説明

偏角画像撮像装置

【課題】小型化が可能であると共に、光学的変化素子の多くの偏角画像をできるだけ簡単に取得できる偏角画像撮像装置を提供する。
【解決手段】偏角画像撮像装置1は、光学的変化素子20aに白色光を照射する複数の白色光源11と、光学的変化素子20aから略焦点距離だけ離れた位置に配置されて、光学的変化素子20aからの光を平行光にする対物レンズ13と、対物レンズ13からの光を集光する光学レンズが同一平面上に複数配置されてなる光学レンズアレイ14と、前記光学レンズによってそれぞれ形成された個眼像を撮像する固体撮像素子15と、を備える。前記平行光と略平行であって対物レンズ13の略焦点位置を通る軸AXの軸周り方向を回転方向とした場合に、複数の白色光源11は、光学的変化素子20aへの白色光の入射角が異なる複数の位置のそれぞれにおいて、回転方向に複数配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明方向や観察方向によって見え方が変化する光学的変化素子の偏角画像を撮像する装置に関する。なお、本明細書において、偏角画像とは、照明方向や観察方向といった測定の幾何学的な条件を変えて得られる画像のことを指す。
【背景技術】
【0002】
従来、紙幣や証券等の紙葉類や、クレジットカードやプリペードカード等のカード類には、偽造防止のために照明方向や観察方向によって見え方が変化する光学的変化素子(OVD:Optically Variable Device)が取り付けられている場合が多い。例えば、クレジットカードには、ホログラムシールが取り付けられている場合があり、そのシールには特定の回折パターンに基づいた画像が形成されている(例えば、特許文献1参照)。なお、光学的変化素子には、上述のホログラムの他に、例えばパールインク等に代表される光学的変化インク(OVI:Optically Variable Ink)等が含まれる。
【0003】
ホログラム等の光学的変化素子を用いて真偽の判別を行う場合、目視による判別や分光光度計を用いた判別が従来行われている。しかし、目視による判別では厳密に照明方向や観察方向を決定するのが難しく、例えばホログラムにおける回折格子周期(回折格子間隔)の微小な変化を読み取ることは困難である。また、分光光度計を用いた判別では、照明方向等を決定して正確な測定を行うことができるが、真偽の判別を正確に行うために多くの情報を取得しようとすると、装置が大型化し易いといった不都合や、測定が繁雑となり易いといった不都合を生じる。
【0004】
この点、非特許文献1に提案される複眼光学系を有する撮像装置を用いれば、照明方向等を決定して正確な測定を行うことができると共に、一度の撮影で光学的変化素子の複数の偏角画像を得られるために、効率良く真偽の判別を行うことが可能である。しかしながら、非特許文献1に提案される複眼光学系を有する撮像装置では、高い解像度を有する画像を広い観察範囲で得ようとすると、撮像部が非常に大きくなってしまうという問題がある。なお、ここでいう撮像部は、微小な光学レンズが縦横に複数配列された光学レンズアレイと、該光学レンズアレイの各光学レンズによってそれぞれ形成された被写体の個眼像を撮像する固体撮像素子と、を用いて構成される部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−284364号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】2005年(平成17年春季)第52回応用物理学関係連合講演会講演要旨集,p.1149(2005.3.30,さいたま)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の点を鑑みて、本発明の目的は、小型化が可能であると共に、光学的変化素子の多くの偏角画像をできるだけ簡単に取得できる偏角画像撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の偏角画像撮像装置は、光学的変化素子の偏角画像を撮像する偏角画像撮像装置であって、前記光学的変化素子に白色光を照射する白色光源と、前記光学的変化素子から略焦点距離だけ離れた位置に配置されて、前記光学的変化素子からの光を平行光にする対物レンズと、前記対物レンズからの光を集光する光学レンズが同一平面上に複数配置されてなる光学レンズアレイと、前記光学レンズによってそれぞれ形成された個眼像を撮像する固体撮像素子と、を備え、前記平行光と略平行であって前記対物レンズの略焦点位置を通る軸の軸周り方向を回転方向とした場合に、前記白色光を複数の入射角で前記光学的変化素子に照射可能であると共に、前記複数の入射角のそれぞれについて、前記光学的変化素子を基準として前記回転方向の複数位置から、前記白色光を前記光学的変化素子に向けて照射可能となっていることを特徴としている。
