説明

偏光板離型用マット調ポリエステルフィルム

【課題】優れた光学軸精度を有し、視認性と欠点検査性の両立する偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】下記要件(1)〜(3)を満たす偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルム。(1)ヘイズが2%以上10%以下、(2)前記積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上、(3)フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当たり5.0°以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板離型用マット調ポリエステルフィルムに関するものである。詳しくは、優れた検査性を有する偏光板離型用マット調ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の構成部材である偏光板は、その一方の面に粘着層が設けられ、その粘着層の上に、偏光板を保護するための離型フィルムを積層した積層体の状態でロール状態に巻いて運搬或いは保管される。このような偏光板離型用フィルムの基材には、強度機能やコストの観点から、ポリエステルフィルムが広く用いられている。直鎖状の高分子が配向した構造を有するポリエステルフィルムは、光学的に複屈折性を示す複屈折体である。よって、ポリエステルフィルムは分子の配向方向に対して平行方向と垂直方向の直行する2本の光学軸を有する。そのため離型フィルムの基材が有する光学軸が偏光板の光学軸に対して傾斜した状態で積層されると、クロスニコル下におかれた際に透過光や干渉色を呈し、欠点検査を阻害する要因となってしまう。従って、偏光板離型用ポリエステルフィルムには、優れた光学軸精度が求められる(特許文献1)。
【0003】
ポリエステルフィルムの製造においては、回転速度に差を設けたロール間で長手方向に延伸された後に、テンター内でフィルムの端部を把持された状態で幅方向に延伸され、熱固定されることによって製造される。この場合、ボーイング現象によりフィルム中央部よりも端部の方が光学軸の歪み、すなわち配向主軸の歪みが大きくなるため、中央部の極限られた製品しかこの用途に用いることがでない。そこで、フィルムのボーイングを低減させる方法として、(1)幅方向延伸後に一旦ポリエステルのガラス転移温度以下に冷却した後熱処理する方法、(2)幅方向延伸後にニップロールを設ける方法、(3)熱処理室を複数のゾーンに分けて段階的に昇温する方法、幅方向に温度分布を設けて熱処理ゾーンに導く方法、(4)幅方向の延伸倍率を大きくする方法などが提案されている。(特許文献2〜5)
【0004】
偏光板検査工程においては、上記のような方法により光学軸の歪みを低減させたフィルムに粘着加工などを施して偏光板離型フィルム、プロテクトフィルムを作製し、これを偏光板に積層し、クロスニコル下において偏光板の欠点を画像解析や目視で確認している。
【0005】
一方、偏光板の歪みやムラの検査には、反射光もしく透過光による検査が行なわれる。これは、偏光板に蛍光灯を照射し、その照射光により照らされた反射光もしくは透過光により偏光板表面を観察することで、その欠点を検出するものである。この際、偏光板表面に貼り合わされた保護フィルムの影響により、観察者がフィルム表面に写りこんだり、反射光の照り返しによる白ボケが生じたりするため、視認性の低下により欠点観察に障害を及ぼす場合がある。そのため、観察者の作業服の光線反射率を抑えたり、フィルムのL値を特定範囲に制御するなどの方法が提案されている(特許文献6、7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−40249号公報
【特許文献2】特開2008−246685号公報
【特許文献3】特開2008−163263号公報
【特許文献4】特開2005−14545号公報
【特許文献5】特開2004−18588号公報
【特許文献6】特開2005−291878号公報
【特許文献7】特開2009−161571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、上記特許文献2〜5に提案されるフィルムが偏光板検査に用いられている。ところが、ディスプレイの大画面化は飛躍的に進展しており、37インチ、42インチの大画面ディスプレイが市場に浸透してきている。さらに、高精細化の要求により、従来問題とされなかったレベルの異物、欠点でも確実に認知する必要が生じてきた。このような、大画面ディスプレイの進展と検査精度向上の要求を満足するためには、より長幅にわたって光学軸の歪みを低減することが必要となってきた。
【0008】
さらに、反射光や透過光により検出すべき欠点のレベルもより高度になってきた。そのため、フィルム表面に写り込みや反射光の照り返しを抑制しながら、より微小な欠点も検出する必要がある。この場合、特許文献6や7に開示の方法では十分対応できなくなることが予想された。すわなち、特許文献6のほうに粒子を添加することでL値を制御したフィルムは反射光の照り返しなどは抑制されるものの、ヘイズが高くなり光線透過率の低下やコントラストの低下により、微小な欠点は視認しにくくなる。そのため、反射光の照り返しなどを抑制しつつも、高い透明性やコントラスト性を両立させる必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討を行なったところ、ボーイングを低減させることで良好な光学軸精度を保持しながら、主として表面拡散を利用することで、視認性と欠点検査性の両立を高度に図ることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決することができる、第1の発明は、共押出法からなる2層以上の積層ポリエステルフィルムであって、下記要件(1)〜(3)を満たす偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムである。
(1)ヘイズが2%以上10%以下
(2)前記積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上
(3)フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当たり5.0°以下
第2の発明は、前記積層ポリエステルフィルムが支持層(A)と、該支持層の少なくとも片面に積層された最表層(B)からなり、該最表層(B)が融点220〜250℃のポリエステルを75〜99質量部と、該ポリエステルに非相溶な添加剤を1〜25質量部含む前記偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムである。
