説明

偏光膜、偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びに偏光膜を有する有機EL表示装置

【課題】厚みが10μm以下の光学特性の高い有機EL表示装置用偏光膜を提供する。
【解決手段】二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの有機EL表示装置用偏光膜であって、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、T≧42.5、およびP≧99.5の条件を満足する光学特性を有するようにされたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜、偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びに偏光膜を有する有機EL表示装置に関する。特に、本発明は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる、厚みが10μm以下の偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を有する有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム状に製膜したポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」という。)の単層体に染色処理及び延伸処理を施すことにより、PVA系樹脂の分子が延伸方向に配向され、該PVA系樹脂内に二色性物質が配向状態で吸着された、PVA系樹脂層からなる偏光膜の製造方法はよく知られている。このPVA系樹脂単層膜を使用する従来の方法により得られる偏光膜の厚みは、ほぼ15〜35μmである。この方法によれば、単体透過率が42%以上で、偏光度が99.95%以上の光学特性を有する偏光膜を得ることができ、この方法で製造された偏光膜は、現在では、テレビ、携帯電話機、携帯情報端末その他の光学的表示装置に使用されている。
【0003】
しかし、PVA系樹脂は親水性であり、高い吸湿性を有するため、PVA系樹脂を用いて製造された偏光膜は、温度や湿度の変化に敏感であり、周囲の環境変化により伸縮を生じ易く、そのためクラックが発生し易い、という傾向がある。また、使用中の環境変化によって生じる伸縮は、該偏光膜が接合される隣接部材に応力を生じさせ、該隣接部材に反り等の変形を生じることになる。
【0004】
したがって、偏光膜の伸縮を抑制し、温度や湿度の影響を軽減するために、通常は、テレビ、携帯電話機、携帯情報端末等の光学的表示装置用の偏光フィルムとしては、偏光膜の両面に、保護フィルムとして40〜80μmのTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムが貼り合された積層体が用いられる。そのような構成によっても、単層体による偏光膜を用いる場合には、偏光膜の薄膜化に限界があるので、伸縮力は無視できず、伸縮の影響を完全に抑制することは困難であり、偏光膜を含む光学フィルム積層体にある程度の伸縮を生じるのは避けられない。こうした偏光膜を含む光学フィルム積層体に伸縮が生じると、その伸縮に起因する応力が、隣接する部材に反り等の変形を生じさせることになる。この変形は、たとえ微小であっても、表示装置に表示ムラを発生させる原因となる。したがって、この表示ムラの発生を低減させるために、偏光膜を含む光学フィルム積層体に使用される部材の材料を注意深く選択する、といった設計上の配慮が必要になる。また、偏光膜の収縮応力が、表示パネルからの光学フィルム積層体の剥離等の原因となるために、該光学フィルム積層体を表示パネルに接合するには、高接着力の粘着剤が要求されることになる。しかしながら、このような高接着力の粘着剤を使用すると、表示パネルに貼り合せた光学フィルム積層体の偏光膜に光学的な欠陥があることが後の検査で発見されたときに、該光学フィルム積層体を表示パネルから剥がして、該表示パネルに別の光学的フィルム積層体を貼り合せる作業である、リワークが困難になる、という問題があった。これらの問題は、液晶表示パネルの両面に偏光膜を含む光学フィルム積層体が配置される液晶表示装置においては、両面での偏光膜の収縮応力が打ち消し合うため、幾分緩和されるが、有機EL表示パネルを用いた有機EL表示装置においては、偏光膜を含む光学フィルム積層体が一方の面にしか配置されないため、特に大きな問題となる。有機EL表示装置においては、上述の表示ムラ、リワークの困難性に加えて、表示パネルの反りによって、表示パネルの封止材料が破壊され、湿度により有機発光層が劣化するという問題も生じる。これがフィルム状に製膜したPVA系樹脂の単層体を使用する、従来の方法により得られる偏光膜の技術的課題である。
【0005】
上述した課題が存在するために、十分な程度までの薄膜化を達成できない、従来のPVA系樹脂単層体を使用する偏光膜の製造方法に代わる、偏光膜の製造方法が求められている。しかしながら、フィルム状に製膜したPVA系樹脂の単層体を使用する従来の方法では、厚みが10μm以下の偏光膜を製造することは事実上不可能である。その理由は、フィルム状のPVA系樹脂単層体による偏光膜の製造においては、PVA系樹脂単層体の厚みが薄くなり過ぎると、染色工程及び/又は延伸工程において、PVA系樹脂層に溶解及び/又は破断を生じる恐れがあるため、均一な厚みの偏光膜を形成することができなくなるからである。
【0006】
この問題に対処するため、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗布形成し、この樹脂基材上に形成されたPVA系樹脂層を樹脂基材とともに延伸し、染色処理を施すことにより、従来の方法により得られる偏光膜に比べて非常に薄い偏光膜を製造する製造方法が提案されている。この熱可塑性樹脂基材を用いた偏光膜の製造方法は、PVA系樹脂の単層体による偏光膜の製造方法に比べて、偏光膜をより均一に製造できる点で注目される。
【0007】
例えば、特許第4279944号公報(特許文献1)には、熱可塑性樹脂フィルムの片面に、厚さが6μm以上30μm以下のポリビニルアルコール系樹脂層を塗工法により形成した後、2倍以上5倍以下に延伸して該ポリビニルアルコール系樹脂層を透明皮膜素子層とすることにより、熱可塑性樹脂フィルム層と透明皮膜素子層との二層からなる複合フィルムを形成し、次いで、該二層からなる複合フィルムの透明皮膜素子層側に光学透明樹脂フィルム層を、接着剤を介して貼り合せた後、熱可塑性樹脂フィルム層を剥離除去し、さらに透明皮膜素子層を染色、固定して偏光素子層とする偏光板の製造方法が記載されている。この方法によって得られる偏光板は、光学透明樹脂フィルム層と偏光素子層との二層構成であり、特許文献1の記載によれば、偏光素子の厚みは2〜4μmである。
【0008】
この特許文献1に記載された方法は、延伸を、加熱下で、一軸延伸により行うものであり、その延伸倍率は、上述のように2倍以上5倍以下の範囲となるように制限される。特許文献1に記載の方法において、延伸倍率が5倍以下に制限される理由として、当該特許文献1は、延伸倍率が5倍を越す高率延伸では安定生産が極端に困難になる、と説明している。したがって、延伸倍率が5倍以下であったとしても4〜5倍付近では、安定的な生産は難しいものと考えられる。また、延伸の際の周囲温度は、具体的には、熱可塑性樹脂フィルムとしてエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用する場合には55℃、無延伸のポリプロピレンを使用する場合には60℃、無延伸のナイロンを使用する場合には70℃としている。この特許文献1に記載された方法は、高温空中一軸延伸の手法を採用するものであり、特許文献1に記載されているように、延伸倍率は5倍以下に制限されるので、この方法によっては、有機EL表示装置に使用するために望まれる光学特性を満足する2〜4μmといった極めて薄い偏光膜を安定的に生産することが難しく、ないしはこの方法により得られる2〜4μmといった極めて薄い偏光膜は、有機EL表示装置に使用される偏光膜に望まれる光学特性を満足させるものとはならない。
【0009】
熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗工により形成して、該PVA系樹脂層を基材とともに延伸して偏光膜を形成する方法は、特開2001−343521号公報(特許文献2)及び特開2003−43257号公報(特許文献3)にも記載されている。これらの特許文献に記載された方法は、熱可塑性樹脂基材と該基材上に塗布されたPVA系樹脂層とからなる積層体を、基材が非晶性ポリエステル樹脂の場合には70℃〜120℃の温度で、一軸延伸するものである。次に、延伸によって配向されたPVA系樹脂層に染色によって二色性物質を吸着させる。特許文献2では、一軸延伸は、縦一軸延伸又は横一軸延伸のいずれでもよい、と記載されているが、特許文献3では、横一軸延伸を行い、その横一軸延伸中又は延伸後に、延伸方向と直交する方向の長さを特定量収縮させる方法が記載されている。そして、延伸倍率は、特許文献2及び3のいずれにおいても、通常4〜8倍程度としている。得られる偏光膜の厚みとしては、1〜1.6μmが記載されている。
【0010】
これら特許文献2及び3では、延伸倍率が通常4〜8倍と述べられているが、採用されている延伸方法は、高温空中延伸法であり、このような方法では、例えば特許文献1に記載されているように、延伸倍率が5倍を越えると安定的な生産は極端に困難になる。特許文献2及び3においても、5倍を超える延伸倍率を高温空中延伸法により達成するための特段の手法は記載されていない。事実、これら特許文献2及び3に記載された実施例をみると、特許文献2では5倍延伸が記載され、特許文献3では4.5倍が記載されているだけである。本発明者らは、特許文献2及び3に記載された方法の追試を行い、ここに記載された方法では、延伸倍率が5倍を超える延伸はできず、また延伸倍率が4〜5倍では安定的な延伸が難しいことを確認した。したがって、特許文献2及び3の記載は、延伸倍率に関しては、5倍以下のものしか記載されておらず、延伸倍率が5倍以下の4〜5倍であったとしても、安定的な生産は難しい、と理解すべきである。よって、特許文献1に関して述べた通り、この特許文献2及び3においても、延伸倍率は5倍以下に制限されるので、得られる極めて薄い偏光膜は、有機EL表示装置に使用される偏光膜に望まれる光学特性を満足させるものとはならないか、もしくは有機EL表示装置に使用するために望まれる光学特性を満足する極めて薄い偏光膜を安定的に生産することが難しい。
【0011】
米国特許第4659523号明細書(特許文献4)は、ポリエステルフィルム上に塗工形成したPVA系樹脂層を、該ポリエステルフィルムとともに一軸延伸することからなる偏光膜の製造方法を開示する。この特許文献4に記載された方法は、PVA系樹脂層の基材となるポリエステルフィルムを、偏光膜とともに使用できる光学的特性を有するものとすることができるようにすることを目的とするもので、薄型で優れた光学特性をもつPVA系樹脂層からなる偏光膜を製造することを意図するものではない。すなわち、特許文献4に記載された方法は、偏光膜となるPVA系樹脂層とともに延伸されるポリエステル樹脂フィルムの光学的特性を改善しようとするものに過ぎない。同様の目的をもった偏光子用材料の製造方法は、特公平8−12296号公報(特許文献5)にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許4279944号公報
【特許文献2】特開2001−343521号公報
【特許文献3】特開2003−43257号公報
【特許文献4】米国特許第4659523号明細書
【特許文献5】特公平8-12296号公報
【特許文献6】特開2002−258269号公報
【特許文献7】特開2004−078143号公報
【特許文献8】特開2007−171892号公報
【特許文献9】特開2004−338379号公報
【特許文献10】特開2005−248173号公報
【特許文献11】特開2011−2759号公報
【特許文献12】特開平5−27118号公報
【特許文献13】特開平11−149015号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】松廣憲治、「Xpolとその3D−TVへの応用」、EKISHO、Vol.14、No.4、2010、pp.219〜232
【非特許文献2】森裕行他、「富士フィルムWVfilmワイドビューSAの開発」、FUJIFILM RESEARCH & DEVELOPMENT (No. 46-2001)、pp.51〜55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗工形成し、該PVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材とともに延伸して偏光膜を製造する方法は、特許文献1〜5に記載されているように既に知られている。しかし、厚みが非常に薄い10μm以下の偏光膜であって、有機EL表示装置用の偏光膜として求められる、単体透過率42.5以上かつ偏光度99.5以上、好ましくは単体透過率43.0以上かつ偏光度99.5以上の光学特性を満たす高機能の偏光膜は、これまでのところ実現されていない、ないしは安定的な生産が実現されていない。
【0015】
したがって、本発明は、従来の偏光膜に比べて非常に薄く、しかも必要とされる光学特性を備えた偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を有する有機EL表示装置を提供し、ないしは安定的に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、非晶性熱可塑性樹脂基材と、その上に塗布形成されたPVA系樹脂層とを一体に、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸することと、該PVA系樹脂層に二色性色素による染色処理を施すこととによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、光学的表示装置に使用される偏光膜に要求される特性を満足させることができる、従来にない偏光膜を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明者らは、有機EL表示装置に使用される偏光膜に要求される光学的特性として、単体透過率をTとし、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
で表される条件を設定した。本発明は、上述の延伸と染色とによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、上記の条件を満足するものとされた偏光膜を用いる有機EL表示装置を提供するものである。
【0017】
詳細に述べると、本発明の1つの態様は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの有機EL表示装置用偏光膜であって、
非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものに関する。単体透過率Tは、T≧43.0の条件を満足することがより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材とすることができる。二色性物質は、ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物のいずれでもよい。
【0018】
単体透過率をT、偏光度をPとしたときの前記条件を満足する偏光膜は、有機ELディスプレイとして求められる性能を有する。
【0019】
1つの実施態様において、前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面には粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介して前記偏光膜にセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合、光学機能フィルムはTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムとすることが好ましい。
【0020】
層や膜などを接合又は接着させる材料としては、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系、イソシアネート系、ポリビニルアルコール系、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステルなどのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
【0021】
粘着剤層の接着力を向上させる材料として、例えば特開2002−258269号公報(特許文献6)、特開2004−078143号公報(特許文献7)、特開2007−171892号公報(特許文献8)に記載のあるようなアンカー層を設けることもできる。バインダー樹脂としては粘着剤の投錨力を向上出来る層であれは特に制限はなく、具体的には、例えば、エポキシ系樹脂、イソシアネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、分子中にアミノ基を含むポリマー類、エステルウレタン系樹脂、オキサゾリン基などを含有する各種アクリル系樹脂などの有機反応性基を有する樹脂(ポリマー)を用いることができる。
【0022】
また、上記アンカー層には、帯電防止性を付与するために、例えば特開2004−338379号公報(特許文献9)に記載のあるように帯電防止剤を添加することもできる。帯電防止性付与のための帯電防止剤としては、イオン性界面活性剤系、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリキノキサリン等の導電性ポリマー系、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム等の金属酸化物系などがあげられるが、特に光学特性、外観、帯電防止効果、および帯電防止効果の加熱、加湿時での安定性という観点から、導電性ポリマー系が好ましく使用される。この中でも、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの水溶性導電性ポリマー、もしくは水分散性導電性ポリマーが特に好ましく使用される。帯電防止層の形成材料として水溶性導電性ポリマーや水分散性導電性ポリマーを用いた場合、塗工に際して有機溶剤による光学フィルム基材への変質を抑えることができる。
【0023】
別の実施態様において、前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に保護層を貼り合せ、他方の面に前記有機EL表示装置用偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層を貼り合せて生成された積層体の一方の面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体をさらに、生成することができる。この場合、保護層をTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムとし、位相差膜をnx>nz>nyの3次元屈折率の2軸性位相差フィルムとすることが好ましい。
ここで、nx、ny、nzとはそれぞれ位相差膜の遅相軸方向の屈折率、遅相軸と垂直方向の屈折率、膜の厚み方向の屈折率を表す。このような構成によって、従来の構成と比較して、また上記態様の構成と比較してより一層、大幅に有機EL表示パネルに生じる反りを軽減させることができる。すなわち、偏光膜は周囲の環境変化により伸縮しやすい性質を持っている。この偏光膜の伸縮により表示パネルに反りを発生させる力が加わる。この反りを発生させる力は偏光膜と表示パネルが近付くほど小さくなり、結果として表示パネルの反りが軽減される傾向がある。従来のPVA系樹脂単層膜を使用して製造した偏光膜を用いる場合、偏光膜の伸縮を抑制し、温度や湿度の影響を軽減するために、偏光膜の両側に保護膜が貼り合わせる必要がある。一方で、本発明の厚さ10μm以下の偏光膜であると、偏光膜の伸縮応力が小さい為に、両側に保護層を積層しなくてもよい。そのため、表示パネルと偏光膜の間の保護層を省くことができるので、表示パネルと偏光膜の距離を小さくすることができ、表示パネルに加わる反りを発生させる力を軽減することができる。本発明の厚さ10μm以下の偏光膜であると、偏光膜の収縮応力を小さくできるとともに、表示パネルと偏光膜の間の保護層を省くことができることから、表示パネルに生じる反りを発生させる力を小さくすることができるため、従来の構成と比較して、また上記態様の構成と比較してより一層、大幅に反りを軽減させることができる。
【0024】
保護層の材料としては、一般的に、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物があげられる。
【0025】
保護層の偏光膜を接着させない面には、表面処理層として、ハードコート処理や反射防止処理、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施した層を設けてもよい。また、表面処理層には紫外線吸収剤が含有していても良い。更に、表面処理層は偏光膜の加湿耐久性を向上させる目的で透湿度の低い層であることが好ましい。ハードコート処理は偏光膜表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護膜の表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光膜表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた、例えば、特開2005−248173号公報(特許文献10)に記載のあるような光の干渉作用による反射光の打ち消し効果を利用して反射を防止する薄層タイプや、特開2011−2759号公報(特許文献11)に記載のあるような表面に微細構造を付与することにより低反射率を発現させる構造タイプなどの低反射層の形成により達成することができる。アンチグレア処理は偏光膜の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。アンチグレア層は、偏光膜透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。前記ハードコート層としては、鉛筆硬度が2H以上となるハードコート層が好ましい。
【0026】
本発明の別の態様は、連続ウェブの非晶性熱可塑性樹脂基材と、該非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜とを含む光学フィルム積層体であって、前記有機EL表示装置用偏光膜は、前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものであることを特徴とする光学フィルム積層体に関する。単体透過率Tは、T≧43.0の条件を満足することがより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材とすることができる。
【0027】
1つの実施態様において、非晶性熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの6倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。PVA系樹脂層に対する非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みが7倍以上であれば、製造工程の搬送時にフィルム強度が弱く破断するような搬送性、偏光膜を含む積層体を他のフィルムと貼合せる際に不具合が生じる原因となるカール性や、偏光膜を転写する際に基材が薄すぎてうまく転写できないような転写性などの不具合は生じない。
【0028】
図1を参照されたい。図1は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みとPVA系樹脂層の塗工厚(偏光膜厚)との間に不具合が生じるかどうかを確認したものである。図1に示したように、5倍程度の厚みでは、搬送性に問題が生じることが懸念される。また一方、厚みが10μm以上の偏光膜は、クラック耐久性に問題が生じることが懸念される。
【0029】
別の実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、樹脂基材として、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることが好ましく、また透明樹脂とすることができる。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂に染色させる二色性物質はヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物であることが好ましい。
【0031】
別の実施態様において、前記光学フィルム積層体に含まれる有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学フィルム積層体を生成することができる。この場合、非晶性熱可塑性樹脂基材が有機EL表示装置用偏光膜の保護フィルムとなるので、樹脂基材が透明でなければならない。
