説明

健康な細胞に対する電離放射線の影響を低下させる又は防止するための医薬組成物

健康な細胞における電離放射線の効果を減少させる又は防護する方法を提供する。この方法は、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞のような、CDK4/6依存性細胞の一時的な休止を誘導するために、選択的サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害化合物の使用に関する。電離放射線の被曝前、被曝中、又は被曝後に、哺乳類を選択的CDK4/6阻害化合物で処理することにより、哺乳類において放射線防護の効果を生むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年10月1日出願の米国特許出願61/101,824に基づく優先権を主張し、本明細書にはその全体が取り込まれている。
本発明は、米国国立保健研究所から助成金番号R01AG024379-01及びK08CA90679の援助を国立加齢研究所及び国立癌研究所を通して受けた。従って、合衆国連邦政府は本発明の一定の権利を有する。
本発明は、電離放射線に基づく損傷から健康な細胞を防護する方法に関し、より詳細には、電離放射線を被爆した、被爆が予想される、又は被爆する危険性のある患者に投与された選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害剤の放射線防護作用に関する。
【背景技術】
【0002】
電離放射線(IR)は、主として細胞毒性効果により、細胞及び組織上に不都合な効果を有する。ヒトにおいて、電離放射線の被爆は、主として(抗腫瘍放射線治療のような)治療技術又は職業上及び環境での被爆により生ずる。
電離放射線被爆の主要な線源は、ガン又は他の増殖性疾患の治療における放射線治療処理である。電離放射線の治療線量を受けた患者は、一般的に0.1から2グレイ(Gy)/治療を受け、5Gy/治療と同じほど高線量受けることもある。治療医師により処方された治療経過に応じて、患者は、数週間から数ヶ月にわたり複数回の線量を受けることもある。
【0003】
一般的に、放射線治療は、異常組織により吸収される線量を最大化して、近傍の正常組織による吸収される線量を最小化するために、患者の身体の異常増殖組織を含む特定領域に行われる。しかし、治療のために電離放射線を異常組織に選択的に照射することは(不可能でないまでも)困難である。従って、異常細胞に隣接した正常細胞もまた、治療の間に電離放射線による損傷可能線量に曝される。"全身照射(以下「TBI」ともいう。)")と呼ばれる処置において、患者の全身に放射線の照射を必要とする幾つかの治療もある。そのため異常増殖細胞を破壊する放射線治療技術の有効性は、治療に伴う近接する正常細胞の細胞死効果とのバランスがとられる。このために、結果的に大部分の腫瘍に対して不充分な治療となる本質的に狭い治療指数を有する。最善の放射線治療技術でさえ、不完全な腫瘍縮小、腫瘍再発、腫瘍量の増加、及び放射線耐性腫瘍の誘発という結果をもたらしている。
【0004】
電離放射線の有効治療線量を維持しながら、正常組織の損傷を減らすために無数の方法が設計されてきた。これらの技術には、ブラキ治療(密封小線源照射)、分割及び超分割照射、複雑化した線量スケジュール及び照射システム、及び線型加速器を用いた高電圧治療がある。しかしながら、これらの技術は、単に、放射線の治療と好ましくない効果の間のバランスを取ろうとするだけであり、完全な有効性は達成されてない。
【0005】
電離放射線の被爆は、職業/産業環境においても生ずることがある。例えば、原子力産業や核兵器産業等において、放射線の被爆(又は被爆可能性)を伴う仕事を持つ人々は、職業線量の電離放射線を被曝する可能性がある。1979年の原子炉封じ込め建物及び周囲の環境に放射性物質を放出したスリーマイル原子力発電所における事故のような出来事は、有害な被爆の可能性を示す。大惨事は無くとも、原子力発電産業における作業者は、一般大衆より高レベルの放射線を被爆する。
【0006】
原子炉を動力とする船舶に配属された軍作業者、又は放射性降下物により汚染された場所で作業することを要求された兵士は、同様の電離放射線の被爆の危険性がある。軍の作業者はまた、戦場における放射能装置に遭遇する結果として電離放射線を被爆することがある。核反応炉又は放射性物質を含む大惨事を処理するために呼び出された救難作業者、救援作業者及び救急作業者はまた、職業上の被爆を受ける。職業上の被爆はさらに、充分な放射線遮蔽のない宇宙旅行中の宇宙飛行士にも影響する。職業被爆の他の線源として、放射線医療産物、火災報知器、緊急信号、及び他の消費物質の製品から残された機械部品、プラスティックス、及び溶媒などがありうる。
【0007】
職業上の危険性はなくとも、ヒト(及び家畜及びペットのような他の動物)は、環境からの電離放射能に曝されることがある。かなりの量の環境放射線被爆の重要な線源は、スリーマイル島、チェルノブイリ、及び東海村におけるような、原子力発電所事故である。Sandia National Laboratoryによる1982年の研究は、"最悪事例の"原子力事故は、100,000人以上の死亡者及び国土の広い地域の長期の放射性汚染をもたらすことがありうると予測した。ヒト及び動物は、さらに、核戦争又はテロリスト攻撃の結果として電離放射線を被爆する可能性がある。
【0008】
いかなる線源からであろうと、放射線被曝は、急性被曝(単一大規模被爆)と慢性被曝(継続的小規模低線量若しくは長期間連続的低線量の被爆)に分類することができる。放射線症は一般的に十分量の線量の急性被爆に由来し、脱毛、衰弱、嘔吐、下痢、皮膚火傷、及び消化管及び粘膜からの出血を含む、順序だった症状として現れる特徴的な症状の集合を示す。遺伝子異常、不妊及びガン(特に骨髄ガン)はしばしば長期にわたり進行する。慢性被爆は、通常ガン及び早老のような遅発の医学的問題を伴う。
【0009】
一般的に、低線量は放射線症を引き起こすが、200,000ミリレムを越える急性被爆は死をもたらす。約7Gyまでの急性放射線量は、"血液学的症候群"(即ち、IR誘発性骨髄抑制)として知られる効果を引き起こす。7Gyより高い急性放射線量は、"消化管症候群"又は(最も重篤な被爆の場合)"心臓血管/中枢神経症候群"として知られる効果を引き起こす。より小量の急性線量(例えば、1週間以内に100,000〜125,000ミリレム(1Gy相当)の急性全身照射線量でさえ、皮膚火傷又は発疹、粘膜及び消化器出血、嘔吐、下痢及び/又は過度の疲労のような観察可能な生理学的作用をもたらすことが可能である。造血細胞及び免疫細胞破壊、脱毛(アロペシア)、消化器及び口腔粘膜潰瘍、肝臓の静脈閉塞性疾患及び大脳血管の慢性的血管肥厚化、白内障、肺炎、皮膚変性及び癌発症の増加のような長期の細胞毒性及び遺伝子的効果が、長期にわたって明らかとなることが可能である。10,000ミリレム(0.1 Gy相当)以下の急性線量は、長期の細胞毒性又は遺伝子効果を起こすことは可能であるが、即時の観測しうる生物学的及び生理学的効果をもたらさない。
【0010】
抗放射線防護服又は他の防護性の用具は、放射線被曝を減少させる上で有効であるが、このような用具は高価であり、扱いにくく、また一般的に入手できない。さらに、放射線防護用具は、放射線治療の際、腫瘍組織に隣接した正常組織を迷放射線被曝から防護しないであろう。また、放射線防護用具は、既に予期しない放射線被曝を被った患者を助けない。
【0011】
"放射線防護"(IR被曝前に行う、望まないIR効果に対して防護するための処置)又は"放射線緩和策"(IR被曝後に行う、望まないIR効果に対して防護するための処)を提供するために幾つかの方法が提出されてきた(非特許文献1)。アミホスチン(酸素ラジカル捕捉剤)は臨床的放射線誘発性粘膜炎に対する防護を提供するが、血液学的毒性を減少させる上で有効でない。さらなる放射線防護剤を用いた治療として、特にIRに伴う貧血及び好中球減少症に関して、成長因子の使用がある。造血成長因子は、組み換えタンパク質として、市場で入手可能である。このようなタンパク質として、好中球減少症の治療用に、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)並びに顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及びこれ等の誘導体があり、貧血の治療用に、赤血球生成促進因子(EPO, エリスロポエチン)及びこの誘導体がある。しかしながら、これらの組み換えタンパク質は高価である。さらに、EPOはガン患者においてかなり毒性があり、幾つかの大規模な無作為治験において、血栓症、再発及び死の増加をもたらす。G-CSF及び GM-CSFは、白血病及び脊髄異形成のような続発性骨髄異常の遅延性リスク(>2年治療後)を増加させることが可能である。従って、これらの使用は限定され、及び必要な全ての患者に入手可能ではない。さらに、成長因子は幾つかの種類の血液細胞リネージ(造血系細胞へ分化する細胞)の回復を早めることができるが、血小板、マクロファージ、T−細胞又はB−細胞の抑制を処置する治療は存在しない。キレート試薬及びヨウ素補足は特定の放射性同位元素の毒性を緩和することができるが、IRの血液学的毒性の緩和には有効でない。
【0012】
非選択的キナーゼ阻害化合物スタウロスポリンは、幾つかの培養細胞種において、DNA損傷作用物からの防護を行うことが示された(非特許文献2及び3)。スタウロスポリンは天然産物であり、及び大部分の哺乳類キナーゼに高親和性で結合する非選択的キナーゼ阻害化合物である(非特許文献4)。スタウロスポリン処理は、細胞種類、薬剤濃度、及び処理時間に応じて、アポトーシス、細胞周期停止及び細胞周期チェックポイント失効を含む一連の細胞応答を誘導することができる。例えば、スタウロスポリンは、G2チェックポイント応答の失効を含む幾つかの主張されたメカニズムにより、電離放射線及び化学療法のようなDNA損傷作用物に対する細胞の感受性を高めることが示された(非特許文献5〜15)。幾つかの培養細胞腫においてスタウロスポリン処理がDNA損傷作用物からの防護を提供するメカニズムははっきりしないが、幾つかの可能なメカニズムとして、タンパク質キナーゼCの阻害、又はCDK4タンパク質レベルの減少が示唆されている(非特許文献16及び17)。スタウロスポリンは、造血前駆細胞に効果が無いことが示され、及びDNA損傷作用物被曝後充分後のスタウロスポリン使用は、防護を示さなかった。スタウロスポリンの非選択的キナーゼ阻害は、哺乳類へのin vivo投与後、細胞周期への効果に無関係の顕著な毒性(例えば、高血糖症)をもたらすことが示されてきた、及びこれらの毒性は、スタウロスポリンの臨床的使用を不可能にした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Weiss and Landauer, Int. J. Radiat. Biol., 85, 539-573 (2009)
【非特許文献2】Chen et al., J. Natl. Cancer Inst., 92, 1999-2008 (2000)
【非特許文献3】Ojeda et al., Int. J. Radiat. Biol., 61, 663-667 (1992)
【非特許文献4】Karaman et al., Nat. Biotechnol., 26, 127-132 (2008)
【非特許文献5】Bernhard et al., Int. J. Radiat. Biol., 69, 575-584(1996)
【非特許文献6】Teyssier et al., Bull. Cancer, 86, 345-357 (1999)
【非特許文献7】Hallahan et al., Radiat. Res., 129, 345-350 (1992)
【非特許文献8】Zhang et al., J. Neurooncol., 15, 1-7 (1993)
【非特許文献9】Guo et al., Int. J. Radiat. Biol., 82, 97-109 (2006)
【非特許文献10】Bucher and Britten, Br. J. Cancer, 98, 523-528 (2008)
【非特許文献11】Laredo et al., Blood, 84, 229-237 (1994)
【非特許文献12】Luo et al., Neoplasia, 3, 411-419 (2001)
【非特許文献13】Wang et al., Yao Xue Xue Bao, 31, 411-415 (1996)
【非特許文献14】Chen et al., J. Natl. Cancer Inst., 92, 1999-2008(2000)
【非特許文献15】Hirose et al., Cancer Res., 61, 5843-5849 (2001)
【非特許文献16】Chen et al., J. Natl. Cancer Inst., 92, 1999-2008(2000)
【非特許文献17】Ojeda et al., Int. J. Radiat. Biol., 61, 663-667(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、電離放射線の被爆を被る予定のある患者、被曝を被る危険性のある患者、又は既に被曝を被ってしまった患者を防護するための実際的方法が継続的に必要とされている。治療上の照射においては、腫瘍細胞を放射線の有害な効果を被りやすいようにしたままで、正常細胞の防護を高めることが望まれる。さらに、職業上若しくは環境上の被爆又はある治療技術で生ずるような、予想された又は不慮の全身被爆から組織的に防護する手段を提供することが望まれている。
本発明の目的は、患者に有効量の選択的CDK4及び/又はCDK6阻害化合物を投与することにより、患者の健康な細胞を電離放射線の影響から防護する方法を提供することである。
上記の目的は、本発明により全体的に又は部分的に達せられる。また、明細書及び図面が以下に最善に開示するに従って、この他の目的も明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、電離放射線に被曝した、これから被曝する、又は被曝する虞のある患者の健康な細胞に対する電離放射線の影響を低下させる又は防止する方法であって、この患者に有効量の阻害化合物又はその医薬的に許容可能な塩を投与することから成り、この健康な細胞が造血幹細胞又は造血前駆細胞であり、この阻害化合物がサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害することを特徴とする方法を提供する。
【0016】
幾つかの態様において、この阻害化合物は、ピリド[2,3-d]ピリミジン、トリアミノピリミジン、アリール[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、窒素含有ヘテロアリール置換尿素、 5-ピリミジニル-2-アミノチアゾール、ベンゾチアジアジン、及びアクリジンチオンからなる群から選択される。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジンは、ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン又は2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オンである。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、2-(2'-ピリジル)アミノピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンである。 幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]ピリミジン-7-オンである。
【0017】
幾つかの態様において、アリール[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールは、ナフチル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、インドロ[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、キノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、及びイソキノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールからなる群から選択される。幾つかの態様において、このアリール[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールは、2-ブロモ-12,13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]-カルバゾール-5,6-ジオンである。
【0018】
幾つかの態様において、この阻害化合物はCDK4及びCDK6の両者を阻害する。幾つかの態様において、この阻害化合物は、非天然化合物である。
幾つかの態様において、この阻害化合物は、CDK4-及び/又はCDK6-依存性細胞において、G1期停止を誘導する。幾つかの態様において、この阻害化合物は、CDK4-及び/又はCDK6-依存性細胞において、実質的に純粋なG1期停止を選択的に誘導する。
【0019】
幾つかの態様において、この阻害化合物は、実質的にオフターゲット効果(標的非依存的効果)がない。幾つかの態様において、このオフターゲット効果は、長期の毒性、抗酸化効果、発情効果、チロシンキナーゼ阻害、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)以外のサイクリン依存性キナーゼ類(CDKs)阻害、及びCDK4/6非依存性細胞における細胞周期停止からなる群の1又はそれ以上の効果である。
【0020】
幾つかの態様において、この患者は哺乳類である。幾つかの態様において、この阻害化合物は、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、吸入、及び静脈内投与から成る群から選択される1の方法により患者に投与される。
幾つかの態様において、この阻害化合物は、電離放射線の被曝前、被曝中、被曝後、又はこれらの組合せの際、患者に投与する。幾つかの態様において、この記阻害化合物は、電離放射線被曝前の約24時間以内に、患者に投与される。幾つかの態様において、この阻害化合物は、電離放射線被爆の間にこの化合物の血清中の濃度がピークになるように、電離放射線被曝前に、患者に対して投与される。幾つかの態様において、この前記阻害化合物は、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]ピリミジン-7-オンであって、電離放射線被曝4時間前にこの阻害化合物が患者に経口的に投与される。
【0021】
幾つかの態様において、この阻害化合物は、電離放射線被爆後に患者に投与される。幾つかの態様において、この阻害化合物は、電離放射線被爆後約24時間又はそれ以後に患者に投与される。
幾つかの態様において、この健康な細胞は、長期造血幹細胞(LT-HSCs)、短期造血幹細胞(ST-HSCs)、多分化能前駆細胞(MPPs)、骨髄共通前駆細胞(CMPs)、リンパ球共通前駆細胞(CLPs)、顆粒球単球前駆細胞(GMPs)及び赤芽球系前駆細胞(MEPs)からなる群から選択される。幾つかの態様において、この阻害化合物の投与により、患者における造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞は一時的に薬理学的に休止する。
幾つかの態様において、この患者は、電離放射線を被曝した、又は戦争、放射性物質のテロ攻撃、産業上の事故、他の職業上の被爆若しくは宇宙旅行の間の放射性物質被爆の結果として電離放射線を被曝する危険性がある。
【0022】
幾つかの態様において、患者は疾患を治療するために放射線治療を受ける。幾つかの態様において、阻害化合物の投与は、疾患にかかった細胞の増殖に効果を持たない。幾つかの態様において、この疾患は、ガンである。幾つかの態様において、このガンは、サイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)の活性増加、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)の活性増加、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)の欠失又は不在、高レベルのMYC発現、サイクリンEの増加、及びサイクリンAの増加からなる群の1以上の特徴を持つ。幾つかの態様において、阻害化合物の投与により、阻害化合物の投与なしの場合に用いられる線量より高線量の電離放射線を用いて、疾患を治療することが可能になる。
