説明

偏光素膜又は偏光板

【課題】熱、湿度に対して耐久性に優れた偏光板を提供する。
【解決手段】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも酢酸ナトリウムといった緩衝剤、さらには硫酸アルミニウムといった無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有した溶液で処理してなる偏光素膜を用いる。この偏光素膜を用いて作製した偏光板は、高温あるいは高温高湿雰囲気下に長時間放置しても、透過率や偏光度変化が少なく、優れた耐久性を有する。この偏光板を用いた画像表示装置、特に液晶ディスプレイは偏光板の劣化に伴う表示画像の視認性低下が抑えられ、長期間安定して画像を表示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた偏光素膜及び偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光素膜は一般に、二色性色素であるヨウ素又は二色性を有する染料をポリビニルアルコール系樹脂フィルムに吸着配向させ製造されている。この偏光素膜の少なくとも片面に接着剤層を介してトリアセチルセルロースなどの保護フィルムを貼合して偏光板とされ、液晶表示装置などに用いられる。二色性色素としてヨウ素を用いた偏光板はヨウ素系偏光板と呼ばれ、一方、二色性色素として二色性染料を用いた偏光板は染料系偏光板と呼ばれる。これらのうち、ヨウ素系偏光板は、染料系偏光板に比べ、高透過率で高偏光度、すなわち高コントラストを示すことから、一般的な液晶モニター、液晶テレビ、携帯電話、PDAなどに広く用いられている。しかしながら、ヨウ素系偏光板は光学特性の面では染料系偏光板に勝っているものの、高温あるいは高温高湿雰囲気下に長時間放置した際の光学特性の安定性、即ち耐久性の面では染料系偏光板に劣っており、特に、ヨウ素系偏光板は高温あるいは高温高湿雰囲気下長時間に放置すると、透過率や偏光度が大きく変化するなどの問題が生じていた。この耐久性を向上させる方法として、例えば、特許文献1や特許文献2のように亜鉛塩でポリビニルアルコール自体を処理したもの、特許文献3のように接着剤に亜鉛塩を含有させ亜鉛処理する方法が提案されている。また、近年では、染料系偏光板でもプロジェクター用途としてさらなる高耐熱化が進んでおり、特許文献4のように染料の改良によってその熱による劣化を改善する方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−29043
【特許文献2】特開2003−270439
【特許文献3】特開2003−50318
【特許文献4】特開2001−108828
【特許文献5】特開9−230142
【特許文献6】特開平5−17697
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法を用いても十分に改善されてはおらず、さらなる耐久性の向上が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前期課題を解決すべく鋭意検討の結果、二色性色素を含有したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも一種以上の緩衝剤及びホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有しているpH1〜8に調整された溶液で処理してなる偏光素膜より得られる偏光板において、その耐久性を大幅に改善できることを新規に見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
(1)二色性色素を含有するポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも1種以上の緩衝剤、及びホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有するpH1〜8に調整された溶液で処理して得られる偏光素膜、
(2)少なくとも1種以上の緩衝剤とホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸とともに、塩化物又はヨウ化物が含有されている(1)に記載の溶液で処理して得られる偏光素膜、
(3)ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを染色する二色性色素がヨウ素である(1)又は(2)に記載の偏光素膜、
(4)無機酸塩が硫酸アルミニウムであることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の偏光素膜、
(5)緩衝剤が酢酸ナトリウムであり、3.0<pH<6.5で調整されたことを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の偏光素膜、
