説明

偏光透過光学部品及び光学投影装置

【課題】低複屈折性、耐熱性を有する材料から、耐熱性、無機密着性、硬度に優れ、高い光学等方性(低複屈折性)を有する偏光透過光学部品、及び、それらを用いた光学投影装置を提供する。
【解決手段】メタクリル酸単量体及びメタクリル酸エステル類等から選ばれる第一の構造単位50〜95質量%と、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド化合物から選ばれる第二の構造単位0.1〜20質量%と、N−シクロヘキシルマレイミド等のN置換マレイミド化合物から選ばれる第三の構造単位0.1〜49.9質量%とを有するアクリル系熱可塑性樹脂から形成される偏光透過光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光透過光学部品及び光学投影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性の高い光学材料は有用な光学部品として広く活用されている。例えば、球面凸レンズ、球面凹レンズ、非球面レンズ、球レンズ、フレネルレンズ、フライアイレンズ、コリメータレンズ、光ファイバー、反射シート、輝度向上フィルム、グラムトムソン偏光子、ビームスプリッタ等があげられる。
【0003】
特に近年、液晶技術の発展やレーザー光源技術の発達により、光ピックアップ用途、各種光通信機器、各種投影装置(特許文献1)において偏光を分離、透過させる光学部品として偏光ビームスプリッタが注目されている。
【0004】
この偏光ビームスプリッタには、プリズム型、平面型、ウェッジ基板型等がある。プリズム型の中でも簡単な構成のものとしては、接合する重ね合わせ面に透明誘電体多層膜や金属薄膜を形成したプリズムを二枚重ね併せた、キューブリック形状のものが一般的である。また、相対する微小なプリズム状の突起から形成される傾斜面に透明誘電体多層膜を形成することでシート状としているものも知られている(特許文献2、3)。
【0005】
これら偏光ビームスプリッタの部品には、透過光量を十分に維持するための高い透明性と並んで、界面で分離した偏光を崩さずに透過させる高度な光学等方性、所謂、低複屈折性が要求される。
【0006】
高分子の場合、複屈折とは高分子鎖の配向による配向複屈折と外部から加えられる弾性範囲内の応力で生じる光弾性複屈折の和であり、通常、光学ガラスに比較すると、かなり大きい。そのため、精密な光学部品においては、歪を十分にとった光学ガラスを材料とし、モールド成形法後に、研磨など後加工方法を実施する工程を経て成形されてきた。その結果、必ずしも生産性に優れる方法によって製造されるものではないといえる。
【0007】
一般的に高分子の射出成形法は生産性の優れた方法であり、光学的に透明性が高いポリメチルメタクリレートやポリカーボネートなどを射出成形により各種光学部品を形成する方法が検討されている。しかしながら、射出成形は成形時の樹脂配向による配向複屈折と成形後のアニール工程を経たとしても残留する成形歪由来の応力によって光弾性複屈折が生じ、高品位の製品を得ることは困難である。
【0008】
一方、高分子を光学部品にする方法として、生産性は射出成形法に劣るが、製品品位は射出成形に勝るものとして塊状重合法が広く公知である。塊状重合法では射出成形と比較して配向複屈折は生じない。しかしながら、一方で重合時の体積収縮率が大きい。重合後の歪をアニール処理で十分に除去することは困難であり、更には内部発泡の完全除去は難しかった。その結果、光弾性係数の比較的小さいポリメタクリル酸メチルにおいても、近年の光学用途においては複屈折を必要十分に抑制するのは困難である。
【0009】
これに対し、特許文献4には、ラジカル重合可能なアクリル系組成物が開示されている。特許文献4では、多官能性ラジカル重合性基を有するアクリロイルオリゴマーを使用することでポリメチルメタクリレート組成物の体積収縮率を抑制し、かつ成形方法においても、型に流し込めるぎりぎりの粘度まで重合液を反応させてから、型に流し入れ、更に光開始剤を使用することで光学的な均一性の高い製品を実現している。しかしながら、これらの方法をもってしても、生産性が低いという課題と、成形後に製品が受ける各種加工由来の外部応力歪、設置状態などに由来する光弾性複屈折が発生するという課題が残っている。このことから、近年の光学用途としては、その複屈折を必要十分に抑制しているとは言い難い。
【0010】
上記の光弾性複屈折の要因である歪を抑制する方法として室温以下のガラス転移温度を有する透明弾性体を含む光学材料を使用することが開示されている(特許文献5)。しかしながら、透明性としては、近年の光学用途としては、必要十分なものではない。
【0011】
一方、全く別なアプローチとして、射出成形時の配向複屈折と光弾性複屈折を生じない材料組成が開示されている(特許文献5)。この材料組成は極めて小さい複屈折を示し、かつ、射出成形も十分に可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−191173号公報
【特許文献2】特開平6−51399号公報
【特許文献3】特開平8−15525号公報
【特許文献4】WO2007/094953号公報
【特許文献5】特開平7−120621号公報
【特許文献6】特開2006−308682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、この材料組成は、ガラス転移温度が100℃未満と低く、従来、偏光ビームスプリッタの光源として使用されてきたHID(高輝度放電)ランプの周辺に設置するには耐熱的に十分ではない。また近年、各種表示装置に採用が進むLED光源周辺に設置する場合においても、120℃以上の耐熱性が要求されることから耐熱性が十分ではない。また、ガラス転移温度が100℃以下では、偏光ビームスプリッタとして、密着性が高く、品位の優れる透明多層誘電体を蒸着することが困難である。
【0014】
上述のように、近年要求される各種偏光透過光学部品には低複屈折性、耐熱性、高度な熱溶融成形性、耐熱性、無機密着性を満足することが望まれている。
【0015】
そこで本発明は、低複屈折性、耐熱性を有する材料から、高度な光学等方性(低複屈折性)と耐熱性、無機密着性を有する偏光透過光学部品、及び、これを用いた光学投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、偏光透過光学部品の材料として、特定のアクリル系熱可塑性樹脂から高度な光学等方性(低複屈折性)、耐熱性、無機密着性を有する偏光透過光学部品が得られること、及び、それからなる光学投影装置が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 下記式(1)で表される第一の構造単位、下記式(2)で表される第二の構造単位及び下記式(3)で表される第三の構造単位を有するアクリル系熱可塑性樹脂から形成され、アクリル系熱可塑性樹脂が、その総量基準で、50〜95質量%の第一の構造単位と、0.1〜20質量%の第二の構造単位と、0.1〜49.9質量%の第三の構造単位とを有する、偏光透過光学部品。
【化1】


[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基。]
【化2】


[式中、Rは、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
B群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。]
【化3】