幾つかの態様において、この方法には、長期の血液学的毒性がない。この阻害化合物の投与は、阻害化合物の投与無しで電離放射線に被曝した場合に予想される結果と比べて、貧血を減少させ、リンパ球減少症を減らし、血小板減少症を減らし、又は好中球減少症を減らす結果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】血液新生、造血幹細胞(HSC)の階層的増殖、及び増殖に際し分化度を増す前駆細胞の概略図である。
【図2A】6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)を用いて毎日の口腔治療にもかかわらず進行する原発のTyrRAS+Ink4a/Arf-/- メラノーマの一連の代表的モノクロ画像であり、メラノーマのp161NK4−欠失遺伝子工学によるマウスモデル(GEMM)は、選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害に対し感受性がないことを示す。
【0024】
【図2B】1日1回150mg/kg/doseで、16日間連続的に6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)処理した後の、対応する処置及び非処置集団の腫瘍成長を示すグラフである。このデータは、5匹の非処理マウス(黒塗り三角)の6腫瘍及び5匹の処理マウス(白丸)の7腫瘍の規格化した腫瘍サイズの時間経過を示す。矢印は、腫瘍進行羅患率のために殺処分した時点を示す(非処置動物に対して白矢印;処置動物に対して影付き矢印)。誤差バーは+/−平均の標準誤差(SEM)である。
【0025】
【図2C】マウス(TyrRAS+Ink4a/Arf-/- マウスからのKPTR1, KPTR4 及びKPTR5)メラノーマ細胞株における細胞周期解析のための一群の用量応答曲線を示すグラフである。細胞を、15分間の5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)パルス前に、24時間、X軸に示した濃度で6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)で処理し、細胞を採取し、固定し、染色し、及びフローサイトメトリーで解析した。G1期の細胞の割合は、黒塗り四角で示すデータにより示される。S期の細胞の割合は、白三角のデータにより示される。G2/M期細胞の割合は、白丸のデータにより示される。Ki67ポジティブ染色で印されているように活発に増殖する細胞の割合は、黒塗りダイヤで示される。誤差バーは、+/−平均値の標準誤差(SEM)である。
【0026】
【図2D】処理群による腫瘍増殖のグラフである。7.5 グレイ(Gy)全身照射(TBI)の4時間前に単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)処理後(白四角)又は非処理後(黒塗りダイヤ)の腫瘍増殖である。黒塗り三角は、比較のための非照射、非処理腫瘍を示す。n.s.は7.5 GyTBIを受けた群間を比較して全て有意差がない。誤差バーは、+/−平均値の標準誤差(SEM)である。サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害化合物処理は、放射線治療の抗腫瘍効果を減じない。
【0027】
【図2E】一組のKaplan-Meyer生存率曲線であり、電離放射線(IR)照射4時間前に6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)処理後(実線、n=8)の又は非処理後(点線,n=11)の腫瘍を担うマウスに7.5 グレイ(Gy)全身照射(TBI)した後の全体としての死亡率、腫瘍関連死亡率、及び放射線毒性に対する死亡率を示す。P−値は、ログランク検定を用いて計算した。サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害処理は、腫瘍関連死亡率を増加させないようであるが、放射線毒性からの防護を提供するようである。
【0028】
【図3A】サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)依存性細胞(ヒト不死化二倍体繊維芽細胞(tHDFs、グラフの左欄)及びCDK4/6依存性ヒトメラノーマ細胞株(WM2664、グラフ中央欄));及びCDK4/6非依存性細胞(ヒト網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)ヌル・メラノーマ細胞株(A2058)、グラフの右欄)の両者における細胞周期解析に対する用量応答曲線を示す一組のグラフである。細胞を24時間、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)パルスの15分前にx−軸に示した濃度で、選択的又は非選択的CDK4/6阻害化合物(上から下に:フラボピリドール; R547 (化合物7); ロスコビチン; 2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC);及び 6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991))と処理し、細胞を採取し、固定し、染色し及びフローサイトメトリーで解析した。G1期の細胞の割合は、白三角で示すデータにより示され、S期の細胞の割合は、影付き丸で示すデータにより示され、及びG2/M期の細胞の割合は、2重"x"で示すデータにより示される。
【0029】
【図3B】図3Aに記載したグラフで示すデータに対応する一組の代表的細胞周期ドット−プロットである。(最上部の列に)示す図は、コントロール(対照)であるジメチルスルホキシド(DMSO)を除いて、特異的又は非特異的CDK阻害化合物処理をしない対照細胞に対する代表的細胞周期ドット−プロットである。ヨウ化プロピジウム染色で測定したDNA含量の増加をx−軸に示し、他方5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)取り込みをy−軸に示す。
【0030】
【図4A】ブロット画像に示したように、6グレイ(Gy)線量の電離放射線(IR)、又は非照射、照射後3時間後若しくは6時間後の不死化ヒト二倍体繊維芽細胞(tHDF)溶解物におけるDNA損傷応答マーカー(ホスホ−P53)のWesternブロット画像である。IRの前にこのtHDFは、24時間、100nMの6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)で処理(+)又は非処理(−)した。アクチンWestern ブロットは、負荷対照である。
【0031】
【図4B】図4Aで記載した不死化ヒト二倍体繊維芽細胞(tHDF)における規格化したホスホ−P53強度を示す棒グラフである。ジメチルスルホキシド(DMSO)処理の細胞のデータは対照として白棒で示し、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)処理細胞のデータは影付き棒で示した。
【0032】
【図5A】6 Gy電離放射線(IR)照射した(下段)及び照射しない(上段)一組の不死化ヒト二倍体繊維芽細胞(tHDF)のホスホ−γ-H2AX焦点(核)及びファロイジン染色(細胞質)のモノクロ40x画像である。示した培養細胞は、IR照射前に、24時間、100nMの6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991;右欄))又は媒体のみ(ジメチルスルホキシド、左欄)処理を行った。スケールバー=50μm。
【0033】
【図5B】図5Aに示したように、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)処理後0及び3時間後、6グレイ(Gy)電離放射線(IR)照射又は非照射のγ-H2AX免疫蛍光画像からの平均核蛍光強度の定量を示すグラフである。各条件に対しN=139又はそれ以上;ボックス=中央50%、偏差=0〜25%及び75〜100%。ペアの比較に対するDunn多重比較検定を伴うKruskal-Wallisにより有意さを決定した(***p<0.0001)。
【0034】
【図5C】選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害化合物6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)で前処理して(右画像)又は前処理無しで(左画像)8グレイ(Gy)電離放射線(IR)照射した細胞に対して行ったコメット尾検定(DNA損傷の直接測定)からの一対の代表的20倍率の画像である。不死化ヒト二倍体繊維芽細胞を照射し、固定した。固定後、細胞核に電気泳動により電場を掛け、非損傷DNAと比較し断片化したDNAは、より長距離泳動した。8GyのIR処理は、顕著なDNA断片化を誘発し、選択的CDK4/6阻害化合物処理により断片化は大きく減少した。
【0035】
【図5D】図5Cに記載したコメット尾検定の結果を定量化し、20xの拡大率で示す棒グラフであり、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991、影付き棒)又は媒体のみ(ジメチルスルホキシド(DMSO);白棒)の処理後細胞に図に示した照射量の電離放射線(0,3,4,6,又は8グレイ(Gy))を照射した。溶媒単独処理と比較して、選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害化合物は、DNA損傷の直接的測定である、コメット尾形成を強く阻害する。誤差バーは平均の標準誤差である。
【0036】
【図5E】図5Cに記載したと同様のコメット尾検定の結果を定量し、10xの拡大率で示す棒グラフであり、2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC;影付き棒)又は媒体のみ(ジメチルスルホキシド(DMSO);白棒)の処理後細胞に図に示した照射量の電離放射線(0,2,4,6,又は8グレイ(Gy))を照射した。溶媒単独処理と比較して、選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害化合物は、DNA損傷の直接的測定である、コメット尾形成を強く阻害する。誤差バーは平均の標準誤差である。
【0037】
【図5F】電離放射線(IR)照射前に24時間、2μMの選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害化合物2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC)で処理(右欄)又は非処理(左欄)後、0,2,4,6,又は8グレイ(Gy)の電離放射線照射後の一組みの代表的ホスホ−γ-H2AX(x軸)ドット−プロットである。2BrIC非処理の細胞は、代わりに、媒体(ジメチルスルホキシド(DMSO)のみの処理を行った。ホスホ−γ-H2AX(x軸)を発現する細胞の割合の増加がDMSO処理細胞において、IRの線量の増加と共に見られる。2BrIC処理は、IR誘発性DNA損傷を強く減らした。
【0038】
【図5G】図5Eに示す結果を定量化した棒グラフである。電離放射線照射前に24時間、2μMの選択的サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害化合物2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC)への被曝により、DNA損傷のマーカーである、ホスホ−γ-H2AX発現の誘発が減少する。2BrIC処理の細胞からのデータを、縞模様棒で示し;ジメチルスルホキシド(DMSO)処理の細胞からのデータを、点状棒で示す。
【0039】
【図6A】異なる細胞/ウェル比で蒔種し、及び、表示した0,1,5,3,6又は9グレイ(Gy)の電離放射線照射前に、24時間、負対照としてジメチルスルホキシド(DMSO)処理、又は2μMの選択的CDK4/6阻害化合物2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC)処理した、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)依存性培養細胞(HS68)をクリスタル・バイオレット染色した一組の顕微鏡画像である。
【0040】
【図6B】図6Aに記載した2BrIC処理の照射したHS68細胞の細胞生存率の増加を示すグラフである。ジメチルスルホキシド(DMSO)単独処理の細胞のデータと比べた、2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC)処理した細胞のデータ。データは、ジメチルスルホキシド(DMSO)処理細胞に対する2BrIC処理細胞の面積/細胞比としてプロットした。誤差バーは平均の標準誤差である。
【0041】
【図7】100nMの6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)の前処理、及び様々な線量の電離放射線(IR;0〜9グレイ(Gy))照射後の、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)依存性細胞(不死化ヒト二倍体繊維芽細胞(tHDFs);影付きダイヤ)の細胞生存率の増加及びCDK4/6非依存性細胞(網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)-ヌルメラノーマ細胞株A2058;白ダイヤ)の増加しない細胞生存率を示すグラフである。プロットしたデータは、ジメチルスルホキシド(DMSO)処理細胞に対するPD0332991処理細胞の面積/細胞比である。誤差バーは平均の標準誤差を示す。
【0042】
【図8】対照としてジメチルスルホキシド(DMSO)又は300nM、1μM,3μM,10μM又は30μMのトランス-4-[[6-エチルアミノ]-2-[[1-フェニルメチル]-1H-インドール-5-イル]アミノ]-4-ピリミジニル]アミノ]]-シクロヘキサノール (CINK4)で処理した、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)依存性ヒトメラノーマ細胞(WM2664)(上段2行)及びCDK4/6非依存性ヒトメラノーマ細胞(A2058)(下段2行)の一組の代表的細胞周期ドット−プロットである。
【0043】
【図9A】表示したように0、1、5,3,6,又は9グレイ(Gy)の電離放射線照射前に、24時間、対照としてジメチルスルホキシド(DMSO);又は処理群として6μMの非選択的CDK4/6阻害化合物トランス-4-[[6-エチルアミノ]-2-[[1-フェニルメチル]-1H-インドール-5-イル]アミノ]-4-ピリミジニル]アミノ]]-シクロヘキサノール (CINK4)で前処理し、異なる細胞/ウェル比で蒔種した、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)依存性細胞(HS68)の一組の培養細胞の顕微鏡画像である。プレートは、細胞コロニーを可視化するためにクリスタルバイオレット染色を行った。
【0044】
【図9B】図9Aで記載したように、トランス-4-[[6-エチルアミノ]-2-[[1-フェニルメチル]-1H-インドール-5-イル]アミノ]-4-ピリミジニル]アミノ]]-シクロヘキサノール (CINK4)で前処理した照射したHS68細胞が、細胞生存率の増加を欠くことを示すグラフである。ジメチルスルホキシド(DMSO)処理細胞と比べた、CINK4処理の細胞の面積/細胞比を、影付きダイヤが示す。誤差バーは、平均の標準誤差である。
【0045】
【図10A】細胞表面抗原を用いた、造血幹細胞(HSC, CD150+Lin-Kit+Sca+)及び多分化能前駆細胞(MPP, Lin-Kit+Sca+;上部)及び骨髄系前駆細胞(Lin-Kit+Sca-;下部)に対する一連のフローサイトメトリー・ゲート図式である。
【0046】
【図10B】無処理(N=6)又は6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)処理後48時間の、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)取り込み及びKi67発現で測定した、造血幹細胞及び前駆細胞集団における増殖の一連の代表的等高線プロットである。増殖細胞を標識するために、最後の24時間処理の間に、マウスに1mgの5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)を6時間毎に注射した。等高線は、5%密度を表す。BrdU取り込みにより、G1からS期細胞周期通過が測定され、及びKi67発現は、細胞増殖マーカーである。PD処理は、明白に、これらの初期HSP(造血幹細胞及び前駆細胞)における増殖を減らす。
【0047】
【図10C】図10Bからの無処理(白棒)及び処理(黒塗り棒)細胞集団における、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)取り込み及びKi67発現データの定量を示す一組の棒グラフである。*p、0.05,**p<0.01,***p<0.001.誤差バーは平均の標準誤差である。
【0048】
【図10D】図10Bにおけるように、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)非処理(白棒)及び処理(黒塗り棒)細胞集団における、処理/非処理の48時間後、及び5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)被曝24時間後、Lin-、造血幹細胞(HSC)、多分化能前駆細胞(MPP)又はLin-cKit+Sca1-集団の相対頻度を示す一組の棒グラフである。*p、0.05,**p<0.01,***p<0.001。誤差バーは平均の標準誤差である。かなり多量の、より分化した骨髄細胞がCDK4/6阻害化合物存在下で、分裂及び分化を続けるために、CDK4/6阻害化合物処理によりHSC及び MPPが相対的に濃縮された。
【0049】
【図11A】細胞表面抗原を用いた、非処理多分化能前駆(MPP)細胞(上段)、及び2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC)−処理MPP細胞(下段)に対する一連のフローサイトメトリー・ゲート図である。24時間の2BrIC処理又は非処理に加えて、細胞はまた、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)存在下にある。
【0050】
【図11B】図11Aから得たLin-Kit+Sca-1ポジティブな2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン (2BrIC) 非処理、及び2BrIC処理細胞集団における5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)ポジティブ細胞の割合を示す棒グラフである。BrdU取り込みは、G1からS−期細胞周期移行の目安であり、in vivoでの2BrIC処理は、MPPの増殖を明らかに減少させる。
【0051】
【図12A】全骨髄細胞性に対する、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)48時間処理の効果を示す棒グラフである。48時間PD0332991処理後の骨髄単核球細胞(BM-MNCs)の数を、黒塗り棒で示し、PD0332991非処理後のBM-MNCsの数を、白棒で示す。誤差バーは、平均の標準誤差である。
【0052】
【図12B】6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)を24時間、及び5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)パルスを48時間、処理後(影付き棒)又は非処理後(白棒)の全Lin-細胞におけるカスパーゼ3+及び生存率(%)を示す棒グラフである。誤差バーは平均の標準誤差を示す。
【0053】
【図12C】6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)を48時間、及び5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)パルスを24時間、処理後(影付き棒)又は非処理後(白棒)の造血幹細胞(HSC)におけるカスパーゼ3+及び生存率(%)を示す棒グラフである。誤差バーは平均の標準誤差を示す。
【0054】