第3の発明は、該支持層(A)は実質的に粒子を含有せず、該ポリエステルに非相溶な添加剤が透明熱可塑性樹脂である前記偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムである。
第4の発明は、前記積層ポリエステルフィルムがさらに下記要件(4)および(5)を満たす前記偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムである。
(4)150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも5.0%以下
(5)150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が1.0%以下
第5の発明は、未延伸フィルムを縦方向および横方向に延伸し、熱固定を行う前記偏光板離型用マットポリエステルフィルムの製造方法であって、下記要件(6)および(7)を満たす偏光板離型用マット調ポリエステルフィルムの製造方法である。
(6)縦延伸を4.2〜4.8倍、横延伸を4.2〜4.8倍の範囲で行うこと
(7)熱固定を220〜230℃の温度で熱固定を行うこと
【発明の効果】
【0011】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、優れた光学軸精度を有し、視認性と欠点検査性の両立を図りうる。そのため、特に大画面用途の偏光板の高精度の検査に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、共押出法からなる2層以上の積層ポリエステルフィルムであって、ヘイズが2%以上10%以下で、かつ少なくとも片面の十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上であることを特徴とする。ここで、マット調とはフィルムの少なくとも片面に微小な凹凸構造を伴うことを意味する。本発明のフィルムは、主として、係る表面凹凸構造に起因して光拡散性を有する。これは、「ヘイズが2%以上10%以下で、かつ少なくとも片面の十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上」なる規定により表される。よって、本発明における「マット調」の技術的意味は、「ヘイズが2%以上10%以下で、かつ少なくとも片面の十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上」であることを同時に規定することで、その外延は明確である。
【0013】
本発明は、表面凹凸構造に起因する光拡散性を有することで、視認性と欠点検査性の両立を図ることが可能となる。フィルムによる光拡散性にはフィルム内部の構造に起因する内部ヘイズとフィルム表面構造に起因する表面ヘイズの2つから構成される。従来、偏光板離型フィルムに光拡散性(ヘイズ)を付与する場合は、主として粒子の添加による内部ヘイズを高める方法が採用されていた(特許文献6など)。しかし、この方法ではフィルム内部粒子やボイドにより光の後方散乱が生じ、透明性(全光線透過率)の低下やコントラストの低下が生じる場合があった。そこで、本発明では、表面凹凸構造に起因した表面ヘイズによる光拡散性を採用することで、内部ヘイズにより光の後方散乱を低減させ、高い視認性を両立させるに至った。本発明は、従来の偏光板離型フィルムとは異なる新規な技術思想に基づくものであり、新規な偏光板離型フィルムを規定するものである。
【0014】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムのヘイズは10%以下であり、9%以下であることがより好ましく、7%以下であることがさらに好ましい。一方、偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムのヘイズは2%以上であり、3%以上であることがより好ましく、3.5%以上であることがさらに好ましい。前記ヘイズの上限を超えると、コントラスト性や透明性が低下する場合がある、また、前記ヘイズの下限を下回ると、反射光の映り込みなどが生じやすくなり、視認性が低下する場合がある。
【0015】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムの内部ヘイズが表面ヘイズ未満である。これは本発明のフィルムが主として表面凹凸構造により光拡散性を奏することを示すものである。偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムの表面ヘイズを100%とした場合、前記内部ヘイズは表面ヘイズの100%未満であり、90%以下であることが好ましく、85%以下であることが好ましい。前記内部ヘイズが表面ヘイズを上回る場合は、透明性(全光線透過率)の低下やコントラストの低下が生じやすくなる。
【0016】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面での十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上である。本発明のフィルムは表面構造として係る凹凸構造を有することにより、内部ヘイズを抑えても表面ヘイズによる光拡散が生じるので、高い透明性と光拡散性の両立を図ることができる。本発明の上記SRzは好ましくは、0.22μm以上であり、より好ましくは0.25μm以上である。上記SRzを有する面は、フィルム両面であっても、片面であってもかまわないが、後述する最表層(B)と対応することが好ましい。
【0017】
光拡散に寄与する表面凹凸構造の点からは、上記SRzは大きいことが好ましい。しかし、SRzを大きくすると、輝点様に観察させることにより欠点検査の正確な検査性を低下させる場合がある。さらに、突起部分が粘着層を持ち上げ、粘着層が偏光板表面に転写し、偏光板の不良品を発生させる可能性がある。そこで、本発明のSRzの上限は1.50μm以下が好ましく、1.1μm以下がより好ましく、1.0μm以下がよりさらに好ましく、0.5μm以下が特に好ましい。係る表面凹凸構造を設けるための達成手段に付いては後述する。
【0018】
