偽造防止印刷物
【課題】 メタメリズムを有するインキによって印刷された潜像画像を含む偽造防止印刷物であって、観察条件が異なっても潜像模様が可視化されない印刷物を提供する。
【解決手段】 可視光下で1つの画像として視認される領域を3種類のインキによって形成し、前述の3種類のインキにおける第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキから選択される少なくとも2種類のインキによって印刷された領域を、所定のフィルタの介在下で視認した場合に第1の潜像模様が可視化され、印刷物を複写機により複写した複写物を前述のフィルタの介在下で視認した場合に、第1の潜像画像とは異なる第2の潜像画像が可視化される偽造防止印刷物。
【解決手段】 可視光下で1つの画像として視認される領域を3種類のインキによって形成し、前述の3種類のインキにおける第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキから選択される少なくとも2種類のインキによって印刷された領域を、所定のフィルタの介在下で視認した場合に第1の潜像模様が可視化され、印刷物を複写機により複写した複写物を前述のフィルタの介在下で視認した場合に、第1の潜像画像とは異なる第2の潜像画像が可視化される偽造防止印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、旅券、有価証券、商品券及び各種証明書等の偽造防止又は複製防止が必要とされる印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券、旅券、商品券及び各種証明書等の貴重印刷物は、偽造防止技術を付与することが求められ、それらについて、様々な技術が開示されている。例えば、基材となる紙の製造工程で偽造防止技術を付与する、すかし模様又はスレッドを付与した用紙等の技術や、印刷工程で偽造防止技術を付与する微小文字又はパール印刷等の技術や、更には印刷工程後の別工程で偽造防止技術を付与するホログラム又はレーザ穿孔等が代表的である。
【0003】
これらの技術のうち、比較的コストが安価で偽造防止抵抗力の高い偽造防止技術の一つとして、メタメリックペア印刷物が挙げられる。メタメリックペア印刷物は、可視光領域の広い範囲において異なる分光反射率を有するものであっても、標準光源下では等色として視認されるものであり、さらに、所定のフィルタを介在させて観察することで、全く違った色として視認されるものである。これらの現象を「メタメリズム」といい、この現象を用いて、標準光源下で等色として視認され、かつ、フィルタの介在下で色相を異ならせるペアインキを用いて模様を形成する印刷物を「メタメリックペア印刷物」という。
【0004】
具体的に、図19により公知のメタメリックペア印刷物の構成について説明する。図19の印刷物1’は、基材に印刷画像2’を形成し印刷画像2’は、第1のインキで印刷する領域3’と第2のインキで印刷する領域4’で構成する。印刷物1’は、標準光源下において視認した場合、領域3’と領域4’が等色として視認される。
【0005】
一方、印刷画像2’は、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、領域3’と領域4’との色が異なって視認されるため、領域4’を潜像画像として視認することができる。したがって、印刷画像2’を所定のフィルタを介在させて視認した場合に、領域3’と領域4’の色に差異が生じたものを本物と判断し、色の差異が生じないものを偽物と判断することができる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、同様にメタメリズムの原理及び構成を用いて、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、領域3’及び領域4’におけるいずれか一方が現出し、他方が消失する判別方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、前述の先行技術と同様に、メタメリズムの原理及び構成を用いて、カラーコピー機でメタメリックペア印刷物した場合、領域3’と領域4’との色の差異が発生する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
したがって、公知のメタメリックペア印刷物の必須要件は2つあり、1点目は、標準光源下で印刷画像2’を視認した場合、領域3’と領域4’とが等色として視認され、所定のフィルタを介在させて印刷画像2’を視認した場合、領域3’と領域4’とが異なる色相として視認されることである。なお、本発明では、標準光源下で領域3’と領域4’を等色として視認することができることを「等色性を有する」という。よって、等色性が低いと、標準光源下でも領域3’と領域4’が異なる色相として視認されることから、潜像画像が視認されてしまう。
【0009】
2点目は、比較的に視感度の低い波長に反射率の差を設けることである。例えば、2つのインキの分光反射率を、人間が色を感知し難い波長である620〜780nmに分光反射率の差異を設け、それ以外の可視光領域の分光反射率を一致させることで、標準光源下では等色として視認されるようにすることである。しかしながら、比較的に視感度の低い波長域を用いても、第1のインキと第2のインキの分光反射率は異なるため、領域3’と領域4’を完全に等色性を有する状態にすることは困難であり、印刷画像2’における領域4’の潜像画像が標準光源下でも視認されてしまう課題がある。
【0010】
前述の課題には、3つの理由があり、1点目は、印刷物1’を観察する環境が標準光源下以外の環境に変化することである。印刷物1’の印刷画像2’を作製する上では、標準光源下で等色性を有するように調色して印刷物を作製するが、実際の印刷物1’は、様々な光源下によって観察されるため、すべての光源下で等色性を有するような印刷物を作製することは困難であるという課題がある。
【0011】
2点目は、印刷物1’のインキ皮膜の厚さが異なることによって、分光反射率が異なることである。通常、等色のインキを作製する場合には、2つのインキが同一の膜厚で印刷されたことを想定して調色されるため、仮に、第1のインキと第2のインキをそれぞれ理想の分光反射率で作製しても、印刷物1’における領域3’と領域4’を理想の分光反射率で再現することは難しい。これらの原因は、印刷機で用紙に転移するインキは、用紙へのインキの浸透性、インキの流動特性及び印刷機の熱膨張等の印刷適性により、用紙に転移するインキの量が異なるからである。そのため、印刷物1’における領域3’と領域4’のインキ膜厚を一定に保つことは困難となり、その結果、それぞれの分光反射率も異なることから、等色性を有する印刷物を作製することは難しいという課題がある。
【0012】
3点目は、人間の視覚に個人差があることである。メタメリックペアインキは、比較的に視感度の低い波長における反射率の差を設けつつ、標準光源下において2つのインキが等色として視認されるように調色するものであり、視感度の高い可視光領域の反射率を合わせることで等色性を有するように調色することで、比較的に視感度の低い波長における反射率の差をカモフラージュするものである。しかしながら、観察者の視覚の違いによって、色の感じ方に差があるため、比較的に視感度の低い波長における反射率の差をカモフラージュできない場合がある。例えば、複数の観察者によって同一のメタメリックペア印刷物が等色性を有するか否かを評価した場合、観察者によって等色性を有するか否かの評価結果に大きなバラツキが生じるという課題がある。
【0013】
さらに、メタメリックペア印刷物は、メタメリズムを有する領域以外を一般的なカラー印刷で用いるプロセス4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)インキによって印刷する必要があるため、メタメリックペアインキの2色に加えて他の領域を印刷するプロセス4色インキを用いることが必要であることから、合計6色のインキを用いる必要があり、色数が多くなるという課題がある。
【0014】
これらの課題により、メタメリックペア印刷物は、パール印刷、蛍光印刷やホログラム等と比較して、商業印刷として普及しないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公昭60−058711号公報
【特許文献2】特公昭61−037636号公報
