説明

健康診断の検査値換算プログラム

【課題】健康診断の検査値を異なる測定条件で測定された検査値と比較可能な数値に簡便に換算するプログラムの提供を目的とする。
【解決手段】予め取得された換算前検査値の属性情報から該換算前検査値の分布型を判定し、判定した分布型が正規分布型である場合には、換算前検査値、換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の基準範囲に基づいて、対象検査値の分布において、前記換算前検査値の偏差値と同じ偏差値となる数値を換算後検査値として算出するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる測定条件で測定された健康診断の検査値を一元的に管理するための検査値換算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
健康診断の結果は、各検査項目に対して検査値と基準範囲(正常範囲)が併記されるのが通常である。この基準範囲は、健常者の検査値の分布において上位2.5%と、下位2.5%を除く95%の検査値が含まれることとなる範囲であり、NCCLS(米国臨床検査標準委員会)の定める算出方法によって検査施設ごとに設定している(非特許文献1参照)。
【0003】
上記検査値の基準範囲は検査施設ごとにかなりばらつきがある。例えば、生化学検査の検査項目の一つであるγ−GTPは、ある検査施設の基準範囲が10〜47(IU/l)であるのに対し、別の検査施設の基準範囲は16〜73(IU/l)である。このように基準範囲にばらつく理由は、同一検査項目の検査に多くの測定方法や分析装置が存在しており、測定条件によって検査値がばらつくためである。
【0004】
健康診断の結果は、過去の数値と比較して悪化や改善を判断するのが好ましいとされているが、こうした健康診断の検査値のばらつきは、被検者が検査値の経時変化を観察する妨げとなっている。すなわち、被検者が、前回と異なる検査施設で健康診断を受信した場合、被検者は得られた検査値を前回の検査値と直接比較することができない。また、同じ検査施設で継続的に健康診断を受けている被検者であっても、検査施設が測定方法や分析装置を変更してしまうと、過去の検査結果との対比ができなくなってしまう。
【0005】
【非特許文献1】井野邦英,基準範囲の設定方法,岐阜QA研究会1995年度研究集会報告書,p.7−13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような不具合を解決するために、近年、各検査項目の測定方法や分析装置の仕様を標準化しようとする動きがある。しかしながら、臨床の検体は採取する量、部位などの制約を受け、検体成分は多くの混在成分を含んでおり、その中から単一物質を短時間に多数の検体を測定しなければならないため、最適な測定方法を一義的に決定し難いという問題があり、標準化はなかなか進んでいない。また、標準的な測定条件が決定されたとしても、全ての検査施設で測定条件を統一するには、分析装置の買換え等に伴う検査施設の金銭的負担が大きく、また、過去に蓄積さいた検査値との比較が難しくなるという問題があり、簡単ではない。
【0007】
一方、一の測定条件で測定された測定データを、該測定条件と異なる測定条件で測定される測定データと比較可能な数値に換算する方法として、同一試料を用いて二つの測定条件の相関を調べ、当該相関に基づく換算式によって測定データを換算する方法が一般的に行われている(以下、相関法という。)。しかしながら、かかる相関法を健康診断の検査値の換算に応用する場合、換算式の決定に人手、検体、時間、試薬など多大な資源が必要となるため、約700項目にも及ぶ検査項目に対して相関法を採用するのは現実的でない。
【0008】
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであり、健康診断の検査値を異なる測定条件で測定された検査値と比較可能な数値に簡便に換算するためのプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題の解決を目的として鋭意検討を重ねた末に、測定方法や分析装置などの測定条件が異なっても健常者の検査値の分布型が同じである点に着目し、試行錯誤を重ねた末に本発明を完成した。
【0010】
すなわち、第一の発明は、一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、正規分布型の分布をする換算前検査値、換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の基準範囲に基づいて、対象検査値の分布において、前記換算前検査値の偏差値と同じ偏差値となる数値を換算後検査値として算出する正規分布型換算処理をコンピュータに実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラムである。
