説明

健康度の検出方法

【課題】被験個体において、健康状態から疾病状態への過程における変化を検出することのできる検出方法を提供する。
【解決手段】被験個体の健康度を検出する方法として、被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定し、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康度の検出方法、詳しくは、健常人における健康度(健康状態のレベル)を検出する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
国民医療費は増大の一途をたどってきているが、すでに日本は超高齢化社会を迎え、医療費は急速に増大しており、医療費抑制は国家的命題となっている。特に、透析や心血管疾患など生活習慣病及びその合併症が医療費の負担を大きく占めていることから、生活習慣病を早期に予防することが急務となっている。近年、健常状態から疾病状態に至るまでの期間において疾病を早期発見し、早期治療を実現することが求められている。したがって、こうした経過における変化を検出できる検査方法も要請されている。
【0003】
こうした検査方法について各種の試みが開示されている。例えば、二次元座標において酸化損傷度と酸化防御能の2つの指標で酸化ストレス特性を評価する手法が開示されている(特許文献1)。この方法では、尿中における8−OHdG(8−ハイドロキシ2’−デオキシグアノシン)やその他の化合物の体重当りの生成速度を評価することとしている
【0004】
また、被検者により尿中8−OHdGとHEL(ヘキサノイルリジン)を測定してこれらの数値が比較的高い群を選択し、ブロッコリースプラウト抽出物を投与して、これらの尿中濃度を測定し、抽出物の抗酸化作用を評価したことが開示されている(特許文献2)。
【0005】
さらに、生体のレドックス均衡度の測定による抗酸化能の評価において、評価のファクターとして、尿中の8−OHdGを定量的に測定することが開示されている(特許文献3)。
【0006】
さらに、野菜やジュースなどを摂取することによって健常者の尿中8−OHdGが対象群より減少したことが報告されている(非特許文献1)。また、健康なサッカー選手を対象として、野菜ジュースを摂取することによって12時間の蓄積尿中の8−OHdGの変化を測定している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−310261号公報
【特許文献2】特開2008−74816号公報
【特許文献2】特開2003−315327号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Asia Pac J Clin Nutr. 2007; 16 (3): 411-21.
【非特許文献2】J. Physiol. Anthropol. 19 (6), p287-289 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
確かに、8−OHdGやHELはそれぞれDNA及び脂質の酸化物であり、生体内の酸化ストレスマーカーとして知られている。そして、8−OHdGについては、抗酸化化合物の摂取により、尿中濃度が低下することも知られている。しかしながら、健康から疾病に至る過程における変化、つまり健常人において健康から疾病に至る過程における変化を検出するマーカーとなりうるかどうかは不明であった。
【0010】
また、こうした酸化ストレスマーカーは、生体の持つ恒常性の維持機能により健常人における測定対象の変化が僅かであり、検出感度や精度の問題から、簡易に小さな変化を検出することも困難であった。
【0011】
そこで、本発明は、被験個体において、健康状態から疾病状態への過程における変化を検出することのできる検出方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、公知の酸化ストレスマーカーである8−OHdG及びHELに着目し、尿中のHEL及び8−OHdGを同時に抗原抗体反応を用いて検出することが、健常範囲における被験者の健康状態から疾病への過程における変化を検出するのに有用であるという知見を得た。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0013】
本発明によれば、被験個体の健康度を検出する方法であって、被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程と、測定した尿中の8−OHdG濃度及びHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の健康度の傾向を取得する工程と、を備える、検出方法が提供される。
【0014】
前記取得工程は、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得し、測定した尿中の8−OHdG濃度及び/又はHEL濃度を指標として健常範囲における被験個体の収縮期血圧の変化傾向を取得することで前記健康度の傾向を取得する工程であってもよい。また、前記健康度は、メタボリックシンドロームに対する傾向であってもよい。