(6)(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の偏光素膜の少なくとも片面に接着剤あるいは粘着剤を介して保護層を設けた偏光板、
(7)接着剤中に少なくとも緩衝剤を含有していることを特徴とする(6)に記載の偏光板、
(8)緩衝剤を含有した溶液でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理する工程を含むことを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の偏光素膜の製造方法、
(9)二色性色素を含有する延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも1種以上の緩衝剤とホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有している溶液で処理する工程を経て乾燥することを特徴とする、(8)に記載の偏光素膜の製造方法、
(10)(1)乃至(7)のいずれか一項に記載の偏光素膜又は偏光板を有する画像表示装置、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の偏光素膜を用いて作製した偏光板を用いることにより、高温あるいは高温高湿雰囲気下に長時間放置しても透過率や偏光度の変化を抑えることができる。又、本発明の偏光板を用いた画像表示装置は、耐久性に優れているため長期間安定して画像を表示することができる。一方で、偏光素膜の製造において緩衝剤によって処理溶液のpHが安定化するために、処理溶液の経時変化が少なくなり、偏光素膜製造時の処理斑および得られる偏光素膜の光学特性の面内バラツキ、製造経時バラツキを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
偏光素膜を構成するポリビニルアルコール系樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で作製することができる。製造方法として、例えば、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得ることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルと共重合する他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類又は不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%程度であり、95モル%以上が好ましい。このポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性したポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用できる。またポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000が好ましく、1,500〜5,000がより好ましい。
【0008】
ポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されるものでなく、公知の方法で製膜することができる。この場合、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムには可塑剤としてグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール又は低分子量ポリエチレングリコールなどが含有していても良い。可塑剤量は該ポリビニルアルコール系樹脂に対して5〜20wt%が好ましく、8〜15wt%がより好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの膜厚は特に限定されないが、5〜150μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
【0009】
本発明の偏光素膜を作製する方法としては、例えば、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤する工程、次いで二色性色素を含有させる染色工程、次いで必要に応じて耐水化処理工程を行い、次いで延伸工程、次に後処理工程、最後に乾燥工程を経て作製する方法が挙げられる。まず、膨潤する工程は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを20〜50℃の溶液に15秒〜10分間浸漬させることによって達成される。その際の溶液は水が好ましいが、グリセリン、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール又は低分子量ポリエチレングリコールなどの水溶性有機溶剤、又は水と水溶性有機溶剤との混合溶液でも良い。膨潤する工程においても皺や折れ込みの発生を防ぐために、適度に延伸していることが好ましく、その延伸倍率は1.00〜1.50倍が好ましく、1.10〜1.35倍がより好ましい。偏光素膜を作製する時間を短縮する場合には、ヨウ素、ヨウ化物処理時、染料の染色工程でも膨潤効果が得られるのでこの工程を省略しても良い。
