオン重合性を有する化合物を挙げることができ、その具体例としては、特に限定されないが、分子内に1個のエポキシ基を有するエポキシ化合物等が挙げられる。また、他の成分に属する別のタイプとして、重合性を有しない他の成分を挙げることができる。重合性を有しない他の成分を配合する場合、その配合割合は、光硬化性接着剤の総量を基準に10質量%以下程度とするのが好ましい。
【0084】
重合性を有しない他の成分の例として、特に限定されないが、光増感剤を挙げられる。光増感剤を配合することにより、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾおよびジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素等が挙げられる。
【0085】
具体的な光増感剤としては、特に限定されず、例えば、次のような化合物が挙げられる。
【0086】
ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンなどのベンゾイン誘導体;
ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン誘導体;
2−クロロチオキサントン、および2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン誘導体;
2−クロロアントラキノン、および2−メチルアントラキノンなどのアントラキノン誘導体;
N−メチルアクリドン、およびN−ブチルアクリドンなどのアクリドン誘導体;
その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物、ハロゲン化合物等。
【0087】
これらの中には、上述した光ラジカル重合開始剤に該当する化合物もあるが、ここでいう光増感剤は、上述した光カチオン重合開始剤に対する増感剤として機能するものであれば特に限定されない。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0088】
光増感剤は、本形態に係る光硬化性接着剤中のカチオン重合性モノマー〔上述した多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)を含み、上述したオキセタン化合物および他のカチオン重合性を有する化合物が配合されている場合はそれらも含む〕の総量を100質量部として、0.1〜20質量部の範囲で配合されるのが好ましい。
【0089】
また、重合性を有しない他の成分として、熱カチオン重合開始剤を使用することもできる。熱カチオン重合開始剤として、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミド等を挙げることができる。これらの開始剤は、市販品を容易に入手することが可能であり、例えば、いずれも商品名で示して、“アデカオプトンCP77”および“アデカオプトンCP66”(以上、(株)ADEKA製)、“CI−2639”および“CI−2624”(以上、日本曹達(株)製)、“サンエイドSI−60L”、“サンエイドSI−80L”および“サンエイドSI−100L”(以上、三新化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0090】
ポリオール類はカチオン重合を促進する性質を有するので、やはり重合性を有しない他の成分として使用することができる。ポリオール類としては、フェノール性水酸基以外の酸性基が存在しないものが好ましく、例えば、水酸基以外の官能基を有しないポリオール化合物、ポリエステルポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物、フェノール性水酸基を有するポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物等を挙げることができる。
【0091】
さらに本発明の効果を損なわない限り、重合性を有しない他の成分として、シランカップリング剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、光安定剤、連鎖移動剤、増感剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、色素、有機溶剤等を配合することもできる。重合性を有しない他の成分として、セルロースアシレートフィルムとの密着性をさらに向上させる目的で、熱可塑性樹脂を配合することも有効である。熱可塑性樹脂としては、偏光子の耐久性を高める観点から、ガラス転移温度が70℃以上であるものが好ましく、特に好ましい例としてはメチルメタクリレート系ポリマー等が挙げられる。
【0092】
上述したように、光硬化性接着剤は、本形態に係る偏光板を構成する偏光子とセルロースアシレートフィルムとの貼合に用いられて、偏光板においては硬化されてなる接着剤層を構成する。この接着剤層の膜厚は特に制限されず、適宜決定されうるが、好ましくは1〜20μm程度であり、より好ましくは1〜10μmである。
【0093】
[セルロースアシレートフィルム]
本形態に係る偏光板は、他の主たる構成要素として、セルロースアシレートフィルムを備える。そして、このセルロースアシレートフィルムは、上述した偏光子の少なくとも一方の面に、光硬化性接着剤を介して貼合されている。以下、セルロースアシレートフィルムの構成について、説明する。
【0094】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートは、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであることが好ましく、特にセルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味している。水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐してもよく、また環を形成してもよい。さらに別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、アシル基の炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましい。
【0095】
前記セルロースアシレートは、混合酸由来のアシル基を用いることもでき、特に好ましくは炭素数が2と3のアシル基の組み合わせ、または炭素数が2と4のアシル基の組み合わせを用いることができる。本発明では、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基またはブチレート基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基としては、直鎖状でも分岐していてもよい。本発明においては、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレートが好ましく用いられる。
【0096】
また、リタデーション値は、セルロースアシレートの前記アシル基の種類とセルロース樹脂骨格のピラノース環へのアシル基の置換度等によって、適宜制御することができる。
【0097】
本発明において、セルロースアシレートは、下記式(1)および(2)を同時に満足するものが好ましい。
【0098】
【数1】

