説明

偽造防止印刷物とその真偽判定方法および偽造防止インキ

【課題】真偽判定が可能で、偽造防止効果が高い偽造防止インキおよび偽造防止印刷物および偽造防止印刷物の真偽判定方法を提供する。
【解決手段】基材上に背景部と偽造防止印刷部が設けられている偽造防止印刷物であって、前記偽造防止印刷部が、異なる2つの波長特性の光源からの光を照射した場合の色が異なる偽造防止印刷部である偽造防止印刷物において、前記背景部が、各々異なる一方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが5%以下であり、かつ、各々他方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが8%以上である2種の背景部が用いられていることを特徴とする偽造防止印刷物および偽造防止印刷物の真偽判定方法および偽造防止インキを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機などによる複製を防止するための偽造防止インキおよび偽造防止印刷物とこの偽造防止印刷物の真偽判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真技術を利用した複写機が普及し、これを利用して誰でも簡単に紙などに印刷された文字や画像を複写することができるようになった。特に、最近のカラーデジタル複写機によれば、原稿か複写物か見分けが極めて困難な複写物でさえも容易に作成することができる。
【0003】
一般的なカラーデジタル複写機の原理は、原稿に光を照射し、反射光をCCDラインセンサで検知する。CCDラインセンサでは、反射光の強度に応じたデジタル信号を生成し、複写機内のメモリに送信する。この読み取り過程をレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色について行い、それぞれの場合のデジタル信号をメモリに格納する。次に格納されたデジタル信号に基づいて、レーザ光を感光体ドラムの表面に照射し、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)のトナーを感光体ドラムの上に順次静電吸着し、これらのトナーを順次紙などのシート上に転写して定着させる。これにより、カラーの画像が形成された精巧な複写物を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−327978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかるカラー複写は便利である反面、このために株券、債券、約束手形、小切手などの有価証券や、入場券、搭乗券などの印刷物などが容易に偽造されるという問題が増加しつつある。このため、容易に複写できないように印刷物に複製防止対策を施す提案が種々なされている。
【0006】
カラー複写による複写物の色が原稿の色と異なるようにする技術が提案されている。例えば原稿とされうる有価証券などに非常に淡い色で着色すると、複写物では淡い色の部分が正確に再現できない。また、原稿に大きさの異なる網点を形成しておくと複写しても小さい網点の再現性が悪化する。さらにカラー複写機のトナーにない色である緑、紫、橙、金、銀等を印刷することで複写物の色の再現性が悪化する。また、人間の視認度が低い領域例えば380nm〜450nmおよび650〜780nmあたりの波長域に特徴をもたせた2種類のインキを用いることで見た目には同色であるが、カラー複写機での複写物は異なる色に再現する。
【0007】
しかし、カラー複写機では、3色に分解されてメモリに格納されたデジタルデータを変更することによって、出力する色を補正することが可能である。また、カラー複写機と同様の原理を利用してカラースキャナーで読み込んだデジタルデータをコンピュータで補正し、カラープリンタまたはカラー複写機で出力するようなデジタルプレスが普及しつつある。従って、現在多少の手間をかければ、原稿の色を精巧に再現することが可能であり、上記のような技術では偽造を完全に防止することはできない。
【0008】
また、カラー複写機では再現不可能な特殊部分を有価証券などに設けておく技術も提案