【0009】
本構成の偏角画像撮像装置では、白色光を光学的変化素子に照射し、光学的変化素子からの光を平行光化して光学レンズアレイと固体撮像素子とを用いて構成される撮像部に入射させることで、一度の撮影で複数の偏角画像を取得できるようになっている。一方で、白色光を複数の入射角で光学的変化素子に照射可能であると共に、複数の入射角のそれぞれについて、光学的変化素子を基準として回転方向の複数位置から、白色光を光学的変化素子に向けて照射可能となっている。このため、光学的変化素子への白色光の照射方向を切り替えるという簡単な動作を行うことにより、多くの偏角画像を効率良く得ることが可能である。そして、この構成の場合、白色光の照射方向を切り替えられる構成であるために、複眼光学系の数(光学レンズアレイが備える光学レンズの数)を減らしても相当量の偏角画像を取得可能であり、撮像部を小さくして装置の小型化を図れる。
【0010】
上記構成の偏角画像撮像装置において、前記白色光源は、前記光学的変化素子への白色光の入射角が異なる複数の位置のそれぞれにおいて、前記回転方向に複数配置されていることとしてもよい。また、他の構成として、前記白色光源は1つであって、前記光学的変化素子への白色光の入射角を変更する移動、及び、前記回転方向の位置を変更する移動を可能とする白色光源移動機構を更に備えることとしてもよい。
【0011】
前者によれば、モータ等の駆動源を用いることなく、複数の白色光源を順次点灯させるという簡単な操作で、光学的変化素子の多くの偏角画像を取得可能である。また、後者によれば、白色光源の数を減らして、光学的変化素子の多くの偏角画像を簡単に取得可能である。また、後者の場合には、白色光源の位置を任意の位置に設定可能であるという利点を有する。
【0012】
上記構成の偏角画像撮像装置において、前記白色光源から出射される白色光を平行光に変換して前記光学的変化素子に入射させる平行光変換手段を更に備えるのが好ましい。本構成によれば、白色光源から光学的変化素子へと入射する白色光が発散して、狙いの入射角からずれた光が光学的変化素子に入射するという事態を抑制できる。すなわち、本構成によれば、偏角画像撮像装置で撮像される偏角画像を用いてより正確な情報を得やすい。なお、平行光変換手段は、例えばコリメートレンズや凹面鏡等とできるが、装置を小型化しやすいという点からコリメートレンズが好ましい。
【0013】
上記構成の偏角画像撮像装置において、前記光学レンズが2行2列に2次元配列されることとしてもよい。これにより、光学的変化素子の多くの偏角画像をできるだけ簡単に取得できる小型の偏角画像撮像装置を得られる。
【0014】
上記構成の偏角画像撮像装置において、前記白色光源が発光ダイオードからなるのが好ましい。発光ダイオードを用いることにより、白色光源の小型化や低消費電力化を図り易い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型化が可能であると共に、光学的変化素子の多くの偏角画像をできるだけ簡単に取得できる偏角画像撮像装置の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の偏角画像撮像装置の構成を示す模式図
【図2】第1実施形態の偏角画像撮像装置が備える複数の白色光源の構成を説明するための概略平面図
【図3】第1実施形態の偏角画像撮像装置が備える光学レンズアレイ及び固体撮像素子の構成を説明するための概略斜視図
【図4】第1実施形態の偏角画像撮像装置の作用を説明するための模式図で、光学的変化素子に入射角45°で白色光が入射した場合の図
【図5】第1実施形態の偏角画像撮像装置の作用を説明するための模式図で、光学的変化素子に入射角55°で白色光が入射した場合の図
【図6】第1実施形態の偏角画像撮像装置の作用を説明するための模式図で、光学的変化素子に入射角35°で白色光が入射した場合の図
【図7】rg色度座標を用いて個眼像から回折光の波長を見積もる方法を説明するための図
【図8】第2実施形態の偏角画像撮像装置の構成を説明するための模式図
【図9】第2実施形態の偏角画像撮像装置が備える白色光源移動機構の構成例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の偏角画像撮像装置の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の偏角画像撮像装置の構成を示す模式図である。図2は、第1実施形態の偏角画像撮像装置が備える複数の白色光源の構成を説明するための概略平面図である。図3は、第1実施形態の偏角画像撮像装置が備える光学レンズアレイ及び固体撮像素子の構成を説明するための概略斜視図である。なお、図3は、図1の斜め下方から光学レンズアレイ及び固体撮像素子を見た場合の図である。図1から図3を参照しながら、第1実施形態の偏角画像撮像装置1の構成について説明する。
