説明

偽造防止媒体およびその製造方法、ならびに偽造防止媒体を有する接着ラベルおよび転写箔

【課題】複写防止機能を有する偽造防止媒体を容易に得ることができるような構造の偽造防止媒体を提供すること。また、前記偽造防止媒体の簡単な製造方法を提供すること。
【解決手段】支持基材3上にパターン形成した光学機能層1、2と反射層4とをこの順に有する偽造防止媒体10であって、光学機能層が、一定方向の複数の微小亀裂により形成される光学異方性を有する層面内の互いに異なる複数の領域からなることを特徴とする偽造防止媒体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写防止機能を有する偽造防止媒体およびその製造方法、ならびに偽造防止媒体を有する接着ラベルおよび転写箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券、商品券、パスポートなどの有価証券や認証媒体は、偽造防止対策として偽造の困難な媒体の貼付を行ってきた。そのような媒体は、偽造防止対策の適用が容易に認識されかつ目視による真偽判定が容易なオバート機能を有するか、または、物品への適用が一般に分かり難く検証器を用いた真偽判定を意図的に行って初めて判定が可能になるコバート機能を有する。
【0003】
オバート機能としては、近年では、特殊な光学効果を一瞥にて判別可能であることから、回折格子、ホログラム等の光学素子を利用した偽造防止媒体が様々な物品に対して使用されている。
【0004】
しかしながら、回折格子やホログラムは包装材料等に多く利用され、入手し易くなっていることから、さらに偽造し難い偽造防止媒体が必要となっている。
【0005】
この問題に対して、特許文献1では、回折格子パターンにおいて空間周波数が同じで方向が互いに90度異なる絵柄を有し、照明光を当てて肉眼で観察した場合に、絵柄内で反射回折する方向が異なることを利用して、見る角度によりパターン全体の色や明るさが変わって視覚される複写防止機能を有する偽造防止媒体としての回折格子パターンを提案した。
【0006】
また、コバート機能としては、近年、偏光技術を用いた潜像技術が提案され、偏光フィルムを重ねることにより潜像を出現させ真偽判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3458470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の複写防止機能を有する偽造防止媒体としての回折格子パターンの提案においては、回折格子パターンを形成した後に反射層を成膜するという独立した2つの工程を経て、偽造防止媒体を作製しており、製造上および品質管理上の負荷が大きい。
【0009】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、複写防止機能を有する偽造防止媒体を容易に得ることができるような構造の偽造防止媒体を提供することである。また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記偽造防止媒体の簡単な製造方法を提供することである。また、本発明が解決しようとする他の課題は、前記偽造防止媒体を有する接着ラベルおよび転写箔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、支持基材上にパターン形成した光学機能層と反射層とをこの順に有する偽造防止媒体であって、光学機能層が、一定方向の複数の微小亀裂により形成される光学異方性を有する層面内の互いに異なる複数の領域からなることを特徴とする偽造防止媒体である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、光学機能層が液晶分子からなることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、光学機能層が、0°、45°、90°の互いに異なる方向に配向しており、層面内の配向した光学機能層が配向方向に沿った微小亀裂が入った部分と、微小亀裂が入っていない部分とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の偽造防止媒体である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、支持基材上に不完全硬化部分を有する光学機能層をパターン形成した後に、物理蒸着法により反射層を成膜することにより、下地の不完全硬化部分の光学機能層に微小亀裂を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体の製造方法である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体の片側に剥離紙に支持された接着層を具備したことを特徴とする接着ラベルである。