説明

偏光解消ジャイロにおける効果的な相対強度雑音(RIN)除去のためのシステム及び方法

【課題】偏光解消ジャイロのARW性能を向上させるための、効果的な相対強度雑音(RIN)除去システム及び方法を提供する。
【解決手段】光がデポラライザ240及びコイルを通過した後であるが、カウンタ伝搬光波と結合する前に、検知ループ250においてRIN検出器光270をタップする。RIN検出器が速度検出器のスペクトルと実質的に同一のスペクトルをもつ光波を受信し、より効果的なRIN除去をもたらすように、タップされたRIN光波は、IOCの通過軸と同じ方向に配向された通過軸を用いて偏光される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光解消ジャイロにおける効果的な相対強度雑音(RIN)除去のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相対強度雑音(RIN)は干渉型光ファイバジャイロ(IFOG)の角度ランダムウォーク(ARW)の主要原因の1つである。電気的強度雑音除去はジャイロ性能を向上させる目的でRINを減少させるために使用されてきた。しかしながら、RIN検出器での光波スペクトルと速度検出器(rate detector)での光波スペクトルとの間の不一致に起因して、偏光解消(デポラライズされた、depolarized)単一モード(SM)IFOGに対し、RIN除去は偏光保持(PM)IFOGに対してのRIN除去ほど効果的ではなかった。このスペクトルの不一致は、ジャイロデポラライザ及び単一モードコイルファイバの複屈折に由来する。
【0003】
図1は、偏光解消光ファイバジャイロスコープ100における典型的な従来技術のRIN除去方式を示す。光源110から放出された光波は、2×2ファイバカプラ120によって光集積回路(IOC)130の入力導波路131に入れられる。IOCのY接合点スプリッタ/コンバイナは、入力光波を実質的に等分に分配する。等分された光波の1つ(CW光)は導波路134に向けられ、他方の光波(CCW光)は導波路135に向けられる。導波路134、135における光波は、変調器133によって位相変調され、その後、カップリングされてデポラライザ部140に入る。デポラライザ部140は、偏光保持ファイバ141、143、144及び146を有しており、これら偏光保持ファイバは、隣接するPMファイバの分極軸間が45度の角度を有する接合部142及び145で接合されている。非PM単一モード(SM)ファイバコイル150の端部151及び152は、PMファイバ143及び146にそれぞれ接続している。ファイバコイル150を通過して戻ってきたCW光波及びCCW光波は、Y接合点(コンバイナ132)で再び結合され、2×2ファイバカプラ120によってポート122からポート123に向けられた後、速度検出器160に伝搬する。
【0004】
この従来技術では、光源相対雑音は、典型的には2×2ファイバカプラ120のポート124でRIN検出器170によって測定され、その後、適切な遅延の後にジャイロ速度検出器の信号から電気的に除去される。このRINタッピング方式は、PMファイバコイルを使用し、デポラライザを使用しないPMジャイロ(図1には示さず)に対しては十分に作用する。なぜなら、速度検出器の光スペクトルとRIN検出器での光スペクトルは実質的に同一であるためである。そのようなPMジャイロでは、光源の全スペクトル成分の偏光状態は、検知ループの通過軸と一直線に合わせられ、速度検出器に到達できる。しかしながら、これは偏光解消ジャイロスコープには当てはまらない。図1に示された偏光解消ジャイロにおいて、光源の異なるスペクトル成分の偏光状態は、光路に沿って維持されない。なぜなら、ファイバコイルは偏光保持(PM)ではなく、デポラライザに45度接合部があるためである。スペクトル成分の偏光状態は、光回路を通過した後のIOCの通過軸と平行に配向され得ず、このようにして、速度検出器への入り込みを軽減又は阻止される。図2に示すように、速度検出器での光波スペクトル180はスペクトル的に変調/チャネライズ(channelize)され、RIN検出器での光波スペクトル182とは著しく異なる。速度とRINとの間のスペクトルの不一致は、RIN除去効率の顕著な低下を引き起こす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、偏光解消ジャイロのARW性能を顕著に向上させる、より効果的なRIN除去方法を提供する。本発明は、光がデポラライザ及びコイルを通過した後であるか、カウンタ伝搬光波(counter propagating lightwave)と結合する前に、検知ループにおいてRIN検出器光をタップする方式を使用する。タップされたRIN光波は、次のポラライザによって、IOCの通過軸と同一方向に配向された通過軸を用いて偏光される。このようにして、RIN検出器は速度検出器のスペクトルと実質的に同一のスペクトルをもつ光波を受信し、結果として、より効果的なRIN除去をもたらす。回転誘導光波位相変化及び変調誘導光波位相変化は、RIN検出器での強度変化に変換されないため(カウンタ伝搬光への干渉は生じない)、所望しない強度雑音のみが速度信号から除去される。この方式は、長い遅延ファイバ又は追加の電子機器を使用しないで、速度信号に応じたRIN信号の遅延要求を容易に達成できるという追加的な利点を有する。さらに、RIN信号は、光がファイバコイル(最大数km)を通過した後にタップされるため、コイル損失の変化に起因する強度変動は、速度検出器及びRIN検出器の両方と同一であり、結果として、より効果的な雑音除去をもたらす。
