説明

停車判定装置、停車判定方法、停車判定プログラム及び記憶媒体

【課題】早期に停車認定を行うことが可能な停車判定装置を提供する。
【解決手段】停車判定装置は、加速度取得手段と、勾配推定手段と、標本選定手段と、統計量算出手段と、停車判定手段と、を備える。加速度取得手段は、車両の加速度を取得する。加速度取得手段は、車両の前後方向の加速度を取得する。勾配推定手段は、車両の走行中又は停車中の道路勾配を推定する。勾配推定手段は、車両の上下方向の加速度によって勾配を推定する。標本選定手段は、道路勾配に基づき車両が停車した場合の前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前後方向の加速度を選定する。統計量算出手段は、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する。停車判定手段は、統計量と所定の閾値とに基づき、車両が停車中であるか否か判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の停車判定を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動体に設置された加速度センサからの検出値に基づき、移動体が停止しているか否か判定する技術が存在する。例えば、特許文献1には、加速度センサから検出された加速度の微分値がある閾値以下の場合、停車と判断する技術が開示されている。その他、本発明に関連する技術が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−116370号公報
【特許文献2】特開2002−131077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、停車までの過渡期では、急ブレーキであるほど、停車前後の車両の振動が大きくなり、その時取得した加速度もばらつきが生じる。従って、加速度に基づいて停車判定を実行する場合、急ブレーキによる加速度の振動に起因して停車認定が遅れてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、停車前後に加速度の振動が発生した場合であっても、取得した加速度を選定することで、早期に停車認定を行うことが可能な停車判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、停車判定装置は、車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定手段と、前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定手段と、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出手段と、前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項8の記載の発明は、車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得工程と、前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定工程と、前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定工程と、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出工程と、前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項9に記載の発明は、コンピュータにより実行される停車判定プログラムであって、 車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定手段と、前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定手段と、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出手段と、前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定手段、として前記コンピュータを機能させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の各実施例に係る停車判定装置の概略構成図の一例である。
【図2】第1実施例に係る停車判定装置の機能ブロックの一例である。
【図3】勾配Θの場合の第1推定範囲We1と第2推定範囲We2と推定範囲Weとの関係を示すグラフの一例である。
【図4】勾配がない場合の第1推定範囲We1と第2推定範囲We2と推定範囲Weとの関係を示すグラフの一例である。
【図5】各サンプリング時間幅と搭載車両の状態との関係を示すグラフの一例である。
【図6】第1実施例に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図7】第2実施例に係る停車判定装置の機能ブロックの一例である。
【図8】第2実施例に係る処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の1つの観点では、停車判定装置は、車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、前記車両が位置する道路勾配を推定する勾配推定手段と、前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定手段と、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出手段と、前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定手段と、を備える。
【0011】