【0099】
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度である。上述した2つの式を満足するセルロースアシレートによれば、本発明の目的に叶う優れた物理特性、光学特性を示すフィルムを構成することができる。
【0100】
この中で特にトリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、1.0≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦1.5、2.0≦X+Y≦3.0であることが好ましい。なお、アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0101】
前記アシル基の置換度が低過ぎると、セルロース樹脂の骨格を構成するピラノース環の水酸基に対して未反応部分が多くなり、該水酸基が多く残存することで、リターデーションの湿度変化や偏光板保護フィルムとして偏光子を保護する能力が低下してしまうことがあり、好ましくない。
【0102】
本形態に係るセルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)の値は、1.4〜3.0であることが好ましい。なお、本形態においては、セルロースアシレートフィルムが、材料として、Mw/Mnの値が1.4〜3.0であるセルロースアシレートを含有すればよいが、フィルムに含まれるセルロースアシレート(好ましくはセルローストリアセテートまたはセルロースアセテートプロピオネート)全体のMw/Mnの値は1.4〜3.0の範囲であることがより好ましい。さらに好ましくは1.7〜2.2である。
【0103】
アセチルセルロースの場合、酢化率を上げようとすれば、酢化反応の時間を延長する必要がある。ただし、反応時間を余り長くとると分解が同時に進行し、ポリマー鎖の切断やアセチル基の分解などが起こり、好ましくない結果をもたらす。したがって、酢化度を上げ、分解をある程度抑えるためには反応時間は所定の範囲に設定することが必要である。反応時間で規定することは反応条件が様々であり、反応装置や設備その他の条件で大きく変わるので適切でない。ポリマーの分解が進むにつれて分子量分布が広くなることから、セルロースアシレートの場合にも、分解の度合いは通常用いられる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値で規定できる。すなわち、セルローストリアセテートの酢化の過程で、余り長過ぎて分解が進み過ぎることがなく、かつ酢化には十分な時間酢化反応させるための反応度合いの一つの指標として用いられる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値を用いることができる。
【0104】
本形態に係るセルロースアシレートの分子量は、数平均分子量(Mn)で80000〜200000のものを用いることが好ましい。100000〜200000のものがさらに好ましく、150000〜200000のものが特に好ましい。
【0105】
なお、セルロースアシレートの平均分子量および分子量分布(Mw/Mn)は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法(例えば、下記の方法)で測定することができる。これを用いて数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を算出し、その比(Mw/Mn)を計算すればよい。
【0106】
(セルロースアシレートの平均分子量の測定方法)
高速液体クロマトグラフィーにより下記条件で測定する。
【0107】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0108】
本形態に係るセルロースアシレートは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いてアシル化反応が行われる。アシル化剤が酸クロライド(CHCOCl、CCOCl、CCOCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には特開平10−45804号に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0109】
本発明で用いられるセルロースアシレートのグルコース単位の6位のアシル基の平均置換度は、0.5〜0.9であることが好ましい。
【0110】
セルロースアシレートを構成するグルコース単位の6位には、2位および3位と異なり、反応性の高い一級ヒドロキシル基が存在し、この一級ヒドロキシル基は、硫酸を触媒とするセルロースアシレートの製造過程で硫酸エステルを優先的に形成する。そのため、セルロースのエステル化反応において、触媒硫酸量を増加させることにより、通常のセルロースアシレートに比べて、グルコース単位の6位よりも2位および3位の平均置換度を高めることができる。さらに、必要に応じて、セルロースをトリチル化すると、グルコース単位の6位のヒドロキシル基を選択的に保護できるため、トリチル化により6位のヒドロキシル基を保護し、エステル化した後、トリチル基(保護基)を脱保護することにより、グルコース単位の6位よりも2位および3位の平均置換度を高めることができる。具体的には、特開2005−281645号記載の方法で製造されたセルロースアシレートも好ましく用いることができる。
【0111】
セルロースアシレートの製造法の一例を以下に示すと、セルロース原料として綿化リンター100質量部を解砕し、40質量部の酢酸を添加し、36℃で20分間前処理活性化をした。その後、硫酸8質量部、無水酢酸260質量部、酢酸350質量部を添加し、36℃で120分間エステル化を行った。24%酢酸マグネシウム水溶液11質量部で中和した後、63℃で35分間ケン化熟成し、アセチルセルロースを得た。これを10倍の酢酸水溶液(酢酸:水=1:1(質量比))を用いて、室温で160分間攪拌した後、濾過、乾燥させてアセチル置換度2.75の精製アセチルセルロースを得た。このアセチルセルロースはMnが92000、Mwが156000、Mw/Mnは1.7であった。同様にセルロースアシレートのエステル化条件(温度、時間、攪拌)、加水分解条件を調整することによって置換度、分子量分布(Mw/Mn)の異なるセルロースアシレートを合成することができる。
【0112】
なお、合成されたセルロースアシレートは、精製して低分子量成分を除去したり、未酢化または低酢化度の成分を濾過で取り除くことも好ましく行われる。
【0113】
また、混酸セルロースアシレートの場合には、特開平10−45804号公報に記載の方法で得ることができる。
【0114】
セルロースアシレートフィルムにおけるセルロースアシレートの含有量は、セルロースアシレートフィルムの総量100質量部に対して、好ましくは60〜95質量部であり、より好ましくは70〜90質量部である。
【0115】
(第2の多価エポキシ化合物)
本形態において、セルロースアシレートフィルムは、多価エポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)を必須に含む。かような多価エポキシ化合物がポリエステル系可塑剤(詳細は後述する)と併用されてセルロースアシレートフィルムに含まれると、偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる場合においても、偏光子の色の劣化に起因する偏光板の色ムラや、表示装置を構成した際の表示装置の表示ムラの発生が抑制されうる。この理由は必ずしも明らかではないが、セルロースアシレートフィルムに含まれるエポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)およびポリエステル系可塑剤が何らかの形で相互作用することで、セルロースアシレートフィルムの偏光子との貼合面にこれらの化合物がより均一に分布できるようになることによるものと考えられる。
【0116】
なお、セルロースアシレートは高温下では酸によっても分解が促進されるが、エポキシ化合物は酸と反応して酸を不活性化する、酸捕捉剤としての機能も有している。したがって、本形態によれば、かようなメカニズムによって高温下におけるセルロースアシレートフィルムの酸による劣化を防止できるという利点もある。
【0117】
セルロースアシレートフィルムに含まれる多価エポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)の具体的な形態については、光硬化性接着剤に含まれる多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、「第1」および「第2」との語は、多価エポキシ化合物をその存在部位によって異なる呼称とする目的で便宜的に付されているにすぎず、「第1」および「第2」との序列そのものに意味はない。また、セルロースアシレートフィルムに含まれる多価エポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)は、光硬化性接着剤に含まれる多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)と同一であってもよいし、異なっていてもよいが、硬化剤とセルロースアシレートフィルムとの接着性に優れるという観点からは、同一であることが好ましい。
【0118】
セルロースアシレートフィルムにおける多価エポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)の含有量は、セルロースアシレートフィルムの総量100質量部に対して好ましくは0.5〜20質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。
【0119】
また、本形態において、セルロースアシレートフィルムは、光カチオン重合開始剤を含むことが好ましい。かような構成とすることで、光硬化の速度が速くなるため、好ましい。なお、セルロースアシレートフィルムに含まれうる光カチオン重合開始剤の具体的な形態についても、光硬化性接着剤に含まれる光カチオン重合開始剤と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0120】
セルロースアシレートフィルムにおける光カチオン重合開始剤の含有量は、セルロースアシレートフィルムの総量100質量部に対して、好ましくは0.3〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0121】
(ポリエステル系可塑剤)
本形態に係るセルロースアシレートフィルムは、ポリエステル系可塑剤を必須に含む。このように、セルロースアシレートフィルムがポリエステル系可塑剤を含むことで、硬脆い性質を有するセルロースアシレートのガラス転移温度(Tg)が低下し、その加工性や機械的物性が改善されうる。また、上述したような多価エポキシ化合物と併用されることによって、偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる場合においても、偏光子の色の劣化に起因する偏光板の色ムラや、表示装置を構成した際の表示装置の表示ムラの発生が抑制されうるという利点も得られる。
【0122】
本形態において用いられるポリエステル系可塑剤の具体的な形態について特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。なかでも、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤が用いられることが好ましい。好ましいポリエステル系可塑剤としては、例えば、下記一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤が挙げられる。
【0123】
【化12】

【0124】
式中、Bはモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、nは0以上の整数を表し、B−G−Bの構成も含む、
一般式(a)のポリエステル系可塑剤は、Bで示されるモノカルボン酸残基と、Gで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基と、Aで示されるジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0125】
一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤を構成するモノカルボン酸成分(Bに対応)としては、例えば、酢酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、p−トルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、n−プロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0126】
一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤を構成しうる炭素数2〜12のアルキレングリコール成分(Gに対応)としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースアシレートとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0127】
一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤を構成しうる炭素数6〜12のアリールグリコール成分(Gに対応)としては、例えば、1,4−ベンゼンジオール、2−へキセン1,5−ジオール、2−へキセン1,6−ジオール、3−へキセン1,6−ジオール、3−オクテン1,8−ジオール、6−ドデセン1,12−ジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0128】
一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤を構成しうる炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分(Gに対応)としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0129】
一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤を構成しうる炭素数4〜12のジカルボン酸成分(Aに対応)としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。また、炭素数6〜12のアリールジカルボン酸成分(Aに対応)としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。
【0130】
上述したジカルボン酸は、少なくとも一つの脂肪族ジカルボン酸と少なくとも一つの芳香族ジカルボン酸との混合物であることが特に好ましい。すなわち、一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤は、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ポリエステル系残基を含むものであることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを併用する場合は、これらの合計量(100質量%)に占める脂肪族ジカルボン酸の割合が55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0131】
ここで、一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤の具体的な化合物の一例を以下に示すが、これらに限定されることはない。
【0132】
【化13】

【0133】
【化14】

【0134】
【化15】

【0135】
【化16】

【0136】
一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤の合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成しうるものである。これらのポリエステル系可塑剤については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0137】
上述した一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤は、末端がモノカルボン酸成分によって封止されてなる構造を有する。ただし、本形態において用いられうるポリエステル系可塑剤はかような形態のみに制限されない。例えば、末端がモノカルボン酸成分によって封止されていない(すなわち、両末端の少なくとも一方にヒドロキシ基が結合した)構造を有するポリエステル系可塑剤がセルロースアシレートフィルムに含まれてもよい。かようなポリエステル系可塑剤は、下記一般式(a’)で表されるものである。
【0138】
【化17】