【図12D】6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)を48時間、処理後(影付き棒)又は非処理後(白棒)の骨髄球、赤血球及びリンパ球前駆細胞におけるLin-細胞の割合を示す棒グラフである。*p、0.05,**p<0.01,***p<0.001。誤差バーは平均の標準誤差を示す。
【0055】
【図12E】骨髄採取前に2日間6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)を毎日、経口強制給餌非処理(白棒;N=8)又は処理(影付き棒;N=9)後のマウスから骨髄採取後、1,2及び5週目の敷石領域形成細胞(CAFC)の数を示す棒グラフである。CAFCは1×10骨髄単核細胞(BM-MNCs)当たりの数である。誤差バーは、+/−2通り測定しプールした試料の平均値の標準誤差である。
【0056】
【図13A】放射線防護実験における6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン (PD 0332991)の初回、複数回投与の処理スケジュールを示す概略図である。マウスには、電離放射線照射の28時間前(−28時間)、4時間前(−4時間)及び20時間後(+20時間)、PD0332991を投与した。
【0057】
【図13B】7.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)を被ったマウスのKaplan Meiyer解析を示す。複数回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(図13AのようにPD 0332991;TBIの20時間前、4時間前、及び20時間後;N=9)を投与したマウスの生存曲線を実線で示す。PD0332991(N=9)投与を受けなかったマウスの生存曲線を点線で示す。P−値をログランク検定で決定した。
【0058】
【図13C】7.5 グレイ(Gy)全身照射(TBI)の照射時と相対的に−28,−4及び+20時間に複数回の、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)を投与したマウスのKaplan Meiyer解析を示す。非投与マウス(N=16)を破線で示し、投与マウスを実線で示す。有意度(**p<0.001)をログランク検定により決定した。
【0059】
【図13D】7.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)と同時(0時間)に、単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)を投与したマウスのKaplan Meiyer解析を示す。非投与マウス(N=16)を破線で示し、投与マウス(N=8)を実線で示す。有意度(**p<0.01)をログランク検定により決定した。
【0060】
【図13E】7.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)の照射前4時間(−4時間)に単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)の投与を受けたマウスのKaplan Meiyer解析を示す。非投与マウス(N=16)を点線で示し、投与マウス(N=9)を実線で示す。有意度(**p<0.01)をログランク検定により決定した。
【0061】
【図13F】7.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)照射後20時間(+20時間)に、単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)を投与したマウスのKaplan Meiyer解析を示す。非投与マウス(N=16)を点線で示し、投与マウス(N=10)を実線で示す。有意度(**p<0.05)をログランク検定により決定した。
【0062】
【図13G】致死線量(7.5Gy)の電離放射線(IR)に被曝後21日のマウスからの異なる種類の血液細胞リネージのヘマトクリット(赤血球容積)値又は細胞数を示す棒グラフである。6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)処理を行ったマウスのデータを暗影付き棒で示し、PD0332991処理しなかった照射マウスのデータを白棒で示す。比較のために、IRに被曝しなかったマウスからのデータも示す(淡影付き棒)。データは、PD0332991処理は全ての種類の血液細胞リネージを防護することを示す。骨髄性細胞数は、顆粒球及び単球の和である。*p、0.05,**p<0.01,***p<0.001。細胞数があまりに少なくて信頼できない場合、誤差バーの代わりにコホートの最大値を示すことを、#は示す。誤差バーは平均の標準誤差を示す。
【0063】
【図14A】7.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)した近交系C3HマウスのKaplan Meier解析を示す。TBIの4時間前に、単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)投与を行ったマウスの生存曲線を実線で示す(N=9).PD0332991処理しなかったマウスの生存曲線を点線で示す(N=9)。P値はログランク検定で定めた。
【0064】
【図14B】6.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)した近交系C57Bl/6マウスのKaplan Meier解析を示す。TBIの4時間前に、単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)投与を行ったマウスの生存曲線を実線で示す。PD0332991処理しなかったマウスの生存曲線を点線で示す(N=9)。
【0065】
【図14C】8.5グレイ(Gy)全身照射(TBI)したマウスのKaplan Meier解析を示す。TBIの4時間前に、単回の6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)投与を行ったマウスの生存曲線(N=17、実線)及びPD0332991処理せず、TBI処理したマウスの生存曲線(N=13、点線)を示す。P値はログランク検定で定めた。
【0066】
【図15】6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)処理(影付き丸)又は非処理(白四角)、及び亜致死量(6.5 グレイ(Gy))の全身照射(TBI)を受けたマウスからの異なる種類の血液細胞リネージのヘマトクリット又は細胞数を示す一組のグラフである。データは、尾血管出血からの毎週の全血球計数から作成した。アステリスクは、両面t検定で決定した統計的有意性を示す。誤差バーは、+/−平均の標準誤差である。
【0067】
【図16】致死量(7.5 グレイ(Gy))又は亜致死量(6.5 グレイ(Gy))の全身照射(TBI)を受けた後143〜242日後のマウスからの異なる種類の血液細胞リネージのヘマトクリット又は細胞数を示す一組の棒グラフである。6.5Gy TBI前に6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)処理のマウスのデータを、黒塗り棒で示し、7.5 Gy TBIの前にPD0332991処理のマウスのデータを点状棒で示す。6.5 Gy TBIを受けたが、PD0332991処理しなかったマウスのデータを縞模様棒で示す。PD0332991又はTBI処理しなかったマウスのデータを、白棒で示す。骨髄性細胞数は、顆粒球及び単球の和である。
【0068】
【図17】12日間150mg/kgの6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991)を毎日強制経口給餌により処理したマウスからの全血球計数(CBC)を示す一連のグラフである。3回の連続したCDCの平均を表わす各ポイントによる移動平均としてデータを示す。誤差バーは、+/−移動平均に関わる全てのデータポイントの平均の標準誤差である。各グラフの下端、左に示す黒塗り棒は、PD0332991処理の期間である。PD0332991処理マウスからのデータを、白四角で示す。比較のために、PD0332991非処理のマウスからのデータを影付き丸で示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
本発明を、代表的実施形態を示す、添付した実施例を参考に本明細書で詳細に説明する。しかしながら、本発明は、異なる形式に具体化することができる、また本明細書に記載された実施形態に制限されると考えるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が充分であり完全であり、及び当業者にとって実施形態の範囲を完全に伝達するために提供されている。
もし、別なやり方で定義しなければ、本明細書に用いる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を持つ。本明細書で述べた全ての出版物、特許申請、特許、及び他の参照をその全体について参考文献として取り込む。
明細書及び特許請求の範囲を通して、与えられた化学式、又は化学名は、全ての光学的、及び立体的異性体、及びこれらの異性体及び混合物が存在するラセミ体を包含する。
【0070】
本明細書で用いる略語は次の意味である:
℃=摂氏、%=パーセント、μL=マイクロリットル、μM=マイクロモル(数)、2BrIC=2-ブロモ-12,13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]-ピロロ[3,4]-カルバゾール-5,6-ジオン、BM=骨髄、BM-MNC=骨髄単核細胞、BrdU=5-ブロモ-2-デオキシウリジン、CAFC=敷石状領域形成細胞、CBC=全血球計数、CDK=サイクリン依存性キナーゼ、CDK4/6=サイクリン依存性キナーゼ4 及び/又はサイクリン依存性キナーゼ 6、CLP=リンパ球共通前駆細胞、CMP=骨髄共通前駆細胞、DMF=ジメチルホルムアミド、DMSO=ジメチルスルホキシド、DNA=デオキシリボ核酸、ESI=電気スプレイ電離、EtOAc=酢酸エチル、EtOH=エタノール、FBS=仔牛胎児血清、g=グラム、G-CSF=顆粒球コロニー刺激因子、GEMM=遺伝子工学によるマウスモデル、GM-CSF=顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、GMP=顆粒球単球前駆細胞、Gy=グレイ、h=時間、HSC=造血幹細胞、HSPC=造血幹細胞及び前駆細胞、IC50=50% 阻害濃度、i.p.=腹腔、IR=電離放射線、kg=キログラム、LC-MS=液体クロマトグラフィー質量分析器、LD90=90% 致死線量、LT-HSC=長期造血幹細胞、M=モル(濃度)、MEP=赤芽球系前駆細胞、mg=ミリグラム、MHz=メガヘルツ、mL=ミリリットル、mmol=ミリモル、mol=モル、Mp=融点、MPP=多分化能前駆細胞、NBS=N-ブロモスクシンイミド、nM=ナノモル(濃度)、NMR=核磁気共鳴、PBS=リン酸緩衝液、PD=6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(PD 0332991とも呼ばれる)、PQ=医薬学的休止、RB=網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質、r.t.=室温、SEM=平均の標準偏差、ST-HSC=短期造血幹細胞、Sv=シーベルト、TBI=全身照射、tHDF=不死化ヒト二倍体繊維芽細胞、THF=テトラヒドロフラン、UV=紫外線
【0071】
I.定義
以下の用語は、当業者により良く理解されると信ずるが、以下の定義は本発明の説明を円滑にするために示すものである。
長年の特許法慣習に従い用語"a(1つ、ある)"、"an(1つ、ある)"及び"the(その、この)"は、請求の範囲を含めて本申請で用いる際"1以上"を表す。従って、例えば、"a compound(ある化合物)"又は"a cell(ある細胞)"に関しては、複数のこのような化合物又は細胞等々を含む。
2個の項目又は条件の記載に用いる場合、例えば、CDK4及び/又はCDK6、用語"及び/又は"は、両項目又は条件が存在する又は適用可能である状況に対して、及び両項目又は条件の1つだけが存在する、又は適用可能である状況を表す。従って、CDK4及び/又はCDK6阻害化合物は、CDK4及びCDK6の両者を阻害する化合物であること、CDK4のみを阻害する化合物、又はCDK6のみを阻害する化合物であることができる。
【0072】
"健康な細胞"又は"正常な細胞"は、疾病の症候又はマーカーを示さない患者のいかなる細胞をも意味する。幾つかの態様において、健康な細胞は、造血幹細胞又は造血前駆細胞である。前駆細胞としては、長期造血幹細胞(LT-HSCs)、短期造血幹細胞(ST-HSCs)、多分化能前駆細胞(MPPs)、骨髄共通前駆細胞(CMPs)、リンパ球共通前駆細胞(CLPs)、顆粒球単球前駆細胞(GMPs)、及び赤芽球系前駆細胞(MEPs)を含むことができるが、これらに制限されない。
【0073】
本明細書で用いるように、用語"電離放射線"は、細胞又は組織に吸収された時、一般的に活性酸素種及びDNA損傷の生成を誘発する、充分なエネルギーの放射線を表す。電離放射線は、X−線、ガンマ線、及び粒子照射(例えば、中性子線、電子線、プロトン、中間子、及び他)を含むことができて、及び医学的検査及び治療、化学的目的、産業上の検査、生産及び殺菌、及び武器及び武器開発を含むが、これらに制限されない、目的のために使用される。放射線は、一般的に、ラド又はグレイ(Gy)のような、吸収線量単位、又はレム又はシーベルト(Sv)のような、等価線量単位で測定される。
【0074】
"電離放射線被爆を受ける危険性"は、将来IRの被爆を受ける(予定された放射線治療期間のように)予定のある患者、又は将来不注意でIR被爆の機会を持つ患者を意味する。不注意の被爆は、事故、又は計画されてない環境又は職業上の被爆(例えば、放射能兵器を用いたテロリスト攻撃又は戦場における放射能兵器への被曝)を含む。
【0075】
"有効量の阻害化合物"は、患者の健康な造血幹細胞又は前駆細胞における放射線関連の毒性を減少又は除去するに有効な量を意味する。幾つかの態様において、有効量は、患者において、一時的(例えば、数時間又は数日)に造血幹細胞の増殖を阻害する(即ち、造血幹細胞の休止状態を誘導する)に必要な量である。
【0076】
"長期血液学的毒性"は、選択的CDK4/6阻害化合物の投与後、1週間以上、数ヶ月又は数年以上続く期間患者に作用する血液学的毒性を意味する。長期血液学的毒性は、血液細胞の非効率的産生(即ち、骨髄異形成)及び/又はリンパ球の非効率的産生(リンパ球減少症、B−及びT−細胞のような、循環するリンパ球数の減少)をひき起こすことが可能な骨髄障害をもたらすことができる。血液学的毒性は、例えば、貧血、血小板数の減少(即ち、血小板減少症)として、又は白血球数の減少(好中球減少症)として、観察することができる。幾つかの症例において、骨髄異形成は白血病の進行をもたらす。電離放射線に関係する長期毒性はまた、血液細胞に加えて、患者の他の自己再生細胞を損傷することがある。。従って、長期毒性はまた、白髪及び虚弱をもたらすことが可能である。
【0077】
"〜からフリー(〜がない)"は、本明細書に開示した方法に従い選択的CDK4/6阻害化合物で治療した患者は、長期血液学的毒性の検知できる徴候又は症候を示さず、又はCDK4/6阻害化合物の1回又は複数回の投与を受けずにIR治療を受けた患者に示されるであろう徴候/症候と比較して、顕著に減少した(例えば、10分の1に減少、又は100分の1より少なく減少)長期血液学的毒性の徴候又は症候を示す。
【0078】
"〜からフリー(〜がない)"はまた、特にin vivo又は細胞をベースとした検定による検査で好ましくない、又はオフターゲット効果を持たない、選択的CDK4/6阻害化合物を表すことができる。従って、"〜からフリー(〜がない)"は、長期毒性、抗酸化効果、エストロゲン様作用、チロシンキナーゼ阻害効果、CDK4/6以外のCDKへの阻害効果、及びCDK4/6非依存性細胞における細胞周期停止のような、しかしこれらに制限されない、オフターゲット効果を持たない、選択的CDK4/6阻害化合物を表わすことができる。
【0079】
オフターゲット効果"から実質的にフリーな(〜が実質的にない)"CDK4/6阻害化合物は、幾つかの軽微なオフターゲット効果を持つことができるCDK4/6阻害化合物であり、このオフターゲット効果は、CDK4/6依存性細胞を細胞毒性化合物から防護する阻害化合物の防護能を妨害しない。例えば、オフターゲット効果"から実質的にフリーな"CDK4/6阻害化合物は、この阻害化合物がCDK4/6依存性細胞の選択的G1期停止をもたらす限り、他のCDKに対する幾つかの軽微な阻害効果(例えば、CDK1又はCDK2に対するIC50が、>0.5μM;>1.0μM;又は>5.0μM)を持つことができる。
【0080】
"減少した"又は"妨げた"又はこれらの文法的同義語は、夫々、医学的治療の好ましくない副作用を低下させる、又は好ましくない副作用が完全に発生しないようにすることである。
幾つかの態様において、本明細書に記載した方法は、全ての脊椎動物種について有効であり、これらも用語"患者"に含むことを意図するが、本発明で治療を受けた患者は、好ましくは、ヒトである。
【0081】
より詳細には、本明細書に、ヒト及び、絶滅の危機にある重要な哺乳類(例えば、シベリアトラ)、ヒトに対し経済的に重要な哺乳類(ヒトにより消費されるために農場で飼育されている動物)及び/又は、例えば、ヒト以外の肉食動物(例えば、ネコ及びイヌ、)スワイン(ブタ、ホッグ、及びイノシシ)、反芻動物(ウシ、雄牛、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、及びラクダのような)、及びウマのように、ヒトに対し社会的に重要な哺乳類(ペットとして、又は動物園で飼われている動物)のような哺乳類の治療が含まれている。従って、本明細書に記載した本方法の態様は、家畜性スワイン(ブタ及びホッグ)、反芻動物、馬、家禽類等々の治療を含むが、これらに制限されない。
【0082】
本明細書で用いるように、用語"アルキル基"は、線型(即ち、直鎖)、分枝型、又は環状、飽和、又は少なくとも部分的に飽和、及び幾つかの場合完全に不飽和型(即ち、アルケニル基及びアルキニル基)炭化水素鎖を含むC1〜20を表わし、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、ブタジエニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、及びアレニル基が含まれる。"分枝型"は、メチル基、エチル基又はプロピル基のような低級アルキル基が線型アルキル鎖に付加したアルキル基を表す。"低級アルキル基"は、1から8炭素原子(即ち、C1〜8アルキル基)例えば、1,2,3,4,5,6,7又は8炭素原子、を有するアルキル基を表す。"高級アルキル基"は、約10から約20炭素原子、例えば、10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,又は20炭素原子、を有するアルキル基を表す。ある態様において、"アルキル基"は特に、C1〜8直鎖アルキル基を表す。他の態様において、"アルキル基"は特に、C1〜8分枝鎖アルキル基を表す。
【0083】
アルキル基を、任意に1個以上の、同一又は異なる、アルキル基置換基により置換することができる("置換アルキル基")。用語"アルキル基置換基"はアルキル基、置換アルキル基、ハロ基、アリールアミノ基、アシル基、ヒドロキシル基、アリールオキシル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルオキシル基、アラルキルチオ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基及びシクロアルキル基を含むが、これらに制限されない。アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素原子、イオウ原子又は置換窒素原子又は非置換窒素原子を挿入することができて、ここで、窒素置換基は、水素原子、低級アルキル基(本明細書ではまた、"アルキルアミノアルキル基"と表わす)又はアリール基である。
【0084】
従って、本明細書で用いるように、用語"置換アルキル基"は、本明細書で定義したように、アルキル基を含み、ここでアルキル基の1以上の原子又は官能基が他の原子又は官能基に置き換えられ、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基が含まれる。
【0085】
