説明

偏光板及びそれが具備された表示装置

【課題】ロール状に巻いても巻き癖が発生しない偏光板を提供する。また、当該偏光板が具備された表示装置提供する。
【解決手段】特定要件を満たす面内位相差値Roを有する二枚の位相差フィルムが偏光子の両面に備えられた偏光板であって、当該位相差フィルムの一方を位相差フィルムA、他方を位相差フィルムBとし、かつ、それぞれの遅相軸方向の弾性率Sを、それぞれ、S(A)及びS(B)としたとき、特定要件を満たすように当該二枚の位相差フィルムが貼合されていることを特徴とする偏光板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状に巻いても巻き癖が発生しない偏光板及びそれが具備された表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムを延伸してなる延伸フィルムは、その光学異方性を利用して、ディスプレイ装置の構成要素等の光学材料として用いられている。例えば、液晶表示装置において、該延伸フィルムを着色防止、視野角拡大などの光学補償などのための位相差フィルムとして用いたり、当該延伸フィルムと偏光子とを貼り合わせて偏光板として用いたりすることが知られている。
【0003】
そして近年、前記位相差フィルムは有機EL表示装置や立体表示装置の表示品質の向上のためにも必要とされてきている。
【0004】
立体表示装置においては、偏光メガネを掛けて液晶表示装置の3D画像を鑑賞するときに、偏光メガネの偏光角度と液晶表示装置から発せられる偏光の角度が適正な角度からずれたときに画像が二重になるという問題があった。これを防止するために、観賞光の波長の1/4の位相差値(「リターデーション値」ともいう。)を有する位相差フィルムが必要とされている。
【0005】
また、有機EL表示装置においては、外光がセルの電極で反射され、画像が白っぽくなるといった問題があった。これを防止するため、可視光の波長の1/4(λ/4ともいう)の位相差値を有する位相差フィルムを鑑賞側に設けることが試みられている。
【0006】
位相差フィルムを作製するためには、流延などで形成したフィルムを特定の方向に延伸することが必要だが、λ/4といった大きなリターデーション値を得るためには、視野角拡大に必要なリターデーション値を得る場合より延伸率を大きくしなければならない。
【0007】
一般的に、可塑性フィルムは延伸倍率を高めるほど、延伸後の位相差値や寸法の温湿度変化が大きくなる。そのため、λ/4位相差フィルムの延伸後の光学値や寸法変化の改善は、重点課題として挙げられる。
【0008】
特許文献1には、偏光子の両面に貼合される保護フィルムの吸湿度と吸湿膨張係数をある値に規定することにより、温湿度変化によるカールの起き難い偏光板を作製できることを開示している。
【0009】
文献1で解決しようとしている課題は、単に保護フィルムを偏光子の両面に貼って作製された偏光板の温湿度変化におけるカールである。
【0010】
上記の課題は、文献1以外にも記載されており、様々な解決手段が記載されている。従来の液晶表示装置用のとして使われていたフィルム及び偏光板は、これらの解決手段によって上記カールの問題を解決することができていた。
【0011】
しかし、立体表示装置や有機EL表示装置に必要とされるλ/4位相差フィルムは、作製するのに高倍率延伸が必要となり、上記の解決手段では解決できない門題が発生することが分かった。
【0012】
偏光板を連続生産する場合、ロール状の保護フィルムと偏光子をそれぞれロールから繰り出し、搬送させながら適当な貼合処理を施して貼合させ、作製された偏光板をロール状に巻き取る。従来のλ/4位相差フィルムを貼合した偏光板の場合、ロール状にして保管する間に、巻いた形状がフィルムに記憶されてしまうという問題が発生することが分かった。本件では、これを以後、巻き癖と呼称する。
【0013】
偏光板に巻き癖が発生してしまうと、その後表示装置に配置させることを困難にさせ、また表示される画像にムラが発生するといった問題が生じる。
【0014】
この巻き癖は、偏光子の両面にλ/4位相差フィルムを貼合させるような偏光板において、特に顕著に現れる問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−107501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ロール状に巻いても巻き癖が発生しない偏光板を提供することである。また、当該偏光板が具備された表示装置提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記課題を解決すべく、偏光子の両面にλ/4の位相差を有する位相差フィルムを貼合する偏光板に関する上記問題の原因等について検討した結果、一方の面に貼合された位相差フィルムと、もう一方の面に貼合された位相差フィルムの遅相軸方向の弾性率の差が100〜2000MPaの範囲内であり、かつ上記偏光板をロール状に巻いたときに、遅相軸方向の弾性率が高い方のフィルムを巻き内側にして巻いた偏光板は、巻き癖が発生しないことを見出し、本発明に至った。
【0018】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0019】
1.下記式(1)を満たす面内位相差値Roを有する二枚の位相差フィルムが偏光子の両面に備えられた偏光板であって、当該位相差フィルムの一方を位相差フィルムA、他方を位相差フィルムBとし、かつ、それぞれの遅相軸方向の弾性率Sを、それぞれ、S(A)及びS(B)としたとき、下記式(2)を満たすように当該二枚の位相差フィルムが貼合されていることを特徴とする偏光板。
式(1):100nm≦Ro≦160nm
式(2):100MPa≦S(A)−S(B)≦2000MPa
ただし、前記面内位相差値Roは、温度23℃・相対湿度55%の環境下、波長550nmの光で測定された面内位相差値である。
【0020】
2.前記偏光板が、長尺状偏光板として製造され、かつロール状にして保管されるときには、前記位相差フィルム(A)がロールの巻き内側になるように巻かれることを特徴とする第1項に記載の偏光板。
【0021】
3.前記位相差フィルムの少なくとも一方が、下記式(3)を満たすセルロースエステルを含有していることを特徴とする第1項又は第2項に記載の偏光板。
式(3):0≦X≦1.8
ただし、上記式において、Xはプロピオニル基又はブチリル基の置換度の総和を表す。
【0022】
4.前記位相差フィルムの少なくとも一方が、ポリカーボネート又はシクロオレフィン樹脂を含有していることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の偏光板。
【0023】
5.第1項から第4項までのいずれか一項に記載の偏光板が、具備されていることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明の上記手段により、ロール状に巻いても巻き癖が発生しない偏光板を提供することができる。また、当該偏光板が具備された表示装置を提供することができる。
【0025】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、本発明とは逆の構成から推察すると、以下のようになる。すなわち、偏光子の両面に貼合されるλ/4位相差フィルムのうち、遅相軸方向の弾性率が低い方のフィルムを巻き内側にしてロール状に巻いた偏光板は、ロール状の偏光板から一部をカットし、巻き癖の原因となる力から解放させても、曲率の高い巻き内側にあった低弾性率のフィルムが、低弾性率ゆえに変形しやすいため、大きな巻き癖を記憶しているためと推察している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る斜め延伸テンターの模式図
【図2】立体(3D)有機EL表示システムの基本的構成を示す模式図
【図3】立体画像表示装置の構成例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の偏光板は、前記式(1)を満たす面内位相差値Roを有する二枚の位相差フィルムが偏光子の両面に備えられた偏光板であって、当該位相差フィルムの一方を位相差フィルムA、他方を位相差フィルムBとし、かつ、それぞれの遅相軸方向の弾性率Sを、それぞれ、S(A)及びS(B)としたとき、前記式(2)を満たすように当該二枚の位相差フィルムが貼合されていることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項5までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0028】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記偏光板が、長尺状偏光板として製造され、かつロール状にして保管されるときには、前記位相差フィルム(A)がロールの巻き内側になるように巻かれることが好ましい。また、前記位相差フィルムの少なくとも一方が、前記式(3)を満たすセルロースエステルを含有していることが、(1)式の位相差値を満たす位相差値発現性の効果が得られることから、好ましい。
【0029】
さらに、本発明においては、前記位相差フィルムの少なくとも一方が、ポリカーボネート又はシクロオレフィン樹脂を含有していることも好ましい。これは、前記(2)式の弾性率差を作ることができ、かつ前記(1)式の位相差値も得られるからである。
【0030】
本発明の偏光板は、表示装置に好適に具備され得る。
【0031】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0032】
(本発明の偏光板の概要)
本発明の偏光板は、下記式(1)を満たす面内位相差値Roを有する二枚の位相差フィルムが偏光子の両面に備えられた偏光板であって、当該位相差フィルムの一方を位相差フィルムA、他方を位相差フィルムBとし、かつ、それぞれの遅相軸方向の弾性率Sを、それぞれ、S(A)及びS(B)としたとき、下記式(2)を満たすように当該二枚の位相差フィルムが貼合されていることを特徴とする。
式(1):100nm≦Ro≦160nm
式(2):100MPa≦S(A)−S(B)≦2000MPa
ただし、前記面内位相差値Roは、温度23℃・相対湿度55%の環境下、波長550nmの光で測定された面内位相差値である。
【0033】
ここで、本発明に係る弾性率は、引っ張り試験器オリエンテック(株)製テンシロンRTA−100によって測定された測定値である。
【0034】
また本発明においては、当該偏光板が、長尺状偏光板として製造され、かつロール状にして保管されるときには、前記位相差フィルム(A)がロールの巻き内側になるように巻かれることが、大きな巻き癖を記憶しないことから好ましい。
【0035】
本発明の偏光板は、偏光子としてヨウ素、又は二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、λ/4位相差フィルム/偏光子/光学フィルムの構成で貼合して製造することができる。
【0036】
なお、立体映像表示装置である液晶表示装置に前記偏光板を使用する場合、上記λ/4板は視認側に貼合し、有機EL表示装置に前記偏光板を使用する場合、視認側とは反対側に貼合する。
【0037】
本発明においては、長尺状位相差フィルムを、長尺状の偏光子の少なくとも一方の面に積層して形成される長尺状偏光板とすることが好ましい。
【0038】
本発明の偏光板は、特に立体映像表示装置や有機EL表示装置に用いられることが好ましい。その場合、本発明に係る位相差フィルムと偏光子との貼合は、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の透過軸との角度が実質的に45°になるように積層させるのが好ましい。「実質的に45°」とは、40±5°の範囲内であることを意味する。
【0039】
偏光子の膜厚は、5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
【0040】
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明の位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面には、前記光学フィルムを貼合することが好ましい。
【0041】
