説明

偏光板ロールおよびその製造方法

【課題】偏光板の表面に剥離可能に貼合されているプロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制することができる偏光板ロールおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】表面2aにプロテクトフィルム3が剥離可能に貼合されている長尺の偏光板2と、この偏光板2を外周面にロール状に巻取っている巻芯部とを備え、プロテクトフィルム3は、片面3aの中央部に粘着剤を含有する塗工層31が設けられているとともに、片面3aの側縁部近傍に塗工層31が設けられていない未塗工領域を有し、この未塗工領域が少なくなるように、塗工層31の側縁部がプロテクトフィルム3の側縁部に向かって延設されており、かつ延設されている塗工層31の側縁部がプロテクトフィルム3の側縁部よりも片面3aの中央部側に位置している偏光板ロール、およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にプロテクトフィルムが剥離可能に貼合されている長尺の偏光板を巻芯部に巻取ってなる偏光板ロールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロール状に巻回されたポリビニルアルコール系の原反フィルムを連続して繰り出すとともに、各種の処理を施して偏光フィルムを得、得られた偏光フィルムの片面または両面に保護フィルムを貼合して偏光板を得ることが記載されている。得られる偏光板は長尺であるため、通常、その搬送経路をガイドローラで規制しながら巻芯部の外周面にロール状に巻取って偏光板ロールとされる。
【0003】
一方、巻取り前の偏光板の表面に剥離可能なプロテクトフィルムを貼合してプロテクトフィルム付き偏光板とし、これにより偏光板の表面を保護することがある。
【0004】
しかし、この偏光板を巻芯部に巻取ると、プロテクトフィルムが偏光板の表面から浮き上がってしまい、いわゆるプロテクトフィルムの浮き欠陥が発生するという問題がある。この問題は、プロテクトフィルム付き偏光板が、直径の小さなガイドローラの形状に沿って湾曲される際や、直径の小さな巻芯部に巻取られる際に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−8509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、偏光板の表面に剥離可能に貼合されているプロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制することができる偏光板ロールおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の知見を見出した。すなわち、一般的なプロテクトフィルムは、片面に設けられている粘着剤層を介して偏光板の表面に剥離可能に貼合されている。
【0008】
上述した粘着剤層は、塗工によって形成される塗工層であることが多い。それゆえ、プロテクトフィルムの片面の側縁部近傍には、通常、塗工層が設けられていない未塗工領域が形成されている。この未塗工領域の下方には、偏光板の表面が位置しており、上述したプロテクトフィルムの浮き欠陥は、この未塗工領域を起点として発生している。本発明者らは、プロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制するには、この未塗工領域を少なくすればよいと考え、鋭意検討を重ねた。
【0009】
ここで、未塗工領域が形成されているプロテクトフィルムの側縁部近傍を切断し、これにより未塗工領域を少なくすればよいとも考えられる。
しかし、プロテクトフィルムの側縁部近傍を切断すると、工程数が増加し、歩留りも低下する。
【0010】
一方、切断によって未塗工領域を少なくするのではなく、塗工によって未塗工領域を少なくすれば、工程数の増加や歩留りの低下の問題を回避しつつ、プロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制することができると考えられる。
しかし、未塗工領域の全面に塗工層を設けると、プロテクトフィルムからはみ出した余分な塗工層によって製造設備等が汚染されるという問題がある。
【0011】
そこで、未塗工領域の全面に塗工層を設けるのではなく、未塗工領域のうち、プロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制することができる領域にまで塗工層の側縁部をプロテクトフィルムの側縁部に向かって延設すれば、上述した問題を回避しつつ、プロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の偏光板ロールおよびその製造方法は、以下の構成からなる。