ディスプレイの高精細化に対応して偏光板の検査精度が向上しているため、離型用フィルムとしては透明性が高いことが望ましい。そのため、本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムにおける光線透過率は85%以上が好ましく、87%以上がより好ましく、88%以上が更に好ましく、88.5%以上が特に好ましい。偏光板検査工程での視認性向上のためには、光線透過率は高ければ高いほど良いが、添加剤を含有したポリエステルフィルムにおいては100%の光線透過率は技術的に達成困難であり、実質的な上限は92%である。なお、上記ヘイズおよび全光線透過率は、JIS−K7105に準じ、濁度計を使用して、測定することができる。
【0019】
フィルム表面の凹凸構造はエンボス処理や粒子を添加した塗布液によるコーティング処理によっても設けることができる。中でも、共押出法によりフィルム製造工程により一体的に表面凹凸構造を形成することは好適である。共押出法による方法は、生産上も安定的で、経済的にも有利である。
【0020】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、支持層(A)と、該支持層の少なくとも片面に積層された最表層(B)からなり、該最表層(B)には非相溶の添加剤を添加する構成が好適である。層構成としては、A/B、B/A/B、B/A/C、B/C/Aなどが例示される(なお、ここでCはA、B以外の任意の層を表す)。
【0021】
透明性の点から、支持層(A)には実質的に粒子を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に粒子を含有しない」とは、例えば、無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加しなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。
【0022】
支持層(A)は、積層フィルムに保護膜としての機械的強度を与える点から、示差走査型熱量計を用いて測定した場合に、融点として明確な結晶融解熱ピークが観測される結晶性ポリエステルが好ましい。具体的には、融点が好ましくは250℃以上、より好ましくは255℃以上の結晶性ポリエステルからなることが好ましい。係る融点が下限以上であれば、ポリエステルフィルムとしての機械的強度や耐溶剤性が好適に保持しうる。なお、ここで融点とは、いわゆる示差走査熱量測定(DSC)の1次昇温時に検出される融解時の吸熱ピーク温度のことである。
【0023】
支持層(A)を構成するポリエステル樹脂は、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分とするポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。また、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス−(4−カルボキシフェニルエタン)、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサン−1、4−ジカルボン酸等が挙げられる。上記の他のグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA等のエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。この他、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸成分も利用され得る。
【0024】
このようなポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETという)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0025】
次に、最表層(B)は、好適に表面凹凸構造を形成させるため、ポリエステル樹脂に非相溶な添加剤を添加した構成を特徴とする。ここで、最表層(B)を構成するポリエステルも、保護膜としての機械的強度や耐溶剤性の点から、結晶性ポリエステルであることが好ましい。
【0026】
フィルムの機械的強度、耐熱性の点からすれば、樹脂の融点は高いほど望ましい。しかしながら、樹脂の融点が高い場合は、延伸時に伴い発生する延伸応力が増加するため、樹脂中に非相溶添加剤があるとボイド(空洞)が発生しやすくなり、内部ヘイズの上昇により全光線透過率が低下する。それにより、偏光板検査時にコントラストが低下し、検査性を阻害する。ボイドの発生のし易さは、作製されたフィルムの面配向係数と強い関連性がある。面配向係数は延伸後のフィルムに形成された高分子鎖の配向状態を示し、かかる配向状態が高いほど力学的強度は強くなるが、フィルム内に発生するボイドも多くなる。そのため、フィルムの面配向度を低下させ、ボイドの発生を抑えるには、最表層(B)を構成する樹脂の融点は一定範囲内で制御することが好ましい。最表層(B)を構成するポリエステルの融点の下限は220℃が好ましく、さらに好ましくは230℃が好ましい。融点が220℃以上であれば、望ましい耐熱性、機械的強度および厚み精度が発揮できる程度の配向係数を得ることができる。また、最表層(B)を構成する共重合成分を含む結晶性ポリエステルの融点の上限は、特に限定しないが、250℃が好ましい。融点が250℃以下であれば、特に後述の熱可塑性樹脂を添加剤として用いた場合は、最表層(B)内でのボイドの発生が抑制されるため好ましい。
【0027】
支持層(A)および最表層(B)を構成するポリエステルの融点は、共重合成分を導入することにより制御することができる。共重合成分をポリエステル中に導入することにより、最表層(B)の面配向係数を制御することができ、内部ヘイズの発生を好適に抑制することができる。しかしながら、共重合成分を過大に導入すると、ポリエステルの融点が低下し、ポリエステルフィルム本来の優れた特性が得られなくなるので、注意が必要である。共重合成分の導入量は、芳香族ジカルボン成分全体、あるいはグリコール成分全体に対し、5モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは10モル%以上、よりさらに好ましくは15モル%以上である。共重合成分の含有量が5モル%より大きい場合には、ボイドの発生が抑制され、光線透過率と光拡散性を高度に両立しやすくなるので好ましい。一方、共重合成分の導入量の上限としては、上記成分に対して25モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは15モル%以下である。共重合成分の含有量が25モル%を以下である場合は、ポリエステルフィルムの力学的特性が実用範囲になる程度の融点が得られるので好ましい。
【0028】