偏光板は、更に当該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0042】
(位相差フィルム)
本発明に係る位相差フィルムは、前記式(1)を満たす面内位相差値Roを有することを特徴とする。
【0043】
当該面内位相差値Roは、23℃・55%RHにおいて、波長550nmの光により測定された屈折率から下記式により求められる。
【0044】
Ro=(n−n)×d
式中、nはフィルム面内の最大の屈折率であり、遅相軸方向の屈折率ともいう。nはフィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率であり、進相軸方向の屈折率ともいう。dはフィルムの膜厚(nm)を表す。
【0045】
上記屈折率を用いて、厚さ方向のリターデーション値Rtが下記式より求められる。
【0046】
Rt={(n+n)/2−n}×d
式中、nは厚さ方向の屈折率を表す。
【0047】
前記位相差フィルムは、550nmを中心とする可視光で直線偏光を円偏光に返還するλ/4板(Roが可視光の波長の約1/4となる。)として用いられる。
【0048】
なお、フィルムのリターデーション発現性を調整する技術としては、リターデーション調整剤を用いる方法がある。また、他の方法としては、延伸処理を適宜行うことが好ましい。大きなリターデーション値を得ることができる延伸処理としては、残留溶媒量をできる限り低減させた状態で延伸する方法、低温で延伸する方法、延伸倍率を高める方法等が挙げられるが、特に延伸倍率をたかめる方法が効果的であり好ましい。
【0049】
なお、位相差フィルムのヘイズは小さいほど、液晶表示装置、有機EL表示装置等の表示装置の表示品質、特に正面コントラストを向上させることができる。本発明に係る位相差フィルムのヘイズ値は0.1%未満であることが好ましく、0.05%以下がより好ましい。
【0050】
(位相差フィルム基材)
本発明に係る位相差フィルムは、種々の熱可塑性樹脂をフィルム基材として用いることができる。例えば、セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリオレフィン等を用いることができる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、脂環式オレフィンポリマー、アクリル系ポリマー、等が挙げられるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
【0051】
本発明においては、偏光板を構成する位相差フィルムの少なくとも一方が、下記式(3)を満たすセルロースエステルを含有していることが、(1)式の位相差値を満たす位相差発現性を有していることから、好ましい。
式(3):0≦X≦1.8
ただし、上記式において、Xはプロピオニル基又はブチリル基の置換度の総和を表す。
【0052】
さらに、本発明においては、前記位相差フィルムの少なくとも一方が、ポリカーボネート又はシクロオレフィン樹脂を含有していることも好ましい。これは、(2)式の弾性率差を作ることができ、かつ(1)式の位相差値も得られるからである。
【0053】
(セルロースエステル)
本発明に係る位相差フィルムは、上述のように、種々の樹脂を用いて作製することができるが、セルロースエステルを含有する態様であることが好ましい。
【0054】
本発明に用いることができるセルロースエステルは、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0055】
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0056】
本発明においては、偏光板を構成する位相差フィルムの少なくとも一方が、下記式(3)を満たすセルロースエステルを含有していることが、偏光板貼合適性、表面加工適性の効果が得られることから、好ましい。
式(3):0≦X≦1.8
ただし、上記式において、Xはプロピオニル基又はブチリル基の置換度の総和を表す。
【0057】
本発明においては、上記式(3)を満たすセルロースエステルを偏光板を構成する位相差フィルムの少なくとも一方に用いることが好ましいが、他方の位相差フィルム等については、混合脂肪酸エステルの置換度として、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有している場合、アセチル基の置換度X、プロピオニル基又はブチリル基の置換度Yが下記式(4)及び式(5)を同時に満足するセルロースエステルを用いることも好ましい。
【0058】
式(4) 2.0≦X+Y≦3.0
式(5) 0≦Y≦1.5
(式(4)及び(5)において、セルロースエステルがプロピオニル基及びブチリル基を有する場合、Yはプロピオニル基の置換度とブチリル基の置換度の総和を表す。)
さらに、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、更に好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0059】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
【0060】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0061】
本発明において、セルロースエステルは、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6〜7、電気伝導度が1〜100μS/cmであることが好ましい。
【0062】
また、セルロースエステルは、工業的には、硫酸を触媒として合成されているが、この硫酸は完全には除去されておらず、残留する硫酸が溶融製膜時に各種の分解反応を引き起こし、得られるセルロースエステルフィルムの品質に影響を与えるため、本発明に用いられるセルロースエステル中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜40ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が40ppmを超えると熱溶融時のダイリップ部の付着物が増加するため好ましくない。また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなるため好ましくない。少ない方が好ましいが、0.1ppm未満とするにはセルロースエステルの洗浄工程の負担が大きくなり過ぎるため好ましくないだけでなく、逆に破断しやすくなることがあり好ましくない。これは洗浄回数が増えることが樹脂に影響を与えているのかもしれないがよく分かっていない。更に0.1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、同様にASTM−D817−96により測定することができる。
【0063】
また、その他(酢酸等)の残留酸を含めたトータル残留酸量は1000ppm以下が好ましく、500ppm以下が更に好ましく、100ppm以下がより好ましい。
【0064】
セルロースエステルの洗浄は、水に加えて、メタノール、エタノールのような貧溶媒、あるいは結果として貧溶媒であれば貧溶媒と良溶媒の混合溶媒を用いることができ、残留酸以外の無機物、低分子の有機不純物を除去することができる。
【0065】
また、セルロースエステルの耐熱性、機械物性、光学物性等を向上させるため、セルロースエステルの良溶媒に溶解後、貧溶媒中に再沈殿させ、セルロースエステルの低分子量成分、その他不純物を除去することができる。更に、セルロースエステルの再沈殿処理の後、別のポリマーあるいは低分子化合物を添加してもよい。
【0066】
また、本発明で用いられるセルロースエステルはフィルムにした時の輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、二枚の偏光板を直交に配置し(クロスニコル)、この間にセルロースエステルフィルムを配置して、一方の面から光源の光を当てて、もう一方の面からセルロースエステルフィルムを観察した時に、光源の光が漏れて見える点のことである。このとき評価に用いる偏光板は輝点異物がない保護フィルムで構成されたものであることが望ましく、偏光子の保護にガラス板を使用したものが好ましく用いられる。輝点異物はセルロースエステルに含まれる未酢化若しくは低酢化度のセルロースがその原因の1つと考えられ、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いることと、溶融したセルロースエステル若しくはセルロースエステル溶液を濾過すること、あるいはセルロースエステルの合成後期の過程や沈殿物を得る過程の少なくともいずれかにおいて、一度溶液状態として同様に濾過工程を経由して輝点異物を除去することもできる。溶融樹脂は粘度が高いため、後者の方法のほうが効率がよい。
【0067】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明に用いることができるポリカーボネート類としては、炭酸とグリコール又は2価フェノールとのポリエステルであり、通常、炭酸と2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(通称「ビスフェノール−A」)とを構造単位とする芳香族ポリカーボネートが多用されている。しかし、本発明では、これに限定されるわけではなく、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカン、1,1−ビス(3−置換−4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカン、1,1−ビス(3,5−置換−4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類からなる群から選択される少なくとも一種の2価フェノールをモノマー成分とするポリカーボネートのホモポリマー、これらの2価フェノールを1成分とする共重合ポリマー、上記2価フェノールとビスフェノール−Aとをモノマー成分とする共重合ポリカーボネート、これらのポリマーの混合物が挙げられる。
【0068】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカンの具体例としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5,5−ジメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−メチルシクロペンタン等が挙げられる。
【0069】
1,1−ビス(3−置換−4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカンとしては、炭素数1〜12のアルキル基、ハロゲン基で置換された1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカン、例えば、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5,5−ジメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−4−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−メチルシクロペンタン等が挙げられる。
【0070】
1,1−ビス(3,5−置換−4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカンとしては、炭素数1〜12のアルキル基、ハロゲン基で置換された1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−アルキルシクロアルカン、例えば、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−エチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−メチルシクロペンタン等が挙げられる。
【0071】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、下記式(I)で表される2価フェノール、例えば9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等が挙げられる。
【0072】
【化1】

