説明

偏光補正光学系及びそれを用いた顕微鏡装置

【課題】顕微鏡装置を構成する光学系により生じる偏光状態の変化を補正する偏光補正光学系及びこの偏光補正光学系を備える顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】偏光子1、コンデンサレンズ2、対物レンズ3及び検光子4を備える偏光顕微鏡光学系において、偏光子1及びコンデンサレンズ2の間に、第1光学素子11、第1波長板12の順で並んだ第1偏光補正光学系10を配置し、対物レンズ3及び検光子4の間に、第2波長板21、第2光学素子22の順で並んだ第2偏光補正光学系20を配置して、コンデンサレンズ2及び対物レンズ3で生じる偏光状態の変化を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光補正光学系、及び、この偏光補正光学系を備える顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光顕微鏡は、偏光を利用して複屈折性を有する試料の観察に用いられる装置である。このような顕微鏡装置は、照明側と結像側に2つの偏光子がその透過軸を直交させた状態で配置されて構成されており(この配置を「クロスニコル」と呼ぶ)、これらの2つの偏光子の間に偏光状態を変化させる物、すなわち複屈折性を有する試料を配置し、偏光状態を変化させて結像側の偏光子(これを「検光子」と呼ぶ)を通り抜けた光を観察することにより試料の特性を観察するように構成されている。このような顕微鏡装置においては、試料によるわずかな偏光状態の変化を可視化するために、試料以外、すなわち、この顕微鏡装置を構成する光学系が偏光状態の変化を引き起こすことは、できる限り避けなければならない。しかし、実際は2つの偏光子の間に複雑な光学系が配置されているために偏光状態は変化してしまい、試料の複屈折性を検出する能力を低下させてしまう。特に、この問題は高倍、高開口数の光学系を用いて観察する場合、より顕著となる。
【0003】
偏光状態の変化は主に2つの原因に依る。1つは顕微鏡装置を構成する光学系に入射する2つの偏光成分、P偏光とS偏光の反射率が入射角ごとに異なることであり、もう1つは反射防止用コートの偏光特性が入射角度依存性を持つことである。これらが原因で、照明側の偏光子を透過した直線偏光は、結像側に配置された検光子に達する時には、楕円偏光化しており、またその長軸は検光子と直交していないために、試料の複屈折とは無関係に光の一部が通り抜けてしまう。この問題を解決する手段として、レクティファイアと呼ばれるレンズからなる偏光補正光学素子を用いる方法や、レクティファイアの屈折面にコーティングを施すことで、より高精度に偏光補正を行う方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−72710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レクティファイアでは、偏光面の回転は補正されるが、光学素子の入射面等に設けられている反射防止用コートによる楕円偏光化の補正をすることができないという課題があり、また、一般に、光軸から離れ傾いた面に設計値通りのコーティングを施すことは難しい。さらに、異なる光学系の偏光を補正するためには、コートを新たに設計する必要があり、これは煩雑な作業である。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、屈折面を有する光学素子と所定の位相差を生じさせる波長板とを組み合わせ、偏光子と検光子との間に配置された被補正光学系により生じる偏光状態の変化を補正する偏光補正光学系を提供することを目的とし、また、この偏光補正光学系を備えることにより、被補正光学系による偏光状態の変化が良好に補正された顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る偏光補正光学系は、被補正光学系を透過した光の当該被補正光学系による偏光状態の変化(例えば、実施形態におけるコンデンサレンズ2や対物レンズ3を透過した光に生じる偏光面の傾きやリタデーション)を補正するものである。その上で、第1の本発明に係る偏光補正光学系は、被補正光学系の光源側に配置される第1の偏光補正光学系(例えば、実施形態における第1偏光補正光学系10)と、被補正光学系の像側に配置される第2の偏光補正光学系(例えば、実施形態における第2偏光補正光学系20)とからなり、第1の偏光補正光学系が、光が透過する順に、少なくとも1面以上の屈折面を有する第1の光学素子と、予め指定した位相差を生じさせる第1の波長板とから構成され、第2の偏光補正光学系が、光が透過する順に、予め指定した位相差を生じさせる第2の波長板と、少なくとも1面以上の屈折面を有する第2の光学素子とから構成される。