【0139】
式中、Bは水素原子、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、nは0以上の整数を表し、B−G−Bの構成も含む、
一般式(a’)で表されるポリエステル系可塑剤の具体的な形態については、Bが水素原子であること以外は上述した一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0140】
本形態において用いられるポリエステル系可塑剤の数平均分子量(Mn)は、好ましくは350〜2000であり、より好ましくは350〜1000であり、特に好ましくは350〜700である。この範囲の数平均分子量(Mn)を有するポリエステル系可塑剤がセルロースアシレートフィルムに含まれると、フィルムの透湿度が向上しうるため、好ましい。なお、ポリエステル系可塑剤の数平均分子量(Mn)の値は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0141】
また、ポリエステル系添加剤の酸価は、好ましくは0.5mgKOH/g以下であり、より好ましくは0.3mgKOH/g以下である。また、ポリエステル系添加剤の水酸基価は、好ましくは25mgKOH/g以下であり、より好ましくは15mgKOH/g以下である。
【0142】
セルロースアシレートフィルムにおけるポリエステル系可塑剤の含有量は、セルロースアシレートフィルムの総量100質量部に対して、好ましくは1〜35質量部であり、より好ましくは5〜30質量部である。この範囲内であれば、本発明の優れた効果を奏するとともに、原反保管中におけるブリードアウトなどもなく好ましい。
【0143】
なお、セルロースアシレートフィルムの強度を確保するという観点からは、ポリエステル系可塑剤としては、上述した一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤を必須に含むことが好ましい。したがって、ポリエステル系可塑剤の総量100質量部に占める一般式(a)で表されるポリエステル系可塑剤の含有量は、好ましくは10〜100質量部であり、より好ましくは50〜100質量部であり、特に好ましくは80〜100質量部である。
【0144】
(他の可塑剤)
以上で説明したポリエステル系可塑剤以外にも、各種の可塑剤が本形態に係るセルロースアシレートフィルムに配合されてもよい。かような可塑剤としては、例えば、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、およびアクリル系可塑剤等が挙げられる。
【0145】
多価アルコールエステル系可塑剤は、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸とのエステルからなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。多価アルコールエステル系可塑剤は、好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールのエステルからなる。
【0146】
好ましく用いられる多価アルコールは、次の一般式(b)で表される。
【0147】
【化18】

【0148】
(式中、R1はn価の有機基を表し、nは2以上の整数を表し、OHはアルコール性および/またはフェノール性水酸基を表す。)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0149】
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等が挙げられる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0150】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が用いられうる。脂環族モノカルボン酸や芳香族モノカルボン酸を用いると、フィルムの透湿性、保留性を向上させることができるため、好ましい。
【0151】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のものが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。
【0152】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖のまたは側鎖を有する脂肪酸が好ましく用いられうる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸とを混合して用いることも好ましい。
【0153】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0154】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0155】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基またはエトキシ基などのアルコキシ基が1〜3個導入されたもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体が挙げられる。特に安息香酸が好ましい。
【0156】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限されないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では分子量が小さい方が好ましい。
【0157】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種単独でもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化されていてもよいし、一部がOH基のまま残されてもよい。
【0158】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0159】
【化19】

【0160】
【化20】

【0161】
【化21】

【0162】
【化22】

【0163】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、例えば、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いられうる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0164】
フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0165】
クエン酸エステル系可塑剤としては、例えば、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0166】
脂肪酸エステル系可塑剤としては、例えば、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0167】
リン酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0168】
多価カルボン酸エステル系可塑剤としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールとのエステルからなる可塑剤が例示される。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0169】
多価カルボン酸は、次の一般式(c)で表される。
【0170】
【化23】

【0171】
(式中、R2は(m+n)価の有機基を表し、mは2以上の整数を表し、nは0以上の整数を表し、COOHはカルボキシル基を表し、OHはアルコール性および/またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0172】
トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などが好ましく用いられうる。特に、オキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0173】
一方、多価カルボン酸エステル系可塑剤を構成するアルコールについても特に制限はなく、公知のアルコール類、フェノール類が用いられうる。
【0174】
例えば、炭素数1〜32の直鎖のまたは側鎖を有する脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールが好ましく用いられうる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0175】
また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いられうる。
【0176】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸によりエステル化してもよい。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のものが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。
【0177】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖のまたは側鎖を有する脂肪酸が好ましく用いられうる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0178】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などが挙げられる。
【0179】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0180】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上含む芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体が挙げられる。特に、酢酸、プロピオン酸、安息香酸が好ましい。
【0181】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は特に制限はないが、分子量300以上1000未満の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることがさらに好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0182】
多価カルボン酸エステル系可塑剤に用いられるアルコール類は一種単独でもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0183】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の酸価は、1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、レターデーションの環境変動が抑制されるため好ましい。
【0184】
特に好ましい多価カルボン酸エステル系可塑剤の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。
【0185】
例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0186】
(糖エステル化合物)
本形態に係るセルロースアシレートフィルムは、糖エステル化合物を含有してもよい。このように、セルロースアシレートフィルムが糖エステル化合物を含むことで、セルロースアシレートの加水分解が防止されることから、フィルムの耐水性が向上しうる。
【0187】
本形態において用いられうる糖エステル化合物の具体的な形態については、特に制限はない。糖エステル化合物の一例としては、
下記一般式(I):
【0188】
【化24】

【0189】
で表される化合物が挙げられる。
【0190】
一般式(I)において、Qは、単糖類または二糖類の残基を表し、Rは、脂肪族基または芳香族基を表し、mは、単糖類または二糖類の残基に直接結合している水酸基の数の合計であり、lは、単糖類または二糖類の残基に直接結合している−(O−C(=O)−R)基の数の合計であり、3≦m+l≦8であり、l≠0である。
【0191】
一般式(I)で表される構造を有する化合物は、水酸基の数(m)、−(O−C(=O)−R)基の数(l)が固定された単一種の化合物として単離することは困難であり、式中のm、lの異なる成分が数種類混合された化合物となることが知られている。したがって、水酸基の数(m)、−(O−C(=O)−R)基の数(l)が各々変化した混合物としての性能が重要であり、本形態のようなセルロースアシレートフィルムの場合、ヘイズ特性に対し一般式(I)で表される構造を有し、かつm=0の成分とm>0の成分との混合比率が45:55〜0:100である化合物が好ましい。さらに性能的、コスト的により好ましくはm=0の成分とm>0の成分との混合比率が10:90〜0.1:99.9の範囲である。なお、上記のm=0の成分とm>0の成分は、常法により高速液体クロマトグラフィによって測定することが可能である。
【0192】
上記一般式(I)において、Qは単糖類または二糖類の残基を表す。単糖類の具体例としては、例えばアロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソースなどが挙げられる。
【0193】
以下に、一般式(I)で表される、単糖類残基を有する化合物の構造例を示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0194】
【化25】

【0195】
二糖類の具体例としては、例えば、トレハロース、スクロース、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、イソトレハロースなどが挙げられる。
【0196】
以下に、一般式(I)で表される、二糖類残基を有する化合物の構造例を示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0197】
【化26】

