説明

偏光板保護膜の製造方法

【課題】優れた視認性を示す偏光板保護膜を製造する。
【解決手段】粘度が50〜500Pの範囲のセルロースエステルの溶液を絶対濾過精度0.005mm以下の濾材を用いて濾過したのち、支持体上に流延し、次いで流延した膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥することにより偏光板保護膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板保護膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜の透明プラスチックフィルムは近年、偏光板の保護膜、位相差板等の光学補償フィルム、プラスチック基板、写真用支持体あるいは動画用セルや光学フィルタ、さらにはOHPフィルムなどの光学材料として需要が増大している。特に最近では液晶ディスプレイが、TN、STN、TFTと品質が向上したこと、および軽量で携帯性に優れていることから、パーソナルコンピュータやワードプロセッサ、携帯用端末、テレビ、さらにはデジタルスチルカメラやムービーカメラなどに広く使用されているが、この液晶ディスプレイには画像表示のために偏光板が必須となっている。液晶ディスプレイの品質の向上に合わせて、偏光板の品質向上が要求され、それと共に偏光板の保護膜である透明プラスチックフィルムもより高品質であることが要望されている。
【0003】
偏光板の保護膜などの光学用途フィルムについては、解像力やコントラストの表示品位から高透明性、低光学異方性、平面性、易表面処理性、高耐久性(寸度安定性、耐湿熱性、耐水性)、フィルム内とフィルム表面に異物がないこと、表面に傷がないか、または付きにくいこと(耐傷性)、適度のフィルム剛性を有すること(取扱い性)、適度の透水性など種々の特性を備えていることが必要である。
【0004】
これらの特性を有するプラスチックフィルムとしては、セルロースエステル、ノルボルネン樹脂、アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などからなるフィルムがあるが、生産性や材料価格等の点からセルロースエステルが主に使用されている。特にセルローストリアセテートのフィルムは、極めて高い透明性を有しかつ、光学異方性が小さく、レターデーションが低いことから光学用途に特に有利に用いられている。
【0005】
これらのプラスチックフィルムを製膜する方法としては、溶液製膜法、溶融製膜法および圧延法など各種の製膜技術が利用可能であるが、良好な平面性および低光学異方性を得るためには、溶液製膜法が特に適している。溶液製膜法は、原料フレークを溶剤にて溶解し、これに必要に応じて可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の各種の添加剤を加えた溶液(ドープと称する)を、水平式のエンドレスの金属ベルトまたは回転するドラムからなる支持体の上に、ドープ供給手段(ダイと称する)により流延した後、支持体上である程度乾燥して剛性が付与されたフィルムを支持体から剥離し、次いで各種の搬送手段により乾燥部を通過させて溶剤を除去することからなる方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セルロースエステルフィルム中に異物が混入していると、フィルムの透明性や表面の平面性の低下をもたらし、光学用途フィルムとしての品質を損ないがちである。特に、偏光板や液晶表示素子の保護用に用いられる光学用途フィルムにおいては、二枚の偏光板の間にフィルムを挟んで透過光を遮断した状態であっても異物が存在すると偏光作用が充分に機能せず、その部分だけいわゆる光が抜けて輝点を形成してしまうという問題が生じる。このような輝点の存在は、偏光板による偏光機能を低下させる結果となり、その偏光機能が一定以上低下すると、その偏光板を用いた液晶表示装置における画像認識性の低下を引き起こすことになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、これらの異物の大半は、フィルム製造の際にセルロースエステルの溶液中に含まれる不溶物や不純物であると考え、従来のセルロースエステルフィルムの製造方法の再検討を行なった。その結果、これまで製膜に先立ってセルロースエステル溶液を孔径0.01mm程度の濾過材を用いて濾過することが行われているが、その程度の濾過精度の濾過材の使用では、不溶物等の除去には充分でないことが分った。従って、本発明者は、更に高い濾過精度を持つ濾過材を使用することにより、異物の混入を更に抑制し、その結果、輝点、特にサイズの大きい輝点の発生を大幅に抑制することが可能になることを見出した。そして、セルロースエステルフィルムの製造時に、上記のような特にサイズの大きな輝点の発生を抑制することにより、特に液晶表示装置において偏光板の保護フィルムとして用いた場合に、偏光板の偏光機能の目立った低下の発生を回避することができることを見出した。
【0008】
本発明は、粘度が50〜500Pの範囲のセルロースエステルの溶液を絶対濾過精度0.005mm以下の濾材を用いて濾過したのち、支持体上に流延し、次いで流延した膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥することにより偏光板保護膜を製造することを特徴とする偏光板保護膜の製造方法にある。これにより、セルロースエステルからなるフィルムにおいて、該フィルムの両側に透過光を遮断するように二枚の偏光板を配置したときに観察される輝点に関して、0.05mmを越える直径を持つ輝点の数が1cm当たり0個であり、そして直径が0.01〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり500個以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルムからなる偏光板保護膜を製造することが可能になった。なお、本発明において、輝点の「直径」とは、輝点(光が透過することによって輝いた領域として観察される微小な点)を真円に近似して測定される直径を意味する。
【0009】
以下に、本発明に従い製造される偏光板保護膜の好ましい態様を挙げる。