[式中、Rは、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
C群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基。]
[2]アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数の絶対値が、3.0×10−12Pa−1以下である[1]に記載の偏光透過光学部品。
[3]アクリル系熱可塑性樹脂のハロゲン原子含有率が、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.47質量%未満である[1]又は[2]に記載の偏光透過光学部品。
[4]第二の構造単位の含有量の、第三の構造単位の含有量に対するモル比が0より大きく15以下である[1]〜[3]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[5] 上記Rが、メチル基又はベンジル基であり、上記Rが、フェニル基又は上記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有するフェニル基であり、上記Rが、シクロヘキシル基である[1]〜[4]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[6]アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、100μm厚み換算で30nm以下となる樹脂である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[7]アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が100μm厚み換算で、30nm以下となる樹脂である、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[8]アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の延伸倍率(S)と、該延伸倍率での100μm厚み換算複屈折(Δn(S))との最小二乗法近似直線関係式(a)における傾きαの値が、下記式(b)を満たす樹脂である、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
Δn(S)=α×S+β ・・・(a)
−0.30×10−5≦α≦0.30×10−5 ・・・(b)
[式中、βは定数であり、無延伸時の複屈折を示す。]
[9]アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度が130℃以上である[1]〜[8]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[10]表面の鉛筆硬度が3H以上である[1]〜[9]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[11]光路長が10〜100000μmである、[1]〜[10]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[12]表面に無機層を蒸着した、[1]〜[11]のいずれか1つに記載の偏光透過光学部品。
[13]無機層が透明多層誘電体である[12]に記載の偏光透過光学部品。
[14][12]又は[13]に記載の偏光透過光学部品を備える、光学投影装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高度な光学等方性(低複屈折性)、耐熱性、無機密着性を有する偏光透過光学部品を提供することができ、それを用いることで小型軽量な光学投影装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】光学投影装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
[アクリル系熱可塑性樹脂]
本実施形態の偏光透過光学部品は、アクリル系熱可塑性樹脂からなる。アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位を有する。以下、各構造単位について説明する。
【0022】
(第一の構造単位)
第一の構造単位は、下記式(1)で表される構造単位である。
【0023】
【化4】


式中、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。ここで、A群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基からなる群である。
【0024】
なお、本明細書中、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、アリールアルキル基中のアルキル基及びアルコキシ基中のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0025】
における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0026】
また、Rにおける炭素数5〜12のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基が好適である。
【0027】
また、Rにおける炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基が好適である。
【0028】
また、Rにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、フェニル基が好適である。
【0029】
また、Rは置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基からなる群(A群)より選ばれる基である。
【0030】
において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
【0031】
第一の構造単位の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で50〜95質量%であり、好ましくは60〜92質量%、より好ましくは70〜90質量%である。第一の構造単位の含有量が、50質量%以上であれば高い全光線透過率及び耐環境性が発現する。
【0032】
アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第一の構造単位を二種以上含有していてもよい。
【0033】
例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、Rがアルキル基である構造単位と、Rがアリールアルキル基又はアリール基である構造単位と、を有するものとすることができる。このとき後者の構造単位の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜8質量%であることがより好ましく、0.1〜6質量%であることがさらに好ましい。この範囲にあるアクリル系熱可塑性樹脂によれば、大きな耐熱性低下を伴わずに、複屈折等の光学特性の改良効果が得られる。
【0034】
第一の構造単位は、例えば、メタクリル酸単量体及びメタクリル酸エステル類から選ばれる第一の単量体から形成される。第一の単量体は、下記式(1−a)で表すことができる。
【0035】
【化5】


式中、Rは式(1)におけるRと同義である。
【0036】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸微シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸3−フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル等が挙げられる。これらの第一の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。メタクリル酸エステルのうち、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の透明性や耐候性が優れる点でメタクリル酸メチル及びメタクリル酸ベンジルが好ましい。
【0037】
(第二の構造単位)
第二の構造単位は、下記式(2)で表される構造単位である。
【0038】
【化6】


式中、Rは、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。B群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群である。
【0039】
における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、ベンジル基が好適である。
【0040】
また、Rにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0041】
また、Rは置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群(B群)より選ばれる基である。
【0042】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0043】
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0044】
置換基としての炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基として例示された基が同様に例示される。
【0045】
において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基、置換基を有するナフチル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち、難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好適である。
【0046】
及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0047】
及びRにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0048】
及びRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0049】
第二の構造単位の含有量としては、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.1〜49.9質量%であり、好ましくは0.1〜35質量%、より好ましくは0.1質量%〜20質量%である。第二の単量体の含有量がこの範囲であればアクリル系熱可塑性樹脂の透明性を維持し、黄変を伴わず、また耐環境性を損なうことなく耐熱性が向上する。
【0050】
アクリル系熱可塑性樹脂は、第二の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第二の構造単位を二種以上含有していてもよい。
【0051】
第二の構造単位は、例えば、下記式(2−a)で表されるN−置換マレイミド化合物から選ばれる第二の単量体から形成される。
【0052】
【化7】

【0053】
式中、R、R及びRは、それぞれ式(2)におけるR、R及びRと同義である。
【0054】
第二の単量体としては、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2、4、6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(4−ベンジルフェニル)マレイミド、N−(2、4、6−トリブロモフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−アントラセニルマレイミド、3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3,4−トリフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。これらの第二の単量体のうち、アクリル系熱可塑性樹脂の耐熱性、及び複屈折等の光学的特性が優れることからが優れる点で、N−フェニルマレイミド及びN−ベンジルマレイミドが好ましい。これらの第二の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0055】
(第三の構造単位)
第三の構造単位は、下記式(3)で表される構造単位である。
【0056】
【化8】


式中、Rは、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。C群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群である。
【0057】
における炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基が好適であり、アクリル系熱可塑性樹脂の耐候性及び透明性などの光学特性が一層向上するとともに、低吸水性を付与できる点からは、シクロヘキシル基がより好適である。
【0058】
また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上することから、メチル基、エチル基、イソプロピル基が好適である。
【0059】
また、Rは置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群(C群)より選ばれる基である。
【0060】
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0061】
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
【0062】
において、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基としては、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロエチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、これらのうち、トリフルオロエチル基が好適である。
【0063】
及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R及びRにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0064】
及びRにおける炭素数6〜14のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性などの光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好適である。
【0065】
及びRは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0066】
第三の構造単位の含有量としては、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.1〜49.9質量%であり、好ましくは0.1質量〜35質量%、より好ましくは0.1〜30質量%である。第三の構造単位の含有量がこの範囲であれば、透明性を維持し、低吸湿性が発揮される。
【0067】
アクリル系熱可塑性樹脂は、第三の構造単位を一種のみ含有していてもよく、第三の構造単位を二種以上含有していてもよい。
【0068】
第三の構造単位は、例えば、下記式(3−a)で表されるN−置換マレイミド化合物から選ばれる第三の単量体から形成される。
【0069】
【化9】