さらに、上記以外のビスフェノール成分として、例えば2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール−A)、4,4′−(α−メチルベンジリデン)ビスフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘブタン、4,4′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)2,5−ジメチルヘブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチルフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)4−フルオロフェニルメタン、2,2′−ビス(3−フルオロー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4ヒドロキシフェニル)メタン、2,2′−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等が挙げられる。これらは単独で又は二種類以上混合して用いることができる。
【0073】
本発明に用いるポリカーボネート類としては、特に、下記式(II)で表される繰り返し単位及び下記式(III)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネート類が好ましい。これらのポリカーボネート類は共重合体であっても混合物であってもよい。
【0074】
【化2】

【化3】

上記式(II)において、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基である。かかる炭化水素基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0075】
Xは、下記式で表される構造有する連結基ある。R19及びR20は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基である。かかる炭化水素基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0076】
【化4】

上記式(III)において、R11〜R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基である。かかる炭化水素基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0077】
Yは、下記式で表される構造有する連結基群から選ばれる少なくとも一種の連結基である。
【0078】
【化5】

ここで、R21〜R23、R25及びR26は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基であり、R24及びR27は炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基である。炭素数1〜22の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基が挙げられる。炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基が挙げられる。
【0079】
また、Ar〜Arは、それぞれ独立に、炭素数6〜10のアリール基から選ばれる少なくとも一種の基である。かかるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等があげられる。
【0080】
上記式(II)及び(III)で表される繰り返し単位からなるポリカーボネート類においては、(II)の含有量が繰り返し単位全体の50〜70モル%であることが、逆分散特性を有するために必要なおおよその組成比となる。
【0081】
この中でも、上記式(III)においてビスフェノール−Aが好適に用いられ、さらに、ビスフェノール−Aと上記式(1)で表される9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類からなるポリカーボネート共重合体が耐熱性、寸法安定性、透明性において優れている。さらに、ビスフェノール−Aと9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類との共重合体においては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の含有量が60〜70モル%であることが好ましく、より好ましくは60〜67.5モル%、最も好ましくは60〜65モル%である。
【0082】
フィルムの膜厚は、十分大きなリターデーションが得られることと加工時のハンドリングのためにはフィルムはある程度厚いことが好ましく、表示装置の薄型化やコストの低減のためにはある程度フィルムは薄いことが好ましい。このため、フィルムの厚さとしては、20μm以上70μm以下が良く、25μm以上65μm以下がさらに好ましく、30μm以上60μm以下が最も好ましい。
【0083】
(シクロオレフィン樹脂)
本発明に用いることができるシクロオレフィン樹脂は、脂環式構造を有する重合体樹脂からなるものである。
【0084】
好ましいシクロオレフィン樹脂は、シクロオレフィンを重合又は共重合した樹脂である。シクロオレフィンとしては、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、エチルテトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエンなどの多環構造の不飽和炭化水素及びその誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン、シクロヘプテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの単環構造の不飽和炭化水素及びその誘導体等が挙げられる。これらシクロオレフィンには置換基として極性基を有していてもよい。極性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが挙げられ、特に、エステル基、カルボキシ基又はカルボン酸無水物基が好適である。
【0085】
好ましいシクロオレフィン樹脂は、シクロオレフィン以外の単量体を付加共重合したものであってもよい。付加共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテンなどのエチレン又はα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどのジエン等が挙げられる。
【0086】
シクロオレフィン樹脂は、付加重合反応あるいはメタセシス開環重合反応によって得られる。重合は触媒の存在下で行われる。付加重合用触媒として、例えば、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる重合触媒などが挙げられる。開環重合用触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの金属のハロゲン化物、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる重合触媒;あるいは、チタン、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物、又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる重合触媒などが挙げられる。重合温度、圧力等は特に限定されないが、通常−50℃〜100℃の重合温度、0〜490N/cmの重合圧力で重合させる。
【0087】
本発明に用いるシクロオレフィン樹脂は、シクロオレフィンを重合又は共重合させた後、水素添加反応させて、分子中の不飽和結合を飽和結合に変えたものであることが好ましい。水素添加反応は、公知の水素化触媒の存在下で、水素を吹き込んで行う。水素化触媒としては、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウムの如き遷移金属化合物/アルキル金属化合物の組み合わせからなる均一系触媒;ニッケル、パラジウム、白金などの不均一系金属触媒;ニッケル/シリカ、ニッケル/けい藻土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/けい藻土、パラジウム/アルミナの如き金属触媒を担体に担持してなる不均一系固体担持触媒などが挙げられる。
【0088】
あるいは、シクロオレフィン樹脂として、下記のノルボルネン系ポリマーも挙げられる。ノルボルネン系ポリマーは、ノルボルネン骨格を繰り返し単位として有していることが好ましく、その具体例としては、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開平2−133413号公報、特開昭63−145324号公報、特開昭63−264626号公報、特開平1−240517号公報、特公昭57−8815号公報、特開平5−39403号公報、特開平5−43663号公報、特開平5−43834号公報、特開平5−70655号公報、特開平5−279554号公報、特開平6−206985号公報、特開平7−62028号公報、特開平8−176411号公報、特開平9−241484号公報等に記載されたものが好ましく利用できるが、これらに限定されるものではない。また、これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0089】
本発明においては、前記ノルボルネン系ポリマーの中でも、下記構造式(I)〜(IV)のいずれかで表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0090】
【化6】