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、前記偽造防止媒体に切り欠きおよび/またはミシン目が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の接着ラベルである。
【0016】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体の支持基材と光学機能層との間に剥離層を備え、偽造防止媒体の反射層の上に接着層を具備したことを特徴とする転写箔である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の偽造防止媒体は、短い工程で比較的容易に製造できる。また、観察時の光の方向により見え方が変化する一方、コピー装置の光のスキャン方向によりパターンの濃淡が変化するので、オバート機能とコバート機能とを同時に付与することも出来る。また、本発明の偽造防止媒体を有する接着ラベルおよび転写箔を提供することにより、多様な物品に偽造防止の機能を容易に与えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の偽造防止媒体の構造の一例を説明するための概念図であって、(a)は概略正面図、(b)はA−B間の概略断面図である。
【図2】図1の偽造防止媒体をコピーした複写物の一例を示す説明図である。
【図3】図1の偽造防止媒体をコピーした複写物の他の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の偽造防止媒体の構造の他の例を説明するための概略正面図である。
【図5】図4の偽造防止媒体を目視で観察したときの説明図である。
【図6】図4の偽造防止媒体を基材側から検証器を用いて観察したときの説明図である。
【図7】図4の偽造防止媒体をコピーした複写物の一例を示す説明図である。
【図8】図4の偽造防止媒体をコピーした複写物の他の一例を示す説明図である。
【図9】本発明の偽造防止媒体を用いた接着ラベルの模式断面図である。
【図10】本発明の偽造防止媒体を用いた転写箔の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る偽造防止媒体、及びその製造方法についての実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の偽造防止媒体の構造の一例を説明するための概念図であって、(a)は概略正面図、(b)は一点鎖線で示すA−B間の概略断面図である。本発明の偽造防止媒体は、支持基材3上に光学機能層の複数の領域1、2と、その上に反射層4を重ねる構造を有し、光学機能層の複数の領域は、少なくとも異なる光学異方性を有する領域を含む。例えば、図1(a)に示すように、いずれも光学機能層面内の互いに異なる光学異方性を有する領域1および2は、領域1が縦方向の光学異方性を示すのに対して、領域2は横方向の光学異方性を示すというふうに、それぞれが異なる一定方向の光学異方性を有するものである。また、各領域の光学異方性は、一定方向の複数の微小亀裂が整列することにより形成されることを特徴とする。すなわち、微小亀裂の作る方向性が光学異方性を与えている。
【0021】
図1の例では、縦方向の光学異方性を示す縦方向の微小亀裂を有する領域1と、横方向の光学異方性を示す横方向の微小亀裂を有する領域2とが特定のパターンを形成している。このパターンに対して、外部から入射する光の光学機能層面への投射方向が各領域の微小亀裂の整列方向に垂直である場合に最も散乱し、入射光の投射方向が整列方向に平行である場合に最も鏡面反射に近くなる。光の投射方向と微小亀裂の整列方向とが垂直と平行との中間の関係の場合には、散乱光と鏡面反射光との強度比が連続的に変化する。このため、本例では、散乱光と鏡面反射光とのコントラストにより、「TP」という文字が浮かび上がることになる。また、光を照射する方向を90°回転させると、散乱光と鏡面反射光が戻ってくる部分が逆転する。そのために、見る角度によってはパターンのコントラストが異なって見えることになる。
【0022】
