説明

偏光素子用水性接着剤およびそれを用いて得られる偏光板

重量比で、ポリビニルアルコール系樹脂100に対して無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂を1〜1000、架橋剤を0.5〜5000の割合で含有する本発明の偏光素子用水性接着剤は、水性の1液型のため取り扱いが容易であり、高温、高湿度雰囲気下でも十分な接着力を持つ。本発明の接着剤は含有するホウ素濃度が高く、従来の接着剤では接着力の不十分であった偏光素子の接着にも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光素子用水性接着剤およびそれを用いて得られる偏光板に関する。更に詳しくは、偏光素子と保護フィルムとの接着性に優れ、特に高温、高湿度雰囲気下での接着耐久性が向上した偏光素子用水性接着剤およびこれを用いて得られた偏光板に関するものである。
【技術背景】
【0002】
現在、一般に偏光板は延伸配向したポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)またはその誘導体のフィルムに、ヨウ素や二色性染料を含有せしめて偏光素子とし、少なくともその片面に酢酸セルロース系フィルム等の保護フィルムを、PVA樹脂を含む水溶液を接着剤として用い、積層して製造される。
このような構成の偏光板は高湿度下に長時間暴露されると偏光素子と保護フィルム間で剥離が生じやすいという欠点があった。近年、卓上電子計算機、電子時計、パーソナルコンピューター、携帯電話および自動車や機械類等の計器類に液晶表示装置が使用されるようになり、より厳しい環境条件下で使用もしくは保管されるようになったため、特に高湿度雰囲気下で偏光素子と保護フィルムが剥離を起こし、液晶表示装置の表示品位を低下させるという問題が生じている。接着剤の強度を上げる方法としては接着剤成分の反応を早める方法があるが、この場合は溶液状態での可使時間いわゆるポットライフが短くなるために2液型にする等の工夫が必要となる。しかしながら、生産性向上のためには1液型の接着剤が望まれていた。
【0003】
PVA樹脂系接着剤の耐水性を向上させる一般的な方法については非特許文献1に記載されている。
【0004】
PVA樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂および架橋剤を含有する接着剤については木材用として特許文献1および特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開昭49−93446号公報
【特許文献2】特公平03−7230号公報
【非特許文献1】長野・山根・豊島 共著、「ポバール」、高分子刊行会、昭和56年4月1日、256−261頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、偏光素子、特にホウ素化合物を含む偏光素子と保護フィルムから構成される偏光板において、従来高温、高湿度雰囲気下において偏光素子と保護フィルムが容易に剥離するのを改善した、耐久性に優れた偏光板を提供するための偏光素子用接着剤を提供することを目的とする。更には、その偏光素子用接着剤を用いて得られる偏光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、偏光板の接着剤としてPVA樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂および架橋剤を含む接着剤を使用する事によりかかる課題が解決され、且つ十分なポットライフを持つ1液型接着剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、ポリビニルアルコール樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂および架橋剤を含有する偏光素子用水性接着剤に関する。
更に、本発明は、偏光素子に接着剤を介して保護フィルムを接着した偏光板において、該接着剤が上記の偏光素子用水性接着剤であることを特徴とする偏光板に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の偏光素子用水性接着剤を用いて偏光素子と保護フィルムを接着することにより、偏光素子と保護フィルム間の剥離の発生を抑制し、従来の偏光板では不可能であった高温、高湿度雰囲気下での使用および保管を可能とする。
また、偏光素子中のホウ素化合物の含有量を増やすことにより偏光板の耐熱性、耐高温高湿性、耐熱耐光性等を向上させることが出来るが、本発明の偏光素子用水性接着剤は、ホウ素化合物の含有量を増やしたことで接着性が低下した偏光素子と保護フィルムとの接着に特に優れた結果を与える。即ち、本発明の偏光素子用水性接着剤は、偏光素子中のホウ素化合物の含有量がホウ酸に換算して13〜25重量%程度の従来一般に使用されている偏光素子よりも、ホウ素化合物の含有量をホウ酸に換算して25〜40重量%程度に増加させた偏光素子に用いても、偏光素子と保護フィルムとの接着に特に優れた結果を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の偏光素子用水性接着剤は、PVA樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂および架橋剤を必須成分として含有する。
【0010】
本発明の偏光素子用水性接着剤に使用されるPVA樹脂は、変性PVA樹脂であってもよいしPVA樹脂と変性PVA樹脂の混合物であってもよい、変性PVA樹脂としては、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体、オレフィン類、ビニルエーテル類あるいは不飽和スルホン酸塩等と酢酸ビニルとの共重合物をケン化処理したもの、あるいはPVA樹脂にアルデヒド類、メチロール系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート類等を反応させたものも使用し得る。好ましくはカルボキシル基を有する変性PVA樹脂、より好ましくはアセトアセチル基を有する変性PVA樹脂が使用される。
【0011】
本発明の偏光素子用水性接着剤に使用されるPVA樹脂の平均ケン化度は85モル%以上、好ましくは98モル%以上である。該PVA樹脂の平均重合度は任意であるが、好ましくは500以上、さらに好ましくは1000〜5000である。
【0012】