【0032】
別の実施態様において、前記光学フィルム積層体に含まれる有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に光学機能フィルムを貼り合せ、該光学機能フィルムの上に粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体を生成することができる。この場合、光学機能フィルムを、偏光膜の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために、偏光膜とともに用いられて円偏光を生成するための位相差層とすることが好ましい。
【0033】
ここでいう円偏光としては、実質的に反射防止機能を発現する範囲であれば楕円偏光も包含される。位相差層の正面位相差としては、代表的に1/4波長位相差の層が使用されるが、実質的に反射防止機能を発現する位相差であれば1/4波長位相差に限定されず例えば1/5波長位相差や1/6波長位相差の層なども使用することが出来る。ここでいう正面位相差とは位相差層の遅相軸方向の屈折率をnx、遅相軸と垂直方向の屈折率をnyとし、位相差膜の厚みをd(nm)としたときに、「(nx−ny)×d」によって求めることができる数値のことである。位相差層の配置角度は、代表的には、直線偏光膜と位相差層とを、それらの光軸が45度又は135度で交差するように積層して形成されるが、実質的に反射防止機能を発現する角度であれば、45度又は135度に限定されず使用することができる。位相差層の3次元屈折率の関係については、厚み方向の屈折率をnzとすると、例えば「nx>ny=nz」「nx>ny>nz」「nx>nz>ny」などの関係をもつ位相差層を使用することができる。3次元屈折率が「nx>nz>ny」の関係をもつ位相差層にすることで、正面方向の反射防止機能だけではなく、斜め方向の反射防止機能も有することができる。位相差層の波長分散性としては、実質的に反射防止機能を発現する範囲であれば正分散性から逆分散正のものまで幅広く使用することができるが、その中でも波長に依存することなく反射防止機能を発現できることから逆分散性であることが好ましい。位相差層は、実質的に反射防止機能を発現する範囲であれば複数の層から構成されていても良く、各層の配置角度も限定されない。例えば、特開平5−27118号公報(特許文献12)や特開平11−149015号公報(特許文献13)に記載のあるように複数枚の位相差フィルムを使うことで、位相差の波長分散特性を改良する技術も提案されている。位相差層の材料としては高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。高分子素材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物などがあげられる。液晶ポリマーとしては、例えば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のものなどをあげられる。主鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサー部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティックポリマーやコレステリックポリマーなどがあげられる。側鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサー部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するものなどがあげられる。これらの液晶ポリマーは、例えば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコール等の薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化ケイ素を斜方蒸着したものなどの配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。
【0034】
別の実施態様において、前記光学フィルム積層体に含まれる前記有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に、前記有機EL表示装置用偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層を貼り合せ、貼り合された前記光学機能フィルム上に粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学フィルム積層体を生成することができる。
【0035】
本発明の別の態様は、連続ウェブの非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材と、該非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜と、を含む光学フィルム積層体を製造するための、配向されたポリビニルアルコール系樹脂からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体であって、前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、配向関数が0.10以下に設定された、空中補助延伸された非晶性ポリエチレンテレフタレートが用いられており、前記延伸中間生成物として、結晶化度が27%以上で40%以下、および、配向関数が0.05以上で0.35以下に設定されたポリビニルアルコール系樹脂が用いられており、前記有機EL表示装置用偏光膜は、前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された10μm以下の厚みにされるものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされるものであることを特徴とする延伸積層体に関する。単体透過率Tは、T≧43.0の条件を満足することがより好ましい。
【0036】
1つの実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの6倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。PVA系樹脂層に対する非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みが7倍以上であれば、製造工程の搬送時にフィルム強度が弱く破断するような搬送性、偏光膜を含む積層体を他のフィルムと貼合せる際に不具合が生じる原因となるカール性や、偏光膜を転写する際に基材が薄すぎてうまく転写できないような転写性などの不具合は生じない。
【0037】
1つの実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、配向関数を0.10以下に設定した、空中高温延伸処理したイソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることであることが好ましく、また透明樹脂とすることができる。
【0038】
本発明の別の態様は、連続ウェブの非晶性熱可塑性樹脂基材に二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜が製膜された光学フィルム積層体の製造方法であって、前記非晶性熱可塑性樹脂基材と前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体に対する空中高温延伸によって、配向させたポリビニルアルコール系樹脂層からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体を生成する工程と、前記延伸積層体に対する二色性物質の吸着によって、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂層からなる着色中間生成物を含む着色積層体を生成する工程と、前記着色積層体に対するホウ酸水溶液中における延伸によって、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜を含む光学フィルム積層体を生成する工程と、を含み、前記有機EL表示装置用偏光膜は、単体透過率Tと偏光度Pからなる光学特性値が、
T≧42.5、およびP≧99.5
によって表される範囲にあり、前記有機EL表示装置用偏光膜厚みが10μm以下であることを特徴とする光学フィルム積層体の製造方法に関する。単体透過率Tは、T≧43.0であることがより好ましい。非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材とすることができる。
【0039】
1つの実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの6倍以上であることが好ましく、7倍以上であることがより好ましい。PVA系樹脂層に対する非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みが7倍以上であれば、製造工程の搬送時にフィルム強度が弱く破断するような搬送性、偏光膜を含む積層体を他のフィルムと貼合せる際に不具合が生じる原因となるカール性や、偏光膜を転写する際に基材が薄すぎてうまく転写できないような転写性などの不具合は生じない。
【0040】
図1を参照されたい。図1は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みとPVA系樹脂層の塗工厚(偏光膜厚)との間に不具合が生じるかどうかを確認したものである。図1に示したように、5倍程度の厚みでは、搬送性に問題が生じることが懸念される。
【0041】
本実施態様において、薄型高機能偏光膜厚みは、好ましくは10μm以下である。厚みが3〜10μm以下の薄型高機能偏光膜であれば、薄型偏光膜の偏光性能を表す図2のT−Pグラフによって示されたように、3μm、8μm、10μmの各々の偏光性能に有意差はなく、上記不等式を満たす光学特性を有することが確認できる。図2は、少なくとも、厚みが10μmを越えない薄型高機能偏光膜は、クラック耐久性の問題を懸念することなく、要求性能を満たす光学特性を得ることを示すものである。
【0042】
1つの実施態様において、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートを含むことができる。非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材はまた、有機EL表示装置用偏光膜の一面を保護する光学機能フィルムとすることができるように、透明樹脂であることが好ましい。さらに二色性物質は、ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物のいずれでもよい。
【0043】
1つの実施態様において、非晶性熱可塑性樹脂基材にPVA系樹脂層を製膜する工程を含むことができる。この工程は、限定されるものではないが、非晶性熱可塑性樹脂基材にPVA系樹脂を塗布し、乾燥する工程とすることができる。
【0044】
1つの実施態様において、空中補助延伸は、延伸倍率が3.5倍以下、延伸温度がPVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。また空中補助延伸の延伸温度が95℃〜150℃の範囲であることがより好ましい。
【0045】
1つの実施態様において、空中補助延伸によって生成された配向されたPVA系樹脂層を含む延伸積層体を、これに限定されるものではないが、二色性物質のヨウ素の染色液に浸漬することによって、ヨウ素を配向させたPVA系樹脂層を含む着色積層体を生成することができる。
【0046】
1つの実施態様において、染色液に浸漬する前に、予め延伸積層体を不溶化しておくことが好ましい。具体的には、この工程は、限定されるものではないが、延伸中間生成物を液温30℃のホウ酸水溶液に30秒間浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA系樹脂層を不溶化する工程である。本工程のホウ酸水溶液は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含む。この不溶化工程に求められる技術的課題は、少なくとも染色工程において、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層を溶解させないようにすることである。これを第1不溶化とすると、二色性物質を配向させたPVA系樹脂層を含む着色積層体をホウ酸水中延伸前に、該着色積層体を40℃のホウ酸水溶液に60秒間浸漬することによって架橋処理を施すことにより不溶化する工程を第2不溶化と位置付けることができる。第1および第2の不溶化は、いずれも本発明の実施態様においては、最終的に製造される光学フィルム積層体に含まれる有機EL表示装置用偏光膜の光学特性にも影響を与える。
【0047】
1つの実施態様において、空中補助延伸を自由端一軸延伸で行ったときに、最終的に非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層の総延伸倍率は、5倍以上であって7.5倍以下であることが好ましい。また空中補助延伸を固定端一軸延伸で行ったときには、最終的に非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層の総延伸倍率は、5倍以上であって8.5倍以下であることが好ましい。
【0048】
1つの実施態様において、二色性物質を配向させたPVA系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜を含む光学フィルム積層体を、光学フィルム積層体に含まれる非晶性熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度より低い温度のヨウ化物塩を含む水溶液で洗浄する工程をさらに含むことができる。さらにまた、洗浄された光学フィルム積層体を50℃以上100℃以下の温度で乾燥する工程をさらに含むようにしてもよい。
【0049】
1つの実施態様において、乾燥された光学フィルム積層体に含まれる非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された有機EL表示装置用偏光膜の他面に光学機能フィルムを積層する工程をさらに含むことができる。あるいは、乾燥された光学フィルム積層体に含まれる、有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に光学機能フィルムを積層すると同時に、前記非晶性熱可塑性樹脂基材を有機EL表示装置用偏光膜から剥離することによって、有機EL表示装置用偏光膜を光学機能フィルム積層体に転写し、光学機能フィルムに有機EL表示装置用偏光膜が転写された光学機能フィルム積層体を生成する工程をさらに含むようにしてもよい。生成された光学機能フィルム積層体には、後述されるように、様々な態様があり得る。
【0050】
本発明の別の態様は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなり、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、T≧42.5、およびP≧99.5の条件を満足するように構成された偏光膜と、第1の位相差層と、を含む積層体が、前記第1の位相差層側の面において光学的に透明な粘着剤層を介して有機EL表示パネルの一方の面に接合され、前記第1の位相差層とは反対側の前記偏光膜の面は透明樹脂材料の保護層に接合され、前記積層体は、前記偏光膜の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために円偏光を生成するためのものであることを特徴とする有機EL表示装置に関する。単体透過率Tは、T≧43.0であることがより好ましい。
【0051】
第1の位相差層は、偏光膜の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために、偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するためのものである。ここでいう円偏光としては、実質的に反射防止機能を発現する範囲であれば楕円偏光も包含される。第1の位相差層の構成、性質等は、前述の光学機能フィルム積層体の実施態様で述べた位相差層と同様である。
【0052】
また、偏光膜と第1の位相差層とを含む積層体は、偏光膜と第1の位相差層以外に、例えば、偏光膜の第1の位相差層側の面に接合された易接着層、拡散層、保護層等の層を含むことができる。
【0053】
1つの実施態様において、偏光膜と第1の位相差層は接合されている。このような構成によって、従来の構成と比較して大幅に、また上記態様の構成と比較してより一層、有機EL表示パネルに生じる反りを軽減させることができる。すなわち、偏光膜は周囲の環境変化により伸縮しやすい性質を持っている。この偏光膜の伸縮により表示パネルに反りを発生させる力が加わる。この反りを発生させる力は偏光膜と表示パネルが近付くほど小さくなり、結果として表示パネルの反りが軽減される傾向がある。従来のPVA系樹脂単層膜を使用して製造した偏光膜を用いる場合、偏光膜の伸縮を抑制し、温度や湿度の影響を軽減するために、偏光膜の両側に保護膜が貼り合わせる必要がある。一方で、本発明の厚さ10μm以下の偏光膜であると、偏光膜の伸縮応力が小さい為に、両側に保護層を積層しなくてもよい。そのため、表示パネルと偏光膜の間の保護層を省くことができるので、表示パネルと偏光膜の距離を小さくすることができ、表示パネルに加わる反りを発生させる力を軽減することができる。本発明の厚さ10μm以下の偏光膜であると、偏光膜の収縮応力を小さくできるとともに、表示パネルと偏光膜の間の保護層を省くことができることから、表示パネルに生じる反りを発生させる力を小さくすることができるため、従来の構成と比較して大幅に、また上記態様の構成と比較してより一層、反りを軽減させることができる。
【0054】
別の実施態様において、有機EL表示装置は、保護層の外側に配置されたウインドウを備えることができる。また、該保護層と偏光膜との間及び偏光膜と有機EL表示パネルの間の少なくとも一方に、拡散層を配置することができる。偏光膜と保護層との間には該偏光膜と該保護層との間の接着を容易にする易接着層を設けることができる。保護層には、帯電防止層を形成することもできる。保護層は、前記偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための第2の位相差層として構成されることができる。この構成により、偏光膜から射出される直線偏光が円偏光に変換されるので、例えば視聴者が偏光サングラスを着用している場合にも、視認に支障がなくなる、という利点がもたらされる。
【0055】
別の実施態様において、偏光膜は、エステル系熱可塑性樹脂材料の基材上に塗布形成されたポリビニルアルコール系樹脂層に対し、該熱可塑性樹脂基材とともに上述の2段延伸工程による延伸を行うことにより形成されたものであり、該透明樹脂材料の保護層は、該ポリビニルアルコール系樹脂層とともに延伸された該熱可塑性樹脂基材から構成されたものとする。この場合において、エステル系熱可塑性樹脂材料として、非晶性PETを使用することができる。
【0056】
別の実施態様において、透明樹脂材料の保護層は、セルロース系材料又はアクリル系樹脂材料により構成されたものとする。
【0057】
別の実施態様において、この透明樹脂材料の保護層は、3次元テレビ用表示装置に使用されるパターン位相差層を構成するものとすることができる。このパターン位相差層の例としては、例えば、「EKISHO」Vol.14、No.4、2010、pp219〜232に掲載された松廣憲治による「Xpolとその3D−TVへの応用」(非特許文献1)に記載されたパターン・リターダがある。
【0058】
別の実施態様において、有機EL表示パネルに対して視認側にタッチ検知機能を有するタッチパネル積層体を配置することができる。この構成において、タッチパネル積層体は、パターン化された対の透明電極が誘電体層を介して配置された構成の容量型タッチパネルとすることができる。
【0059】
この場合において、タッチパネル積層体は、視認側の最外部材と偏光膜との間に配置することが好ましい。タッチパネル積層体は、偏光膜と表示パネルとの間に配置することもできる。また、タッチパネル積層体は、パターン化された透明電極が空気間隙を介して対向電極に対向配置された構成の抵抗膜型タッチパネルとすることができ、この構成では、タッチパネル積層体は、視認側最外部材と偏光膜との間又は偏光膜と表示パネルとの間に配置される。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、従来の偏光膜に比して大幅に薄膜化され、しかも必要とされる光学特性を備えた偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びに従来の偏光膜に比して大幅に薄膜化された偏光膜を使用し、しかも必要とされる光学特性を備えた有機EL表示装置を得る、ないしは安定的に得ることができる。すなわち、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなり、厚みが10μm以下であって、所要の光学的特性を備えた偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を使用する有機EL表示装置を得る、ないしは安定的に得ることができる。
【0061】
前述したように、熱可塑性樹脂基材を用い、該基材上に形成されたPVA系樹脂層を含む積層体を、延伸倍率が5倍以上になるように一軸に延伸し、厚みが10μm以下の偏光膜を得た事例、延伸倍率が4〜5倍で一軸に延伸し、厚みが10μm以下の偏光膜を安定的に得た事例は、従来技術を記載した文献に見出すことはできない。
【0062】
以下、本発明に使用される偏光膜の製造方法の代表例及び本発明による有機EL表示装置の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】PVA層の厚み(又は偏光膜厚)に対する樹脂基材の適正な厚みを示す図表である。
【図2】厚みが3μm、8μm、10μmの偏光膜の偏光性能の比較図である。
【図3】単体透過率Pと偏光度Tとの関係を示す図表である。
【図4】有機EL表示装置に使用する偏光膜に要求される光学的性能の範囲を表す図表である。
【図5】染色浴のヨウ素濃度の違いによるPVA系樹脂層の溶解の有無を比較した比較表である。
【図6】染色浴のヨウ素濃度とPVA系樹脂層により生成された偏光膜の偏光性能との関係を示す図表である。
【図7】本発明の実施例となる偏光膜の偏光性能を示す図表である。
【図8】光学フィルム積層体を製造するための不溶化処理を含まない製造工程の概略図である。
【図9】光学フィルム積層体を製造するための不溶化処理を含む製造工程の概略図である。
【図10a】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10b】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10c】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10d】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10e】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10f】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10g】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図10h】本発明の種々の実施形態による有機EL表示装置を示す断面図である。
【図11】本発明の他の実施形態による光学的表示装置の例を示す断面図である。
【図12a】本発明の他の実施形態による光学的表示装置の例を示す断面図である。
【図12b】本発明の他の実施形態による光学的表示装置の例を示す断面図である。
【図13】本発明の幾つかの実施例による偏光膜の偏光性能を対比して示す図表である。
【図14】本発明の別の幾つかの実施例による偏光膜の偏光性能を対比して示す図表である。
【図15】本発明の実施例による偏光膜の偏光性能を示す図表である。
【図16】本発明の他の実施例による偏光膜の偏光性能を示す図表である。
【図17】本発明のさらに他の実施例による偏光膜の偏光性能を示す図表である。
【図18】結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度と延伸可能倍率との相対関係を表す図表である。
【図19】結晶性PETと非晶性PETのTgと融点Tm間での温度変化にともなう結晶化速度の変化を表す図表である。
【図20】非晶性PETとPVAの空中高温での延伸倍率と総延伸倍率との関係を表す図表である。
【図21】結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂に関する空中高温での延伸温度と総延伸可能倍率との相対関係を表す図表である。