【特許文献3】特公昭63−040677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、公知のメタメリックペア印刷物の各課題を解消するため、等色性を有するペアインキのみを用いる方法ではなく、メタメリックペアインキと、ペアインキとは異なる色相を有するインキを合わせた3種類のインキを用いるか、又は3種類の異なる色相のインキを用いる構成によって、新たな効果を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の偽造防止印刷物は、基材の少なくとも1部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは色相が異なり、第1の領域は、波長640nm以上の分光反射率が45%未満であり、第2の領域及び第3の領域は、波長640nm以上の分光反射率が60%以上であり、かつ、第2の領域又は第3の領域のいずれか一方の領域は、波長640nmの反射率が60%以上の紫色顔料を含むインキで形成され、印刷物を所定のフィルタの介在下で視認したときに、第2の領域と第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【0018】
また、本発明の偽造防止印刷物は、カラー複写機等により印刷物を複写した複写物を所定のフィルタの介在下で視認したときに、第2の領域又は第3の領域の一方の領域により、第2の潜像画像が可視化されることを特徴としている。
【0019】
また、前述の複写物は、第2の領域又は第3の領域におけるいずれか一方の領域の分光反射率が、波長640nm以上で45%未満であることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の偽造防止印刷物に用いる所定のフィルタは、波長640nmの未満の光をカットするフィルタであることを特徴としている。
【0021】
また、本発明の偽造防止印刷物における紫色顔料を含む第2の領域又は第3の領域は、赤色、茶色又は褐色であることを特徴としている。
【0022】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第1の領域の色相と、第2の領域又は第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、第1の領域と第2の領域又は第3の領域の色差ΔEが50以下であることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の偽造防止印刷物は、基材の少なくとも1部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは色が異なり、第1の領域は波長640nm以上の反射率が60%以上で、かつ、第1の領域は、波長640nmの反射率が60%以上の紫色顔料を含むインキで形成され、第2の領域及び第3の領域は、波長640nm以上の反射率が45%未満であり、印刷物を所定のフィルタで視認したときに、第2の領域及び第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されている。また、紫色顔料を含む第1の領域は、赤色、茶色又は褐色で形成され、第1の領域の色相と、第2の領域又は第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、第1の領域と、第2の領域又は第3の領域におけるいずれかの色差ΔEが50以下であることを特徴としている。
【0024】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第1の領域、第2の領域及び第3の領域の境界及び/又は領域内に白線を設けることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の偽造防止印刷物は、白線により、彩紋、数字、記号、マーク及び図柄から選択されるいずれかを形成することを特徴としている。
【0026】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第1の領域、第2の領域又は第3の領域から選択されるいずれか1つ又は2つ以上の領域に、白抜き領域を形成することを特徴としている。
【0027】
また、本発明の偽造防止印刷物は、銀行券、パスポート及び証明書等の貴重印刷物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の偽造防止印刷物は、3種類のインキによって印刷画像を構成することで、標準光源下では潜像画像を視認することができないが、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、印刷画像と異なる第1の潜像画像を視認することができる。したがって、メタメリックペアインキのように等色性を有することを必要とせず、どのような観察環境でも潜像画像をカモフラージュすることができる。また、印刷物を作製する上でも印刷条件の変動の影響を受けず、通常印刷の刷色管理で所望の潜像画像が得られる。
【0029】
また、本発明の偽造防止印刷物をカラーコピー機で複写した複写物は、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、第1の潜像画像と異なる第2の潜像画像を視認することができる。したがって、通常光下で視認することができる印刷画像と、印刷画像を所定のフィルタを介在させて視認した場合の第1の潜像画像と、印刷画像を複写した複写物を所定のフィルタを介在させて視認した場合の第2の潜像画像の3種類の異なる画像を視認することができるため、真偽判別を容易に行うことができる。
【0030】
さらに、本発明の印刷物は、異なる3種類のインキを用いるが、異なる3色のインキのうちの2色をプロセス4色の2色とすることができるため、従来のメタメリックペア印刷物である、プロセス4色+メタメリックペアインキ2色の6色と比較して、1色低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の印刷物の一例を示す概要図。
【図2】本発明の印刷物の分光反射率を示す図。
【図3】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図4】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図5】本発明の印刷物の複写物の分光反射率を示す図。
【図6】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図7】本発明の印刷物の分光反射率を示す図。
【図8】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図9】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図10】本発明の印刷物の複写物の分光反射率を示す図。
【図11】本発明の印刷物の分光反射率を示す図。
【図12】本発明の印刷物の複写物の分光反射率を示す図。
【図13】本発明の印刷物の一例を示す概要図。
【図14】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図15】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図16】本発明の印刷物の一例を示す概要図。
【図17】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図18】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図19】従来の印刷物の一例を示す概要図。
【図20】従来の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0033】
(第1の構成)
まず、本発明の印刷物における第1の構成として、印刷物1の印刷画像2について図1を用いて説明する。基材に、印刷画像2となる領域3、領域4及び領域5を構成し、領域3を第1のインキで、領域4を第2のインキで、領域5を第3のインキで印刷する。また、領域3は、領域4と領域5を囲むように配置し、領域4と領域5とで第1の潜像画像を形成する。
【0034】
なお、本発明の「印刷画像」とは、標準光源下において視認することができる可視画像であり、「第1の潜像画像」とは、印刷画像2を所定のフィルタを介在させて視認することで可視化される画像であり、「第2の潜像画像」とは、本発明の印刷画像2を複写機で複写した複写物を、所定のフィルタを介在させて視認することで可視化される画像である。
【0035】
(インキと分光反射率)
次に、印刷画像2における、インキと分光反射率(以下「反射率」という。)を説明する。なお、本発明の反射率については、IGT テスティングシステムズ ジャパン製のIGT展色機を用いて膜厚1μmの展色物を作製し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 分光光度計「U−4100」を使用して、分光反射率の測定を行ったものである。
第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは、異なる色相のインキで構成し、印刷後の領域3、領域4及び領域5の反射率を図2に示す。まず、領域3の要件は、波長640nm以上における反射率が45%未満であることで、好ましくは、40%未満であり、色相は、青系色、緑系色又は褐系色等である。反射率30%以下でも本発明の効果は得られるが、黒色、暗青色又は暗紫色等の濃い色相になり、印刷物1を作製する上で制約が大きいため、好ましくない。