前記構造式(I)〜(IV)中、A、B、C及びDは、各々独立して、水素原子又は1価の有機基を表す。
【0091】
また、前記ノルボルネン系ポリマーの中でも、下記構造式(V)又は(VI)で表される化合物の少なくとも一種と、これと共重合可能な不飽和環状化合物とをメタセシス重合して得られる重合体を水素添加して得られる水添重合体も好ましい。
【0092】
【化7】

前記構造式中、A、B、C及びDは、各々独立して、水素原子又は1価の有機基を表す。
【0093】
ここで、上記A、B、C及びDは特に限定されないが、好ましくは水素原子、ハロゲン原子、一価の有機基、又は、少なくとも2価の連結基を介して有機基が連結されてもよく、これらは同じであっても異なっていてもよい。また、A又はBとC又はDは単環又は多環構造を形成してもよい。ここで、上記少なくとも2価の連結基とは、酸素原子、イオウ原子、窒素原子に代表されるヘテロ原子を含み、例えばエーテル、エステル、カルボニル、ウレタン、アミド、チオエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記連結基を介し、上記有機基は更に置換されてもよい。
【0094】
また、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン、及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン、及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが用いられる。これらの中でも、α−オレフィン、特にエチレンが好ましい。
【0095】
これらの、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとを付加共重合する場合は、付加共重合体中のノルボルネン系モノマー由来の構造単位と共重合可能なその他のモノマー由来の構造単位との割合が、質量比で通常30:70〜99:1、好ましくは50:50〜97:3、より好ましくは70:30〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0096】
合成したポリマーの分子鎖中に残留する不飽和結合を水素添加反応により飽和させる場合には、耐光劣化や耐候劣化性などの観点から、水素添加率を90%以上、好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上とする。
【0097】
この他、本発明で用いられるシクロオレフィン樹脂としては、特開平5−2108号公報段落番号[0014]〜[0019]記載の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂、特開2001−277430号公報段落番号[0015]〜[0031]記載の熱可塑性ノルボルネン系ポリマー、特開2003−14901号公報段落番号[0008]〜[0045]記載の熱可塑性ノルボルネン系樹脂、特開2003−139950号公報段落番号[0014]〜[0028]記載のノルボルネン系樹脂組成物、特開2003−161832号公報段落番号[0029]〜[0037]記載のノルボルネン系樹脂、特開2003−195268号公報段落番号[0027]〜[0036]記載のノルボルネン系樹脂、特開2003−211589号公報段落番号[0009]〜[0023]脂環式構造含有重合体樹脂、特開2003−211588号公報段落番号[0008]〜[0024]記載のノルボルネン系重合体樹脂若しくはビニル脂環式炭化水素重合体樹脂などが挙げられる。
【0098】
具体的には、日本ゼオン(株)製ゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製アートン、三井化学(株)製アペル(APL8008T、APL6509T、APL6013T、APL5014DP、APL6015T)などが好ましく用いられる。
【0099】
本発明で使用されるシクロオレフィン樹脂の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法で測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、5000〜500000、好ましくは8000〜200000、より好ましくは10000〜100000の範囲である時に、成形体の機械的強度、及び成形加工性とが高度にバランスされて好適である。
【0100】
シクロオレフィン樹脂フィルムの成形方法は格別な限定はなく、加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも用いることができる。加熱溶融成形法は、更に詳細に、押し出し成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できるが、これらの方法の中でも、機械強度、表面精度等に優れたフィルムを得るためには、押し出し成形法、インフレーション成形法、及びプレス成形法が好ましく、押し出し成形法が最も好ましい。成形条件は、使用目的や成形方法により適宜選択されるが、加熱溶融成形法による場合は、シリンダー温度が、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃の範囲で適宜設定される。
【0101】
(可塑剤)
本発明に係る位相差フィルムには、所謂可塑剤として知られる化合物を、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水蒸気透過率低減、リターデーション調整等の目的で添加することが好ましく、例えば、リン酸エステルやカルボン酸エステルが用いられる。
【0102】
可塑剤はセルロースエステルフィルム中に1〜40質量%、特に1〜30質量%含有することが好ましい。
【0103】
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0104】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルホスフェート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることができ、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレートを二種以上混合して使用してもよい。
【0105】
また、可塑剤として特許第3793184号公報記載の下記化合物(CAE−1)〜(CAE−3)のクエン酸エステル系可塑剤を用いることもできる。
【0106】
【化8】

また、多価アルコールエステルも用いることができる。
【0107】
本発明の位相差フィルムに用いられる多価アルコールは次の一般式(1)で表される。
【0108】
一般式(1):R−(OH)
但し、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/又はフェノール性ヒドロキシ基(水酸基)を表す。
【0109】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0110】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0111】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0112】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0114】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0115】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0116】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を二個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0117】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0118】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0119】
以下に、本発明に用いられる多価アルコールエステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0120】
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

また、多価アルコールとして糖を用いた、下記一般式(2)で表される糖エステルも用いることができる。以下に一般式(2)で表される糖エステルの化合物例も示す。
【0121】
一般式(2)中、R〜Rは、各々独立に、水素原子、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、若しくは、置換又は無置換のアリールカルボニル基を表し、R〜Rは相互に同じであっても、異なっていてもよい。なお、下表中に記載の置換基は、R〜Rのうちのいずれかを表す。アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基の置換基としては、下表に示すアルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基が有するフェニル基、アルコキシ基等の置換基が好ましい。
【0122】
【化13】

