説明

偏光素子、および、偏光板

【課題】光学特性及び耐久性の向上した偏光素子及び偏光板。
【解決手段】式(I)で示される化合物又はその塩、及び、重合度が5000乃至10000であるポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムからなる偏光素子。


(式中、R乃至Rは各々独立に水素原子、低級アルキル基、又は低級アルコキシル基を示し、nは1乃至3を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料系偏光素子、および偏光板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光素子は一般に、二色性色素であるヨウ素又は二色性染料をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに吸着配向させることにより製造されている。この偏光素子の少なくとも片面に接着剤層を介してトリアセチルセルロースなどからなる保護フィルムを貼合して偏光板とされ、液晶表示装置などに用いられる。二色性色素としてヨウ素を用いた偏光板はヨウ素系偏光板と呼ばれ、一方、二色性色素として二色性染料を用いた偏光板は染料系偏光板と呼ばれる。これらのうち染料系偏光板は、高耐熱性、高湿熱耐久性、高安定性を有し、また、配合による色の選択性が高いという特徴である一方で、ヨウ素系偏光板に比べ同じ偏光度を有する偏光板を比較すると透過率が低い、すなわち、コントラストが低い問題点があった。そのため高い耐久性を維持し、色の選択性が多様であって、より高い透過率で、高い偏光特性を有することが望まれている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−171231
【特許文献2】特開2007−238888
【特許文献3】特開2008−120868
【特許文献4】特開2009−14873
【特許文献5】特開平1−105204号
【特許文献6】特開平3−175404号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
染料系偏光板における光学特性の向上には、特許文献1乃至3のように二色性色素の構造によって光学特性を向上させた技術が開示されている。また、特許文献4では、偏光素子の加工条件によって光学特性を向上させる技術が開示されており、特許文献5、特許文献6ではポリビニルアルコールフィルムで重合度が高いものを用いたり、フィルムの置換基を改良したりすることで光学特性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、その開示されている技術では工業化が難しく、また、より一層の高透過率、高コントラストである偏光板の要求は高く、更なる光学特性の向上が望まれている。高重合度のPVAからなる偏光フィルムを工業的に製造するには、PVAフィルムの物性、偏光フィルムの製造条件、および、その偏光素子で用いられる二色性色素を最適化させる必要がある。
【0005】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、アゾ化合物系二色性色素、及び特定の重合度を有するポリビニルアルコール系樹脂を含む偏光素子が、光学特性を向上させ、および、光や熱、湿度に対する耐久性を向上させることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)下記の式(I)で示される化合物又はその塩、及び、重合度が5000乃至10000であるポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムからなる偏光素子、
【化1】

(式中、R乃至Rは各々独立に水素原子、低級アルキル基、又は低級アルコキシル基を示し、nは1乃至3を示す。)
(2)R乃至Rが水素原子である、(1)に記載の偏光素子、
(3)膨潤度が200%乃至240%である原反フィルムを用いて得られることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の偏光素子、
(4)(1)乃至(3)のいずれか1に記載の偏光素子の少なくとも一方の面に透明保護層を設けることを特徴とする偏光板、
(5)(1)乃至(3)のいずれか1に記載の偏光素子又は(4)に記載の偏光板を含む液晶表示装置、及び
(6)(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の偏光素子又は(4)に記載の偏光板を含む液晶プロジェクター、に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の偏光素子、または偏光板によって、光学特性が向上し、および、光や熱、湿度に対する耐久性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の偏光素子は、式(I)で示される化合物又はその塩、及び、重合度が5000乃至10000であるポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムからなることを特徴とする。
【化2】

