説明

偏光眼鏡

【課題】レンズの形状によらず、クロストークの発生を軽減可能な新規な偏光眼鏡の提供。
【解決手段】屈折率異方性を有する化合物を含む組成物からなる位相差層(12L、12R)を少なくとも有することを特徴とする偏光眼鏡である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率異方性の化合物を利用した位相差層を有する、偏光眼鏡に関する。更に詳細には、屈折率異方性の化合物を含有する組成物からなる位相差層を有する、いわゆる3D用偏光眼鏡であって、左右の眼に異なる画像を認識させ、画像を立体視させるのに有用な偏光眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円偏光を利用した立体視表示方式に用いられる3D用偏光眼鏡を構成する1/4波長板として、ポリカーボネートやシクロオレフィンポリマー等の延伸フィルムが一般的に利用されている。
ところで、円偏光板は、従来、半透過型液晶表示装置の構成部材等、種々の用途に利用されている。円偏光板に利用される1/4波長板についても、上記延伸フィルムのみならず、例えば、棒状液晶、ディスコティック液晶の配向を利用した1/4波長板も種々提案されている(特許文献1〜6)。しかし、3D用偏光眼鏡への利用については、開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−309904号公報
【特許文献2】特開2002−48917号公報
【特許文献3】特開2001−091741号公報
【特許文献4】特開2001−021720号公報
【特許文献5】特開2000−284126号公報
【特許文献6】特開2000−284120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1/4波長板等、ある程度の位相差のある延伸フィルムを、視力矯正用のレンズ等の曲面に貼合すると、貼合の際に軸ズレが生じてしまい、クロストークが発生する原因になっている。また、貼合の際に、中央部よりも端部に外力がかかるため、端部に変色ムラが生じることがあり、改善が望まれていた。
本発明は、屈折率異方性を有する化合物を利用した位相差層を有する、薄型化及び軽量化が可能な、新規な偏光眼鏡を提供することを課題とする。
また、本発明は、レンズの形状によらず(例えば、視力矯正用の曲率のあるレンズを備えていても)、クロストークの発生を軽減可能な、新規な偏光眼鏡を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]屈折率異方性を有する化合物を含む組成物を、配向状態に固定して形成された位相差層を少なくとも有する、右眼用及び左眼用それぞれの鑑賞用部材を有することを特徴とする偏光眼鏡。
[2] 前記位相差層が、前記組成物を、塗布手段、吹き付け手段及び滴下手段のいずれかの手段により、適用してなることを特徴とする[1]の偏光眼鏡。
[3] 前記屈折率異方性を有する化合物が、液晶性化合物であることを特徴とする[1]又は[2]の偏光眼鏡。
[4] 前記屈折率異方性を有する化合物が、ディスコティック液晶性化合物及び/又は棒状液晶性化合物であって、前記位相差層が、垂直配向状態に固定されたディスコティック液晶性化合物を含有する、及び/又は水平配向状態に固定された棒状液晶性化合物を含有することを特徴とする[3]の偏光眼鏡。
[5] 前記位相差層を支持する透明基板を有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの偏光眼鏡。
[6] 前記位相差層が、配向処理を施された表面上に形成されていることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの偏光眼鏡。
[7] 前記位相差層が、1/4波長板であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの偏光眼鏡。
[8] 直線偏光膜をさらに備え、該直線偏光膜の吸収軸と前記位相差層の面内遅相軸とが互いに45°で交差していることを特徴とする[7]の偏光眼鏡。
[9] 動画立体画像の立体視用であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれかの偏光眼鏡。
[10] 静止画立体画像の立体視用であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかの偏光眼鏡。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、屈折率異方性を有する化合物を利用した位相差層を有する、薄型化及び軽量化が可能な、新規な偏光眼鏡を提供することができる。