【0011】
上述のように検査値の分布型は測定方法や分析装置といった測定条件には依存しないため、換算前検査値の分布型が正規分布型であれば、対象検査値の分布型も正規分布型となる。本発明における正規分布型処理では、図1に示すように、換算前検査値の正規分布における当該換算前検査値の偏差値と、対象検査値の正規分布における換算後検査値の偏差値が同じとなるように換算後検査値を算出する。このように正規分布から他の正規分布へ同一偏差値となるよう換算された換算後検査値は、相関法によって換算される数値と遜色ない値となる。
【0012】
換算前検査値及び対象検査値の基準範囲の上限値と下限値は、各検査値の分布における2.5パーセンタイル(下限値)と97.5パーセンタイル(上限値)であるから、分布型が正規分布であれば、各基準範囲から夫々の分布の平均値や標準偏差を算出し、各検査値の偏差値を算出するのは容易である。したがって、かかる検査値換算プログラムによれば、換算前検査値の基準範囲と対象検査値の基準範囲さえ与えられれば、換算前検査値を対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算できる。各検査値の基準範囲は、上述のように検査施設ごとに所定の方法で設定される値であって、健康診断の検査結果にも併記される一般的な情報であるから、別途調査を行うことなく簡単に入手することができる。したがって、かかる検査値換算プログラムによれば正規分布型の換算前検査値を極めて簡便な方法によって換算後検査値に換算できる。
【0013】
また、第二の発明は、一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、非正規分布型の分布をする換算前検査値、換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の基準範囲を、該非正規分布型の分布が正規分布型となるように夫々変数変換し、変数変換後の換算前検査値、変数変換後の換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の変数変換後の基準範囲に基づいて、対象検査値を前記変数変換した分布において、変数変換後の換算前検査値の偏差値と同じ偏差値となる数値を算出し、さらに該数値を、前記変数変換の逆変換を行い、換算後検査値として算出する非正規分布型換算処理をコンピュータに実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラムである。
【0014】
本発明における非正規分布型処理では、まず、図2に示すように、換算前検査値の分布型に応じて各パラメータを変数変換することにより、各パラメータを正規分布型に準じた数値に変換し、しかる後に、図3に示すように、上記正規分布型処理と同様に、変数変換後の換算前検査値の正規分布における当該換算前検査値の偏差値と、変数変換後の対象検査値の正規分布における換算後検査値の偏差値が同じとなる数値を算出し、さらに該数値を逆変換することにより換算後検査値を算出する。
【0015】
このように正規分布型に準じた形に変数変換可能な分布型としては、対数正規分布型やべき乗分布型などが挙げられる。対数正規分布型は対数変換により、べき乗分布型はべき乗変換により正規分布型に変換できる。対数正規分布やべき乗分布は正規分布とは分布型が大きく異なるため、そのままでは偏差値に基づく換算を適切に行うことはできないが、本発明の非正規分布型換算処理のように、変数変換により該分布型を正規分布型に準ずる形に変換してから偏差値に基づく換算を行えば、換算前検査値の分布型が正規分布型でない場合でも、相関法によって換算される数値と遜色ない換算後検査値が得られる。したがって、かかる検査値換算プログラムによれば、正規分布型以外の分布型となる換算前検査値を、換算前検査値と対象検査値の基準範囲のみによって、簡便に、かつ適切に換算できる。
【0016】