上記の停車判定装置は、例えばPND(Personal Navigation Device)などのポータブルデバイスであり、加速度取得手段と、勾配推定手段と、標本選定手段と、統計量算出手段と、停車判定手段と、を備える。加速度取得手段は、車両の加速度を取得する。加速度取得手段は、車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する。ここで、「車両の前後方向」とは、車両の前進方向又は後進方向のいずれかを正方向とした軸方向を指す。なお、車両の前後方向は、上記定義で厳密に決定される方向の他、上記定義とおよそ一致した方向であってもよい。勾配推定手段は、車両の走行中又は停車中の道路勾配を推定する。勾配推定手段は、例えば、車両の上下方向の加速度によって勾配を推定してもよく、専用のセンサ等により勾配を検出してもよい。標本選定手段は、道路勾配に基づき車両が停車した場合の前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前後方向の加速度を選定する。即ち、標本選定手段は、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外するように推定範囲を設定し、前後方向の加速度を選定する。統計量算出手段は、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する。上述の所定時間幅は、実験等に基づき適切な値に定められる。この所定時間幅は、例えば、統計量を算出するのに必要な加速度のサンプル数を取得するのに要する時間幅に設定される。停車判定手段は、統計量と所定の閾値とに基づき、車両が停車中であるか否か判定する。このように、停車判定装置は、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外して統計量を算出することで、早期に搭載車両が停車中であると認定することができる。
【0012】
上記の停車判定装置の一態様では、前記加速度取得手段は、前記車両の上下方向の加速度を取得し、前記勾配推定手段は、前記上下方向の加速度に基づき前記道路勾配を推定する。ここで、「車両の上下方向」とは、車両が走行中又は停車中の路面と垂直な方向を指す。なお、車両の上下方向は、上記定義で厳密に決定される方向の他、上記定義とおよそ一致した方向であってもよい。車両の上下方向の加速度は、車両が定常状態の場合、道路勾配によって一意に定まる。従って、停車判定装置は、上下方向の加速度に基づき適切に道路勾配を推定することができる。
【0013】
上記の停車判定装置の他の一態様では、前記統計量は、ばらつき値であることを特徴とする。ここで、「ばらつき値」とは、加速度のばらつきを示す統計的な数値であり、例えば加速度の分散、偏差または尖度などが例示される。このように、停車判定装置は、統計量としてばらつき値を使用することで、道路勾配等の影響を適切に抑制することができる。
【0014】
上記の停車判定装置の他の一態様では、前記統計量は分散又は/及び尖度である。ここで、「分散」は、不偏分散を含む。以下の説明でも同様とする。停車判定装置は、これらを統計量とすることにより、適切に停車判定を実行することができる。
【0015】
上記の停車判定装置の他の一態様では、前記標本選定手段は、前記車両が停車中の場合に前記道路勾配に基づき決定される前記前後方向の加速度の推定範囲である第1推定範囲と、前記道路勾配の予め想定される範囲に基づき決定される前記前後方向の加速度の推定範囲である第2推定範囲との重複範囲を前記推定範囲として決定する。このようにすることで、停車判定装置は、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を適切に除外して統計量を算出することができる。
【0016】
上記の停車判定装置の他の一態様では、前記所定時間幅にわたり前記加速度取得手段が取得した前記前後方向の加速度の個数と前記標本選定手段が選定した前記前後方向の加速度の個数とが異なる場合、前記所定時間幅にわたり前記加速度取得手段が取得した前記前後方向の加速度を母集団とした信頼区間を算出する母集団分布推定手段をさらに備え、前記停車判定手段は、前記個数が異なる場合、前記信頼区間が前記推定範囲に属する場合のみ、前記車両が停車中であると認定する。ここで、「信頼区間」は、例えば95%信頼区間である。このように、停車判定装置は、所定時間幅にわたり取得した前後方向の加速度の個数よりも統計量の計算に用いる加速度の個数が少ない場合、さらに信頼区間を用いることで統計量の信頼性についても考慮する。これにより、停車判定装置は、搭載車両の走行中に、停車中であると誤認定するのを防ぐことができる。
【0017】
上記の停車判定装置の他の一態様では、加速度センサをさらに備え、前記加速度取得手段は、前記加速度センサから加速度を取得すると共に、当該加速度センサと停車判定装置とのマウントずれ又は/及び停車判定装置と前記車両との設置ずれを補正する。ここで、「マウントずれ」とは、加速度センサと停車判定装置との相対的な位置関係に起因した加速度の測定値のずれを指し、「設置ずれ」とは、停車判定装置と車両との相対的な位置関係に起因した加速度の測定値のずれを指す。これにより、停車判定装置は、マウントずれや設置ずれを考慮することで、より的確に車両の停車判定を実行することができる。
【0018】
本発明の他の観点では、停車判定方法は、車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得工程と、前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定工程と、前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定工程と、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出工程と、前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定工程と、を備える。停車判定装置は、この方法を用いることで、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外して統計量を算出し、早期に搭載車両が停車中であると認定することができる。
【0019】