また、本発明によれば、レンズの形状によらず(例えば、視力矯正用の曲率のあるレンズを備えていても)、クロストークの発生を軽減可能な、新規な偏光眼鏡を提供することができる。本発明の偏光眼鏡を用いることにより、クロストークのない、ムラのない静止画又は動画の立体画像を観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の偏光眼鏡の一例の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書では、「クロストーク」及び「ゴースト像」とは、左右画像の分離が不完全である場合に、二重像として認識されること、及び目的画像以外の像として認識されることをいう。
【0009】
本発明の偏光眼鏡は、屈折率異方性を有する化合物を含む組成物を、配向状態に固定して形成された位相差層を少なくとも有する、右眼用及び左眼用それぞれの鑑賞用部材を有することを特徴とする。該位相差層の一例は、液晶性化合物を含有する組成物の配向状態を固定した位相差層である。前記位相差層は、延伸フィルムと比較して、より薄い膜厚で、所望の光学特性を達成できるので、軽量化・薄型化に有利である。1/4波長板等のある程度位相差のある延伸フィルムをレンズ等の曲面に貼合すると、軸ズレが生じ易く、また貼合の際に延伸フィルムに作用する外力が不均一であるために、しわやムラが発生する場合がある。これらのことが、従来、クロストークの発生、及び画像の不鮮明化の要因となっていた。本発明では、前記位相差層を、塗布等の手段により形成可能であるので、曲面のあるレンズ上にも、均一な光学特性の位相差層を容易に形成できる。その結果、本発明の偏光眼鏡を用いると、クロストーク及びゴースト像が軽減された、全視野にわたって鮮明な立体画像(静止及び動画立体画像を含む)を観察することができる。
【0010】
本発明の偏光眼鏡の一例の分解斜視図を図1に示す。
図1に示す偏光眼鏡は、左眼用及び右眼用のフレーム20の部分にそれぞれ、透明基板10L及び10R、その表面に、偏光子12L及び12R、さらにその上に、位相差層16L及び16Rを有する、左眼用及び右眼用の観賞用部材をそれぞれ有する。位相差層16L及び16Rは、それぞれ液晶性化合物等の屈折率異方性を有する化合物を含有する組成物から形成された層である。一例では、前記組成物の配向状態を固定した層であり、その配向状態に応じて、面内遅相軸18L及び18Rが決定される。偏光子12L及び12Rの吸収軸14L及び14Rは、位相差層16L及び16Rの面内遅相軸18L及び18Rとそれぞれ±45°で交差していて、それぞれに入射する光は、いずれか一方が右円偏光に、他方が左円偏光に変換される。この偏光眼鏡を介して、左眼用及び右眼用の円偏光画像からなる立体視用画像を観察すると、左眼には、左眼用の円偏光画像のみが入射し、右眼には、反対向きの右眼用の円偏光画像のみが入射し、立体画像として認識できる。
【0011】
基板10L及び10Rの形状及び材質については特に制限はない。視力矯正用の曲面を有するガラス又はプラスチックレンズであってもよいし、ガラス板又はプラスチックフィルムであってもよい。
【0012】
また、本発明の偏光眼鏡は図1の構成に限定されるものではない。例えば、位相差層と、偏光子との間に、位相差層を支持するポリマーフィルム、及び/又は位相差層の形成に利用される配向膜が配置されていてもよい。さらに、防汚層、ハードコート層に例示される保護層等の機能層を有していてもよい。
また、立体画像表示装置と同期して駆動される液晶シャッターが配置されている、アクティブ方式の偏光眼鏡であってもよい。
【0013】
本発明の偏光眼鏡は、偏光を利用したいかなる立体表示方式に対しても適用可能であり、静止画立体画像及び動画立体画像のいずれを観察するために用いられるものであってもよい。具体的には、パッシブ・ステレオ方式による動画立体画像の立体視、アクティブ・ステレオ方式による動画立体画像の立体視、時間分割偏光方式による動画立体画像の立体視、静止立体画像の立体視等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0014】
以下、本発明の偏光眼鏡の作製に利用可能な材料等について説明する。
(1)位相差層
本発明の偏光眼鏡は、少なくとも1種の屈折率異方性を有する化合物を含有する組成物からなる位相差層を有する。本発明に係わる位相差層は、前記組成物を、本発明に係わる光吸収異方性膜は、前記液晶性組成物を、塗布手段、吹き付け手段及び滴下手段のいずれかの適用手段により、基板又は基板上の配向膜表面に適用し、所望の配向状態とし、その配向状態に固定した膜であるのが好ましい。前記位相差層の厚みは、0.1〜10μmであるのが好ましく、0.5〜5μmであるのがより好ましい。
