説明

偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム

【課題】優れた光学軸精度と熱寸法安定性を有する偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを提供する。
【課題解決手段】二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、下記構成要件(1)〜(3)を満たす偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルム。(1)150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも2.0%以下、(2)150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が1.0%以下、(3)フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当り3.0°以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに関するものである。詳しくは、優れた偏光板検査性、加工特性を有する偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の構成部材である偏光板は、その一方の面に粘着層が設けられ、その粘着層の上に、偏光板を保護するための離型フィルムを積層した積層体の状態でロール状態に巻いて運搬或いは保管される。このような偏光板離型用フィルムの基材には、強度機能やコストの観点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが広く用いられている。直鎖状の高分子が配向した構造を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、光学的に複屈折性を示す複屈折体である。よって、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは分子の配向方向に対して平行方向と垂直方向の直行する2本の光学軸を有する。そのため離型フィルムの基材が有する光学軸が偏光板の光学軸に対して傾斜した状態で積層されると、クロスニコル下におかれた際に透過光や干渉色を呈し、欠点検査を阻害する要因となってしまう。従って、偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには、優れた光学軸精度が求められる(特許文献1)。
【0003】
かかる偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、回転速度に差を設けたロール間で長手方向に延伸された後に、テンター内でフィルムの端部を把持された状態で幅方向に延伸され、熱固定されることによって製造される。この場合、ボーイング現象によりフィルム中央部よりも端部の方が光学軸の歪み、すなわち配向主軸の歪みが大きくなるため、中央部の極限られた製品しかこの用途に用いることができなかった。
【0004】
フィルムのボーイングを低減させる方法としては、幅方向延伸後に一旦ポリエステルのガラス転移温度以下に冷却した後熱処理する方法、幅方向延伸後にニップロールを設ける方法、熱処理室を複数のゾーンに分けて段階的に昇温する方法、幅方向に温度分布を設けて熱処理ゾーンに導く方法、幅方向の延伸倍率を大きくする方法などが提案されている。(特許文献2〜5)
【0005】
偏光板検査工程においては、上記のような方法により光学軸の歪みを低減させたフィルムに粘着加工などを施して偏光板離型フィルム、プロテクトフィルムを作製し、これを偏光板に積層し、クロスニコル下において偏光板の品質を目視チェックする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−40249号公報
【特許文献2】特開2008−246685号公報
【特許文献3】特開2008−163263号公報
【特許文献4】特開2005−14545号公報
【特許文献5】特開2004−18588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、上記特許文献に提案のフィルムが偏光板検査に用いられている。ところが、ディスプレイの大画面化は飛躍的に進展しており、37インチ、42インチの大画面ディスプレイが市場に浸透してきている。さらに、高精細化の要求により、従来問題とされなかったレベルの異物、欠点でも確実に認知する必要が生じてきた。このような、大画面ディスプレイの進展と検査精度向上の要求を満足するためには、より長幅にわたって光学軸の歪みを低減することが必要となってきた。
【0008】
さらに、ディスプレイの大型化により処理速度が向上し、加えて生産性の向上の点から、加工速度が飛躍的にアップしている。このため、粘着加工などの後加工における熱処理温度がより高温化している。この傾向は今後もさらに進展することが予測される。これに対応するためには、高温での熱寸法安定性の優れた偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが必要となると考えられた。
【0009】
熱寸法安定性の良いフィルムを得るためには、フィルム製造工程における熱固定処理温度を高くすることが望ましい。しかしながら、熱固定温度を高くすると、ボーイング現象がより顕著になり、光学軸精度の高いフィルムを得ることが困難となる。すなわち、長幅にわたる光学軸精度と高度な熱寸法安定性を両立することは困難であった。
【0010】