(式中、R乃至Rは各々独立に水素原子、低級アルキル基、又は低級アルコキシル基を示し、nは1乃至3を示す。)
【0009】
本発明では、二色性染料を含有させる場合の染色性、および、架橋性などの観点から、ポリビニルアルコール系樹脂よりなるフィルムが最も好ましい。以下、本発明の偏光素子の代表的な作製方法を説明する。
【0010】
本発明の偏光素子を構成するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で作製することができる。例えば、本発明において使用されるポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステルを重合して得られるポリビニルエステル系重合体をケン化することにより製造することができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等を例示することができ、これらの中から1種または2種以上を選択する。これらの中でも酢酸ビニルが、好ましく用いられる。重合温度に特に制限はないが、メタノールを重合溶媒として使用する場合は、メタノールの沸点が60℃付近であることから、60℃前後であることが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は、本発明の効果が損なわれることがない限り、ビニルエステルの単独重合体のケン化物に限定されない。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂に不飽和カルボン酸またはその誘導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα一オレフィン等を5モル%未満の割合でグラフト共重合した変性PVAlビニルエステルと、不飽和カルボン酸またはその言秀導体、不飽和スルホン酸またはその誘導体、炭素数2〜30のα一オレフィン等とを15モル%未満の割合で共重合した変性ポリビニルエステルのケン化物1ホルマリン、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類でポリビニルアルコールの水酸基の一部を架橋したポリビニルアセタール系重合体などであってもよい。
【0011】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99モル%以上であることが好ましく、99.5モル%以上がより好ましい。ケン化度が99モル%未満であると、ポリビニルアルコールが溶出し易くなり、光学特性の面内ムラ、染色工程での染色性の低下、延伸工程での切断を誘発し、生産性を著しく低下させる恐れがあり、好ましくはない。
【0012】
本発明の光学特性を向上するためには、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、5000乃至10000であることが必要であり、5500以上がより好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度が5000未満であると、高い偏光性能を発現することが困難となる。重合度が10000を超えると樹脂が硬くなり、製膜性や延伸性が低下し、生産性が低下するので、工業的な観点から10000以下であることが好ましい。
【0013】
ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、粘度平均重合度を意味し、当該技術分野において周知の手法によって求めることができる。例えば、以下の方法により粘度平均重合度を求めることができる。ポリビニルアルコール系樹脂 0.28gを蒸留水70gを95℃にて溶解し、0.4%ポリビニルアルコール水溶液を作製し、30℃に冷却した。Cの恒温水槽中で冷却して、重合度測定用サンプルとした。蒸発皿に重合度測定用サンプル10mLを105℃の乾燥機で20時間乾燥させ、重合度測定用サンプルの乾燥後重量[α(g)]を測定した。重合度測定用サンプルの濃度C(g/L)は、式(i)により算出した。
【0014】
C=1000×α/10・・・式(i)
【0015】
オストワルド粘度計に、重合度測定用サンプル、あるいは蒸留水を10mLホールピペットで投入し、30℃の恒温水槽中で15分間安定させた。投入した重合度測定用サンプルの落下秒数t(秒)と蒸留水の落下秒数t(秒)を測定し、式(ii)乃至式(iv)により粘度平均重合度Eを算出した。
【0016】
ηt=t/t…式(ii)
【0017】
η=2.303×Log(ηt/c) …式(iii)
【0018】
Log(E)=1.613×Log([η]×104/8.29) ・・・式(iv)
【0019】
以上によって得られたポリビニルアルコール系樹脂を製膜することによりフィルム原反が得られる。製膜方法としては、含水ポリビニルアルコール系樹脂を溶融押出する方法の他、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去)、キャスト製膜法(ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を基盤上に流し、乾燥)、およびこれらの組み合わせによる方法などによって得られるが、これらの方法は限定されない。
【0020】
製膜の際に使用される溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N一メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、水等が挙げられ、1種でも良いし、2種以上を混合して使用することができ、限定されない。製膜の際に用いる溶剤の量としては、製膜原液全体に対して70〜95質量%が好ましいが限定されない。ただし、溶剤の量が50質量%未満であると、製膜原液の粘度が高くなり、調製時の濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点のないフィルム原反を得ることが困難となる。また、溶剤の量が95質量%を超えると、製膜原液の粘度が低くなり過ぎて、目的とする厚み制御が難しく、乾燥時の風による表面の揺らぎの影響や、乾燥時間が長くなり生産性が低下する。
【0021】
フィルム原反を製造するにあたり、可塑剤を使用してもよい。可塑剤としては、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、及び低分子量ポリエチレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。可塑剤の使用量も特に制限されないが、通常はポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、5〜15質量部の範囲内が好適である。
【0022】
製膜後のフィルム原反の乾燥方法としては、例えば熱風による乾燥や、熱ロールを用いた接触乾燥や、赤外線ヒーターによる乾燥等が挙げられるが限定されない。これらの方法のうちの1種類を単独で採用してもよいし、2種類以上を組み合わせて乾燥してもよい。乾燥温度についても、特に制限はないが50〜70℃の範囲内が好ましい。
【0023】
乾燥後のフィルム原反は、その膨澗度を後述する所定の範囲に制御するために、熱処理を行うことが好ましい。製膜後のフィルム原反の熱処理方法としては、例えば熱風による方法や、熱ロールにフィルム原反を接触させる方法が挙げられ、熱により処理が出来る方法であれば特に限定されない。これらの方法のうちの1種類を単独で採用してもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。熱処理温度と時間については特に制限はないが、110〜140℃の範囲内が好ましく、おおむね1分乃至10分の処理が好適であるが、特に限定されない。
【0024】
こうして得られるフィルム原反の厚みは、20〜100μmであることが好ましく、20〜80μmがより好ましく、20〜60μmがさらに好ましい。厚みが20μm未満になると、フィルムの破断が発生し易くなる。厚みが100μmを超えると、延伸時にフィルムにかかる応力が大きくなり、延伸工程での機械的負荷が大きくなり、その負荷に耐えうるための大規模な装置が必要となる。
【0025】
以上により得られた原反フィルムには、次に膨潤工程が施される。
【0026】
膨潤工程とは20〜50℃の溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを30秒〜10分間浸漬させることによって行われる。溶液は水が好ましい。偏光素子を製造する時間を短縮する場合には、色素の染色処理時にも膨潤するので膨潤工程を省略することもできる。
【0027】
フィルム原反の膨澗度Fは、200〜240%であることが好ましく、205〜235%がより好ましく、210〜230%がさらに好ましい。膨澗度Fが200%未満であると、延伸時の伸度が少なく、低倍率で破断する可能性が高くなり、充分な延伸を行うことが困難となる。また、膨澗度Fが240%を超えると、膨潤が過多となり、シワや弛みが発生し、延伸時の切断の原因となる。膨澗度Fを制御するためには、例えば、製膜後のフィルム原反を熱処理する際の、温度と時間で好適な膨潤度Fに成すことが出来る。
【0028】
フィルム原反の膨澗度Fの測定方法は、当該技術分野において周知の手法によって求めることができるが、例えば、次のように測定する。フィルム原反を5cm×5cmにカットし、30℃の蒸留水1リットルに4時間浸漬した。この浸漬したフィルムを蒸留水中から取り出し、2枚のろ紙ではさんで表面の水滴を吸収させた後に、水に浸漬されていたフィルムの重さ[β(g)]を測定した。さらに、浸漬されて水滴を吸収されたフィルムを105℃の乾燥機で20時間乾燥し、デシケーターで30分間冷却した後、乾燥後のフィルムの重さ[γ(g)]を測定し、式(v)によりフィルム原反の膨潤度Fを算出した。
【0029】
膨潤度 F=100×β/γ(%) ・・・式(v)
【0030】
膨潤工程の後に、染色工程が施される。本発明では、式(I)で示される色素を、染色工程でポリビニルアルコール系フィルムに色素を吸着させることができる。染色工程は、色素をポリビニルアルコール系フィルムに吸着させる方法であれば、特に限定されないが、例えば、染色工程はポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性染料を含有した溶液に浸漬させることによって行われる。この工程での溶液温度は、5〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましく、35〜50℃が特に好ましい。溶液に浸漬する時間は適度に調節できるが、30秒〜20分で調節するのが好ましく、1〜10分がより好ましい。染色方法は、該溶液に浸漬することが好ましいが、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに該溶液を塗布することによって行うことも出来る。
【0031】
二色性染料を含有した溶液は、染色助剤として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、無水硫酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムなどを含有することが出来る。それらの含有量は、染料の染色性による時間、温度によって任意の濃度で調整できるが、それぞれの含有量としては、0〜5重量%が好ましく、0.1〜2重量%がより好ましい。
【0032】
染色工程において用いられる色素は、式(I)で示される二色性色素であるアゾ化合物であり、これは遊離酸として用いられるほか、当該化合物の塩でも良い。そのような塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩などのアルカリ金属塩、或いは、アンモニウム塩やアルキルアミン塩などの有機塩として用いることも出来る。好ましくは、ナトリウム塩である。
【0033】
本発明は、遊離酸の形で式(I)で表されるアゾ化合物及びその塩に関する。式(I)おいて、R乃至Rは、各々独立に水素原子、低級アルキル基、又は低級アルコキシ基を表すが、R乃至Rが水素原子又は低級アルキル基であることが好ましく、さらに、R及びRが水素原子又はメチル基、R及びRが水素原子であることが特に好ましい。また、nは1乃至3を示す。尚、本発明において、低級アルキル基及び低級アルコキシ基とは、炭素数1〜5のアルキル基及びアルコキシ基を言う。次に本発明で使用する式(I)で表されるアゾ化合物の具体例を以下にあげる。なお、化合物例は、スルホ基、カルボキシル基及び水酸基は遊離酸の形で表す。
【0034】
[化合物例1]
【化3】