【0006】
本発明において、発明の好ましい実施の形態が2つある。1つは、デポラライザに接続しているIOC出力ファイバのうちの1つにPMカプラを挿入することである。このカプラは、コイルを通過する微量の光をカップリングし、RIN検出器に向ける。適切にRIN光を偏光すること、及び検知ループへの回帰から隔離することが必要である。別の実施の形態は、光集積回路(IOC)の新たな設計を必要とし、RINタップカプラ及びポラライザをIOCの内部に組み込むものである。この方式は、部品統合のレベルを増大し、よりコンパクトなジャイロ設計を実現するための助けとなる。
【0007】
本発明の好ましい実施形態及び代替的な実施形態を、以下の図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】典型的な従来技術のRIN除去方式を用いた偏光解消ジャイロの概略図である。
【図2】典型的な偏光解消ジャイロスコープに対するRIN検出器及び速度検出器での光波スペクトルの図である。
【図3】本発明の一実施形態による光回路の概略図である。
【図4】本発明の別の実施形態による光回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ブロードバンド光源の相対強度雑音(RIN)は、光源に含まれる異なる光周波数成分のビーティングに由来する。干渉型光ファイバジャイロ(IFOG)の場合、速度検出器でのRINは検出器に到達した光源スペクトルによって求められる。速度検出器から強度雑音を効率よく除去するために、光回路の異なる場所での光源のRINを記録するために特設される、別の検出器(RIN検出器)は、速度検出器のスペクトルと実質的に同じスペクトルを有する光を受信するのに望ましい。本発明はRIN検出器及び速度検出器での整合光スペクトル(matched light spectra)を使用した、偏光解消ジャイロにおける効果的なRIN除去のためのシステム及び方法を説明する。
【0010】
図3を参照すると、本発明の一実施形態によれば、偏光解消ジャイロ200は、光源210、方向性カプラ220、光集積回路(IOC)230、及びファイバループ250を備える。これらの構成要素は、図1に示す構成要素110、120、130、及び150とそれぞれ同一であってもよい。光源210から放出された光波は、カップリングされIOC230の入力波ガイド231に入り、Y形スプリッタ/コンバイナ232で分配され、CW伝搬波及びCCW伝搬波となる。
【0011】
カップリングされ、ファイバコイル250内に入る前に、波ガイド234(235)におけるCW(CCW)光は、最初にデポラライザ240部の上部(下部)に伝搬する。デポラライザ240部はPMファイバ241(284、285)及び243(246)を備える。IOC230の偏光通過軸は、PMファイバ241(284、285)の偏光通過軸と一直線に合わせられ、241(284)の偏光軸と243(246)の偏光軸とは、ファイバ接合部242(245)で互いに対して45度となるように配向される。そのような構成において、コイルに入るブロードバンド光源の各波長成分は、線形から楕円形、円形の範囲で異なる偏光状態を有し、全体でほぼ偏光解消光を形成する。ファイバコイルの端部252(251)を出るCW(CCW)光波は、カップリングされ、下部(上部)デポラライザ部に入る。下部(上部)デポラライザ部は、PMファイバ246(243)、284(241)、及びそれらを接続する45度接合部245(242)を含む。
【0012】
CW光は、CCW光とスプリッタ/コンバイナ232で再度結合する。IOC230の通過軸に沿って非ゼロ強度を有する波長成分のみが、カプラ220によって方向付けされた後、速度検出器260に到達する。速度検出器での典型的な光スペクトルを、図2における光スペクトル180によって示す。
【0013】
図1における従来技術と異なり、図3に示すように、PMカプラ281は、下部デポラライザにおいて、第2のIOC波ガイド235と45度接合部245との間に挿入される。カプラ281は、十分な量の光伝搬を第2の下部PMファイバ284から、第1の下部PMファイバ285に渡す。逆も同様である。カプラ281は、ごく少量のCW光(第2の下部PMファイバ284から第1の下部PMファイバ285への伝搬)をカップリングして、ポート283に入れる。IOC230の偏光軸と同一に配向された偏光軸を用いたポラライザ287は、速度検出器260に到達波長成分と同じ波長成分をRIN検出器270に渡す。アイソレータ286は、反射光を検知ループへ入ることから阻止する。
【0014】
RIN検出器270での光波スペクトルが、速度検出器260での光波スペクトルと同一であることは、理論上証明することができ、ブロードバンド光源210からの光波は偏光解消される。光波はIOC230の波ガイドによって偏光される。ファイバループ250全体を通過した後の、カプラ232でのCW光波は、ジョーンズ行列法によって表すことができる。
【0015】
【数1】