本発明の目的は、上記問題点を解消し、優れた光学軸精度と高い熱寸法安定性という二律相反する特性を高度に両立させることにより、優れた偏光板検査性と加工特性を有する偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決することができる、本願における第1の発明は二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、下記構成要件(1)〜(3)を満たす偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
(1)150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも2.0%以下
(2)150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が1.0%以下
(3)フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当り3.0°以下
さらに、本願における第2の発明は、前記二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、さらに下記要件(4)および(5)を満たす前記偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
(4)全光線透過率が85%以上
(5)フィルム表面の3次元中心面平均表面粗さSRaが0.010μm以上、0.350μm以下
さらに、本願における第3の発明は、未延伸フィルムを縦方向に延伸し、次いで横方向に延伸し、熱固定を行う前記偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法であって、下記要件(6)〜(8)を満たす偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法である。
(6)横延伸を120℃〜140℃の範囲で3.5〜4.5倍で行なった後、さらに140℃〜215℃で1.015倍以上の倍率で再延伸すること
(7)横延伸の最高温度と熱固定の最高温度の差が20℃以内であること
(8)熱固定の最高温度が215℃〜230℃であること
【発明の効果】
【0012】
本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、優れた光学軸精度と熱寸法安定性を有する。そのため、高温での後加工処理が可能で、且つ、大画面用途の偏光板の高精度の検査に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂よりなる。ここで、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分として含有する。本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス−(4−カルボキシフェニルエタン)、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサン−1、4−ジカルボン酸等が挙げられる。上記の他のグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA等のエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。この他、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸成分も利用され得る。
【0014】
このようなポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETという)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0015】
また、前記ポリエステルの固有粘度は、0.45から0.70の範囲が好ましい。固有粘度が0.45よりも低いと、フィルムが裂けやすくなり、0.70より大きいと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となる。
【0016】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂には、微粒子を添加してフィルムの作業性(滑り性)を良好なものとすることが好ましい。微粒子としては任意のものが選べるが、たとえシリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、カオリナイト、タルクなど無機粒子やその他の有機粒子が挙げられる。特に透明性の観点から、樹脂成分と屈折率が比較的近い、シリカ粒子、特に不定形シリカが好適である。
【0017】
また、高い透明性を得るためには、フィルムを構成するポリエステルには、実質的に粒子を含有させないことが好ましい。ここで、「粒子を実質的に含有させない」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、特に好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。
【0018】
本発明の好ましい実施態様として、良好な透明性と安定な作業性(特に表面摩擦特性)を得るためには、多層構成を有するフィルムであって表面層にのみ微粒子を含有するポリエステル層を用いることもできる。このような基材フィルムとしては、中心層(B層)の両面に不活性粒子を含有する表面層(A層)が共押出法により積層されてなる多層構成(A/B/A)を有するポリエステルフィルムを用いることが好ましい。表裏の表面層を構成する層は、同種であっても、異種であっても良いが、基材フィルムの平面性を保持する為には、表裏の表面層のポリエステル樹脂は同構成とすることが望ましい。
【0019】
