偏心揺動型の減速装置
【課題】高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持する。
【解決手段】第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向移動を規制する第1、第2ストッパ(規制部材)61、62を備え、第1、第2ストッパ61、62は、周方向の一部が第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aと当接して第1、第3偏心体軸受31、33の軸方向の移動を規制するとともに周方向の他の一部が該第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aと当接しない規制部61B、62Bと、該規制部61B、62Bの径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に傾斜している案内部61C、62Cと、を有している。
【解決手段】第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向移動を規制する第1、第2ストッパ(規制部材)61、62を備え、第1、第2ストッパ61、62は、周方向の一部が第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aと当接して第1、第3偏心体軸受31、33の軸方向の移動を規制するとともに周方向の他の一部が該第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aと当接しない規制部61B、62Bと、該規制部61B、62Bの径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に傾斜している案内部61C、62Cと、を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える。内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯は、その歯数差が「1」に設定され、外歯歯車が内歯歯車の内側で揺動した際に、該歯数差に応じて生じる内歯歯車と外歯歯車との相対回転を取り出す構成とされている。
【0004】
偏心体と外歯歯車との間には、偏心体軸受が配置されている。偏心体軸受は、針状ころ(転動体)および該針状ころを支持するリテーナとで構成され、専用の内外輪を有していない。そのため、該偏心体軸受を軸方向に規制するためのワッシャ(規制部材)がリテーナの軸方向端面に当接するように配置されている。
【0005】
ワッシャは、偏心体軸受の軸方向移動を規制するという機能を果たすために、偏心体がいかなる偏心状態にあるときであっても、常時リテーナの軸方向端面に密着している。その結果、針状ころが存在する空間は、外歯歯車の内周、偏心体の外周、リテーナ、およびワッシャにより、ほぼ密閉された空間となっている。したがって、潤滑油の供給がなされにくいため、針状ころ周辺の潤滑油が劣化し易い、という問題があった。
【0006】
特許文献1においては、この問題に対し、このほぼ密閉された空間に潤滑油をより円滑に供給するために、ワッシャに軸方向に貫通する貫通孔を複数形成する構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−230171号公報(段落[0023]、[0035]、[図6]、[図7])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献1において開示されている構成は、貫通孔の形成にコストが掛かるという問題があった。すなわち、ワッシャは、リテーナと密着しながら摺動するものであることから、貫通孔の周囲に「バリ」等が残っていると、いわゆる「かじり現象」が発生し、リテーナが損傷してしまう恐れがある。これを回避するには、ワッシャの貫通孔は、単に形成するだけでなく、周囲の「バリ」を除去するための何らかの加工処理を付随して行う必要がある。そのため、結果としてコストが掛かるという問題があったものである。
【0009】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持することが可能な偏心揺動型の減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置され、転動体および該転動体を支持するリテーナを有する偏心体軸受と、該偏心体軸受の軸方向移動を規制する規制部材と、を備え、前記規制部材は、周方向の一部が前記リテーナの軸方向端面と当接して前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制するとともに周方向の他の一部が該リテーナの軸方向端面と当接しない規制部と、該規制部の径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に傾斜している案内部と、を有している構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0011】
本発明では、規制部材の規制部の周方向の一部はリテーナの軸方向端面と当接して偏心体軸受の軸方向の移動を規制するが、周方向の他の一部は該リテーナの軸方向端面と当接していない。そのため、この当接していない部分を潤滑油の出入りを許容する通路として活用することができる。
【0012】
一方、本発明では、前記規制部の外側に、軸方向反偏心体軸受側に傾斜した案内部を備える。このため、この案内部の機能により、規制部とリテーナとの接触、非接触の境界が偏心体の偏心態様により変化しても、いわゆる「かじり現象」は発生しない。したがって、「バリ」を取る作業を別途行う必要もなく、規制部材を低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体断面図
【図2】図1の減速装置の要部断面図
【図3】図1の減速装置の規制部材付近の構成を示す拡大断面図
【図4】図1の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態を規制部材の側から見た説明図
【図5】図1の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態をリテーナの側から見た説明図
【図6】本発明の他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の要部断面図
【図7】図6の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態を規制部材の側から見た説明図
【図8】図6の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態をリテーナの側から見た説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体断面図、図2は、その要部断面図、図3は、ストッパ(規制部材)付近の構成を示す拡大断面図である。
【0017】
この偏心揺動型の減速装置G1は、第1〜第3偏心体11〜13によって揺動する第1〜第3外歯歯車21〜23と、該第1〜第3外歯歯車21〜23が揺動しながら内接噛合する内歯歯車24と、を備える。
【0018】
以下、該減速装置G1の概略構成から説明する。
【0019】
主に、図1を参照して、減速装置G1の入力軸16は、スプライン18を介して図示せぬモータと連結されている。入力軸16には、3個の第1〜第3偏心体11〜13が一体に形成されている。すなわち、入力軸16は内歯歯車24の軸心Og位置に配置された中央クランクタイプの「偏心体軸」として機能している。
【0020】
第1〜第3偏心体11〜13は、その外周11A〜13Aが入力軸16の軸心(Ogに同じ)に対して偏心している。第1〜第3偏心体11〜13の偏心位相は、120度ずつずれている。
【0021】