最表層(B)に用いるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレン−2,6−ナフタレートが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸成分と、エチレングリコール及び、分岐状脂肪族グリコール又は脂環族グリコールの少なくとも1種を含むグリコール成分とから構成される共重合ポリエステルを、原料の一部あるいは全部に用いることが好ましい。
【0029】
分岐状脂肪族グリコールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオールなどが例示される。また、脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどが例示される。
【0030】
これらのなかでも、ネオペンチルグリコールや1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。さらに、本発明においては、上記のグリコール成分に加えて1,3−プロパンジオールや1,4−ブタンジオールを共重合成分とすることが、より好ましい実施態様である。これらのグリコールを共重合成分として、前述の範囲で導入し、使用することは、前記の特性を付与するために好適であり、さらに、最表層(B)層内のボイドを低減する点からも好ましい。
【0031】
さらに、必要に応じて、前記のポリエステルに下記のようなジカルボン酸成分及び/又はグリコール成分を1種又は2種以上を共重合成分として併用してもよい。
【0032】
最表層(B)に用いるポリエステルとしては、前記共重合ポリエステルをそのままフィルム原料として用いてもよいし、共重合成分が多い共重合ポリエステルをホモポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)とブレンドして、共重合成分量を調整しても構わない。
【0033】
特に、後者のブレンド法を用いてフィルムを製造することによって、共重合ポリエステルのみを用いた場合に内部ヘイズの発生を抑制しながら、高融点(耐熱性)を有する、共重合成分を含む結晶性ポリエステルを調整することができる。また、異なる2種類の結晶性ポリエステルを溶融混合して、両者のエステル交換反応を利用して、主鎖中に第3成分(共重合成分)を導入する方法を採用しても良い。特に、前記共重合ポリエステルと、ポリエチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレート以外のホモポリエステル(例えば、ポリテトラメチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート)を少なくとも1種以上ブレンドすることは、ボイド低減の点からもさらに好ましい。
【0034】
本発明の最表層(B)は、前記ポリエステル75〜99質量部と該ポリエステルに非相溶性の添加剤1〜25質量部との配合組成物からなる。両者の好ましい配合比率は、ポリエステル80〜98質量部と添加剤2〜20質量部との配合であり、さらに好ましくはポリエステル85〜97質量部と添加剤3〜15質量部との配合である。
【0035】
上記添加剤の混合比率が1質量部未満の場合には、添加剤によるフィルム表面の凹凸形成能力が不足し、十分な表面ヘイズが得られない場合がある。一方、添加剤の混合比率が25質量部を超える場合には、ポリエステルの延伸応力が増大して添加剤の周りにボイドを生じやすくなり、ヘイズの向上による視認性の低下が生じやすくなったり、フィルムの破断が生じたりしやすくなる。
【0036】
本発明における添加剤は、最表層(B)表面に凹凸を付与し、表面ヘイズを発現させる目的で添加される。上記添加剤は、ポリエステルに非相溶性の材料であれば何ら制限されるものではなく任意であり、(1)シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、カオリナイト、タルク等の無機粒子、(2)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂および有機シリコーン系樹脂等有機粒子などの有機粒を用いることができる。
【0037】
しかし、本発明において用いることができる最も優れた添加剤は、前記ポリエステルに非相溶性の熱可塑性樹脂である。すなわち、ポリエステルと熱可塑性樹脂との非相溶性を活用して、二軸延伸フィルムの製造工程(溶融・押し出し工程)において、ポリエステルからなるマトリックス中に該ポリエステルに非相溶性の熱可塑性樹脂からなるドメインを分散形成させ、表面凹凸形成剤として活用する技術である。この技術を用いることにより、フィルムの溶融・押し出し工程において高精度のフィルターで異物を濾過し、液晶ディスプレイ用フィルムとして必要なクリーン度を達成することができる。また、熱可塑性樹脂を用いることで、粒子の凝集を防止することができ、凝集粒子が輝点として観察されることによる検査性の低下を防ぐことができる。
【0038】
前記添加剤として用いることができるポリエステルに非相溶性の熱可塑性樹脂としては、例えば以下の材料が挙げられる。即ち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、各種環状オレフィン系ポリマー等のポリオレフィン、ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アイソタクティックポリスチレン等のポリスチレン、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル樹脂、及びこれらを主たる成分とする共重合体、またはこれらの樹脂の混合物等である。
【0039】
その中でも特に、非晶性の透明ポリマーを用いることが、高い透明性を有するフィルムを製造するために好ましい。これに対し、結晶性ポリマーを添加剤として用いた場合には、結晶性ポリマーが白濁してフィルムの内部ヘイズが大きくなり、透明性が低下する恐れがある。
【0040】
本発明に用いることができる非晶性の透明ポリマーとしては、例えば以下のものが挙げられる。即ち、ポリスチレン(PS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体(MS樹脂)、環状オレフィン系ポリマー、メタクリル樹脂、PMMA、等が例示される。
【0041】
これらの中でも、ポリエステルからなるマトリックスに対して、ポリマーの表面張力が近い非晶性の透明ポリマーを選択することが、ボイド低減の点からも、さらに好ましい。このような表面張力がポリエステルに近い非晶性の透明ポリマーとしては、ポリスチレン(PS樹脂)、PMMAが特に好ましい。
【0042】