表面層中に含まれる微粒子の平均粒径は1〜10μmが好ましく、より好ましくは1.5〜7μmの範囲であり、更に好ましくは2〜5μmの範囲である。微粒子の平均粒径が1.0μm以上であれば、表面に易滑性付与に好適な凹凸構造を付与することができ好ましい。一方、微粒子の平均粒径が10μm以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。また、表面層中の不活性粒子の含有量は、0.005〜0.1質量%であることが望ましく、好ましくは0.008〜0.07%である。微粒子の含有量が0.005質量%以上であれば、表面層表面に易滑性付与に好適な凹凸構造を付与することができ好ましい。一方、微粒子の含有量が0.1質量%以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。
【0020】
なお、上記の粒子の平均粒径の測定は下記方法により行う。
粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で写真を撮り、最も小さい粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で、300〜500個の粒子の最大径(最も離れた2点間の距離)を測定し、その平均値を平均粒径とする。
【0021】
高精細化に対応して偏光板の検査精度が向上している。異物の検出を向上されるためには、そのため、離型用フィルムとしては透明性が高いことが望ましい。そのため、本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエステルフィルムにおける光線透過率は85%以上が好ましく、87%以上がより好ましく、89%以上が更に好ましい。偏光板検査工程での視認性向上のためには、光線透過率は高ければ高いほど良いが、易滑り性のために粒子を含有したポリエステルフィルムにおいては100%の光線透過率は技術的に達成困難であり、実質的な上限は91%である。
【0022】
また、異物の存在を際わ立たさせ、より検査精度を得るためには、高いコントラストを得ることが望ましい。そのため、本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエステルフィルムにおけるヘイズは5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましい、2%以下であることがよりさらに好ましい。高いコントラストを得るためには、ヘイズは低い方が好ましいが、易滑り性のために粒子を含有したポリエステルフィルムにおいては1%が下限であると思われる。なお、上記ヘイズおよび全光線透過率は、JIS−K7105に準じ、濁度計を使用して、測定することができる。
【0023】
また、本発明のフィルムの厚みは特に制限されるものではなく任意であるが、9〜300μmであることが好ましく、12〜100μmの範囲であることがより好ましく、14〜50μmがよりさらに好ましい。厚さが300μmをこえるとコスト面で問題があり、またリターデーションが大きくなり、クロスニコル化での視認性が低下しやすくなる。また、厚さが9μmに満たない場合は、機械的特性が低下し、保護フィルムとしての機能が果たせない。
【0024】
また、表面層に粒子を含有する(A/B/A)の2種3層構成の場合は、片面における表面層の厚さは、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。表面層の厚みが上記範囲を超える場合は、フィルムのヘイズが低下する場合がある。
【0025】
本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエステルフィルムにおける3次元中心面平均表面粗さ(SRa)は0.010μm以上、0.035μm以下であることが好ましい。前記SRaの下限は0.015μm以上であることがより好ましく、0.018μm以上であることがさらに好ましい。上記SRaが下限未満であると、フィルムの表面凹凸が低いことにより、滑り性が悪く、製膜工程中および加工工程中で、フィルムハンドリング時に微小キズが発生し、偏光板離型用途として使用すると検査性が低下する場合がある。また、上記SRaの上限は0.030μmであることがより好ましく、0.028μmであることがさらに好ましい。上記SRaが上限を超えると、滑り性は良好であるが、表面凹凸によりフィルム表面で光が拡散し、偏光板検査工程において、十分なコントラストが得られない。
【0026】
本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当り3.0°以下であり、好ましくは2.7°以下であり、より好ましくは2.5°以下であり、さらに好ましくは2.0°以下である。前述のようにフィルムは製膜加工でのボーイング現象により、中央部から端にかけて配向に歪みが生じる。そのため、フィルム幅方向にそって光学軸の傾きが生じている。しかしながら、本願発明のフィルムは、幅方向にそって500mm当りの配向角が3°以下であるため、幅広で光学精度の高い。そのため、34インチ以上の大画面用液晶板であっても、一面に一様な光学軸精度が得られるため、クロスニコル下での欠点検査に非常に優れている。
【0027】
なお、上記一連の配向角の変化量の下限は、特に限定しないが、低い方が好ましく、設計上、0度以上が好ましい。
【0028】
本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエステルフィルムは、高温での後加工においても高い熱寸法安定性を有する。本発明のフィルムにおける150℃で30分間加熱したときの熱収縮率は長手方向および幅方向とも2.0%以下であり、より好ましくは、1.8%以下である。前記熱収縮率が2.0%以下であると、150℃以上の高温熱処理加工であっても高い寸法安定性が得られるので、生産性の向上に著しく寄与しえる。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.5%程度が下限と考える。