前記光学機能層として、液晶分子を用いることができる。後述する反射層形成時の処理によって、液晶分子の層に微小亀裂を作ることができる。この場合、微小亀裂の整列方向を決める要因は液晶分子の配向方向である。液晶分子を2軸に配向させる方法としては、部分的に配向処理方向を変えた配向膜上に液晶材料を塗布することにより形成可能である。液晶材料を配向させるための配向膜の配向処理には、例えば光配向法もしくはラビング配向法を用いることができる。
【0023】
光配向法とは、配向膜に偏光等の異方性を有する光を照射もしくは非偏光光を斜めから照射し、配向膜内の分子の再配列や異方的な化学反応を誘起する方法で、配向膜に異方性を与え、これによって液晶分子が配向することを利用したものである。光配向のメカニズムとしては、アゾベンゼン誘導体の光異方化、桂皮酸エステル、クマリン、カルコンやベンゾフェノン等の誘導体の光二量化や架橋、ポリイミド等の光分解等があげられる。
【0024】
具体的には、適当な波長帯域の偏光光若しくは斜めからの非偏光光によりパターン露光することにより行われる。また、偏光潜像部と偏光背景部の如く、2軸方向に配向させる場合は、フォトマスクで配向方向を変えたい部分をカバーしてパターン露光し、さらにフォトマスクでカバーされていた未露光部を処理するため方向を変えて露光すれば良い。または、一度全面をパターン露光した後に、部分的にフォトマスクでカバーして方向を変えて再度露光しても良い。
【0025】
ラビング配向法は、基材上にポリマー溶液を塗布して作成した配向膜を布で擦る方法で、擦った方向に配向膜表面の性質が変化し、この方向に液晶分子が並ぶという性質を利用したものである。配向膜には、ポリイミド、PVA等が用いられる。
【0026】
光軸を2軸方向に配向させる場合には、配向方向を変えたい部分をマスクでカバーして布で擦った後にマスクを除去し、今度は先ほどラビングした部分をマスクでカバーし、再び方向を変えて布で擦った後、マスクを除去する。または、全面を布で擦った後に、部分的にマスクでカバーし、方向変えて布で擦った後、マスクを除去しても良い。
【0027】
これら配向膜を形成する方法としては、グラビアコーティング法、マイクログラビアコーティング法等の公知の手法を用いることができる。
【0028】
液晶材料としては、メソゲン基の両端にアクリレートを設けた光硬化型液晶モノマー、EB若しくはUVで硬化させる高分子液晶、ポリマー主鎖にメソゲン基を提げた高分子液晶、分子主鎖自体が配向する液晶性高分子を用いることができる。これらの液晶は、塗布後、相転移を起こすNI点より少し下の温度で熱処理することにより、配向を促進することが可能である。
【0029】
次に、液晶層の配向方向に沿って微小亀裂を入れる方法について説明をする。ここでは、光硬化型液晶に紫外線を照射することで硬化させる場合について説明をする。
【0030】
液晶層表面の結合重合反応において、未反応の2重結合を残しておくと良い。未反応の2重結合の割合を示すものとして、C=Cの残存2重結合率を用いることが出来る。
【0031】
残存2重結合率とは、〔C=C結合に基づく吸収(波数:810cm−1)のスペクトル強度〕÷〔液晶分子中の芳香環に基づく吸収(波数:1500cm−1付近)のスペクトル強度〕で定義される。
【0032】
窒素雰囲気下で重合させる場合、酸素濃度が低すぎると十分に反応してしまうので、窒素雰囲気中の酸素濃度は0.5%以上とすると良い。また、液晶分子中の残存2重結合率が50%以上95%以下であると良い。望ましくは、70%〜90%であると良い。残存2重結合率が低く硬化が進み過ぎた状態では、後述のように液晶層の配向方向に沿って微小亀裂を入れることが難しくなる一方、残存2重結合率が高く極端な未硬化状態では、表面のべたつき等により、取り扱い上の不都合が生じるからである。
【0033】
上記のように、未反応の2重結合が残存していることにより液晶層の硬化が不十分となる。硬化が不十分である液晶層は耐熱性等の耐性が低下しており、熱による収縮等が生じやすくなる。そのため、配向方向に沿った微小亀裂が入りやすくなる。他の方法として、支持基材を延伸させることによっても、液晶層に配向方向に沿って微小亀裂を生じさせることが出来る。
【0034】
液晶分子を重合させる条件としては、空気中で紫外線を照射しても良いし、窒素雰囲気下で紫外線を照射しても良い。液晶材料に応じて、紫外線の照射量で残存2重結合率を調整すると良い。
【0035】