【図22】総延伸倍率に対する熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性と結晶化度とを表す図表である。
【図23】1.8倍の空中補助延伸した補助延伸温度と補助延伸処理されたPETの配向関数との関係を表す図表である。
【図24】PVAの結晶化度とPVAの配向関数との相対関係を表す図表である。
【図25】熱可塑性樹脂基材を用いて製造された偏光膜の製造工程の概略図である。
【図26】本発明に含まれない例示的な偏光膜の偏光性能を表す図表である。
【図27】本発明の実施例における、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体の製造条件の一覧表である。
【図28】本発明の実施例における、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体の製造条件の一覧表である。
【図29】本発明の実施例と参考例1〜3との配向関数値の比較表である。
【図30】本発明の実施例による偏光膜の偏光性能を示す図表である。
【図31a】本発明の実施例による偏光膜を用いた有機EL表示装置の加熱による色度変化を示す色度図である。
【図31b】比較例による偏光膜を用いた有機EL表示装置の加熱による色度変化を示す色度図である。
【図32a】本発明の実施例による偏光膜を用いた有機EL表示装置の加熱による色ムラを示す写真である。
【図32b】比較例による偏光膜を用いた有機EL表示装置の加熱による色ムラを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
(偏光膜に関連する技術的背景)
偏光膜の背景技術として、本発明に用いられる熱可塑性樹脂基材の材料特性と偏光膜の偏光性能によって表される光学特性について説明する。
【0065】
先ず、本発明に用いられる熱可塑性樹脂の一般的材料特性を概説する。
熱可塑性樹脂は、高分子が規則正しく配列する結晶状態にあるものと、高分子が規則正しい配列を持たない、あるいは、ごく一部しか規則正しい配列を持たない無定形又は非晶状態にあるものとに大別できる。前者を結晶状態といい、後者を無定形又は非晶状態という。これに対応して、結晶状態にはないが、条件次第では結晶状態をつくることができる性質をもった熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂と呼ばれ、そうした性質をもたない熱可塑性樹脂は非晶性樹脂と呼ばれる。一方、結晶性樹脂であるか非晶性樹脂であるかを問わず、結晶状態にない樹脂又は結晶状態に至らない樹脂をアモルファス又は非晶質の樹脂という。ここでは、アモルファス又は非晶質という用語は、結晶状態をつくらない性質を意味する非晶性という用語とは区別して用いられる。
【0066】
結晶性樹脂としては、例えばポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)を含むオレフィン系樹脂と、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)を含むエステル系樹脂がある。結晶性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱及び/又は延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。樹脂の物性は、結晶化の程度に応じて様々に変化する。一方で、例えば、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような結晶性樹脂でも、加熱処理や延伸配向によって起こる高分子の配列を阻害することによって、結晶化の抑制が可能である。結晶化が抑制されたこれらのポリプロピレン(PP)及びポリエチレンテレフタレート(PET)を、それぞれ非晶性ポリプロピレン及び非晶性ポリエチレンテレフタレートといい、これらを、それぞれ総称して非晶性オレフィン系樹脂及び非晶性エステル系樹脂という。
【0067】
例えばポリプロピレン(PP)の場合、立体規則性のないアタクチック構造にすることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリプロピレン(PP)を作成することができる。また、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、重合モノマーとして、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールのような変性基を共重合すること、すなわち、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を阻害する分子を共重合させることによって、結晶化を抑制した非晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)を作成することができる。
【0068】
次に、有機EL表示素子に用いることができる偏光膜の光学特性を概説する。
偏光膜の光学特性とは、端的には、偏光度Pと単体透過率Tとで表す偏光性能のことである。一般に、偏光膜の偏光度Pと単体透過率Tとはトレード・オフの関係にある。この2つの光学特性値は、T−Pグラフにより表すことができる。T−Pグラフにおいて、プロットしたラインが単体透過率の高い方向にあり、かつ偏光度の高い方向にあるほど、偏光膜の偏光性能が優れていることになる。
【0069】
ここでT−Pグラフを示す図3を参照すると、理想的光学特性は、T=50%で、P=100%の場合である。図から分かるように、T値が低ければP値を上げやすく、T値が高いほどP値を上げにくい、という傾向にある。さらに、偏光膜の偏光性能を透過率Tと偏光度Pの関数を示す図4を参照すると、偏光膜の単体透過率T及び偏光度Pについて、図4にライン1(T=42.5)及びライン2(P=99.5)より上の領域として定められた範囲が、有機EL表示装置の偏光膜性能として求められる光学特性と考えられる性能である。単体透過率TはT≧43.0であることがより好ましい。なお、単体透過率Tの理想値は、T=50%であるが、光が偏光膜を透過する際に、偏光膜と空気との界面で一部の光が反射する現象が起こる。この反射現象を考慮すると、反射に相当する量だけ単体透過率Tが減少するので、現実的に達成可能なT値の最大値は45〜46%程度である。
【0070】
一方、偏光度Pは、有機EL表示パネルに用いられる円偏光板の、有機EL表示パネルの外光の内部反射を低減させる機能に関連しており、偏光度が高いほど外光の内部反射を低減させる性能が高くなる。そこでまず、有機EL表示装置について、説明する。
【0071】
有機EL表示装置は、一般に、透明基板上に、透明電極、有機発光層および金属電極がこの順序で積層された発光体(有機EL発光体)を有している。前記有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えば、トリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層とアントラセン等の蛍光性有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、また、前記正孔注入層と発光層と電子注入層との積層体等、種々の組み合わせがあげられる。
【0072】
そして、このような有機EL表示装置は、前記陽極と陰極とに電圧を印加することによって、前記有機発光層に正孔と電子とが注入され、前記正孔と電子とが再結合することによって生じるエネルギーが、蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。前記正孔と電子との再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、電流と発光強度とは、印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0073】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明であることが必要なため、通常、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明導電体で形成された透明電極が陽極として使用される。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に、仕事関数の小さな物質を用いることが重要であり、通常、Mg−Ag、Al−Li等の金属電極が使用される。
【0074】
このような構成の有機EL表示装置において、前記有機発光層は、例えば、厚み10nm程度の極めて薄い膜で形成されることが好ましい。これは、前記有機発光層においても、透明電極と同様に、光をほぼ完全に透過させるためである。その結果、前記透明基板の表面から入射して、前記透明電極と有機発光層とを透過して前記金属電極で反射した光等の内部で反射した光が、再び前記透明基板の表面側へ出る。このため、特に、非発光時の黒状態において、外部から視認した際に、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0075】
そこで、金属電極からの反射等の内部反射を防止するために、例えば、偏光膜を1/4波長位相差板等の位相差板とともに使用することが提案されている。前記位相差板および偏光膜は、例えば、外部から入射して前記金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって前記金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板として1/4波長位相差板を使用し、かつ、前記偏光膜と前記位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、前記金属電極の鏡面をほぼ完全に遮蔽することができる。すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、前記偏光膜によって透過軸方向の直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は、前記位相差板によって、一般に楕円偏光となるが、特に前記位相差板が1/4波長板であり、しかも前記角がπ/4の場合には、円偏光となる。
【0076】
この円偏光は、例えば、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び、有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、前記位相差板で再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、前記偏光板の透過軸方向に対して直交しているため、前記偏光板を透過できず、その結果、前述のように、金属電極の鏡面をほぼ完全に遮蔽することができる。
【0077】
したがって、ディスプレイの内部反射率を所定の値以下にするためには、偏光膜の直交透過率(偏光膜の吸収軸を直交状態にしたときの透過率)を所定の値以下にする必要があるが、これはつまり偏光膜の偏光度を所定の値以上にすることが必要であるということになる。
【0078】
結論としては、ライン1(T=42.5)及びライン2(P=99.5)より上の領域として定められた範囲、すなわち単体透過率42.5以上かつ偏光度99.5以上、好ましくは単体透過率43.0以上かつ偏光度99.5以上の光学特性を満たす偏光膜が有機EL表示装置用の偏光膜として求められる。
【0079】
〔偏光膜の製造に関する実施例〕
本発明の有機EL表示装置に使用される偏光膜の実施例として、実施例1〜25を示す。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。これらの実施例のうち実施例1〜18において製造される偏光膜の製造条件を、図27及び図28に示す。さらに、対比される例として、参考例及び比較例も作成した。図29は、第1段の空中高温延伸後における実施例1〜25及び参考例1〜3による延伸積層体のそれぞれについて、PET樹脂基材の配向関数値を示す表である。また、以下に厚み、透過率、偏光度の測定方法、PETの配向関数、PVAの配向関数、PVAの結晶化度の評価方法を示す。
【0080】
(厚みの測定方法)
非晶性PET基材、結晶性PET基材、及びPVA層の厚みは、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製KC−351C)を用いて測定した。
【0081】
(透過率及び偏光度の測定方法)
偏光膜の単体透過率T、平行透過率Tp、直交透過率Tcは、紫外可視分光光度計(日本分光社製V7100)を用いて測定した。これらのT、Tp、Tcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。
偏光度Pを上記の透過率を用い、次式により求めた。
偏光度P(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
【0082】
(PETの配向関数の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PET樹脂層表面の評価を行った。配向関数の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの1340cm-1の強度を用いて、以下に記した(式4)に従い算出した。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、1340cm-1のピークは、PETのエチレングリコールユニットのメチレン基起因の吸収といわれている。
(式4)f=(3<cos2θ>−1)/2
=(1−D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cos2β−1)/2
β=90deg⇒f=−2×(1−D)/(2D+1)
θ:分子鎖・延伸方向
β:分子鎖・遷移双極子モーメント
D=(I⊥)/(I//)
(PETが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの強度
I//:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの強度
【0083】
(PVAの配向関数の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA樹脂層表面の評価を行った。配向関数の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの2941cm-1の強度を用いて、以下に記した(式4)に従い算出した。また、下記強度Iは3330cm-1を参照ピークとして、2941cm-1/3330cm-1の値を用いた。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm-1のピークは、PVAの主鎖(−CH2−)の振動起因の吸収といわれている。
(式4)f=(3<cos2θ>−1)/2
=(1−D)/[c(2D+1)]
但し
c=(3cos2β−1)/2
β=90deg⇒f=−2×(1−D)/(2D+1)
θ:分子鎖・延伸方向
β:分子鎖・遷移双極子モーメント
D=(I⊥)/(I//)
(PVAが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの強度
I//:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの強度
【0084】
(PVAの結晶化度の評価方法)
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA樹脂層表面の評価を行った。結晶化度の算出は以下の手順で行った。測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。得られたスペクトルの1141cm-1及び1440cm-1の強度を用いて、下式に従い算出した。事前に、1141cm-1の強度の大きさが結晶部分の量と相関性があることを確認しており、1440cm-1を参照ピークとして下記式より結晶化指数を算出している。(式6)更に、結晶化度が既知のPVAサンプルを用いて、事前に結晶化指数と結晶化度の検量線を作成し、検量線を用いて結晶化指数から結晶化度を算出している。(式5)
(式5) 結晶化度 = 63.8×(結晶化指数)−44.8
(式6) 結晶化指数 = ((I(1141cm-1)0° + 2×I(1141cm-1)90° )/ 3)/((I(1440cm-1)0° + 2×I(1440cm-1)90° )/ 3)
但し
I(1141cm-1)0°:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの1141cm-1の強度
I(1141cm-1)90°:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの1141cm-1の強度
I(1440cm-1)0°:偏光を延伸方向と平行方向に入射して測定したときの1440cm-1の強度
I(1440cm-1)90°:偏光を延伸方向と垂直方向に入射して測定したときの1440cm-1の強度
【0085】
[実施例1]
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。非晶性PETのガラス転移温度は75℃である。連続ウェブの非晶性PET基材とポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)層からなる積層体を以下のように作製した。ちなみにPVAのガラス転移温度は80℃である。
【0086】
厚み200μmの非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。ここで、濃度とは、全溶液量に対する配合割合のことをいう。本明細書の以下においても、濃度という用語は同様の意味で用いる。次に、上記した厚み200μmの非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材上に厚み7μmのPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」又は「7μm厚のPVA層を含む積層体」又は単に「積層体」という。
【0087】
7μm厚のPVA層を含む積層体を、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、3μm厚の偏光膜を製造した。第1段の空中補助延伸工程によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を非晶性PET基材と一体に延伸し、5μm厚のPVA層を含む延伸積層体を生成した。以下、これを「延伸積層体」という。具体的には、延伸積層体は、7μm厚のPVA層を含む積層体を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブンに配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸したものである。この延伸処理によって、延伸積層体内のPVA層は、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層へと変化した。
【0088】
次に、染色工程によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。以下、これを「着色積層体」という。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。本工程において、染色液は、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とし、ヨウ化カリウム濃度を0.7〜2.1重量%の範囲内とした。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。ここで、ヨウ素濃度とは、全溶液量に対するヨウ素の配合割合のことをいい、例えば、ヨウ化カリウムなどのヨウ化物として加えられたヨウ素の量は含まない。本明細書の以下においても、ヨウ素濃度という用語は同様の意味で用いる。
【0089】
ちなみに、ヨウ素を水に溶解するにはヨウ化カリウムを必要とする。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液に延伸積層体を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%でヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液への延伸積層体の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体を生成した。
【0090】
さらに、第2段のホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体を非晶性PET基材と一体にさらに延伸し、3μm厚の偏光膜を構成するPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。以下、これを「光学フィルム積層体」という。具体的には、光学フィルム積層体は、着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温範囲60〜85℃のホウ酸水溶液に設定された処理装置に配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸したものである。より詳細には、ホウ酸水溶液の液温は65℃である。それはまた、ホウ酸含有量を水100重量%に対して4重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して5重量%とした。
【0091】
本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体をまず5〜10秒間ホウ酸水溶液に浸漬した。しかる後に、その着色積層体をそのまま処理装置に配備された延伸装置である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体の偏光膜を構成する。
【0092】
以上のように実施例1は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。
【0093】
光学フィルム積層体の製造に必須の工程ではないが、洗浄工程によって、光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄した。しかる後に、洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥した。なお洗浄工程は、ホウ酸析出などの外観不良を解消するための工程である。
【0094】
次に、貼合せ及び/又は転写工程によって、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に接着剤を塗布しながら、80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムを貼合せた後、非晶性PET基材を剥離し、3μm厚のPVA層を80μm厚のTAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写した。
【0095】
[実施例2]
実施例2は、実施例1の場合と同様に、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって倍率が1.8倍になるように延伸した延伸積層体を生成し、しかる後に、延伸積層体を、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。実施例2は、実施例1とは異なる以下の架橋工程を含む。それは、着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士に架橋処理を施す工程である。本工程のホウ酸架橋水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量%に対して3重量%とした。
【0096】
実施例2の架橋工程は、少なくとも3つの技術的作用を求めたものである。第1は、後工程のホウ酸水中延伸において着色積層体に含まれる薄膜化されたPVA層を溶解させないようにした不溶化作用である。第2は、PVA層に着色されたヨウ素を溶出させないようにした着色安定化作用である。第3は、PVA層の分子同士を架橋することによって結節点を生成するようにした結節点生成作用である。
【0097】
実施例2は、次に、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬することによって、実施例1の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例2の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1の場合と同様である。
【0098】
なお、ホウ酸水中延伸工程に先立つ架橋工程に求められる技術的作用をより明確にするために、実施例1の架橋されていない着色積層体を延伸温度70〜75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬した場合、着色積層体に含まれるPVA層は、ホウ酸水中延伸浴において溶解し、延伸することができなかった。