[化合物例2]
【化4】

[化合物例3]
【化5】

[化合物例4]
【化6】

[化合物例5]
【化7】

【0035】
本発明において色素として用いられるアゾ化合物は、一般的には、当該技術分野において公知のアゾ染料の合成手段(例えば、「染料化学」;細田豊著;技報堂;626頁)に従い、公知のジアゾ化、カップリングを行うことにより製造することができる。
【0036】
代表的な製造方法としては、4−アミノ安息香酸をジアゾ化し、下式で示されるアニリン類
【化8】

とカップリングさせ(式中RおよびRは、上述の式(I)の場合と同じ意味を表す)、下式のモノアゾアミノ化合物
【化9】

を得る。次いで、このモノアゾアミノ化合物と4,4’−ジニトロスチルベンー2,2’−スルホン酸とをアルカリ条件下で反応させた後、グルコース還元することにより式(1)で示されるアゾ化合物を得ることができる。
【0037】
前記反応において、ジアゾ化工程はジアゾ成分の塩酸、硫酸などの鉱酸水溶液またはけん濁液に亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩を混合するという順法によって行われてもよい。あるいはジアゾ成分の中性もしくは弱アルカリ性の水溶液に亜硝酸塩を加えておき、これと鉱酸を混合するという逆法によって行われてもよい。ジアゾ化の温度は、−10〜40℃が適当である。また、アニリン類とのカップリング工程は塩酸、酢酸などの酸性水溶液と前記各ジアゾ液を混合し、温度が−10〜40℃でpH2〜7の酸性条件で行われる。
【0038】
モノアゾアミノ化合物と4,4’−ジニトロスチルベンー2,2’−スルホン酸との反応においてアルカリ条件での縮合工程は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどの強アルカリ条件で行われる。そのアルカリ濃度は2%〜10%が適当であり、温度は70〜100℃が適当である。ここで、前記式(1)のnの数は、モノアゾアミノ化合物と4,4’−ジニトロスチルベン−2,2’−スルホン酸の仕込み比率を変えることで調整できる。グルコース還元工程は、アルカリ条件でグルコース濃度が0.5〜1.2当量使用することが一般的である。
【0039】
式(1)で表されるアゾ化合物を合成するに当たって一次カップリング成分である、置換基(R乃至R)を有してもよいアニリン類における置換基としては、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。これらの置換基は1つまたは2つ結合してもよい。その結合位置は、アミノ基に対して、2位、3位、及び2位と5位、3位と5位、又は2位と6位であるが、3位及び2位と5位が好ましい。アニリン類としては、例えばアニリン、2−メチルアニリン、3−メチルアニリン、2−エチルアニリン、3−エチルアニリン、2、5−ジメチルアニリン、2、5−ジエチルアニリン、2−メトキシアニリン、3−メトキシアニリン、2−メトキシ−5−メチルアニリン、2、5−ジメトキシアニリン、3,5−ジメチルアニリン、2,6−ジメチルアニリン、3,5−ジメトキシアニリン等が挙げられる。これらのアニリン類はアミノ基が保護されていてもよい。保護基としては、例えばそのω−メタンスルホン酸基が挙げられる。
【0040】
また、本発明の染料系偏光素子又は染料系偏光板には、式(1)で表されるアゾ化合物又はその塩が単独で使用される他、複数使用してもよい。また、必要に応じて他の有機染料を一種以上併用してもよい。併用する有機染料に特に制限はないが、親水性高分子を染色するものであって、本発明のアゾ化合物又はその塩の吸収波長領域と異なる波長領域に吸収特性を有する染料であって二色性の高いものが好ましい。例えば、シー・アイ・ダイレクト・レッド 2、シー・アイ・ダイレクト・レッド 31、シー・アイ・ダイレクト・レッド 79、シー・アイ・ダイレクト・レッド 81、シー・アイ・ダイレクト・レッド 247、シー・アイ・ダイレクト・グリーン80、シー・アイ・ダイレクト・グリーン59、シー・アイ・ダイレクト・ブルー202、シー・アイ・ダイレクト・バイオレット9などが例示される。これらの色素は遊離酸、あるいはアルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、Li塩)、アンモニウム塩、アミン類の塩として用いられる。
【0041】
必要に応じて、他の有機染料を併用する場合、目的とする偏光素子が、中性色の偏光素子、液晶プロジェクター用カラー偏光素子、その他のカラー偏光素子により、それぞれ配合する染料の種類は異なる。その配合割合は特に限定されるものではないが、一般的には、上記式(1)のアゾ化合物又はその塩の重量を基準として、前記の有機染料の少なくとも一種以上の合計で0.1〜10重量部の範囲で用いるのが好ましい。
【0042】
染色工程後、次の工程に入る前に洗浄工程(以降洗浄工程1という)を行うことが出来る。染浄工程1とは、染色工程でポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面に付着した染料溶媒を洗浄する工程である。洗浄工程1を行うことによって、次に処理する液中に染料が移行するのを抑制することができる。洗浄工程1では、一般的には水が用いられる。洗浄方法は、該溶液に浸漬することが好ましいが、該溶液をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに塗布することによって洗浄することも出来る。洗浄の時間は、特に限定されないが、好ましくは1〜300秒、より好ましくは1〜60秒である。洗浄工程1での溶媒の温度は、親水性高分子が溶解しない温度であることが必要となる。一般的には5〜40℃で洗浄処理される。