【0019】
図1に示すように、第1実施形態の偏角画像撮像装置1は、試料台10と、複数の白色光源11と、複数のコリメートレンズ12と、対物レンズ13と、光学レンズアレイ14と、固体撮像素子15と、を備えている。
【0020】
試料台10は、例えばホログラム等の光学的変化素子20aがその表面に設けられているクレジットカードや有価証券類等の試料20を載置する台である。この試料台10は、それ自体が動かない固定タイプであってもよいし、例えば搬送ベルト等、それ自体が動くものであってもよい。
【0021】
複数の白色光源11のそれぞれには、例えば白色LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)が用いられる。偏角画像撮像装置1における白色光源としては、光源を配置するスペースを小さくできる点、消費電力を低く抑えられる点、指向性を有する点等を考慮してLEDを用いるのが好ましいが、これに限られる趣旨ではない。例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、超高圧水銀ランプ、白色レーザ光源等を白色光源として用いても構わない。
【0022】
複数の白色光源11は、複数の入射角で光学的変化素子20aに白色光を照射できるように配置されている。また、複数の白色光源11は、複数の入射角のそれぞれについて、光学的変化素子20aを基準として回転方向の複数位置から、白色光を光学的変化素子20aに向けて照射できるように配置されている。なお、ここで言う回転方向は、対物レンズ13から出射される平行光に略平行であって対物レンズ13の略焦点位置を通る軸AXの軸周り方向のことを指している。
【0023】
具体的には、図1及び図2に示すように、光学的変化素子20aへの白色光の入射角が35°、45°、55°となる3つの位置のそれぞれにおいて、回転方向に45°ピッチで白色光源が配置されている。すなわち、入射角35°の位置には8つの白色光源111a〜111hが、入射角45°の位置には8つの白色光源112a〜112hが、入射角55°の位置には8つの白色光源113a〜113hが配置されている。
【0024】
なお、偏角画像撮像装置1においては、計24個配置される白色光源のそれぞれから出射された白色光が光学的変化素子20aへと至る距離は、いずれもほぼ等しくなるように配置されている。
【0025】
複数のコリメートレンズ12は、図1及び図2に示すように、複数の白色光源11のそれぞれと光学的変化素子20aとの間の光路中に1つずつ配置されている。すなわち、入射角35°の位置に配置される白色光源111a〜111hにおいては、白色光源111aに対応してコリメートレンズ121aが、白色光源111bに対応してコリメートレンズ121bが、というように、各白色光源111a〜111hに対応して1つずつコリメートレンズ121a〜121hが配置されている。同様に、入射角45°の位置に配置される各白色光源112a〜112hについても、それぞれに対応して1つずつコリメートレンズ122a〜122hが配置され、入射角55°の位置に配置される各白色光源113a〜113hについても、それぞれに対応して1つずつコリメートレンズ123a〜123hが配置されている。
【0026】
偏角画像撮像装置1における複数のコリメートレンズ12は、本発明における白色光源から出射される白色光を平行光に変換して光学的変化素子に入射させる平行光変換手段の実施形態である。複数のコリメートレンズ12を配置しない構成としてもよいが、この場合、複数の白色光源11のそれぞれから出射される白色光は発散しながら光学的変化素子20aへと入射する。このため、光学的変化素子20aへ入射する白色光の中に、目的の入射角からずれて入射する成分を多く含むことになる。この点、本実施形態のように複数のコリメートレンズ12を配置する構成では、前述の目的の入射角からずれた成分の発生を極力抑制できる。
【0027】
対物レンズ13は凸レンズで構成されて、光学的変化素子20aから略焦点距離だけ離れた位置に配置されている。このために、光学的変化素子20aで反射されて対物レンズ13に入射した反射光は平行光となって対物レンズ13から出射されるようになっている。
【0028】