【0070】
式中、R、R及びRは、それぞれ式(3)におけるR、R及びRと同義である。
【0071】
第三の単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、N−シクロオクチルマレイミド、1−シクロヘキシル−3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン等が挙げられる。これらの第三の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。アクリル系熱可塑性樹脂の耐候性が優れる点から、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが好ましく、近年光学材料に求められている低吸湿性に優れることからN−シクロヘキシルマレイミドが特に好ましい。
【0072】
アクリル系熱可塑性樹脂において、第二の構造単位及び第三の構造単位の総含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で5〜50質量%であることが好ましい。より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは10〜35質量%、より一層好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。この範囲内にあるとき、アクリル系熱可塑性樹脂はより十分な耐熱性改良効果が得られ、また、耐候性、低吸水性、光学特性についてより好ましい改良効果が得られる。なお、第二の構造単位の含有量及び第三の構造単位の含有量が50質量%を超えると、重合反応時に単量体成分の反応性が低下して、未反応で残存する単量体量が多くなり、アクリル系熱可塑性樹脂の物性が低下してしまう場合がある。
【0073】
アクリル系熱可塑性樹脂において、第二の構造単位の含有量Cと第三の構造単位の含有量Cのモル比C/Cは、望ましくは0より大きく15以下である。後述する光学特性(低い複屈折、低い光弾性係数)の観点から、モル比C/Cは、より好ましくは10以下である。モル比C/Cがこの範囲にあるとき、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂はより一層良好な光学特性を発現する。
【0074】
アクリル系熱可塑性樹脂において、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位の合計の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で、80質量%以上であってもよい。これにより、アクリル系熱可塑性樹脂は一層良好な光学特性を発現する。
【0075】
(第四の構造単位)
アクリル系熱可塑性樹脂は、上記以外の構造単位をさらに含有していてもよい。例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、発明の目的を損なわない範囲で、上記第一、第二及び第三の単量体と共重合可能なその他の単量体に由来する構造単位を、さらに有していてもよい。以下、アクリル系熱可塑性樹脂中の第一、第二及び第三の構造単位以外の構造単位を、第四の構造単位と称する。
【0076】
共重合可能なその他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基又は炭素数1〜18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;オレフィン;ジエン;ビニルエーテル;ビニルエステル;フッ化ビニル;プロピオン酸アリル等の飽和脂肪酸モノカルボン酸のアリルエステル又はメタリルエステル;多価(メタ)アクリレート;多価アリレート;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸類等を挙げることができる。その他の単量体は、これらの群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり得る。
【0077】
上記芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。上記不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル等が挙げられる。また、上記アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0078】
また、上記オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ジイソブチレン等が挙げられる。また、上記ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。また、上記ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等が挙げられる。また、上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。また、上記フッ化ビニルとしては、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0079】
上記多価(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ハロゲン化ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ、又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0080】
多価アリレート単量体としては、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。グリシジル化合物単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、及びアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物が挙げられる。
【0081】
アクリル系熱可塑性樹脂中の第四の構造単位の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.1〜15質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。含有量が上記範囲であると、アクリル系熱可塑性樹脂の吸湿性が一層改善される。耐候性の観点からは、10質量%未満であることが好ましく、7質量%未満であることがより好ましい。
【0082】
アクリル系熱可塑性樹脂は、第四の構造単位を一種のみ有していてもよく、二種以上を有していてもよい。
【0083】
第四の構造単位の一例として、下記式(4)で表される構造単位が挙げられる。
【0084】
【化10】

【0085】
式中、Rは水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を示し、Rはハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシ基を示し、aは1〜3の整数を示す。
【0086】
における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうちメチル基が好適である。
【0087】
におけるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0088】
また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、Rにおける炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、アクリル系熱可塑性樹脂の透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基が好適であり、メチル基がより好適である。
【0089】
また、Rにおける炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられ、これらのうち、メトキシ基が好適である。
【0090】
式(4)で表される構造単位は、例えば、下記式(4−a)で表される単量体から形成することができる。
【0091】
【化11】