【0198】
一般式(I)において、Rは、脂肪族基または芳香族基を表す。ここで、脂肪族基および芳香族基はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい。
【0199】
また、一般式(I)において、mは、単糖類または二糖類の残基に直接結合している水酸基の数の合計であり、lは、単糖類または二糖類の残基に直接結合している−(O−C(=O)−R)基の数の合計である。そして、3≦m+l≦8であることが必要であり、4≦m+l≦8であることが好ましい。また、l≠0である。なお、lが2以上である場合、−(O−C(=O)−R)基は互いに同じでもよいし異なっていてもよい。
【0200】
Rの定義における脂肪族基は、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく、炭素数1〜25のものが好ましく、1〜20のものがより好ましく、2〜15のものが特に好ましい。脂肪族基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、シクロプロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、アミル、iso−アミル、tert−アミル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、ビシクロオクチル、アダマンチル、n−デシル、tert−オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ジデシルなどが挙げられる。
【0201】
また、Rの定義における芳香族基は、芳香族炭化水素基でもよいし、芳香族複素環基でもよく、より好ましくは芳香族炭化水素基である。芳香族炭化水素基としては、炭素数が6〜24のものが好ましく、6〜12のものがさらに好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニルなどが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニルが特に好ましい。芳香族複素環基としては、酸素原子、窒素原子または硫黄原子のうち少なくとも1つを含むものが好ましい。複素環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデンなどが挙げられる。芳香族複素環基としては、ピリジン、トリアジン、キノリンが特に好ましい。
【0202】
次に、一般式(I)で表される化合物の好ましい例を下記に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0203】
【化27】

【0204】
【化28】

【0205】
(合成例:一般式(I)で表される化合物の合成例)
【0206】
【化29】

【0207】
撹拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.8モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×10Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5の混合物を得た。得られた混合物をHPLCおよびLC−MASSで解析したところ、A−1が7質量%、A−2が58質量%、A−3が23質量%、A−4が9質量%、A−5が3質量%であった。なお、得られた混合物の一部をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA−1、A−2、A−3、A−4およびA−5を得た。
【0208】
(紫外線吸収剤)
本形態に係るセルロースアシレートフィルムは、紫外線吸収剤を含有してもよい。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0209】
紫外線吸収剤としては特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0210】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0211】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0212】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースアシレート中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0213】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、セルロースアシレートフィルムの総量100質量部に対して、0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%がさらに好ましい。
【0214】
なお、本形態に係る偏光板は、上述したように、光硬化性接着剤を介して偏光子とセルロースアシレートフィルムとが貼合されてなる構成を有するものである。したがって、偏光板の作製においては、未硬化の光硬化性接着剤を偏光子またはセルロースアシレートフィルムの一方の貼合面(好ましくは、セルロースアシレートフィルムの貼合面)に塗布し、さらに接着剤を塗布していない側の部材を積層して、いずれかの側から光(好ましくは、紫外線)を照射する。これにより、未硬化の光硬化性接着剤においてカチオン重合が(および場合によってはラジカル重合も)進行し、接着剤が硬化して、貼合(接着)が達成される。したがって、セルロースアシレートフィルムが紫外線吸収剤を含む場合に、接着剤を硬化させるための紫外線を照射するときには、当該紫外線がセルロースアシレートフィルムを通過せずに接着剤のみに到達するように照射系を設計すべきである。
【0215】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は劣化防止剤とも称される。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などが置かれた場合には、セルロースアシレートフィルムの劣化が起こる場合がある。
【0216】
酸化防止剤は、例えば、セルロースアシレートフィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等によりセルロースアシレートフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記セルロースアシレートフィルム中に含有させるのが好ましい。
【0217】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート等を挙げることができる。
【0218】
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0219】
これらの酸化防止剤の添加量は、セルロースアシレートフィルムの総量100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.3〜3質量部である。
【0220】
(マット剤(微粒子))
本形態に係るセルロースアシレートフィルムは、マット剤(微粒子)を含有することが好ましい。かようなマット剤(微粒子)を含有することにより滑り性、保管安定性が向上する。
【0221】
マット剤(微粒子)としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0222】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。セルロースアシレートフィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。多層構成のセルロースアシレートフィルムの場合は、少なくともスキン層にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0223】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0224】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0225】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0226】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロースアシレートフィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。セルロースアシレートフィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0227】
(染料)
本形態に係るセルロースアシレートフィルムには、色味調整のため染料を添加することもできる。例えば、フィルムの黄色味を抑えるために青色染料を添加してもよい。好ましい染料としてはアンスラキノン系染料が挙げられる。
【0228】
アンスラキノン系染料は、アンスラキノンの1位から8位迄の任意の位置に任意の置換基を有することができる。好ましい置換基としてはアニリノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、または水素原子が挙げられる。特に特開2001−154017号記載の青色染料、特にアントラキノン系染料を含有することが好ましい。
【0229】
各種添加剤は製膜前のセルロースアシレート含有溶液であるドープにバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子は濾過材への負荷を減らすために、一部または全量をインライン添加することが好ましい。
【0230】
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、少量のセルロースアシレートに溶解するのが好ましい。好ましいセルロースアシレートの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
【0231】
本発明においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
【0232】
(セルロースアシレートフィルムの層構成)
後述する実施例の欄に記載のように、セルロースアシレートフィルムは、組成の異なる複数の層が積層されてなる構成を有していてもよい。かような構成の典型的な例として、実施例に記載するような3層構造(スキン層/コア層/スキン層)を有するセルロースアシレートフィルムが挙げられる。このように組成の異なる複数の層からセルロースアシレートフィルムが構成される場合に、フィルムを構成するそれぞれの層の組成の具体的な形態について特に制限はなく、目的に応じて適宜設定すればよい。
【0233】
例えば、本形態に係るセルロースアシレートフィルムは多価エポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)を含むが、この多価エポキシ化合物は、一方(偏光子との貼合面の側)のスキン層のみに含まれ、コア層および他方のスキン層には含まれない形態が、好ましい形態として例示される。また、両側のスキン層に多価エポキシ化合物が含まれ、コア層には含まれない形態もまた、他の好ましい形態として例示される。すなわち、多価エポキシ化合物は、スキン層の少なくとも一方に含まれることが好ましい。これは、偏光子との貼合を媒介する光硬化性接着剤に隣接する表層部(スキン層に相当する部位)に多価エポキシ化合物が含まれていれば、上述したようなメカニズムによって、本願発明の作用効果が奏されうるためである。同様の理由で、本形態に係るセルロースアシレートフィルムが光カチオン重合開始剤を含む場合にも、この光カチオン重合開始剤が一方(偏光子との貼合面の側)のスキン層のみに含まれ、コア層および他方のスキン層には含まれない形態が、好ましい形態として例示される。また、両側のスキン層に光カチオン重合開始剤が含まれ、コア層には含まれない形態もまた、他の好ましい形態として例示される。
【0234】
一方、ポリエステル系可塑剤等の可塑剤や、糖エステル化合物、マット剤(微粒子)については、コア層および両側のスキン層のすべてに均一に配合されていることが好ましい。また、紫外線吸収剤が含まれる場合、これは偏光子との貼合面の側のスキン層には配合されないことが好ましく、コア層のみに配合されることが好ましい。なお、2つのスキン層の組成は同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが生産性向上の観点からは好ましい。
【0235】
上述したような複数の層の積層構造を有するセルロースアシレートフィルムは、後述する共流延法やを採用することで、簡便な手法により製造可能である。
【0236】
(セルロースアシレートフィルムの製造方法)
本形態に係るセルロースアシレートフィルムは、溶液流延法で製造されたフィルムであっても、溶融流延法で製造されたフィルムであっても、どちらも好ましく用いることができる。ただし、好ましくは溶液流延法によるものである。よって、以下では、溶液流延法によるセルロースアシレートフィルムの製造方法を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。
【0237】
当該形態に係る製造方法における溶液流延法によるセルロースアシレートフィルムの製造は、例えば、セルロースアシレート、第2の多価エポキシ化合物およびポリエステル系可塑剤並びに必要に応じてその他の添加剤を溶媒に溶解させてドープを調製する工程;ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流涎する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、さらに乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0238】
まず、ドープを調製する工程について説明する。ドープ中のセルロースアシレートの濃度は、濃い方が金属支持体に流涎した後の乾燥負荷が低減できることから好ましいが、セルロースアシレートの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、さらに好ましくは、15〜25質量%である。また、多価エポキシ化合物やポリエステル系可塑剤、その他の添加剤については、ドープ調製釜に規定量をバッチ添加することが好ましい。
【0239】
ドープの調製に用いられる溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースアシレートの良溶媒と貧溶媒とを混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶媒が多い方がセルロースアシレートの溶解性の点で好ましい。
【0240】
良溶媒と貧溶媒との混合比率の好ましい範囲は、良溶媒が70〜98質量%であり、貧溶媒が2〜30質量%である。良溶媒、貧溶媒とは、使用するセルロースアシレートを単独で溶解するものが良溶媒と定義され、単独で膨潤するかまたは溶解しないものが貧溶媒と定義される。そのため、セルロースアシレートのアシル基置換度によって、良溶媒、貧溶媒が変わる。
【0241】
本発明に用いられる良溶媒は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0242】
また、本発明に用いられる貧溶媒は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含まれていることが好ましい。
【0243】
また、セルロースアシレートの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これは再利用されうる。
【0244】
回収溶媒中に、セルロースアシレートに添加されている添加剤が微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
【0245】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースアシレートの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
【0246】
溶媒の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。
【0247】
また、セルロースアシレートを貧溶媒と混合して湿潤あるいは膨潤させた後、さらに良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0248】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶媒の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0249】
溶媒を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースアシレートの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。
【0250】
好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70〜105℃がさらに好ましい。また、圧力は設定温度で溶媒が沸騰しないように調整される。
【0251】
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースアシレートを溶解させることができる。
【0252】
次に、このセルロースアシレート溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0253】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材がさらに好ましい。
【0254】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0255】
濾過により、原料のセルロースアシレートに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0256】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースアシレートフィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm以下であることが好ましく、より好ましくは100個/cm以下であり、さらに好ましくは50個/m以下であり、特に好ましくは0〜10個/cm以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0257】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶媒の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶媒が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0258】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることがさらに好ましい。
【0259】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
【0260】
続いて、ドープの流延(キャスト)について説明する。
【0261】
流延(キャスト)工程に用いられる金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0262】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶媒の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。
【0263】
好ましい支持体温度は0〜55℃であり、25〜50℃がさらに好ましい。あるいは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0264】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0265】
以上では、セルロースアシレートフィルムを、1種のみのドープを単独で流延するという形態について説明したが、共流延法または逐次流延法によってセルロースアシレートフィルムを製造してもよい。これらの方法を採用することで、組成の異なる複数の層が積層されてなる構造を有するセルロースアシレートフィルムが製造されうる。
【0266】
共流延法および逐次流延法により製造する場合には、先ず、各層用のドープを調製する。この際、各層用のドープの組成は、得られるセルロースアシレートフィルムにおける各成分の好ましい配合量を考慮して、適宜調節することができる。
【0267】
共流延法(重層同時流延)は、流延用支持体(バンドまたはドラム)の上に、各層(2層またはそれ以上でもよい)各々の流延用ドープを別のスリットなどから同時に押出す流延用ギーサからドープを押出して、各層同時に流延し、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。図1に、共流延ギーサ3を用い、流延用支持体4の上にスキン層用ドープ1とコア層用ドープ2を3層同時に押出して流延する状態を断面図として示す。
【0268】
逐次流延法は、流延用支持体の上に先ず第1層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して、流延し、乾燥し、または乾燥することなく、その上に第2層用の流延用ドープを流延用ギーサから押出して流延する要領で、必要なら第3層以上まで逐次ドープを流延・積層して、適当な時期に支持体から剥ぎ取って、乾燥しフィルムを成形する流延法である。塗布法は、一般的には、コア層のフィルムを溶液製膜法によりフィルムに成形し、スキン層に塗布する塗布液を調製し、適当な塗布機を用いて、片面ずつまたは両面同時にフィルムに塗布液を塗布・乾燥して積層構造のフィルムを成形する方法である。
【0269】
使用される加圧ダイは、金属支持体の上方に1基または2基以上の設置でもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には、流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合に分けてもよく、複数の精密定量ギアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられるドープの温度は、工程のすべての溶液温度が同一でもよく、または工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0270】
本形態に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法は、ドープを支持体上に流延して得られるフィルムを乾燥し、剥離した後に延伸する工程を含む。
【0271】
セルロースアシレートフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、さらに好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0272】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0273】
【数2】