【化14】

(一般式(2)で表される化合物の合成例)
【化15】

撹拌装置、還流冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.8モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×10Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。そして、次にトルエン1L、0.5質量%の炭酸ナトリウム水溶液300gを添加し、50℃で30分間撹拌後、静置して、トルエン層を分取した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×10Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4及びA−5の混合物を得た。得られた混合物をHPLC及びLC−MASSで解析したところ、A−1が7質量%、A−2が58質量%、A−3が23質量%、A−4が9質量%、A−5が3質量%であった。なお、得られた混合物の一部をシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することで、それぞれ純度100%のA−1、A−2、A−3、A−4及びA−5を得た。
【0123】
一般式(2)で表される糖エステルの総平均置換度は6.1〜6.9が好ましいが、当該置換度の範囲は4.0〜8.0であることが特に好ましい。置換度分布は、エステル化反応時間の調節、又は置換度違いの化合物を混合することにより目的の置換度に調整してもよい。
【0124】
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸及び乾燥中のブリードアウト等を抑制させるため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
【0125】
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0126】
可塑剤としては特に、下記一般式(3)で表される芳香族末端エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0127】
一般式(3):B−(G−A)−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基又は炭素数6〜12のアリールグリコール残基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基又は炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(3)で表される芳香族末端エステル系可塑剤は、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基又はオキシアルキレングリコール残基又はアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基又はアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0128】
本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0129】
本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用される。
【0130】
また、芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0131】
また、芳香族末端エステルの炭素数6〜12のアリールグリコール成分としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0132】
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ一種又は二種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリールジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0133】
芳香族末端エステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜2000、より好ましくは480〜1500の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、ヒドロキシ(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0134】
以下、前記芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
【0135】
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸820部(5モル)、1,2−プロピレングリコール608部(8モル)、安息香酸610部(5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.30部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で6.65×10Pa、最終的に4×10Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0136】
粘度(25℃、mPa・s);19815
酸価 ;0.4
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、アジピン酸500部(3.5モル)、安息香酸305部(2.5モル)、ジエチレングリコール583部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.45部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0137】
粘度(25℃、mPa・s);90
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にフタル酸410部(2.5モル)、安息香酸610部(5モル)、ジプロピレングリコール737部(5.5モル)及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステル系可塑剤を得た。
【0138】
粘度(25℃、mPa・s);43400
酸価 ;0.2
以下に、本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示す。
【0139】
【化16】