【0010】
次に、膨潤した前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素を含有する溶液で染色する(染色工程)。溶液の溶媒としては水が好ましいが、特に限定されるものではない。二色性色素としては、例えば、ヨウ素とヨウ化物との混合溶液から得られる多ヨウ素イオンや、アゾ系、アントラキノン系の二色性染料等が挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化コバルト又はヨウ化亜鉛などが用いることが出来るが、限定されるものではない。ヨウ素とヨウ化物の混合溶液中のヨウ素濃度は0.0001〜0.5wt%が好ましく、0.001〜0.4wt%がより好ましい。ヨウ化物濃度は0.0001〜8wt%が好ましい。二色性染料としては例えば、特許文献5に記載のアゾ系染料や、特許文献6に記載のアントラキノン系染料などが挙げられる。染料については限定されず、公知の二色性染料を用いて良い。染料濃度は特に限定されるものではないが、例えば、0.006〜0.3wt%程度が好ましい。染色性が不十分な場合には、トリポリリン酸ナトリウム及び/又は芒硝(硫酸ナトリリウム)などの着色助剤を添加して染色を行うのが好ましい。また、染色温度は、5〜50℃が好ましく、5〜40℃がより好ましく、10〜30℃で処理するのが特に好ましい。染色時間は、得られる偏光素膜の透過率等に応じて適宜調節できるが、30秒〜6分好ましく、1〜5分がより好ましい。この工程においても、皺や折れ込みの発生を防ぐために、適度に延伸することが好ましく、その延伸倍率は0.90〜2.00倍が好ましく、1.00〜1.30がより好ましい。
【0011】
前記染色工程において、前記二色性色素を含有する溶液に架橋剤及び/又は耐水化剤を添加しても良い。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂又はホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどの多価アルデヒド、ビウレット型、イソシアヌレート型、ブロック型などの多価イソシアネート系化合物、チタニウムオキシサルフェイトなどのチタニウム系化合物などを用いることができるが、他にもエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロルヒドリンなどを用いることができる。耐水化剤としては、過酸化コハク酸、過硫酸アンモニウム、過塩素酸カルシウム、ベンゾインエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、塩化アンモニウム又は塩化マグネシウムなどが挙げられる。架橋材としては、ホウ酸が好ましい。添加する濃度は、例えば、ホウ酸の場合には二色性色素を含有する溶液に対して0.1〜5.0wt%が好ましく、2〜4wt%がより好ましい。さらに必要に応じて、前記染色工程の後、次の延伸工程に入る前に二色性色素を含有したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄しても良い。洗浄を行う溶剤は、一般的には水が用いられるが、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、グリセリン又はそれら混合溶媒などが用いることができ、特に限定はされない。また、洗浄する際の温度や時間は、目的とする偏光素膜の透過率や、用いる二色性色素の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0012】
染色工程においてポリビニルアルコール系樹脂フィルムを染色処理した後、必要に応じて耐水化処理工程にて、架橋剤及び/又は耐水化剤を含有する溶液による処理を行う。架橋剤及び/又は耐水化剤としては前記ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどの多価アルデヒド、ビウレット型、イソシアヌレート型、ブロック型などの多価イソシアネート系化合物、チタニウムオキシサルフェイトなどのチタニウム系化合物、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロルヒドリン、過酸化コハク酸、過硫酸アンモニウム、過塩素酸カルシウム、べンゾインエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、塩化アンモニウム又は塩化マグネシウムなどが挙げられる。その際の溶媒として、例えば、水、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、グリセリン又はそれら混合溶媒などが用いることができる。架橋剤及び/又は耐水化剤の濃度は、例えばホウ酸水溶液の場合、該溶液中に0.1〜6.0wt%程度の濃度が好ましく、2〜4wt%がより好ましい。この工程での処理温度は、5〜60℃が好ましく、5〜45℃がより好ましい。処理時間は1〜5分程度が好ましい。この工程においても、皺や折れ込みの発生を防ぐために、適度に延伸することが好ましく、その延伸倍率は0.95〜1.5倍程度が好ましい。