測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMI(Body Mass Index、以下同じ。)の変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得する工程と、を備える、検出方法が提供される。前記測定工程は、8−OHdG及びHELを同時に抗原抗体反応により検出する工程としてもよい。
【0015】
本発明によれば、食品の評価方法であって、被験個体に前記食品を投与する工程と、被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程と、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得して、前記食品の投与効果を評価する工程と、を備える、評価方法が提供される。
【0016】
本発明によれば、8−OHdGを特異的に検出する第1の抗体と、HELを特異的に検出する第2の抗体と、を含む、健常人の健康度検査キットが提供される。前記キットは、8−OHdGの模擬抗原及びHELの模擬抗原を含んでいてもよい。前記第1の抗体及び前記第2の抗体のセット又は8−OHdGの模擬抗原及びHELの模擬抗原とのセットを、多数個表面に備える固相体を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】2項目同時測定用抗体チップの全体におけるレイアウト、スポットレイアウト、ビオチン化抗体の供給レイアウト及び当該チップから得られたシグナルを示す図を示す図である。
【図2】野菜摂取介入前後の8−OHdGとHELを比較結果を示す表である。
【図3】8−OHdGとHELと他の臨床データとの相関性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定して、測定した尿中の8−OHdG濃度及びHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の健康度の傾向を取得するものである。さらに、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得し、測定した尿中の8−OHdG濃度及び/又はHEL濃度を指標として健常範囲における被験個体の収縮期血圧の変化傾向を取得するものである。本発明者らは、被験個体の尿中8−OHdGと尿中HELとを測定し、健常人において、これらの数値を特定の健康指標と関連付けることができるとともに、抗酸化化合物の摂取にも関連付けることができることを初めて見出した。これまで、8−OHdGは既に疾病状態にある個体において高値であることが知られていた。しかしながら、特定の健康指標と関連付けられてはおらず、健康状態から疾病状態に至る経過の変化に対応いているか否かは不明であった。また、8−OHdGやHELが高値である疾病境界領域の被験個体や患者ならともかく、健常人における健康状態におけるこれらの微細な変化を見出せるか否かも不明であった。こうした指標は、いずれもメタボリックシンドロームに強く関連しており、これらの尿中濃度はメタボリックシンドロームの予兆診断に有用であることがわかった。本発明によれば、被検者について健康状態の微妙な変化(健康度)を捉えることができる。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(検出方法)
本発明の検出方法は、被験個体の健康度を検出する方法であって、被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程と、測定した尿中の8−OHdG濃度及びHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の健康度の傾向を取得する工程を備えることができる。あるいは、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得し、測定した尿中の8−OHdG濃度及び/又はHEL濃度を指標として健常範囲における被験個体の収縮期血圧の変化傾向を取得して測健常範囲における被験個体の健康度の傾向を取得するする工程と、を備えることができる。
【0020】
被験個体は、ヒトを含む動物である。ヒトの他、イヌ、ネコ等の愛玩動物、各種動物も含まれる。好ましくは、ヒトである。なかでも、被験個体は、健常範囲にあること、すなわち、健常人であることが好ましい。健常人とは、例えば、既知の指標によって未だ特定の疾患や症候群又はその境界領域と診断(こうした状態を疾病状態というものとする。)されていない個体である。例えば、メタボリックシンドロームとして診断されていない個体が挙げられる。
【0021】
メタボリックシンドロームの診断には、以下の基準を用いることができる。すなわち、腹囲について、男性85cm以上、女性90cm以上であるとともに、以下の(1)〜(3):
(1)中性脂肪150mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL以下のいずれか又は双方;
(2)最高(収縮期)血圧130mmHg以上、最低(拡張期)血圧85mmHg以上のいずれかまたは双方;及び