したがって、「断面図」という観点では、厳密には、第1〜第3偏心体11〜13の偏心位相は、図1、あるいは図2で描写されているような態様とはならない。しかしながら、ここでは、発明の理解を容易にするために、便宜上第1偏心体11が特定の側(図1、図2の上側)に最も偏心した状態、第3偏心体13がこれと反対側に最も偏心した状態、第2偏心体12がこれらの中間の状態をそれぞれ示すように描写してある。
【0022】
第1〜第3偏心体11〜13と第1〜第3外歯歯車21〜23との間には、第1〜第3偏心体軸受31〜33がそれぞれ配置されている。
【0023】
図2に示されるように、第1〜第3偏心体軸受31〜33は、それぞれ第1〜第3ころ(転動体)41〜43、および該第1〜第3ころ41〜43を支持する第1〜第3リテーナ51〜53とで構成されている。すなわち第1〜第3偏心体軸受31〜33は、専用の内外輪を有していない(第1〜第3偏心体11〜13が内輪、第1〜第3外歯歯車21〜23がそれぞれ外輪の機能を果たしている)。
【0024】
第1〜第3リテーナ51〜53は、その軸方向端面51A〜53Aが軸方向から見てリング状とされ、その内周51B〜53Bおよび外周51C〜53Cとも円形である。なお、この実施形態では、第1〜第3リテーナ51〜53の内周51B〜53Bの内径は全てD1、外周51C〜53Cの外径は全てd1に設定されている。
【0025】
第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向の移動規制は、一対の第1、第2ストッパ(規制部材)61、62によって第1〜第3偏心体軸受31〜33を全体として挟み込むことによって行われている(各偏心体軸受31〜33相互の位置規制は、互いのリテーナ51〜53同士の接触で行われている)。第1、第2ストッパ61、62およびその近傍の構成については、後に詳述する。
【0026】
図1に戻って、前記内歯歯車24は、内歯を構成する円柱状の内歯ピン26と、該内歯ピン26を支持するピン溝28Aを有する内歯歯車本体28とで構成されている。内歯歯車本体28は、ケーシング30と一体化されている。この実施形態では、ケーシング30は、ボルト孔34に挿通される図示せぬボルトを介して外部の固定部材(図示略)に固定されている。内歯歯車24の内歯の数(内歯ピン26の数)は、第1〜第3外歯歯車21〜23の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0027】
第1〜第3外歯歯車21〜23には、第1〜第3貫通孔21A〜23Aが、それぞれ第1〜第3外歯歯車21〜23の軸心O1〜O3から等距離の位置に、周方向において複数形成されている。該第1〜第3貫通孔21A〜23Aには摺動促進体36の被せられた内ピン38が隙間を有して嵌合している。
【0028】
第1〜第3外歯歯車21〜23の軸方向両側には、第1、第2キャリヤ体71、72が配置されている。第1、第2キャリヤ体71、72は、第1、第2玉軸受81、82を介して入力軸16を支持するとともに、主軸受(アンギュラ玉軸受)54、56を介してケーシング30に支持されている。第1、第2玉軸受81、82は、その内輪81A、82Aが、これから説明する第1、第2ストッパ(規制部材)61、62を段部16A、16Bとの間に挟んだ状態で入力軸16に圧入されている。第1、第2玉軸受81、82の外輪81B、82Bは、第1、第2キャリヤ体71、72の段部71A、72Aにて位置規制されている。
【0029】
前記内ピン38は、第2キャリヤ体72と一体化されている。第2キャリヤ体72は、内ピン38およびボルト58を介して第1キャリヤ体71と連結されている。第2キャリヤ体72は、ボルト穴59を利用して図示せぬ相手機械の被駆動体と連結されている。
【0030】
ここで、図2および図3を参照して、第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向の移動規制を行う第1、第2ストッパ(規制部材)61、62の構成について詳細に説明する。
【0031】
図2は、第1、第2ストッパ61、62を含む第1〜第3偏心体軸受31〜33の近傍、図3は、第1ストッパ61の図2の矢視III部分の近傍をそれぞれ示している。
【0032】
第1ストッパ61は、入力軸16の段部16Aと第1玉軸受81との間に配置され、第1偏心体軸受31の第1ころ41の第1リテーナ51が第1キャリヤ体71側へ軸方向に移動するのを規制している。第2ストッパ62は、入力軸16の段部16Bと第2玉軸受82との間に配置され、第3偏心体軸受33の第3ころ43の第3リテーナ53が第2キャリヤ体72側へ軸方向に移動するのを規制している。なお、前述したように、第2偏心体軸受32は、第1偏心体軸受31の第1リテーナ51と第3偏心体軸受33の第3リテーナ53の間に自身の第2リテーナ52が挟まれることで位置決めされる。
【0033】
第1、第2ストッパ61、62は、第1〜第3偏心体軸受31〜33に対して対称に組み込まれているが、部材としては全く同一の部材である。そのため、便宜上、図3では第2ストッパ62側の対応する符号を( )書きで並べて記載してある。
【0034】
第1、第2ストッパ61、62は、それぞれ、半径方向内側から、被挟持部61A、62A、規制部61B、62B、案内部61C、62C、および延長案内部61D、62Dを有している。
【0035】
第1、第2ストッパ61、62の被挟持部61A、62Aは、軸方向から見てそれぞれリング状の平面で構成されている。各被挟持部61A、62Aは、各規制部61B、62Bから見ると、その半径方向内側位置にあり、且つ該規制部61B、62Bに対して軸方向反偏心体軸受側にシフト幅Δ1、Δ2だけそれぞれシフトしている。第1ストッパ61の被挟持部61Aは、入力軸16の段部16Aと第1玉軸受81の内輪81Aに挟まれることで入力軸16上の段部16Aの側部に当接・位置決めされ、結果として第1ストッパ61自体の入力軸16に対する位置を確定している。第2ストッパ62の被挟持部62Aは、入力軸16の段部16Bと第2玉軸受82の内輪82Aに挟まれることで入力軸16上の段部16Bの側部に当接・位置決めされ、結果として第2ストッパ62自体の入力軸16に対する位置を確定している。
【0036】
第1、第2ストッパ61、62の規制部61B、62Bは、それぞれ被挟持部61A、62Aから連続して該被挟持部61A、62Aの半径方向外側に形成されている。各規制部61B、62Bは、軸方向から見てリング状の平面で構成され、該リング状の内周61B1、62B1および外周61B2、62B2とも円形である。
【0037】
第1ストッパ61の規制部61Bは、その周方向の一部(図4の符号B1の範囲:後述)が、第1偏心体軸受31の第1リテーナ51の軸方向端面51Aと当接するとともに、周方向の他の一部(図4の符号A1の範囲:後述)が、該第1リテーナ51の軸方向端面51Aと当接しないように、(第1リテーナ51の内周51Bの内径D1に対し)外周61B2の外径d2が設定されている。
【0038】
第2ストッパ62は、前述したように、第1ストッパ61と同一の部材が使用されている。すなわち、該第2ストッパ62の規制部62Bは、その周方向の一部が第3偏心体軸受33の第3リテーナ53の軸方向端面53Aと当接するとともに、周方向の他の一部が該第3リテーナ53の軸方向端面53Aと当接しないように、(第3リテーナ53の内周53Bの内径D1に対し)外周62B2の外径d2が設定されている。
【0039】
この各径の設定により、第1リテーナ51の軸方向端面51Aと第1ストッパ61の規制部61Bとの間、第3リテーナ53の軸方向端面53Aと第2ストッパ62の規制部62Bとの間に、それぞれ、最大で、半径方向に隙間ΔS1、ΔS2が生じるようになる。この作用については、後に図4を用いて詳細に説明する。
【0040】
第1、第2ストッパ61、62の案内部61C、62Cは、それぞれ規制部61B、62Bの径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に角度α1、α2だけ傾斜している。この結果、案内部61C、62Cの上端61C1、62C1では、第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aとの間に軸方向隙間δ1、δ2が生じている。
