説明

健忘症の予防・治療剤

【課題】 健忘症に対して良好な予防・治療効果を示すとともに、副作用が少なく、安全性の高い予防・治療剤を提供する。
【解決手段】 予防・治療剤は、カルノジン酸及び/又はロズマリン酸又はそれらの塩を有効成分として含有する。さらに、ビタミン類及びビタミン様作用物質(L−カルニチン、コエンザイムQ10など)から選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルノジン酸及び/又はロズマリン酸を有効成分とする健忘症の予防・治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化に伴い痴呆が社会問題となっている。痴呆をきたす原因としては、その病態により大きく、脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆に分類され、いずれも臨床症状として、基本的症状である知能障害(健忘症、見当識障害、記銘力障害、徘徊、注意力低下、言語障害など)および知能障害に付随する症状(せん妄、妄想、攻撃的行動や緊張・興奮などの行動異常など)が認められる。特に、健忘症に関しては、上記痴呆だけでなく、種々の疾患において見られるにも係らず、これまで有効な薬剤がなく、その開発が望まれている。
【0003】
カルノジン酸及びロズマリン酸は、カルノソールなどとならびシソ科植物であるローズマリー(Rosmarinus offiicinalis L.)またはセージ(Salvia offiicinalis L.)等の代表的な抽出物の一つとして広く知れられている物質である。その薬理効果としては、ハーブの長い歴史の中で、これまで様々な活性が知られている。カルノジン酸に関して、例えば、特開2003−192564号公報(特許文献1)には、アスコルビン酸又はアスコルビン酸誘導体と、カルノジン酸とを有効成分として含有するメラニン生成抑制剤が開示され、このメラニン生成抑制剤は、皮膚の美白に有効であることが記載されている。特開2001−122777号公報(特許文献2)には、カルノジン酸及び/又はカルノソールを有効成分として含む抗潰瘍剤が開示され、アルコール性潰瘍やストレス性潰瘍などの潰瘍に対して有効であることも記載されている。
【0004】
特開2001−158745号公報(特許文献3)には、ローズマリー抽出物及び/又はセージ抽出物(カルノジン酸及び/又はカルノソール)を有効成分として含む神経成長因子合成促進剤が開示され、特開2001−233835号公報(特許文献4)には、カルノジン酸誘導体を有効成分として含む神経成長因子合成促進剤が開示されている。これらの文献には、in vitroの実験系において神経成長因子の産生を増強し、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血病態などの神経変性疾患に対する予防及び治療が期待されることも記載されている。
【0005】
特開平7−305089号公報(特許文献5)には、シソ科植物の低沸点エッセンスからなる発想促進剤が開示されている。特開2004−2237号公報(特許文献6)には、フェニルプロパノイド系などの特定のハーブ成分又はその処理物を含むヒト又は動物用の老化防止食品又は医薬が開示され、前記ハーブがローズマリーなどを含むことも記載されている。
【0006】
一方、ロズマリン酸においては、例えば、特開平9−67251号公報(特許文献7)には、ロズマリン酸を有効成分として含有するヒアルロニダーゼ阻害剤が開示され、肌の荒れ等に対して有効である。また、特開2000−72685号公報(特許文献8)には、ローズマリー抽出物を有効成分として含有する消化器潰瘍を抑制するための食品組成物が開示され、特開2002−275061号公報(特許文献9)には、ロズマリン酸を有効成分として含有する抗うつ及び抗不安剤が開示されている。
【0007】
しかし、上記カルノジン酸及びロズマリン酸に関して健忘症に対する効果的な予防・治療効果を示した知見は現在まで得られていない。
【特許文献1】特開2003−192564号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【特許文献2】特開2001−122777号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【特許文献3】特開2001−158745号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【特許文献4】特開2001−233835号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【特許文献5】特開平7−305089号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2004−2237号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平9−67251号