【0036】
次に、印刷後の領域4と領域5の要件は、波長640nm以上における反射率が60%以上とする。好ましくは、65%以上とすることが望ましい。さらに、もう一つの要件として、領域4又は領域5の一方を印刷するインキは、波長640nm付近に吸収特性を有する青系色顔料を含めずにインキに青色成分を含ませるため、波長640nm付近で反射特性を有する紫系色顔料を用いたインキで印刷する。この要件により、カラーコピー機等の偽造防止効果を付与することができる。紫系顔料の一例としては、キナクリドンピンク、キナクリドンバイオレット又はジオキサンジンバイオレット等が挙げられ、これらの顔料を適宜配合してインキを作製すれば良い。
【0037】
また、各々の領域における印刷画像の色相は、任意に設定することができるが、領域4は、赤系色、橙系色又は黄系色、領域5は、赤系色、茶系色又は褐系色等とすることが望ましく、逆の構成でも構わない。
【0038】
(印刷画像の視認状態)
図1に示すように、3種類のインキを用いて領域3、領域4及び領域5を有する印刷物1を作製した場合、標準光源下では、異なる3種類のインキで構成した図柄を視認することができる。このとき、第1の潜像画像は、印刷画像2を異なる3色で構成することでカモフラージュされる。
【0039】
(第1の潜像画像)
次に、印刷物1の印刷画像2を所定のフィルタを介在させて視認した場合、図3に示すような、第1の潜像画像を視認することができる。なお、所定のフィルタとは、図2に示す約640nm未満の光をカットするフィルタが好適である。例えば、株式会社フジフィルム社製 型番SC64等が挙げられる。また、フィルタを介在させた状態における第1の潜像画像の視認性は、印刷画像2を構成するインキに含まれる青顔料(成分)に影響を受ける。具体的には、第1の潜像画像は、インキ中に含まれる青系顔料が光を吸収して黒色又は茶色として視認することができるものであり、インキ中に青系顔料を含まなければ光を反射して赤色として視認される。したがって、黒色又は茶色に視認することができる領域が図柄として現出し、フィルタ色と同一の赤色の領域は消失して視認される。
【0040】
また、第1の潜像画像は、フィルタを透過する光の波長域に対して、光を最も吸収する波長の反射率で視認することができる。具体的には、約640nm未満の光をカットするフィルタで視認される色相は、波長640nmの反射率が0〜35%未満で黒色として可視化され、35〜65%未満で茶色として視認され、65〜100%で赤色(非印刷領域と同等の色相)として視認される。
【0041】
前述の視認原理により、第1の潜像画像は、波長640nm付近で領域3が反射率約35%、領域4及び領域5が反射率約65%であるため、第1の潜像画像は、領域4と領域5が赤色として視認されるのに対し、領域3は、茶色で視認することができるため、領域4と領域5でなる潜像画像を視認することができる。なお、第3のインキは青系顔料を添加せずに紫系顔料を使用して青み成分を補って調色する。また、潜像画像は、数字、文字、記号、マーク及び図柄等を用いれば良い。
【0042】
(第2の潜像画像)
次に、印刷物1をカラーコピー機で複写した複写物を、フィルタの介在下で視認した場合について説明する。なお、最近のカラーコピー機の色再現性の性能は高く、通常の複写モードで色再現性が合わない場合には、色調整モードによって印刷物の色を一致することができる。このため、本発明の印刷画像2を複写しても、カラーコピー機の機能を駆使すれば、略同様の複写物を作製することができる。
【0043】
一方、複写物をフィルタの介在下で視認した第2の潜像画像について、図4を用いて説明する。図3の第1の潜像画像は、領域4と領域5が赤色として視認されたために第1の潜像画像として視認することができたが、図4の第2の潜像画像は、複写機が領域5の色相を再現するために青系の材料を用いて色相を再現したことから、領域3と領域5が茶色として視認され、図3の第1の潜像画像とは異なる第2の潜像画像として視認されたものである。よって、真正な印刷物と複写物では異なる潜像画像が視認されるため、容易に真偽判別を行うことができる。
【0044】
これらの第1の潜像画像と第2の潜像画像について、より詳細に説明する。図5に示す反射率は、印刷画像2の複写物の反射率であり、領域3と領域4の複写前後の反射率は略同様であるが、領域5は複写後の反射率が640nm以上で大きな差異を生じる。これは、印刷画像2における領域5の第3のインキは、青系顔料を使用せず、紫系顔料を用いてインキを作製するため、640nm以上で光を吸収し難い状態である。一方、複写物では、領域5をプロセス4色で再現するため、印刷画像2の紫色は、複写画像では、赤80%+青20%で再現される。この結果、複写物では、領域5に青成分を含み、640nm以上で反射率が吸収を示す。
【0045】
前述の原理により、第2の潜像画像における領域3と領域5は、波長640nm付近で反射率が約35%となり、一方、領域4は、反射率約65%である。したがって、第2の潜像画像は、領域4が赤色、領域3と領域5が茶色として視認されるため、領域4でなる潜像画像を視認することができる。この結果、印刷画像2の可視画像と、第1の潜像画像と第2の潜像画像では、それぞれ異なる画像として視認することができることから、高度な真偽判別が可能である。なお、本実施の形態で第2のインキと第3のインキを入れ替えた場合、第1の潜像画像は、図3のように同一であるが、第2の潜像画像は、図6に示すように、色が入れ替わる。
【0046】
なお、領域5の第3のインキに紫系顔料を使用しないで印刷した場合(例えば、赤色又は黄色等)、印刷物1とその複写物の反射率は変化しないため、第1の潜像画像と第2の潜像画像が同一となることから、真正の印刷物と複写物の潜像画僧を比較しても真偽判別を行うことはできない。
【0047】
また、本発明の印刷物1をカラー印刷物として作製する場合、一般的には、プロセス4色を使用する。本発明の第1のインキは、青系色、緑系色又は褐系色等、第2のインキ又は第3のインキの一方は、赤系色、橙系色又は黄系色等、もう一方のインキは、赤系色、茶系色又は褐系色等を適宜選択することができる。そのため、第1のインキ、第2のインキ又は第3のインキの内の2色を、プロセス4色の2色を使用して作製することができる。したがって、本発明の印刷物1は、プロセス4色+1色の5色で作製することができる。
【0048】
(第2の構成)
次に、本発明の印刷物1における第2の構成を説明するが、第1の構成と同一な方法及び原理の説明は省略する。第2の構成は、印刷画像2に対して、インキと反射率が異なる構成であり、その効果も異なる。
【0049】
(インキと分光反射率)
図1に示す印刷画像2に対し、領域3は第1のインキ、領域4は第2のインキ、領域5は第3のインキで印刷し、印刷物1を作製する。第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは、異なる色相のインキで構成し、領域3、領域4及び領域5の分光反射率を図7に示す。まず、印刷後の領域3の要件は、波長640nm以上で反射率が60%以上とする。好ましくは、65%以上である。さらに、もう一つの要件は、インキに青系顔料を含めず、紫系顔料を用いたインキで印刷する。
【0050】
次に、印刷後の領域4と領域5の要件は、波長640nm以上で反射率が45%未満であることで、好ましくは、30〜40%である。
【0051】
(印刷画像の視認状態)
第2の構成により図1に示す印刷物1を作製し、通常光下で印刷画像2を視認した場合、色の配置は異なるが、第1の構成と同様である。
【0052】
(第1の潜像画像)
印刷画像2を所定のフィルタを介在させて視認すると、図8に示すような第1の潜像画像を視認することができる。具体的には、領域4と領域5は、茶色として視認されるのに対し、領域3は、赤色で視認することができるため、領域4と領域5でなる潜像画像を視認することができる。なお、第1のインキは、青系顔料を含ませず、紫系顔料により青色成分を補ったインキを使用する。
【0053】
(第2の潜像画像)
一方、複写物をフィルタの介在下で視認した場合の第2の潜像画像を図9に示す。このとき、図8に示す第1の潜像画像と、図9に示す第2の潜像画像が異なることから、真偽判別を行うことができる。この理由は、図10に示す複写物の反射率は、領域4及び領域5の複写前後の反射率が略同一であるのに対し、領域3は、波長640nm以上における復写前後の反射率に大きな差異を生じていることが分かる。この結果、第2の潜像画像は、波長640nm付近の反射率が、領域3、領域4及び領域5で約35〜40%と最も光を吸収し、すべての領域が茶色として視認される。したがって、第2の構成では、第1の潜像画像と第2の潜像画像が異なることで真偽判別を行うことができる。
【0054】