前記熱収縮を生じさせる方法として、高温のオーブン等に入れるのも良いし、上記反射層の膜成形時にかかる熱を利用しても良いが、特に、後者が短い工程で容易に製造する方法として適している。前記のように、2軸方向に配向させ、なおかつ硬化が不十分である液晶に対して熱収縮が生じる程度の熱をかけると、液晶の配向方向に沿って熱収縮が生じる。支持基材に熱収縮が生じず液晶層のみに熱収縮が生じた場合、液晶層は支持基材上でクラックを生じる。そのため、液晶の配向方向に沿った微小亀裂を得られる。液晶分子が平行に規則正しく配列しているため、微小亀裂は、例えば回折格子形状のような平行で規則正しい形状となる。
【0036】
支持基材としては、押出加工やキャスト加工により作製された無延伸フィルム及び、延伸加工により作製された延伸フィルム等を用いる事ができる。延伸フィルムには、伸ばし方により、1軸延伸フィルム及び2軸延伸フィルムがあり、両者とも使用できる。
【0037】
これらの無延伸フィルム及び延伸フィルムの材料としては、セロハン、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(PO)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム等があげられる。
【0038】
反射層4は、前記光学機能層1、2の微小亀裂により生じる光学異方性に基づくパターンのコントラストを強調し、明瞭な表示性能を本発明の偽造防止媒体に与える上で重要である。反射層の材料としては、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、Au、Agなどの金属材料の単体、またはこれらの化合物などが挙げられる。
【0039】
また、膜面に垂直な光に対してほぼ透明であるが、斜光に対して屈折率に応じて反射特性を示す透明な反射層も単層または多層で使用できる。透明な反射層として使用できる材料の例を以下に挙げる。以下に示す化学式または化合物名の後に続くカッコ内の数値は屈折率nを示す。セラミックスとしては、Fe23(2.7)、TiO2(2.6)、CdS(2.6)、CeO2(2.3)、ZnS(2.3)、PbCl2(2.3)、CdO(2.2)、WO3(5)、SiO(5)、Si23(2.5)、In23(2.0)、PbO(2.6)、Ta23(2.4)、ZnO(2.1)、ZrO2(5)、MgO(1)、SiO2(1.45)、MgF2(4)、CeF3(1)、CaF2(1.3〜1.4)、AlF3(1)、Al23(1)、GaO(2)などが挙げられる。有機ポリマーとしては、ポリエチレン(1.51)、ポリプロピレン(1.49)、ポリテトラフルオロエチレン(1.35)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.60)などが挙げられるがこの限りでない。
【0040】
反射層を形成する方法としてはドライコーティング法が好ましく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法など公知の方法を適宜使用することができる。特に、膜形成時に液晶層に適度に熱収縮を与えられる真空蒸着法やスパッタリング法等の物理蒸着法がより好ましく、光反射効果を有するインキ等を公知の印刷方法により設ける方法は本発明には不向きである。
【0041】
前記液晶の配向方向に沿った亀裂に、上記のいずれかの方法で反射層を設けると、液晶の配向方向によって、つまり、亀裂の方向によって散乱光と鏡面反射光の方向が変化する。すると、肉眼で観察した場合に、見る角度によって、配向方向の異なる部分の明るさが異なって認識されるので、オバート機能を有する偽造防止媒体となる。
【0042】
また、複写防止機能とその他のコバート機能を有する偽造防止媒体としても利用できることを以下に説明する。例えば、図1の光学機能層1、2が液晶分子からなるパターンを構成し、それをコピーする場合を例に説明する。コピー装置の光源がパターン上をスキャンする際に、スキャンに応じて被コピー物からの正反射光の受光部が移動する方向(以下、便宜的に「スキャン方向」と称する)と、パターン内の液晶配向方向すなわち、微小亀裂の整列方向とが直交していると、そのパターンはコピーされるが、他部分はコピーされないことになり、複写物(コピー)の見え方が、明らかに元のパターンとは異なると認識されることにより、それが正規のパターンではなく複写物であることを判別できる。
【0043】