【0043】
染色工程又は洗浄工程1の後、架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程を行うことが出来る。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂又はホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、グリオキザール又はグルタルアルデヒドなどの多価アルデヒド、ビウレット型、イソシアヌレート型又はブロック型などの多価イソシアネート系化合物、チタニウムオキシサルフェイトなどのチタニウム系化合物などを用いることができるが、他にもエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロルヒドリンなどを用いることができる。耐水化剤としては、過酸化コハク酸、過硫酸アンモニウム、過塩素酸カルシウム、ベンゾインエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、塩化アンモニウム又は塩化マグネシウムなどが挙げられるが、好ましくはホウ酸が用いられる。以上に示された少なくとも1種以上の架橋剤及び/又は耐水化剤を用いて架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程を行う。その際の溶媒としては、水が好ましいが限定されるものではない。架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程での溶媒中の架橋剤及び/又は耐水化剤の含有濃度は、ホウ酸を例にして示すと溶媒に対して濃度0.1〜6.0重量%が好ましく、1.0〜4.0重量%がより好ましい。この工程での溶媒温度は、5〜70℃が好ましく、5〜50℃がより好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる方法は、該溶液に浸漬することが好ましいが、該溶液をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに塗布又は塗工してもよい。この工程での処理時間は30秒〜6分が好ましく、1〜5分がより好ましい。ただし、架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させることが必須でなく、時間を短縮したい場合には、架橋処理又は耐水化処理が不必要な場合には、この処理工程を省略してもよい。
【0044】
染色工程、洗浄工程1、または架橋剤及び/又は耐水化剤を含有させる工程を行った後に、延伸工程を行う。延伸工程とは、ポリビニルアルコール系フィルムを1軸に延伸する工程である。延伸方法は湿式延伸法又は乾式延伸法のどちらでも良く、延伸倍率は3倍以上延伸されていることで本発明は達成しうる。延伸倍率は、3倍以上、好ましくは5倍乃至7倍に延伸されていることが良い。
【0045】
乾式延伸法の場合には、延伸加熱媒体が空気媒体の場合には、空気媒体の温度は常温〜180℃で延伸するのが好ましい。また、湿度は20〜95%RHの雰囲気中で処理するのが好ましい。加熱方法としては、例えば、ロール間ゾーン延伸法、ロール加熱延伸法、圧延伸法、赤外線加熱延伸法などが挙げられるが、その延伸方法は限定されるものではない。延伸工程は1段で延伸することもできるが、2段以上の多段延伸により行うことも出来る。
【0046】
湿式延伸法の場合には、水、水溶性有機溶剤、又はその混合溶液中で延伸する。架橋剤及び/又は耐水化剤を含有した溶液中に浸漬しながら延伸処理を行うことが好ましい。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂又はホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、グリオキザール又はグルタルアルデヒドなどの多価アルデヒド、ビウレット型、イソシアヌレート型又はブロック型などの多価イソシアネート系化合物、チタニウムオキシサルフェイトなどのチタニウム系化合物などを用いることができるが、他にもエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロルヒドリンなどを用いることができる。耐水化剤としては、過酸化コハク酸、過硫酸アンモニウム、過塩素酸カルシウム、ベンゾインエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、塩化アンモニウム又は塩化マグネシウムなどが挙げられる。以上に示された少なくとも1種以上の架橋剤及び/又は耐水化剤を含有した溶液中で延伸を行う。架橋剤はホウ酸が好ましい。延伸工程での架橋剤及び/又は耐水化剤の濃度は、例えば、0.5〜15重量%が好ましく、2.0〜8.0重量%がより好ましい。延伸倍率は2〜8倍が好ましく、5〜7倍がより好ましい。延伸温度は40〜60℃で処理することが好ましく、45〜58℃がより好ましい。延伸時間は通常30秒〜20分であるが、2〜5分がより好ましい。湿式延伸工程は1段で延伸することができるが、2段以上の多段延伸により行うこともできる。
【0047】