光学レンズアレイ14は、2行2列に2次元配列される4つの光学レンズ141、142、143、144と、これらの光学レンズ141〜144を保持するレンズホルダ145と、からなっている(図3参照)。レンズホルダ145に保持される光学レンズ141〜144は微細レンズでよく、焦点距離を短くできると共にレンズ自体の厚さも薄くできる。このため、光学レンズアレイ14と固体撮像素子15とからなる撮像部の薄型化を図れる。また、光学レンズアレイ14に備えられる光学レンズの数が4つと少ないために、偏角画像撮像装置1を小型化することができる。
【0029】
固体撮像素子15には、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の2次元イメージセンサが用いられる。固体撮像素子15は、基板151と、基板151に2次元マトリクス状に複数配置されて入射光を光電変換するセンサ部152とを有する。センサ部152上には、例えばRGBの3色がベイヤ配列されるカラーフィルタが配置されている。固体撮像素子15から出力される信号を例えば液晶ディスプレイ等の画像表示装置に送信することで、各光学レンズ141〜144で結像された像(個眼像)を画像表示できる。
【0030】
なお、光学レンズアレイ14は、偏角画像撮像素子1の小型化を狙って小型とされるため、隣り合ったレンズからの光が入って混信を生じる可能性がある。このため、光学レンズアレイ14と固体撮像素子15との間に、混信を防止するための隔壁層を設ける構成としても構わない。
【0031】
次に、以上のように構成される偏角画像撮像装置1の作用について、図4から図6を参照しながら説明する。図4から図6は、第1実施形態の偏角画像撮像装置の作用を説明するための模式図で、図4は光学的変化素子に入射角45°で白色光が入射した場合の図、図5は光学的変化素子に入射角55°で白色光が入射した場合の図、図6は光学的変化素子に入射角35°で白色光が入射した場合の図である。
【0032】
なお、ここでは、偏角画像撮像装置1で撮像する光学的変化素子20aがホログラムである場合を例に説明する。また、試料20表面に形成されるホログラム20aの回折格子の並びが図4から図6の左右方向である場合を想定して、偏角画像撮像装置1の作用を説明する。
【0033】
図4に示すように、白色光源112aから出射された白色光はコリメートレンズ112aによって平行光化されて、ホログラム20aに入射角45°で入射する。ホログラム20aに入射した白色光はホログラム20aで反射される(ホログラムが反射型のホログラムであることを想定している)が、ホログラム20aの回折作用によって反射光は分光された状態となる。そして、図4に一点鎖線で示す範囲の広がりを有する反射光(一定の波長範囲の分光された光)が、対物レンズ13に入射する。
【0034】
対物レンズ13によって、分光された各波長の光は平行光にされるが、それらのうち、ホログラム20aから所定の出射角で出射された波長λ1、λ2の光が、光学レンズ141〜144に入射して個眼像を形成する(すなわち、4つの偏角画像が得られることになる)。より具体的には、分光された光のうち波長λ1の光が光学レンズ141、143に入射して個眼像を形成し、波長λ2の光が光学レンズ142、144に入射して個眼像を形成する。なお、波長λ1及びλ2の光は、完全に単一の波長の光ではなく、ある程度波長の広がりを有し、波長λ1、λ2は主成分となる波長(主波長)を指している。
【0035】
ここで、白色光源112aから出射される白色光の入射角を図5(入射角55°)や図6(入射角35°)のように変更すると、ホログラム20aによって分光される各波長の出射角が、図4の場合とは異なったものとなる。このため、図4の条件において対物レンズ13に入射した光の広がり(一点鎖線で示す広がり)は、例えば、図5の条件の場合には図4の場合から右側にシフトし、図6の条件の場合には図4の場合から左側にシフトするという現象が起こる。すなわち、ホログラム20aに入射する入射角の変更によって、光学レンズ141〜144に入射する光の波長も変わり、異なる個眼像を得ることが可能になる。
【0036】
ここでは、ホログラム20aの回折格子の並びが、図4から図6の左右方向である場合を例に説明した。しかし、実際には、ホログラムには複数種類の回折格子が形成され、複数方向に回折方向の並びを有する場合がある。また、試料20の置き方によっては、同じホログラム20aでも回折方向の並び方向は変化してしまう。この点、本実施形態の偏光画像撮像装置1では、各入射角において、回転方向(軸AXの軸周り方向)の複数位置から白色光を照射できるようになっている。このために、複数の白色光源12を順番に点灯させることによって取得した複数の偏角画像から、いずれの方向に回折方向の並びがあるという情報を取得することも可能である。
【0037】