本発明の偏光素子用水性接着剤に使用される無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂としては、無水マレイン酸とα−オレフィンとの共重合物が挙げられる。α−オレフィンとはα−位に炭素−炭素二重結合を有する直鎖状または分岐状のオレフィン、特に炭素数2〜12、とりわけ2〜8のオレフィンを意味する。使用し得るα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、n−ペンテン、イソプレン、2−メチル−1−ブテン、n−ヘキセン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ブテン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、2,5−ヘプタジエン、1,3−ヘプタジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン等が挙げられる。この中でも特にイソブチレンの共重合物が好ましく使用される。イソブチレンは、リターンB・B(イソブチレン、1−ブテン、2−ブテンなどの混合物)を使用してもよい。これらのオレフィンは単独で用いてもよく、あるいは2種以上併用してもよい。
無水マレイン酸とイソブチレンの共重合物の重量平均分子量は55,000〜350,000で好ましい。分子量が高すぎると接着剤粘度が高すぎて塗工性が悪くなる。分子量が低すぎると耐水性が出にくくなる。
【0013】
無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂は、無水マレイン酸と共にマレアミド酸もしくはその塩を構造中に含んでいてもよい。マレアミド酸もしくはその塩を構造中に導入する方法としては、無水マレイン酸をアミド化する方法、あるいはマレアミド酸もしくはその誘導体と共重合する方法いずれでもよい。
【0014】
無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂は、無水マレイン酸と共にマレイン酸イミド類を構造中に含んでいてもよい。マレイン酸イミド類を構造中に導入する方法としては、無水マレイン酸をイミド化する方法、あるいはマレイン酸イミド類と共重合する方法いずれでもよい。マレイン酸イミド類の具体例としては、マレイン酸イミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換アルキルマレイミド;N−メチルフェニルマレイミド、N−エチルフェニルマレイミド等のN−置換アルキルフェニルマレイミドあるいはN−メトキシフェニルマレイミド;N−エトキシフェニルマレイミド等のN−アルコキシフェニルマレイミド、更にはこれらのハロゲン化物、例えば、N−クロルフェニルマレイミドなどが挙げられる。これらの中でも、マレイン酸イミドが好ましい。
【0015】
無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂のうち水に容易に溶解するものは水のみでも溶媒として使用できるが、水に容易に溶解しないものあるいは水に不溶のものは塩基性物質を含む水に溶解して使用する。塩基性物質としては、アンモニア、アンモニアの炭酸塩、リン酸塩もしくは酢酸塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンその他のアルカノールアミン、脂肪族アミン、芳香族アミン等の有機アミン類;アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、酢酸塩等の無機塩が挙げられる。これらの内、アンモニア、アンモニアの炭酸塩、有機アミン類、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物もしくは炭酸塩が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0016】
本発明に使用される架橋剤としては、PVA樹脂および無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂と反応して架橋するものであればよく、エポキシ基を有する化合物が好ましいものとして挙げられる。架橋剤の具体例としては、例えばグリオキザール、ホルマリン、ホウ砂、ホウ酸、アジリジン、ジアルデヒドデンプン、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、ケトン・アルデヒド樹脂、グリシン、グリシジルエステル、グリシジルエーテル、ケテンダイマー、ジメチロール尿素、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム等が挙げられ、好ましくはポリオールのポリグリシジルエーテル、ジアミンのグリシジル付加物等である。
【0017】
本発明の偏光素子用水性接着剤におけるPVA樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂の含有割合は、重量比で、PVA樹脂の100に対して無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂は1〜1000であり、好ましくは10〜1000、より好ましくは50〜500である。PVA樹脂と架橋剤の含有割合は、重量比で、PVA樹脂の100に対して架橋剤は0.5〜5000であり、好ましくは1〜1000、より好ましくは5〜500である。
【0018】
本発明の偏光素子用水性接着剤は、上記のPVA樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂および架橋剤を上記の割合で水または塩基性物質を含む水に溶解することにより容易に調製することができる。樹脂および架橋剤を加えた濃度は、2〜30重量%が好ましく、2〜10重量%がより好ましい。
【0019】
本発明の偏光板は、偏光素子と保護フィルムを前記本発明の偏光素子用水性接着剤で接着したものである。本発明の偏光板に用いられる偏光素子は、PVA系樹脂フィルムが好ましく、特にPVA系樹脂フィルムの一軸延伸フィルムであるものが好ましく、フィルムに用いるPVA樹脂は通常ポリ酢酸ビニルをケン化して製造されるが、本発明では必ずしもこれに限定されるものではなく、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体、オレフィン類、ビニルエーテル類あるいは不飽和スルホン酸塩等の酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有していてもよい。PVA樹脂の平均ケン化度は85%以上、好ましくは98%以上が適している。本発明で使用されるPVA樹脂の平均重合度は任意のものが使用可能であり、通常1500以上、好ましくは2300〜5000である。
【0020】