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【特許文献8】特開2000−72685号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【特許文献9】特開2002−275061号公報(特許請求の範囲、発明の効果の欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、健忘症の予防・治療に有効な製剤を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、安全性が高く、健忘症をさらに有効に予防・治療できる製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく生体を用いた健忘症モデルにおいて、種々の成分を比較検討したところ、カルノジン酸及びロズマリン酸が健忘症に対して高い予防・治療効果を有すること、さらにビタミンB類及び/又はビタミン様作用物質と併用すると、健忘症に対する予防・治療効果をさらに改善できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいてさらに検討を重ねて完成したものである。このような予防・治療効果は、これまで知られているカルノジン酸及びロズマリン酸の生理又は薬理作用からは全く予想できないものである。
【0011】
すなわち、本発明の健忘症の予防・治療剤は、(1)カルノジン酸及びロズマリン酸から選択された少なくとも一種又は生理学的に許容可能なその塩を有効成分として含有する。(2)カルノジン酸及びロズマリン酸は、ローズマリーまたはセージの抽出物に含まれるものであってもよい。(3)健忘症の予防・治療剤は、さらに、ビタミン類及びビタミン様作用物質(カルニチン、コエンザイムQ6-10などのコエンザイムQ類など)から選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。例えば、(4)健忘症の予防・治療剤は、さらに、L−カルニチン及びコエンザイムQ10から選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。(5)カルノジン酸及びロズマリン酸から選択された少なくとも一種又は生理学的に許容可能なその塩と、ビタミン類及びビタミン様作用物質から選択された少なくとも一種との割合は、例えば、遊離の形態で、前者1重量部に対して後者0.001〜10重量部程度であってもよい。さらに、健忘症の予防・治療剤は、(6)固形剤又は液剤の形態であってもよく、(7)医薬、医薬部外品または食品の形態であってもよい。本発明の予防・治療剤は、種々の健忘症の予防・治療に有用であり、(8)健忘症は、一過性全健忘症、側頭葉てんかん、頭部外傷、心因性健忘症、第3脳室腫瘍、コルサコフ(Korsakoff)症候群または脳炎後遺症による健忘症などであってもよい。さらに、(9)健忘症は、アルツハイマー型老年痴呆、アルツハイマー病、老年性痴呆または脳血管性痴呆における記銘力・記憶力の低下によるものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の健忘症の予防・治療剤は、カルノジン酸及び/又はロズマリン酸又はこれらの生理学的に許容可能な塩を有効成分とするので、健忘症に対して効果的な予防・治療効果を示す。さらに、ビタミン類及び/又はビタミン様作用物質(コエンザイムQ6-10などのコエンザイムQ類など)と組み合わせることにより、健忘症をさらに有効に予防・治療できる。さらには、副作用が少なく、安全性の高い製剤(医薬品・医薬部外品・食品など)を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いられるカルノジン酸及びロズマリン酸は、化学的に合成された化合物であってもよく、カルノジン酸及びロズマリン酸を含む植物、例えば、ハーブからの抽出物であってもよい。前記植物としては、シソ科植物、例えば、ローズマリー(マンネンロウ)Rosmarinus officinalis L.、セージ又はサルビアSalvia officinalis L.,Mentha piperita L.、メリッサ(セイヨウヤマハッカ)Melissa officinalis L,、タイム(Thymus vulgaris. L.の花期の地上部を乾燥したもの)など;セリ科植物、例えば、パセリPetroselinum crispum NYMAN var. angustifolium HARA,、Sanicula europaea L..など;ムラサキ科植物、例えば、Lithoapermum ruderale DOUGL. Ex LEHMなどが例示できる。カルノジン酸及びロズマリン酸は、好ましくはローズマリー又はセージからの抽出物に含まれるものである。
【0014】