【0041】
なお、この実施形態では、案内部61C、62Cの更に半径方向外側に入力軸16と直角に延長案内部61D、62Dが連続して形成されている。この傾斜した案内部61C、62Cに続いて延長案内部61D、62Dが形成されている構成により、第1、第2ストッパ61、62は、結果として規制部61B、62Bが、被挟持部61A、62Aおよび延長案内部61D、62Dから軸方向リテーナ側に突出した形状とされており、該規制部61B、62Bが、第1、第2ストッパ61、62の「補強部」として機能している。しかし、本発明においては、この延長案内部61D、62Dは、必ずしもなくてもよい。
【0042】
次に、この偏心揺動型の減速装置の作用を説明する。
【0043】
図示せぬモータの回転によって入力軸16が回転すると、第1〜第3偏心体11〜13が一体に回転し、第1〜第3偏心体軸受31〜33を介して第1〜第3外歯歯車21〜23が相互に120度の位相角を維持しながら揺動する。すると、第1〜第3外歯歯車21〜23と内歯歯車24との噛合位置が順次ずれてゆき、第1〜第3偏心体11〜13が1回回転するごとに、第1〜第3外歯歯車21〜23は、内歯歯車24に対して歯数差「1」に相当する分だけ相対回転する(自転する)。
【0044】
この自転成分が内ピン38(および摺動促進体36)を介して第1、第2キャリヤ体71、72に伝達され、更にボルト穴59を利用して連結されている図示せぬ被駆動体に伝達される。これにより、該被駆動体が減速された速度で回転する。
【0045】
ここで、第1〜第3偏心体軸受31〜33は、一対の第1、第2ストッパ61、62の規制部61B、62Bに挟まれることによって入力軸16に対する軸方向の移動が規制される。すなわち、第1ストッパ61は、その被挟持部61Aが入力軸16の段部16Aと第1玉軸受81との間に配置され、第1偏心体軸受31の第1ころ41の第1リテーナ51が第1キャリヤ体71側へ軸方向に移動するのを規制している。第2ストッパ62は、入力軸16の段部16Bと第2玉軸受82との間に配置され、第3偏心体軸受33の第3ころ43の第3リテーナ53が第2キャリヤ体72側へ軸方向に移動するのを規制している。
【0046】
但し、規制部61B、62Bは、その周方向全体が第1リテーナ51、或は第3リテーナ53の軸方向端面51A、53Aに当接しているわけではなく、周方向の一部のみが当接しており、周方向の他の一部は当接していない。
【0047】
図4、図5を参照しながら、この作用について詳細に説明する。
【0048】
図4は、第1偏心体軸受31の第1リテーナ51と第1ストッパ61の規制部61Bとの接触、非接触状態を第1ストッパ61の側から第1リテーナ51を見たものである。該第1リテーナ51が第1ストッパ61の規制部61Bと接触している部分が網掛けH1で示されている。
【0049】
図5は、同じ接触、非接触状態を、第1リテーナ51の側から第1ストッパ61を見たものである。該第1ストッパ61の規制部61Bが第1リテーナ51と接触している部分が網掛けH2で示されている。なお、図示は省略するが、第2ストッパ62側も偏心位相がずれているだけで、全く同様の作用効果が得られる。
【0050】
第1リテーナ51の内周51Bと第1ストッパ61の規制部61Bの外周61B2は、共に円形である。そして、規制部61Bの周方向の一部(符号B1の周方向範囲)が、第1偏心体11の最小偏心側(第1偏心体11の外周11Aが最も入力軸(偏心体軸)16の軸心Ogに近づいている側)で前記第1リテーナ51と当接し、かつ該規制部61Bの周方向の他の一部(符号A1の範囲)が、第1偏心体11の最大偏心側(第1偏心体11の外周11Aが最も入力軸(偏心体軸)16の軸心Ogから遠ざかっている側)で第1リテーナ51と当接しない大きさに、第1リテーナ51の内周51Bの内径D1と第1ストッパ61の規制部61Bの外周の外径d2が設定されている。
【0051】
このため、第1リテーナ51は、図4の網掛けH1を施した第1偏心体11の最小偏心側における周方向の一部のみ(図4で符号B1で示した周方向範囲のみ)が第1ストッパ61と接触し、ここで第1偏心体軸受31の軸方向第1キャリヤ体71側への移動規制が行われる。一方、第1偏心体11の最大偏心側においては、規制部61Bの外周61B2が、第1リテーナ51の内周51Bにまで届いておらず、したがって、最大偏心側(図3の偏心位置、図4の上側)において隙間ΔS1が生じており、この隙間ΔS1を活用して潤滑剤が出入りすることができる。
【0052】
換言するならば、従来は、「偏心体軸受の軸方向移動を規制する規制部材は、偏心体の最小偏心側は勿論、最大偏心側においても確実にリテーナに接触していなければならない。」と考えられてきたが、本実施形態では、この思想を抜本的に見直し、偏心体軸受の偏心体軸の軸心からの距離が変化することを、逆に潤滑性の向上に利用するようにしたものである。
【0053】
また、図2、図3に示されるように、第1、第2ストッパ61、62の案内部61C、62Cは、それぞれ規制部61B、62Bの径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に角度α1、α2だけ傾斜している。この結果、該案内部61C、62Cの上端61C1、62C1では、第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aとの間に隙間δ1、δ2が軸方向に生じている。したがって、第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aが、規制部61B、62Bと非接触の状態から接触の状態に移行するときに、いわゆる「かじり現象」が発生しない。従って第1、第2ストッパ61、62の製造に当たってかじり現象防止用の別途の加工等を必要とせず、低コストな製造が可能である。
【0054】
なお、この案内部61C、62Cの傾斜は、第1、第3リテーナ51、53と規制部61B、62Bとが、相対的に半径方向に往復動するときに、潤滑剤をより円滑に出入りさせる「潤滑剤の案内」としても機能する。
【0055】
さらに、本実施形態では、案内部61C、62Cの半径方向外側に、延長案内部61D、62Dが形成されている。このため、結果として規制部61B、62Bが被挟持部61A、62Aおよび延長案内部61D、62Dから軸方向に突出した形状とされており、該規制部61B、62Bが、第1、第2ストッパ61、62の「補強部」として機能している。したがって、第1、第2ストッパ61、62全体の強度が高く、第1〜第3偏心体軸受31〜33の移動規制を安定して行うことができる。
【0056】
また、被挟持部61A、62Aが、規制部61B、62Bに対して軸方向反偏心体軸受側にシフトされているため、さらには、延長案内部61D、62Dの反偏心体軸受側面より、被挟持部61A、62Aの反偏心体軸受側面の方が、軸方向反偏心体軸受側にシフトしているので、規制部61B、62Bに対して案内部61C、62Cや延長案内部61D、62Dが軸方向反偏心体軸受側にシフトして形成されていても、該案内部61C、62Cや延長案内部61D、62Dが、第1、第2玉軸受81、82の外輪と干渉するのを確実に防止できる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向の移動を規制するための第1、第2ストッパ61、62を、第1〜第3偏心体軸受31〜33に対する潤滑性を高く維持しながら、低コストに製造することができる。
【0058】
なお、上記実施形態においては、規制部61B、62Bの周方向の一部が、第1、第3偏心体11、13の最小偏心側で第1、第3リテーナ51、53と当接し、かつ該規制部61B、62Bの周方向の他の一部が、第1、第3偏心体11、13の最大偏心側で第1、第3リテーナ51、53と当接しないように構成していた。
【0059】