されている。このうち、ホログラム箔などのOVD箔を有価証券などの表面上に設ける技術はすでに実用化されている。これによれば、ホログラムの銀面が光を鏡面反射するため、CCDラインセンサに反射光が入射せず、原稿で銀面だった部分が複写物では黒色に再現される。また、屈折率の異なるセラミックを適当な膜厚を持つ複数層に積層すると、見る角度によって色が変化する特殊な光学薄膜が形成される。かかる性質は、複写物では得ることができないので、容易に真偽判定が可能である。さらに、この方法で形成された薄膜を細かく砕き、破片をインキに混入して印刷を行う方法も提案されている。
【0009】
しかしながら、これらの技術では、ホログラム箔やセラミック膜を蒸着やスパッタリングのようなドライコーティングで形成する必要がある、工程が複雑化する上、製造コストが極めて高いという問題がある。
【0010】
さらに、可視光線の下では識別できない部分を有価証券などに設けておく技術も提案されている。例えば、赤外線吸収色素を原稿に印刷しておくと、市販されている複写機およびプリンタのトナーには赤外線吸収能力はないので、複写物はその印刷を再現することはできない。従って赤外線を利用した検証機によって真偽判断が可能である。また、紫外線の照射によって蛍光を発する蛍光体で原稿に印刷して置いた場合にも、市販されている複写機およびプリンタではそのような蛍光機能を再現できない。従ってブラックライトを照射すると、本物は発光するが、偽造品は発光せず、容易に真偽判断が可能である。このほかにも様々な提案がされている。
【0011】
しかし、これらの技術では特殊な波長の光源が必要となる。また、その波長における真偽判断が可能なように検証機を製造しなければならない場合もある。このため、真偽判断に用いるシステムのうちハードウエアのコストが高くなってしまう。
【0012】
そこで、それらの事情を考慮し、対象物に二種の異なる光源を照射し、それぞれの反射光の色相を観察することを特徴とする偽造防止印刷物の真偽判定方法が特許文献1に示されている。これは二種の光源として太陽光や青(波長450nm)・緑(波長540nm)・赤(波長610nm)の3波長域に発光特性のある蛍光灯といった身近な光源を選択することで、真偽判断に用いるシステムのうちハードウエアのコストがかからない。
【0013】
しかし、一般市民を対象とした真偽判定自体を目的としない利用を考慮した場合、ある一方の光源下での利用頻度が高く、二種の光源下で比較して利用する機会が少ない。
【0014】
そこで本発明は上記事情を考慮してなされたものであり、市販のカラー複写機などでは偽造が極めて困難であり、かつ廉価で製造が可能で、真偽判定を目的としなくとも利用において自然に真偽判定が可能な偽造防止インキおよび偽造防止印刷物、および偽造防止印刷物の真偽判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1に記載の発明は、
基材上に背景部と偽造防止印刷部が設けられている偽造防止印刷物であって、前記偽造防止印刷部が、異なる2つの波長特性の光源からの光を照射した場合の色が異なる偽造防止印刷部である偽造防止印刷物において、前記背景部が、各々異なる一方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが5%以下であり、かつ、各々他方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが8%以上である2種の背景部が用いられていることを特徴とする偽造防止印刷物を提供するものである。
【0016】
また本発明の請求項2に記載の発明は、
前記波長特性が、太陽光もしくは太陽光と同様の波長特性と、青(波長450nm)・
緑(波長540nm)・赤(波長610nm)の3波長域に発光特性のある波長特性であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物を提供するものである。
【0017】
また本発明の請求項3に記載の発明は、
偽造防止印刷物が、フォトクロミックとランタノイド系希土類化合物を含有するインキからなることを特徴とする請求項1または2記載の偽造防止印刷物を提供するものである。
【0018】
また本発明の請求項4に記載の発明は、
前記化合物は酸化物、炭化物、塩化物、フッ化物、硫化物および窒化物から選択された化合物であることを特徴とする請求項3記載の偽造防止印刷物を提供するものである。
【0019】
また本発明の請求項5に記載の発明は、
請求項4記載の化合物がHoであることを特徴とする偽造防止印刷物を提供するものである。
【0020】
また本発明の請求項6に記載の発明は、