また、本発明のフィルムの厚みは特に制限されるものではなく任意であるが、9〜300μmであることが好ましく、12〜100μmの範囲であることがより好ましく、14〜50μmがよりさらに好ましい。厚さが300μmをこえるとコスト面で問題があり、またリターデーションが大きくなり、クロスニコル化での視認性が低下しやすくなる。また、厚さが9μmに満たない場合は、機械的特性が低下し、保護フィルムとしての機能が果たせない。
【0043】
また、積層フィルムとして(B/A/B)の2種3層構成の場合は、片面における表面層の厚さは、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。表面層の厚みが上記範囲を超える場合は、フィルムの光線透過率が低下する場合がある。
【0044】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当り5.0°以下である。5.0°を超えると一様な光学軸精度が得られず、干渉色の発生により検査性が低下し、高精度の検査に用いることができない。フィルム幅方向における500mm当りの配向角の変化量の上限は、4.8°以下が好ましく、4.5°以上がより好ましい。
【0045】
一方、配向角の変化量は低い方が好ましいが、フィルムは製膜加工でのボーイング現象により、中央部から端にかけて配向に歪みが生じる。そのため、フィルム幅方向にそって光学軸の傾きが生じている。配向角の変化量が、5.0°以上になると一様な光学軸精度が得られないため、高精度の検査に用いることができない。配向角の変化量は低いほうが好ましいが、優れた熱安定性との両立のためには実質的な下限は1.0°である。
【0046】
また、ディスプレイの大型化により処理速度が向上し、加えて生産性の向上の点から、加工速度が飛躍的にアップしている。このため、粘着加工などの後加工における熱処理温度がより高温化している。これに対応するためには、高温での熱寸法安定性の優れたフィルムが好ましい。本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムにおける150℃で30分間加熱したときの熱収縮率は長手方向および幅方向とも好ましくは5.0%以下であり、より好ましくは3.0%以下である、さらに好ましくは2.0%である。前記熱収縮率が5.0%以下であると、150℃以上の高温熱処理加工であっても高い寸法安定性が得られるので、生産性の向上に著しく寄与しえる。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.5%程度が下限と考える。
【0047】
また、本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。本発明のフィルムは上記のように熱寸法安定性に優れる上、長手方向および幅方向でほぼ同等でバランスのとれた熱収縮率を有するため、加熱処理によってもシワや厚み斑が生じにくく、大画面の偏光板での欠点検査に極めて適している。
【0048】
また、異物検査時の目視精度を高めるためには、配向主軸方向の配向強度を高めることが望ましい。そのため、本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムにおけるMOR値は1.60以上であることが好ましく、1.80以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。MOR(Maximum Oriented Ratio)値とは、透過型分子配向計で測定された透過マイクロ波強度の最大値と最小値の比(最大値/最小値)である。このMOR値は、縦方向と横方向の配向差が小さくバランスしたフィルムほど小さくなり、いずれか一方向の配向強度が強いほど大きくなる。検査精度を上げるためには、MOR値は高い方が好ましいが、2.10以上になると配向主軸と直交方向の強度が弱まるため、検査時にフィルム破断、走行性不良の問題が発生しやすくなる。1.60以下では目視精度が劣るため、偏光板離型用フィルムとしての機能が果たせない。
【0049】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムにおける製造方法について説明する。ポリエチレンテレフタレートのペレットを用いた代表例について詳しく説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0050】
まず、フィルム原料乾燥あるいは熱風乾燥によって、水分率が100ppm未満となるように乾燥する。次いで、各原料を計量、混合して押し出し機に供給し、シート状に溶融押出を行う。さらに、溶融状態のシートを、静電印加法を用いて回転金属ロール(キャスティングロール)に密着させて冷却固化し、未延伸PETシートを得る。
【0051】
また、溶融樹脂が280℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0052】
支持層(A層)と最表層(B層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いても良い。
【0053】
次に、前記の方法で得られた未延伸フィルムを逐次二軸延伸し、次いで熱処理を行うことが好ましい。
【0054】
(1)熱固定温度の制御
これまで、光学的な軸精度を保持するために、比較的低温での熱固定処理が推奨されている。しかしながら、本発明では熱固定処理工程の温度は200℃以上230℃以下で行なうことが好ましい。熱固定処理の温度が200℃以上では、熱収縮率の絶対値が小さくなり好ましい。また、熱固定処理の温度が230℃以下であると、フィルムが不透明になり難く、また破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0055】
熱固定処理で把持具のガイドレールを先狭めにして、弛緩処理することは熱収縮率、特に幅方向の熱収縮率の制御に有効である。弛緩処理する温度は熱固定処理温度からポリエチレンテレフタレートフィルムのガラス移転温度Tgまでの範囲で選べるが、好ましくは(熱固定処理温度)−10℃〜Tg+10℃である。この幅弛緩率は1〜6%が好ましい。1%未満では効果が少なく、6%以下であるとフィルムの平面性の点で好ましい。
【0056】
(2)横延伸倍率の制御
本発明における偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムを得るためには4.2〜4.8倍の範囲で幅方向延伸を行うことが望ましい。横延伸倍率が4.2倍以上では、目視検査性が良好であるため好ましい。4.8倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0057】
(3)縦延伸倍率の制御