【0099】
[実施例3]
実施例3は、実施例1の場合と同様に、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって倍率が1.8倍になるように延伸した延伸積層体を生成した。実施例3は、実施例1とは異なる以下の不溶化工程を含む。それは、延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化する工程である。本工程のホウ酸不溶化水溶液は、ホウ酸含有量を水100重量%に対して3重量%とした。実施例3の不溶化工程に求められる技術的作用は、少なくとも後工程の染色工程において、延伸積層体に含まれるPVA層を溶解させないようにした不溶化である。
【0100】
実施例3は、次に、不溶化された延伸積層体を、実施例1の場合と同様に、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。しかる後に、生成された着色積層体を実施例1の延伸温度である65℃より高い延伸温度である75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬することによって、実施例1の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例3の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1の場合と同様である。
【0101】
なお、染色工程に先立つ不溶化工程に求められる技術的作用をより明確にするために、まず、実施例1の不溶化されていない延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、生成された着色積層体を延伸温度70〜75℃のホウ酸水中延伸浴に浸漬した場合、着色積層体に含まれるPVA層は、実施例2に示したように、ホウ酸水中延伸浴において溶解し、延伸することができなかった。
【0102】
次に、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とした染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%とし、他の条件をそのままの染色液に、実施例1の不溶化されていない延伸積層体を浸漬した場合、延伸積層体に含まれるPVA層は、染色浴において溶解し、染色不能であった。ところが、実施例3の不溶化された延伸積層体を用いた場合には、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することなく、PVA層への染色は可能であった。
【0103】
染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25%であってもPVA層への染色が可能な実施例3においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度及びヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0104】
[実施例4]
実施例4は、実施例1の製造工程に実施例3の不溶化工程と実施例2の架橋工程を加えた製造工程によって生成した光学フィルム積層体である。まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。実施例4は、実施例3の場合と同様に、生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬する不溶化工程によって、延伸積層体に含まれるPVA分子が配向されたPVA層を不溶化した。実施例4はさらに、不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を、実施例3の場合と同様に、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによってヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。
【0105】
実施例4は、実施例2の場合と同様に、生成された着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬する架橋工程によって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。実施例4はさらに、架橋された着色積層体を、実施例1の延伸温度65℃より高い75℃のホウ酸水中延伸浴に5〜10秒間浸漬し、実施例2の場合と同様に、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体を生成した。また実施例4の洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例1から3の場合と同様である。
【0106】
また実施例4は、実施例3の場合と同様に、染色液のヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%であっても、PVA層は溶解することはない。実施例4においては、延伸積層体の染色液への浸漬時間を一定にし、染色液のヨウ素濃度及びヨウ化カリウム濃度を実施例1に示した一定範囲内で変化させることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0107】
以上のように実施例4は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を生成し、次に、7μm厚のPVA層を含む積層体を空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。生成された延伸積層体を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。不溶化されたPVA層を含む延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を40℃のホウ酸架橋水溶液に60秒間浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。架橋されたPVA層を含む着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶に5〜10秒間浸漬し、しかる後に、ホウ酸水中延伸によって倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した光学フィルム積層体を生成した。
【0108】
実施例4は、このように空中高温延伸及びホウ酸水中延伸からなる2段延伸と染色浴への浸漬に先立つ不溶化及びホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理とによって、非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を安定的に生成することができた。
【0109】
[実施例5]
実施例5は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に製膜されたPVA層の厚みにある。実施例4は、7μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3μm厚であった。これに対して、実施例5は、12μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が5μm厚であった。
【0110】
[実施例6]
実施例6は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に用いた重合モノマーにある。実施例4は、イソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PET基材を用いた。これに対して、実施例6は、PETに対して変性基として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合させた非晶性PET基材を用いた。
【0111】
[実施例7]
実施例7は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍又は6倍に近い値になるように空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例4は、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍及び3.3倍とした。これに対して、実施例7は、それぞれの延伸倍率が1.2倍及び4.9倍とした。ところで実施例4の総延伸倍率が5.94倍であった。これに対して実施例7の総延伸倍率が5.88倍であった。これは、ホウ酸水中延伸において、延伸倍率が4.9倍以上に延伸することができなかったことによる。
【0112】
[実施例8]
実施例8は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例8は、それぞれの延伸倍率が1.5倍及び4.0倍とした。
【0113】
[実施例9]
実施例9は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸及びホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例9は、それぞれの延伸倍率が2.5倍及び2.4倍とした。
【0114】
[実施例10]
実施例10は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10の場合、空中補助延伸の延伸温度を95℃としたことにある。
【0115】
[実施例11]
実施例11は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例11の場合、空中補助延伸の延伸温度を110℃としたことにある。
【0116】
[実施例12]
実施例12は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、実施例4の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例12の場合、空中補助延伸の延伸温度を150℃としたことにある。
【0117】
[実施例13]
実施例13は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を2.8倍に変化させたことにある。実施例13の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約5倍(正確には5.04倍)となった。
【0118】
[実施例14]
実施例14は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.1倍に変化させたことにある。実施例14の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約5.5倍(正確には5.58倍)となった。
【0119】
[実施例15]
実施例15は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.6倍に変化させたことにある。実施例15の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例4の場合の約6倍(正確には5.94倍)のに対して、約6.5倍(正確には6.48倍)となった。
【0120】
[実施例16]
実施例16は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸方法にある。実施例4は、空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸した。これに対して、実施例16は、空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように固定端一軸に延伸した。
【0121】
[実施例17]
実施例17は、以下の相違点を除き、実施例16と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.9倍に変化させたことにある。実施例17の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例16の場合の約6倍(正確には5.94倍)に対して、約7倍(正確には7.02倍)となった。
【0122】
[実施例18]
実施例18は、以下の相違点を除き、実施例16と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が1.8倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を4.4倍に変化させたことにある。実施例18の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例16の場合の約6倍(正確には5.94倍)に対して、約8倍(正確には7.92倍)となった。
【0123】
[実施例19]
実施例19は、以下の相違点を除き、実施例4と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に製膜されたPVA層の厚みと総延伸倍率が6倍になるように空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率を変化させたことにある。実施例4は、7μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3μm厚であった。これに対して、実施例19は、9μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3.5μm厚であった。また、実施例4は、空中補助延伸およびホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍および3.3倍とした。これに対して、実施例19は、それぞれの延伸倍率が2.0倍および3.0倍とした。
【0124】
[実施例20]
実施例20は、以下の相違点を除き、実施例19と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は非晶性PET基材に製膜されたPVA層の厚みにある。実施例19は、9μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が3.5μm厚であった。これに対して、実施例20は、6μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が2.5μm厚であった。
【0125】
[実施例21]
実施例21は、以下の相違点を除き、実施例19と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。実施例21は、14μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が6μm厚であった。
【0126】
[実施例22]
実施例22は、以下の相違点を除き、実施例19と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。実施例22は、24μm厚のPVA層で最終的に光学フィルム積層体に含まれるPVA層が10μm厚であった。
【0127】
[実施例23]
実施例23は、以下の相違点を除き、実施例19と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸倍率が2.0倍でホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.25倍に変化させたことにある。実施例23の場合、そのことによって、総延伸倍率は、実施例19の場合の6倍に対して、6.5倍となった。
【0128】
[実施例24]
実施例24は、以下の相違点を除き、実施例19と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸温度とホウ酸水中延伸の延伸倍率である。実施例19の場合、空中補助延伸の延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例24の場合、空中補助延伸の延伸温度を110℃とした。更に、実施例19の場合、ホウ酸水中延伸の延伸倍率を3.0倍とし総延伸倍率を6.0倍に設定したのに対して、実施例24の場合、ホウ酸水中延伸の延伸倍率を2.5とし総延伸倍率を5.0倍に設定した。
【0129】
[実施例25]
実施例25は、以下の相違点を除き、実施例24と同様の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸温度である。実施例24は空中補助延伸の延伸温度を110℃に設定したのに対して、実施例25の場合、空中補助延伸の延伸温度を95℃と設定した。
【0130】
[比較例1]
比較例1は、実施例4と同様の条件で、200μm厚の非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させて非晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、延伸温度を130℃に設定した空中高温延伸によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を延伸倍率が4.0倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.5μm厚のPVA層へと変化した。
【0131】
次に、延伸積層体は染色処理され、PVA分子が配向された3.5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体が生成された。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。このように、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0132】
さらに、着色積層体は架橋処理される。具体的には、液温が40℃で、ホウ酸3%、ヨウ化カリウム3%からなるホウ酸架橋水溶液に60秒間、浸漬することによって着色積層体に架橋処理を施した。比較例1は、架橋処理が施された着色積層体が実施例4の光学フィルム積層体に相当する。したがって、洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例4の場合と同様である。
【0133】
[比較例2]
比較例2は、比較例1の延伸積層体を比較例1と同様の条件で、延伸倍率が4.5倍、5.0倍、6.0倍になるように延伸した延伸積層体を生成した。表1に示される比較表は、比較例1と比較例2とを含めた、200μm厚の非晶性PET基材と該非晶性PET基材に製膜されたPVA層とに発生した現象を示したものである。これにより、延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が4.0倍を限度とすることを確認した。
【0134】
【表1】

【0135】
[比較例3]
比較例3は、比較例1の場合と同様の条件で、200μm厚のPET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させてPET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、積層体を、液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を生成した。具体的には、着色積層体は、積層体を液温30℃の0.3重量%濃度のヨウ素及び2.1重量%濃度のヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。次に、延伸温度を60℃に設定したホウ酸水中延伸によって、ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体を延伸倍率が5.0倍になるように自由端一軸に延伸することで、PET樹脂基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を種々生成した。
【0136】
[比較例4]
75μm厚のポリビニルアルコール系フィルム(クラレ社製 商品名「ポバールフィルム VF−PSN7500」)を、30℃の水中に浸漬して膨潤させ、さらに水中で一軸延伸した(延伸倍率3.5倍)。次いで、濃度0.1重量%(重量比:ヨウ素/ヨウ化カリウム=1/8)の30℃のヨウ素溶液中で任意の時間染色した。その後、30℃のホウ酸水溶液中(ホウ酸濃度3重量%、ヨウ化カリウム濃度3重量%)に45秒間浸漬し、次いで、60℃のホウ酸水溶液中(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬しながら総合延伸倍率が6倍まで延伸した。その後、30℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度4重量%)に10秒間浸漬した。延伸後、60℃のオーブンで3分間乾燥を行い、厚さ30μmの偏光膜を得た。
【0137】
[参考例1]
参考例1は、樹脂基材として、結晶性ポリエチレンテレフタレート(以下、「結晶性PET」という)の連続ウェブの基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、乾燥させて結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。結晶性PETのガラス転移温度は80℃である。次に、生成された積層体を110℃に設定した空中高温延伸によって延伸倍率が4.0倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例1の場合、延伸温度110℃の空中高温延伸において、積層体を4.0倍以上に延伸することができなかった。
【0138】
延伸積層体は、次の染色工程によって、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体に生成された。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。このように、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。次に、生成された着色積層体を架橋処理する。具体的には、液温が40℃で、ホウ酸3%、ヨウ化カリウム3%からなるホウ酸架橋水溶液に60秒間、浸漬することによって着色積層体に架橋処理を施した。参考例1は、架橋処理が施された着色積層体が実施例4の光学フィルム積層体に相当する。したがって、洗浄工程、乾燥工程、貼合せ及び/又は転写工程は、いずれも実施例4の場合と同様である。
【0139】
[参考例2]
参考例2は、樹脂基材として、参考例1の場合と同様に、結晶性PET基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、生成された積層体を100℃の空中高温延伸によって延伸倍率が4.5倍になるように自由端一軸に延伸した延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例2の場合、延伸温度100℃の空中高温延伸において、積層体を4.5倍以上に延伸することができなかった。
【0140】
次に、延伸積層体から着色積層体を生成した。着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。参考例2は、参考例1の場合と同様に、PVA分子が配向されたPVA層へのヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする着色積層体を種々生成した。
【0141】
[参考例3]
参考例3は、樹脂基材として、参考例1又は2の場合と同様に、結晶性PET基材を用い、200μm厚の結晶性PET基材に7μm厚のPVA層を製膜した積層体を生成した。次に、生成された積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を種々生成した。しかる後に、生成された着色積層体を90℃の空中高温延伸によって、延伸倍率が4.5倍になるように自由端一軸に延伸し、着色積層体から偏光膜に相当するヨウ素を吸着させたPVA層を含む延伸積層体を生成した。この延伸処理によって、着色積層体から生成された延伸積層体に含まれるヨウ素を吸着させたPVA層は、PVA分子が配向された3.3μm厚のPVA層へと変化した。参考例3の場合、延伸温度90℃の空中高温延伸において、積層体を4.5倍以上に延伸することができなかった。
【0142】
実施例1〜18、比較例1〜4及び参考例1〜3の製造方法により得られた偏光膜の光学特性は図7、13〜17、26に示されるとおりであるが、図中の各実施例、比較例、参考例に対する曲線は参考のために示したものであり、実際に作成された偏光膜はプロットで示されたもののみであることは言うまでもない。
【0143】
