説明

偏平光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの引き込み方法

【課題】壁面に配線したままの状態で中間分岐することができ、且つ、中間分岐時に各光ファイバケーブルを容易に識別可能として取り出すことのできる偏平光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】光ファイバ心線2をシース3で被覆してなる矩形状の光ファイバケーブル4の複数個を一列に配列し、その両脇に抗張力体5を外被6で被覆してなる抗張力体部7を配置して、それら複数個の光ファイバケーブル4及び両脇の抗張力体部7を外層外被8で一括して被覆して形成された偏平光ファイバケーブル1。この偏平光ファイバケーブル1では、少なくとも壁面13に配線される側とは反対側の外層外被8に、両脇の抗張力体部7と対応する位置にノッチ14をそれぞれケーブル長手方向に形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば集合住宅における構内配線に使用される偏平光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの引き込み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、マンション等のような既設集合住宅の中には、光ファイバケーブルを布設すべき新たな配管を布設するスペースが無い場合や、既設配管においても光ファイバケーブルを布設する空きスペースが無い場合がある。
【0003】
このため、各階層に設置された分線盤より光ファイバケーブルを各住戸(各部屋)まで共用廊下の壁面や天井面などに沿わせて配線しなければならない。光ファイバケーブルには、例えばインドア型の光ファイバケーブルを連結部を介して複数個連結した構造のものや(例えば、特許文献1)、複数個のインドア型の光ファイバケーブルをテンションメンバと共に外被で被覆して集合させた構造(例えば、特許文献2)のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−70573号公報
【特許文献2】特開2008−281843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の光ファイバケーブルでは、光ファイバケーブルが連結部によって並列されているので、壁面に固定した状態で連結部を引き裂くことは困難である。特に、分岐した光ファイバケーブルを加入者宅へ引き込むためには少なくとも2〜3m程度の長さを取り出す必要があるが、この長さ範囲に渡って連結部を引き裂き、光ファイバケーブルを分離しなければならず、その作業が大変である。
【0006】
一方、特許文献2に記載の光ファイバケーブルでは、外被を切り裂いて内部から光ファイバケーブルを取り出す際に、テンションメンバの周囲を取り囲むようにして複数個の光ファイバケーブルが配列されているため、特定の光ファイバケーブルを見つけにくく取出し難い。そのため、光ファイバケーブルの抽出作業が必要となることから布設コストが増加する。また、特許文献2の光ファイバケーブルは、円形状であるため、壁面に取り付けると見栄えが悪い。
【0007】
そこで、本発明は、壁面に配線したままの状態で中間分岐することができ、且つ、中間分岐時に各光ファイバケーブルを容易に識別可能として取り出すことのできる偏平光ファイバケーブル及び光ファイバケーブルの引き込み方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、光ファイバ心線をシースで被覆してなる矩形状の光ファイバケーブルの複数個を一列に配列し、その両脇に抗張力体を外被で被覆してなる抗張力体部を配置して、それら複数個の光ファイバケーブル及び両脇の抗張力体部を外層外被で一括して被覆して形成され、少なくとも壁面に配線される側とは反対側の外層外被に、前記両脇の抗張力体部と対応する位置にノッチをそれぞれケーブル長手方向に形成したことを特徴としている。
【0009】
第2の発明は、第1の発明であって、前記光ファイバケーブルのシースの融点が、前記外層外被の融点よりも高いことを特徴としている。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明であって、両脇の前記抗張力体部のうちケーブル幅方向の側面に設けた突起が、前記外層外被の被覆時の熱で溶けて該外層外被と融着されたことを特徴としている。