また、第三の発明は、一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、換算前検査値の基準範囲における中央値の比率と同じ比率となるように、対象検査値の基準範囲における推定中央値を算出し、続いて、換算前検査値を、換算前検査値の中央値と比較し、換算前検査値が該中央値より大きい場合は、対象検査値の基準範囲の上限値と前記推定中央値の差に対する換算後検査値と該推定中央値の差の比率が、換算前検査値の基準範囲の上限値と中央値の差に対する換算前検査値と該中央値の差の比率と同じとなる換算後検査値を算出し、換算前検査値が該中央値より小さい場合は、対象検査値の推定中央値と基準範囲の下限値の差に対する該推定中央値と換算後検査値の差の比率が、換算前検査値の中央値と基準範囲の上限値の差に対する該中央値と換算前検査値の差の比率と同じとなる換算後検査値を算出するノンパラメトリック換算処理を実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラムである。
【0017】
本発明に係るノンパラメトリック換算処理は、図4に示すように、換算前検査値の分布と対象検査値の分布が相似形となることを利用して換算を行うものである。かかるノンパラメトリック換算処理は、換算前検査値の分布型の種類とは無関係に換算を行うものであるから、換算前検査値の分布型が未知であったり、正規分布に変数変換不能なものであったりしても換算後検査値を算出できるという利点がある。また、分布型に替えて換算前検査値の中央値をパラメータとすることによって相関法によって換算される数値に近い値を得ることができる。換算前検査値の中央値は、検査施設が基準範囲を設定する際に得られる統計量であり簡単に取得可能な数値である。
【0018】
また、第四の発明は、検査値の属性に対する分布型のリストが記憶されたコンピュータに、一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理を実行させるプログラムであって、予め取得された換算前検査値の属性情報から、前記分布型のリストに基づいて該換算前検査値の分布型を判定する分布型判定処理を実行させ、前記分布型判定処理において換算前検査値の分布型が正規分布型であると判定した場合は、前記正規分布型換算処理をコンピュータに実行させ、前記分布型判定処理において分布型が正規分布型以外の所定の分布型であると判定した場合は、前記非正規分布型換算処理をコンピュータに実行させ、前記分布型判定処理において分布型が正規分布型でも前記所定の分布型でもないと判定した場合は、前記ノンパラメトリック換算処理をコンピュータに実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラムである。
【0019】
かかる検査値換算プログラムによれば、換算前検査値の分布型に応じて適切な換算方法によって換算後検査値を算出することが可能となる。検査値の属性に対する分布型の多くは文献に記載されているため、前記分布型のリストはそれらの情報に基づいて作成できる。また、同じ測定方法で測定された健常者の検査値が十分な数存在する場合には、それらから検査値の分布型を判定して分布型のリストに加えることも可能である。
【0020】
本発明において、検査値の属性とは、当該検査値の分布型を決定するための属性情報であり、必須な属性情報は検査項目名である。また、幾つかの検査項目では被検者の性別ごとによって検査値の分布型が異なるものが知られており、これらについては検査値の属性として被検者の性別情報が必要となる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の健康診断の検査値換算プログラムによれば、換算前検査値の分布型に基づいて換算を行うことにより、相関法に比べて極めて簡単に換算後検査値を算出することができる。したがって、かかる検査値換算プログラムを用いれば、複数の検査施設で健康診断を受診した受診者の検査結果を比較可能な形に変換することができ、当該被検者は検査結果の経時変化を把握することが可能となる。また、かかる検査値換算プログラムを用いれば、検査施設は、過去の検査結果データを別の測定条件による検査値と比較可能な形に換算できるため、測定方法や分析装置を変更した場合でも、検査施設は検査結果の一元管理を続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態を、以下の実施例に従って説明する。
【0023】
図5は、本実施例の検査値換算システムの概要を示したものである。検査値換算システムは、検査値換算プログラムがインストールされたコンピュータによって構成されるものである。該コンピュータは、検査施設ごとの検査結果データを取り込んで、それらの検査結果データに含まれる各換算前検査値を所定の対象測定条件によって測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に変換し、換算結果データとして出力する。
【0024】
表1は、前記コンピュータの記憶装置に記憶された、検査値の属性に対する分布型のリストである。分布型は検査項目によって一義的に決定されるものと、検査項目に加えて被検者の性別によって決定されるものがある。