上記の停車判定装置の他の一態様では、コンピュータにより実行される停車判定プログラムであって、車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定手段と、前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定手段と、所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出手段と、前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定手段、として前記コンピュータを機能させる。コンピュータは、この停車判定プログラムを搭載することにより、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外して統計量を算出し、早期に搭載車両が停車中であると認定することができる。なお、好適な例では、停車判定プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。以下では、本発明の各実施例で共通する停車判定装置の概略構成について説明した後、停車判定装置が実行する処理内容について第1実施例及び第2実施例で説明する。
【0021】
[概略構成]
まず、本発明に係る停車判定装置の概要について図1を用いて説明する。図1は、停車判定装置100の概略構成の一例である。停車判定装置100は、車両に搭載される。図1に示すように、停車判定装置100は、加速度センサ1と、システムコントローラ2と、入力装置3と、出力装置4と、データ記憶ユニット5と、を備える。停車判定装置100の各要素は、バスライン30を介して相互に接続されている。
【0022】
加速度センサ1は、例えば圧電素子からなり、加速度データを出力する。具体的には、加速度センサ1は、搭載車両の進行(前進)方向を正とする方向(以後、「X軸方向」と呼ぶ。)の加速度(以後、「加速度Ax」と呼ぶ。)及び搭載車両の上下方向であり搭載車両が位置する路面と垂直な方向(以後、「Z軸方向」とも呼ぶ。)の加速度(以後、「加速度Az」と呼ぶ。)を検出し、システムコントローラ2へ供給する。なお、加速度Azは、搭載車両から地面に向けた方向を正値とする。
【0023】
システムコントローラ2は、インタフェース21、CPU(Central Processing Unit)22、ROM(Read Only Memory)23及びRAM(Random Access Memory)24を含んでおり、停車判定装置100全体の制御を行う。
【0024】
インタフェース21は、加速度センサ1とのインタフェース動作を行う。そして、インタフェース21は、加速度センサ1から加速度Ax、Azをシステムコントローラ2に入力する。
【0025】
CPU22は、システムコントローラ2全体を制御する。CPU22は、予め用意されたプログラムを実行することにより、本発明における加速度取得手段、勾配推定手段、標本選定手段、統計量算出手段、母集団分布推定手段、及び停車判定手段として機能する。これについては、後述する[第1実施例]及び[第2実施例]のセクションで詳しく説明する。ROM23は、システムコントローラ2を制御する制御プログラム等が格納された図示しない不揮発性メモリ等を有する。RAM24は、入力装置3から供給される入力信号に基づき各種データを読み出し可能に格納したり、CPU22に対してワーキングエリアを提供したりする。
【0026】
入力装置3は、停車判定装置100に対して利用者が行う必要な命令や情報の入力を受け付けるインタフェースである。出力装置4は、利用者の操作に応答するための情報を出力する。例えば、出力部11は、システムコントローラ2の制御に基づき、画像または映像の出力及び/又は音声出力を行う。
【0027】
データ記憶ユニット5は、停車判定装置100の動作を制御するためのプログラムを保存したり、停車判定装置100の動作に必要な情報を保持したりするためのものである。
【0028】
なお、上述の停車判定装置100の構成は一例であり、本発明が適用可能な構成はこれに限定されない。例えば、停車判定装置100は、上述の構成に代えて、入力装置3又は/及び出力装置4を有しなくてもよい。他の例では、停車判定装置100は、上述の構成に加えて、通信装置を備え、他の装置へ停止判定結果等のデータを供給してもよい。
【0029】
以下では、システムコントローラ2が実行する処理について[第1実施例]及び[第2実施例]のセクションで説明する。なお、以後では、停車判定装置100が搭載される車両を「搭載車両」と呼ぶ。
【0030】
[第1実施例]
次に、第1実施例でシステムコントローラ2が実行する処理について説明する。第1実施例では、システムコントローラ2は、加速度Azに基づき搭載車両が走行中又は停車中の道路勾配(以後、単に「勾配」と呼ぶ。)を推定し、停車判定に使用すべき加速度Axを選定する。そして、システムコントローラ2は、選定した加速度Ax(以後、「選定加速度Axs」と呼ぶ。)に基づき算出した分散(以後、「分散Vx」と呼ぶ。)に基づき停車判定を行う。これにより、システムコントローラ2は、搭載車両の急停車等に伴う振動に起因して加速度Axの外れ値(以後、単に「外れ値」と呼ぶ。)が発生した場合であっても、これを除外して早期に停車認定を行う。なお、ここで「外れ値」とは、搭載車両の停車直前又は直後に発生する振動に起因した加速度Axを指し、停車判定装置100が搭載車両の停車認定をするのに妨げとなる値を指す。
【0031】
以後では、第1実施例の具体的な処理内容を説明した後、処理フロー及び第1実施例の各変形例について順に説明する。
【0032】
まず、第1実施例の具体的な処理について、図2を用いて詳しく説明する。図2は、第1実施例に係る停車判定装置100の機能ブロックを示す図の一例である。図2に示すように、システムコントローラ2は、加速度取得部2aと、勾配推定部2bと、標本選定部2cと、統計量算出部2dと、停車判定部2eと、を備える。以下、これらの各要素が実行する処理について説明する。
【0033】
加速度取得部2aは、加速度センサ1から加速度Ax、Azをそれぞれ取得する。または、他の車両情報(例えば速度情報)を取得し、システムの内部で演算により加速度値を取得してもよい。そして、加速度取得部2aは、加速度Axを標本選定部2cへ供給すると共に、加速度Azを勾配推定部2bに供給する。
【0034】
勾配推定部2bは、加速度Azに基づき勾配を推定する。これについて具体例を示す。勾配推定部2bは、勾配が「Θ」(Θは、水平面を0とする)のとき、実際に計測された加速度Azと、Z軸方向の加速度の理論式である「g×cosΘ」(以後、乗算記号「×」を適宜省略する。)と、に基づき勾配Θに関する情報(以後、「勾配情報IΘ」と呼ぶ。)を算出する。勾配情報IΘは、勾配Θ自体であってもよく、その他勾配Θを間接的に示す値(例えば、勾配Θの三角関数)であってもよい。ここでは、勾配推定部2bは、勾配Θの余弦を勾配情報IΘとして算出する。具体的には、勾配推定部2bは、以下の式(1)を用いて勾配情報IΘとなる勾配Θの余弦を算出する。