【0274】
式中、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0275】
また、セルロースアシレートフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、さらに乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0276】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0277】
セルロースアシレートフィルムを作製するための延伸操作は、フィルムのMD方向(流延方向または長手方向)、およびTD方向(幅手方向)に対して、逐次または同時に延伸することができる。互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、MD方向は0〜20%程度とし、TD方向は5〜50%程度とすればよい。
【0278】
特に本発明では、TD方向に5〜50%延伸し、該延伸する際の温度を180℃以上230℃以下にして、延伸後の面内リタデーションReを0〜10nm、厚さ方向のリタデーションRthを−5〜20nmの範囲に調整するとヘイズ安定性が顕著に向上する。
【0279】
特にポリエステル系添加剤の存在下で比較的高温である180℃以上230℃以下の比較的高い温度で延伸処理すると、ポリエステル系添加剤がマット剤(微粒子)の周りをコーティングし、より凝集が起きにくくなる。この際、ポリエステル系添加剤の分子量が小さい方がより表面コーティング能力が高く、ジカルボン酸基が脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合である方がさらにコーティング能力が高い。
【0280】
さらに、延伸開始時の残留溶媒量を5質量%未満に保持することは、面内リタデーションRe、Rthを好ましい範囲に調整し易い上に、ヘイズに対する効果をより向上させることができ好ましい。該残留溶媒の測定は前記した通りであり、ここでいう延伸開始時とは、例えばテンターであればクリップでウェブの端を把持し実際に延伸が開始される直前のウェブ中の残留溶媒をいう。延伸開始時の残留溶媒を5質量%未満に保持するには、ウェブを金属支持体から剥離し、搬送する過程において前記乾燥工程を設け溶媒を蒸発させることが好ましい。5質量%以上の残留溶媒を保持したまま延伸を行うと、面内リタデーションRe、Rthを好ましい範囲に調整することが難しく、ヘイズも上昇し易い。延伸開始時の好ましい残留溶媒量は4質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下にすることである。この操作は生産性を考慮するとオンラインで行うことが好ましい。
【0281】
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用してMD方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げてMD方向に延伸する方法、同様に横方向に広げてTD方向に延伸する方法、或いはMD/TD方向同時に広げてMD/TD両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0282】
製膜工程のこれらの幅保持あるいは幅手方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
【0283】
テンター内などの製膜工程でのフィルム搬送張力は温度にもよるが、120N/m〜200N/mが好ましく、140N/m〜200N/mが更に好ましい。140N/m〜160N/mが最も好ましい。
【0284】
セルロースアシレートフィルムの、23℃55%RH環境で測定される弾性率は、フィルム長手方向(MD)、フィルム幅手方向(TD)ともに3.4GPA以上、7.0GPA以下であることが好ましく、TD弾性率/MD弾性率=1.05〜2.0となるように調整されることが好ましい。延伸操作の安定性、破断等を回避するために、弾性率は好ましくは、3.4GPA以上、4.5GPA以下の範囲にフィルムを構成する材料種および構成する材料の比率によって調整される。
【0285】
セルロースアシレートフィルムは延伸後、熱固定されることが好ましいが、熱固定はその最終TD方向延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定することが好ましい。この際、2つ以上に分割された領域で温度差が1〜100℃となる範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
【0286】
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、TD方向および/またはMD方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。なお、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとしたとき、(T1−Tg)/tで求めた値である。
【0287】
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースアシレートや可塑剤等の添加剤種により異なるので、得られた延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
【0288】
セルロースアシレートフィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角をθ1とするとθ1は−1°以上+1°以下であることが好ましく、−0.5°以上+0.5°以下であることがより好ましい。このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADHもしくはKOBRA−WR(王子計測機器)を用いて行うことができる。θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与でき、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現を得ることに寄与できる。
【0289】
(セルロースアシレートフィルムの物性・光学特性)
本形態に係るセルロースアシレートフィルムの厚さは、好ましくは15〜65μmであり、特に好ましくは15〜35μmである。
【0290】
本形態に係るセルロースアシレートフィルムの透湿度は、40℃、90%RHで10〜1200g/m・24hが好ましく、さらに20〜1000g/m・24hが好ましく、20〜850g/m・24hが特に好ましい。透湿度はJIS Z 0208に記載の方法に従い測定することができる。
【0291】
本形態に係るセルロースアシレートフィルムの破断伸度は10〜80%であることが好ましく20〜50%であることがさらに好ましい。
【0292】
本形態に係るセルロースアシレートフィルムの可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。
【0293】
本形態に係るセルロースアシレートフィルムのヘイズは1%未満であることが好ましく0〜0.1%であることが特に好ましい。
【0294】
本形態に係るセルロースアシレートフィルムの、下記式で表されるリタデーション値Reは好ましくは0〜10nmであり、Rthは好ましくは−5〜20nmである。
【0295】
【数3】