本発明における偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムを得るためには2.6〜2.9倍の範囲で縦方向延伸を行うことが望ましい。縦延伸倍率が2.6倍以上では、流れ方向の厚み変動が小さくなり好ましい。2.9倍以下であると配向主軸の変化量が小さくなり好ましい。
【0058】
本発明のフィルムは上記方法により製造しるものであるが、上記技術思想の範囲であれば、上記具体的に開示された方法に限定されるものはない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、熱固定、横延伸、縦延伸を高精度の制御をすることでボーイングの発生を抑制し、フィルム幅方向で光学軸精度を維持することである。
【0059】
さらに、縦方向の延伸温度は、75〜110℃であることが好ましい。縦方向の延伸温度が75℃以下では、フィルムが破断し、安定して生産が行えない。また、110℃以上では、得られたフィルムに厚み斑が生じ、偏光板離型用途として利用することができない場合がある。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
【0061】
[評価方法]
(1)固有粘度
JIS K 7367−5に準拠し、溶媒としてフェノール(60質量%)と1,1,2,2−テトラクロロエタン(40質量%)の混合溶媒を用い、30℃で測定した。
【0062】
(2)融点
エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220型示差走査型熱量計を用いて求める。窒素雰囲気下、樹脂サンプルを300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷し、粉砕した樹脂サンプル10mgを20℃/分の速度で昇温させ、示差熱分析を行った。ここで、該融解ピーク温度(Tpm)を融点とした。
【0063】
(3)溶融粘度
樹脂サンプルの粘度は、JIS K 7199「プラスチック−キャピラリーレオメータ及びスリットダイレオメータによるプラスチックの流れの特性試験方法」、5.1.3項の方法A(キャピラリーダイ)に準拠して測定した。東洋精機製キャピログラフ1Bにて、φ1mm、L/D=10のキャピラリーダイを用い、270℃に保ったシリンダ内に、乾燥した樹脂サンプルを充填し、約1分間溶融した後、せん断速度608.0sec−1下で溶融粘度を測定した。なお、複数の樹脂を基材ポリマーとして用いる場合、前記基材ポリマーの溶融粘度は、予め複数の樹脂サンプルを十分に混合した後、シリンダに充填し、上記と同様の方法にて溶融粘度を測定した。
【0064】
(4)光線透過率、ヘイズ
JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」ヘーズ(曇価)に準拠して測定した。測定器には、日本電色工業社製NDH−300A型濁度計を用いた。
【0065】
(5)十点平均粗さ(SRz)
フィルムのB層表面を触針式三次元表面粗さ計(株式会社小坂研究所社製、SE−3AK)を用いて、針の半径2μm、荷重30mg、針のスピード0.1mm/秒の条件下で、フィルムの長手方向にカットオフ値0.25mmで、測定長1mmにわたって測定し、2μmピッチで500点に分割し、各点の高さを三次元粗さ解析装置(株式会社小坂研究所社製、TDA−21)に取り込ませた。これと同様の操作をフィルムの幅方向について2μm間隔で連続的に150回、即ちフィルムの幅方向0.3mmにわたって行い、解析装置にデータを取り込ませた。次に、前記解析装置を用いて、十点平均粗さ(SRz)を求めた。SRzの単位はμmである。なお、測定は3回行い、それらの平均値を採用した。
【0066】
(6)加熱収縮率
JIS C 2318−1997 5.3.4(寸法変化)に準拠して測定した。測定すべき方向に対し、フィルムを幅10mm、長さ250mmに切り取り、200mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定する。次いで、フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150±3℃で30分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定する。以下の式より熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(A−B)/A×100
【0067】
(7)分子鎖主軸の配向角(θ)、光学主軸の傾斜角(ξ)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム幅において、端縁を0%とし、他の端縁を100%とする。上記フィルム幅の10%に相当する領域から90%に相当する領域について、幅方向に100mmピッチで連続してn個の100mm四方の正方形のフィルムサンプルを切り出した。該正方形のフィルムサンプルは長手方向、又は幅方向のいずれかの軸を基準に直角に切り出した。各フィルムサンプルについて、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて、フィルム長手方向に対する分子鎖主軸の配向角(θi)、及び下記式によって定義される機械軸方向(長手方向、または幅方向のいずれか)に対する光学主軸の傾斜角(ξi)を測定した。それぞれ長手方向に3箇所サンプリングしその平均値を求めた。なお、nは、フィルム全幅に0.8を乗じ、10mmで除した数値の小数点以下を切り上げた整数である。また、iはサンプル番号を表し、i=1〜nである。
|θ|≦45度のとき ξ=|θ|
|θ|>45度のとき ξ=|90度−|θ||
【0068】
(8)配向角の変化量
上記フィルムサンプルより測定した光学主軸の傾斜角のうち、最大値を光学主軸の最大傾斜角(ξmax)、最小値を最小傾斜角(ξmin)とした。
最大傾斜角を得た測定位置をLmax(mm)、最小傾斜角を得た測定位置をLmin(mm)とした場合に、100mmあたりの配向角の変化量は下記式で表すことができる。
(配向角の変化量)=(ξmax−ξmin)/(Lmax−Lmin)×100
【0069】
(9)MOR値
MOR値の測定は、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて行った。測定するポイントはフィルムの幅方向における中央部のポイント及びその中央部とフィルム両端部と結ぶ端部側の1/5のポイントの合計3ヶ所である。つまりフィルムの幅方向の直線における一方の端部からの10%、50%、90%の距離の3ヶ所のポイントにおいてMOR値が測定され、その平均値を求めた。
【0070】
(10)熱しわ判定
得られたフィルムの片面に下記シリコーン塗布液を加工張力10kg/mを印可した状態でダイコート方式でシリコーンを塗布し、120℃のオーブンで乾燥させた。