(3)空腹時血糖110mg/dL以上、
のうち2項目以上が該当する個体をメタボリックシンドロームと診断されている個体をいうものとする。
【0022】
また、健常人には、現時点では、前記診断はなされていないが、遺伝子診断により高血圧、糖尿病及び動脈硬化などのいわゆるメタボリック症候群発症の可能性の高いとされた個体も含まれる。
【0023】
健康度とは、健常人である状態から疾病状態に至る経過(健常範囲)における傾向を意味している。例えば、健康状態に向かっているのか疾病状態に向かっているのかという変化の方向(傾向)が挙げられる。
【0024】
本方法では、被験個体から採取した尿を被験試料とする。尿の採取形態は、特に限定しないで、公知の形態であればよい。被験試料は、好ましくは24時間尿である。8−OHdGやHELは尿濃度の日内変動や食事等の影響を受けやすいからである。
【0025】
(8−OHdG及びHELの測定工程)
本方法では、尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程を備える。8−OHdGは、DNA由来の過酸化物で同様に分解され尿中に排出されることがわかっており、HELは過酸化脂質由来の分解物であり尿中に排泄物として濃縮されることがわかっている。測定工程は、定期的に尿を採取して尿中の8−OHdG及びHELの濃度を測定するように実施することが好ましい。
【0026】
これらの測定方法は、公知の測定方法であればよく、特に限定されない。例えば、HPLC、ELISA、LC−MS等の抗原抗体反応等が挙げられる。好ましくは、抗体チップを用いた抗原抗体反応である。より好ましくは、8−OHdGとHELとを同時に検出できるように両者の模擬抗原(8−OHdG化BSA及びHEL化BSA等)を表面に備える固相担体である抗体チップであり、さらに好ましくは、こうした模擬抗原のセットを、同一の固相担体上に多数備えて、多数検体について8−OHdGとHELとを同時に検出できるような抗体チップである。こうした抗体チップは、間接競合法に適用できる。また、抗体値チップは、8−OHdGとHELとを同時に検出できるように両者の抗体を表面に備える固相担体である抗体チップであり、さらに好ましくは、こうした抗体セットを、同一の固相担体上に多数備えて、多数検体について8−OHdGとHELとを同時に検出できるような抗体チップである。こうした抗体チップは、直接競合法に適用できる。なお、8−OHdG抗体及びHEL抗体やこれらの模擬抗原は、商業的にあるいは当業者の周知の手法で取得でき、これらの固相体への固定化方法も当業者であれば公知の手法を適宜利用することで実現できる。
【0027】
(各種傾向の取得工程)
本方法は、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得できる。また、収縮期血圧の変化傾向も取得できる。本発明者らによれば、健常人の尿中の8−OHdG濃度が、血中HDLコレステロール値と有意に逆相関し、BMI及び収縮期血圧と有意に相関していることがわかっている。このことから、尿中8−OHdG濃度を測定し、それをモニターすることで、別途検査を実施することなくこれらの有用な健康指標の変化傾向を取得できる。これらの公知の指標は、メタボリックシンドロームに関連している点において有用である。
【0028】
また、本方法は、測定した尿中のHEL濃度を指標として、被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向及び収縮期血圧の変化傾向を取得できる。本発明者らによれば、健常人の尿中のHEL濃度が、野菜などの抗酸化化合物の摂取傾向及び収縮期血圧と有意に相関していることがわかっている。このことから、尿中HEL濃度を測定し、それをモニターすることで、抗酸化化合物の摂取傾向及び収縮期血圧の変化傾向を把握できる。
【0029】
これらの2種の酸化ストレスマーカーの組み合わせによれば、上記のとおり、健常範囲の被験個体において、メタボリックシンドロームに関連する複数の有用な指標に関連付けることができる。すなわち、メタボリックシンドロームの予兆を早期に検出することができるため、メタボリックシンドロームの発症及び予防に健常人に適用するのに有用な検査方法となっている。
【0030】
また、8−OHdGとHELとを抗原抗体反応を用いて同時に同一チップ上等で測定することで、迅速かつ簡易にこれらのデータを取得でき、評価も迅速に行うことができる。
【0031】
(評価方法)
本発明の食品の評価方法は、被験個体に前記食品を投与する工程と、被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程と、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体における前記食品の投与効果を評価する工程を備えることができる。本評価方法によれば、尿中8−OHdG濃度及びHEL濃度を利用して、当該食品摂取の被験個体の健康度への効果を評価することができる。本方法によれば、互いに関連深い二つのマーカーの尿中濃度を指標としているため、確度の高い評価が可能となっている。
【0032】