カルノジン酸及びロズマリン酸は、例えば、以下のような抽出方法で得ることができる。前記植物の所定部位(例えば、葉部、茎部、根部、ハーブの全草など)を抽出溶媒に浸漬し、常温もしくは加温下に、または加熱還流して植物成分を抽出し、植物残査を濾過して除去し、得られる抽出液を濃縮し、この濃縮物を各種カラムクロマトグラフィーで分離および精製することによって得ることができる。抽出溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの一価アルコール類、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル)、セロソルブ類、カルビトール類、炭化水素類又はハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタンなど)などの有機溶媒または水が挙げられる。有機溶媒は水溶性溶媒であってもよい。これらの抽出溶媒は単独または混合して使用することができる。また、必要であれば、塩基(アンモニア、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)などの無機塩基、アミン類などの有機塩基)を抽出溶媒に添加してもよい。また、抽出により得られたカルノジン酸及びロズマリン酸は、必ずしも100%純粋でなくてもよく、その含量は0.001重量%〜100重量%であり、好ましくは0.1重量%〜100重量%であれば、その効果を十分に発揮することが可能である。
【0015】
カルノジン酸及びロズマリン酸は、上記方法によっても抽出可能であるが、例えば、特開2001−122777号公報または特開2001−158745号公報に記載の方法で抽出することも可能である。
【0016】
カルノジン酸及びロズマリン酸は、生理学的に許容可能なその塩(特に薬理的に許容可能なその塩)又はエステルなどの誘導体として使用してもよい。このような塩としては、例えば、無機塩基との塩(アンモニウム塩、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩など)、有機塩基との塩(トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンとの塩、ジシクロヘキシルアミンなどのシクロアルキルアミンとの塩、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンとの塩、ピリジン、ピコリンなどの複素環式アミンとの塩、N,N−ジベンジルエチレンジアミンなどのアルキレンジアミン誘導体との塩など)、無機酸との塩(塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩)、有機酸との塩(ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸などのモノカルボン酸との塩、フマル酸、マレイン酸などの多価カルボン酸との塩、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸などのオキシカルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸との塩など)、中性アミノ酸との塩(グリシン、バリン、ロイシンなどとの塩)、塩基性アミノ酸との塩(アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩)、酸性アミノ酸との塩(アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩)などが例示できる。エステルとしては、メチルエステル、エチルエステルなどの低級アルキルエステル(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキルエステル)が例示できる。
【0017】
本発明の製剤又は薬剤には、健忘症の予防・治療効果を増強させるために、必要に応じて、種々の化合物(生理活性成分又は薬理活性成分)を配合してもよい。このような化合物としては、ビタミン類及びビタミン様作用物質(又は作用因子)が例示できる。ビタミン類としては、脂溶性ビタミン類(例えば、ビタミンA、プロビタミンAなどのビタミンA類、ビタミンD、プロビタミンDなどのD類、ビタミンE類、ビタミンK類)、水溶性ビタミン類(例えば、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン(ニコチン酸アミドなど)、ビタミンB6、パントテン酸、ビオチン、ホラシン(葉酸群)、ビタミンB12などのビタミンB類、ビタミンC類)が例示できる。ビタミン様作用物質(又は作用因子)としては、ユビキノン(コエンザイムQ)、リポ酸(チオクト酸)、必須脂肪酸(リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などのビタミンF類、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など)、オロト酸(ビタミンB13)、カルニチン(ビタミンBT)、イノシトール、コリン、p−安息香酸、ビタミンP類(ルチン、ヘスペリジン、エリオシトリン)、ビタミンU類(メチオニンメチルスルホニウム)などが例示できる。これらの成分は、例えば、塩(有機又は無機酸塩、有機又は無機塩基との塩など)、低級アルキルエステル(例えば、EPAのエチルエステルなどのC1-4アルキルエステルなど)、後述するホスファチジン酸とのエステルなどの誘導体としても使用できる。さらに、これらの成分は光学活性体(D−体、L−体、DL−体など)であってもよく、ラセミ体であってもよい。