(0)セルロースエステルフィルムからなる偏光板保護膜において、該フィルムの両側に透過光を遮断するように二枚の偏光板を配置したときに観察される輝点に関して、0.05mmを越える直径を持つ輝点の数が1cm当たり0個であり、そして直径が0.01〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり500個以下である。
(1)直径が0.01〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり200個以下である偏光板保護膜。
(2)直径が0.01〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり0個である偏光板保護膜。
(3)直径が0.02〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり100個以下である偏光板保護膜。
(4)直径が0.02〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり50個以下である偏光板保護膜。
(5)直径が0.01〜0.02mmの範囲の輝点の数が1cm当たり300個以下である偏光板保護膜。
(6)直径が0.01〜0.02mmの範囲の輝点の数が1cm当たり200個以下である偏光板保護膜。
(7)粘度が50〜500Pの範囲のセルロースエステルの溶液を絶対濾過精度0.005mm以下の濾材を用いて濾過した後、支持体上に流延し、次いで流延した膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥することにより製造された偏光板保護膜。
(8)セルロースエステルがセルロースアセテートである偏光板保護膜。
(9)液晶表示装置用である偏光板保護膜。
以下に、本発明の製造方法の好ましい態様を挙げる。
(A)セルロースエステルがセルロースアセテートである。
(B)セルロースエステルの溶液の溶媒が、ハロゲン化炭化水素、アルコール、エステルまたはエーテルである。
(C)セルロースエステルの溶液の粘度が50〜100Pの範囲である。
(D)濾材の絶対濾過精度が0.001〜0.005mmの範囲である。
(E)製造される偏光板保護膜の厚さが、10〜500μmの範囲である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、輝点発生の原因となる不溶物などの異物の混入を防いで、セルロースエステルフィルムにおける輝点の数を顕著に減少させることにより、そのセルロースエステルフィルムを、例えば液晶表示装置の偏光板の保護フィルムとして用いる場合などの光学用途において、従来のものに比較して顕著に優れた視認性が確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明のセルロースエステルフィルムについて詳細に説明する。
本発明においてセルロースエステルフィルムは、直径が0.05mmを越えるサイズの輝点の数が1cm当たり0個、および直径が0.01〜0.05mmの範囲の輝点の数が1cm当たり500個以下のものである。ここで、輝点とは、セルロースエステルフィルムの両側に透過光を遮断するように二枚の偏光板を配置した場合に、この偏光板を透過する光によって形成されるスポットを意味し、一般にフィルム中の異物の存在によって偏光作用が充分に機能しないために生じる。輝点の数は光学顕微鏡(約50倍)により測定することができる。
直径が0.01〜0.05mmの範囲(すなわち、0.01mm以上)の輝点の数は、好ましくは1cm当たり200個以下であり、特に好ましくは0個である。また、直径が0.02〜0.05mmの範囲(すなわち、0.02mm以上)の輝点の数は、好ましくは1cm当たり100個以下であり、より好ましくは50個以下である。さらに、直径が0.01〜0.02mmの範囲の輝点の数は1cm当たり300個以下であるのが好ましく、より好ましくは200個以下である。
【0012】
上記本発明のセルロースエステルフィルムは、たとえば次のようにして製造することができる。原料樹脂のセルロースエステルとしては、たとえばセルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースの低級脂肪酸エステルを用いることができる。特に好ましいのはセルローストリアセテートである。
【0013】
まず、原料樹脂を適当な有機溶媒に溶解してセルロースエステルの溶液(ドープ)を調製する。有機溶媒の例としては、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、エステル類(蟻酸メチル、酢酸メチル等)、エーテル類(ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル等)を挙げることができる。セルロースエステルの溶液には、トリフェニルホスフェート、ジエチルフタレート、ポリエステルポリウレタンエラストマー等の公知の各種の可塑剤、あるいは必要に応じて更に、紫外線吸収剤、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤など公知の各種の添加剤を添加してもよい。
【0014】
溶液の調製は、周知の方法により原料樹脂等を溶媒に混合溶解してもよいし、あるいは冷却溶解法により、原料樹脂等を溶媒で膨潤させた後この膨潤混合物を−10℃以下に冷却し、次いで0℃以上に加温して溶解してもよい。調製されたセルロースエステル溶液の粘度(50℃)は、50〜100P(ポアズ)の範囲にあるのが好ましい。
【0015】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙などの適当な濾過材を用いて濾過する。本発明において濾過材としては、不溶物などを除去するためには絶対濾過精度が0.005mm以下の濾材が好ましい。濾過圧力や濾過時間等の操作性を考慮すると、特に好ましくは0.001〜0.005mmの範囲の濾材である。このように濾過精度の高い濾材で濾過することにより、エステル化されていないセルロースなどの微小の不溶物および不純物を効果的に除去することができる。
【0016】
次いで、セルロースエステル溶液(ドープ)を、流延ダイを用いて支持体上に流延する。支持体としては、表面が鏡面処理された連続の金属性バンドであってもよいし、あるいは冷却ドラム等の回転ドラムであってもよい。その後、支持体上である程度乾燥して剛性が付与された流延膜を支持体から剥ぎ取り、そして適当な搬送手段により乾燥部を通過させて溶媒を除去する。溶液を流延、乾燥する手段としては公知の各種の手段を利用することができる。このようにして、異物の顕著に減少したセルロースエステルフィルムを製造することができる。
