説明

偽造防止シート

【課題】セキュリティ性が高く、比較的製造工程が簡単で、外観上でも偽造防止の仕組みが第三者には知られ難い偽造防止シートを提供する。
【解決手段】この課題を解決するため、本発明による偽造防止シートは、蒸着膜などの気相成長した強磁性体薄膜を微細片化した強磁性体微細片が基材内に分散されて、特定のパターンに形成され、固有の磁気特性を保持せしめており、前記基材が紙であるか、または、前記基材が樹脂であり、前記強磁性体薄膜は、その表面が平滑に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造を防止しなければならない非常に付加価値の高い金券,商品券,プリペイドカード等に用いられるシート状基材である偽造防止シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金券類ではセキュリティーを目的に種々の偽造防止技術が利用されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、磁気インクを印刷したり、ホログラムを貼り付けたり、強磁性体膜を形成したスレッドを挿入したりして偽造防止を行っているが、それぞれ一長一短があり、満足し得る性能を有する有効な技術は確立されていないのが実状である。
【特許文献1】特願平7−329465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
磁気インクで文字を印刷する場合、JIS規格(JISC−6251)を例にとると、磁気インク印刷した文字パターンの磁性材料を直流磁化ヘッドで飽和磁化させ、規定ギャップ幅を持つ磁気読み取りヘッドで読み取り、出力電圧によりその文字パターンを判別している。磁気インクを用いた応用例としてバーコードを磁気インクで印刷し、磁気ヘッドで読み出すことも行われている。磁気インクを用いて機械的に読み取る場合、外観上の汚れは殆ど問題とならない利点があるが、これらに用いられている磁性体は広範囲に利用されており、比較的入手しやすく、セキュリティ性という点で問題がある。
【0004】
ホログラムについても、光学的に偽造品を複製することが可能でセキュリティ性が十分とは言えない。
【0005】
スレッドの場合には、特殊な磁気信号を有するスレッド(安全線条)を紙に貼り付けるかまたは紙の中にすき込むことでセキュリティ性を保持させるように形成されている。しかし、この場合貼り付けるにはその貼付装置が、挿入するには挿入装置が必要となり、偽造防止シートを製造する上で工程が増え、さらに特殊技術が必要になるという問題がある。
【0006】
また、強磁性金属材料をワイヤやリボンの形態でカードの基材に挿入・分散させる技術もある。しかし、これらワイヤやリボンを所望の形状に粉砕・加工することは困難であり、さらに、カードに挿入・分散させたときに基材本来の性能を失う可能性がある。例えば、ワイヤやリボンが基材より飛び出し人にけがをさせる等が考えられる。また、強磁性金属材料をあまり細かく粉砕できず、粒径を数μm以下に微細分化すると、本来それが持っている磁気特性が変化する可能性がある。したがって、この場合の細粉砕片はある程度の大きさとせざるを得ず、その存在が第三者に知られてしまいセキュリティ性に問題が生じる。
【0007】
したがって前述した従来の技術においては、セキュリティ性が不十分であり、しかも製造が困難であるという欠点があった。
【0008】
本発明の目的は、上述の如き従来の欠点を除去し、セキュリティ性が高く、比較的製造工程が簡単で、外観上でも偽造防止の仕組みが第三者には知られ難い偽造防止シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するため、本発明による偽造防止シートは、蒸着などの気相成長させた強磁性薄膜を所定の形式で基材に含ませて固有の磁気特性を保持させた構成を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、偽造防止シートに組成・膜厚・基材の表面状態に応じた固有の磁気特性を有した強磁性体を分散させることにより、磁気的に偽造防止シートの真偽を判定することができる。このとき、本発明による偽造防止シートはセキュリティ性が高く、磁性材の存在が第三者に知られ難く、基材本来の性能を損なうことがないという特徴を有している。