しかしながら、本発明は、要は、偏心体の動きに応じて、ストッパの規制部の周方向の一部がリテーナの軸方向端面と当接して前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制するとともに、周方向の他の一部が該リテーナの軸方向端面と当接しない構成とされていれば、この当接していない部分から、潤滑剤の出入りを許容することができ、所期の目的を達成することができる。
【0060】
図6〜図8に本発明の他の実施形態に係る偏心揺動型の減速装置の一例を示す。
【0061】
図6は、要部断面図、図7は、第1偏心体軸受131の第1リテーナ151と第1ストッパ161の規制部161Bとの接触、非接触状態を第1ストッパ161の側から第1リテーナ151を見たものである。該第1リテーナ151が第1ストッパ161の規制部161Bと接触している部分が網掛けH3で示されている。
【0062】
図8は、同じ接触、非接触状態を、第1リテーナ151の側から第1ストッパ161を見たものである。該第1ストッパ161の規制部161Bが第1リテーナ151と接触している部分が網掛けH4で示されている。なお、図示は省略するが、第2ストッパ162側も偏心位相がずれているだけで、全く同様の作用効果が得られる。
【0063】
この減速装置においては、第1、第2ストッパ161、162の規制部161B、162Bの外周161B2が第1、第3偏心体軸受131、133の第1、第3リテーナ151、153の内周151B、153Bから外れることがない。
【0064】
しかし、第1、第3リテーナ151、153の内周151B、153Bに、周方向において複数(この例では18個)の凹部151F、153Fが軸方向に沿って形成されている。図7の網掛けH3の部分が、第1ストッパ161の規制部161Bとの接触部分、図8の網掛けH4の部分が規制部161Bの第1リテーナ151との接触部分をそれぞれ示している。なお、第1〜第3リテーナ151〜153は、樹脂製であり、凹部151F〜153Fは、第1〜第3リテーナ151〜153の成形時に同時に成形される。
【0065】
この実施形態では、第1ストッパ161の規制部161Bの周方向の一部が、第1リテーナ151の軸方向端面151Aの凹部151F以外の部分と当接して第1偏心体軸受131の軸方向の移動を規制している。また、(第1リテーナ151の軸方向端面151Aの凹部151Fに対応する)周方向の他の一部は、該第1リテーナ151の軸方向端面151Aと当接していない。
【0066】
このため、第1偏心体111の最大偏心側において、第1リテーナ151の各凹部151Fのうち、規制部161Bの外周161B2よりも半径方向外側に露出する部分P1においては、第1リテーナ151の規制部161B側と第1ころ141側が連通する。また、第1偏心体111の最小偏心側において、第1リテーナ151の各凹部151Fのうち、規制部161Bの内周161B1よりも半径方向内側に露出する部分P2においても、第1リテーナ151の規制部161B側と第1ころ141側が連通する。
【0067】
これにより、第1リテーナ151の軸方向端面151Aに第1ストッパ161が(凹部151F以外の部分で)接触して該第1リテーナ151の軸方向の移動を規制しながら、同時に、第1リテーナ151の各凹部151Fのうち、規制部161Bの外周161B2よりも半径方向外側に露出する部分P1および規制部161Bの内周161B1よりも半径方向内側に露出する部分P2においては、第1リテーナ151の規制部161B側と第1ころ141側の間で潤滑剤を移動させることができる。
【0068】
この実施形態に係る構成は、先の実施形態のように、周方向の全範囲において、半径方向のいずれかの部分で第1リテーナ151の移動を第1ストッパ161にて規制できるため、より安定した移動規制が可能である。潤滑剤の出入り可能な範囲は、形成する凹部の大きさや形状を変えることで調整することができる。第1リテーナ151は、樹脂製であるため、凹部151Fは、金型により第1リテーナ151の成形時に同時に形成することができるため、コストの上昇は殆どない。
【0069】
第2ストッパ162側も全く同様の作用効果が得られる。その他の構成については、先の実施形態と同様であるため、同一または機能的に類似する部分に図中で下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明は省略する。
【0070】
なお、偏心揺動型の減速装置G1には、上述したような中央クランクタイプの減速機G1以外に、例えば、振り分けタイプと称される構造の減速装置も知られているが、同様に本発明を適用可能である。
【0071】
このタイプの偏心揺動型の減速装置でも、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える点は共通である。しかし、1枚の外歯歯車を先の実施形態では内歯歯車の軸心位置に配置した1個の偏心体で揺動させていたが、このタイプの減速装置では、外歯歯車の軸心からオフセットされた位置に複数(通常3本程度)の偏心体軸を備え、各偏心体軸に設けられた偏心体を同時にかつ同方向に同期して回転させることによって1枚の外歯歯車を揺動させる。このような偏心揺動型の減速装置にあっても、各偏心体軸の偏心体と外歯歯車の間には偏心体軸受が配置されており、その転動体(ころ、あるいはニードル)と該転動体を支持するリテーナの軸方向の移動規制に、上記実施形態と同様の構成を有するストッパ(規制部材)採用することができる。
【0072】
なお、上記実施形態においては、(発明の理解の便宜上)規制部材(第1、第2ストッパ)を直線状の外形で形成し、各部の境界を明確化していたが、本発明に係る規制部材は、外形を必ずしも直線状で形成する必要はなく、少なくとも本発明に係る規制部と案内部の「存在」が明確であればよく、各部の「境界」は、必ずしも明確である必要はない。
【0073】
また、既に述べたように、本発明においては、上記実施形態で設けられていた延長案内部は、必ずしもなくてもよい。
【0074】
また、被挟持部についても、上記実施形態においては、規制部から軸方向にシフトさせることにより、第1、第2玉軸受の外輪と、案内部や延長案内部が干渉するのを防止するようにしていたが、例えば、第1、第2玉軸受81、82の内輪81A、82Aとの間にスペーサを配置したり、第1、第2軸受として内輪と外輪がもともとシフトしているようなテーパドローラ軸受を採用したりするなど、他の方法で前記干渉の問題が解消できる場合は、必ずしも被挟持部を規制部からシフトさせる必要はない。すなわち、規制部材の被挟持部は、要は、規制部材の規制部を偏心体軸受のリテーナの軸方向端面に対して位置決めできればよく、例えば、規制部の半径方向内側が、そのまま被挟持部を兼用するような構成であってもよいし、必ずしも偏心体軸と直角に延在している必要もない。
【符号の説明】
【0075】
11、12、13…第1〜第3偏心体
16…入力軸
21、22、23…第1〜第3外歯歯車
24…内歯歯車
31、32、33…第1〜第3偏心体軸受
41、42、43…第1〜第3ころ
51、52、53…第1〜第3リテーナ
61、62…第1、第2ストッパ(規制部材)
61A、62A…被挟持部
61B、62B…規制部
61C、62C…案内部
61D、62D…延長案内部
71、72…第1、第2キャリヤ体
81、82…第1、第2玉軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える。内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯は、その歯数差が「1」に設定され、外歯歯車が内歯歯車の内側で揺動した際に、該歯数差に応じて生じる内歯歯車と外歯歯車との相対回転を取り出す構成とされている。
【0004】
偏心体と外歯歯車との間には、偏心体軸受が配置されている。偏心体軸受は、針状ころ(転動体)および該針状ころを支持するリテーナとで構成され、専用の内外輪を有していない。そのため、該偏心体軸受を軸方向に規制するためのワッシャ(規制部材)がリテーナの軸方向端面に当接するように配置されている。
【0005】