【0013】
次に、二色性色素を含有し、さらには、必要に応じて耐水化処理を施したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを1軸延伸する(延伸工程)。延伸方法は湿式延伸法又は乾式延伸法のどちらでも良い。
【0014】
乾式延伸法の具体的方法としては例えば、ロール間ゾーン延伸法、ロール加熱延伸法、圧延伸法、赤外線加熱延伸法などが挙げられるが、特に限定されない。延伸する際の温度は、常温〜180℃、湿度は20〜95%RH程度が好ましい。延伸は1段で行っても良く、2段処理以上の多段延伸でも良い。
【0015】
湿式延伸法は、水、水溶性有機溶剤、又はその混合水溶液中で延伸を行う方法であるが、好ましくは該水、水溶性有機溶剤、又はその混合水溶液中には、前記ホウ酸、ホウ砂、ホウ酸アンモニウムなどのホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどの多価アルデヒド、ビウレット型、イソシアヌレート型、ブロック型などの多価イソシアネート系化合物、チタニウムオキシサルフェイトなどのチタニウム系化合物、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリアミドエピクロルヒドリン、過酸化コハク酸、過硫酸アモンモニウム、過塩素酸カルシウム、べンゾインエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、塩化アンモニウム又は塩化マグネシウムなどの架橋剤及び/又は耐水化剤を含有した溶液中で浸漬しながら延伸処理することが好ましく、ホウ酸水溶液中にて延伸するのがより好ましい。架橋剤及び/又は耐水化剤の濃度は、0.5〜8wt%が好ましく、2.0〜4.0wt%がより好ましい。延伸倍率は3〜8倍が好ましく、5〜7倍がより好ましい。延伸温度は40〜60℃が好ましく、45〜55℃がより好ましい。延伸時間は30秒〜20分が好ましく、2〜5分がより好ましい。延伸処理は1段でも良いし、2段以上の多段延伸であっても良い。
【0016】
延伸された二色性色素を含有したポリビニルアルコール系樹脂フィルムは該フィルム表面に異物の析出、又は異物が付着することがあるため洗浄しても良い。洗浄を行う溶剤は、水、アルコール系溶剤等を用いることができるが、限定されるものではない。洗浄溶剤には、フィルムの耐久性向上を目的として、ホウ酸のような架橋剤及び/又は耐水化剤を含有しても良い。その際の濃度は限定されないが、例えば0.1〜10wt%が好ましい。
【0017】
次に、色相の調整、偏光特性の向上、耐久性の向上のために後処理工程を行う。具体的には、二色性色素を含有し、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを塩化物又はヨウ化物を含有する溶液にて処理を行う。塩化物又はヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化コバルト又はヨウ化亜鉛といったヨウ化物、塩化亜鉛、塩化カリウム又は塩化ナトリウムといった塩化物などが挙げられ、この中の1種、もしくは2種以上を溶液に混合して処理を行う。溶液中の塩化物又はヨウ化物の濃度は0.5〜15wt%が好ましく、3〜8wt%がより好ましい。この工程においても、皺や折れ込みの発生を防ぐために、適度に延伸することが好ましく、その際の延伸倍率は0.90〜1.10倍が好ましい。また処理温度は、例えば5〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。処理時間は、例えば、1秒〜5分が好ましく、5〜30秒がより好ましい。この工程において、前記架橋剤及び/又は耐水化剤を添加しても良い。添加する濃度は、0.5〜10wt%が好ましい。
【0018】