本発明の偏光板に用いられる偏光素子の製造方法としては、通常、PVA系樹脂フィルムをヨウ素もしくは二色性染料の水溶液中で染色した後に湿式法あるいは乾式法で一軸延伸する方法が用いられる。染色と延伸を同時に行う方法、延伸後に染色を行う方法もしくは製膜時に二色性を有する物質を混合して作製したPVA系樹脂フィルムを延伸する方法によっても製造可能である。
【0021】
二色性染料としては公知の染料が使用可能であり、例えばシー.アイ.ダイレクト.イエロー12、シー.アイ.ダイレクト.イエロー28、シー.アイ.ダイレクト.イエロー44、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ26、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ39、シー.アイ.ダイレクト.オレンジ107、シー.アイ.ダイレクト.レッド 2、シー.アイ.ダイレクト.レッド 31、シー.アイ.ダイレクト.レッド 79、シー.アイ.ダイレクト.レッド 81、シー.アイ.ダイレクト.レッド 247 、シー.アイ.ダイレクト.グリーン80、シー.アイ.ダイレクト.グリーン59および特開昭59−145255号公報、特開昭60−156759号公報、特開平3−12606号公報、特開平11ー218610号公報、特開2001−33627号公報に記載された染料等が挙げられる。これらの色素は、通常、遊離酸、あるいはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン類の塩として用いられる。これらの色素は、単独で使用出来る他、必要に応じて二種以上併用してもよく、併用する色素に特に制限はなく、各色素が異なる波長領域に吸収特性を有し、且つ二色性の高いものが好ましい。
【0022】
本発明の偏光板に用いられるホウ素を含む偏光素子を作製する場合は、PVA系樹脂フィルムを染色前または染色後にホウ酸を含む水溶液中に浸漬する方法、ホウ酸を含有せしめた染色液に浸漬して染色と同時に行う方法などがある。本発明では染色後にホウ酸を含む水溶液中に浸漬する方法が好ましい。該PVA系樹脂フィルムを延伸する場合は、染色後に浸漬するホウ酸を含む水溶液中において一軸延伸することが好ましい。一軸延伸した後、更にホウ酸を含む水溶液に浸漬すると、一軸延伸によって得られた光学特性を変えることなくホウ酸濃度を制御する事ができる。この際水溶液中のホウ酸の濃度は1〜20重量%、液温は20〜80℃が好ましい。市販の偏光板のホウ素含有量は、ホウ酸濃度に換算して13〜25重量%程度であるが、25重量%以上とした場合、耐熱、耐光性が向上する。しかし偏光素子中に含まれるホウ素の含有量が過度に多くなると接着性は低下するため、ホウ酸濃度に換算して10〜40重量%であることが好ましい。耐熱性・耐光性を考慮する場合は25〜40重量%とすることが好ましい。ホウ素化合物としてはホウ砂等の使用も可能である。なお、上記のフィルム製造工程には必要に応じて水洗工程を加えることも可能である。
【0023】
本発明の偏光板は、上記の偏光素子の片面または両面に光学的透明度と機械的強度に優れた保護フィルムを本発明の偏光素子用接着剤を用いて貼り合わせることで得られる。保護フィルムとしては、二酢酸セルロースあるいは三酢酸セルロース等の酢酸セルロース系フィルム等の他、アクリル系フィルム、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン系共重合体のようなフッ素系フィルム、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、またはポリアミド系樹脂からなるフィルム等が用いられる。また、前記の樹脂からなるフィルムの表面をPVA樹脂等接着性を向上させる物質で前処理したフィルムを保護フィルムとして用いてもよい。さらに、該保護フィルムはそれ自身が位相差を持つフィルムや、液晶化合物等を塗布したフィルムなど位相差フィルム、視野角拡大フィルム等の働きを有するものであってもよい。前記の保護フィルムは表面をアルカリでケン化処理したり、コロナ放電、プラズマ放電、グロー放電、電子線処理あるいは高周波処理を行うと更に効果的である。前記の保護フィルム表面を偏光素子との接着性を向上させる物質で前処理することも可能である。
【0024】
本発明の偏光板は、その表面に、さらに透明な保護層を設けてもよい。保護層としては、例えばアクリル系やポリシロキサン系のハードコート層やウレタン系の保護層等が挙げられる。また、液晶表示装置の視認性をより向上させるために、この保護層の上にAR(反射防止)層、LR(反射低減)層あるいはAG(ギラツキ防止)層を単独もしくは複合して設けることも可能である。AR層、LR層として、例えば珪素酸化物、酸化チタンあるいはフッ化マグネシウム等の物質を蒸着またはスパッタリング処理によって形成することができ、またフッ素系物質を薄く塗布することにより形成することができる。AG層として、例えばハードコート層中にフィラーを分散させて形成することが出来る。なお、本発明の偏光板は、これと位相差板を貼付して楕円偏光板としても使用し得る。
【0025】
以下、実施例および試験例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において特に指定なき場合、部は重量部を、%は重量%を意味する。偏光素子中のホウ素化合物の含有量は、偏光素子を加熱下蒸留水に溶解し、水酸化ナトリウムによる中和滴定にて求めたホウ酸量に換算した。
【0026】
実施例1
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液50部、5.0%無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−18、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:300,000〜350,000)のアンモニウム水溶液50部とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521)1.25部を混合して本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで、平均重合度4000、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを遊離酸として式(1)
【化1】


