説明

偏流抑制方法および超電導ケーブル

【課題】簡易な構成で超電導導体の偏流を抑制する偏流抑制方法、並びにこの偏流抑制方法を利用した超電導ケーブルを提供すること。
【解決手段】本発明の偏流抑制方法は、複数のフィラメント32を母材により一に束ねて形成された超電導テープ31について、この超電導テープ31を延在方向に沿って流れる主電流が一部に偏るのを抑制する。この偏流抑制方法では、超電導テープ31に主電流を流すとともに、超電導テープ31の外側にその延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体5に電流を流すことにより、超電導テープ31の周囲および超電導テープ31の母材内に延在方向と略平行な磁束を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏流抑制方法および超電導ケーブルに関する。より詳しくは、超電導導体に生じうる偏流を抑制する偏流抑制方法と、この偏流抑制方法を適用して構成された超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは、複数の超電導導体を心材の外周に巻きつけた上、絶縁や電磁シールドなどを施したものを、液体窒素が供給される断熱管内に挿入することで構成される。ここで、上記超電導導体には、例えば複数の超電導細線を銀などの母材でテープ状に成形したものが用いられる。
【0003】
しかしながら、このような超電導導体を通電導体として用いたケーブルでは、実際に交流電流を流すと、超電導細線間の磁気結合、ひいてはテープ間の磁気結合にも不均衡が生じてしまい、結果として超電導導体中を均一に電流が流れずに断面視で最外周面の近傍の電流密度が高くなり、交流損失が大きく増加してしまう、という課題が知られている。なお、このような偏流の課題は、超電導ケーブルだけでなく、超電導導体をコイルに用いたいわゆる超電導コイルにおいても同様に存在する。
【0004】
近年では、このような課題を解決するため、複数の超電導細線を撚り合わせて撚線構造とする技術ものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、このようにテープを構成する超電導細線を撚線構造とするのと同様に、このテープ自体を複数本で1組とし、これらテープを多層構造にした上、各層を組み替える技術も提案されている。このように、超電導細線やテープを撚り合わせたり組み替えたりすることにより、超電導導体内における電流分布を均一化し、交流損失を低減することができる。
【0005】
この他、例えば特許文献2には、複数の平角形状の導体を放射状に配置するとともに、各放射状導体に異なる位相の電流を流す技術も提案されている。この技術によれば、発生する磁界が互いに打ち消し合うため、交流損失および漏れ磁界を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−144535号公報
【特許文献2】特開2006−331984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、超電導導体内における偏流を抑制する技術は多数提案されている。
しかしながら、特許文献1に示すものを一例とした、超電導細線やその集合体としてのテープを撚り合わせたり組み替えたりする技術については、その製造方法が複雑となってしまうため、コストがかかってしまう。また、超電導細線やテープを撚り合わせたり組み替えたりするには、超電導細線にかかる負担が大きくなってしまうことから、ケーブル全体としての機械的強度が低下してしまう。また、超電導細線として用いることができる材料も限定されてしまい、結果としてコストがかかってしまう。
また、特許文献2に示された技術では、各放射状導体の間に絶縁が必要となり、またその全体形状も径方向に長くなってしまうことなどから、実用化は困難であると考えられる。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で超電導導体の偏流を抑制する偏流抑制方法、並びにこの偏流抑制方法を利用した超電導ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、複数の超伝導細線(例えば、後述のフィラメント32)を母材(例えば、後述の母材33)により一に束ねて形成された超電導導体(例えば、後述の超電導テープ31)について、当該超電導導体を延在方向に沿って流れる電流が一部に偏るのを抑制する偏流抑制方法を提供する。この偏流抑制方法では、前記超電導導体に主電流を流すとともに、当該超電導導体の周囲およびその母材内に、前記超電導導体の延在方向と略平行な磁束を発生させることを特徴とする。
【0010】
本発明の偏流抑制方法では、複数の超電導細線を母材で束ねて形成された超電導導体の外側に、この超電導導体の延在方向すなわち主電流が流れる方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体に電流を流す。これにより、超電導導体の周囲およびこの超電導導体のうち超電導細線の内部を除いた母材内、すなわち各超電導細線の周囲には、超電導細線内を流れる主電流の方向と略平行、すなわち主電流により形成される磁束に対し略垂直な磁束が形成されるので、主電流により形成される磁束の拡張が抑制されるため、超電導導体内における主電流の偏流を抑制することができる。
【0011】