【化17】

(紫外線吸収剤)
本発明に係る位相差フィルムには、紫外線吸収剤を含有させることができる。外線吸収剤はフィルムが太陽光の照射により黄色に着色するのを防止することができる。また、偏光板保護フィルムとして本発明に係る位相差フィルムを使用した場合、太陽光による偏光子の色素破壊を防止することができる。また、本発明に係る位相差フィルムを液晶表示装置に使用した場合、カラーフィルターが太陽光により褪色するのを防止することができる。
【0140】
使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号、同8−337574号、特開2001−72782号記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号、特開2002−31715号、同2002−169020号、同2002−47357号、同2002−363420号、同2003−113317号記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0141】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(いずれもBASFジャパン社製)を好ましく使用できる。高分子紫外線吸収剤としては、大塚化学社製の反応型紫外線吸収剤RUVA−93を例として挙げることができる。
【0142】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0143】
本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましく用いられる。
【0144】
紫外線吸収剤のドープへの添加方法は、ドープ中で紫外線吸収剤を溶解するようなものであれば制限なく使用できるが、本発明においては紫外線吸収剤をメチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等のセルロースエステルに対する良溶媒、又は良溶媒と低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)のような貧溶媒との混合有機溶媒に溶解し紫外線吸収剤溶液としてセルロースエステル溶液に添加してドープとする方法が好ましい。この場合できるだけドープ溶媒組成と紫外線吸収剤溶液の溶媒組成とを同じとするか近づけることが好ましい。紫外線吸収剤の含有量は0.01〜5質量%、特に0.5〜3質量%である。
【0145】
(位相差フィルムの製造方法)
以下、典型的な例として、セルロースエステルを用いて位相差フィルムを製造する方法について述べる。
【0146】
前記位相差フィルムを製造する装置としては、表面が鏡面処理された流延バンドを用いた溶液製膜装置であっても、流延ドラムを用いた溶液製膜装置であってもよい。
【0147】
〈延伸〉
本発明においては、セルロースエステルの位相差フィルムを作製するために、流延したドープを延伸することが好ましい。ここで「ドープ」とは、セルロースエステルやその他添加剤を溶解させた溶液のことを指す。
【0148】
ドープを乾燥後、延伸するときの延伸方向はフィルムの搬送方向、搬送方向に直交する方向、搬送方向に対して斜めの方向のいずれでも良いが、長尺状位相差フィルムを長尺状偏光子と貼合してロールトゥーロールで長尺状偏光板を製造できることから、斜め方向の延伸が好ましい。
【0149】
また、128〜148nmの面内リターデーション値Ro(波長550nmの光で測定)を得るために、延伸率は50〜250%が好ましい。延伸するときのフィルムの温度は140〜220℃が好ましい。
【0150】
〈斜め延伸〉
フィルムの斜め方向の延伸は、当該長尺状位相差フィルムの搬送方向に対して10〜45°の範囲内の角度で面内遅相軸を有するように斜め方向に延伸した後に、把持手段により、フィルムの両端を搬送方向に対して−90〜−70°の範囲内の角度で、かつ0〜20%の範囲内の延伸率で、延伸することが好ましい。
【0151】
本願において、「長尺状」とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管又は運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)としうる。
【0152】
長尺状のフィルムの製造方法では、フィルムを連続的に製造することにより、所望の長さにフィルムを製造しうる。なお、延伸フィルムの製造方法は、製膜後一度巻芯に巻き取り、巻回体にしてから斜め延伸工程に供給するようにしてもよいし、製膜後フィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給してもよい。製膜工程と斜め延伸工程を連続して行うことは、延伸後の膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
【0153】
フィルムの搬送方向と面内遅相軸とがなす角度(θ)は、より好ましくは20〜40°、更に好ましくは25°〜35°である。
【0154】
当該長尺状位相差フィルムの搬送方向に対して10〜45°の範囲内の角度で面内遅相軸を有するように斜め方向に延伸した後に、把持手段により、フィルムの両端を搬送方向に対して−90〜−70°の範囲内の角度で、かつ0〜20%の範囲内の延伸率で、延伸することでツレやスジを防止できる。
【0155】
図1に、本実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸可能なテンターの一例の模式図を示す。
【0156】
テンター入り口側のガイドローラ9−1によって方向を制御された長尺フィルム原反1は、外側のフィルム保持開始点5−1、内側のフィルム保持開始点5−2の位置で把持具(クリップつかみ部ともいう。)によって把持される。
【0157】
左右一対のフィルム把持具は互いに等速度で、斜め延伸テンター3にて外側のフィルム把持手段の軌跡4−1、内側のフィルム把持手段の軌跡4−2で示される斜め方向に搬送、延伸され、外側のフィルム把持終了点6−1、内側のフィルム把持終了点6−2によって把持を解放され、テンター出口側のガイドローラ9−2によって搬送を制御されて斜め延伸フィルム2が形成される。図中、長尺フィルム原反は、フィルムの送り方向11−1に対して、フィルムの延伸方向11−2の角度(繰出し角度θi)で斜め延伸される。
【0158】
図1において、把持具の走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜100m/分である。また、「左右一対のフィルム把持具が互いに等速度」とは、実質的に、左右一対の把持具の走行速度の差として走行速度の1%以下であることを意味する。
【0159】
(微粒子)
本発明に係る位相差フィルムには、体積平均粒径が0.01μm以上1μm以下の微粒子を含有させることも好ましい。体積平均粒径が0.01μm以上であることにより、前記位相差フィルムは適度な滑り性を有し、巻き取るときに発生する傷を防止できる。1μm以下であることによりヘイズが低く抑えることができる。
【0160】
微粒子としては、無機化合物を用いることが好ましい。無機化合物の例には、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムが含まれる。二酸化ケイ素、二酸化チタン及び酸化ジルコニウムが好ましく、二酸化ケイ素が特に好ましい。無機化合物の微粒子は、表面処理により粒子表面にメチル基を導入することができる。例えば、酸化ケイ素の微粒子をジクロロジメチルシランやビス(トリメチルシリル)アミンで処理すればよい。
【0161】
二酸化ケイ素の微粒子は、既に市販されている(例、アエロジルR972、R972D、R974、R812、日本アエロジル(株)製)。また、酸化ジルコニウムの微粒子にも市販品がある(例、アエロジルR976、R811、日本アエロジル(株)製)。微粒子の体積平均粒径は、0.1乃至1.0μmであることが好ましく、0.1乃至0.5μmであることがさらに好ましい。
【0162】
なお、前記体積平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。例えばベックマン・コールター製LS13320などを用いて計測できる。測定は、有機溶媒に分散して測定を実施するが、製膜する溶媒組成と同じ組成にして測定を行うことが好ましい。
【0163】
前記微粒子を添加することにより、流延バンド又は流延ドラムに流延して形成したフィルムの空気側の表面粗さを1.0〜3.0nmに調整することが好ましい。表面粗さが1.0nm以上であればロールに巻き取られたときでも傷が付き難く、表面粗さが3.0nm以下であればフィルムのヘイズを抑えられる。
【0164】
<液晶表示装置>
本発明においては、長尺状位相差フィルムを断栽して形成された枚葉状フィルム又は前記長尺状偏光板を断栽して形成された枚葉状偏光板が具備されている態様の液晶表示装置とすることができる。例えば、本発明の偏光板を液晶セルの視認側の面に貼合した液晶表示装置とすることによって、本発明に係る液晶表示装置を作製することができる。
【0165】
本発明に係る偏光板は、反射型、透過型、半透過型LCD、あるいは、スーパーツイステッドネマティック(STN)モード、ツイステッドネマティック(TN)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、垂直配向(VA)モード、ベンドネマチック(OCB:Optically Aligned Birefringence)モード及びハイブリッド配向(HAN:Hybrid Aligned Nematic)モードの液晶表示装置に好ましく用いられる。
【0166】
本発明においては、特に、当該液晶表示装置は、立体画像表示装置か有機EL表示装置であることが好ましい。
【実施例】
【0167】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0168】
(実施例1)
〔λ/4位相差フィルムA−1の作製方法〕
セルロースエステルフィルムの作製方法
(微粒子分散液1)
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
【0169】
(微粒子添加液1)
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分撹拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
【0170】
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部
下記組成の主ドープを調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートCを撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープを調製した。
【0171】
〈主ドープの組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アセチル基置
換度1.5、プロピオニル基0.9、総置換度2.4
重量平均分子量190000) 100質量部
糖エステル化合物(2−22) 7.0質量部
ポリエステルA 2.5質量部
TINUVIN928(BASFジャパン社製) 1.5質量部
微粒子添加液1 1質量部
次いで、無端ベルト流延装置を用い、得られたドープを温度33℃、2000mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0172】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離し、原反フィルムを作製した。
【0173】
作製した原反フィルムを、図1の装置を用い、温度185℃、倍率1.6倍で遅相軸がフィルム幅方向と45°をなす様に斜め方向に延伸を行った。
【0174】
次いで、乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させた。乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとした。
【0175】
以上のようにして、乾燥膜厚40μmの位相差フィルムA−1を得た。
【0176】
《製造例1:位相差フィルムB−1の作製方法》
特開2010−204224号公報の段落〔0077〕〜〔0078〕の記載内容を参考にして作製した。
【0177】
すなわち、熱可塑性樹脂P1(商品名「ゼオノア1420」、日本ゼオン社製、ノルボルネン樹脂)のペレットを、押出機で溶融させ、押出用のダイに供給し、原反フィルムを成形する。
【0178】
次いで、原反フィルムをテンター延伸機で、遅相軸が長手方向に対して45°傾いた方向になるように、延伸温度147℃、延伸倍率2.1倍で斜め延伸し、長尺のシクロオレフィン樹脂フィルムを得る。
【0179】
〔円偏光板の作製〕
厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。
【0180】
これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いで、ヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、及び水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0181】
上記作製したフィルムA−1とフィルムB−1を、完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、上記偏光子の片面にフィルムA−1を貼合した。その際、偏光子の透過軸とλ/4位相差フィルムの遅相軸が45度となるよう貼合した。
【0182】
次に、フィルムA−1が貼合されていないもう一方の面に、アクリル系接着剤を塗った位相差フィルムB−1に塗工した後、偏光子に張り付けて本発明の円偏光板を作製した。
【0183】
この際、偏光子、フィルムA−1、フィルムB−1のうち少なくとも一種類はロールに巻かれた1000m以上の長尺フィルムであり、作製された円偏光板も長尺ロール状態になっている。
【0184】
作製した円偏光板の巻き癖を評価したところ、全く巻き癖がなく良好な性能であった。
【0185】
円偏光板の作り方、及び巻き癖の評価方法については、以後実施例1と同じである。
【0186】
(実施例2)
《製造例2:位相差フィルムB−2と円偏光板の作製方法》
特許第4681334号の明細書の〔実施例〕の欄に記載されている実施例1に準拠して、すなわち、段落〔0085〕〜〔0086〕に記載されている方法に準じて位相差フィルムB−2を作製した。
【0187】
すなわち、撹拌機、温度計及び還流冷却機を備えた反応装置に水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み、ビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンを、36:64(mol%)の比率で溶解させ、少量のハイドロサルファイドを加えた。
【0188】
次に、これに塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p−tert−ブチルフェノールを加えて乳化させ、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間撹拌して反応を終了させた。反応終了後有機相分取して、塩化メチレンを蒸発させ共重合ポリカーボネートを得た。得られた共重合ポリカーボネートの組成比はモノマー仕込み量とほぼ同等であった。
【0189】
また、このポリマーのガラス転移点温度(Tg)は223℃、光弾性定数は43ブリュースターであった。
【0190】
この共重合ポリカーボネートを塩化メチレンに溶解させて18質量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液をスチールドラム上に流延し、それを連続的に剥ぎ取って乾燥させ、これをロール延伸機にて228℃で縦方向2.2倍の縦一軸延伸加工を行った。得られた縦一軸延伸フィルムの厚みは50μmであり、残留溶媒量は、0.2質量量%であった。また、フィルムの光学特性は、表3のようにRo(550)=138nm、Rt(550)=70nmであった。
【0191】
得られたフィルムB−2と、実施例1で作製したフィルムA−1を用いて実施例1と同様に円偏光板を作製した。
【0192】
(実施例3)
〔λ/4位相差フィルムA−2と円偏光板の作製方法〕
〈主ドープの組成〉
アセチル基置換度2・4のセルロースアセテート
(重量平均分子量190000) 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 336質量部
メタノール(第2溶媒) 30質量部
紫外線吸収剤(チヌビン928(BASFジャパン(株)製))
2.3質量部
微粒子添加液1 1質量部
(位相差値上昇剤溶液を調製)
別のミキシングタンクに、下記の材料を投入し、加熱しながら撹拌して、位相差値上昇剤溶液を調製した。
【0193】
化合物A 14質量部
化合物B 12質量部
メチレンクロライド 92質量部
メタノール 8質量部
セルロースアセテート溶液474質量部に位相差値上昇剤溶液25質量部を混合し、充分に撹拌してドープを調製した。
【0194】
なお、λ/4位相差フィルムを位相差フィルム又は単にフィルムと略記することがある。
【0195】
次いで、無端ベルト流延装置を用い、得られたドープを温度33℃、2000mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度は30℃に制御した。
【0196】
ステンレスベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力130N/mで、ステンレスベルト支持体上から剥離し、原反フィルムを作製した。
【0197】
作製した原反フィルムを、表2に記載の延伸条件に変更する以外は実施例1の位相差フィルムA−1と同様の方法で延伸し、フィルムA−2を作製した。
【0198】
得られた位相差フィルムA−2と、実施例1で作製した位相差フィルムB−1を用いて実施例1と同様に円偏光板を作製した。
【0199】
(実施例4)
実施例3において、フィルムB−1をフィルムB−2に変更する以外は、実施例3と同様にして円偏光板を作製した。
【0200】
(実施例5)
〔λ/4位相差フィルムA−3と円偏光板の作製方法〕
実施例3において位相差フィルムA−2を作製する際に、主ドープに用いられるセルロースエステルの置換度を表2のように変更する以外は、A−2と同様にしてフィルムA−3を製造した。
【0201】
その後、実施例3において使用する位相差フィルムA−1をA−3に変更する以外は同様にして円偏光板を作製した。
【0202】
(実施例6及び7)
〔λ/4位相差フィルムA−4及び5と円偏光板の作製方法〕
実施例1において位相差フィルムA−1を作製する際に、主ドープに用いられる糖エステルの添加量を表2のように変更する以外は、A−1と同様にしてフィルムA−4、5を製造した。
【0203】
その後、実施例1において使用する位相差フィルムA−1をA−4、5に変更する以外は同様にして円偏光板を作製した。
【0204】
(実施例8、9、及び10)
〔λ/4位相差フィルムA−6、7、8及び円偏光板の作製方法〕
実施例1において位相差フィルムA−1を作製する際に、延伸条件を表2のように変更する以外は、A−1と同様にして位相差フィルムA−6、7、及び8を製造した。
【0205】
その後、実施例1において使用する位相差フィルムA−1をA−6、7、及び8に変更する以外は同様にして円偏光板を作製した。
【0206】
以上の実施例1〜10で作製した長尺ロール状の円偏光板の巻き癖を評価したところ、巻き癖がなく良好な円偏光板が得られた。
【0207】
(比較例1、2、及び3)
〔λ/4位相差フィルムC−1、及び2の作製方法〕
実施例1において主ドープに使われるセルロースエステルの置換度を表2のように変更する以外は、実施例1、2と同様にして位相差フィルムC−1、2を作製した。
【0208】
比較例1、2で作製される位相差フィルムC−1及びC−2は、プロピオニル基置換度が高いため、軸弾性率が低下している。そのため、巻き癖の評価が劣であった。
【0209】
〔λ/4位相差フィルムC−3の作製方法〕
実施例3における位相差フィルムA−2の製造において、主ドープに使われるセルロースエステルの置換度を表2に記載の値のセルロースエステルに変更する以外は同様にして、位相差フィルムC−3を作製した。
【0210】
表2のように位相差フィルムC−3は、軸延伸倍率が非常に高くなっていることが分かる。これは、使用したセルロースエステルのプロピオニル基置換度が0であり、かつアセチル基置換度が高いことが原因となっていると考えられる。
【0211】
実施例1において、位相差フィルムA−1を上記位相差フィルムC−3に変更して作製した長尺ロール状の円偏光板の巻き癖を評価したところ、巻き癖はなかったが、位相差フィルムB−1側にカールが発生した。
【0212】
(比較例4)
実施例1において主ドープに使われる糖エステル化合物の添加量を表2のように変更する以外は、実施例1と同様にして円偏光板を作製した。
【0213】
(比較例5及び6)
実施例1及び2において作製する長尺の円偏光板をロール状に巻くときに、フィルムA−1を巻き外側に、フィルムB−1、2を巻き内側にして巻く以外は実施例1と同様にして長尺ロール状の円偏光板を作製した。
【0214】
作製した円偏光板は、弾性率が低いフィルムを巻き内側にして巻いてあるため、巻き癖の評価が劣となった。
【0215】
化合物A、化合物B及び紫外線吸収剤は下記のものを用いた。
【0216】
【化18】