式中、R、R及びaはそれぞれ式(4)におけるR、R及びaと同義である。
【0092】
第四の単量体としては、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレン等が挙げられる。アクリル系熱可塑性樹脂を構成する第一の単量体、第二の単量体及び第三の単量体との共重合性に優れ、その光学特性の調整が少量の使用で可能な点からスチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。これらの第四の単量体は、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
【0093】
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、1種の共重合体から構成されていてもよいし、第一の構造単位、第二の構造単位及び第三の構造単位のうち1種以上の構造単位を有する2種以上の共重合体のブレンド物であってもよい。例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位、及び第三の構造単位を有する1種の共重合体から構成される樹脂であり得る。あるいは、アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位と、第二の構造単位、及び/又は第三の構造単位とを有する2種類以上の共重合体から構成されるブレンド物であってもよいし、第一の構造単位を有する重合体と、第二の構造単位を有する重合体と、第三の構造単位を有する重合体とから構成されるブレンド物であってもよい。透明性や均一性の観点から、アクリル系熱可塑性樹脂は、第一の構造単位、第二の構造単位、及び第三の構造単位を有する共重合体であるか、第一の構造単位と、第二の構造単位、及び/又は第三の構造単位とを有する2種類以上の共重合体から構成されるブレンド物であることが好ましく、第一の構造単位、第二の構造単位、及び第三の構造単位を有する共重合体であることが特に好ましい。
【0094】
アクリル系熱可塑性樹脂中のハロゲン原子の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.47質量%未満であることが好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましい。アクリル系熱可塑性樹脂がハロゲン原子を0.47質量%未満とすることで、溶融成形等に際して高温でアクリル系熱可塑性樹脂を取り扱った場合でも、ハロゲン系ガスが発生し難く、ハロゲン系ガスに起因する装置の腐食や作業環境の悪化が防止される。また、アクリル系熱可塑性樹脂(又はその成形体等)を廃棄する際にも、環境負荷が比較的大きいハロゲン系ガスが発生し難いという利点がある。
【0095】
アクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法によるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量(Mw)は、3000〜1000000であることが好ましい。Mwが3000以上であれば成形によって必要な強度を有する光学等方性偏光膜保護フィルムを得ることができる。また、Mwが1000000以下であれば各種溶融成形時に必要十分な熱流動性を得ることができる。Mwは、より好ましくは30000〜800000であり、更に好ましくは60000〜600000である。特に好ましくは100000〜400000である。
【0096】
アクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法によるポリメチルメタクリレート換算の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜10であることが好ましい。アクリル系熱可塑性樹脂は、リビングラジカル重合法で重合することも可能であり、必要に応じて分子量分布を調整可能である。成形加工に適した樹脂粘度に調整する観点からは、分子量分布(Mw/Mn)は1.1〜7.0であることがより好ましく、1.2〜5.0であることがさらに好ましく、1.5〜4.0とすることもできる。
【0097】
アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、120℃以上であることが好ましい。Tgが120℃以上であれば、近年の液晶ディスプレイ用フィルム成形体として必要十分な耐熱性を有している。Tgは、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは135℃以上である。一方、Tgの上限としては、180℃以下であることが好ましい。
【0098】
(アクリル系熱可塑性樹脂の光学特性)
(i)光弾性係数Cの絶対値
アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、3.0×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは、2.0×10−12Pa−1以下であり、さらに好ましくは1.0×10−12Pa−1以下である。
【0099】
ここで、光弾性係数に関しては種々の文献に記載があり(例えば、化学総説,No.39,1998(学会出版センター発行)参照)、下記式(i−1)及び(i−2)により定義されるものである。光弾性係数Cの値がゼロに近いほど、外力による複屈折変化が小さいことが判る。
=|Δn|/σ …(i−1)
|Δn|=nx−ny …(i−2)
式中、Cは光弾性係数、σは伸張応力、|Δn|は複屈折の絶対値、nxは伸張方向の屈折率、nyは面内で伸張方向と垂直な方向の屈折率、をそれぞれ示す。
【0100】
アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数Cは、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂等)と比較して、十分に小さい。従って、外力に起因した(光弾性)複屈折を生じさせないために複屈折変化を受けにくい。また、成形時の残存応力に起因する(光弾性)複屈折を生じにくいために成形体内での複屈折分布も小さい。
【0101】
(ii)面内方向の位相差Re
アクリル系熱可塑性樹脂は、例えば、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、30nm以下であることが好ましい。ここで位相差Reは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0102】
位相差Reの絶対値は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、11nm以下であることが特に好ましい。
【0103】
一般に、位相差Reの絶対値は、複屈折の大小を表す指標である。アクリル系熱可塑性樹脂の複屈折は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合の複屈折に対して十分に小さく、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折を要求される用途に好適である。
【0104】
一方、面内方向の位相差Reの絶対値が30nmを超える場合、屈折率異方性が高いことを意味し、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折を要求される用途には使用できないことがある。また、光学材料(例えば、フィルム、シートなど)の機械的強度を向上させるために延伸加工をする場合があるが、延伸加工後の面内方向の位相差の絶対値が30nmを超える場合は、光学材料として低複屈折やゼロ複屈折材料が得られたことにはならない。
【0105】
(iii)厚み方向の位相差Rth
アクリル系熱可塑性樹脂は、例えば、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が、30nm以下であることが好ましい。ここで位相差Rthは、フィルムとして測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0106】
位相差Rthの絶対値は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、11nm以下であることが特に好ましい。
【0107】
この厚み方向の位相差Rthは、光学材料、特に光学フィルムとしたとき、該光学フィルムを組み込んだ表示装置の視野角特性と相関する指標である。具体的には、厚み方向の位相差Rthの絶対値が小さいほど視野角特性は良好であり、見る角度による表示色の色調変化、コントラストの低下が小さい。
【0108】
アクリル系熱可塑性樹脂は、既存樹脂(例えば、PMMA、PC、トリアセチルセルロース樹脂、環状オレフィン樹脂など)を用いた場合と比較して、光学フィルムとしたときの厚み方向の位相差Rthの絶対値が非常に小さいという特徴を有する。
【0109】
(iv)全光線透過率
アクリル系熱可塑性樹脂は、例えば、フィルム成形した場合の全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここで全光線透過率は、100μm厚に換算して求めた値である。全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下し、高い透明性を要求される用途に使用できないことがある。
【0110】
以上のとおり、アクリル系熱可塑性樹脂は、光弾性係数Cが十分に小さく(近似的にはゼロ)、また、例えば、フィルム形状に成形した場合、延伸加工の有無に関わらず、光学フィルムとして評価しても面内方向の位相差Re及び厚み方向の位相差Rthの絶対値がいずれも小さい(近似的にはゼロ)ことで特徴付けられる。本発明の実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、従来公知の樹脂では達成できない光学的に完全な等方性(所謂、ゼロ・ゼロ複屈折)を実現することができ、さらに、高い耐熱性をも同時に達成することができる。
【0111】
[アクリル系熱可塑性樹脂の製造方法]
本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂は、第一の単量体、第二の単量体及び第三の単量体を含む単量体群を重合することにより得ることができる。アクリル系熱可塑性樹脂を得る手法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、通常、触媒の脱灰がないラジカル重合が選択される。
【0112】
アクリル系熱可塑性樹脂を光学材料用途として用いるには、微小な異物や不純物の混入をできるだけ避けることが好ましく、この観点からアクリル系熱可塑性樹脂の重合方法には懸濁剤や乳化剤を用いないラジカルキャスト重合やラジカル溶液重合を用いることが望ましい。
【0113】
また、重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法を用いることが望ましい。
【0114】
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合等に応じて適宜調整できるが、例えば、重合温度が0〜160℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が80〜160℃、重合時間が1〜8時間である。
【0115】
ラジカル重合反応時には、必要に応じて重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、重合温度に応じて一般的なラジカル重合開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
【0116】
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で用いられる。
【0117】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が所望の範囲内に制御されるように添加される。
【0118】
ラジカル溶液重合の場合の重合溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合温度、取扱いの容易さ、及び、樹脂と溶媒との分離除去の容易性より、沸点が50〜200℃である溶媒が好ましい。
【0119】
ラジカル溶液重合では、重合液濃度(樹脂分の濃度)として10〜95質量%で実施することが望ましい。10質量%以上であれば、分子量と分子量分布の調整が容易である。95質量%以下であれば、高分子量の重合体を得ることができる。また、重合中の除熱の観点から、反応液の粘度を適切にするために75質量%以下とすることがより好ましく、60質量%以下とすることが更に好ましい。
【0120】
また、重合反応液の粘度を適切に保つという観点からは、重合中に重合溶媒を適宜添加することができる。反応液の粘度を適切に保つことで、除熱を制御し、反応液中の副反応を抑制することが容易となる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶媒を適宜添加して50質量%以下となるように制御することが更に好ましい。
【0121】
溶液重合で得られたアクリル系熱可塑性樹脂は、溶液をそのまま用いて溶液キャスト法で光学等方性偏光膜保護フィルムとする場合以外では、溶媒や残存単量体と分離する必要がある。分離する方法は、溶液を加熱したり減圧したりして溶媒や残存単量体を揮発させる脱揮処理や、樹脂の貧溶媒中に入れて溶媒や残存単量体を抽出除去する方法等、公知の方法を用いることができる。
【0122】
本実施形態において、アクリル系熱可塑性樹脂は、精密な光学用途である偏光透過光学部品用に供されるものであることから混入する異物数は、少ないほど好ましい。異物数を減少させる方法としては、重合反応工程、脱揮処理工程、及び成形工程において、重合溶液又は溶融液を、例えば、濾過精度1.5〜15μmのリーフディスク型ポリマーフィルター等で濾過する方法等が挙げられる。
【0123】
本実施形態においては、最終的な偏光透過光学部品への影響が出ない範囲内で、アクリル系熱可塑性樹脂に熱安定剤、紫外線吸収剤、(複屈折を有するような)光学等方性が高くない樹脂を含むその他の樹脂を加えることができる。加える方法は公知の方法であれば特段の制限はない。例えば、重合時に添加する方法、重合後の溶液に添加する方法、樹脂に溶融混練等をして添加する方法、また、これらを組み合わせによる方法等によって添加することができる。
【0124】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸エステル系樹脂;ポリアミド;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリスルホン;ポリフェニレンオキサイド;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリアセタール;環状オレフィン系樹脂;ノルボルネン系樹脂;トリアセチルセルロースなどのセルロース樹脂等の熱可塑性樹脂、およびフェノール樹脂;メラミン樹脂;シリコーン樹脂;エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などの少なくとも1種以上を含有することができる。