よって、第1の構成と第2の構成では、いずれも、第1の潜像画像と第2の潜像画像を異ならせることができることから、必要に応じていずれかを選択すれば良い。第1の構成又は第2の構成の印刷物は、従来のメタメリック印刷物のように等色性を有する必要がなく、異なる3色で構成することで、通常の刷色管理によって簡単に作製することができる。また、どのような観察環境でも、第1の潜像画像を認識することができない。また、カラー印刷で本発明の印刷物を作製すると、刷色数も低減することができ、新たな複写物での真偽判別方法も提案することができる。
【0055】
なお、本発明の印刷物は、銀行券、パスポート及び証明書等の貴重印刷物に好適である。
【実施例1】
【0056】
実施例1は、前述した第1の構成により印刷物を作製した。実施例1は、第1のインキを青色、第2のインキを橙色、第3のインキを赤色とし、図1に示す印刷画像2を作製した。また、第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキで印刷した領域3、領域4及び領域5におけるそれぞれの反射率を図2に示し、印刷画像2の複写物における反射率を図5に示す。図1の印刷画像における可視画像、図3の第1の潜像画像及び図4の第2の潜像画像では、それぞれの画像が異なることから、高度な真偽判別を行うことができた。
なお、実施例1の印刷物1は、基材に白色の上質紙を用い、オフセット印刷機を用いて印刷物を作製した。3種類のインキは、それぞれの反射率となるように、適宜調整したものを用い、フィルタ画像は、図2に示す反射率を有するフィルタを介在させた画像とした。
【実施例2】
【0057】
実施例2は、通常光下での印刷画像2において、第1の潜像画像を、よりカモフラージュすることができる構成について説明する。具体的には、第1のインキ、第2のインキ又は第3のインキのうちの2色を同系色とする。例えば、第1のインキに褐色、第2のインキに橙色、第3のインキに赤色を使用し、図1に示す印刷画像1を作製した。本実施例2では、領域3と領域5を同系色とするが、色差ΔEが50以下、好ましくは色差ΔEが35以下であることが望ましい。また、図11に第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキで印刷した領域3、領域4及び領域5のそれぞれの反射率を示し、図12に印刷画像2の複写物の反射率を示す。このとき、図3及び図4に示すように、第1の潜像画像と第2の潜像画像が異なることから、高度な真偽判別を行うことができた。
【実施例3】
【0058】
次に、前述した第2の構成により作製した実施例3の印刷物1について説明する。実施例3は、第1のインキに赤色、第2のインキに青色、第3のインキに緑色を使用し、図1に示す印刷画像2を作製した。また、図7に第1のインキ、第2のインキ又は第3のインキで印刷した領域3、領域4及び領域5のそれぞれの反射率を示し、図10に印刷画像2の複写物の反射率を示す。このとき、図8及び図9に示すように、第1の潜像画像と第2の潜像画像が異なることから、高度な真偽判別を行うことができた。
【実施例4】
【0059】
実施例4は、通常光下での印刷画像2において、第1の潜像画像を、よりカモフラージュすることができる構成として印刷物を作製した。なお、第1の構成及び第2の構成のどちらの構成でも構わないが、実施例4については、第1の構成を用いた印刷物として説明する。
【0060】
実施例4の印刷物は、図13に示すように、領域3、領域4及び領域5の境界及び/又は領域内に、白線6(白色インキよって印刷するか、又は非印刷領域として形成した白抜き部とする。)を設ける。白線6による彩紋模様を印刷画像2内に設けることで、新たな情報(図柄)が加わり、第1の潜像画像をカモフラージュすることができる。白線の画線幅は、0.1〜1.0mmとすることが好ましく、白線による図柄は、彩紋、数字、記号、マーク及び図柄等が好ましい。また、図14及び図15に示すように、印刷画像2内に白線6を設けても、第1の潜像画像及び第2の潜像画像の視認性を阻害することなく、高度な真偽判別を行うことができた。
【実施例5】
【0061】
実施例5は、実施例4の構成に加えて、図16に示すように、領域3、領域4及び/又は領域5の領域内に白抜き領域を設けた。例えば、領域3の一部と領域4の全部の領域をベタ状でなく、白抜き領域を有するように設定した。白抜き領域は、線状、点状、網状又は格子状等、形態に制約はない。印刷画像1に白抜き領域を設けることで、印刷画像1に濃度差を設け、第1の潜像画像をよりカモフラージュすることができる。また、図17に第1の潜像画像、図18に第2の潜像画像を示すが、特に潜像画像の視認性は阻害することなく、高度な真偽判別を行うことができた。
【0062】
次に、白抜き領域の最適な配置を説明する。白抜き領域における白抜き部の第2の潜像画像は、基材色が白色であれば、赤色として視認することができる。例えば、図18の第2の潜像画像(領域4)のように、複写物において波長640nm以上の反射率が60%以上であれば、複写画像と白抜き部は、ともに赤色として視認することができるため、潜像画像の視認性に影響を受けない。そのため、領域4に白抜き部を設けることが望ましい。一方、領域3及び領域5のように、複写物における波長640nm以上の反射率が45%未満であれば、複写画像は茶色、白抜き部は赤色として視認されるため、潜像画像の視認性を低下させる。そこで、第2の潜像画像(領域4)に接しない領域に配置すれば、潜像画像の視認性を低下しない。例えば、第2の潜像画像(領域4)と白抜き領域の間隔を3mm以上設けることが望ましい。
【符号の説明】
【0063】
1、1’ 印刷物
2、2’ 印刷画像
3、3’ 第1のインキで印刷する第1の領域
4、4’ 第2のインキで印刷する第2の領域
5 第3のインキで印刷する第3の領域背景領域
6 白線
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、旅券、有価証券、商品券及び各種証明書等の偽造防止又は複製防止が必要とされる印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券、旅券、商品券及び各種証明書等の貴重印刷物は、偽造防止技術を付与することが求められ、それらについて、様々な技術が開示されている。例えば、基材となる紙の製造工程で偽造防止技術を付与する、すかし模様又はスレッドを付与した用紙等の技術や、印刷工程で偽造防止技術を付与する微小文字又はパール印刷等の技術や、更には印刷工程後の別工程で偽造防止技術を付与するホログラム又はレーザ穿孔等が代表的である。
【0003】
これらの技術のうち、比較的コストが安価で偽造防止抵抗力の高い偽造防止技術の一つとして、メタメリックペア印刷物が挙げられる。メタメリックペア印刷物は、可視光領域の広い範囲において異なる分光反射率を有するものであっても、標準光源下では等色として視認されるものであり、さらに、所定のフィルタを介在させて観察することで、全く違った色として視認されるものである。これらの現象を「メタメリズム」といい、この現象を用いて、標準光源下で等色として視認され、かつ、フィルタの介在下で色相を異ならせるペアインキを用いて模様を形成する印刷物を「メタメリックペア印刷物」という。
【0004】
具体的に、図19により公知のメタメリックペア印刷物の構成について説明する。図19の印刷物1’は、基材に印刷画像2’を形成し印刷画像2’は、第1のインキで印刷する領域3’と第2のインキで印刷する領域4’で構成する。印刷物1’は、標準光源下において視認した場合、領域3’と領域4’が等色として視認される。
【0005】
一方、印刷画像2’は、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、領域3’と領域4’との色が異なって視認されるため、領域4’を潜像画像として視認することができる。したがって、印刷画像2’を所定のフィルタを介在させて視認した場合に、領域3’と領域4’の色に差異が生じたものを本物と判断し、色の差異が生じないものを偽物と判断することができる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、同様にメタメリズムの原理及び構成を用いて、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、領域3’及び領域4’におけるいずれか一方が現出し、他方が消失する判別方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、前述の先行技術と同様に、メタメリズムの原理及び構成を用いて、カラーコピー機でメタメリックペア印刷物した場合、領域3’と領域4’との色の差異が発生する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
したがって、公知のメタメリックペア印刷物の必須要件は2つあり、1点目は、標準光源下で印刷画像2’を視認した場合、領域3’と領域4’とが等色として視認され、所定のフィルタを介在させて印刷画像2’を視認した場合、領域3’と領域4’とが異なる色相として視認されることである。なお、本発明では、標準光源下で領域3’と領域4’を等色として視認することができることを「等色性を有する」という。よって、等色性が低いと、標準光源下でも領域3’と領域4’が異なる色相として視認されることから、潜像画像が視認されてしまう。