【表1】

【0025】
表2は、コンピュータの記憶装置に記憶された、対象検査値の基準範囲のリストである。基準範囲は被検者を区別せずに設定される検査項目と、被検者の性別ごとに基準範囲が設定される検査項目とがある。
【表2】

【0026】
検査施設から送られる検査結果データには、検査施設情報、被検者情報、そして検査項目ごとの検査値情報が含まれる。前記検査施設情報には、施設IDや該検査施設における各検査項目の基準範囲及び中央値が含まれる。また、前記被検者情報には、被検者IDや被検者の性別、年齢層等の情報が含まれる。そして前記検査値情報には、被検者情報と関連付けられた検査項目ごとの換算前検査値が含まれる。
【0027】
コンピュータが出力する換算結果データには、検査施設情報、被検者情報及び換算結果情報が含まれる。検査施設情報及び被検者情報は検査結果データと同じものである。換算結果情報には、被検者情報と関連付けられた検査項目ごとの換算前検査値及び換算後検査値が含まれる。さらに、換算結果情報には、換算後検査値ごとの換算処理方法及び対象測定方法の基準範囲も含まれる。
【0028】
本実施例の検査値換算プログラムは、コンピュータに以下の各処理を実行させる。
・分布型設定処理
・対象基準範囲設定処理
・検査結果データ取込処理
・検査値換算処理
・換算結果データ出力処理
【0029】
分布型設定処理は、各種調査により検査項目や性別に対する検査値の分布型が新たに判明した場合に、最新の分布型のリストを外部から取得し更新する処理である。対象基準範囲設定処理は、前記対象検査値の基準範囲のリストを外部から取得して記憶する処理である。また、検査結果データ取込処理は、検査施設から送られた検査結果データを取込み、記憶装置に記憶する処理である。さらに、検査値換算処理は、取り込んだ検査結果データに含まれる検査値情報を換算後検査値に変換する処理である。そして、換算結果データ出力処理は、検査値換算処理で算出した換算後検査値を含む換算結果データを出力する処理である。
【0030】
本発明の要部に係る検査値換算処理の制御処理内容について図6を参照して説明する。
【0031】
検査値換算処理では、まず、換算する換算前検査値に係る検査項目名及び被検者の性別を分布型のリスト(表1参照)と比較することにより、当該換算前検査値の分布型を判定する(S1)。具体的には、本実施例のプログラムは、正規分布、対数正規分布型、そして、べき乗分布型として平方根分布や立方根分布など12種類の分布型に対応しており、換算前検査値の分布型がいずれの分布型に該当するか、またはいずれにも該当しないかを判定する。
【0032】
換算前検査値の分布型の判定後は、ステップS2に移行し、判定した分布型が正規分布型であるか否かを判定する。そして、正規分布型であると判定した場合には、正規分布型換算処理(S4)を実行し、算出した換算後検査値を格納して(S7)、検査値換算処理を終了する。
【0033】
一方、ステップS2において正規分布型でないと判定した場合にはステップS3へ移行し、判定した分布型が所定の分布型であるか否かを判定する。本実施例では、非正規分布型及び10種類のべき乗分布型が所定の分布型として設定されており、判定した分布型かこれらに該当する場合には、非正規分布型換算処理(S5)を実行し、算出した換算後検査値を格納して(S7)、検査値換算処理を終了する。一方、判定した分布型が所定の分布型でないと判定された場合は、ノンパラメトリック換算処理(S6)を実行し、算出した換算後検査値を格納して(S7)、検査値換算処理を終了する。
【0034】
次に、上記正規分布型換算処理(図6、S4)における制御処理内容を図7にしたがって説明する。
【0035】
正規分布型換算処理では、まず、以下のパラメータが存在するか否かを判定する(S11)。
Xi:換算前検査値
RL:換算前基準範囲下限値(換算前検査値の基準範囲の下限値)
RH:換算前基準範囲上限値(換算前検査値の基準範囲の上限値)
oRL:対象基準範囲下限値(対象検査値の基準範囲の下限値)
oRH:対象基準範囲上限値(対象検査値の基準範囲の上限値)
ここで上記パラメータが一つでも存在しないと判定した場合には、換算不能であるため正規分布型換算処理を終了する。
【0036】
次に、換算前基準範囲下限値RL及び上限値RHに基づいて換算前検査値Xiの平均値Xbと標準偏差SDを算出する(S12,S13)。具体的には、平均値XBと標準偏差SDは以下の数式より求められる。
XB=(RL+RH)/2
SD=|RL−RH|/(2×1.96)
【0037】