【0011】
第4の発明は、第1から第3の何れか1つの発明であって、前記光ファイバケーブルの全長が、偏平光ファイバケーブルの全長よりも長いことを特徴としている。
【0012】
第5の発明は、第4の発明であって、前記光ファイバケーブルの余長率が0.03%以上であることを特徴としている。
【0013】
第6の発明は、第2から第5の何れか1つの発明であって、前記光ファイバケーブルの前記シースの摩擦係数が0.3以下であることを特徴としている。
【0014】
第7の発明は、第1から第6の何れか1つに記載された発明の偏平光ファイバケーブルを壁面に接して配線した後、前記外層外被に形成した前記ノッチにそれぞれ切れ込みを入れ、その切れ込みを入れた部位の外層外被を取り除いて内部から前記光ファイバケーブルを取り出して切断し、また、前記外層外被に形成した前記ノッチのうち前記切れ込みを入れた部位とは異なる位置に切れ込みを入れ、その切れ込みを入れた部位の外層外被を取り除いて内部から前記切断した光ファイバケーブルを引き出し、その引き出した光ファイバケーブルを集合住宅の各部屋に引き込むことを特徴とした光ファイバケーブルの引き込み方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光ファイバケーブルの複数個を一列に配列させた偏平光ファイバケーブルとしたので、外形状が偏平であることから集合住宅の共用廊下などの壁面に配線し易い。また、本発明によれば、複数個の光ファイバケーブルが一列に配列されていることからケーブル長手方向でその配置が入れ代わることがなく、中間分岐時に特定の光ファイバケーブルをその配列順で識別することができる。
【0016】
また、本発明によれば、壁面に配線される側とは反対側の外層外被に、抗張力体部と対応する位置にノッチを設けているので、偏平光ファイバケーブルを壁面に配線した状態のままでも外層外被を剥いで内部から特定の光ファイバケーブルを取り出すことができる。つまり、偏平光ファイバケーブルを壁面に配線した状態でも中間分岐作業をすることができる。
【0017】
また、本発明によれば、抗張力体部と対応する位置にノッチを形成しているので、このノッチを切り裂いてもその部位の下が抗張力体部であることにより、光ファイバケーブルに傷を付けるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の偏平光ファイバケーブルの横断面図である。
【図2】本実施形態の偏平光ファイバケーブルにおける光ファイバケーブル相互の摩擦係数を測定するのに用いた測定装置の概略構成図である。
【図3】図3は図1の偏平光ファイバケーブルを壁面に配線した後、特定の光ファイバケーブルを取り出して集合住宅の各部屋に引き込む方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は本実施形態の偏平光ファイバケーブルの横断面を示している。この偏平光ファイバケーブル1は、光ファイバ心線2をシース3で被覆してなる矩形状の光ファイバケーブル4の複数個を一列に配列(並列)し、その両脇に抗張力体5を外被6で被覆してなる抗張力体部7を配置し、それら複数個の光ファイバケーブル4及び両脇の抗張力体部7を同一の外層外被8で一括して被覆した偏平形状をなすケーブルとされている。この偏平光ファイバケーブル1は、既設マンション等の集合住宅における共用廊下等の壁面(天井壁や軒部分の壁面など)に配線して各部屋へ特定の光ファイバケーブル4を引き込むのに適したものである。
【0021】
光ファイバケーブル4は、中心に設けられる光ファイバ心線2と、この光ファイバ心線2を挟んでその両側に離間してそれぞれ配置された2本のテンションメンバ9、9を同一直線上に配置してシース3で一体的に被覆してなる矩形状の断面形状とされている。
【0022】
光ファイバ心線2は、例えば中心に設けられた石英ガラスファイバと、この石英ガラスファイバの周囲に紫外線硬化型樹脂を被覆して形成された外被層とからなる。光ファイバ心線2は、規格上、石英ガラスファイバの外径を直径0.125mm、全体の外径を直径0.25mmとされる。また、光ファイバ素線2は、心線間の識別性のために、外被層が着色(無色も含む)されている。
【0023】