【0015】
(1)−1 位相差層の材料
本発明に利用する屈折率を有する化合物は、有機化合物であることが好ましい。本発明に利用する屈折率異方性を有する化合物は、例えば、配向状態で硬化された位相差層として、高い屈折率異方性を達成し得る化合物から選択されるのが好ましい。また、塗布液として調製し、塗布等の手段で形成する態様では、有機溶媒等の溶剤への溶解性が高い化合物を用いるのが好ましい。さらに、膜としての堅牢性が高い、及び安価に入手(合成)可能である等の種々の観点から選択される。また、本発明では、屈折率異方性を有する化合物の1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
本発明に利用可能な屈折率異方性を有する化合物は、液晶性化合物であるのが好ましい。より具体的には、サーモトロピック棒状液晶、サーモトロピックディスコティック液晶、及びリオトロピック液晶が挙げられる。
本発明に使用可能なサーモトロピック棒状液晶の例には、特開2004−309904号公報、特開2002−48917号公報、特開平6−242317号公報、及び特開平4−57017号公報に記載の棒状液晶性化合物が含まれる。
また、本発明に使用可能なサーモトロピックディスコティック液晶の例には、特開2001−091741号公報、特開2001−021720号公報、特開2000−284126号公報、及び特開2000−284120号公報に記載の液晶性化合物が含まれる。
【0017】
また、本発明に利用可能なリオトロピック液晶の例には、特開2007−316592号公報、特開2008−249996号公報、特開2008−257080号公報及び特開2008−262156号公報に記載の液晶性化合物が含まれる。
【0018】
本発明では、屈折率異方性を有する化合物として、サーモトロピック液晶性化合物を用いることが好ましい。サーモトロピック液晶の中でも、サーモトロピックディスコティック液晶化合物を用いるのが好ましい。本発明では、屈折率異方性を有する化合物としては、サーモトロピックディスコティック液晶、リオトロピック液晶、及びサーモトロピック棒状液晶の順に好ましい。
【0019】
また、前記組成物は、その配向状態を固定可能なように、硬化性であるのが好ましい。硬化性とするためには、光架橋性又は熱架橋性の成分を含有しているのが好ましい。液晶性化合物等の屈折率を有する化合物が、光架橋型又は熱架橋型の反応性基を有する化合物であってもよいし、当該化合物とは別に、光架橋型又は熱架橋型の反応性基を有する化合物を添加してもよい。前記反応性基の例には、α位に二重結合を有する1〜12のアルケニルカルボニルオキシ基、α位に二重結合を有する1〜12のアルケニルオキシ基、炭素原子数2〜12のエポキシ基、炭素原子数2〜12のアジリジン基、イソシアナート基、チオイソシアナート基、エチニル基、およびホルミル基が含まれる。好ましくは、α位に二重結合を有する炭素原子数1〜9のアルケニルカルボニルオキシ基、α位に二重結合を有する1〜6のアルケニルオキシ基、及び炭素原子数2〜4のエポキシ基であり、より好ましくは、アクリロイル基、ビニルオキシ基、及びエチレンエポキシ基である。
【0020】
液晶性化合物を含有する液晶性組成物の態様では、当該組成物の塗布液を配向処理された、例えば、配向膜表面に適用すると、液晶性化合物は配向膜との界面では配向膜のチルト角で配向し、空気との界面では空気界面のチルト角で配向する。用いる液晶性化合物の種類に応じて、好ましい配向状態を決定することができる。ディスコティック液晶を利用する態様では、その円盤面を、層面に対して、垂直にして配向させるのが好ましい。垂直配向状態は、垂直配向膜の利用及び/又は垂直配向剤の添加により達成することができる。また、棒状液晶を利用する態様では、その分子長軸を層面に対して平行にして配向させるのが好ましい。水平配向状態では、好ましい配向膜側のチルト角は0°〜10°、さらに好ましくは0°〜5°、特に好ましいのは0°〜2°、最も好ましくは0°〜1°である。また、好ましい空気界面側のチルト角は0°〜10°、さらに好ましくは0〜5°、特に好ましいのは0〜2°である。また、一般的に、空気界面側の液晶のチルト角は、所望により添加される他の化合物(例えば、特開2005−99248号公報、特開2005−134884号公報、特開2006−126768号公報、特開2006−267183号公報記載の水平配向化剤など)を選択することにより調整することができる。
【0021】
前記組成物は、上記屈折率異方性を有する化合物以外に、1種以上の添加剤を含有していてもよい。前記組成物は、ラジカル重合性基を有する非液晶性の多官能モノマー、重合開始剤、風ムラ防止剤、ハジキ防止剤、糖類、防黴、抗菌及び殺菌の少なくともいずれかの機能を有する薬剤等を含有していてもよい。