【0296】
式中、Reはフィルム面内リタデーション値、Rthはフィルム厚み方向リタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
【0297】
上記屈折率は、例えばKOBRA−21ADHまたはKOBRA−WR(王子計測機器株式会社製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
【0298】
さらに、リタデーション値Reはより好ましくは0〜5nmの範囲であり、Rthはより好ましくは0〜15nmの範囲である。これらのリタデーション値Re、Rthを得るには、セルロースアシレートフィルムを製造する際の延伸操作の条件を調節することで、屈折率制御を行うことが好ましい。
【0299】
(偏光板の製造方法)
本形態に係る偏光板を製造するには、上述した偏光子とセルロースアシレートフィルムとを、光硬化性接着剤を介して貼合すればよい。具体的には、上述した光硬化性接着剤の塗布層を、偏光子とセルロースアシレートフィルムの貼合面の一方または両方に形成し、その塗布層を介して偏光子とセルロースアシレートフィルムとを貼合し、こうして形成される未硬化の光硬化性接着剤の塗布層を、光(活性エネルギー線)の照射により硬化させ、セルロースアシレートフィルムを偏光子上に固着させる。光硬化性接着剤の塗布層は、偏光子の貼合面に形成してもよいし、保護膜の貼合面に形成してもよい。塗布層の形成には、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子とセルロースアシレートフィルムとを両者の貼合面が内側となるように連続的に供給しながら、その間に光硬化性接着剤を流延させる方式を採用することもできる。各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、溶剤を用いて光硬化性接着剤の粘度調整を行うことも有用な技術である。このための溶剤には、偏光子の光学性能を低下させることなく、光硬化性接着剤を良好に溶解するものが用いられるが、その種類に特別な限定はない。例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。接着剤層の厚さは、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。接着剤層が厚くなると、接着剤の反応率が低下し、偏光板の耐湿熱性が悪化する傾向にある。
【0300】
偏光子とセルロースアシレートフィルムとを接着するにあたり、両者の貼合面の一方または双方には、光硬化性接着剤の塗布層を形成する前に、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理などの易接着処理が施されてもよい。
【0301】
光硬化性接着剤の塗布層に光(活性エネルギー線)を照射するために用いる光源は、紫外線、電子線、X線などを発生するものであればよい。特に波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好適に用いられる。光硬化性接着剤組成物への活性エネルギー線照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであって、特に限定されないが、開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜100mW/cmであることが好ましい。光硬化性接着剤への光照射強度が0.1mW/cm未満であると、反応時間が長くなりすぎ、100mW/cmを超えると、ランプから輻射される熱および光硬化性接着剤の重合時の発熱により、光硬化性接着剤の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10〜5000mJ/cmとなるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/cm未満であると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる接着剤層の硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が5000mJ/cmを超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。
【0302】
偏光子の両面にセルロースアシレートフィルムを貼合する場合、光(活性エネルギー線)の照射はどちらのフィルムの側から行ってもよいが、例えば、一方のセルロースアシレートフィルムが紫外線吸収剤を含有し、他方のセルロースアシレートフィルムが紫外線吸収剤を含有しない場合には、紫外線吸収剤を含有しないフィルムの側から光(活性エネルギー線)を照射するのが、照射される光を有効に利用し、硬化速度を高めるうえで好ましい。
【0303】
(偏光板の構成)
本形態に係る偏光板において、セルロースアシレートフィルムの偏光子とは反対側の表面には、各種の機能性層が設けられうる。かような機能性層としては、例えば、クリヤハードコート(CHC;Clear Hard Coat)加工層、低反射(LR;Low Reflection)加工層、防眩性(AG;Anti-Glare)加工層、反射防止(AR;Anti-Reflection)加工層、帯電防止層、バックコート層、易滑性層、接着層、バリアー層、光学補償層などが挙げられる。これらの機能性層は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が用いられてもよい。2種以上が用いられる場合、それぞれの積層順序には特に制限はなく、従来公知の知見を参照しつつ、適宜決定されうる。
【0304】
≪表示装置≫
本発明に係る偏光板は、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置などの各種の表示装置に用いられうる。
【0305】
例えば、本発明に係る偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。本発明の偏光板は、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPSなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。特に好ましくはVA(MVA、PVA)型、およびIPS型液晶表示装置である。
【0306】
特に本発明の偏光板は、大画面の液晶表示装置に使用した場合であっても色ムラを生じにくく、優れた視認性を付与することができる。
【実施例】
【0307】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の形態のみに限定されるわけではない。
【0308】
≪合成例:ポリエステル系可塑剤の合成≫
(ポリエステル系可塑剤1−1の合成)
温度計、攪拌器および還流冷却器を備えた内容積3リットルの四ツ口フラスコに、主鎖構成成分として、A成分であるフタル酸を830.7g(5.0mol)、アジピン酸を730.7g(5.0mol)、G成分である1,2−プロパンジオールを380.4g(5mol)、エチレングリコールを310.4g(5mol)、末端構成成分として、B成分である安息香酸を1221.2g(10mol)、およびエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.10gを仕込んだ。次いで、窒素気流下で攪拌しながら還流し、220℃まで段階的に昇温した後、220℃で15時間脱水縮合反応させた。反応終了後、未反応物を減圧留去して、数平均分子量(Mn)450のポリエステル系可塑剤1−1を得た。なお、ポリエステル系可塑剤の数平均分子量(Mn)は、以下の手法により測定した。
【0309】
(ポリエステル系可塑剤の数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(東ソー株式会社製「HLC−8330」)を用いて、下記の測定条件で、エステル化合物の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を測定した。
【0310】
カラム:「TSK gel SuperHZM−M」×2本および
「TSK gel SuperHZ−2000」×2本
ガードカラム:「TSK SuperH−H」
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
(ポリエステル系可塑剤1−2〜1−7の合成)
反応時間を変更したこと以外は、上述したポリエステル系可塑剤1−1と同様の手法により、数平均分子量(Mn)の異なるポリエステル系可塑剤1−2〜1−7を合成した。なお、ポリエステル系可塑剤1−1〜1−7の数平均分子量(Mn)の値を下記の表1に示す。
【0311】
【表1】