【0007】
また、第2の本発明に係る偏光補正光学系(例えば、実施形態における第3偏光補正光学系10′)は、被補正光学系の光源側に配置され、光が透過する順に、少なくとも1面以上の屈折面を有する光学素子と、予め指定した位相差を生じさせる波長板とから構成される。
【0008】
また、第3の本発明に係る偏光補正光学系(例えば、実施形態における第3偏光補正光学系20′)は、被補正光学系の像側に配置され、光が透過する順に、予め指定した位相差を生じさせる波長板と、少なくとも1面以上の屈折面を有する光学素子とから構成される。
【0009】
また、前記課題を解決するために、本発明に係る顕微鏡装置は、予め定められた偏光特性を有し、光源からの光を偏光する偏光子と、この偏光子を透過した光を集光して試料に照射するコンデンサレンズと、試料からの光を集光して試料像を結像する対物レンズと、予め定められた偏光特性を有し、対物レンズ及び試料像の間に配設される検光子とを備えており、偏光子とコンデンサレンズとの間、若しくは、対物レンズと検光子との間に上述の偏光補正光学系のいずれかが配置されて構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る偏光補正光学系及び顕微鏡装置を以上のように構成すると、偏光顕微鏡光学系を構成するコンデンサレンズ及び対物レンズ(すなわち、被補正光学系)で生じる偏光状態の変化を、屈折面を有する光学素子と所定の位相差を生じさせる波長板とを組み合わせた偏光補正光学系により高精度に補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。図1は、偏光顕微鏡光学系を構成する照明光学系と結像光学系とを示しており、図示しない光源側から順に、偏光子1、コンデンサレンズ2、対物レンズ3及び検光子4を有して構成され、コンデンサレンズ2と対物レンズ3との間に試料5が配置される。図2は、この偏光顕微鏡光学系を備える透過照明型の顕微鏡装置を示しており、光源6から放射された光はコレクタレンズ7やミラー等を介して偏光子1に照射される。この偏光子1を透過した光は直線偏光となり、コンデンサレンズ2で集光されて試料5を照明する。そして、照明された試料5からの光は、対物レンズ3により集光されて検光子4に入射し、この検光子4を透過した光は結像レンズ8によって拡大像として形成され、観察者はこの試料像を、接眼レンズ9を介して観察する。
【0012】
このような偏光顕微鏡光学系において、偏光子1と検光子4とは、その透過軸が直交するように配置されており(上述の「クロスニコル」)、これらの偏光子1及び検光子4との間に偏光状態(偏光面の傾き及びリタデーション)を変化させる物体がなければ、偏光子1を透過した直線偏光は検光子4を透過することができない。しかし、これらの偏光子1及び検光子4の間に複屈折性を有する試料5が配置されて偏光子1を透過した直線偏光の偏光状態が変化すると、検光子4を光の一部が通り抜け、観察者はその像を観察することができる。なお、このときの視野内の輝度は、試料5のリタデーション量が小さい場合にはその量に比例することが知られている。
【0013】
上述のように、偏光子1と検光子4との間に配置されたコンデンサレンズ2や対物レンズ3では偏光状態の変化が生ずる。そのため、屈折面を有する光学素子と所定の位相差を生じさせる波長板とを組み合わせた偏光補正光学系を用いてこれらのコンデンサレンズ2及び対物レンズ3で生ずる偏光状態の変化を補正した偏光顕微鏡光学系の実施例について以下に説明する。
【実施例1】
【0014】
まず第1実施例として、偏光顕微鏡の光学系で、コンデンサレンズ2及び対物レンズ3のそれぞれに対して、これらのレンズ2,3で生ずる偏光状態の変化を補正するように構成した場合について、図3を用いて説明する。この第1実施例に係る偏光顕微鏡光学系は、偏光子1とコンデンサレンズ2との間に第1偏光補正光学系10が配置され、対物レンズ3と検光子4との間に第2偏光補正光学系20が配置されており、第1偏光補正光学系10は、主にコンデンサレンズ2の偏光状態の変化を補正し、第2偏光補正光学系20は、主に対物レンズ3の偏光状態の変化を補正するために用いられる。
【0015】