スキャン方向が図1(a)の縦方向、すなわち「TP」文字パターンの液晶配向方向に相当する微小亀裂の整列方向に垂直な場合の、図1のパターンの複写物を図2に示す。散乱部がコピーされて複写物の白部(明部)5を形成し、文字パターン以外の領域はスキャン方向と平行な微小亀裂の整列方向を有するので鏡面反射部となり、コピーされないで複写物の黒部(暗部)6を形成する。すなわち、図2では、文字「TP」からの反射光は受
光部に検知されているため、パターンが同図で白く複写されているが、文字の回りからの反射光は受光部に検知されずに同図で黒くなってしまう。
【0044】
一方、スキャン方向が図1(a)の横方向、すなわち「TP」文字パターンの液晶配向方向に相当する微小亀裂の整列方向に平行な場合、図3のように文字「TP」からの反射光は受光部に検知されずに複写物の黒部(暗部)6を形成し、文字の回りからの反射光は受光部に検知されて複写物の白部(明部)5を形成することになるので、図2のスキャン方向の異なる場合と較べて、異なる複写物が得られることになる。
【0045】
モノクロコピーの場合には、ブラックのトナーのみの濃淡で再現されるが、白/黒の関係はコピー装置側の処理で反転等が可能なため絶対的なものではなく、同一の偽造防止媒体内のパターンの関係のみが本質的である。カラーコピーの場合には、白以外の色は、イエロー,マゼンタ,シアンの3色もしくはブラックを加えた4色のトナーによる減法混色により色再現されるが、各分解色毎の明暗関係がモノクロコピーと同様の濃淡関係で再現され、それらの合成色がコピーの色調を決める。そのため、コピー装置のスキャン方向と偽造防止媒体の設置方向により、異なる複写物が得られることはモノクロコピーの場合と同様であり、元の偽造防止媒体とは異なる複写物であることは簡単に判明する。
【0046】
また、液晶層は図4に示すように0°方向51、45°方向52、90°方向53の3軸方向に配向させても良い。さらに、硬化度が不十分である液晶層54と硬化度が十分である液晶層55とを同一面内に備えても良い。これらの液晶層を熱収縮が生じる条件下におくと、54の部分は51、53の各領域毎に異なる配向方向に沿った微小亀裂が生じるが、55の部分は耐熱性を備えているので51、52の各領域毎に異なる配向状態は生じても微小亀裂は生じない。光学機能層としての前記液晶層の上に均一な反射層4を備えると、図5のように、硬化度が不十分である液晶層54は文字パターンとその周辺部とで微小亀裂の整列方向が異なることにより、亀裂の方向によって散乱光と鏡面反射光の方向が変化するので文字が目視で見えるパターン認識可能部11となる。しかし、硬化度が十分である液晶層55は亀裂が生じていないので、均一に反射光が戻ってくることとなり、文字が目視で見えないパターン認識不可能部12となる。
【0047】
さらに図4に示す偽造防止媒体をコピーすると、図7もしくは図8のように複写され、本物とは異なることが一目で確認されるので、複写防止機能を有する。いずれも液晶層の中で、硬化度が不十分である液晶層54に対応する部分が、パターン表示部(1)16、またはパターン表示部(2)18のように異なる複写物となり、硬化度が十分である液晶層55に対応する部分は、パターン非表示部17、19のように均質な複写物部分となる。
【0048】
また、図4に示す偽造防止媒体を、裏返して透明な支持基材3側から、偏光子13を有する検証機で確認すると、図6のように見える。硬化度が不十分である液晶層54に対応する裏パターン認識可能部14は、液晶層の配向方向と偏光子の回転の向きによる濃淡に微小亀裂の裏側からの散乱光と鏡面反射光とのコントラストが加わって、表側から見た図5のパターン認識可能部11とは見え方が異なるものの、ほぼ同レベルの認識が可能である。一方、硬化度が十分である液晶層55に対応する部分的裏パターン認識可能部15では、偏光子13を通さない目視では、表側から見た図5のパターン認識不可能部12と同様に文字パターンの認識はできないが、偏光子13を通して観察する部分では、液晶層の配向方向と偏光子の回転の向きによる濃淡により文字パターンが認められる。
【0049】
本発明の偽造防止媒体は、複写防止機能及びオバート機能やコバート機能を兼ね備えており、セキュリティ性の高い偽造防止媒体であるため、有価証券やブランド品、証明書等の偽造を防止するために使用されるラベルや、転写箔、偽造防止用紙などに利用すること
に最適である。しかも、偽造防止媒体を比較的短い工程で容易に製造することができるので、それを用いて加工される接着ラベルや転写箔も低コストで信頼性の高いものを提供することができる。
【0050】
図9は、本発明の偽造防止媒体を用いた接着ラベルの模式断面図である。