【0125】
[偏光透過光学部品の成形]
本実施形態のアクリル系熱可塑性樹脂を溶融成形することで、偏光透過光学部品に加工することができる。溶融成形方法としては、溶融熱プレス法、射出成形法などを用いることができる。生産性の観点からは、射出成形法が好ましい。また、一度、溶融押出法により連続的に板状に押し出し、その後、溶融熱プレス法にてプリズム形状を表面に付形することもできる。
【0126】
この表面付形に関しては、規則的な周期構造を有するものであっても、さしたる規則性がない構造であっても構わない。また規則的な周期構造を有する場合は、その周期構造の一周期が10〜500μmであることが望ましい。周期構造が10μm以上であれば、光を光線として制御することができる。
【0127】
[偏光透過光学部品]
本実施形態の偏光透過光学部品は、上記アクリル系熱可塑性樹脂を溶融成形して作製することができる成形物であり、偏光を透過及び/又は分離させる光学部品をいう。
【0128】
本実施形態の偏光透過光学部品は、光弾性係数(C)が−3.0×10−12〜+3.0×10−12Pa−1以下であるアクリル系熱可塑性樹脂からなることが望ましい。本発明における光弾性係数(C)とは外力σを加えると歪Sの大きさと向きが変化する物体に偏光を加えた際に観察される位相差をRとしたとき、R=(C)×σで記される物理係数である。光弾性係数(C)は個々の透明物質に固有の値である。光弾性係数Cは、その絶対値が、より好ましくは、2.0×10−12Pa−1以下であり、さらに好ましくは1.0×10−12Pa−1以下である。この範囲内であれば、偏光透過光学部品を支える筐体との線膨張差などから生じる外部応力による偏光の乱れが生じ難くなる。
【0129】
本実施形態の偏光透過光学部品は、ガラス転移温度が130℃以上であるアクリル系熱可塑性樹脂からなることが望ましい。130℃以上であれば、近年の光学投影装置に使用されるLED光源周辺に配置することが十分可能である。また、車載用等の高度な耐久性が要求される用途においても、好適に用いることができる。ガラス転移温度は、好ましくは135℃以上であり、より好ましくは140℃以上である。一方、ガラス転移温度の上限としては、180℃であることが好ましい。
【0130】
また、本発明の偏光透過光学部品の表面硬度は、鉛筆硬度で3H以上の表面硬度を有することが望ましい。鉛筆硬度が3H以上あれば、偏光透過光学部品として使用する際の傷つき特性として十分である。より好ましくは4H以上である。一方、鉛筆硬度の上限としては、6H程度である。
【0131】
本発明の偏光透過光学部品の光路長は、10〜100000μmであることが好ましく、25〜10000μmがより好ましく、50〜5000μmが特に好ましい。偏光透過光学部品の光路長さが25μ以上であれば、成形体として取り扱うことが容易である。また、100000μm以下であれば十分な透明性が確保できる。
【0132】
[偏光透過光学部品の後加工]
偏光透過光学部品は、必要に応じて、誘電体蒸着処理、反射防止処理、金属蒸着処理、ハードコート処理、アンカーコート処理、透明導電処理を行うことができる。
【0133】
偏光透過光学部品には、表面に無機層を蒸着法により設けることができ、該無機層は透明多層誘電体であることが好ましい。
【0134】
[偏光ビームスプリッタ]
本実施形態の偏光ビームスプリッタとはプリズム型、平面型、ウェッジ基板型など複数ある何れのものも含むが、特にプリズム型ものが好適である。プリズム型偏光ビームスプリッタは、二つのプリズムからなり、相互に接合する重ね合わせ面に多層透明誘電体膜や金属薄膜を形成したものである。
【0135】
本実施形態の偏光ビームスプリッタを製造するためには偏光透過光学部品表面に、二酸化シリコン(SiO)や、二酸化チタン(TiO)を多層に蒸着し、表面に多層透明誘電体膜を付与する。また、場合によってはクロム層と二酸化シリコン層のハイブリッド構造の多層膜とすることも出来る。
【0136】
多層透明誘電体膜の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の従来公知の技術をいずれも使用できるが、膜の均一性やアンカーコート層への薄膜の密着性の観点から、スパッタリング法での薄膜形成が好ましい。
【0137】
また必要な層数は用途により異なるが一層〜一千層が可能である。効率よく偏光分離を行うためには二十層以上が好ましい。更に入射面、出射面に反射防止処理をすることが望ましい。このような各種表面処理を行う場合は、必要に応じて、コロナ放電やプラズマ放電による処理や、エポキシ基、イソシアナート基等を持ったプライマー剤塗布表面処理により、密着性を高めることもできる。
【0138】
[光学投影装置]
本実施形態の偏光透過光学部品は、他のレンズと併せて光学投影装置を形成することができる。図1は、一般的な光学投影装置1を模式的に表した図である。図1に示されるように、本実施形態の光学投影装置は、光源10、球面反射鏡12、コリメータレンズ14、赤外線除去フィルタ16、1/4波長板18及び上記本実施形態の偏光ビームスプリッタ20が直列に整列されている。偏光ビームスプリッタ20は、2個の直角プリズムの45°傾斜面同士を接合させて構成され、この接合面20aには上記多層透明誘電体膜が形成されている。この多層透明誘電体膜は、入射光のうちのS波偏光成分を反射させ、P波偏光成分pを透過させる。
【0139】
キセノンランプなど光源10から発せられた光は、球面反射鏡12とコリメータレンズ14により平行光線となる。その後、この平行光は、赤外線除去フィルタ16及び1/4波長板18を通過し、偏光ビームスプリッタ20に入射される。偏光ビームスプリッタ20の接合面20aを透過したP波偏光成分pは、投写する画像が表示される液晶パネル(図示せず)に入射される。そして、液晶パネルの透過により像光が形成され、この像光を投写レンズによりスクリーン(図示せず)に拡大投写させる。
【0140】
一方、接合面20aで反射したS波偏光成分sは、この反射光の出射部に配置したミラー22で反射され、再度偏光ビームスプリッタ20に入射される。このミラー22から入射したS波偏光成分sは、接合面20aで反射して光源1側に戻る。このとき、偏光ビームスプリッタ20と光源10との間に配された1/4波長板18を通過することで、この戻り光が円偏波となり、この円偏波となった戻り光が、球面反射鏡2での反射で逆回転の円偏波となり、再度1/4波長板18を通過することで、P波偏光成分pに変換される。
【0141】
従って、このP波に変換された成分は、接合面20aを透過し、結局光源10からの光の全ての成分がP波偏光成分pとなって液晶パネル側に入射するようになり、良好に液晶パネルに表示される画像に基づいた像光を形成させることができるものである。
【0142】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0143】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0144】
[アクリル系熱可塑性樹脂の組成解析]
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂をCDClに溶解し、ブルーカー株式会社製 DPX−400装置を用い、H−NMR、13C−NMR(測定温度:40℃)測定を実施し、(i)第一の構造単位、(ii)第二の構造単位、(iii)第三の構造単位、及び(iv)第四の構造単位の量をそれぞれ同定し、その比率から組成を確認した。
【0145】
[アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度測定]
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製、Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、試料約10mgを常温から200℃まで昇温速度10℃/minで昇温して得られたDSC曲線から中点法で算出した。
【0146】
[アクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量測定]
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製 HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販の標準PMMA換算により求めた。
【0147】
[アクリル系熱可塑性樹脂の光学特性評価]
<アクリル系熱可塑性樹脂の光学評価用サンプルの調製>
重合により得られたアクリル系熱可塑性樹脂を溶融真空プレス成形でフィルムとした。鉄板の上にカプトンシートを配置し、その上に15cm正方にくり貫いた厚み150μmの金枠を置き、そこにアクリル系熱可塑性樹脂をおいた。更に、カプトンシートを重ね置きし、鉄板を配置した。二枚の金板に挟んだまま、真空圧縮成形機((株)神藤金属工業所製 SFV−30型)にいれ、減圧を開始し10kPaに到達した段階で、260℃まで20分をかけて昇温した、その後、260℃で5分保持したあと、プレス圧10MPaで5分間圧縮、その後、冷却を開始、50℃に到達した段階で真空乾燥器内を大気圧に戻し、サンプルを取り出した。次いで、サンプルを一度、カプトンシートから剥離し、再度新しいカプトンシートで挟み、窒素で満たされ、ガラス転移温度(Tg)より10℃高い温度に保たれた乾燥器の中で8時間、保持した。
【0148】
<アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数測定>
Polymer Engineering and Science 1999, 39, 2349−2357に詳細について記載のある複屈折測定装置を用いた。23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室内で24時間以上養生を行ったアクリル系熱可塑性樹脂からなるフィルム(厚み約150μm、幅6mm)を用い、同様に恒温恒湿室に設置したフィルムの引張り装置(井元製作所製)にチャック間50mmになるようにフィルムを配置した。次いで、後述する複屈折測定装置(大塚電子製RETS−100)のレーザー光経路がフィルムの中心部になるようにし、歪速度50%/分(チャック間:50mm、チャック移動速度:5mm/分)で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。複屈折の絶対値(|Δn|)と伸張応力(σ)の関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きを求め光弾性係数(C)を計算した。計算には伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの間のデータを用いた。
=|Δn|/σ
|Δn|=|nx−ny|
(C:光弾性係数、σ:伸張応力、|Δn|:複屈折の絶対値、nx:伸張方向の屈折率、ny:伸張方向の垂直な屈折率)
【0149】
<アクリル系熱可塑性樹脂の複屈折の測定>
大塚電子製RETS−100を用いて、偏光透過光学部品の複屈折を回転検光子法により測定した。複屈折の値は、波長550nm光の値である。複屈折(Δn)は、以下の式により計算した。得られた値をフィルムの厚さ100μmに換算して測定値とした。
Δn=nx−ny
(Δn:複屈折、nx:伸張方向の屈折率、ny:伸張方向と垂直な屈折率)
【0150】
複屈折(Δn)の絶対値(|Δn|)は、以下のように求めた。
|Δn|=|nx−ny|
【0151】
<アクリル系熱可塑性樹脂の位相差Re測定>
23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に設置した大塚電子(株)製RETS−100を用いて、回転検光子法により波長400nmから上800nmまでの範囲で偏光透過光学部品の複屈折測定を実施した。4cm角のフィルム30枚に関し、サンプル中心部で面内位相差Re測定を行い、次いでサンプル中心部の厚みの測定を実施、厚み100μmに換算された面内方向の位相差Reを求めた。次いで、絶対値に変換した後、平均をとり、更に上記で求めた全体厚みに換算しなおすことで、偏光透過光学部品の面内方向の位相差Reの絶対値を求めた。
【0152】
なお、各厚みから、100μm厚みへの換算は下記の数式に基づいて行った。
複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差Reは以下の関係にある。
Re=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Re:位相差、d:サンプルの厚み)
【0153】
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|nx−ny|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な屈折率)
【0154】
<アクリル系熱可塑性樹脂の位相差Rth測定>
23℃、湿度60%に調整した恒温恒湿室に設置した王子計測機器(株)製位相差測定装置(KOBRA−21ADH)を用い、波長589nmにおいて偏光透過光学部品の複屈折測定を実施した。測定は4cm角のサンプル30枚に関し、サンプル中心で厚み方向の位相差Rth測定を行い、次いで中心部のサンプル厚みの測定を行うことで、厚み100μmに換算された厚み方向の位相差Rthを求めた。次いで、絶対値に変換した後、平均をとり、更に上記で求めた全体厚みに換算しなおすことで、偏光透過光学部品の厚み方向の位相差Rthの絶対値を求めた。
【0155】
なお、各厚みから、100μm厚みへの換算は下記の数式に基づいて行った。複屈折の絶対値(|Δn|)と位相差Rthは以下の関係にある。
Rth=|Δn|×d
(|Δn|:複屈折の絶対値、Rth:位相差、d:サンプルの厚み)
【0156】
また、複屈折の絶対値(|Δn|)は以下に示す値である。
|Δn|=|(nx+ny)/2−nz|
(nx:延伸方向の屈折率、ny:面内で延伸方向と垂直な屈折率、nz:面外で延伸方向と垂直な厚み方向の屈折率)
【0157】
<アクリル系熱可塑性樹脂の歪みと複屈折の関係式の傾きαの測定>
アクリル系熱可塑性樹脂フィルム(厚み約150μm、幅40mm)をインストロン社製10t引張り試験機で、延伸温度(Tg+20)℃、延伸速度(500mm/分)で一軸フリー延伸して成形した。延伸倍率は、100%、200%、及び300%で延伸した。次いで、得られた延伸サンプルの複屈折を前述の方法で測定し、一軸延伸したときに発現する複屈折(Δn(S))を求めた。
【0158】
求めた延伸サンプルに発現している複屈折(Δn(S))の値を、その延伸倍率(S)に対してプロットして得られる最小二乗法近似直線関係式(A)より傾きαの値を求めた。傾きαの値が小さいほど複屈折(Δn(S))、その変化が小さいことを意味する。
Δn(S)=α×S+β (βは定数:無延伸時の複屈折値)・・・(A)
【0159】
但し、ここで複屈折とは、測定した値を100μm厚に換算して求めた値である。
【0160】
また、延伸倍率(S)とは、延伸前のチャック間距離をL、延伸後のチャック間距離をLとすると、以下の式で表される値である。
【0161】
【数1】

