説明

偏心揺動型の減速装置

【課題】高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持する。
【解決手段】第1、第2偏心体31、32と、第1、第2外歯歯車21、22との間に配置される第1、第2偏心体軸受41、42を第1、第2ころ61、62で構成するとともに、該第1、第2偏心体31、32と第1、第2外歯歯車21、22との間の空間を第1、第2密封空間SP1、SP2とし、該密封空間SP1、SP2内に潤滑剤を封入するとともに、第1、第2ころ61、62を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える。内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯は、その歯数差が「1」に設定され、外歯歯車が内歯歯車の内側で揺動した際に、該歯数差に応じて生じる内歯歯車と外歯歯車との相対回転を取り出す構成とされている。
【0004】
偏心体と外歯歯車との間には、偏心体軸受が配置されている。偏心体軸受は、ころ(転動体)および該ころを支持するリテーナとで構成され、専用の内外輪を有していない。そのため、該偏心体軸受を軸方向に規制するためのワッシャ(ストッパ部材)がリテーナの軸方向端面に当接するように配置されている。
【0005】
ワッシャは、偏心体軸受の軸方向移動を規制するという機能を果たすために、偏心体がいかなる偏心状態にあるときであっても、常時リテーナの軸方向端面に当接している。その結果、ころが存在する空間は、外歯歯車の内周、偏心体の外周、リテーナ、およびワッシャにより、ほぼ密封された空間となっている。したがって、潤滑油の供給がなされにくいため、ころ周辺の良好な潤滑が難しい、という問題があった。
【0006】
特許文献1においては、この問題に対し、このほぼ密封された空間に潤滑油をより円滑に供給するために、ワッシャに軸方向に貫通する貫通孔を複数形成する構成を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−230171号公報(段落[0023]、[0035]、[図6]、[図7])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献1において開示されている構成は、貫通孔の形成にコストが掛かるという問題があった。すなわち、ワッシャは、リテーナと当接しながら摺動するものであることから、貫通孔の周囲に「バリ」等が残っていると、いわゆる「かじり現象」が発生し、リテーナが損傷してしまう恐れがある。これを回避するには、ワッシャの貫通孔は、単に形成するだけでなく、周囲の「バリ」を除去するための何らかの加工処理を付随して行う必要がある。そのため、結果としてコストが掛かるという問題があったものである。
【0009】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、高コストとなることなく、偏心体軸受に対する潤滑性を高く維持することが可能な偏心揺動型の減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心体軸受をころで構成するとともに、該偏心体と外歯歯車との間の空間を密封し、この密封空間内に、潤滑剤を封入するとともに前記ころを配置した構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0011】
本発明では、ほぼ密封とされた空間内に配置せざるを得ない偏心体軸受のころに対し、何とか工夫して潤滑剤を供給するという従来の発想を抜本的に改め、偏心体と外歯歯車との間の空間を意図的に当初より密封空間とし、この密封空間内に潤滑剤を封入するとともに、ころを配置するようにした。これにより、密封空間内には潤滑剤が確実に封入された状態とされ、かつ、封入した潤滑剤が該密封空間から漏出することもない。そのため、むしろ低コストで偏心体軸受の潤滑性を高く維持することができる。
【0012】
