説明

偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物、偏光板保護膜および偏光板

【課題】透湿性、透明性、寸法安定性および外観に優れた偏光板保護膜を好適に製造することが出来る熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】官能基として酸および/またはその誘導体に由来する基を有する官能基含有オレフィン重合体(A)と、金属化合物(B)とを反応させることによって得られ、かつJIS K7105に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した曇り度(ヘイズ)が3%以下であることを特徴とする偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用のフィルムおよびシートの材料として好適な熱可塑性樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、偏光板保護膜の材料として好適な熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板保護膜用の高透湿性フィルムとしては、親水性基を有する、三酢酸セルロース(
TAC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステルエーテルエラストマー、ポリエ
チレンオキサイドなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記高透湿性フィルムは、透湿性が高過ぎるために湿度変化に伴う寸法安定性が悪く、少しの湿度変化でフィルム寸法が変化し、その結果フィルムの収縮または伸び、さらにはカールなど、外観に影響を及ぼすことがある。このため、寸法安定性の要求が厳しい用途、例えば光学用途に用いると、透明性などの光学特性が低下するなど問題点が多い。
【0004】
上記問題点に対して、上記高透湿性フィルムの両面にポリオレフィンフィルムなどの低透湿性素材を積層することで、湿度変化に伴う寸法安定性を高めることは可能であるが、その代償として透湿性・透明性が大きく低下してしまうという問題がある。すなわち、透湿性・透明性と共に、湿度変化に伴う寸法安定性を同時に満足するフィルムを製造することは困難である。
【0005】
さらに上記高透湿性フィルムを位相差フィルムなどの光学用途に用いるためには、該フィルムを構成する分子を一定方向に配向させる必要がある。しかしながら、この様に分子配向をさせることによって、前記フィルムの湿度変化に伴う寸法安定性はさらに悪化するばかりか、透湿性も低下するので、高透湿性と高寸法安定性とを同時に満足するフィルムを製造することは困難である。
【特許文献1】特開平10−95861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の従来技術では達成出来なかった、透湿性、透明性、寸法安定性および外観に優れた偏光板保護膜を好適に製造することが出来る熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の熱可塑性樹脂と特定の金属化合物とを反応させて得られる熱可塑性樹脂組成物からなるフィルムが、例えば偏光板保護膜として使用した際に寸法安定性に優れ、かつ偏光板と貼り合せた後あるいは高湿下で放置した後のフィルム外観に優れ、しかも該偏光板保護膜以外の光学フィルムにも好ましく使用することが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の[1]〜[8]に関する。
[1]官能基として酸および/またはその誘導体に由来する基を有する官能基含有オレフィン重合体(A)と、金属化合物(B)とを反応させることによって得られ、かつJIS K7105に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した曇り度(ヘイズ)が3%以下であることを特徴とする偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【0009】
[2]前記官能基含有オレフィン重合体(A)中の、前記酸およびその誘導体に由来する基の含有量の合計が、0.1〜50重量%の範囲にあることを特徴とする前記[1]に記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
[3]前記官能基含有オレフィン重合体(A)が、エチレン、炭素数3〜10のα−オレフィン、鎖状の非共役ジエン、および環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種を重合して得られるオレフィン重合体を、前記酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[4]前記官能基含有オレフィン重合体(A)が、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、および環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種を重合して得られるオレフィン重合体を、前記酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られることを特徴とする前記[1]〜[3]の何れかに記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[5]前記官能基含有オレフィン重合体(A)が、エチレンに由来する構成単位40〜80モル%、およびテトラシクロドデセンに由来する構成単位20〜60モル%(但し、エチレンに由来する構成単位とテトラシクロドデセンに由来する構成単位との合計を100モル%とする。)からなるオレフィン重合体を、前記酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られることを特徴とする前記[1]〜[4]の何れかに記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[6]前記[1]〜[5]の何れかに記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする偏光板保護膜。
[7]二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤層を介して、前記[6]に記載の偏光板保護膜が形成されてなることを特徴とする偏光板。
【0014】
[8]二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面に、接着剤層を介して、前記[6]に記載の偏光板保護膜が形成されてなることを特徴とする偏光板。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物によれば、偏光板保護膜に要求される高透湿性、高透明性、高耐熱性および湿度変化に伴う寸法安定性を同時に満足し、かつ偏光板と張り合わせた際の外観にも優れる保護膜を提供できる。このため、本発明の偏光板は、透湿性、透明性、耐熱性および湿度変化に伴う寸法安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物、該樹脂組成物からなる偏光板保護膜、および偏光板について説明する。
〔偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、官能基として酸および/またはその誘導体に由来する基を有する官能基含有オレフィン重合体(A)と、金属化合物(B)を反応させることによって得られ、かつJIS K7105に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した曇り度(ヘイズ)が後述する範囲にあることを特徴とする。なお、本発明において酸またはその誘導体に由来する基とは、酸またはその誘導体残基を意味する。例えば、無水マレイン酸に由来する基(無水マレイン酸基)は、以下の式で表される。
【0017】
【化1】