【0016】
上記の式において、E0x及びE0yは、IOC230の通過軸及びブロック軸に沿って偏光された入力光の電界である。ここでは、一般性を損なうことなく、x偏光光E0xはIOC通過軸に沿って配向され、y偏光光E0yはIOCブロック軸に沿って配向されると仮定される。t、t、t、及びtは、それらの対応する高速軸に関連する、(234+241)、243、246、及び(235+285+284)の複屈折低速軸によって発生する位相遅延である。φは変調器233で適用されるバイアス変調の位相であり、φは回転誘導されたサグナック位相である。A、B、C、及びDは、測定又はシミュレートが可能な、ファイバループ250におけるSMコイルの波長依存ジョーンズ行列要素である。εは、IOC230の偏光振幅減衰率である。IOC230が高い偏光振幅減衰率を有する場合、電界のy成分は無視できるほど小さい。x偏光光のみが検出器に到達する。
【0017】
ファイバループ250を通過した後の、コンバイナ232でのCCW光波は同様に、
【0018】
【数2】

【0019】
のように表することができる。
速度検出器260に到達する総電界(total field)は、
【0020】
【数3】

【0021】
である。ここで、βは、コンバイナ232から速度検出器260までの光伝搬の振幅損失を考慮に入れた係数である。Uは、上記の式の一番目の括弧内の式を表す、簡素化記号である。速度検出器260での強度は、
【0022】
【数4】

【0023】
である。
SMファイバコイル250のA行列要素、B行列要素、C行列要素、及びD行列要素は波長に依存するため、|U|は波長の関数であり、速度検出器260での光パワースペクトル分布を表す。検出器260での速度信号は、回転速度検知に関して復調され得るサグナック位相を含む。
【0024】
RIN検出器270に到達する光は、そのカウンタ伝搬部分とは結合せず、バイアス変調されない。RIN検出器270に到達する光の強度は、
【0025】
【数5】