【0018】
これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、例えば、ビタミン類とビタミン様作用物質とを併用してもよく、複数のビタミン様作用物質を組み合わせて用いてもよい。なお、ビタミン様作用物質(又は作用因子)は補酵素を構成してもよい。これらの成分のうち、少なくともビタミン様作用物質(又は作用因子)、例えば、脂肪燃焼亢進作用を有する活性成分(L−カルニチンなど)、ATP産生亢進作用を有する活性成分又はコエンザイムQが好ましい。コエンザイムQ(CoQ)としては、例えば、コエンザイムQ1-12が使用でき、通常、コエンザイムQ6-12、好ましくはコエンザイムQ6-10、特にコエンザイムQ10を使用する場合が多い。
【0019】
さらに、本発明の製剤は、前記ビタミン類及び/又はビタミン様作用物質とともに、又は前記ビタミン類及び/又はビタミン様作用物質に代えて、ホスファチジン酸とそのエステル、メチル基供与体、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤などを含んでいてもよい。ホスファチジン酸とそのエステルとしては、リン脂質、例えば、ホスファチジルグリセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルメチルエタノールアミン、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルセリン、ビスホスアチジン酸、ジホスファチジルグリセリンなどが例示できる。メチル基供与体としては、例えば、コリン、ベタイン、5−メチルテトラヒドロ葉酸、ジメチルテチンなどが例示でき、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤としては、塩酸ドネペジルなどが例示できる。これらの成分も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ホスファチジルセリンは、脳機能賦活化作用を有しており、前記ビタミン類及び/又はビタミン様作用物質と組み合わせて使用してもよい。
【0020】
上記化合物の割合は、投与対象、投与対象の年齢及び体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、配合可能な化合物の健忘症の対する効果とその組み合わせなどにより、適宜選択することができる。前記化合物の配合比としては、例えば、遊離のカルノジン酸及びロズマリン酸1重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.005〜7重量部、特に0.01〜5重量部(例えば、0.01〜0.5重量部)程度であってもよい。
【0021】
また、これらの化合物は、投与形態、投与方法などに応じて、カルノジン酸及びロズマリン酸又はこれらの塩とともに1つの製剤の形態で投与してもよく、カルノジン酸及び/又はロズマリン酸又はこれらの塩を有効成分とする製剤と、上記配合可能な化合物を有効成分とする製剤又は薬剤とを、前記割合に基づいて併用することもできる。
【0022】
本発明の予防・治療剤は、健忘症に対して有用であるが、ここで健忘症とは、一定期間、あるいは一定の事柄に限定された追想の障害を指し、さらに、一過性または慢性健忘症、器質的な原因により器質健忘、心因による心因健忘、一定期間内の出来事を全く追想できない全健忘、部分的に追想可能な部分健忘、意識障害が発生する以前の出来事まで追想の障害が及ぶ逆向健忘または意識障害から回復した後の出来事にも追想の障害が及ぶ前向健忘を含むものであってもよい。具体的に、本発明の製剤又は薬剤は、一過性全健忘症、側頭葉てんかん、頭部外傷、心因性健忘症、第3脳室腫瘍、コルサコフ(Korsakoff)症候群または脳炎後遺症による健忘症の予防・治療剤として有用であり、さらに、アルツハイマー型老年痴呆、アルツハイマー病、老年性痴呆または脳血管性痴呆における記銘力・記憶力の低下などの健忘症の予防・治療剤として有効である。
【0023】
すなわち、本発明の製剤又は薬剤は、後述の健忘症動物モデル(スコポラミン誘発健忘症モデル)を用いた試験において健忘症の予防・治療につながる記銘力・記憶力の向上をもたらす。なお、同様の試験法により、アルツハイマー型痴呆治療剤として繁用されている塩酸ドネペジル(販売名:アリセプト)が健忘作用を示すことが知られている(Jpn.J.Pharmacol.89,7-20(2002))。
【0024】
本発明の製剤又は薬剤は、カルノジン酸、ロズマリン酸又はそれらの塩単独で構成してもよく、固形剤又は液剤の形態であってもよく、また食品、医薬品、医薬部外品などの適切な形態に加工されてもよい。