なお、本発明は、「偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記偏心体の設けられた偏心体軸と、前記外歯歯車の自転成分と同期するとともに、前記偏心体軸を偏心体軸軸受を介して支持するキャリヤ体と、を備え、前記偏心体軸軸受の転動体をころで構成するとともに、該キャリヤ体と前記偏心体軸との間の空間を密封し、この密封空間内に、潤滑剤を封入するとともに前記偏心体軸軸受の前記ころを配置したことを特徴とする偏心揺動型の減速装置」という側面で捉えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高コストとなることなく、偏心体軸受(あるいは偏心体軸軸受)に対する潤滑性を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体断面図
【図2】図1の要部断面図
【図3】図1、図2の変形例を示す要部断面図
【図4】本発明の他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の全体断面図
【図5】図4の偏心揺動型の減速装置の要部拡大断面図
【図6】本発明のさらに他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る、いわゆる振り分けタイプと称される偏心揺動型の減速装置G1の構成例を示す断面図、図2はその要部断面図である。
【0017】
以下、該減速装置G1の概略構成から説明してゆく。
【0018】
入力軸12は、キー14を介して図示せぬモータと連結されている。入力軸12の先端にはピニオン16が形成されている。ピニオン16は、3個の振り分け歯車18(18A〜18C:18Aのみ図示)と噛合している。各振り分け歯車18は、3本の偏心体軸20(20A〜20C:20Aのみ図示)に、スプライン19(19A〜19C:19Aのみ図示)を介してそれぞれ固定されている。この構成により、入力軸12を回転させることにより、3個の振り分け歯車18を介して3本の偏心体軸20を同期して同方向に回転させることができる。
【0019】
3本の偏心体軸20は、それぞれ第1、第2外歯歯車21、22を、入力軸12の軸心O1からオフセットされた位置で貫通しており、かつ、同一円周上に等間隔(120度の間隔)で配置されている。各偏心体軸20は、第1偏心体31(31A〜31C:31Aのみ図示)および第2偏心体32(32A〜32C:32Aのみ図示)をそれぞれ備えている。各第1、第2偏心体31、32の外周は、偏心体軸20の軸心O2から偏心している。
【0020】
各偏心体軸20のそれぞれの第1偏心体31は、その偏心位相が揃えられており、3本の偏心体軸20が同期して同方向に回転することにより、第1偏心体軸受41(41A〜41C:41Aのみ図示)を介して第1外歯歯車21を揺動可能である。また、各偏心体軸20のそれぞれの第2偏心体32は、その偏心位相が第1偏心体31と180度ずれた状態で揃えられている。これにより、各偏心体軸20のそれぞれの第2偏心体32は、3本の偏心体軸20が同期して同方向に回転することにより、第2偏心体軸受42(42A〜42C:42Aのみ図示)を介して第2外歯歯車22を揺動可能である。
【0021】
第1、第2偏心体軸受41、42の近傍の構成については後に詳述する。
【0022】
このように、第1、第2外歯歯車21、22は、第1、第2偏心体31、32によって揺動可能であり、内歯歯車46に内接噛合している。第1、第2外歯歯車21、22の外歯は、トロコイド形状の歯形で構成され、内歯歯車46の内歯は、円柱状の内歯ピン46Aによって構成されている。内歯ピン46Aは内歯歯車本体46Bに回転自在に支持されている。この実施形態では、内歯歯車本体46Bは、ケーシング48と一体化されている。第1、第2外歯歯車21、22の歯数は、内歯歯車46の歯数(内歯ピン46Aの数)よりも僅かだけ(この例では「1」)だけ少ない。
【0023】
第1、第2外歯歯車21、22の軸方向両側には、一対の第1、第2キャリヤ体51、52が配置されている。第1、第2キャリヤ体51、52は、アンギュラころ軸受54(54A〜54C:54Aのみ図示)およびアンギュラころ軸受56(56A〜56C:56Aのみ図示)を介して3本の偏心体軸20を回転自在に両持ち支持している。また、第1、第2キャリヤ体51、52は、それぞれテーパードローラ軸受58、60を介してケーシング48に支持されている。
【0024】