【0029】
また、本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエステルフィルムは150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が1.0%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。本発明のフィルムは上記のように熱寸法安定性に優れる上、長手方向および幅方向でほぼ同等でバランスのとれた熱収縮率を有するため、加熱処理によってもシワや厚み斑が生じにくく、大画面の偏光板での欠点検査に極めて適している。
【0030】
本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエステルフィルムにおける製造方法について説明する。ポリエチレンテレフタレートのペレットを用いた代表例について詳しく説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0031】
まず、フィルム原料乾燥あるいは熱風乾燥によって、水分率が100ppm未満となるように乾燥する。次いで、各原料を計量、混合して押し出し機に供給し、シート状に溶融押出を行う。さらに、溶融状態のシートを、静電印加法を用いて回転金属ロール(キャスティングロール)に密着させて冷却固化し、未延伸PETシートを得る。
【0032】
また、溶融樹脂が280℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0033】
表面層(A層)と中間層(B層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いても良い。
【0034】
次に、前記の方法で得られた未延伸フィルムを逐次二軸延伸し、次いで熱処理を行う
【0035】
特許文献2〜5に開示されているように、これまで光学的な軸精度を高める方法が提案されている。しかしながら、前述のように上記開示の方法では、光学的な軸精度と熱寸法安定性とを高度の両立させることは困難であった。そこで、本願発明者は鋭意検討を行なった結果、以下のような延伸方法を行なうことにより、二律背反する特性を高度に両立させるに至った。
【0036】
(1)熱固定温度の制御
これまで、光学的な軸精度を保持するために、比較的低温での熱固定処理が推奨されている。しかしながら、本願発明では熱固定処理工程の温度は215℃以上230℃以下が好ましい。熱固定処理の温度が215℃以上では、熱収縮率の絶対値が小さくなり好ましい。また、熱固定処理の温度が230℃以下であると、フィルムが不透明になり難く、また破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0037】
熱固定処理で把持具のガイドレールを先狭めにして、弛緩処理することは熱収縮率、特に幅方向の熱収縮率の制御に有効である。弛緩処理する温度は熱固定処理温度からポリエチレンテレフタレートフィルムのガラス移転温度Tgまでの範囲で選べるが、好ましくは(熱固定処理温度)−10℃〜Tg+10℃である。この幅弛緩率は1〜6%が好ましい。1%未満では効果が少なく、6%以下であるとフィルムの平面性の点で好ましい。
【0038】
(2)多段での横延伸
本発明における偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得るためには少なくとも2段階に分けて幅方向延伸を行うことが望ましい。特に延伸温度の異なる2つ以上の区分に分けて幅方向の延伸を行なうことが好ましい。具体的には、横延伸を120℃〜140℃の範囲で3.5〜4.5倍で行なった後、さらに140℃〜215℃で1.015倍以上の倍率で再延伸することが好ましい。以下、120℃〜140℃の範囲で2段の延伸(幅方向1段階目延伸をTD1、2段階目をTD2)を行い、140℃〜215℃の範囲で1段以上の延伸(n段階延伸をTDn)を行なう場合を一例にして説明する。
【0039】
120℃〜140℃の範囲で2段の延伸を行う場合、TD1の延伸温度は90〜120℃であることが望ましく、好ましくは100から110℃である。90℃以下であるとフィルムが破断し、120℃以上であるとフィルムの配向角の歪みが大きくなる。延伸倍率は2.0〜3.0倍が好ましい。さらに、TD2の延伸温度は110〜140℃であることが必要であり、好ましくは120〜130℃である。延伸倍率は1.3〜1.9倍が好ましく、1.5〜1.7倍がより好ましい。このように、120℃〜140℃の範囲で3.5〜4.5倍の延伸を行うことで、全体として配向角の歪みの低減が図られる。
【0040】
(3)高温での再延伸
140℃〜215℃の範囲の延伸を3段目の延伸として行う場合、延伸倍率は1.015以上の倍率で行うことが望ましく、さらには0.02〜0.10倍が好ましく、0.04〜0.08倍がより好ましい。延伸を行う場合は、上記範囲内で温度および延伸倍率を制御することが望ましい。上記の120℃〜140℃の範囲で3.5〜4.5倍の延伸により配向の歪みの低減が図られるが、幅方向の端部側では未だ歪みの改善が十分でない。そこで、1.015倍以上の再延伸を施すことで、フィルム幅方向の端部側についても配向の歪みの改善が果たされる。しかしながら、延伸倍率を上げることは、フィルムに力学的な歪みを蓄積させる結果となり、熱寸法安定性の点では好ましくない。そこで、係る再延伸を、140℃〜215℃の範囲でかつ、横延伸の最高温度と熱固定の最高温度の差が20℃以内で行なうことで、熱寸法安定性に影響を与える歪みを極限まで低減させるのである。なお、再延伸での延伸倍率が大きくなると、力学的な歪みが生じ、熱寸法安定性が低下する場合があるので、ここでの延伸倍率は0.10倍以下であることが好ましい
【0041】