【0026】
である。ここで、αはRINカプラ及びRIN検出器270への経路によって発生した振幅損失である。式4と式6とを比較すると、RIN検出器270に到達する光波スペクトルは、速度検出器260での光波スペクトルと同じである。両方とも|U|で表される。しかしながら、RIN検出器270によって生成される信号は、サグナック位相及びバイアス変調からのいずれの強度変化も含まない。これは、RIN除去に対して理想的である。なぜなら、強度変化によって誘導されたサグナック位相は、RIN除去の間に取り除かれるべきでなく、速度検知のための復調処理において有用であるためである。
【0027】
カプラ281はまた、デポラライザ240の上部部分において、IOC230の波ガイド234と45度接合部242との間にも設置され得る。上記の理論によって、検知ループを通過した後、スプリッタ/コンバイナ232並びに45度接合部245及び242の間でタップされたCW及びCCW光のスペクトルは、同一であることが示された。2つの構成は等価であり、図3に示される同じ実施形態によって包含されると考えられる。
【0028】
検知ループにおけるPMカプラが引き起こすおそれのある、偏光誘起バイアスエラーを軽減させるため、可能な限り小さい、例えば−25dB未満の偏光クロスカップリングを用いるPMカプラを使用する。偏光クロスカップリングをカプラにおいて避けることができない場合であっても、それらの位置が実質的に45度接合部に近接し、無視できる程度のバイアスエラーしか引き起さないことができる、カプラを45度接合部に、可能な限り近接させて位置付ける。これによって、デポラライザの設計が上がり容易になる。
【0029】
図4は、本発明の他の実施形態によって形成されるジャイロ300の例を示す。この実施形態によると、RIN波ガイドカプラ381がデポラライザファイバのパッケージに影響を及ぼさないよう、RIN波ガイドカプラ381をIOC230に組み込む。IOC330内のRIN波ガイドカプラ381は、光のごく一部をカップリングし、波ガイド383に入れる。導波路383もIOC330内にある。波ガイド383は光をRIN検出器370に向ける。波ガイド383は、IOC330内の他の波ガイドと同じ方法で光を偏光する偏光波ガイドである。そのため、RIN検出器370に到達する光のスペクトルは、速度検出器360に到達する光のスペクトルと実質的に同一である。後方反射光が検知ループに進入するのを防止するため、出力カップリングファイバへのIOCインタフェース384は、角度研磨されなければならず、アイソレータ386はRIN検出器370とIOC330との間に挿入される。RIN波ガイドカプラ381の別の端部382は適切に終端処理され、いかなる光反射がIOC330へ再度入ることも防止する。
【0030】
本質的に、両方の実施形態において、光がカウンタ伝搬光波と再結合する前であるが、光がコイル及びデポラライザを通過した後に、検知ループ内部でRIN光をタップする。図3及び図4において示される2つの実施形態は例示であって、本概念の実現を、ファイバコイルの各端部に2つのデポラライザを有するジャイロに限定するものでは決してない。RIN検出器での光スペクトルが、速度検出器での光スペクトルと実質的に同一である限り、光回路の異なる位置に設置された異なる数のデポラライザをもつ他のジャイロは、本発明を使用できる。
【0031】
上述のように、本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変更を行うことができる。したがって、本発明の範囲は、好ましい実施形態の開示によって限定されるものではない。むしろ、本発明は、専ら以下の特許請求の範囲を参照することによって画定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバジャイロ(200)であって、
光源(210)と、
少なくとも3つのポートを有する方向性カプラ(200)であって、第1のポートで受信した光の大部分を第2のポートに向け、且つ第2のポートで受信した光の大部分を第3のポートに向けるように構成され、前記光源がカップリングされて前記第1のポートに向けられる、前記カプラと、
前記方向性カプラの前記第3のポートに接続される光速度検出器(260)と、
少なくとも3つのポートを有する光集積回路(IOC)(230)であって、前記IOCの前記第1のポートが前記方向性カプラの前記第2のポートに接続している、光集積回路と、
第1の偏光解消素子(241、242、243)と、
第2の偏光解消素子(284、285、246、245)と、
2つの端部を有する検知ループ(250)であって、前記ループの前記第1の端部は、前記第1の偏光解消素子を介して前記IOCの前記第2のポートに接続しており、前記ループの前記第2の端部は、前記第2の偏光解消素子を介して前記IOCの前記第3のポートに接続している、検知ループと、
前記偏光解消素子のうちの1つ、又は前記IOCの第2のポート若しくは第3のポートのうちの近い1つと接続して光波を受信する相対強度雑音(RIN)(270)検出器と、
を備える、光ファイバジャイロ。
【請求項2】
前記ジャイロ(200)であって、
前記偏光解消素子のうちの少なくとも1つは少なくとも3つのポートを有するRINカプラ(281)を備え、前記RINカプラ(281)の前記第1のポートは前記IOCの前記第2のポート又は前記第3のポートのうちの1つに接続し、前記RINカプラ(281)の前記第2のポートは関連付けられる偏光解消素子に接続し、前記RINカプラ(281)は、検知ループ(250)から送信された所定のごく一部の光をカップリングして、前記RINカプラの前記第3のポートに向ける、請求項1に記載の光ファイバジャイロ。
【請求項3】
前記ジャイロ(300)であって、前記IOC(230)は、
少なくとも1つの偏光素子(234、235)と、
スプリッタ/コンバイナ(232)であって、カップリングされ、第1のIOCポートに入れられた光が偏光素子によって偏光され、且つ2つの光波に分配され、その結果として生じた光波が前記第2のIOCポート及び前記第3のIOCポートに向けられる、スプリッタ/コンバイナと、
前記第2のポート又は前記第3のポートのうちの1つと、スプリッタ/コンバイナとの間の光伝搬のごく一部をカップリングし、RIN検出器(370)に向ける、RIN波ガイドカプラ(381)と、
を備え、
前記RINカプラからカップリングされた光は、光アイソレータ(386)を介して前記RIN検出器(370)に向けられる、請求項1に記載の光ファイバジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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