(シリコーン塗布液)
硬化性シリコーン(KS847H、信越化学) 100質量部
硬化剤(CAT PL−50T、信越化学) 2質量部
希釈剤 メチルエチルケトン/キシレン/メチルイソブチルケトン 898質量部
得られたシリコ−ン塗布後のサンプルをロ−ルからカットして、平坦なテ−ブルの上に5mの長さを広げて、塗布面に蛍光灯の光を反射させて下記評価方法により熱しわの有無を確認する。
○:熱しわは全く見られず良好。
△:全面に熱しわは見られないが部分的に熱しわがみられる。
×:全面に熱しわが確認できる。
【0071】
(11)反射光での検査性
(10)で得られた離型フィルムを幅方向が偏光フィルムの配向軸と平行となるように、粘着剤を介して離型フィルムを偏光フィルムに密着させ偏光板とした。蛍光灯反射下で偏光板を10人の検査員がそれぞれ目視にて観察し、反射光下での目視検査性を下記基準に従い評価した。
○:全体的に検査可能
△:若干の白ぼけ・映り込みはあるが検査可能
×:部分的に白ほけ・映り込みが生じ、検査できない部分が生じる
【0072】
(12)クロスニコルによる検査性
(10)で得られた離型フィルムを幅方向が偏光フィルムの配向軸と平行となるように、粘着剤を介して離型フィルムを偏光フィルムに密着させ偏光板とした。白色光源とカメラの間に、2枚の偏光板をクロスニコルに配置し、その間に離型フィルムを密着させた偏光板を配置した。検査範囲(12×7cm)についてクロスニコル下で同様に50μm以上の欠点を測定した。得られた結果から以下のようにして検査性を評価した。
○:干渉斑の発生がなく、コントラストが良好
△:若干の干渉斑、もしくは輝点の観察が見られるが検査可能
×:干渉斑の発生
【0073】
実施例1
(1)PET樹脂(M1)の製造
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、テレフタル酸を86.4質量部及びエチレングリコールを64.4質量部からなるスラリーを仕込み、攪拌しながら触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部及びトリエチルアミンを0.16質量部添加した。次いで、加圧昇温を行いゲージ圧3.5kgf/cm、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った。その後、エステル化反応缶内を常圧に戻し、酢酸マグネシウム4水和物0.071質量部、次いでリン酸トリメチル0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部、次いで酢酸ナトリウム0.0036質量部を添加した。15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、減圧下260℃から280℃へ徐々に昇温し、285℃で重縮合反応を行った。
【0074】
重縮合反応終了後、95%カット径が5μmのナスロン製フィルターで濾過処理を行い、ノズルからストランド状に押出し、予め濾過処理(孔径:1μm以下)を行った冷却水を用いて冷却、固化させ、ペレット状にカットした。得られたPET樹脂(M1)は、融点が257℃、固有粘度が0.616dl/g、不活性粒子及び内部析出粒子は実質上含有していなかった。
【0075】
(2)共重合ポリエステル樹脂(M2)の製造
芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸単位100モル%、ジオール成分としてエチレングリコール単位70モル%及びネオペンチルグリコール単位30モル%を構成成分とする、固有粘度が0.59dl/g、溶融粘度が121Pa・s、の共重合ポリエステル樹脂(M2)を(M1)の作製方法に準じて作製した。
【0076】
(3)ポリスチレン(M3)
溶融粘度が147Pa・sのポリスチレン樹脂(PS)を使用した。
【0077】
(4)偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムの製造
支持層(A)の原料として、PET樹脂(M1)100質量部を用い、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機1に供給した。また、最表層(B)層の原料としてPET樹脂(M1)65質量部、共重合ポリエステル樹脂(M2)20質量部と、ポリスチレン(M3)15質量部とを、それぞれ135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、混合し、押出機2に供給した。押出機2、及び押出機1に供給された各原料を、押出機の溶融部、混練り部、ポリマー管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280℃、その後のポリマー管では275℃とし、3層合流ブロックを用いてB/A/Bとなるように積層し、口金よりシート状に溶融押し出した。なお、A層とB層との厚み比率は、B/A/B=8/84/8となるように、各層のギアポンプを用いて制御した。また、前記のフィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm粒子を95%カット)を用いた。また、口金の温度は、押出された樹脂温度が275℃になるように制御した。
【0078】
そして、押し出した樹脂を、表面温度30℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ480μmの未延伸フィルムを作成した。
【0079】
得られた未延伸シートを、78℃に加熱されたロール群でフィルム温度を75℃に昇温した後、赤外線ヒータで105℃に加熱し、周速差のあるロール群で、長手方向に2.8倍に延伸した。
【0080】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、横延伸を行った。TD1の横延伸温度は120℃、横延伸倍率は4.5倍とした。次いで、228℃で15秒間の熱処理を行い、200℃で3%の弛緩処理を行い、偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0081】
本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、反射光・クロスニコルで良好な検査性を備え、高温での熱寸法安定性に優れるのみならず、粗大突起が少ないことから、大画面用途の偏光板製造工程において、高精度の検査に好適に使用し得るフィルムであった。
【0082】
実施例2〜5