【0009】
2点目は、比較的に視感度の低い波長に反射率の差を設けることである。例えば、2つのインキの分光反射率を、人間が色を感知し難い波長である620〜780nmに分光反射率の差異を設け、それ以外の可視光領域の分光反射率を一致させることで、標準光源下では等色として視認されるようにすることである。しかしながら、比較的に視感度の低い波長域を用いても、第1のインキと第2のインキの分光反射率は異なるため、領域3’と領域4’を完全に等色性を有する状態にすることは困難であり、印刷画像2’における領域4’の潜像画像が標準光源下でも視認されてしまう課題がある。
【0010】
前述の課題には、3つの理由があり、1点目は、印刷物1’を観察する環境が標準光源下以外の環境に変化することである。印刷物1’の印刷画像2’を作製する上では、標準光源下で等色性を有するように調色して印刷物を作製するが、実際の印刷物1’は、様々な光源下によって観察されるため、すべての光源下で等色性を有するような印刷物を作製することは困難であるという課題がある。
【0011】
2点目は、印刷物1’のインキ皮膜の厚さが異なることによって、分光反射率が異なることである。通常、等色のインキを作製する場合には、2つのインキが同一の膜厚で印刷されたことを想定して調色されるため、仮に、第1のインキと第2のインキをそれぞれ理想の分光反射率で作製しても、印刷物1’における領域3’と領域4’を理想の分光反射率で再現することは難しい。これらの原因は、印刷機で用紙に転移するインキは、用紙へのインキの浸透性、インキの流動特性及び印刷機の熱膨張等の印刷適性により、用紙に転移するインキの量が異なるからである。そのため、印刷物1’における領域3’と領域4’のインキ膜厚を一定に保つことは困難となり、その結果、それぞれの分光反射率も異なることから、等色性を有する印刷物を作製することは難しいという課題がある。
【0012】
3点目は、人間の視覚に個人差があることである。メタメリックペアインキは、比較的に視感度の低い波長における反射率の差を設けつつ、標準光源下において2つのインキが等色として視認されるように調色するものであり、視感度の高い可視光領域の反射率を合わせることで等色性を有するように調色することで、比較的に視感度の低い波長における反射率の差をカモフラージュするものである。しかしながら、観察者の視覚の違いによって、色の感じ方に差があるため、比較的に視感度の低い波長における反射率の差をカモフラージュできない場合がある。例えば、複数の観察者によって同一のメタメリックペア印刷物が等色性を有するか否かを評価した場合、観察者によって等色性を有するか否かの評価結果に大きなバラツキが生じるという課題がある。
【0013】
さらに、メタメリックペア印刷物は、メタメリズムを有する領域以外を一般的なカラー印刷で用いるプロセス4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)インキによって印刷する必要があるため、メタメリックペアインキの2色に加えて他の領域を印刷するプロセス4色インキを用いることが必要であることから、合計6色のインキを用いる必要があり、色数が多くなるという課題がある。
【0014】
これらの課題により、メタメリックペア印刷物は、パール印刷、蛍光印刷やホログラム等と比較して、商業印刷として普及しないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公昭60−058711号公報
【特許文献2】特公昭61−037636号公報
【特許文献3】特公昭63−040677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、公知のメタメリックペア印刷物の各課題を解消するため、等色性を有するペアインキのみを用いる方法ではなく、メタメリックペアインキと、ペアインキとは異なる色相を有するインキを合わせた3種類のインキを用いるか、又は3種類の異なる色相のインキを用いる構成によって、新たな効果を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の偽造防止印刷物は、基材の少なくとも1部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは色相が異なり、第1の領域は、波長640nm以上の分光反射率が45%未満であり、第2の領域及び第3の領域は、波長640nm以上の分光反射率が60%以上であり、かつ、第2の領域又は第3の領域のいずれか一方の領域は、波長640nmの反射率が60%以上の紫色顔料を含むインキで形成され、印刷物を所定のフィルタの介在下で視認したときに、第2の領域と第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【0018】
また、本発明の偽造防止印刷物は、カラー複写機等により印刷物を複写した複写物を所定のフィルタの介在下で視認したときに、第2の領域又は第3の領域の一方の領域により、第2の潜像画像が可視化されることを特徴としている。
【0019】
また、前述の複写物は、第2の領域又は第3の領域におけるいずれか一方の領域の分光反射率が、波長640nm以上で45%未満であることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の偽造防止印刷物に用いる所定のフィルタは、波長640nmの未満の光をカットするフィルタであることを特徴としている。
【0021】
また、本発明の偽造防止印刷物における紫色顔料を含む第2の領域又は第3の領域は、赤色、茶色又は褐色であることを特徴としている。
【0022】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第1の領域の色相と、第2の領域又は第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、第1の領域と第2の領域又は第3の領域の色差ΔEが50以下であることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の偽造防止印刷物は、基材の少なくとも1部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは色が異なり、第1の領域は波長640nm以上の反射率が60%以上で、かつ、第1の領域は、波長640nmの反射率が60%以上の紫色顔料を含むインキで形成され、第2の領域及び第3の領域は、波長640nm以上の反射率が45%未満であり、印刷物を所定のフィルタで視認したときに、第2の領域及び第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されている。また、紫色顔料を含む第1の領域は、赤色、茶色又は褐色で形成され、第1の領域の色相と、第2の領域又は第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、第1の領域と、第2の領域又は第3の領域におけるいずれかの色差ΔEが50以下であることを特徴としている。
【0024】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第1の領域、第2の領域及び第3の領域の境界及び/又は領域内に白線を設けることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の偽造防止印刷物は、白線により、彩紋、数字、記号、マーク及び図柄から選択されるいずれかを形成することを特徴としている。
【0026】
また、本発明の偽造防止印刷物は、第1の領域、第2の領域又は第3の領域から選択されるいずれか1つ又は2つ以上の領域に、白抜き領域を形成することを特徴としている。
【0027】
また、本発明の偽造防止印刷物は、銀行券、パスポート及び証明書等の貴重印刷物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の偽造防止印刷物は、3種類のインキによって印刷画像を構成することで、標準光源下では潜像画像を視認することができないが、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、印刷画像と異なる第1の潜像画像を視認することができる。したがって、メタメリックペアインキのように等色性を有することを必要とせず、どのような観察環境でも潜像画像をカモフラージュすることができる。また、印刷物を作製する上でも印刷条件の変動の影響を受けず、通常印刷の刷色管理で所望の潜像画像が得られる。
【0029】