延伸工程を行った後には、フィルム表面に架橋剤及び/又は耐水化剤の析出、又は異物が付着することがあるため、フィルム表面を洗浄する洗浄工程(以降洗浄工程2という)を行うことができる。洗浄時間は1秒〜5分が好ましい。洗浄方法は洗浄溶液に浸漬することが好ましいが、溶液をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに塗布又は塗工によって洗浄することができる。1段で洗浄処理することもできるし、2段以上の多段処理をすることもできる。洗浄工程の溶液温度は、特に限定されないが通常5〜50℃、好ましくは10〜40℃である。
【0048】
ここまでの処理工程で用いる溶媒として、例えば、水、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパン等のアルコール類、エチレンジアミン又はジエチレントリアミン等のアミン類などの溶媒が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、1種以上のこれら溶媒の混合物を用いることもできる。最も好ましい溶媒は水である。
【0049】
延伸工程又は洗浄工程2の後には、フィルムの乾燥工程を行う。乾燥処理は、自然乾燥により行うことができるが、より乾燥効率を高めるためにはロールによる圧縮やエアーナイフ、又は吸水ロール等によって表面の水分除去を行うことができ、及び/又は送風乾燥を行うこともできる。乾燥処理温度としては、20〜100℃で乾燥処理することが好ましく、60〜100℃で乾燥処理することがより好ましい。乾燥処理時間は30秒〜20分を適用できるが、5〜10分であることが好ましい。
【0050】
以上の方法で、本発明の光学特性及び耐久性を向上させたポリビニルアルコール系樹脂フィルム偏光素子を得ることが出来る。ここでは、ポリビニルアルコール系樹脂の場合を例に説明したが、当該偏光素子における色素を吸着させるフィルムがアミロース系樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸塩系樹脂などから得られるフィルムの場合であっても、当業者であれば、二色性色素を含有させ、延伸、シェア配向などで親水性樹脂を配向させることによって、同様な偏光素子を作製することもできる。
【0051】
得られた偏光素子には、その片面、又は両面に透明保護層を設けることによって偏光板とする。透明保護層はポリマーによる塗布層として、又はフィルムのラミネート層として設けることができる。透明保護層を形成する透明ポリマー又はフィルムとしては、機械的強度が高く、熱安定性が良好な透明ポリマー又はフィルムが好ましい。透明保護層として用いる物質として、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなセルロースアセテート樹脂又はそのフィルム、アクリル樹脂又はそのフィルム、ポリ塩化ビニル樹脂又はそのフィルム、ナイロン樹脂またはそのフィルム、ポリエステル樹脂又はそのフィルム、ポリアリレート樹脂又はそのフィルム、ノルボルネンのような環状オレフィンをモノマーとする環状ポリオレフィン樹脂又はそのフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン骨格を有するポリオレフィン又はその共重合体、主鎖又は側鎖がイミド及び/又はアミドの樹脂又はポリマー又はそのフィルムなどが挙げられる。また、透明保護層として、液晶性を有する樹脂又はそのフィルムを設けることもできる。保護フィルムの厚みは、例えば、0.5〜200μm程度である。その中の同種又は異種の樹脂又はフィルムを片面、もしくは両面に1層以上設けることによって偏光板を作製する。
【0052】
上記、透明保護層を偏光素子と貼り合わせるためには接着剤が必要となる。接着剤としては特に限定されないが、ポリビニルアルコール系接着剤が好ましい。ポリビニルアルコール系接着剤として、例えば、ゴーセノールNH−26(日本合成社製)、エクセバールRS−2117(クラレ社製)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。接着剤には、架橋剤及び/又は耐水化剤を添加することができる。ポリビニルアルコール系接着剤には、無水マレイン酸−イソブチレン共重合体を用いるが、必要により架橋剤を混合させた接着剤を用いることができる。無水マレイン酸−イソブチレン共重合体として、例えば、イソバン#18(クラレ社製)、イソバン#04(クラレ社製)、アンモニア変性イソバン#104(クラレ社製)、アンモニア変性イソバン#110(クラレ社製)、イミド化イソバン#304(クラレ社製)、イミド化イソバン#310(クラレ社製)などが挙げられる。その際の架橋剤には水溶性多価エポキシ化合物を用いることができる。水溶性多価エポキシ化合物とは、例えば、デナコールEX−521(ナガセケムテック社製)、テトラット−C(三井ガス化学社製)などが挙げられる。また、ポリビニルアルコール系樹脂以外の接着剤として、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系といった公知の接着剤を用いることも出来る。また、接着剤の接着力の向上、または耐水性の向上を目的として、亜鉛化合物、塩化物、ヨウ化物等の添加物を同時に0.1〜10重量%程度の濃度で含有させることもできる。添加物についても限定されるものではない。透明保護層を接着剤で貼り合せた後、適した温度で乾燥もしくは熱処理することによって偏光板を得る。
【0053】