[式(1)中、*1および*2は結合手を表す。]
<官能基含有オレフィン重合体(A)>
本発明で用いられる官能基含有オレフィン重合体(A)は、例えばエチレン、炭素数3〜10のα−オレフィン、鎖状の非共役ジエン、および環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種、好ましくはエチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、および環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性モノマーを重合して得られるオレフィン重合体を、酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られる。
【0018】
これらの中では、環状オレフィンを必須成分として重合して得られる環状オレフィン重合体を用いることが好ましい。上記鎖状の非共役ジエンおよび環状オレフィンとしては、以下の環状オレフィン重合体の説明において例示する化合物を用いることができる。なお、本発明において「重合体」とは、上記重合性モノマーの単独重合体または共重合体を表す。
【0019】
上記環状オレフィン重合体としては、例えば(A−1)環状オレフィンの付加重合体、(A−2)環状オレフィンの開環重合体、および(A−3)該開環重合体(A−2)の水素化物などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
以下、(A−1)環状オレフィンの付加重合体(以下、「環状オレフィン付加重合体(A−1)」ともいう。)、(A−2)環状オレフィンの開環重合体(以下、「環状オレフィン開環重合体(A−2)」ともいう。)、および(A−3)該開環重合体(A−2)の水素化物(以下、「環状オレフィン開環重合体の水素化物(A−3)」ともいう。)について順次説明した後、グラフト変性について説明する。
【0021】
<環状オレフィン付加重合体(A−1)>
環状オレフィン付加重合体(A−1)は、下記一般式(a)で表される環状オレフィン(以下、「環状オレフィン(a)」ともいう。)を重合して得られる。環状オレフィン(a)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、環状オレフィン(a)と共に、共重合性モノマー(m1)を用いてもよい。
【0022】
【化2】

[式(a)中、R1〜R8は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基または極性基(ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基もしくはシリル基)で置換された炭化水素基である。ただし、R5〜R8は、2つ以上が互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、該単環または多環は、炭素−炭素二重結合を有していても、芳香環を形成していてもよい。また、R5とR6とで、あるいはR7とR8とでアルキリデン基を形成していてもよい。]
【0023】
環状オレフィン(a)の具体例を以下に示す。なお、ここで示される具体例は極めて限定されたものであって、一般式(a)で表される環状オレフィンであればいかなる環状オレフィンも用いることが出来る。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

これらの中では下記一般式(b)で表される環状オレフィンが、入手のし易さあるいは合成のし易さの面で好ましく、例えばテトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレンなどが挙げられる。特にテトラシクロドデセンが好ましい。
【0027】
【化6】

[式(b)中、R1〜R12は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、
アルコキシ基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基または極性基(ハロゲン原子、アルコキシ基、エステル基、シアノ基、アミド基、イミド基もしくはシリル基)で置換された炭化水素基である。ただし、R9〜R12は、2つ以上が互いに結合して
単環または多環を形成していてもよく、該単環または多環は、炭素−炭素二重結合を有していても、芳香環を形成していてもよい。また、R9とR10とで、あるいはR11とR12
でアルキリデン基を形成していてもよい。]
【0028】
また、環状オレフィン(a)として環状オレフィン(b)を用いると、環状オレフィン付加重合体(A−1)のヨウ素価を通常5以下、好ましくは1以下とすることが出来る。ヨウ素価が前記範囲を超えると、前記重合体(A−1)中に二重結合が多く残存することとなり、本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物から得られる保護膜が熱劣化や耐候劣化する原因となることがある。
【0029】
上述の環状オレフィン(a)は、シクロペンタジエン類と相応するオレフィン類とをディールス・アルダー反応により反応させて合成することが可能である(例えば、特開昭57−154133号公報参照)。具体的には、下記反応(1)のようにノルボルネンに対してシクロペンタジエンを縮合することにより上述の環状オレフィン(b)を合成することが出来る。
【0030】
【化7】