で示される特開2001−33627号公報に記載の二色性染料、およびボウ硝を含む水溶液中に45℃にて4分間染色した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度58℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムをさらに室温の水槽に浸漬して洗浄を行い、70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。この偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを上記で得られた水性接着剤を用いて接着し、70℃で5分間更に100℃で5分間乾燥して本発明の偏光板を得た。この時偏光素子中のホウ素量はホウ酸濃度に換算して16%であった。
【0027】
実施例2
実施例1においてPVA樹脂水溶液濃度を4.0%、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂のアンモニウム水溶液濃度を4.0%とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0028】
実施例3
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液67部、5.0%無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−18、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:300,000〜350,000)のアンモニウム水溶液33部とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521)0.83部を混合して本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0029】
実施例4
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液17部、5.0%無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−18、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:300,000〜350,000)のアンモニウム水溶液83部とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521)2.08部を混合して本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0030】
実施例5
実施例1においてポリグリセロールポリグリシジルエーテルの添加量を0.25部とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0031】
実施例6
実施例1においてポリグリセロールポリグリシジルエーテルの添加量を2.5部とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0032】
実施例7
実施例1において接着後の乾燥温度を70℃で10分とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0033】
実施例8
実施例1においてPVA樹脂をアセトアセチル基を有する変性PVA樹脂(商品名:日本合成化学工業株式会社製Z−200H)とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0034】
実施例9
実施例1において架橋剤を1,3−ビス(N,N―ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(商品名:三菱ガス化学株式会社製TETRAD−C)とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0035】
実施例10
実施例1において無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂を、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:55,000〜65,000(商品名:株式会社クラレ製イソバン−04)とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0036】
実施例11
実施例1において無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂を無水マレイン酸の一部をマレイン酸イミドにした樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−310、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体における無水マレイン酸の一部をマレイン酸イミドにした共重合体で重量平均分子量:160,000〜170,000)とした以外は実施例1と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0037】
実施例12
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液50部、5.0%無水マレイン酸およびマレアミド酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−104、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体における無水マレイン酸の一部をマレアミド酸のアンモニウム塩にした共重合体で重量平均分子量:55,000〜65,000)の水溶液50部とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521)1.25部を混合して本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで、平均重合度4000、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを前記式(1)に示された二色性染料およびボウ硝を含む水溶液中で45℃にて染色した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度58℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムをさらに室温の水槽に浸漬して洗浄を行い、70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。この偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを上記で得られた接着剤を用いて接着し、70℃で5分間更に100℃で5分間乾燥して本発明の偏光板を得た。この時偏光素子中のホウ素量はホウ酸濃度に換算して16%であった。