食品は特に限定されない。食品は、例えば、いわゆるサプリメントのような栄養補助食品も含まれる。また、本方法におけるマーカーはいずれも酸化ストレスマーカーであることから、酸化ストレスに関連する、抗酸化剤又は抗酸化性食品に有用であるが、この種の食品に限定しないで本方法を適用することができる。
【0033】
評価工程は、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得し、測定した尿中の8−OHdG濃度及び/又はHEL濃度を指標として健常範囲における被験個体の収縮期血圧の変化傾向を取得して、これらを分析して前記食品の投与効果を評価する工程としてもよい。
【0034】
(検出キット)
本発明の健常人の健康度検査キットは、8−OHdGを特異的に検出する第1の抗体と、HELを特異的に検出する第2の抗体と、を含むことができる。こうしたキットによれば、健常人の健康度の指標となる二つ酸化ストレスマーカーに特異的な抗体を含むため、容易にこれらのマーカー濃度を抗原抗体反応により測定できる。本キットは、さらに、8−OHdGの模擬抗原及びHELの模擬抗原を含んでいてもよい。競合法を容易に実施できるようになるからである。さらに、本キットは、第1の抗体及び第2の抗体のセット/又は8−OHdGの模擬抗原及びHELの模擬抗原のセットを多数個表面に備える固相体を含む形態であることが好ましい。こうした形態であると、多数検体について、同時かつ迅速に二つのマーカーを測定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、健常人における健康度の検出をターゲットとした多項目チップを作製した。すなわち、8−OHdGとHELとを、新たに1検体で最大4項目が測定できるレイアウトを考案し試作検討を行った。チップにおけるレイアウトとスポットのレイアウトを図1に示す。図1に示すように検体滴下場所に4ヶ所のスポットを1mm間隔でスポットした。また、チップに対する、検体の滴下場所は、4×10の40ヶ所とした。
【0037】
なお、本実施例の抗体チップは、商業的に入手した模擬抗原を特開2003−329682号公報の実施例5に開示されたアゾ色素を含むメタクリルモノマー(アミノ基とシアノ基とを含むアゾ色素を備える)を取得して、メタクリルモノマーと共重合させてアゾポリマーを得た。このアゾポリマーをスピンコートした基板に対して、光固定化法によって固定化したものを用いた。また、抗原抗体反応は、抗体チップの各滴下場所に対して検体尿とビオチン化抗原、及び抗体の混合液を滴下し反応させた後、0.01%Tween20を含むPBS(TPBS)で洗浄した。さらに、アルカリホスファターゼ標識アビジンで反応後TPBSで洗浄した。その後、CDP−STAR(アルカリホスファターゼの塩素置換1,2-dioxetane 化学発光基質、ロッシュアプライドサイエンス)溶液を、抗体値チップに滴下し、化学発光をCCDカメラにて検出した。
【0038】
発光状態を併せて図1に示す。図1に示すように、8−OHdG及びHELは、それぞれ独立のスポットとして検出され、また、2項目を混合した検体を適用した場合であっても、それぞれお互いのシグナルが干渉せず個別に定量できることが分かった。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、健常人を被検者とした測定法の検討を行った。すなわち、HEL/8−OHdGの二項目チップの実用性及び抗体チップでの酸化ストレスマーカーの測定値がヒトの臨床データとの間の相関関係を確認するため、ヒトの尿検体を取得し、実施例1で取得したのと同様の二項目チップでの測定を行った。
【0040】
検体に関しては、野菜の介入試験のプロジェクトで健常大学生を対象とした検体を集めた。すなわち、野菜の摂取量の違いによる生活習慣病予防への効果を調べるための介入試験で尿検体の提供を受け、この尿検体について酸化ストレスマーカーの測定を行った。実験対象は、健康な一人暮らしの大学生・大学院生の男女であり、2週間、継続して一日あたり350gの野菜を摂取するグループと、そのような介入を行わないグループに分けた。
【0041】
血液、尿などの一般検査は検診前後に二回実施した。尿検体は24時間蓄積尿を原則とした。尿検体は、抗体チップを用いた酸化ストレスマーカーの測定用検体として分注し、ヘルスケアシステムズにて測定を行った。検体数は、介入前後合わせて約200検体であった。
【0042】
(検体の前処理)
−80℃にて保存した尿を氷上に溶かしてから遠心機で3000rpm、4℃、10min間遠心し、上清をとり測定サンプルとした。前処理したサンプルおよび段階調整したHELおよび8−OHdGの標準物質、適切に希釈した一次抗体溶液を384プレートに入れてから、分注機におき、プログラムによって一通りの分注、サンプリングを行った。その後、アルカリホスファターゼ標識アビジンの反応を経て、化学発光によりCCDカメラにて検出を行った。得られた画像のシグナルを数値化し、解析ソフトによりデータ解析を行った。
【0043】
(食事介入試験検体の結果)