環状オレフィン(b)以外の環状オレフィン(a)も、基本的には出発物質の違いだけであり、上記反応(1)の応用で合成することが出来る。
【0031】
共重合性モノマー(m1)としては、例えばα−オレフィン、環状オレフィン(a)以外の環状オレフィン、鎖状ジエンなどが挙げられる。
上記α−オレフィンとしては、通常は炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜10のα
−オレフィンであり、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルー1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−イコセンなどが挙げられる。これらの中では共重合性の観点から、エチレン、炭素数3〜10のα−オレフィンが好ましく、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテンがより好ましく、エチレンが特に好ましい。また、炭素数3以上のα−オレフィン、環状オレフィン(a)以外の環状オレフィン、あるいは鎖状ジエンを環状オレフィン(a)と共重合させる場合にも、エチレンが存在したほうが共重合性は良好である。
【0032】
環状オレフィン(a)以外の環状オレフィンとしては、例えばシクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン;ジシクロペンタジエンなどの環状の共役ジエン;エチリデンノルボルネン、サリチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネンなどの環状の非共役ジエンなどが挙げられる。また、上記鎖状ジエンとしては、ブタジエン、イソプレンなどの鎖状の共役ジエン;1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエンなどの鎖状の非共役ジエンが挙げられる。
【0033】
以上の共重合性モノマー(m1)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、以上の共重合性モノマー(m1)の他に、環状オレフィン(a)と共重合可能なその他の共重合性モノマー、例えばスチレン、α−メチルスチレンなどを本発明の目的を損なわない範囲内で用いてもよい。
【0034】
環状オレフィン付加重合体(A−1)中、環状オレフィン(a)に由来する構成単位の含有量は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20〜60モル%の範囲にある。
また、共重合性モノマー(m1)としてエチレンを用いた場合、エチレンに由来する構成単位/環状オレフィン(a)に由来する構成単位のモル比は、10/90〜90/10
であることが好ましく、40/60〜80/20であることが特に好ましい。
【0035】
特に、環状オレフィン(a)としてテトラシクロドデセンを用い、共重合性モノマー(m1)としてエチレンを用いることが好ましく、環状オレフィン付加重合体(A−1)中のエチレンに由来する構成単位の含有量は好ましくは40〜80モル%、より好ましくは52〜78モル%、さらに好ましくは55〜78モル%であり、テトラシクロドデセンに由来する構成単位の含有量は好ましくは20〜60モル%、より好ましくは22〜48モル%、さらに好ましくは22〜45モル%(但し、エチレンに由来する構成単位とテトラシクロドデセンに由来する構成単位の合計を100モル%とする。)である。これらのエチレン/テトラシクロドデセン付加重合体は1種単独で用いてもよい。また、2種類以上のエチレン/エトラシクロドデセン付加重合体を用いる場合は、それぞれの付加重合体について重量平均したエチレンに由来する構成単位の含有量が前記範囲にあればよい。
【0036】
エチレンに由来する構成単位の含有量が上記範囲を下回ると、上記熱可塑性樹脂組成物から得られるフィルムは脆く、偏光板の製造工程において、クレージングやひび割れ、ハゼ割れが発生し、偏光板を安定的に製造することが難しい。また、エチレンに由来する構成単位の含有量が上記範囲を超えると、上記熱可塑性樹脂組成物から得られるフィルムの耐熱性や透明性に問題が生じる。
【0037】
さらに、共重合性モノマー(m1)としてエチレン以外のα―オレフィン、環状オレフィン(a)以外の環状オレフィン(例えば、サリチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどの環状ジエン)、あるいは鎖状ジエンを用いた場合、これらの共重合性モノマー(m1)に由来する構成単位の合計/環状オレフィン(a)に由来する構成単位のモル
比は、5/95〜95/5であることが好ましく、30/70〜90/10であることが特に好ましい。
【0038】
環状オレフィン付加重合体(A−1)は、いかなる方法で製造されたものであっても構わないが、好ましくは環状オレフィン(a)および任意成分として共重合性モノマー(m1)を、バナジウム系などのチーグラー触媒をはじめとする周知の触媒を使用して重合することにより製造することが出来る。なお、環状オレフィン付加重合体(A−1)の構造は、13C−NMRによって確認することが出来る。
【0039】
<環状オレフィン開環重合体(A−2)>
環状オレフィン開環重合体(A−2)は、下記一般式(I)および/または一般式(II
)で表される環状オレフィン(以下、それぞれ「環状オレフィン(I)」、「環状オレフ
ィン(II)」ともいう。)を開環重合して得られる。環状オレフィン(I)および環状オ
レフィン(II)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、環状オレフィン(I)および/または環状オレフィン(II)と共に、共重合性モノマー(m2)
を用いてもよい。
【0040】
環状オレフィン開環重合体(A−2)において、原料として用いる環状オレフィン(I
)および(II)の少なくとも一部は、下記一般式(III)および(IV)で表される繰り返
し単位(構成単位)を構成していると考えられる。
【0041】
【化8】

[式(I)中、nは0または1であり、mは0または1以上の整数であり、qは0または
1であり、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子
または炭化水素基である。ただし、R15〜R18は、2つ以上が互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、該単環または多環が二重結合を有していてもよい。また、R15とR16とで、あるいはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。]
【0042】
【化9】

[式(II)中、pおよびqは0または1以上の整数であり、mおよびnは0、1または2であり、R1〜R19は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂
環式炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9およびR10が結合し
ている炭素原子と、R11またはR13が結合している炭素原子とは直接または炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R15とR12とで、またはR15とR19とで、互いに結合して単環または多環の芳香環を形成していてもよい。]
【0043】
【化10】

[式(III)において、n、mおよびq、R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ式(I)中のn、mおよびq、R1〜R18ならびにRaおよびRbと同じ意味を表す。また、
*1および*2は結合手を表す。]
【0044】
【化11】

