説明

偽造防止印刷物

【課題】 従来にない偽造防止技術を有し、また製造上で支障が無い偽造防止印刷物を提供することを目的とする。
【解決手段】 光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A(3)と、応力により発光する材料を含有する印刷部B(4)を設けた偽造防止印刷物1である。これにより、上記印刷物は、光の刺激を受けて、例えば、紫外線照射により、1種類の印刷部A(3)を認識し、さらに該印刷物を折り曲げたりして、外力を加えることにより、もう1種類の印刷部B(4)を目視にて容易に読み取ることができ、従来にはない偽造防止性の高いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止印刷物に関し、更に詳しくは、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部と、応力により発光する材料を含有する印刷部を有する偽造防止印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有価証券は財産権を表象する証券であり、それによって表象される権利の移転または行使が、該証券の授受によってなされる手形、小切手、株券、社債券、各種証券と定義されている。有価証券は、商法などに規定される上記の他に、商品券、図書券、交通機関の乗車券、有料施設やイベントの入場券、宝くじ、公営競技の投票券の当たり券などがこれに含まれる。
【0003】
近年はプリンタやスキャナといった電子機器の普及に伴い、有価証券の無許可複製が横行しているが、これはたとえ公の場で使用しない場合であっても、違法行為と見なされ、悪質な場合は刑事処罰の対象となる。上記の無許可複製による偽造の被害が、社会問題化しており、偽造技術は巧妙を極める一方であることから、高度な偽造防止の技術の開発が急務となっている。
【0004】
例えば、特許文献1にあるように、高度な偽造防止技術として、ホログラムを使用した印刷物があるが、製造コストが高く、実用上の支障が生じている。また、特許文献2にあるように、可視光では目視不可能で、可視光以外の一定波長の光で蛍光を発する蛍光インキの印刷がされたものが提案されている。しかし、この蛍光インキの印刷の場合は、偽造技術が進み、また技術の陳腐化により広く周知されたものであり、偽造防止効果が薄いことが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−278396号公報
【特許文献2】特開平6−297888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、従来にない偽造防止技術を有し、また製造上で支障が無い偽造防止印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部と、応力により発光する材料を含有する印刷部を設けたことを特徴とする偽造防止印刷物を構成とする。これにより、上記印刷物は、光の刺激を受けて、例えば、紫外線照射により、1種類の印刷部を認識し、さらに該印刷物を折り曲げたりして、外力を加えることにより、もう1種類の印刷部を目視にて容易に読み取ることができ、従来にはない偽造防止性の高いものである。つまり、偽造防止印刷物に圧力等の応力を加えない状態では、光の刺激を受けて蛍光発光する印刷部のみが、目視にて確認でき、応力により発光する材料の印刷部の情報は読み取ることができないので、偽造防止性が非常に高いものである。
【0008】
また、本発明は、前記の光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部と、応力により発光する材料を含有する印刷部とが、区分けされていることを特徴とする偽造防止印刷物の構成とする。これにより、光の刺激を受けて蛍光発光する印刷部と、応力により発光する印刷部とが、別個になっており、重なった部分がなく、それらの印刷部が同時に発光する可能性が低く、それらの印刷部のそれぞれの発光が独立して生じ、より偽造防止の効果が高まり、好ましいものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の偽造防止印刷物は、上記構成をとることにより、従来には無い、優れた偽造防止性を有し、また製造上のコストが高くなることがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の偽造防止印刷物である一つの実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の偽造防止印刷物である他の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の偽造防止印刷物である他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について、詳述する。
図1に、本発明の偽造防止印刷物1である一つの実施形態を示す。基材2の一方の面に、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A(3)と、応力により発光する材料を含有する印刷部B(4)とを設けた構成である。図1では、印刷部A(3)と印刷部B(4)とが重なることなく、存在し、それらの印刷部は区分けされている。また、図2は、本発明の偽造防止印刷物1である他の実施形態を示す断面図であり、基材2の一方の面に、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A(3)と、応力により発光する材料を含有する印刷部B(4)とが、それらの印刷部の一部分が重なった構成である。