第1、第2キャリヤ体51、52は、第1、第2外歯歯車21、22をそれぞれ貫通する複数(この例では3本)のキャリヤピン64(64A〜64C:64Aのみ図示)によって相互に連結されている。各キャリヤピン64は、第1、第2キャリヤ体51、52の軸心(入力軸12の軸心O1に同じ)からオフセットした位置で、第1、第2外歯歯車21、22を貫通しており、かつ、同一円周上で等間隔(120度の間隔)で配置されている。この例では、各キャリヤピン64は、第2キャリヤ体52と一体化されており、ボルト66を介して第1キャリヤ体51と連結されている。第2キャリヤ体52は、図示せぬ被駆動体とボルト穴52Aを利用して連結される。第1、第2キャリヤ体51、52は、第1、第2外歯歯車21、22を貫通しているため、該第1、第2外歯歯車21、22の自転成分と同期している。
【0025】
ここで、図2を合わせて参照して、第1、第2偏心体軸受41、42の近傍の構成について詳細に説明する。
【0026】
各偏心体軸20の第1、第2偏心体31、32と第1、第2外歯歯車21、22との間には、それぞれ第1偏心体軸受41(41A〜41C:41Aのみ図示)および第2偏心体軸受42(42A〜42C:42Aのみ図示)が配置されている。
【0027】
第1偏心体軸受41は、それぞれ第1ころ61(61A〜61C:61Aのみ図示)、および該第1ころ61を支持する第1リテーナ71(71A〜71C:71Aのみ図示)とで構成されている。同様に、第2偏心体軸受42は、それぞれ第2ころ62(62A〜62C:62Aのみ図示)、および該第2ころ62を支持する第2リテーナ72(72A〜72C:72Aのみ図示)とで構成されている。すなわち、第1、第2偏心体軸受41、42は、専用の内外輪を有しておらず、第1、第2偏心体31、32が内輪、第1、第2外歯歯車21、22が外輪の機能を果たしている。
【0028】
第1、第2リテーナ71、72は、その軸方向一端側に、第1、第2ころ61、62の軸方向一端側61a、62aを押えるリング部71a、72aを備えるとともに、軸方向他側端に、第1、第2ころ61、62の軸方向他側端61b、62bを押えるリング部71b、72bを備える。
【0029】
第1リテーナ71と第2リテーナ72は、互いの対向面側のリング部71bおよび72aが、偏心体軸20に一体的に形成された突部20aに接触しており、反対向面側のリング部71aおよび72bは、第1、第2ストッパ部材74、76に当接している。第1、第2ストッパ部材74、76は、それぞれ各偏心体軸20(20A〜20C)ごとに配置されており(74A〜74C、76A〜76C)、図1、図2では偏心体軸20Aの第1、第2ストッパ部材74A、76Aのみが図示されている。
【0030】
第1、第2ストッパ部材74、76は、各偏心体軸20の段部20b、20cと、偏心体軸20を支持しているアンギュラころ軸受54、56とに挟まれることで、偏心体軸20に対して軸方向に位置決めされている。第1、第2アンギュラころ軸受54、56の内輪54a、56aは、偏心体軸20に圧入されている。第1アンギュラころ軸受54の外輪54bは、第1キャリヤ体51に組み込まれた止め輪78(図1参照)によって、また、第2アンギュラころ軸受56の外輪56bは、第2キャリヤ体52の段部52dによって、それぞれ軸方向の位置規制がなされている。
【0031】
これにより、結局、第1、第2偏心体軸受41、42の第1、第2ころ61、62の軸方向の位置決めが、第1、第2ストッパ部材74、76および突部20aで位置決めされた第1、第2リテーナ71、72を介してなされている。
【0032】
図2を参照して、今、第1偏心体31と第1外歯歯車21との間に配置された第1偏心体軸受41に着目すると、第1リテーナ71の一端側のリング部71aの半径方向外側には第1シールリップ81(81A〜81C:81Aのみ図示)が、接着等によって固定され、第1リテーナ71の一端側と第1外歯歯車21との間をシールしている。第1リテーナ71の一端側のリング部71aの半径方向内側には第2シールリップ82(82A〜82C:82Aのみ図示)が接着等によって固定され、第1リテーナ71の一端側と第1偏心体31との間をシールしている。また、第1リテーナ71の他端側のリング部71bの半径方向外側には第3シールリップ83(83A〜83C:83Aのみ図示)が固定され、第1リテーナ71の他端側と第1外歯歯車21との間をシールしている。第1リテーナ71の他端側のリング部71bの半径方向内側には第4シールリップ84(84A〜84C:84Aのみ図示)が固定され、第1リテーナ71の他端側と第1偏心体31との間をシールしている。