[式(IV)において、n、m、p、qおよびR1〜R19は、それぞれ式(II)中のn、m
、p、qおよびR1〜R19と同じ意味を表す。また、*1および*2は結合手を表す。]
【0045】
共重合性モノマー(m2)としては、例えばα−オレフィン、環状オレフィン(I)お
よび(II)以外の環状オレフィンなどが挙げられる。
【0046】
上記α−オレフィンとしては、通常は炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜10のα−オレフィンであり、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルー1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−イコセンなどが挙げられる。これらの中では共重合性の観点から、エチレン、炭素数3〜10のα−オレフィンが好ましく、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテンがより好ましく、エチレンが特に好ましい。また、炭素数3以上のα−オレフィン、環状オレフィン(I)および(II)以外の環状オレフィンを、環状オレフィン(I)および(II)と共重合させる場合にも、エチレンが存在したほうが共重合性は良好である。
【0047】
環状オレフィン(I)および(II)以外の環状オレフィンとしては、例えばシクロペン
テン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン;ジシクロペンタジエンなどの環状の共役ジエン;エチリデンノルボルネン、サリチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネンなどの環状の非共役ジエンなどが挙げられる。
【0048】
以上の共重合性モノマー(m2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、以上の共重合性モノマー(m2)の他に、環状オレフィン(I)および(II
)と共重合可能なその他の共重合性モノマー、例えばスチレン、α−メチルスチレンなどを本発明の目的を損なわない範囲内で用いてもよい。
【0049】
環状オレフィン開環重合体(A−2)中、環状オレフィン(I)および(II)に由来す
る構成単位ならびに式(III)および(IV)で表される構成単位の含有量の合計は、好ま
しくは10モル%以上、より好ましくは20〜60モル%の範囲にある。
【0050】
また、共重合性モノマー(m2)としてエチレンを用いた場合、エチレンに由来する構成単位/環状オレフィン(I)および(II)に由来する構成単位ならびに式(III)および(IV)で表される構成単位の合計のモル比は、10/90〜90/10であることが好ま
しく、40/60〜80/20であることが特に好ましい。
【0051】
さらに、共重合性モノマー(m2)としてエチレン以外のα―オレフィン、環状オレフィン(I)および(II)以外の環状オレフィン(例えば、サリチリデンノルボルネン、ジ
シクロペンタジエンなどの環状ジエン)を用いた場合、これらの共重合性モノマー(m2)に由来する構成単位の合計/環状オレフィン(I)および(II)に由来する構成単位な
らびに式(III)および(IV)で表される構成単位の合計のモル比は、5/95〜95/
5であることが好ましく、30/70〜90/10であることが特に好ましい。
【0052】
また、環状オレフィン開環重合体(A−2)のヨウ素価は、通常5以下、好ましくは1以下である。ヨウ素価が前記範囲を超えると、前記重合体(A−2)中に二重結合が多く残存することとなり、本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物から得られる保護膜が熱劣化や耐候劣化する原因となることがある。
【0053】
環状オレフィン開環重合体(A−2)は、例えば開環重合触媒の存在下に、環状オレフィン(I)および/または(II)と、任意成分として共重合性モノマー(m2)とを重合
することにより製造することが出来る。前記開環重合触媒としては、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、インジウムおよび白金などから選ばれる金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と還元剤とからなる触媒、あるいはチタン、パラジウム、ジルコニウムおよびモリブテンなどから選ばれる金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が挙げられる。なお、環状オレフィン開環重合体(A−2)の構造は、13C−NMRによって確認することが出来る。
【0054】
<環状オレフィン開環重合体の水素化物(A−3)>
環状オレフィン開環重合体の水素化物(A−3)は、上記のようにして得られる環状オレフィン開環重合体(A−2)を、従来公知の水素添加触媒の存在下に水素化して得られる。
【0055】
環状オレフィン開環重合体の水素化物(A−3)においては、上記一般式(III)およ
び(IV)で表される繰り返し単位の少なくとも一部は、下記一般式(V)および(VI)で
表される繰り返し単位に変換されていると考えられる。
【0056】
【化12】

【0057】
[式(V)において、n、m、qおよびR1〜R18ならびにRaおよびRbは、式(I)中の
n、m、qおよびR1〜R18ならびにRaおよびRbと同じ意味を表す。また、*1および
*2は結合手を表す。]
【0058】
【化13】