延伸温度(TTD)と熱固定開始温度(TTS)の差は20℃以内であることが必要であり、10℃以内であることはより好ましい。延伸温度(TTD)と熱固定開始温度(TTS)のは小さければ小さいほど、配向角、加熱収縮率には良い影響を与えるため好ましい。
【0042】
本発明のフィルムは上記方法を適宜選択もしくは組み合わせることにより製造しうるものであるが、上記技術思想の範囲であれば、上記具体的に開示された方法に限定されるものはない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、熱固定、横延伸、縦延伸を極めて狭い範囲で高精度の制御をすることである。
【0043】
さらに他の製造方法について述べる。フィルムを二軸方向に延伸する方法としては、得られた未延伸シートを、ロールあるいは、テンター方式の延伸機により長手方向に延伸した後に、一段目の延伸方向と直交する幅方向に延伸を行う方法を挙げることができる。長手方向の延伸温度は、75〜110℃である必要がある。長手方向の延伸温度が75℃以下では、フィルムが破断し、安定して生産が行えない。また、110℃以上では、得られたフィルムに厚み斑が生じ、偏光板離型用途として利用することができない。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
【0045】
[評価方法]
(1)3次元中心面平均表面粗さ(SRa)
フィルムの表面を触針式三次元表面粗さ計(株式会社小坂研究所社製、SE−3AK)を用いて、針の半径2μm、荷重30mg、針のスピード0.1mm/秒の条件下で、フィルムの長手方向にカットオフ値0.25mmで、測定長1mmにわたって測定し、2μmピッチで500点に分割し、各点の高さを三次元粗さ解析装置(株式会社小坂研究所社製、TDA−21)に取り込ませた。これと同様の操作をフィルムの幅方向について2μm間隔で連続的に150回、即ちフィルムの幅方向0.3mmにわたって行い、解析装置にデータを取り込ませた。次に、前記解析装置を用いて、三次元平均表面粗さSRaを求めた。SRaの単位はμmである。なお、測定は3回行い、それらの平均値を採用した。
【0046】
(2)光線透過率、ヘイズ
JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」ヘイズ(曇価)に準拠して測定した。測定器には、日本電色工業社製NDH−300A型濁度計を用いた。
【0047】
(3)熱収縮率
JIS C 2318−1997 5.3.4(寸法変化)に準拠して測定した。測定すべき方向に対し、フィルムを幅10mm、長さ250mmに切り取り、200mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定する。次いで、フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150±3℃で30分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定する。以下の式より熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(A−B)/A×100
【0048】
(4)分子鎖主軸の配向角(θ)、光学主軸の傾斜角(ξ)
フィルム幅において、端縁を0%とし、他の端縁を100%とする。該フィルム幅の10%に相当する領域から90%に相当する領域について、幅方向に100mmピッチで連続してn個の100mm四方の正方形のフィルムサンプルを切り出した。該正方形のフィルムサンプルは長手方向、又は幅方向のいずれかの軸を基準に直角に切り出した。各フィルムサンプルについて、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて、フィルム長手方向に対する分子鎖主軸の配向角(θi)、及び下記式によって定義される機械軸方向(長手方向、または幅方向のいずれか)に対する光学主軸の傾斜角(ξi)を測定した。なお、nは、フィルム全幅に0.8を乗じ、10mmで除した数値の小数点以下を切り上げた整数である。また、iはサンプル番号を表し、i=1〜nである。
|θ|≦45度のとき ξ=|θ|
|θ|>45度のとき ξ=|90度−|θ||
【0049】
(5)配向角の変化量
上記フィルムサンプルより測定した光学主軸の傾斜角のうち、最大値を光学主軸の最大傾斜角(ξmax)、最小値を最小傾斜角(ξmin)とした。
最大傾斜角を得た測定位置(フィルム幅方向に対して一方の端部を0とする。次も同じ)をLmax(mm)、最小傾斜角を得た測定位置をLmin(mm)とした場合に、500mmあたりの配向角の変化量は下記式で表すことができる。
(配向角の変化量)=(ξmax−ξmin)/(Lmax−Lmin)×1500
【0050】
(6)熱しわ判定法
得られたフィルムの片面に下記シリコーン塗布液を加工張力10kg/mを印可した状態でダイコート方式でシリコーンを塗布し、120℃のオーブンで乾燥させた。
(シリコーン塗布液)
硬化性シリコーン(KS847H、信越化学) 100質量部
硬化剤(CAT PL−50T、信越化学) 2質量部
希釈剤 メチルエチルケトン/キシレン/メチルイソブチルケトン 898質量部
得られたシリコ−ン塗布後のサンプルをロ−ルからカットして、平坦なテ−ブルの上に5mの長さを広げて、塗布面に蛍光灯の光を反射させて下記評価方法により熱しわの有無を確認する。
○:熱しわは全く見られず良好。
△:全面に熱しわは見られないが部分的に熱しわがみられる。
×:全面に熱しわが確認できる。
【0051】
(7)検査性
(6)で得られた離型フィルムについて、フィルム幅において、端縁を0%とし、他の端縁を100%とする。該フィルム幅の10%に相当する領域を端部として離型フィルムサンプルを採取した。採取した離型フィルムサンプルを幅方向が偏光フィルムの配向軸と平行となるように、粘着剤を介して離型フィルムを37インチサイズの偏光フィルム(820×461mm)に密着させ偏光板とした。白色光源とカメラの間に、2枚の偏光板をクロスニコルに配置し、その間に離型フィルムを密着させた偏光板を配置した。5人の検査員により下記目視判定により検査性を評価した。