本明細書で用いる用語"アリール基"は、単一芳香族環、又は互いに融合した、又は共有結合で連結した、又はメチレン基又はエチレン基部分のような、しかしこれらに制限されない、一般的な置換基に結合した芳香族部分を表す。一般的な連結基はまた、ベンゾフェノンにおけるようなカルボニル基、又はジフェニルエーテルにおけるような酸素原子、又はジフェニルアミンにおけるような窒素原子であることができる。用語"アリール基"は、とりわけ複素環式芳香族化合物を含む。この芳香族環(複数もあり)は、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルアミン基及びベンゾフェノン基を含むことができる。特別の実施形態において、用語"アリール基"は、約5から約10炭素原子、即ち5,6,7,8,9又は10炭素原子を含む環状芳香族基を意味し、及び5−及び6−員環の炭化水素、及び複素環式芳香族環を含む。
【0086】
アリール基は、任意に、1以上の同一又は異なる、アリール基置換基と置き換えることができて("置換アリール基")、ここで"アリール基置換基は"アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アラルキルオキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アシル基、ハロ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルコキシカルボニル基、アシルオキシル基、アシルアミノ基、アロイルアミノ基、カルバモイル基、アルキルカルバモイル基、ジアルキルカルバモイル基、アリールチオ基、アルキルチオ基、アルキレン基及びNR'R"を含み、ここでR'及びR"は、夫々独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、及びアラルキル基である。
【0087】
従って、本明細書で用いるように、用語"置換アリール基"は、本明細書で定義したように、アリール基を含み、ここでアリール基の1以上の原子又は官能基は、他の原子又は官能基と置き換えられ、官能基としては、例えば、アルキル基、置換アルキル基、ハロゲン原子、アリール基、置換アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、硫酸基及びメルカプト基が含まれる。
アリール基の特別な例としては、シクロペンタジエニル基、フェニル基、フラン基、チオフェン基、ピロール基、ピラン基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、イソチアゾール基、イソクサゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、トリアジン基、ピリミジン基、キノリン基、イソキノリン基、インドール基、カルバゾール基等々が含まれるが、これらに制限されない。
【0088】
用語"ヘテロアリール基"は、芳香族環又は芳香族環類の骨格の少なくとも1原子が、炭素以外の原子である、アリール基を表す。従って、ヘテロアリール基は、窒素、酸素、イオウ原子を含むが、これらに制限されない、群から選択された1以上の非炭素原子を有する。
【0089】
本明細書で用いるように、用語"アシル基"は、有機カルボン酸基を表し、ここでカルボキシル基の−OHは他の置換体(即ち、RCO−で表せるように、ここでRは、アルキル基、又は本明細書で定義されたアリール基である)で置換される。従って、用語"アシル基"は、特に、アセチルフラン基及びフェナシル基のような、アリールアシル基を含む。アシル基の特別な例として、アセチル基及びベンゾイル基が含まれる。
【0090】
"環状"及び"シクロアルキル基"は、約3から約10個の炭素原子、例えば、3,4,5,6,7,8,9又は10炭素原子の、非芳香属性単環式又は多環式環状システムを表す。このシクロアルキル基は、任意に、部分的に不飽和であることができる。シクロアルキル基は、任意に、本明細書で定義したように、オキソ基及び/又はアルキレン基のような、アルキル基置換体により置換されることができる。環状アルキル鎖に沿って、任意に、1以上の酸素、硫黄、又は置換した又は非置換の窒素原子を挿入することができて、ここで、窒素置換基は、水素、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、又は置換アリール基であり、従って、複素環式置換基を提供する。代表的な単環式シクロアルキル環は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基を含む。多環式シクロアルキル環は、アダマンチル、オクタヒドロナフチル基、デカリン、樟脳、カンファン、及びノラダマンチルを含む。
【0091】
用語"複素環"又は"複素環式基"は、環状環の1以上の骨格炭素原子が、ヘテロ原子(例えば、窒素、硫黄、又は酸素原子)により置き換えられたシクロアルキル基(即ち、本明細書に記載された非芳香環、環状基)を表す。複素環の例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、ジオキサン、ピペリジン、ピペラジン、及びピロリジンが含まれるが、これらに制限されない。
【0092】
"アルコキシル基"又は"アルコキシ基"は、アルキル−O−基を表し、ここでアルキル基は、既述の通りである。本明細書で用いる、用語"アルコキシル基"は、例えば、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、イソプロポキシル基、ブトキシル基、t−ブトキシル基、及びペントキシル基と表すことができる。用語"オキシアルキル基"は、"アルコキシル基"と互換的に用いることができる。
【0093】
"アリールオキシル基"又は"アリールオキシ基"は、アリール−O−基を表し、ここでアリール基は、置換アリール基を含み、既述の通りである。本明細書で用いる用語"アリールオキシル基"は、フェニルオキシル基又はヘキシルオキシル基、及びアルキル基、置換アルキル基、ハロ、又はアルコキシル置換フェニルオキシル基又はヘキシルオキシル基と表すことができる。
【0094】
"アラルキル基"は、アリール−アルキル基を表し、ここでアリール基及びアルキル基は既述通りであり、また置換アリール基及び置換アルキル基を含む。アラルキル基の例として、ベンジル基、フェニルエチル基、及びナフチルメチル基が含まれる。
"アラルキルオキシル基"又は"アラルキルオキシ基"は、アラルキル−O−基を表し、ここでアラルキル基は既述通りである。アラルキルオキシル基の例として、ベンジルオキシル基がある。
【0095】
用語"アミノ基"は、-NR'R"基を表し、ここでR'及びR"は夫々独立に、H原子、置換及び非置換アルキル基、シクロアルキル基、複素環式基、アラルキル基、アリール基、及びヘテロアリール基を含む群から選択される。幾つかの態様において、このアミノ基は-NH2である。"アミノアルキル基"及び"アミノアリール基"は、-NR'R"基を表し、ここでR'はアミノ基に対して定義されたものであり、及びR"は、夫々、置換又は非置換のアルキル基、又はアリール基である。
【0096】
"アシルアミノ基"は、アシル−NH−基を表し、ここでアシル基は、既述の通りである。
用語"カルボニル基"は-(C=O)-又は前に名付けた親置換基の炭素原子に付加した2重結合酸素置換体を表す。
用語"カルボキシル基"は、-COOH基を表す。
本明細書で用いた、用語"ハロ"、"ハロゲン化物"又は"ハロゲン"は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、及びヨード基を表す。
用語"ヒドロキシル基"及び"ヒドロキシ基"は、-OH基を表す。
用語"オキソ基"は本明細書に既載の化合物を表し、炭素原子が、酸素原子に置き換えられる。
用語"シアノ基"は、-CN基を表す。
用語"ニトロ基"は、-NO2基を表す。
用語"チオ基"は、本明細書に記載の化合物を表し、炭素原子又は酸素原子が、イオウ原子に置き換えられる。
【0097】
II.造血幹細胞及びサイクリン依存性キナーゼ阻害剤
組織特異的幹細胞は、自己再生能があり、これは成熟した哺乳類の一生を通して制御された複製により、これらの細胞自体を置き換える能力があることを意味する。さらに、幹細胞は、非対称的に分裂して、与えられた器官の様々な構成要素を次々に産生する"子孫"又は"前駆"細胞を作り出す。例えば、造血システムにおいて、造血幹細胞は、次々に血液中の全ての分化した構成要素(例えば、白血球、赤血球及び血小板)を産生する前駆細胞を産み出す(図1)。
【0098】
本発明は、成熟哺乳類の初期の造血幹細胞/前駆細胞(HSPC)の特異的生化学的要求に関する。より詳細には、これらの細胞は、細胞複製のために、増殖キナーゼであるサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)の酵素活性を要求する。対照的に、成熟哺乳類の大部分の増殖細胞(例えば、骨髄における、より分化した血液形成細胞)は、CDK4及び/又はCDK6(即ちCDK4/6)の活性を要求しない。これらの分化した細胞は、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)又はサイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)のような、他の増殖性キナーゼを用いて、CDK4/6活性無しに増殖することができる。従って、成熟マウスを特異的CDK4/6阻害化合物で処理すると非常に制限された幹細胞及び前駆構成要素の増殖阻害(即ち、医薬的休止(PQ))になる。例えば、選択的CDK4/6阻害化合物である、PD0332991の一時的処理により、造血幹細胞及び関連する造血前駆細胞は休止になる(図10B〜10C及び11A〜11B)。特に、CDK4/6依存性細胞において、処理は選択的G1期停止をもたらす(図3A)。
【0099】
本発明は、選択的CDK4/6阻害化合物の投与により、電離放射線の毒性から健康な細胞(即ち、患者における)を防護する方法に関する。いかなる特定の理論に囚われる事なく、このような阻害化合物の投与は、患者の幹細胞をPQに誘導させることが予想される。休止細胞は増殖細胞と比較して、電離放射線のDNA損傷効果に対してより耐性である。大部分の電離放射線による急性の及び重篤な毒性は、幹細胞及び前駆細胞への効果によるので、幹細胞及び前駆細胞を放射線耐性にすることは、全有機体を放射線治療の急性及び慢性の毒性から防護することができる。
【0100】
従って、幾つかの態様において、本発明は、非毒性の選択的CDK4/6阻害剤(例えば、少なくとも約48,36,24,20,16,12,10,8,6,4,2,又は1時間より短い間)の一時的処理(例えば、経口摂取可能、CDK4/6阻害剤)により、造血幹細胞及び前駆細胞を休止状態に誘導することにより、電離放射線の急性及び慢性毒性から哺乳類を防護する方法を提供する(図10A〜10D、11A、11B及び12A〜12E)。阻害化合物処理を休止した後、HSPCはこの一時的休止期間から回復し、その後正常に機能する。休止期の間、幹細胞及び前駆細胞は、電離放射線の効果から防護される。幹細胞/前駆細胞を防護できることは、ガンの治療(高線量の電離放射線が患者に与えられる)及び放射線緩和(産業上の事故又は核装置の爆発後の高線量を被爆した個人に対して)の両者において望ましい。
【0101】
制限でなく、例示として、本発明は、マウスに電離放射線を被曝した時に近接した時点で、PD0332991を少なくとも単回の一時的な経口処理(処理時間<48,36,24,20,16,12,10,8,6,4,2,又は1時間)により、顕著な放射線防護が得られたという発見に関する(図13A〜13F、14A及び14C)。最初の研究に於いて、図13A〜13Cに示すように、マウスは、複数回のPD0332991(IR被曝前20時間及び4時間、さらにIR被曝後20時間)処理を行った。非処理マウスを7.5 GyのIRに被曝した場合、骨髄障害により40日以内に90%より多数が死ぬ(例えば、好中球減少症、貧血症)。それに対して、殆ど100%の処理マウスが、この照射量を生き残る。生存率の上昇は、IRの4時間前に単回のPD0332991処理を行った際にも見られた(図13E)。さらにより高線量のIR(8.5 Gy)において、全非処理マウスは、死亡するが、PD0332991処理のマウスの約30%が、生き残り、及び死亡した処理マウスでさえ、IR後、日が経ってから死んだ(図14C)。幹細胞移植を含むが、これに制限されない、他の対症的治療に対して見越すことができるように、このような毒性の遅延は、被爆したヒトにおいて臨床的に顕著であり得る。
【0102】
本発明によると、選択的CDK4/6阻害化合物による放射線防護は、多くの異なる投与量スケジュールにより達成することができる。複数回投与スケジュール、単回の前処理に加えて、同時の処理もまた、有効である(図13B〜13F)。さらに、電離放射線被曝後の処理も放射線防護を提供することができる(図13F)。従って、この投与スケジュールは融通が利くことができる。事故又は予期しないIR被爆に関して特に重要であり、特に、多数の患者が巻き込まれた被爆の場合、ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン(例えば、PD0332991)のような、選択的CDK4/6阻害化合物の投与を、放射線被爆後20時間より後で行うことができる。
【0103】
化合物例として2BrIC及び PD0332991により示されたように、選択的CDK4/6阻害化合物を用いる放射線防護は、著しい骨髄防護と結びついており、これは次にIR後の末梢血数(ヘマトクリット、血小板、リンパ球及び骨髄性細胞)のより急速な回復をもたらす。図13G参照。この効果は、外因性成長因子(例えば、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)及び赤血球成長促進因子)の使用で見られた結果と比較しうるが、選択的CDK4/6阻害化合物による処理は、以前に報告された治療では有効に行うことができなかった、血小板抑制を改善すると言う、幾つかの有利点を有する。選択的CDK4/6阻害化合物による処理はまた、幹細胞及びその前駆細胞を、より早い速度で増殖させると言うよりむしろ、これらの細胞を障害から防護する。強制された増殖は、DNA損傷の効果を改善するために意図した成長因子補助後にヒト及びマウスに見られる遅延した及び長期の骨髄毒性を増加させる可能性があるのでこのことは重要である(Herodin et al., Blood, 2003, 101, 2609-2616; Hershman et al., J. Natl. Cancer Inst., 2007, 99, 196-205; 及び Le Deley et al., J. Clin. Oncol., 2007, 25, 292-300)。IR被曝後100〜200日より多日数経過後検査した場合でさえ、亜致死量(6.5Gy)のTBIの際PD0332991処理したマウスには、遅延した毒性が見られない(図16)。
【0104】
選択的CDK4/6阻害化合物を用いた放射線防護方法から、幾つかの有利点をもたらすことができる。選択的CDK4/6阻害化合物により与えられた放射線毒性の減少により、より有効性が高い、医学関連のIR治療における照射量強化(例えば決められた期間の間により多く治療を与えることができる)を行うことができる。従って、本発明の方法は、毒性が低く、及びより有効な放射線治療体制をもたらすことができる。また、外因性の生物成長因子による防護的治療と対照的に、選択的CDK4/6阻害化合物は、多くの異なる経路を使った投与を処方することができる、経口摂取可能な多くの低分子を含むことができる。適切な場合、このような低分子を、経口、局所的、鼻腔内、吸入、静脈内又は投与のいかなる他の形に対してでも処方できる。さらに、生物製剤と反対に、安定な低分子は、より容易に備蓄し、保存できる。従って、選択的CDK4/6阻害化合物は、IR被爆の患者が報告する救急室、又は放射線被曝が特に起こりやすい場所(:原子力発電所、原子力船、軍の設備、核戦場その他)、において、より容易に、より安価に、置いておくことができる。
【0105】
本明細書で用いるように、用語"選択的CDK4/6阻害化合物"は、CDK4及びCDK6の中少なくとも1つを選択的に阻害する、又はその支配的作用様式がCDK4及び/又はCDK6の阻害を通してである、化合物を表す。従って、選択的CDK4/6阻害化合物は、一般的に、他のキナーゼに対する50%阻害濃度(IC50)より低いCDK4及び/又はCDK6に対するIC50を有する。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、他のCDK(例えば、CDK1及び CDK2)に対する化合物のIC50より、少なくとも2,3,4,5,6,7,8,9又は10倍より低いCDK4及び/又はCDK6に対するIC50を有することができる。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、他のCDKに対する化合物のIC50より、少なくとも20,30,40,50,60,70,80,90又は100倍より低いCDK4又はCDK6に対するIC50を有することができる。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、他のCDKに対する化合物のIC50より100倍又は1000倍を越えて低いIC50を有することができる。
【0106】
幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、CDK4/6依存性細胞の選択的G1期停止を誘導する(例えば、細胞をベースとしたin vitro検定で測定されたように)ことができる化合物である。従って、本発明の方法に従い選択的CDK4/6阻害化合物を用いて処理した場合、G1期におけるCDK4/6依存性細胞の割合は増加するが、G2/M期及びS期のCDK4/6依存性細胞の割合は減少する。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、CDK4/6依存性細胞の、実質的に純粋な(即ち、"きれいな")G1細胞周期停止を誘導する化合物である(例えば、選択的CDK4/6阻害化合物を用いた処理は、細胞の大部分が、標準的方法(例えば、ヨウ化プロピジウム(PI)染色又は他の方法)で定義されたG1期停止するように細胞周期停止を誘導し、G2/M及びS期を合わせた周期にある細胞集団が、全細胞集団の中、20%、15%、12%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満である。)細胞集団の細胞周期を検定する方法は、当業者に既知で(例えば、米国特許出願公開2002/0224522)、及びフローサイトメトリー解析、顕微鏡解析、勾配遠心法、エルトリエーション(遠心場向流法)、免疫蛍光法を含む蛍光法、及びこれ等の技術の組合せを含む。フローサイトメトリー法は、例えば、PIのような、DNA結合色素細胞の標識試薬又は染色液への被曝、フローサイトメトリーによる細胞DNA量の解析、を含む。免疫蛍光技術は、蛍光性抗体による、例えば、チミジン類似体(例えば、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)又はヨウ化デオキシウリジン)のような特異的細胞周期指示薬の検出を含む。
【0107】
非特異的キナーゼ阻害化合物である、スタウロスポリンは、幾つかの種類の細胞においてG1期停止を間接的に誘導すると報告されているが(Chen et al., J. Nat. Cancer Inst., 92, 1999-2008 (2000))、細胞におけるG1細胞周期停止(HSPCの特定の部分)を直接及び選択的に誘導するために、選択的CDK4/6阻害化合物の本発明での使用は、化学的防護を提供することができて、これは長期の毒性が少なく、及びDNA損傷化合物への被曝前に阻害化合物を用いた長期にわたる(例えば、48時間又はより長期)治療の必要が無い。特に、幾つかの非選択的キナーゼ阻害化合物が、CDK4タンパク質レベルを低下させることにより、幾つかの種類の細胞においてG1期停止を起こすことができるが、本発明の方法の利点は、いかなる理論に束縛されることなく、HSPCにおいて細胞内濃度を減らすことなく、CDK4/6のキナーゼ活性を直接阻害する、選択的CDK4/6阻害化合物の持つ阻害能に少なくとも部分的によると信じられる。
【0108】
幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、実質的にオフターゲット効果(特にCDK4及び/又はCDK6以外のキナーゼの阻害に関係する)フリーの化合物である。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、CDK4/6以外のCDK(例えば、CDK1 及びCDK2)の質の悪い阻害化合物(例えば、>1μM IC50)である。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、CDK4/6非依存性細胞の細胞周期停止を誘導しない。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は、チロシンキナーゼの質の悪い阻害化合物(例えば、>1μM IC50)である。さらに、好ましくないオフターゲット効果として、長期毒性、抗酸化効果、及びエストロゲン様効果がある、がこれらに制限されない。
【0109】
抗酸化効果は、当業者に既知の標準的検定で測定することができる。例えば、最早顕著な抗酸化効果を持たない化合物は、酸素ラジカルのような、フリーラジカルを顕著に捕捉しない。化合物の抗酸化効果は、ゲニステインのような、既知の抗酸化活性を持つ化合物と比較することができる。従って、顕著な抗酸化活性を持たない化合物は、ゲニステインに比べると、抗酸化活性が約2,3,5,10,30,又は100倍低い化合物である。エストロゲン様活性もまた、既知の検定により測定することができる。例えば、非エストロゲン様化合物は、エストロゲン受容体と顕著に結合せず、及びこの受容体を活性化しない化合物である。実質的にエストロゲン様効果フリーである化合物は、エストロゲン様活性を持つ化合物、例えば、ゲニステイン、と比較して、エステロゲン様活性が約2,3,5,10,20,又は100倍低い化合物である。
【0110】
本発明の方法に従って用いることができる選択的CDK4/6阻害化合物は、全ての既知の低分子(例えば、<1000ダルトン、<750ダルトン又は<500ダルトンより低分子である)、選択的CDK4/6阻害化合物、又はこれらの医薬的に許容された塩を含む。幾つかの態様において、選択的CDK4/6阻害化合物は非天然分子(即ち、自然界に見出されない又は存在しない分子)である。幾つかの態様において、この阻害化合物は、スタウロスポリン又はゲニステインではない。多くの異なった化学物質種がCDK4/6阻害能を持つと、文献で報告されてきた(例えば、細胞をベースとしないin vitro検定)。従って、本発明法において有用な選択的CDK4/6阻害化合物は、ピリド[2,3-d]ピリミジン(例えば、 ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン、及び 2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オン), トリアミノピリミジン、アリール[a]ピロロ[3,4-d]カルバゾール、窒素含有ヘテロアリール置換尿素、5-ピリミジニルl-2-アミノチアゾール、ベンゾチアジアジン, アクリジンチオン及びイソキノロンを含むが、これらに制限されない。
【0111】
幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジンは、ピリド[2,3-d]ピリミジノンである。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジノンは、ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンである。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、アミノアリール基又はアミノヘテロアリール基により置換される。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、アミノピリジン基により置換される。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンは、2-(2-ピリジニル)アミノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンである。例えば、このピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン化合物は、その全体が参照文献として取り込まれている、Barvian他に対する米国特許出願公開2007/0179118に記載の化学式(II)の構造を持つことができる。幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジン化合物は、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]-ピリミジン-7-オン(即ち、PD 0332991)又はこの医薬的に許容可能な塩である(Toogood et al., J. Med. Chem., 2005, 48, 2388-2406)。
【0112】
幾つかの態様において、このピリド[2,3-d]ピリミジノンは、2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オンである。2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オンを含む選択的CDK4/6阻害化合物は、例えば、Tu等により記載されている(Tu et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2006, 16, 3578-3581)。
【0113】
本明細書で用いるように、"トリアミノピリミジン"は、ピリミジン環の少なくとも3個の炭素が、化学式-NR1R2を持つ置換基で置き換えられているピリミジン化合物であり、ここでR1及びR2は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、複素環、アリール基、及びヘテロアリール基からなる群から独立に選択される。各R1及びR2アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、複素環、アリール基、及びヘテロアリール基は、さらに1以上の水酸基、ハロ基、アミノ基、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、複素環式基、アリール基、又はヘテロアリール基により置換されることができる。幾つかの態様において、アミノ基の少なくとも1個は、構造-NHRを持つアルキルアミノ基であり、ここでRは、C1〜C6アルキル基である。幾つかの態様において、少なくとも1つのアミノ基は、化学式-NHRを持つシクロアルキルアミノ基、又は水酸基により置換されたシクロアルキルアミノ基であり、ここでRは、水酸基により置換された、又は非置換の、C3〜C7シクロアルキル基である。幾つかの態様において、少なくとも1個のアミノ基は、ヘテロアリール基―置換アミノアルキル基であり、ここでヘテロアリール基は、さらに、アリール基置換体により置換されることができる。
【0114】
アリール[a]ピロロ[3,4-d]カルバゾールは、 ナフチル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール, インドロ[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール, キノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール及びイソキノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールを含むが、これらに制限されない(Engler et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 2261-2267; Sanchez-Martinez et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 3835-3839; Sanchez-Martinez et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 3841-3846; Zhu et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2003, 13, 1231-1235; 及びZhu et al., J. Med Chem., 2003, 46, 2027-2030、米国特許出願公開2003/0229026及び2004/0048915)。幾つかの態様において、このアリール[a]ピロロ[3,4-d]カルバゾールは2-ブロモ-12, 13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]カルバゾール-5,6-ジオン(2BrIC)である。
【0115】
含窒素ヘテロアリール置換尿素は、尿素の窒素原子の1個が、含窒素ヘテロアリール基により置換されている、尿素部分を含む化合物である。含窒素ヘテロアリール基は、少なくとも1個の窒素原子を含む5から10員のアリール基を含むが、これらに制限されない。従って、含窒素ヘテロアリール基は、例えば、ピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール、イミダゾール、チアゾール、イソクサゾール、ピラゾール、イソチアゾール、ピラジン、トリアゾール、テトラゾール、ピリミジン、ピリダジン、プリン、キノリン、イソキノリン、キノクサリン、シンノリン、キナゾリン、ベンズイミダゾール、フタリミド、等々を含む。幾つかの態様において、この含窒素ヘテロアリール基は、1個以上のアルキル基、シクロアルキル基、複素環式基、アラルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシル基、ハロ基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシル基、又はアミノ基により置換されることができる。幾つかの態様において、含窒素ヘテロアリール置換尿素は、ピラゾール-3-イル尿素である。ピラゾールはさらに、シクロアルキル基又は複素環式基により置換されることができる。
【0116】
幾つかの態様において、このピラゾール-3-イル尿素は:
【化1】

である(Ikuta, et al., J. Biol. Chem., 2001, 276, 27548-27554)。
本発明に従い使用することができる更なる尿素としては、米国特許出願公開2007/0027147に記載の化学式(I)のビアリール尿素化合物である(Honma et al., J. Med. Chem., 2001, 44, 4615-4627; 及び Honma et al., J. Med. Chem., 2001, 44, 4628-4640)。
【0117】
適切な、5-ピリミジニル-2-アミノチアゾールCDK4/6阻害化合物はShimamura等により記載されている(Shimamura et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2006, 16, 3751-3754)。幾つかの態様において、この5-ピリミジニル2-アミノチアゾールは:
【化2】

の構造を有する。
【0118】
有用なベンゾチアジアジン及びアクリジンチオン化合物は、例えば、Kubo等により開示された化合物を含む(Kubo et al., Clin. Cancer Res. 1999, 5, 4279-4286及びその全体が参考文献に取り込まれている米国特許出願公開2004/0006074)。幾つかの態様において、このベンゾチアジアジンは、1個以上のハロ基、ハロアリール基、又はアルキル基により置換される。幾つかの態様において、このベンゾチアジアジンは、4-(4-フルオロベンジルアミノ)-1,2,3-ベンゾチアジアジン-1,1-ジオキシド, 3-クロロ-4-メチル-4H-ベンゾ[e][1,2,4]チアジアジン1,1-ジオキシド, 及び3-クロロ-4-エチル-4H-ベンゾ[e][1,2,4]チアジアジン-1,1-ジオキシドからなる群より選択される。幾つかの態様において、このアクリジンチオンは、1個以上のアミノ基又はアルコキシ基により置換される。幾つかの態様において、このアクリジンチオンは、3-アミノ-10H-アクリドン-9-チオン (3ATA), 9(10H)-アクリジンチオン, 1,4-ジメトキシ-10H-アクリジン-9-チオン、及び2,2'-ジフェニルジアミン-bis-[N,N'-[3-アミド-N-メチルアミノ]-10H-アクリジン-9-チオン]]からなる群から選択される。
【0119】
幾つかの態様において、患者は、過去に電離放射線を被曝し、将来電離放射線を被曝する予定で、又は戦争、放射線テロ攻撃、産業上の事故、又は宇宙旅行の間、放射性物質被曝の結果として電離放射線を被曝する危険にある。さらに患者は、増殖性の疾患を治療するために放射線治療を受ける際、電離放射線を被爆する、又は被爆する予定であることができる。このような疾患は、ガン性の及び非ガン性の増殖性疾患である。例えば、本発明の化合物は、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、皮膚癌、肺癌、結腸直腸癌、脳腫瘍(即ち、神経膠腫)及び腎臓癌を含むが、これらに制限されない、広い範囲の種類の腫瘍の放射線治療の間、健康な造血幹細胞/前駆細胞を防護する上で有効であると信じられている。理想的には、IRで治療されたガンの増殖は、選択的CDK4/6阻害化合物の影響を受けるべきではない。当業者は理解するように、ある種の腫瘍のCDK4/6阻害に対する潜在的な感受性は、腫瘍の種類及び分子遺伝学に基づいて推量することができる。CDK4/6の阻害の影響を受けないと予想されるガンは、CDK1又はCDK2の活性増加、網膜芽腫(RB)腫瘍抑制タンパク質の喪失又は不在、高いMYC発現、サイクリンEの増加及びサイクリンAの増加を含む、がこれらに制限されない、群の1以上により特徴付けられるガンである。このようなガンとしては、肺小細胞癌、網膜芽腫、子宮頸癌、及びある種の頭頚部ガンのようなHPV陽性悪性腫瘍、Burkittsリンパ腫のようなMYC増幅腫瘍、及びトリプルネガティブ乳癌;ある種の肉腫、ある種の非肺小細胞癌、ある種のメラノーマ、ある種の膵臓癌、ある種の白血病、ある種のリンパ腫、ある種の脳腫瘍、ある種の大腸癌、ある種の前立腺癌、ある種の卵巣癌、ある種の子宮癌、ある種の甲状腺及び他の内分泌組織癌、ある種の唾腺癌、ある種の胸腺腫、ある種の腎臓癌、ある種の膀胱癌、及びある種の睾丸癌が含まれる、がこれらに制限されない。
【0120】
例えば、幾つかの態様において、ガンは、肺小細胞癌、網膜芽腫、及びトリプルネガティブ(ER/PR/Her2陰性)又は基底膜細胞型(basal-like)乳癌から選択される。肺小細胞癌及び網膜芽腫は、殆ど常に、RB腫瘍抑制タンパク質を不活性化しており、従って、増殖のためにCDK4/6活性を要求しない。従って、CDK4/6阻害化合物処理は、骨髄及び他の正常宿主のPQに影響するであろうが、腫瘍のPQには影響しないであろう。トリプルネガティブ(基底膜細胞型)乳癌もまた、殆ど常に、RB-ヌルである。また、ある種のウィルス誘発性ガン(例えば、子宮頸癌、及び頭頚部癌の一部)はウィルスタンパク質(E7)を発現し、これはRBタンパク質を不活性化しこれらの腫瘍を機能的にRB-ヌルにする。幾つかの肺癌はまた、HPVにより引き起こされると信じられている。当業者に理解されるように、CDK4/6阻害化合物により影響を受けないと予想されるガン(例えば、RB-ヌルのガン、ウィルスタンパク質E7を発現するガン、又はMYCを過剰発現するガン)は、DNA解析、免疫染色、Westernブロット解析、及び遺伝子発現プロファイリングを含む、がこれらに制限されない、方法により決定される。
【0121】
選択的CDK4/6阻害化合物はまた、非ガン性増殖性疾患における異常組織への放射線治療の間、健康な造血幹細胞/前駆細胞を防護する上で有効であると信じられているが、非ガン性増殖性疾患としては、新生児の多発性血管腫症、二次的進行性多発性硬化症、慢性進行性骨髄萎縮症、神経線維腫症、神経節神経腫症、ケロイド形成、骨のPaget病、乳房線維嚢胞病、Perony及びDuputren線維症、再発狭窄症、及び肝硬変が含まれるが、これらに制限されない。
【0122】
本発明に従い、放射線防護/放射線緩和剤を、前もって、照射の間、又は照射後患者に対して投与する限り、電離放射線治療を、患者に対して、既述の処理法に矛盾しない限り、いかなる計画でも、いかなる照射量でも、照射することができる。一般的に、放射線防護、及び/又は放射線緩和化合物は、放射線被爆前24時間から、被爆後24時間後までの期間患者に対して投与される。しかしながら、この時間は、放射線被曝前24時間より前の時間に伸ばすことができる(例えば、化合物が適切な血漿濃度及び/又は血漿半減期に達する時間に基づく)。さらに、化合物のより遅い投与が、少なくとも何か防護的効果を持つ限り、この時間は、放射線被曝後24時間より長時間に伸ばすことができる。必要なら、放射線防護化合物の複数回投与が、患者に対して行われる。 あるいは、患者には、阻害化合物の単回投与を患者に与えることができる。治療の経過は、患者から患者で異なり、通常の当業者は、与えられた臨床状況において、適切な投与量、及び放射線治療の計画を直ちに決定できる。
【0123】
III. 活性化合物、塩、及び処方物
本明細書で用いるように、用語"活性化合物"は、選択的CDK4/6阻害化合物又はこれらの医薬的に許容された塩である。この活性化合物を、いかなる適切な方法でも患者に投与することができる。投与された活性化合物の量及びタイミングは、勿論、治療される患者、患者が被爆した、又は被爆すると予想されるIRの照射量、投与の方法、活性化合物の薬物動力学的特徴、及び処方する医師の判断に依存する。従って、患者から患者への多様性のために、以下に与えられる投与量は、ガイドラインであり、及び医師が患者に対して適切と考える治療を得るために、医師は化合物の投与量を徐々に増量することができる。望ましい治療の程度を考えると、医師は、年齢、患者の体重、既往症の存在、及び他の疾患の存在のような様々な因子をバランスすることができる。医薬処方物は、以下により詳細に考察するように、経口、静脈内、又は噴霧剤投与を含むが、これらに制限されない、いかなる投与ルートに対しても調製することができる。
【0124】
この使用が本明細書の態様の範囲内である、特定の活性化合物の治療上有効な投与量は、化合物から化合物、患者から患者で幾らか異なることができて、及び患者の状態及び投与経路により異なることができる。一般的提案として、約0.1から約200mg/kgの投与量は、治療上の有効性を持ち、ここで全ての重さは、活性化合物の重さに基づいて計算され、及び塩を用いる場合を含む。幾つかの態様において、投与量は、約1及び5μMの間までの活性化合物の血清濃度を提供するに必要な化合物の量であることができる。より高い濃度における毒性の心配は、静脈内投与量を、約10mg/kgまでのような、より低レベルに制限することができて、ここで全ての重さは、活性化合物の重さに基づいて計算され、及び塩を用いる場合を含む。経口投与の場合、約10mg/kgから約50mg/kgまでの投与量を用いることができる。一般的に、約0.5mg/kgから5mg/kgまでの投与量を筋肉内注射に用いることができる。幾つかの態様において、投与量は約1μmol/kgから約50μmol/kgであることができて、又は、任意に、静脈内又は経口投与に対して、約22μmol/kg及び約33μmol/kgの化合物であることができる。
【0125】
本発明の方法に従い、本明細書に記載した医薬的に活性な化合物を、固体又は液体として経口的に、又は溶液、懸濁物又は乳濁液として、筋肉内、静脈内、又は吸入により投与することができる。幾つかの態様において、この化合物又は塩を、リポソーム懸濁液として、吸入、静脈内、又は筋肉内に投与することができる。吸入を通して投与する際、この活性化合物又は塩は、約0.5から約5ミクロンの、及び任意に約1から約2ミクロンまでの粒子サイズを持つ、複数の固体粒子又はドロップ状であることができる。
【0126】
医薬処方物は、全ての医薬的に許容された担体中の、本明細書に記載した活性化合物又はこの化合物の医薬的に許容された塩を含むことができる。溶液を望む場合、水溶性の化合物又は塩に関しては、水が選択される担体である。水溶性の化合物又は塩に関して、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物のような有機媒体が適切である。後者の場合、有機媒体は、かなりの量の水を含むことができる。どちらの場合の溶液も、当業者が既知の適切な処方で滅菌することができて、及び一般的には0.22ミクロンフィルターを通す。滅菌の後、この溶液を、ピロゲンを除いたガラスバイアルのような、適切な容器に分配することができる。この分配を、任意に無菌的方法で行うことができる。滅菌的密封をガラスバイアルに施し、必要なら、バイアルの内容物を凍結乾燥することができる。
【0127】