【0012】
また、図3は、本発明の偽造防止印刷物1である他の実施形態を示す断面図であり、基材2の一方の面に、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A(3)を有し、該基材の他方の面に、応力により発光する材料を含有する印刷部B(4)を有した構成である。図3の場合も、図1の場合と同様に、印刷部A(3)と印刷部B(4)とが直接に重なることなく、存在し、それらの印刷部は区分けされている。図2の場合の偽造防止印刷物1は、印刷部A(3)と印刷部B(4)との一部が重なっているが、例えば、光の刺激を受けて蛍光発光する印刷部A(3)において、印刷部B(4)と重なった部分5の印刷部A(3)は、重なっていない部分の印刷部A(3)と比べて発光する状態が、変化して、印刷部B(4)の存在を推定されるかもしれない。したがって、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部と、応力により発光する印刷部とが、別個になって、重なることがないので、より偽造防止の効果が高まる。
【0013】
図1〜3には、示さなかったが、基材と印刷部A(3)、印刷部B(4)との間に、地紋や、各種情報を有する印刷を設けることが可能である。また、印刷部A(3)と印刷部B(4)を覆うように、保護層を設けることにより、印刷部A(3)と印刷部B(4)の耐久性を高めることができる。
【0014】
以下に、本発明の偽造防止印刷物を構成する要素について、詳しく説明する。
【0015】
(基材)
偽造防止印刷物の基材2として、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、セルロース繊維紙等の紙類、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリレート等の各種合成樹脂のプラスチックシート、また、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルム、あるいは基材内部に微細空隙(ミクロボイド)を有するフィルム(いわゆる合成紙)を使用することができる。基材の厚みは、通常3〜300μm程度であり、本発明においては、取扱い適性等を考慮し、20〜175μm程度のものを用いるのが好ましい。
【0016】
(光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部)
光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部3は、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を、バインダー(接合剤)と、必要に応じて、添加剤、溶媒などを加えて、インキを調整し、そのインキを印刷して形成することができる。
【0017】
光の刺激を受けて蛍光を発光する材料としては、受光時に発光する狭義の蛍光と、光を蓄えて刺激停止後に発光する燐光とがあり、本発明ではいずれのものでも使用できる。有機蛍光材料は狭義の蛍光、無機蛍光材料は蓄光に属するものが多い。ルモゲンLイエロー、ルモゲンブリリアントイエロー、ルモゲンブリリアントグリーンは、ブラックライトの紫外線を受けて、黄色ないし緑色の蛍光を発光する有機蛍光材料として知られている。また無機蛍光材料としては、ZnS:Cu(緑)、(Zn,Cd)S:Cu(黄)、CaS:Bi(青)、(Zn,Cd)S:Cu(橙)、(Zn,Cd)S:Cu(赤)等を使用することができる。
【0018】
また、光の刺激を受けて蛍光発光する材料は、紫外線照射により蛍光発光する材料に限らず、赤外線照射により発光する材料などを用いることも可能である。このような光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部は、目視または機械により、読み取ることができる。
【0019】
光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部を形成するためのインキは、印刷方式に応じたインキ特性を持つように、また、必要な発光強度が得られるように、バインダー(接合剤)、光の刺激を受けて蛍光発光する材料、添加剤、溶媒などの配合割合が決定される。光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部を形成するための印刷は、一般に公知の凹版、凸版、オフセット、スクリーン、グラビア、フレキソによる印刷若しくはインキジェット印刷、スプレー印刷又はコーティング等の方式が採用できる。
【0020】
(応力により発光する材料を含有する印刷部)
応力により発光する材料、すなわち応力発光材料は、外部から加えられた歪みエネルギーによって、材料自体が発光するという性質を有し、かつその歪みエネルギーに比例して発光強度を変化させるという性質を有する。応力発光材料は、例えば、高度に構造を制御した無機結晶骨格の中に、発光中心となる元素を添加した材料(セラミックス)であり、粉末微粒子の状態で得られる。無機材料や発光中心の種類を選択することにより、紫外〜可視〜赤外の様々な波長で発光する材料が得られている。このような応力発光材料を含有する印刷部は、目視または機械により、読み取ることができる。