ここで、第1偏光補正光学系10は、偏光子1側から順に、凹レンズ、凸レンズの順でほぼ同じ曲率を有する凹面と凸面とが組み合わされた第1光学素子11、及び、第1波長板12から構成される。また、第2偏光補正光学系20は、対物レンズ3側から順に、第2波長板21、及び、凸レンズ、凹レンズの順でほぼ同じ曲率を有する凸面と凹面とが組み合わされた第2光学素子22から構成される。なお、この第1及び第2偏光補正光学系10,20において、第1及び第2光学素子11,22は、少なくとも1面以上の屈折面を有しているが、全体として屈折力を有さないように構成されていることが好ましい。
【0016】
次に、図4〜図7を用いて第1及び第2偏光補正光学系10,20によりコンデンサレンズ2及び対物レンズ3の偏光状態の変化を補正する方法について説明する。なお、図5及び図7は、第1若しくは第2偏光補正光学系10,20の偏光状態をポアンカレ球の上に表したものであり、ポアンカレ球を構成するストークスパラメータのうち、S1−S3平面に投影した状態を表している。
【0017】
それでは、図4及び図5を用いて第1偏光補正光学系10について説明する。偏光子1を透過した光はその偏光面が45°傾いた直線偏光となり、ストークスパラメータS2上の状態P10に位置する。この直線偏光を第1光学素子11に入射させて屈折面で屈折させると、この直線偏光の偏光面が傾き状態P11になる。速軸が45°傾いた第1波長板12は、S2軸を中心に偏光状態を回転させる効果を持っているので、適切な位相差を付けることで、偏光状態をP12に移動させる。この偏光状態P12の位置は、被補正光学系であるコンデンサレンズ2により楕円化及び偏光面の回転が起きた場合に状態P10に戻るように計算されており、第1波長板12の位相差として指定される。そのため、コンデンサレンズ2を透過した光線は状態P10に戻り、これにより、コンデンサレンズ2による偏光状態の変化は補正される。
【0018】
一方、図6及び図7に示すように、第2偏光補正光学系20において、コンデンサレンズ2から出射した光は、上述の第1偏光補正光学系10により偏光状態の変化が補正されているため、その偏光面が45°傾いた直線偏光であり、ストークスパラメータS2上の状態P20に位置する。この状態P20の直線偏光が対物レンズ3を透過すると、偏光面が傾くと共に楕円化した状態P21となる。速軸が45°傾いた第2波長板21は、S2軸を中心に偏光状態を回転させる効果を持っているので、この第2波長板21に適切な位相差を指定することで、偏光状態をS1−S2平面上の状態P22に移動させることができる。この状態で、第2光学素子22に入射させて屈折面で屈折させると、元の直線偏光の状態P20に戻り、そのため、対物レンズ3による偏光状態の変化は補正される。
【0019】
このように、第1実施例に係る第1及び第2偏光補正光学系10,20によれば、コンデンサレンズ2及び対物レンズ3のそれぞれで生じる偏光面の傾き及びリタデーション(すなわち、偏光状態の変化)を、屈折面を有し全体として屈折力のない2個の光学素子11,22と、2個の波長板12,21とだけを用いて高精度に補正することができる。
【実施例2】
【0020】
次に、図8を用いて偏光顕微鏡光学系の第2実施例について説明する。上述の第1実施例においては、第1及び第2偏光補正光学系10,20を用いて、コンデンサレンズ2及び対物レンズ3で生じる偏光状態の変化を補正するように構成していたが、この第2実施例においては、第1実施例における第1偏光補正光学系10と同一の構成を有する第3偏光補正光学系10′を偏光子1とコンデンサレンズ2との間に配置し、一つの偏光補正光学系10′でコンデンサレンズ2及び対物レンズ3で生じる偏光状態の変化を補正するように構成している。なお、この第3偏光補正光学系10′の構成及び効果は第1実施例で説明した第1偏光補正光学系10と同じであるため詳細な説明は省略する。
【実施例3】
【0021】
また、図9に偏光顕微鏡光学系の第3実施例を示す。この第3実施例は、第1実施例における第2偏光補正光学系20と同一の構成を有する第4偏光補正光学系20′を対物レンズ3と検光子4との間に配置し、一つの偏光補正光学系20′でコンデンサレンズ2及び対物レンズ3で生じた偏光状態の変化を補正するように構成している。なお、この第4偏光補正光学系20′の構成及び効果は第7実施例で説明した第2偏光補正光学系60と同じであるため詳細な説明は省略する。
【0022】
なお、以上の説明では、透過照明型の顕微鏡装置について説明したが、対物レンズを結像光学系と照明光学系の両方で使用する落射照明型の顕微鏡装置でも、本発明は全く同様に成立する。
【0023】