【0038】
実施例13
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液50部、5.0%無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−18、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:300,000〜350,000)のアンモニウム水溶液50部とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521)1.25部を混合して本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで、平均重合度4000、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを前記式(1)に示される二色性染料およびボウ硝を含む水溶液中で45℃にて染色した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度58℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムを更にホウ酸5重量%、温度55℃の水溶液に5分間浸漬し、水洗後70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。この偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを上記接着剤を用いて接着し、70℃で5分間更に100℃で5分間乾燥して本発明の偏光板を得た。この時偏光素子中のホウ素濃度はホウ酸濃度に換算して26%であった。
【0039】
実施例14
実施例9で得られた本発明の接着剤を用い、実施例9における一軸延伸後のホウ酸処理を、ホウ酸8重量%、温度40℃の水溶液に5分間浸漬で行った以外は実施例8と同様に行い本発明の偏光板を得た。この時偏光素子中のホウ素濃度はホウ酸濃度に換算して29%であった。
【0040】
実施例15
実施例9で得られた本発明の接着剤を用い、実施例9における一軸延伸後のホウ酸処理を、ホウ酸8重量%、温度55℃の水溶液に5分間浸漬することにより行った以外は実施例9と同様に行い本発明の偏光板を得た。この時偏光素子中のホウ素濃度はホウ酸濃度に換算して32%であった。
【0041】
比較例1
平均重合度4000、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを前記式(1)に示される二色性染料及びボウ硝を含む水溶液中で45℃にて染色した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度58℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムをさらに室温の水槽に浸漬して洗浄を行い、70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。この偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを接着剤として5%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液を用いて接着し、70℃で10分間更に100℃で10分間乾燥して偏光板を得た。
【0042】
比較例2
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液50部、5.0%無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−18、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:300,000〜350,000)のアンモニウム水溶液50部を混合して、架橋剤を含まない偏光素子用接着剤を得た。ついで、平均重合度4000、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを前記式(1)に示される二色性染料及びボウ硝を含む水溶液中で45℃にて染色した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度58℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムをさらに室温の水槽に浸漬して洗浄を行い、70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。この偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを得られた前記接着剤を用いて比較例1と同様に行い、偏光板を得た。
【0043】
試験例1
実施例1から15および比較例1から2で得られた偏光板を、60℃の温水中に120時間浸漬して偏光板の接着性の耐水性試験を行った。表1に偏光板の接着性の耐水試験結果を示す。表中、○は変化なし、×は完全剥離を示す。
【表1】

【0044】
表1に示されるように、本発明の偏光素子用水性接着剤を使用した偏光板は偏光素子中のホウ素化合物のホウ酸に換算した含有量に拘わらず、60℃温水に120時間浸漬下での耐久性に優れたものであった。
【0045】
実施例16
5.0%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液50部、5.0%無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−18、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体で重量平均分子量:300,000〜350,000)のアンモニウム水溶液50部とポリグリセロールポリグリシジルエーテル(商品名:ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX−521)1.25部を混合して本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで、平均重合度4000、ケン化度99.9モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを、C.I.ダイレクトイエロー28、C.I.ダイレクトオレンジ39および遊離酸として式(2)
【化2】