【0025】
食品に加工される場合、上記カルノジン酸、ロズマリン酸又はそれらの塩は食品加工成分と混合される。このような成分は、一般に食品用材料として使用可能であればよく、例えば、米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、昆布、ワカメ、テングサなどの粉類又は基材粉;水飴、乳糖、グルコース、果糖、スクロース、マンニトールなどの糖類;これらの組み合わせが挙げられる。さらに、香辛料、着色料、甘味料、食用油、ビタミン類、ミネラル類などを添加してもよい。これらの食品加工成分および添加剤は単独でまたは組み合せて使用される。食品は固形であってもよく、必要に応じて水を添加して所望の半固形(ゼリー状を含む)ないし液状の形状に加工してもよい。
【0026】
医薬品および医薬部外品に加工される場合、製剤又は薬剤は固形剤又は液剤であってもよい。医薬品および医薬部外品では、上記カルノジン酸、ロズマリン酸又はそれらの塩を、生理学的に許容されうる担体、賦形剤、結合剤、希釈剤などと混合し、医薬組成物として経口又は非経口的に投与することができる。経口剤として、例えば、顆粒剤、散剤、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤(ソフトカピセル、マイクロカプセルを含む)などの固形剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの液剤などが挙げられ、非経口剤として、例えば、注射剤(皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、点滴剤を含む)、外用剤(経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤、坐剤を含む)などが挙げられる。なお、経口剤や非経口剤には、公知の製剤成分を用いて、有効成分の体内での放出をコントロールした製剤(例えば、速放性製剤、徐放性製剤)も含まれる。これらの製剤は、製剤工程において通常一般に用いられる自体公知の方法により製造することができる。また、上記製剤においては、いずれの投与経路による場合も、公知の製剤添加物から選択された成分(以下「製剤成分」ということもある)を適宜使用することができる。具体的な製剤添加物は、例えば、(1)医薬品添加物ハンドブック、丸善(株)、(1989)、(2)医薬品添加物事典、第1版、(株)薬事日報社(1994)、(3)医薬品添加物事典追補、第1版、(株)薬事日報社(1995)および(4)薬剤学、改訂第5版、(株)南江堂(1997)に記載されている成分の中から、投与経路および製剤用途に応じて適宜選択することができる。以下に、本発明の製剤の具体的な製造法について詳述する。
【0027】
上記経口剤としては、有効成分と担体成分とを造粒し、生成した顆粒を必要により添加剤を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性を付与する自体公知の方法でコーティングすることにより製造され、カプセル剤は、カプセルに顆粒剤を充填することにより調製できる。担体成分又は添加剤としては、例えば、賦形剤(乳糖、白糖、マンニトールなどの糖類、トウモロコシデンプンなどのデンプン、結晶セルロースなどの多糖類など)、崩壊剤(炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、クロスポピドンなど)、結合剤(α化デンプン、アラビアゴム、デキストリンなどの多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマーなどの合成高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースエーテル類など)、滑沢剤(タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000など)などが挙げられる。
【0028】
コーティング剤としては、例えば、糖類、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などが用いられる。コーティング剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの腸溶性成分であってもよく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどの塩基性成分を含むポリマーで構成された胃溶性成分であってもよい。
【0029】