cosΘ=|Az|/g 式(1)
そして、勾配推定部2bは、勾配情報IΘを標本選定部2cへ供給する。
【0035】
次に、標本選定部2cが実行する処理について説明する。標本選定部2cは、直前の所定時間幅までに取得された加速度Axから、勾配情報IΘに基づき、統計量算出部2dで用いる選定加速度Axsを選定する。以後、上述の時間幅を「サンプリング時間幅Tw」と呼ぶ。サンプリング時間幅Twは、実験等に基づき適切な値に設定される。具体的には、標本選定部2cは、勾配情報IΘから導かれる加速度Axの推定範囲(以後、「第1推定範囲We1」と呼ぶ。)と、予め定めた勾配Θの想定角度の範囲から導かれる加速度Axの制限範囲(以後、「第2推定範囲We2」と呼ぶ。)と、に基づき、統計量算出部2dで使用すべき加速度Axの範囲(以後、「推定範囲We」と呼ぶ。)を決定する。そして、標本選定部2cは、直前のサンプリング時間幅Tw中に取得した加速度Axから選定加速度Axsを選定する。
【0036】
これについて図3及び図4を用いて詳しく説明する。図3は、勾配Θでの第1推定範囲We1、第2推定範囲We2、及び推定範囲Weをそれぞれ示した図の一例である。なお、図3中の勾配Θ及びパラメータ「α」は、正値とする。
【0037】
まず、標本選定部2cは、勾配ΘのときX軸方向に加わる重力の大きさは「gsinΘ」であることから、勾配情報IΘに基づき、以下の式(2)と式(3)とにより特定される加速度Axの値域を第1推定範囲We1として設定する。
−(gsinΘ+α)≦We1≦−(gsinΘ−α) 式(2)
gsinΘ−α≦We1≦gsinΘ+α 式(3)
即ち、第1推定範囲We1は、式(2)又は式(3)のいずれかを満たす加速度Axの値域に設定される。このとき、パラメータαは、例えば想定される勾配Θの推定誤差の範囲等を考慮し、実験等に基づき適切な値に設定される。そして、標本選定部2cは、第1推定範囲We1に属しない加速度Axを外れ値とみなす。なお、標本選定部2cは、例えば勾配情報IΘが「cosΘ」の場合、三角関数の一般式「(cosΘ)+(sinΘ)=1」により式(2)、(3)中の「sinΘ」を算出する。
【0038】
このように、標本選定部2cは、勾配情報IΘに基づき第1推定範囲We1を設定することで、急ブレーキ等に起因して発生する加速度Axの外れ値を除外した選定加速度Axsを決定することができる。
【0039】
また、標本選定部2cは、第2推定範囲We2を、搭載車両の停車時にとり得る加速度Axの絶対値の最大値「Axmax」に基づき設定する。具体的には、最大値Axmaxは、予め想定される勾配Θの範囲に基づき実験等により予め設定され、データ記憶ユニット5等に記憶される。即ち、標本選定部2cは、以下の式(4)により特定される加速度Axの範囲を第2推定範囲We2として設定する。
−Axmax≦We2≦Axmax 式(4)
このようにすることで、標本選定部2cは、急ブレーキ等に起因した加速度Axの外れ値を確実に除外することができ、選定加速度Axsをより的確に設定することができる。
【0040】
そして、標本選定部2cは、第1推定範囲We1と第2推定範囲We2とに基づき推定範囲Weを決定する。具体的には、標本選定部2cは、第1推定範囲We1と第2推定範囲We2とが重複する範囲を推定範囲Weとして決定する。即ち、推定範囲Weは、図3に示すように、式(2)及び式(4)を満たす加速度Axの値域、及び、式(3)及び式(4)を満たす加速度Axの値域に設定される。このように、標本選定部2cは、第1推定範囲We1と第2推定範囲We2とに基づき推定範囲Weを決定することで、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外した選定加速度Axsを適切に選定することができる。
【0041】
さらに勾配Θが0の場合の具体例について図4を用いて説明する。図4は、勾配Θが0の場合の、第1推定範囲We1と第2推定範囲We2と推定範囲Weとを示すグラフの一例である。即ち、図4に示す各範囲の境界値は、図3に示す各範囲の境界値を「Θ=0」に設定した場合に該当する。
【0042】
図4に示すように、標本選定部2cは、第1推定範囲We1を、式(2)及び式(3)に「Θ=0」を代入することにより特定する。即ち、この場合、標本選定部2cは、「Θ=0」の場合に式(2)及び式(3)と等価となる以下の式(5)に基づき第1推定範囲We1を設定する。
−α≦We1≦α 式(5)
また、標本選定部2cは、第2推定範囲We2を最大値Axmaxに基づき決定する。即ち、標本選定部2cは、図3の例と同様、式(4)に基づき第2推定範囲We2を設定する。そして、標本選定部2cは、式(5)に基づき設定した第1推定範囲We1と、式(4)に基づき設定した第2推定範囲We2との重複部分、即ち式(5)に示す範囲を推定範囲Weとして定める。
【0043】
次に、再び図2に戻り、統計量算出部2dが実行する処理について説明する。統計量算出部2dは、標本選定部2cから供給された選定加速度Axsに基づき統計量を算出する。具体的には、統計量算出部2dは、直前のサンプリング時間幅Tw中の選定加速度Axsから分散Vxを算出する。このように、統計量算出部2dは、統計量として分散を用いることで、勾配Θの影響を受けることなく停車判定を実行することができる。また、統計量算出部2dは、外れ値を除外した選定加速度Axsのみに基づき分散Vxを算出しているため、急ブレーキ等による停車直後であっても、過度に分散Vxが大きくなるのを抑制する。なお、統計量算出部2dは、加速度取得部2aが加速度Axを取得するごとにサンプリング時間幅Tw中の選定加速度Axsから分散Vxを算出する。これについては、後述する図5の説明で具体的に説明する。
【0044】
次に、停車判定部2eが実行する処理について説明する。停車判定部2eは、統計量算出部2dから供給された分散Vxが所定の閾値(以後、「閾値Vxth」と呼ぶ。)より小さい場合、搭載車両が停止していると判定する。閾値Vxthは、実験等に基づき適切な値に設定される。即ち、停車判定部2eは、以下の式(6)が成立する場合、搭載車両が停止していると認定する。
Vx<Vxth 式(6)
一方、停車判定部2eは、式(6)が成立しない場合、搭載車両が走行中であると認定する。このとき、上述したように、分散Vxは、外れ値を除外した選定加速度Axsのみに基づき算出されている。従って、停車判定部2eは、急ブレーキ等による搭載車両の停車直後であっても、適切に停車中であると認定することができる。