偽造防止媒体の片側、本例では支持基材3の裏面側に、剥離紙21に支持された接着層22を具備している。剥離紙21および接着層22は一般的な接着ラベルまたは粘着ラベルに用いられるものと同様のものが使用でき、被接着体に剥離紙を剥がして接着層面を押し当てて接着することができる。ここで、接着層とは、いわゆる粘着層として貼付と剥がしを繰り返し利用することも可能な機能を含む。本発明の偽造防止媒体が短い工程で比較的容易に製造できるので、予め剥離紙上に塗布した接着層を本発明の偽造防止媒体と貼り合わせることによって、実用性の高い接着ラベルを容易に提供することができる。
【0051】
前記接着ラベルは、貼り合わせてある前記偽造防止媒体に切り欠きおよび/またはミシン目を設けることで、さらに使用し易いラベルとすることができる。図示していないが、偽造防止媒体に設けたパターンの表示単位に合わせて、切り欠きやミシン目を設けることにより、接着ラベルの剥離紙21を剥がして接着層22面を被接着体に押し当てる際に、前記切り欠きやミシン目に沿って必要な領域を限定して接着することができる。本発明の偽造防止媒体の製造工程に、予め、切り欠きやミシン目を連続的に形成する一般的な工程を付加することは容易であり、さらに実用性の高い接着ラベルを容易に提供することができる。
【0052】
図10は、本発明の偽造防止媒体を用いた転写箔の模式断面図である。
偽造防止媒体の支持基材3と光学機能層1、2との間に剥離層23を備え、偽造防止媒体の反射層4の上に接着層22を具備している。さらに接着層22の上に剥離紙21を具備してもよい。剥離紙21および接着層22は一般的な接着ラベルまたは粘着ラベルに用いられるものと同様のものが使用できる。剥離紙21を剥がして被接着体に接着された偽造防止媒体は、通常とは逆向きに、反射層4を下にして接着され、光学機能層1、2が表面側に位置する。転写時に、または転写後に支持基材3を剥離層23から剥がすことができる。また、剥離層23は支持基材3を剥がした後の表面保護層を兼ねる。
【0053】
本例の転写箔を製造するには、支持基材3上に光学機能層1、2を形成するに先立って、剥離層23を塗布する。剥離層はシリコーン樹脂系の一般的な材料をグラビアコーティング法、マイクログラビアコーティング法等の公知の手法を用いて塗布できる。次に上述の手段で光学機能層1、2を形成し、さらに反射層4を物理蒸着法で成膜する。その後、接着層22を連続的に塗布して得られる転写箔を、被接着体に接着する工程も連続的に処理できる。上記の工程は、フィルムを用いたウェブのロール・トゥ・ロール連続工程に適しており、大量生産も可能である。また、被接着体への接着を製造後直ちに行わないで、一旦転写箔を保管し、その後に使用する場合は、接着層22を剥離紙21と共に偽造防止媒体に重ねて巻き取る方がよい。
【実施例1】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。
2軸延伸ポリエステルフィルムのルミラー25T60上(東レ株式会社製)を支持基材3とし、光配向剤であるIA−01(DIC株式会社製)をマイクログラビアで塗布し成膜を行った。この光配向剤は、365nmの偏光光を照射すると、偏光方向に液晶配向力をもつ材料である。光配向膜に対して偏光紫外線を用いて全面で2J/cm2の照射を行い、次に、フォトマスクを用意して特定パターン部のみの偏光照射を、全面照射した偏光方向に対して90°の角度差をつけた偏光方向に、2J/cm2の照射量で行った。
【0055】
その後、DIC株式会社製のUVキュアラブル液晶UCL−008をマイクログラビアにて塗工し、空気中でUV硬化を100mJ/cm2の照射量で行い、液晶層を用いた光学機能層の領域1、2を得た。さらに、金属Alを真空蒸着法にて成膜を行った。真空蒸着法を用いることにより、蒸着時に液晶層に熱がかかるために、液晶層が熱収縮を起こし配向方向に沿って規則正しい微小亀裂が生じ、そこにAlが成膜された。
【0056】
このように作製した偽造防止媒体を目視で確認したところ、見る角度によって光学機能層の一領域1と光学機能層の一領域2の部分で明るさが異なって見えた。さらに、複写機にて複写を行おうとしたところ、図2もくしは図3のようになり、本発明品の本物の目視像に近い画像は得られなかった。
【実施例2】
【0057】
2軸延伸ポリエステルフィルムのルミラー25T60上(東レ株式会社製)を支持基材3とし、光配向剤であるIA−01(DIC株式会社製)をマイクログラビアで塗布し成膜を行った。この光配向剤は、365nmの偏光光を照射すると、偏光方向に液晶配向力をもつ材料である。光配向膜に対して偏光紫外線を用いて全面で2J/cm2の照射を行い、次に、全面照射した偏光方向に対して45°角度をつけた方向に52の部分だけ光が透過するようなフォトマスクを用意しパターンで2J/cm2の照射を行った。さらに、90°の角度差をつけた方向に53の部分だけ光が透過するようなフォトマスクを用意しパターンで2J/cm2の照射を行った。