また、上記の実施の形態では、代表的な偏光顕微鏡光学系について述べた。しかし、この発明は偏光顕微鏡に限定されるものではなく、偏光を利用する各種光学機器、例えばエリプソメータ、微分干渉顕微鏡などの偏光特性の変化を補償することが可能である。また、上述の実施形態は一例に過ぎず、上述の構成に限られるものでなく、本発明の効果範囲内において適切に変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】偏光顕微鏡光学系の構成を示す説明図である。
【図2】上記偏光顕微鏡光学系を備える顕微鏡装置の構成を示す説明図である。
【図3】第1実施例に係る偏光顕微鏡光学系の構成を示す説明図である。
【図4】第1実施例における第1偏光補正光学系の偏光状態の遷移を説明するための説明図である。
【図5】上記偏光状態の遷移をポアンカレ球で説明するための説明図である。
【図6】第1実施例における第2偏光補正光学系の偏光状態の遷移を説明するための説明図である。
【図7】上記偏光状態の遷移をポアンカレ球で説明するための説明図である。
【図8】第2実施例に係る偏光顕微鏡光学系の構成を示す説明図である。
【図9】第3実施例に係る偏光顕微鏡光学系の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 偏光子 2 コンデンサレンズ 3 対物レンズ 4 検光子 5 試料
10 第1偏光補正光学系 11 第1光学素子 12 第1位相板
20 第2偏光補正光学系 21 第2位相板 22 第2光学素子
10′ 第3偏光補正光学系 20′ 第4偏光補正光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被補正光学系を透過した光の当該被補正光学系による偏光状態の変化を補正する偏光補正光学系であって、
前記被補正光学系の光源側に配置される第1の偏光補正光学系と、
前記被補正光学系の像側に配置される第2の偏光補正光学系とからなり、
前記第1の偏光補正光学系が、前記光が透過する順に、
少なくとも1面以上の屈折面を有する第1の光学素子と、
予め指定した位相差を生じさせる第1の波長板とから構成され、
前記第2の偏光補正光学系が、前記光が透過する順に、
予め指定した位相差を生じさせる第2の波長板と、
少なくとも1面以上の屈折面を有する第2の光学素子とから構成される偏光補正光学系。
【請求項2】
被補正光学系を透過した光の当該被補正光学系による偏光状態の変化を補正する偏光補正光学系であって、
前記被補正光学系の光源側に配置され、前記光が透過する順に、
少なくとも1面以上の屈折面を有する光学素子と、
予め指定した位相差を生じさせる波長板とから構成される偏光補正光学系。
【請求項3】
被補正光学系を透過した光の当該被補正光学系による偏光状態の変化を補正する偏光補正光学系であって、
前記被補正光学系の像側に配置され、前記光が透過する順に、
予め指定した位相差を生じさせる波長板と、
少なくとも1面以上の屈折面を有する光学素子とから構成される偏光補正光学系。
【請求項4】
予め定められた偏光特性を有し、光源からの光を偏光する偏光子と、前記偏光子を透過した光を集光して試料に照射するコンデンサレンズと、前記試料からの光を集光して試料像を結像する対物レンズと、予め定められた偏光特性を有し、前記対物レンズ及び前記試料像の間に配設される検光子とを備える顕微鏡装置であって、
前記偏光子と前記コンデンサレンズとの間に請求項1に記載の偏光補正光学系を構成する前記第1の偏光補正光学系が配置され、
前記対物レンズと前記検光子との間に請求項1に記載の偏光補正光学系を構成する前記第2の偏光補正光学系が配置された顕微鏡装置。
【請求項5】
予め定められた偏光特性を有し、光源からの光を偏光する偏光子と、前記偏光子を透過した光を集光して試料に照射するコンデンサレンズと、前記試料からの光を集光して試料像を結像する対物レンズと、予め定められた偏光特性を有し、前記対物レンズ及び前記試料像の間に配設される検光子とを備える顕微鏡装置であって、
前記偏光子と前記コンデンサレンズとの間に請求項2に記載の偏光補正光学系が配置された顕微鏡装置。
【請求項6】
予め定められた偏光特性を有し、光源からの光を偏光する偏光子と、前記偏光子を透過した光を集光して試料に照射するコンデンサレンズと、前記試料からの光を集光して試料像を結像する対物レンズと、予め定められた偏光特性を有し、前記対物レンズ及び前記試料像の間に配設される検光子とを備える顕微鏡装置であって、
前記対物レンズと前記検光子との間に請求項3に記載の偏光補正光学系が配置された顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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