【0045】
次に、本実施例による効果について、図5を用いてさらに説明する。図5は、時間軸における各サンプリング時間幅「Tw1」乃至「Tw5」と搭載車両の状態との対応を示すグラフの一例である。サンプリング時間幅Tw1乃至Tw5は、それぞれ時刻「t1」乃至「t5」で統計量算出部2dが分散Vxを算出するために使用するサンプリング時間幅Twである。また、時刻t1は、急ブレーキに起因して搭載車両が振動を開始した時刻を示し、時刻t2は、搭載車両が停車した時刻を示し、時刻t2αは、搭載車両の振動が終了して定常状態になった時刻を示す。以後では、時刻t1までの期間を「走行期間」と呼び、時刻t1から時刻t2αまでの期間を「振動期間」と呼び、時刻t3以降の期間を「安定期間」と呼ぶ。
【0046】
まず、時刻t1では、停車判定部2eは、サンプリング時間幅Tw1中の選定加速度Axsから算出した分散Vxに基づき式(6)を参照して停車判定を行う。このとき、サンプリング時間幅Tw1は走行期間中に位置するため、停車判定部2eは、搭載車両が走行中であると認定する。同様に、搭載車両が停車する時刻t2では、停車判定部2eは、サンプリング時間幅Tw2中の選定加速度Axsに基づき停車判定を行う。その結果、停車判定部2eは、走行中と認定する。
【0047】
そして、安定期間中の時刻t3及び時刻t4では、停車判定部2eは、それぞれサンプリング時間幅Tw3及びサンプリング時間幅Tw4中の選定加速度Axsに基づき停車判定を行う。このとき、サンプリング時間幅Tw3、Tw4は振動期間を跨いでいる。よって、標本選定部2cは、サンプリング時間幅Tw3、Tw4中に取得された加速度Axのうち外れ値を除外した選定加速度Axsを選定する。その結果、停車判定部2eは、時刻t3又は時刻t4のいずれかのタイミングで、搭載車両が停車中であると認定する。一方、加速度Axの選定を行わない従来の手法による場合(以後、「比較例」と呼ぶ。)では、停車判定装置100は、振動期間中に取得した加速度Axの外れ値によって分散Vxが大きくなり、時刻t3及び時刻t4では停車認定をすることができない。
【0048】
なお、時刻t5では、サンプリング時間幅Tw5は、全て安定期間内に属している。従って、この場合、標本選定部2cは、サンプリング時間幅Tw5中の加速度Axを全て選定加速度Axsとして選定する。なお、加速度Axの選定を行わない比較例では、時刻t5に初めて搭載車両の停車認定がなされる。
【0049】
以上のように、システムコントローラ2は、外れ値を除外した選定加速度Axsに基づき分散Vxを算出することで、急ブレーキ等により加速度Axが振動する場合であっても、早期に搭載車両が停止中であると認定することができる。
【0050】
(処理フロー)
次に、第1実施例でシステムコントローラ2が実行する処理手順について図6を用いて説明する。図6は、第1実施例でシステムコントローラ2が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。システムコントローラ2は、図6に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0051】
まず、システムコントローラ2は、X軸方向及びZ軸方向の加速度Ax、Azを取得する(ステップS101)。そして、システムコントローラ2は、加速度Azから勾配情報IΘを生成する(ステップS102)。例えば、システムコントローラ2は、式(1)により、勾配Θの余弦を勾配情報IΘとして算出する。
【0052】
次に、システムコントローラ2は、勾配情報IΘに基づき推定範囲Weを算出する(ステップS103)。具体的には、システムコントローラ2は、式(2)及び式(3)により第1推定範囲We1を定めると共に、式(4)により第2推定範囲We2を定めることで、その重複範囲を推定範囲Weとして定める。
【0053】
そして、システムコントローラ2は、推定範囲Weに基づきサンプリング時間幅Twから選定加速度Axsを選定する(ステップS104)。これにより、システムコントローラ2は、急ブレーキ等に起因した加速度Axの外れ値を除外する。
【0054】
次に、システムコントローラ2は、ステップS104で選定された選定加速度Axsに基づき分散Vxを算出する(ステップS105)。このとき、算出された分散Vxは、上述したように、急ブレーキ等に起因した外れ値の影響が適切に除外されている。
【0055】
そして、システムコントローラ2は、分散Vxが閾値Vxthより小さいか否か判定する(ステップS106)。そして、分散Vxが閾値Vxthより小さい場合(ステップS106;Yes)、システムコントローラ2は、搭載車両が停車中であると認定する(ステップS107)。一方、分散Vxが閾値Vxth以上の場合(ステップS106;No)、システムコントローラ2は、搭載車両が走行中であると認定する(ステップS108)。
【0056】
以上説明したように、本実施例による停車判定装置は、加速度取得手段と、勾配推定手段と、標本選定手段と、統計量算出手段と、停車判定手段と、を備える。加速度取得手段は、車両の加速度を取得する。加速度取得手段は、車両の前後方向の加速度を取得する。勾配推定手段は、車両の走行中又は停車中の道路勾配を推定する。勾配推定手段は、車両の上下方向の加速度によって勾配を推定する。標本選定手段は、道路勾配に基づき車両が停車した場合の前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前後方向の加速度を選定する。即ち、標本選定手段は、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外するように推定範囲を設定し、前後方向の加速度を選定する。統計量算出手段は、所定時間幅にわたる選定された加速度の分散を算出する。上述の所定時間幅は、実験等に基づき適切な値に定められる。この所定時間幅は、例えば、分散を算出するのに必要な加速度のサンプル数を取得するのに要する時間幅に設定される。停車判定手段は、分散と所定の閾値とに基づき、車両が停車中であるか否か判定する。このように、停車判定装置は、急ブレーキ等に起因して発生した外れ値を除外して分散を算出することで、早期に搭載車両が停車中であると認定することができる。
【0057】
(変形例1)