(比較例7及び8)
実施例1において位相差フィルムA−1を作製する際に、延伸条件を表2のように変更する以外は、A−1と同様にして位相差フィルムD−1を作製し、表2のような配置にする以外は実施例1と同様に円偏光板を作製した。
【0217】
比較例7の場合、巻き癖やカールは発生しないが、3D−有機EL表示システムで画像を評価すると、クロストークが見えた。これは、表示システムの中の円偏光板に対して視認側に配置されている位相差フィルムD−1が、クロストークを抑制するために十分な面内位相差値R0を有していないことが原因となっている。
【0218】
また、比較例8の場合、巻き癖が発生し、かつ3D−有機EL表示システムで画像を評価すると、外光反射によって自分やその他背景が表示システムから見えた。これは、表示システムの中の円偏光板に対して有機EL発光素子側に配置されている位相差フィルムD−1が、外光反射を抑制するために十分な面内位相差値Roを有していないことが原因となっている。
【0219】
〔評価方法〕
(巻き癖評価)
作製した1000m以上のロール状円偏光板を、23℃・55%RHに12時間置いた後、環境を23℃・80%RHに変更してさらに12時間置いた。そして環境を再度23℃・55%RHに変更して3時間置いた。
【0220】
その後、ロール状の円偏光板から5cm四方のサンプルを切り出し、さらに23℃・55%RHの環境に9時間置いた。その後、サンプルを以下のように評価した。
◎:巻き癖が全く残っていない。
○:巻き癖がほとんど残っていない。
×:巻き癖が残っている。
【0221】
カール評価
上記ロール状円偏光板から、5cm四方を切り出し、偏光板がカールしているかを評価した。
○:カールしていない。
×:カールしている。
【0222】
〈弾性率の測定方法〉
弾性率は、試料を23℃・55%RHの環境下で24時間調湿し、JIS K7127に記載の方法に準じて、引っ張り試験器オリエンテック(株)製テンシロンRTA−100を使用し、試験片の形状は1号形試験片で、試験速度は10mm/分の条件で測定した。
【0223】
(3D−有機EL表示システムの評価)
《有機EL表示装置の作製》
以下の手順で、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を作製した。
【0224】
本実施例の有機EL表示素子は、ガラス基板上にスパッタリング法によって厚さ80nmのクロムからなる反射電極、反射電極上に陽極としてITOをスパッタリング法で厚さ40nmに成膜し、陽極上に正孔輸送層としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)をスパッタリング法で厚さ80nm、正孔輸送層上にシャドーマスクを用いて、RGBそれぞれの発光層を100nmの膜厚で形成した。
【0225】
赤色発光層としては、ホストとしてトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム(Alq)と発光性化合物[4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran](DCM)とを共蒸着(質量比99:1)して100nmの厚さで形成した。
【0226】
緑色発光層としては、ホストとしてAlqと、発光性化合物クマリン6(Coumarin6)とを共蒸着(質量比99:1)して100nmの厚さで形成した。
【0227】
青色発光層としては、ホストとしてBAlqと発光性化合物Peryleneとを共蒸着(質量比90:10)して厚さ100nmで形成した。
【0228】
【化19】