【0022】
(1)−2 位相差層の形成方法
前記位相差層は、前記組成物を、塗布手段、吹き付け手段及び滴下手段のいずれかの適用手段により形成された膜であるのが好ましい。これらの手段を利用して膜を形成する態様では、前記組成物を液状組成物として調製するのが好ましい。液状組成物の調製に利用可能な有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0023】
塗布手段としては、一般的な塗布方法が利用でき、スピンコーティング法、バーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等を利用することができる。また、吹き付け手段の一例としては、印刷法、及びインクジェット法を利用することができる。滴下手段の一例としては、スプレー法を利用することができる。また、可能であれば、溶媒を利用しない、蒸着法を利用してもよい。
【0024】
次に、前記組成物を配向させる。前記組成物の配向は、前記組成物中の溶媒を蒸発させることによって達成される場合がある。前記組成物の塗膜に、マイクロ波を含む電磁波、熱エネルギー、風を含む大気の移動、蒸気圧の制御等を適用して、所望の配向状態を達成してもよい。
なお、配向は、前記組成物を、基板等の表面に適用させる工程において同時に達成されていてもよい。
【0025】
所望の配向状態となった組成物を固定する。固定化は、前記組成物から溶媒を蒸発させ、その後、冷却することで達成できる場合がある。また、固定化を確実とするために、組成物中の重合反応性成分、架橋反応性成分等の硬化反応を進行させることで、実施してもよい。硬化反応は、溶媒の蒸発等と同時に進行させてもよい。
【0026】
(2)基板
本発明の偏光眼鏡を構成する基板は、透明基板である。前記基板は、フレームにそのまま組み込まれるレンズそのものであってもよい。また、視力矯正用の曲面を有するレンズであってもよい。基板の材料は、光学性能透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れるポリマーが好ましい。例えば、セルロースエステル(例、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)、ポリオレフィン(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリスルホンが含まれる。製造工程において光学特性を検査する目的には、透明支持体は透明で低複屈折の材料が好ましく、低複屈折性の観点からはセルロースエステル及びノルボルネン系が好ましい。市販のノルボルネン系ポリマーとしては、アートン(JSR(株)製)、ゼオネックス、ゼオノア(以上、日本ゼオン(株)製)などを用いることができる。また安価なポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート等も好ましく用いられる。
上記基板材料には、種々の添加剤(例えば、光学的異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、微粒子、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、剥離剤、光学特性調整剤など)を加えることができる。
【0027】
前記基板は、配向処理面を有しているのが好ましい。基板の表面に直接配向処理を施してもよいし、基板表面に配向膜を形成し、該配向膜の表面に配向処理を施してもよい。配向処理面を形成する手段としては、例えば、シランカップリング剤による垂直配向処理手段、ラビングする配向処理手段、偏光UV照射による光配向処理手段、スパッタリングによる配向処理手段、剪断力による流動配向処理手段、及び無機物の斜め蒸着による配向処理手段等、液晶の配向に利用可能な配向処理手段をいずれも使用することができる。2以上を組み合わせてもよい。中でも、前記基板の表面に垂直配向膜を形成し、垂直配向膜の表面に、前記位相差層を形成するのが好ましい。垂直配向膜の表面をラビング処理して配向処理してもよい。
【0028】
配向処理の方向によって、位相差層の面内遅相軸の方向が決定される場合がある。例えば、ラビング処理では、ラビング方向に平行又は直交した面内遅相軸を有する位相差層を形成することができる。
【0029】
なお、基板は、可視光に対して透明である。具体的には、「透明」とは、可視光に対する透過率が85%以上であることを意味する。基板の可視光に対する透過率はより好ましくは90%以上であり、特に好ましくは92%以上である。
【0030】
(3)偏光子