【0312】
(ポリエステル系可塑剤2〜13の合成)
合成原料である主鎖構成成分(A成分およびG成分)並びに末端構成成分(B成分)の種類および添加割合を、下記の表2に示すように変更したこと以外は、上述したポリエステル系可塑剤1−1と同様の手法により、ポリエステル系可塑剤2〜13を合成した。なお、ポリエステル可塑剤2〜13の数平均分子量(Mn)の値についても、下記の表2に併せて示す。
【0313】
【表2】

【0314】
≪ドープの調製≫
(二酸化珪素分散液)
アエロジルR812(日本アエロジル株式会社製) 10質量部
エタノール 90質量部
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行い、二酸化珪素分散液を得た。この二酸化珪素分散液に88質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液を作製した。微粒子分散希釈液濾過器(アドバンテック東洋(株):ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1N)で濾過した。
【0315】
(セルロースアシレートのドープ1(スキン層用または単層用のドープ)の調製)
TAC:トリアセチルセルロース(アセチル基置換度2.89、Mw=190000) 100質量部
エポキシ化合物A(ビスフェノールA型エポキシ樹脂 jER−828(ジャパンエポキシレジン株式会社製);一般式(A)において、RおよびRがすべて水素原子であり、Lが−C(CH−であり、xが2である化合物) 5質量部
光カチオン重合開始剤 UVI−6992(ダウケミカル社製) 3質量部
ポリエステル系可塑剤1−1 5質量部
メチレンクロライド 700質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。これに二酸化珪素分散希釈液を4質量部、撹拌しながら加えて、さらに30分間撹拌した。
【0316】
(セルロースアシレートのドープ2(コア層用のドープ)の調製)
TAC:トリアセチルセルロース(アセチル基置換度2.89、Mw=190000) 100質量部
紫外線吸収剤 チヌビン928(BASFジャパン株式会社製) 3質量部
ポリエステル系可塑剤1−1 5質量部
メチレンクロライド 700質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。これに二酸化珪素分散希釈液を4質量部、撹拌しながら加えて、さらに30分間撹拌した。
【0317】
≪共流延法によるセルロースアシレートフィルムの作製≫
(セルロースアシレートフィルムT1の作製)
ベルト共流延装置を用い、上記で調製したドープ1がコア層になるように、そして、上記で調製したドープ2が両側のスキン層になるように、ドープ1およびドープ2を、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に共流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶媒量が100質量%になるまで溶剤を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したフィルムのウェブを50℃で乾燥しながら搬送させ、スリットし、その後、テンターでTD方向(フィルムの搬送方向と直交する方向)に190℃の温度条件下、10%の延伸倍率で延伸し、160℃の乾燥温度で乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶媒量は4.5%であった。その後、120℃の乾燥装置内を多数のロールで搬送させながら15分間乾燥させた後、スリットし、フィルム両端に幅15mm、高さ10μmのナーリング加工を施し、巻芯に巻き取った。フィルムの残留溶媒量は0.1%未満であり、膜厚は30μm、幅2m、巻長さは3000mであった。
【0318】
このようにして得られたフィルムを37インチサイズにカットして、セルロースアシレートフィルムT1を得た。
【0319】
(セルロースアシレートフィルムT2〜T61の作製)
ドープ1に含ませる多価エポキシ化合物(第2の多価エポキシ化合物)の種類、ドープ1および2に含ませるポリエステル系可塑剤の種類、ドープ1に含ませる光カチオン重合開始剤の有無、フィルムの層構成(3層または単層)、および、フィルムの膜厚(コア層、スキン層、合計)を、下記の表3に示すように変更したこと以外は、上述したセルロースアシレートフィルムT1と同様の手法により、セルロースアシレートフィルムT2〜T61を作製した。なお、第2の多価エポキシ化合物として用いたエポキシ化合物B〜Oは、以下のとおりである。
【0320】
エポキシ化合物B:一般式(B)において、Rがすべて水素原子であり、Lが−CH−であり、yが2である化合物
エポキシ化合物C:一般式(C)において、lおよびmがともに2であり、Mが−N−であり、Aが−CH−である化合物
エポキシ化合物D:一般式(D)において、RおよびRがすべて水素原子であり、Lが−C(CH−であり、xが2である化合物
エポキシ化合物E〜O:一般式(E)〜(O)において、R〜R25が水素原子であり、Y〜Yが−CH−であり、YがOである場合の各化合物
【0321】
【表3】

【0322】
≪偏光板の作製≫
(光硬化性接着剤の調製)
下記を混合して光硬化性接着剤を作成した。
【0323】
エポキシ化合物A(ビスフェノールA型エポキシ樹脂 jER−828(ジャパンエポキシレジン株式会社製);一般式(A)において、RおよびRがすべて水素原子であり、Lが−C(CH−であり、xが2である化合物) 38質量部
3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン アロンオキセタンOXT−211(東亞合成株式会社製) 56質量部
光カチオン重合開始剤 UVI−6992(ダウケミカル社製) 3質量部
プロピレンカーボネート 3質量部
(偏光板1の作製)
まず、偏光子として、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向している偏光子(37インチサイズ)を準備した。
【0324】
続いて、偏光子の一方の表面の保護フィルム(保護フィルム1)として、上記で作製したセルロースアシレートフィルムT1を準備し、この一方の表面にコロナ放電処理を施した後、コロナ放電処理面に上記で調製した光硬化性接着剤をバーコーターで3μmの厚さに塗工し、その上に上記で準備した偏光子を積層した。
【0325】
一方、偏光子の他方の表面の保護フィルム(保護フィルム2)として、市販のセルロースエステルフィルム(商品名KC4FR−1(コニカミノルタオプト株式会社製):厚さ40μm)を準備し、この保護フィルム2についても、上記と同様の手法により、光硬化性接着剤を介して偏光子の保護フィルム1とは反対側の表面と貼合した。
【0326】
こうして偏光子の両面に保護フィルムが貼合されてなる積層体に、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプは Fusion 社製の“Fusion Hバルブ”を使用)により、保護フィルム2側の表面から積算光量300mJ/cmで紫外線を照射した後、室温にて1時間静置した。
【0327】
得られた積層体の、保護フィルム1の露出表面にクリヤハードコート(CHC)加工を施して、偏光板1を得た。なお、クリヤハードコート(CHC)加工は、以下のように行った。
【0328】
[クリヤハードコート(CHC)加工]
保護フィルム1上に、塗布組成物として下記のハードコート塗布組成物を、マイクログラビアコーターを用いて表面に塗布し、恒率乾燥区間温度50℃、減率乾燥区間温度70℃で乾燥の後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cmで、照射量を0.2J/cmとして塗布層を硬化させ、ドライ膜厚8μmのハードコート層を形成し、クリヤハードコート(CHC)加工とした。
【0329】
(ハードコート塗布組成物)
ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート 73質量部
(NKエステルA−TMM−3、新中村化学工業(株)製)
イルガキュア184(BASFジャパン株式会社製) 5質量部
シリコーン系界面活性剤 1質量部
(信越化学工業(株)製 商品名:KF−351A)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 10質量部
酢酸メチル 70質量部
メチルエチルケトン 70質量部
(偏光板2〜61の作製)
保護フィルム1として用いるセルロースアシレートフィルムの種類、保護フィルム2として用いるフィルムの種類、光硬化性接着剤に含ませる多価エポキシ化合物(第1の多価エポキシ化合物)の種類、並びに、偏光板の表面加工の有無およびその種類を、下記の表4に示すように変更したこと以外は、上述した偏光板1と同様の手法により、偏光板2〜61を作製した。なお、表4に示す偏光板の表面加工について、LR(低反射;Low Reflection)加工、AG(防眩性;Anti-Glare)加工、AR(反射防止;Anti-Reflection)加工は、以下のように行った。
【0330】
[LR加工]
上述したハードコート層の上に、下記の低屈折率層塗布組成物を押出しコーターで塗布し、100℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射部の照度が100mW/cmで0.3J/cm照射して硬化させ、さらに120℃で5分間熱硬化させ、厚さ90nmとなるように低屈折率層を設け、低反射層を作製し、LR加工とした。なお、得られた低反射層の屈折率は1.37であった。
【0331】
(低屈折率層塗布組成物)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 200質量部
イソプロピルアルコール 660質量部
テトラエトキシシラン加水分解物A 120質量部
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 4質量部
(商品名:KBM503、信越化学工業社製)
イソプロピルアルコール分散中空シリカ粒子ゾル 30質量部
(固形分20%、触媒化成工業社製のシリカゾル、商品名:ELCOM V−8209)
アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート 2質量部
シリコーン系界面活性剤(FZ−2207、日本ユニカー株式会社製)の10%プロピレングリコールモノメチルエーテル液 3質量部
酢酸 4質量部
[AG加工]
下記の防眩層形成塗布液を、保護フィルム1の上面にコータ−で塗布し、50℃・1分間の条件で乾燥後、酸素濃度を0.1%以下に保って、紫外線照射装置を用いて積算光量100mJで0.3J/cmにて硬化し、膜厚約5μmの防眩層を形成し、AG加工とした。
【0332】
(防眩層形成塗布液)
ペンタエリスリトールトリアクリレート 45質量部、
イルガキュアー184(BASFジャパン株式会社製) 2質量部、
トルエン 35質量部、
シクロヘキサン15 質量部
の組成からなる透明基材の前駆体(硬化後屈折率1.50)に、スチレン−アクリル共重合体微粒子6質量部を添加して、防眩層形成塗布液を調製した。
【0333】
[AR加工]
上述したハードコート層の上に、下記の高屈折率層および低屈折率層からなる反射防止層を形成し、AR加工とした。なお、この高屈折率層の厚さは68nmで、屈折率は1.91であった。
【0334】
(高屈折率層の形成)
上述したハードコート層の上に、下記の高屈折率層塗布組成物を押し出しコーターで塗布し、80℃で1分間乾燥させた。乾燥後、高圧水銀ランプ(80W)を用いて紫外線を130mJ/cmで0.3J/cm照射して硬化させ、高屈折率層を作製した。
【0335】
(高屈折率層塗布組成物)
テトラn−ブトキシチタン 95質量部
ジメチルポリシロキサン(信越化学社製 KF−96−1000CS) 1質量部
γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製 KBM503) 5質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 1750質量部
イソプロピルアルコール 3450質量部
メチルエチルケトン 600質量部
(低屈折率層の形成)
上記で形成した高屈折率層の上に、上記の低屈折率層塗布組成物を押出しコーターで塗布し、100℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射部の照度が100mW/cmで0.3J/cm照射して硬化させ、さらに120℃で5分間熱硬化させ、厚さ90nmとなるように低屈折率層を設けて反射防止層を形成し、AR加工とした。なお、この低屈折率層の屈折率は1.37であった。
【0336】
【表4】