得られた偏光板は場合によって、例えば液晶、有機エレクトロルミネッセンス等の表示装置に貼り合わせる場合、後に非露出面となる保護層またはフィルムの表面に視野角改善及び/又はコントラスト改善のための各種機能性層、輝度向上性を有する層またはフィルムを設けることもできる。偏光板を、これらのフィルムや表示装置に貼り合せるには粘着剤を用いるのが好ましい。
【0054】
この偏光板は、もう一方の表面、すなわち、保護層又はフィルムの露出面に、反射防止層や防眩層、ハードコート層など、公知の各種機能性層を有していてもよい。この各種機能性を有する層を作製するには塗工方法が好ましいが、その機能を有するフィルムを接着剤又は粘着剤を介して貼合せることもできる。また、各種機能性層とは、位相差を制御する層又はフィルムとすることができる。
【0055】
以上の方法で、本発明の重合度が5000乃至10000であるポリビニルアルコール系樹脂において、フィルム物性の最適化、ならびに、最適な色素構造を設計することによって、光学特性が向上し、および、光や熱、湿度に対する耐久性が向上する偏光素子、および、偏光板を得ることが出来る。本発明の偏光素子または偏光板を用いた液晶表示装置は信頼性が高い、長期的に高コントラストで、かつ、高い色再現性を有する液晶表示装置になる。
【0056】
こうして得られた本発明の偏光素子または偏光板は、必要に応じて保護層又は機能層及び支持体等を設け、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、偏光レンズ、偏光メガネ、カーナビゲーション及び屋内外の計測器や表示器等に使用される。
【0057】
本発明の偏光板の適用方法として、支持体付偏光板として使用しても良い。支持体は偏光板を貼付するため、平面部を有しているものが好ましく、また光学用途であるため、ガラス成形品が好ましい。ガラス成形品としては、例えばガラス板、レンズ、プリズム(例えば三角プリズム、キュービックプリズム)等があげられる。レンズに偏光板を貼付したものは液晶プロジェクターにおいて偏光板付のコンデンサレンズとして利用し得る。また、プリズムに偏光板を貼付したものは液晶プロジェクターにおいて偏光板付きの偏光ビームスプリッタや偏光板付ダイクロイックプリズムとして使用し得る。また、液晶セルに貼付してもよい。ガラスの材質としては、例えばソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、水晶よりなる無機基盤、サファイヤよりなる無機基盤等の無機系のガラスやアクリル、ポリカーボネート等の有機系のプラスチック板があげられるが無機系のガラスが好ましい。ガラス板の厚さや大きさは所望のサイズでよい。また、ガラス付き偏光板には、単板光透過率をより向上させるために、そのガラス面又は偏光板面の一方もしくは双方の面にAR層を設けることが好ましい。こういった支持体に、例えば支持体平面部に透明な接着(粘着)剤を塗布し、ついでこの塗布面に本発明の偏光板を貼付する。また、偏光板に透明な接着(粘着)剤を塗布し、ついでこの塗布面に支持体を貼付してもよい。ここで使用する接着(粘着)剤は、例えばアクリル酸エステル系のものが好ましい。尚、この偏光板を楕円偏光板として使用する場合、位相差板側を支持体側に貼付するのが通常であるが、偏光板側をガラス成形品に貼付してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例に示す透過率の評価は以下のようにして行った。
【0059】
それぞれの透過率は、分光光度計〔日立製作所社製“U−4100”〕を用いて測定した。
【0060】
分光光度計〔日立製作所社製“U−4100”〕を用いて、透過率を測定するにあたり、光の出射側に、JIS−Z8701(C光源2°視野)に基づき視感度補正後の透過率43%で偏光度99.99%のヨウ素系偏光板(ポラテクノ社製 SKN−18043P)を設置し、絶対偏光光を測定試料に入射出来るようにした。その際のヨウ素系偏光板の保護層は紫外線吸収能のないトリアセチルセルロースである。
【0061】
本発明の偏光板に、絶対偏光光を入射し、その絶対偏光光の振動方向と本発明の偏光板の吸収軸方向が直交(該絶対偏光子の吸収軸と本発明の偏光板の吸収軸が平行)となるようにして測定して得られた各波長の絶対平行透過率をKy、その絶対偏光光の振動方向と本発明の偏光板の吸収軸方向が平行(該絶対偏光子の吸収軸と本発明の偏光板の吸収軸が直交)となるようにして測定して得られた各波長の絶対直交透過率をKzとした。
【0062】
各波長のKyおよびKzから、式(J)により各波長の単体透過率Tsを、式(L)により各波長の偏光度ρを算出した。
【0063】
単体透過率 Ts=(Ky+Kz)/2 ・・・式(J)
【0064】
偏光度 ρ=(Ky−Kz)/(Ky+Kz)
【0065】
また、以下の実施例で用いたアゾ化合物は、それぞれ以下の方法によって合成した。
【0066】
化合物例1の合成:
4−アミノ安息香酸13.7部を水500部に加え、水酸化ナトリウムで溶解した。冷却し10℃以下で、35%塩酸32部を加え、次に亜硝酸ナトリウム6.9部を加え、5〜10℃で1時間攪拌した。そこへアニリン−ω−メタンスルホン酸ソーダ20.9部を加え、20〜30℃で攪拌しながら、炭酸ナトリウムを加えてpH3.5とした。さらに攪拌してカップリング反応を完結させ、濾過して、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物を水酸化ナトリウム存在下、90℃で攪拌して、下記式のモノアゾアミノ化合物17部を得た。
【化10】