【0033】
図2内に拡大図示されているように、第1〜第4シールリップ81〜84は、それぞれ摺動側端部の一部が斜めにカットされ、これにより、摺動側端部の厚さd1は、該端部以外の部分の厚さd2より薄く形成されている(柔軟性が高められている)。また、第1偏心体31および第1外歯歯車21における各シールリップ81〜84が接触する部分31c、21cは、若干の面取り処理(R処理)がなされている。これにより、該第1〜第4シールリップ81〜84によって良好なシール性が確保され、第1偏心体31と第1外歯歯車21との間の空間が独立した第1密封空間SP1として区画されている。
【0034】
この第1密封空間SP1には、減速装置G1内の空間SPoに封入される潤滑剤とは異なる潤滑剤が封入される。具体的には、減速装置G1内の空間SPoに封入される潤滑剤よりも粘度の高い潤滑剤が第1密封空間SP1内に封入される。第1偏心体軸受41の第1ころ61は、この(粘度の高い)潤滑剤の封入された第1密封空間SP1内における第1偏心体31と第1外歯歯車21との間に配置される。
【0035】
全く同様に、第2偏心体32と第2外歯歯車22の側でも、第2偏心体軸受42を第2ころ62で構成するとともに、該第2偏心体32と第2外歯歯車22との間の空間SP2を、第5〜第8シールリップ85〜88をそれぞれ第1密封空間SP1と同様に配置することで密封して第2密封空間SP2としている。そして、該第2密封空間SP2に、前記第1密封空間SP1に封入した潤滑剤と同一の(減速装置G1内の空間SPoに封入される潤滑剤とは異なる)潤滑剤を封入し、該第2密封空間SP2に第2ころ62を配置している。
【0036】
次に、この減速装置G1の作用を説明する。
【0037】
図示せぬモータの回転によって入力軸12が回転すると、ピニオン16を介して3個の振り分け歯車18(18A〜18C)が同時に同方向に回転する。この結果、スプライン19を介して3本の偏心体軸20(20A〜20C)が同期して同方向に回転する。各偏心体軸20が回転すると、各偏心体軸20上の第1、第2偏心体31、32が回転し、第1、第2偏心体軸受41、42を介して第1、第2外歯歯車21、22が180度の偏心位相差を維持しながら揺動回転する。
【0038】
これにより、第1、第2外歯歯車21、22と内歯歯車46との噛合位置が円周方向に順次ずれて行き、各偏心体軸20が1回回転する毎に、第1、第2外歯歯車21、22が内歯歯車46に対して歯数差「1」に相当する分だけ相対回転する(自転する)。
【0039】
この第1、第2外歯歯車21、22の自転は、各偏心体軸20の(第1、第2キャリヤ体51、52の軸心O1周りの)公転として現れ、第1、第2キャリヤ体51、52が該偏心体軸20の公転速度でゆっくりと回転(自転)する。第1、第2キャリヤ体51、52の回転は、ボルト穴52Aを利用して連結されている図示せぬ被駆動体に伝達され、被駆動体が減速された速度で回転する。
【0040】
ここで、第1、第2偏心体軸受41、42の第1、第2ころ61、62は、それぞれ、第1、第2偏心体31、32と第1、第2外歯歯車21、22との間にあって、第1〜第4シールリップ81〜84、および第5〜第8シールリップ85〜88によって密封された第1、第2密封空間SP1、SP2内に配置されている。第1、第2密封空間SP1、SP2内には、潤滑剤が封入されており、密封空間であるが故に、一度封入された潤滑剤は、その後の漏出が殆どない。したがって、長期に亘って良好な潤滑性を維持することができる。
【0041】
また、この実施形態においては、この潤滑剤は、減速装置G1内の潤滑剤とは異なる(より粘度の高い、第1、第2偏心体軸受41、42の部分の潤滑に最適な)潤滑剤とされている。そのため、第1、第2ころ61、62の外周に必要な油膜を常に十分に確保することができる。なお、第1、第2密封空間SP1、SP2内の潤滑剤は、減速装置G1内の空間SPoの潤滑剤よりも粘度が高いもの、この粘度の高い潤滑剤が使用されているのは、該第1、第2密封空間SP1、SP2のみであるため、減速装置G1全体の効率が大きく低下することもない。
【0042】
また、この実施形態においては、第1〜第4シールリップ81〜84、第5〜第8シールリップ85〜88が、単一の(同一の)部材である第1、第2リテーナ71、72から半径方向外側および内側に延在され、それぞれ第1、第2外歯歯車21、22、あるいは第1、第2偏心体31、32に到達するシール構造が採用されているため、構造が簡素で、漏れが生じにくい。