【0021】
応力発光材料は、与えられたエネルギーによる発光の減衰時間により応力発光蛍光材料と応力発光りん光材料に分けることができる。蛍光発光性を持つ材料として、例えば発光中心としてユウロピウムを添加したアルミン酸ストロンチウム(SrAl24:Eu、緑色に発光)、マンガンを発光中心として添加した硫化亜鉛(ZnS:Mn、黄緑色に発光)などが挙げられる。これらの応力発光材料は、粒子として印刷インキ中に存在させて、該インキを印刷し、応力発光材料を含有する印刷部を形成する。特に、10〜200nm程度の粒子径である、いわゆるナノ粒子の形状で、応力発光材料を透明性の高い高分子樹脂中に分散させた材料を用いて、印刷インキを調整することが、発光性の向上と、安定化ができるので、好ましく行なわれる。上記のナノ粒子の応力発光材料を分散させる高分子樹脂としては、例えば、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0022】
応力発光材料を含有する印刷部を形成するためのインキは、印刷方式に応じたインキ特性を持つように、また、必要な発光強度が得られるように、バインダー(接合剤)、応力発光材料、添加剤、溶媒などの配合割合が決定される。応力発光材料を含有する印刷部を形成するための印刷は、一般に公知の凹版、凸版、オフセット、スクリーン、グラビア、フレキソによる印刷若しくはインキジェット印刷、スプレー印刷又はコーティング等の方式が採用できる。
【実施例】
【0023】
(実施例1)
基材として、上質紙の大昭和製紙(株)製DSK135kg/46を用いた。また、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有するインキとして、無機蛍光顔料GOF(根本特殊化学製、ZnO:Zn、平均粒径1.4μm)40質量部を、この顔料の蛍光励起光である波長365nm付近において際立った吸収の無いオフセットインキビヒクル60質量部に練り込み、発光波長510nmに発光ピークを有する透明蛍光インキを調整した。
【0024】
また、応力発光材料を含有するインキとして、ユウロピウムを発光中心として添加したアルミン酸ストロンチウム(SrAl24:Eu、緑色に発光)のナノ粒子(平均粒径20nm)をポリメチルメタアクリレート(PMMA)の高分子樹脂に分散させた材料と、その他ビヒクル、添加剤などを加えて、グラビアインキを調整した。
【0025】
上記の基材の一方の面へ、図1に示すような配置で、上記の透明蛍光インキを用いて、オフセット印刷により、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A(3)を形成し、さらに上記のグラビアインキを用いて、グラビア印刷で、応力により発光する材料を含有する印刷部B(4)を形成して、実施例1の偽造防止印刷物を作製した。
【0026】
(実施例2)
上記の実施例1で使用した同様の基材の一方の面に、図3に示すような配置で、実施例1で使用した透明蛍光インキを用いて、オフセット印刷により、光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A(3)を形成し、さらに実施例1で使用したグラビアインキを用いて、グラビア印刷で、応力により発光する材料を含有する印刷部B(4)を形成して、実施例2の偽造防止印刷物を作製した。
【0027】
上記の得られた実施例1、2の偽造防止印刷物は、紫外線照射により、1種類の印刷部A(3)を認識でき、さらに該印刷物を折り曲げたりして、外力を加えることにより、もう1種類の印刷部B(4)を目視にて容易に読み取ることができ、従来にはない偽造防止性の高いものであった。つまり、偽造防止印刷物に圧力等の応力を加えない状態では、紫外線照射により、蛍光発光する印刷部A(3)のみが、目視にて確認でき、応力により発光する材料の印刷部の情報は読み取ることができないので、偽造防止性が非常に高いものであった。
【符号の説明】
【0028】
1 偽造防止印刷物
2 基材
3 光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部A
4 応力により発光する材料を含有する印刷部B
5 印刷部Aと印刷部Bとが重なった部分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部と、応力により発光する材料を含有する印刷部を設けたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記の光の刺激を受けて蛍光発光する材料を含有する印刷部と、応力により発光する材料を含有する印刷部とが、区分けされていることを特徴とする請求項1に記載する偽造防止印刷物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131095(P2012−131095A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284546(P2010−284546)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】