2本のテンションメンバ9、9は、光ファイバ心線2を挟んでその両側に離間してそれぞれ配置されている。これらテンションメンバ9、9は、光ファイバケーブル4の中心位置に設けられた光ファイバ心線2と同一線上に設けられている。かかるテンションメンバ9、9は、光ファイバケーブル4自体の剛性を高めるケーブル剛性部材として、また光ファイバケーブル4の曲げ方向をケーブル短辺方向にのみ湾曲させるケーブル曲げ方向規制部材として機能する。本実施形態では、テンションメンバ9、9としてφ0.5mmのアラミドFRPを用いた。テンションメンバ9、9は、小径に曲げ易いアラミドFRP以外にも、例えばガラスFRPの各種繊維強化プラスチックや鋼線などを用いることもできる。
【0024】
前記シース3には、該シース3を引き裂いて光ファイバ心線2を取り出すためのノッチ10、11が形成されている。前記ノッチ10、11は、何れも光ファイバ心線2と対応した位置に、光ファイバ心線2に向かって先細りになる断面V字状の溝として形成されている。これらノッチ10、11は、ケーブル長手方向(図1の紙面に対して垂直な方向)に沿って連続して形成されている。
【0025】
前記シース3には、例えば高密度ポリエチレンに水酸化マグネシウム、赤燐を配合した黒色難燃ポリエチレンを用いることができる。この他、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン・アクリル酸エチルコポリマー(EEA)などの各種オレフィン系材料やそれらに難燃剤等添加剤を入れた難燃ポリオレフィンを、シース3として使用することもできる。
【0026】
また、シース3の融点は、後述する外層外被8の融点よりも高くしている。こうすることで、外層外被8で光ファイバケーブル4及び抗張力体部7を一括して被覆する時の熱でシース3と外層外被8とが融着しないようにできる。本実施形態では、外層外被8の融点よりも高いシース3として、黒色難燃ポリエチレンのベース樹脂として高密度ポリエチレンを用いた。
【0027】
光ファイバケーブル4の外径は、本実施形態では何れも1.6mm(縦)×2.0mm(横)とした。光ファイバケーブル4の大きさは、従来から使用されている既存のインドアケーブルと同形状及び同寸法とすることで、既存のコネクタ類に適合させることができる。もちろん、本発明は、前記寸法に限定されるものではない。
【0028】
また、シース3の摩擦係数を0.3以下としている。こうすることで、一列に接して配列した複数個の光ファイバケーブル4のうち引き出すべき特定の光ファイバケーブル4を、他の光ファイバケーブル4から容易に取り出すことができる。シース3の摩擦係数を0.3以下とするには、例えば高密度ポリエチレンなど表面硬度が高く摩擦係数の低い樹脂を用いること、さらには、シリコーン分散ポリエチレン、シリコーンブレンドポリエチレン、脂肪酸アミドなど滑剤を添加することで低減できる。両端の光ファイバケーブル4を取り出し易くするため、抗張力体部7の外被6も同様に摩擦係数を0.3以下とすることが望ましい。なお、摩擦係数を0.3以下とする理由については、後述する実施例で説明する。
【0029】
また、光ファイバケーブル4は、その全長が偏平光ファイバケーブル1の全長よりも長くしている。具体的には、光ファイバケーブル4の余長率を0.03%以上としている。余長率は、((光ファイバケーブル全長−偏平光ファイバケーブル全長)/偏平光ファイバケーブル全長)×100%で表される。光ファイバケーブル4の全長を偏平光ファイバケーブル1の全長よりも長くすることで、中間分岐時に外層外被8を一部剥ぐと光ファイバケーブル4が若干浮き上がるため、ケーブル内部から光ファイバケーブル4を取り出し易くなる。なお、余長率を0.03%以上とする理由については、後述する実施例で説明する。
【0030】
余長は、光ファイバケーブル4と抗張力体部7とを一列に並列配置して、外層外被5を押し出すための押出しヘッドに挿入する際に、光ファイバケーブル4より抗張力体部7が大きな伸びとなるよう張力を印加することで、プラス余長とすることができる。このようにすることで、光ファイバケーブル4の余長率を0.03%以上にできる。
【0031】
図1では、光ファイバケーブル4の数を4個とし、それら光ファイバケーブル4同士を接触させて一列に配列させている。4個の光ファイバケーブル4は、全て同一形状及び同一外形のものを使用している。
【0032】