【0059】
[式(VI)において、n、m、p、q、R1〜R19は式(II)中のn、m、p、q、R1〜R19と同じ意味を表す。また、*1および*2は結合手を表す。]
【0060】
また、環状オレフィン開環重合体の水素化物(A−3)のヨウ素価は、通常5以下、好ましくは1以下である。ヨウ素価が前記範囲を超えると、前記重合体(A−3)中に二重結合が多く残存することとなり、本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物から得られる保護膜が熱劣化や耐候劣化する原因となることがある。
【0061】
<グラフト変性>
本発明で用いられる官能基含有オレフィン重合体(A)は、例えば上記(A−1)〜(A−3)などのオレフィン重合体を、酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られる。
【0062】
本発明で用いられる官能基含有オレフィン重合体(A)は、該官能基含有量、すなわち酸およびその誘導体に由来する基の含有量の合計が、通常0.1〜50重量%、好ましくは1〜5重量%の範囲となるようにグラフト変性される。官能基含有量が前記範囲を下回ると、本発明の効果の一つでもある偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物の透湿性あるいは透明性が低下するため好ましくない。一方、官能基含有量を前記範囲より高くしようとすると、グラフト化反応と共に、熱あるいはパーオキサイドなどのラジカル開始剤の作用により、ベースポリマーである上記オレフィン重合体の主鎖骨格あるいはエチレン骨格などの架橋反応が不可避的に生じる。その結果、官能基含有オレフィン重合体(A)の分子量が極端に大きくなり、溶融流動性が著しく低下する。このため、偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物の成形加工性が悪化することがある。
【0063】
上記酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸(登録商標)、アクリル酸、メ
タクリル酸などの不飽和カルボン酸;ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸などの不飽和スルホン酸などが挙げられる。
【0064】
上記酸の誘導体としては、例えば上記不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸の酸無水物、イミド、アミド、エステルなどが挙げられ、具体的にはマレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、グリシジルマレートなどが挙げられる。
【0065】
これらの中では上記不飽和カルボン酸およびその酸無水物(不飽和カルボン酸無水物)が好適に用いられ、マレイン酸、ナジック酸(登録商標)およびそれらの酸無水物が特に好適に用いられる。
【0066】
上記酸および/またはその誘導体(以下、「グラフトモノマー」ともいう。)を、上記(A−1)〜(A−3)などのオレフィン重合体(以下、「ベースポリマー」ともいう。)に導入する方法としては、例えば(1)グラフトモノマーをベースポリマーにグラフト変性する方法、(2)ベースポリマーに鎖状あるいは環状ジエンに由来する構成単位が含まれる場合には、該構成単位が有する炭素−炭素二重結合を適切な処理剤と反応させる方法が挙げられる。
【0067】
(1)グラフト変性
グラフトモノマーをベースポリマーにグラフト変性する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ベースポリマーとしてエチレン/テトラシクロドデセン重合体を用いる場合、(i)該重合体を溶融させグラフトモノマーを添加してグラフト共
重合させる溶融変性法、あるいは(ii)該重合体を溶媒に溶解させ、グラフトモノマーを添加してグラフト共重合させる溶液変性法などを用いることができる。
【0068】
ベースポリマーに上記グラフトモノマーを効率よくグラフトさせて官能基含有オレフィン重合体(A)を得るには、ラジカル開始剤の存在下にグラフト化反応を行うことが好ましい。この場合、グラフト化反応は通常60〜350℃の温度で行われる。前記ラジカル開始剤の使用割合は、ベースポリマー100重量部に対して、通常0.001〜2重量部である。前記ラジカル開始剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,4−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどの有機パーオキサイドが好ましい。
【0069】
(2)ベースポリマー中に含まれる炭素−炭素二重結合を処理剤と反応させる方法
ベースポリマーに鎖状ジエンあるいは環状ジエンに由来する構成単位が含まれる場合には、該構成単位が有する炭素−炭素二重結合を適切な処理剤と反応させることにより、グラフトモノマーを導入することが出来る。
【0070】
(i)上記ベースポリマーに不飽和カルボン酸を導入する方法としては、特開2006
−137873号公報に記載の方法を用いることが出来る。例えば、無水マレイン酸を導入する場合は、酸性条件下、ベースポリマーを無水マレイン酸と反応させる。ただし、ベースポリマーに導入する不飽和カルボン酸としては、無水カルボン酸に制限されることはない。
【0071】
(ii)上記ベースポリマーにスルホン酸を導入する方法としては、特開2006−137873号公報に記載の方法を用いることが出来る。硫酸−無水酢酸、発煙硫酸などを反応剤として、ベースポリマーと反応させることにより得られる。
【0072】
〔金属化合物(B)〕
本発明で用いられる金属化合物(B)は、その金属成分が官能基含有オレフィン重合体(A)中に含まれる官能基とイオン結合することにより、該官能基含有オレフィン重合体(A)の分子間に架橋構造を形成する。
【0073】
金属化合物(B)としては、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属錯体、金属イオンなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
金属化合物(B)における金属成分の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、セシウム、ストロンチューム、ルビジウム、チタン、亜鉛、銅、鉄、錫、鉛などの周期表第I〜VIII族の金属が挙げられる。これらの中では、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウムが好ましい。また、上記金属イオンの具体例としては、前記金属のイオンが挙げられる。
【0074】
<金属塩>
上記金属塩としては、有機酸金属塩、炭酸金属塩、無機酸金属塩などが挙げられる。
上記有機酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛などのステアリン酸金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛などの酢酸金属塩が挙げられる。上記炭酸金属塩の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛などが挙げられる。
【0075】
また、上記無機酸金属塩の具体例としては、p−アミノベンゼンスルホン酸(スルファニル酸)、m−アミノベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)などのアミノスルホン酸金属塩が挙げられる。より具体的には、アミノエチルスルホン酸カリウムが挙げられる。これらのアミノスルホン酸金属塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、必要に応じて、上記有機酸金属塩あるいは炭酸金属塩、下記金属酸化物あるいは金属水酸化物、金属錯体と併用してもよい。
【0076】
<金属酸化物、金属水酸化物>
上記金属酸化物の具体例としては、CuO、MgO、BaO、ZnO、Al23、Fe23、SnO、CaO、TiO2、ZrO2などが挙げられる。
【0077】
上記金属水酸化物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、Cu(OH)2
Cu2O(OH)2、Mg(OH)2、Mg2O(OH)2、Ba(OH)2、Zn(OH)2
、Sn(OH)2、Ca(OH)2などが挙げられる。
これらの金属化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
<金属化合物(B)の使用割合>
金属化合物(B)の使用割合は、官能基含有オレフィン重合体(A)100重量部に対し、通常0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜30重量部、特に好ましくは1〜10重量部である。金属化合物(B)の使用割合が前記範囲を下回る場合には、得られる偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、架橋密度が低く、機械強度および耐傷付性が低くなりやすい。一方、金属化合物(B)の使用割合が前記範囲を上回る場合には、得られる偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、架橋密度が高くなり溶融流動性が著しく増加し、成形加工性が悪化することがある。
【0079】
〔偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物の製造〕
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、例えば金属化合物(B)の存在下に官能基含有オレフィン重合体(A)を溶融混練して得られる。ここで「溶融混練」とは、せん断を加える処理および加熱処理の両方を行う処理をいう。このような溶融混練は、例えば熱可塑性樹脂を加工するために使用される一般的な溶融混練装置を用いて行うことができる。前記溶融混練装置は、バッチ式でも連続式でもよい。溶融混練装置の具体例としては、バンバリーミキサー、ニーダーなどのバッチ式溶融混練装置;同方向回転型連続式二軸押出機などの連続式溶融混練装置が挙げられる。前記溶融混練の条件は、官能基含有オレフィン重合体(A)の種類、金属化合物(B)の種類、溶融混練装置の種類などに応じて適宜設定すればよい。
【0080】
なお、本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない範囲内で目的に応じて、他の樹脂を配合してもよい。また、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲内で、可塑剤、滑剤、安定剤、帯電防止剤などの各種添加剤を配合してもよい。
【0081】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、JIS K7105に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した曇り度(ヘイズ)が、3%以下、好ましくは0.1〜1%の範囲にある。
【0082】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、JIS Z0208に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ温度40℃、相対湿度90%で測定した透湿係数が、通常0.1g・mm/m2・day以上、好ましくは0.5g・mm/m2・day以上、さらに好ましくは1g・mm/m2・day以上である。
【0083】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D570に準拠して、23℃×24hrで測定した吸水率が、通常0.01〜1%、好ましくは0.01〜0.1%の範囲にある。
【0084】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した湿度膨張係数が、0.1〜10ppm/RH%、好ましくは0.5〜5ppm/RH%の範囲にある。吸水率および湿度膨張係数は、グラフトモノマーの導入量を多くすることにより増加させることができる。また、グラフトモノマーと金属化合物(B)との量比を調節し、官能基の中和度を高くするほど、吸水率および湿度膨張係数を増加させることができる。
【0085】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1003に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した光線透過率が、80〜98%、好ましくは、85〜95%の範囲にある。ヘイズおよび光線透過率は、金属化合物(B)の種類、および前記樹脂組成物中における金属化合物(B)の分散性、すなわち溶融混練の条件を上述した範囲・化合物に適宜設定することにより調節することができる。