この場合、前記超電導導体の延在方向と略平行な磁束は、前記超電導導体の外側に当該超電導導体の延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体(例えば、後述のコイル導体5)に電流を流すことにより発生させることが好ましい。
【0012】
本発明では、主電流による磁束の拡がりを抑制するため磁束を、超電導導体の外側にまかれたコイル導体に電流を流すことにより発生させる。したがって、コイル導体に流す電流の大きさを変えるだけで、超電導導体の周囲および超電導導体の内部の母材内の磁束密度を変えることができる。
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、心材(例えば、後述のフォーマ2)と、複数の超電導細線(例えば、後述のフィラメント32)を母材(例えば、後述の母材33)により一に束ねて形成された単位超電導導体(例えば、後述の超電導テープ31)と、を備え、前記心材の外周面には、複数の前記単位超電導導体が互いに略平行に設けられた超電導ケーブル(例えば、後述の超電導ケーブル1)を提供する。この超電導ケーブルは、前記複数の単位超電導導体の外周には、前記単位超電導導体の延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体(例えば、後述のコイル導体5)が設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明では、心材の外周面に複数の単位超電導導体を互いに略平行に設けた上、さらにこれら複数の単位超電導導体の外周に、単位超電導導体の延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体を設けた。ここで、コイル導体に電流を流すと、各単位超電導導体の周囲およびこれら単位超電導導体のうち超電導細線の内部を除いた母材内、すなわち各超伝導細線の周囲には、超電導細線内を流れる主電流の方向と略平行、すなわち主電流により形成される磁束に対し略垂直な磁束が形成されるので、主電流により形成される磁束の拡張が抑制されるため、超電導導体内における主電流の偏流を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偏流抑制方法によれば、超電導細線や複数の超電導細線を束にして構成された単位超電導導体を撚り合ったり組み替えたりしたりすることなく、単にその周囲に設けられたコイル導体に適度な大きさの電流を流すのみで主電流の偏流を抑制できる。したがって、この偏流抑制方法を超電導ケーブルや超電導コイルなどに適用することにより、製造にかかるコストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の偏流抑制方法が適用された超電導ケーブル1の構成を示す斜視図である。
【図2】超電導テープの構成を示す断面図である。
【図3】超電導ケーブルの延在方向に沿った部分断面図である。
【図4】主電流を流した状態における超電導導体層の図3中線IV−IVに沿った断面図である。
【図5】主電流を流した状態における超電導導体層の図3中線IV−IVに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る偏流抑制方法が適用された超電導ケーブル1の構成を示す斜視図である。
【0018】
超電導ケーブル1は、円柱状のフォーマ2と、このフォーマ2の外周面に沿って設けられた超伝導導体層3と、この超電導導体層3の外周面に沿って設けられた絶縁体層4と、絶縁体層4の外周面に沿って設けられた電磁シールド層6とを含んで構成される。この超電導ケーブル1は、超電導導体層3の超電導状態を維持するため、液体窒素が供給される断熱配管(図示せず)内に挿入して用いられる。
【0019】
図1に示すように、超電導導体層3は、複数のテープ状の超電導導体(以下、「超電導テープ」という)31を、互いに平行にしてフォーマ2の外周面に沿って巻き付けることで形成される。
【0020】
図2は、テープ状の超電導導体31の構成を示す断面図である。超電導テープ31は、複数の超電導素線(以下、「フィラメント」という)32を、母材33により1つに束ねて、テープ状にして形成される。フィラメント32に用いられる超電導物質としては、Bi系すなわちBi,Sr,Ca,Cu,Oなどから構成される酸化物が用いられるが、本発明はこれに限るものではない。また、母材33の材料としては、純銀や銀合金などが用いられるが、本発明はこれに限るものではない。
【0021】
なお、このような超電導テープ31について、従来では偏流を抑制するために各フィラメント32を撚り合わせた撚線構造のものが提案されているが、本発明の偏流抑制方法が適用された超電導ケーブルによれば、超電導テープ31をあえて撚線構造とする必要はない。
【0022】
図1に戻って、絶縁体層4は、内側絶縁層41と外側絶縁層42との2層で構成され、これら内側絶縁層41と外側絶縁層42との間には、コイル導体5が介装されている。このコイル導体5は、フォーマ2、超電導導体層3および内側絶縁層41の外側に、超電導導体層3における主電流の流れる方向、すなわち超電導テープ31の延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれている。
【0023】
次に、以上のようにして外側にコイル導体5が巻かれた超電導導体層3について、その延在方向に沿って流れる主電流が一部に偏るのを抑制する偏流抑制方法について説明する。