偽造防止印刷部のパターンが意味を有し、異なる2つの波長特性の光源からの光を照射した場合の一方の光源で光を照射した場合の表示されるパターンが意味をなさないか、前記偽造防止印刷部のパターンの意味とは異なる意味を有することを特徴とする偽造防止印刷物を提供するものである。
【0021】
また本発明の請求項7に記載の発明は、
フォトクロミックとランタノイド系希土類化合物を含有するインキからなることを特徴とする偽造防止インキを提供するものである。
【0022】
また本発明の請求項8に記載の発明は、
前記化合物は酸化物、炭化物、塩化物、フッ化物、硫化物および窒化物から選択された化合物であることを特徴とする請求項7記載の偽造防止インキを提供するものである。
【0023】
また本発明の請求項9に記載の発明は、
請求項8記載の化合物がHoであることを特徴とする偽造防止インキを提供するものである。
【0024】
また本発明の請求項10に記載の発明は、
請求項1から6何れか記載の偽造防止印刷物に一方の波長特性の光源から他方の波長特性の光源に光源を変えて偽造防止印刷部を観察することを特徴とする偽造防止印刷物の真偽判定方法を提供するものである。
【0025】
また本発明の請求項11に記載の発明は、
前記波長特性が、太陽光もしくは太陽光と同様の波長特性と、青(波長450nm)・緑(波長540nm)・赤(波長610nm)の3波長域に発光特性のある波長特性であることを特徴とする請求項10記載の偽造防止印刷物の真偽判定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明は可視領域の狭帯域の波長の光を多く吸収し、その帯域から外れた波長の光をあまり吸収しない、ランタノイド系希土類元素もしくはその化合物と、光の吸収によって色が変化するフォトクロミックを含有したインキを形成することにより、異なった分光スペクトル特性を持つ2種類以上の光源下で見たとき異なった色を呈するインキとなることより、本発明のインキにて印刷することで、簡単でかつ安価な真偽判定装置にて真偽判定を行うことができる。
【0027】
特に、ランタノイド系希土類元素のみからなる偽造防止用インキは、色素が薄いため、各々他方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが8%以上にならず、背景部と偽造防止印刷部がほぼ同色に見える問題点を見出し、その場合の色差Δが8%以上であれば、両者のコントラスト差により、文字画像等のパターンの認識ができるものとなる。
【0028】
これにより、一方の波長特性の光源から他方の波長特性の光源に光源を変えて偽造防止印刷部を観察するという画期的な偽造防止印刷物の真偽判定方法を可能にするものである。
【0029】
また、この様な偽造防止印刷物や偽造防止印刷物の真偽判定方法を可能にする具体的な偽造防止インキを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】太陽光の各波長における相対エネルギー比率を示したグラフである。
【図2】真偽判定用ランプ(三波長蛍光灯)の各波長における相対エネルギー比率を示したグラフである。
【図3】本発明の偽造防止印刷物の一実施例を示す平面図である。
【図4】図3の印刷物に図1の波長分布を持つ光を照射した場合の偽造防止印刷物の見え方を示した平面図である。
【図5】図3の印刷物に図2の波長分布を持つ光を照射した場合の偽造防止印刷物の見え方を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0032】
図1、2は太陽光および真偽判定用ランプの各波長における相対エネルギー比率を示したグラフである。図3は本発明の偽造防止印刷物の一実施例を示す平面図である。図4、5は図3の偽造防止印刷物にそれぞれ図1、2の波長分布を持つ光を照射した場合の偽造防止印刷物の見え方を示した平面図である。図1の波長を持つ光照射下から図2の波長分布を持つ光照射下へ移動した場合の偽造防止印刷物は図3のようになる。
【0033】
図3は、本発明の偽造防止印刷物1の一実施例を示す平面図であるが、偽造防止印刷物は偽造防止印刷部17、19、第一背景部13、第二背景部15から成り立っている。
【0034】
基材(図示せず)としては、紙、プラスチック、木材、ガラス、樹脂などが用いられ、偽造防止印刷物1の用途に応じてこれから任意に選択される。
【0035】