【0043】
尤も、本発明に係る密封空間の形成構造は、この構造例には限定されない。図3に密封空間の形成に関する変形例を示す。
【0044】
先の実施形態においては、第1、第2外歯歯車21、22と第1、第2偏心体31、32との間のそれぞれの空間を、独立した第1、第2密封空間SP1、SP2として形成していたが、この実施形態においては、第1、第2外歯歯車21、22と第1、第2偏心体31、32との間を纏めて、単一の第3密封空間SP3としている。
【0045】
すなわち、この実施形態では、第1ころ61の軸方向第1キャリヤ体51側への移動を規制する第1ストッパ部材74、および第2ころ62の軸方向第2キャリヤ体52側への移動を規制する第2ストッパ部材76を(先の実施形態と同様に)備え、この第1、第2ストッパ部材74、76と、第1、第2外歯歯車21、22との間に、第9、第10シールリップ90、91を配置している。
【0046】
第9、第10シールリップ90、91は、第1、第2ストッパ部材74、76の外周面に固着され、半径方向外側に延在される延在部90A、91Aと、該延在部90A、91Aからそれぞれ第1、第2外歯歯車21、22側に曲折された接触部90B、91Bを備える。接触部90B、91Bの先端は薄い厚さに形成され、柔軟性を与えることでシール性を向上させている。
【0047】
また、第1、第2外歯歯車21、22同士の間に、該第1、第2外歯歯車21、22の軸方向の位置決めを行うとともに、該第1、第2外歯歯車21、22の側部に当接して第3密封空間SP3をシールするシールスペーサ92が配置されている。なお、この第1、第2外歯歯車21、22の軸方向の位置決めの機能は、他の手法で位置決めができている場合はなくてもよい。シールスペーサ92は、リテーナスペーサ93の外周に固着されている。シールスペーサ92が、リテーナスペーサ93の外周に固着されていても、第1、第2偏心体31、32とリテーナスペーサ93の間はシールされていないので、第3密封空間SP3は単一の密封空間となる。なお、シールスペーサ92とリテーナスペーサ93の固着は必須ではない。固着しない場合は、シールスペーサ92とリテーナスペーサ93との間に隙間を有することになる。リテーナスペーサ93は、第1、第2偏心体軸受41、42の第1、第2リテーナ71、72の間にあって該第1、第2リテーナ71、72の軸方向の動きを規制している。
【0048】
シールスペーサ92も第1、第2外歯歯車21、22の接触部付近が薄く形成され、シール性を向上させている。なお、偏心体軸20の第1偏心体31の側部の段部20bと第1ストッパ部材74との間、および第2偏心体32の側部の段部20cと第2ストッパ部材76との間にOリング等を配置すると、シール性を一層向上させることができる。
【0049】
このような構成によっても、第1、第2偏心体31、32と第1、第2外歯歯車21、22との間を密封することができる。そして、該第3密封空間SP3に潤滑剤を封入するとともに、この第3密封空間SP3に第1、第2ころ61、62を配置することで、第1、第2偏心体軸受41、42の潤滑性を長期に亘って良好に維持することができる。
【0050】
この実施形態においても、潤滑剤は、減速装置G1内の空間SPoの潤滑剤とは異なる(粘度の高めの該第1、第2偏心体軸受41、42の潤滑性に最適な)潤滑剤を用いるのが好ましい。
【0051】
この実施形態に係るシール構造によれば、第3密封空間SP3に封入する潤滑剤の量を、先の実施形態における第1密封空間SP1と第2密封空間SP2の合計の量よりも増やすことができるため、第3密封空間SP3に封入する潤滑剤の劣化をより防止することができる。
【0052】
その他の構成については、先の実施形態と同様であるため、図中で同一または機能的に類似する部分に先の実施形態と同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0053】
次に、本発明は、偏心体軸を支持している偏心体軸軸受に対して適用することもできる。その適用例を、図4および図5に示す。
【0054】