本発明の偏光素膜は、ホウ酸を含有しないいずれかの工程、あるいはホウ酸を含まない複数の工程において使用する各溶液に、さらに少なくとも1種以上の緩衝剤およびホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有している溶液でpHを1.0〜8.0、好ましくは1.5〜7.0、より好ましくは3.0〜6.5になるように調節された溶液の状態で処理されていることを特徴とする。ホウ酸を含有せずに緩衝剤を含有した溶液処理する工程を具体的に示すと、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを膨潤する工程、膨潤後に架橋剤及び/または耐水化剤であるホウ酸を添加しない2色性色素を含有させる工程、ホウ酸を含まない溶液での湿式延伸工程、ホウ酸を含まない溶液での延伸後の洗浄工程、ホウ酸を含まない溶液での後処理工程を示す。以上のいずれかの工程、または複数の工程において緩衝剤を適用することにより本発明の偏光素膜が得られる。緩衝剤を用いることで、溶液のpHは経時しても変化なく、かつ特性バラツキのない偏光素膜が得られる。また、この溶液で処理することにより、最終的に得られる本発明の偏光板の耐久性を大幅に向上させることができる。この緩衝剤を含む溶液での処理は、前記後処理工程後、さらに緩衝剤を添加したpHを1〜8になるように調節されている溶液で処理しても良いが、前記延伸処理後の後処理工程において、緩衝剤を添加し、pHを1.0〜8.0、好ましくは1.5〜7.0、より好ましくは3.0〜6.5になるように調節されている塩化物またはヨウ化物を含有する溶液で処理することが好ましく、該後処理工程において後述する無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸と緩衝剤を添加し、pHを1.0〜8.0、好ましくは1.5〜7.0、より好ましくは3.0〜6.5になるように調節されている塩化物またはヨウ化物を含有する溶液で処理することがさらに好ましい。
【0019】
緩衝剤とは、ある溶液に添加することで、該溶液のpHをある程度の範囲で安定に保つ機能を有する化合物である。pHを1〜8のある程度の範囲で安定化させる緩衝剤とその物質の安定化するpH範囲(物質名に続いて[ ]に記載)としては、例えば、塩化カリウム[1.0<pH<2.2]、フタル酸水素カリウム[2.2<pH<5.8]、リン酸二水素カリウム[5.8<pH<8.0]、酢酸ナトリウム[3.0<pH<6.5]、酢酸アンモニウム[3.0<pH<6.0]、酢酸カルシウム[3.0<pH<6.0]、グリシン[1.0<pH<4.7]、フタル酸一カリウム[2.2<pH<3.8]、コハク酸[3.8<pH<6.0]、クエン酸一カリウム[2.1<pH<6.0]が挙げられ、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム又は酢酸カルシウムが好ましく、酢酸ナトリウムがより好ましい。これら緩衝剤をいずれか1つ、または複数を所望とするpHの溶液中に添加することで、該pHを安定化することができ、また複数の緩衝剤を組み合わせて、1種だけで限定されていたpH領域以上の領域でも溶液を安定化させることが可能である。緩衝剤の添加量は、後述する無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸の濃度よっても異なるが、無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸に対して1〜200wt%程度が好ましい。
【0020】
pHを1〜8、好ましくは1.5〜7.0.より好ましくは3.0〜6.5になるように調節するための無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸としては、一般的な水溶液中で酸性を示す物質を用いることができる。例えば、無機酸若しくはその塩としては、硫酸、塩酸、硝酸又はギ酸などの液状無機酸若しくはその塩を用いることが出きる。他にも硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム又は硝酸アルミニウムなどの固体の無機酸若しくはその塩を溶解して用いることができる。有機酸としては、クエン酸、クロロ酢酸、酢酸、シュウ酸、グルタル酸、アミノ酸、リンゴ酸又は酒石酸などのカルボン酸、α―ヒドロキシ酸が挙げられるが、硫酸アルミニウムが特に好ましい。また、前記無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸はいずれか1つ、または2つ以上併用しても良い。
【0021】
これら無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸はホウ酸を含まない溶液で処理する前記各工程のいずれか、あるいはホウ酸を含まない複数の工程において使用される溶液に添加されていても良いが、後処理工程で用いるホウ酸が含有されてない溶液に添加するのが良い。特に、硫酸アルミニウムと酢酸ナトリウムとを後処理工程で塩化物またはヨウ化物と共に添加した溶液で、延伸された二色性色素を含有したポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理することにより、高温雰囲気下における耐久性のみならず、高温高湿雰囲気下における耐久性をも大きく向上するため、特に好ましい。
【0022】