(1)表面にプロテクトフィルムが剥離可能に貼合されている長尺の偏光板と、この偏光板を外周面にロール状に巻取っている円筒状または円柱状の巻芯部と、を備る偏光板ロールであって、前記プロテクトフィルムは、片面の中央部に粘着剤を含有する塗工層が設けられており、この塗工層を介して前記偏光板の表面に剥離可能に貼合されているとともに、前記片面の側縁部近傍に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を有し、この未塗工領域が少なくなるように、前記塗工層の側縁部が前記プロテクトフィルムの側縁部に向かって延設されており、かつ延設されている塗工層の側縁部がプロテクトフィルムの側縁部よりも前記片面の中央部側に位置していることを特徴とする偏光板ロール。
(2)前記プロテクトフィルムの幅方向において、前記延設されている塗工層の側縁部と、前記プロテクトフィルムの側縁部との間の距離Lが、2〜11mmである前記(1)記載の偏光板ロール。
(3)前記巻芯部の直径が、55〜170mmである前記(1)または(2)記載の偏光板ロール。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の偏光板ロールにおける前記プロテクトフィルムが表面に剥離可能に貼合されている長尺の偏光板を、円筒状または円柱状の巻芯部の外周面にロール状に巻取ることを特徴とする偏光板ロールの製造方法。
(5)前記長尺の偏光板を前記巻芯部の外周面にロール状に巻取る過程において、直径が55〜170mmであるガイドロールを用いる前記(4)記載の偏光板ロールの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偏光板の表面に剥離可能に貼合されているプロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を簡単に抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の偏光板ロールにおけるプロテクトフィルム付き偏光板の一実施形態を示す拡大概略断面図である。
【図2】(a),(b)は、本発明の偏光板ロールにおけるプロテクトフィルムの一実施形態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の偏光板ロールおよびその製造方法にかかる一実施形態について、図1および図2を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる偏光板ロールは、図1に示すプロテクトフィルム付き偏光板1と、このプロテクトフィルム付き偏光板1を外周面にロール状に巻取っている図示しない巻芯部と、を備えている。
【0016】
プロテクトフィルム付き偏光板1は、図1に示すように、表面2aにプロテクトフィルム3が剥離可能に貼合されている偏光板2で構成されている。
【0017】
プロテクトフィルム3は、長尺であるとともに、図2(a)に示すように、片面3aの中央部に粘着剤を含有する塗工層31が設けられている。塗工層31を塗工する際の塗工方式としては、例えばワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。プロテクトフィルム3は、この塗工層31を介して偏光板2の表面2aに剥離可能に貼合されている。
【0018】
また、プロテクトフィルム3は、片面3aの両側縁部近傍に塗工層31が設けられていない未塗工領域32,32を有している。本実施形態では、各未塗工領域32が少なくなるように、塗工層31の側縁部31aを、プロテクトフィルム3の側縁部3bに向かって矢印A方向に延設している。
【0019】
図2(b)に示すように、延設されている塗工層31の側縁部31bは、プロテクトフィルム3の側縁部3bよりも片面3aの中央部側に位置している。すなわち、本実施形態では、未塗工領域32の全面ではなく、未塗工領域32のうち、プロテクトフィルム3の浮き欠陥の発生を抑制することができる領域にまで塗工層31の側縁部31aをプロテクトフィルム3の側縁部3bに向かって矢印A方向に延設している。これにより、未塗工領域32を切断することによる工程数の増加や、歩留りの低下の問題がなく、かつ未塗工領域32の全面に塗工層31を設けることによる製造設備等の汚染の問題を回避しつつ、プロテクトフィルム3の浮き欠陥の発生を抑制することができる。
【0020】
矢印Bに示すプロテクトフィルム3の幅方向において、塗工層31の延設されている側縁部31bと、プロテクトフィルム3の側縁部3bとの間の距離Lは、2〜11mmであるのが好ましく、2〜6mmであるのがより好ましい。距離Lがあまり大きいと、未塗工領域32が十分に小さくなっておらず、プロテクトフィルム3の浮き欠陥の発生を抑制し難くなるので好ましくない。また、距離Lがあまり小さいと、塗工層31がプロテクトフィルム3からはみ出し易くなり、製造設備等を汚染するおそれがある。