実施例4、8、12、19〜25及び比較例1、4の製造方法により得られた偏光膜のうちの特定の偏光膜を選び、各偏光膜について、以下に示すようにして各種評価を行った。評価の対象とした偏光膜の光学特性を図30に、光学特性を含む各種特性と評価結果を表2に示す。ここで、各偏光膜の実施例の番号は、製造方法の実施例番号に枝番を付す形とした。
【0144】
【表2】

【0145】
まず、各評価に共通の構成である円偏光板の構成について説明する。
【0146】
比較例4−1に係る偏光膜については、従来と同様に、偏光膜の両面に、それぞれTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム(厚み40μm)およびハードコート(HC)処理のされたTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム(厚み45μm)を接着剤を介して貼合せて光学機能フィルム積層体を作製した。得られた光学機能フィルム積層体と1/4波長位相差膜(帝人化成社製 商品名「ピュアエースWR(S-148)」)を貼り合わせて円偏光板を作製した。具体的には、光学機能フィルム積層体のHC処理のなされていないTACフィルム面と1/4波長位相差層を、1/4波長位相差層の遅相軸と偏光膜の吸収軸が45度となるように、アクリル系粘着剤(20μm)を介して貼り合わせることにより円偏光板を作成した。
【0147】
各実施例及び比較例1−1、1−2に係る偏光膜については、比較例4−1と異なり、偏光膜の片面のみにTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム(厚み40μm)を接合した。すなわち、非晶性PET基材に製膜されたPVA層の表面に接着剤を介して、ハードコート(HC)処理のされたTAC(トリアセチルセルロース系)フィルム(厚み45μm)を貼合せて、光学フィルム積層体を作製した。更に、光学フィルム積層体から非晶性PET基材を剥離し、PVA層を45μm厚のHC処理TAC(トリアセチルセルロース系)フィルムに転写して光学機能フィルム積層体を作製した。得られた光学機能フィルム積層体と1/4波長位相差膜(帝人化成社製 商品名「ピュアエースWR(S-148)」)を貼り合わせて円偏光板を作製した。具体的には、光学機能フィルム積層体の偏光膜面と1/4波長位相差膜を、1/4波長位相差膜の遅相軸と偏光膜の吸収軸が45度となるように、アクリル系粘着剤(20μm)を介して貼り合わせることにより円偏光板を作成した。
【0148】
(反射率)
各々の円偏光板の1/4波長位相差膜面を、アクリル系粘着剤(20μm)を介して有機EL表示装置(サムスン電子社製 商品名「GALAXY S」)の有機表示ELパネルに貼合せて反射率を測定した。測定された反射率から積層体の表面の反射率(4.5%)を差し引いて比較評価を行った。なお、評価に用いた有機表示ELパネルは、表面に貼り合わされてある反射防止フィルムをあらかじめ剥離してから使用した。
【0149】
(白輝度)
各々の円偏光板の1/4波長位相差膜面を、アクリル系粘着剤(20μm)を介して有機EL表示装置(サムスン電子社製 商品名「GALAXY S」)の有機EL表示パネルに貼合せて白表示における輝度を測定した。測定装置は、TOPCON社製のBM-5を用いた。比較例1の白輝度を100として評価比較を行った。なお、評価に用いた有機EL表示パネルは、表面に貼り合わされてある反射防止フィルムをあらかじめ剥離してから使用した。
【0150】
(反り)
各々の円偏光板の1/4波長位相差膜面を、アクリル系粘着剤(20μm)を介してサイズ255mm×150mmのガラス板(0.7mm厚)の片側にサイズ250mm×140mmで貼り合わせて、80℃の恒温オーブン中にで96時間保管(加熱試験)した後に4角の反り量を測定し、その平均値を求めた。
【0151】
(加熱による色度変化及び色ムラ)
各々の円偏光板をアクリル系粘着剤(20μm)を介して有機EL表示パネル(LGディスプレイ社製 商品名「15EL9500」)の視認側に貼り合わせて有機EL表示パネル装置を作成した。得られた有機EL表示パネル装置の表示画面上の45点の色度(反射色相)を分光測色計[コニカミノルタセンシング(株)製 商品名「CM−2600d」]を用いて測定した。測定点は、表示画面上を均一に縦、横にそれぞれ5、9分割してつくられた45分割されたエリアの中心部分とした。なお、評価に用いた有機EL表示パネルは、表面に貼り合わされてある反射防止フィルムをあらかじめ剥離してから使用した。また、この有機EL表示パネル装置を、85℃の恒温オーブン中に40時間保管(加熱試験)した後、同様に表示画面上の45点の色度を測定した。更に、表示画面全体の反射色の均一性を目視により評価した。結果をx、y色度図および写真により、実施例19−2について図31a、32aに、比較例4−1について図31b、32bに示す。図31a、31bに示したx、y色度図は、表示画面上の45点の色度を色度座標(x、y)としてプロットしており、このプロットの変化が大きい程、表示画面内の色度の変化が大きく、表示装置として好ましくない。
【0152】
表2に示されるように、偏光度が99.5未満の比較例1−1の偏光膜については反射率が大きくなってしまっており、有機EL表示装置の反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜としては適さないことが分かった。一方、偏光度が99.5以上の各実施例については反射率が小さく抑えられており、有機EL表示装置の内部反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜として、優れた特性を有していることが分かった。
【0153】
また、表2に示されるように、単体透過率が42.5未満の比較例1−2については白輝度が小さくなってしまっており、有機EL表示装置の反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜としては適さないことが分かった。一方、単体透過率が42.5以上の実施例については十分な白輝度を達成しており、有機EL表示装置の反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜として、優れた特性を有していることが分かった。
【0154】
表2に示されるように、膜厚が厚く、偏光膜の両面に保護層が接合された比較例3−1の偏光膜については大きな反りが発生しており、有機EL表示装置の反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜としては適さないことが分かった。一方、膜厚が10μm以下と非常に薄く、偏光層の片面のみに保護層が接合された各実施例についてはどれも反りが小さく抑えられており、有機EL表示装置の内部反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜として、優れた特性を有していることが分かった。
【0155】
図31bに示されるように、比較例4−1において、加熱試験により、色度座標(x、y)が(0.3、0.3)に近いニュートラルな色相から座標数値の小さい青い色相まで、表示画面内で色度の変化が大きかった。一方、図31aに示されるように、実施例19−2では、加熱試験後も、色度座標(x、y)のプロットの変化が小さく、表示画面内で色度の変化が小さく抑えられていた。他の実施例についても同様の結果が得られた。更に、図32bに示すように、比較例4−1では、加熱されたことにより、反射色が表示画面内で不均一になっているのに対して、実施例19−2では、図32aに示すように加熱されても表示画面内の反射色は均一に保たれていた。他の実施例についても同様の結果が得られた。以上のことより、膜厚が10μm以下と非常に薄く、偏光層の片面のみに保護層が接合された各実施例は、有機EL表示装置の内部反射防止用円偏光板に用いられる偏光膜として、優れた特性を有していることが分かった。
【0156】
(延伸に関連する技術的背景)
図18〜図22は、いずれも実験に基づいて表したものである。まず、図18を参照すると、図18は、結晶性PETと非晶性PETとPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度と延伸可能倍率との相対関係を実験に基づいて表した図である。
【0157】
図18の太線は、延伸温度の変化にともなう非晶性PETの延伸可能倍率の変化を表す。非晶性PETは、Tgが約75℃であり、これ以下の温度で延伸することはできない。図から分かるように、空中高温の自由端一軸延伸によると約110℃を越える点で7.0倍以上にまで延伸できる。一方、図18の細線は、延伸温度の変化にともなう結晶性PETの延伸可能倍率の変化を表す。結晶性PETは、Tgが約80℃であり、これ以下の温度では延伸することができない。
【0158】
次に、図19を参照すると、図は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のTgと融点Tmとの間での温度変化にともなう結晶性PETと非晶性PETのそれぞれの結晶化速度の変化を表す。図19において、80℃から110℃前後のアモルファス状態にある結晶性PETは120℃前後で急速に結晶化することが理解される。
【0159】
また、図18から明らかなように、結晶性PETにおいては、空中高温の自由端一軸延伸による延伸可能倍率は、4.5〜5.5倍が上限となる。しかも、適用され得る延伸温度は、極めて限定的で、約90℃から約110℃までの温度範囲である。
【0160】
図29に結晶性PETを用いて空中高温の自由端一軸延伸を行った例を参考例1〜3として示す。これらは、いずれも、厚み200μmの結晶性PET基材に厚み7μmのPVA層を製膜した積層体を、空中高温延伸することによって生成された、厚み3.3μmの偏光膜である。それぞれの延伸温度には違いがあり、延伸温度は、参考例1が110℃、参考例2が100℃、参考例3が90℃である。ここで注目すべきは、延伸可能倍率である。参考例1の延伸倍率の限界は4.0倍であり、参考例2及び3は4.5倍である。最終的には積層体自体が破断したことによって、これらを越える延伸処理が不可能であった。しかしながら、この結果には、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層自体の延伸可能倍率が影響を及ぼしている可能性を否定することができない。
【0161】
そこで図18を参照すると、この図における破線は、PVA系樹脂に属するPVAの延伸可能倍率を表す。PVA系樹脂のTgは75〜80℃であり、これ以下でPVA系樹脂からなる単層体を延伸することはできない。図18から明らかなように、空中高温の自由端一軸延伸によると、PVA系樹脂からなる単層体の延伸可能倍率は5.0倍を限度とする。このことにより、本発明者らは、以下のことを明らかにすることができた。それは、結晶性PET及びPVA系樹脂のそれぞれの延伸温度及び延伸可能倍率の関係から、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体の空中高温の自由端一軸延伸による延伸可能倍率は、90〜110℃の延伸温度範囲において4.0〜5.0倍が限度であるということである。
【0162】
次に、非晶性PET基材上にPVA系樹脂層を塗布形成した積層体を、空中高温のもとで、自由端一軸延伸した事例について、上掲の表1の比較例1及び2を参照されたい。非晶性PET基材に延伸温度による限界はない。比較例1は、200μm厚の非晶性PET基材に製膜された7μm厚のPVA系樹脂層を含む積層体を、延伸温度を130℃に設定した空中高温の自由端一軸延伸によって生成された偏光膜である。このときの延伸倍率は4.0倍であった。
【0163】
表1を参照すると、比較例2は、比較例1と同様に、200μm厚の非晶性PET基材に製膜された7μm厚のPVA系樹脂層を、延伸倍率が4.5倍、5.0倍、6.0倍になるようにそれぞれを延伸することによって生成された偏光膜である。いずれの比較例においても、表1に示した通り、非晶性PET基材にフィルムの面内で延伸の不均一が生じるか、破断が生じ、一方で、延伸倍率4.5倍でPVA系樹脂層に破断が生じている。これにより、延伸温度130℃の空中高温延伸によるPVA系樹脂層の延伸倍率の限界が4.0倍であることを確認した。
【0164】
参考例1〜3はいずれも、延伸温度に違いはあるが、結晶性PET基材にPVA系樹脂層を製膜した積層体に対し、4.0〜4.5倍の延伸処理を施すことによってPVA分子を配向させ、薄膜化したPVA系樹脂層に、ヨウ素を吸着させて着色積層体を生成したものである。具体的には、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA系樹脂層の単体透過率が40〜44%になるように、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させた。また薄膜化されたPVA系樹脂層へのヨウ素吸着量を調整することによって単体透過率Tと偏光度Pとを異にする種々の偏光膜を生成した。
【0165】
図26を参照すると、参考例1〜3の偏光膜は、いずれも、光学特性が劣る。その原因は、結晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層は、空中高温延伸によって、ある程度PVA分子が配向されるが、その一方で、空中高温延伸は、PVA分子の結晶化を促進し、非晶部分の配向を阻害しているものと推定される。
【0166】
そこで、本発明者らは、本発明に先立って、PCT/JP2010/001460に係る国際出願に開示される偏光膜及びその製造方法を開発した。これは、Tg以下の延伸温度であってもPET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸することができる、という水の可塑剤機能に着目した知見に基づいたものである。この方法により製造される偏光膜の一例を、ここでは比較例3とする。この方法によれば、PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体は、延伸倍率5.0倍まで延伸できる。
【0167】
本発明者らは、その後さらに研究を進め、延伸倍率の限界が5.0倍となる原因は、PET基材が結晶性PETによるものであることを確認した。PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体はTg以下のホウ酸水溶液で延伸されるため、PET基材が結晶性であるか非晶性であるかは延伸作用に大きく影響しないとの認識であったが、非晶性PETを用いた場合には、積層体を延伸倍率5.5倍まで延伸できることを見出した。この場合、非晶性PETを基材として使用し、比較例3に示す偏光膜の製造方法と同様の方法を適用する場合において、延伸倍率の限界が5.5倍であることの原因は、非結晶性のPET基材による延伸倍率の制限が影響しているものと推定される。
【0168】
比較例1については、単体透過率Tと偏光度Pを異にする種々の偏光膜を生成した。図26に、参考例1〜3とともに、それらの光学特性を示す。なお、図中の比較例、各参考例に対する曲線は参考のために示したものであり、実際に作成された偏光膜はプロットで示されたもののみであることは言うまでもない。
【0169】
図20は、本発明者らが、こうした研究結果を基に着想を得た、本発明の2段延伸における、空中高温延伸の延伸倍率と総合延伸倍率(以下、「総延伸倍率」という。)との関係を表したものである。横軸は、自由端一軸延伸による延伸温度130℃の空中延伸における延伸倍率である。縦軸の総延伸倍率は、以下に述べる自由端一軸空中高温延伸を含む2段階の延伸処理によって、空中高温延伸前の長さである元長を1として、最終的に元長が何倍延伸されたかを表す総延伸倍率である。例えば、延伸温度130℃の空中高温延伸による延伸倍率が2倍であって、次の延伸倍率が3倍であれば、総延伸倍率は6倍(2×3=6)になる。空中高温延伸に続く第2段の延伸工程は、延伸温度65℃のホウ酸水溶液中における自由端一軸延伸(以下、ホウ酸水溶液に浸漬させながら延伸する処理を「ホウ酸水中延伸」という。)である。この二つの延伸方法を組み合わせることによって、図20に示す結果を得ることができた。
【0170】
図20の実線は、非晶性PETの延伸可能倍率を表している。非晶性PETの総延伸倍率は、空中高温延伸せずに、直接ホウ酸水中延伸をした場合、すなわち空中高温延伸の倍率が1倍のときには、5.5倍が限度である。これ以上の延伸を行うと、非晶性PETは破断する。しかしながら、この値は、非晶性PETの最小延伸倍率に相当する。非晶性PETの総延伸倍率は、空中高温延伸時の延伸倍率が大きくなるほど大きくなり、延伸可能倍率は、10倍を越える。
【0171】
これに対して、図20の破線は、非晶性PETに製膜されたPVA系樹脂層の延伸可能倍率を表している。空中高温延伸せずに、直接ホウ酸水中延伸した場合には、PVA系樹脂層の総延伸倍率は最大倍率を示す7倍である。しかしながら、空中高温延伸時の延伸倍率が大きくなるほどPVA系樹脂層の総延伸倍率は小さくなり、空中高温延伸時の延伸倍率が3倍の点では、PVA系樹脂層の総合延伸倍率が6倍を下回る。PVA系樹脂層の総合延伸倍率を6倍にしようとすると、PVA系樹脂層が破断する。図20から明らかなように、非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を延伸できなくなる原因は、空中高温の延伸倍率の大きさに応じて、非晶性PET基材に起因するものからPVA系樹脂層に起因するものに移る。因みに、PVAの空中延伸倍率は4倍までであり、それ以上は延伸不能である。この倍率が、PVAの総延伸倍率に相当するものと推定される。
【0172】
ここで、図21を参照する。図21は、結晶性PETと非晶性PET、及びPVA系樹脂について、空中高温延伸とホウ酸水中延伸の2段延伸を行った場合における総延伸可能倍率を、空中高温延伸の延伸温度との関係で示すもので、実験に基づくデータに従って描かれたものである。図18は、結晶性PETと非晶性PET、及びPVA系樹脂について、空中高温延伸の延伸温度を横軸にとり、空中高温延伸の延伸可能倍率を縦軸とってに表すものである。図21の図18との違いは、横軸が2倍の空中高温延伸のときの延伸温度を横軸にとり、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸可能倍率を縦軸とって表したことにある。
【0173】
本発明において使用される偏光膜の製造方法は、後述されるように、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との2段階の延伸工程の組み合わせからなる。2段階延伸工程の組み合わせは、単純に想到できるものではない。本発明者らが長期間にわたって鋭意研究を重ねた結果、この組み合わせによって初めて、以下に述べる2つの技術的課題を同時に解決することができる、という驚くべき結果に到達するに至ったのである。熱可塑性樹脂基材にPVA系樹脂層を形成して延伸及び染色を行うことにより偏光膜を製造しようとする試みにおいては、これまで解決不能と考えられてきた2つの技術的課題が存在する。
【0174】
第1の技術的課題は、PVA系樹脂の配向性の向上に影響をもつ延伸倍率及び延伸温度が、その上にPVA系樹脂を形成する熱可塑性樹脂基材によって大きく制約を受けることである。
【0175】
第2の技術的課題は、延伸倍率及び延伸温度の制約という問題を克服できても、PVA系樹脂及び熱可塑性樹脂基材として使用されるPETなどでは、結晶性樹脂の結晶化と延伸可能性とが対立する物性であるため、PVA系樹脂の延伸がPVA系樹脂の結晶化によって制限されることである。
【0176】
第1の課題は以下の通りである。熱可塑性樹脂基材を用いて偏光膜を製造する場合における制約は、図18に示すように、延伸温度がPVA系樹脂のTg(約75〜80℃)以上であり、延伸倍率が4.5〜5.0倍であるというPVA系樹脂の特性に起因する。熱可塑性樹脂基材として結晶性PETを用いると、延伸温度が90〜110℃にさらに限定される。積層体の空中高温延伸によって、その積層体に含まれる熱可塑性樹脂基材に形成されたPVA系樹脂層を薄膜化した偏光膜は、こうした制限を逃れ難いものと考えられてきた。
【0177】
そのため、本発明者らは、水の可塑剤機能に着目して、空中高温延伸に代わることができるホウ酸水中延伸方法を提示した。しかしながら、延伸温度が60〜85℃のホウ酸水中延伸によっても、結晶性PETを用いると、延伸倍率の限界が5.0倍となり、非晶性PETを用いた場合でも、延伸倍率の限界が5.5倍という、熱可塑性樹脂基材に起因する制約を逃れることができなかった。このことにより、PVA分子の配向性向上が制限され、薄膜化された偏光膜の光学特性も限定される結果となった。これが第1の技術的課題である。
【0178】
第1の技術的課題の解決手段は、図22によって説明することができる。図22は、2つの関連図からなる。一つは、熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性を表す図であり、他の一つはPETの結晶化度を表す図である。いずれも横軸は、空中高温延伸とホウ酸水中延伸との総延伸倍率を表す。図22の破線は、ホウ酸水中延伸単独による総延伸倍率を表す。PETの結晶化度は、結晶性であるか非晶性であるかに関わりなく、延伸倍率が4〜5倍のところで急上昇する。そのため、ホウ酸水中延伸を適用した場合であっても、延伸倍率は、5倍又は5.5倍が限度であった。ここで配向性が上限となり、延伸張力が急上昇する。その結果、延伸不能となる。
【0179】
これに対して、図22の実線は、延伸温度110℃で延伸倍率が2倍になるように空中高温の自由端一軸延伸を行い、次に延伸温度65℃のホウ酸水中延伸を行った結果を示す。結晶性であるか非晶性であるかに関わりなく、PETの結晶化度は、ホウ酸水中延伸単独の場合と異なり急上昇することはなかった。その結果、総延伸可能倍率は、7倍まで高めることができた。ここで配向性が上限となり延伸張力が急上昇する。これは、図21から明らかなように、第1段の延伸方法として空中高温の自由端一軸延伸を採用した結果である。これに対して、後述されるように、延伸に際して延伸方向に直角な方向の収縮を拘束する、いわゆる固定端一軸延伸法による空中高温延伸を行うと、総延伸可能倍率を8.5倍にすることができる。
【0180】
図22において、熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向性と結晶化度との関係は、空中高温延伸による補助延伸によって、結晶性であるか非晶性であるかに関わりなくPETの結晶化を抑制できることを確認した。しかしながら、補助延伸温度とPETの配向性との関係を示す図23を参照すると、熱可塑性樹脂基材として結晶性PETを用いた場合、補助延伸後の結晶性PETの配向性は、90℃では0.30以上、100℃では0.20以上、110℃でも0.10以上である。PETの配向性が0.10以上になると、ホウ酸水溶液中における第2段目の延伸において、延伸張力が上昇し、延伸装置にかかる負荷が大きく、製造条件としては好ましくない。図23は、熱可塑性樹脂基材としては非晶性PETを用いるのが好ましいことを示しており、さらに、より好ましくは、配向関数が0.10以下の非晶性PETであり、さらに好ましくは0.05以下の非晶性PETであることを示唆するものである。
【0181】
図23は、1.8倍の空中高温延伸における空中延伸温度と熱可塑性樹脂基材として用いられるPETの配向関数との関係を表した実験データである。図23から明らかなように、ホウ酸水溶液中において延伸積層体を高倍率に延伸することが可能になる、配向関数が0.10以下のPETは、非晶性PETになる。特に、配向関数が0.05以下になると、ホウ酸水溶液中における第2段目の延伸の際に、延伸装置に延伸張力が上昇するなどの大きな負荷をかけることなく、安定して高倍率に延伸することができる。この点は、図29に実施例1〜18及び参考例1〜3として示す例における配向関数値からも容易に理解できることである。
【0182】
第1の技術的課題を解決することによって、PET基材に起因する延伸倍率についての制約を取り払い、総延伸を高倍率化することによってPVA系樹脂の配向性を高めることができる。そのことにより、偏光膜の光学特性は、格段と改善される。ところが、本発明者らが達成した光学特性の改善は、これに止まるものではない。これは、第2の技術的課題を解決することによって達成される。
【0183】
第2の技術的課題は以下の通りである。PVA系樹脂や熱可塑性樹脂基材としてのPETなどの結晶性樹脂の特徴の一つは、一般的に加熱や延伸配向によって高分子が配列して結晶化が進む性質を有することである。PVA系樹脂の延伸は、結晶性樹脂であるPVA系樹脂の結晶化によって制限される。結晶化と延伸可能性とは対立する物性であり、PVA系樹脂の結晶化の進展はPVA系樹脂の配向性を阻害する、というのが一般的な認識であった。これが第2の技術的課題である。この技術的課題を解決する手段は、図24によって説明することができる。図24は、2つの実験結果に基づき算出されたPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を実線と破線とで表したものである。
【0184】