次に、上記ステップS12,S13と同様にして、対象基準範囲下限値oRL及び上限値oRHに基づいて対象検査値の平均値oXBと標準偏差oSDを算出する(S14,S15)。
【0038】
次に、換算前検査値Xiの平均値XBと標準偏差SDに基づいて、以下の式により換算前検査値Xiの標準偏差指数ZXiを算出する(S16)。
ZXi=(Xi−XB)/SD
【0039】
次に、標準偏差指数ZXi、平均値oXB及び標準偏差oSDに基づいて、対象検査値の分布において、標準偏差指数ZXiと同じ標準偏差指数となる数値を換算後検査値aXiとして算出し、正規分布型換算処理を終了する(S17)。具体的には、換算後検査値aXiは以下の数式より求められる。
aXi=ZXi×oSD+oXB
【0040】
次に、上記非正規分布型換算処理(図6、S5)における制御処理内容を図8にしたがって説明する。
【0041】
非正規分布型換算処理では、まず、以下のパラメータが存在するか否かを判定する(S21)。
Xi:換算前検査値
RL:換算前基準範囲下限値(換算前検査値の基準範囲の下限値)
RH:換算前基準範囲上限値(換算前検査値の基準範囲の上限値)
oRL:対象基準範囲下限値(対象検査値の基準範囲の下限値)
oRH:対象基準範囲上限値(対象検査値の基準範囲の上限値)
CD:換算前検査値の分布型
ここで上記パラメータが一つでも存在しないと判定した場合には、換算不能であるため非正規分布型換算処理を終了する。
【0042】
次に、換算前検査値の分布型CDに基づいて変換式を選択し、上記パラメータXi,RL,RH,oRL,oRHを、正規分布型に準ずる値cXi,cRL,cRH,coRL,coRHに変換する(S22)。具体的には、以下のように、対数正規分布型に対しては対数変換を、べき乗分布型に対してはべき乗変換を行う。なお、下記数式において、pはべき乗分布型における指数である。
対数正規分布の場合: Xi、RL、RH → cXi=ln(Xi)、cRL=ln(RL)、cRH=ln(RH)
べき乗分布の場合 : Xi、RL、RH → cXi=Xip、cRL=RLp、cRH=RHp
【0043】
次に、変数変換した換算前基準範囲下限値cRL及び上限値cRHに基づいて、変数変換後の換算前検査値の平均値cXBと標準偏差cSDを算出する(S23,S24)。具体的には、平均値cXBと標準偏差cSDは以下の数式より求められる。
cXB=(cRL+cRH)/2
cSD=|cRL−cRH|/(2×1.96)
【0044】
次に、上記ステップS23,S24と同様にして、変数変換後の対象基準範囲下限値coRL及び上限値coRHに基づいて、対象検査値の変数変換後の平均値coXBと標準偏差coSDを算出する(S25,S26)。
【0045】
次に、平均値cXBと標準偏差cSDに基づいて、以下の式により変数変換後の換算前検査値cXiの標準偏差指数cZXiを算出する(S27)。
cZXi=(cXi−cXB)/cSD
【0046】
次に、標準偏差指数cZXi、平均値coXB及び標準偏差coSDに基づいて、対象検査値の変数変換後の分布において、標準偏差指数cZXiと同じ標準偏差指数となる数値を変数変換後の換算後検査値caXiとして算出する(S28)。具体的には、変数変換後の換算後検査値caXiは以下の数式より求められる。
caXi=cZXi×coSD+coXB
【0047】
最後に、換算前検査値の分布型CDに基づいて、変数変換後の換算後検査値caXiを逆変換して換算後検査値aXiを算出し(S29)、非正規分布型換算処理を終了する。
【0048】
次に、上記ノンパラメトリック換算処理(図6、S6)における制御処理内容を図9にしたがって説明する。
【0049】
ノンパラメトリック換算処理では、まず、以下のパラメータが存在するか否かを判定する(S31)。
Xi:換算前検査値
RL:換算前基準範囲下限値(換算前検査値の基準範囲の下限値)
RH:換算前基準範囲上限値(換算前検査値の基準範囲の上限値)
RM:換算前基準範囲中央値(換算前検査値の中央値)
oRL:対象基準範囲下限値(対象検査値の基準範囲の下限値)
oRH:対象基準範囲上限値(対象検査値の基準範囲の上限値)
ここで上記パラメータが一つでも存在しないと判定した場合には、換算不能であるためノンパラメトリック換算処理を終了する。
【0050】
次に、換算前基準範囲下限値RL、上限値RH、及び対象基準範囲下限値oRL、上限値oRHに基づいて、以下の式により換算前検査値の基準範囲の幅TRと対象検査値の基準範囲の幅oTRを算出する(S32,33)。
TR = RH − RL
oTR = oRH − oRL
【0051】
次に、換算前基準範囲下限値RL、上限値RH及び中央値RMに基づいて、以下の式により、換算前検査値の分布における上ヒンジHH及び下ヒンジHLの推定値を算出する(S34)。