ワッシャは、偏心体軸受の軸方向移動を規制するという機能を果たすために、偏心体がいかなる偏心状態にあるときであっても、常時リテーナの軸方向端面に密着している。その結果、針状ころが存在する空間は、外歯歯車の内周、偏心体の外周、リテーナ、およびワッシャにより、ほぼ密閉された空間となっている。したがって、潤滑油の供給がなされにくいため、針状ころ周辺の潤滑油が劣化し易い、という問題があった。
【0006】
特許文献1においては、この問題に対し、このほぼ密閉された空間に潤滑油をより円滑に供給するために、ワッシャに軸方向に貫通する貫通孔を複数形成する構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−230171号公報(段落[0023]、[0035]、[図6]、[図7])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献1において開示されている構成は、貫通孔の形成にコストが掛かるという問題があった。すなわち、ワッシャは、リテーナと密着しながら摺動するものであることから、貫通孔の周囲に「バリ」等が残っていると、いわゆる「かじり現象」が発生し、リテーナが損傷してしまう恐れがある。これを回避するには、ワッシャの貫通孔は、単に形成するだけでなく、周囲の「バリ」を除去するための何らかの加工処理を付随して行う必要がある。そのため、結果としてコストが掛かるという問題があったものである。
【0009】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持することが可能な偏心揺動型の減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置され、転動体および該転動体を支持するリテーナを有する偏心体軸受と、該偏心体軸受の軸方向移動を規制する規制部材と、を備え、前記規制部材は、周方向の一部が前記リテーナの軸方向端面と当接して前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制するとともに周方向の他の一部が該リテーナの軸方向端面と当接しない規制部と、該規制部の径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に傾斜している案内部と、を有している構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0011】
本発明では、規制部材の規制部の周方向の一部はリテーナの軸方向端面と当接して偏心体軸受の軸方向の移動を規制するが、周方向の他の一部は該リテーナの軸方向端面と当接していない。そのため、この当接していない部分を潤滑油の出入りを許容する通路として活用することができる。
【0012】
一方、本発明では、前記規制部の外側に、軸方向反偏心体軸受側に傾斜した案内部を備える。このため、この案内部の機能により、規制部とリテーナとの接触、非接触の境界が偏心体の偏心態様により変化しても、いわゆる「かじり現象」は発生しない。したがって、「バリ」を取る作業を別途行う必要もなく、規制部材を低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体断面図
【図2】図1の減速装置の要部断面図
【図3】図1の減速装置の規制部材付近の構成を示す拡大断面図
【図4】図1の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態を規制部材の側から見た説明図
【図5】図1の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態をリテーナの側から見た説明図
【図6】本発明の他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の要部断面図
【図7】図6の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態を規制部材の側から見た説明図
【図8】図6の減速装置の規制部材とリテーナとの接触状態をリテーナの側から見た説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体断面図、図2は、その要部断面図、図3は、ストッパ(規制部材)付近の構成を示す拡大断面図である。
【0017】
この偏心揺動型の減速装置G1は、第1〜第3偏心体11〜13によって揺動する第1〜第3外歯歯車21〜23と、該第1〜第3外歯歯車21〜23が揺動しながら内接噛合する内歯歯車24と、を備える。
【0018】
以下、該減速装置G1の概略構成から説明する。
【0019】
主に、図1を参照して、減速装置G1の入力軸16は、スプライン18を介して図示せぬモータと連結されている。入力軸16には、3個の第1〜第3偏心体11〜13が一体に形成されている。すなわち、入力軸16は内歯歯車24の軸心Og位置に配置された中央クランクタイプの「偏心体軸」として機能している。
【0020】
第1〜第3偏心体11〜13は、その外周11A〜13Aが入力軸16の軸心(Ogに同じ)に対して偏心している。第1〜第3偏心体11〜13の偏心位相は、120度ずつずれている。
【0021】
したがって、「断面図」という観点では、厳密には、第1〜第3偏心体11〜13の偏心位相は、図1、あるいは図2で描写されているような態様とはならない。しかしながら、ここでは、発明の理解を容易にするために、便宜上第1偏心体11が特定の側(図1、図2の上側)に最も偏心した状態、第3偏心体13がこれと反対側に最も偏心した状態、第2偏心体12がこれらの中間の状態をそれぞれ示すように描写してある。
【0022】
第1〜第3偏心体11〜13と第1〜第3外歯歯車21〜23との間には、第1〜第3偏心体軸受31〜33がそれぞれ配置されている。
【0023】
図2に示されるように、第1〜第3偏心体軸受31〜33は、それぞれ第1〜第3ころ(転動体)41〜43、および該第1〜第3ころ41〜43を支持する第1〜第3リテーナ51〜53とで構成されている。すなわち第1〜第3偏心体軸受31〜33は、専用の内外輪を有していない(第1〜第3偏心体11〜13が内輪、第1〜第3外歯歯車21〜23がそれぞれ外輪の機能を果たしている)。
【0024】
第1〜第3リテーナ51〜53は、その軸方向端面51A〜53Aが軸方向から見てリング状とされ、その内周51B〜53Bおよび外周51C〜53Cとも円形である。なお、この実施形態では、第1〜第3リテーナ51〜53の内周51B〜53Bの内径は全てD1、外周51C〜53Cの外径は全てd1に設定されている。
【0025】
第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向の移動規制は、一対の第1、第2ストッパ(規制部材)61、62によって第1〜第3偏心体軸受31〜33を全体として挟み込むことによって行われている(各偏心体軸受31〜33相互の位置規制は、互いのリテーナ51〜53同士の接触で行われている)。第1、第2ストッパ61、62およびその近傍の構成については、後に詳述する。
【0026】
図1に戻って、前記内歯歯車24は、内歯を構成する円柱状の内歯ピン26と、該内歯ピン26を支持するピン溝28Aを有する内歯歯車本体28とで構成されている。内歯歯車本体28は、ケーシング30と一体化されている。この実施形態では、ケーシング30は、ボルト孔34に挿通される図示せぬボルトを介して外部の固定部材(図示略)に固定されている。内歯歯車24の内歯の数(内歯ピン26の数)は、第1〜第3外歯歯車21〜23の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0027】
第1〜第3外歯歯車21〜23には、第1〜第3貫通孔21A〜23Aが、それぞれ第1〜第3外歯歯車21〜23の軸心O1〜O3から等距離の位置に、周方向において複数形成されている。該第1〜第3貫通孔21A〜23Aには摺動促進体36の被せられた内ピン38が隙間を有して嵌合している。
【0028】