本発明の偏光眼鏡の一態様は、左眼用及び右眼用に互いに異なる回転方向の円偏光フィルタを具備する態様である。円偏光フィルタは、一般的に、偏光子と1/4波長板を組み合わせることで構成される。即ち、本態様では、前記位相差層を1/4波長板として形成し、偏光子と積層して利用する。具体的には、偏光眼鏡の内側(眼側)に偏光子、及び外側(画像側)に1/4波長板(位相差層)を配置し、1/4波長板の面内遅相軸と直線偏光子の吸収軸とのなす角度を45°で貼合することで得られる。
【0031】
本態様では、左眼用及び右眼用に、互いに逆回転の円偏光板フィルタを配置する。即ち、一方に右円偏光フィルタ、他方に左円偏光フィルタを配置する。右円偏光フィルタ及び左円偏光フィルタのいずれを左眼用または右眼用として配置するかについては、観察する立体画像が、左眼用及び右眼用としてそれぞれ、右円偏光画像及び左円偏光画像のいずれを表示するかによって決定される。
【0032】
本態様に利用する偏光子については、特に限定されない。例えば、吸収を利用した偏光子の例としては、ヨウ素又は二色性色素が浸透したポリビニルアルコール(PVA)等のフィルムを一軸延伸した直線偏光膜が挙げられる。また、二色性色素を含む液晶組成物を塗布等により配向処理面に適用し形成された色素塗布型偏光膜等が挙げられる。また、反射、散乱を利用した偏光子としては、グリッド偏光子等が挙げられる。
【0033】
(4)他の機能層
本発明の偏光眼鏡は更に他の位相差層を有していてもよい。例えば、広帯域化を図る目的で、1/2波長板を構成要素として有していてもよい。他の位相差層を組み合わせる場合、それぞれの光学層の光学軸はその目的に合致すべく最適な角度に設定することができる。
また、本発明の偏光眼鏡は、前記位相差層を支持するポリマーフィルムを有していてもよい。当該ポリマーフィルムは、光学的に等方性であるのが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0035】
1.実施例1:偏光眼鏡0の作製
曲面偏光ガラスであるKodak PolarMax 6150(偏光度99%)上に、クラレ社製ポリビニルアルコール「PVA103」の4%水溶液を、12番バーで塗布を行い、80℃で5分間乾燥させた。塗布膜表面を吸収軸から左45°の角度をもってラビング処理して、垂直配向膜LA0を形成した。同様の操作で、塗布膜表面を吸収軸から右45°の角度をもってラビング処理して、垂直配向膜LB0を形成した。
【0036】
[パターン化された光学異方性層の作製]
下記の光学異方性層用組成物を調製後、孔径0.2μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、光学異方性層用塗布液とした。
【0037】
<光学異方性層用塗布液組成>
ディスコティック液晶E−1 100質量部
配向膜界面配向剤(II−1) 1.0質量部
空気界面配向剤(P−1) 0.4質量部
光重合開始剤 3.0質量部
(イルガキュア907、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)
増感剤(カヤキュア−DETX、日本化薬(株)製) 1.0質量部
メチルエチルケトン 300質量部
【0038】
【化1】

【0039】
垂直配向膜LA0及びLB0のそれぞれのラビング処理面上に、上記の組成の塗布液をスピンコート塗布し、膜面温度80℃で1分間乾燥して液晶相状態とし均一配向させた後、室温まで冷却した。次に、空気下にて20mW/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて紫外線を5秒間照射して、その配向状態を固定化した。このようにして屈折率異方性膜LA01及びLB01をそれぞれ形成した。
【0040】
屈折率異方性膜LA01及びLB01をそれぞれ一部切除し、光学等方性のガラス基板上に移設した。ファイバ型分光計を用いた平行ニコル法により、測定波長550nmにおける面内レターデーションを測定した。その結果、屈折率異方性膜LA01及びLB01の面内レターデーションは、いずれも137nmであり、1/4波長板であることが確認できた。
【0041】
この様にして、図1に示す偏光眼鏡0を作製した。
具体的には、観察者の左眼側の位置に、1/4波長板16L、偏光子12L、及びガラス10Lがこの順序で積層された円偏光ガラスを配置し、右眼側の位置に1/4波長板16R、偏光子12R、及びガラス10Rがこの順序で積層された円偏光ガラスを配置した。即ち、屈折率異方性膜LA01を付設した偏光ガラスを左眼用として、屈折率異方性膜LB01を付設した偏光ガラスを右眼用として配置した。偏光子12L及び12Rのそれぞれの吸収軸14L及び14Rと、1/4波長板16L及び16Rのそれぞれの面内遅相軸18L及び18Rとを、図に示す通り、45°で交差させて配置した。