以上のように、本実施形態の偏角画像撮像装置1によれば、1つの白色光源を点灯させることで、複数(4個)の偏角画像を得ることができる。そして、複数の白色光源11は、光学的変化素子20aへの白色光の入射角が異なる複数の位置(3つの位置)のそれぞれにおいて、回転方向に複数(8個)配置されている。このため、複数(24個)の白色光源11のそれぞれを順次点灯させることにより、簡単な操作で非常に多くの偏角画像を取得できる。更に、この構成では、光学レンズアレイ14及び固体撮像素子15によって構成される撮像部を小さくできるために、簡単な操作で非常に多くの偏角画像を取得できる装置を小型なものとできるという利点も有する。
【0038】
本実施形態の偏角画像撮像装置1は、例えば、クレジットカード等に形成されるホログラムの真偽の判別を行うために好適である。すなわち、例えば、本物のホログラムに関する偏角画像を予め偏角画像撮像装置1で撮像し、そのデータを保存しておく。そして、偽物か否かの判別を行いたいホログラムについて偏角画像撮像装置1で撮像し、取得した偏角画像を先にデータとして保存しておいた本物の偏角画像と比較する。偏角画像撮像装置1では、多くの偏角画像を効率良く取得できるために、正確な真偽の判別を効率良く行うことが可能である。
【0039】
また、偏角画像撮像装置1の偏角画像からホログラムに形成される回折格子の並び方向が判るために、更に回折格子周期d(回折格子間隔)を特定して真偽の判別を行うことが可能である。回折格子においては、入射光と回折格子法線とのなす角(入射角)をα、回折光と回折格子法線とのなす角(出射角)をβ、回折光の次数をn、光の波長をλとすると、以下の式(1)が成り立つ。
d×sinα+d×sinβ=nλ (1)
【0040】
偏角画像撮像装置1においては、各個眼像を得る際の条件のうち、入射角α、出射角β、回折光の次数nは光学設計によって決まっている。このために、個眼像から回折光の波長λを見積もることによって、上記式(1)により回折格子周期dを求めることができ、真偽の判別を行うことができる。
【0041】
個眼像から回折光の波長λを見積もる方法としては、例えば、非特許文献(日本光学会年次学術講演会 Optics Japan 2005 講演予稿集,p.576(2005.11.25,東京))の手法を用いることができる。以下、図7を参照しながら、個眼像をから回折光の波長λを見積もる手法について簡単に説明する。なお、図7は、rg色度座標を用いて個眼像から回折光の波長を見積もる方法を説明するための図である。
【0042】
個眼像から回折光の波長λを見積もるにあたって、以下のrg色度座標を利用する。固体撮像素子15のRGB各センサの画素値Vi(i=r,g,b)は、回折光の分光分布H(λ)と、RGB各センサの分光応答特性Si(λ)(i=r,g,b)とを用いて、以下の式(2)のように表すことができる。なお、式(2)におけるkは係数である。
【数1】

【0043】
色度座標(r、g)は、RGB各センサの画素値Vr、Vg、Vbを用いて以下のように求められる。
r=Vr/(Vr+Vg+Vb)
g=Vg/(Vr+Vg+Vb)
【0044】
図7に示すrg平面において、白丸は、各波長の光(単波長の光)が固体撮像素子15に入射した場合に得られる色度座標である。ここでは、この色度座標は、固体撮像素子15の特性を与えるデータシートから計算によって求めたものである。また、図7に示すrg平面において、黒丸(等エネルギー白色点)は、各波長成分について等しいパワーを持った光(等エネルギー白色光)が固体撮像素子15に入射した場合の色度座標であり、計算によって求めたものである。
【0045】
偏角画像撮像装置1において、回折格子が並ぶ方向から光を照射して得られる個眼像は、理想的には、単波長の光(回折光)が各光学レンズ141〜144に入射して形成されるはずである。しかし、実際には、単波長の光(回折光)に加えて回折に寄与しなかった白色光も各光学レンズ141〜144に入射して、個眼像が形成されているものと考えられる。このために、各個眼像から取得される実測の色度座標は、図7の白丸を結んで得られるスペクトル軌跡上の点と、等エネルギー白色点Wとを結ぶ線上に存在するものと考えられる。
【0046】
したがって、個眼像から実測の色度座標(図7の×印の点)を取得して、この座標と等エネルギー白色点Wとを結ぶ線の延長線と、スペクトル軌跡とが交わる点(交点)を求めれば、回折光の波長λ(上記式(1)におけるλ)を見積もることができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の偏角画像撮像装置について説明する。図8は、第2実施形態の偏角画像撮像装置の構成を説明するための模式図で、図8(a)は断面図、図8(b)は平面図である。なお、図8(b)は、白色光源及びコリメートレンズと、光学的変化素子が形成される試料との関係のみを示す図である。