抗張力体部7は、中心に設けた抗張力体5を外被6で被覆することにより矩形状とされている。かかる抗張力体部7は、外層外被8を押し出すための押出しヘッドに挿入する際の整列容易性を鑑みて、縦横の大きさが光ファイバケーブル4とほぼ同一とされている。抗張力体部7を光ファイバケーブル4と同一の大きさとすると、偏平光ファイバケーブル全体で見たときに均一な厚みとなり、壁面に配線し易くなる。
【0033】
本実施形態では、抗張力体部7は、直径φ0.5mmの鉄線を抗張力体5とし、これを光ファイバケーブル4のシース3と同じ黒色難燃ポリエチレンで被覆し外被6とすることで形成した。また、抗張力体部7は、光ファイバケーブル4と同じく縦1.6mm×横2.0mmの矩形状をなす形状とした。なお、前記抗張力体部7の寸法は、一例でありこれに限定されない。抗張力体部7は、その長手方向に垂直な断面形状を矩形状としているが、光ファイバケーブル4と接しない側の形状を丸みのある円弧状としたものも使用できる。この他、抗張力体部7は、その断面形状が円形状でも楕円形状でもよく、特にその形状には限定されない。
【0034】
抗張力体5としては、鉄線の他、アラミドFRP、ガラスFRPなどの各種繊維強化プラスチック、鋼線が使用できる。マンションの共用廊下(通路)の壁面に配線する場合は、鉄線などの塑性変形し易い金属材料を使用することで、容易にケーブルの曲げ加工ができ、例えば、梁などの壁面凸部に沿って綺麗に配線することが可能となる。
【0035】
抗張力体部7の外被6は、光ファイバケーブル4のシース3と同一材料で形成することが望ましい。具体的には、抗張力体部7の外被6の融点が外層外被8の融点より高く、また、外被6の摩擦係数が0.3以下である材料で外被6を形成する。具体的な材料は、光ファイバケーブル4のシース3と同じであるので、ここではその説明は省略する。抗張力体部7の外被6を光ファイバケーブル4のシース3と同一材料で形成すれば、中間分岐時に外層外被8を剥いで内部から抗張力体部7と接する両端の光ファイバケーブル4を取り出す作業が容易になる。つまり、外層外被8と抗張力体部7が融着されていないことと、抗張力体部7に対する光ファイバケーブル4の滑りが良くなることの両方の作用で、光ファイバケーブル4の取り出しが楽になる。
【0036】
また、抗張力体部7のうちケーブル幅方向の側面6aに設けた突起12が、外層外被8の被覆時の熱で溶けて該外層外被8と融着されている。図1では、突起12を図示してあるが、実際には外層外被8との熱融着時に突起12が溶けてその外形が判らなくなる。突起12は、外被6の側面6aから外側へ向かって先端を尖らせた三角形状をなす突起として形成されている。突起12を設ければ、外層外被8と抗張力体部7の外被6とが融着するため、抗張力体5の突き出しや引き込みなどを防ぐことができる。
【0037】
本実施形態では、3つの突起12を設けている。この他、長辺をなす両面6b、6cにも突起12が同様に設けられている。両面6b、6cに設けられる突起12は、抗張力体5が設けられる中心位置から側面6a寄りの位置に設けられている。この位置であれば、外層外被8を後述するノッチから剥いだ時に、光ファイバケーブル4を取り出すことができる。
【0038】
外層外被8は、壁面13に接する壁面側の外層外被(以下、これを壁面側外層外被8aという)と、前記壁面13と接しない表面側の外層外被(以下、これを表面側外層外被8bという)と、両端の抗張力体部7と対応する側面側の外層外被(以下、これを側面側外層外被8c、8dという)とからなる。
【0039】
外層外被8は、一列に配列した複数個の光ファイバケーブル4及び両脇の抗張力体部7を一括して被覆するように押し出し成形することにより形成される。この時、外層外被8を切り裂いて内部に実装された光ファイバケーブル4を取り出すことができるように、外層外被8は光ファイバケーブル4に対して熱融着で接着されないように被覆されている。これを実現するのは、光ファイバケーブル4のシース3の融点が、外層外被8の融点よりも高くしたことによる。
【0040】
外層外被8には、EEAをベース材として、水酸化マグネシウム、赤燐を配合した黒色難燃ポリオレフィンを用いた。この他、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)、エチレン・アクリル酸エチルコポリマー(EEA)などの各種オレフィン系材料やそれらに難燃剤等添加剤を入れた難燃ポリオレフィンを用いることができる。光ファイバケーブル4のシース3との融着を回避し、且つ、後述するノッチでの引き裂きを容易にするため、低密度ポリエチレン、EEA、EVAなどの樹脂、およびそれらに難燃剤等添加剤を入れた難燃ポリオレフィンが望ましい。