第1〜第3外歯歯車21〜23の軸方向両側には、第1、第2キャリヤ体71、72が配置されている。第1、第2キャリヤ体71、72は、第1、第2玉軸受81、82を介して入力軸16を支持するとともに、主軸受(アンギュラ玉軸受)54、56を介してケーシング30に支持されている。第1、第2玉軸受81、82は、その内輪81A、82Aが、これから説明する第1、第2ストッパ(規制部材)61、62を段部16A、16Bとの間に挟んだ状態で入力軸16に圧入されている。第1、第2玉軸受81、82の外輪81B、82Bは、第1、第2キャリヤ体71、72の段部71A、72Aにて位置規制されている。
【0029】
前記内ピン38は、第2キャリヤ体72と一体化されている。第2キャリヤ体72は、内ピン38およびボルト58を介して第1キャリヤ体71と連結されている。第2キャリヤ体72は、ボルト穴59を利用して図示せぬ相手機械の被駆動体と連結されている。
【0030】
ここで、図2および図3を参照して、第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向の移動規制を行う第1、第2ストッパ(規制部材)61、62の構成について詳細に説明する。
【0031】
図2は、第1、第2ストッパ61、62を含む第1〜第3偏心体軸受31〜33の近傍、図3は、第1ストッパ61の図2の矢視III部分の近傍をそれぞれ示している。
【0032】
第1ストッパ61は、入力軸16の段部16Aと第1玉軸受81との間に配置され、第1偏心体軸受31の第1ころ41の第1リテーナ51が第1キャリヤ体71側へ軸方向に移動するのを規制している。第2ストッパ62は、入力軸16の段部16Bと第2玉軸受82との間に配置され、第3偏心体軸受33の第3ころ43の第3リテーナ53が第2キャリヤ体72側へ軸方向に移動するのを規制している。なお、前述したように、第2偏心体軸受32は、第1偏心体軸受31の第1リテーナ51と第3偏心体軸受33の第3リテーナ53の間に自身の第2リテーナ52が挟まれることで位置決めされる。
【0033】
第1、第2ストッパ61、62は、第1〜第3偏心体軸受31〜33に対して対称に組み込まれているが、部材としては全く同一の部材である。そのため、便宜上、図3では第2ストッパ62側の対応する符号を( )書きで並べて記載してある。
【0034】
第1、第2ストッパ61、62は、それぞれ、半径方向内側から、被挟持部61A、62A、規制部61B、62B、案内部61C、62C、および延長案内部61D、62Dを有している。
【0035】
第1、第2ストッパ61、62の被挟持部61A、62Aは、軸方向から見てそれぞれリング状の平面で構成されている。各被挟持部61A、62Aは、各規制部61B、62Bから見ると、その半径方向内側位置にあり、且つ該規制部61B、62Bに対して軸方向反偏心体軸受側にシフト幅Δ1、Δ2だけそれぞれシフトしている。第1ストッパ61の被挟持部61Aは、入力軸16の段部16Aと第1玉軸受81の内輪81Aに挟まれることで入力軸16上の段部16Aの側部に当接・位置決めされ、結果として第1ストッパ61自体の入力軸16に対する位置を確定している。第2ストッパ62の被挟持部62Aは、入力軸16の段部16Bと第2玉軸受82の内輪82Aに挟まれることで入力軸16上の段部16Bの側部に当接・位置決めされ、結果として第2ストッパ62自体の入力軸16に対する位置を確定している。
【0036】
第1、第2ストッパ61、62の規制部61B、62Bは、それぞれ被挟持部61A、62Aから連続して該被挟持部61A、62Aの半径方向外側に形成されている。各規制部61B、62Bは、軸方向から見てリング状の平面で構成され、該リング状の内周61B1、62B1および外周61B2、62B2とも円形である。
【0037】
第1ストッパ61の規制部61Bは、その周方向の一部(図4の符号B1の範囲:後述)が、第1偏心体軸受31の第1リテーナ51の軸方向端面51Aと当接するとともに、周方向の他の一部(図4の符号A1の範囲:後述)が、該第1リテーナ51の軸方向端面51Aと当接しないように、(第1リテーナ51の内周51Bの内径D1に対し)外周61B2の外径d2が設定されている。
【0038】
第2ストッパ62は、前述したように、第1ストッパ61と同一の部材が使用されている。すなわち、該第2ストッパ62の規制部62Bは、その周方向の一部が第3偏心体軸受33の第3リテーナ53の軸方向端面53Aと当接するとともに、周方向の他の一部が該第3リテーナ53の軸方向端面53Aと当接しないように、(第3リテーナ53の内周53Bの内径D1に対し)外周62B2の外径d2が設定されている。
【0039】
この各径の設定により、第1リテーナ51の軸方向端面51Aと第1ストッパ61の規制部61Bとの間、第3リテーナ53の軸方向端面53Aと第2ストッパ62の規制部62Bとの間に、それぞれ、最大で、半径方向に隙間ΔS1、ΔS2が生じるようになる。この作用については、後に図4を用いて詳細に説明する。
【0040】
第1、第2ストッパ61、62の案内部61C、62Cは、それぞれ規制部61B、62Bの径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に角度α1、α2だけ傾斜している。この結果、案内部61C、62Cの上端61C1、62C1では、第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aとの間に軸方向隙間δ1、δ2が生じている。
【0041】
なお、この実施形態では、案内部61C、62Cの更に半径方向外側に入力軸16と直角に延長案内部61D、62Dが連続して形成されている。この傾斜した案内部61C、62Cに続いて延長案内部61D、62Dが形成されている構成により、第1、第2ストッパ61、62は、結果として規制部61B、62Bが、被挟持部61A、62Aおよび延長案内部61D、62Dから軸方向リテーナ側に突出した形状とされており、該規制部61B、62Bが、第1、第2ストッパ61、62の「補強部」として機能している。しかし、本発明においては、この延長案内部61D、62Dは、必ずしもなくてもよい。
【0042】
次に、この偏心揺動型の減速装置の作用を説明する。
【0043】
図示せぬモータの回転によって入力軸16が回転すると、第1〜第3偏心体11〜13が一体に回転し、第1〜第3偏心体軸受31〜33を介して第1〜第3外歯歯車21〜23が相互に120度の位相角を維持しながら揺動する。すると、第1〜第3外歯歯車21〜23と内歯歯車24との噛合位置が順次ずれてゆき、第1〜第3偏心体11〜13が1回回転するごとに、第1〜第3外歯歯車21〜23は、内歯歯車24に対して歯数差「1」に相当する分だけ相対回転する(自転する)。
【0044】
この自転成分が内ピン38(および摺動促進体36)を介して第1、第2キャリヤ体71、72に伝達され、更にボルト穴59を利用して連結されている図示せぬ被駆動体に伝達される。これにより、該被駆動体が減速された速度で回転する。
【0045】
ここで、第1〜第3偏心体軸受31〜33は、一対の第1、第2ストッパ61、62の規制部61B、62Bに挟まれることによって入力軸16に対する軸方向の移動が規制される。すなわち、第1ストッパ61は、その被挟持部61Aが入力軸16の段部16Aと第1玉軸受81との間に配置され、第1偏心体軸受31の第1ころ41の第1リテーナ51が第1キャリヤ体71側へ軸方向に移動するのを規制している。第2ストッパ62は、入力軸16の段部16Bと第2玉軸受82との間に配置され、第3偏心体軸受33の第3ころ43の第3リテーナ53が第2キャリヤ体72側へ軸方向に移動するのを規制している。
【0046】
但し、規制部61B、62Bは、その周方向全体が第1リテーナ51、或は第3リテーナ53の軸方向端面51A、53Aに当接しているわけではなく、周方向の一部のみが当接しており、周方向の他の一部は当接していない。
【0047】
図4、図5を参照しながら、この作用について詳細に説明する。
【0048】