図24の実線は、以下の試料のPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を表したものである。試料は、まず、非晶性PET基材上に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を6個、同一の条件で生成した。準備した6個のPVA系樹脂層を含む積層体を、それぞれ異なる延伸温度80℃,95℃,110℃、130℃,150℃、及び170℃で、同一の延伸倍率1.8倍となるように、空中高温延伸によって延伸し、PVA系樹脂層を含む延伸積層体を生成した。生成されたそれぞれの延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数を上述のように測定し、解析した。
【0185】
図24の破線は、実線の場合と同様に、以下の試料におけるPVA系樹脂の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数との関係を表したものである。まず、非晶性PET基材上に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を6個、同一の条件で生成することにより、試料を準備した。準備した6つのPVA系樹脂層を含む積層体を、それぞれ異なる延伸倍率1.2倍、1.5倍、1.8倍、2.2倍、2.5倍、及び3.0倍となるように、同一の延伸温度130℃で、空中高温延伸によって延伸し、PVA系樹脂層を含む延伸積層体を生成した。生成されたそれぞれの延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の結晶化度とPVA系樹脂の配向関数を上述のように測定し、解析した。
【0186】
図24の実線によって、空中高温延伸の延伸温度を高く設定する方が、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の配向性が向上することが分かる。また、図24の破線によって、空中高温延伸の延伸倍率を高倍率に設定する方が、延伸積層体に含まれるPVA系樹脂層の配向性が向上することが分かる。第2段のホウ酸水中延伸前に、PVA系樹脂の配向性を向上させておくこと、すなわちPVA系樹脂の結晶化度を高めておくことにより、結果としてホウ酸水中延伸後のPVA系樹脂の配向性も高くなる。さらにPVA系樹脂の配向性が高くなることで、結果としてポリヨウ素イオンの配向性も高くなることを、後述される実施例のT−Pグラフからも確認することができる。
【0187】
第1段の空中高温延伸の延伸温度を高く設定しておくか又は延伸倍率をより高倍率に設定しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって生成されたPVA系樹脂層のPVA分子の配向性を、より高めることができる、という予期しない優れた結果を得た。
【0188】
図24に示すPVA系樹脂の結晶化度(横軸)を参照する。PVA系樹脂層を含む延伸積層体の染色のための水溶液に浸漬する着色工程において、PVA系樹脂層の溶解などの不具合を生じさせることなく着色積層体を生成するためには、少なくともPVA系樹脂層の結晶化度が27%以上であることが好ましい。そのことによりPVA系樹脂層を溶解させることなく、PVA系樹脂層を染色することができる。またPVA系樹脂層の結晶化度を30%以上に設定することにより、ホウ酸水溶液中における延伸温度をより高温にすることができる。そのことにより着色積層体の安定した延伸を可能とし、偏光膜を安定的に作製することができる。
【0189】
一方、PVA系樹脂層の結晶化度が37%以上になると、染色性が低く染色濃度を濃くしなければならず、使用材料も増加し、染色時間がかかり、生産性が低下するおそれがでてくる。またPVA系樹脂層の結晶化度が40%以上になると、ホウ酸水溶液中での延伸処理においてPVA系樹脂層が破断するなどの不具合が生じるおそれもでてくる。したがって、PVA系樹脂の結晶化度は、27%以上で40%以下となるように設定されることが好ましい。より好ましくは、30%以上で37%以下に設定することである。
【0190】
次に、図24のPVA系樹脂層の配向関数(縦軸)を参照する。非晶性PETの樹脂基材を用いて高機能の偏光膜を作製するためには、少なくともPVA系樹脂層の配向関数が0.05以上であることが好ましい。また、PVA系樹脂層の配向性が0.15以上になると、PVA系樹脂層を含む着色積層体に対するホウ酸水溶液中における延伸倍率を下げることができる。そのことにより広幅の偏光膜の作製が可能になる。
【0191】
一方、PVA系樹脂層の配向関数が0.30以上になると、染色性が低く染色濃度を濃くしなければならず、使用材料も増加し、染色時間がかかり、生産性が低下するおそれがでてくる。またPVA系樹脂層の配向関数が0.35以上になると、ホウ酸水溶液中における延伸処理においてPVA系樹脂層が破断するなどの不具合が生じるおそれがでてくる。したがって、PVA系樹脂層の配向関数は、0.05以上で0.35以下となるように設定されることが好ましい。より好ましくは、0.15以上で0.30以下に設定することである。
【0192】
第1の技術的課題の解決手段は、非晶性PET基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体を、予め第1段の空中高温延伸によって予備的又は補助的に延伸しておくことによって、第2段のホウ酸水中延伸によって非晶性PET基材の延伸倍率に制限されることなく、PVA系樹脂層を高倍率に延伸することが可能となり、そのことによりPVAの配向性が十分に向上する、というものである。
【0193】
また、第2の技術的課題の解決手段は、予め第1段の空中高温延伸の延伸温度を予備的又は補助的により高い温度に設定しておくか又は延伸倍率を予備的又は補助的により高倍率に設定しておくことであり、これによって、第2段のホウ酸水中延伸によって生成されたPVA系樹脂層のPVA分子の配向性をより高めるという予期せざる結果がもたらされた。いずれの場合においても、第1段の空中高温延伸が第2段のホウ酸水中延伸に対する予備的又は補助的な空中延伸手段として位置付けることができる。以下、「第1段の空中高温延伸」を第2段のホウ酸水中延伸と対比して「空中補助延伸」という。
【0194】
「空中補助延伸」を行うことによる、特に第2の技術的課題の解決メカニズムについて、以下のように推定することができる。空中補助延伸を高温にするか又は高倍率にするほど、図24で確認したように、空中補助延伸後のPVA系樹脂の配向性が向上する。これは、高温又は高倍率であるほどPVA系樹脂の結晶化が進みながら延伸されるため、部分的に架橋点ができながら延伸されることが要因であると推定される。結果としてPVA系樹脂の配向性が向上していることになる。予めホウ酸水中延伸前に空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水溶液に浸漬した時に、ホウ酸がPVA系樹脂と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となりながら延伸されるものと推定される。結果としてホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなる。
【0195】
以上を総合すると、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸を行うことによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pで表される光学特性が、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足するように構成された偏光膜を得る、ないしは安定的に得ることができる。
【0196】
この偏光膜は、有機EL表示パネルの視認側に貼り合される光学機能フィルム積層体に用いることができる。
【0197】
ここでさらに、熱可塑性樹脂基材を用いて、PVA系樹脂からなる偏光膜を製造する本発明の方法を実施する場合において、PVA系樹脂を不溶化する不溶化方法が、重要な技術的課題の一つに位置付けられることについて、以下に述べる。
【0198】
熱可塑性樹脂基材上に製膜されたPVA系樹脂層を延伸する場合において、延伸中間生成物又は延伸された積層体に含まれるPVA系樹脂層を染色液に溶解させることなく、ヨウ素をPVA系樹脂層に吸着させることは決して容易なことではない。偏光膜の製造において、薄膜化されたPVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることは、必須の工程である。通常の染色工程においては、ヨウ素濃度が0.12〜0.25重量%の範囲にあるヨウ素濃度の異なる複数の染色液を用い、浸漬時間を一定にすることよってPVA系樹脂層へのヨウ素吸着量を調整している。こうした通常の染色処理は、偏光膜を製造する場合には、PVA系樹脂層が溶解されるため染色不能になる。
【0199】
この技術的課題は、図5に示した実験結果から明らかなように、二色性物質であるヨウ素の濃度を、0.3重量%又はそれ以上にすることによって解決できる。具体的には、PVA系樹脂層からなる延伸中間生成物を含む積層体を、ヨウ素濃度の異なる染色液を用いて染色し、その浸漬時間を調整することによって、着色中間生成物を含む着色積層体を生成し、ホウ酸水中延伸によって種々の偏光性能を有するそれぞれの偏光膜を生成することができる。
【0200】
ここで、図6を参照する。図6は、ヨウ素濃度を、それぞれ0.2重量%、0.5重量%、1.0重量%に調整した偏光膜の偏光性能に有意差はないことを示すものである。ちなみに、着色中間生成物を含む着色積層体の生成において、安定して、均一性に優れた着色を実現するためには、ヨウ素濃度を濃くして僅かな浸漬時間で染色するよりは、薄くして安定した浸漬時間を確保することができるようにするのが好ましい。
【0201】
図7を参照すると、本発明の方法を実施する場合における2つの異なる不溶化(以下、「第1及び第2の不溶化」という)が、いずれも最終的に製造される偏光膜の光学特性にも影響を与えることが示される。図7は、薄膜化されたPVA系樹脂層に対する第1及び第2の不溶化の作用の分析結果とみることができる。図7は、有機EL表示装置として求められる要求性能を満たす4つの実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜の光学特性を示すものである。
【0202】
実施例1は、第1及び第2の不溶化工程を経ることなく製造された偏光膜の光学特性である。これに対して、実施例2は、第1の不溶化工程を行わず、第2の不溶化処理のみを行った偏光膜、実施例3は、第2の不溶化工程を行わず、第1の不溶化処理のみを行った偏光膜、実施例4は、第1及び第2の不溶化処理が行われた偏光膜の、それぞれの光学特性を示すものである。
【0203】
本発明の実施態様において、第1及び第2の不溶化工程を経ることなく要求性能を満たす偏光膜を製造することができる。しかしながら、図7から明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、実施例2〜4のいずれの偏光膜の光学特性よりも低い。それぞれの光学特性値を比較すると、実施例1<実施例3<実施例2<実施例4の順に光学特性が高くなる。実施例1及び実施例3においては、いずれも、染色液のヨウ素濃度を0.3重量%に設定し、ヨウ化カリウム濃度を2.1重量%に設定した染色液を用いた。これに対して、実施例2及び実施例4においては、ヨウ素濃度を0.12〜0.25重量%に設定し、ヨウ化カリウム濃度0.84〜1.75重量%の範囲内で変化させた複数の染色液を用いた。実施例1及び実施例3のグループと実施例2及び実施例4のグループとの顕著な違いは、前者の着色中間生成物には不溶化処理が施されていないが、後者の着色中間生成物には不溶化処理が施されていることである。実施例4においては、染色処理前の延伸中間生成物のみならず、ホウ酸処理前の着色中間生成物に対しても不溶化処理が施されている。第1及び第2の不溶化処理によって、偏光膜の光学特性を一段と向上させることができた。
【0204】
偏光膜の光学特性を向上させるメカニズムは、図6から分かるように、染色液のヨウ素濃度によるものでない。第1及び第2の不溶化処理による効果である。この知見は、本発明の製造方法における第3の技術的課題とその解決手段として位置付けることができる。
【0205】
本発明の実施態様において、第1の不溶化は、延伸中間生成物(又は延伸積層体)に含まれる薄膜化されたPVA系樹脂層を溶解させないようにする処理である。これに対して、架橋工程に含まれる第2の不溶化は、後工程の液温75℃のホウ酸水中延伸において着色中間生成物(又は着色積層体)に含まれるPVA系樹脂層に着色されたヨウ素を溶出させないようにする着色安定化と、薄膜化されたPVA系樹脂層を溶解させない不溶化とを含む処理である。
【0206】
ところが、第2不溶化工程を省くと、液温75℃のホウ酸水中延伸においては、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出が進み、そのことによりPVA系樹脂層の溶解も進む。ヨウ素の溶出及びPVA系樹脂層の溶解を回避することは、ホウ酸水溶液の液温を下げることによって対応することができる。例えば、液温65℃を下回るホウ酸水溶液に着色中間生成物(又は着色積層体)を浸漬しながら延伸する必要がある。しかしながら、結果として水の可塑剤機能が十分に発揮されないため、着色中間生成物(又は着色積層体)に含まれるPVA系樹脂層の軟化は、十分には得られない。すなわち、延伸性能が低下するため、ホウ酸水中延伸の過程で着色中間生成物(又は着色積層体)が破断することになる。当然のことであるが、PVA系樹脂層の所定の総延伸倍率が得られないことにもなる。
【0207】
以下に、図を参照して本発明に使用される偏光膜の製造方法の例を説明する。
【0208】
[製造工程の概要]
図8を参照すると、図8は、不溶化処理工程を有しない、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程の概要図である。ここでは、上述した実施例1に基づく偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造方法について概説する。
【0209】
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。ガラス転移温度が75℃の連続ウェブの非晶性PET基材1と、ガラス転移温度が80℃のPVA層2とを含む積層体7を以下のように作製した。
【0210】
[積層体作製工程(A)]
まず、200μm厚の非晶性PET基材1と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備した。次に、塗工手段21と乾燥手段22及び表面改質処理装置23を備えた積層体作製装置20において、200μm厚の非晶性PET基材1にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2を製膜した。後述するように、このPVA層の厚みは、適宜変更することができる。以下、このようにして得られた積層体を「非晶性PET基材にPVA層が製膜された積層体7」、「PVA層を含む積層体7」、又は単に「積層体7」という。
【0211】
PVA層を含む積層体7は、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、最終的に3μm厚の偏光膜3として製造される。本発明は、厚みが10μm以下の偏光膜を使用するものであるが、PET基材1上に製膜されるPVA系樹脂層の厚みを適宜変更することによって、厚み10μm以下の任意の厚みの偏光膜を作成することができる。
【0212】
[空中補助延伸工程(B)]
第1段の空中補助延伸工程(B)によって、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を非晶性PET基材1と一体に延伸し、5μm厚のPVA層2を含む「延伸積層体8」を生成した。具体的には、オーブン33内に延伸手段31が配備された空中補助延伸処理装置30において、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブン33内で延伸手段31に通し、延伸倍率が1.8倍になるように、自由端一軸延伸し、延伸積層体8を生成した。この段階で、オーブン30に併設させた巻取装置32に巻き取って延伸積層体8のロール8’を製造することができる。
【0213】
ここで、自由端延伸と固定端延伸について概説する。長尺フィルムを搬送方向に延伸すると、延伸する方向に対して垂直方向すなわち幅方向にフィルムが収縮する。自由端延伸は、この収縮を抑制することなく延伸する方法をいう。また、縦一軸延伸とは、縦方向にのみに延伸する延伸方法のことである。自由端一軸延伸は、一般に延伸方向に対して垂直方向に起こる収縮を抑制しながら延伸する固定端一軸延伸と対比されるものである。この自由端一軸の延伸処理によって、積層体7に含まれる7μm厚のPVA層2は、PVA分子が延伸方向に配向された5μm厚のPVA層2になる。
【0214】
[染色工程(C)]
次に、染色工程(C)によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2に二色性物質のヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。具体的には、染色液41の染色浴42を備えた染色装置40において、染色装置40に併設されたロール8’を装着した繰出装置43から繰り出される延伸積層体8を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液41に、最終的に生成される偏光膜3を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体8の配向されたPVA層2にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。
【0215】
本工程において、染色液41は、延伸積層体8に含まれるPVA層2を溶解させないようにするため、ヨウ素濃度が0.30重量%である水溶液とした。また、染色液41は、ヨウ素を水に溶解させるためのヨウ化カリウム濃度が2.1重量%になるように調整した。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液41に延伸積層体8を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層2にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液41への延伸積層体8の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜3の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体9を生成した。
【0216】
[ホウ酸水中延伸工程(D)]
第2段のホウ酸水中延伸工程によって、ヨウ素を配向させたPVA層2を含む着色積層体9をさらに延伸し、3μm厚の偏光膜3を構成するヨウ素を配向させたPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成した。具体的には、ホウ酸水溶液51のホウ酸浴52と延伸手段53を備えたホウ酸水中延伸処理装置50において、染色装置40から連続的に繰り出された着色積層体9をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温65℃の延伸温度環境に設定されたホウ酸水溶液51に浸漬し、次にホウ酸水中処理装置50に配備された延伸手段53に通し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することによって、光学フィルム積層体10を生成した。
【0217】
より詳細には、ホウ酸水溶液51は、水100重量%に対してホウ酸を4重量%含み、水100重量%に対してヨウ化カリウムを5重量%含むように調整した。本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体9を、まず5〜10秒間ホウ酸水溶液51に浸漬した。次いで、その着色積層体9をそのままホウ酸水中処理装置50の延伸手段53である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸した。この延伸処理によって、着色積層体9に含まれるPVA層は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化した。このPVA層が光学フィルム積層体10の偏光膜3を構成する。
【0218】
以上のように実施例1においては、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を延伸温度130℃で空中補助延伸して延伸積層体8を生成し、次に、延伸積層体8を染色して着色積層体9を生成し、さらに着色積層体9を延伸温度65度でホウ酸水中延伸して、総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成した。このような2段延伸によって、非晶性PET基材1に製膜されたPVA層2においてPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜3を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を生成することができた。好ましくは、これに続く洗浄、乾燥、転写工程によって、生成された光学フィルム積層体10は完成する。洗浄工程(G)、乾燥工程(H)、さらに転写工程(I)についての詳細は、不溶化処理工程を組み込んだ実施例4に基づく製造工程と併せて説明する。
【0219】
[他の製造工程の概要]
図9を参照すると、図9は、不溶化処理工程を有する、偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程の概要図である。ここでは、実施例4に基づく偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造方法について概説する。図9から明らかなように、実施例4に基づく製造方法は、染色工程前の第1不溶化工程とホウ酸水中延伸工程前の第2不溶化を含む架橋工程とが、実施例1に基づく製造工程に組み込まれた製造工程を想定すればよい。本工程に組み込まれた、積層体の作成工程(A)、空中補助延伸工程(B)、染色工程(C)、及びホウ酸水中延伸工程(D)は、ホウ酸水中延伸工程用のホウ酸水溶液の液温の違いを除き、実施例1に基づく製造工程と同様である。この部分の説明は簡略化し、専ら、染色工程前の第1不溶化工程とホウ酸水中延伸工程前の第2不溶化を含む架橋工程とについて、説明する。
【0220】
[第1不溶化工程(E)]
第1不溶化工程は、染色工程(C)前の不溶化工程(E)である。実施例1の製造工程と同様に、積層体の作成工程(A)において、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を生成し、次に、空中補助延伸工程(B)において、7μm厚のPVA層2を含む積層体7を空中補助延伸し、5μm厚のPVA層2を含む延伸積層体8を生成した。次に、第1不溶化工程(E)において、ロール8’を装着した繰出装置43から繰り出される延伸積層体8に不溶化処理を施し、不溶化された延伸積層体8’’を生成した。当然のことながら、この工程で不溶化された延伸積層体8’’は、不溶化されたPVA層2を含む。以下、これを「不溶化された延伸積層体8’’」という。
【0221】
具体的には、ホウ酸不溶化水溶液61を備えた不溶化処理装置60において、延伸積層体8を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液61に30秒間浸漬する。この工程に用いられるホウ酸不溶化水溶液61は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含む(以下、「ホウ酸不溶化水溶液」という。)ものである。この工程は、少なくとも直後の染色工程(C)において、延伸積層体8に含まれる5μm厚のPVA層を溶解させないための不溶化処理を施すことを目的とする。
【0222】
延伸積層体8は、不溶化処理された後に、染色工程(C)に送られる。この染色工程(C)においては、実施例1の場合と異なり、0.12〜0.25重量%の範囲でヨウ素濃度を変化させた複数の染色液を準備した。これらの染色液を用いて、不溶化された延伸積層体8’’の染色液への浸漬時間を一定にし、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40〜44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体9を生成した。ヨウ素濃度が0.12〜0.25重量%の染色液に浸漬しても、不溶化された延伸積層体8’’に含まれるPVA層が溶解することはなかった。
【0223】
[第2不溶化を含む架橋工程(F)]
以下に説明する架橋工程(F)は、以下の目的からみて、第2不溶化工程を含むものということができる。架橋工程は、第1に、後工程のホウ酸水中延伸工程(D)において、着色積層体9に含まれるPVA層を溶解させないようにする不溶化と、第2に、PVA層に着色されたヨウ素を溶出させないようにする着色安定化と、第3に、PVA層の分子同士を架橋することによって結節点を生成する結節点の生成とを達成するもので、第2不溶化は、この第1と第2の結果を実現するものである。
【0224】