【0041】
前記外層外被8のうち壁面13に配線される側とは反対側には、両脇の抗張力体部7と対応する位置にノッチ14をそれぞれケーブル長手方向に形成している。具体的には、表面側外層外被8bには、各抗張力体部7と対応する位置に、抗張力体5に向けて先細りとなるV字形状の溝としてケーブル長手方向にノッチ14が形成されている。壁面側外層外被8aにも同様に、各抗張力体部7と対応する位置に、抗張力体5に向けて先細りとなるV字形状の溝としてケーブル長手方向にノッチ14が形成されている。これらノッチ14は、何れも光ファイバケーブル4を並列配置した部分よりも外側に設けられている。このノッチ14の下部では、外層外被8と外被6とが融着していないことが、前記外層外被8の除去性から望ましい。本実施形態では、壁面側外層外被8a及び表面側外層外被8bの両方にノッチ14を形成しているが、表面側外層外被8bのみにノッチ14があればよい。
【0042】
以上のように構成された偏平光ファイバケーブル1によれば、光ファイバケーブル4の複数個及び両脇の抗張力体部7を一列に配列させた偏平光ファイバケーブルとしたので、外形状が偏平であることから集合住宅の共用廊下などの壁面に配線し易い。また、本発明によれば、複数個の光ファイバケーブル4が一列に配列されていることからケーブル長手方向でその配置が入れ代わることがなく、中間分岐時に特定の光ファイバケーブル4をその配列順で識別することができる。なお、光ファイバケーブル4のシース3表面に、ナンバリングなどの識別印字を施すことで、更に光ファイバケーブル4の識別性が高まる。
【0043】
また、この偏平光ファイバケーブル1によれば、壁面13に配線される側とは反対側の外層外被8に、抗張力体部7と対応する位置にノッチ14を設けているので、偏平光ファイバケーブル1を壁面13に配線した状態のままでも外層外被8を剥いで内部から特定の光ファイバケーブル4を取り出すことができる。つまり、偏平光ファイバケーブル1を壁面13に配線した状態でも中間分岐作業をすることができる。
【0044】
また、この偏平光ファイバケーブル1によれば、抗張力体部7と対応する位置にノッチ14を形成しているので、このノッチ14を切り裂いてもその部位の下が抗張力体部7であることにより、光ファイバケーブル4に傷を付けるのを防止することができる。
【0045】
また、この偏平光ファイバケーブル1によれば、光ファイバケーブル4のシース3の融点を、外層外被8の融点よりも高くしたので、前記シース3と外層外被8とは接着(融着)しておらず、中間分岐時に外層外被8を容易に剥ぐことができる。このため、光ファイバケーブル4の配列状態を乱すことなく外層外被8が剥がれることから内部から特定の光ファイバケーブル4を取り出すことが容易になる。
【0046】
また、この偏平光ファイバケーブル1によれば、両脇の抗張力体部7のうちケーブル幅方向の側面6aに設けた突起12が、外層外被8の被覆時の熱で溶けて該外層外被8と融着されているので、抗張力体5の突き出し及び引き込みを防止することができる。
【0047】
また、この偏平光ファイバケーブル1によれば、光ファイバケーブル4の全長が、偏平光ファイバケーブル1の全長よりも長いため、外層外被8を除去した部分で、余った光ファイバケーブル4が僅かに浮き上がり、壁面13に取り付けた状態でも容易に光ファイバケーブル4を引き出すことができる。
【実施例】
【0048】
前記した偏平光ファイバケーブル1における光ファイバケーブル4の余長率を0.03%以上とする理由について、以下の実験を行った。余長率は、以下のように測定した。偏平光ファイバケーブル1を10mの長さに計尺・切断した後、外層外被8を剥いで内部から光ファイバケーブル4を取り出し、その取り出した光ファイバケーブル4の長さを測定した。この時の光ファイバケーブル4の長さをL1とし、偏平光ファイバケーブル1の全長をL0=10mとすると、余長率=((L1−L0)/L0)×100%で表される。
【0049】
光ファイバケーブル4の余長率と中間分岐時の光ファイバケーブル4の取り出し性を確認した結果を表1に示す。中間分岐作業は、平面に光ファイバケーブル4を貼り付け、ケーブル中間部で長さ15cmに渡ってノッチ14に切れ込みを入れて外層外被8を除去した。この状態で、光ファイバケーブル4に弛みが生じ、容易に取り出せるものを○、取り出せるものを△、取り出せないものを×として評価した。