【0021】
プロテクトフィルム3を構成する材料としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。プロテクトフィルム3は、単層体または複層体のいずれであってもよく、厚さは、通常、5〜200μm程度であり、10〜100μmであるのが好ましい。
【0022】
プロテクトフィルム3の片面3aに設けられている塗工層31の粘着力としては、プロテクトフィルム3を偏光板2の表面2aから剥離可能な限り、特に限定されないが、0.001〜5N/25mm程度であるのが好ましい。この粘着力は、23℃の雰囲気温度における偏光板2の表面2aに対する180°剥離強度をJIS Z0237に準拠して測定し得られる値である。塗工層31の粘着力を所定の値とするには、塗工層31に含有されている粘着剤の組成や、塗工層31の厚み等を変えることによって任意に行うことができる。
【0023】
塗工層31に含有されている粘着剤としては、例えばアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂等をベースポリマーとするもの等が挙げられる。塗工層31の厚みとしては、特に限定されないが、通常、5〜40μm程度である。
【0024】
上述したプロテクトフィルム3と、偏光板2との貼合は、塗工層31を介して一対の貼合ロール等を用いて行うことができる。プロテクトフィルム3が貼合される偏光板2は、長尺であるとともに、偏光フィルムの片面または両面に保護フィルムを貼合して形成されている。
【0025】
偏光フィルムとしては、例えばポリビニルアルコール系フィルムに二色性色素を吸着配向させたもの等が挙げられ、保護フィルムとしては、例えばトリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂フィルム等が挙げられる。
【0026】
偏光フィルムの厚さは、通常、5〜50μm程度であり、保護フィルムの厚さは、通常、5〜200μm程度である。偏光フィルムと保護フィルムとの貼合は、例えば接着剤、粘着剤(感圧粘着剤)等を介し、一対の貼合ロール等を用いて行うことができる。
【0027】
一方、上述したプロテクトフィルム付き偏光板1を外周面にロール状に巻取っている巻芯部を構成する材料としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂;アルミニウム等の金属;繊維強化プラスチック(FRP:ガラス繊維等の繊維をプラスチックに含有させて強度を向上させた複合材料)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
巻芯部は、円筒状または円柱状をなし、その直径としては、55〜170mmであるのが好ましく、55〜120mmであるのがより好ましく、55〜100mmであるのがさらに好ましい。このような直径を有する巻芯部に従来のプロテクトフィルム付き偏光板を巻取ると、プロテクトフィルムの浮き欠陥が発生し易くなる傾向にある。特に巻芯部の直径が小さくなるにつれて、プロテクトフィルムの浮き欠陥が発生し易くなる傾向にある。本実施形態にかかるプロテクトフィルム付き偏光板1によれば、上述した直径を有する巻芯部に巻取られる際にも、プロテクトフィルム3の浮き欠陥の発生を抑制することができる。
【0029】
また、上述した巻芯部の外周面に長尺のプロテクトフィルム付き偏光板1をロール状に巻取る過程においては、その搬送経路をガイドローラで規制しながら行うことが一般的である。このとき使用するガイドローラの直径としては、上述した巻芯部の直径で説明したのと同じ理由から、55〜170mmであるのが好ましく、55〜120mmであるのがより好ましく、55〜100mmであるのがさらに好ましい。
【0030】
なお、プロテクトフィルム付き偏光板1を巻芯部の外周面に巻取る際には、プロテクトフィルム3を巻芯部の外周面に当接させてもよいし、プロテクトフィルム3が貼合されていない偏光板2の裏面を巻芯部の外周面に当接させてもよい。また、偏光板2の裏面にも、プロテクトフィルム3を剥離可能に貼合してもよい。
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いた偏光板およびプロテクトフィルムは、以下の通りである。
【0032】
(偏光板)
厚さ20μmの偏光フィルムの両面に、各厚さが80μmである保護フィルムが貼合されてなる、長さ1000mm、幅1330mmの偏光板を用いた。
【0033】
偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムに二色性色素を吸着配向させたものを用いた。保護フィルムには、トリアセチルセルロースからなる樹脂フィルムを用いた。
【0034】
(プロテクトフィルム)