液剤は、有効成分と液体担体成分と添加剤とを混合して調製でき、必要により滅菌処理される。例えば、上記注射剤としては、有効成分を、分散剤(ツイーン(Tween)80、ポリエチレングリコールを含む)、保存剤(メチルパラベン、プロピルパラベンを含む)、等張化剤(塩化ナトリウム、グリセリンを含む)などと共に、担体成分である水性溶剤(蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液を含む)あるいは油性溶剤(オリーブ油、ゴマ油などの植物油、プロピレングリコール、マクロゴールドを含む)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造される。この際、所望により溶解補助剤(サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムを含む)、安定剤(ヒト血清アルブミンを含む)、無痛化剤(塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインを含む)、pH調整剤や緩衝剤などの添加物を用いてもよい。また、液剤では、乳化剤、分散剤や懸濁剤(アラビアガム、ローカストビーンガムなどの多糖類、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースエステル類、ノニオン界面活性剤など)、糖類(ブドウ糖、ソルビトール、キシリトール、マンニトールなど)、安息香酸ナトリウムなどを含んでいてもよい。
【0030】
上記外用剤としては、有効成分を固体状、半固体状または液状の組成物とすることにより製造される。例えば、上記固体状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(ラクトース、デンプン、微結晶セルロースを含む)、増粘剤(天然ガム類、セルロース誘導体など)などを添加、混合して粉状とすることにより製造される。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造される。半固体状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟膏状の形態であるのが好ましい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(炭酸、リン酸などの酸成分、水酸化ナトリウムなどの塩基成分を含む)、緩衝剤、防腐剤(パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノールを含む)などを含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性または水性の固体状、半固体状あるいは液状の組成物とすることにより製造される。
【0031】
本発明の薬剤は、古来から一般生活で使用されているハーブの成分であることから、毒性も低く、その安全性も確立されており、哺乳動物(例えば、ヒト、マウスなど)に対して、安全に用いられる。本発明の製剤又は薬剤の投与量は、投与対象、投与対象の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法等により、適宜選択することができる。例えば、成人1人当たり1日用量として、経口投与の場合の通常、体重1kgに対して約0.01〜1000mg、好ましくは約0.1〜500mgの範囲で選択することができる。投与回数としては、一日1回ないし必要に応じて数回に分けるのが適当である。注射剤の場合は、通常、経口剤の1/10〜1/5の量が、また外用剤の場合は、通常、経口剤の2〜5倍の量が用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の予防・治療剤は、カルノジン酸及び/又はロズマリン酸又はそれらの塩を有効成分とするので、健忘症に対して良好な予防・治療効果を示す。また、古来から一般生活で使用されている有効成分であるため、副作用が少なく、安全性の高い医薬品・医薬部外品・食品などとして有用である。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0034】
調製例1(カルノジン酸)
ローズマリー(全草、粗切)5kgをエタノール20Lに浸漬し、40℃で2時間抽出を行った。得られた抽出液を1Lにまで濃縮した後、抽出物を濾過して不溶物を除去した。濾液に精製水2Lを添加し、生成した析出物105gを濾取した。この析出物を酢酸エチルに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;酢酸エチル:ヘキサン=1:4(容量比))で精製して、ヘキサン中で析出させることによりカルノジン酸30gを得た。
【0035】
調製例2(「カルノジン酸高濃度画分」)
ローズマリー(全草、粗切)4kgを90%エタノール水溶液20Lに浸漬し、40℃で4時間抽出を行った。抽出液を濾過して不溶物を除去し、得られた溶液を6Lにまで減圧濃縮した。濃縮後、抽出物を再び濾過して不溶物を除去した。濾液に精製水12Lを添加し、4℃にて一晩放置した。続いて、再び濾過を行って、不溶物であるローズマリー抽出物(乾燥重量173g)を得た。カルノジン酸を高濃度含有する抽出物を、以下、単に「カルノジン酸高濃度画分」という。なお、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析したところ、カルノジン酸高濃度画分のカルノジン酸含有量は17重量%、ロズマリン酸含有量は0.2重量%であった。