さらに、発光層上に電子が効率的に注入できるような仕事関数の低い第1の陰極としてカルシウムを真空蒸着法により4nmの厚さで成膜し、第1の陰極上に第2の陰極としてアルミニウムを2nmの厚さで成膜した。
【0229】
ここで、第2の陰極として用いたアルミニウムはその上に形成される透明電極をスパッタリング法により成膜する際に、第1の陰極であるカルシウムが化学的変質をすることを防ぐ役割がある。
【0230】
以上のようにして、有機発光層を得た。次に、陰極上にスパッタリング法によって透明導電膜を80nmの厚さで成膜した。ここで透明導電膜としてはITOを用いた。さらに、透明導電膜上にCVD法によって窒化珪素を200nm成膜することで、絶縁膜とした。
【0231】
次に、上記作製した各円偏光板の位相差フィルムBの表面に接着層を塗工した後、図2及び図3に示すように、上記のように製作した有機EL表示素子を用いて、ガラスと位相差フィルムBを接着層を介して貼合することで有機EL表示装置を作製した。
【0232】
上記で作製した有機EL表示装置と、液晶シャッター方式の3D眼鏡(SONY製3DメガネTDG−BR100)のパネル側に実施例及び比較例で作製したλ/4位相差を貼合した3D眼鏡を用いて、3D−有機EL表示システムを作製した。液晶シャッター方式の3D眼鏡は、パネル側から見て、位相差フィルム/液晶セル/偏光子がこの順番に設けられている。
【0233】
上記作製した3D−有機EL表示システムについて、下記の各評価を行った。
【0234】
作製した3D−有機EL表示装置について3D映像視聴時の首を傾けた際のクロストーク、連続点灯後の首を傾けない状態でのクロストーク、について評価した。
【0235】
《3D映像視聴時の首を傾けた際のクロストーク防止性の評価》
23℃・55%RHの環境下で、各々の液晶表示装置のバックライトを点灯させた直後、3D眼鏡をかけて、眼鏡が25°傾いた状態になるよう首を傾けた状態で3D映像を視聴し、クロストーク防止性を下記基準で評価した。
○:クロストークが全くない
×:クロストークがはっきり見える。
【0236】
《正面の反射防止機能の評価》
正面の反射防止機能を下記基準に基づき評価した。
○:作製したEL表示装置を見たときに、自分や背景の画像が余り見えない。
×:作製したEL表示装置を見たときに、表示装置の画像と共に自分や背景の画像がはっきり見える。
【0237】
以上、実験要件及び評価結果を表1〜表3にまとめて示す。
【0238】
【表1】

【表2】

【表3】

表3に示した評価結果から分かるように本発明の偏光板は、巻き癖が全く又はほとんど残っていず、カールしていないことが分かる。また、本発明の偏光板を用いた3D−有機EL表示システムは、クロストーク防止性及び正面の反射防止機能も優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0239】
1 長尺フィルム原反
2 長尺延伸フィルム
3 斜め延伸テンター
4−1 外側のフィルム把持手段の軌跡
4−2 内側のフィルム把持手段の軌跡
5−1 外側のフィルム把持開始点
5−2 内側のフィルム把持開始点
6−1 外側のフィルム把持終了点
6−2 内側のフィルム把持終了点
7−1 外側斜め延伸開始点
7−2 内側斜め延伸開始点
8−1 外側斜め延伸終了点
8−2 内側斜め延伸終了点
9−1 テンター入口側のガイドローラ
9−2 テンター出口側のガイドローラ
10 フィルムの延伸方向
11−1 斜め延伸前のフィルムの搬送方向
11−2 斜め延伸後のフィルムの搬送方向
Wo 斜め延伸前のフィルム幅手長さ
W 斜め延伸後のフィルム幅手長さ
A 3D−有機EL表示システム
B 有機EL表示装置
C 3D眼鏡
a 透明基板(ガラス)
b 金属電極
c 有機発光層
d 透明電極(酸化インジウムスズ(ITO))
e 絶縁層
f 広帯域λ/4位相差フィルム
g 偏光子
h λ/4位相差フィルム
i λ/4位相差フィルム
j 偏光子
k 保護フィルム
l 液晶
m 保護フィルム
n 偏光子
o 保護フィルム
1a 透明基盤
2a 金属電極
3aR 赤色発光層
3aG 緑色発光層
3aB 青色発光層
4a 透明電極
5a 絶縁膜
6a 接着層
7a λ/4板T2
8a 偏光子
9a λ/4板T1
10a 円偏光板
11a 有機EL表示基盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)を満たす面内位相差値Roを有する二枚の位相差フィルムが偏光子の両面に備えられた偏光板であって、当該位相差フィルムの一方を位相差フィルムA、他方を位相差フィルムBとし、かつ、それぞれの遅相軸方向の弾性率Sを、それぞれ、S(A)及びS(B)としたとき、下記式(2)を満たすように当該二枚の位相差フィルムが貼合されていることを特徴とする偏光板。
式(1):100nm≦Ro≦160nm
式(2):100MPa≦S(A)−S(B)≦2000MPa
ただし、前記面内位相差値Roは、温度23℃・相対湿度55%の環境下、波長550nmの光で測定された面内位相差値である。
【請求項2】
前記偏光板が、長尺状偏光板として製造され、かつロール状にして保管されるときには、前記位相差フィルム(A)がロールの巻き内側になるように巻かれることを特徴とする請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記位相差フィルムの少なくとも一方が、下記式(3)を満たすセルロースエステルを含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偏光板。
式(3):0≦X≦1.8
ただし、上記式において、Xはプロピオニル基又はブチリル基の置換度の総和を表す。
【請求項4】
前記位相差フィルムの少なくとも一方が、ポリカーボネート又はシクロオレフィン樹脂を含有していることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の偏光板が、具備されていることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−114105(P2013−114105A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261243(P2011−261243)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】