【0086】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、溶融流動性、すなわちASTM D1238に準拠して、温度260℃、荷重2.16kgで測定したメルトフローレート(MFR)が、通常0.1〜100g/10分、好ましくは1〜50g/10分の範囲にある。MFRは、官能基含有オレフィン重合体(A)中の官能基含有量と金属化合物(B)との使用割合、グラフトモノマー、および金属化合物(B)の種類を上述した範囲・化合物に適宜設定することにより調節することができる。グラフトモノマーとして不飽和スルホン酸を用いた場合、不飽和カルボン酸を用いた場合よりもMFRを低下させることができる。
【0087】
以上のようにして得られる本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物は、偏光板保護膜に要求される高透湿性、高透明性、高耐熱性および湿度変化に伴う寸法安定性を同時に満足し、かつ偏光板と張り合わせた際の外観にも優れる保護膜を提供できる。
【0088】
〔偏光板保護膜〕
本発明の偏光板保護膜は、上述した偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物からなる。
上記偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物を用いて保護膜を形成する方法としては、特に限定はなく、例えば押出し法、カレンダー法など、熱可塑性を利用した方法でもよいが、異物の除去、偏肉精度などの点から、流延溶液を用いた溶液流延法による製造方法がより好ましい。
【0089】
上記流延溶液に用いる溶剤としては、特に限定されず、例えばシクロヘキサン、シクロヘキセンなどの脂環式炭化水素およびそれらの誘導体;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素およびそれらの誘導体などが挙げられる。前記溶剤は1種単独で用いてもよいが、溶液粘度や乾燥条件によっては平滑な保護膜が得られにくい場合がある。そのときには、レベリング剤などを流延溶液に添加するか、あるいは沸点の差が10℃以上ある少なくとも2種類の溶剤を用いることにより、好ましい保護膜が得られる。
【0090】
また、上記流延溶液には、紫外線による劣化を防止するために、紫外線吸収剤を添加してもよい。本発明で用いられる官能基含有オレフィン重合体(A)は各種の紫外線吸収剤との相溶性がよいので、紫外線透過率の目標値に応じて、紫外線吸収剤の添加量を自在に選定できるという利点がある。前記紫外線吸収剤としては、市販のヒンダードアミン系吸収剤、チヌビン(登録商標)TINUVIN770などが挙げられる。
【0091】
偏光板保護膜の厚さは、通常10〜150μm、好ましくは15〜100μm、さらに好ましくは20〜80μmである。前記保護膜が薄すぎる場合は取り扱いにくく、また透湿度の確保が難しくなる傾向にある。前記保護膜が厚すぎる場合はコストがかかり、また耐折度の確保が難しくなる傾向にある。
【0092】
後述する偏光素子との接着性や粘着剤との接着性を向上させるため、偏光板保護膜の表面にコロナ放電処理、オゾンの吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他公知の表面処理を施してもよい。処理程度は、濡れ張力が通常37dyn/cm以上、好ましくは40dyn/cm以上、さらに好ましくは45dyn/cm以上である。
【0093】
以上のようにして、JIS Z0208に準拠して測定した透湿係数が通常0.1g・mm/m2・day以上、好ましくは0.5g・mm/m2・day以上、さらに好ましくは1g・mm/m2・day以上、JIS K7105に準拠して測定した全ヘイズが3
.0%以下、好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、紫外線透過率が通常10%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下で、耐熱性、透湿性、透明性および耐光性に優れた実質的に無配向の偏光板フィルムからなる保護膜を容易に得ることができる。
【0094】
〔偏光板〕
本発明の偏光板は、偏光素子の少なくとも片面に、接着剤層を介して、上述した偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物からなる保護膜が形成されていることを特徴とする。また、前記保護膜は、偏光素子の両面に、接着剤層を介して形成されていてもよい。
【0095】
上記偏光素子としては、偏光フィルム、偏光プリズム、偏光レンズなどが挙げられる。これらの中では偏光フィルムが好ましく、具体的にはポリビニルアルコール系樹脂からな
る偏光フィルムが挙げられる。
【0096】
特に、上記偏光素子は、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムであることが好ましい。前記二色性色素としては、ヨウ素、二色性染料などが挙げられる。前記二色性色素を吸着配向させると、偏光素子としての高偏光度、高コントラストなどの偏光性能に優れる。
【0097】
本発明の偏光板は、上述した偏光板保護膜と偏光素子とを接着剤層を介して貼り合わせ、次いで裁断し、さらに必要ならば打抜き加工をして得られる。これらは、公知のいかなる方法を用いてもよい。
【0098】
上記接着剤としては、例えばポリビニルアルコール系、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系などの接着剤またはそれらに硬化剤を添加した接着剤が挙げられる。これらの中では水溶液系やエマルジョン系の接着剤が耐久性の点からはより好ましい。なお、水溶液系やエマルジョン系の接着剤を用いる場合には、上述したように偏光板保護膜に表面処理を施しておくことが好ましい。処理程度は、濡れ張力が通常37dyn/cm以上、好ましくは40dyn/cm、さらに好ましくは45dyn/cmであり、水との接触角が通常90度以下、好ましくは75度以下である。
【0099】
なお、本発明の偏光板は、通常その片面に、液晶基板への貼着のための粘着剤をコートし、次いでセパレーターを貼付し、反対面に保護フィルムが貼付される。このようにして加工された偏光板は、通常は透過型液晶に使用するが、片面側に反射層を設けて反射型や半透過型液晶に使用してもよい。
【0100】
また、本発明の偏光板の保護膜表面には、ハードコート層、反射防止層または防眩層などの従来から一般的に偏光板に付加されている種々の加工を施してもよい。
本発明の偏光板は、上記偏光素子の少なくとも片面に、接着剤層を介して、上記の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物からなる保護膜が形成されている。このため、透明性、透湿性、耐熱性、寸法安定性に優れているため、テレビ、パソコン、携帯電話など種々の液晶表示装置用表面保護膜として、有効に使用することができる。
【実施例】
【0101】
次に、代表的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。
本発明において使用した物性値の測定方法および評価方法は次の通りである。
【0102】
<メルトフローレート(MFR)>
各種樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に準拠して、温度260℃、荷重2.16kgで測定した。
【0103】
<光線透過率>
各樹脂組成物の光線透過率は、ASTM D1003に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した。
【0104】
<全ヘイズ>
各樹脂組成物の全ヘイズは、JIS K7105に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した。
【0105】
<透湿係数>
各樹脂組成物の透湿係数は、JIS Z0208に準拠して、厚さ100μmのシート
の状態でかつ温度40℃、相対湿度90%で測定した。
【0106】
<吸水率>
各樹脂組成物の吸水率は、ASTM D570に準拠して、23℃×24hrで測定した。
【0107】
<湿度膨張係数>
各樹脂組成物の湿度膨張係数βは、測定方向に沿って幅10mm、厚さ100μmのシートを作成し、これを恒温恒湿槽にセットされている定荷重伸び量試験機の150mmのチャック間(L(150))に把持させ、20℃、5RH%から85RH%に湿度変化(ΔH=80RH%)させたときの寸法変化(ΔL)から求めた。単位はppm/RH%で表す。
β=[ΔL/L(150)]/ΔH
【0108】
〔偏光板の耐湿試験(1)〕
偏光板を80℃×90RH%の恒温恒湿器内で200時間放置した後、23℃×50RH%で200時間放置し、その後再び80℃×90%RHの恒温恒湿器内で200時間放置した後、23℃×50RH%で200時間放置した。
上記耐湿試験(1)の前後で、偏光板の以下の物性値を測定した。
【0109】
<光線透過率>
光線透過率は、ASTM D1003に準拠して測定した。
【0110】
<偏光板の偏光度>
配向方向が同一方向になるように2枚の偏光板を重ね合わせて、光線透過率を測定し、この数値をT1とする。次に、配向方向が互いに直交する方向になるように2枚の偏光板
を重ね合わせて、同様に光線透過率を測定し、この数値をT2とする。
次式により偏光度を計算した。
偏光度={(T1−T2)/(T1+T2)}1/2
【0111】
<偏光度保持率>
偏光度保持率とは、耐湿試験後の偏光度を耐湿試験前の偏光度で除した値に100を掛けた数値である。数値が大きいほど耐湿耐久性がよい。
【0112】
〔偏光板の耐湿試験(2)〕
偏光板を23℃、85RH%の高湿下で3日間放置した。
上記耐湿試験(2)の前後で、光学フィルム/偏光フィルム/光学フィルムからなる偏光板の貼り合せ時の外観状態を、以下の基準に従い評価した。
【0113】
<偏光板の外観(耐湿試験前)>
○:優れた偏光性能を有し、カール、皺および斑点は発生しなかった。
×:偏光フィルムと光学フィルムとの間に水脹れ状の微小欠点が多数見られた。
【0114】
<偏光板の外観(耐湿試験後)>
○:経時での外観の変化は発生しなかった。
×:カールや皺が発生した。
【0115】
[製造例1]
エチレンに由来する構成単位の含有量65モル%、テトラシクロドデセンに由来する構成単位の含有量=35モル%、ヨウ素価=0.1以下、MFR=30g/10分のエチレ
ン/テトラシクロドデセン付加重合体(三井化学(株)製、商品名:APEL5015、以下、「COC」ともいう。)100重量部に対して、無水マレイン酸1重量部および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(日本油脂(株)製、商品名:パーヘキシン25B)0.2重量部を混合し、二軸押出機を用いて260℃で溶融混練することにより、無水マレイン酸グラフト変性環状オレフィン付加重合体樹脂(A)(以下、「MAH−COC(A)」ともいう。)を得た。1H−NMRにて測定した
MAH−COC(A)の無水マレイン酸に由来する基(無水マレイン酸基)の含有量は、1.0重量%であった。
【0116】
[製造例2]
ポリビニルアルコールフィルム(クラレ(株)製、厚さ75μm)を水1000重量部、ヨウ素7重量部、およびヨウ化カリウム105重量部からなる水溶液に5分間浸漬し、該フィルムにヨウ素を吸着させた。次いで前記フィルムを40℃、4重量%ホウ酸水溶液中で、4.4倍に縦方向1軸延伸を行い、緊張状態のまま取り出してそのまま乾燥し、偏光フィルムを得た。
【0117】
[実施例1]
製造例1で得たMAH−COC(A)100重量部および金属化合物(B)として酢酸亜鉛1重量部を混合し、次いで二軸押出機を使用して溶融混合し、金属含有熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の物性は、MFR:0.48g/10分、光線透過率:92.7%であった。その他の物性を表1に示す。
【0118】
[実施例2]
製造例1で得たMAH−COC(A)100重量部および金属化合物(B)として酢酸カリウム1重量部を混合し、次いで二軸押出機を使用して溶融混合し、金属含有熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の物性は、MFR:0.2g/10分、光線透過率:90.4%であった。その他の物性を表1に示す。
【0119】
[比較例1、2]
比較例として、製造例1で用いたCOC(比較例1)、および三酢酸セルロース(TAC:富士フィルム(株)製、比較例2)の物性を表1に示す。
【0120】
【表1】