活性化合物又はその塩に加えて、医薬処方物は、pH調節添加物のような、他の添加物を含むことができる。特に、有用なpH調節試薬は、塩酸のような酸、塩基、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、又はグルコン酸ナトリウムのような緩衝剤を含む。さらに、この処方物は、抗菌保存剤を含むことができる。有用な抗菌保存剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、及びベンジルアルコールがある。抗菌保存剤は、一般的に、処方物が、複数回投与使用のためにデザインされたバイアルに置かれる際に用いられる。本明細書に記載した医薬処方物は、当業者に既知の方法で、凍結乾燥できる。
【0128】
経口投与のために、医薬組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末等々の形をとることができる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムのような様々な賦形剤を含む錠剤が、ポリビニルピロリドン、砂糖、ゼラチン、及びアカシアのような結合剤と共に、澱粉、(例えば、ジャガイモ、又はタピオカ澱粉)及びある種の複合ケイ酸塩のような錠剤分解物質と共に用いられる。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、及び滑石のような潤滑剤が錠剤作成目的に非常に有用である。同様の種類の固体組成物がまた、硬軟に調合したジェラチンカプセルの充填物として用いられる。これに関連する材料としてまた、ラクトース又はミルク砂糖及び高分子量ポリエチレングリコールが含まれる。経口投与のために、水性の懸濁物及び/又はエリクシルを好む場合、本発明の化合物を様々な甘味料、芳香剤、着色剤、乳化剤、及び/又は懸濁化剤、及び水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン及びこれらの類似の組合せのような稀釈剤と組み合わせることができる。
【0129】
本明細書に記載した発明の他の態様において本明細書で記載した活性化合物、又はこの塩を、密閉した容器内に単位投与量の形で含む、注射可能な、安定な、滅菌した処方物を提供する。この化合物又は塩は、適切な医薬的に許容可能な担体とともに再構成し、患者へのこの化合物の注射に適した液体処方物を作成することができる、凍結乾燥物の形で提供される。この化合物又は塩が、実質的に非水溶性の場合、医薬的に許容された、充分量の乳化剤を充分量使って、水溶性担体中の化合物又は塩を乳化することができる。特に有用な乳化剤は、ホスファチジルコリン及びレシチンである。
【0130】
本明細書に提供された他の態様は、本明細書に開示した活性化合物のリポソーム処方物を含む。リポソーム懸濁液の作成法は、当業者に既知である。化合物が水溶性の塩である時、従来のリポソーム技術を用いて、脂質小胞にこの化合物を取り込むことができる。このような例として、活性化合物が水に溶解度があるので、活性化合物は実質的に親水性中心又はリポソームのコアに取り込まれる。用いられる脂質層は、全ての従来の組成であることができて、及びコレステロールを含むことができるか、又はコレステロールフリーであることができる。当該の活性化合物が、水に不溶な場合、再び従来のリポソーム作成技術を用いて、塩を、リポソームの構造をとる実質的に疎水性脂質2重層に取り込むことができる。どちらの場合も標準的超音波処理及び均一化技術を用いて、作成するリポソームはサイズを小さくできる。本明細書に開示した活性化合物を含むリポソーム処方物を、凍結乾燥して、凍結乾燥物とさせ、水のような医薬的に許容された担体を用いて再構成して、リポソーム懸濁物を再構成することができる。
【0131】
吸入による噴霧物としての投与に適した医薬処方物がまた提供される。これらの処方物は、本明細書に記載した所望の化合物又はこの塩の溶液又は懸濁液、又はこの化合物又は塩の複数の固体粒子を含む。所望の処方物を小チャンバーに入れて噴霧化する。噴霧化は、圧縮空気又は超音波エネルギーにより行い、この化合物又は塩を含む複数の液滴又は固体粒子を形成することができる。この液滴又は固体粒子は、約0.5から約10ミクロンの、及び、任意に、約0.5から約5ミクロンの粒子サイズの範囲に有るべきである。この固体粒子は、微粉化のような、当業者に既知のいかなる適切な方法によってでも、固体化合物又はこの塩を加工して得ることができる。任意に、固体粒子又は液滴のサイズは、約1ミクロンから約2ミクロンであることができる。この点に関して、この目的を達成するために市販の噴霧器を用いることができる。この化合物を、その開示全体が本明細書の参考文献に取り込まれている、米国特許第5,628,984号に示された方法で、吸入できる粒子の煙霧状の懸濁物を通して投与することができる。
【0132】
投与に適した煙霧剤としての医薬処方物が液体状の場合、この処方物は、水を含む担体中の水溶性活性化合物を含むことができる。処方物の表面張力を充分低下させ、噴霧器で使われた時、所定のサイズ範囲内の液滴を作ることができる、界面活性剤は存在することができる。
【0133】
指摘したように、水溶性及び非水溶性活性化合物が提供される。本明細書で用いるように、用語"水溶性"は、約50mg/mLより多量に水に可溶な全ての組成物を定義することを意味する。また、本明細書で用いるように、用語"非水溶性"は、約20mg/mL未満の水への溶解度を持つ全ての組成物を定義することを意味する。幾つかの態様において、水溶性化合物又は塩は、好ましいが、他の態様において、非水溶性化合物又は塩は同様に好ましい。
【0134】
本明細書で用いる、用語"医薬的に許容される塩"は、充分な医学的判定の範囲で、過度な毒性、炎症、アレルギー反応、等々無しに、患者(例えば、ヒト患者)と接触した使用に適し、合理的な利点/危険性比と釣り合い、意図した使用に有効であり、さらに本発明の化合物のできたら両性イオンの型である塩を表す。
【0135】
従って、用語"塩"は、本発明の化合物の相対的に非毒性の、無機酸及び有機酸の付加塩を表す。これらの塩を、化合物の最終的分離と精製の間in situで製造することができる、又は塩基フリーの形に精製した化合物を適切な有機酸又は無機酸と別々に反応させ、及びこのように作成した塩を単離して製造することができる。本発明の化合物が塩基性化合物である限り、様々な無機酸及び有機酸と反応して広く様々な異なる塩を形成することができる。このような塩は、動物に投与するためには、医薬的に許可されなければならないが、実際上、最初、反応混合物から塩基性化合物を医薬的に許可されない塩として分離し、その後アルカリ性試薬との処理で、フリー塩基化合物に変換し、その後、このフリー塩基を医薬的に許可される酸付加塩に変換することがしばしば望ましい。塩基性化合物の酸付加塩は、従来の方法で塩を作成するために、フリー塩基型を十分量の所定の酸と接触させて調製する。このフリー塩基型は、塩型を塩基と接触させ、フリー塩基を従来の方法で単離して、産生できる。このフリー塩基型は、夫々の塩型と、極性溶媒への溶解度のようなある種の物理的特徴において幾らか異なるが、他の点で、本発明の目的のために、塩は夫々のフリー塩基と等価である。
【0136】
医薬的に許可される塩基付加塩は、アルカリ及びアルカリ土金属水酸化物のような金属又はアミンと共に、又は有機アミンの形で作成される。カチオンとして用いられる金属の例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、等々を含む、がこれらに制限されない。適切なアミンの例として、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン及びプロカインが含まれる、がこれらに制限されない。
【0137】
酸性化合物の塩基付加塩は、従来の方法で塩を作成するために、フリー酸型を十分な量の所定の塩基と接触させて調製する。フリー酸型は、塩型を酸と接触させ、及び従来の方法でフリー酸を単離して産生することができる。フリー酸型は、それぞれの塩型と、極性溶媒への溶解度のようなある種の物理的特徴において幾らか異なるが、他の点で、本発明の目的のために、塩は夫々のフリー酸と等価である。
【0138】
塩を、塩化水素の、硝酸の、リン酸の、硫酸の、臭化水素の、ヨウ化水素の、リン酸の、等々のような、無機酸硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸1水素塩、リン酸2水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物から作成することができる。代表的塩としては、臭化水素塩、塩化水素塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシラート、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩メシラート、グルコヘプタン酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリルスルホン酸塩及びイセチオン酸塩、等々を含む。塩はまた、脂肪族モノー、及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、アルカン二酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸、他、等々のような有機酸から作成される。代表的塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、イソブチル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、フタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、等々を含む。医薬的に許容される塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、等々のような、アルカリ及びアルカリ土金属をベースとしたカチオン、及び非毒性アンモニウム、第四級アンモニウム、及びアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等々を含む、がこれらに制限されない、アミンカチオンを含むことができる。アルギニン塩、グルコン酸塩、ガラクツロン酸塩等々のアミノ酸塩もまた検討される(参考文献に取り込まれている、Berge et al., J. Pharm. Sci., 1977, 66, 1-19)。
【実施例】
【0139】
以下の実施例は、例証となる実施形態を提供する。本発明及び当業者の一般的レベルを考えると、以下の実施例は、例証のみを意図しており、無数の変更、修正、及び変更を、本発明の範囲から離れることなく、行うことができることを当業者は理解することができる。
【0140】
方法
動物:
全てのマウスは、Chapel Hill (UNC-CH)にあるNorth Carolina大学の研究所のAnimal Care and Use委員会に従い保管された。若年成体(6〜12週齢)、処女メスC57B1/6マウスをJackson Lab(Bar Harbor, Maine, USA)から購入した。C3HマウスをHarlan Sprague-Dawley Inc. (Indianapolis, Indiana, USA)から得た。担腫瘍TyrRAS+ Ink4a/Arf-/-マウス(Chin et al., Genes & development, 11, 2822-2834 (1997))を用いた実験は、FVB/nバックグランウンドに対して完全に戻し交配した動物(N>10)において行った。マウスを既述(Ramsey et al., Cancer Res., 67, 4732-4741 (2007))のように、150mg/kg体重の投与量で、経口強制給餌により、Pfizer Inc., (New York, New York, USA) から得たPD0332991で処理した。TyrRAS+ Ink4a/Arf-/-マウスは、腫瘍が大きくなるまで連続的に観察した。腫瘍サイズが0.2cm2になった時、毎日のPD0332991処理を始めた。図2B及び図2Dに示したデータは、治療開始時の腫瘍サイズに規格化した。担腫瘍マウスは、死亡率、腫瘍潰瘍形成、又は腫瘍サイズの直径>1.5cmのために、表示した時に安楽死させた。
【0141】
TBI実験のために、マウスを137Cs源(AECL Gammacell 40 Irradiator, Atomic Energy of Canada Ltd, Mississauga, Ontario, Canada)を用いて照射した。照射線量は、以前の研究に従い、LD90線量7.5 Gy又はその近辺に経験的に決定した(Na Nakorn et al., J. Clin. Invest., 109, 1579-1585 (2002); Herodin et al., Blood, 101, 2609-2616 (2003); Uckun et al., Blood, 75, 638-645 (1990); 及び Wang et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 94, 14590-14595 (1997))。全血球計算(CBC)のために、尾血管ニックを用いて末梢血を集め、及びHemaTrue 分析器 (Heska Co., Loveland, Colorado, USA)を用いて解析した。
【0142】
細胞株:
KPRT1、KRTR4及びKRTR5を担腫瘍TyrRAS+ Ink4a/Arf-/-から標準的方法で得て、RPMI+10%仔牛胎児血清(FBS)を用いて培養した。不死化したHDF(HS68として既知の、tHDF)を、ペニシリン及びストレプトマイシンを加えたDMEM + 10%FBS中で培養した。同じ条件をA2058及びWM2664(ヒトメラノーマ細胞株で、RB経路変異株として知られ:A2058はRB-ヌルであり、他方、WM2664はp16INK4a/Arfを欠損)に対しても用いた(Shields, et al., Cancer Res., 67, 1502-1512 (2007))。細胞に表示した線量の放射線を、160 kV、25.0 mAで、 Rad Source Inc. (Alpharetta, Georgia, USA) RS-2000 Biological Irradiator を線源として、距離設定1、照射線量率 103rads/minで照射した。
【0143】
in vitro BrdUの取り込み:
細胞を蒔種し、CDK4/6阻害化合物を指示した濃度添加する前に、一晩又は少なくとも6時間接着させた。細胞を24時間CDK4/6阻害化合物存在下で増殖させた。細胞採取15分前に、5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)を培地に加えて、最終的に10μMの濃度にした。その後、細胞を洗浄し、トリプシン処理し、ペレットにし、固定し、透過性にし、染色し、BrdU キット (BD Biosciences Pharmingen, San Diego, California, USA)の製造者の指図に従いフローサイトメトリーで測定した。
【0144】
in vivo BrdU取り込み:
マウスを2日間、1回/1日、150mg/kgの投与量でPD0332991処理した。5−ブロモ−2−デオキシウリジン(BrdU)を初回のPD0332991処理後24時間与え、動物を解析のために殺処分するまで連続した:6時間毎に、1mgの投与量で腹腔注射(i.p.)による24時間のBrdU処理。
【0145】
フローサイトメトリーによる骨髄免疫表現型質検査及び増殖:
HSPC増殖実験のために、マウスに、2日間PD0332991の経口強制給餌を行った後、殺処分24時間前に、6時間毎の、1mgのBrdU腹腔注射を行った。BM-MNC採取及び免疫表現型質検査を、RBC溶解、ビオチン結合したLinパネルインキュベーション(Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA)、常磁性結合ストレプトアビジン(Miltinyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)インキュベーション、及びAutoMACS (Miltinyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)を用いた磁気脱着、を用いて行った。マウス当たり少なくとも2x106 Lin-欠失細胞を、既述のように(Passegue et al., J. Exp. Med., 202, 1599-1611 (2005); 及びKiel et al., Cell, 121, 1109-1121 (2005): CD34-FITC, CD16/32-PacificBlue, IL7Ra-PE-Cy5, 及びeBiosciences, Inc. (San Diego, California, USA)から得た cKit-APC-Alexa750; Sca1-PE-Cy7, CD150-PE-Cy5, 及びBioLegend (San Diego, California, USA)から得た CD48-PacificBlue; 及び Aqua Live/Dead 生体染色剤(Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA))、造血前駆細胞の部分集団を同定するために用いた細胞表面抗原に対する蛍光標識抗体とインキュベートした。ストレプトアビジン-PE-TexasRed(Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA)を、リネージ細胞除去の効率を確認するために用いた。細胞表面染色後、細胞を固定し、透過性にし、Ki67-FITC、BrdU-APC及びカスパーゼ3-PEに対する抗体(BD Biosciences Pharmingen, San Diego, California, USA)で染色した。
【0146】
全ての実験において、アイソタイプ対照に基づくゲーティングを適切に用いた。フローサイトメトリーは、CyAn ADP (Dako, Glostrup, Denmark)を用いて、FlowJo software (Tree Star, Ashland, Oregon, United States of Ameria)により解析した。各骨髄試料に対して、最低200,000細胞を解析した。細胞培養試料に対して、最低20,000細胞を解析した。
【0147】
マススペクトル分析:
既述のようにマウスに投与し、尾血管ニックを行い30μL末梢血を採集した。血液を遠心し、10μL血漿を得、これを100μL氷冷メタノールと混合し、遠心し、及び10μLの内部対照と混合した。測定した試薬処理してない野生型C57Bl/6メスマウスの既知濃度の血漿から得た3組の試料由来の標準曲線を基準として、血漿レベルを定量した。定量は、トリプル四重極質量分析器を伴うHPLC分離を用いて、内部標準の測定に対して結果を規格化して行った。
【0148】
敷石状領域形成細胞(CAFC)検定:
CAFC検定は既述のように行った(Meng et al., Cancer Res., 63, 5414-5419 (2003))。簡単に説明すると、骨髄をマウスの大腿骨及び脛骨から採取し、遠心してBM-MNCを精製した。CAFCの頻度を1週間おき(7,14,及び35日目)に測定した。もし少なくとも1個の暗位相差造血細胞クローン(5以上の細胞を含む)が見られるならば、ウェルはポジティブと計数した。その後、CAFCの頻度を、既述のようにPoisson統計を用いて計算した。
【0149】
IR後のγ-H2AX(リン酸化H2AX):
γ-H2AX画像をとるために、tHDF(不死化ヒト二倍体繊維芽細胞)に、照射前24時間のCDK阻害化合物の処理又は非処理を伴う6GyIRを照射した。IR照射直後又は3時間後、細胞は2回氷冷したPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド+0.1%Triton-X(Sigma, St Louis, Missouri, USA)で30分間固定し、氷冷PBSで2回洗浄し、抗-γ-H2AX-AlexaFluor488(Cell Signaling Technology, Beverly, Massachusetts, USA)及びファロイジン-AlexaFluor568((Invitrogen Corporation, Carlsbad, California, USA)と共に30分間インキュベートし、氷冷PBSで4回洗浄し、標本にした。画像を蛍光顕微鏡(顕微鏡)で得た。画像を、ImageJ software (developed by the National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA)で計算する平均核強度に対して解析した。フローサイトメトリーγ-H2AXデータのために、0,2,4,6,又は8Gyの電離放射線照射24時間前に、細胞をCDK阻害化合物とインキュベートした。照射後、細胞を直ちに固定し、Millipore (Billerica, Massachusetts, USA)のγ-H2AX Flow Kit指示書に従って、γ-H2AXを染色した。