に示される特開2003−215338号公報に記載の二色性染料およびボウ硝を含む水溶液中に45℃にて4分間染色した後、ホウ酸2重量%、温度50℃の水溶液中にて洗浄した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度57℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムをさらに室温の水槽に浸漬して洗浄を行い、70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。この偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを上記で得られた接着剤を用いて接着し、70℃で5分間更に100℃で5分間乾燥して本発明の偏光板を得た。この時偏光素子中のホウ素量はホウ酸濃度に換算して20%であった。
【0046】
実施例17
実施例16において無水マレイン酸およびマレアミド酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−104、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体における無水マレイン酸の一部をマレアミド酸のアンモニウム塩にした共重合体で重量平均分子量:55,000〜65,000)とした以外は実施例16と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0047】
実施例18
実施例16において無水マレイン酸およびマレアミド酸骨格を構造中に含む樹脂(商品名:株式会社クラレ製イソバン−110、無水マレイン酸とイソブチレンとの共重合体における無水マレイン酸の一部をマレアミド酸のアンモニウム塩にした共重合体で重量平均分子量:160,000〜170,000)とした以外は実施例16と同様に行い、本発明の偏光素子用水性接着剤を得た。ついで得られた接着剤を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0048】
比較例3
偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを5%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)の水溶液を接着剤として用いて接着した以外は、実施例16と同様に行い、偏光板を得た。
【0049】
試験例2
実施例16から18および比較例3で得られた接着剤について、接着剤溶液粘度をザーンカップ3番での接着剤溶液の落下時間により評価した。実施例16から18および比較例3で得られた偏光板については、偏光板を60℃の温水中に960時間浸漬および60℃100%RHの環境下にて700時間放置して接着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示されるように、本発明の偏光素子用水性接着剤を使用した偏光板は、60℃の温水耐水性試験および60℃100%RHの環境下での耐湿性試験においても接着性に優れていた。
【0052】
実施例19
平均重合度2400、ケン化度99.4モル%、厚さ75μmのPVA系フィルムを、ヨウ素とヨウ化カリウム及びホウ酸を含む水溶液中に45℃にて4分間染色した後、乾燥工程を経ずに、ホウ酸3重量%、温度50℃の水溶液中に導入し、該水溶液中で5倍に一軸延伸した。該フィルムをさらに室温の水槽に浸漬して洗浄を行い、70℃で10分間乾燥して偏光素子を得た。ついで得られた偏光素子を用いた偏光板を実施例1と同様に得た。
【0053】
比較例4
偏光素子とアルカリでケン化処理した三酢酸セルロースフィルムを5%PVA樹脂(平均重合度2600、ケン化度99.4モル%以上)水溶液を接着剤として用いて接着した以外は、実施例19と同様にして偏光板を得た。
【0054】
試験例3
実施例19および比較例4で得られた偏光板を60℃の温水中に1時間浸漬して偏光板の外周部分の接着性の評価を行った。結果を表3に示す
【表3】

【0055】
表3に示されるように、本発明の偏光素子用水性接着剤を使用した偏光板は、偏光板の外周部分の接着性においても優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の偏光素子用水性接着剤を使用した偏光板は耐久性、殊に高湿度雰囲気下での耐久性に優れる。これにより屋外で使用する表示器や結露し易い条件下で使用する表示器への使用が可能となる。また、熱帯、亜熱帯地域等の高温高湿度下での輸送あるいは保管時においても偏光板の劣化が無くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂および架橋剤を含有する偏光素子用水性接着剤。
【請求項2】
無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂が無水マレイン酸とイソブチレンの共重合物である請求項1に記載の偏光素子用水性接着剤。
【請求項3】
無水マレイン酸とイソブチレンの共重合物の重量平均分子量が55,000〜350,000である請求項2に記載の偏光素子用水性接着剤。
【請求項4】
架橋剤がエポキシ基を持つ化合物である請求項1から3のいずれか一項に記載の偏光素子用水性接着剤。
【請求項5】
ポリビニルアルコール樹脂が変性ポリビニルアルコール樹脂もしくはポリビニルアルコール樹脂と変性ポリビニルアルコール樹脂の混合物である請求項1から4のいずれか一項に記載の偏光素子用水性接着剤。
【請求項6】
重量比で、ポリビニルアルコール樹脂100に対して、無水マレイン酸骨格を構造中に含む樹脂を1〜1000、架橋剤を0.5〜5000の割合で含有する請求項1から5のいずれか一項に記載の偏光素子用水性接着剤。
【請求項7】
偏光素子に接着剤を介して保護フィルムを接着した偏光板において、該接着剤が請求項1から6のいずれか一項に記載の偏光素子用水性接着剤であることを特徴とする偏光板。
【請求項8】
保護フィルムが酢酸セルロース系フィルムである請求項6に記載の偏光板。
【請求項9】
偏光素子がポリビニルアルコール系樹脂フィルムであり、且つ偏光素子中のホウ素がホウ酸に換算して10〜40重量%である請求項6または7に記載の偏光板。

【国際公開番号】WO2005/085383
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510725(P2006−510725)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003633
【国際出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(594190998)株式会社ポラテクノ (30)
【Fターム(参考)】