HH =| RM − RH |× k (k = 25/47.5)
HL =| RM − RL |× k (k = 25/47.5)
【0052】
次に、前記各基準範囲の幅TR、oTR、上ヒンジHH及び下ヒンジHLに基づいて、以下の式により、対象検査値の分布における上ヒンジoHH及び下ヒンジoHLの推定値を算出する(S35)
oHL = HL / TR × oTR
oHH = HH / TR × oTR
【0053】
次に、対象基準範囲下限値oRL、測定検査値の分布における下ヒンジoHLに基づいて、以下の式により、対象検査値の推定中央値oRMを算出する(S36)。なお、下記数式において、kは係数(k = 25/47.5)である。
oRM = oRL + (oHL / k)
【0054】
次に、換算前検査値Xiが中央値RM以上であるか否かを判定する(S37)。
【0055】
前記ステップS37において換算前検査値Xiが中央値RM以上であると判定した場合には、以下の式により標準のヒンジ値HXiを算出し(S38)、算出したヒンジ値HXiに基づいて換算後検査値aXiを算出して(S39)、ノンパラメトリック換算処理を終了する。
HXi=(Xi−RM)/HH
aXi=oRM+HXi×oHH
【0056】
一方、ステップS37において換算前検査値Xiが中央値RM以上でないと判定した場合には、以下の式により標準のヒンジ値HXiを算出し(S40)、算出したヒンジ値HXiに基づいて換算後検査値aXiを算出して(S41)、ノンパラメトリック換算処理を終了する。
HXi=(Xi−RM)/HL
aXi=oRM−HXi×oHL
【0057】
このように、本実施例の検査値換算プログラムによれば、入手容易なパラメータのみによって、一の測定条件で測定された検査値を、他の対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な値に簡単に換算することができる。また、本実施例の検査値換算プログラムによって算出された換算後検査値は、検査値の分布型に基づいて換算を行うものであるから、パラメータの数が少なくても相関法による換算値に匹敵する信頼性の高い換算後検査値が得られる。
【0058】
なお、本発明の検査値換算プログラムは、上記実施例の形態に限らず本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
【0059】
例えば、上記実施例の検査値換算プログラムは、検査施設から送られる検査結果データを一括して換算するプログラムであるが、本発明の検査値換算プログラムは、被検者個人の検査結果を個別に換算するプログラムであっても構わない。
【0060】
また、上記実施例の検査値換算プログラムにあっては、検査値の属性に対する分布型のリストを外部から取り込むようにしているが、同じ測定条件で測定された健常者の検査値を収集して、該検査値の分布から分布型を決定して、リストを更新するようにしてもかまわない。
【0061】
また、上記実施例の検査値換算プログラムにあっては、対象検査値の基準範囲が予めリスト化されているが、検査結果データを換算するたびに対象検査値の基準範囲を設定するようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施例の検査値換算プログラムは、検査結果データに含まれる換算前検査値の基準範囲や中央値を利用していたが、検査結果データに含まれる健常者の換算前検査値の分布から該換算前検査値の基準範囲や中央値を算出するようにしてもよい。
【0063】
また、上記実施例の検査値換算プログラムにあっては、検査値の分布型や基準範囲が、検査項目と被検者の性別によって決定されていたが、検査値の分布型や基準範囲を被検者の年齢層や国籍等によってさらに細分化して決定するようにしてもよい。
【0064】
なお、上記実施例の検査値換算プログラムにおいて、検査値換算処理は、基準範囲の上限値又は下限値の一方のみしか設定されない検査値に関しては換算対象としていないが、かかる検査値に関しては、別途換算処理を行うようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施例の検査値換算プログラムにあっては、全ての換算前検査値を分布型に基づいて換算するようにしているが、本発明の検査値換算プログラムは、相関法による換算と分布型に基づく換算を併用するものであってもよい。具体的には、相関法による換算式が確立している検査項目に関しては相関法による換算を行い、残りの検査項目に関して分布型に基づく換算を行う構成などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】正規分布型換算処理の概要を示す説明図である。