システムコントローラ2は、図2で説明した処理に加え、加速度センサ1と停車判定装置100との位置ずれ(以後、「マウントずれ」とも呼ぶ。)、又は/及び、停車判定装置100と搭載車両との位置ずれ(以後、「設置ずれ」とも呼ぶ。)を考慮して、加速度Ax、Azを補正してもよい。例えば、システムコントローラ2は、搭載車両の起動時に自動的に加速度Axが「0」、加速度Azが「1g」になるように補正値を定め、その後、当該補正値に基づき加速度Ax、Azを常時補正してもよい。他の例では、システムコントローラ2は、勾配がない道路で搭載車両が停車中に、乗員からの外部入力に基づき、上述の補正値を定めてもよい。これにより、停車判定装置100は、より的確に停車判定を実行することができる。
【0058】
(変形例2)
システムコントローラ2は、加速度Azに基づき勾配Θを推定し、勾配情報IΘを生成した。しかし、本発明が適用可能な方法は、これに限定されない。これに代えて、システムコントローラ2は、図示しない勾配(傾斜)センサに基づき勾配Θを推定してもよい。この場合であっても、システムコントローラ2は、各勾配Θに対応する正弦の値のマップをデータ記憶ユニット5等に記憶することで、式(2)及び式(3)に基づき第1推定範囲We1を定める。これによっても、システムコントローラ2は、適切に停車判定を実行することができる。
【0059】
(変形例3)
図5の説明では、サンプリング時間幅Tw1乃至Tw5は、重畳的に設定されていた。しかし、本発明が適用可能な方法は、これに限定されない。例えば、これに代えて、システムコントローラ2は、サンプリング時間幅Twを重複しないように設定してもよい。こ具体的には、図5の例では、システムコントローラ2は、例えば時刻t1でサンプリング時間幅Tw1中に取得した加速度Axに基づき停車判定を実行後、次に時刻t4でサンプリング時間幅Tw4中に取得した加速度Axに基づき停車判定を実行する。これによっても、システムコントローラ2は、適切に停車判定を実行することができる。
【0060】
(変形例4)
図2の説明では、標本選定部2cは、第1推定範囲We1と第2推定範囲We2とに基づき推定範囲Weを定め、選定加速度Axsを選定していた。しかし、本発明が適用可能な方法は、これに限定されない。これに代えて、標本選定部2cは、第1推定範囲We1のみに基づき推定範囲Weを定めてもよい。即ち、標本選定部2cは、第1推定範囲We1を推定範囲Weとして定める。この場合、標本選定部2cは、第1推定範囲We1を定めた後、第1推定範囲We1に基づき選定加速度Axsを選定する。これにより、システムコントローラ2は、より簡易に停車判定を実行することができる。
【0061】
(変形例5)
図2の説明では、システムコントローラ2は、統計量として分散を用いた。しかし、本発明に使用可能な統計量は、これに限定されない。例えば、これに代えて、又は、これに加えて、システムコントローラ2は、統計量として尖度を用いてもよい。具体的には、統計量算出部2dは、分散Vxに代えて、または、これに加えて、X軸方向の尖度を算出する。そして、停車判定部2eは、図2での説明に加え、又はこれに代えて、X軸方向の尖度が所定の閾値を上回った場合、搭載車両が停車したと認定する。上述の閾値は、実験等により適切な値に設定される。これにより、システムコントローラ2は、アクセルペダルを踏むことなく、エンジンがアイドリングの状態で車両が動くいわゆるクリープ走行と、停止中とを適切に判別することができる。
【0062】
(変形例6)
図1の説明では、停車判定装置100は、加速度センサ1から加速度Ax、Azを取得していた。しかし、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。例えば、これに代えて、停車判定装置100は、図示しない車速センサ等から得られた車速パルスに基づきこれらの加速度を算出してもよい。これによっても、本発明を好適に適用することができる。
【0063】
(変形例7)
図2の説明では、停車判定装置100は、X軸方向の加速度Ax及びZ軸方向の加速度Azを取得していた。しかし、本発明が適用可能な方法はこれに限定されず、停車判定装置100は、少なくとも搭載車両のX軸方向の加速度Axを取得すればよい。例えば、図2の説明に代えて、停車判定装置100は、上述の(変形例2)のように図示しない勾配(傾斜)センサに基づき勾配Θを推定した場合には、Z軸方向の加速度Azを取得しなくともよい。他の例では、図2の説明に加えて、停車判定装置100は、Y軸方向の加速度をさらに取得し、その統計量と予め定めた所定の閾値と比較することで、さらに高精度に停車判定を行ってもよい。
【0064】
[第2実施例]
第2実施例では、システムコントローラ2は、第1実施例の処理に加え、加速度Axから外れ値を除外して分散Vxを算出した場合、母集団の分布を95%信頼区間(以後、「信頼区間Ci」と呼ぶ。)で推定し、信頼区間Ciが推定範囲Weに収まっているときのみ停車認定を行う。これにより、システムコントローラ2は、搭載車両の走行中に停車中と誤認定するのを抑制する。ここで、「母集団の分布」とは、サンプリング時間幅Tw中に取得された加速度Axの分布を指す。
【0065】
以後では、第2実施例の具体的な処理内容を説明した後、処理フロー及び第2実施例の各変形例について順に説明する。
【0066】
まず、第2実施例でシステムコントローラ2が実行する処理について図7を用いて説明する。図7は、第2実施例に係る停車判定装置100の機能ブロックを示す図の一例である。図7に示すように、システムコントローラ2は、母集団分布推定部2fを備える点で、第1実施例の構成と異なる。
【0067】
加速度取得部2aは、加速度センサ1から加速度Ax、Azをそれぞれ取得する。そして、加速度取得部2aは、加速度Axを標本選定部2cへ供給すると共に、加速度Azを勾配推定部2bに供給する。
【0068】
勾配推定部2bは、加速度Azに基づき勾配Θを推定する。例えば、勾配推定部2bは、式(1)を参照し、勾配情報IΘである勾配Θの余弦を算出する。そして、勾配推定部2bは、勾配情報IΘを標本選定部2cへ供給する。
【0069】
標本選定部2cは、直前のサンプリング時間幅Twに取得された加速度Axから、勾配情報IΘに基づき、統計量算出部2dで用いる選定加速度Axsを選定する。具体的には、標本選定部2cは、式(2)、(3)に基づき定めた第1推定範囲We1と、式(4)に基づき定めた第2推定範囲We2と、から推定範囲Weを決定し、サンプリング時間幅Tw中に推定範囲We内にある選定加速度Axsを選定する。そして、標本選定部2cは、統計量算出部2d及び母集団分布推定部2fに選定加速度Axsを供給すると共に、停車判定部2eに推定範囲Weを供給する。