【0048】
第2実施形態の偏角画像撮像装置2は、白色光源21とコリメートレンズ22の数をそれぞれ1つとして構成している点を除いて、第1実施形態の偏角画像撮像装置1と同様の構成となっている。以下、この異なる構成について説明する。また、第1実施形態の偏角画像撮像装置1と重複する部分については同一の符号を付し、特に必要がない場合はその説明は省略する。
【0049】
第2実施形態の偏角画像撮像装置2が備える白色光源21及びコリメートレンズ22は、図8に矢印で示すように、光学的変化素子20aへの白色光の入射角αを変更する移動、及び、回転方向(軸AXの軸周り方向)の位置を変更する移動が可能とされている。なお、軸AXは、対物レンズ13から出射される平行光に略平行であって対物レンズ13の略焦点位置を通る軸であり、第1実施形態の場合と同様である。
【0050】
白色光源21及びコリメートレンズ22の移動は、例えば図9に示す白色光源移動機構40によって可能となる。なお、図9は、第2実施形態の偏角画像撮像装置が備える白色光源移動機構の構成例を示す概略図で、図9(a)は白色光源移動機構を上から見た図、図9(b)は白色光源移動機構を側面から見た図である。
【0051】
白色光源21及びコリメートレンズ22は、保持部材に保持されて光源ユニット31を構成している。白色光源移動機構40は、この光源ユニット31を移動するように構成されており、円板部41と、第1駆動源42と、第2駆動源43と、アーム部44と、を備えている。
【0052】
円板部41は、試料台支持部10aによって固定状態で支持される試料台10の下部側に、回動可能に配置されている。円板部41の下部側に配置される第1駆動源42は、例えばステッピングモータで構成され、その出力軸42aが軸AXと略一致するように配置されている。第1駆動源42の出力軸42aは円板部41の中心に固定されており、円板部41は、第1駆動源42の駆動によって右回り方向と左回り方向(この方向は、図9(a)を参照した場合の表現である)のいずれにも回転できるようになっている。
【0053】
第2駆動源43及びアーム部44は、いずれも円板部31に搭載されており、円板部41の回転と共に回転する。円板部41に固定配置される第2駆動源43は、例えばステッピングモータによって構成され、その出力軸43aの延長方向が、光学的変化素子20aのほぼ表面で軸AXに略直交するように配置されている。
【0054】
アーム部44は略L状に形成され、その一端が第2駆動源43の出力軸43aに固定されている。このため、アーム部44は、第2駆動源43aの駆動に伴い回転する。アーム部44の他端には、光源ユニット31が取り付けられている。アーム部44に取り付けられる光源ユニット31は、アーム部44が回転しても、その光軸Xが光学的変化素子20aのほぼ表面で軸AXと交差するように、その取り付けが調整されている。
【0055】
この白色光源移動機構40により、偏角画像撮像装置2では、白色光源21の数が1つにかかわらず、白色光源21から出射される白色光を、複数の入射角で光学的変化素子20aに照射できる。そして、複数の入射角のそれぞれについて、光学的変化素子20aを基準として回転方向の複数位置から、白色光を光学的変化素子20aに照射できる。したがって、第2実施形態の偏角画像撮像装置2においては、光源ユニット31を所望の位置に移動して、それぞれの場所で白色光源21を点灯させることにより、第1実施形態の場合と同様に、簡単な操作で非常に多くの偏角画像を取得できる。また、第1実施形態の場合と同様に、簡単な操作で非常に多くの偏角画像を取得できる装置を小型なものとできるという利点も有する。
【0056】
(その他)
以上に示した実施形態は、本発明が適用される偏角画像撮像装置の例示であって、本発明が適用される範囲は以上に示した構成に限定される趣旨ではない。
【0057】
例えば、第1実施形態で示した複数の白色光源11の配置の仕方は適宜変更しても構わない。すなわち、例えば、光学的変化素子20aへ白色光が入射する入射角の大きさやその数、回転方向(軸AXの軸周り方向)の配置間隔等について適宜変更してよい。
【0058】
また、第1実施形態の偏角画像撮像装置1においては、計24個配置される白色光源のそれぞれから出射された白色光が光学的変化素子20aへと至る距離は、いずれもほぼ等しくなるように配置されることとした。しかし、この構成に限定される趣旨ではない。例えば、第1実施形態の偏角画像撮像装置1のように複数のコリメートレンズ12を備える場合には、各白色光源から光学的変化素子20aへと至るまでの距離を互いに異なる構成等とすることも可能である。
【0059】
また、第1及び第2実施形態の偏角画像撮像装置で光学レンズアレイ14が備える光学レンズの数を4つとしたが、必ずしもこの数に限定されず、適宜その数は変更しても構わない。