偽造防止印刷部17、19はフォトクロミックとランタノイド系希土類化合物を含有するインキである。
【0036】
上記偽造防止インキは、色素が薄いため、色をはっきりと見せるためには、インキ中の顔料比を高くする必要がある。そのため、スクリーン印刷法が最も適するが、その結着剤、分散剤および助剤の種類によりグラビア印刷用インキとしても用いることができる。
【0037】
本発明では、太陽光下で偽造防止印刷物2が、第一背景部23と偽造防止印刷部27の色差ΔEが8%以上、好ましくは10%以上、太陽光下で第二背景部25と偽造防止印刷部29の色差ΔEが5%以下、好ましくは3%以下である。
【0038】
また、三波長蛍光灯下では、偽造防止印刷物3が、第一背景部33と偽造防止印刷部37の色差ΔEが5%以下、好ましくは3%以下、三波長蛍光灯下で第二背景部35と偽造防止印刷部39の色差ΔEが8%以上好ましくは10%以上とする。
【0039】
色差ΔEが5%以下であると背景と印刷部がほぼ同色に見え、色差ΔEが5%以上であると両者のコントラスト差により、文字画像の認識ができるものとなる。
【0040】
これは、偽造防止印刷部17、19、27、29、37、39は、異なる種類の波長の光源の下では、目視上色相が異なる。
【0041】
また、第一背景部13、23、33に用いられるインキは、3波長発光蛍光灯、詳しくは波長450nm(青)、540nm(緑)、610nm(赤)の3波長域を発光する光下で偽造防止印刷部17、19、27、29、37、39を見た時と同色にプロセスカラーインキで調肉したものである。
【0042】
同様に第二背景部15、25、35に用いられるインキは、太陽光下で偽造防止印刷部17、19、27、29、37、39を見た時と同色に調肉したものである。
【0043】
測色は例えばミノルタ製分光測色計CM−2002で行うことができる。太陽光下の測色は標準光D65を照射した数値で定量化できる。標準光D65は物体色の測定用光源であり、紫外域を含む昼光である。また、測色機は式2で三刺激値を求めることから、蛍光灯下の測色は式3を用いた演算により数値化できる。ただし、フォトクロミックはUV照射をやめた時点から1〜2分で構造が戻ってしまう為、測色をすばやく行う必要がある。
【0044】
光源の分光分布×試料の分光反射率×人間の目に対応する分光感度=三刺激値(式2)
標準光照射による三刺激値÷標準光分光分布×三波長光の分光分布=三刺激値(式3)
人間には色差が8%以上好ましくは10%以上であるとき異なる色として識別され、5%以下好ましくは3%以下ならば同色として識別する。図4に示すように、太陽光下で見る偽造防止印刷物は、偽造防止印刷部29と第二背景部25が同色に見えるため偽造防止印刷部の模様、すなわち、「2」がわからないが、他方、偽造防止印刷部27と第一背景部23が全く異なる色に見えるため偽造防止印刷部の模様、すなわち、「3」が容易に認識できる。
【0045】
同様に図5に示すように、3波長発光形蛍光灯、詳しくは波長450nm(青)、540nm(緑)、610nm(赤)の3波長域を発光する光下で見る偽造防止印刷物は、偽造防止印刷部39と第一背景部35が違った色に見えるため偽造防止印刷部の模様、すなわち、「2」が容易に認識できるが、他方、偽造防止印刷部37と第一背景部33が同じ色に見えるため偽造防止印刷部の模様、すなわち、「3」がわからない。
【0046】
従って、太陽光下で見る偽造防止印刷物は「2」と認識され、3波長発光形蛍光灯で見る偽造防止印刷物は「3」と認識され、真の偽造防止印刷部17、19、27、29、37、39の模様、すなわち、「23」は認識ができない。
【0047】
しかし、太陽光下から3波長発光蛍光灯下へと移動したときでは、フォトクロミック成分の作用により、色変化が光の変化に追従せず、瞬間的には、偽造防止印刷部17、19
、27、29、37、39の色が第一背景部15、25、35とも、第二背景部17、27、37ともその色がそれぞれ異なるため、第一背景部15内の偽造防止印刷部17、第二背景部17内の偽造防止印刷部19の両者を同時に認識して「23」と見ることができ、各光下で見える模様と異なることで真偽判定が可能となる。
【0048】
このように偽造防止印刷部が同時に見える瞬間が限られており、偽造防止性能が極めて高い偽造防止インキおよび偽造防止印刷物とこの偽造防止印刷物の真偽判定方法を提供することが可能となる。
【0049】