【0070】
統計量算出部2dは、標本選定部2cから供給された選定加速度Axsに基づき統計量を算出する。具体的には、統計量算出部2dは、直前のサンプリング時間幅Tw中に取得した選定加速度Axsから分散Vxを算出する。
【0071】
次に、母集団分布推定部2fが実行する処理について説明する。母集団分布推定部2fは、サンプリング時間幅Tw中の加速度Axの個数より選定加速度Axsの個数が少ない場合、信頼区間Ciを算出する。
【0072】
ここで、信頼区間Ciの算出例について具体的に説明する。以後では、「平均Av」は、サンプリング時間幅Tw中の選定加速度Axsの平均(標本平均)を指し、「サンプル数Ns」は、サンプリング時間幅Tw中の選定加速度Axsの個数を指し、「誤差Se」は、標本標準誤差を指す。また、「t分布表値C」は、95%信頼区間を算出するのに用いるt分布の値を指す。
【0073】
母集団分布推定部2fは、以下の式(7)を用いることで、信頼区間Ciを設定する。
Av−(C×Se)≦Ci≦Av+(C×Se) 式(7)
また、母集団分布推定部2fは、誤差Seを以下の式(8)から導出する。
Se=(Vx/N)1/2 式(8)
即ち、誤差Seは、分散Vxをサンプル数Nsで割った値の平方根である。
【0074】
そして、母集団分布推定部2fは、信頼区間Ci及び分散Vxを停車判定部2eへ供給する。
【0075】
次に、停車判定部2eが実行する処理について説明する。停車判定部2eは、分散Vxが閾値Vxth未満であった場合も、信頼区間Ciを用いてその信頼性を検証する。これにより、停車判定部2eは、搭載車両の走行中に停車中と誤認定するのを抑制することができる。
【0076】
具体的には、停車判定部2eは、統計量算出部2dが算出した分散Vxが閾値Vxth以上の場合、サンプル数Nsによらず搭載車両が走行中であると認定する。一方、停車判定部2eは、分散Vxが閾値Vxthより小さく、かつ、サンプル数Nsがサンプリング時間幅Tw中の加速度Axの個数より少ない場合、さらに、信頼区間Ciが推定範囲We内に存在するか否か判定する。そして、停車判定部2eは、信頼区間Ciが推定範囲We内に存在する場合、搭載車両が停車中であると認定する。一方、停車判定部2eは、信頼区間Ciが推定範囲We内に収まっていない場合、即ち、信頼区間Ciと推定範囲Weとで重複していない部分が存在する場合、搭載車両が停車中であると認定しない。即ち、停車判定部2eは、式(6)に基づく停車判定の信頼性が十分でないと判断する。
【0077】
以上のように、第2実施例では、システムコントローラ2は、信頼区間Ciを用いることで、より的確に停車判定を実行することができる。
(処理フロー)
次に、第2実施例でシステムコントローラ2が実行する処理手順について図8を用いて説明する。図8は、第2実施例でシステムコントローラ2が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。システムコントローラ2は、図8に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。なお、ステップS201乃至ステップS205の処理は、ステップS101乃至ステップS105の処理と同一であるため、その説明を省略する。従って、以後では、ステップS206から説明する。また、図8のステップS208とステップS209との順序は、図7での説明とは逆にしている。いずれの場合であっても本発明は、好適に実施される。
【0078】
システムコントローラ2は、ステップS205で分散Vxを算出後、除外した加速度Axがあるか否か判定する(ステップS206)。即ち、システムコントローラ2は、対象となる直前のサンプリング時間幅Twから選定した選定加速度Axsの数、即ちサンプル数Nsと、サンプリング時間幅Tw中に取得した加速度Axの数とが一致するか否か判定する。そして、除外した加速度Axがある場合(ステップS206:Yes)、システムコントローラ2は、ステップS207へ処理を進める。一方、除外した加速度Axがない場合(ステップS206;No)、システムコントローラ2は、ステップS209へ処理を進める。
【0079】
次に、ステップS206で除外した加速度Axがあると判断した場合、システムコントローラ2は、信頼区間Ciを算出する(ステップS207)。具体的には、システムコントローラ2は、式(7)及び式(8)に基づき、信頼区間Ciを算出する。
【0080】
次に、システムコントローラ2は、信頼区間Ciが推定範囲We内にあるか否か判定する(ステップS208)。そして、信頼区間Ciが推定範囲We内にある場合(ステップS208;Yes)、システムコントローラ2は、分散Vxは信頼性があると判断し、ステップS209の処理を実行する。一方、信頼区間Ciと推定範囲Weとで重複していない部分がある場合(ステップS208;No)、システムコントローラ2は、走行中であると認定する(ステップS211)。これにより、システムコントローラ2は、走行中を停車中と誤認定するのを抑制することができる。
【0081】
信頼区間Ciが推定範囲We内にある場合(ステップS208;Yes)、又は、除外した加速度Axがない場合(ステップS206;No)、システムコントローラ2は、次に、分散Vxが閾値Vxthより小さいか否か判定する(ステップS209)。そして、分散Vxが閾値Vxthより小さい場合(ステップS209;Yes)、システムコントローラ2は、搭載車両が停車中であると認定する(ステップS210)。一方、分散Vxが閾値Vxth以上の場合(ステップS209;No)、システムコントローラ2は、走行中であると認定する(ステップS211)。
【0082】
以上のように、システムコントローラ2は、急ブレーキ等による搭載車両の振動があった場合であっても早期に停車認定を行うことができると共に、走行中を停車中と誤認定するのを抑制することができる。
【0083】
(変形例1)
第1実施例の(変形例1)乃至(変形例7)は、第2実施例にも適用することができる。即ち、この場合、システムコントローラ2は、第1実施例の各変形例に加え、サンプリング時間幅Twでの加速度Axと選定加速度Axsの個数とが異なる場合、第2実施例で説明した信頼区間Ciを用いて停車判定をさらに実行する。これによっても、本発明を好適に実施することができる。
【0084】
(変形例2)