上記、後処理工程の後、乾燥工程を経て本発明の偏光素膜が得られる。乾燥する方法としては、例えば、自然乾燥、ロールによる圧縮やエアーナイフ、または吸水ロール等によって表面の水分を除去する方法、加熱による乾燥などが挙げられる。加熱乾燥の場合の乾燥温度としては、20〜90℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。乾燥時間は30〜20分程度が好ましく、2〜10分がより好ましい。この乾燥工程においても、乾燥に伴うポリビニルアルコール系樹脂フィルムの収縮による皺やスジの発生を防ぐために、適度に延伸するのが好ましく、その際の延伸倍率は0.95〜1.10倍が好ましい。
【0023】
以上の工程を経て得られた本発明の偏光素膜は、その少なくとも片面、または両面に透明保護層を設けることによって本発明の偏光板が得られる。透明保護層は該保護層を形成するポリマーやフィルムを本発明の偏光素膜に塗布あるいはラミネートによって設けることができる。透明保護層を形成する透明ポリマーまたはフィルムとしては、機械的強度が高く、熱安定性が良好な透明ポリマーまたはフィルムが良い。さらに、好ましくは水分遮断性が優れるものが良い。透明保護層として用いる物質として、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなセルロースアセテート樹脂またはそのフィルム、アクリル樹脂またはそのフィルム、ポリエステル樹脂またはそのフィルム、ポリアリレート樹脂またはそのフィルム、ノルボルネンのような環状オレフィンをモノマーとする環状ポリオレフィン樹脂またはそのフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、シクロ系ないしはノルボルネン骨格を有するポリオレフィンまたはその共重合体、主鎖または側鎖がイミド及び/又はアミドの樹脂またはポリマーまたはそのフィルムなどが挙げられる。さらに、ポリビニルアルコール系樹脂は一般的に配向膜として、機能することが知られているので、得られた偏光素膜の表面に、例えばラビング処理、または配向膜塗布及び配向処理などを適用し、液晶性を有する樹脂またはそのフィルムを設けても良い。保護フィルムの厚みは、例えば、0.5〜200μm程度である。これらのフィルムを偏光素膜の両面に設ける場合、同じフィルムを用いても良いし、異なるフィルムを用いても良い。
【0024】
またこの保護層を設けたフィルムは、一方の表面、すなわち、保護層またはフィルムの露出面に、反射防止層や防眩層、ハードコート層、視野角改善及び/又はコントラスト改善のための液晶塗工層などの公知の各種機能性層を有していてもよい。また、位相差を有するフィルムを積層しても良い。
【0025】
前記透明保護層であるフィルムを本発明の偏光素膜とラミネートする場合、接着剤を用いてラミネートすることが好ましい。接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系接着剤が挙げられる。ポリビニルアルコール系接着剤として、例えば、ゴーセノールNH-26(日本合成社製)、エクセバールRS-2117(クラレ社製)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。接着剤には、架橋剤及び/又は耐水化剤を添加しても良い。また、接着剤に無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を0.0001〜20wt%の濃度で含有しても良く、0.02〜5wt%を含有するのが好ましい。ポリビニルアルコール系接着剤には、無水マレイン酸-イソブチレン共重合体のみ/かつ架橋剤を混合させた接着剤を用いることができる。無水マレイン酸-イソブチレン共重合体として、例えば、イソバン#18(クラレ社製)、イソバン#04(クラレ社製)、アンモニア変性イソバン#104(クラレ社製)、アンモニア変性イソバン#110(クラレ社製)、イミド化イソバン#304(クラレ社製)、イミド化イソバン#310(クラレ社製)などが挙げられる。その際の架橋剤には水溶性多価エポキシ化合物を用いることができる。水溶性多価エポキシ化合物とは、例えば、デナコールEX-521(ナガセケムテック社製)、テトラット-C(三井ガス化学社製)などが挙げられる。また、接着剤の添加物として、前記、緩衝剤や無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸、亜鉛化合物、塩化物またはヨウ化物等、より好ましくは前記、緩衝剤や無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を接着剤成分に対し0.01〜10wt%程度の濃度で含有させることにより、同様に耐久性を向上させることができる。透明保護層であるフィルムと本発明の偏光素膜を前記接着剤で貼り合せた後、加熱乾燥、さらには熱処理することによって接着することができる。
【0026】