また、本発明の偽造防止印刷物をカラーコピー機で複写した複写物は、所定のフィルタを介在させて視認した場合に、第1の潜像画像と異なる第2の潜像画像を視認することができる。したがって、通常光下で視認することができる印刷画像と、印刷画像を所定のフィルタを介在させて視認した場合の第1の潜像画像と、印刷画像を複写した複写物を所定のフィルタを介在させて視認した場合の第2の潜像画像の3種類の異なる画像を視認することができるため、真偽判別を容易に行うことができる。
【0030】
さらに、本発明の印刷物は、異なる3種類のインキを用いるが、異なる3色のインキのうちの2色をプロセス4色の2色とすることができるため、従来のメタメリックペア印刷物である、プロセス4色+メタメリックペアインキ2色の6色と比較して、1色低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の印刷物の一例を示す概要図。
【図2】本発明の印刷物の分光反射率を示す図。
【図3】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図4】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図5】本発明の印刷物の複写物の分光反射率を示す図。
【図6】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図7】本発明の印刷物の分光反射率を示す図。
【図8】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図9】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図10】本発明の印刷物の複写物の分光反射率を示す図。
【図11】本発明の印刷物の分光反射率を示す図。
【図12】本発明の印刷物の複写物の分光反射率を示す図。
【図13】本発明の印刷物の一例を示す概要図。
【図14】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図15】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図16】本発明の印刷物の一例を示す概要図。
【図17】本発明の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【図18】本発明の印刷物の第2のフィルタ画像を示す図。
【図19】従来の印刷物の一例を示す概要図。
【図20】従来の印刷物の第1のフィルタ画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0033】
(第1の構成)
まず、本発明の印刷物における第1の構成として、印刷物1の印刷画像2について図1を用いて説明する。基材に、印刷画像2となる領域3、領域4及び領域5を構成し、領域3を第1のインキで、領域4を第2のインキで、領域5を第3のインキで印刷する。また、領域3は、領域4と領域5を囲むように配置し、領域4と領域5とで第1の潜像画像を形成する。
【0034】
なお、本発明の「印刷画像」とは、標準光源下において視認することができる可視画像であり、「第1の潜像画像」とは、印刷画像2を所定のフィルタを介在させて視認することで可視化される画像であり、「第2の潜像画像」とは、本発明の印刷画像2を複写機で複写した複写物を、所定のフィルタを介在させて視認することで可視化される画像である。
【0035】
(インキと分光反射率)
次に、印刷画像2における、インキと分光反射率(以下「反射率」という。)を説明する。なお、本発明の反射率については、IGT テスティングシステムズ ジャパン製のIGT展色機を用いて膜厚1μmの展色物を作製し、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 分光光度計「U−4100」を使用して、分光反射率の測定を行ったものである。
第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは、異なる色相のインキで構成し、印刷後の領域3、領域4及び領域5の反射率を図2に示す。まず、領域3の要件は、波長640nm以上における反射率が45%未満であることで、好ましくは、40%未満であり、色相は、青系色、緑系色又は褐系色等である。反射率30%以下でも本発明の効果は得られるが、黒色、暗青色又は暗紫色等の濃い色相になり、印刷物1を作製する上で制約が大きいため、好ましくない。
【0036】
次に、印刷後の領域4と領域5の要件は、波長640nm以上における反射率が60%以上とする。好ましくは、65%以上とすることが望ましい。さらに、もう一つの要件として、領域4又は領域5の一方を印刷するインキは、波長640nm付近に吸収特性を有する青系色顔料を含めずにインキに青色成分を含ませるため、波長640nm付近で反射特性を有する紫系色顔料を用いたインキで印刷する。この要件により、カラーコピー機等の偽造防止効果を付与することができる。紫系顔料の一例としては、キナクリドンピンク、キナクリドンバイオレット又はジオキサンジンバイオレット等が挙げられ、これらの顔料を適宜配合してインキを作製すれば良い。
【0037】
また、各々の領域における印刷画像の色相は、任意に設定することができるが、領域4は、赤系色、橙系色又は黄系色、領域5は、赤系色、茶系色又は褐系色等とすることが望ましく、逆の構成でも構わない。
【0038】
(印刷画像の視認状態)
図1に示すように、3種類のインキを用いて領域3、領域4及び領域5を有する印刷物1を作製した場合、標準光源下では、異なる3種類のインキで構成した図柄を視認することができる。このとき、第1の潜像画像は、印刷画像2を異なる3色で構成することでカモフラージュされる。
【0039】
(第1の潜像画像)
次に、印刷物1の印刷画像2を所定のフィルタを介在させて視認した場合、図3に示すような、第1の潜像画像を視認することができる。なお、所定のフィルタとは、図2に示す約640nm未満の光をカットするフィルタが好適である。例えば、株式会社フジフィルム社製 型番SC64等が挙げられる。また、フィルタを介在させた状態における第1の潜像画像の視認性は、印刷画像2を構成するインキに含まれる青顔料(成分)に影響を受ける。具体的には、第1の潜像画像は、インキ中に含まれる青系顔料が光を吸収して黒色又は茶色として視認することができるものであり、インキ中に青系顔料を含まなければ光を反射して赤色として視認される。したがって、黒色又は茶色に視認することができる領域が図柄として現出し、フィルタ色と同一の赤色の領域は消失して視認される。
【0040】
また、第1の潜像画像は、フィルタを透過する光の波長域に対して、光を最も吸収する波長の反射率で視認することができる。具体的には、約640nm未満の光をカットするフィルタで視認される色相は、波長640nmの反射率が0〜35%未満で黒色として可視化され、35〜65%未満で茶色として視認され、65〜100%で赤色(非印刷領域と同等の色相)として視認される。
【0041】
前述の視認原理により、第1の潜像画像は、波長640nm付近で領域3が反射率約35%、領域4及び領域5が反射率約65%であるため、第1の潜像画像は、領域4と領域5が赤色として視認されるのに対し、領域3は、茶色で視認することができるため、領域4と領域5でなる潜像画像を視認することができる。なお、第3のインキは青系顔料を添加せずに紫系顔料を使用して青み成分を補って調色する。また、潜像画像は、数字、文字、記号、マーク及び図柄等を用いれば良い。
【0042】
(第2の潜像画像)
次に、印刷物1をカラーコピー機で複写した複写物を、フィルタの介在下で視認した場合について説明する。なお、最近のカラーコピー機の色再現性の性能は高く、通常の複写モードで色再現性が合わない場合には、色調整モードによって印刷物の色を一致することができる。このため、本発明の印刷画像2を複写しても、カラーコピー機の機能を駆使すれば、略同様の複写物を作製することができる。
【0043】
一方、複写物をフィルタの介在下で視認した第2の潜像画像について、図4を用いて説明する。図3の第1の潜像画像は、領域4と領域5が赤色として視認されたために第1の潜像画像として視認することができたが、図4の第2の潜像画像は、複写機が領域5の色相を再現するために青系の材料を用いて色相を再現したことから、領域3と領域5が茶色として視認され、図3の第1の潜像画像とは異なる第2の潜像画像として視認されたものである。よって、真正な印刷物と複写物では異なる潜像画像が視認されるため、容易に真偽判別を行うことができる。
【0044】
これらの第1の潜像画像と第2の潜像画像について、より詳細に説明する。図5に示す反射率は、印刷画像2の複写物の反射率であり、領域3と領域4の複写前後の反射率は略同様であるが、領域5は複写後の反射率が640nm以上で大きな差異を生じる。これは、印刷画像2における領域5の第3のインキは、青系顔料を使用せず、紫系顔料を用いてインキを作製するため、640nm以上で光を吸収し難い状態である。一方、複写物では、領域5をプロセス4色で再現するため、印刷画像2の紫色は、複写画像では、赤80%+青20%で再現される。この結果、複写物では、領域5に青成分を含み、640nm以上で反射率が吸収を示す。