一般検査項目および血液検査項目はBMI、血圧、HDL−C、等について測定した。抗体チップによる測定値は、24時間蓄尿成功者は24H尿量で補正した値(HEL/日、8−OHdG/日)とした。これらにつき、介入前後の比較、変化量の相関、介入前(前値)の相関係数について解析した。結果を図2に示す。図2に示すように、介入前後の比較の結果では、HELに関し、24H採尿成功者において介入前後の値が有意確率(両側)0.04で有意な差が見られた。
【0044】
また、介入前値のデータを一般臨床検査項目との関係を図3に示す。図3に示すように、24H尿量で補正した8−OHdGの値はHDL−C値との相関係数−0.26で、有意確率(両側)0.02で逆相関が見られた。また、24H尿量で補正した8−OHdG値およびHEL値は収縮期血圧との相関係数が0.28と0.32で、有意確立(両側)が0.01と0.00で正の相関が見られた。さらに、24H尿量で補正した8−OHdG値はBMIとも相関係数0.23で、有意確率(両側)0.03との正の相関性が見られた。
【0045】
尿中のHELや8OHdGは体内の酸化ストレス度に反映していると言われており、新たな知見として、健常人において尿中(24時間蓄積尿中)の8OHdG値がBMIと相関しHDL−C(善玉コレステロール)とは逆相関することがわかり、また食事介入試験において尿中(24時間蓄積尿中)のHEL値が野菜などの抗酸化性化合物の摂取により非摂取群に対して有意に減少するという結果が得られ、さらに、尿中(24時間蓄積尿中)の8−OHdG値及びHEL値のいずれもが収縮期血圧と相関するという結果が得られ、健常人の健康度を科学的に示すと思われる測定法を見出すことができた。特に、尿中8−OHdG値及びHEL値は、いずれも、メタボリックシンドロームの診断基準の指標となる臨床値と強く関連していることから、これらの測定により、健康度として健常範囲におけるメタボリックシンドロームへの傾向を超早期に予測できる。
【0046】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0047】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験個体の健康度を検出する方法であって、
被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程と、
測定した尿中の8−OHdG濃度及びHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の健康度の傾向を取得する工程と、
を備える、検出方法。
【請求項2】
前記取得工程は、測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得し、測定した尿中の8−OHdG濃度及び/又はHEL濃度を指標として健常範囲における被験個体の収縮期血圧の変化傾向を取得することで前記健康度の傾向を取得する工程である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記健康度は、メタボリックシンドロームに対する傾向である、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記測定工程は、8−OHdG及びHELを同時に抗原抗体反応により検出する工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の検出方法。
【請求項5】
食品の評価方法であって、
被験個体に前記食品を投与する工程と、
被験個体から採取された尿中の8−OHdGとHELとを測定する工程と、
測定した尿中の8−OHdG濃度を指標として、健常範囲における被験個体における前記食品の投与効果を評価する工程と、
を備える、評価方法。
【請求項6】
前記評価工程は、健常範囲における被験個体の血中HDLコレステロール及びBMIの変化傾向を取得し、測定した尿中のHEL濃度を指標として、健常範囲における被験個体の抗酸化化合物の摂取傾向を取得して、前記食品の投与効果を評価する工程である、請求項5に記載の評価方法。
【請求項7】
8−OHdGを特異的に検出する第1の抗体と、
HELを特異的に検出する第2の抗体と、
を含む、健常人の健康度検査キット。
【請求項8】
さらに、8−OHdGの模擬抗原及びHELの模擬抗原を含む、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記第1の抗体及び前記第2の抗体のセット/又は8−OHdGの模擬抗原及びHELの模擬抗原のセットを多数個表面に備える固相体を含む、請求項8に記載の検査キット。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−181070(P2012−181070A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43318(P2011−43318)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省「地域イノベーション創出研究開発事業(抗体チップを用いた未病検査システムの開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(509152079)株式会社ヘルスケアシステムズ (7)
【Fターム(参考)】