図3は、超電導ケーブル1の延在方向に沿った部分断面図である。なお、図示を明確にするため、図3における絶縁体層や電磁シールド層などの構成は省略する。
【0024】
図3に示すように、コイル導体5は、超電導導体層3を構成する超電導テープ31の延在方向に対し略垂直に延びる。このようなコイル導体5に直流電流を流すと、図3中、破線矢印で示すように、コイル導体5の内部および外部に超電導テープ31の延在方向と略平行な磁束が発生する。
【0025】
図4および図5は、主電流を流した状態における超電導導体層3の線IV−IVに沿った断面図である。より詳しくは、図4はコイル導体5に電流を流していない状態を模式的に示す図であり、図5はコイル導体5に電流を流している状態を模式的に示す図である。なお、図示を明確にするため、これら図4および図5における、絶縁体層および電磁シールド層などの構成は省略する。
【0026】
先ず、超電導導体層3に主電流を流したとすると、図4中破線矢印で示すように、その周囲には磁束が発生することとなる。超電導導体層3における主電流の偏流現象は、このような主電流によって生じた磁束が、近傍のフィラメント32や隣接する超電導テープ31にまで拡がってしまうことにより、他のフィラメント32の超電導状態を消失させることが一因であると考えられている。
【0027】
これに対し、図5に示すように、コイル導体5に適度な大きさの電流を流すことにより、コイル導体5の内部には、超電導テープ31の延在方向と略平行の磁束が発生することとなる。このようにコイル導体5に流す電流によって発生する磁束は、超電導テープ31の周囲の他、超電導テープ31内のうち超電導状態にあるフィラメント32を除いた母材33内を貫通することとなる。したがって、コイル導体5に電流を流すことで生成した磁束によって、フィラメント32を流通する主電流によって生じる磁束が、近傍のフィラメント32や隣接する超電導テープ31にまで拡がるのを抑制することができるので、結果として偏流を抑制することができる。
【0028】
なお、上述の説明では、コイル導体5に流す電流は直流電流としたが、本発明はこれに限らない。コイル導体5には、単なる直流電流の他、交流電流や、極性変化のない変動電流を流してもよい。
【0029】
また、コイル導体5に流す電流の大きさは、実験を行うことで最適な値が決定される。すなわち電流を大きくすると、コイル導体5内部の磁束密度が高くなり、偏流を抑制する効果も向上すると考えられるが、逆に超電導状態が消失したフィラメントの数も増加するものと考えられる。そこで、偏流の抑制と超電導状態の維持との両立が最適となるように、電流の大きさは決定される。
【0030】
ところで、以上のような超電導ケーブル1において、主電流の多くは超電導状態にある各フィラメント32内を流れるものと考えられるが、実際にはトンネル効果によって隣接するフィラメント32間を流れるものも僅かながら存在し、これらフィラメント32間の電流も交流損失を大きくする一因となっているものと考えられている。これに対し、本発明の偏流抑制方法のように、フィラメント32間を埋める母材33内に磁束を発生させることにより、このようなフィラメント32間の電流を抑制する効果も期待できる。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではない。
上記実施形態では、本発明の偏流抑制方法を超電導ケーブルに適用した例について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、超電導コイルを構成する超電導導体についても同様に偏流が生じる課題がある。したがって、このような超電導コイルの超電導導体に対してもコイル導体をトロイダル状に巻き付けた上で、上述のように電流を流すことにより、同じようにして偏流を抑制できると考えられる。
【符号の説明】
【0032】
1…超電導ケーブル
2…フォーマ(心材)
3…超電導導体層
31…超電導テープ(単位超電導導体)
32…フィラメント(超電導細線)
33…母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超伝導細線を母材により一に束ねて形成された超電導導体について、当該超電導導体を延在方向に沿って流れる電流が一部に偏るのを抑制する偏流抑制方法であって、
前記超電導導体に主電流を流すとともに、当該超電導導体の周囲およびその母材内に、前記超電導導体の延在方向と略平行な磁束を発生させることを特徴とする偏流抑制方法。
【請求項2】
前記超電導導体の延在方向と略平行な磁束は、前記超電導導体の外側に当該超電導導体の延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体に電流を流すことにより発生させることを特徴とする請求項1に記載の偏流抑制方法。
【請求項3】
心材と、
複数の超電導細線を母材により一に束ねて形成された単位超電導導体と、を備え、
前記心材の外周面には、複数の前記単位超電導導体が互いに略平行に設けられた超電導ケーブルであって、
前記複数の単位超電導導体の外周には、前記単位超電導導体の延在方向に対し略垂直な方向に沿って巻かれたコイル導体が設けられていることを特徴とする超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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