【0045】
前述の原理により、第2の潜像画像における領域3と領域5は、波長640nm付近で反射率が約35%となり、一方、領域4は、反射率約65%である。したがって、第2の潜像画像は、領域4が赤色、領域3と領域5が茶色として視認されるため、領域4でなる潜像画像を視認することができる。この結果、印刷画像2の可視画像と、第1の潜像画像と第2の潜像画像では、それぞれ異なる画像として視認することができることから、高度な真偽判別が可能である。なお、本実施の形態で第2のインキと第3のインキを入れ替えた場合、第1の潜像画像は、図3のように同一であるが、第2の潜像画像は、図6に示すように、色が入れ替わる。
【0046】
なお、領域5の第3のインキに紫系顔料を使用しないで印刷した場合(例えば、赤色又は黄色等)、印刷物1とその複写物の反射率は変化しないため、第1の潜像画像と第2の潜像画像が同一となることから、真正の印刷物と複写物の潜像画僧を比較しても真偽判別を行うことはできない。
【0047】
また、本発明の印刷物1をカラー印刷物として作製する場合、一般的には、プロセス4色を使用する。本発明の第1のインキは、青系色、緑系色又は褐系色等、第2のインキ又は第3のインキの一方は、赤系色、橙系色又は黄系色等、もう一方のインキは、赤系色、茶系色又は褐系色等を適宜選択することができる。そのため、第1のインキ、第2のインキ又は第3のインキの内の2色を、プロセス4色の2色を使用して作製することができる。したがって、本発明の印刷物1は、プロセス4色+1色の5色で作製することができる。
【0048】
(第2の構成)
次に、本発明の印刷物1における第2の構成を説明するが、第1の構成と同一な方法及び原理の説明は省略する。第2の構成は、印刷画像2に対して、インキと反射率が異なる構成であり、その効果も異なる。
【0049】
(インキと分光反射率)
図1に示す印刷画像2に対し、領域3は第1のインキ、領域4は第2のインキ、領域5は第3のインキで印刷し、印刷物1を作製する。第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキは、異なる色相のインキで構成し、領域3、領域4及び領域5の分光反射率を図7に示す。まず、印刷後の領域3の要件は、波長640nm以上で反射率が60%以上とする。好ましくは、65%以上である。さらに、もう一つの要件は、インキに青系顔料を含めず、紫系顔料を用いたインキで印刷する。
【0050】
次に、印刷後の領域4と領域5の要件は、波長640nm以上で反射率が45%未満であることで、好ましくは、30〜40%である。
【0051】
(印刷画像の視認状態)
第2の構成により図1に示す印刷物1を作製し、通常光下で印刷画像2を視認した場合、色の配置は異なるが、第1の構成と同様である。
【0052】
(第1の潜像画像)
印刷画像2を所定のフィルタを介在させて視認すると、図8に示すような第1の潜像画像を視認することができる。具体的には、領域4と領域5は、茶色として視認されるのに対し、領域3は、赤色で視認することができるため、領域4と領域5でなる潜像画像を視認することができる。なお、第1のインキは、青系顔料を含ませず、紫系顔料により青色成分を補ったインキを使用する。
【0053】
(第2の潜像画像)
一方、複写物をフィルタの介在下で視認した場合の第2の潜像画像を図9に示す。このとき、図8に示す第1の潜像画像と、図9に示す第2の潜像画像が異なることから、真偽判別を行うことができる。この理由は、図10に示す複写物の反射率は、領域4及び領域5の複写前後の反射率が略同一であるのに対し、領域3は、波長640nm以上における復写前後の反射率に大きな差異を生じていることが分かる。この結果、第2の潜像画像は、波長640nm付近の反射率が、領域3、領域4及び領域5で約35〜40%と最も光を吸収し、すべての領域が茶色として視認される。したがって、第2の構成では、第1の潜像画像と第2の潜像画像が異なることで真偽判別を行うことができる。
【0054】
よって、第1の構成と第2の構成では、いずれも、第1の潜像画像と第2の潜像画像を異ならせることができることから、必要に応じていずれかを選択すれば良い。第1の構成又は第2の構成の印刷物は、従来のメタメリック印刷物のように等色性を有する必要がなく、異なる3色で構成することで、通常の刷色管理によって簡単に作製することができる。また、どのような観察環境でも、第1の潜像画像を認識することができない。また、カラー印刷で本発明の印刷物を作製すると、刷色数も低減することができ、新たな複写物での真偽判別方法も提案することができる。
【0055】
なお、本発明の印刷物は、銀行券、パスポート及び証明書等の貴重印刷物に好適である。
【実施例1】
【0056】
実施例1は、前述した第1の構成により印刷物を作製した。実施例1は、第1のインキを青色、第2のインキを橙色、第3のインキを赤色とし、図1に示す印刷画像2を作製した。また、第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキで印刷した領域3、領域4及び領域5におけるそれぞれの反射率を図2に示し、印刷画像2の複写物における反射率を図5に示す。図1の印刷画像における可視画像、図3の第1の潜像画像及び図4の第2の潜像画像では、それぞれの画像が異なることから、高度な真偽判別を行うことができた。
なお、実施例1の印刷物1は、基材に白色の上質紙を用い、オフセット印刷機を用いて印刷物を作製した。3種類のインキは、それぞれの反射率となるように、適宜調整したものを用い、フィルタ画像は、図2に示す反射率を有するフィルタを介在させた画像とした。
【実施例2】
【0057】
実施例2は、通常光下での印刷画像2において、第1の潜像画像を、よりカモフラージュすることができる構成について説明する。具体的には、第1のインキ、第2のインキ又は第3のインキのうちの2色を同系色とする。例えば、第1のインキに褐色、第2のインキに橙色、第3のインキに赤色を使用し、図1に示す印刷画像1を作製した。本実施例2では、領域3と領域5を同系色とするが、色差ΔEが50以下、好ましくは色差ΔEが35以下であることが望ましい。また、図11に第1のインキ、第2のインキ及び第3のインキで印刷した領域3、領域4及び領域5のそれぞれの反射率を示し、図12に印刷画像2の複写物の反射率を示す。このとき、図3及び図4に示すように、第1の潜像画像と第2の潜像画像が異なることから、高度な真偽判別を行うことができた。
【実施例3】
【0058】
次に、前述した第2の構成により作製した実施例3の印刷物1について説明する。実施例3は、第1のインキに赤色、第2のインキに青色、第3のインキに緑色を使用し、図1に示す印刷画像2を作製した。また、図7に第1のインキ、第2のインキ又は第3のインキで印刷した領域3、領域4及び領域5のそれぞれの反射率を示し、図10に印刷画像2の複写物の反射率を示す。このとき、図8及び図9に示すように、第1の潜像画像と第2の潜像画像が異なることから、高度な真偽判別を行うことができた。
【実施例4】
【0059】
実施例4は、通常光下での印刷画像2において、第1の潜像画像を、よりカモフラージュすることができる構成として印刷物を作製した。なお、第1の構成及び第2の構成のどちらの構成でも構わないが、実施例4については、第1の構成を用いた印刷物として説明する。
【0060】
実施例4の印刷物は、図13に示すように、領域3、領域4及び領域5の境界及び/又は領域内に、白線6(白色インキよって印刷するか、又は非印刷領域として形成した白抜き部とする。)を設ける。白線6による彩紋模様を印刷画像2内に設けることで、新たな情報(図柄)が加わり、第1の潜像画像をカモフラージュすることができる。白線の画線幅は、0.1〜1.0mmとすることが好ましく、白線による図柄は、彩紋、数字、記号、マーク及び図柄等が好ましい。また、図14及び図15に示すように、印刷画像2内に白線6を設けても、第1の潜像画像及び第2の潜像画像の視認性を阻害することなく、高度な真偽判別を行うことができた。
【実施例5】
【0061】
実施例5は、実施例4の構成に加えて、図16に示すように、領域3、領域4及び/又は領域5の領域内に白抜き領域を設けた。例えば、領域3の一部と領域4の全部の領域をベタ状でなく、白抜き領域を有するように設定した。白抜き領域は、線状、点状、網状又は格子状等、形態に制約はない。印刷画像1に白抜き領域を設けることで、印刷画像1に濃度差を設け、第1の潜像画像をよりカモフラージュすることができる。また、図17に第1の潜像画像、図18に第2の潜像画像を示すが、特に潜像画像の視認性は阻害することなく、高度な真偽判別を行うことができた。
【0062】