【0150】
クローン原性検定:
既述(Franken et al., Nature protocols, 1, 2315-1319 (2006)))のように、24時間のCDK阻害化合物処理の少なくとも6時間前に、6ウェルプレートに蒔種し、CDK阻害化合物処理の開始後12時間に6GyIRを照射した細胞を用いて、クローン原性検定を行った。細胞を16日間増殖させ、洗浄し、固定し、クリスタルバイオレットで染色した。その後、プレートを、Odyssey 赤外スキャナー(Li-Cor Biosciences, Lincoln, Nebraska, USA)を用いて画像化し、添付されたソフトウェアを用いて定量した。
【0151】
コメット尾検定:
細胞を6cm培養皿に蒔種し、一晩接着させた。次に、細胞を、24時間CDK4/6阻害化合物又はジメチルスルホキシド(DMSO)のみで処理した。24時間後、既述のように細胞を照射した。その後、細胞を固定し、Trevigen (Gaithersburg, Maryland, USA)から購入したCOMETASSAY(TM)の製造者の指示書に記載される様に処理した。概略は、細胞をアガロースに埋め込み、細胞膜を透過性にして、DNAをアルカリ溶液中で変性させ、及びDNAを電気泳動により移動させる。コメット尾の画像を、蛍光顕微鏡(顕微鏡)で得てから、画像を、10倍又は20倍の倍率で、TriTek Corp. (Sumerduck, Virginia, USA)からのCometScoreソフトウェアを用いて解析した。
【0152】
顕微鏡:
顕微鏡写真を、CCDカメラ(model C4742-80-12AG, OCAR-ER, Hamamatsu Corporation, Hamamatsu City, Japan)に附属した10 PlanApo対物レンズ、20 PlanApo対物レンズ又は40PlanApo対物レンズを装着し、Slidebookソフトウェアで調節する倒立顕微鏡(model IX-81, Olympus, Center Valley, Pennsylvania, USA)に装填された水銀レーザーを用いて得た。
【0153】
Westernブロット:
Westernブロットを、既述(Ramsey et al., Cancer Res., 67, 4732-4741)のようにタンパク質分解酵素阻害化合物(Roche, Basel, Switzerland)及びホスファターゼ阻害化合物(Calbiochem, San Diego, California, USA)を加えた、NP-40溶解緩衝液中の細胞溶解液に対して、抗-P53-ホスホ-Ser15(Cell Signaling Technology, Beverly, Massachusetts, USA),Bax, p21, 及びアクチン-HRP(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, California, USA)を用いて行った。
【0154】
化合物:
以下の研究に用いた化合物を以下の表1に示す。特に注釈がなければ、化合物は既知の文献手順(Chu et al., J. Med. Chem, 49, 6549-6560 (2006); Zhu et al., J. Med. Chem. 46, 2027-2030 (2003), Toogood et al., J. Med. Chem., 48, 2388-2406 (2005); 及びFry et al., Mo. Cancer Ther., 3, 1427-1438 (2004))によって新たに合成した、又は市販の供給元から購入した。フラボピリドールは、Kwok-Kin Wong 博士(Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, Massachusetts, USA)より提供された。ロスコビチン及びゲニステインは、LC Laboratories (Woburn, Massachusetts, USA)から購入した。2BrICを、本研究のためにOTAVA Chemicals (Kiev, Ukraine)は新たに合成したが、OTAVA Chemicals (Kiev, Ukraine)及びAlexis Biochemicals (EnzoLife Sciences, Inc., Farmingdale, New York, USA)から市販品が入手可能である。PD0332991は、Pfizer, Inc. (New York, New York, USA)から提供されたが、実施例6において、以下の記載のようにして合成された。全ての化合物の構造及び純度は、NMR及びLC-MSにより確認された。全ての化合物の純度は>94%純粋であった。
【0155】
表1.選択的及び非選択的CDK4/6阻害化合物
【表1−1】

【0156】
【表1−2】

【0157】
【表1−3】

【0158】
統計的解析:
特に注釈がなければ、比較は、妥当なところで多重比較に対するBonferroni補正を伴う、1方向ANOVAで行った。誤差バーは、+/−平均値の標準誤差(SEM)である。
【0159】
実施例1
遺伝子組み換えマウスメラノーマモデルにおけるin vivo活性
サイクリンD1は、圧倒的大部分のメラノーマ(黒色腫)において活性化されていて、RAS-RAF-ERK経路の主要な標的であり(Curtin et al., N. Engl. J. Med., 353, 2135-2147 (2005))、かつヒト・メラノーマの大部分において体細胞p16INK4a不活性化が見られるため、メラノーマは、腫瘍維持のために持続的CDK4/6活性を要求しているようであることが示唆されてきた(Walker et al., Genes Chromosomes Cancer, 22, 157-163 (1998); and Daniotti et al., Oncogene, 23, 5968-5977 (2004))。そのため、この種の腫瘍は、CDK4及び/又はCDK6を活性化するために、予想される2個の遺伝子欠損により特徴付けられる。メラノーマ維持のためのCDK4/6活性化の役割を研究するために、Chin及び共同研究者により開発されたメラノーマのよく特徴付けられたTyr-RAS+ INK4a/Arf-/-モデルを、FVB/n遺伝的バックグラウンドにおいて用いた(Chin et al., Genes & Development, 11, 2822-2834 (1997))。遺伝子工学によるマウスモデル(GEMM)において、変異H-Rasのメラニン形成細胞特異的発現は、p16INK4a及びArt腫瘍抑制タンパク質の欠失(Ink4a/ASrf-/-)の設定をされた進行性のメラノーマを誘発する(図2A及び2B)。無傷のInk4a/Arf機能の設定をされた導入遺伝子を持つマウスは、表現形質上正常であり、自発的にメラノーマを発生しないが、p16INK4aの特異的欠損(Arf機能は持続して)は腫瘍形成を加速する(Sharpless et al., Oncogene, 22, 5055-5059 (2003))が、このことは、特定の理論に囚われずに、CDK4/6活性化が腫瘍イニシエーションに対して決定的であることを示唆する。
【0160】
メラノーマ維持におけるCDK4/6活性の役割を研究するために、担腫瘍Try-RAS+Ink4aArf-/-動物を毎日の経口強制給餌により、150mg/kgのPD0332991処理を行った。この投与量及びスケジュールは、明白な毒性無しに許容される(Fry et al., Mol. Cancer Ther., 3, 1427-1438 (2004); 及び Ramsey et al., Cancer Res., 67, 4732-4741 (2007))であろうが、腫瘍増殖の退化も減少もPD0332991処理マウスに見られなかった(図2B)。これらの動物を、幾つかの異種移植システムで強い活性があるスケジュールで、最大許容投与量で処理した(Fry et al., Mol. Cancer Ther., 3, 1427-1438 (2004))。PD0332991処理を受けている間に、樹立した腫瘍に増殖に効果が見られなかったばかりでなく、8〜16日に5匹中2匹のマウスに、新腫瘍が発生した。同一投与量及びスケジュールは、膵臓ランゲルハンス島のようなCDK4/6依存性正常マウス組織の増殖を抑えたので、腫瘍増殖は、PD0332991の不充分な生体利用効率によらないようである(Ramsey et al., Cancer Res., 67, 4732-4741 (2007))。同様に、これらの腫瘍由来の細胞株は、in vitroでのPD0332991処理に対して非感受性であった(図2C)。従って、p16IMK4a欠損は、このモデルにおけるこの種類の腫瘍のイニシエーションを促進するが(Sharpless et al., Oncogene, 22, 5055-5059 (2003))、この種の樹立したRAS駆動のマウスメラノーマは、in vivoにおける増殖に対して、CDK4/6活性を必要としないので、このことは、ガンは増殖のために他の増殖性キナーゼ(例えば、CDK2又はCDK1)活性に依存することができることを示唆する。
【0161】
これらのRAS誘発マウスメラノーマがCDK4/6活性に依存しないことを、これらの結果が立証したので、次にIR治療(7.5)Gyの照射4時間前のCDK4/6処理の効果を調べた(図2D及び2E)。IRの前のCDK4/6阻害化合物による前処理は、このモデルにおいて、IRの抗ガン有効性を損なわず、放射線関連の毒性死を減少させた。従って、少なくとも増殖のためにCDK4/6活性を必要としないガンにおいて、IR治療の有効性を必然的に損なわず、選択的CDK4/6阻害化合物の使用によるPQ(医薬学的休止)誘導が、IRの血液学的毒性を止めることができる。
【0162】
実施例2
CDK4/6依存性細胞における選択的G1期停止
幾つかのヒト細胞株を、上記表1に示した、選択的及び非選択的低分子CDK阻害化合物で処理した。不死化ヒト二倍体繊維芽細胞(tHDF)及びヒト・メラノーマ細胞株WM2664を含む、CDK4/6依存性細胞株は、強力な及び選択的Cdk4/6阻害化合物PD0332991又は2BrIC処理の後、強い、可逆的なG1期停止を示した(図3A〜3B)。これに対して、ロスコビチン、化合物7(即ち、R547)及びフラボピリドールを含む、さらにCDK1/2を標的とする、それ程選択的でないCDK阻害化合物は、これらの細胞種において、色々、G2/M期停止、S期内停止、又は細胞死(サブ-G0)をもたらす。表1からの化合物1〜6及び8〜15はまた、選択的G1期停止を欠く。RB-ヌルメラノーマ株、A2058,は予想した様に、選択的CDK4/6阻害化合物に対して非感受性であるが、それ程特異的でないCDK阻害化合物処理の後、G2/M又はS期内停止、及び/又は細胞死を、同様に示す。7種のRB欠失ヒト肺小細胞癌株の増殖はまた、選択的CDK4/6阻害化合物に対して抵抗性であった。従って、ここで開示するデータは、構造上明確な、強力な、及び選択的Cdk4/6阻害化合物は、感受性のある細胞株(CDK4/6依存性細胞株)において、実質的に純粋な(即ち、"クリーンな")G1期停止を作用するが、より広い、非特異的CDK阻害化合物の細胞周期への効果は、予想が難しく、細胞毒性を伴うことを示す。
【0163】
実施例3
細胞におけるIR誘発性DNA損傷の防止
IR被爆は、CDK4/6依存性細胞株を含め、テストした全ての細胞株において、広範囲のDNA損傷(コメット尾及びγ-H2AX)及びDNA損傷応答(p53発現)を引き起こす。IR前に選択的CDK4/6阻害化合物PD0332991又は2BrICで処理することにより、DNA損傷応答(図4A〜4B)、γ-H2AX(リン酸化H2AX)形成(図5A、5B、5F及び5G)、及びDNA損傷(コメット尾;図5C〜5E)が、CDK4/6阻害がクリーンG1期停止を引き起こす細胞株においてのみ、低下した。例えば、不死化ヒト二倍体繊維芽細胞(tHDF)を24時間100nMPD032991前処理後6Gy IR照射、PD032991前処理無しに6Gy IR照射、又は単純にPD0332991処理で、IR照射しなかった。その後、細胞をγ-H2AX(緑)とファロイジン(赤)に対して染色した。DNA損傷(例えば、γ-H2AX)を示す強い緑色核パッチは、IRのみ処理したtHDFに存在し、PD0332991処理細胞試料には実質的に存在しない(図5Aにグレイスケールで示し、図5Bに定量値を示す。)。これらは、PD0332991前処理が、IRにより引き起こされたDNA損傷から細胞を防護することができることを示す。同様に、2BrICの処理により、IR誘導のγ-H2AX形成が防止される(図5F〜5G)。同様に、PD0332991及び2BrICは、コメット尾検定、DNA損傷の直接測定において、IR誘発性DNA損傷を、減少させた(図5C〜5E)。さらに、IR照射前のこれら化合物による前処理は、CDK4/6依存的様態で、クローン化細胞の生存率を促進した(図6A〜6B及び図7)。
【0164】
これに対し、非選択的CDK4/6阻害化合物であるCINK4は、300nM〜30μMの濃度で、CDK4/6依存性(WM2664)又は非依存性(A2058)細胞において、実質的に純粋な(即ち"クリーン"な)G1期停止を誘導しなかった(図8)、またCINK4は、IR照射後の細胞生存率を高めることができなかった(図9A〜9B)。他の非選択的CDK阻害化合物もまた、IRからの細胞防護を提供できず、幾つかの試薬は幾つかのCDK4/6依存性の細胞種において、IR感受性を高めた(例えば、スタウロスポリン)。余り選択的でないCDK阻害化合物が保護的なPQ休止(医薬学的休止)を提供できなかったことは、G1期以外の細胞周期(例えば、G2/M)での休止は、遺伝子毒性被曝から防護できないだろうことを示唆する。あるいは、余り選択的でないCDK阻害化合物はまた、非RBファミリー基質(例えば、CDK1/2によるBRCA1)のリン酸化を阻害する、その結果図9A〜9Bにおいて観察したCINK4効果により示唆されるように、DNA損傷作用物の毒性を不都合に増加させる可能性がある。総合すると、これらのデータは、PQ(医薬学的休止)は選択的CDK4/6阻害化合物により影響を受けるが、より広いCDK阻害化合物は、G1からS期への移行に対してCDK4/6キナーゼ活性を必要とする細胞種におけるIR誘発性DNA損傷に対するin vitro抵抗性を提供しないことを示す。
【0165】
実施例4
in vivoにおける造血幹細胞のIRからの防護
実施例2及び3のin vitroのデータは、CDK4/6依存性組織は、in vivoにおいてCDK4/6阻害化合物により、IR-誘発性DNA損傷から保護されるだろうということを示唆する。経口的に生物的利用化能があるPD0332991を、経口強制給餌により、成体野生マウスC57Bl/6マウスに投与した。Ki67発現及び24時間にわたるブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みにより測定した造血幹細胞(HSC; Lin-Kit+Sca1+CD48-CD150+)の増殖は、見積と比べて遅かった(Passegue et al., J. Exp. Med., 202, 1599-1611 (2005); Wilson et al., Cell, 125, 1118-1129 (2008); 及び Kiel et al., Nature, 449, 238-U210 (2007))。48時間にわたるPD0332991処理は、Ki67発現に対する効果がより強いが、Ki67の発現及びBrdUに対して2重にポジティブなHSC(造血幹細胞)の頻度を顕著に減らした(図10B〜10C参照)。より目立った増殖阻害は、より急速に増殖する多分化能を持つ前駆細胞区画(MPP; Lin-Kit+Sca1+CD48-CD150-)において注目された。図10B〜10Cを参照。オリゴポテント前駆細胞(Lin-Kit+Sca1-)は、中程度の増殖阻害を示したが(図10B,C参照)、より分化した顆粒球単球前駆細胞(GMP)及び赤芽球系前駆細胞(MEP)におけるより弱い効果と比較して、骨髄共通前駆細胞(CMP)及びリンパ球共通前駆細胞(CLP)において最も強い効果が見られた(図10B〜10C)。初期のHSPC(造血幹細胞及び前駆細胞)への効果と比較して、より十分に分化したLin-Kit-Sca1- 及び Lin+細胞において(これらの分画は不均一であり、部分集団への効果ははっきりしなかったが)、増殖に変化は見られなかった。
【0166】
2BrICは、Hot Rod 処方キット (Pharmatek, Inc. San Diego, California, USA)からの処方#6を用いて経口強制給餌のために可溶化し、BrdU注射2時間前に経口給餌により与えた。また、骨髄において、G1期停止を維持するために、BrdU注射時に更なる投与量を与えた。2BrICは処方物単独で処理したマウスと比べ、MPP(多分化能前駆細胞)(Lin-Kit+Sca1+細胞)へのBrdUの取り込みを阻害した。図11A〜11B参照。これらのデータは、強力な、選択的CDK4/6阻害化合物を用いたin vivo処理により、初期のHSPCにおける強いPQを誘導することを示すが、より分化した増殖性の血液細胞において、より小幅な効果を示した。
【0167】
免疫表現型性HSPC(造血幹細胞及び前駆細胞)頻度への効果は、他の方法により、確認された。PD0332991の一時的処理(48時間)は、全骨髄細胞性を減らさなかったが(図12A)、Lin-又はHSCアポトーシス又は生存率を変えずに、リネージ・ネガティブ細胞の絶対数を減らした(図10D)。図12B〜12Cを参照。より沢山のオリゴポテント前駆細胞の頻度は減少した(Lin-cKit+Sca1-; 図10D及び12D))。他方これと関連して、HSC及びMPP頻度は増加した。敷石状領域形成細胞検定により、一時的CDK4/6阻害は、in vivo HSPC数を減らさないことが確認された(図12E)。これらのデータにより、骨髄/赤血球分化の間の増殖に対するCDK4/6活性の依存性に勾配があることが示唆される。即ち、最も未分化の細胞(HSC, MPP 及びCMP)は、CDK4/6活性に最も依存性があるようであり、より分化した細胞(GMP 及びMEP)は依存性が低く、さらに分化した骨髄及び赤血球細胞は非依存的に増殖する。
【0168】
実施例5
IR処理動物における生存率の増加
成体メスC57Bl/6マウスに、PD0332991処理又は非処理下、6.5,7.5又は8.5Gy照射し、TBI後40日間処理、非処理を継続した(図13A〜13F及び14A〜14C)。IRに対するLD90は約7.5 Gyとした。致死量に近いTBIの照射線量の血液学的毒性から著しい防護が観察された:殆ど全ての非処理マウスは、7.5 Gy照射による血液学的毒性により死んだが、全ての処理群は生存した。図13B〜13Fを参照。選択的CDK4/6阻害化合物処理は、他の2種の近交型株(C3HF及びFVB/n)において、同程度の放射線防護を与えた。C3Hに対して、図14A、FVB/nに対して図2Eを参照。8.5 Gy TBI後の非処理マウスと比較し、IR処理4時間前の1回のPD0332991の投与は、顕著に期間生存率を増加した(13%対0%)、及び生存中央値を伸ばした(19日対13日)。図14Cを参照。PD0332991処理と無関係に6.5 Gy照射後全てのマウスは生存した。図14Bを参照。in vitro結果と一致して、選択性の低いCDK阻害化合物を投与したマウスは、致死TBI後の生存の恩寵はなかった。TBIの時間付近の一時的CDK4/6阻害に帰因するPQが、in vivo放射線防護を増加したようである。
【0169】
より詳細には、動物にLD90線量の全身照射(TBI)の前後の異なる時間にCDK4/6阻害化合物を投与した(図13A〜13F)。動物に、TBI前、及び後2回の投与処理をした場合、放射線防護が観察されたので(図13A〜13B)、更なる研究を行い、放射線防護に対しどの投与が最も重要か決めた。いかなる理論に囚われることなく、最も役立つ処理スケジュールは、TBIの直前又は同時のPD0332991処理と関係するようであった。単回の−4時間投与又は単回の0時間投与は多回投与(−28,−4,+20)スケジュール処理した動物に類似した生存率を示した(図13B〜13E)。しかしながら、TBIの20時間後、単回処理のマウスの生存率でさえ、顕著に増加した。図13F参照。強制給餌後>30分までは、治療上の血清レベルに達せず、及びその後10〜20時間持続するので、これらの観察から、DNA損傷の誘発後持続する、数(>20)時間のPQの期間が役立つことが示唆される。IR前に投与して、放射線毒性から防護する化合物(即ち、放射線防護剤")は僅かしか知られてないが(Burdelya et al., Science, 320, 226-230 (2008); 及びWeiss and Landauer, Int. J. Radiat. Biol., 85, 539-573 (2009))、今回開示した発明以前には、未知の血液学的"放射線緩和剤"(即ち、TBI照射後長時間を経て投与した時、血液学的毒性を減らす化合物)の報告は無かったと信じる。