【表1】

【0050】
その結果、余長率が0.03%以上であれば、中間分岐作業が可能であることが確認された。さらには、余長率0.05%以上が光ファイバケーブル4の取り出し性に優れており、この範囲が望ましい。
【0051】
また、前記した偏平光ファイバケーブル1における光ファイバケーブル4のシース3の摩擦係数を0.3以下とする理由について、以下の実験を行った。シース3(抗張力体部7の外被6を含む)の摩擦係数は、図2に示す方法で測定した。光ファイバケーブル4を一列に並べて平板15、16にそれぞれ固定し、その間に挟んだ光ファイバケーブル4を引張り速度500mm/分で引っ張ったときの引抜力を測定する。平板15、16には、両面テープで光ファイバケーブル4を取り付けた。
【0052】
上側の平板16には錘17を載せ、19.6Nの荷重が掛かるようにした。引抜力をF(N)としたとき、摩擦係数μ=F/19.6として求めた。そして、摩擦係数と光ファイバケーブル4の引抜き性について調査した。引抜き性は、平面に光ファイバケーブル4を貼り付け、ケーブル中間部で長さ15cmに渡ってノッチ14に切れ込みを入れて外層外被8を除去した(a地点)。この外被除去部から3m離れた位置に同様の外層外被8の除去を行い、光ファイバケーブル4を1本切断した(b地点)。b地点で切断した光ファイバケーブル4をa地点より引張り、光ファイバケーブル4が引抜けるかどうかを確認した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0053】
この結果からわかるように、シース3の摩擦係数0.3以下であれば、光ファイバケーブル4を、3m以上容易に引抜けることが確認された。3mは、廊下から各部屋まで光ファイバケーブル4を引き込むに必要な長さである。
【0054】
このように、光ファイバケーブル4のシース3の摩擦係数が0.3以下であれば、隣り合う光ファイバケーブル4相互の摩擦が小さくなり、また、シース3と外層外被8とが融着されていないことによって、内部から光ファイバケーブル4を容易に引き抜くことができる。これにより、中間分岐時に光ファイバケーブル4を2m引き出すとした場合には、中間分岐から2m下部側で外層外被8を剥ぎ取り、この部分で分岐したい光ファイバケーブル4を切断することにより、中間分岐部から2mの光ファイバケーブル4を引き抜くことができる。このようにすることで、外層外被8を除去する長さを最小限として、各部屋に引き込みに必要な長さの光ファイバケーブル4を確保することができる。
【0055】
[光ファイバケーブルの引き込み方法]
次に、前記した偏平光ファイバケーブル1を壁面13に接して配線した後、特定の光ファイバケーブル4を集合住宅の各部屋に引き込む方法について説明する。図3は、図1の偏平光ファイバケーブル1から特定の光ファイバケーブル4を取り出して各部屋に引き込む方法を説明するための図である。
【0056】
偏平光ファイバケーブル1は、例えばマンション等の既設集合住宅の廊下などの壁面に、ケーブル固定手段18によって配線される。この偏平光ファイバケーブル1から特定の光ファイバケーブル4を各部屋に引き込むには、任意のケーブル部位Aのノッチ14に沿ってカッターで切れ込みを入れる。この時、ノッチ14の真下には抗張力体部7があるので、誤って光ファイバケーブル4を傷付けることは起こらない。
【0057】
そして、切れ込みを入れた任意のケーブル部位Aの外層外被8を所定長さ分だけ剥ぎ取り、内部から特定の光ファイバケーブル4を取り出して切断する。また、切れ込みを入れた任意のケーブル部位Aとは異なる位置に切れ込みを入れる。2度目の切れ込みを入れる位置であるケーブル部位Bは、光ファイバケーブル4を引き込む部屋と対応する部位である。1度目の切れ込み部位Aと2度目の切れ込み部位Bとの距離は、部屋まで引き込むのに必要な長さとする。
【0058】
次に、2度目の切れ込み部位Bの外層外被8を所定長さ分だけ剥ぎ取り、内部から前記切断した光ファイバケーブル4を引き出す。そして、引き出した光ファイバケーブル4を所定の部屋に引き込む。この後、切れ込みを入れたケーブル部位A、Bには、何らかのカバーを掛けるか、或いはテープを貼って引き裂いた部位を覆うようにする。以上の作業を、各部屋ごとに行う。
【0059】