[実施例3]
実施例1で得た金属含有熱可塑性樹脂組成物を、撹拌式加熱槽中において105℃で4時間乾燥した。その後、前記樹脂組成物を押出機ホッパーに供給し、押出機内において280℃で溶融させ、異物を濾過後、口金より吐出させた溶融体を得た。前記溶融体上10mm離れたところから正の直流電圧1.2万V、電流値1mAで静電荷を印加して、80℃の鏡面クロムメッキドラム上で巻き取り、溶融体を密着・冷却後、フィルム表面にコロナ放電処理をして、厚さ80μmの光学フィルムを得た。
【0121】
上記光学フィルムに、コーターを用いてアクリル系の水系の粘着剤を塗工加工し、これを製造例2で得た偏光フィルムの両面に張り合わせることにより偏光板を得た。得られた
偏光板の初期性能と耐湿試験結果を表2に示す。
【0122】
[実施例4]
金属含有熱可塑性樹脂組成物を、実施例2で得た金属含有熱可塑性樹脂組成物に替えたこと以外は実施例3と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板の初期性能と耐湿試験結果を表2に示す。
【0123】
[比較例3]
金属含有熱可塑性樹脂組成物を、製造例1で用いたCOC単体に替えたこと以外は実施例3と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板の初期性能と耐湿試験結果を表2に示す。
【0124】
[比較例4]
金属含有熱可塑性樹脂組成物を、三酢酸セルロース(TAC:富士フィルム(株)製)単体に替えたこと以外は実施例3と同様にして偏光板を得た。得られた偏光板の初期性能と耐湿試験結果を表2に示す。
【0125】
【表2】