第2実施例の説明では、信頼区間Ciは、95%信頼区間に設定されていた。しかし、本発明が適用可能な信頼区間は、これに限定されない。これに代えて、システムコントローラ2は、信頼区間Ciを他のパーセンテージ(例えば99%)の信頼区間としてもよい。この場合、システムコントローラ2は、そのパーセンテージに対応するt分布表値Cを用いて式(7)を計算することで信頼区間Ciを決定する。これによっても、システムコントローラ2は、信頼区間Ciを用いることで、より的確に停車判定を実行することができる。
【0085】
(変形例3)
図7及び図8の説明では、システムコントローラ2は、サンプリング時間幅Twでの加速度Axと選定加速度Axsの個数とが異なる場合、即ち外れ値が存在する場合、信頼区間Ciを算出後、分散Vx及び信頼区間Ciを用いて停車判定を行っていた。しかし、本発明が適用可能な処理手順は、これに限定されない。これに代えて、システムコントローラ2は、外れ値が存在する場合であっても、まず分散Vxに基づき式(6)による停車判定を行い、分散Vxが閾値Vxth以下のときに信頼区間Ciを算出して推定範囲Weと重複するか否か判定してもよい。これによっても、システムコントローラ2は、的確に停車判定を実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、PND(Personal Navigation Device)などのナビゲーション装置、その他携帯可能な端末(ポータブルデバイス)に好適に適用することができる。また、本発明は、運転者の運転評価及び燃費が良い運転であるか否かを判断するエコ診断を実行する機器等に適用することもできる。いずれの場合であっても、本発明を適用した機器は、加速度センサに基づき停車中か否かを的確に判断することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 加速度センサ
2 システムコントローラ
3 入力装置
4 出力装置
5 データ記憶ユニット
21 インタフェース
22 CPU
23 ROM
24 RAM
100 停車判定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、
前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定手段と、
前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定手段と、
所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出手段と、
前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定手段と、
を備えることを特徴とする停車判定装置。
【請求項2】
前記加速度取得手段は、前記車両の上下方向の加速度を取得し、
前記勾配推定手段は、前記上下方向の加速度に基づき前記道路勾配を推定することを特徴とする請求項1に記載の停車判定装置。
【請求項3】
前記統計量は、ばらつき値であることを特徴とする請求項1に記載の停車判定装置。
【請求項4】
前記ばらつき値は分散又は/及び尖度であることを特徴とする請求項3に記載の停車判定装置。
【請求項5】
前記標本選定手段は、前記車両が停車中の場合に前記道路勾配に基づき決定される前記前後方向の加速度の推定範囲である第1推定範囲と、前記道路勾配の予め想定される範囲に基づき決定される前記前後方向の加速度の推定範囲である第2推定範囲との重複範囲を前記推定範囲として決定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の停車判定装置。
【請求項6】
前記所定時間幅にわたり前記加速度取得手段が取得した前記前後方向の加速度の個数と前記標本選定手段が選定した前記前後方向の加速度の個数とが異なる場合、前記所定時間幅にわたり前記加速度取得手段が取得した前記前後方向の加速度を母集団とした信頼区間を算出する母集団分布推定手段をさらに備え、
前記停車判定手段は、前記個数が異なる場合、前記信頼区間が前記推定範囲に属する場合のみ、前記車両が停車中であると認定することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の停車判定装置。
【請求項7】
加速度センサをさらに備え、
前記加速度取得手段は、前記加速度センサから加速度を取得すると共に、当該加速度センサと停車判定装置とのマウントずれ又は/及び停車判定装置と前記車両との設置ずれを補正することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の停車判定装置。
【請求項8】
車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得工程と、
前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定工程と、
前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定工程と、
所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出工程と、
前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定工程と、
を備えることを特徴とする停車判定方法。
【請求項9】
コンピュータにより実行される停車判定プログラムであって、
車両の少なくとも前後方向の加速度を取得する加速度取得手段と、
前記車両の位置する道路勾配を推定する勾配推定手段と、
前記道路勾配に基づき前記車両が停車した場合の前記前後方向の加速度の推定範囲を算出し、当該推定範囲に基づき前記前後方向の加速度を選定する標本選定手段と、
所定時間幅にわたる選定された加速度の統計量を算出する統計量算出手段と、
前記統計量と所定の閾値とに基づき、前記車両が停車中であるか否か判定する停車判定手段、
として前記コンピュータを機能させることを特徴とする停止判定プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムを記憶したことを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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