架橋工程(F)は、ホウ酸水中延伸工程(D)の前工程として行われる。染色工程(C)において生成された着色積層体9に架橋処理を施すことによって、架橋された着色積層体9’が生成される。架橋された着色積層体9’は、架橋されたPVA層2を含む。具体的には、ホウ酸とヨウ化カリウムとからなる水溶液(以下、「ホウ酸架橋水溶液」という)71を収容する架橋処理装置70において、着色積層体9を40℃のホウ酸架橋水溶液71に60秒間浸漬し、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋することによって、架橋された着色積層体9’が生成される。この工程で使用されるホウ酸架橋水溶液は、水100重量%に対してホウ酸を3重量%含み、水100重量%に対してヨウ化カリウムを3重量%含む。
【0225】
ホウ酸水中延伸工程(D)において、架橋された着色積層体9’を75℃のホウ酸水溶液に浸漬し、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸することによって、光学フィルム積層体10が生成される。この延伸処理によって、着色積層体9’に含まれるヨウ素を吸着させたPVA層2は、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層2へと変化する。このPVA層が、光学フィルム積層体10の偏光膜3を構成する。
【0226】
実施例4においては、まず、非晶性PET基材1に7μm厚のPVA層2が製膜された積層体7を生成し、次に、積層体7を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸延伸し、延伸積層体8を生成した。生成された延伸積層体8を液温30℃のホウ酸不溶化水溶液61に30秒間浸漬することによって延伸積層体に含まれるPVA層を不溶化した。これが不溶化された延伸積層体8’’である。不溶化された延伸積層体8’’を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に浸漬することによって、不溶化されたPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体9を生成した。ヨウ素を吸着させたPVA層を含む着色積層体9を40℃のホウ酸架橋水溶液71に60秒間浸漬し、ヨウ素を吸着させたPVA層のPVA分子同士を架橋した。これが架橋された着色積層体9’である。架橋された着色積層体9’をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温75℃のホウ酸水中延伸溶51に5〜10秒間浸漬し、次いで、ホウ酸水中延伸によって延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸し、光学フィルム積層体10を生成した。
【0227】
このように、実施例4は、空中高温延伸及びホウ酸水中延伸からなる2段延伸と、染色浴への浸漬に先立つ不溶化及びホウ酸水中延伸に先立つ架橋からなる前処理によって、非晶性PET基材1上に製膜されたPVA層2におけるPVA分子が高次に配向され、染色によってPVA分子に確実に吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体10を安定的に生成することができた。
【0228】
[洗浄工程(G)]
実施例1又は4の着色積層体9又は架橋された着色積層体9’は、ホウ酸水中延伸工程(D)において延伸処理され、ホウ酸水溶液51から取り出される。取り出された偏光膜3を含む光学フィルム積層体10は、好ましくは、そのまま、洗浄工程(G)に送られる。洗浄工程(G)は、薄型高性能偏光膜3の表面に付着した不要残存物を洗い流すことを目的とする。洗浄工程(G)を省き、取り出された偏光膜3を含む光学フィルム積層体10を直接乾燥工程(H)に送り込むこともできる。しかしながら、この洗浄処理が不十分であると、光学フィルム積層体10の乾燥後に薄型高性能偏光膜3からホウ酸が析出することもある。具体的には、光学フィルム積層体10を洗浄装置80に送り込み、薄型高性能偏光膜3のPVAが溶解しないように、液温30℃のヨウ化カリウムを含む洗浄液81に1〜10秒間浸漬する。洗浄液81中のヨウ化カリウム濃度は、0.5〜10重量%程度である。
【0229】
[乾燥工程(H)]
洗浄された光学フィルム積層体10は、乾燥工程(H)に送られ、ここで乾燥される。次いで、乾燥された光学フィルム積層体10は、乾燥装置90に併設された巻取装置91によって、連続ウェブの光学フィルム積層体10として巻き取られ、薄型高性能偏光膜3を含む光学フィルム積層体10のロールが生成される。乾燥工程(H)として、任意の適切な方法、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥を採用することができる。実施例1及び実施例4はいずれにおいても、オーブンの乾燥装置90において、60℃の温風で、240秒間、乾燥を行った。
【0230】
[貼合せ/転写工程(I)]
本発明は、上述したように、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段階延伸工程で延伸されることにより、光学特性が上述の所望の条件を満足するように構成された、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光膜を使用する有機EL表示装置を提供するものである。
【0231】
この有機EL表示装置を形成するために、例えば非晶性PET基材のような熱可塑性樹脂基材上に製膜された、厚み10μm以下の、例えば上述した実施例により製造された厚み3μmの偏光膜3を含む光学フィルム積層体10が、光学フィルム積層体10のロールとして準備され、貼合せ/転写工程(I)において、ロールから繰り出された光学フィルム積層体10に対し、以下のような貼合せ処理と転写処理とを同時に行うことができる。
【0232】
製造される偏光膜3の厚みは、延伸による薄膜化によって10μm以下、通常は、僅か2〜5μm程度にすぎない状態にされる。このような薄い偏光膜3を単層体として扱うことは難しい。従って、偏光膜3は、該偏光膜が製膜された熱可塑性機材、例えば非晶性PET基材上にそのまま残された状態で、光学フィルム積層体10として扱うか、又は、他の光学機能フィルム4に接着剤を介して貼合せ/転写することによって光学機能フィルム積層体11として扱うことになる。
【0233】
図8及び図9に示す貼合せ/転写工程(I)においては、連続ウェブの光学フィルム積層体10に含まれる偏光膜3と、別に準備される光学機能フィルム4とを接着剤を介して貼合せながら巻き取り、その巻き取り工程において、偏光膜3を光学機能フィルム4に転写しながら非晶性PET基材を剥離することによって、光学機能フィルム積層体11が生成される。具体的には、貼合せ/転写装置100に含まれる繰出/貼合せ装置101によって光学フィルム積層体10がロールから繰り出され、繰り出された光学フィルム積層体10の偏光膜3が、巻取/転写装置102によって光学機能フィルム4に転写され、その過程で、偏光膜3が基材1から剥離されて、光学機能フィルム積層体11が生成される。
【0234】
[様々な製造条件による偏光膜の光学特性]
(1)不溶化工程による偏光膜の光学特性の向上(実施例1〜4)
すでに図7を用いて説明した通り、実施例1〜4に基づいて製造されたそれぞれの偏光膜は、いずれも上述した技術的課題を克服するものであり、これらの光学特性は、有機EL表示装置として求められる要求性能を満たすものである。さらに、図7から明らかなように、実施例1の不溶化処理が施されていない偏光膜の光学特性は、第1不溶化処理及び/又は第2不溶化処理が施された実施例2〜4の偏光膜の光学特性のいずれよりも低い。それぞれの光学特性を比較すると、(実施例1)<(第1不溶化処理のみが施された実施例3)<(第2不溶化処理のみが施された実施例2)<(第1及び第2不溶化処理が施された実施例4)の順に光学特性が高くなる。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程に加えて、第1及び/又は第2不溶化工程を有する製造方法によって製造された偏光膜は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0235】
(2)PVA系樹脂層の厚みによる偏光膜の光学特性への影響(実施例5)
実施例4においては、厚み7μmのPVA層を延伸して厚み3μmの偏光膜が形成された。これに対して、実施例5は、先ず厚み12μmのPVA層を形成し、このPVA層を延伸して厚み5μmの偏光膜を形成した。その他は、同一の条件で偏光膜を製造した。
【0236】
(3)非晶性PET基材を異にした偏光膜の光学特性への影響(実施例6)
実施例4においてはイソフタル酸をPETに共重合させた非晶性PET基材を用いたのに対して、実施例6おいては、PETに対して変性基として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合させた非晶性PET基材を用いた。実施例6においては、この点を除き実施例4と同一の条件で偏光膜を製造した。
【0237】
図13を参照すると、実施例4〜6に基づく方法により製造された偏光膜の光学特性に有意差がないことが分かる。このことは、PVA系樹脂層の厚み及び非晶性エステル系熱可塑性樹脂の種類が得られた偏光膜の光学特性に、認識できるほどの影響を与えないことを示すものと考えられる。
【0238】
(4)空中補助延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例7〜9)
実施例4においては、第1段の空中補助延伸及び第2段のホウ酸水中延伸のそれぞれの延伸倍率が1.8倍及び3.3倍であったが、実施例7〜9においては、それぞれの延伸倍率を1.2倍及び4.9倍と、1.5倍及び4.0と、2.5倍及び2.4倍とした。これらの実施例においては、この点を除き、実施例4と同様の条件で偏光膜を製造した。例えば、空中補助延伸の延伸温度は130℃であり、液温75℃のホウ酸水溶液を用いてホウ酸水中延伸を行った。実施例8,9の総延伸倍率は6.0倍となり、実施例4において空中補助延伸倍率1.8倍としたときの総延伸倍率5.94倍に匹敵するものであった。しかしながら、これに対して、実施例7の総延伸倍率は、5.88倍が限界であった。これは、ホウ酸水中延伸において、延伸倍率を4.9倍以上にすることができなかった結果である。このことは、図20を用いて説明した、第1段の空中補助延伸倍率と総延伸倍率との相関関係に及ぼす非晶性PETの延伸可能倍率の影響と推定される。
【0239】
図14を参照すると、実施例7〜9による偏光膜は、いずれも、実施例4の場合と同様に、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要な要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例7<実施例8<実施例4<実施例9の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸の延伸倍率が1.2倍から2.5倍の範囲内で設定された場合に、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同程度に設定されたとしても、第1段の空中補助延伸が高延伸倍率に設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸を高延伸倍率に設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0240】
(5)空中補助延伸温度による偏光膜の光学特性の向上(実施例10〜12)
実施例4においては空中補助延伸温度を130℃に設定したのに対して、実施例10〜12においては、それぞれの空中補助延伸温度を95℃、110℃、150℃に設定した。いずれもPVAのガラス転移温度Tgより高い温度である。これらの実施例においては、この点を除き、例えば空中補助延伸倍率を1.8倍とする点、ホウ酸水中延伸における延伸倍率を3.3倍とする点を含み、実施例4と同様の条件で偏光膜を製造した。実施例4の空中補助延伸温度は130℃である。実施例4を含め、これらの実施例は、延伸温度を95℃、110℃、130℃、及び150℃とすることの違いを除くと、製造条件は全て同じである。
【0241】
図15を参照すると、実施例4、10〜12による偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例10<実施例11<実施例4<実施例12の順に光学特性が高くなる。このことは、第1段の空中補助延伸温度をガラス転移温度より高く、95℃倍から150℃へと順次高くなるように温度環境を設定した場合には、第2段のホウ酸水中延伸による最終的な総延伸倍率が同じに設定されたとしても、第1段の空中補助延伸温度がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1の空中補助延伸温度をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0242】
(6)総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例13〜15)
実施例4においては、第1段の空中補助延伸倍率が1.8倍及び第2段のホウ酸水中延伸倍率が3.3倍と設定された。これに対して、実施例13〜15においては、それぞれの第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを2.1倍、3.1倍、3.6倍とした。これは、実施例13〜15における総延伸倍率が5.04倍(約5倍)、5.58倍(約5.5倍)、6.48倍(約6.5倍)になるように設定したことを意味するものである。実施例4の総延伸倍率は5.94倍(約6倍)である。実施例4を含め、これらの実施例は、5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍の総延伸倍率の違いを除くと製造条件は全て同じである。
【0243】
図16を参照すると、実施例4、13〜15の偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例13<実施例14<実施例4<実施例15の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を5倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。
【0244】
(7)固定端一軸延伸の総延伸倍率による偏光膜の光学特性の向上(実施例16〜18)
実施例16〜18は、以下の相違点を除き、実施例4と同一の条件で製造された光学フィルム積層体である。相違点は、空中補助延伸の延伸方法にある。実施例4においては自由端一軸による延伸方法が用いられているのに対して、実施例16〜18においては、いずれも固定端一軸による延伸方法を採用している。これらの実施例は、いずれも第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、それぞれの第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを3.3倍、3.9倍、4.4倍とした。このことにより、実施例16の場合、総延伸倍率が5.94倍(約6倍)であり、実施例17の場合には、7.02倍(約7倍)、さらに実施例18の場合には、7.92倍(約8倍)となる。実施例16〜18は、この点を除くと製造条件は全て同じである。
【0245】
図17を参照すると、実施例16〜18による偏光膜は、いずれも、薄型偏光膜の製造に関連する技術的課題を克服し、有機EL表示装置に必要とされる要求性能を満たす光学特性を有する。それぞれの光学特性を比較すると、実施例16<実施例17<実施例18の順に光学特性が高くなる。このことは、いずれの第1段の空中補助延伸倍率を1.8倍に設定し、総延伸倍率を6倍、7倍、8倍へと順次高くなるように第2段のホウ酸水中延伸倍率のみを設定した場合には、最終的な総延伸倍率がより高く設定された偏光膜ほど、光学特性が高まることを示している。偏光膜3を含む光学フィルム積層体10の製造工程において、固定端一軸延伸方法による第1段の空中補助延伸と第2段のホウ酸水中延伸との総延伸倍率をより高く設定することによって、製造される偏光膜、又は偏光膜含む光学フィルム積層体は、それらの光学特性を一段と向上させることできる。さらに、第1段の空中補助延伸に固定端一軸延伸方法を用いる場合には、第1段の空中補助延伸に自由端一軸延伸方法を用いる場合に比べて、最終的な総延伸倍率をより高くすることができることも確認した。
【0246】
〔発明の実施の形態〕
図10a〜12bに、上述の偏光膜を使用した本発明による有機EL表示装置の幾つかの実施形態を示す。
【0247】
図10aは、本発明の有機EL表示装置の最も基本的な実施形態を示す断面図であり、この有機EL表示装置200は、有機EL表示パネル201を備え、該有機EL表示パネル201の一方の面に、光学的に透明な粘着剤層202を介して、偏光膜203と第1の位相差層204とを含む積層体205が接合される。偏光膜203と第1の位相差層204は、偏光膜203の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために円偏光を生成するためのものである。該偏光膜203の外側の面には、光学的に透明な樹脂材料からなる保護層206が接着される。
【0248】
任意ではあるが、図10bに示すように、偏光膜203と第1の位相差層204は接合されていてもよいし、第1の位相差層204と粘着剤層202は接合されていてもよい。なお、これ以降は簡単のために、偏光膜203と第1の位相差層204とを含む積層体205は、偏光膜203と第1の位相差層204のみからなり、第1の位相差層204と粘着材層202が接合されているものについて例として図示をする。
【0249】
また、任意ではあるが、図10cに示すように、有機EL表示装置の視認側となる保護層206の外側には、破線で示すように、透明なウインドウ207を配置することができる。
【0250】
偏光膜203は、上述したように、厚み10μm以下で、前述した光学特性を満足させるものである。この偏光膜203は、従来この種の有機EL表示装置に使用されている偏光膜に比べて非常に薄いので、温度又は湿度条件で発生する伸縮による応力が極めて小さくなる。したがって、偏光膜の収縮によって生じる応力が隣接する有機EL表示パネル201に反り等の変形を生じさせる可能性が大幅に軽減され、変形に起因する表示品質の低下やパネル封止材料の破壊を大幅に抑制することが可能になる。
【0251】
この構成において、粘着剤層202として、拡散機能を備えた材料を使用するか、或いは、粘着剤層と拡散層の2層構成とすることもできる。
【0252】
図10dに示す光学的表示装置の構成は、図10a〜cに示すものとほぼ同一の構成であるが、偏光膜203と保護層206との間に拡散層208が配置された構成を有する。図10eに示す構成では、拡散層208は偏光膜203と有機EL表示パネル201の間に配置される。
【0253】
図10fに示す光学的表示装置は、基本的に図10a〜cに示すものと同一であるが、偏光膜203は、接着を容易にする易接着層209を介して接着剤により保護層206に接着される。易接着層として用いられる材料は、当業者間で周知である。
【0254】
図10gに示す光学的表示装置は、保護層206の外側の面に帯電防止層210が設けられている点のみで、図10fに示す光学的表示装置と異なる。
【0255】
図10hに示す光学的表示装置200においては、図10gに示す有機EL表示装置の構成において、保護層206と帯電防止層210との間に、例えば、1/4波長位相差膜といった偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための第2の位相差層211が配置される。この構成によれば、偏光膜206よりも視認側に、偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層が配置されているため、有機EL表示パネル201から偏光膜206を経て出射する光は、第2の位相差層211を出るときに円偏光に変換される。この構成の有機EL表示装置は、例えば視聴者が偏光サングラスを着用している場合にも、視認に支障がなくなる、という利点をもたらす。
【0256】
図11に示す有機EL表示装置300においては、有機EL表示パネル201の視認側の面には粘着剤層202を介して第1の位相差層204が接合され、該第1の位相差層204に偏光膜203が接着剤により接合される。偏光膜203は、易接着層209を介して保護層204に接合され、該保護層204には、パターン位相差層301が接合される。このパターン位相差層301は、非特許文献1に記載されているような、パターン位相差膜を形成する。パターン位相差層とは3D表示を可能にする為に表示パネルから出力された右眼用の画像と左眼用の画像をそれぞれ別々の偏光状態へ変化させる機能を有する。該パターン位相差層301の外側には、任意ではあるが、ウインドウ207を配置することができる。
【0257】
図12aは、タッチ入力センサ機能を有する有機EL表示装置400の実施形態を示す。有機EL表示装置400のパネル構成は、図10hに示すものとほぼ同一であり、対応する構成要素には図10hと同一の符号を付して説明は省略する。この実施形態においては、帯電防止層210とウインドウ207との間にタッチパネル積層体401が配置される。このタッチパネル積層体401は、容量型タッチパネルであっても抵抗膜型タッチパネルであってもよい。容量型タッチパネルの場合には、図12(a)に示すように、上側のパターン電極401aと下側のパターン電極401bが誘電体層401cを挟んで対向配置された構成とすることができる。容量型タッチパネル積層体としては、図示の構造の他、公知のどのような構造を採用することもできる。タッチパネル積層体401を抵抗膜型の構成する場合には、上側電極と下側電極との間にスペーサを配置して、両電極間に空気間隙が形成される構成にする。このようなタッチパネル積層体の構成は、種々異なる配置のものが知られており、本実施形態では、そのいずれを使用してもよい。
【0258】
図12bに、タッチ入力センサ機能を有する有機EL表示装置の他の実施形態である有機EL表示装置500を示す。この実施形態においても、有機EL表示装置500のパネル構成は、図10hに示すものとほぼ同一であり、対応する構成要素には図10hと同一の符号を付して説明は省略する。この実施形態においては、有機EL表示パネル201と第1の位相差層204との間にタッチパネル積層体501が配置される。図12aに示す実施形態におけると同様に、この実施形態においても、タッチパネル積層体401は、容量型タッチパネルであっても抵抗膜型タッチパネルであってもよい。
【0259】
以上、本発明を特定の実施形態について図示し、詳細に説明したが、本発明の保護範囲は、図示した実施形態の細部に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載により定められる範囲によって定まるものである。
【符号の説明】
【0260】
1 非晶性PET基材
2 PVA系樹脂層
3 偏光膜
4 光学機能フィルム
5 第2光学機能フィルム
7 PVA系樹脂層を含む積層体
8 延伸積層体
8’ 延伸積層体のロール
8’’ 不溶化された延伸積層体
9 着色積層体
9’ 架橋された着色積層体
10 光学フィルム積層体
11 光学フィルム積層体
20 積層体作製装置
21 塗工手段
22 乾燥手段
23 表面改質処理装置
30 空中補助延伸処理装置
31 延伸手段
32 巻取装置
33 オーブン
40 染色装置
41 染色液
42 染色浴
43 繰出装置
50 ホウ酸水中処理装置
51 ホウ酸水溶液
52 ホウ酸浴
53 延伸手段
60 不溶化処理装置
61 ホウ酸不溶化水溶液
70 架橋処理装置
71 ホウ酸架橋水溶液
80 洗浄装置
81 洗浄液
90 乾燥装置
91 巻取装置
100 貼合せ/転写装置
101 繰出/貼合せ装置
102 巻取/転写装置
200 有機EL表示装置
201 有機EL表示装置パネル
202 粘着剤層
203 偏光膜
204 第1の位相差層
205 積層体
206 保護層
207 ウィンドウ
208 拡散層
209 易接着層
210 帯電防止層
211 第2の位相差層
300 有機EL表示装置
301 パターン位相差層
400 有機EL表示装置
401 タッチパネル積層体
401a パターン電極
401b パターン電極
401c 誘電体層
500 有機EL表示装置
501 タッチパネル積層体
(A) 積層体作製工程
(B) 空中補助延伸工程
(C) 染色工程
(D) ホウ酸水中延伸工程
(E) 第1不溶化工程
(F) 第2不溶化を含む架橋工程
(G) 洗浄工程
(H) 乾燥工程
(I) 貼合せ/転写工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの有機EL表示装置用偏光膜であって、
非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものである
ことを特徴とする有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項2】