こうして得られた本発明の偏光板は高温あるいは高温高湿雰囲気下に長時間放置しても、透過率や偏光度の変化が少なく、耐久性に優れるため、長期間安定した性能を維持できる。さらに、本発明の偏光板を液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンス表示装置、CRT等に用いることにより、本発明の画像表示装置が得られる。特に、液晶ディスプレイの場合、本発明の偏光板フィルムを液晶ディスプレイを構成する液晶セルの両側に必要に応じて位相差フィルムと共に粘着剤で貼り合せることにより、本発明の液晶ディスプレイが得られる。こうして得られた画像表示装置、特に液晶ディスプレイは偏光板の劣化に伴う表示画像の視認性低下が抑えられ、長期間安定して画像を表示することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例に示す透過率、偏光度の評価は以下のようにして行った。
【0028】
偏光素膜の両面に保護膜を貼合して得た2枚の偏光板を、その吸収軸方向が同一となるように重ねた場合の透過率を平行位透過率Tp 、2枚の偏光板をその吸収軸が直交するように重ねた場合の透過率を直交位透過率Tc とした。
【0029】
透過率Tは、380〜780nmの波長領域で、所定波長間隔dλ(ここでは10nm)おきに分光透過率τλを求め、下式(I)により算出した。式中、Pλは標準光(C光源)の分光分布を表し、yλは2度視野等色関数を表す。
【0030】
式(1)

【0031】
分光透過率τλは、分光光度計〔日立社製“U-4100”〕を用いて測定した。
【0032】
偏光度Py は、平行位透過率Tp 及び直交位透過率Tc から、下式(2)により求めた。
【0033】
Py={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100 式(2)
【0034】
水溶液のpHは、(株)アズワン社製 pH Controller “PP-01”を用いて測定した。
実施例1
【0035】
A)偏光素膜の作製
1)膨潤工程
ケン化度99%以上の平均重合度2400のポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製 VF-XS)を40℃の温水に2分浸漬しながら1.30倍延伸した。
2)染色工程
1)のフィルムを、ホウ酸(Societa Chimica Larderello s.p.a.社製)28.6g/l, 沃素(純正化学社製)0.25g/l, ヨウ化カリウム(純正化学社製) 17.7g/l, ヨウ化アンモニウム(純正化学社製) 1.0g/lを含有した水溶液により30℃で2分浸漬した。
3)延伸工程
2)のフィルムを、ホウ酸30.0g/l含有した50℃の水溶液中で5分間かけて5.0倍一軸延伸した。
4)後処理工程
3)のフィルムを緊張状態を保ちつつ、ヨウ化カリウム 60g/l、硫酸アルミニウム14〜18水和物(和光純薬工業社製)7.0g/l、酢酸ナトリウム(純正化学社製)5.0g/lに調整したpH4.3の水溶液で30℃に保ちつつ15秒間浸漬した。
5)乾燥工程
4)のフィルムを70℃で9分間加熱乾燥して本発明の偏光素膜を得た。
B)偏光板の作製
A)で作製した本発明の偏光素膜の両側にアルカリ処理したトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製 TD-80U)をポリビニルアルコール系接着剤を用いてラミネートし、70℃で10分間加熱して本発明の偏光板を得た。
C)偏光板の耐久性試験
B)で得られた偏光板40mmx40mmにカットし、アクリル系粘着剤を用いて1mmのガラス板と貼り合わせた。次に温度90℃の雰囲気下(乾熱試験)及び/又は温度65℃、相対湿度93%の雰囲気下(湿熱試験)に18日(432時間)間放置し、それぞれの放置前後における偏光板の透過率及び偏光度を測定した。乾熱試験の結果を表1、湿熱試験の結果を表2に示した。
実施例2
【0036】
硫酸アルミニウム14〜18水和物の添加量を4.0g/l、酢酸ナトリウムの添加量を1g/lにし、水溶液のpHを3.40にした以外は、実施例1と同様の操作により本発明の偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例1と同様に乾熱試験及び湿熱試験を行った。乾熱試験の結果を表1、湿熱試験の結果を表2に示した。
実施例3
【0037】
硫酸アルミニウム14〜18水和物の添加量を4.0g/l、酢酸ナトリウムの添加量を6.0g/lにし、水溶液のpHを4.98にした以外は、実施例1と同様の操作により本発明の偏光板を得た次にこの偏光板を用いて実施例1と同様に乾熱試験を行った。結果を表1に示した。
実施例4
【0038】
硫酸アルミニウム14〜18水和物を硫酸に代えて、0.2g/l添加し、水溶液のpHを6.17にした以外は、実施例1と同様の操作により本発明の偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例1と同様に乾熱試験を行った。結果を表1に示した。
実施例5
【0039】