図4は、第1偏心体軸受31の第1リテーナ51と第1ストッパ61の規制部61Bとの接触、非接触状態を第1ストッパ61の側から第1リテーナ51を見たものである。該第1リテーナ51が第1ストッパ61の規制部61Bと接触している部分が網掛けH1で示されている。
【0049】
図5は、同じ接触、非接触状態を、第1リテーナ51の側から第1ストッパ61を見たものである。該第1ストッパ61の規制部61Bが第1リテーナ51と接触している部分が網掛けH2で示されている。なお、図示は省略するが、第2ストッパ62側も偏心位相がずれているだけで、全く同様の作用効果が得られる。
【0050】
第1リテーナ51の内周51Bと第1ストッパ61の規制部61Bの外周61B2は、共に円形である。そして、規制部61Bの周方向の一部(符号B1の周方向範囲)が、第1偏心体11の最小偏心側(第1偏心体11の外周11Aが最も入力軸(偏心体軸)16の軸心Ogに近づいている側)で前記第1リテーナ51と当接し、かつ該規制部61Bの周方向の他の一部(符号A1の範囲)が、第1偏心体11の最大偏心側(第1偏心体11の外周11Aが最も入力軸(偏心体軸)16の軸心Ogから遠ざかっている側)で第1リテーナ51と当接しない大きさに、第1リテーナ51の内周51Bの内径D1と第1ストッパ61の規制部61Bの外周の外径d2が設定されている。
【0051】
このため、第1リテーナ51は、図4の網掛けH1を施した第1偏心体11の最小偏心側における周方向の一部のみ(図4で符号B1で示した周方向範囲のみ)が第1ストッパ61と接触し、ここで第1偏心体軸受31の軸方向第1キャリヤ体71側への移動規制が行われる。一方、第1偏心体11の最大偏心側においては、規制部61Bの外周61B2が、第1リテーナ51の内周51Bにまで届いておらず、したがって、最大偏心側(図3の偏心位置、図4の上側)において隙間ΔS1が生じており、この隙間ΔS1を活用して潤滑剤が出入りすることができる。
【0052】
換言するならば、従来は、「偏心体軸受の軸方向移動を規制する規制部材は、偏心体の最小偏心側は勿論、最大偏心側においても確実にリテーナに接触していなければならない。」と考えられてきたが、本実施形態では、この思想を抜本的に見直し、偏心体軸受の偏心体軸の軸心からの距離が変化することを、逆に潤滑性の向上に利用するようにしたものである。
【0053】
また、図2、図3に示されるように、第1、第2ストッパ61、62の案内部61C、62Cは、それぞれ規制部61B、62Bの径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に角度α1、α2だけ傾斜している。この結果、該案内部61C、62Cの上端61C1、62C1では、第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aとの間に隙間δ1、δ2が軸方向に生じている。したがって、第1、第3リテーナ51、53の軸方向端面51A、53Aが、規制部61B、62Bと非接触の状態から接触の状態に移行するときに、いわゆる「かじり現象」が発生しない。従って第1、第2ストッパ61、62の製造に当たってかじり現象防止用の別途の加工等を必要とせず、低コストな製造が可能である。
【0054】
なお、この案内部61C、62Cの傾斜は、第1、第3リテーナ51、53と規制部61B、62Bとが、相対的に半径方向に往復動するときに、潤滑剤をより円滑に出入りさせる「潤滑剤の案内」としても機能する。
【0055】
さらに、本実施形態では、案内部61C、62Cの半径方向外側に、延長案内部61D、62Dが形成されている。このため、結果として規制部61B、62Bが被挟持部61A、62Aおよび延長案内部61D、62Dから軸方向に突出した形状とされており、該規制部61B、62Bが、第1、第2ストッパ61、62の「補強部」として機能している。したがって、第1、第2ストッパ61、62全体の強度が高く、第1〜第3偏心体軸受31〜33の移動規制を安定して行うことができる。
【0056】
また、被挟持部61A、62Aが、規制部61B、62Bに対して軸方向反偏心体軸受側にシフトされているため、さらには、延長案内部61D、62Dの反偏心体軸受側面より、被挟持部61A、62Aの反偏心体軸受側面の方が、軸方向反偏心体軸受側にシフトしているので、規制部61B、62Bに対して案内部61C、62Cや延長案内部61D、62Dが軸方向反偏心体軸受側にシフトして形成されていても、該案内部61C、62Cや延長案内部61D、62Dが、第1、第2玉軸受81、82の外輪と干渉するのを確実に防止できる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、第1〜第3偏心体軸受31〜33の軸方向の移動を規制するための第1、第2ストッパ61、62を、第1〜第3偏心体軸受31〜33に対する潤滑性を高く維持しながら、低コストに製造することができる。
【0058】
なお、上記実施形態においては、規制部61B、62Bの周方向の一部が、第1、第3偏心体11、13の最小偏心側で第1、第3リテーナ51、53と当接し、かつ該規制部61B、62Bの周方向の他の一部が、第1、第3偏心体11、13の最大偏心側で第1、第3リテーナ51、53と当接しないように構成していた。
【0059】
しかしながら、本発明は、要は、偏心体の動きに応じて、ストッパの規制部の周方向の一部がリテーナの軸方向端面と当接して前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制するとともに、周方向の他の一部が該リテーナの軸方向端面と当接しない構成とされていれば、この当接していない部分から、潤滑剤の出入りを許容することができ、所期の目的を達成することができる。
【0060】
図6〜図8に本発明の他の実施形態に係る偏心揺動型の減速装置の一例を示す。
【0061】
図6は、要部断面図、図7は、第1偏心体軸受131の第1リテーナ151と第1ストッパ161の規制部161Bとの接触、非接触状態を第1ストッパ161の側から第1リテーナ151を見たものである。該第1リテーナ151が第1ストッパ161の規制部161Bと接触している部分が網掛けH3で示されている。
【0062】
図8は、同じ接触、非接触状態を、第1リテーナ151の側から第1ストッパ161を見たものである。該第1ストッパ161の規制部161Bが第1リテーナ151と接触している部分が網掛けH4で示されている。なお、図示は省略するが、第2ストッパ162側も偏心位相がずれているだけで、全く同様の作用効果が得られる。
【0063】
この減速装置においては、第1、第2ストッパ161、162の規制部161B、162Bの外周161B2が第1、第3偏心体軸受131、133の第1、第3リテーナ151、153の内周151B、153Bから外れることがない。
【0064】
しかし、第1、第3リテーナ151、153の内周151B、153Bに、周方向において複数(この例では18個)の凹部151F、153Fが軸方向に沿って形成されている。図7の網掛けH3の部分が、第1ストッパ161の規制部161Bとの接触部分、図8の網掛けH4の部分が規制部161Bの第1リテーナ151との接触部分をそれぞれ示している。なお、第1〜第3リテーナ151〜153は、樹脂製であり、凹部151F〜153Fは、第1〜第3リテーナ151〜153の成形時に同時に成形される。
【0065】
この実施形態では、第1ストッパ161の規制部161Bの周方向の一部が、第1リテーナ151の軸方向端面151Aの凹部151F以外の部分と当接して第1偏心体軸受131の軸方向の移動を規制している。また、(第1リテーナ151の軸方向端面151Aの凹部151Fに対応する)周方向の他の一部は、該第1リテーナ151の軸方向端面151Aと当接していない。
【0066】
このため、第1偏心体111の最大偏心側において、第1リテーナ151の各凹部151Fのうち、規制部161Bの外周161B2よりも半径方向外側に露出する部分P1においては、第1リテーナ151の規制部161B側と第1ころ141側が連通する。また、第1偏心体111の最小偏心側において、第1リテーナ151の各凹部151Fのうち、規制部161Bの内周161B1よりも半径方向内側に露出する部分P2においても、第1リテーナ151の規制部161B側と第1ころ141側が連通する。