先の2つの実施形態と異なる主な点は、偏心体軸20を支持している軸受(偏心体軸軸受)94、96が、それぞれ一対のころ98、100とリテーナ102、104とで構成されていること、および、偏心体軸20と第1、第2キャリヤ体106、108との間に第4、第5密封空間SP4、SP5を形成した点である。
【0055】
偏心体軸20を支持している軸受94、96は、ころ98、100、およびリテーナ102、104がそれぞれ第1、第2ストッパ部材74、76と係止プレート114、116とに挟まれることで軸方向の移動が規制されている。第1、第2ストッパ部材74、76も、また、係止プレート114、116も、軸受94、96の軸方向側部の大半を塞いでおり、減速装置G3内の潤滑剤は、該第1、第2ストッパ部材74、76、あるいは係止レート114、116を越えて軸受94、96のころ98、100側に到達しにくい。そのため、やはり、ころ98、100に対して如何に潤滑剤を供給するかが問題となる。しかし、本実施形態では、第4、第5密封空間SP4、SP5を形成することで、この課題を解決している。
【0056】
図5において、第5密封空間SP5側を拡大図示するように、第4、第5密封空間SP4、SP5は、該ころ98、100を支持しているリテーナ102、104に対し、先の第1〜第4シールリップ81〜84および第5〜第8シールリップ85〜88と類似する第11〜第14シールリップ121〜124および第15〜第18シールリップ125〜128を固着することで、形成されている。第4、第5密封空間SP4、SP5には、予め最適な潤滑剤が封入されており、この封入された潤滑剤は、第4、第5密封空間SP4、SP5が密封とされていることから、時間とともに漏出してしまう恐れもない。そのため、偏心体軸20を支持している軸受94、96についても、先の実施形態と同様な作用効果を得ることができ、高コストとなることなく、該軸受94、96に対しても潤滑性を高く維持することができる。
【0057】
なお、この実施形態では、第1、第2偏心体31、32と第1、第2外歯歯車21、22との間には、特に密封空間は形成されていないが、例えば、図6に示されるように、第1、第2偏心体31、32と第1、第2外歯歯車21、22との間にも先の実施形態と同様な密封空間を形成するようにしても良い。
【0058】
図6は、基本的に図4、図5の実施形態に図3の実施形態を組み合わせたものである。但し、この図6の構成例では、先の第3密封空間SP3と第4、第5密封空間SP4、SP5に相当する計3つの密封空間が纏まって、単一の(1つの)密封空間SP6が形成されている。
【0059】
具体的には、リテーナ102、104の軸方向外側に先の実施形態と同様の第11、第12シールリップ121、122、第17、第18シールリップ127、128を配置している(但し、リテーナ102、104の軸方向内側に配置されていたシールリップは省略されている)。また、第1リテーナ71と第2リテーナ72との間にスペーサ130、該スペーサ130の外周で第1、第2外歯歯車21、22の間に(シール兼用の)シールスペーサ132を配置し、さらに、第1キャリヤ体106と第1リテーナ71との間にスペーサ134、該スペーサ134の外周で第1キャリヤ体106と第1外歯歯車21との間にシールスペーサ136、第2キャリヤ体108と第2リテーナ72との間にスペーサ138、該スペーサ138の外周で第2キャリヤ体108と第2外歯歯車22との間にシールスペーサ140を、それぞれ配置している。
【0060】
これにより、偏心体軸20の周囲に、単一の(1つの)第6密封空間SP6が形成され、この第6密封空間SP6内に潤滑剤が封入されると共に、第1、第2偏心体軸受41、42及び偏心体軸軸受94、96が配置されている。
【0061】
その他の構成については、先の実施形態と同様であるため、図中で同一または機能的に類似する部分に先の実施形態と同一の符号を付すに止め、重複説明を省略する。
【0062】
なお、上記実施形態においては、外歯歯車が軸方向に2枚並んで設けられている減速装置の例が示されていたが、本発明は、外歯歯車が1枚や3枚以上の減速装置にも適用できる。
【0063】
また、上記実施形態においては、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型の減速装置に本発明が適用されていたが、本発明は、このような減速装置に限定されるものではなく、例えば、減速装置の半径方向中央に偏心体軸が1本のみ設けられ、該1本の偏心体軸に設けられた偏心体によって外歯歯車が揺動して内歯歯車と噛合するいわゆるセンタクランクタイプの偏心揺動型の減速装置にも同様に適用可能である。