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート樹脂の片面中央部に、厚さ24μmの塗工層が設けられてなる、長さ1000mm、幅1320mmのプロテクトフィルムを用いた。このプロテクトフィルムの片面における両側縁部近傍には、塗工層が設けられていない未塗工領域が形成されている。プロテクトフィルムの幅方向において、延設させていない塗工層の側縁部と、プロテクトフィルムの側縁部との間の距離は、5mmである。
【0035】
なお、塗工層には、アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤を主成分として含有し、粘着力が0.1N/25mmであるものを用いた。
【実施例】
【0036】
<プロテクトフィルム付き偏光板の作製>
まず、上述したプロテクトフィルムにおける塗工層を、プロテクトフィルムの側縁部に向かって延設させた。具体的には、プロテクトフィルムの幅方向において、塗工層の延設されている側縁部と、プロテクトフィルムの側縁部との間の距離Lが、表1に示す値となるように、塗工層をプロテクトフィルムの側縁部に向かって延設させた。次いで、この塗工層を介してプロテクトフィルムを上述した偏光板の片面に貼合し、プロテクトフィルム付き偏光板を得た(表1中の試料No.1〜4)。
【0037】
<評価>
得られた各プロテクトフィルム付き偏光板について、プロテクトフィルムの浮き欠陥を評価した。評価方法を以下に示すとともに、その結果を表1に示す。
【0038】
(プロテクトフィルムの浮き欠陥の評価方法)
プロテクトフィルムが貼合されている偏光板の表面を、表1に示す直径を有するポリ塩化ビニル樹脂製のロールの外周面に接触させ、プロテクトフィルム付き偏光板をロールの外周面に沿わせて湾曲させた際に、プロテクトフィルムの浮き欠陥が発生するか否かを、目視観察して評価した。
【0039】
評価基準は、以下のものを用いた。
○:プロテクトフィルムの浮き欠陥が発生しなかった。
×:プロテクトフィルムの浮き欠陥が発生した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、塗工層の側縁部を延設させている試料No.1〜4は、プロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制できているのがわかる。また、距離Lを小さくするにつれて、直径が小さいロールに対してもプロテクトフィルムの浮き欠陥の発生を抑制できる結果を示した。
【符号の説明】
【0042】
1 プロテクトフィルム付き偏光板
2 偏光板
2a 表面
3 プロテクトフィルム
3a 片面
3b 側縁部
31 塗工層
31a,31b 側縁部
32 未塗工領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にプロテクトフィルムが剥離可能に貼合されている長尺の偏光板と、
この偏光板を外周面にロール状に巻取っている円筒状または円柱状の巻芯部と、
を備る偏光板ロールであって、
前記プロテクトフィルムは、
片面の中央部に粘着剤を含有する塗工層が設けられており、この塗工層を介して前記偏光板の表面に剥離可能に貼合されているとともに、
前記片面の側縁部近傍に前記塗工層が設けられていない未塗工領域を有し、
この未塗工領域が少なくなるように、前記塗工層の側縁部が前記プロテクトフィルムの側縁部に向かって延設されており、かつ延設されている塗工層の側縁部がプロテクトフィルムの側縁部よりも前記片面の中央部側に位置していることを特徴とする偏光板ロール。
【請求項2】
前記プロテクトフィルムの幅方向において、前記延設されている塗工層の側縁部と、前記プロテクトフィルムの側縁部との間の距離Lが、2〜11mmである請求項1記載の偏光板ロール。
【請求項3】
前記巻芯部の直径が、55〜170mmである請求項1または2記載の偏光板ロール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の偏光板ロールにおける前記プロテクトフィルムが表面に剥離可能に貼合されている長尺の偏光板を、円筒状または円柱状の巻芯部の外周面にロール状に巻取ることを特徴とする偏光板ロールの製造方法。
【請求項5】
前記長尺の偏光板を前記巻芯部の外周面にロール状に巻取る過程において、直径が55〜170mmであるガイドロールを用いる請求項4記載の偏光板ロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−29754(P2013−29754A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167096(P2011−167096)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】