次に、白抜き領域の最適な配置を説明する。白抜き領域における白抜き部の第2の潜像画像は、基材色が白色であれば、赤色として視認することができる。例えば、図18の第2の潜像画像(領域4)のように、複写物において波長640nm以上の反射率が60%以上であれば、複写画像と白抜き部は、ともに赤色として視認することができるため、潜像画像の視認性に影響を受けない。そのため、領域4に白抜き部を設けることが望ましい。一方、領域3及び領域5のように、複写物における波長640nm以上の反射率が45%未満であれば、複写画像は茶色、白抜き部は赤色として視認されるため、潜像画像の視認性を低下させる。そこで、第2の潜像画像(領域4)に接しない領域に配置すれば、潜像画像の視認性を低下しない。例えば、第2の潜像画像(領域4)と白抜き領域の間隔を3mm以上設けることが望ましい。
【符号の説明】
【0063】
1、1’ 印刷物
2、2’ 印刷画像
3、3’ 第1のインキで印刷する第1の領域
4、4’ 第2のインキで印刷する第2の領域
5 第3のインキで印刷する第3の領域背景領域
6 白線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、
前記第1のインキ、前記第2のインキ及び前記第3のインキは色相が異なり、
前記第1の領域は、波長640nm以上の分光反射率が45%未満であり、
前記第2の領域及び前記第3の領域は、波長640nm以上の分光反射率が60%以上であり、かつ、前記第2の領域又は前記第3の領域のいずれか一方の領域は、紫色顔料を含むインキで形成され、
前記印刷物を所定のフィルタの介在下で視認したときに、前記第2の領域と前記第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記所定のフィルタは、波長640nmの未満の光をカットするフィルタであることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記紫色顔料を含む前記第2の領域又は前記第3の領域は、赤色、茶色又は褐色であることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記第1の領域の色相と、前記第2の領域又は前記第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、前記第1の領域と前記第2の領域又は前記第3の領域の色差ΔEが50以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項5】
基材の少なくとも一部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、
前記第1のインキ、前記第2のインキ及び前記第3のインキは色が異なり、
前記第1の領域は、波長640nm以上の反射率が60%以上で、かつ、前記第1の領域は、紫色顔料を含むインキで形成され、
前記第2の領域及び前記第3の領域は、波長640nm以上の反射率が45%未満であり、
前記印刷物を所定のフィルタで視認したときに、前記第2の領域及び前記第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項6】
前記所定のフィルタの反射率は、640nmの未満の光を視認することができないことを特徴とする請求項5記載の偽造防止印刷物。
【請求項7】
前記紫色顔料を含む前記第1の領域は、赤色、茶色又は褐色であることを特徴とする請求項5又は6記載の偽造防止印刷物。
【請求項8】
前記第1の領域の色相と、前記第2の領域又は前記第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、前記第1の領域と前記第2の領域又は前記第3の領域の色差ΔEが50以下であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項9】
前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域の境界及び/又は領域内に白線を設けることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項10】
前記白線により、彩紋、数字、記号、マーク及び図柄から選択されるいずれかを形成することを特徴とする請求項9記載の偽造防止印刷物。
【請求項11】
前記紫色顔料を含まない前記第2の領域又は前記第3の領域の一方の領域に、白抜き領域を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項12】
前記紫色顔料を含まない前記第2の領域及び/又は前記第3の領域に、白抜き領域を形成することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項13】
前記白抜き領域は、前記第1の潜像画像が形成された領域外に配置されたことを特徴とする請求項11又は12記載の偽造防止印刷物。
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、
前記第1のインキ、前記第2のインキ及び前記第3のインキは色相が異なり、
前記第1の領域は、波長640nm以上の分光反射率が45%未満であり、
前記第2の領域及び前記第3の領域は、波長640nm以上の分光反射率が60%以上であり、かつ、前記第2の領域又は前記第3の領域のいずれか一方の領域は、紫色顔料を含むインキで形成され、
前記印刷物を所定のフィルタの介在下で視認したときに、前記第2の領域と前記第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記所定のフィルタは、波長640nmの未満の光をカットするフィルタであることを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記紫色顔料を含む前記第2の領域又は前記第3の領域は、赤色、茶色又は褐色であることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記第1の領域の色相と、前記第2の領域又は前記第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、前記第1の領域と前記第2の領域又は前記第3の領域の色差ΔEが50以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項5】
基材の少なくとも一部に、第1のインキで印刷した第1の領域と、第2のインキで印刷した第2の領域と、第3のインキで印刷した第3の領域により印刷画像が形成された印刷物であって、
前記第1のインキ、前記第2のインキ及び前記第3のインキは色が異なり、
前記第1の領域は、波長640nm以上の反射率が60%以上で、かつ、前記第1の領域は、紫色顔料を含むインキで形成され、
前記第2の領域及び前記第3の領域は、波長640nm以上の反射率が45%未満であり、
前記印刷物を所定のフィルタで視認したときに、前記第2の領域及び前記第3の領域から成る第1の潜像画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項6】
前記所定のフィルタの反射率は、640nmの未満の光を視認することができないことを特徴とする請求項5記載の偽造防止印刷物。
【請求項7】
前記紫色顔料を含む前記第1の領域は、赤色、茶色又は褐色であることを特徴とする請求項5又は6記載の偽造防止印刷物。
【請求項8】
前記第1の領域の色相と、前記第2の領域又は前記第3の領域におけるいずれか一方の色相を同系色とし、前記第1の領域と前記第2の領域又は前記第3の領域の色差ΔEが50以下であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項9】
前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域の境界及び/又は領域内に白線を設けることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項10】
前記白線により、彩紋、数字、記号、マーク及び図柄から選択されるいずれかを形成することを特徴とする請求項9記載の偽造防止印刷物。
【請求項11】
前記紫色顔料を含まない前記第2の領域又は前記第3の領域の一方の領域に、白抜き領域を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項12】
前記紫色顔料を含まない前記第2の領域及び/又は前記第3の領域に、白抜き領域を形成することを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の偽造防止印刷物。
【請求項13】
前記白抜き領域は、前記第1の潜像画像が形成された領域外に配置されたことを特徴とする請求項11又は12記載の偽造防止印刷物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−152988(P2012−152988A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13350(P2011−13350)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]