当該モノアゾアミノ化合物12部、4,4’−ジニトロスチルベン−2,2’−スルホン酸21部を水300部に溶解させた後、水酸化ナトリウム12部を加え、90℃で縮合反応させた。続いて、グルコース9部で還元し、塩化ナトリウムで塩析した後、濾過して化合物例1で示されるアゾ化合物を得た。
【0067】
化合物例2の合成:
上記モノアゾアミノ化合物12部、4,4’−ジニトロスチルベン−2,2’−スルホン酸10部を水300部に溶解させた後、水酸化ナトリウム24部を加え、90℃で縮合反応させた。続いて、グルコース18部で還元し、塩化ナトリウムで塩析した後、濾過して化合物例2で示されるアゾ化合物を得た。
【0068】
[実施例1]
ケン化度が99%以上の膜厚40μm、重合度5500、膨潤度232%のポリビニルアルコール系樹脂フィルム(クラレ社製 VFシリーズ)を30℃の温水に3分浸漬し膨潤処理をした。膨潤処理したフィルムを、化合物例1の色素を0.3重量%、トリポリ燐酸ナトリウム0.1重量%、芒硝0.1重量%を含有した35℃の水溶液に浸漬し、色素の吸着を行った。色素が吸着されたフィルムを水にて洗浄し、洗浄の後、2重量%のホウ酸を含有した20℃の水溶液で1分間ホウ酸処理を行った。ホウ酸処理して得られたフィルムを、5.0倍に延伸しながらホウ酸3.0重量%を含有した58℃の水溶液中で5分間処理を行った。そのホウ酸処理して得られたフィルムの緊張状態を保ちつつ、常温の水にて5秒間処理を行った。処理して得られたフィルムを直ちに60℃で5分間乾燥処理を行い単体透過率44%、膜厚15μmの偏光素子を得た。以上の方法で、重合度5500のポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光素子を作製した。
【0069】
偏光素子を、アルカリ処理した膜厚80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製 TD−80U、以下TACと省略)をポリビニルアルコール系接着剤を用いて、TAC/接着層/偏光素子/接着層/TACという構成で積層し、ラミネートして偏光板を得て測定試料とした。
【0070】
同様に、膜厚75μm、重合度2400であるポリビニルアルコール系樹脂フィルム(クラレ社製VF−PS)を用いて偏光素子を作製し、重合度による光学特性を比較するための重合度2400のポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光素子を作製した。該偏光素子を用いた偏光板もTACフィルムをラミネートして作製し、比較用の測定試料とした。
【0071】
[実施例2]
実施例1で用いた化合物例1を、化合物例2で行った以外は同様にサンプル作製を行い測定試料とした。
【0072】
[比較例1]
実施例1で用いた化合物例1を、下記式(B1)で示される色素で行った以外は同様にサンプル作製を行い測定試料とした。
式(B1)
【化11】