【0058】
その後、DIC株式会社製のUVキュアラブル液晶UCL−008をマイクログラビアにて塗工し、窒素雰囲気下で54に10mJ/cm2のUVを照射し、55には300mJ/cm2のUVを照射した。さらに、金属Alを真空蒸着法にて成膜を行った。真空蒸着法を用いることにより、蒸着時に液晶層が熱がかかるために、液晶層54が熱収縮を起こし配向方向に沿って規則正しい微小亀裂が生じ、そこにAlが成膜された。また、硬化度が十分である液晶層55は耐熱性を備えているために配向方向に沿った亀裂が生じず、均一にAlが成膜された。
【0059】
このように作製した偽造防止媒体を目視で確認したところ、図5のように確認され、硬化度が不十分である液晶層54の部分は見る角度によって液晶層51の部分と液晶層53の部分とで明るさが異なって文字パターンとして見えた。さらに、支持基材側から検証機で確認したところ、図6のような画像が認められた。また、複写機にて複写を行おうとしたところ、図7もくしは図8のようになり、本発明品の本物の目視像に近い画像は得られなかった。
【符号の説明】
【0060】
1・・・・一定方向の光学異方性を有する光学機能層の一領域
2・・・・1とは異なる一定方向の光学異方性を有する光学機能層の一領域
3・・・・支持基材
4・・・・反射層
5・・・・複写物の白部(明部)
6・・・・複写物の黒部(暗部)
10・・・偽造防止媒体
11・・・パターン認識可能部
12・・・パターン認識不可能部
13・・・偏光子
14・・・裏パターン認識可能部
15・・・部分的裏パターン認識可能部
16・・・パターン表示部(1)
17、19・・・パターン非表示部
18・・・パターン表示部(2)
21・・・剥離紙
22・・・接着層
23・・・剥離層
51・・・配向した液晶層
52・・・51とは45°配向方向が異なる液晶層
53・・・51とは90°配向方向が異なる液晶層
54・・・硬化度が不十分である液晶層
55・・・硬化度が十分である液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材上にパターン形成した光学機能層と反射層とをこの順に有する偽造防止媒体であって、光学機能層が、一定方向の複数の微小亀裂により形成される光学異方性を有する層面内の互いに異なる複数の領域からなることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
光学機能層が液晶分子からなることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
光学機能層が、0°、45°、90°の互いに異なる方向に配向しており、層面内の配向した光学機能層が配向方向に沿った微小亀裂が入った部分と、微小亀裂が入っていない部分とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
支持基材上に不完全硬化部分を有する光学機能層をパターン形成した後に、物理蒸着法により反射層を成膜することにより、下地の不完全硬化部分の光学機能層に微小亀裂を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体の片側に剥離紙に支持された接着層を具備したことを特徴とする接着ラベル。
【請求項6】
前記偽造防止媒体に切り欠きおよび/またはミシン目が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の接着ラベル。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の偽造防止媒体の支持基材と光学機能層との間に剥離層を備え、偽造防止媒体の反射層の上に接着層を具備したことを特徴とする転写箔。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−128270(P2011−128270A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284988(P2009−284988)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】