さらに、偽造防止シートに強磁性体の固有の磁気特性を持たせることができるため、そのパターンを利用した各種の処理を効率よく、かつ高いセキュリティ性を保って実行することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の形態による本発明の偽造防止シートは、ガラス・樹脂・紙等の気相成長用基材上に一度蒸着等の気相成長による膜形成をさせた磁性薄膜をその気相成長基材より必要により分離し、粉砕して得られる強磁性体微細片を、製品シートとなる紙基材の全体又は一部に分散させることにより、固有の磁気特性を保持させるものである。本発明においてバルクの磁性体を粉砕した通常の磁性粒子を用いるのではなく、気相成長で作成した磁性膜を用いるのは、蒸着,スパッタ,CVDなどの気相成長法で膜厚を制御した膜を出発材料とし粉砕することにより作製した磁性体微細片粉が、粉砕しても膜厚方向の構造は保持しており、結果としてその磁区構造がそのまま維持されてバルクとして有する本来の磁気特性に近い状態を示すことになるからである。このときの最小膜厚は磁性体の組成・成膜条件等により決まり、500〜5000Å(0.05〜0.5μm)程度と非常に薄い磁性膜であるため、粉砕も容易で分散する際にも取り扱いが容易で、偽造防止シートとした場合も外観上でも、異物が混入していることを確認することは困難である。バルクの磁性体を粉砕した通常の磁性粒子を分散した紙でもその磁性粒子の磁気特性を磁気的に読みとれないこともないが、安定して読み取るには磁性体の量を増やさなければならず、紙に要求される強度,剛性,外観といった特性を損なう場合が多く、好ましくない。
【0012】
本発明によるシートに用いる磁性体としては、保持力が5000A/m以下の軟磁性体からなるものがより好ましい。その理由は、このような軟磁性体の残留磁化が小さいため、マグネットビューア等でシート内の磁性体の有無を確認できないからである。また、磁気特性を向上させる(読み取りの感度を上げる)ためには、気相成長用基材の表面をできるだけ平滑にする方がよい。すなわち、基材表面の粗さが小さい方が磁性薄膜の組織が揃い磁区も成長し、読み取り感度が向上する。磁性薄膜の粉砕(微細片化)には、磁性体が薄膜であるためボールミル等の粉砕機は不要であり、例えば気相成長用基材より剥離した後水の中で攪拌するだけでよい。また、気相成長用基材を紙または水溶性樹脂とすれば水中で攪拌することにより、樹脂とすれば溶剤中で攪拌することでそれぞれ粉砕可能である。紙の中に分散させる方法は、紙をすくときに磁性体単位で投入するか、もしくは水中で粉砕したものは水とともに、あるいは水・基材とともに投入してもよい。また、磁性体微細片を分散する際に、ストライプ状・格子状・文字パターン等のようにある規則的な模様を付ければ、読み取りの際にその模様に応じた信号を検出することができ、真偽の判定、偽造防止シートのロット管理等に利用することができる。
【0013】
以上述べたとおり、本発明による第一の形態による偽造防止シートは、微細片化された磁性体の組成・膜厚及び磁性体を形成する際の気相成長用基材の表面状態と磁性体微細片の分散の状態に応じた固有の磁気特性を有し、磁気的に真偽の判定をすることができる。
【0014】
第2の形態による本発明の偽造防止シートは、ガラス・樹脂・紙等の気相成長用基材上に一度蒸着等の気相成長させた強磁性薄膜をその気相成長用基材より分離し粉砕した後、製品となる樹脂シートの中に分散させることにより、固有の磁気特性を保持させるというものである。第1の形態に用いられる紙の代わりに、樹脂中に分散させたものである。したがって、先に述べた第1の形態によるものと基本原理及び製造工程の途中までは同じである。ただし、分散させる方法は、樹脂シートを成形するまでの工程中のいずれかの工程で磁性体単体で投入するか、もしくは溶剤とともに投入する。こうすることにより、製品となった樹脂シートはその配合に応じた固有の磁気特性を有し、磁気的にその真偽の判定をすることができる。
【0015】