最表層(B)の原料を表1に記載の割合に変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0083】
実施例6
縦延伸倍率を2.6倍に変更する以外は実施例4に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは配向角変動に非常に優れるものであった。ヘイズが若干悪化したが、高精度の検査に好適に使用し得るフィルムであった。
【0084】
実施例7、9
熱固定温度、緩和率を表1に記載の条件に変更する以外は実施例4に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは配向角変動に非常に優れるものであった。加熱収縮率が若干悪化したが、高精度の検査に好適に使用し得るフィルムであった。
【0085】
実施例8
層構成をA/Bの2種2層の表1に記載の条件に変更する以外は、実施例4に記載と得られたフィルム物性を表2に示す。高温での熱寸法安定性に優れるのみならず、反射光・クロスニコルで良好な検査性を備え、大画面用途の偏光板製造工程において、高精度の検査に好適に使用し得るフィルムであった。
【0086】
実施例10
延伸条件を表1に記載の比率に変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは反射光・クロスニコルで良好な検査性を備えるものの、加工時に熱シワが発生した。
【0087】
実施例11
(1)PET樹脂(M4)の製造
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製、サイリシア310)を2000ppm含有したポリエチレンテレフタレートをPET(M1)樹脂と同様の製法で作成した。
【0088】
(2)偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムの製造
最表層(B)の原料としてPET樹脂(M1)50質量部、PET樹脂(M2)50質量部を用いる以外は実施例1と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、検査性は良好だが、粗大突起が確認され、突起部分周辺に光学的な歪みが発生することから、偏光板検査工程で輝点となった。
【0089】
実施例12
用いる原料を表1に記載の比率に変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、検査性は良好だが、粗大突起が確認され、突起部分周辺に光学的な歪みが発生することから、偏光板検査工程で輝点となった。
【0090】
比較例1
延伸条件を表1に記載の比率に変更する以外は、実施例4に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは配向角変動が大きく、偏光板製造工程において、用いることができなかった。
【0091】
比較例2
用いる原料を表1に記載の比率に変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例により得られた積層ポリエステルフィルムはヘイズが高く、偏光板検査工程で異物が見難くなり、正確な検査を阻害した。
【0092】
比較例3
用いる原料を表1に記載の比率に変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例ではポリスチレン添加量が多いことから、延伸時に破断し、フィルムを得ることができなかった。
【0093】
比較例4
用いる原料を表1に記載の比率に変更する以外は、実施例1に記載と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。本実施例では表面が平滑で反射光での検査性が不良であった。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルムは、大型液晶表示装置の構成部材である偏光板に貼り付けて使用することができ、反射光下およびクロスニコル下での欠点検査にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共押出法からなる2層以上の積層ポリエステルフィルムであって、下記要件(1)〜(3)を満たす偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルム。
(1)ヘイズが2%以上10%以下
(2)前記積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面の十点平均粗さ(SRz)が0.20μm以上
(3)フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当たり5.0°以下
【請求項2】
前記積層ポリエステルフィルムが支持層(A)と、該支持層の少なくとも片面に積層された最表層(B)からなり、該最表層(B)が融点220〜250℃のポリエステルを75〜99質量部と、該ポリエステルに非相溶な添加剤を1〜25質量部含む、請求項1に記載の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
該支持層(A)は実質的に粒子を含有せず、該ポリエステルに非相溶な添加剤が透明熱可塑性樹脂である、請求項2に記載の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記積層ポリエステルフィルムがさらに下記要件(4)および(5)を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の偏光板離型用マット調積層ポリエステルフィルム。
(4)150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも5.0%以下
(5)150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が1.0%以下
【請求項5】
未延伸フィルムを縦方向および横方向に延伸し、熱固定を行う請求項1〜4のいずれかに記載の偏光板離型用マットポリエステルフィルムの製造方法であって、下記要件(6)および(7)を満たす偏光板離型用マット調ポリエステルフィルムの製造方法。
(6)縦延伸を4.2〜4.8倍、横延伸を4.2〜4.8倍の範囲で行うこと
(7)熱固定を20〜230℃の温度で熱固定を行うこと

【公開番号】特開2011−197225(P2011−197225A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62215(P2010−62215)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】