【0064】
また、密封空間を形成するためのシール構造についても、必ずしも上記実施形態のシール構造には限定されない。例えば、先の第1の実施形態における第1リテーナ71に固着した第1、第2シールリップ81、82のシール構造は、第2の実施形態における第1ストッパ部材74の外周に固着した第9シールリップ90のシール構造と相互に置き換え可能である。要は、複数の偏心体と複数の外歯歯車との間、あるいは偏心体軸とキャリヤ体との間を、何らかの形で密封空間とできる構成であればよい。
【符号の説明】
【0065】
12…入力軸
18…振り分け歯車
20…偏心体軸
21、22…第1、第2外歯歯車
28…内歯歯車
31、32…第1、第2偏心体
41、42…第1、第2偏心体軸受
51、52…第1、第2キャリヤ体
54、56…アンギュラころ軸受
58、60…テーパードローラ軸受
61、62…第1、第2ころ
71、72…第1、第2リテーナ
81〜88…第1〜第8シールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心体軸受をころで構成するとともに、 該偏心体と外歯歯車との間の空間を密封し、
この密封空間内に、潤滑剤を封入するとともに前記ころを配置した
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記密封空間に封入される前記潤滑剤が、前記減速装置内に封入される潤滑剤と異なる
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記外歯歯車を軸方向に並んで複数備えるとともに、該複数の外歯歯車にそれぞれ対応する複数の偏心体を備え、
該複数の外歯歯車と複数の偏心体との間を纏めて、単一の前記密封空間とした
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記外歯歯車を軸方向に並んで複数備えるとともに、該複数の外歯歯車にそれぞれ対応する複数の偏心体を備え、
前記偏心体と外歯歯車との間のそれぞれの空間を、独立した前記密封空間とした
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記ころの軸方向の移動を規制するストッパ部材を備え、
該ストッパ部材と、前記外歯歯車との間に、前記密封空間をシールするリップを備えた
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記ころを支持するリテーナを備え、
該リテーナと、前記外歯歯車または偏心体との間に、前記密封空間をシールするリップを備えた
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記外歯歯車同士の間に、前記密封空間をシールするスペーサを配置した
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項8】
偏心体によって揺動する外歯歯車と、該外歯歯車が揺動しながら内接噛合する内歯歯車と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記偏心体の設けられた偏心体軸と、
前記外歯歯車の自転成分と同期するとともに、前記偏心体軸を偏心体軸軸受を介して支持するキャリヤ体と、を備え、
前記偏心体軸軸受をころで構成するとともに、
該キャリヤ体と前記偏心体軸との間の空間を密封し、
この密封空間内に、潤滑剤を封入するとともに前記偏心体軸軸受の前記ころを配置した
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記偏心体と前記外歯歯車との間に配置される偏心体軸受をころで構成し、前記偏心体軸軸受と偏心体軸受とを単一の密封空間内に配置した
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64450(P2013−64450A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203718(P2011−203718)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】