【0337】
≪偏光板における偏光子の劣化ムラの評価≫
上記で作製した偏光板1〜61について、偏光子の劣化ムラの評価を行った。具体的には、80℃90%RHの湿熱サーモ機に投入し、100時間後の偏光子の劣化ムラを観察して、以下の評価基準に従い、評価を行った。結果を下記の表5に示す。
【0338】
◎:劣化ムラがない。
【0339】
○:劣化ムラがごくわずかにある。
【0340】
○△:部分的に劣化ムラが見られる。
【0341】
△:全面に劣化ムラが見られる。
【0342】
×:全面に強く劣化ムラが見られる。
【0343】
≪パネルの表示ムラの評価≫
上記で作製した偏光板1〜61について、パネルを構成した際の表示ムラの評価を行った。具体的には、37インチサイズの偏光板を、上板0°、下板90°となるようにガラスに貼り付け、下板側からバックライトで照らした。測定は、偏光板のバックライトの反対側(上板から50cm離れた位置)に設置した測定機(2次元色分布測定装置、コニカミノルタ社製、商品名:CA−1500)を用いて行い、以下の評価基準に従い、評価を行った。結果を下記の表5に示す。
【0344】
◎:表示ムラがない。
【0345】
○:表示ムラがごくわずかにある。
【0346】
○△:部分的に表示ムラが見られる。
【0347】
△:全面に表示ムラが見られる。
【0348】
×:全面に強く表示ムラが見られる。
【0349】
【表5】

【0350】
表5に示す結果から、本発明に係る偏光板によれば、偏光子とセルロースアシレートフィルムとが光硬化性接着剤を介して貼合されてなる場合であっても、偏光子の色の劣化に起因する偏光板の色ムラや、表示装置を構成した際の表示装置の表示ムラの発生が抑制されうることがわかる。また、以下の条件の少なくとも1つを満たす場合に、上述した作用効果が特に顕著に発現したことがわかる。
・ポリエステル系可塑剤が、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジカルボン酸残基の双方を含む(例えば、偏光板44または偏光板45と偏光板1との対比)
・ポリエステル系可塑剤が、一般式(a)においてBがモノカルボン酸残基である化合物(すなわち、末端封止された化合物)である(例えば、偏光板46または偏光板47と偏光板1との対比)
・ポリエステル系可塑剤の数平均分子量(Mn)が350〜2000であり、特に好ましくは350〜450である(例えば、偏光板51〜56と偏光板1との対比)
・セルロースアシレートフィルムの偏光子とは反対側の表面に、CHC加工層、LR加工層、AG加工層およびAR加工層からなる群から選択される1種または2種以上の層が配置されている(例えば、偏光板1〜36と偏光板37との対比)
・セルロースアシレートフィルムの厚さが15〜65μmであり、特に好ましくは15〜35μmである(例えば、偏光板38〜43と偏光板1との対比)
・セルロースアシレートフィルムが光カチオン重合開始剤をさらに含む(例えば、偏光板57と偏光板1との対比)
【符号の説明】
【0351】
1 スキン層用ドープ、
2 コア層用ドープ、
3 共流延ギーサ、
4 流延用支持体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と、
前記偏光子の少なくとも一方の表面に貼合された、セルロースアシレートフィルムと、
を含む偏光板であって、
前記偏光子と前記セルロースアシレートフィルムとの貼合が、第1の多価エポキシ化合物を含有する光硬化性接着剤を介したものであり、
前記セルロースアシレートフィルムが第2の多価エポキシ化合物およびポリエステル系可塑剤を含む、偏光板。
【請求項2】
前記ポリエステル系可塑剤が、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジカルボン酸残基を含む、請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記ポリエステル系可塑剤が、下記一般式(a):
【化1】

式中、Bはモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、nは0以上の整数を表し、B−G−Bの構成も含む、
で表される、請求項1または2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量が350〜2000である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項5】
前記第1の多価エポキシ化合物および前記第2の多価エポキシ化合物が、それぞれ下記一般式(A)〜(O):
【化2】

【化3】

からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項6】
前記セルロースアシレートフィルムの前記偏光子とは反対側の表面に、クリヤハードコート加工層、低反射加工層、防眩性加工層および反射防止加工層からなる群から選択される1種または2種以上の層が配置されてなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項7】
前記セルロースアシレートフィルムの厚さが15〜65μmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項8】
前記セルロースアシレートフィルムが光カチオン重合開始剤をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項9】
前記セルロースアシレートフィルムが、コア層と前記コア層の両表面に位置するスキン層とからなる3層構造を有し、前記スキン層の少なくとも一方が前記第2の多価エポキシ化合物を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の偏光板を含む、表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−61561(P2013−61561A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201085(P2011−201085)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】