【0170】
IR照射後の動物の末梢血を研究し、改善された生存率は、造血リネージの防護によることを確認した。多の研究者により報告されたように(Na Nakorn et al., J. Clin. Invest., 109, 1579-1585 (2002))、高線量TBIによる死亡は、不健全な貧血症及び血小板減少症と関係する。致死的に照射したマウスにおいて、この状況は、PD0332991処理により著しく緩和される(図13G)。さらに、PD0332991は、亜致死線量のTBI後の、血球細胞数の谷の深さを浅くし、より急速な血球数回復をもたらした(図15)。重要なことは、PQ治療は、全ての末梢血リネージ(血小板、赤血球、骨髄性細胞(顆粒球+単球)、及び末梢リンパ球)の回復に役立つ効果を持つ。TBI後の、4種リネージ血液新生における改善は、CDK4/6阻害化合物は、CDK4/6阻害化合物処理により細胞周期停止させられた初期のHSPCにおいて最大の放射線防護を発揮するという概念と矛盾しない。
【0171】
全身照射(TBI)後210〜274日を追跡すると、PD0332991処理と非処理に拘わらず、6.5 Gy TBI後の動物に死亡が見られなかった。18匹中2匹のみ(1匹のC3H及び1匹のC57Bl/6)がPQなしに、7.5 Gy TBIを生き残り、及びこれらの動物は、TBI後143から252日間に疾病の徴候を示さなかった。PQ設定において、7.5 Gy TBIの急性毒性を生き残った29匹のマウスの中、TBI後99日の未知の原因による1匹の死亡があり、他のマウスは、TBI後101〜251日間疾病がなかった。長期間生き残った動物の血球数は、TBI時にPD0332991処理又は非処理、非照射マウスと照射マウスの間で、同様であった(図16)。これらの長期間生存の動物集団において、骨髄増殖性障害又は骨髄異形成の徴候は見られなかった。これらのデータは、PQ(医薬学的休止)は、亜致死TBIと結びついた後期血液学的毒性を悪化させず、及び致死線量のTBI後の優れた長期の血液学的放射線防護さえ与えることを示す。
【0172】
このモデルと一致して、12日間毎日継続してPD0332991で処理した場合、赤血球、血小板、及び骨髄(単球+顆粒球)リネージは中程度に減少し、これは処理8日後にのみ明らかとなり、これはPD0332991処理停止4日以内に改善が始まった(図17)。これらの観察は、担腫瘍マウス(Ramsey et al., Cancer Res., 67, 4732-4741 (2007); and Fry et al., Mol. Cancer Ther., 3, 1427-1438 (2004))及び悪性腫瘍を患うヒト患者(米国臨床腫瘍学会 (ASCO, Chicago, Illinois, 2007)におけるO'Dwyer et al., "A Phase I does escalation trial of a daily oral CDK4/6 Inhibitor PD 0332991(Phase I は毎日のCDK4/6阻害化合物 PD 0332991経口投与の拡大試験を行う)")が連続してPD0332991処理を受ける際、見られる骨髄抑制の動特性及び程度と辻褄が合う。顕著な減少が、放射線治療の様々な効力を高めると予期されるかも知れない。しかしながら、予期に反して本明細書に示した様に、造血細胞は、様々な効力から防護される。さらに、これらのデータから、末梢血の分化したエフェクター細胞の短期の、増殖的産生は、CDK4/6阻害に対して、相対的に抵抗性があり、及びCDK4/6阻害化合物の骨髄抑制効果は、in vivoにおいて、急速に可逆的であることが確認された。
【0173】
従って、本明細書に開示したデータによると、選択的薬理学的CDK4/6の阻害は、in vivo及びin vitroにおいてG1期停止の誘導により、IRからCDK4/6依存性細胞を、防護することが示唆される。注目すべきことは、IR被爆の充分後に開始した場合でも、PQ(医薬学的休止)は、in vivoにおいて、防護的であることである(図13F)。如何なる理論に囚われることなく、このデータによると、CDK4/6阻害は、TBI後数時間の間、非修復DNA損傷がある細胞のG1/0期の期間を延長することにより、初期の造血前駆細胞を防護することが示唆される。この視点に隠された仮定は、非修復DNA損傷の設定における意図したG1-S移行は特に毒性のある事象であると言う仮定で、後期G1及び初期S期における放射性感受性の増加と矛盾しない(Sinclair and Morton, Radiation Research, 29, 450-474 (1966); 及びTerasima and Tolmach, Science, 140, 490-492 (1963))。
【0174】
放射線毒性を緩和する現在の介入は、対症療法、成長因子、サイトカイン、及び特異的キレート試薬の組合せであり、これらのいずれも、放射線被曝の充分後に投与した場合有効ではない(Weiss and Landauer, Int., J. Radiat. Biol., 85, 539-573 (2009))。G/GM-CSF又は 赤血球生成促進因子のような試薬を伴う成長因子は、DNA損傷作用物の毒性効果を弱めることが示されたが(Herodin et al., Blood, 101, 2609-2616 (2003); 及び Uckun et al., Blood, 75, 638-645 (1990))、低分子PQ法は、より大きな効果、被爆後のより長期の有効期間、これらの生物製剤の持つ毒性なしの防護を持つようである。さらに、PQは、血小板減少症を誘発するDNA損傷(図13G)、臨床腫瘍学における未対処の必要性、及び放射線緩和を改善する。後期血液学的毒性は、ヒト(Hershman et al., J. Nat. Cancer Inst., 99, 196-205 (2007)及びLe Deley et al., J. Clin. Oncol., 25, 292-300 (2007))及びマウス(Herodin et al., Blood, 101, 2609-2616 (2003))の両者におけるDNA損傷作用物への被曝後の成長因子補助と関係するが、PQは、TBI後の後期血液学的毒性を増加させないようである(図16)。さらに、成長因子補助及びPQは、異なるメカニズムにより細胞数回復を増加させるようである。前者はアポトーシスを阻害し、HSPC(造血幹細胞及び前駆細胞)増殖を増加させ、及びリネージ選択を調節することにより、後者は、DNA修復を高めることによる(図4A〜4B)。
【0175】
実施例6
PDの合成
【化3】

【0176】
反応機構1:PD合成
PDを、反応機構1(化3)に示すように合成した。反応機構1(化3)に示す反応は、化合物Dの化合物Eへの変換、及び化合物Fの化合物Gへの変換反応を除いて、一般的に以前に報告された経路に従う(VandelWel et al., J. Med Chem., 48, 2371-2387 (2005); and Toogood et al., J. Med. Chem., 48, 2388-2406 (2005))。
【0177】
化合物Dの化合物Eへの変換:
【化4】

化合物D(40g、169mmol)を無水THF(800mL)に窒素下で溶かし、及びこの溶液を氷槽で冷却し、ここにMeMgBrをゆっくり加え(エーテル中3M、160mL、480mmol)及び1時間攪拌した。水とEtOAcに分配する飽和NH4Cl水溶液を加えて反応を休止した。有機層を分離し、及び水層をEtOAcで抽出した。混合した有機層を塩水で洗浄し、MgSO4上で乾燥した。濃縮して中間産物をオイルとして得た(41.9g,98%)。
上記中間産物(40g、158mmol)を乾燥CHCl3(700mL)に溶かした。MnO2(96g、1.11mol)を加え、混合物を18時間攪拌しつつ加熱乾留し、再度のMnO2(34g、395mmol)を加え、4時間乾留を続けた。Celiteパッドを通して濾過し、固体をCHCl3で洗浄した。濾過物を濃縮し、黄色固体化合物E(35g、88%)、Mp:75.8〜76.6℃。
【0178】
化合物Fの化合物Gへの変換
【化5】

化合物F(5g、18.2mmol)を無水DMF(150mL)に溶かし、及びNBS(11.3g、63.6mmol)を加えた。反応混合物を3.5時間、室温で攪拌し、H2O(500mL)に注ぎ、沈殿物を濾過し、H2Oで洗浄した。固体をEtOHから再結晶化し、化合物Gを白色固体(5.42g、80.7%)として得た。mp:210.6〜211.3℃。
【0179】
PDの特徴付けデータ
LC-MS: 448.5 (ESI, M+H). 純度: 〜99%
1H NMR(300MHz, D2O): 9.00(s, 1H), 8.12 (dd, J = 9.3 Hz, 2.1Hz, 1H), 7.81(d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.46(d, J = 9.6Hz, 1H), 5.80-5.74 (m, 1H), 3.57-3.48(m, 8H), 2.48(s, 3H), 2.37(s, 3H), 2.13-1.94(m, 6H), 1.73-1.71(m, 2H).
13C NMR (75MHz, D2O): 203.6, 159.0, 153.5, 153.3, 152.2, 139.9, 139.4, 139.2, 133.1, 129.0, 118.7, 113.8, 107.4, 51.8, 42.2, 40.0, 28.0, 25.2, 22.6, 10.8.
【0180】
本発明の様々な詳細は本発明の範囲から離れることなく変更できることを理解すべきである。さらに、上記の記載は、説明することだけを目的としたものであり、制限することを目的としたものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線に被曝した、これから被曝する、又は被曝する虞のある患者の健康な細胞に対する電離放射線の影響を低下させる又は防止する方法であって、この患者に有効量の阻害化合物又はその医薬的に許容可能な塩を投与することから成り、この健康な細胞が造血幹細胞又は造血前駆細胞であり、この阻害化合物がサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)及び/又はサイクリン依存性キナーゼ6(CDK6)を選択的に阻害することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記阻害化合物が、ピリド[2,3-d]ピリミジン、トリアミノピリミジン、アリール[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、窒素含有ヘテロアリール置換尿素、5-ピリミジニル-2-アミノチアゾール、ベンゾチアジアジン、及びアクリジンチオンから成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ピリド[2,3-d]ピリミジンが、ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オン又は2-アミノ-6-シアノ-ピリド[2,3-d]ピリミジン-4-オンである請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンが、2-(2'-ピリジル)アミノピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-オンが、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]ピリミジン-7-オンである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アリール[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールが、ナフチル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、インドロ[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、キノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾール、及びイソキノリニル[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールからなる群から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記アリール[a]ピロロ[3,4-c]カルバゾールが、2-ブロモ-12,13-ジヒドロ-5H-インドロ[2,3-a]ピロロ[3,4]-カルバゾール-5,6-ジオンである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記阻害化合物が、CDK4及びCDK6の両者を阻害する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記阻害化合物が、非天然化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害化合物が、CDK4-及び/又はCDK6-依存性細胞において、G1期停止を誘導する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害化合物が、CDK4-及び/又はCDK6-依存性細胞において、実質的に純粋なG1期停止を選択的に誘導する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記阻害化合物が、実質的にオフターゲット効果がない請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記オフターゲット効果が、長期の毒性、抗酸化効果、発情効果、チロシンキナーゼ阻害、サイクリン依存性キナーゼ4/6(CDK4/6)以外のサイクリン依存性キナーゼ類(CDKs)阻害、及びCDK4/6非依存性細胞における細胞周期停止からなる群の1又はそれ以上の効果である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、哺乳類である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記阻害化合物が、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、吸入、及び静脈内投与から成る群から選択される1の方法により患者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記阻害化合物が、電離放射線の被曝前、被曝中、被曝後、又はこれらの組合せの際、患者に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記阻害化合物が、電離放射線被曝前の約24時間以内に、患者に投与される請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記阻害化合物が、電離放射線被爆の間にこの化合物の血清中の濃度がピークになるように、電離放射線被曝前に、患者に対して投与される請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記阻害化合物が、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-(5-ピペラジン-1-イル-ピリジン-2-イルアミノ)-8H-ピリド-[2,3-d]ピリミジン-7-オンであって、電離放射線被曝4時間前にこの阻害化合物が患者に経口的に投与される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記阻害化合物が、電離放射線被爆後に患者に投与される請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記阻害化合物が、電離放射線被爆後約24時間又はそれ以後に患者に投与される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記健康な細胞が、長期造血幹細胞(LT-HSCs)、短期造血幹細胞(ST-HSCs)、多分化能前駆細胞(MPPs)、骨髄共通前駆細胞(CMPs)、リンパ球共通前駆細胞(CLPs)、顆粒球単球前駆細胞(GMPs)及び赤芽球系前駆細胞(MEPs)からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記阻害化合物の投与により、患者における造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞が、一時的に薬理学的に休止する請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が、電離放射線を被曝した、又は戦争、放射性物質のテロ攻撃、産業上の事故、他の職業上の被爆若しくは宇宙旅行の間の放射性物質被爆の結果として電離放射線を被曝する危険性がある請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が、疾患を治療するために放射線治療を受けている請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記阻害化合物の投与が、疾患にかかった細胞の増殖に効果を持たない請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記疾患が、ガンである請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記ガンが、サイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)の活性増加、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)の活性増加、網膜芽腫腫瘍抑制タンパク質(RB)の欠失又は不在、高レベルのMYC発現、サイクリンEの増加、及びサイクリンAの増加からなる群の1以上の特徴を持つ請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記阻害化合物の投与により、阻害化合物の投与なしの場合に用いられる線量より高線量の電離放射線を用いて、疾患を治療することが可能になる請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記方法に、長期の血液学的毒性がない請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記阻害化合物の投与が、阻害化合物の投与無しで電離放射線に被曝した場合に予想される結果と比べて、貧血を減少させ、リンパ球減少症を減らし、血小板減少症を減らし、又は好中球減少症を減らす結果をもたらす請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2A】
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【公表番号】特表2012−504645(P2012−504645A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530243(P2011−530243)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/059254
【国際公開番号】WO2010/051127
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(501345323)ザ ユニバーシティ オブ ノース カロライナ アット チャペル ヒル (52)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF NORTH CAROLINA AT CHAPEL HILL
【住所又は居所原語表記】308 Bynum Hall,Campus Box 4105,Chapel Hill,North Carolina 27599−4105, United States of America
【Fターム(参考)】