【0042】
この偏光眼鏡0を用いて3Dモニター(Zalman ZM−215W)に表示された立体画像を観察したところ、全方向にわたって鮮明な映像を観賞することができた。
【0043】
2.実施例2:偏光眼鏡1の作製
ステロイド変性ポリアミック酸の希釈液を、バーコーターを用いて、曲面偏光ガラスであるKodak PolarMax 6150(偏光度99%)上に、1μmの厚さに塗布し、塗布層を60℃の温風で2分間乾燥した。塗布膜表面を吸収軸から左45°の角度をもってラビング処理して、下記の変性ポリイミドからなる垂直配向膜LA1を形成した。同様の操作で、塗布膜表面を吸収軸から右45°の角度をもってラビング処理して、垂直配向膜LB1を形成した。
【0044】
【化2】

【0045】
下記の組成の位相差層形成用塗布液を調製した。
位相差層形成用塗布液組成
下記のディスコティック液晶性分子(1) 32.6重量%
セルロースアセテートブチレート 0.7重量%
下記の変性トリメチロールプロパントリアクリレート 3.2重量%
下記の増感剤 0.4重量%
下記の光重合開始剤 1.1重量%
メチルエチルケトン 62.0重量%
【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】
上記で作製した垂直配向膜LA1及びLB1のそれぞれのラビング処理面上に、下記の組成の塗布液をスピンコート塗布した。膜面温度120℃で1分間乾燥して液晶相状態とし、ディスコティック液晶性分子をホモジニアスに垂直配向させた。形成された層の厚さは、1.3μmであった。
次に、500w/cmの照度の水銀ランプで紫外線を1秒間照射してディスコティック液晶性分子を重合させた。このようにして屈折率異方性膜LA11及びLB11をそれぞれ形成した。
【0050】
屈折率異方性膜LA11及びLB11をそれぞれ一部切除し、光学等方性のガラス基板上に移設した。ファイバ型分光計を用いた平行ニコル法により、測定波長550nmにおける面内レターデーションを測定した。その結果、屈折率異方性膜LA11及びLB11の面内レターデーションは、いずれも137nmであり、1/4波長板であることが確認できた。
【0051】
この様にして、図1に示す偏光眼鏡1を作製した。
具体的には、観察者の左眼側の位置に、1/4波長板16L、偏光子12L、及びガラス10Lがこの順序で積層され円偏光ガラスを配置し、右眼側の位置に1/4波長板16R、偏光子12R、及びガラス10Rがこの順序で積層された円偏光ガラスを配置した。すなわち、位相差層LA11を付設した偏光ガラスを左眼用として、屈折率異方性膜LB11を付設した偏光ガラスを右眼用として配置した。偏光子12L及び12Rのそれぞれの吸収軸14L及び14Rと、1/4波長板16L及び16Rのそれぞれの面内遅相軸18L及び18Rとを、図に示す通り、45°で交差示させて配置した。
【0052】
この偏光眼鏡1を用いて3Dモニター(Zalman ZM−215W)に表示された立体画像を観察したところ、全方向にわたって鮮明な映像を観賞することができた。
【0053】
3.実施例3:偏光眼鏡2の作製
下記の配向層用組成物を調製し、孔径30μmのポリプロピレン製フィルタでろ過して、実施例2で用いたものと同一のガラス基板上に塗布、乾燥させた。形成された配向層の膜厚は1.6μmであった。
ポリビニルアルコール(PVA205、クラレ(株)製) 3.21質量%
ポリビニルピロリドン(Luvitec K30、BASF社製) 1.48質量%
蒸留水 52.1 質量%
メタノール 43.21質量%
【0054】
塗布膜表面を吸収軸に対して左45°の角度をもってラビング処理して、垂直配向膜LC1を形成した。同様の操作で、塗布膜表面を吸収軸に対して右45°の角度をもってラビング処理して、垂直配向膜LD1を形成した。
【0055】
下記組成の位相差層形成用塗布液を調製し、塗布液を孔径1μmのポリプロピレン製フィルタでろ過した。
棒状液晶(I) 30.00質量%
水平配向剤(LC−1−1) 0.10質量%
光重合開始剤(LC−1−2) 1.90質量%
メチルエチルケトン 68.00質量%
なお、水平配向剤(LC−1−1)はTetrahedron Lett.誌、第43巻、6793頁(2002)に記載の方法準じて合成した。光重合開始剤(LC−1−2)はEP1388538A1,page 21に記載の方法により合成した。
【0056】
【化6】

【0057】
上記で作製した配向膜LC1及びLD1のラビング処理面上に、ろ過した上記塗布液をスピンコート法により塗布し、膜面温度が95℃2分間加熱乾燥熟成して均一なホモジニアス配向状態とした。さらに熟成後直ちにこの層に対して、空気下にて160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm、照射量400mJ/cmの紫外線を照射して、配向状態を固定化して、厚さ0.9μmの位相差層LC11及びLD11をそれぞれ形成した。