【0073】
[比較例2]
実施例1で用いた化合物例1を、下記式(B2)で示される色素で行った以外は同様にサンプル作製を行い測定試料とした。
式(B2)
【化12】

【0074】
[比較例3]
実施例1で用いた化合物例1を、下記式(B3)で示される色素で行った以外は同様にサンプル作製を行い測定試料とした。
式(B3)
【化13】

【0075】
[比較例4]
実施例1で用いた化合物例1を、下記式(B4)で示される色素で行った以外は同様にサンプル作製を行い測定試料とした。
式(B4)
【化14】

【0076】
表1には、実施例1、実施例2、および、比較例1乃至比較例4で得られたサンプルの偏光特性を示す。偏光特性は、各偏光板サンプルの最大偏光特性を示した波長(以下、λmaxと省略)でのTsが44%の時の偏光度ρを示す。各実施例、および、各比較例のポリビニルアルコール系樹脂の重合度5500の場合、および、重合度2400の場合の偏光度を示した。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例1および2、比較例1乃至比較例4によれば、本発明の偏光素子、ならびに偏光板は、重合度2400を用いるときよりも重合度5500を用いたときに特性が向上し、かつ、偏光度の特性向上を確認した。対して比較例1乃至4では重合度5500を用いても特性の向上は少なく、特に比較例4では特性の低下を確認した。
【0079】
以上の実施例1または2、および、比較例1乃至比較例4から明らかなように、本発明の偏光素子を用いることによって、光学特性が向上した偏光板が得られることが分かる。こうして得られた偏光板は、光や熱、湿度に対する耐久性が向上する偏光素子、および偏光板が得られ、かつ、この偏光素子、ならびに偏光板を用いた液晶表示装置、ならびに、偏光レンズは偏光特性が良好で、かつ、耐久性を有することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される化合物又はその塩、及び、重合度が5000乃至10000であるポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルムからなる偏光素子。
【化1】

式(I)
(式中、R乃至Rは各々独立に水素原子、低級アルキル基、又は低級アルコキシル基を示し、nは1乃至3を示す。)
【請求項2】
乃至Rが水素原子である、請求項1に記載の偏光素子。
【請求項3】
膨潤度が200%乃至240%である原反フィルムを用いて得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の偏光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子の少なくとも一方の面に透明保護層を設けることを特徴とする偏光板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子又は請求項4に記載の偏光板を含む液晶表示装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素子又は請求項4に記載の偏光板を含む液晶プロジェクター。

【公開番号】特開2013−57910(P2013−57910A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197601(P2011−197601)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(594190998)株式会社ポラテクノ (30)
【Fターム(参考)】