【0036】
調製例3(「ロズマリン酸高濃度画分」)
ローズマリー(全草、粗切)15kgに20倍量の水を加え、95℃以上で2時間温浸した。65℃に放冷した後、遠心分離して抽出物を得た。残渣に再び8倍量の水を加えて同様に温浸し、得られた抽出物を前の抽出物と合わせた。この抽出物を60℃にて減圧濃縮し、濃縮抽出物13Lを得た。この濃縮抽出物を噴霧乾燥してローズマリー抽出物3kgを得た。ロズマリン酸を高濃度含有する抽出物を、以下単に「ロズマリン酸高濃度画分」という。なお、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析したところ、ロズマリン酸高濃度画分のカルノジン酸含有量は0.03重量%、ロズマリン酸含有量は6.9重量%であった。
【0037】
実施例1(マウス健忘症モデルにおけるカルノジン酸の効果(7日間反復投与))
層別無作為化法にて各群の平均体重が等しくなるようにした5週齢のマウスを1群10匹、計2群に群分けし、調製例1で得られたカルノジン酸を用いて、10mg/mLのカルノジン酸溶液(溶媒:カルボキシメチルセルロース、以下単に「CMC」という;カルノジン酸投与群)および1%溶媒(対照群;溶媒投与群)をそれぞれ7日間反復経口投与(0.3mL/10g)した。続いて、最終投与から60分後に、スコポラミンハイドロブロマイド(SCOP)溶液を腹腔内投与(0.lmL/10g)した。
【0038】
その後、以下に示すとおり、トキシコロジー(初版第1版2002年6月20日)に記載の受動的回避反応試験に従って試験を続けた。すなわち、投与30分後にマウス用明暗弁別測定装置(ニューロサイエンス社製)の明室にマウスを1匹ずつ収容し、その後ギロチンドアを開けてマウスが暗室に入るまでの潜時をデジタルストップウォッチ(SO51,SEIKO社製)にて測定すると共に、直ちに床グリッドにショックジェネレータースクランブラー(NS−SG01,ニューロサイエンス社製)からスクランブル電撃(1mA)を流してマウスが明室へ逃避するまで与え続けた(獲得試行)。保持試行は獲得試行の24時間後に実施し、再度マウスを明暗弁別装置の明室に収容、その後同様にギロチンドアを開けてマウスが暗室に入るまでの潜時を測定した。なお、照度480Lxの蛍光灯照明下で実施し、獲得および保持試行における潜時の測定は最大300秒までとした。
【0039】
結果を表1に示す。表1に示すとおり、保持試行においてカルノジン酸投与群では、対照群と比較して潜時が延長することが認められた。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2(カルノジン酸高濃度画分の効果(7日間投与))
カルノジン酸に代えて調製例2で得られたカルノジン酸高濃度画分を用いて、3.33〜33.3mg/mLの高濃度画分溶液(高濃度画分投与群)を使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0042】
結果を表2に示す。表2に示すとおり、保持試行においてカルノジン酸高濃度画分投与群は、対照群と比較して用量依存的に潜時が延長することが認められた。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例3(カルノジン酸高濃度画分の効果(28日間投与))
層別無作為化法にて各群の平均体重が等しくなるようにした5週齢のマウスを1群20匹、計2群に群分けし、5mg/mLおよび10mg/mLのカルノジン酸高濃度画分溶液(溶媒:カルボキシメチルセルロース)および1%CMC溶媒をそれぞれ27日間反復経口投与(0.lmL/10g)した。続いて28日目に、各群毎に体重を指標に1群10匹ずつに再度群分けし、50mg/kg投与群には5mg/mLカルノジン酸高濃度画分を、100mg/kg投与群には10mg/mLカルノジン酸高濃度画分を、溶媒投与にはCMC溶媒をそれぞれ経口投与(0.lmL/10g)した。続いて、最終投与から60分後に、SCOP溶液(0.05mg/mL)あるいは生理食塩水を腹腔内投与(0.1mL/10g)した。以下の試験は実施例1と同様に行った。
【0045】
結果を表3に示す。表3に示すとおり、保持試行においてカルノジン酸高濃度画分投与群は、溶媒投与群と比較して潜時が延長することが認められた。
【0046】
【表3】

【0047】
実施例4(ロズマリン酸高濃度画分の効果(7日間投与))
調製例1で得られたカルノジン酸に代えて、調製例3で得られたロズマリン酸高濃度画分を用いる以外、実施例1と同様にし行った。
【0048】
結果を表4に示す。表4に示すとおり、保持試行においてロズマリン酸高濃度画分投与群は、溶媒投与群と比較して潜時が用量依存的に延長することが認められた。
【0049】
【表4】

【0050】
実施例5(カルノジン酸高濃度画分とL−カルニチンの併用効果(7日間投与))
10mg/mLのカルノジン酸高濃度画分および3.33mg/mLのL−カルニチン溶液を使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0051】