比較例3では、耐湿試験前の外観に問題があった。これは、金属含有熱可塑性樹脂組成物の替わりに用いたCOC単体の透湿性が低すぎるため、水が保護膜である光学フィルムと偏光板との間に残留したためと考えられる。また、耐湿試験後に外観が向上するのは、長時間経過することで、残留した水蒸気が透過したためと考えられる。
【0126】
一方、比較例4では、耐湿試験前には外観の問題はなかったが、耐湿試験後の外観に問題があった。これは、金属含有熱可塑性樹脂組成物の替わりに用いたTAC単体の透湿性が高すぎるため、寸法安定性が悪化したためと考えられる。
【0127】
それに対して、実施例3および4では、耐湿試験前後何れにおいても外観の問題はなかった。これは、実施例3および4で使用した偏光板保護膜である光学フィルムの透湿性が、COC単体よりは大きく、TAC単体よりは小さく、適切な範囲にあったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物およびこれから得られる偏光板保護膜は、透明性、透湿性、耐熱性、寸法安定性に優れているため、テレビ、パソコン、携帯電話など種々の液晶表示装置用表面保護膜として、有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基として酸および/またはその誘導体に由来する基を有する官能基含有オレフィン重合体(A)と、
金属化合物(B)と
を反応させることによって得られ、かつ
JIS K7105に準拠して、厚さ100μmのシートの状態でかつ室温で測定した曇り度(ヘイズ)が3%以下である
ことを特徴とする偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記官能基含有オレフィン重合体(A)中の、前記酸およびその誘導体に由来する基の含有量の合計が、0.1〜50重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記官能基含有オレフィン重合体(A)が、エチレン、炭素数3〜10のα−オレフィン、鎖状の非共役ジエン、および環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種を重合して得られるオレフィン重合体を、前記酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記官能基含有オレフィン重合体(A)が、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、および環状オレフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種を重合して得られるオレフィン重合体を、前記酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記官能基含有オレフィン重合体(A)が、エチレンに由来する構成単位40〜80モル%、およびテトラシクロドデセンに由来する構成単位20〜60モル%(但し、エチレンに由来する構成単位とテトラシクロドデセンに由来する構成単位との合計を100モル%とする。)からなるオレフィン重合体を、前記酸および/またはその誘導体によってグラフト変性して得られることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の偏光板保護膜用熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする偏光板保護膜。
【請求項7】
二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの少なくとも片面に、接着剤層を介して、請求項6に記載の偏光板保護膜が形成されてなることを特徴とする偏光板。
【請求項8】
二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面に、接着剤層を介して、請求項6に記載の偏光板保護膜が形成されてなることを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2009−244708(P2009−244708A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92737(P2008−92737)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】