○:干渉斑がなく、検査性が良好
△:干渉斑が少し生じるが、検査が可能
×:干渉斑が発生し、検査性が不良
【0052】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート樹脂(A)(PET樹脂(A))として、不活性粒子を含有していない、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。また、PET樹脂(B)として、平均粒径2.3μmの不定形塊状シリカ粒子を2000ppm含有した、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた。
【0053】
表面層(A)の原料として、PET樹脂(A)50質量部と、PET樹脂(B)50質量部とをペレット混合し、135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機1に供給した。また、中間層(B)層の原料としてPET樹脂(A)を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2に供給した。押出機2、及び押出機1に供給された各原料を、押出機の溶融部、混練り部、ポリマー管、ギアポンプ、フィルターまでの樹脂温度は280℃、その後のポリマー管では275℃とし、3層合流ブロックを用いてA/B/Aとなるように積層し、口金よりシート状に溶融押し出した。なお、A層とB層との厚み比率は、A/B/A=8/84/8となるように、各層のギアポンプを用いて制御した。また、前記のフィルターには、いずれもステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度:10μm粒子を95%カット)を用いた。また、口金の温度は、押出された樹脂温度が275℃になるように制御した。
【0054】
そして、押し出した樹脂を、表面温度30℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ480μmの未延伸フィルムを作成した。
【0055】
得られた未延伸シートを、78℃に加熱されたロール群でフィルム温度を75℃に昇温した後、赤外線ヒータで105℃に加熱し、周速差のあるロール群で、長手方向に2.8倍に延伸した。
【0056】
次いで、得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、横延伸を行った。TD1の横延伸温度は105℃、横延伸倍率は2.7倍とし、TD2の横延伸温度は125℃、横延伸倍率は1.6倍とし、TD3の横延伸温度は170℃、横延伸倍率は1.015倍とし、TD4の横延伸温度は215℃、横延伸倍率は1.015倍とした。次いで、225℃で15秒間の熱処理を行い、200℃で3%の弛緩処理を行い、偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0057】
実施例2〜6、比較例1〜8について、表1に記載の条件変更以外は、実施例1と同様の方法にて作成した。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の偏光板離型用二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、大型液晶表示装置の構成部材である偏光板に貼り付けて使用することができ、クロスニコル下での欠点検査にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、下記構成要件(1)〜(3)を満たす偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルム。
(1)150℃、30分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも2.0%以下
(2)150℃、30分間加熱したときの長手方向の熱収縮率と幅方向の熱収縮率の差が1.0%以下
(3)フィルム幅方向における配向角の変化量が500mm当り3.0°以下
【請求項2】
前記二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、さらに下記要件(4)および(5)を満たす請求項1に記載の偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルム。
(4)全光線透過率が85%以上
(5)フィルム表面の3次元中心面平均表面粗さSRaが0.020μm以上、0.350μm以下
【請求項3】
未延伸フィルムを縦方向に延伸し、次いで横方向に延伸し、熱固定を行う請求項1または2に記載の偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法であって、下記要件(6)〜(8)を満たす偏光板離型用ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造方法。
(6)横延伸を120℃〜140℃の範囲で3.5〜4.5倍で行なった後、さらに140℃〜215℃で1.015倍以上の倍率で再延伸すること
(7)横延伸の最高温度と熱固定の最高温度の差が20℃以内であること
(8)熱固定の最高温度が215℃〜230℃であること

【公開番号】特開2011−73266(P2011−73266A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226777(P2009−226777)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】