【0058】
偏光ガラス上から位相差層LC11及びLD11を一部切除し、別の光学等方性のガラス基板上に移設し、ファイバ型分光計を用いた平行ニコル法により、測定波長550nmにおける面内レターデーションを測定した。その結果、位相差層LC11及びLD11の面内レターデーションはいずれも137nmであり、1/4波長板であることが確認できた。
【0059】
この様にして、図1に示す偏光眼鏡2を作製した。
具体的には、観察者の左眼側の位置に、1/4波長板16L、偏光子12L、及びガラス10Lがこの順序で積層され円偏光ガラスを配置し、右眼側の位置に1/4波長板16R、偏光子12R、及びガラス10Rがこの順序で積層された円偏光ガラスを配置した。すなわち、位相差層LD11を付設した偏光ガラスを左眼用として、屈折率異方性膜LC11を付設した偏光ガラスを右眼用として配置した。偏光子12L及び12Rのそれぞれの吸収軸14L及び14Rと、1/4波長板16L及び16Rのそれぞれの面内遅相軸18L及び18Rを、図に示す通り、45°で交差示させて配置した。
【0060】
本発明の偏光眼鏡2を用いて3Dモニター(Zalman ZM−215W)に表示された立体画像を観察したところ、視野の辺境部にかすかにクロストークが認められたが、おおむね鮮明な映像を観賞することができた。
【0061】
4.比較例:偏光眼鏡C1の作製
位相差層LA2及びLB2を形成する代わりに、延伸フィルム(1/4波長板)を貼合した以外は、実施例2と同一構成の偏光眼鏡を作製した。
なお、実施例2で用いたのと同一の曲面偏光ガラス上に、上記延伸フィルムを、光学フィルム用透明両面接着テープ(MCS65)を用いて、貼合した。なお、用いた延伸フィルムは、波長550nmにおけるレターデーション値が137nmの延伸フィルム(ゼオノアZM)であった。
【0062】
作製した比較例用の偏光眼鏡C1を用いて3Dモニター(Zalman ZM−215W)に表示された立体画像を観察したところ、貼合時のムラに起因すると考えられるクロストークが発生し、鮮明な映像を観賞することができなかった。
【符号の説明】
【0063】
10L、10R 基板
12L、12R 偏光子
14L、14R 吸収軸
16L、16R 位相差層
18L、18R 面内遅相軸
20 フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率異方性を有する化合物を含む組成物を、配向状態に固定して形成された位相差層を少なくとも有する、右眼用及び左眼用それぞれの鑑賞用部材を有することを特徴とする偏光眼鏡。
【請求項2】
前記位相差層が、前記組成物を、塗布手段、吹き付け手段及び滴下手段のいずれかの手段により、適用してなることを特徴とする請求項1に記載の偏光眼鏡。
【請求項3】
前記屈折率異方性を有する化合物が、液晶性化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光眼鏡。
【請求項4】
前記屈折率異方性を有する化合物が、ディスコティック液晶性化合物及び/又は棒状液晶性化合物であって、前記位相差層が、垂直配向状態に固定されたディスコティック液晶性化合物を含有する、及び/又は水平配向状態に固定された棒状液晶性化合物を含有することを特徴とする請求項3に記載の偏光眼鏡。
【請求項5】
前記位相差層を支持する透明基板を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光眼鏡。
【請求項6】
前記位相差層が、配向処理を施された表面上に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光眼鏡。
【請求項7】
前記位相差層が、1/4波長板であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の偏光眼鏡。
【請求項8】
直線偏光膜をさらに備え、該直線偏光膜の吸収軸と前記位相差層の面内遅相軸とが互いに45°で交差していることを特徴とする請求項7に記載の偏光眼鏡。
【請求項9】
動画立体画像の立体視用であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光眼鏡。
【請求項10】
静止画立体画像の立体視用であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の偏光眼鏡。

【図1】
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