セルロースエステルフィルムの厚さは、フィルムの用途などによっても異なるが、一般には10〜500μmの範囲にあり、好ましくは50〜100μmの範囲である。
【0017】
なお、本発明のセルロースエステルフィルムは、必ずしも上述したような単層構造である必要はなく、二層以上の多層構造であってもよい。多層構造の場合には、二種類以上の溶液(ドープ)を用意し、溶液ごとに上記のようにして濾過した後、公知の同時共流延法や逐次重層流延法などの方法を利用してフィルムを製造することができる。
【実施例】
【0018】
[実施例1]
下記組成の原料を混合して、30℃で、4時間膨潤させたのち、この膨潤物を−70℃まで冷却して5分間保持し、次に50℃まで加温して溶解し、粘度(35℃)が400Pのセルローストリアセテート溶液(ドープ)を調製した。
セルローストリアセテート 17.0重量部
トリフェニルホスフェート 2.7重量部
酢酸メチル 64.2重量部
エタノール 16.1重量部
このドープを絶対濾過精度0.005mmの濾紙(ポール社製、FH050)にて濾過した。次いで、ドープを流延ダイを用いて金属支持体上に吐出して流延した後、流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥して、本発明のセルロースアセテートフィルム(厚さ:100μm)を製造した。
【0019】
[実施例2]
実施例1において、絶対濾過精度0.0025mmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過したこと以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロースアセテートフィルム(厚さ:100μm)を製造した。
【0020】
[比較例1]
実施例1において、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙株式会社製、#63)にて濾過したこと以外は実施例1と同様にして、本発明のセルロースアセテートフィルム(厚さ:100μm)を製造した。
【0021】
[フィルムの評価]
各セルロースアセテートフィルムについて、以下のようにして輝点の発生状況を評価した。フィルムの両側に透過光を遮断するように二枚の偏光板を配置した後、片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で観察して輝点の直径および数を測定した。得られた結果をまとめて表1に示す。
【0022】
表1
────────────────────────────────────────
輝点の直径および数
0.01〜0.02mm 0.02〜0.05mm 0.05mm以上
────────────────────────────────────────
実施例1 150個 30個 0個
実施例2 0個 0個 0個
────────────────────────────────────────
比較例1 900個 150個 0個
────────────────────────────────────────
【0023】
表1に示した結果から明らかなように、ドープを絶対濾過精度0.005mm以下の濾材で濾過して製造した本発明のセルロースアセテートフィルムは、従来のフィルムと比較して輝点の数が顕著に減少しており、従って異物の混入が極めて少ないことが確認された。
【0024】
実施例1と2、そして比較例1で得られたセルロースアセテートフィルムをそれぞれ、偏光板の一方の側に配置して得た保護膜付き偏光板を一対ずつ用意し、それらを別々に、TN型液晶性分子を用いた液晶表示装置の偏光板として用いて、各液晶表示装置における表示画像の視認性を比較した。その結果、実施例2で得たセルロースアセテートフィルムを付設した偏光板を用いた液晶表示装置が最も視認性に優れており、次いで実施例1で得たセルロースフィルムを付設した偏光板を用いた液晶表示装置が、それに続く優れた視認性を示した。これに対して、比較例1のセルロースアセテートフィルムを付設した偏光板を用いた液晶表示装置は、明らかに視認性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度が50〜500Pの範囲のセルロースエステルの溶液を絶対濾過精度0.005mm以下の濾材を用いて濾過したのち、支持体上に流延し、次いで流延した膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥することにより偏光板保護膜を製造することを特徴とする偏光板保護膜の製造方法。
【請求項2】
セルロースエステルがセルロースアセテートである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
セルロースエステルの溶液の溶媒が、ハロゲン化炭化水素、アルコール、エステルまたはエーテルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
セルロースエステルの溶液の粘度が50〜100Pの範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
濾材の絶対濾過精度が0.001〜0.005mmの範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
製造される偏光板保護膜の厚さが、10〜500μmの範囲である請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−52283(P2008−52283A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228207(P2007−228207)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【分割の表示】特願平10−80230の分割
【原出願日】平成10年3月12日(1998.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】