ランタノイド系希土類化合物は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択されるランタノイド系希土類元素の単体またはこれら元素の化合物を含む材料から構成される。ここで上記化合物は、酸化物、炭化物、塩化物、フッ化物、硫化物および窒化物から選択された化合物である。より具体的にはLa、LaCl、La(CO、LaF、CeO、Ce(SO、Ce(CO、Pr11、PrCl、Nd、NdCl、Nd(CO、NdF、Pm、Sm、SmCl、Eu、EuCl、Gd、GdF、Tb、Dy、Dy(CO、Dy(NO、Er、Er(CO、Tm、Yb、Lu等があげられる。偽造防止印刷部121を形成するにあたっては、上記材料と、結着剤、分散剤および助剤とを混合した偽造防止用インキを基材11の表面に印刷すればよい。
【0050】
上記偽造防止用インキは、その結着剤、分散剤および助剤の種類によりオフセット印刷用、グラビア印刷用、スクリーン印刷用等の各印刷方法用のインキにすることができる。また、その印刷方法は、通常のオフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等が可能でとくに限定されない。
【0051】
ランタノイド系希土類元素または化合物は、異なる種類の波長の光源の下では、目視上色相が異なる。例えばHoを例にとると、太陽光下では人間の目には淡い黄色に見え、3波長発光形蛍光灯、詳しくは波長450nm(青)・540nm(緑)・610nm(赤)の3波長域を発光する光を照射すると人間の目には赤色に見える。
【0052】
ランタノイド系希土類元素は、4f軌道に電子を持っており、可視領域の狭帯域の波長の光を多く吸収し、その帯域から外れた波長の光をあまり吸収しない。これらの特徴は、ランタノイド系希土類の化合物であっても同様である。Hoの分光波形は波長450nm、550nm、650nm付近にシャープな吸収帯域を持っている。すなわち、Hoは上記の波長域の光を多く吸収する一方、それ以外の波長の光をあまり吸収しない。従って、図1に示すような太陽光のスペクトル波長を照射した場合のHoの反射光のスペクトルは分光波形とほぼ同様となり淡い黄色に見えるが、図2に示すような450nm、540nm、610nmの3波長発光形の蛍光灯をHoに照射した場合は青の波長である450nmの発光と緑の波長である540nmの光をHoが吸収するため、赤の波長である610nmの発光のみが反射され赤く見える。同様にカラー複写機にてHoのインキを印刷したものをコピーすると、カラー複写機のもつ各R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)のフィルターの特性より緑色にコピーされる。
【0053】
ランタノイド系希土類の化合物は上記のような性質を持っていることより、上記と同様に2種類以上のスペクトル波長の光源を照射することで異なった色となる。
【実施例】
【0054】
本発明を、具体的な実施例をあげて詳細に説明する。
【0055】
上質紙上に、第一背景部として水色プロセスインキ層を、第二背景部として淡いピンク色プロセスインキ層を形成した。
【0056】
つぎに第一背景部、第二背景部上に、太陽光下でブルー発色し、太陽光を遮断すると無色に戻るフォトクロミックインキ(PTM−125 SNO 帝国インキ)と3波長発光形蛍光灯下でピンク色に発色し、太陽光下で白色となるランタノイド系希土類化合物含有インキ(下記組成)を混合することからなる偽造防止インキを用いて文字を印刷して印刷部とし、偽造防止印刷物を得た。
「ランタノイド系希土類化合物含有インキの組成」
オリゴマー(フォトマー5018:サンノプコ製) 60部
モノマー(カヤラッドTMPTA:日本化薬製) 14部
重合開始剤(カヤキュアーMBP:日本化薬製) 1部
重合開始剤(ニッソキュアーTX:日本曹達製) 8部
重合開始剤(サンドリー1000:サンド製) 1部
白色ワセリン 4部
Ho 30部
得られた偽造防止印刷物を太陽光下で見ると、第一背景部(水色)においては一面水色に見え、第二背景部(淡いピンク色)においては、淡いピンクを背景として水色の文字が認識された。なお、この時の背景部と印刷部の色差をミノルタ製分光測色計CM−2002で測色したところ、第一背景部と印刷部の色差Δ=2.5%、第二背景部と印刷部の色差Δ=12%、であった。
【0057】