【図2】非正規分布型換算処理の概要を示す説明図である。
【図3】図2から続く、非正規分布型換算処理の概要を示す説明図である。
【図4】ノンパラメトリック換算処理の概要を示す説明図である。
【図5】検査値換算システムの概要を示す概念図である。
【図6】検査値換算処理の制御処理内容を示すフローチャートである。
【図7】正規分布型換算処理の制御処理内容を示すフローチャートである。
【図8】非正規分布型換算処理の制御処理内容を示すフローチャートである。
【図9】ノンパラメトリック換算処理の制御処理内容を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
正規分布型の分布をする換算前検査値、換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の基準範囲に基づいて、対象検査値の分布において、前記換算前検査値の偏差値と同じ偏差値となる数値を換算後検査値として算出する正規分布型換算処理をコンピュータに実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラム。
【請求項2】
一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
非正規分布型の分布をする換算前検査値、換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の基準範囲を、該非正規分布型の分布が正規分布型となるように夫々変数変換し、
変数変換後の換算前検査値、変数変換後の換算前検査値の基準範囲、及び対象検査値の変数変換後の基準範囲に基づいて、
対象検査値を前記変数変換した分布において、変数変換後の換算前検査値の偏差値と同じ偏差値となる数値を算出し、
さらに該数値を、前記変数変換の逆変換を行い、換算後検査値として算出する非正規分布型換算処理をコンピュータに実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラム。
【請求項3】
一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
換算前検査値の基準範囲における中央値の比率と同じ比率となるように、対象検査値の基準範囲における推定中央値を算出し、
続いて、換算前検査値を、換算前検査値の中央値と比較し、
換算前検査値が該中央値より大きい場合は、対象検査値の基準範囲の上限値と前記推定中央値の差に対する換算後検査値と該推定中央値の差の比率が、換算前検査値の基準範囲の上限値と中央値の差に対する換算前検査値と該中央値の差の比率と同じとなる換算後検査値を算出し、
換算前検査値が該中央値より小さい場合は、対象検査値の推定中央値と基準範囲の下限値の差に対する該推定中央値と換算後検査値の差の比率が、換算前検査値の中央値と基準範囲の上限値の差に対する該中央値と換算前検査値の差の比率と同じとなる換算後検査値を算出するノンパラメトリック換算処理を実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラム。
【請求項4】
検査値の属性に対する分布型のリストが記憶されたコンピュータに、一の測定条件で測定された換算前検査値を、該測定条件と異なる対象測定条件で測定される対象検査値と比較可能な換算後検査値に換算する処理を実行させるプログラムであって、
予め取得された換算前検査値の属性情報から、前記分布型のリストに基づいて該換算前検査値の分布型を判定する分布型判定処理を実行させ、
前記分布型判定処理において換算前検査値の分布型が正規分布型であると判定した場合は、請求項1記載の正規分布型換算処理をコンピュータに実行させ、
前記分布型判定処理において分布型が正規分布型以外の所定の分布型であると判定した場合は、請求項2記載の非正規分布型換算処理をコンピュータに実行させ、
前記分布型判定処理において分布型が正規分布型でも前記所定の分布型でもないと判定した場合は、請求項3記載のノンパラメトリック換算処理をコンピュータに実行させることを特徴とする健康診断の検査値換算プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−176023(P2009−176023A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13729(P2008−13729)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000186566)小林クリエイト株式会社 (169)