結果を表5に示す。表5に示すとおり、保持試行においてカルノジン酸高濃度画分300mg/kgとL−カルニチン100mg/kgとの併用投与群は、対照群(溶媒投与群)や各単剤投与群と比較して潜時が延長することが認められた。
【0052】
【表5】

【0053】
実施例6(カルノジン酸高濃度画分とコエンザイムQ10の併用効果(7日間投与))
10mg/mLのカルノジン酸高濃度画分および0.67mg/mLのコエンザイムQ10溶液を使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0054】
結果を表6に示す。表6に示すとおり、保持試行においてカルノジン酸高濃度画分300mg/kgとコエンザイムQ1020mg/kg併用投与群は、溶媒投与群や各単剤投与群に比較して潜時が延長することが認められた。
【0055】
【表6】

【0056】
以上のように、本発明の予防・治療剤は、健忘症の予防・治療剤として有効であることが上記試験により確認された。
【0057】
製剤例1(顆粒剤)
調製例1で得られたカルノジン酸と下記成分と水とを用いて常法に従ってペーストを調製し、このペーストを常法により押出造粒し、乾燥することにより顆粒を調製した。
【0058】
カルノジン酸 10mg
ラクトース 40mg
結晶セルロース 20mg
トウモロコシデンプン 15mg
カルメロースカルシウム 10mg
ヒドロキシプロピルセルロース 5mg
製剤例2(錠剤)
調製例1で得られたカルノジン酸と下記成分とを用いて常法により錠剤を調製した。
【0059】
カルノジン酸 10mg
ラクトース 135mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
微結晶セルロース 50mg
製剤例3(錠剤)
調製例3で得られたロズマリン酸高濃度画分と下記の成分とを用いて常法により錠剤を調製した。
【0060】
ロズマリン酸高濃度画分 10mg
ラクトース 135mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
微結晶セルロース 50mg
製剤例4(懸濁剤)
調製例1で得られカルノジン酸と下記の成分とを用いて常法により、カルノジン酸濃度が2重量%の懸濁剤を調製した。
【0061】
カルノジン酸 10mg
D−ソルビトール 155mg
ケイ酸アルミニウムマグネシウム 2mg
カルボキシメチルセルロース 4mg
安息香酸ナトリウム 2.5mg
精製水 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルノジン酸及びロズマリン酸から選択された少なくとも一種又は生理学的に許容可能なその塩を有効成分とする健忘症の予防・治療剤。
【請求項2】
カルノジン酸及びロズマリン酸が、ローズマリー又はセージの抽出物に含まれるものである請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項3】
さらに、ビタミン類及びビタミン様作用物質から選択された少なくとも一種を含む請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項4】
さらに、L−カルニチン及びコエンザイムQ10から選択された少なくとも一種を含む請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項5】
カルノジン酸及びロズマリン酸から選択された少なくとも一種又は生理学的に許容可能なその塩と、ビタミン類及びビタミン様作用物質から選択された少なくとも一種との割合が、遊離の形態で、前者1重量部に対して後者0.001〜10重量部である請求項3記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項6】
固形剤又は液剤の形態である請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項7】
医薬、医薬部外品または食品の形態である請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項8】
健忘症が、一過性全健忘症、側頭葉てんかん、頭部外傷、心因性健忘症、第3脳室腫瘍、コルサコフ(Korsakoff)症候群または脳炎後遺症による健忘症である請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。
【請求項9】
健忘症が、アルツハイマー型老年痴呆、アルツハイマー病、老年性痴呆または脳血管性痴呆における記銘力・記憶力の低下によるものである請求項1記載の健忘症の予防・治療剤。

【公開番号】特開2006−199666(P2006−199666A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16001(P2005−16001)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【Fターム(参考)】