また、得られた偽造防止印刷物を3波長発光形蛍光灯下(波長450nm(青)、540nm(緑)、610nm(赤)の3波長蛍光灯)で見ると、第二背景部(淡いピンク色)においては一面淡いピンク色に見え、第一背景部(水色)においては、水色を背景として淡いピンクの文字が認識された。なお、この時の背景部と印刷部の色差をミノルタ製分光測色計CM−2002で測色したところ、第二背景部と印刷部の色差Δ=2.5%、第一背景部と印刷部の色差Δ=12%、であった。
【0058】
なお、また太陽光から3波長発光蛍光灯へ移動した直後には淡い紫色に見えた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の二種の光源下移動時のみに見ることが可能な印刷物は、有価証券や入場券などのセキュリティを要する印刷物に利用できる。例えば、アミューズメントなどの分野で、真贋判定を目的としない子供が関わる分野において好適に利用が期待されるものである。
【符号の説明】
【0060】
1…偽造防止印刷物
2…太陽光下の偽造防止印刷物
3…真偽判定用蛍光灯下の偽造防止印刷物
17、19、27、29、37、39…偽造防止印刷部
15、25、35…第二背景部
13、23、33…第二背景部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に背景部と偽造防止印刷部が設けられている偽造防止印刷物であって、前記偽造防止印刷部が、異なる2つの波長特性の光源からの光を照射した場合の色が異なる偽造防止印刷部である偽造防止印刷物において、前記背景部が、各々異なる一方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが5%以下であり、かつ、各々他方の波長特性の光源からの光を照射した場合の偽造防止印刷部と色差Δが8%以上である2種の背景部が用いられていることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記波長特性が、太陽光もしくは太陽光と同様の波長特性と、青(波長450nm)・緑(波長540nm)・赤(波長610nm)の3波長域に発光特性のある波長特性であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
偽造防止印刷物が、フォトクロミックとランタノイド系希土類化合物を含有するインキからなることを特徴とする請求項1または2記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記化合物は酸化物、炭化物、塩化物、フッ化物、硫化物および窒化物から選択された化合物であることを特徴とする請求項3記載の偽造防止印刷物。
【請求項5】
請求項4記載の化合物がHoであることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項6】
偽造防止印刷部のパターンが意味を有し、異なる2つの波長特性の光源からの光を照射した場合の一方の光源で光を照射した場合の表示されるパターンが意味をなさないか、前記偽造防止印刷部のパターンの意味とは異なる意味を有することを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項7】
フォトクロミックとランタノイド系希土類化合物を含有するインキからなることを特徴とする偽造防止インキ。
【請求項8】
前記化合物は酸化物、炭化物、塩化物、フッ化物、硫化物および窒化物から選択された化合物であることを特徴とする請求項7記載の偽造防止インキ。
【請求項9】
請求項8記載の化合物がHoであることを特徴とする偽造防止インキ。
【請求項10】
請求項1から6何れか記載の偽造防止印刷物に一方の波長特性の光源から他方の波長特性の光源に光源を変えて偽造防止印刷部を観察することを特徴とする偽造防止印刷物の真偽判定方法。
【請求項11】
前記波長特性が、太陽光もしくは太陽光と同様の波長特性と、青(波長450nm)・緑(波長540nm)・赤(波長610nm)の3波長域に発光特性のある波長特性であることを特徴とする請求項10記載の偽造防止印刷物の真偽判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−779(P2012−779A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134851(P2010−134851)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】