【0162】
完全に光学等方性を満足する延伸サンプルでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに「ゼロ」となり、位相差にばらつきは発生しない。
【0163】
[偏光透過光学部品の溶融熱成形]
樹脂予備乾燥条件80℃、6時間。二つの短辺が40mmの直角三角形で奥行きが40mmのプリズム形状金型を使用し、射出成形条件(シリンダー温度265℃、射出速度20mm/sec、射出圧力110MPa、金型温度115℃)で射出成形を実施した。
【0164】
[偏光透過光学部品への多層透明誘電体層付与方法]
射出成形した偏光透過光学部品の傾斜面に大気中で50W・min/mのエネルギーでコロナ放電処理を行い、表面を親水化処理したあと、スパッタ装置に入れ、アルゴンガス及び酸素ガス流入下でSiOターゲットを用いて、多層透明誘電体層を形成させた。
【0165】
[偏光ビームスプリッタの作製方法]
二つのプリズムの多層透明誘電体層を空気が入らないように密着させ、キューブリック型の偏光ビームスプリッタを作製した。
【0166】
[偏光ビームスプリッタのコントラスト評価]
LED光源の光りをコリメータレンズで平行光線にし、次いでフライホールレンズを通して10mmの正方形の白色光にした。次いで作製したキューブリック型のビームスプリッタをXYステージに乗せ、透過する偏光を消光する位置で偏光板をおいた。次いで、XYステージを動かし9点の偏光漏れを目視で評価した。
【0167】
XYステージの移動時に偏光漏れに変化がないものを◎、わずかに明暗変化が部分的に見られるものを△、明らかな偏光漏れがあるものを×とした。
【0168】
[偏光透過光学部品の表面硬度測定]
射出成形体の直交面に対して、JIS K5600−5−4に準じ、電動鉛筆引っかき硬度試験機(株式会社安田精機製作所製)を使用し、荷重500gで偏光透過光学部品の鉛筆硬度を測定した。
【0169】
[多層透明誘電体層の密着性測定]
多層透明誘電体層に対して、JIS−K5600−5−6に準じて、クロスカット法にて密着性を評価した。評価基準は下記とした。
0:カットした淵がなめらかで格子面に剥がれがない。
1:カット交差点にわずかに剥がれが生じる。
2:カットした淵に沿って、また交差点において剥がれ、影響が全面積の5〜15%程度の場合。
3:クロスカット部において15%〜35%程度の剥がれ。
4:前面的な剥がれ部分的にあり、かつクロスカット部では35%程度までの剥がれ。
5:4分類以上の剥がれ。
【0170】
[光学投影装置の表示品位評価]
図1に示した構成を備える光学投影装置を作製し、投影される画像の色味再現性、画像解像度に優れるものを◎、色味再現性に優れるものを○、色味変化があり画像解像度に劣るものを×とした。
【0171】
[実施例1]
アクリル系熱可塑性樹脂を以下の方法で製造した。メチルメタクリレート(和光純薬特級、以下MMA)を減圧度0.01MPa、40℃で蒸留し、禁止剤を除いた。次いで、蒸留メチルメタクリレート24.30kg、N−フェニルマレイミド2.40kg(和光純薬特級、以下phMI)、N−シクロヘキシルマレイミド(和光純薬特級、以下chMI)3.30kg、メタキシレン20kg(和光純薬特級、以下mXy)を計量し、50Lタンクに加え、混合モノマー溶液を得た。次いで100mL/分の速度で窒素によるバブリングを12時間実施し、溶存酸素を除去した。混合モノマー溶液を、窒素置換した60L反応器に加え、温度を130℃に上昇させた。次いで、パーブチルO(日本油脂)0.06kgをmXy6kgに溶解させた開始剤溶液を、1kg/時間の速度で追添することで重合を実施し、8時間後おり反応器を50℃まで冷却した。
【0172】
次いで、1mの反応器に500Lのメタノールを加え、上記の重合溶液を5時間かけて注ぎ、ポリマーを析出させた。その後、更に2時間攪拌を実施し、減圧濾過を行った。減圧濾過後のメタノール含有重合粉体に300Lのメタノールを更に注ぎ、再攪拌した。その後、減圧濾過を実施し、メタノール含有粉体を採取、0.3mのコニカル真空乾燥器にて減圧度0.03MPa、温度80℃条件で乾燥を実施した。乾燥後の粉体を、250℃条件の二軸押出機にてペレタイジングを実施し、ペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
【0173】
このアクリル系熱可塑性樹脂の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI各単量体由来の構造単位は、それぞれ、81.3質量%、7.9質量%、10.8質量%であった。また、Tgを測定したところ、135℃、Mwは22.5万であった。光弾性係数は+0.4×10−12Pa−1であった。100μm厚み換算のReは9nm、Rthは26nmであった。αは0.03×10−5であった。
【0174】
射出成形を実施し、偏光ビームスプリッタを作製した。鉛筆硬度は4H。偏光漏れ試験を実施した結果は◎。密着性試験結果は2であった。
【0175】
[実施例2]
スチレン(和光純薬特級、以下St)を減圧度0.01MPa、52℃で蒸留し、禁止剤を除いた。次いで、蒸留MMA21.0kg、phMI2.18kg(和光純薬特級)、chMI5.0kg(和光純薬特級)、蒸留St1.72kg(和光純薬特級)、mXy20kg(和光純薬特級)を混合モノマー溶液とした以外は実施例1同様に重合を実施し、ペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。
【0176】
このアクリル系熱可塑性樹脂の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI、Stの各単量体由来の構造単位は、それぞれ、70.2質量%、5.2質量%、19.8質量%、4.8質量%であった。また、ガラス転移温度を測定したところ、141℃、重量平均分子量は15.6万であった。光弾性係数は+0.1×10−12Pa−1であった。100μm厚み換算のReは24nm、Rthは16nmであった。αは−0.2×10−5であった。
【0177】
射出成形を実施し、偏光ビームスプリッタを作製した。鉛筆硬度は3H。偏光漏れ試験を実施した。結果は○であった。密着性試験結果は1であった。
【0178】
[実施例3]
ベンジルメタクリレート(和光純薬特級、以下BzMAと記す)を減圧度0.01MPa、52℃で蒸留し、禁止剤を除いた。蒸留MMA24.0kg、phMI2.40kg(和光純薬特級)、chMI3.30kg(和光純薬特級)、蒸留BzMA0.30kg(和光純薬特級)、mXy20kg(和光純薬特級)を混合モノマー溶液とした以外は実施例1同様に重合を実施し、ペレット状のアクリル系熱可塑性樹脂を得た。このアクリル系熱可塑性樹脂の組成を確認したところ、MMA、phMI、chMI、BzMAの各単量体由来の構造単位は、それぞれ、80.3質量%、7.9質量%、10.8質量%、1.0質量%であった。また、ガラス転移温度を測定したところ、142℃、重量平均分子量は22.0万であった。光弾性係数は+0.7×10−12Pa−1であった。100μm厚み換算のReは2nm、Rthは2nmであった。αは−0.02×10−5であった。
【0179】
射出成形を実施し、偏光ビームスプリッタを作製した。鉛筆硬度は2H。偏光漏れ試験を実施した。結果は○であった。密着性試験結果は1であった。
【0180】
[比較例1]
ゼオノア480R(日本ゼオン社)に関して光弾性係数を測定した、+5.0×10−12Pa−1であった。またガラス転移温度は130℃であった。100μm厚み換算のReは50nm、Rthは55nmであった。αは0.6×10−5であった。
【0181】
射出成形を実施し、偏光ビームスプリッタを作製した。鉛筆硬度はHB。偏光漏れ試験を実施した。結果は×であった。密着性試験結果は2であった。
【0182】
[比較例2]
モノマー溶液としてMMA単独を用い実施例1同様の方法で、重合、ポリマーを回収した。光弾性係数を測定した結果−4.7×10−12Pa−1であった。また分子量は10.2万であった。ガラス転移温度は98℃であった。
100μm厚み換算のReは10nm、Rthは9nmであった。αは−0.33×10−5であった。
【0183】
射出成形を実施し、偏光ビームスプリッタを作製した。鉛筆硬度はH。偏光漏れ試験を実施した結果は△であった。
【0184】
実施例1、2、3、比較例1、2に関して、下記表1に特性をまとめた。
【0185】
【表1】