【0067】
これにより、第1リテーナ151の軸方向端面151Aに第1ストッパ161が(凹部151F以外の部分で)接触して該第1リテーナ151の軸方向の移動を規制しながら、同時に、第1リテーナ151の各凹部151Fのうち、規制部161Bの外周161B2よりも半径方向外側に露出する部分P1および規制部161Bの内周161B1よりも半径方向内側に露出する部分P2においては、第1リテーナ151の規制部161B側と第1ころ141側の間で潤滑剤を移動させることができる。
【0068】
この実施形態に係る構成は、先の実施形態のように、周方向の全範囲において、半径方向のいずれかの部分で第1リテーナ151の移動を第1ストッパ161にて規制できるため、より安定した移動規制が可能である。潤滑剤の出入り可能な範囲は、形成する凹部の大きさや形状を変えることで調整することができる。第1リテーナ151は、樹脂製であるため、凹部151Fは、金型により第1リテーナ151の成形時に同時に形成することができるため、コストの上昇は殆どない。
【0069】
第2ストッパ162側も全く同様の作用効果が得られる。その他の構成については、先の実施形態と同様であるため、同一または機能的に類似する部分に図中で下2桁が同一の符号を付すに止め、重複説明は省略する。
【0070】
なお、偏心揺動型の減速装置G1には、上述したような中央クランクタイプの減速機G1以外に、例えば、振り分けタイプと称される構造の減速装置も知られているが、同様に本発明を適用可能である。
【0071】
このタイプの偏心揺動型の減速装置でも、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える点は共通である。しかし、1枚の外歯歯車を先の実施形態では内歯歯車の軸心位置に配置した1個の偏心体で揺動させていたが、このタイプの減速装置では、外歯歯車の軸心からオフセットされた位置に複数(通常3本程度)の偏心体軸を備え、各偏心体軸に設けられた偏心体を同時にかつ同方向に同期して回転させることによって1枚の外歯歯車を揺動させる。このような偏心揺動型の減速装置にあっても、各偏心体軸の偏心体と外歯歯車の間には偏心体軸受が配置されており、その転動体(ころ、あるいはニードル)と該転動体を支持するリテーナの軸方向の移動規制に、上記実施形態と同様の構成を有するストッパ(規制部材)採用することができる。
【0072】
なお、上記実施形態においては、(発明の理解の便宜上)規制部材(第1、第2ストッパ)を直線状の外形で形成し、各部の境界を明確化していたが、本発明に係る規制部材は、外形を必ずしも直線状で形成する必要はなく、少なくとも本発明に係る規制部と案内部の「存在」が明確であればよく、各部の「境界」は、必ずしも明確である必要はない。
【0073】
また、既に述べたように、本発明においては、上記実施形態で設けられていた延長案内部は、必ずしもなくてもよい。
【0074】
また、被挟持部についても、上記実施形態においては、規制部から軸方向にシフトさせることにより、第1、第2玉軸受の外輪と、案内部や延長案内部が干渉するのを防止するようにしていたが、例えば、第1、第2玉軸受81、82の内輪81A、82Aとの間にスペーサを配置したり、第1、第2軸受として内輪と外輪がもともとシフトしているようなテーパドローラ軸受を採用したりするなど、他の方法で前記干渉の問題が解消できる場合は、必ずしも被挟持部を規制部からシフトさせる必要はない。すなわち、規制部材の被挟持部は、要は、規制部材の規制部を偏心体軸受のリテーナの軸方向端面に対して位置決めできればよく、例えば、規制部の半径方向内側が、そのまま被挟持部を兼用するような構成であってもよいし、必ずしも偏心体軸と直角に延在している必要もない。
【符号の説明】
【0075】
11、12、13…第1〜第3偏心体
16…入力軸
21、22、23…第1〜第3外歯歯車
24…内歯歯車
31、32、33…第1〜第3偏心体軸受
41、42、43…第1〜第3ころ
51、52、53…第1〜第3リテーナ
61、62…第1、第2ストッパ(規制部材)
61A、62A…被挟持部
61B、62B…規制部
61C、62C…案内部
61D、62D…延長案内部
71、72…第1、第2キャリヤ体
81、82…第1、第2玉軸受
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置され、転動体および該転動体を支持するリテーナを有する偏心体軸受と、
該偏心体軸受の軸方向移動を規制する規制部材と、を備え、
前記規制部材は、
周方向の一部が前記リテーナの軸方向端面と当接して前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制するとともに周方向の他の一部が該リテーナの軸方向端面と当接しない規制部と、
該規制部の径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に傾斜している案内部と、を有している
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記リテーナの内周と前記規制部材の規制部の外周は、共に円形であり、
前記規制部の周方向の一部が、前記偏心体の最小偏心側で前記リテーナと当接し、かつ該規制部の周方向の他の一部が、前記偏心体の最大偏心側で前記リテーナと当接しないように、前記リテーナの内周の内径と前記規制部材の規制部の外周の外径が設定されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
リテーナの内周に、周方向に複数の凹部が形成されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記規制部の半径方向内側が、軸方向反偏心体軸受側にシフトしている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項1】
偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置され、転動体および該転動体を支持するリテーナを有する偏心体軸受と、
該偏心体軸受の軸方向移動を規制する規制部材と、を備え、
前記規制部材は、
周方向の一部が前記リテーナの軸方向端面と当接して前記偏心体軸受の軸方向の移動を規制するとともに周方向の他の一部が該リテーナの軸方向端面と当接しない規制部と、
該規制部の径方向外側から更に径方向外側に形成され、軸方向反偏心体軸受側に傾斜している案内部と、を有している
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記リテーナの内周と前記規制部材の規制部の外周は、共に円形であり、
前記規制部の周方向の一部が、前記偏心体の最小偏心側で前記リテーナと当接し、かつ該規制部の周方向の他の一部が、前記偏心体の最大偏心側で前記リテーナと当接しないように、前記リテーナの内周の内径と前記規制部材の規制部の外周の外径が設定されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
リテーナの内周に、周方向に複数の凹部が形成されている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記規制部の半径方向内側が、軸方向反偏心体軸受側にシフトしている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2013−53665(P2013−53665A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192136(P2011−192136)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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