延伸後に得られたフィルムを硫酸アルミニウム14〜18水和物4.0g/lのみを添加し水溶液のpHを2.8として、支持体を設けるための接着剤にポリビニルアルコール系接着剤NH-26(日本合成社製)4.0wt%のNH-26成分に対して酢酸ナトリウム1wt%添加した以外は、実施例1と同様の操作により本発明の偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例1と同様に乾熱試験を行った。結果を表1に示した。
比較例1
【0040】
酢酸ナトリウムを添加せずに、溶液のpHを2.8にして処理した以外は、実施例1と同様の操作により偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例1と同様に乾熱試験を行った。結果を表1に示した。
比較例2
【0041】
酢酸ナトリウムを添加せずに、水溶液のpHを3.3にして処理した以外は、実施例2と同様の操作により本発明の偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例2と同様に乾熱試験を行った。結果を表1に示した。
比較例3
【0042】
硫酸アルミニウム、酢酸ナトリウムを添加せずに、水溶液のpHを7.0にした以外は、実施例1と同様の操作により本発明の偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例1と同様に乾熱試験及び湿熱試験を行った。乾熱試験の結果を表1、湿熱試験の結果を表2に示した。
比較例4
【0043】
酢酸ナトリウムを添加せずに、水溶液のpHを1.74にした以外は、実施例5と同様の操作により本発明の偏光板を得た。次にこの偏光板を用いて実施例5と同様に乾熱試験を行った。結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1から分かるように、実施例と比較例を比較すると、緩衝剤を用いた本発明の偏光板は、乾熱試験前後において透過率及び偏光度の変化が少なく、高温雰囲気下における耐久性に優れていることが分かる。また、実施例1、2及び比較例3の結果から分かるように、後処理工程において、硫酸アルミニウムと酢酸ナトリウムを添加したヨウ化カリウム水溶液で処理して得られた本発明の偏光板は湿熱試験において優れた耐久性を有しており、高温高湿雰囲気下での耐久性に優れていることが分かる。
【0047】
以上の説明から明らかなように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも1種以上の緩衝剤を含有した処理してなる偏光素膜を用いた偏光板は耐久性に優れているため、長期間安定した性能を維持できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性色素を含有するポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも1種以上の緩衝剤、及びホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有するpH1〜8に調整された溶液で処理して得られる偏光素膜。
【請求項2】
少なくとも1種以上の緩衝剤とホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸とともに、塩化物又はヨウ化物が含有されている請求項1に記載の溶液で処理して得られる偏光素膜。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを染色する二色性色素がヨウ素である請求項1又は2に記載の偏光素膜。
【請求項4】
無機酸塩が硫酸アルミニウムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏光素膜。
【請求項5】
緩衝剤が酢酸ナトリウムであり、3.0<pH<6.5で調整されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の偏光素膜。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の偏光素膜の少なくとも片面に接着剤あるいは粘着剤を介して保護層を設けた偏光板。
【請求項7】
接着剤中に少なくとも緩衝剤を含有していることを特徴とする請求項6に記載の偏光板。
【請求項8】
緩衝剤を含有した溶液でポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の偏光素膜の製造方法。
【請求項9】
二色性色素を含有する延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、少なくとも1種以上の緩衝剤とホウ酸を除く1種以上の無機酸若しくはその塩及び/又は有機酸を含有している溶液で処理する工程を経て乾燥することを特徴とする、請求項8に記載の偏光素膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の偏光素膜又は偏光板を有する画像表示装置。