この光ファイバケーブルの引き込み方法によれば、偏平光ファイバケーブル1を壁面13に配線したままの状態で外層外被8に形成したノッチ14に切れ込みを入れて特定の光ファイバケーブル4を取り出せることができる。このため、各部屋への光ファイバケーブル4の引き込み作業を短時間で行うことが可能となり、布設作業に要するコストも大幅に低減できる。
【0060】
以上、本発明を適用した具体的な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では、何れも中心に光ファイバ心線2を設け、その両側にテンションメンバ9、9を配置し、それらをシース3で被覆したインドア型の光ファイバケーブル4としたが、本発明は、この形態の光ファイバケーブルに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、集合住宅における構内配線に使用されて各部屋に引き込むための偏平光ファイバケーブルに利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 偏平光ファイバケーブル
2 光ファイバ心線
3 シース
4 光ファイバケーブル
5 抗張力体
6 外被
7 抗張力体部
8 外層外被
12 突起
13 壁面
14 ノッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線をシースで被覆してなる矩形状の光ファイバケーブルの複数個を一列に配列し、その両脇に抗張力体を外被で被覆してなる抗張力体部を配置して、それら複数個の光ファイバケーブル及び両脇の抗張力体部を外層外被で一括して被覆して形成され、少なくとも壁面に配線される側とは反対側の外層外被に、前記両脇の抗張力体部と対応する位置にノッチをそれぞれケーブル長手方向に形成したことを特徴とする偏平光ファイバケーブル。
【請求項2】
請求項1記載の偏平光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバケーブルのシースの融点が、前記外層外被の融点よりも高いことを特徴とする偏平光ファイバケーブル。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の偏平光ファイバケーブルであって、
両脇の前記抗張力体部のうちケーブル幅方向の側面に設けた突起が、前記外層外被の被覆時の熱で溶けて該外層外被と融着されたことを特徴とする偏平光ファイバケーブル。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか1つに記載の偏平光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバケーブルの全長が、偏平光ファイバケーブルの全長よりも長いことを特徴とする偏平光ファイバケーブル。
【請求項5】
請求項4記載の偏平光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバケーブルの余長率が0.03%以上であることを特徴とする偏平光ファイバケーブル。
【請求項6】
請求項2から請求項5の何れか1つに記載の偏平光ファイバケーブルであって、
前記光ファイバケーブルの前記シースの摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする偏平光ファイバケーブル。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れか1項に記載された偏平光ファイバケーブルを壁面に接して配線した後、
前記外層外被に形成した前記ノッチにそれぞれ切れ込みを入れ、その切れ込みを入れた部位の外層外被を取り除いて内部から前記光ファイバケーブルを取り出して切断し、
また、前記外層外被に形成した前記ノッチのうち前記切れ込みを入れた部位とは異なる位置に切れ込みを入れ、その切れ込みを入れた部位の外層外被を取り除いて内部から前記切断した光ファイバケーブルを引き出し、その引き出した光ファイバケーブルを集合住宅の各部屋に引き込む
ことを特徴とする偏平光ファイバケーブルの引き込み方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−97319(P2013−97319A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242543(P2011−242543)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】