【0060】
また、白色光を複数の入射角で光学的変化素子20aに照射可能であると共に、前記複数の入射角のそれぞれについて、光学的変化素子20aを基準として回転方向の複数位置から、白色光を光学的変化素子20aに向けて照射可能とする構成を備える偏角画像撮像装置を、例えば次のような構成で実現してもよい。すなわち、白色光を複数の入射角で光学的変化素子20aに照射可能とする構成を、第1実施形態の構成(複数の白色光源を用いる構成)或いは、第2実施形態の構成(白色光源を1つとし、白色光源移動機構を用いる構成)と同様の手法で実現する。そして、前記複数の入射角のそれぞれについて、光学的変化素子20aを基準として回転方向の複数位置から、白色光を光学的変化素子20aに向けて照射可能とする構成を、光学的変化素子20aが形成される試料20を載置する試料台10を回転可能とする構成で実現する。このように構成でも、小型化が可能であると共に、光学的変化素子の多くの偏角画像をできるだけ簡単に取得できる偏角画像撮像装置の提供が可能である。
【0061】
また、以上に示した実施形態では、光学的変化素子が反射型であることを前提として説明したが、本発明は透過型の光学的変化素子に対しても適用できるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、例えば、ホログラム等の光学的変化素子の偏角画像を撮像するための装置として好適であり、クレジットカードや有価証券類等の真偽の判別を行うための装置として有用である。
【符号の説明】
【0063】
1、2 偏角画像撮像装置
111a〜111h、112a〜112h、113a〜113h、21 白色光源
121a〜121h、122a〜122h、123a〜123h、22 コリメートレンズ(平行光変換手段)
13 対物レンズ
14 光学レンズアレイ
15 固体撮像素子
20a 光学的変化素子
141〜144 光学レンズ
40 白色光源移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的変化素子の偏角画像を撮像する偏角画像撮像装置であって、
前記光学的変化素子に白色光を照射する白色光源と、
前記光学的変化素子から略焦点距離だけ離れた位置に配置されて、前記光学的変化素子からの光を平行光にする対物レンズと、
前記対物レンズからの光を集光する光学レンズが同一平面上に複数配置されてなる光学レンズアレイと、
前記光学レンズによってそれぞれ形成された個眼像を撮像する固体撮像素子と、
を備え、
前記平行光と略平行であって前記対物レンズの略焦点位置を通る軸の軸周り方向を回転方向とした場合に、
前記白色光を複数の入射角で前記光学的変化素子に照射可能であると共に、
前記複数の入射角のそれぞれについて、前記光学的変化素子を基準として前記回転方向の複数位置から、前記白色光を前記光学的変化素子に向けて照射可能となっていることを特徴とする偏角画像撮像装置。
【請求項2】
前記白色光源は、前記光学的変化素子への白色光の入射角が異なる複数の位置のそれぞれにおいて、前記回転方向に複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載の偏角画像撮像装置。
【請求項3】
前記白色光源は1つであって、
前記光学的変化素子への白色光の入射角を変更する移動、及び、前記回転方向の位置を変更する移動を可能とする白色光源移動機構を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の偏角画像撮像装置。
【請求項4】
前記白色光源から出射される白色光を平行光に変換して前記光学的変化素子に入射させる平行光変換手段を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の偏角画像撮像装置。
【請求項5】
前記光学レンズが2行2列に2次元配列されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の偏角画像撮像装置。
【請求項6】
前記白色光源が発光ダイオードからなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の偏角画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−107512(P2011−107512A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263918(P2009−263918)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】