【0186】
実施例1、2、3と比較例1、2とを比べることで光学特性(低複屈折性)が優れることが判る。特に偏光透過光学部品としては、MMA、phMI、chMIの三元系組成が優れることが判る。また、実施例1、2、3と比較例1、2とを比べることで無機密着性に優れることが判る。また、実施例1、2、3と比較例1、2とを比べることで硬度が高く傷つき難いことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0187】
本発明の偏光透過光学部品は、耐熱性、無機密着性、高い硬度、かつ高度な光学等方性(低複屈折性)を有しているため、LED光源周辺に設置される偏光ビームスプリッタとして好適である。また、他のレンズと組み合わせることで光学投影装置用に特に好適である。
【符号の説明】
【0188】
1…光学投影装置、10…光源、12…球面反射鏡、14…コリメータレンズ、16…赤外線除去フィルタ、18…/4波長板、20…偏光ビームスプリッタ(PBS)、20a…多層透明誘電体膜、22…ミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される第一の構造単位、下記式(2)で表される第二の構造単位及び下記式(3)で表される第三の構造単位を有するアクリル系熱可塑性樹脂から形成され、
前記アクリル系熱可塑性樹脂が、その総量基準で、50〜95質量%の前記第一の構造単位と、0.1〜20質量%の前記第二の構造単位と、0.1〜49.9質量%の前記第三の構造単位とを有する、偏光透過光学部品。
【化1】