前記単体透過率Tは、T≧43.0であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項3】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項4】
前記二色性物質が、ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面に粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学機能フィルム積層体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に第1光学機能フィルムを貼り合せ、他方の面に第2光学機能フィルムを貼り合せて生成された積層体の一方の面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学機能フィルム積層体。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の前記有機EL表示装置用偏光膜の連続ウェブの一方の面に保護層を貼り合せ、他方の面に前記有機EL表示装置用偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層を貼り合せて生成された積層体の一方の面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにした光学機能フィルム積層体。
【請求項8】
連続ウェブの非晶性熱可塑性樹脂基材と、
該非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜と
を含む光学フィルム積層体であって、
前記有機EL表示装置用偏光膜は、前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものである
ことを特徴とする光学フィルム積層体。
【請求項9】
前記単体透過率Tは、T≧43.0であることを特徴とする請求項8に記載の有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項10】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材であることを特徴とする請求項8または9に記載の光学フィルム積層体。
【請求項11】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みの6倍以上であることを特徴とする請求項8から10のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体。
【請求項12】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体。
【請求項13】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材が透明樹脂からなることを特徴とする請求項8から12のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体。
【請求項14】
前記二色性物質が、ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物であることを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体。
【請求項15】
請求項8から14のいずれか1項に記載の前記光学フィルム積層体に含まれる前記有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に、粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学フィルム積層体。
【請求項16】
請求項8から14のいずれか1項に記載の前記光学フィルム積層体に含まれる前記有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に光学機能フィルムを貼り合せ、貼り合された前記光学機能フィルム上に粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学フィルム積層体。
【請求項17】
請求項8から14のいずれか1項に記載の前記光学フィルム積層体に含まれる前記有機EL表示装置用偏光膜の非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に、前記有機EL表示装置用偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための位相差層を貼り合せ、貼り合された前記光学機能フィルム上に粘着剤層を形成し、前記粘着剤層を介してセパレータを剥離自在に積層するようにしたことを特徴とする光学フィルム積層体。
【請求項18】
連続ウェブの非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材と、
該非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜と、
を含む光学フィルム積層体を製造するための、配向されたポリビニルアルコール系樹脂からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体であって、
前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、配向関数が0.10以下に設定された、空中補助延伸された非晶性ポリエチレンテレフタレートが用いられており、
前記延伸中間生成物として、結晶化度が27%以上で40%以下、および、配向関数が0.05以上で0.35以下に設定されたポリビニルアルコール系樹脂が用いられており、前記有機EL表示装置用偏光膜は、前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜された10μm以下の厚みにされるものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされるものである
ことを特徴とする延伸積層体。
【請求項19】
前記単体透過率Tは、T≧43.0であることを特徴とする請求項18に記載の有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項20】
前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みの6倍以上であることを特徴とする請求項18または19に記載の延伸積層体。
【請求項21】
前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、配向関数を0.10以下に設定した、
空中高温延伸処理したイソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項18から20のいずれか1項に記載の延伸積層体。
【請求項22】
前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材が透明樹脂からなることを特徴とする請求項18から21のいずれかに記載の延伸積層体。
【請求項23】
連続ウェブの非晶性熱可塑性樹脂基材に二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜が製膜された光学フィルム積層体の製造方法であって、
前記非晶性熱可塑性樹脂基材と前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されたポリビニルアルコール系樹脂層とを含む積層体に対する空中高温延伸によって、配向させたポリビニルアルコール系樹脂層からなる延伸中間生成物を含む延伸積層体を生成する工程と、
前記延伸積層体に対する二色性物質の吸着によって、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂層からなる着色中間生成物を含む着色積層体を生成する工程と、
前記着色積層体に対するホウ酸水溶液中における延伸によって、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜を含む光学フィルム積層体を生成する工程と、
を含み、
前記有機EL表示装置用偏光膜は、
単体透過率Tと偏光度Pからなる光学特性値が、
T≧42.5、およびP≧99.5
によって表される範囲にあり、
前記有機EL表示装置用偏光膜厚みが10μm以下であることを特徴とする光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項24】
前記単体透過率Tは、T≧43.0であることを特徴とする請求項23に記載の有機EL表示装置用偏光膜。
【請求項25】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材は、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材であることを特徴とする請求項23または24に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項26】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材の厚みは、製膜されるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みの6倍以上であることを特徴とする請求項23から25のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項27】
前記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項25または26に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項28】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材が透明樹脂からなることを特徴とする請求項23から27のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項29】
前記非晶性熱可塑性樹脂基材にポリビニルアルコール系樹脂を塗布し乾燥することによって、ポリビニルアルコール系樹脂層を前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23から28のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項30】
前記空中高温延伸の延伸倍率が3.5倍以下であることを特徴する請求項23から29のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項31】
前記空中高温延伸の延伸温度がポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度以上であることを特徴とする請求項23から30のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項32】
前記空中高温延伸の延伸温度が95℃〜150℃であることを特徴する請求項23から31のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項33】
前記着色積層体は、前記延伸積層体を二色性物質の染色液に浸漬することによって生成されることを特徴とする請求項23から32のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項34】
前記延伸積層体を二色性物質の染色液に浸漬する前に、前記延伸積層体に含まれる前記延伸中間生成物に対して不溶化を施す、第1不溶化工程をさらに含むことを特徴する請求項23から33のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項35】
前記第1不溶化工程は、液温が40℃を超えないホウ酸水溶液に前記延伸積層体を浸漬する工程であることを特徴とする請求項34に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項36】
前記有機EL表示装置用偏光膜は、ホウ酸水溶液中において前記着色積層体を延伸することによって、厚みが10μm以下になるように生成されることを特徴とする請求項23から35のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項37】
前記ホウ酸水溶液中において前記着色積層体を延伸する前に、前記着色積層体に対して不溶化処理を施す、第2不溶化工程をさらに含むことを特徴する請求項23から36のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項38】
前記第2不溶化工程は、液温が40℃を超えないホウ酸水溶液に前記着色積層体を浸漬する工程であることを特徴とする請求項37に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項39】
前記空中高温延伸と前記ホウ酸水溶液中における延伸とによる、前記延伸積層体と前記着色積層体との総延伸倍率が5.0倍以上になるようにしたことを特徴とする請求項23から38のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項40】
前記ホウ酸水溶液中における延伸のためのホウ酸水溶液の液温が60℃以上であることを特徴とする請求項23から39のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項41】
前記空中高温延伸を自由端1軸延伸で行ったときに、前記延伸積層体と前記着色積層体との総延伸倍率が、5倍以上であって7.5倍以下であることを特徴とする請求項23から40のいずれかに記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項42】
前記空中高温延伸を固定端1軸延伸で行ったときに、前記延伸積層体と前記着色積層体との総延伸倍率が、5倍以上であって8.5倍以下であることを特徴とする請求項23から41のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項43】
二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる有機EL表示装置用偏光膜を含む前記光学フィルム積層体を、該光学フィルム積層体に含まれる前記非晶性熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度より低い温度のヨウ化物塩を含む水溶液で洗浄する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23から42のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項44】
前記光学フィルム積層体を50℃以上100℃以下の温度で乾燥する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23から43のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項45】
前記光学フィルム積層体に含まれる前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記有機EL表示装置用偏光膜の他面に粘着剤を介してセパレータフィルムを積層する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23から44のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項46】
前記光学フィルム積層体に含まれる前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記有機EL表示装置用偏光膜の他面に光学機能フィルムを積層する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23から44のいずれか1項に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項47】
前記光学機能フィルムの他面に粘着剤を介してセパレータフィルムを積層する工程をさらに含むことを特徴とする請求項46に記載の光学フィルム積層体の製造方法。
【請求項48】
前記光学フィルム積層体に含まれる、前記有機EL表示装置用偏光膜の前記非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜されていない面に光学機能フィルムを積層すると同時に、前記非晶性熱可塑性樹脂基材を前記有機EL表示装置用偏光膜から剥離することによって、前記有機EL表示装置用偏光膜を前記光学機能フィルムに転写し、前記光学機能フィルムに前記有機EL表示装置用偏光膜が転写された光学機能フィルム積層体を生成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23から47のいずれか1項に記載の光学機能フィルム積層体の製造方法。
【請求項49】
前記光学機能フィルムに転写された前記有機EL表示装置用偏光膜の他面に粘着剤を介してセパレータフィルムを積層する工程をさらに含むことを特徴とする請求項48に記載の光学機能フィルム積層体の製造方法。
【請求項50】
前記光学機能フィルムに転写された前記有機EL表示装置用偏光膜の他面に第2光学機能フィルムを積層し、該第2光学機能フィルムに粘着剤を介してセパレータフィルムを積層する工程をさらに含むことを特徴とする請求項48に記載の光学機能フィルム積層体の製造方法。
【請求項51】
二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなり、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、T≧42.5、およびP≧99.5の条件を満足するように構成された偏光膜と、第1の位相差層と、を含む積層体が、前記第1の位相差層側の面において光学的に透明な粘着剤層を介して有機EL表示パネルの一方の面に接合され、前記第1の位相差層とは反対側の前記偏光膜の面は透明樹脂材料の保護層に接合され、前記積層体は、前記偏光膜の視認側から内部に入射した光が内部反射して視認側に射出されることを防止するために円偏光を生成するためのものであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項52】
前記単体透過率Tは、T≧43.0であることを特徴とする請求項51に記載の有機EL表示装置。
【請求項53】
請求項51または52に記載した有機EL表示装置であって、前記偏光膜と第1の位相差層は接合されていることを特徴とする記載の有機EL表示装置。
【請求項54】
請求項51から53のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記保護層の外側にウインドウが配置されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項55】
請求項51から54のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記保護層と前記偏光膜との間及び前記偏光膜と前記有機EL表示パネルの間の少なくとも一方に拡散層が配置されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項56】
請求項51から55のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記偏光膜と前記保護層との間には該偏光膜と該保護層との間の接着を容易にする易接着層が形成されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項57】
請求項51から56のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記保護層に帯電防止層が形成されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項58】
請求項51から57のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記保護層が、前記偏光膜と共に用いられて円偏光を生成するための第2の位相差層として構成されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項59】
請求項51から58のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記偏光膜は、エステル系熱可塑性樹脂材料の基材上に塗布形成されたポリビニルアルコール系樹脂層に対し、該熱可塑性樹脂基材とともに前記2段延伸工程による延伸を行うことにより形成されたものであり、前記透明樹脂材料の保護層は、該ポリビニルアルコール系樹脂層とともに延伸された該熱可塑性樹脂基材から構成されたものであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項60】
請求項59に記載した有機EL表示装置であって、前記エステル系熱可塑性樹脂材料は、非晶性PETであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項61】
請求項51から58のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記透明樹脂材料の保護層はセルロース系材料又はアクリル系樹脂材料により構成されたものであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項62】
請求項51から57、59から61のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記透明樹脂材料の保護層はパターン位相差層を構成することを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項63】
請求項51から62のいずれか1項に記載した有機EL表示装置であって、前記表示パネルに対して視認側にタッチ検知機能を有するタッチパネル積層体が配置されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項64】
請求項63に記載した有機EL表示装置であって、前記タッチパネル積層体は、パターン化された対の透明電極が誘電体層を介して配置された構成の容量型タッチパネルであることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項65】
請求項64に記載した有機EL表示装置であって、前記タッチパネル積層体は、視認側最外部材と前記偏光膜との間に配置されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項66】
請求項64に記載した有機EL表示装置であって、前記タッチパネル積層体は、前記偏光膜と前記表示パネルとの間に配置されたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項67】
請求項63に記載した有機EL表示装置であって、前記タッチパネル積層体は、透明電極が空気間隙を介して対向電極に対向配置された構成の抵抗膜型タッチパネルであり、視認側最外部材と前記偏光膜との間又は前記偏光膜と前記表示パネルとの間に配置されていることを特徴とする有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図10e】
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【図10f】
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【図10g】
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【図10h】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31a】
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【図31b】
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【図32a】
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【図32b】
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【公開番号】特開2012−133312(P2012−133312A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143963(P2011−143963)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【分割の表示】特願2011−68513(P2011−68513)の分割
【原出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】