第3の形態による本発明の偽造防止シートは、偽造防止シートの基材である紙の上に蒸着等の気相成長で直接強磁性薄膜を形成することにより、偽造防止シート自身に固有の磁気特性を保持させるというものである。気相成長法で膜厚を制御した磁性体とすることにより、バルクの磁性体を粉砕し偽造防止シートの表面に印刷等の手法で形成するのと異なり、少量ですなわち厚みは薄くても、比較的大きな信号を検出することができる。また、第1の形態と同様に薄いにも係わらずバルクとして有する本来の磁気特性に近い状態で信号を検出することができる。このときの最小膜厚は磁性体の組成・成膜条件等により決まり、500〜5000Å(0.05〜0.5μm)程度と非常に薄い磁性膜であるため、紙に要求される強度、剛性等といった特性を損なうことがない。ただし、形成する磁性体により外観は灰色等に変色するが、必要であればこれを印刷等で隠蔽することが可能であり、こうして隠蔽層を形成しても磁気信号を読み取ることが可能である。また、磁性体膜を形成する際に、ストライプ状・格子状・文字パターン等のようにある模様を付ければ、読み取りの際にその模様に応じた信号を検出することができ、真偽の判定、偽造防止券のロット管理等に利用することができる。以上述べたとおり、本発明の第3の形態による偽造防シートは、磁性体の組成・膜厚・基材の表面状態に応じた固有の磁気特性を有し、磁気的に真偽の判定することができる。
【0016】
さらに、磁気特性を向上させて読み取り感度を上げるためには、基材の表面状態が大きく影響を及ぼす。すなはち、基材表面が滑らかである方が磁性薄膜の組織が揃い、磁区も成長し、読み取り感度が向上する。用いる紙の種類によっては、表面の粗さが大きく異なり、表面が平坦な紙では読み取り感度も良好であるが、表面が粗い紙では読み取り感度が低下する。従って、第4の形態による本発明の偽造シートは、紙の表面に樹脂等の膜をコーテイングして平坦化することにより、読み取り感度を向上させるようにしたものである。表面が粗い基材上の所望の部分に、ストライプ状、格子状、文字状等の任意のパターンを印刷等で被着させて平坦化層とし、その平坦化層上に強磁性体層を形成すれば、磁気パターンを形成することができる。このとき、平坦化層を含む基材表面の全面に強磁性体層を形成すれば、外観上は確認し難い磁気パターンとなる。
【実施例】
【0017】
図1,図2に本発明の第1,第2の形態による真偽防止シートSaの実施例を示す。基材を紙とした場合は第1の形態であり、樹脂シートとした場合は第2の形態である。図1は基材1の全体に強磁性体微細片2を分散させた例であり、図2は基材1の片面にある模様「AA」で強磁性体微細片2を分散させた例である。強磁性体微細片2は気相成長させて粉砕後、分散させているのでりん片状をしている。図1は基材1の全体に強磁性体微細片2が分散しており、基材1のどこに磁気検知用のセンサを配置しても、同様な信号が得られる。図2は基材1の片面に「AA」という文字パターンを描くように基材1中に強磁性体微細片を分散させたもので、これを磁気的に読み取った場合には、この文字パターンに特徴づけられる信号が検出される。本発明の第1,第2の形態による偽造防止シートSaは、紙または樹脂の基材1そのものに気相成長により得た強磁性体微細片2を分散させたものであればよく、基材1の表面に種々の目的で印刷してもかまわない。例えば、基材1の色を隠蔽すること、分散させたパターン形状を隠蔽すること、固有の図柄を保持させること等のように必要に応じ印刷することができる。
【0018】
図3,図4に本発明の第3,第4の形態による偽造防止シートSbの実施例を示す。紙基材1a上に直接強磁性体層3を形成した場合は第3の形態であり、平坦化層4を形成した紙基材1a上に強磁性体層3を形成した場合は第4の形態である。図3(a)は基材1aの片面全領域に強磁性体層3を気相成長させた例であり、図3(b)は基材1aの片面に適宜の模様「AA」で成膜した例である。強磁性体層3はミクロ的には基材1aの表面状態(粗さ)を反映して複雑な三次元構造をしている。図3(a)は基材1aの片面全領域に強磁性体層3があり、強磁性体層3が形成された側であれば基材1aのどこに磁気検出用のセンサを配置しても、同様な信号が得られる。図3(b)は基材1aの片面に「AA」という文字パターンを描くように基材1aの片面に強磁性体層3を成膜させたもので、基材1aの表面が平坦な場合にはこれを磁気的に読み取ることにより、この文字パターンに特徴づけられる信号が検出される。図4は基材1の表面が粗い場合であり、基材1aに「AA」という文字パターンを描くように、基材1aの表面に樹脂の平坦化層4を設け、その後全面に強磁性体層3を形成させたものであり、これを磁気的に読み取ることにより、この文字パターンに特徴づけられる信号が検出される。本発明の第3,第4の形態による真偽防止シートSb,Scは、紙の基材1aそのものに気相成長より得た強磁性体層3を成膜させたものであればよく、基材1aの表面に種々の目的で印刷してもかまわない。例えば、基材1aの色を隠蔽すること、分散させたパターン形状を隠蔽すること、固有の図柄を保持させること等のように、必要に応じ印刷することができる。