[式中、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示す。
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルキル基。]
【化2】


[式中、Rは、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、又は、下記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
B群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。]
【化3】

[式中、Rは、水素原子、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜12のアルキル基、又は、下記C群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を示す。
C群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基。]
【請求項2】
前記アクリル系熱可塑性樹脂の光弾性係数の絶対値が、3.0×10−12Pa−1以下である、請求項1に記載の偏光透過光学部品。
【請求項3】
前記アクリル系熱可塑性樹脂のハロゲン原子含有率が、アクリル系熱可塑性樹脂の総量基準で0.47質量%未満である、請求項1又は2記載の偏光透過光学部品。
【請求項4】
前記第二の構造単位の含有量の、前記第三の構造単位の含有量に対するモル比が0より大きく15以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項5】
前記Rが、メチル基又はベンジル基であり、
前記Rが、フェニル基又は前記B群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有するフェニル基であり、
前記Rが、シクロヘキシル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項6】
前記アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の面内方向の位相差Reの絶対値が、100μm厚み換算で30nm以下となる樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項7】
前記アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の厚み方向の位相差Rthの絶対値が100μm厚み換算で、30nm以下となる樹脂である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項8】
前記アクリル系熱可塑性樹脂は、フィルム成形した場合の延伸倍率(S)と、該延伸倍率での100μm厚み換算複屈折(Δn(S))との最小二乗法近似直線関係式(a)における傾きαの値が、下記式(b)を満たす樹脂である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
Δn(S)=α×S+β (a)
−0.30×10−5≦α≦0.30×10−5 (b)
[式中、βは定数であり、無延伸時の複屈折を示す。]
【請求項9】
前記アクリル系熱可塑性樹脂のガラス転移温度が130℃以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項10】
表面の鉛筆硬度が3H以上である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項11】
光路長が10〜100000μmである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項12】
表面に無機層を蒸着した、請求項1〜11のいずれか1項に記載の偏光透過光学部品。
【請求項13】
前記無機層が透明多層誘電体である、請求項12に記載の偏光透過光学部品。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の偏光透過光学部品を備える、光学投影装置。

【図1】
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