【0019】
図5は、本発明による偽造防止シートSa又はSbの真偽を判定するために、その偽造防止シートSa,Sbに含まれている強磁性体微細片2又は強磁性体層3から所定の磁気特性に対応する検知出力をとり出すための検出回路例である。ここで、3は基材1の一方の表面上に成膜された強磁性体層、5は励磁電源、6は励磁コイル、7はセンスコイル、8は増幅器、9は信号処理回路である。強磁性体の検知には、例えば強磁性体の磁気特性を測定するときに、高調波信号の発生を利用する方法があり、励磁電源5により励磁された励磁コイル6の出力で強磁性体層3を励磁し、近傍に配置されたセンスコイル7により強磁性体層3から出る磁束変化を検出し、その検出信号を増幅器8で増幅した後に、高調波成分の大きさを検知するアナログあるいはディジタルフィルタを備えた信号処理回路9により、強磁性体層3が存在することを検知して検知信号をとりだすことができる。
【0020】
図6は検知信号の1例を示す図であり、例えばバーコード状に存在する強磁性体層3を図5の検出回路で検知した検出信号であり、強磁性体層3の存在する部分に高調波の含まれた励磁信号が存在し、励磁コイル6,センスコイル7または強磁性体層3を移動することにより、時系列信号として偽造防止シートSa,Sb,Scに固有の磁気信号が得られる。励磁コイル6とセンスコイル7は強磁性体層3に接触させる必要はなく、データ読み取り分解能が許す範囲で非接触とすることができるため、たとえば基材1a,1bを覆う非磁性インクを介して読み取ったり、磁性体が片面に存在する場合に紙の裏側から読み取ったりすることができる。
【0021】
図5,図6に示す検知回路と出力波形は、検知出力をとり出す場合の例であり、強磁性体薄膜の固有の磁気特性を検知するように、他の適宜の手段を選択することができる。
【0022】
また、以上の例は、基材上に所望のパターンとしてポジパターンを形成するものとして説明したが、ネガパターンが所望のパターンになるようにして、偽造防止機能を持たせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】気相成長により得た強磁性体微細片を基材の全体に分散させた本発明の偽造防止シートの具体例を説明するための斜視図である。
【図2】気相成長により得た強磁性体微細片を基材の一部に分散させた本発明の偽造防止シートの具体例を説明するための斜視図である。
【図3】気相成長により強磁性体層を基材の一方の面の全面上(a)又は一部の面上(b)に成膜させた本発明の偽造防止シートの具体例を説明するための斜視図である。
【図4】気相成長により強磁性体層を基材に成膜させた本発明の偽造防止シートの具体例を説明するための斜視図である。
【図5】本発明の偽造防止シートからの情報検知用検出回路例を示す回路系統図である。
【図6】図5の検出回路からの検出信号例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0024】
1 基材
2 強磁性体微細片
3 強磁性体層
4 平坦化層
5 励磁電源
6 励磁コイル
7 センスコイル
8 増幅器
9 信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着膜などの気相成長した強磁性体薄膜を微細片化した強磁性体微細片が基材内に分散されて、特定のパターンに形成され、固有の磁気特性を保持せしめた偽造防止シート。
【請求項2】
前記基材が紙であることを特徴とする請求項に記載の偽造防止シート。
【請求項3】
前記基材が樹脂であることを特徴とする請求項に記載の偽造防止シート。
【請求項4】
前記強磁性体薄膜は、その表面が平滑に形成されることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の偽造防止シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−121181(P2008−121181A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276195(P2007−276195)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【分割の表示】特願平8−339098の分割
【原出願日】平成8年12月5日(1996.12.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】